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特許7534475熱伝達抑制シート及びその製造方法、並びに組電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】熱伝達抑制シート及びその製造方法、並びに組電池
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/02 20060101AFI20240806BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20240806BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20240806BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20240806BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20240806BHJP
【FI】
F16L59/02
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/651
H01M10/658
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023053781
(22)【出願日】2023-03-29
【審査請求日】2024-05-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 達大
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-037091(JP,A)
【文献】特開2012-250882(JP,A)
【文献】特開2023-029174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/02
H01M 10/613
H01M 10/625
H01M 10/651
H01M 10/658
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式シリカ粒子を含み、内部に細孔を有する熱伝達抑制シートであって、
前記乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、25nm以下であり、
モード径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であることを特徴とする、熱伝達抑制シート。
【請求項2】
前記乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、7nm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項3】
前記細孔の全容積は、2.0(cc/g)以上であることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項4】
前記乾式シリカ粒子の含有量は、熱伝達抑制シート全質量に対して、50質量%以上80質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項5】
さらに、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の無機粒子を含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項6】
さらに、有機繊維を含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを製造する製造方法であって、
前記乾式シリカ粒子を含む材料混合物を、乾式法によりシート状に加工する加工工程を有し、前記乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、25nm以下であることを特徴とする、熱伝達抑制シートの製造方法。
【請求項8】
前記乾式シリカ粒子の含有量は、前記材料混合物の固形成分全質量に対して、50質量%以上80質量%以下であることを特徴とする、請求項7に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【請求項9】
前記材料混合物は、有機繊維を含み、
前記有機繊維は、その長手方向に延びる芯部と、前記芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部と、を備えた芯鞘構造を有するバインダ繊維を含むことを特徴とする、請求項7に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【請求項10】
複数の電池セルと、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝達抑制シート及びその製造方法、並びに該熱伝達抑制シートを有する組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車等の開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車等には、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
また、この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池等に比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。そして、電池の内部短絡や過充電等が原因で、ある電池セルが急激に昇温し、その後も発熱を継続するような熱暴走を起こした場合、熱暴走を起こした電池セルからの熱が、隣接する他の電池セルに伝播することで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
上記のような熱暴走を起こした電池セルからの熱の伝播を抑制する方法として、電池セル間に断熱シートを介在させる方法が一般的に行われている。
