(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/16 20060101AFI20240806BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20240806BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240806BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240806BHJP
B60K 37/00 20240101ALI20240806BHJP
【FI】
C08L23/16
C08L23/10
C08K3/26
C08K3/34
B60K37/00 A
(21)【出願番号】P 2022512283
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013503
(87)【国際公開番号】W WO2021200928
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2020063800
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立松 奈菜
(72)【発明者】
【氏名】栗田 隼人
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-173562(JP,A)
【文献】特開2001-294672(JP,A)
【文献】特開2000-344969(JP,A)
【文献】特開2000-191863(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140252(WO,A1)
【文献】特開平09-157426(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0287588(US,A1)
【文献】特開2021-109946(JP,A)
【文献】特表2002-517588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/16
C08L 23/10
C08K 3/26
C08K 3/34
B60K 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)100質量部と、
プロピレン系重合体(B)20~80質量部と、
無機充填剤(C)0.1~45質量部と
を含み、
前記プロピレン系重合体(B)のメルトフローレート(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠、230℃、2.16kg荷重)が、1~100g/10分であり、
前記無機充填剤(C)がタルクまたは炭酸カルシウムであ
り、
フェノール樹脂架橋剤と、水酸基を有するジエンポリマー及び/又はその水素添加物とを含まない、インストゥルメンタルパネル用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)100質量部と、
メルトフローレート(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠、230℃、2.16kg荷重)が1~100g/10分である、プロピレン系重合体(B)20~80質量部と、
無機充填剤(C)0.1~45質量部と、
架橋剤(D)と
を動的架橋した組成物であり、
前記無機充填剤(C)がタルクまたは炭酸カルシウムであ
り、
フェノール樹脂架橋剤と、水酸基を有するジエンポリマー及び/又はその水素添加物とを含まない、インストゥルメンタルパネル用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
下記(1)~(3)を満たす、請求項2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(1)ショアA硬度(瞬間値)(JIS K 6253の測定方法に準拠、厚さ2mmのシート状の熱可塑性エラストマー組成物を3枚重ねて厚さ6mmとしたサンプルを使用)が40~80
(2)引裂強度(JIS K 6252-1の測定方法に準拠、厚さ2mmのシート状の熱可塑性エラストマー組成物を使用)が16N/mm以上、27N/mm未満
(3)破断時伸び(JIS K 6251の測定方法に準拠、厚さ2mmのシート状の熱可塑性エラストマー組成物を使用)が200%以上、450%未満
【請求項4】
前記架橋剤(D)の含有量が、前記共重合体(A)100質量部に対し、0.5~5.0質量部である、請求項2または3に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
少なくとも一部が架橋したエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物を含むインストゥルメンタルパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は熱可塑性エラストマー組成物またはその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系熱可塑性エラストマー組成物は、優れた成形性と適度な柔軟性・ゴム弾性とを備えた素材として、自動車などの乗り物用部品、機械部品、電気部品、家電製品、日用雑貨、台所用品など、種々の分野で利用されている。
【0003】
オレフィン系熱可塑性エラストマー組成物が用いられている乗り物用部品の例として、エアバッグ装置のカバーの表皮材(インストゥルメンタルパネル)などの自動車内装材が挙げられる。該インストゥルメンタルパネルは、エアバッグ装置の作動の際に、ガス発生装置(インフレーター)で発生したガスで膨らんだエアバッグの膨張力により、エアバッグカバーと共に破断される。そのため、該インストゥルメンタルパネルは、容易に破断でき、しかもエアバッグを確実に展開可能な材料であることが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1および2には、インストゥルメンタルパネルに用いることができる熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。
しかし、特許文献1および2では、いずれもインストゥルメンタルパネルの破断性については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-206034号公報
【文献】国際公開第2016/039310号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者が鋭意検討したところ、エアバッグの膨張力で容易に破断されるインストゥルメンタルパネルを得るためには、引張特性における破断時伸びや引裂強度の値が適度に小さいことが好ましいが、該破断時伸びや引裂強度の値が低すぎると、シート成形や真空成形での加工時に、シートが破れる可能性があることが分かった。つまり、従来は、成形性に優れることと、破断時伸びや引裂強度の値が適度に小さいこととを同時に満たす成形体は存在しなかった。
