(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】結晶化速度が向上された高分子組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 71/08 20060101AFI20240806BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20240806BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20240806BHJP
C08K 7/28 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C08L71/08
C08K3/00
C08K7/04
C08K7/28
(21)【出願番号】P 2022525542
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 KR2020008656
(87)【国際公開番号】W WO2021085797
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】10-2019-0137952
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520161344
【氏名又は名称】ハンファ ソリューションズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】カン、ハナ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジョン ミン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ミョン チョル
(72)【発明者】
【氏名】チョ、シン ジェ
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/087438(WO,A1)
【文献】特表2009-529079(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0043656(US,A1)
【文献】特開平01-252657(JP,A)
【文献】特開昭56-115357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)に液晶ポリマー(LCP、Liquid crystal polymer)、無機核剤、強化剤、及び充填剤を含み、
前記無機核剤は、シリカ、滑石、粘土、アルミナ、マイカ、ジルコニア、チタニア、錫酸化物、錫インジウム酸化物、アンチモン錫酸化物、炭酸カルシウム、カオリン(Kaolin)、グラファイト(Graphite)、ウォラストコート(Wollastocoat)、ウォラストナイト(Wollastonite)、ドロマイト(Dolomite)、ボーキサイト(Bauxite)、及びゼオライトからなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を含み、
前記強化剤は、炭素繊維(carbon fiber)、ガラス繊維(glass fiber)、セラミック繊維、ホウ素繊維、ガラスビード(glass bead)、及びガラスバブル(glass bubble)からなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を含み、
前記充填剤は
、炭素ナノチューブ、
及びガラス中空フィラ
ーからなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を含
み、
前記ポリアリールエーテルケトン(PAEK)及び液晶ポリマー(LCP)の重量比が95乃至50:5乃至50であり、
前記高分子組成物100重量部を基準に、無機核剤は0.1乃至10重量部、強化剤は1乃至15重量部、及び充填剤は1乃至20重量部を含む
ことを特徴とする高分子組成物。
【請求項2】
前記ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)である
請求項1に記載の高分子組成物。
【請求項3】
前記液晶ポリマー(LCP)は、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルカーボネート、及び液晶ポリアミドからなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を含む
請求項1に記載の高分子組成物。
【請求項4】
有機核剤、ポリマー型核剤、有機錫化合物、有機チタン化合物、カルボン酸のアルカリ、アルカリ土類金属塩、及び無機酸塩類からなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を更に含む
請求項1に記載の高分子組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の高分子組成物を含んで製造される
ことを特徴とする部品素材。
【請求項6】