例えば、特許文献1には、シリカナノ粒子で構成される第1粒子と、金属酸化物からなる第2粒子と、を含み、第1粒子の含有量を限定した組電池用の断熱シートが開示されている。また、特許文献1には、断熱シートは、繊維、バインダ及び耐熱樹脂から選択された少なくとも1種からなる結合材を含んでいてもよいことが記載されている。
【0005】
また、上記特許文献1には、第1粒子として、乾式シリカ又は湿式シリカを使用することができ、この断熱シートは、乾式成形法又は湿式抄造法により製造することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2021-34278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近時の電気自動車(EV:Electric Vehicle)等に使用される組電池は、搭乗者の床下に配置されることがある。この場合に、搭乗者の安全を確保するためには、より一層優れた断熱性能を有する熱伝達抑制シートが要求される。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、優れた断熱性能を有する熱伝達抑制シート及びその製造方法、並びにこの熱伝達抑制シートを有する組電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、熱伝達抑制シートに係る下記[1]の構成により達成される。
【0010】
[1] 乾式シリカ粒子を含み、内部に細孔を有する熱伝達抑制シートであって、
前記乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、25nm以下であり、
モード径が68nm以下の前記細孔の合計容積は、前記細孔の全容積に対して10%以上であることを特徴とする、熱伝達抑制シート。
【0011】
また、熱伝達抑制シートに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[6]に関する。
【0012】
[2] 前記乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、7nm以上であることを特徴とする、[1]に記載の熱伝達抑制シート。
【0013】
[3] 前記細孔の全容積は、2.0(cc/g)以上であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の熱伝達抑制シート。
【0014】
[4] 前記乾式シリカ粒子の含有量は、熱伝達抑制シート全質量に対して、50質量%以上80質量%以下)であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0015】
[5] さらに、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の無機粒子を含むことを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0016】
[6] さらに、有機繊維を含むことを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0017】
本発明の上記目的は、熱伝達抑制シートの製造方法に係る下記[7]の構成により達成される。
【0018】
[7] [1]~[6]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シートを製造する製造方法であって、
前記乾式シリカ粒子を含む材料混合物を、乾式法によりシート状に加工する加工工程を有し、前記乾式シリカ粒子の平均一次粒子径は、25nm以下であることを特徴とする、熱伝達抑制シートの製造方法。
【0019】
また、熱伝達抑制シートの製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[8]~[9]に関する。
【0020】
[8] 前記乾式シリカ粒子の含有量は、前記材料混合物の固形成分全質量に対して、50質量%以上80質量%以下であることを特徴とする、[7]に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【0021】
[9] 前記材料混合物は、有機繊維を含み、
前記有機繊維は、その長手方向に延びる芯部と、前記芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部と、を備えた芯鞘構造を有するバインダ繊維を含むことを特徴とする、[7]又は[8]に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【0022】
本発明の上記目的は、組電池に係る下記[10]の構成により達成される。
【0023】
[10] 複数の電池セルと、[1]~[6]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。
【発明の効果】
【0024】
本発明の熱伝達抑制シートは、平均一次粒子径が制御された乾式シリカ粒子を含み、内部に細孔を有し、所定以下の径を有する細孔の容積率を限定しているため、優れた断熱性能を得ることができる。
【0025】
また、本発明の熱伝達抑制シートの製造方法によれば、平均一次粒子径が制御された乾式シリカ粒子を使用して、乾式法により上記熱伝達抑制シートを製造するため、細孔のサイズ及び容積率を制御することができ、優れた断熱性能を有する熱伝達抑制シートを容易に製造することができる。
【0026】
本発明の組電池によれば、上記のように優れた断熱性能を有する熱伝達抑制シートを有するため、組電池における電池セルの熱暴走や、電池ケースの外側への炎の拡大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートの一部を拡大して示す模式図である。
図2図2は、横軸を乾式シリカ粒子の比表面積とし、縦軸を熱伝達抑制シートにおける非加熱面ピーク温度とした場合の、乾式シリカ粒子の比表面積と断熱性能との関係を示すグラフ図である。
図3図3は、縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、乾式シリカ粒子の平均一次粒子径毎の細孔径分布を示すグラフ図である。
図4図4は、縦軸を細孔径(モード径)とし、横軸を乾式シリカ粒子の平均一次粒子径とした場合の、平均一次粒子径と細孔径との関係を示すグラフ図である。
