(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】正極材料、電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240806BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240806BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240806BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240806BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/131
H01M4/505
H01M10/052
H01M10/0567
(21)【出願番号】P 2022518858
(86)(22)【出願日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 CN2021104024
(87)【国際公開番号】W WO2022121293
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】202011460086.8
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】呉 霞
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-077016(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115025(WO,A1)
【文献】特開2004-119218(JP,A)
【文献】国際公開第2012/165207(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/103463(WO,A1)
【文献】特開2018-018789(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061298(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587、10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極材料であって、
P6
3mc結晶相構造を有する粒子を含み、
前記正極材料の粒度分布曲線図に第1ピーク及び第2ピークが含まれ、
前記正極材料は、第1粒子及び第2粒子を含み、
前記第1粒子は、Li
xNa
zCo
1-y1M
1
y1O
2を含み、ここで、0.6<x<0.95、0≦y1<0.15、0≦z<0.05、M
1はAl、Mg、Ti、Zr、La、Ca、Ge、Nb、Sn及びYのうちの少なくとも一種を含み、
前記第2粒子は、Li
xNa
zCo
1-y2M
2
y2O
2を含み、ここで、0.6<x<0.95、0≦y2<0.15、0≦z<0.05、M
2はNi、Mn、Zn及びFeのうちの少なくとも一種を含み、
前記第1粒子は前記第1ピークに表される粒子であり、前記第2粒子は前記第2ピークに表される粒子であり、前記第1粒子及び前記第2粒子はいずれもP6
3mc結晶相構造を有し、
前記第1粒子の平均粒子径は3μm~12μmであり、前記第2粒子の平均粒子径は15μm~30μmであることを特徴とする、正極材料。
【請求項2】
前記第1ピークに表される粒子の粒子径は第2ピークに表される粒子の粒子径より小さく、前記第1ピークのピーク面積をS1とし、前記第2ピークのピーク面積をS2とすると、S1、S2は、関係式0<S1/S2<1を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記正極材料の粒子の内部に穴及び隙間があることを特徴とする、請求項1に記載の正極材料。
【請求項4】
前記正極材料の比表面積は0.1m
2/g~2m
2/gであることを特徴とする、請求項1に記載の正極材料。
【請求項5】
正極、負極、電解液、及び前記正極と前記負極の間に配置されるセパレータを含み、
前記正極は集電体、及び前記集電体上に配置される正極活物質層を含み、前記正極活物質層は請求項1~
4のいずれか1項に記載の正極材料を含むことを特徴とする、電気化学装置。
【請求項6】
前記正極活物質層の圧縮密度は3g/cm
3~4.35g/cm
3であることを特徴とする、請求項
5に記載の電気化学装置。
【請求項7】
前記電解液は2~3個のシアノ基を有する化合物を含み、前記電解液の重量に対して、前記2~3個のシアノ基を有する化合物の含有量は0.01wt%~15wt%であることを特徴とする、請求項
5に記載の電気化学装置。
【請求項8】
前記2~3個のシアノ基を有する化合物はジニトリル化合物、トリニトリル化合物、エーテルジニトリル化合物及びエーテルトリニトリル化合物のうちの少なくとも一種を含むことを特徴とする、請求項
7に記載の電気化学装置。
【請求項9】
前記2~3個のシアノ基を有する化合物はグルタロニトリル、スクシノニトリル、アジポニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、及び1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパンのうちの少なくとも一種を含むことを特徴とする、請求項
7に記載の電気化学装置。
【請求項10】
請求項
5~
9のいずれか1項に記載の電気化学装置を含むことを特徴とする、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2020年12月11日に出願された、発明の名称が「正極材料、電気化学装置及び電子装置」である中国特許出願第202011460086.8号に基づく優先権を主張するものであり、当該中国特許出願の全内容を本出願に参照により援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、電気化学技術分野に関し、具体的に、正極材料、電気化学装置及び電子装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)の発展と進歩に伴い、その容量への要求はますます高くなる。電気化学装置の容量を向上させるための重要な方途の一つは、電気化学装置の電圧を高めることであるが、高電圧で電気化学装置における正極材料は結晶構造が不安定で、容量が急速に減衰し、サイクル特性が大幅に低下する。
