(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ホルベックポンプ段の吸引能力が改善された真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
F04D19/04 G
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023036482
(22)【出願日】2023-03-09
【審査請求日】2023-05-26
(32)【優先日】2022-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520415627
【氏名又は名称】プファイファー・ヴァキューム・テクノロジー・アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】マクシミリアン・ビルケンフェルト
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-243395(JP,A)
【文献】特開平02-115594(JP,A)
【文献】国際公開第2009/153874(WO,A1)
【文献】特開2000-199493(JP,A)
【文献】特表2014-505833(JP,A)
【文献】特開2015-206362(JP,A)
【文献】国際公開第2011/070856(WO,A1)
【文献】特開2015-014259(JP,A)
【文献】特開2020-094582(JP,A)
【文献】特開2014-214745(JP,A)
【文献】特開2005-105875(JP,A)
【文献】特開2016-217248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプ、特にターボ分子ポンプ(111)であって、
この真空ポンプは、ポンプ入口(115)、ポンプ出口(117)、及び少なくとも一つのホルベックポンプ段を備え、
このホルベックポンプ段は、内側と外側とを有するホルベックステータスリーブ(10)及びポンプ入口にポンプ方向と反対側に面する入口端部(20)を備え、
その際、ホルベックステータスリーブ(10)の内側(30)及び/又は外側には、複数のらせん状の円周状ウェブ(12)を有するホルベックねじ山(14)が形成されていて、
このウェブは、それぞれ入口端部(20)を向いた第1のねじ山フランク(16)、及び入口端部(20)に背を向けている第2のねじ山フランク(18)を備え、
その際、ウェブ(12)は少なくとも一つのホルベックポンプ段の入口端部(20)において、さらに、それぞれ半径方向に整列した端面(22)を備え、前記端面(22)は、第2のねじ山フランク(18)と、300°より小さ
い優角の第1の角度(α
1)を取り囲むことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
半径方向に配向した各端面(22)は、少なくとも1つのホルベックポンプ段の入口端部(20)が位置する平面と、優角の第2の角度(α
2)を取り囲み、前記第2の角度(α
2)は、入口端部(20)のホルベックねじ山(14)の傾斜角度(β)の隣接角よりも小さいことを特徴とする請求項
1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
半径方向に配向されている端面(22)は、ホ
ルベックポンプ段の入口端部(20)から見て、ウェブ(12)上にアンダーカット(24)を形成することを特徴とする請求項
1に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
半径方向に配向した端面(26)はホルベックねじ山(14)が形成されているホルベックステータスリーブ(10)の周面(30)と、110°より小さい第3の角度(α
3)を囲むことを特徴とする請求項
1に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
ホルベックポンプ段の入口端部(20)におけるホルベックステータスリーブ(10)の端面(26)が、ウェブ(12)が半径方向に整列された端面(22)を備える側で面取りされていることを特徴とする請求項
1に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
第1の角度(α
1
)は、270°より小さいことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
第1の角度(α
1
)は、190°~260°であることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
第1の角度(α
1
)は、200°~250°であることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項9】
第1の角度(α
1
)は、205°~245°であることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項10】