図5図5は、縦軸をモード径が68nm以下である細孔の容積率とし、横軸を乾式シリカ粒子の平均一次粒子径とした場合の、平均一次粒子径と容積率との関係を示すグラフ図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る組電池を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者は、断熱性能をより一層向上させることができる熱伝達抑制シートについて、鋭意検討を行った。その結果、熱伝達抑制シートに乾式シリカを含有させ、乾式シリカの平均一次粒子径を適切に規定するとともに、熱伝達抑制シート内に形成された所定のサイズの細孔の容積率を規定することが効果的であることを見出した。
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シート及びその製造方法、並びに組電池について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0030】
[熱伝達抑制シート]
図1は、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートの一部を拡大して示す模式図である。図1に示すように、熱伝達抑制シート10は、乾式シリカ粒子1を含み、内部に複数の細孔2を有する。なお、乾式シリカ粒子1は、例えば、バインダ部3によって保持されている。まず、乾式シリカ粒子1及び細孔2について詳細に説明する。
【0031】
<乾式シリカ粒子>
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10に含有される乾式シリカ粒子1は、断熱性が高いシリカからなり、例えば、球形又は球形に近い形状を有し、平均一次粒子径が25nm以下のナノ粒子である。このようなナノ粒子は低密度であるため伝導伝熱を抑制し、細孔が細かく分散するため、対流伝熱を抑制する優れた断熱性を得ることができる。
また、乾式シリカ粒子1は優れた圧縮特性を有するため、熱伝達抑制シート10を複数の組電池の間に介在させた組電池において、優れた効果を得ることができる。具体的に、電池セルの熱暴走に伴う膨張によって熱伝達抑制シート10が圧縮され、内部の密度が上がった場合であっても、熱伝達抑制シート10の伝導伝熱の上昇を抑制する効果を有する。これは、ナノ粒子が静電気による反発力で粒子間に細かな空隙ができやすく、かさ密度が低いため、クッション性があるように粒子が充填されるからであると考えられる。
【0032】
(乾式シリカ粒子の平均一次粒子径:25nm以下)
図2は、横軸を乾式シリカ粒子1の比表面積とし、縦軸を熱伝達抑制シートにおける非加熱面ピーク温度とした場合の、乾式シリカ粒子1の比表面積と断熱性能との関係を示すグラフ図である。縦軸の非加熱面ピーク温度は、種々の平均一次粒子径を有する乾式シリカ粒子1を使用して作成した熱伝達抑制シートについて、所定の圧力にて加圧した状態にて、一対の主面のうち一方の主面に対して、例えば800℃の温度で所定の時間加熱し、他方の主面のピーク温度を測定した値である。なお、これらの熱伝達抑制シートは、全て互いに同一の条件で製造されたものであり、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径のみを変化させている。また、図2中には、それぞれの平均一次粒子径を有する乾式シリカ粒子の凝集粒径及び水分率も併せて示している。
【0033】
図2に示すように、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が30nmである場合に、非加熱面ピーク温度は190℃を超え、優れた断熱性能を得ることができない。これは、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が大きいと、粒子同士の接触面積が増加し、粒子同士の接点は減少するため、固体間を熱が伝導される熱伝導が増加するからであると考えられる。一方、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が25nm以下であると、図1に示すように、乾式シリカ粒子1同士の接触面積が減少し、粒子同士の接点が増加(界面抵抗が増加)するため、固体間の熱伝導4が減少する。したがって、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径は、25nm以下とし、20nm以下とすることが好ましく、15nm以下とすることがより好ましい。
【0034】
一方、本実施形態において、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径の下限は特に限定しない。上述のとおり、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が小さい方が、熱伝導4が減少して断熱性能が向上する。しかし、熱伝達抑制シート10の保管条件等によっては、乾式シリカ粒子1の比表面積が大きくなるに従って、熱伝達抑制シート10への水分の吸着量が増加することがある。そして、熱伝達抑制シート10に含まれる水分量が増加すると、粒子同士が凝集して接触面積が増加するとともに、図2に示すように凝集粒径が大きくなるため熱伝達抑制シート10内に形成される細孔2の径も大きくなる。その結果、熱伝導や対流による熱の伝達が増加するため、断熱性能は飽和する。したがって、熱伝達抑制シート10への水分の吸着を抑制し、断熱性能をより一層向上させるためには、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径は、7nm以上であることが好ましい。
【0035】
なお、平均一次粒子径が25nm以下である乾式シリカ粒子1は、ゆるみかさ密度が0.005(g/cm)程度である。したがって、例えば、熱伝達抑制シート10の両側に配置された電池セルが熱膨張し、熱伝達抑制シート10に対して大きな圧縮応力が加わった場合であっても、乾式シリカ粒子1同士の接点の大きさ等が著しく大きくなることはなく、断熱性を維持することができる。
【0036】
(乾式シリカ粒子の含有量:50質量%以上80質量%以下