【0007】
本発明の一実施形態は、成形性に優れながらも、引張破断時伸びおよび引裂強度の値が適度に小さい成形体を形成できる熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が研究を進めた結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出した。本発明の構成例は、以下の通りである。
なお、本明細書では、数値範囲を示す「A~B」は、A以上B以下を示す。
【0009】
[1] エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)100質量部と、
プロピレン系重合体(B)20~80質量部と、
無機充填剤(C)0.1~50質量部と
を含み、
前記プロピレン系重合体(B)のメルトフローレート(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠、230℃、2.16kg荷重)が、1~100g/10分である、熱可塑性エラストマー組成物。
【0010】
[2] エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)100質量部と、
メルトフローレート(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠、230℃、2.16kg荷重)が1~100g/10分である、プロピレン系重合体(B)20~80質量部と、
無機充填剤(C)0.1~50質量部と、
架橋剤(D)と
を動的架橋した組成物である、熱可塑性エラストマー組成物。
【0011】
[3] 下記(1)~(3)を満たす、[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(1)ショアA硬度(瞬間値)(JIS K 6253の測定方法に準拠、厚さ2mmのシート状の熱可塑性エラストマー組成物を3枚重ねて厚さ6mmとしたサンプルを使用)が40~80
(2)引裂強度(JIS K 6252-1の測定方法に準拠、厚さ2mmのシート状の熱可塑性エラストマー組成物を使用)が16N/mm以上、27N/mm未満
(3)破断時伸び(JIS K 6251の測定方法に準拠、厚さ2mmのシート状の熱可塑性エラストマー組成物を使用)が200%以上、450%未満
【0012】
[4] 前記架橋剤(D)の含有量が、前記共重合体(A)100質量部に対し、0.5~5.0質量部である、[2]または[3]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0013】
[5] 少なくとも一部が架橋したエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0014】
[6] 前記無機充填剤(C)がタルクまたは炭酸カルシウムである、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0015】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を含む成形体。
【0016】
[8] [7]に記載の成形体を含む、乗り物用部品。
[9] 内装表皮材である、[8]に記載の乗り物用部品。
[10] インストゥルメンタルパネルである、[8]または[9]に記載の乗り物用部品。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態によれば、成形性に優れながらも、引張破断時伸びおよび引裂強度の値が適度に小さい成形体を形成することができる熱可塑性エラストマー組成物を提供することができる。特に、本発明の一実施形態によれば、実用に必要な硬度、引張特性および圧縮永久ひずみなどの機械的物性を有しながらも、引張特性における破断時伸びおよび引裂強度の値が適度に小さい成形体を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は下記の実施形態の構成に限定されない。
【0019】
≪熱可塑性エラストマー組成物≫
本発明の一実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物(以下「本組成物」ともいう。)は、
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)100質量部と、メルトフローレート(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠、230℃、2.16kg荷重)が1~100g/10分である、プロピレン系重合体(B)20~80質量部と、無機充填剤(C)0.1~50質量部とを含む組成物(以下「本組成物1」ともいう。)、または、
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)100質量部と、メルトフローレート(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠、230℃、2.16kg荷重)が1~100g/10分である、プロピレン系重合体(B)20~80質量部と、無機充填剤(C)0.1~50質量部と、架橋剤(D)とを動的架橋した組成物(以下「本組成物2」ともいう。)である。
【0020】
<エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)>
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体(A)(以下「成分(A)」ともいう。他の成分についても同様。)は、エチレン由来の構成単位、α-オレフィン由来の構成単位、および、非共役ポリエン由来の構成単位を含めば特に制限されず、例えば、エチレン、α-オレフィンおよび非共役ポリエンを共重合する従来公知の方法で合成することができる。
本組成物に含まれる成分(A)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0021】
成分(A)中のエチレン由来の構成単位の含有量(以下「エチレン含量」ともいう。)とα-オレフィン由来の構成単位の含有量(以下「α-オレフィン含量」ともいう。)との合計を100モル%とした場合、エチレン含量は、機械的強度および柔軟性に優れる成形体を容易に得ることができる等の点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは55モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上であり、より好ましくは95モル%以下、さらに好ましくは85モル%以下、特に好ましくは83モル%以下である。