第2の角度(α
2
)は、90°~160°であることを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項11】
第2の角度(α
2
)は、92°~140°であることを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項12】
第2の角度(α
2
)は、95°~120°であることを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項13】
第3の角度(α
3
)は105°より小さいことを特徴とする請求項4に記載の真空ポンプ。
【請求項14】
第3の角度(α
3
)は100°より小さいことを特徴とする請求項4に記載の真空ポンプ。
【請求項15】
第3の角度(α
3
)は90°であることを特徴とする請求項4に記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ入口と、ポンプ出口と、少なくとも1つのホルベックポンプ段とを有する、ここでは単にポンプとも称される真空ポンプ、特にターボ分子真空ポンプに関するものであり、ホルベックポンプ段、特にそのホルベックポンプ段のステータスリーブは、改善された吸引能力を達成するために、特別に設計されている。
【0002】
真空ポンプは、様々な技術分野で使用される。要求に応じて、真空ポンプは、1つ又は複数のポンプ段を備える。ホルベックポンプ段は、分子真空ポンプ類に属し、かつ不動のホルベックステータに対して相対的にホルベックロータを回転することによって分子流を生成する。真空ポンプは、1つ又は複数のホルベック段を備えることができ、複数のホルベック段は、互いに直列及び並列の両方でポンピングできる。ホルベック段は、典型的には、ターボ分子真空ポンプにおいて使用され、通常、1つ又は複数のターボ分子ポンプ段の下流にある。
【0003】
ホルベックポンプ段は、ホルベックロータとホルベックステータとを備え、ホルベックロータは、1つ又は複数のホルベックロータスリーブが、例えばディスク状のホルベックハブによって同心円状に取り付けられるロータシャフトを備える。ホルベックステータスリーブは、シングルスクリュー又はマルチスクリューのホルベックねじ山が設けられている。搬送されるべきガス分子は、ホルベックステータスリーブに対して相対的なホルベックロータスリーブの回転運動によってそれぞれのホルベックポンプ段の入口端部から出口端部へ、ねじ山スクリューに沿って搬送される。ねじ山スクリューは、ウェブのねじ山フランクによって区切られた円周状のホルベックチャネルを備え、このチャネルでは、ホルベックロータスリーブがホルベックステータスリーブに対して相対的に回転するときに、ガス分子が搬送される。
【0004】
さらに、いわゆる「折り畳まれた」ホルベック配置が知られていて、このホルベック配置の場合では、複数のホルベック段が、互いの内側に入れ子式に介装されていて、その結果、半径方向に直接続くホルベックポンプ段のポンピング方向が、全体的に見て、互いに反対になっている。例えば、半径方向外側のホルベックポンプ段および半径方向内側のホルベックポンプ段などの、ポンプ方向に互いに続く2つのホルベックポンプ段は、両側にそれぞれホルベックねじ山を備える共通のホルベックステータを備えることができ、このホルベックステータは半径方向に、2つのホルベックロータスリーブの間に、位置する。
【0005】
ホルベックポンプ段の吸引能力は、とりわけ、それぞれのホルベックポンプ段の入口端部における入口コンダクタンスに依存する。この場合、入口コンダクタンスは、とりわけ、入口端部の平面に位置するホルベックねじ山のねじ山ウェブの端面によって影響を受けるが、これは、ポンピングされるべきガス分子がこれらの端面に衝突し、上流のターボ分子ポンプ段の方向に戻って脱離される可能性が高いからである。これにより、入口コンダクタンスが減少することで、ポンプの吸引能力が犠牲になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、例えばターボ分子真空ポンプのような真空ポンプにおける、上述した吸着問題の低減、ひいては改善された吸引能力を向上させるということである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1の特徴を有する真空ポンプによって解決され、
特に、ホルベックポンプ段の入口端部におけるホルベックねじ山のウェブがそれぞれ、実質的に半径方向に整列した端面、又は実質的に半径方向に延在する端面を備えることによって解決され、この端面が、第2のねじ山フランクと、優角の第1の角度(300°より小さい、好ましくは270°より小さい)を成す。特に、第1の角度は190°~260°、好ましくは200°~250°、特に好ましくは205°~245°とすることができる。
【0008】