熱伝達抑制シート中の乾式シリカ粒子の、熱伝達抑制シート全質量に対する含有量が適切に規定されていると、後述する所定のモード径を有する細孔の容積率を制御することができる。すなわち、後述する細孔の容積率を得るためには、乾式シリカ粒子の含有量は、50質量%以上、80質量%以下であることが好ましい。なお、熱伝達抑制シートちゅうの乾式シリカ粒子の含有量は、蛍光X線分析(XRF:X-Ray Fluorescence)やICP発光分光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)等の化学分析法によって測定することができる。
【0037】
<細孔>
(モード径が68nm以下である細孔の合計容積:10%以上)
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、内部に複数の細孔2を有する。以下、細孔2の大きさの断熱性能に対する影響について、詳細に説明する。図3は、縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径とした場合の、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径毎の細孔径分布を示すグラフ図である。図4は、縦軸を細孔径(モード径)とし、横軸を乾式シリカ粒子の平均一次粒子径とした場合の、平均一次粒子径と細孔径との関係を示すグラフ図である。図5は、縦軸をモード径が68nm以下である細孔の容積率とし、横軸を乾式シリカ粒子の平均一次粒子径とした場合の、平均一次粒子径と容積率との関係を示すグラフ図である。なお、図3において、細孔径が100nm以下の範囲で現れているピークは、乾式シリカ粒子1の一次粒子に由来する細孔を表す。また、細孔径が100nmを超える範囲で現れているなだらかなピークは、乾式シリカ粒子1の二次粒子、三次粒子に由来する細孔を表す。
【0038】
細孔2の大きさは、断熱性能に影響を及ぼす。すなわち、細孔2の大きさが空気の平均自由工程である68nmを超えると、分子同士の衝突、及び分子と壁面との衝突が発生し、対流及び熱伝導の両方により熱が伝達される。一方、細孔2の大きさが空気の平均自由工程以下であると、分子同士の衝突よりも分子と壁面との衝突が支配的となり、対流による熱の伝達が抑制される。そこで、本発明者は、空気の平均自由工程である68nm以下の径を有する細孔2の容積率を規定することにより、対流による熱伝達を抑制し、より一層断熱性能を向上させることができることを見出した。
【0039】
モード径が68nm以下である細孔2の合計容積が、細孔2の全容積に対して10%未満であると、対流及び熱伝導によって熱が伝達されるため、優れた断熱性能を得ることができない。したがって、モード径が68nm以下である細孔2の合計容積は、細孔2の全容積に対して10%以上とし、15%以上であることが好ましい。
一方、本実施形態において、モード径が68nm以下である細孔2の合計容積率の上限は特に限定されない。
【0040】
なお、本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、乾式シリカ粒子の他にも種々の成分が含有されることがあるが、意図的にナノオーダーの材料が多量に含有されない限り、68nm以下の細孔の合計容積の割合が変化することはない。
【0041】
ここで、熱伝達抑制シート10の内部に形成された細孔2のモード径及び容積は、水銀圧入法により求めることができる。また、モード径が68nm以下である細孔2の合計容積率Vrは、以下の式により算出することができる。
【0042】
Vr=(Vs/Va)×100
ただし、Vsは、モード径が68nm以下となった細孔2の全容積を表し、Vaは、全細孔の合計容積Vaを表す。また、Vrは、モード径が68nm以下である細孔2の合計容積率を表す。
【0043】
(細孔の全容積:2.0(cc/g)以上)
本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、平均一次粒子径が25nm以下である乾式シリカ粒子を含んでおり、内部に複数の細孔が形成されている。特に、乾式法により熱伝達抑制シートを製造することにより、全てのサイズの細孔の全容積(合計容積)を大きくすることができ、これにより、断熱性を向上させることができる。したがって、細孔の全容積は、熱伝達抑制シートの単位質量に対して、2.0(cc/g)以上であることが好ましい。
【0044】
なお、図4に示すように、熱伝達抑制シート10に形成される細孔のモード径は、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径に比例する。また、図5に示すように、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が大きくなるに従って、68nm以下の細孔の容積率は減少する。特に、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径が25nmを超えた場合に、68nm以下の細孔の容積率が10%を下回り、断熱性能が著しく低下する。これらのことから、68nm以下の細孔の容積率を上記範囲に制御するためには、平均一次粒子径が25nm以下である乾式シリカ粒子1を使用する必要があることがわかる。
【0045】
次に、本実施形態に係る熱伝達抑制シートに含有される成分について、さらに詳細に説明する。
【0046】
<その他の無機粒子>
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、無機粒子として乾式シリカ粒子のみを含有していても、他の無機粒子を含有していてもよい。他の無機粒子の種類としては、熱伝達抑制効果の観点から、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子を使用することが好ましく、酸化物粒子を使用することがより好ましい。また、形状についても特に限定されないが、中空粒子及び多孔質粒子から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、具体的には、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することもできる。
【0047】