前記エチレン含量およびα-オレフィン含量は、13C-NMRによる測定で求めることができる。
【0022】
前記α-オレフィンとしては特に制限されないが、炭素数3~20のα-オレフィンが好ましい。該炭素数3~20のα-オレフィンの具体例としては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセンが挙げられる。これらのα-オレフィンは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましく、プロピレンがより好ましい。
【0023】
成分(A)中のエチレン含量とα-オレフィン含量との合計を100モル%とした場合、α-オレフィン含量は、機械的強度および柔軟性に優れる成形体を容易に得ることができる等の点から、好ましくは50モル%以下、より好ましくは45モル%以下、さらに好ましくは40モル%以下であり、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは15モル%以上、特に好ましくは17モル%以上である。
【0024】
非共役ポリエンとしては、例えば、鎖状非共役ジエン、環状非共役ジエン、トリエンが挙げられる。これらの非共役ポリエンは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
鎖状非共役ジエンとしては、例えば、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘキサジエン、3-メチル-1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、4,5-ジメチル-1,4-ヘキサジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン、5,7-ジメチル-1,7-オクタジエン、8-メチル-4-エチリデン-1,7-ノナジエン、4-エチリデン-1,7-ウンデカジエンが挙げられる。
環状非共役ジエンとしては、例えば、テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-プロペニル-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、5-ビニリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、5-イソブテニル-2-ノルボルネン、5-シクロヘキシリデン-2-ノルボルネン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロオクタジエン、ノルボルナジエンが挙げられる。
トリエンとしては、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン、6,10-ジメチル-1,5,9-ウンデカトリエン、5,9-ジメチル-1,4,8-デカトリエン、6,9-ジメチル-1,5,8-デカトリエン、6,8,9-トリメチル-1,5,8-デカトリエン、6-エチル-10-メチル-1,5,9-ウンデカトリエン、4-エチリデン-1,6-オクタジエン、7-メチル-4-エチリデン-1,6-オクタジエン、7-メチル-4-エチリデン-1,6-ノナジエン、7-エチル-4-エチリデン-1,6-ノナジエン、6,7-ジメチル-4-エチリデン-1,6-オクタジエン、6,7-ジメチル-4-エチリデン-1,6-ノナジエン、4-エチリデン-1,6-デカジエン、7-メチル-4-エチリデン-1,6-デカジエン、7-メチル-6-プロピル-4-エチリデン-1,6-オクタジエン、4-エチリデン-1,7-ノナジエン、4-エチリデン-1,7-ウンデカジエンが挙げられる。
前記非共役ポリエンとしては、1,4-ヘキサジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエンが好ましく、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネンがより好ましい。
【0025】
成分(A)中の非共役ポリエン由来の構成単位の含有量は、ヨウ素価が、好ましくは1以上、より好ましくは5以上、特に好ましくは10以上となる量であり、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、特に好ましくは30以下となる量である。成分(A)のヨウ素価が前記範囲にあると、成分(A)を(部分的に)架橋する場合にバランスよく架橋された熱可塑性エラストマー組成物を容易に得ることができる。
また、共役ポリエン由来の構成単位の含有量は、成分(A)を構成する全構成単位100質量%に対し、通常、2~20質量%である。
【0026】
成分(A)としては、他の成分との均一な混合物を容易に得ることができる等の点から、ASTM D 1646-19aの測定方法に準拠して測定したムーニー粘度[ML(1+4)125℃]が、好ましくは10以上、より好ましくは30以上であり、好ましくは250以下、より好ましくは150以下である成分を用いることが望ましい。
成分(A)自体が、前記ムーニー粘度の範囲にない場合には、必要により、従来公知の方法で、例えば、下記軟化剤等の油展剤を用いて油展したものを用いてもよい。該油展剤としては、パラフィン系プロセスオイルなどの石油系軟化剤が好ましい。この油展の際に使用する油展剤の使用量は、油展物のムーニー粘度が前記範囲となるような量であることが好ましく、例えば、成分(A)100質量部に対し、0~150質量部である。
【0027】
成分(A)の、135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]は、好ましくは1dl/g以上、より好ましくは1.5dl/g以上であり、好ましくは10dl/g以下、より好ましくは8dl/g以下である。
【0028】
成分(A)は、本組成物中において、未架橋、部分架橋、完全架橋などのいずれの架橋状態で存在していてもよい。少なくとも一部が架橋した成分(A)を用いる場合、その架橋のタイミングは特に制限されず、例えば、本組成物を構成する成分(B)や(C)と混合する前に、成分(A)の少なくとも一部を(動的)架橋してもよく、本組成物を構成する他の成分と混合した後または混合しながら、成分(A)の少なくとも一部を(動的)架橋してもよい。
本組成物2では、少なくとも一部が架橋した成分(A)を含む組成物が得られる。
【0029】
成分(A)は、少なくとも一部が架橋していることが好ましい。成分(A)の架橋度が高いと、特に、架橋度の高い成分(A)とMFRが下記範囲にある成分(B)と成分(C)とを併用することで、本組成物から製造された成形体の伸びを抑制でき、引張特性における破断時伸びの値を所定の範囲に調整しやすくなる。このため、このような成分を含む本組成物を用いることで、容易に破断しやすいインストゥルメンタルパネルを製造することができる。
なお、成分(A)の架橋度が高くなるにつれて、本組成物から製造された成形体の圧縮永久ひずみが低くなる傾向にある。従って、成分(A)の架橋度の高低は、本組成物から製造された成形体の圧縮永久ひずみから推測できる。