この場合、第2のねじ山フランクは、それぞれのウェブの、ホルベックポンプ段の入口端部とは反対側に位置するものである。したがって、当該本質的に半径方向に整列した端面が、第2のねじ山フランクと300°より小さい、特に270°より小さい優角を形成する場合、これは、通常45°より小さいホルベックねじ山の傾斜角に起因して、従来のホルベックポンプ段とは異なり、端面がホルベックポンプ段の入口端部がある平面内に位置しないことを意味する。例えば、ホルベックねじ山が30°のオーダーの傾斜角を有し、問題の優角の第1角度が270°弱である場合、これは、半径方向に配向された当該端面が、ホルベックポンプ段の入口端部が位置する平面と約60°の角度を取り囲むことを意味する。
【0009】
一方、優角の第1角度が、例えば210°である場合、これは、例えば、30°のホルベックねじ山の傾斜角の場合、実質的に半径方向に整列された端面は、ホルベックポンプ段の入口端部にある平面と120°の角度で取り囲まれていることを意味する。
【0010】
本発明による実質的に半径方向に整列された端面が、ホルベックポンプ段の入口端部に位置する平面内に存在するのではなく、むしろこの平面に対して傾斜しているという事実に基づいて、入口端部における隣接するウェブ間の間隔、したがって、ホルベックポンプ段における入口面積が増加する。この場合、傾斜角度及び優角の第1角度の大きさに応じて、特に20%までの入口面積の増大を達成することができる。
【0011】
以下では、本発明の好ましい実施形態について説明される。さらなる実施形態は、従属請求項、図面の説明、及び図面自体から得ることができる。
【0012】
一実施形態によれば、それぞれ実質的に半径方向に整列した端面が、入口端部におけるホルベックステータスリーブの端面と、又は、ホルベックポンプ段の入口端部が位置する平面と、優角の第2の角度を取り囲むことを企図することができ、この優角の第2の角度は、入口端部におけるホルベックねじ山の傾斜角の隣接角よりも小さい。従って、例えば、入口端部におけるホルベックねじの傾斜角が30°である場合、傾斜角の隣接角は150°であり、これは、第2の優角が150°より小さいことを意味する。
【0013】
一実施形態によれば、第2の角度は、90°~160°、特に92°~140°、好ましくは95°~120°とすることができる。
【0014】
第2の角度が90°より大きい場合、これは、それぞれのウェブにおける半径方向に整列された端面が、入口端部から見てアンダーカット又はオーバーハングを形成し、その結果、円周方向における2つの隣接するウェブ間の間隔が端面によって低減されることを意味する。したがって、傾斜した端面によって、ホルベックポンプ段の入口端部における入口面積の増加があり、これは、所望の方法でホルベックポンプ段での入口コンダクタンスにプラスの効果をもたらす。
【0015】
したがって、ホルベックステータスリーブの入口端部における入口面積の増加により、ポンプの窒素に対しての吸引能力は約5%より多く増加することができ、他方、ヘリウムでは、吸引能力の増加は2%ぐらいである。
【0016】
さらなる実施形態によれば、端面が、ホルベックねじ山が形成されているホルベックポンプ段の内側の周面又は外側の周面と、110°より小さい第3の角度で取り囲むことが企図され得る。一実施形態によれば、第3の角度は、105°より小さい、特に100°より小さくてもよい。好ましくは、第3の角度が直角であることが企図され得る。
【0017】
ホルベックポンプ段の入口端部における入口コンダクタンスをさらに増やすために、入口端部におけるホルベックステータスリーブの端面は、ホルベックねじ山のウェブが、半径方向に整列された端面を有する側(内側または外側)で面取りされている。これはまた、入口端部に衝突するガス分子が上流にあるポンプ段の方向に戻って脱離される可能性が低減され、所望の方法でホルベックポンプ段の吸引能力が向上する。
【0018】
以下で、本発明を、添付の図に関連づけて模範的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】
図2に示す切断線A-Aに沿ったターボ分子ポンプの横断面図
【
図4】
図2に示す切断線B-Bに沿ったターボ分子ポンプの横断面図
【
図5】
図2に示す切断線C-Cに沿ったターボ分子ポンプの横断面図
【
図6】
図1のターボ分子真空ポンプの外側のホルベックポンプ段の入口の一部の斜視上面図
【
図7】本発明による真空ポンプの外側のホルベックポンプ段の入口の一部の斜視上面図
【
図8】
図6のホルベックステータスリーブを展開した概略的な内部図
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示したターボ分子真空ポンプ111は、入口フランジ113によって包囲されたポンプ入口115を有し、このポンプ入口に、それ自体周知のように、図示してないレシピエントを接続することができる。レシピエントからのガスは、ポンプ入口115を介してレシピエントから吸い込まれ、ポンプを経てポンプ出口117へ移送することができ、このポンプ出口には、例えば回転ベーンポンプのような予備真空ポンプを接続することができる。