なお、上記乾式シリカ粒子1の他に、1種又は2種以上の熱伝達抑制効果が互いに異なる無機粒子を併用すると、発熱体を多段に冷却することができ、吸熱作用をより広い温度範囲で発現できる。具体的には、大径粒子を混合使用すると、大径の無機粒子同士の隙間に小径の乾式シリカ粒子が入り込むことにより、より緻密な構造となり、熱伝達抑制効果を向上させることができる。以下、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10に含有されていてもよい乾式シリカ粒子以外の無機粒子についてさらに詳細に説明する。
【0048】
(酸化物粒子)
酸化物粒子は屈折率が高く、光を乱反射させる効果が強いため、酸化物粒子を使用すると、特に異常発熱などの高温度領域において輻射伝熱を抑制することができる。酸化物粒子としては、チタニア、ジルコニア、ジルコン、チタン酸バリウム、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の金属酸化物粒子を使用することが好ましい。なお、乾式シリカ粒子1の他に、上記酸化物粒子として、1種のみが含有されていても、2種以上が含有されていてもよい。特に、チタニアは他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であって、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高い。したがって、本実施形態においては、乾式シリカ粒子1の他に、チタニアを含むことが好ましい。
【0049】
(酸化物粒子の平均一次粒子径:1μm以上50μm以下)
本実施形態において、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径については上述のとおりであるが、その他に熱伝達抑制シート10に含まれていてもよい酸化物粒子は、輻射熱を反射する効果に影響を与えることがある。したがって、他の酸化物粒子の平均一次粒子径についても、所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。
【0050】
乾式シリカ粒子1以外の酸化物粒子の平均一次粒子径が1μm以上であると、加熱に寄与する光の波長よりも十分に大きく、光を効率よく乱反射させるため、500℃以上の高温度領域において熱伝達抑制シート内における熱の輻射伝熱が抑制され、より一層断熱性を向上させることができる。
一方、乾式シリカ粒子1以外の酸化物粒子の平均一次粒子径が50μm以下であると、圧縮されても粒子間の接点や数が増えず、伝導伝熱のパスを形成しにくいため、特に伝導伝熱が支配的な通常温度域の断熱性への影響を小さくすることができる。
したがって、乾式シリカ粒子1以外の酸化物粒子の平均一次粒子径は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、5μm以上30μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。
【0051】
なお、本実施形態において、熱伝達抑制シート10に含まれる各粒子の平均一次粒子径は、顕微鏡で粒子を観察し、標準スケールと比較し、任意の粒子10個の平均をとることにより求めることができる。
【0052】
(炭化物粒子)
炭化物粒子としては、炭化ケイ素が挙げられる。
【0053】
(無機水和物粒子)
無機水和物粒子は、発熱体からの熱を受けて熱分解開始温度以上になると熱分解し、自身が持つ結晶水を放出して発熱体及びその周囲の温度を下げる、所謂「吸熱作用」を発現する。また、結晶水を放出した後は多孔質体となり、無数の空気孔により断熱作用を発現する。
無機水和物の具体例として、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化亜鉛(Zn(OH))、水酸化鉄(Fe(OH))、水酸化マンガン(Mn(OH))、水酸化ジルコニウム(Zr(OH))、水酸化ガリウム(Ga(OH))等が挙げられる。
【0054】
例えば、水酸化アルミニウムは約35%の結晶水を有しており、下記式に示すように、熱分解して結晶水を放出して吸熱作用を発現する。そして、結晶水を放出した後は多孔質体であるアルミナ(Al)となり、断熱材としての機能を有するものとなる。
2Al(OH)→Al+3H
【0055】
なお、後述するように、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、例えば、電池セル間に介在されることが好適であるが、熱暴走を起こした電池セルでは、200℃を超える温度に急上昇し、700℃付近まで温度上昇を続ける。したがって、熱分解開始温度が200℃以上である無機水和物からなる無機粒子を含有することも好ましい。
上記に挙げた無機水和物の熱分解開始温度は、水酸化アルミニウムは約200℃、水酸化マグネシウムは約330℃、水酸化カルシウムは約580℃、水酸化亜鉛は約200℃、水酸化鉄は約350℃、水酸化マンガンは約300℃、水酸化ジルコニウムは約300℃、水酸化ガリウムは約300℃であり、いずれも熱暴走を起こした電池セルの急激な昇温の温度範囲とほぼ重なり、温度上昇を効率よく抑えることができることから、好ましい無機水和物であるといえる。
【0056】
(無機水和物粒子の平均二次粒子径:0.01μm以上200μm以下)
熱伝達抑制シートが無機水和物粒子を含む場合に、その平均粒子径が大きすぎると、熱伝達抑制シート10の中心付近にある無機水和物粒子が、その熱分解温度に達するまでにある程度の時間を要するため、シート中心付近の無機水和物粒子が熱分解しきれない場合がある。このため、無機水和物粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0057】
(熱膨張性無機材料からなる粒子)
熱伝達抑制シート10は、熱膨張性無機材料からなる粒子を含むことも好ましい。熱膨張性無機材料としては、バーミキュライト、ベントナイト、雲母、パーライト等を挙げることができる。
【0058】
(含水多孔質体からなる粒子)
熱伝達抑制シート10は、含水多孔質体からなる粒子を含むことも好ましい。含水多孔質体の具体例としては、ゼオライト、カオリナイト、モンモリロナイト、酸性白土、珪藻土、エアロゲル、マイカ、バーミキュライト等が挙げられる。
【0059】
(無機バルーン)
熱伝達抑制シート10は、無機バルーンを含むことも好ましい。無機バルーンは、500℃未満の温度領域において、熱伝達抑制シート10内における熱の対流伝熱又は伝導伝熱を抑制する効果を有するため、熱伝達抑制シート10の断熱性能をより一層向上させることができる。無機バルーンとしては、シラスバルーン、シリカバルーン、フライアッシュバルーン、バーライトバルーン、およびガラスバルーンから選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0060】
