(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】線状粘着体
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20240806BHJP
C09J 7/20 20180101ALI20240806BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20240806BHJP
C09J 121/00 20060101ALI20240806BHJP
C09J 129/10 20060101ALI20240806BHJP
C09J 183/04 20060101ALI20240806BHJP
C09J 167/00 20060101ALI20240806BHJP
C09J 177/00 20060101ALI20240806BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20240806BHJP
C09J 127/12 20060101ALI20240806BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J7/20
C09J133/04
C09J121/00
C09J129/10
C09J183/04
C09J167/00
C09J177/00
C09J175/04
C09J127/12
C09J163/00
(21)【出願番号】P 2023085568
(22)【出願日】2023-05-24
(62)【分割の表示】P 2019027782の分割
【原出願日】2019-02-19
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2018028998
(32)【優先日】2018-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018125111
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018137760
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 淳
(72)【発明者】
【氏名】巻幡 陽介
(72)【発明者】
【氏名】水原 銀次
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-001865(JP,A)
【文献】特開平10-306267(JP,A)
【文献】特開2011-246501(JP,A)
【文献】特開2001-342447(JP,A)
【文献】特開平08-100161(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0284151(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/38
C09J 7/20
C09J 133/04
C09J 121/00
C09J 127/12
C09J 129/10
C09J 163/00
C09J 167/00
C09J 175/04
C09J 177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤層と線状の芯材を含む線状粘着体であって
、
前記粘着剤層のゲル分率が5~70%であり、
前記線状粘着体は、40℃で7日間保存後の前記粘着剤層のゲル分率の変化量が-5%~5%であり、
前記粘着剤層のゲル分率の変化量は、前記線状粘着体の前記粘着剤層のゲル分率(F1)と、40℃で7日間保存後の前記線状粘着体の前記粘着剤層のゲル分率(F2)とを測定し、以下の式(2)に代入することにより求められ、
前記粘着剤層の表面が互いに接触した線状粘着体。
ゲル分率の変化量(%)=F2-F1 (2)
【請求項2】
前記粘着剤層は粘着剤組成物により形成される粘着剤からなり、
前記粘着剤はアクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ウレタン系粘着剤、フッ素系粘着剤、エポキシ系粘着剤から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の線状粘着体。
【請求項3】
前記粘着剤組成物は、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、及びケトン系樹脂から選択される少なくとも1種の粘着付与樹脂を含む、請求項2に記載の線状粘着体。
【請求項4】
前記線状粘着体は、前記芯材の長手方向の表面が前記粘着剤層で被覆されている、請求項1
~3のいずれか一項に記載の線状粘着体。
【請求項5】
前記線状粘着体がロール状に巻回された形態、又は複数の前記線状粘着体が積層された形態である、請求項1
~4のいずれか一項に記載の線状粘着体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着性物品に関し、より詳細には、セパレータが不要な粘着性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着シートや粘着テープが、金属、ガラス、木材、紙、ダンボール、プラスチック材料等の各種被着体の接着などに用いられている。このような粘着シートは、通常、被着体へ貼り付けるまでの間、粘着面を保護するために、粘着面がセパレータ(剥離シート)で保護されている。また、ロール状の粘着テープのような巻回された形態の場合には、巻き戻しを容易にするため、粘着面が接触する背面に剥離処理を施した基材が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水分散型感圧接着剤組成物をセパレータ基材上に塗布し、熱架橋して粘着剤層を形成した粘着シートが記載されている。