【0021】
入口フランジ113は、
図1による真空ポンプの整向時に、真空ポンプ111のハウジング119の上端を構成する。ハウジング119は、電子機器ハウジング123を横に配置した下部121を有する。電子機器ハウジング123内に、例えば真空ポンプ内に配置された電気モータ125を作動させるために、真空ポンプ111の電気及び/又は電子部品が収納されている(
図3も参照)。電子機器ハウジング123には、アクセサリ用の複数のポート127が設けられている。加えて、例えばRS485規格によるデータインタフェース129と電力供給ポート131が電子機器ハウジング123に配置されている。
【0022】
このように取り付けられた電子機器ハウジングを備えるのではなく、外部の駆動電子機器に接続されるターボ分子真空ポンプも存在する。
【0023】
ターボ分子真空ポンプ111のハウジング119には、特に通気弁の形態の通気入口133が設けられ、この通気入口を介して、真空ポンプ111は、通気をすることができる。更にまた、下部121の領域には、掃気ガスポートとも呼ばれるシールガスポート135が配置され、掃気ガスポートを介して、掃気ガスが、ポンプによって移送されるガスから電気モータ125(例えば
図3参照)を保護するために、モータスペース137-このモータスペース内で、電気モータ125は真空ポンプ111内に収納されている-へ導入することができる。更にまた、下部121内には、2つの冷却剤ポート139が配置され、これら冷却剤ポートの一方は、冷却剤用の入口として設けられ、他方の冷却剤ポートは、冷却剤用の出口として設けられ、この冷却剤は、冷却のために真空ポンプ内に導入することができる。他の既存のターボ分子真空ポンプ(図示してない)は、空気冷却だけで作動させられる。
【0024】
真空ポンプの下側141は、スタンド面として使用することができるので、真空ポンプ111は、下側141の上に立った状態で作動させることができる。しかしながら、真空ポンプ111は、入口フランジ113を介してレシピエントに固定され、これにより、ある程度吊り下がった状態で作動されてもよい。加えて、真空ポンプ111は、
図1に示したものとは違うように整向されている時でも作動させ得るように構成することができる。下側141が下を向くのではなく、横に向くか、上を向くように整向して配置することができる真空ポンプの実施形態を実現することもできる。この場合、基本的に、任意の角度が可能である。
【0025】
特にここに図示したポンプよりも大きい他の既存のターボ分子真空ポンプ(図示してない)は、直立状態で作動させることはできない。
【0026】
図2に図示した下側141には、更に、種々のボルト143が配置され、これらボルトによって、ここではそれ以上は特定されていない真空ポンプの部品が互いに固定されている。例えば、軸受カバー145は、下側141に固定されている。
【0027】
加えて、下側141には、固定孔147が配置され、これら固定孔を介して、ポンプ111は、例えば載置面に固定することができる。これは、特に個々に図示したポンプよりも大きい他の既存のターボ分子真空ポンプの場合は可能でない。
【0028】
図2~5には、冷却剤ライン148が図示され、この冷却ライン内を、冷却剤ポート139を介して導入及び導出される冷却剤が循環できる。
【0029】
図3~5の断面図が示すように、真空ポンプは、ポンプ入口115に存在するプロセスガスをポンプ出口117へ移送するために複数のプロセスガスポンプ段を有する。
【0030】
ハウジング119内に、ロータ149が配置され、このロータは、回転軸151を中心として回転可能なロータシャフト153を備える。
【0031】
ターボ分子真空ポンプ111は、ロータシャフト153に固定された複数の半径方向のロータディスク155と、ロータディスク155の間に配置されかつハウジング119に固定されたステータディスク157を有する、ポンプに有効に互いに直列に介装された複数のターボ分子ポンプ段を有する。この場合、ロータディスク155と隣接するステータディスク157が、それぞれ1つのターボ分子ポンプ段を構成する。ステータディスク157は、スペーサリング159によって互いに所望の軸方向の間隔を置いて保持されている。
【0032】
加えて、真空ポンプは、半径方向に互いに入れ子式に配置され、ポンプに有効に互いに直列に介装されたホルベックポンプ段を有する。ホルベックポンプ段を備えない他の既存のターボ分子真空ポンプが存在する。
【0033】
ホルベックポンプ段のロータは、ロータシャフト153に配置された1つのロータハブ161と、ロータハブ161に固定されかつこのロータハブによって支持された2つのシリンダシェル状のホルベックロータスリーブ163,165を有し、これらホルベックロータスリーブは、回転軸151に対して同軸に整向され、半径方向に互いに入れ子式に介装されている。更に、2つのシリンダシェル状のホルベックステータスリーブ167,169が設けられ、これらホルベックステータスリーブも同様に回転軸151に対して同軸に整向され、半径方向に見て互いに入れ子式に介装されている。