【0004】
現在では、電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)において一般的に用いられるコバルト酸リチウム正極材料はR-3m結晶相構造を有し、その理論容量が273.8mAh/gであり、それは良好なサイクル特性と安全特性を有し、正極材料市場で重要な地位にある。より高い比エネルギーを得るため、コバルト酸リチウム材料は高電圧の方向に開発されている。現在、コバルト酸リチウム材料は充電電圧が4.5Vである場合、容量はわずか190mA/gである。コバルト酸リチウム材料の容量を向上させるため、コバルト酸リチウムの結晶構造からより多くのリチウムイオンを放出されることが試されたが、電圧が上昇するのに伴い、コバルト酸リチウムの結晶構造からリチウムイオンが放出されると、一連の不可逆的な相変化が起こるより、コバルト酸リチウム材料のサイクル特性と貯蔵特性が大幅に低下し、そして高電圧下で界面副反応が増加し、コバルト金属の溶出が厳しくなり、電解液の分解が増加し、コバルト酸リチウム材料の容量の減衰が非常に深刻である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、正極材料、電気化学装置及び電子装置を提供し、本発明における正極材料は安定な結晶構造を有し、当該正極材料を使用した電気化学装置は高電圧で比較的高い容量及び優れたサイクル特性を保持することができる。
【0006】
本発明はいくつかの実施例において、P63mc結晶相構造を有する粒子であって、正極材料の粒度分布曲線図に第1ピーク及び第2ピークが含まれる正極材料が提供される。本発明は粒子径の大きさが異なる粒子からなる正極材料を提供し、一方、P63mc相化合物は特別な酸素構造があり、4.6Vという高電圧で十分に安定であり、電解液に優しく、サイクル特性に優れる。他方、粒子径の異なる正極材料の粒子を設計することで、粒子径の異なる粒子の役割を十分に果たすことができ、材料の加工特性を向上させ、配合沈降が高いと圧縮密度(Compaction density)が低いという問題を解決し、レート特性の向上に有利である。そして、P63mc結晶相構造は独特なリチウム欠乏構造があり、リチウム放出・吸蔵する過程で、結晶構造にリチウム空孔(lithium vacancy)があり、余分なリチウムイオンを収容する能力があるため、容量減衰を防止することができ、異なる粒子径の粒子が混合される時、正極材料の動力学的特性(kinetics performance)が向上することにより、P63mc結晶相構造はより強いリチウム吸蔵能力があり、より優れた容量及びより優れたサイクル特性を示す。
【0007】
いくつかの実施例において、第1ピークに表される粒子の粒子径は第2ピークに表される粒子の粒子径より小さく、第1ピークのピーク面積をS1とし、第2ピークのピーク面積をS2とすると、S1、S2は、関係式0<S1/S2<1を満たす。いくつかの実施例において、S1及びS2はそれぞれ粒子径の異なる二種類の粒子の含有量を表し、0<S1/S2<1は、より小さい粒子径を有する粒子の百分率が50%より少ないことを表す。より小さい粒子径を有する粒子の百分率が高すぎると、サイクル特性が低くなるおそれがある。いくつかの実施例において、より小さい粒子径を有する粒子が存在しない場合、圧縮密度の向上に不利であり、且つ正極材料の動力学的特性の向上に不利である。
【0008】
いくつかの実施例において、第1粒子と第2粒子との化学組成が異なる。第1粒子は、LixNazCo1-y1M1
y1O2を含み、ここで、0.6<x<0.95、0≦y1<0.15、0≦z<0.05、M1はAl、Mg、Ti、Zr、La、Ca、Ge、Nb、Sn及びYのうちの少なくとも一種を含む。第2粒子は、LixNazCo1-y2M2
y2O2を含み、ここで、0.6<x<0.95、0≦y2<0.15、0≦z<0.05、M2はNi、Mn、Zn及びFeのうちの少なくとも一種を含む。粒子径の異なる粒子の特性が異なり、より小さい粒子径の粒子のサイクル特性は比較的に劣り、より大きい粒子径の粒子のレート特性は比較的に劣るため、本発明のいくつかの実施例において、第1粒子と第2粒子との化学組成が異なり、粒子径の異なる粒子の特性の欠点に応じて、対応する化学組成を選ぶことで、特性の欠点を補う。
【0009】
いくつかの実施例において、前記第1粒子の平均粒子径は3μm~12μmであり、前記第2粒子の平均粒子径は15μm~30μmである。いくつかの実施例において、第1粒子及び第2粒子の平均粒子径が小さすぎる場合、電解液の消費が増加し、且つ正極材料のサイクル特性に不利である。他のいくつかの実施例において、第1粒子及び第2粒子の平均粒子径が大きすぎる場合、レート特性が低下するおそれがある。
【0010】
いくつかの実施例において、正極材料の粒子の内部に穴及び隙間がある。穴及び隙間を有する粒子は電解液と十分に接触することができ、そして正極材料が充放電の過程で膨張する場合、穴及び隙間は正極材料の内部応力を低減させることができ、それによって結晶構造の安定性の向上に有利である。いくつかの実施例において、正極材料の比表面積は0.1m2/g~2m2/gである。比表面積が小さすぎる場合、レート特性に不利であり、比表面積が大きすぎる場合、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0011】
本発明のいくつかの実施例は正極材料を提供し、かかる正極材料はP63mc結晶相構造を有する粒子であり、前記正極材料の粒度分布曲線図に第1ピーク及び第2ピークが含まれ、正極材料はLixNazCo1-yMyO2を含み、ここで、0.6<x<0.95、0≦y<0.15、0≦z<0.05、MはAl、Mg、Ti、Mn、Fe、Ni、Zn、Cu、Nb、Cr、Y及びZrのうちの少なくとも一種を含み、P63mc結晶相構造を有する粒子の平均粒子径は3μm~30μmである。いくつかの実施例において、正極材料はドープされている又はドープされていないコバルト酸リチウムを使用してもよく、コバルト酸リチウムにおけるドーピング元素は構造安定性を向上させることができるが、ドーピング元素の含有量が高すぎると、容量の損失が大きすぎるおそれがあり、本発明に限定される範囲内で容量を保証しつつ構造安定性を向上させることができる。
【0012】