【0004】
しかしながら、セパレータを用いた粘着シートにおいて、使用時に剥離されるセパレータは剥離後に廃棄されるため、省資源化や低コスト化の観点からは、その使用は望ましくない。また、使用者が手袋をしながら使用する場合や、使用される粘着シートあるいは粘着テープの大きさが小さい場合には、粘着シートからセパレータを剥離する際や粘着テープを巻き戻す際の作業性が悪いという問題がある。したがって、セパレータや基材裏面の剥離処理を必要としない粘着シートあるいは粘着テープが提供できれば、有用であると考えられる。
【0005】
このような粘着シートとして、特許文献2には、常温では粘着性が低く、一方、加熱した場合に粘着性を発現する、粘着シートおよび粘着テープなどに有用な感熱粘着剤組成物、及びその感熱粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する感熱粘着シートが記載されている。
特許文献3には、糸状またはテープ状の芯材にホットメルト型接着剤を被着してなるホットメルト型接着材が記載されている。
【0006】
また、特許文献4には、糸状の芯材に粘着剤を付着させ、剥離紙を用いることなくリールに巻回した糸状粘着剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4579226号公報
【文献】特開平10-231464号公報
【文献】特開平04-76080号公報
【文献】特開平03-231980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された粘着シートはセパレータを用いたものである。
特許文献2、及び3に記載されたような感熱粘着シート、及びホットメルト型接着材は、加熱により粘着性を発現するため、以下のような問題を有している。第一に、該感熱粘着シートに粘着性を発現させるための熱源が必要である。第二に、被着体への貼り付け後に熱がかかるような使用環境下では、使用が困難であり、すなわち保存安定性が悪い。第三に、被着体に接触させた状態で加熱して粘着性を発現させるような場合、熱に弱い被着体への適用が困難である。第四に、基材を有する粘着シート(粘着テープ)の形態をとる場合、熱に弱い基材を用いることが困難である。
【0009】
特許文献4に記載された糸状粘着剤は、粘着力をさほど必要としないものを接着するものであり、十分な粘着性を発現するものではなかった。
【0010】
以上のような課題を鑑みて、本発明は、セパレータが不要で、粘着力を発現させる操作を必要とせずに十分な粘着力を発現し、粘着剤層同士が接触しても界面で剥離が可能な粘着性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は前記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、ゲル分率の変化率が少ない粘着剤であれば、セパレータを介さずに直接互いに接触させたとしても、十分な接着力を有する粘着剤であっても容易に剥離や巻き戻し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の一態様は、粘着剤層を含む粘着体を有する粘着性物品であって、前記粘着剤層のゲル分率が5~70%であり、前記粘着性物品は、40℃で7日間保存後の前記粘着剤層のゲル分率の変化量が-5%~5%であり、前記粘着剤層の表面が互いに接触した粘着性物品に関する。
【0012】
本発明の一態様は、粘着剤層を含む粘着体を有する粘着性物品であって、前記粘着剤層のゲル分率が5~70%であり、前記粘着剤層の表面が互いに接触し、互いに接触した前記粘着剤層は40℃で7日間保存後に界面で剥離可能な粘着性物品に関する。
【0013】
本発明の一態様において、前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤、およびポリエステル系粘着剤からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の一態様において、前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤を含んでいてもよい。
【0015】
本発明の一態様において、前記粘着体はシート状であることが好ましい。
【0016】
本発明の一態様において、前記粘着体は、基材を更に含み、前記基材の少なくとも一方の面に前記粘着剤層が設けられていることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様において、前記粘着体は線状であることが好ましい。
【0018】
本発明の一態様において、前記粘着体は、線状の芯材を更に含み、前記芯材の長手方向の表面が前記粘着剤層で被覆されていることが好ましい。
【0019】