【0034】
ホルベックポンプ段のポンプ活性表面は、ホルベックロータスリーブ163,165及びホルベックステータスリーブ167,169のシェル面、即ち半径方向の内面及び/又は外面によって構成されている。外側のホルベックステータスリーブ167の半径方向の内面は、半径方向のホルベックギャップ171を形成しつつ外側のホルベックロータスリーブ163の半径方向の外面に対向し、この半径方向の外面と共に、ターボ分子ポンプ段の後に続く第1のホルベックポンプ段(ここで、この第1のホルベックポンプ段は、外側のホルベックポンプ段とも称される)を構成する。外側のホルベックロータスリーブ163の半径方向の内面は、半径方向のホルベックギャップ173を形成しつつ内側のホルベックステータスリーブ169の半径方向の外面に対向し、この半径方向の外面と共に第2のホルベックポンプ段(ここで、この第2のホルベックポンプ段は、中央のホルベックポンプ段とも称される)を構成する。内側のホルベックステータスリーブ169の半径方向の内面は、半径方向のホルベックギャップ175を形成しつつ内側のホルベックロータスリーブ165の半径方向の外面に対向し、この半径方向の外面と共に第3のホルベックポンプ段(ここで、この第3のホルベックポンプ段は、内側のホルベックポンプ段とも称される)を構成する。
【0035】
ホルベックロータスリーブ163の下端に、その介在により半径方向外側に位置するホルベックギャップ171を中央のホルベックギャップ173と、従って外側のホルベックポンプ段がホルベックポンプ段と接続する、半径方向に延在する通路を設けることができる。加えて、内側のホルベックステータスリーブ169の上端に、その介在により中央のホルベックギャップ173を半径方向内側に位置するホルベックギャップ175と、従って中央のホルベックポンプ段が内側のホルベックポンプ段と接続する、半径方向に延在する通路を設けることができる。これにより、互いに入れ子式に介装されたホルベックポンプ段は、互いに直列に接続される、つまり、外側のホルベックポンプ段の出口端部は、中間のホルベックポンプ段の入口端部に本質的に対応し、中央のホルベックポンプ段の出口端部は、内側のホルベックポンプ段の入口端部に本質的に対応することを意味する。更に、半径方向内側に位置するホルベックロータスリーブ165の下端に、出口117への接続通路179を設けることができる。
【0036】
ホルベックステータスリーブ167,169の前記ポンプ活性表面は、それぞれ、回転軸151を中心としてらせん状に軸方向に延在する複数のホルベック溝を備え、このホルベック溝は、一緒にホルベックねじを形成する。一方、対向するホルベックロータスリーブ163,165のシェル面は、平滑に形成され、真空ポンプ111を作動させるために、ホルベック溝内のガスを推進する。
【0037】
この場合、ホルベック溝は、ホルベックステータスリーブ167、169の内側及び/又は外側に形成されたウェブ225によって形成され、これらのウェブがそれぞれのホルベックステータスリーブ167、169におけるそれぞれのホルベックポンプ段の入口端部と出口端との間でらせん状に延びる。内側のホルベックステータスリーブ169は、内側及び外側のホルベックねじ山の両方を備えるので、ホルベックステータスリーブ169の内側に位置するホルベックねじ山によっても形成された内側のホルベックポンプ段の入口端部は、ポンピングされるべきガスが、そこからポンピングすべきガスが内側のホルベックポンプ段に入るので、ホルベックステータスリーブ169の外側に位置するホルベックねじ山によっても形成された中央のホルベックポンプ段の出口端部に対応する。
【0038】
外側ホルベックポンプ段の入口端部229の一部分の斜視上面図を示している
図6から分かるように、関連するホルベックステータスリーブ167の内側に形成されたウェブ225は、通常、それぞれ、ホルベックステータスリーブ167の入口端部に端面227を備え、その際、これらの端面227は、外側ホルベックポンプ段の入口端部229がある平面内に存在する。
【0039】
ロータシャフト153を回転可能に軸受けするために、転がり軸受181がポンプ出口117の領域に設けられ、永久磁石軸受183が、ポンプ入口115の領域に設けられている。
【0040】
転がり軸受181の領域で、ロータシャフト153に、転がり軸受181に向かって増加する外径を有する円錐形のスプレーナット185が設けられている。スプレーナット185は、作動媒体蓄積器の少なくとも1つのワイパと滑り接触している。他の既存のターボ分子真空ポンプ(図示してない)の場合、スプレーナットの代わりに、スプレーボルトを設けることができる。従って異なる構成が可能であるので、これに関連して「スプレー先端」との用語も使用される。
【0041】
作動媒体蓄積器は、上下に積み重ねられた複数の吸湿性のディスク187を有し、これらディスクは、転がり軸受181用の作動媒体、例えば潤滑剤を吸収している。
【0042】
