(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】指令値補正装置及びロボットシステム
(51)【国際特許分類】
B25J 9/10 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
B25J9/10 A
(21)【出願番号】P 2022569956
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2021045662
(87)【国際公開番号】W WO2022131172
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2020208462
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】原田 邦彦
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-024142(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0100156(US,A1)
【文献】特開2020-168669(JP,A)
【文献】特開2010-231575(JP,A)
【文献】特開平09-123075(JP,A)
【文献】特表2010-529910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
G05D 3/12
G05B 19/18 - 19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多関節ロボットの先端部を位置決めする
ための指令値を補正する指令値補正装置であって、
前記多関節ロボットを弾性変形可能なモデルで表すロボットモデルを設定するロボットモデル設定部と、
前記多関節ロボットが固定される支持体を弾性変形可能なモデルで表す支持体モデルを設定する支持体モデル設定部と、
前記多関節ロボットの重量により前記支持体に作用する力を算出する力算出部と、
前記力算出部が算出した力による前記支持体モデルの支持体モデル弾性変形量を相殺するよう前記指令値を補正する補正部と、
前記先端部の実際の位置を取得する変形量取得部と、
前記先端部の実際の位置に基づいて前記ロボットモデル及び前記支持体モデルのパラメータを修正するモデル修正部と、
を備える、指令値補正装置。
【請求項2】
前記変形量取得部は、前記先端部の実際の位置に基づいて前記支持体の実際の弾性変形量である実際弾性変形量を
算出し、
モデル修正部は、前記変形量取得部が前記実際弾性変形量を
算出したときに前記多関節ロボットに入力した前記指令値に基づいて算出される前記支持体モデル弾性変形量を前記変形量取得部が取得した前記実際弾性変形量に近付けるよう、前記支持体モデルのパラメータを修正する、請求項1に記載の指令値補正装置。
【請求項3】
前記変形量取得部は、前記支持体の基準点のワールド座標系において不動な点に対する相対位置を取得するよう設けられる、請求項2に記載の指令値補正装置。
【請求項4】
前記変形量取得部は、前記先端部のワールド座標系において不動な点に対する相対位置を取得するよう設けられる、請求項2に記載の指令値補正装置。
【請求項5】
前記支持体に一定のトルクを作用させる異なる姿勢を前記多関節ロボットに取らせる複数の計測指令値を生成する計測姿勢指令部をさらに備える、請求項4に記載の指令値補正装置。
【請求項6】
前記支持体の弾性変形量が等しい異なる姿勢を前記多関節ロボットに取らせる複数の計測指令値を生成する計測姿勢指令部をさらに備える、請求項4に記載の指令値補正装置。
【請求項7】
前記支持体モデルは、前記支持体に作用する力の区分ごとに前記支持体モデル弾性変形量の代表値を特定する参照テーブルとして定義される、請求項1から
6のいずれかに記載の指令値補正装置。
【請求項8】
前記支持体モデルは、前記支持体に作用する力と平行な方向に移動又は回転する少なくとも1つの節点を有する、請求項1から
7のいずれかに記載の指令値補正装置。
【請求項9】
前記支持体モデル設定部に、前記支持体モデルのパラメータの初期値を入力する初期値入力部をさらに備える、請求項1から
8のいずれかに記載の指令値補正装置。
【請求項10】
前記初期値入力部は、外部のコンピュータで作成された前記パラメータの初期値を読み込む請求項