本発明の一態様において、前記粘着体がロール状に巻回された形態、又は複数の前記粘着体が積層された形態であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様に係る粘着性物品は、粘着剤層の表面が互いに接触しても自着し難いため粘着剤層の界面で剥離することが可能であり、セパレータやセパレータの剥離処理が不要である。また、粘着力を発現させる操作を必要とせずに被着体に対しては十分な粘着力を発現し、作業性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、粘着性物品の一構成例の模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、粘着性物品の一構成例の模式的な図である。
【
図3】
図3は、粘着体の一構成例の模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、粘着体の一構成例の模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、粘着性物品の一構成例の模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材及び部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際の製品のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0023】
本発明の実施形態に係る粘着性物品は、粘着剤層を含む粘着体を有する粘着性物品であって、前記粘着剤層のゲル分率が5~70%であり、前記粘着剤層の表面が互いに接触し、互いに接触した粘着剤層は40℃で7日間保存後に界面で剥離可能な粘着性物品である。
【0024】
本実施形態の粘着性物品は、粘着剤層を含む粘着体を有し、粘着剤層の表面が互いに接触した粘着性物品であり、接触した粘着剤層が互いに接着した後に界面で剥離することが可能であるため、セパレータが不要である。
【0025】
本実施形態の粘着性物品は、粘着体の粘着剤層の表面が互いに接触した粘着性物品であり、粘着体がロール状に巻回された形態、又は複数の粘着体が積層された形態の粘着性物品であってもよい。さらに種々の形状に加工された粘着体を積層させたものであってもよい。
【0026】
本実施形態の粘着体は、シート状であってもよく、線状であってもよい。粘着体は基材を更に含んでいてもよいが、基材を含まず粘着剤層のみからなる粘着体であってもよい。
粘着体がシート状である場合、基材を更に含んでいてもよく、基材の少なくとも一方の面に粘着剤層が設けられていてもよいが、基材の両面に粘着剤層が設けられることが好ましい。ここでいうシートの概念には、テープ、ラベル、フィルム等と称されるものが包含され得る。
【0027】
図1に、本実施形態に係る粘着性物品の一構成例について示す。粘着性物品100は、
図1に示すように、巻芯を軸としてシート状の粘着体2を渦巻き状に巻回された形態であってもよく、巻芯なしで巻回された形態であってもよい。粘着体2は、例えば、
図1に示す断面構造を有する形態の両面粘着シートであってもよい。粘着体2は、基材20と、その基材20の第一面および第二面にそれぞれ設けられた第一粘着剤層11および第二粘着剤層12とを含んで構成されている。かかる形態の粘着性物品100は、第二粘着剤層12の表面が、第一粘着剤層11の表面に接触している。粘着性物品100の最外面はセパレータ等により保護してもよく、ケース等に入れてもよい。
図2に、本実施形態に係る粘着性物品の他の構成例について示す。粘着性物品200は、
図2に示すように、粘着体2を積層させたものであってもよい。その場合、粘着性物品200の最外面はセパレータ等により保護してもよく、ケース等に入れてもよい。
【0028】
粘着体が線状である場合、線状の粘着剤層からなる、支持体(芯材)レスの粘着体であってもよく、芯材を更に含んでいてもよい。
図3に、本実施形態に係る粘着性物品にかかる粘着体3の一構成例について、粘着体3の長手方向に垂直な方向における模式的な断面図を示す。本構成例の粘着体3は、線状の粘着剤層13からなる、支持体レスの粘着体である。ここにいう線状とは、直線状、曲線状、折れ線状等の他にも、糸のように多様な方向、角度に曲げられうる状態(以下、糸状ともいう)をも包含する概念である。また、本明細書における粘着剤層は、線状の粘着体も包含する。
【0029】
なお、本構成例の粘着性物品の断面の形状は円形であるが、本実施形態はこれに限定されず、その断面の形状としては、円形の他にも、楕円形、四角形等の矩形等をとりうる。
【0030】
図4に、本実施形態に係る粘着体の一構成例について、該粘着性物品の長手方向に垂直な方向における模式的な断面図を示す。
図4に示される粘着体4は、線状の芯材14と、芯材14の長手方向の表面を被覆する粘着剤層13を備える。
【0031】
なお、本構成例の粘着体4の断面の形状は円形であるが、本実施形態はこれに限定されず、その断面の形状としては、円形の他にも、楕円形、四角形等の矩形等をとりうる。
図5に、本実施形態に係る粘着性物品の他の構成例について示す。粘着性物品300は、
図5に示すように、粘着体4を巻芯に巻回させたものであってもよい。その場合、粘着性物品300の最外面はセパレータ等により保護してもよく、ケース等に入れてもよい。
【0032】
本発明の実施形態に係る粘着性物品は、粘着剤層を含む粘着体を有する粘着性物品であって、前記粘着剤層のゲル分率が5~70%であり、前記粘着性物品は、40℃で7日間保存後の前記粘着剤層のゲル分率の変化量が-5%~5%であり、前記粘着剤層の表面が互いに接触した粘着性物品であることが好ましい。