真空ポンプ111の作動中、作動媒体は、毛管作用によって作動媒体蓄積器からワイパを介して回転するスプレーナット185へ伝達され、遠心力のために、スプレーナット185に沿ってスプレーナット185の外径が大きくなる方向に転がり軸受181に向かって移送され、そこで、作動媒体は、例えば潤滑機能を満足する。転がり軸受181と作動媒体蓄積器は、真空ポンプ内で桶状のインサート189と軸受カバー145によって包囲されている。
【0043】
永久磁石軸受183は、ロータ側の軸受半体191とステータ側の軸受半体193を有し、これら軸受半体は、軸方向に上下に積み重ねられた複数の永久磁石リング195,197から成るそれぞれ1つのリングスタックを有する。リング磁石195,197は、互いに半径方向の軸受ギャップ199を形成しつつ対向し、ロータ側のリング磁石195は、半径方向外側に配置され、ステータ側のリング磁石197は、半径方向内側に配置されている。軸受ギャップ199内に存在する磁場は、リング磁石195,197の間に、ロータシャフト153の半径方向の軸受けを生じさせる磁気的反発力を惹起する。ロータ側のリング磁石195は、ロータシャフト153のキャリヤ部分201によって支持され、このキャリヤ部分は、リング磁石195を半径方向外側から包囲する。ステータ側のリング磁石197は、ステータ側のキャリヤ部分203によって支持され、このキャリヤ部分は、リング磁石197を経て延在し、ハウジング119の半径方向のブレース205に懸架されている。回転軸151に対して平行に、ロータ側のリング磁石195は、キャリヤ部分201と連結されたカバー要素207によって固定されている。ステータ側のリング磁石197は、回転軸151に対して平行に、1つの方向に、キャリヤ部分203と結合された固定リング209並びにキャリヤ部分203と結合された固定リング211によって固定されている。加えて、固定リング211とリング磁石197の間に、皿バネ213を設けることができる。
【0044】
磁石軸受内に、緊急もしくは安全軸受215が設けられ、この緊急もしくは安全軸受は、真空ポンプ111の標準的な作動中に、接触することなく空転し、ステータに対して相対的にロータ149が過度に半径方向に変位した時に初めて、ロータ149用の半径方向ストッパを構成するために係合するが、これは、ステータ側の構造物とロータ側の構造物の衝突が防止されるために行なわれる。安全軸受215は、無潤滑の転がり軸受として形成され、ロータ149及び/又はステータと共に、安全軸受215が標準的なポンプ作動中に解放されていることを生じさせる半径方向のギャップを構成する。安全軸受215が係合する半径方向の変位は、安全軸受215が真空ポンプの標準的な作動中には係合しないように十分大きく、同時に、ステータ側の構造物とロータ側の構造物の衝突が全ての状況下で防止されるように十分小さく、設定されている。
【0045】
真空ポンプ111は、ロータ149を回転させるための駆動装置として電気モータ125を有する。電気モータ125のアンカーは、ロータ149によって構成され、このロータのロータシャフト153は、モータステータ217を経て延在する。モータステータ217を経て延在するロータシャフト153の部分には、半径方向外側に又は埋設されて、永久磁石装置を配置することができる。モータステータ217とモータステータ217を経て延在するロータ149の部分との間に、中間スペース219が配置され、この中間スペースは、半径方向のモータギャップを有し、このモータギャップを介して、モータステータ217と永久磁石装置は、駆動トルクを伝達するために磁気的影響を受け得る。
【0046】
モータステータ217は、ハウジング内で、電気モータ125のために設けられたモータスペース137内に固定されている。シールガスポート135を介して、掃気ガスとも呼ばれかつ例えば空気又は窒素であり得るシールガスがモータスペース137内へ達し得る。シールガスを介して、電気モータ125は、プロセスガス、例えばプロセスガスの腐食作用成分、から保護することができる。モータスペース137は、ポンプ出口117を介して真空引きすることもでき、即ちモータスペース137内は、少なくともほぼ、ポンプ出口117に接続された予備真空ポンプによって生じさせられた真空圧力が支配する。
【0047】
加えて、ロータハブ161とモータスペース137を画成する壁221との間には、特に、半径方向外側に位置するホルベックポンプ段に対するモータスペース217の良好なシールを達成するために、それ自体周知のいわゆるラビリンスシール223を設けることができる。
【0048】
次に、本発明に従って形成され、
図1~
図5によるターボ分子真空ポンプ111内の外側のホルベックステータスリーブ167の代わりに設置することができるホルベックステータスリーブ10が、
図7と
図8を参照して以下で説明される。
【0049】
ホルベックステータスリーブ10の内側又は内周面には、複数のらせん状の円周状ウェブ12が形成され、この円周状ウェブ12が一緒になって内部ホルベックねじ山14を形成し、その際、これらの各ウェブ12は、ホルベックステータスリーブ10の入口端部20を向いた第1のねじ山フランク16、及び入口端部20に背を向けている第2のねじ山フランク18を備える。換言すれば、第2のねじ山フランク18は、ホルベックステータスリーブ10の出口端部を向いている。