【0030】
本組成物中の成分(A)の含有量は、実用に必要な硬度を有しつつ、引張特性における破断時伸びおよび引裂強度の値が適度に小さい成形体を容易に得ることができる等の点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは10~50質量%である。
【0031】
<プロピレン系重合体(B)>
成分(B)は、成分(A)以外の重合体である。
成分(B)は、該重合体を構成する構成単位のうち、プロピレンに由来する構成単位の含有量が50モル%以上である重合体のことをいい、成分(B)中のプロピレンに由来する構成単位の含有量は、90モル%以上であることが好ましい。
本組成物に含まれる成分(B)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0032】
成分(B)は、プロピレン単独重合体であってもよく、プロピレンとプロピレン以外のコモノマーとの共重合体であってもよい。
成分(B)の構造は特に制限されず、例えば、プロピレン由来の構成単位部分は、アイソタクチック構造でも、シンジオタクチック構造でも、アタクチック構造でもよいが、アイソタクチック構造であることが好ましい。また、前記共重合体の場合、ランダム型、ブロック型、グラフト型のいずれであってもよい。
【0033】
前記コモノマーとしては、プロピレンと共重合可能な他のモノマーであればよく、炭素数2または4~10のα-オレフィンが好ましい。具体的には、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンなどが挙げられ、これらの中でも、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンが好ましい。コモノマーは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記共重合体中のコモノマー由来の構成単位の含有量は、柔軟性等の点から、好ましくは10モル%以下である。
【0034】
成分(B)は、従来公知の方法で合成してもよく、市販品を用いてもよい。
【0035】
成分(B)は、結晶性の重合体であってもよく、また、非結晶性の重合体であってもよい。ここで、結晶性とは、示差走査熱量測定(DSC)において、融点(Tm)が観測されることを意味する。
成分(B)が結晶性の重合体である場合、その融点(JIS K 7121の測定方法に準拠)は、耐熱性等の点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上であり、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下である。
【0036】
成分(B)のMFR(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠、230℃、2.16kg荷重)は、1~100g/10分であり、好ましくは2g/10分以上、より好ましくは3g/10分以上、さらに好ましくは5g/10分以上であり、好ましくは80g/10分以下、より好ましくは70g/10分以下、さらに好ましくは55g/10分以下である。
成分(B)のMFRが前記範囲にあると、成形性に優れる組成物を容易に得ることができ、かつ、引張特性における破断時伸びおよび引裂強度の値が適度に小さい成形体を容易に得ることができる。
【0037】
本組成物中の成分(B)の含有量は、成分(A)100質量部に対し、20~80質量部であり、好ましくは25質量部以上、より好ましくは30質量部以上であり、好ましくは70質量部以下、より好ましくは60質量部以下、特に好ましくは50質量部以下である。
成分(B)の含有量が前記範囲にあると、実用に必要な硬度を有しつつ、引張特性における破断時伸びおよび引裂強度の値が適度に小さい成形体を容易に得ることができる。
【0038】
<無機充填剤(C)>
成分(C)としては特に制限されず、例えば、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、水酸化物、ケイ素を含む無機物、硫化物、炭素材料、セメントが挙げられる。
本組成物に含まれる成分(C)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0039】
前記炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛が挙げられる。
前記硫酸塩としては、例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウムが挙げられる。
前記リン酸塩としては、例えば、リン酸カルシウムが挙げられる。
前記酸化物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化バリウムが挙げられる。
前記水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウムが挙げられる。
前記ケイ素を含む無機物としては、例えば、珪酸カルシウム、クレー(ろう石クレー、焼成クレー等を含む)、カオリン、タルク、シリカ(ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ等を含む)、ケイソウ土、マイカ、アスベスト、ガラス繊維、ガラス球、シラスバルーン、珪酸白土、ゼオライトが挙げられる。
前記硫化物としては、例えば、硫化タングステン、硫化モリブデンが挙げられる。
前記炭素材料としては、例えば、グラファイト、カーボンブラックが挙げられる。
【0040】
これらの中では、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化バリウム、珪酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、カーボンブラックが好ましく、タルク、クレー、炭酸カルシウムがより好ましく、タルク、炭酸カルシウムがさらに好ましく、タルクが特に好ましい。
【0041】
成分(C)の形状は特に制限されず、例えば、粉末状、球状、フレーク状等の各種形状であってよいが、球状であることが好ましい。
成分(C)の平均粒子径(レーザー回折法で求めたd50値)は特に制限されないが、実用に必要な硬度を有しながらも、引張特性における破断時伸びおよび引裂強度の値が適度に小さい成形体を容易に得ることができる等の点から、好ましくは10.0μm以下、より好ましくは9.0μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上であり、5.0μm以下である。
【0042】
成分(C)は、無機物からなるものが好ましいが、無機物の表面が脂肪酸や脂肪酸誘導体等で被覆されたものであってもよい。