なお、熱伝達抑制シート10中の無機粒子の含有量は、例えば、熱伝達抑制シートを800℃で加熱し、有機分を分解後、残部の質量を測定することにより、算出することができる。
【0061】
また、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10には、上記乾式シリカ粒子1及びその他の無機粒子の他に、有機繊維や無機繊維が含まれていてもよい。さらに、これらの全ての繊維及び粒子は、有機材料を含むバインダ部3によって保持されていてもよい。
【0062】
<有機繊維>
熱伝達抑制シート10が有機繊維を含んでいると、シートの強度及び形状を保持することができる。有機繊維を構成する有機材料は特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種からなる有機繊維が挙げられる。
【0063】
(有機繊維の繊維長)
有機繊維の繊維長については特に限定されないが、成形性や加工性を確保する観点から、有機繊維の平均繊維長は10mm以下とすることが好ましい。
一方、有機繊維を骨格として機能させ、熱伝達抑制シートの圧縮強度を確保する観点から、有機繊維の平均繊維長は0.5mm以上とすることが好ましい。
【0064】
(有機繊維の含有量)
本実施形態において、熱伝達抑制シート10における有機繊維の含有量が適切に制御されていると、骨格の補強効果を十分に得ることができる。
有機繊維の含有量は、熱伝達抑制シート10の全質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、有機繊維の含有量が多くなりすぎると、乾式シリカ粒子1の含有量が相対的に減少するため、所望の断熱性能を得るためには、有機繊維の含有量は、熱伝達抑制シート全質量に対して25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0065】
(芯鞘構造のバインダ繊維)
有機繊維として、繊維の長手方向に延びる芯部と、この芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維を含んでいてもよい。芯鞘構造のバインダ繊維において、芯部を構成する有機材料よりも鞘部を構成する有機材料の方が、融点が低いことが好ましい。熱伝達抑制シート10を製造する温度や、芯部及び鞘部を構成する有機材料の融点によっては、熱伝達抑制シートの製造時において、芯部のみが有機繊維の形状で残存し、鞘部は無機粒子を含んだ状態でバインダ部となり、その一部が芯部に溶着する。このように、芯鞘構造のバインダ繊維を使用すると、熱伝達抑制シート10としての強度及び形状を保持する効果と、乾式シリカ粒子1を含む無機粒子や、その他の材料の保持性を向上させる効果の両方を実現することができる。
【0066】
なお、芯鞘構造を有さない有機繊維を使用した場合であっても、温度設定によっては、有機繊維の芯部を残して表面のみを溶融させ、表面に無機粒子を被着させることができる。これにより、熱伝達抑制シート10としての強度及び形状を保持する効果と、無機粒子等の保持性を向上させる効果の両方を実現することができる。ただし、製造時の温度調整が困難となるため、熱伝達抑制シート10を構成する材料として有機繊維を使用する場合は、芯鞘構造のバインダ繊維を使用することがより好ましい。
【0067】
芯部を構成する有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種を選択することができる。また、鞘部を構成する有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種を選択することができる。鞘部を構成する有機材料の融点は、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、150℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましい。また、芯部を構成する有機材料の融点は、鞘部を構成する有機材料の融点よりも60℃以上高いことが好ましく、70℃以上高いことがより好ましく、80℃以上高いことがさらに好ましい。
【0068】
上記のような芯鞘構造を有するバインダ繊維は、一般的に市販されており、芯部と鞘部を構成する材質は、同一でも互いに異なっていてもよい。芯部及び鞘部が同一の材質であって、異なる融点を有するバインダ繊維の例としては、例えば、芯部及び鞘部がポリエチレンテレフタレートからなるもの、ポリプロピレンからなるもの、ナイロンからなるもの等が挙げられる。芯部及び鞘部が互いに異なる材質からなるバインダ繊維の例としては、芯部がポリエチレンテレフタレートからなり、鞘部がポリエチレンからなるもの、芯部がポリプロピレンからなり、鞘部がポリエチレンからなるもの等が挙げられる。
【0069】
本実施形態において、バインダ繊維の鞘部を構成する有機材料の融点とは、この有機材料が融解変形し始める融解温度を表すが、形状変化を伴う軟化も、融解変形の1種と判断する。バインダ繊維の鞘部の融点は、例えば、以下の方法により測定することができる。
測定対象とするバインダ繊維を、より融点が高いガラス繊維と接するように配置し、室温から5℃/分の昇温速度で、例えば200℃まで加熱して、その後室温まで冷却する。このとき、バインダ繊維の表面が融解変形して、ガラス繊維と接している部分で融着しているか、又は、バインダ繊維の断面形状が変化していれば、鞘部を構成する有機材料の融点が200℃以下であると判断することができる。本実施形態においては、加熱温度を種々に変化させて、上記の方法で冷却後のバインダ繊維とガラス繊維との融着状態、又はバインダ繊維の断面形状を観察することにより、鞘部を構成する有機材料の融点を特定することができる。
【0070】
(その他の有機材料)