いくつかの実施例において、正極材料の粒子の内部に穴及び隙間がある。穴及び隙間を有する粒子は電解液と十分に接触することができ、そして正極材料が充放電の過程で膨張する場合、穴及び隙間は正極材料の内部応力を低減させることができ、それによって結晶構造の安定性の向上に有利である。いくつかの実施例において、正極材料の比表面積は0.1m2/g~2m2/gである。比表面積が小さすぎる場合、レート特性に不利であり、比表面積が大きすぎる場合、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0013】
本発明のいくつかの実施例は、正極、負極、電解液、及び正極と負極の間に配置されるセパレータを含む電気化学装置を提供し、正極は集電体、及び集電体上に配置される正極活物質層を含み、正極活物質層は上記のいずれかの正極材料を含む。
【0014】
いくつかの実施例において、電気化学装置の正極活物質層の圧縮密度は3g/cm3~4.35g/cm3である。いくつかの実施例において、正極材料は粒子径の異なる二種類の粒子を有するため、正極活物質層の圧縮密度を向上させることに有利であるが、圧縮密度が大きすぎると、粒子が破砕されるおそれがある。
【0015】
いくつかの実施例において、電解液は2~3個のシアノ基を有する化合物を含む。2~3個のシアノ基を有する化合物は、ジニトリル化合物、トリニトリル化合物、エーテルジニトリル化合物及びエーテルトリニトリル化合物のうちの少なくとも一種を含む。いくつかの実施例において、シアノ基の炭素-窒素三重結合は結合エネルギーがとても高く、酸化されにくく、やや高い安定性を有し、そして、シアノ基の配位能力は非常に強く、正極材料における高原子価の金属イオンと配位することができ、それによって、電解液への分解が軽減することができる。モノシアノ化合物に対して、2~3個のシアノ基を有する化合物は、本発明の正極と電解液との反応をより良好に低減させ、ガス生成を抑制することができる。
【0016】
いくつかの実施例において、2~3個のシアノ基を有する化合物はグルタロニトリル、スクシノニトリル、アジポニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、及び1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパンのうちの少なくとも一種を含み、電解液の重量に対して、2~3個のシアノ基を有する化合物の含有量は0.01wt%~15wt%である。本発明のいくつかの実施例は上記のいずれかの電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0017】
いくつかの実施例において、前記電解液はエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、プロピオン酸プロピル、及びビニレンカーボネートのうちの少なくとも一種を含む有機溶媒を含む。上記の有機溶媒により、本明細書の正極材料と相乗効果を発揮し、その結晶構造を安定させることで、サイクル特性を改善する。
【0018】
本発明の実施例に提供される正極材料はP63mc結晶相構造を有する粒子を含み、P63mc結晶相構造は独特なHCP(hexagonal closest packing、六方最密充填)酸素構造を有し、高電圧(例えば、4.6V以上)でのサイクル過程において酸素構造が安定であり、電解液に優しく、サイクル特性に優れる。本発明において、正極材料の粒度分布曲線図に第1ピーク及び第2ピークが含まれることは正極材料に粒子径の異なる二種類の粒子を含むことを表し、それによって、材料の加工特性を向上させ、配合沈降が高いと圧縮密度が低いという問題を解決し、そしてP63mc結晶相構造自体はリチウム欠乏材料であり、充電過程ではリチウムイオンを放出し、通路を開く必要があり、放電過程では自身から放出さらたリチウムイオンを収容すること以外に、余分なリチウムイオンを吸収する電気化学リチウム吸蔵能力を有する。正極材料として、大きい粒子と小さい粒子が混合する時、正極材料の動力学的特性が向上することにより、正極材料がより強いリチウム吸蔵能力があり、より優れた容量及びより優れたサイクル特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例をさらに詳しく説明する。本発明は様々な態様で実現されることができ、そしてここで説明された実施例に限定されると解釈してはならなく、むしろ、これらの実施例を提供するのは、本発明をさらに詳しく、完璧に理解させるようにするためである。
【0020】
先行技術では、R-3m相を有するコバルト酸リチウム正極材料が4.6V以上の高電圧で結晶構造が不可逆的な相転移(O3からH1-3に、H1-3からO1に)が発生することで、材料のサイクル特性及び安全特性が大幅に低下する。関連技術では、金属カチオン相は、一般に、R-3m相コバルト酸リチウム正極材料の構造安定性を高めるために正極材料にドープされる。大部分の元素のドープは不可逆的な相転移を遅らせることで材料の構造安定性を高める。しかし、この方法では、電圧が4.6Vより大きい時、構造安定性を高める効果が明らかではなく、且つドープ量が増えると、理論容量の損失が増加する。従って、関連技術では4.6V及びそれ以上の高電圧で結晶構造安定性を保持しつつ容量及びサイクル特性を保持することができない。
【0021】
少なくとも上記の課題の一部を解決するために、本発明のいくつかの実施例には、P63mc結晶相構造を有する粒子である正極材料を提供し、正極材料の粒度分布曲線図には第1ピーク及び第2ピークが含まれる。これから、正極材料には粒子径が異なる二種類のP63mc結晶相構造を有する粒子が含まれることがわかる。
【0022】
本発明は、粒子径の大きさが異なる粒子からなる正極材料を提供する。一方、P63mc相化合物は特別なHCP酸素構造があり、4.6Vという高電圧で十分に安定であり、電解液に優しく、サイクル特性に優れる。他方、粒子径が異なる正極材料の粒子を設計することで、粒子径が異なる粒子の役割を十分に果たすことができ、材料の加工特性を向上させ、配合沈降が高いと圧縮密度が低いという問題を解決することができ、レート特性の向上に有利である。さらに重要なことは、P63mc結晶相構造は独特なリチウム欠乏構造があり、リチウム放出・吸蔵する過程で、結晶構造にリチウム空孔があり、余分なリチウムイオンを収容する能力があるため、容量減衰を防止することができ、異なる粒子径の粒子が混合される時、正極材料の動力学的特性が向上することにより、P63mc結晶相構造はより強いリチウム吸蔵能力があり、より優れた容量及びより優れたサイクル特性を示す、ことである。