前記脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等の直鎖飽和脂肪酸、セトレイン酸、ソルビン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。
前記脂肪酸誘導体としては、例えば、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩が挙げられ、脂肪酸エステルとしては、炭素数8以上の高級脂肪酸のエステルが好ましく、例えば、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸ラウリル、パルミチン酸ステアリル、パルミチン酸ラウリル、トリステアリン酸グリセライド、トリパルミチン酸グリセライドが挙げられ、脂肪酸金属塩としては、例えば、炭素数10~25の脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩が挙げられる。
【0043】
本組成物中の成分(C)の含有量は、成分(A)100質量部に対し、0.1~50質量部であり、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは7質量部以上、より好ましくは10質量部以上、特に好ましくは15質量部以上であり、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは35質量部以下、特に好ましくは30質量部以下である。
成分(C)の含有量が前記範囲にあると、実用に必要な硬度を有しつつ、引張特性における破断時伸びおよび引裂強度の値が適度に小さい成形体を容易に得ることができる。
【0044】
<その他の添加剤>
本組成物は、必要に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で、成分(A)~(C)に加えて、これら以外のその他の添加剤を含んでもよい。該その他の添加剤としては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、架橋剤(D)、架橋助剤、軟化剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、充填剤、難燃剤、着色剤が挙げられる。
これらのその他の添加剤はそれぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0045】
なお、本組成物は、エチレン系重合体を含有してもよく、含有しなくてもよいが、該エチレン系重合体を含有しないことが好ましい。エチレン系重合体としては、具体的にはエチレン単独重合体、および、エチレンと1種類以上の炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。
【0046】
[スチレン系熱可塑性エラストマー、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体]
スチレン系熱可塑性エラストマーやプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体を用いることで、外観が良好な成形体を容易に形成することができる。乗り物用部品などの成形体には、意匠性が求められることが多いが、このように外観が良好な成形体は、意匠性を向上させるために用いられる塗料を塗装する工程を省略できるため好ましい。
【0047】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、スチレン・イソプレンブロック共重合体、スチレン・イソプレンブロック共重合体の水添物(SEP)、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体の水添物(SEPS;ポリスチレン・ポリエチレン/プロピレン・ポリスチレンブロック共重合体)、スチレン・ブタジエン共重合体(例:スチレン・ブタジエンブロック共重合体)、スチレン・ブタジエンブロック共重合体の水添物(SEBS;ポリスチレン・ポリエチレン/ブチレン・ポリスチレンブロック共重合体)等が挙げられる。
【0048】
プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体は、プロピレンと、1種または2種以上のα-オレフィンと、必要により、1種または2種以上のプロピレンと共重合可能な他のモノマーとを用いて得られる共重合体が挙げられる。
該α-オレフィンとしては、炭素数2または4~10のα-オレフィンが好ましい。具体的には、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンなどが挙げられる。これらの中でも、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンが好ましい。
【0049】
[架橋剤(D)]
本組成物1において、成分(A)を、部分的または完全に架橋したい場合、特に、本組成物1に配合する各成分を動的架橋する際には、成分(D)を用いることが好ましく、本組成物2では、成分(D)を用いる。
成分(D)としては特に制限されず、従来公知の架橋剤を用いることができるが、具体例としては、有機過酸化物、イオウ、イオウ化合物、フェノール系架橋剤が挙げられる。これらの中でも、得られる本組成物やその成形体が架橋剤によって着色され難く、色相調整が容易である成形体を容易に得ることができる等の点から、有機過酸化物が好ましい。
【0050】
有機過酸化物としては、例えば、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルペルオキシ)バレレート、ベンゾイルペルオキシド、p-クロロベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、tert-ブチルペルベンゾエート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシドが挙げられる。
これらの中でも、臭気性、スコーチ安定性等の点から、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルペルオキシ)バレレートが好ましい。
【0051】
本組成物が成分(D)を含有する場合、本組成物中の成分(D)の含有量は、硬度と破断時伸びおよび引裂強度とのバランスに優れる成形体を容易に得ることができる等の点から、成分(A)100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上、さらに好ましくは0.7質量部以上であり、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは2.9質量部以下、さらに好ましくは2.0質量部以下、特に好ましくは1.5質量部以下である。
【0052】
[架橋助剤]
前記成分(D)を用いる場合、架橋反応を均一にする等の点から、架橋助剤を用いることが好ましい。