前記部品素材は、車両用素材、電子機器用素材、産業用素材、建築土木用素材、3Dプリンター用素材、繊維用素材、被覆素材、工作機械用素材、医療用素材、航空用素材、太陽光素材、電池用素材、スポーツ用素材、家電用素材、家庭用素材、及び化粧品用素材からなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上である
請求項5に記載の部品素材。
【請求項7】
請求項1に記載の高分子組成物の製造方法であって、
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)に液晶ポリマー(LCP)、無機核剤、強化剤、及び充填剤を含み混合手段を利用して混合した後、混錬圧出手段によって混錬圧出する
ことを特徴とする高分子組成物の製造方法。
【請求項8】
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)及び液晶ポリマー(LCP)の重量比が95乃至50:5乃至50である
請求項7に記載の高分子組成物の製造方法。
【請求項9】
前記ポリアリールエーテルケトン(PAEK)はポリエーテルケトンケトン(PEKK)である
請求項7に記載の高分子組成物の製造方法。
【請求項10】
前記混合手段は、リボンブレンダー(Ribbon Blender)、V型ブレンダ、及びヘンシェルミキサー(Henchel Mixer)から選択される少なくともいずれか一つ以上である
請求項7に記載の高分子組成物の製造方法。
【請求項11】
前記混錬圧出手段は、圧出器、ブラベンダープラスチコーダー(Brabender Plsaticorder)、ミキシングロール(Mixing Roll)、及びニーダー(Kneader)から選択される少なくともいずれか一つである
請求項7に記載の高分子組成物の製造方法。
【請求項12】
前記混合は、常温で100乃至3,000rpmで1分乃至10分間回転撹拌して行われる
請求項7に記載の高分子組成物の製造方法。
【請求項13】
前記混錬圧出は、200℃乃至400℃でスクリューのrpmは50乃至500で行われる
請求項7に記載の高分子組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、著しく増加された結晶化速度を有する新たなポリアリールエーテルケトン(PAEK)高分子組成物であって、好ましくは、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)高分子を含む組成物に関する。特に、PEKK樹脂にLCP(Liquid crystal polymer)を含んで結晶核形成を促し、PEKK高分子組成物の結晶化速度を著しく向上させることを提供する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリールケトンケトンは既に公知の産業用樹脂の総称類を意味し、種類としてはポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、及びポリエーテルケトンとポリエーテルケトンケトンの一部が混合された共重合体などがある。
【0003】
そのうち、ポリアリールケトンケトンは高い耐熱性を有しながら機械的強度にも優れ、自動車、宇宙航空、エネルギー、電気電子分野で多様に使用されている超高性能プラスチックである。
【0004】
また、多様なポリアリールケトンケトン(PAEK)系高分子のうちでも下記化学式で表されるポリエーテルケトンケトン(PEKK)は特に耐熱性が高く強度が優秀なため、エンジニアリングプラスチックとして多く利用されている。エンジニアリングプラスチックは自動車、航空機、電気電子機構、機械などの分野で使用されており、その適用領域は次第に拡大しつつある実情である。
【0005】
【0006】
エンジニアリングプラスチックの適用領域が拡大されるにつれ、その使用環境は次第に苛酷になって、より改善された物性を示すポリエーテルケトンケトン化合物に対する必要性が存在する。しかし、ポリエーテルケトンケトンの場合、イソフタロイル部分構造の影響のため低い結晶化速度を示す傾向がある。そのため成形時間が増加して加工の際に難しさがあるという問題点があり、そこで物性を向上させるための研究が現在盛んにおこなわれている。
【0007】
例えば、特許文献1は改善された特性を有するポリエーテルケトンケトンに基づく組成物であって、テレフタル及びイソフタル単位の割合を調整することで樹脂組成物の結晶化速度を調節することができるということを開示しているが、特に、特定の組成比を利用して結晶化速度を調節しながら降伏点及び延伸率を最適に誘導することをその技術的特徴とする。
【0008】
また、特許文献2はひげ結晶を含むポリエーテルケトンケトン複合材料であって、ポリエーテルケトンケトン樹脂にフルオロ化、無機ひげ結晶、カップリング剤などを含むことでポリエーテルケトンケトン樹脂自体の固有特性を維持しながらも優れた耐高温性、難燃性などの物性を向上させ、更には部品のせん断強度及び衝撃強度を向上させて、耐摩耗性を増加させるなどのことを開示している。様々な物性を向上させることを開示しているが、結晶化速度を向上させることに対する言及がないことに多少の限界がある。
【0009】
最後に、特許文献3は高分子、滑石、及びその誘導体などを含む発砲組成物に関する技術であって、高分子の種類としてポリエーテルケトンケトンと液晶ポリマーを含むことができるということを開示して、絶縁性を確保することを開示している。但し、特許文献3にも結晶化速度の向上に関する言及が外ことに多少の限界がある。