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、その他の有機材料として、ホットメルトパウダーを含んでいてもよい。ホットメルトパウダーは、加熱により溶融する性質を有する粉体である。熱伝達抑制シート10の材料としてホットメルトパウダーを使用する場合に、熱伝達抑制シート10の製造時に、材料混合物を加熱することによりホットメルトパウダーが溶融する。その後、材料混合物を冷却すると、溶融状態となったホットメルトパウダーが乾式シリカ粒子1等の周囲の材料を含んだ状態で硬化して、バインダ部3が形成される。これにより、材料の保持力をより一層高めることができる。なお、ホットメルトパウダーを構成する成分としては、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、エチレン酢酸ビニル等が挙げられる。
【0071】
[熱伝達抑制シートの製造方法]
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10の製造方法は、乾式シリカ粒子1を含む材料混合物を、乾式法によりシート状に加工する加工工程を有する。熱伝達抑制シートの製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0072】
(加工工程)
まず、乾式シリカ粒子1と、任意の材料、例えばバインダ材料とを所定の割合でV型混合機などの混合機に投入し、材料混合物を作製する。本実施形態においては、乾式法により熱伝達抑制シート10を製造するため、材料混合物には、湿式法により成形する際に必要な水等の溶媒を添加しない。ただし、熱伝達抑制シート10の製造時に、乾式シリカ粒子1等の粉体が舞って、原料の取り扱いが困難になることを防止するため、本実施形態においては、乾式法とされる範囲内で少量の水などの溶媒を添加してもよい。例えば、材料混合物に水などの少量の溶媒を添加することにより、製造時における乾式シリカ粒子1の飛散をより一層抑制することができる。
【0073】
その後、得られた材料混合物を所定の型内に投入し、プレス機等により加圧して、得られた成形体(図示せず)を加熱する。このとき、加熱によりバインダ材料が溶融する。その後、加熱された材料混合物を冷却すると、溶融した状態となったバインダ材料が乾式シリカ粒子1等の周囲の材料を含んだ状態で硬化して、バインダ部3が形成される。これにより、シート状に加工された熱伝達抑制シート10を得ることができる。
【0074】
本発明において、加圧条件等の製造条件については特に限定されない。材料混合物の質量と、熱伝達抑制シート10をシート状に加工するための成形型の体積等を適宜調整することにより、熱伝達抑制シート10を得ることができる。
【0075】
本実施形態に係る製造方法において使用する乾式シリカ粒子1は、上記[熱伝達抑制シート]の欄で説明した乾式シリカ粒子1であり、平均一次粒子径が25nm以下である。このように、平均一次粒子径を厳密に制御した乾式シリカ粒子1を使用することにより、モード径が68nm以下の細孔2の合計容積を、細孔の全容積に対して10%以上とすることができる。その結果、上述のとおり、従来の熱伝達抑制シートと比較して、断熱性をより一層向上させることができる。
【0076】
なお、バインダ材料として、芯鞘構造のバインダ繊維を使用する場合に、加熱温度を適切に調整することにより、芯部を残して鞘部を溶融させることができる。具体的に、加熱温度は、鞘部を構成する有機材料の融点よりも高く、芯部を構成する有機材料の融点よりも低い温度とすることが好ましい。
【0077】
加熱する工程における加熱温度は、鞘部を構成する有機材料の融点よりも10℃以上高く設定することが好ましく、20℃以上高く設定することがより好ましい。一方、加熱温度は、芯部を構成する有機繊維の融点よりも10℃以上低く設定することが好ましく、20℃以上低く設定することがより好ましい。また、加熱時間については特に限定されないが、鞘部を十分に溶融させることができるための加熱時間を設定することが好ましい。例えば、3分以上15分以内に設定することができる。
【0078】
本実施形態に係る熱伝達抑制シートにおいて、バインダ材料として、芯鞘構造のバインダ繊維を使用する場合に、芯部を残して鞘部を溶融させたうえで、材料混合物を冷却すると、芯部により、熱伝達抑制シートの強度を確保することができる。また、冷却後に、乾式シリカ粒子等を含んだバインダ部3が形成されるため、乾式シリカ粒子等を保持することができる。また、芯部の周囲には乾式シリカ粒子を含んだ状態でバインダ部が溶着し、芯部は太い繊維径を有するものとなるため、高強度の熱伝達抑制シートを得ることができる。さらに、材料混合物中に芯鞘構造のバインダ繊維が不規則な方向で存在しており、一部でバインダ繊維同士が接触していると、隣接している芯部同士が、鞘部の溶融により形成されたバインダ部によって互いに融着され、立体的な骨格が形成される。その結果、熱伝達抑制シートの全体の形状をより一層高強度に保持することができる。
【0079】
なお、熱伝達抑制シート10の材料として、ホットメルトパウダー等の接着剤を使用することもできる。ホットメルトパウダーの種類及び含有量を適切に調整すると、乾式シリカ粒子1等の保持力を向上させ、粉落ちをより一層抑制することができる。
【0080】
粉落ちをより一層抑制するために、熱伝達抑制シート10の表面をフィルム等で被覆してもよい。高分子フィルムとしては、ポリイミド、ポリカーボネート、PET、p-フェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、架橋ポリエチレン、難燃クロロプレンゴム、ポリビニルデンフロライド、硬質塩化ビニル、ポリブチレンテレフタレート、PTFE、PFA、FEP、ETFE、硬質PCV、難燃性PET、ポリスチレン、ポリエーテルサルホン、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド等からなるフィルムが挙げられる。熱伝達抑制シート10の表面をフィルムで被覆する方法については特に限定されず、接着剤等により貼付する方法や、熱伝達抑制シート10をフィルムで包む方法、熱伝達抑制シート10をフィルムによってシュリンク包装する方法、袋状のフィルムに熱伝達抑制シート10を収容する方法等が挙げられる。
【0081】
本実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法において、乾式シリカ粒子1、並びに材料として含有されていてもよい他の無機粒子及び有機繊維等の、材料混合物中の固形成分全質量に対する含有量は、上記熱伝達抑制シート10中の各成分の好ましい含有量と同様である。すなわち、材料混合物中の固形成分全質量に対する、乾式シリカ粒子1の含有量は、50質量%以上であることが好ましい。また、材料混合物中の固形成分全質量に対する、乾式シリカ粒子1の含有量は、80質量%以下であることが好ましい。