【0033】
〔粘着剤層のゲル分率〕
本発明の実施形態に係る粘着性物品に含まれる粘着体の粘着剤層のゲル分率は、必要な凝集力を確保する観点から、重量基準で5%以上であり、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上である。また、被着体に対して充分な粘着力を付与するため、粘着剤層のゲル分率は70%以下であり、好ましくは65%以下、より好ましくは55%以下、さらに好ましくは50%以下、特に好ましくは45%以下である。
【0034】
ここで「粘着剤層のゲル分率」とは、次の方法により測定される値をいう。該ゲル分率は、粘着剤層のうち酢酸エチル不溶分の重量割合として把握され得る。
【0035】
[ゲル分率測定方法]
約0.1gの粘着剤サンプル(重量W1)を平均孔径0.2μmの多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜(重量W2)で巾着状に包み、口をタコ糸(重量W3)で縛る。上記多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜としては、日東電工株式会社から入手可能な商品名「ニトフロン(登録商標)NTF1122」(平均孔径0.2μm、気孔率75%、厚さ85μm)またはその相当品を使用する。
この包みを酢酸エチル50mLに浸し、室温(典型的には23℃)で7日間保持して粘着剤層中のゾル成分のみを上記膜外に溶出させた後、上記包みを取り出して外表面に付着している酢酸エチルを拭き取り、該包みを130℃で1時間乾燥させ、該包みの重量(W4)を測定する。粘着剤層のゲル分率は、各値を以下の式(1)に代入することにより求められる。後述の実施例においても同様の方法が採用される。
ゲル分率(%)=[(W4-W2-W3)/W1]×100 (1)
【0036】
〔ゲル分率の変化量〕
本発明の実施形態に係る粘着性物品は、40℃で7日間保存後の前記粘着剤層のゲル分率の変化量が-5%~5%である。
ゲル分率の変化量は、粘着性物品の粘着剤層のゲル分率(F1)と、40℃で7日間保存後の粘着性物品の粘着剤層のゲル分率(F2)とを測定し、以下の式(2)に代入することにより求められる。後述の実施例においても同様の方法が採用される。また、ゲル分率は上述の方法により測定し得る。
ゲル分率の変化量(%)=F2-F1 (2)
【0037】
本実施形態に係る粘着性物品は、粘着剤層のゲル分率の変化量が-5%~5%であるため、粘着剤層の表面が互いに接触した後に、容易に剥離できるという効果を発揮する。これは、粘着剤層の表面が互いに接触しても粘着剤層間に化学反応が生じ難く、化学結合等の結合が生じ難いためと推測される。そのため、粘着性物品がセパレータを用いずに、粘着体がロール状に巻回された形態、又は複数の粘着体が積層された形態の粘着性物品であっても、粘着体の形状を破壊することなく、粘着剤層の界面で剥離することができる。また、粘着体の粘着力が低下することなく、巻き戻す、又は再積層することができる。
ゲル分率の変化量の絶対値は巻き戻し又は再積層を可能とするため、5%以下であり、好ましくは4%以下である。
ゲル分率、及びゲル分率の変化量を上記の範囲とすることにより、粘着剤層の表面が互いに接触した際に粘着剤層間が自着する力(自着力)の経時変化を抑制し、被着体に対しては高い粘着力と保持力を発現し得る。
粘着剤層の粘着力は、シート状の粘着体とした際の180度ピール試験において、5N/20mm以上であることが好ましく、6N/20mm以上であることがより好ましく、7N/20mm以上であることが更に好ましい。粘着力の上限値に特に制限はないが、100N/20mm以下であることが好ましく、80N/20mm以下であることがより好ましく、60N/mm以下であることが更に好ましい。
【0038】
ゲル分率を調整する方法としては、粘着剤を構成する粘着剤組成物に架橋処理を施すことが好ましい。ゲル分率の変化量を上記の範囲内とするためには、架橋を速やかに進行させることが好ましく、そのためには、適切な架橋剤を用いた架橋や、UV架橋、電子線架橋等の放射線架橋等を適用することが好ましい。架橋剤としては、例えば、有機過酸化物、エポキシ系化合物、アミノ基含有化合物、有機金属塩、金属アルコラート、金属キレート、ヒドラジド系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、シランまたはシラノール系架橋剤を任意の量で用いることが好ましい。
【0039】
〔粘着体〕
本実施形態の粘着性物品において、粘着体は粘着剤層を含む。粘着剤層は粘着剤組成物により形成される粘着剤からなる。粘着剤としては、上記ゲル分率、及びゲル分率の変化量を満たすものであれば特に限定されず、公知の粘着剤を用いることが可能である。例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ウレタン系粘着剤、フッ素系粘着剤、エポキシ系粘着剤などが挙げられる。中でも、接着性の点から、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤、又はポリエステル系粘着剤が好ましく、特にアクリル系粘着剤が好ましい。なお、粘着剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本実施形態における粘着剤は、常温で粘着性を有し、粘着剤の表面と被着体の表面との接触時に生じる圧力によって、被着体をその表面に貼付できる感圧型粘着剤であることが好ましい。感圧型粘着剤であれば、加熱を要さず、熱に弱い被着体にも適用可能である。