【0010】
前記のようにポリエーテルケトンケトンの物性を向上させるための多様な方法が開発されているが、依然として結晶化速度を向上させるためのポリアリールエーテルケトン(PAEK)またはポリエーテルケトンケトン(PEKK)などの高分子に関する技術の開発が切実に必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】韓国登録特許 第10-1855054号(2017.06.08)
【文献】中国登録特許 第10-7880522号(2018.04.06)
【文献】米国登録特許 第10-32542号(2016.05.12)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した問題点を全て解決することを目的とする。
本発明の目的は、結晶化速度が向上されたポリアリールエーテルケトン(PAEK)を提供することであり、好ましくは、結晶化速度が向上されたポリエーテルケトンケトン(PEKK)高分子組成物を提供することである。
【0013】
本発目の目的は、結晶化速度が向上された高分子組成物を提供して、成形加工性が向上され、更には製品の生産性、外形、寸法安定性などを改善することである。
【0014】
併せて、結晶化度を向上させて高分子組成物の機械的物性及び耐熱性を向上させることを目的とする。
【0015】
よって、前記高分子組成物の射出成形性及び圧出半加工(棒材、板材)成形性が向上されて、該当加工分野への適用を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した本発明の目的を達成し、後述する本発明の特徴的な効果を実現するための、本発明の特徴的な構成は下記のようである。
【0017】
本発明によると、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)に液晶ポリマー(LCP)、無機核剤、強化剤、及び充填剤を含むことを特徴とする高分子組成物が提供される。
【0018】
この場合、前記ポリアリールエーテルケトン(PAEK)及び液晶ポリマー(LCP)は重量比が95乃至50:5乃至50であることを特徴とする高分子組成物が提供される。この場合、前記ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、好ましくはポリエーテルケトンケトン(PEKK)が提供される。
【0019】
本発明による前記液晶ポリマー(LCP)は、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルカーボネート、及び液晶ポリアミドからなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を含む。
【0020】
本発明による前記無機核剤は、シリカ、滑石、粘度、アルミナ、マイカ、ジルコニア、チタニア、錫酸化物、錫インジウム酸化物、アンチモン錫酸化物、炭酸カルシウム、カオリン(Kaolin)、グラファイト(Graphite)、ウォラストコート(Wollastocoat)、ウォラストナイト(Wollastonite)、ドロマイト(Dolomite)、ボーキサイト(Bauxite)、及びゼオライトからなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を含む。
【0021】
本発明による前記強化剤は、炭素繊維(carbon fiber)、ガラス繊維(glass fiber)、セラミック繊維、ホウ素繊維、ガラスビード(glass bead)、及びガラスバブル(glass bubble)からなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を含む。
【0022】
本発明による前記充填剤は、炭素フィラー、炭素ナノチューブ、アルミナ中空フィラー、シリカ中空フィラー、ガラス中空フィラー、ウォラストナイト、ウォラストコートからなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を含む。
【0023】
また、本発明による高分子組成物は、必要に応じて有機核剤、ポリマー型核剤、有機錫化合物、有機チタン化合物、カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩、無機酸塩類からなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を含む。
【0024】
本発明による前記高分子組成物は、重量平均分子量が30,000乃至80,000であることを特徴とする。
【0025】
一方、本発明によるポリアリールエーテルケトン(PAEK)に液晶ポリマー(LCP)、無機核剤、強化剤、及び充填剤を含み混合手段を利用して混合した後、混錬圧出手段によって混錬圧出することを特徴とする高分子組成物の製造方法が提供される。
【0026】
この場合、前記ポリアリールエーテルケトン(PAEK)及び液晶ポリマー(LCP)は、好ましくは、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)及びLCPの重量比が95乃至50:5乃至50であることを特徴とする。
