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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】漏電検出装置、車両用電源システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/52 20200101AFI20240806BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20240806BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20240806BHJP
【FI】
G01R31/52 ZHV
B60L3/00 S
B60L58/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022511516
(86)(22)【出願日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2020043109
(87)【国際公開番号】W WO2021199490
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2020059669
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【弁理士】
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽介
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/089037(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/176173(WO,A1)
【文献】特開2010-249766(JP,A)
【文献】国際公開第2007/026514(WO,A1)
【文献】特開2012-168070(JP,A)
【文献】国際公開第2020/170556(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/52
G01R 27/18
B60L 3/00
B60L 50/60
B60L 58/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アースと絶縁された状態で、蓄電部と負荷が電源ラインで接続された高圧部の漏電を検出する漏電検出装置であって、
前記蓄電部と前記負荷間の電流経路と前記アース間にYコンデンサが接続されており、
前記漏電検出装置は、
前記蓄電部と前記負荷間の前記電流経路に、駆動用カップリングコンデンサを介して、矩形波電圧を出力して、前記Yコンデンサを充電もしくは放電させる駆動部と、
前記Yコンデンサの充電もしくは放電に応じて変化した前記電流経路の測定点の電圧が、元の電圧に収束していく推移に応じて、前記電流経路と前記アース間の漏電の有無を判定する漏電検出部と、
を備えることを特徴とする漏電検出装置。
【請求項2】
前記漏電検出部は、前記Yコンデンサを充電もしくは放電させてからの、前記測定点の電圧の推移をもとに、前記電流経路と前記アース間の漏電抵抗値を算出し、算出した漏電抵抗値が閾値以下のとき、前記電流経路と前記アース間に漏電が発生していると判定することを特徴とする請求項1に記載の漏電検出装置。
【請求項3】
前記漏電検出部は、前記電流経路の測定点の電圧を、測定用カップリングコンデンサを介して、測定することを特徴とする請求項1または2に記載の漏電検出装置。
【請求項4】
前記駆動部は、
前記矩形波電圧を出力する発振部と、
前記発振部の出力に接続される出力抵抗と、
前記出力抵抗と、前記駆動用カップリングコンデンサとの間に挿入されるスイッチと、
を含み、
前記漏電検出部は、
前記スイッチがオフの期間に、前記駆動用カップリングコンデンサを介して、前記電流経路の測定点の電圧を測定する電圧測定部を含む、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の漏電検出装置。
【請求項5】
前記電流経路と前記アース間にYコンデンサと並列に、調整抵抗と調整スイッチが直列に接続され、
前記漏電検出部は、前記調整スイッチがオンの期間とオフ期間の、前記電流経路の測定点の電圧をもとに、前記電流経路と前記アース間の漏電抵抗値を算出することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の漏電検出装置。