【0023】
本発明のいくつかの実施例において、第1ピークに表される粒子の粒子径は第2ピークに表される粒子の粒子径より小さく、第1ピークのピーク面積をS1とし、第2ピークのピーク面積をS2とすると、S1、S2は、関係式0<S1/S2<1を満たす。いくつかの実施例において、S1及びS2はそれぞれ粒子径が異なる二種類の粒子の含有量を表し、0<S1/S2<1は、より小さい粒子径を有する粒子の百分率が50%より少ないことを表す。より小さい粒子径を有する粒子の百分率が高すぎると、サイクル特性が低くなるおそれがある。いくつかの実施例において、より小さい粒子径を有する粒子が存在しない場合、圧縮密度の向上に不利であり、且つ正極材料の動力学的特性の向上に不利である。
【0024】
本発明のいくつかの実施例において、正極材料は第1粒子及び第2粒子を含み、第1粒子と第2粒子との化学組成が異なる。本発明のいくつかの実施例において、第1粒子は、LixNazCo1-y1M1
y1O2を含み、ここで、0.6<x<0.95、0≦y1<0.15、0≦z<0.05、M1はAl、Mg、Ti、Zr、La、Ca、Ge、Nb、Sn及びYのうちの少なくとも一種を含む。第2粒子は、LixNazCo1-y2M2
y2O2を含み、ここで、0.6<x<0.95、0≦y2<0.15、0≦z<0.05、M2はNi、Mn、Zn及びFeのうちの少なくとも一種を含む。いくつかの実施例において、粒子径が異なる粒子の特性が異なり、より小さい粒子径を有する粒子のサイクル特性は比較的に劣り、粒子径の大きいの粒子のレート特性は比較的に劣る。そのため、本発明のいくつかの実施例において、第1粒子と第2粒子との化学組成が異なり、粒子径が異なる粒子の特性の欠点に応じて、対応する化学組成を選ぶことで、特性の欠点を補う。例えば、粒子径の小さい第1粒子にサイクル特性を高める元素をドープし、粒子径の大きい第2粒子にレート特性を高める元素をドープすることで、正極材料は全体として、より優れたレート特性及びサイクル特性を示す。第1粒子の平均粒子径は3μm~12μmであり、第2粒子の平均粒子径は15μm~30μmである。いくつかの実施例において、第1粒子及び第2粒子の平均粒子径が小さすぎる場合、電解液の消費が増加し、且つ正極材料のサイクル特性に不利であり、他のいくつかの実施例において、第1粒子及び第2粒子の平均粒子径が大きすぎる場合、レート特性が低下するおそれがある。いくつかの実施例において、第1粒子は第1ピークに表される粒子であり、第2粒子は第2ピークに表される粒子であり、第1粒子及び第2粒子はいずれもP63mc結晶相構造を有する。
【0025】
本発明のいくつかの実施例において、正極材料の粒子の内部に穴及び隙間がある。いくつかの実施例において、穴及び隙間を有する粒子は電解液と十分に接触することができ、そして正極材料が充放電の過程で膨張する場合、穴及び隙間は正極材料の内部応力を低減させることができ、それによって結晶構造の安定性の向上に有利である。いくつかの実施例において、一つの粒子上の穴及び隙間の数は50個以下であり、数が多すぎると、正極材料の機械的強度が十分でなくなり、結晶崩壊が発生しやすくなるおそれがある。
【0026】
本発明のいくつかの実施例は正極材料を提供し、正極材料はP63mc結晶相構造を有する粒子であり、前記正極材料の粒度分布曲線図に第1ピーク及び第2ピークが含まれ、正極材料はLixNazCo1-yMyO2を含み、ここで、0.6<x<0.95、0≦y<0.15、0≦z<0.05、MはAl、Mg、Ti、Mn、Fe、Ni、Zn、Cu、Nb、Cr、Y及びZrのうちの少なくとも一種を含み、P63mc結晶相構造を有する粒子の平均粒子径は3μm~30μm。
【0027】
いくつかの実施例において、正極材料はドープされている又はドープされていないコバルト酸リチウムを使用してもよい。ドープされているコバルト酸リチウムによれば、構造安定性を向上させることができるが、ドーピング元素の含有量が高すぎると、容量の損失が大きすぎるおそれがあり、本発明に限定される範囲内で容量を保証しつつ構造安定性を向上させることができる。
【0028】
いくつかの実施例において、粒子の粒子径は正極材料の構造安定性及びレート特性に影響を与える。いくつかの実施例において、粒子の粒子径が小さい第1粒子は第2粒子より構造安定性が劣り、粒子の粒子径が大きい第2粒子は第1粒子によりレート特性が劣る。そのため、第1粒子に第1粒子の構造安定性の向上に役立つM1をドープし、第2粒子に第2粒子のレート特性の向上に役立つM2をドープすることができる。
【0029】
本発明のいくつかの実施例において、正極材料の粒子の内部に穴及び隙間がある。いくつかの実施例において、穴及び隙間を有する粒子は電解液と十分に接触することができ、そして正極材料が充放電の過程で膨張する場合、穴及び隙間は正極材料の内部応力を低減させることができる。それによって結晶構造の安定性の向上に有利である。いくつかの実施例において、一つの粒子上の穴及び隙間の数は50個以下であり、数が多すぎると、正極材料の機械的強度が十分でなくなり、結晶崩壊が発生しやすくなるおそれがある。
【0030】
本発明のいくつかの実施例において、正極材料の比表面積は0.1m2/g~2m2/gである。いくつかの実施例において、比表面積が2m2/g超である場合、電解液の消費が加速され、結晶構造の安定性が低下し、サイクル特性が低下するおそれがあり、サイクル特性に不利である。一方、比表面積が0.1m2/g未満である場合、レート特性が劣るおそれがある。
【0031】
本発明のいくつかの実施例は、さらに、正極、負極、電解液、及び正極と負極の間に配置されるセパレータを含む電気化学装置を提供し、正極は集電体、及び集電体上に配置される正極活物質層を含み、正極活物質層は上記のいずれかの実施例における正極材料を含む。
【0032】