該架橋助剤としては特に制限されず、従来公知の架橋助剤を用いることができ、成分(D)の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0053】
成分(D)として、有機過酸化物を用いる場合、前記架橋助剤としては、例えば、硫黄、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム、N-メチル-N,4-ジニトロソアニリン、ニトロベンゼン、ジフェニルグアニジン、トリメチロールプロパン-N,N’-m-フェニレンジマレイミド、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、ビニルブチラート、ビニルステアレート、エレチングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート等のビニルまたはメタクリレートモノマーが挙げられる。
これらの中でも、ジビニルベンゼンは、本組成物を構成する各成分との相容性が良好であり、かつ、有機過酸化物の可溶化作用を有することから、有機過酸化物の分散助剤としても働くため、熱処理の際に、均質な架橋が起こりやすくなるため好ましい。従って、ジビニルベンゼンを架橋助剤として用いることで、流動性と物性のバランスのとれた本組成物を容易に得ることができる傾向にある。
【0054】
本組成物が架橋助剤を含有する場合、本組成物中の架橋助剤の含有量は、成分(A)100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上、さらに好ましくは0.7質量部以上であり、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは2.9質量部以下、さらに好ましくは2.0質量部以下、特に好ましくは1.5質量部以下である。
【0055】
[軟化剤]
本組成物は、流動性や硬度の調整等を目的として、軟化剤を用いることが好ましい。
軟化剤の具体例としては、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、石油アスファルト、ワセリン等の石油系軟化剤;コールタール、コールタールピッチ等のコールタール系軟化剤;ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、大豆油、椰子油等の脂肪油系軟化剤;トール油;サブ(ファクチス);蜜ロウ、カルナウバロウ、ラノリン等のロウ類;リシノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛等の脂肪酸または脂肪酸塩;ナフテン酸;パイン油、ロジンまたはその誘導体;テルペン樹脂、石油樹脂、クマロンインデン樹脂、アタクチックポリプロピレン等の合成高分子系軟化剤;ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート等のエステル系軟化剤;マイクロクリスタリンワックス、液状ポリブタジエン、変性液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレン、末端変性ポリイソプレン、水添末端変性ポリイソプレン、液状チオコール、炭化水素系合成潤滑油が挙げられる。
これらの中でも、石油系軟化剤、特にプロセスオイルが好ましい。
【0056】
軟化剤は、前述のように、例えば、成分(A)と予め混合(油展)したものを用いてもよく、本組成物を調製する際に用いてもよく、本組成物に配合する各成分を動的に熱処理する際に後添加してもよい。
【0057】
本組成物が軟化剤を含有する場合、本組成物中の軟化剤の含有量は、成分(A)100質量部に対し、通常10質量部以上、好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部以上であり、通常200質量部以下、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。
軟化剤の含有量が前記範囲にあると、成形に適した流動性を有する本組成物を容易に得ることができる傾向にあり、さらに、機械的物性、耐熱性、耐熱老化性に優れる成形体を容易に得ることができる傾向にある。
【0058】
<本組成物の製造方法と物性>
本組成物は、成分(A)~(C)と、必要により前述のその他の添加剤とを混合・混練することで製造することができる。
この混合・混練の際には、バンバリーミキサー、ミキシングロール、ヘンシェルミキサー、ニーダー、一軸または二軸押出機等の従来公知の混合・混練機を使用することが好ましい。この混合・混練の際の各成分の添加順序は特に制限されない。
【0059】
また、本組成物1は、前記成分(A)~(C)と、必要により前述のその他の添加剤とを、動的架橋(動的に熱処理)することにより製造することが好ましい。本組成物2は、前記成分(A)~(D)と、必要により前述のその他の添加剤とを、動的架橋(動的に熱処理)することにより製造する。
前記動的架橋は、例えば、成分(A)~(C)と、必要により前述のその他の添加剤とを、加熱しながら混合・混練装置によって混合・混練することが挙げられ、剪断力を加えながら架橋することが好ましい。なお、本組成物1を動的架橋する際には、前述のその他の添加剤として、少なくとも架橋剤を用いることが好ましい。
動的架橋することによって、成分(A)の少なくとも一部が架橋した状態の成分を含む組成物を得ることができる。ここで「少なくとも一部が架橋された」とは、ゲル含量が5~98質量%、好ましくは10~95質量%の範囲内にある場合のことをいう。
【0060】
動的架橋は、非開放型の装置中で行うことが好ましく、また、窒素、炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
動的架橋における加熱温度は、通常125℃以上、好ましくは145℃以上、通常280℃以下、好ましくは240℃以下であり、混合・混練時間は、通常1分以上、好ましくは3分以上、通常30分以下、好ましくは20分以下である。
また、前記混合・混練の際に加えられる剪断力としては、最高剪断速度が、例えば10sec-1以上、好ましくは100sec-1以上、より好ましくは1,000sec-1以上、さらに好ましくは2,000sec-1以上、例えば100,000sec-1以下、好ましくは50,000sec-1以下、より好ましくは10,000sec-1以下、さらに好ましくは7,000sec-1以下となるような剪断力が挙げられる。
【0061】
本組成物のメルトフローレート(JIS K 7210の測定方法に準拠、230℃、10kg荷重)は、成形性に優れる組成物となる等の点から、好ましくは1g/10分以上、170g/10分未満、より好ましくは1~160g/10分、さらに好ましくは1g/10分以上、130g/10分未満、さらに好ましくは、1g/10分以上、110g/10分未満、さらに好ましくは1g/10分以上、100g/10分未満、特に好ましくは1g/10分以上、50g/10分未満である。