【請求項6】
車両のシャーシアースと絶縁された状態で搭載され、前記車両内の負荷に電力を供給する蓄電部と、
請求項1から5のいずれか1項に記載の漏電検出装置と、
を備えることを特徴とする車両用電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アースから絶縁された負荷の漏電を検出する漏電検出装置、車両用電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)が普及してきている。これらの電動車両には、補機電池(一般的に12V出力の鉛電池)と別に高電圧の駆動用電池(トラクションバッテリ)が搭載される。感電を防止するために、高電圧の駆動用電池、インバータ、走行用モータを含む強電回路と、車両のボディ(シャーシアース)間は絶縁される。
【0003】
強電回路の車両側のプラス電源ラインとシャーシアース間、及び強電回路の車両側のマイナス電源ラインとシャーシアース間には、それぞれYコンデンサが挿入され、高電圧の駆動用電池から車両側の負荷に供給される電源が安定化されている。強電回路とシャーシアース間の絶縁抵抗を監視して漏電を検出する漏電検出装置が搭載される。
【0004】
AC方式の漏電検出装置では、駆動用電池の正極端子または負極端子に、抵抗とカップリングコンデンサを介してパルス電圧を印加し、当該抵抗と当該カップリングコンデンサとの接続点の電圧を測定し、漏電の有無を検出する。地絡が発生すると測定点のインピーダンスが低下し、測定点の電圧が低下するため、測定点の電圧が閾値以下のとき漏電が発生したと判定できる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-70503号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
当該方式では、Yコンデンサの容量が大きくなると、Yコンデンサと並列接続の関係にある絶縁抵抗の測定精度が低下する。Yコンデンサの容量が大きくなるとYコンデンサのインピーダンスが低下するため、絶縁抵抗の算出値に対するYコンデンサの変動の影響が大きくなる。
【0007】
Yコンデンサの容量が大きい場合でも絶縁抵抗の測定精度を維持するため、印加パルスの駆動周波数を低下させることが考えられる。その場合、カップリングコンデンサのインピーダンスが大きくなり、絶縁抵抗の算出値に対するカップリングコンデンサの誤差の影響が大きくなる。カップリングコンデンサの誤差の影響を低下させるためにカップリングコンデンサの容量を大きくすることが考えられる。カップリングコンデンサは高圧部と低圧部間を接続するコンデンサであるため、高耐圧のコンデンサが必要となる。高容量かつ高耐圧のコンデンサを使用するとコストが増大する。
【0008】
本開示はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、Yコンデンサの容量が大きい場合でも、低コストで高精度に漏電を検出する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の漏電検出装置は、アースと絶縁された状態で、蓄電部と負荷が電源ラインで接続された高圧部の漏電を検出する漏電検出装置であって、前記蓄電部と前記負荷間の電流経路と前記アース間にYコンデンサが接続されており、前記漏電検出装置は、前記蓄電部と前記負荷間の前記電流経路に、駆動用カップリングコンデンサを介して、矩形波電圧を出力して、前記Yコンデンサを充電もしくは放電させる駆動部と、前記Yコンデンサの充電もしくは放電に応じて変化した前記電流経路の測定点の電圧が、元の電圧に収束していく推移に応じて、前記電流経路と前記アース間の漏電の有無を判定する漏電検出部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、Yコンデンサの容量が大きい場合でも、低コストで高精度に漏電を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係る漏電検出装置を備える電源システムの構成を説明するための図である。
図2】実施の形態1に係る漏電検出装置による漏電検出時の各地点の電圧波形の一例を示す図である。
図3】比較例に係る漏電検出装置を備える電源システムの構成を説明するための図である。
図4図4(a)-(b)は、地絡発生前のA点の電圧波形と、地絡発生後のA点の電圧波形の一例を示す図である。
図5】実施の形態2に係る漏電検出装置を備える電源システムの構成を説明するための図である。