【0040】
なお、粘着剤としては、溶剤型の粘着剤と水分散型の粘着剤のいずれのタイプも使用することができ、粘着剤組成物の乾燥(溶媒揮発)により架橋が進行し、乾燥後に架橋が速やかに完了するものが好ましい。粘着剤層の表面が互いに接触した後に新たな架橋を増加させないためである。ここで、高速塗工が可能であり、環境にやさしく、溶剤による基材や芯材への影響(膨潤、溶解)が少ない面から、水分散型粘着剤が好ましく、水分散型のアクリル系粘着剤がより好ましい。
【0041】
ここで「アクリル系粘着剤」とは、アクリル系ポリマー(アクリル系重合体)をベースポリマー(ポリマー成分のなかの主成分、すなわち50重量%以上を占める成分)とする粘着剤を指す。「アクリル系ポリマー」とは、一分子中に少なくとも一つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマー(以下、これを「アクリル系モノマー」ということがある。)を主構成単量体成分(モノマーの主成分、すなわちアクリル系ポリマーを構成するモノマーの総量のうち50重量%よりも多くを占める成分)とするポリマーを指す。また、本明細書中において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよびメタクリロイルを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリル酸エステル」とはアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルを、「(メタ)アクリル」とはアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。
【0042】
上記アクリル系ポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主モノマーとして含み、該主モノマーと共重合性を有する副モノマーをさらに含み得るモノマー原料の重合物が好ましい。ここで主モノマーとは、上記モノマー原料におけるモノマー組成の50重量%超を占める成分をいう。
【0043】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、一般式(3)
CH2=C(R1)COOR2 (3)
(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数2~14のアルキル基を示す)
で表される化合物が挙げられる。
【0044】
前記R2として、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、イソアミル基、ヘキシル基、へプチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基などが例示できる。なかでも、R2として、ブチル基、2-エチルヘキシル基などの炭素数2~10のアルキル基が好ましい。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは単独でまたは2種以上混合して使用できる。
【0045】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体混合物中の該(メタ)アクリル酸アルキルエステル[例えば、上記(メタ)アクリル酸C2-14アルキルエステル]の比率は、一般に80重量%以上(例えば80~99.8重量%程度)、好ましくは85重量%以上(例えば85~99.5重量%程度)、さらに好ましくは90重量%以上(例えば90~99重量%程度)である。
【0046】
前記単量体混合物は、熱架橋するための架橋点を導入するため、通常、官能基含有単量体(熱架橋性官能基含有単量体)を含んでいる。該官能基含有単量体をコモノマー成分として用いることにより被着体に対する接着力も向上する。
【0047】
前記官能基含有単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、無水マレイン酸などのカルボキシル基含有単量体又はその酸無水物;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチルなどの水酸基含有単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有単量体;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチルなどのアミノ基含有単量体;(メタ)アクリル酸グリシジルなどのグリシジル基含有単量体;(メタ)アクリロニトリル、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-ビニル-2-ピロリドンなどが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸などのカルボキシル基含有単量体又はその酸無水物などが好ましい。上記の官能基含有単量体は1種または2種以上使用することができる。
【0048】