本組成物のメルトフローレート(JIS K 7210の測定方法に準拠、230℃、5kg荷重)は、成形性に優れる組成物となる等の点から、好ましくは6.0g/10分以下、より好ましくは5.0g/10分以下、さらに好ましくは4.0g/10分未満である。
【0062】
本組成物2のショアA硬度(瞬間値)(JIS K 6253の測定方法に準拠)は、好ましくは40以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは55以上であり、好ましくは80以下、より好ましくは75以下、さらに好ましくは70以下である。
本組成物2のショアA硬度(瞬間値)が前記範囲にあると、触感や高級な外観などの意匠性に優れ、実用に必要な耐傷付き性を備えた成形体を容易に形成することができ、本組成物2は、乗り物用部品、特にインストゥルメンタルパネルに好適に使用することができる。
前記ショアA硬度(瞬間値)は具体的には、下記実施例に記載の方法で測定できる。
【0063】
本組成物2の破断時伸び(JIS K 6251の測定方法に準拠)は、好ましくは200%以上、450%未満、より好ましくは200%以上、350%未満である。
本組成物2の破断時伸びが前記範囲にあると、破断時伸びの値が適度に小さい成形体を容易に形成することができ、該成形体を、例えばインストゥルメンタルパネルとした場合、エアバッグの膨張力で容易に破断されるインストゥルメンタルパネルを得ることができる。
前記破断時伸びは具体的には、下記実施例に記載の方法で測定できる。
【0064】
本組成物2の引裂強度(JIS K 6252-1の測定方法に準拠)は、好ましくは16N/mm以上、27N/mm未満、より好ましくは16~24N/mm、さらに好ましくは16N/mm以上、21N/mm未満である。
本組成物2の引裂強度が前記範囲にあると、引裂強度の値が適度に小さい成形体を容易に形成することができ、該成形体を、例えばインストゥルメンタルパネルとした場合、エアバッグの膨張力で容易に破断されるインストゥルメンタルパネルを得ることができる。
前記引裂強度は具体的には、下記実施例に記載の方法で測定できる。
【0065】
本組成物2の圧縮永久ひずみ(JIS K 6262の測定方法に準拠)は、好ましくは15%以上、より好ましくは16%以上、さらに好ましくは18%以上、特に好ましくは19%以上であり、好ましくは30%以下、より好ましくは27%以下、さらに好ましくは25%以下、特に好ましくは23%以下である。
圧縮永久ひずみが前記範囲にあると、触感等に優れる成形体を容易に形成できる等の点で好ましい。
前記圧縮永久ひずみは具体的には、下記実施例に記載の方法で測定できる。
【0066】
≪成形体≫
本発明の一実施形態に係る成形体は、本組成物を含めば特に制限されず、用途に応じて、任意の既知の成形法を用いて成形された成形体である。成形法の例としては、例えば、プレス成形、射出成形法、押出成形法、カレンダー成形法、中空成形法、真空成形法、圧縮成形法が挙げられる。
【0067】
前記成形体は、乗り物用部品に好適に使用される。該乗り物用部品としては、内装表皮材に好適に使用される。
前記内装表皮材としては、例えば、インストゥルメンタルパネル、ドアトリム、コンソール、アームレストが挙げられ、これらの中でも、本発明の効果がより発揮される等の点から、特にインストゥルメンタルパネルが好ましい。
前記成形体は、乗り物用部品以外にも、例えば、スポーツ用品用途や建材用途等に使用可能である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0069】
<原材料>
以下の実施例および比較例で使用した原材料は以下のとおりである。
【0070】
・「共重合体(A-1)」:油展エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM、商品名:3072EPM;三井化学(株)製、エチレン含量=64質量%、非共役ジエン種:5-エチリデン-2-ノルボルネン、非共役ジエン含量=5.4質量%、ムーニー粘度[ML(1+4)125℃]=51、ゴム成分100質量部に対する油展量=40(PHR))
なお、下記表1中の共重合体(A-1)の数値は、油展量を除いたゴム成分のみの配合量を示す。共重合体(A-1)の油展には、パラフィン系プロセスオイル(出光興産(株)製の「PW-100」、下記軟化剤)を用いた。
【0071】
・「プロピレン系重合体(B-1)」:プロピレン・エチレンブロック共重合体(商品名:プライムポリプロ J709QG、(株)プライムポリマー製、MFR(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠;230℃、2.16kg荷重)=55g/10分)、DSCで測定した融点152℃)
・「プロピレン系重合体(B-2)」:プロピレン・エチレンブロック共重合体(商品名:EL-Pro P740J;SCG Chemicals社製、MFR(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠;230℃、2.16kg荷重)=25g/10分)、DSCで測定した融点163℃)
・「プロピレン系重合体(B-3)」:プロピレン・エチレンブロック共重合体(商品名:EL-Pro P440J;SCG Chemicals社製、MFR(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠;230℃、2.16kg荷重)=5g/10分)、DSCで測定した融点163℃)
・「プロピレン系重合体(B’-4)」:プロピレン・エチレンブロック共重合体(商品名:プライムポリプロ E-150GK、(株)プライムポリマー製、MFR(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠;230℃、2.16kg荷重)=0.5g/10分)、DSCで測定した融点164℃)
・「プロピレン系重合体(B-5)」:プロピレン・エチレンランダム共重合体(結晶性樹脂、商品名:プライムポリプロ J229E、(株)プライムポリマー製、MFR(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠;230℃、2.16kg荷重)=50g/10分)、DSCで測定した融点148℃)
・「プロピレン系重合体(B-6)」:プロピレン単独重合体(結晶性樹脂、商品名:プライムポリプロ J108M、(株)プライムポリマー製、MFR(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠;230℃、2.16kg荷重)=45g/10分)、DSCで測定した融点165℃)
【0072】
・「無機充填剤(C-1)」:タルク(商品名:ハイ・フィラー#5000PJ、松村産業(株)製、粒子径(レーザー回折法で求めたd50値)=4.5μm)
・「無機充填剤(C-2)」:炭酸カルシウム(商品名:MAX6080K、竹原化学工業(株)製、粒子径(レーザー回折法で求めたd50値)=10μm以下)
【0073】