図6】実施の形態3に係る漏電検出装置を備える電源システムの構成を説明するための図である。
図7】実施の形態3に係る漏電検出装置による漏電検出時の各地点の電圧波形の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る漏電検出装置10を備える電源システム5の構成を説明するための図である。電源システム5は電動車両に搭載される。電源システム5は電動車両内において、補機電池(通常、12V出力の鉛電池が使用される)と別に設けられる。電源システム5は、高電圧系の蓄電部20と低電圧系の漏電検出装置10を含む。蓄電部20は、直列接続された複数のセルE1-Enを含む。セルには、リチウムイオン電池セル、ニッケル水素電池セル、鉛電池セル、電気二重層キャパシタセル、リチウムイオンキャパシタセル等を用いることができる。以下、本明細書ではリチウムイオン電池セル(公称電圧:3.6-3.7V)を使用する例を想定する。
【0013】
電動車両は高電圧系の負荷として、インバータ2及びモータ3を備える。蓄電部20の正極とインバータ2の一端がプラス電源ラインLpで接続され、蓄電部20の負極とインバータ2の他端がマイナス電源ラインLmで接続される。プラス電源ラインLpに正側メインリレーMRpが挿入され、マイナス電源ラインLmに負側メインリレーMRmが挿入される。正側メインリレーMRpと負側メインリレーMRmは、蓄電部20と電動車両内の高電圧系の負荷との間の導通/遮断を制御するコンタクタとして機能する。なおリレーの代わりに、高耐圧・高絶縁の半導体スイッチを使用することも可能である。
【0014】
インバータ2は、蓄電部20とモータ3の間に接続される双方向インバータである。インバータ2は力行時、蓄電部20から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ3に供給する。回生時、モータ3から供給される交流電力を直流電力に変換して蓄電部20に供給する。モータ3には例えば、三相交流モータが使用される。モータ3は力行時、インバータ2から供給される交流電力に応じて回転する。回生時、減速による回転エネルギーを交流電力に変換してインバータ2に供給する。
【0015】
蓄電部20は、電動車両のシャーシアースと絶縁された状態で電動車両に搭載される。補機電池は、負極がシャーシアースと導通した状態で電動車両に搭載される。正側メインリレーMRpよりインバータ2側のプラス電源ラインLpとシャーシアース間が第1のYコンデンサCY1を介して接続される。また、負側メインリレーMRmよりインバータ2側のマイナス電源ラインLmとシャーシアース間が第2のYコンデンサCY2を介して接続される。第1のYコンデンサCY1及び第2のYコンデンサCY2は、プラス電源ラインLpとシャーシアース間、及びマイナス電源ラインLmとシャーシアース間をそれぞれ直流的に絶縁するとともに、プラス電源ラインLp及びマイナス電源ラインLmの電圧を安定化させる作用を有する。なお、第1のYコンデンサCY1と第2のYコンデンサCY2の一方を省略する構成も可能である。
【0016】
蓄電部20がシャーシアースから理想的に絶縁されている場合、蓄電部20の中間電位がシャーシアースの電位近辺に維持される。例えば、蓄電部20の両端電圧が250Vの場合、蓄電部20の正極電位が+125V近辺、負極電位が-125V近辺に維持される。高電圧系の蓄電部20とシャーシアース間が導通した状態で、人間が電動車両の露出した導電部に触れると感電する危険がある。そこで高電圧系の蓄電部20を搭載した電動車両では、漏電検出装置10を搭載して、高電圧系の車両負荷に接続されている蓄電部20の電流経路とシャーシアース間の絶縁状態を監視する必要がある。図1では、プラス電源ラインLpとシャーシアース間の絶縁状態を第1漏電抵抗RL1、マイナス電源ラインLmとシャーシアース間の絶縁状態を第2漏電抵抗RL2と表している。
【0017】
漏電検出装置10は、駆動部11及び漏電検出部12を有する。駆動部11は、駆動用カップリングコンデンサCd1、出力抵抗Ro、オペアンプOP1、発振部11a、第1保護ダイオードD1、及び第2保護ダイオードD2を含む。
【0018】
駆動用カップリングコンデンサCd1は、蓄電部20と車両負荷間の電流経路に一端が接続される。図1に示す例ではプラス電源ラインLpに駆動用カップリングコンデンサCd1の一端が接続されている。なお、駆動用カップリングコンデンサCd1の一端は、当該電流経路上であれば、どの位置に接続されてもよい。例えば、マイナス電源ラインLmに接続されてもよい。駆動用カップリングコンデンサCd1の他端は、出力抵抗Roに接続される。駆動用カップリングコンデンサCd1の他端と出力抵抗Ro間の配線と、低電圧系の電源電位Vcc間に第1保護ダイオードD1が接続され、当該配線とグランド電位間に第2保護ダイオードD2が接続される。