【0027】
本発明による前記混合手段の一実施例は、リボンブレンダー(Ribbon Blender)、V型ブレンダ、及びヘンシェルミキサー(Henchel Mixer)から選択される少なくともいずれか一つであるが、これに限らない。
【0028】
また、混錬圧出手段は、圧出器、ブラベンダープラスチコーダー(Brabender Plsaticorder)、ミキシングロール(Mixing Roll)、及びニーダー(Kneader)から選択される少なくともいずれか一つであるが、これに限らない。
【0029】
前記混合は常温で100乃至3,000rpmで1分乃至10分間回転撹拌して行われることを特徴とし、前記混錬圧出は250℃乃至400℃でスクリューのrpmを50乃至500で行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、結晶化速度が向上されたポリアリールエーテルケトン(PAEK)を提供することであり、好ましくは、結晶化速度が向上されたポリエーテルケトンケトン(PEKK)高分子組成物を提供する効果がある。
【0031】
よって、結晶化速度が向上された高分子組成物を提供して、成形加工性が向上され、更には製品の生産性、外形、寸法安定性などを改善する効果を提供する。
【0032】
併せて、結晶化度の増加によって高分子組成物の機械的物性及び耐熱性が向上される効果を提供する。
【0033】
最後に、前記高分子組成物の射出成形性及び圧出半加工(棒材、板材)成形性が向上されて、該当加工分野への適用を容易にする効果を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施例1によって製造された高分子組成物の時間による結晶化度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
後述する本発明に関する詳細な説明は、本発明が実施され得る特定の実施例を例示として示す添付図面を参照する。これらの実施例は、当業者が本発明を十分に実施し得るように詳細に説明される。本発明の多様な実施例は、互いに異なるが相互排他的な必要はない。例えば、ここに記載されている特定の形状、構造、及び特性は、一実施例に関して本発明の精神及び範囲を逸脱しないながらも他の実施例として具現されてもよい。また、それぞれの開示された実施例内の個別の構成要素の位置または配置は、本発明の精神及び範囲を逸脱しないながらも変更され得る。よって、後述する詳細な説明は限定的な意味で取られるものではなく、本発明の範囲は、適切に説明されるのであれば、その請求項が主張するものと均等な全ての範囲と共に添付した請求項によってのみ限定られる。図面において、類似した参照符号は多様な側面にわたって同じであるか類似した機能を指す。
以下、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を容易に実施し得るようにするために、本発明の好ましい実施例について添付した図面を参照して詳細に説明する。
【0036】
本発明では、結晶化速度が向上された高分子組成物及びその製造方法を提供する。結晶化速度が向上された高分子はポリアリールケトン(PAEK)を含む、好ましくは、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を含む。
【0037】
本発明は、特に結晶化速度を促すために液晶ポリマー(LCP)を含み、更には有機・無機核剤、ポリマー型核剤などを更に含むことで結晶核を促す方式を採択する。
【0038】
本発明によるポリアリールエーテルケトン(PAEK)に液晶ポリマー(LCP)、無機核剤、強化剤、及び充填剤を含むことを特徴とする高分子組成物が提供される。
【0039】
特に、前記ポリアリールエーテルケトンケトン(PAEK)は、好ましくはポリエーテルケトンケトン(PEKK)として提供される。
【0040】
ポリエーテルケトンケトンは、下記化学構造1で表されるテレフタロイルと下記化学構造2で表されるイソフタロイルが連鎖的に重合されて生成される高分子であって、その割合によって特性が決定される。テレフタロイル部分構造は直線形で硬い硬性を示し、ここにイソフタロイル部分構造がその曲がった構造のため構造的多様性を与えるが、イソフタロイルは高分子鎖の柔軟性、流動性、及び結晶化特性に影響を及ぼす。
【0041】
【0042】
【0043】
特に、イソフタロイル部分構造の場合は柔軟性及び流動性を増加させる一方で低い結晶化速度を示すが、それによって加工の際に成形時間が増加するという問題がある。
【0044】
よって、このような問題点を解決するために、本発明は、結晶化速度を向上させるために、LCP高分子を含み、有機・無機核剤を含むことで、結晶核の形成を促す方式を提供する。
【0045】
液晶ポリマーであるLCPは、光学異方性溶融相を形成する性質を有する溶融加工性ポリマーを意味する。溶融液体結晶性及び硬い分子骨格を有することで、加工の際、溶融される際に液体結晶性を向上させ、伸長せん断などで分子鎖が配向される特性を有する。併せて、優れた流動性を有し、機械的物性も向上された成形品を提供することができる。つまり、LCPを含む樹脂の場合、成形の際に優れた流動性と共に硬い分子骨格による耐薬品性、耐熱性、高強度、及び優れた寸法安定性などを提供することができるため、高機能のエンジニアリングプラスチック樹脂として有用な長所がある。