9に記載の指令値補正装置。
【請求項11】
前記モデル修正部は、前記先端部の実際の
前記位置に基づいて、
前記ロボットモデル及び前記支持体モデルの一方のパラメータを修正した後に、前記ロボットモデル及び前記支持体モデルの他方のパラメータを修正する、請求項1から10のいずれかに記載の
指令値補正装置。
【請求項12】
請求項1から
11のいずれかに記載の指令値補正装置と、
前記指令値補正装置にプログラムに従う指令値を入力するロボット制御装置と、
前記指令値補正装置によって補正された指令値に従って動作する多関節ロボットと、
を備える、ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指令値補正装置及びロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の節(リンク)を駆動軸を有する関節(ジョイント)によって連結して形成され、駆動軸の角度を指令値に応じて定められるよう構成された多関節ロボットを用いて例えばワーク、工具等の対象物を位置決めするシステムが広く利用されている。多関節ロボットにおいて、対象物の姿勢(位置及び向き)は節の長さと軸の角度とから算出される。しかしながら、節の撓み等によって、計算上の対象物の姿勢と、実際の対象物の姿勢との間に誤差が生じ得る。
【0003】
このような誤差を軽減するために、ロボットの各節をばねとして表すモデルを設定し、ロボットの姿勢に応じた撓み量を算出することにより、対象物を正確に位置決めできるように指令値を補正することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大型の多関節ロボットを用いると、ロボットが固定される床、梁、架台等の支持体にもたわみが生じ、対象物の位置決め誤差の原因となり得る。このような実情に鑑みて、本発明は、ロボットの位置決め誤差を小さくできる指令値補正装置及びロボットシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る指令値補正装置は、複数の関節を有するアームの先端部を位置決めする多関節ロボットの姿勢を指示する指令値を補正する指令値補正装置であって、前記多関節ロボットを弾性変形可能なモデルで表すロボットモデルを設定するロボットモデル設定部と、前記多関節ロボットが固定される支持体を弾性変形可能なモデルで表す支持体モデルを設定する支持体モデル設定部と、前記多関節ロボットの姿勢が補正前の前記指令値に従う場合に前記多関節ロボットの重量により前記支持体に作用する力を算出する力算出部と、前記力算出部が算出した力による前記支持体モデルの弾性変形である支持体モデル弾性変形量を相殺するよう前記指令値を補正する補正部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ロボットの位置決め誤差を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るロボットシステムの構成を示す模式図である。
【
図2】
図1のロボットシステムにおけるロボットモデルの設定例を示す模式図である。
【
図3】
図1のロボットシステムにおける支持体モデルの設定例を示す模式図である。
【
図4】
図1のロボットシステムにおける指令値補正の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図1のロボットシステムにおける誤差モデル修正の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るロボットシステム1の構成を示す模式図である。
【0010】
ロボットシステム1は、多関節ロボット10と、支持体20と、ロボット制御装置30と、指令値補正装置40と、三次元測定装置50と、を備える。
【0011】
多関節ロボット10としては、典型的には垂直多関節ロボットが用いられるが、水平多関節ロボットであってもよい。具体的には、多関節ロボット10は、連接される複数の節(リンク)及び隣接する節間の相対角度を定める複数の駆動軸を有するアーム11を有し、アーム11の先端部12の位置及び向きを定める位置決めを行う。
【0012】
多関節ロボット10は、先端部12に対象物Wを保持し、対象物Wを位置決めするために利用される。対象物Wとしては、例えば切削工具、レーザヘッド、検査装置、ワーク(加工、検査等を受ける物品)等が挙げられる。多関節ロボット10は、通常、支持体20に固定される基端部13を基準として設定されるロボット座標系において位置決め動作が制御される。