【0019】
発振部11aは、マルチバイブレータや局部発振器を含み、予め設定された周波数の矩形波(パルス)を発生させる。発振部11aにより生成された矩形波電圧は、オペアンプOP1の非反転入力端子に入力される。オペアンプOP1の出力端子は出力抵抗Roに接続される。オペアンプOP1の反転入力端子と出力端子が接続される。オペアンプOP1は、増幅率が1倍でインピーダンス変換だけを行うボルテージフォロアとして機能する。
【0020】
発振部11aは、オペアンプOP1、出力抵抗Roを介してA点に矩形波電圧を出力する。A点に出力された矩形波電圧は、駆動用カップリングコンデンサCd1を介して、蓄電部20と車両負荷間の電流経路上のB点に印加される。これにより、第1のYコンデンサCY1及び第2のYコンデンサCY2に電荷が充電、または第1のYコンデンサCY1及び第2のYコンデンサCY2から電荷が放電される。
【0021】
漏電検出部12は、測定用カップリングコンデンサCd2、抵抗Rf、コンデンサCf、A/D変換器12a、電圧測定部12b、漏電判定部12c、第3保護ダイオードD3、及び第4保護ダイオードD4を含む。
【0022】
測定用カップリングコンデンサCd2は、蓄電部20と車両負荷間の電流経路に一端が接続される。図1では、測定用カップリングコンデンサCd2の一端が、当該電流経路上の駆動用カップリングコンデンサCd1が接続されたB点に接続されているが、当該電流経路上であれば、どの位置に接続されてもよい。測定用カップリングコンデンサCd2の他端は、抵抗RfとコンデンサCfにより構成されるローパスフィルタに接続される。測定用カップリングコンデンサCd2の他端と抵抗Rf間の配線と、低電圧系の電源電位Vcc間に第3保護ダイオードD3が接続され、当該配線とグランド電位間に第4保護ダイオードD4が接続される。
【0023】
当該ローパスフィルタは、測定用カップリングコンデンサCd2から入力されるC点の電圧からノイズを除去し、ノイズが除去されたD点の電圧を出力する。A/D変換器12aは、当該ローパスフィルタから入力されるD点のアナログ電圧をデジタル値の電圧に変換し、電圧測定部12bに出力する。電圧測定部12bは、A/D変換器12aから入力されるデジタル値の電圧を測定する。漏電判定部12cは、電圧測定部12bにより測定された電圧をもとに、蓄電部20と車両負荷間の電流経路とシャーシアース間の漏電の有無を判定する。
【0024】
図1において、発振部11a、電圧測定部12b及び漏電判定部12cは、1つのICにより構成されてもよい。
【0025】
実施の形態1では、駆動部11から矩形波電圧をB点に印加して第1のYコンデンサCY1及び第2のYコンデンサCY2に電荷を充電する。第1のYコンデンサCY1及び第2のYコンデンサCY2に充電された電荷分が、第1漏電抵抗RL1及び第2漏電抵抗RL2を介して、放電される際の電圧推移(具体的には電圧の変化速度)をもとに漏電を検出する。
【0026】
図2は、実施の形態1に係る漏電検出装置10による漏電検出時の各地点の電圧波形の一例を示す図である。A点の電圧波形が立ち上がると、第1のYコンデンサCY1及び第2のYコンデンサCY2に電荷が充電され、第1のYコンデンサCY1及び第2のYコンデンサCY2の容量増加により、Bの電圧が上昇する(W1参照)。B点の電圧変動分は、測定用カップリングコンデンサCd2を介してC点に伝達される。D点の電圧波形は、C点の電圧波形から上記ローパスフィルタによりノイズが除去されたものである(W2参照)。漏電検出装置10から見て、A点の電圧が駆動用の出力電圧Voutであり、D点の電圧が測定用の入力電圧Vinである。
【0027】
第1のYコンデンサCY1及び第2のYコンデンサCY2に充電された電荷が、第1漏電抵抗RL1及び第2漏電抵抗RL2を介して抜けていくにしたがい、B点の電圧が徐々に低下し、元の電圧に収束していく。実施の形態1では、このB点の電圧の戻り時間を測定することにより、漏電抵抗値を算出する。
【0028】
以下の計算式では、第1漏電抵抗RL1及び第2漏電抵抗RL2の並列抵抗値を単にRLと表記する。第1のYコンデンサCY1及び第2のYコンデンサCY2の並列容量値を単にCYと表記する。駆動用カップリングコンデンサCd1の容量値を単にCdと表記する。図1に示した回路のB点の時定数τは下記(式1)のように定義される。D点の入力電圧Vinは下記(式2)のように定義される。Eは、駆動部11からB点に印加される電圧である。