【0046】
本発明による液晶ポリマー(LCP)は、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルカーボネート、及び液晶ポリアミドを含むが、これに限らない。液晶性樹脂の種類としては特に限らないが、好ましくは液晶ポリエステル及び液晶ポリエステルアミドが提供され、より好ましくは、液晶芳香族ポリエステルまたは液晶芳香族ポリエステルアミドであるものが提供されれば耐熱性及び機械的物性で有利である。
【0047】
但し、液晶ポリマーは垂直及び水平に対する収縮率の差である異方性を有する特性のため、充填剤、強化剤などを含むことで補完することが好ましい。よって、本発明は溶融液体結晶性を有する液晶ポリマーであるLCP高分子を含むことでポリエーテルケトンケトン高分子組成物の結晶化速度を著しく増加させることができ、それによって射出加工性の向上を提供する。
【0048】
より詳しくは、前記ポリアリールエーテルケトン(PAEK)及び液晶ポリマー(LCP)は、好ましくは、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)及び液晶ポリマー(LCP)の重量比が95乃至50:5乃至50であることを特徴とする。LCPの割合が5以下であるがLCPの割合が50を超過すれば、結晶化速度が減少するかPAEKの固有物性が低下するという問題があるため、前記範囲が最も好ましい。
【0049】
つまり、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)はLCPの高分子組成物を含むことで、ポリエーテルケトンケトンのイソフタロイル部分構造の影響のため低い結晶化速度を有するという問題点を向上させ、結晶化度を上げながら結晶化速度を向上させて、射出成形工程で全体のサイクルタイムを減らすことができる。更には有機・無機核剤、ポリマー型核剤を含み結晶核の形成を促すことで、更に結晶化度を向上させることができるが、これは結局全体工程のサイクルタイムを短縮させて、他の汎用樹脂に比べ競争力を有するようにすることができる。
【0050】
本発明による無機核剤は、シリカ、滑石、粘度、アルミナ、マイカ、ジルコニア、チタニア、錫酸化物、錫インジウム酸化物、アンチモン錫酸化物、炭酸カルシウム、カオリン、グラファイト、ウォラストコート、ウォラストナイト、ドロマイト、ボーキサイト、及びゼオライトからなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を含む。前記無機核剤は重量平均大きさとして直径である1μm以上の無機粒子を意味し、好ましくは2μm乃至10μm以下を提供する。高分子組成物全体の総重量部を基準に0.1乃至10重量部を含むものを提供し、好ましくは1乃至5重量部を含むものが提供される。前記範囲の場合、結晶核形成の促進及び経済的コストを考慮する際、目的とする効果を最も好ましく提供することができる。
【0051】
本発明による前記強化剤は、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ホウ素繊維、ガラスビード、及びガラスバブルからなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を含む。前記強化剤は、高分子組成物全体の総重量部を基準に1重量部乃至15重量部を含むものを提供し、好ましくは5乃至10重量部が提供される。強化剤が前記範囲を逸脱すれば加工上困難であるだけでなく、高分子と強化剤の界面接着力を落として逆に機械的物性を低下させることもあるため、前記範囲が好ましい。
【0052】
本発明による前記充填剤は、炭素フィラー、炭素ナノチューブ、アルミナ中空フィラー、シリカ中空フィラー、ガラス中空フィラー、ウォラストナイト、ウォラストコートからなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を含む。本発明で使用される充填剤は制限されないが、充填剤は他の高分子樹脂との接着力を上げるためにカップリング剤(coupling agent)を処理して使用してもよい。例えば、酸化ホウ素、酸化ナトリウム、酸化カルシウムなどを含むソーダライムホウケイ酸ガラス(soda-lime borosilicate glass)が使用されるが、単独で使用されてもよく、2種以上を使用してもよいが、これに限らない。また、充填剤は高分子組成物全体の総重量部を基準に1乃至20重量部を使用するが、好ましくは5乃至15重量部が提供される。5重量部未満であれば軽量化の効果が足りなくなり、15重量部を超過すればフィラー間の衝突による破砕のため強度向上及び成形の際に難しさがある。
【0053】
本発明による高分子組成物は、必要に応じて有機核剤、ポリマー型核剤、有機錫化合物、有機チタン化合物、カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩、及び無機酸塩類からなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を含む。
【0054】