【0013】
多関節ロボット10は、各節の弾性変形及び駆動軸の内部機構の弾性変形により、先端部12の位置が、設計上の各節の形状及び駆動軸の制御上の角度位置により算出される理論上の位置からずれる位置決め誤差を生じさせ得る。
【0014】
支持体20は、多関節ロボット10を支持するものであり、例えば床、柱、梁、コンクリート基礎、架台、又はこれらの組み合わせから構成され得、さらに例えばボルト等の連結具を含み得る。支持体20には、多関節ロボット10を支持する位置として基準支持点21が設定される。具体例として、基準支持点21は、多関節ロボット10の基端部13との当接面の中心点とすることができる。
【0015】
支持体20は、わずかではあるが、多関節ロボット10の動作に応じて弾性変形し、対象物Wを位置決めする絶対位置であるワールド座標系において不動な点を基準に、基準支持点21を移動及びその向きを変化させ得る。ワールド座標系は、例えば対象物Wが切削工具である場合に対象物Wによって切削される被加工物が固定される座標系である。このような弾性変形は、基準支持点21の位置及び向きの変化が極めて小さくても、多関節ロボット10の全体を傾斜させるために、多関節ロボット10の先端部12の位置及び向きを無視できない程度に変化させ得る。
【0016】
ロボット制御装置30は、多関節ロボット10の動作を指定する動作プログラムを記憶するプログラム記憶部31と、プログラム記憶部31に記憶された動作プログラムに従って多関節ロボット10の先端部12を位置決めするために必要な各駆動軸の角度位置を指定する指令値を生成する周知の構成要素である。ロボット制御装置30は、例えばメモリ、CPU、入出力インターフェイス等を有するコンピュータに適切な制御プログラムを実行させることによって構成され得る。
【0017】
指令値補正装置40は、多関節ロボット10及び支持体20の弾性変形による位置決め誤差を補償するよう、ロボット制御装置30が生成する指令値を補正する。つまり、ロボットシステム1において、多関節ロボット10は、ロボット制御装置30によって生成された後、指令値補正装置40によって補正された指令値に従って動作する。指令値補正装置40は、それ自体が本発明に係る指令値補正装置の一実施形態である。
【0018】
指令値補正装置40は、例えばメモリ、CPU、入出力インターフェイス等を有するコンピュータに適切な制御プログラムを実行させることによって構成され得る。指令値補正装置40は、独立したコンピュータによって構成されてもよいが、通常は、ロボット制御装置30と一体に構成される。つまり、指令値補正装置40は、ロボット制御装置30を構成するコンピュータの一機能として実現され得る。ロボット制御装置30及び指令値補正装置40並びにそれらの各構成要素は、その機能において類別されるものであって、プログラム構成及び物理構成において明確に区分できるものでなくてもよい。
【0019】
指令値補正装置40は、ロボットモデル設定部41、支持体モデル設定部42、初期値入力部43、力算出部44、補正部45、変形量取得部46、支持体モデル修正部47、計測姿勢指令部48及びロボットモデル修正部49を有する。
【0020】
ロボットモデル設定部41は、
図2に例示するように、多関節ロボット10を複数のリンク(節)L1,L2,L3,L4,L5と、隣接するリンクL1,L2,L3,L4,L5を接続する複数のジョイント(関節)J1,J2,J3,J4,J5,J6とによって表すロボットモデルMrを設定する。ロボットモデルMrの設定は、DH(Denavit and Hartenberg)法など周知の方法で設定できる。リンクL1,L2,L3,L4,L5は、曲げ変形可能なばねであり、関節J1,J2,J3,J4,J5,J6は、ねじり変形可能なばねである。ロボットモデルMrは、指令値補正装置40の標準仕様として、多関節ロボット10の製品ごとに予め設定され得る。
【0021】
支持体モデル設定部42は、多関節ロボット10が固定される支持体20を弾性変形可能なモデルで表す支持体モデルMsを設定する。支持体20が
図1に示すような台座である場合には、
図2に示すように、支持体モデルMsは、単一のばねとして表すことができる。一方、