【0029】
τ=RL×(CY+Cd) ・・・(式1)
Vin=E×Cd/(Cd+CY)×e-t/τ ・・・(式2)
【0030】
漏電判定部12cは、Vin=E×Cd/(Cd+CY)×e-aとなる時間tを測定する。t=aτ=a×(RL×CY)という関係が成り立つため、絶縁抵抗RLは下記(式3)のように定義される。
RL=t/(a×CY) ・・・(式3)
【0031】
漏電抵抗RLが小さいほど、D点の電圧は短時間で元の電圧に収束する。漏電判定部12cは、D点の電圧VinがE×Cd/(Cd+CY)×e-αとなる時間tを測定し、漏電抵抗RLの値を算出する。漏電判定部12cは、算出した漏電抵抗RLの値と、抵抗閾値を比較し、算出した漏電抵抗RLの値が抵抗閾値以下のとき、漏電が発生したと判定する。または、漏電判定部12cは、駆動電圧Voutが印加されてから設定時間経過後に測定されたD点の電圧Vinの値と、電圧閾値を比較する。漏電判定部12cは、測定されたD点の電圧Vinの値が電圧閾値以下のとき、漏電が発生したと判定する。上記の抵抗閾値、設定時間、及び電圧閾値は、漏電と判定する漏電抵抗値に基づき予め設定される。
【0032】
(比較例)
図3は、比較例に係る漏電検出装置10を備える電源システム5の構成を説明するための図である。以下、図1に示した実施の形態1に係る漏電検出装置10との相違点を説明する。比較例では、測定用カップリングコンデンサCd2が設けられず、漏電検出部12は、駆動用カップリングコンデンサCd1と出力抵抗Ro間のA点の電圧を測定する。漏電検出部12は、出力抵抗Ro、駆動用カップリングコンデンサCd1、漏電抵抗RLのインピーダンス比率から漏電を検出する。
【0033】
図4(a)-(b)は、地絡発生前のA点の電圧波形と、地絡発生後のA点の電圧波形の一例を示す図である。図4(a)は地絡発生前のA点の電圧波形を、図4(b)は地絡発生後のA点の電圧波形をそれぞれ示している。地絡が発生するとA点のインピーダンスが低下し、A点の電圧が低下する。漏電判定部12cは、A点の測定電圧値が電圧閾値Vth以下の場合、漏電が発生したと判定する。
【0034】
しかしながら実際には、漏電抵抗RLと並列にYコンデンサCYが接続されている。YコンデンサCYの容量が大きい(=インピーダンスが小さい)場合、漏電抵抗RLの変化が合成インピーダンスに与える影響度が小さくなる。これにより、漏電抵抗RLを高精度に検出することが困難になる。
【0035】
Yコンデンサの容量が大きい場合でも絶縁抵抗RLの検出精度を維持するため、駆動電圧の周波数を低下させることが考えられる。その場合、上述したように駆動用カップリングコンデンサCd1に、高容量かつ高耐圧のコンデンサを使用することが必要となり、コストが増大する。
【0036】
この点、実施の形態1では上記(式3)に示したように、駆動用カップリングコンデンサCd1の容量が漏電抵抗RLの検出精度に影響を与えない。したがって、YコンデンサCYの容量が大きい場合でも、駆動用カップリングコンデンサCd1にハイスペックなものを使用せずに、駆動電圧の周波数を低下させることができる。このように実施の形態1によれば、YコンデンサCYの容量が大きい場合でも、低コストで高精度に漏電を検出することができる。
【0037】
(実施の形態2)
図5は、実施の形態2に係る漏電検出装置10を備える電源システム5の構成を説明するための図である。以下、図1に示した実施の形態1に係る漏電検出装置10との相違点を説明する。実施の形態2では、プラス電源ラインLpとシャーシアース間に第1のYコンデンサCY1と並列に、調整抵抗Rcと調整スイッチRcが直列に接続される。なお、調整抵抗Rcと調整スイッチRcは、マイナス電源ラインLmとシャーシアース間に接続されてもよい。
【0038】
以下の計算式では、第1漏電抵抗RL1と第2漏電抵抗RL2と調整抵抗Rcの並列抵抗値をRL’と表記する。図5に示した回路において、調整用スイッチSWcがオフのときの、B点の時定数τ1は下記(式4)のように定義される。調整用スイッチSWcがオフのときの、D点の入力電圧Vinは下記(式5)のように定義される。調整用スイッチSWcがオンのときの、B点の時定数τ2は下記(式6)のように定義される。調整用スイッチSWcがオンのときの、D点の入力電圧Vinは下記(式7)のように定義される。
【0039】
τ1=RL×(CY+Cd) ・・・(式4)
Vin=E×Cd/(Cd+CY)×e-t/τ1 ・・・(式5)
τ2=RL'×(CY+Cd) ・・・(式6)
Vin=E×Cd/(Cd+CY)×e-t/τ2 ・・・(式7)