【0050】
また、
図7と
図8からも分かるように、ウェブ12は入口端部20付近において、第2のねじ山フランク18と、300°より小さい、特に270°より小さい優角の第1の角度α
1(
図8参照)を取り囲む、実質的に半径方向に向いた端面22を備える。
図7に描画されている実施形態では、第1の角度α
1は約210°であるが、他の実施形態によれば、第1の角度α
1は190°~260°であり得る。特に、第1の角度α
1は、200°~250°、好ましくは205°~225°であり得る。
【0051】
特に
図8からも分かるように、本発明によれば、それぞれのウェブ12の実質的に半径方向に整列した各端面22は、入口端部20においてホルベックステータスリーブ10の端面26と、またはホルベックステータスリーブ10の入口端部20が存在する面と、優角の第2の角度α
2を構成する。その際、この第2の角度α
2は、入口端部20におけるホルベックねじ部14の傾斜角βの隣接角よりも小さい。この場合、第2の角度α
2は、90°と160°の間、特に92°と140°の間、好ましくは95°と120°の間であり、これは、それぞれのウェブ12におけるホルベックステータスリーブ10の入口端部20から見て端面22が、アンダーカット24又はオーバーハングを形成することを意味する。
【0052】
したがって、
図6による従来のホルベックステータスリーブ形成と比較して、それぞれのウェブ12は、入口端部229の平面内にある従来の端面227(
図6)が省略されるように、入口端部20で面取りされている。代わりに、面取り部28により、本発明による入口端部20に対して傾斜した端面22が生じる。この場合、この面取り部28は、
図8において斜線部によって示されている。
【0053】
ここでは、面取り部28は、端面22が平坦な形状を有するか、又は平坦な面を形成するように形成されるが、面取り部28は、端面22が、例えば凸状又は凹状に形成することができる湾曲した輪郭を有するように形成することもできる。この場合、優角の第1の角度α1が、第2のねじ山フランク18と、任意の場所で端面22の湾曲した輪郭に接触する接線との間に延在する。例えば、凸状又は凹状の湾曲した端面22が第2のねじ山フランク18と交差する位置又は交差点を考慮すると、第2のねじ山フランク18と、湾曲した端面22と第2のねじ山フランク18との間の交差点に凸状又は凹状に湾曲した端面22に接する接線との間の優角の第1の角度α1がそこで延在する。
【0054】
半径方向において、端面12は、110°よりも小さい第3の角度α
3をホルベックステータスリーブ10の内側又は内周面30と取り囲み、この角度は、入口端部20又は入口端部20におけるホルベックステータスリーブ10の端面26が位置する平面内にある(
図7参照)。
【0055】
入口端部20付近のウェブ12の面取り部28によって、ホルベックステータスリーブ10への入口面積を最大20%にまで増加することができ、これは、より高い入口コンダクタンス、したがって、改善された吸引能力をもたらすが、ホルベックポンプ段の吸引能力は、入口端部20におけるホルベックステータスリーブ10の端面26が面取り部32を備えることによって、更に向上することができる。(ここでは、
図7参照)。この場合、この面取り部32はホルベックステータスリーブ10の内側に、つまり本発明による方法で、半径方向に整列された端面22を有するウェブ12が形成されているホルベックステータスリーブ10の側における入口端部20にある。
【0056】
内側にあるホルベックねじ山14を有するホルベックステータスリーブ10の構成を上述したが、このホルベックステータスリーブは、その外側にあるホルベックステータスリーブ167の代わりに
図1~
図5の真空ポンプ111に使用することができる。しかし、ポンプ111の内側にあるホルベックステータスリーブ169、特にその内側にあるホルベックねじ山は、ホルベックステータスリーブ10のものと同じ様に構成することができる。
【0057】
同様に、内側にあるホルベックステータスリーブ169の外側にあるホルベックねじ山、特にそのウェブは、ホルベックステータスリーブ10に対応する入口側、又は入口端部20におけるそのウェブ12に対応して形成することができる。内側にあるホルベックステータスリーブ169又は両側にあるホルベックステータスリーブ169の外側にあるウェブも、入口側に半径方向に整列した端面22を備えることができ、この端面は、中央のホルベックポンプ段の入口端部に背を向けているねじ山フランクと、300°より小さい、特に270°より小さい優角の第1の角度を取り囲む、その結果、外側にあるホルベックねじ山におけるウェブにアンダーカット又はオーバーハングを形成する。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の観点として以下も含む。
1.