図3に例示するように、支持体20の構成に応じて、支持体モデルMsは、支持体20に作用する力と平行な方向に移動又は回転する少なくとも1つの節点を有する複数のばねの組み合わせとして表されてもよい。つまり、支持体モデルMsは、圧縮又は引張変形するばねと曲げ変形するばねとを含むモデルとされ得る。
【0022】
図3の例では、支持体モデルMsは、多関節ロボット10が動作するロボット座標系の原点P0から連接されるリンクとして定義され。原点P0以外に、原点P0から順番に設定される3つの節点P1,P2,P3を有する。この例では、節点P1,P2,P3の位置が多関節ロボット10のロボット座標系における座標で定義される。より詳しくは、各節点P1,P2,P3は、ロボット座標系において、それぞれXYZWPR形式で位置及び向きが特定され、1つ前の節点との間のリンクの各軸方向のばね定数が設定されている。支持体モデルMsは、ロボットシステム1毎に、システム設置時にシステム管理者等によって個別に設定され得る。
【0023】
異なる例として、支持体モデル設定部42は、支持体モデルMsを、支持体20に作用する力の区分ごとに支持体20の弾性変形量の代表値を特定する参照テーブルとして定義してもよい。具体的には、支持体モデルMsは、原点P0に作用する力のモーメントの大きさと、弾性変形量、つまり指令値の補正の前後における理論的な先端部12の移動量とを対応づける参照テーブルであってもよい。
【0024】
初期値入力部43は、支持体モデル設定部42に、
図3に例示したような誤差モデルのパラメータの初期値を入力する。初期値入力部43は、例えばキーボードのような入力装置からの入力を受け付けてもよいが、外部のコンピュータCで作成された誤差モデルの初期値を読み込むよう構成されてもよい。コンピュータCとしては、特に限定されないが、汎用のパーソナルコンピュータ、タブレットコンピュータ等が想定される。支持体20のモデルを作成するためのコンピュータCで実行可能なオフラインシミュレーションソフトウェアを用いることで、比較的容易且つ正確に誤差モデルを構築可能となる。また、外部のコンピュータCを用いて誤差モデルを構築するように構成することで、ロボット制御装置30と指令値補正装置40とを一体に構成すること、つまり従来のロボット制御装置に指令値補正装置40の機能を付加することが容易となる。
【0025】
力算出部44は、多関節ロボット10が補正前の指令値に従う姿勢を取った場合に支持体20に作用する力を算出する。より詳しくは、多関節ロボット10が指令値に従う姿勢で静止している場合に多関節ロボット10及び支持体20の重量により、支持体モデルMsの節点P0、ひいては節点P1,P2,P3に作用する回転力、つまり力のモーメントを算出する。さらに、力算出部44は、節点P0,P1,P2,P3に作用する並進方向の力(圧縮/引張力)を算出してもよい。また、力算出部44は、ロボットモデルMrの各関節J1,J2,J3,J4,J5,J6に作用する力を個別に算出することが好ましい。
【0026】
補正部45は、力算出部44が算出した力による支持体モデルMsの弾性変形を相殺するようロボット制御装置30から入力された指令値を補正する。補正部45は、支持体モデルMsだけでなく、ロボットモデルMrの弾性変形も相殺するようロボット制御装置30から入力された指令値を補正することが好ましい。
【0027】
補正部45は、ロボット変形算出部、支持体変形算出部、誤差算出部及び指令値再作成部を有する構成とすることができる。
【0028】
ロボット変形算出部は、多関節ロボット10の姿勢が補正前の指令値に従う場合のロボットモデルMrのリンクL1,L2,L3,L4,L5及びジョイントJ1,J2,J3,J4,J5,J6の弾性変形量を算出する。ロボットモデルMrの弾性変形量は、周知の方法によって算出されるが、典型的には、力算出部44が算出する各関節J1,J2,J3,J4,J5,J6に作用する力に基づいて算出される。
【0029】
支持体変形算出部は、力算出部44が算出した力による支持体モデルMsの弾性変形量(「支持体モデル弾性変形量」ともいう)を算出する。つまり、支持体変形算出部は、力算出部44が算出したP1,P2,P3に作用する力と支持体モデル設定部42に設定される節点間のばね定数とから、弾性変形によるP1,P2,P3の移動量をそれぞれ算出し、その結果としての原点P0の位置及び向きの変化を算出する。
【0030】