【0040】
漏電判定部12cは、Vin=E×Cd/(Cd+CY)×e-αとなる時間tを測定する。調整用スイッチSWcがオフのときの時間t1は下記(式8)のように定義され、調整用スイッチSWcがオンのときの時間t2は下記(式9)のように定義される。
【0041】
t1=aτ1=a×(RL×CY) ・・・(式8)
t2=aτ2=a×(RL’×CY) ・・・(式9)
【0042】
漏電抵抗RLと調整抵抗Rcの合成抵抗RL’は、下記(式10)のように定義される。
RL’=RL×Rc/(RL+Rc) ・・・(式10)
【0043】
上記(式8)、(式9)、(式10)より、t2は、下記(式11)のように書き換えることができる。
t2=a×RL’×t1/(a×RL)
=t1×RL’/RL
=t1×Rc/(RL+Rc) ・・・(式11)
【0044】
上記(式11)をRLについて解くと、下記(式12)のように定義できる。
RL=t1×Rc/t2-Rc ・・・(式12)
【0045】
このように実施の形態2では、漏電判定部12cは、調整用スイッチSWcがオフのときのVin=E×Cd/(Cd+CY)×e-αとなる時間t1と、調整用スイッチSWcがオンのときのVin=E×Cd/(Cd+CY)×e-αとなる時間t2を測定し、漏電抵抗RLの値を算出する。漏電判定部12cは、算出した漏電抵抗RLの値と、抵抗閾値を比較し、算出した漏電抵抗RLの値が抵抗閾値以下のとき、漏電が発生したと判定する。
【0046】
上記(式12)に示したように、実施の形態2によれば、算出する漏電抵抗RLから、駆動用カップリングコンデンサCd1のばらつきの影響に加えて、YコンデンサCYのばらつきの影響も除去できる。これにより、漏電の検出精度をさらに高めることができる。
【0047】
(実施の形態3)
図6は、実施の形態3に係る漏電検出装置10を備える電源システム5の構成を説明するための図である。以下、図1に示した実施の形態1に係る漏電検出装置10との相違点を説明する。実施の形態3では、出力抵抗Roと駆動用カップリングコンデンサCd1との間にスイッチSW1が挿入される。測定用カップリングコンデンサCd2が設けられず、漏電検出部12は、スイッチSW1がオフの期間に、駆動用カップリングコンデンサCd1を介して、B点の電圧を測定する。
【0048】
図7は、実施の形態3に係る漏電検出装置10による漏電検出時の各地点の電圧波形の一例を示す図である。スイッチSW1がオンの状態において、A点の電圧波形が立ち上がると、YコンデンサCYに電荷が充電され、YコンデンサCYの容量増加により、Bの電圧が上昇する(W1参照)。その後、漏電検出部12はスイッチSW1をターンオフする。
【0049】
スイッチSW1がオフの状態になると、B点の電圧変動分が、測定用カップリングコンデンサCd2を介してC点に伝達される。D点の電圧波形は、C点の電圧波形から上記ローパスフィルタによりノイズが除去されたものである(W2参照)。YコンデンサCYに充電された電荷が、漏電抵抗RLを介して抜けていくにしたがい、B点の電圧が徐々に低下し、元の電圧に収束していく。実施の形態3でも、実施の形態1と同様に漏電抵抗RLの値を算出することができる。
【0050】
以上説明したように実施の形態3によれば、測定用カップリングコンデンサCd2を省略することができるため、コスト及び回路面積を削減することができる。
【0051】
以上、本開示を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0052】
例えば、実施の形態2と実施の形態3を組み合わせてもよい。具体的には図6の回路構成において、プラス電源ラインLpとシャーシアース間に第1のYコンデンサCY1と並列に、調整抵抗Rcと調整スイッチRcが直列に接続されてもよい。なお、調整抵抗Rcと調整スイッチRcは、マイナス電源ラインLmとシャーシアース間に接続されてもよい。
【0053】
上記実施の形態では、駆動部11から充電用の矩形波電圧をB点に印加してYコンデンサCYに電荷を充電し、YコンデンサCYに充電された電荷分が、漏電抵抗RLを介して放電される際の電圧推移(具体的には、電圧の変化速度)をもとに漏電を検出した。この点、駆動部11から放電用の矩形波電圧をB点に印加してYコンデンサCYから電荷を放電させ、YコンデンサCYから放電された電荷分が、漏電抵抗RLを介して充電される際の電圧推移をもとに漏電を検出してもよい。
【0054】