本発明のいくつかの実施例において、電気化学装置の正極活物質層の圧縮密度は3g/cm3~4.35g/cm3である。いくつかの実施例において、正極材料は粒子径が異なる二種類の粒子があるため、正極活物質層の圧縮密度を高めることに有利である。いくつかの実施例において、150MPaの圧力で圧縮する場合の正極活物質層の圧縮密度は3.80g/cm3以上であり、250MPaの圧力で圧縮する場合の正極活物質層の圧縮密度は4g/cm3以上であり、500MPaの圧力で圧縮する場合の正極活物質層の圧縮密度は4.2g/cm3以上である。(c)電気化学装置は、放電容量が200mAh/g以上である場合、電気化学装置を1Cのレートで20回サイクルさせ、電気化学装置の直流抵抗の増加率が2%以下のものである。いくつかの実施例において、電気化学装置のサイクル後の直流抵抗の増長率が2%以下であることから、本発明の電気化学装置の正極材料がより優れた構造安定性を有し、サイクル過程で明らかな構造変化が発生しておらず、直流抵抗の明らかな増加をもたらさないことがわかる。
【0033】
本発明のいくつかの実施例において、電解液は2~3個のシアノ基を有する化合物を含み、2~3個のシアノ基を有する化合物はジニトリル化合物、トリニトリル化合物、エーテルジニトリル化合物及びエーテルトリニトリル化合物のうちの少なくとも一種を含む。いくつかの実施例において、シアノ基の炭素-窒素三重結合の結合エネルギーがとても高く、酸化されにくく、やや高い安定性を有し、そして、シアノ基の配位能力は非常に強く、正極材料における高原子価の金属イオンと配位することができる。それによって、電解液への分解が軽減することができる。モノシアノ化合物と比較して、2~3個のシアノ基を有する化合物は、正極と電解液との反応をより良好に低減させ、ガス生成を抑制することができる。
【0034】
本発明のいくつかの実施例において、2~3個のシアノ基を有する化合物はグルタロニトリル、スクシノニトリル、アジポニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、及び1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパンのうちの少なくとも一種を含む。電解液の重量に対して、2~3個のシアノ基を有する化合物の含有量は0.01wt%~15wt%である。
【0035】
いくつかの実施例において、正極の集電体はAl箔を採用してもよいが、当分野の一般的に用いられる他の正極の集電体を採用してもよいことは勿論である。いくつかの実施例において、正極の集電体の厚さは1μm~200μmであってもよい。いくつかの実施例において、正極活物質層は正極の集電体の一部の領域のみに塗布されてもよい。いくつかの実施例において、正極活物質層の厚さは10μm~500μmであってもよい。理解すべきことは、これらは例示用のみであり、他の適宜な厚さを採用してもよい。
【0036】
いくつかの実施例において、セパレータはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド及びアラミドのうちの少なくとも一種を含む。例えば、ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、及び超高分子量ポリエチレンから選択される少なくとも一種を含む。中でも、ポリエチレン及びポリプロピレンは、短絡の防止に優れた効果があり、そしてシャットダウン効果で電池の安定性を改善することができる。いくつかの実施例において、セパレータの厚さは約5μm~500μmの範囲内にある。
【0037】
いくつかの実施例において、セパレータの表面はさらに、セパレータの少なくとも一つの表面上に配置される多孔層を含んでもよく、多孔層は無機粒子及びバインダーを含む。無機粒子は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、二酸化ハフニウム(HfO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化ニッケル(NiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、炭化ケイ素(SiC)、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び硫酸バリウムから選択される少なくとも一種である。いくつかの実施例において、セパレータの孔の直径は約0.01μm~1μmの範囲にある。多孔層のバインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレン及びポリヘキサフルオロプロピレンから選択される少なくとも一種である。セパレータの表面の多孔層は、セパレータの耐熱特性、酸化防止特性及び電解質濡れ特性を高め、セパレータと極片との接着性を強めることができる。
【0038】
本発明のいくつかの実施例において、電気化学装置は巻取式又は積層式である。
【0039】
いくつかの実施例において、電気化学装置はリチウムイオン電池を含むが、本発明はこれに限定されない。いくつかの実施例において、電気化学装置はさらに電解質を含んでもよい。電解質は、ゲル電解質、固体電解質及び電解液の一種以上であってもよく、電解液はリチウム塩及び非水溶媒を含む。リチウム塩はLiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiB(C6H5)4、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiC(SO2CF3)3、LiSiF6、LiBOBおよびジフルオロホウ酸リチウムから選択される一種以上である。例えば、高いイオン導電率を与え、サイクル特性を改善することから、リチウム塩として、LiPF6が用いられる。
【0040】
非水溶媒は、炭酸エステル化合物、カルボン酸エステル化合物、エーテル化合物、他の有機溶媒又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0041】
炭酸エステル化合物は、鎖状炭酸エステル化合物、環状炭酸エステル化合物、フルオロ炭酸エステル化合物又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0042】