誤差算出部は、支持体変形算出部が算出した支持体モデルMsの弾性変形量、及びロボット変形算出部が算出したロボットモデルMrの弾性変形量に基づいて、多関節ロボット10の先端部12の位置決め誤差を算出する。
【0031】
指令値再作成部は、誤差算出部が算出した位置決め誤差と同じ距離だけ逆方向に先端部12を移動させた状態の多関節ロボット10の姿勢を指定するような指令値を作成する。この補正後の指令値を多関節ロボット10に入力することによって、先端部12の位置決め誤差を低減することができる。
【0032】
変形量取得部46は、支持体20の実際の弾性変形量(「実際弾性変形量」ともいう)を取得する。具体的には、変形量取得部46は、三次元測定装置50によって測定される支持体20の基準点(実施的に基準支持点21との相対位置が変化しない測定可能な点)又は多関節ロボット10の先端部12のワールド座標系において不動な点に対する相対位置に基づいて、支持体20の実際の弾性変形量を特定するよう構成され得る。
【0033】
多関節ロボット10の先端部12の位置に基づく支持体20の実際の弾性変形量の取得は、三次元測定装置50によって測定される先端部12の実際の位置と、ロボットモデルMrを考慮して指令値から算出される先端部12の理論上の位置とのずれが支持体モデルMsの誤差のみに起因するものと仮定して、支持体20の実際の弾性変形量の推定値を算出することで行われ得る。量産される多関節ロボット10のロボットモデルMrのパラメータの初期値は比較的誤差が小さいのに対して、個別に設計が異なる支持体20の支持体モデルMsのパラメータの初期値は比較的誤差が大きくなりやすい。このため、ロボットモデルMrに誤差がないものと仮定して先端部12の実際の位置から算出される支持体20の弾性変形量は、初期設定された支持体モデルMsにより算出される理論上の弾性変形量よりも支持体20の実際の弾性変形量に近い値となると考えられる。
【0034】
支持体モデル修正部47は、変形量取得部46が実際弾性変形量を取得したときに多関節ロボット10に入力した指令値に基づいて支持体変形算出部により算出される支持体モデル弾性変形量を、変形量取得部46が取得した実際弾性変形量に近付けるよう、支持体モデルMsのパラメータを修正する。
【0035】
計測姿勢指令部48は、支持体20に一定のトルクを作用させる異なる計測姿勢を多関節ロボット10に取らせる複数の計測指令値を生成する。多関節ロボット10に支持体20の弾性変形量が等しい複数の計測姿勢を取らせることによって、多関節ロボット10の弾性変形のみによる先端部12の位置決め誤差を確認できる。なお、計測指令値によって多関節ロボット10の弾性変形を確認するのと同時に、支持体20の実際の弾性変形量も算出できる。
【0036】
ロボットモデル修正部49は、多関節ロボット10が計測指令値に従う姿勢を取っている状態における先端部12の位置に基づいて、多関節ロボット10の先端部12の位置決め誤差を確認し、ロボットモデルMrのパラメータを修正する。これにより、多関節ロボット10の先端部12の位置に基づいて支持体モデルMsを修正する場合に、より正確に支持体モデルMsを修正することが可能となる。
【0037】
三次元測定装置50は、図示するように、ワールド座標系において不動に、つまり多関節ロボット10の姿勢によって位置が変化しないよう配設され、自身の位置に対する多関節ロボット10の先端部12及び支持体20の基準点の少なくともいずれかの相対位置を測定するように設けられ得る。また、三次元測定装置50は、支持体20の基準点又は多関節ロボット10の先端部12に対して不動に配設され、自身の位置に対するワールド座標系において不動に設けられる測定点の相対位置を測定するように設けられてもよい。
【0038】
図4に、指令値補正装置40による指令値の補正の手順を示す。指令値の補正は、モデル取得工程(ステップS11)、力算出工程(ステップS12)及び指令値補正工程(ステップS13)を含む。
【0039】
ステップS11のモデル取得工程では、ロボットモデル設定部41により設定されるロボットモデルMr及び支持体モデル設定部42により設定される支持体モデルMsを取得、つまりロボット制御装置30を構成するコンピュータの作業メモリに読み込む。
【0040】
ステップS12のモーメント算出工程では、力算出部44によって、ロボットモデルMr及び支持体モデルMsにおいて多関節ロボット10が補正前の指令値に従う姿勢を取った場合に、重力により多関節ロボット10及び支持体20に作用する力のモーメントを算出する。