上記官能基含有単量体の使用量は、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル100重量部に対して、例えば0.5~12重量部、好ましくは1~8重量部程度である。
【0049】
また、前記単量体混合物には、凝集力等の特性を高めるため、必要に応じて、その他の共重合性単量体が含まれていてもよい。このような共重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル:酢酸ビニルなどのビニルエステル類;スチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物;シクロペンチルジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどの環式アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類などが挙げられる。これらの共重合性単量体も1種または2種以上使用できる。
【0050】
また、これらアクリル系粘着剤には架橋剤を配合することが好ましい。アクリル系粘着剤に用いる架橋剤としては、通常用いる架橋剤を使用することができ、例えば、シラン系架橋剤、有機過酸化物、エポキシ系化合物、アミノ基含有化合物、有機金属塩、金属アルコラート、金属キレート、ヒドラジド系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、シラノール系架橋剤等が挙げられる。中でも、粘着剤層のゲル分率の変化量を前記した範囲に調整しやすくなるため、有機金属塩、金属キレート、ヒドラジド系架橋、シラン系架橋剤が好ましい。水分散型粘着剤の場合は、特にヒドラジド系架橋、シラン系架橋剤がより好ましい。架橋剤は、油溶性及び水溶性の何れであってもよく、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
シラン系架橋剤としては、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能なシラン系単量体を用いることが好ましい。シラン系単量体としては、ケイ素原子を有する重合性化合物であれば特に限定されないが、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルに対する共重合性に優れている点で(メタ)アクリロイルオキシアルキルシラン誘導体などの(メタ)アクリロイル基を有するシラン化合物が好ましい。シラン系単量体としては、例えば、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。これらのシラン系単量体は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0052】
また、上記以外に、共重合可能なシラン系単量体として、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、4-ビニルブチルトリメトキシシラン、4-ビニルブチルトリエトキシシラン、8-ビニルオクチルトリメトキシシラン、8-ビニルオクチルトリエトキシシラン、10-メタクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、10-アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、10-メタクリロイルオキシデシルトリエトキシシラン、10-アクリロイルオキシデシルトリエトキシシランなども使用できる。
【0053】
架橋剤の使用量は前記モノマー原料の種類や粘着性物品の用途などに応じて適宜選択できるが、粘着剤層のゲル分率、及びゲル分率の変化量が所望の範囲となる範囲で使用することができる。本発明では、前記モノマー原料(架橋剤を除く)100重量部に対する架橋剤の量は、0.005~5重量部が好ましく、さらに好ましくは0.01~3重量部の範囲である。
【0054】
本発明では、更に他の架橋を用いてもよく、他の架橋剤を用いた架橋や、UV架橋、電子線架橋等の放射線架橋等を適用できる。前記他の架橋剤としては、通常用いる架橋剤を使用することができ、例えば、有機過酸化物、エポキシ系化合物、アミノ基含有化合物、有機金属塩、金属アルコラート、金属キレート、ヒドラジド系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、シランまたはシラノール系架橋剤などが挙げられる。他の架橋剤は、油溶性及び水溶性の何れであってもよい。
【0055】
粘着剤層は粘着剤組成物を用いて形成することができ、粘着剤組成物としては、水分散型粘着剤組成物であることが好ましい。
水分散型粘着剤組成物は、例えば、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし且つシラン系単量体を含む単量体混合物を慣用の乳化重合に付して、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の水分散液を得、これに必要に応じて前記他の架橋剤を添加することにより調製できる。