前記有機核剤としては、モンタン酸ナトリウム、カルボン酸ナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、クロロ安息香酸ナトリウム、モノカルボン酸、カルボン酸塩、染料(pigment)、ステアル酸カルシウム、及び金属リン酸塩などからなる群より選択される少なくともいずれか一つ以上を含む。好ましくは、モンタン酸ナトリウムが提供されるが、これに限らない。また、前記有機核剤は高分子組成物全体の総重量部を基準に0.1乃至3重量部を含むが、前記範囲で機械的物性の低下なく、結晶核を形成して結晶化速度を向上させるのに役に立つ。
【0055】
前記ポリマー型核剤としては、エチレンアクリルエステル共重合体及びメタロセンポリエチレンワックスから選択される少なくともいずれか一つ以上を含む。ポリマー型核剤を含む場合、高分子組成物全体の総重量部を基準に0.1乃至3重量部を含むものを提供するが、この場合、核剤の役割で結晶核を形成して結晶化速度を向上させるのに役に立つ。
【0056】
前記有機スズ化合物としては、ジアルキルスズオキシド、ジアリールスズオキシドが提供されるが、ジアルキルスズオキシドとしてはジブチルスズオキシドが提供される。
【0057】
前記有機チタン化合物としては、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどが提供され、カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩は、例えば、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ナトリウムなどが提供される。前記無機酸塩類の場合は、例えば、硫酸カリウムが提供される。
【0058】
また、本発明による前記高分子組成物は、必要に応じて熱安定剤、紫外線安定剤、潤滑剤、離型剤、カップリング剤などを必要に応じて加えられてもよいが、これに限らない。
【0059】
本発明による前記高分子組成物は、重量平均分子量が30,000乃至80,000であることを特徴とする。また、これはGPC分析によって分子量を測定することができる。
【0060】
一方、本発明によるポリアリールエーテルケトン(PAEK)に液晶ポリマー(LCP)、無機核剤、強化剤、及び充填剤を含み混合手段を利用して混合した後、混錬圧出手段によって混錬圧出することを特徴とする高分子組成物の製造方法が提供される。
【0061】
この場合、前記ポリアリールエーテルケトン(PAEK)液晶ポリマー(LCP)は、好ましくは、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)及び液晶ポリマー(LCP)の重量比が95乃至50:5乃至50であることを特徴とする。LCPの割合が5以下であれば結晶化速度が減少するという問題がある。一方、LCPの割合が50を超過すれば結晶化速度が減少するかPAEKの固有物性が低下するという問題があるため、前記範囲が最も好ましい。
【0062】
本発明による前記混合手段の一実施例は、リボンブレンダー、V型ブレンダ、及びヘンシェルミキサーから選択される少なくともいずれか一つ以上であるが、これに限らない。
【0063】
前記混合手段を利用して高分子組成物が適切に予備混合された後、混錬圧出手段によって、混錬、溶融混錬などの工程で製造することができる。
【0064】
本発明による混錬圧出手段の一実施例は、圧出器、ブラベンダープラスチコーダー、ミキシングロール、及びニーダーから選択される少なくともいずれか一つであるが、これに限らない。
【0065】
前記高分子組成物を製造する工程で提供される混錬圧出手段は、好ましくは圧出器を使用してもよく、より好ましくは溶融圧出器を提供するが、溶融工程を投入されるにようになる各種原料物質に応じて工程条件を最適化して工程を行う。溶融工程における溶融温度は200乃至400℃が提供されるが、好ましくは310℃乃至380℃が提供される。この際、メルトフローレートは10乃至40程度、分析方法はMelt Indexで、単位はg/10minで提供される。
【0066】
また、前記圧出器の一実施例としては一軸、二軸、及び多軸圧出器が提供されるが、好ましくは二軸圧出器が提供され、この場合は混錬性が優秀な効果がある。
【0067】
前記混合は常温で1000乃至3,000rpmで1分乃至10分間回転撹拌して行われることを特徴とするが、前記範囲で回転撹拌が行われる場合、高分子組成物の樹脂分子がほぐれてよく絡み合って十分に混錬された高分子組成物を提供することができる。前記混錬圧出は250℃乃至400℃でスクリューのrpmを50乃至500で行われることを特徴とする。前記範囲で行われれば迅速に混錬圧出が起こり、高分子組成物が分解されないながらも、効果的な混錬圧出が行われる。
【0068】
前記高分子組成物の製造方法によって製造された結晶化速度が向上された高分子組成物の形状は特に限らないが、例えば、ペレット状、ストランド(strand)、シート状、平板状などが提供される。
【0069】
また、本発明による前記高分子組成物を含んで製造される部品素材が提供される。部品素材の一例としては、車両用素材、電子機器用素材、産業用素材、建築土木用素材、3Dプリンター用素材、繊維用素材、被覆素材、工作機械用素材、医療用素材、航空用素材、太陽光素材、電池用素材、スポーツ用素材、家電用素材、家庭用素材、及び化粧品用素材からなる群より選択される部品素材を提供する。但し、これは一例示であって、これに限らない。