【0082】
また、骨格の補強効果及び材料の保持効果を得るために、材料混合物中に有機繊維(芯鞘構造のバインダ繊維)を混合する場合に、材料混合物中の固形成分全質量に対する有機繊維の含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。一方、所望の断熱性能を得るために、材料混合物中の固形成分全質量に対する有機繊維の含有量は、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0083】
粉落ち抑制の効果を得るために、材料混合物中にホットメルトパウダーを混合する場合に、材料混合物中の固形成分全質量に対するホットメルトパウダーの含有量は、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、所望の断熱性能を得るために、材料混合物中にホットメルトパウダーを混合する場合に、材料混合物中の固形成分全質量に対するホットメルトパウダーの含有量は、5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。
【0084】
<熱伝達抑制シートの厚さ>
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10の厚さは特に限定されないが、0.05mm以上10mm以下であることが好ましい。厚さが0.05mm以上であると、充分な圧縮強度を得ることができる。一方、厚さが10mm以下であると、熱伝達抑制シート10の良好な断熱性を得ることができる。
【0085】
[組電池]
図6は、本発明の実施形態に係る組電池を示す模式図である。本実施形態に係る組電池100は、複数の電池セル20a、20b、20cと、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10と、を有し、該複数の電池セル20a、20b、20cが直列又は並列に接続されたものである。
例えば、図6に示すように、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、電池セル20aと電池セル20bとの間、及び電池セル20bと電池セル20cとの間に介在されている。さらに、電池セル20a、20b、20c及び熱伝達抑制シート10は、電池ケース30に収容されている。
なお、熱伝達抑制シート10については、上述したとおりである。
【0086】
このように構成された組電池100においては、ある電池セル20aが高温になった場合でも、電池セル20bとの間には、優れた熱伝達抑制効果を有する熱伝達抑制シート10が存在しているため、電池セル20bへの熱の伝播を抑制することができる。
また、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、乾式シリカ粒子1を含有しており、高い圧縮強度を有するため、電池セル20a、20b、20cの充放電時においても、これら電池セルの熱膨張を抑制することができる。したがって、電池セル間の距離を確保することができ、優れた断熱性能を維持することができ、電池セルの熱暴走を防止することができる。
【0087】
なお、本実施形態の組電池100は、図6に例示した組電池に限定されない。具体的には、電池セル20aと電池セル20bとの間、及び電池セル20bと電池セル20cとの間のみでなく、電池セル20a、20b、20cと電池ケース30との間に、熱伝達抑制シート10を配置することもできる。
【0088】
このように構成された組電池100においては、ある電池セルが発火した場合に、電池ケース30の外側に炎が広がることを抑制することができる。
例えば、本実施形態に係る組電池100は、電気自動車(EV:Electric Vehicle)等に使用され、搭乗者の床下に配置されることがある。この場合に、仮に電池セルが発火しても、搭乗者の安全を確保することができる。
また、熱伝達抑制シート10を、各電池セル間に介在させるだけでなく、電池セル20a、20b、20cと電池ケース30との間に配置することができるため、新たに防炎材等を作製する必要がなく、容易に低コストで安全な組電池100を構成することができる。
【0089】
本実施形態の組電池において、電池セル20a、20b、20cと電池ケース30との間に配置された熱伝達抑制シート10と、電池セルとは、接触していても、隙間を有していてもよい。ただし、熱伝達抑制シート10と電池セル20a、20b、20cとの間に隙間を有していると、複数ある電池セルのうち、いずれかの電池セルの温度が上昇し、体積が膨張した場合であっても、電池セルの変形を許容することができる。
【0090】
なお、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、その製造方法によって、種々の形状に作製することができる。したがって、電池セル20a、20b、20c及び電池ケース30の形状に影響されず、どのような形状のものにも対応させることができる。具体的には、角型電池の他、円筒形電池、平板型電池等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 乾式シリカ粒子
2 細孔
3 バインダ部
4 熱伝導
10 熱伝達抑制シート
20a,20b,20c 電池セル
30 電池ケース
100 組電池
【要約】
【課題】優れた断熱性能を有する熱伝達抑制シート及びその製造方法、並びにこの熱伝達抑制シートを有する組電池を提供する。
【解決手段】熱伝達抑制シート10は、乾式シリカ粒子1を含み、内部に細孔2を有する。この乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径は、25nm以下であり、モード径が68nm以下の細孔の合計容積は、細孔の全容積に対して10%以上である。熱伝達抑制シート10の製造方法は、乾式シリカ粒子1を含む材料混合物を、乾式法によりシート状に加工する加工工程を有し、乾式シリカ粒子1の平均一次粒子径は、25nm以下である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6