・「軟化剤」:パラフィン系プロセスオイル(商品名:ダイアナプロセスオイル PW-100、出光興産(株)製)
【0074】
・「架橋助剤」:ジビニルベンゼン(商品名:DVB-810、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)
【0075】
・「架橋剤(D-1)」:有機ペルオキシド(2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、商品名:パーヘキサ25B、日油(株)製)
【0076】
<構成単位の質量分率>
前記共重合体(A-1)中に含まれるEPDMを構成する各構成単位の質量分率(質量%)は、13C-NMRによる測定値により求めた。具体的には、ECX400P型核磁気共鳴装置(日本電子(株)製)を用いて、測定温度:120℃、測定溶媒:オルトジクロロベンゼン/重水素化ベンゼン=4/1(体積比)、積算回数:8000回の条件で、共重合体(A-1)の13C-NMRのスペクトルから算出した。
【0077】
<ムーニー粘度>
共重合体(A-1)のムーニー粘度は、ASTM D 1646-19aの測定方法に準拠して、125℃で測定した。
【0078】
<融点>
前記プロピレン系重合体(B)の融点は、JIS K 7121に準拠して示差走査型熱量計(DSC)を用いて測定した。具体的には、プロピレン系重合体(B)のペレットを、230℃で10分間加熱し、次いで、30℃まで10℃/分の速度で降温した後1分間保持し、その後、10℃/分の速度で昇温した。この際のDSC曲線において、吸収熱量が最大の温度を融点とした。
【0079】
[実施例1]
共重合体(A-1)140質量部(ゴム成分として100質量部)、プロピレン系重合体(B-1)50質量部、無機充填剤(C-1)15質量部、架橋剤(D-1)1質量部、架橋助剤1質量部、および、軟化剤をヘンシェルミキサーで充分に混合した。
なお、表1中における、軟化剤の欄の数値(含有量(質量部))は、用いた共重合体(A-1)に含まれる軟化剤と、前記架橋剤(D-1)を混合する際に用いた軟化剤と、下記ペレットを作製する際に用いた軟化剤との合計量である。
【0080】
その後、押出機(品番 KTX-46、(株)神戸製鋼所製、シリンダー温度:C1=110℃、C2=120℃、C3=140℃、C4=140℃、C5=150℃、C6=160℃、C7~C8=180℃、C9~C14=230℃、ダイス温度:200℃、スクリュー回転数:400rpm、押出量:50kg/h)に、ヘンシェルミキサーで得られた混合物を注入して、該混合物の動的架橋を行い、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。
【0081】
[実施例2~11および比較例1~6]
用いる原材料の種類および量を表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。表1中の原材料の欄の数値は質量部を示す。
【0082】
<メルトフローレート(MFR)>
JIS K 7210に準拠して230℃、10kg荷重または5kg荷重で、実施例および比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物のメルトフローレートを測定した。結果を表1に示す。なお、MFRが低すぎて測定できなかった場合は「不可」と記載する。
【0083】
<プレスシートの作製>
実施例または比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットを、熱プレス成形機にてプレス加工した(プレス温度:190℃、冷却温度:20℃、予熱時間:6分、加圧溶融時間:4分)。プレス加工の結果、各組成物について、縦12cm×横14.7cm×厚さ2mmの平板のプレスシートを得た。
【0084】
<射出成形体の作製>
70トン縦型射出成形機を用い、バレル温度:180℃、射出速度:50mm/sの条件で、実施例または比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットを、直径29mm、長さ12.7mmの円柱状に射出することで、射出成形体を得た。
【0085】
<ショアA硬度>
JIS K 6253に準拠して、前述の方法で作製した厚さ2mmのプレスシートを3枚重ねて6mmの厚さとしたサンプルを用い、デュロメータを用いてショアA硬度(瞬間値)を求めた。結果を表1に示す。
【0086】
<引張特性>
前記プレスシート(厚さ2mm)から、ダンベル状3号形試験片を作製した。作製した試験片に対して、JIS K 6251に準拠して引張試験(引張速度:200mm/分、測定温度:23℃)を行い、100%伸張時のモジュラス(M100)、破断時応力(TB)および破断時伸び(EB)を測定した。結果を表1に示す。
【0087】
<引裂強度>
前述の方法で作製した厚さ2mmのプレスシートからダンベル状3号形試験片を打ち抜くことで得られた試験片を用い、JIS K 6252-1に準拠して、引裂強度を測定した(測定温度:23℃)。結果を表1に示す。
【0088】
<圧縮永久ひずみ(CS)>
JIS K 6262に準拠して、前記円柱状の射出成形体を、70℃で22時間長さ方向に25%圧縮した後、圧縮装置から取り出して30分後の成形体の長さを測定し、圧縮永久ひずみを計算した。結果を表1に示す。
【0089】
<エアバッグ展開性評価>
エアバッグ展開性評価は、破断時伸びおよび引裂強度に関し、下記評価基準に基づいて評価を行った。なお、破断時伸びおよび引裂強度の評価基準がAまたはBの場合、エアバック展開性が良好であると判断した。結果を表1に示す。
【0090】
[破断時伸びの評価]
前記EBの値から、以下の基準で破断時伸びを評価した。
A:EBの値が200%以上、350%未満
B:EBの値が350%以上、450%未満
C:EBの値が450%以上、550%未満
D:EBの値が200%未満、または、550%以上
【0091】
[引裂強度の評価]
前記引裂強度の値から、以下の基準で引裂強度を評価した。
A:引裂強度が16N/mm以上、21N/mm未満
B:引裂強度が21N/mm以上、27N/mm未満
C:引裂強度が27N/mm以上、30N/mm未満
D:引裂強度が16N/mm未満、または、30N/mm以上
【0092】
<シート成形性の評価>
230℃、10kg荷重の条件下で測定した前記熱可塑性エラストマー組成物のMFRの値から、以下の基準でシート成形性を評価した。
A:MFRが1g/10分以上、50g/10分未満
B:MFRが50g/10分以上、170g/10分未満
C:MFRが170g/10分以上、220g/10分未満
D:MFRが1g/10分未満、または、220g/10分以上
【0093】
<外観評価>
作製したペレットを目視で確認し、ペレットの色の度合を目視にて確認した。
A:ペレットの色味が乳白色である。
B:ペレットの色味が乳白色より黄色味がかっている。
C:ペレットの色味は黄色味が強い
D:ペレットの色味は黄色味がかなり強い
【0094】