【0070】
以下、本発明の好ましい実施例を介して本発明の構成及び作用をより詳しく説明する。但し、これは本発明の好ましい例示として提示されたものでであって、いかなる意味でもこれによって本発明が制限されない。
ここに記載されていない内容は、この技術分野で熟練した者であれば技術的に十分に類推できるものであるためその説明を省略する。
【0071】
<実施例>
実施例1
【0072】
Polymics社製K7500(ポリエーテルケトンケトンPEKK)95重量部、Polyplastic社製S475(LCP)5重量部を含む高分子組成物を、380℃でL/D=40/1の19mm二軸圧出器を利用して混合組成物を製造する。
【0073】
前記混合組成物に無機核剤3重量部、強化剤7重量部、充填剤10重量部などを追加に加えて高分子組成物をペレットに製造した。ペレットに製造されたサンプルは射出で分析試片を製作した。ISO527標準に符合する引張強度試片を製作して機械的物性試験を行った。ISO75-1/-2標準に符合する熱変形温度試片を製作して熱的物性試験を行った。
【0074】
実施例2
【0075】
Polymics社製K7500(ポリエーテルケトンケトンPEKK)90重量部、Polyplastic社製S475(LCP)10重量部を含むことを除いては実施例1と同じく行った。
【0076】
実施例3
【0077】
Polymics社製K7500(ポリエーテルケトンケトンPEKK)80重量部、Polyplastic社製S475(LCP)20重量部を含むことを除いては実施例1と同じく行った。
【0078】
実施例4
【0079】
Polymics社製K7500(ポリエーテルケトンケトンPEKK)50重量部、Polyplastic社製S475(LCP)50重量部を含むことを除いては実施例1と同じく行った。
【0080】
比較例1
【0081】
Polymics社で市販中のK7500(ポリエーテルケトンケトン、PEKK)純樹脂(Neat Resin)で高分子組成物を製造した。
【0082】
比較例2
【0083】
Polymics社で市販中のK7500(ポリエーテルケトンケトン、PEKK)10重量部、Polyplastic社製S475(LCP)90重量部を含むことを除いては比較例1と同じく行った。
【0084】
実験例1(結晶化速度)
【0085】
前記実施例及び比較例による高分子組成物をDSCを利用して結晶化度を測定し、それを
図1に示した。測定装備はPerkin Elmer社製DSC8000であるが、Perkin Elmer社製DSC8000はヒートフロー方式で、急激にクーリングするクエンチングが可能なため、急冷後一定温度で結晶生成過程を観察する等温結晶化(Isothermal Crystallization Kinetics)実験を行うのに適切である。
【0086】
実験例2(引張強度)UTM
【0087】
前記実施例及び比較例による高分子組成物をUTMを利用して引張強度を測定し、それを
図1に示した。測定装備はInstron社製5967(30kN)であり、試験方法ISO527によって5mm/min(23℃)で測定した。
【0088】
実験例3(熱変形温度)HDT
【0089】
前記実施例及び比較例による高分子組成物をHDTを利用して熱変形温度を測定し、それを
図1に示した。装備はInstron社製CEAST HV6であり、試験方法はISO75-1/-2により、温度範囲は常温乃至300℃で提供される。また、熱媒体としてはシリコンオイルが提供される。粘度は100cStで、試験方法Aは1.8Mpaの公称表面応力を使用する。
【0090】
【0091】
表1に示したように、本発明による高分子組成物である実施例の引張強度と熱変形温度を確認することができる。よって、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、好ましくはポリエーテルケトンケトンと液晶ポリマー(LCP)の含量によって機械的物性と熱的物性の差を示すことが分かる。
【0092】
また、
図1の結果として提示されたように、本発明による高分子組成物は結晶化度及び速度が向上されたことが分かる。特に、実施例は比較例に比べ結晶化速度が著しく向上されたことが分かる。
【0093】
よって、本発明による結晶化速度が向上された高分子組成物は著しく結晶化速度が向上されることで、成形加工性が向上され、併せて結晶化度が増加されることで高分子組成物の機械的物性及び耐熱性を向上させることが分かる。それによって、終局的に高分子組成物の射出成形性及び圧出半加工(棒材、板材)成形性が向上されて、該当加工分野への適用を容易にする効果を提供する。
【0094】
これまで本発明が具体的な構成要素などのような特定事項と限定された実施例及び図面によって説明されたが、これは本発明のより全般的な理解を助けるために提供されたものであって、本発明は前記実施例に限らず、本発明の属する技術分野における通常的な知識を有する者であれば、このような記載から多様な修正及び変形を図ることができる。
よって、本発明の思想は上述した実施例に限って決められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等にまたは等価的に変形された全てのものは本発明の思想の範疇に属するといえる。