鎖状炭酸エステル化合物の実例は、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、エチルメチルカーボネート(MEC)及びそれらの組み合わせである。前記環状炭酸エステル化合物の実例は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)又はそれらの組み合わせである。前記フルオロ炭酸エステル化合物の実例は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、1,2-ジフルオロエチレンカーボネート、1,1-ジフルオロエチレンカーボネート、1,1,2-トリフルオロエチレンカーボネート、1,1,2,2-テトラフルオロエチレンカーボネート、1-フルオロ-2-メチルエチレンカーボネート、1-フルオロ-1-メチルエチレンカーボネート、1,2-ジフルオロ-1-メチルエチレンカーボネート、1,1,2-トリフルオロ-2-メチルエチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート又はそれらの組み合わせである。
【0043】
カルボン酸エステル化合物の実例は、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、デカノリド、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトン、ギ酸メチル又はそれらの組み合わせである。
【0044】
エーテル化合物の実例は、ジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン又はそれらの組み合わせである。
【0045】
他の有機溶媒の実例は、ジメチルスルホキシド、1,2-ジオキソラン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドン、ホルムアミド、ジメチルメチルアミド、アセトニトリル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル、及びリン酸エステル又はそれらの組み合わせである。
【0046】
本発明の実施例はさらに上記の電気化学装置を含む電子装置を提供する。本発明の実施例の電気化学装置は特に限定されなく、先行技術で既知の任意の電子装置に使用してもよい。いくつかの実施例において、本願の電気化学デバイスは、ノートコンピューター、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニディスク、トランシーバー、電子ノートブック、電卓、メモリーカード、ポータブルテープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、補助自転車、自転車、照明器具、おもちゃ、ゲーム機、時計、電動工具、閃光灯、カメラ、大型家庭用ストレージバッテリー、及びリチウムイオンコンデンサーなどを含むが、これらに限定されない。
【0047】
本発明のいくつかの実施例はさらに、上記の実施例における正極材料を調製に用いる正極材料の調製方法を提供し、当該調製方法は以下のステップを含む。
【0048】
(1)LixNazCo1-yMyO2を調製し、ここで、0.6<x<0.95、0≦y<0.15、0≦z<0.05、MはAl、Mg、Ti、Mn、Fe、Ni、Zn、Cu、Nb、Cr及びZrからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0049】
(2)液相析出法及び焼結法で異なる粒子径を有するM1元素がドープされた(Co1-y1M1
y1)3O4及びM2元素がドープされた(Co1-y2M2
y2)3O4前駆体を調製する:可溶性コバルト塩(例えば、塩化コバルト、酢酸コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト等)及びM塩(例えば、硫酸塩等)をCoとMとのモル比が(1-y1):y1及び(1-y2):y2の割合で溶媒(例えば、脱イオン水)に入れ、0.1mol/L~3mol/Lの濃度で沈殿剤(例えば、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム)及び錯化剤(例えば、アンモニア水溶液)を入れ、錯化剤と沈殿剤とのモル比は0.1~1であり、pH値を調整し(例えば、pH値を5~9に調整する)、沈殿させる。そして、沈殿物を空気で400℃~800℃で5h~20h焼結し、焼結生成物を研磨し、異なる粒子径を有するM1元素がドープされた(Co1-y1M1
y1)3O4及びM2元素がドープされた(Co1-y2M2
y2)3O4前駆体が得られる。M1はAl、Mg、Ti、Zr、La、Ca、Ge、Nb、Sn及びYのうちの少なくとも一種を含み、M2はNi、Mn、Zn及びFeのうちの少なくとも一種を含む。
【0050】
(3)固相焼結法でNamCo1-yMyO2を合成する:前駆体として、M1元素がドープされた(Co1-y1M1
y1)3O4及びM2元素がドープされた(Co1-y2M2
y2)3O4を使用する。粉体及びNa2CO3粉体をNaとCoとのモル比が0.7:1~最大0.74:1の割合で混合する。均一になるまで混合した粉体を酸素ガス雰囲気で、700℃~1000℃の条件下で36h~56h焼結し、P63mc構造のNamCo1-y1M1
y1O2及びNamCo1-y2M2
y2O2が得られ、ここで、0.6<m<1である。
【0051】
(4)イオン交換法でP63mc構造のLixNazCo1-yMyO2正極材料を合成する:NamCo1-y1M1
y1O2又はNamCo1-y2M2
y2O2、及びリチウム含有溶融塩(例えば、硝酸リチウム、塩化リチウム、水酸化リチウム等)を、NaとLiとのモル比が0.01~0.2の割合で均一になるまで混合し、200℃~400℃、空気雰囲気で2h~8h反応させ、生成物を脱イオン水で数回洗浄し、溶融塩を除去した後、粉体を乾燥させ、P63mc構造のLixNazCo1-y1M1
y1O2が得られ、ここで、0.6<x<0.95、0≦y1<0.15、0≦z<0.05であり、第2粒子は、LixNazCo1-y2M2
y2O2を含み、ここで、0.6<x<0.95、0≦y2<0.15、0≦z<0.05である。
【0052】
(5)LixNazCo1-y1M1
y1O2とLixNazCo1-y2M2
y2O2とを一定の割合で混合し、ここで、LixNazCo1-y2M2
y2O2の数はLixNazCo1-y1M1
y1O2より少ない。
【0053】
以下では、本発明をさらに詳しく説明するために、いくつかの実施例及び比較例を挙げ、ここで、リチウムイオン電池を例とした。
【0054】
正極片の調製:正極材料、導電剤である導電性カーボンブラック、バインダーであるポリフッ化ビニリデンを重量比97:1.4:1.6の割合でN-メチルピロリドン(NMP)溶液に溶解させ、正極スラリーを形成した。アルミニウム箔を正極集電体とし、正極スラリーを正極集電体に塗布し、塗布重量は17.2mg/cm2であり、乾燥、冷間圧延、カッティングを経て、正極片が得られた。