【0056】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし且つシラン系単量体を含む上記水分散型粘着剤組成物を用いた場合に、優れた効果が奏される理由は必ずしも明確ではないが、ポリマー分子内の架橋点と架橋点を結合する分子内の鎖が長く、高分子鎖がほどけにくくなる。また、乾燥後には水が介在しないため加水分解が起こらず、粘着体の粘着剤層が互いに接触しても縮合反応や架橋反応が進行しないことから、粘着剤層間での反応が起こりにくく自着し難くい。そのため、粘着体をセパレータを介さずに粘着体がロール状に巻回され、又は複数の前記粘着体が積層されて粘着剤層同士が接触しても、より粘着剤層の界面で剥離し易くなるものと推測される。
【0057】
重合方法としては、一般的な一括重合、連続滴下重合、分割滴下重合などを採用でき、重合温度は、例えば20~100℃程度である。
【0058】
重合に用いる重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル、2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2′-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2′-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2′-アゾビス(N,N′-ジメチレンイソブチルアミジン)などのアゾ系開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素などの過酸化物系開始剤;フェニル置換エタンなどの置換エタン系開始剤;芳香族カルボニル化合物;過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせなどのレドックス系開始剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。重合開始剤の使用量は、モノマーの総量100重量部に対して、例えば0.005~1重量部程度である。
【0059】
また、重合には連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、慣用の連鎖移動剤、例えば、ラウリルメルカプタン、ドデカンチオール等のメルカプタン類等が例示できる。連鎖移動剤の使用量は、モノマーの総量100重量部に対して、例えば0.001~0.5重量部程度である。
【0060】
また、乳化剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのアニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのノニオン系乳化剤などを使用できる。これらの乳化剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。乳化剤の使用量は、モノマーの総量100重量部に対して、例えば0.2~10重量部、好ましくは0.5~5重量部程度である。
【0061】
なお、粘着剤組成物は、上記のほか、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体を乳化重合以外の方法で得た後、必要に応じて前記架橋剤を添加し、乳化剤により水に分散させて調製してもよい。
【0062】
粘着剤組成物には、その他、必要に応じて、pHを調整するための塩基(アンモニア水など)や酸、粘着剤に通常使用される添加剤、例えば、粘着付与樹脂、増粘剤、界面活性剤、老化防止剤、充填剤、顔料、着色剤などが添加されていてもよい。
【0063】
粘着付与樹脂としては、例えば、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、ケトン系樹脂等の各種粘着付与樹脂から選択される1種または2種以上を用いることができる。
粘着付与樹脂の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して60重量部以下であることが好ましく、50重量部以下であることがより好ましく、40重量部以下であることがさらに好ましく、30重量部以下であることがさらに好ましい。
【0064】
増粘剤としては、例えばポリアクリル酸系増粘剤、ウレタン系増粘剤、ポリビニルアルコール系増粘剤等が挙げられる。なかでも、ポリアクリル酸系増粘剤、ウレタン系増粘剤が好ましい。増粘剤の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して、10重量部以下であることが好ましく、5重量部以下であることがより好ましい。
【0065】
本実施形態の粘着体を形成する方法は特に限定されないが、例えば、粘着剤層を形成するにあたっては、粘着剤組成物を剥離性または非剥離性の基材に直接塗布して乾燥または硬化させる方法(直接法);剥離性を有する表面に粘着剤組成物を塗布して乾燥又は硬化させることにより該表面上に粘着剤層を形成した後、その粘着剤層を基材に貼り合わせて転写する方法(転写法);等を採用することができる。
【0066】
粘着体がシート状である場合、シート状粘着体(粘着シート)は、例えば、上記の粘着剤組成物を基材上に塗布し、熱架橋して粘着剤層を形成することにより得ることができる。また、セパレータ上に上記粘着剤層を形成することにより基材を有しない粘着シートを得ることもできる。
粘着シートは、粘着テープであってもよく、強度及びハンドリングの観点から粘着テープの幅は0.01mm以上であることが好ましく、0.02mm以上であることがより好ましい。また、適用可能な被着体の表面形状や領域が多様な粘着体とし得ることから、40mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましい。