【0041】
ステップS13の指令値補正工程では、ロボットモデルMr及び支持体モデルMsにより算出される先端部12の位置が、補正前の指令値が意図する先端部12の位置、つまり多関節ロボット10及び支持体20の弾性変形を考慮しない先端部12の位置になるよう、指令値を補正する。
【0042】
図5に、指令値補正装置40によるロボットモデルMr及び支持体モデルMsの修正の手順を示す。ロボットモデルMr及び支持体モデルMsの修正は、モデル取得工程(ステップS21)、計測指令値入力工程(ステップS22)、力算出工程(ステップS23)、位置決め位置測定工程(ステップS24)、計測姿勢終了確認工程(ステップS25)及びモデル修正工程(ステップS26)を含む。
【0043】
ステップS21のモデル取得工程では、ロボットモデル設定部41により設定されるロボットモデルMr及び支持体モデル設定部42により設定される支持体モデルMsを取得する。
【0044】
ステップS22の計測指令値入力工程では、計測姿勢指令部48により、多関節ロボット10に計測指令を入力することで、多関節ロボット10に計測姿勢を取らせる。
【0045】
ステップS23の力算出工程では、ステップS22で指示した計測姿勢において作用する力のモーメントを算出する。
【0046】
ステップS24の位置決め位置測定工程では、三次元測定装置50により、ステップS22で指示した計測姿勢における多関節ロボット10の先端部12の位置を測定する。
【0047】
ステップS25の計測姿勢終了確認工程では、ステップS22からS24の工程を予め設定される全ての計測姿勢について行ったかどうか確認する。全ての計測姿勢についての処理が完了するまでステップS22からS24の工程を繰り返し、全ての計測姿勢についての処理が完了すれば、ステップS26に進む。
【0048】
ステップS26のモデル修正工程では、各計測姿勢におけるロボットモデルMr及び支持体モデルMsにより算出される先端部12の位置の理論位置と実測位置との組み合わせに基づいて、ロボットモデルMr及び支持体モデルMsにより算出される先端部12の位置の理論位置を実測位置に近付けるよう、ロボットモデルMr及び支持体モデルMsのパラメータを修正する。
【0049】
以上のように、ロボットシステム1は、支持体モデルMsを設定する支持体モデル設定部42を備え、支持体モデルMsを用いて指令値を補正するため、多関節ロボット10の姿勢に応じた支持体20の弾性変形を補償して正確に先端部12の位置決めを行うことができる。
【0050】
また、ロボットシステム1は、変形量取得部46が取得した弾性変形量に基づいて支持体モデルMsを修正する支持体モデル修正部47を備えるため、支持体20の弾性変形量を正確に予測して、より正確に先端部12の位置決めを行うことができる。
【0051】
以上、本開示に係るロボットシステム及び指令値補正装置の実施形態について説明したが、本開示の範囲は前述した実施形態に限るものではない。また、前述した実施形態に記載された効果は、本開示に係るロボットシステム及び指令値補正装置から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本開示に係るロボットシステム及び指令値補正装置による効果は、前述の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0052】
本開示に係るロボットシステム及び指令値補正装置は、支持体モデルの修正又はロボットモデルの修正に係る構成を有しないものであってもよい。また、ロボットモデル及び支持体モデルの修正にかかる手順は、上述の手順に限られず他のアルゴリズムを用いて行ってもよい。例として、支持体モデルの修正とロボットモデルの修正とは、独立して行われてもよい。このため、支持体モデルの修正のための弾性変形量の取得と、ロボットモデルの修正のための弾性変形量の取得とは、異なる姿勢で行われてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 ロボットシステム
10 多関節ロボット
20 支持体
30 ロボット制御装置
40 指令値補正装置
50 三次元測定装置
11 アーム
12 先端部
41 ロボットモデル設定部
42 支持体モデル設定部
43 初期値入力部
44 力算出部
45 補正部
46 変形量取得部
47 支持体モデル修正部
48 計測姿勢指令部
49 ロボットモデル修正部