【0055】
負極片の調製:負極材料は人造黒鉛であった。負極材料、アクリル樹脂、導電性カーボンブラック及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを重量比94.8:4.0:0.2:1.0の割合で脱イオン水に溶解させ、負極活物質層スラリーを形成し、ここで、ケイ素の重量百分率は10%であった。厚さ10μmの銅箔を負極集電体とし、負極スラリーを負極集電体上に塗布し、塗布重量は6.27mg/cm2であり、負極片の含水量が300ppm以下になるまで乾燥させ、負極活物質層が得られた。カッティングして負極片が得られた。
【0056】
セパレータの調製:セパレータ基材は厚さ8μmのポリエチレン(PE)であり、セパレータ基材の両側にそれぞれ2μmの酸化アルミニウムセラミック層を塗布し、最後に塗布されたセラミック層の両側にそれぞれバインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)2.5mgを塗布し、乾燥させた。
【0057】
電解液の調製:含水量が10ppm未満の環境で、ヘキサフルオロリン酸リチウムと非水有機溶媒(重量比で、エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC):プロピレンカーボネート(PC):プロピオン酸プロピル(PP):ビニレンカーボネート(VC)=20:30:20:28:2)とを重量比8:92で配合し、電解液を形成した。
【0058】
リチウムイオン電池の調製:セパレータが正極片と負極片との間で隔離の作用を果たすように、正極片、セパレータ、負極片をこの順で重ね、巻取り、電極組立体を得た。電極組立体を外装であるアルミプラスチックフィルムに置き、80℃で水分を除去した後に、上記の電解液を注ぎ、パッケージし、フォーメーション(formation)、脱気、トリミングなどのプロセスフローを経て、リチウムイオン電池が得られた。
【0059】
実施例と比較例のリチウムイオン電池の調製ステップが同様であり、各実施例と比較例の区別は用いられた正極材料が違うのみにあり、具体的に採用された正極材料は以下の表1~表8に示されたとおりである。
【0060】
以下では本発明の各パラメータの測定方法を説明する。
【0061】
粒子体積分布測定:
適量の粉体を超音波で分散させ、分散物をレーザー粒度測定装置(Mastersizer 3000)に入れて測定し、測定方法は粒度分布レーザー回折法GB/T19077-2016を参照し、1、測定範囲は0.02μm~2000μm(MS2000)、0.01μm~3500μm(MS3000)であり、2、検出限界は20nmであった。最後に、粉体の体積分布曲線を得た。なお、本発明における平均粒子径とは、1つのサンプルが体積基準の粒度分布において、累積粒度分布百分率が50%になる時に対応する粒子径を指す。
【0062】
容量維持率測定:
25℃の環境で、1回目の充電と放電を行い、0.5C(即ち、2h内で理論容量を完全に放電する電流値)の充電電流で上限電圧が4.8Vになるまで定電流充電し、そして、0.5Cの放電電流で最終電圧が3Vになるまで定電流放電し、初回サイクルの放電容量(初回放電容量)を記録し、続けて100回目の充電と放電サイクルまで実施し、100サイクル目の放電容量を記録した。以下の公式により、得られたリチウムイオン電池の100サイクル目の容量維持率を計算した。
【0063】
100サイクル容量維持率=100サイクル目の放電容量/初回サイクルの放電容量×100%。
【0064】
穴及び隙間測定:
イオンミリング機(日本電子-IB-09010CP)により、正極材料を加工し、断面を得た。走査型電子顕微鏡でその断面を撮影し、撮影倍率は5.0K以上であり、粒子画像が得られ、断面画像で穴及び隙間が見られ、粒子断面画像において、周りの色と異なる閉鎖領域は穴及び隙間であった。
【0065】
穴を選択する際の要件:カウント要件を満たす穴は、単独の粒子において、粒子の最長軸に対して、閉鎖領域の最長軸の比が2%~10%の間にあり、且つ閉鎖領域の最長軸と最短軸の差が0.5マイクロメートル未満であるものである。
【0066】
隙間を選択する際の要件:カウント要件を満たす隙間は、単独の粒子において、粒子の最長軸に対して、閉鎖領域の最長軸の比が70%以上である。
【0067】
長短軸の選択方法:閉鎖曲線のいずれの二点を接続し、距離が最も長いものを最長軸とし、距離が最も短いものを最短軸とした。
【0068】
閉鎖領域とは、図形において、閉曲線で囲まれた領域であって、閉鎖領域の内部のいずれの一点と領域外のいずれの一点と結んだ線分は領域の境界と交差する。
【0069】
元素組成の測定:
正極材料の粉体について、iCAP7000 ICP測定装置で元素組成測定を行った。
【0070】
正極材料を載せた極片に対して、NMPで極片を溶解させ、ろ過し、粉体を乾燥させ、iCAP7000 ICP測定装置で元素組成測定を行った。
【0071】
X線回折測定:Bruker D8 ADVANCEで正極材料のXRD回折パターンを取得した。粉体が取れない場合、正極片に対して、NMPで極片を溶解させ、ろ過し、粉体を乾燥させ、XRDで粉体を測定した。
【0072】
比表面積(BET)測定方法:測定装置:BSD-BET400であり、測定過程:サンプルをN2に満ちたガスシステムに入れて、材料の表面が液体窒素の温度で物理的に吸着した。その物理吸着が平衡状態にあるとき、平衡状態での吸着圧力と吸着ガスの流量を測定することで、材料の単分子層吸着量を計算でき、それによってサンプルの比表面積を計算した。
【0073】
圧縮密度測定:リチウムイオン電池を0SOC%(SOC:State Of Charge、充電状態)まで放電し、電池を分解して、洗浄し、乾燥させ、電子天秤を使用して一定の面積Aを有する正極片(正極集電体の両面に正極活物質材料層が塗布された)を秤量し、その重量をW1とし、そして、万分の一のマイクロ-メーターを使用して、正極の厚さT1を測定した。溶媒で正極活物質層を洗い落とし、乾燥させ、正極集電体の重量を測定し、W2とし、そして、万分の一のマイクロ-メーターを使用して、正極集電体の厚さT2を測定した。以下の式より、正極集電体の片方に配置された正極活物質層の重量W0及び厚さT0、並びに正極活物質層の圧縮密度を計算した:
W0=(W1-W2)/2
T0=(T1-T2)/2