上記実施の形態では、漏電検出装置10を電動車両に搭載して使用する例を説明した。この点、実施の形態に係る漏電検出装置10は車載用途以外の用途にも適用できる。蓄電部20、及び蓄電部20から電力供給を受ける負荷がアースから絶縁されている構成であれば、負荷はどのような負荷であってもよい。例えば、鉄道車両内で使用される負荷であってもよい。
【0055】
なお、実施の形態は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0056】
[項目1]
アースと絶縁された状態で、蓄電部(20)と負荷(2)が電源ライン(Lp、Lm)で接続された高圧部の漏電を検出する漏電検出装置(10)であって、
前記蓄電部(20)と前記負荷(2)間の電流経路と前記アース間にYコンデンサ(CY)が接続されており、
前記漏電検出装置(10)は、
前記蓄電部(20)と前記負荷(2)間の前記電流経路に、駆動用カップリングコンデンサ(Cd1)を介して、矩形波電圧を出力して、前記Yコンデンサ(CY)を充電もしくは放電させる駆動部(11)と、
前記Yコンデンサ(CY)の充電もしくは放電に応じて変化した前記電流経路の測定点の電圧が、元の電圧に収束していく推移に応じて、前記電流経路と前記アース間の漏電の有無を判定する漏電検出部(12)と、
を備えることを特徴とする漏電検出装置(10)。
これによれば、Yコンデンサ(CY)の容量が大きい場合でも、低コストで高精度に漏電を検出することができる。
[項目2]
前記漏電検出部(12)は、前記Yコンデンサ(CY)を充電もしくは放電させてからの、前記測定点の電圧の推移をもとに、前記電流経路と前記アース間の漏電抵抗値を算出し、算出した漏電抵抗値が閾値以下のとき、前記電流経路と前記アース間に漏電が発生していると判定することを特徴とする項目1に記載の漏電検出装置(10)。
これによれば、算出する漏電抵抗値から駆動用カップリングコンデンサ(Cd1)の影響を除去することができる。
[項目3]
前記漏電検出部(12)は、前記電流経路の測定点の電圧を、測定用カップリングコンデンサ(Cd2)を介して、測定することを特徴とする項目1または2に記載の漏電検出装置(10)。
これによれば、前記電流経路の電圧変動の推移を測定することができる。
[項目4]
前記駆動部(11)は、
前記矩形波電圧を出力する発振部(11a)と、
前記発振部(11a)の出力に接続される出力抵抗(Ro)と、
前記出力抵抗(Ro)と、前記駆動用カップリングコンデンサ(Cd1)との間に挿入されるスイッチ(SW1)と、を含み、
前記漏電検出部(12)は、
前記スイッチ(SW1)がオフの期間に、前記駆動用カップリングコンデンサ(Cd1)を介して、前記電流経路の測定点の電圧を測定する電圧測定部(12b)を含む、
ことを特徴とする項目1または2に記載の漏電検出装置(10)。
これによれば、測定用カップリングコンデンサ(Cd2)を省略することができる。
[項目5]
前記電流経路と前記アース間にYコンデンサ(CY)と並列に、調整抵抗(Rc)と調整スイッチ(SWc)が直列に接続され、
前記漏電検出部(12)は、前記調整スイッチ(SWc)がオンの期間とオフ期間の、前記電流経路の測定点の電圧をもとに、前記電流経路と前記アース間の漏電抵抗値を算出することを特徴とする項目1から4のいずれか1項に記載の漏電検出装置(10)。
これによれば、算出する漏電抵抗値からYコンデンサ(CY)の影響を除去することができる。
[項目6]
車両のシャーシアースと絶縁された状態で搭載され、前記車両内の負荷(2)に電力を供給する蓄電部(20)と、
項目1から5のいずれか1項に記載の漏電検出装置(10)と、
を備えることを特徴とする車両用電源システム(5)。
これによれば、Yコンデンサ(CY)の容量が大きい場合でも、低コストで高精度に漏電を検出することができる漏電検出装置(10)を備える車両用電源システム(5)を実現することができる。
【符号の説明】
【0057】
5 電源システム、 20 蓄電部、 2 インバータ、 3 モータ、 Lp プラス電源ライン、 Lm マイナス電源ライン、 CY Yコンデンサ、 Cd1 駆動用カップリングコンデンサ、 Cd2 測定用カップリングコンデンサ、 Cf コンデンサ、 RL 漏電抵抗、 Ro 出力抵抗、 Rf 抵抗、 MRp 正側メインリレー、 MRm 負側メインリレー、 E1-En セル、 10 漏電検出装置、 11 駆動部、 11a 発振部、 12 漏電検出部、 12a A/D変換器、 12b 電圧測定部、 12c 漏電判定部、 OP1 オペアンプ、 SW1 スイッチ、 SWc 調整用スイッチ、 Rc 調整用抵抗、 D1-D4 保護ダイオード。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7