真空ポンプ、特にターボ分子ポンプ(111)であって、
この真空ポンプは、ポンプ入口(115)、ポンプ出口(117)、及び少なくとも一つのホルベックポンプ段を備え、
このホルベックポンプ段は、内側と外側とを有するホルベックステータスリーブ(10)及びポンプ入口にポンプ方向と反対側に面する入口端部(20)を備え、
その際、ホルベックステータスリーブ(10)の内側(30)及び/又は外側には、複数のらせん状の円周状ウェブ(12)を有するホルベックねじ山(14)が形成されていて、
このウェブは、それぞれ入口端部(20)を向いた第1のねじ山フランク(16)、及び入口端部(20)に背を向けている第2のねじ山フランク(18)を備え、
その際、ウェブ(12)は少なくとも一つのホルベックポンプ段の入口端部(20)において、さらに、それぞれ半径方向に整列した端面(22)を備え、前記端面(22)は、第2のねじ山フランク(18)と、300°より小さい、特に270°より小さい優角の第1の角度(α
1
)を取り囲むことを特徴とする真空ポンプ。
2.
第1の角度(α
1
)は、190°~260°、特に200°~250°、好ましくは205°~245°であることを特徴とする上記1に記載の真空ポンプ。
3.
半径方向に配向した各端面(22)は、少なくとも1つのホルベックポンプ段の入口端部(20)が位置する平面と、優角の第2の角度(α
2
)を取り囲み、前記第2の角度(α
2
)は、入口端部(20)のホルベックねじ山(14)の傾斜角度(β)の隣接角よりも小さいことを特徴とする上記1又は2に記載の真空ポンプ。
4.
第2の角度(α
2
)は、90°~160°、特に92°~140°、好ましくは95°~120°であることを特徴とする上記1~3のいずれか一つに記載の真空ポンプ。
5.
半径方向に配向されている端面(22)は、ホーベックポンプ段の入口端部(20)から見て、ウェブ(12)上にアンダーカット(24)を形成することを特徴とする上記1~4のいずれか一つに記載の真空ポンプ。
6.
半径方向に配向した端面(26)はホルベックねじ山(14)が形成されているホルベックステータスリーブ(10)の周面(30)と、110°より小さい第3の角度(α
3
)を囲むことを特徴とする上記1~5のいずれか一つに記載の真空ポンプ。
7.
第3の角度(α
3
)は105°より小さい、特に100°より小さい、好ましくは、第3の角度(α
3
)が90°であることを特徴とする上記6に記載の真空ポンプ。
8.
ホルベックポンプ段の入口端部(20)におけるホルベックステータスリーブ(10)の端面(26)が、ウェブ(12)が半径方向に整列された端面(22)を備える側で面取りされていることを特徴とする上記1~7のいずれか一つに記載の真空ポンプ。
【符号の説明】
【0058】
10 ホルベックステータスリーブ
12 ウェブ
14 ホルベックねじ山
16 第1のねじ山フランク
18 第2のねじ山フランク
20 入口端部
22 端面
24 アンダーカット又はオーバーハング
26 入り口端部の端面
28 面取り部
30 内面又は内側の周面
32 面取り部
111 ターボ分子真空ポンプ
113 入口フランジ
115 ポンプ入口
117 ポンプ出口
119 ハウジング
121 下部
123 電子機器ハウジング
125 電気モータ
127 アクセサリポート
129 データインタフェース
131 電力供給ポート
133 通気入口
135 シールガスポート
137 モータスペース
139 冷却剤ポート
141 下側
143 ボルト
145 軸受カバー
147 固定孔
148 冷却剤ライン
149 ロータ
151 回転軸線
153 ロータシャフト
155 ロータディスク
157 ステータディスク
159 スペーサリング
161 ロータハブ
163 ホルベックロータスリーブ
165 ホルベックロータスリーブ
167 ホルベックステータスリーブ
169 ホルベックステータスリーブ
171 ホルベックギャップ
173 ホルベックギャップ
175 ホルベックギャップ
179 接続通路
181 転がり軸受
183 永久磁石軸受
185 スプレーナット
187 ディスク
189 インサート
191 ロータ側の軸受半体
193 ステータ側の軸受半体
195 リング磁石
197 リング磁石
199 軸受ギャップ
201 キャリヤ部分
203 キャリヤ部分
205 半径方向のブレース
207 カバー要素
209 支持リング
211 固定リング
213 皿バネ
215 緊急もしくは安全軸受
217 モータステータ
219 中間スペース
221 壁
223 ラビリンスシール
225 ウェブ
227 端面
229 入口端部
α1 第1の角度
α2 第2の角度
α3 第3の角度
β 傾斜角度