圧縮密度=W0/(T0×A)。
【0074】
【0075】
表1より、実施例1-1~実施例1-17における初回放電容量及びサイクル容量の総合性能は比較例1-1~比較例1-8より優れたことが分かる。これより、正極材料にP63mc結晶相構造のLia1Nac1Co1-b1M1
b1O2及びLia2Nac2Co1-b2M2
b2O2が同時に含まれ、且つLia1Nac1Co1-b1M1
b1O2及びLia2Nac2Co1-b2M2
b2O2の粒子のサイズが異なる場合、初回放電容量及びサイクル容量を高めることができることが分かる。そのため、本発明のいくつかの実施例において、正極材料にP63mc結晶相構造を有する粒子が含まれ、且つ正極材料の粒度分布曲線図に第1ピーク及び第2ピークが含まれることを限定している。
【0076】
実施例1-1~実施例1-17と比較例1-9及び比較例1-10とを比較すると、第1粒子のサイズが3μm~12μmの範囲内にあり、第2粒子のサイズが15μm~30μmの範囲内にある場合、リチウムイオン電池の初回放電容量が239mAh/g以上であり、且つ100サイクル容量維持率が88%以上であることに対して、第1粒子のサイズが13μm以上であり、第2粒子のサイズが32μm以上である場合、初回放電容量及びサイクル容量維持率が低下することが分かる。従って、いくつかの実施例において、第1粒子の平均粒子径が3μm~12μmであり、第2粒子の平均粒子径が15μm~30μmであることを限定している。
【0077】
実施例1-1~実施例1-17を比較すると、実施例1-1はM1又はM2でドープしておらず、一方、実施例1-2~実施例1-17はいずれもドープしており、実施例1-2~実施例1-17における初回放電容量及び100サイクル容量維持率はいずれも実施例1-1より優れていることが分かる。そのため、本発明のいくつかの実施例において、正極材料はM1又はM2を有している。
【0078】
実施例1-18~実施例1-19より、実施例1-18ではZnで、実施例1-19ではAlでドープしており、化学組成が同様の大きな粒子及び小さな粒子が同時に存在しているため、実施例1-18~実施例1-19における初回放電容量及び100サイクル容量維持率はいずれも実施例1-1より優れていることが分かる。そのため、本発明のいくつかの実施例において、正極材料の粒度分布曲線図に第1ピーク及び第2ピークが含まれている。
【0079】
表2に示された実施例及び比較例において、使用された正極材料はいずれもLixNazCo1-yMyO2であり、表2における各実施例及び比較例における正極材料の結晶相構造はいずれもP63mcであった。
【0080】
【0081】
実施例2-1及び比較例2-1~比較例2-3を比較すると、正極材料に穴及び隙間がない比較例2-3に対して、正極材料が穴及び隙間の一方を有する場合、初回放電容量及び100サイクル容量維持率を高めることができ、正極材料が穴及び隙間を同時に有する場合、リチウムイオン電池がより高い初回放電容量及び100サイクル容量維持率を有することが分かる。そのため、本発明のいくつかの実施例において、正極材料の粒子の内部に穴及び隙間があることを限定している。
【0082】
表3に示された実施例及び比較例において、使用された正極材料はいずれもLixNazCo1-yMyO2であり、表3における各実施例及び比較例における正極材料の結晶相構造はいずれもP63mcであった。
【0083】
【0084】
実施例3-1、実施例3-2、比較例3-1及び比較例3-2を比較すると、正極材料の比表面積が2m2/gを超える場合、リチウムイオン電池の初回放電容量が小さく、且つ100サイクル容量維持率が低く、正極材料の比表面積が2m2/g以下の場合、リチウムイオン電池の初回放電容量が高く、且つ100サイクル容量維持率が良好であることが分かる。そのため、本発明のいくつかの実施例において、正極材料の比表面積が0.1m2/g~2m2/gであることを限定している。
【0085】
表4に示された実施例及び比較例において、使用された正極材料はいずれもLixNazCo1-yMyO2であり、表4における各実施例及び比較例における正極材料の結晶相構造はいずれもP63mcであった。表4におけるメインピーク範囲とは、正極材料のX線回折パターンにおける強度が最も強い回折ピークの回折角を指し、表4における半値全幅とはメインピークの回折ピークの半値全幅を指す。
【0086】
【0087】
実施例4-1、実施例4-2、比較例4-1及び比較例4-2を比較すると、メインピーク範囲が18°~19°にある場合、半値全幅が0.5°を超える場合と比べて、半値全幅が0°~0.5°の範囲内にある場合、リチウムイオン電池の初回放電容量及び100サイクル容量維持率はいずれも高く、正極材料のX線回折パターンにおいて、強度が最も強い回折ピークの回折角は18°~19°の範囲にあり、強度が最も強い回折ピークの半値全幅は0°~0.5°の範囲内にある。
【0088】
表5に示された実施例及び比較例において、使用された正極材料はいずれもLixNazCo1-yMyO2であり、表5における各実施例及び比較例における正極材料の結晶相構造はいずれもP63mcであった。
【0089】
【0090】
実施例5-1~実施例5-6、並びに比較例5-1及び比較例5-2を比較すると、実施例5-1~実施例5-6の初回放電容量及び100サイクル容量維持率はいずれも比較例5-1及び比較例5-2より高いことが分かる。そのため、正極活物質層の圧縮密度が3g/cm3~4.35g/cm3である場合、リチウムイオン電池の放電特性及びサイクル特性を向上させるのに有利である。
【0091】
【0092】
実施例7-1~実施例7-8、並びに比較例7-1及び比較例7-2を比較すると、リチウムイオン電池の電解液に2~3個のシアノ基を有する化合物を入れ、そして2~3個のシアノ基を有する化合物の質量含有量を0.01wt%~15wt%の範囲内に制御する場合、リチウムイオン電池の初回放電容量及び100サイクル容量維持率を向上させることができる。
【0093】
以上の記載は、本発明の好ましい実施例及び適用された技術原理の説明にすぎない。当業者に理解すべきことは、本発明に含まれた開示の範囲は、上記の技術的特徴の特定の組み合わせからなる技術案に限定されず、上記の技術的特徴又はそれと同等の特徴の任意の組み合わせからなる他の技術案も含まれる。例えば、上記の特徴と本発明に開示された類似した機能を有する技術的特徴とを互いに変更してなる技術案である。