【0067】
基材を有さないシート状の粘着体(粘着剤層)の場合、その厚みは特に限定されないが、厚みが小さすぎるとハンドリングが悪化するおそれがあることから、例えば1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。また、厚みが大きすぎると柔軟性を欠く場合があることから、例えば100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0068】
また、基材を有するシート状の粘着体の場合、基材としては、粘着体の形状の維持の観点から、粘着剤層同士の自着力よりも、粘着剤層と基材との接着力の方が高いものであることが好ましい。例えば、ポリプロピレンフィルム、エチレン-プロピレン共重合体フィルム、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックフィルム;クラフト紙などの紙;金属箔などを使用できる。前記プラスチックフィルムは、無延伸フィルム及び延伸(一軸延伸又は二軸延伸)フィルムの何れであってもよい。また、基材のうち粘着剤組成物を塗布する面には、通常使用される下塗剤やコロナ放電方式などによる表面処理が施されていてもよい。基材の厚みは、目的に応じて適宜選択できるが、一般には10~500μm程度である。
【0069】
また、この場合において、粘着剤層の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。通常は、粘着剤層の厚さとして1μm~200μm程度が適当であり、3μm~150μm程度が好ましい。
【0070】
粘着剤組成物の塗布は、慣用のコーター、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーターなどを用いて行うことができる。前記粘着剤組成物は、乾燥後の粘着剤層の厚みが、例えば10~100μm程度となるように塗布される。乾燥温度は、適宜採用可能であるが、好ましくは40℃~200℃であり、さらに好ましくは、50℃~180℃であり、特に好ましくは70℃~120℃である。乾燥時間は、適宜、適切な時間が採用され得る。上記乾燥時間は、好ましくは5秒~20分、さらに好ましくは5秒~10分、特に好ましくは、10秒~5分である。
【0071】
熱架橋は、慣用の方法、例えば、架橋剤の種類に応じて架橋反応が進行する温度にまで加熱することにより行われる。架橋後の粘着剤層の溶剤不溶分は、例えば5~70重量%程度である。また、架橋後の粘着剤層の溶剤可溶部の分子量(重量平均分子量;標準ポリスチレン換算)は、例えば10万~60万程度、好ましくは20万~45万程度である。架橋後の粘着剤層の溶剤不溶分や溶剤可溶部の分子量は、例えば、モノマー総量に対する架橋剤又は官能基含有単量体の割合、連鎖移動剤の種類や量、特に架橋剤と連鎖移動剤の量を適宜調整することにより任意に設定することができる。
【0072】
粘着体が線状である場合、線状粘着体は、例えば、下記の方法により得ることができる。
本実施形態の線状粘着体を形成する方法は特に限定されないが、例えば、粘着体を構成する粘着剤組成物を用意し、セパレータ上にディスペンサを用いて線状に塗布することで、粘着体を形成させることができる。なお、粘着体が芯材及び粘着剤層を有する粘着体である場合には、芯材の表面に粘着剤組成物をディッピング、浸漬、塗布等により塗工した後に加熱乾燥させることにより、芯材の表面に粘着剤層を形成させることができる。上記粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて行うことができる。乾燥温度は、適宜採用可能であるが、好ましくは40℃~200℃であり、さらに好ましくは、50℃~180℃であり、特に好ましくは70℃~120℃である。乾燥時間は、適宜、適切な時間が採用され得る。上記乾燥時間は、好ましくは5秒~20分、さらに好ましくは5秒~10分、特に好ましくは、10秒~5分である。
【0073】
芯材を有さない線状の粘着体において、粘着体の断面形状が円形である場合、粘着体の断面の直径は特に限定されないが、直径が小さすぎると切れやすくなる場合があることから、例えば20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、直径が大きすぎると柔軟性を欠く場合があることから、例えば1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。
【0074】
また、粘着体が芯材を有する線状の粘着体である場合、粘着剤層は芯材表面(長手方向の表面)の全部を被覆していてもよいが、芯材表面の一部のみを被覆していてもよい。また、粘着剤層は典型的には連続的に形成されるが、かかる形態に限定されるものではなく、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成されてもよい。なお、芯材の端面は粘着剤層によって被覆されていてもいなくともよい。例えば、粘着性物品が製造過程や使用時に切断されるような場合には、芯材の端面は粘着剤層によって被覆されないことがありうる。
【0075】
粘着体に用いられる芯材としては、特に限定されないが、例えば、樹脂、ゴム、発泡体、無機繊維、これらの複合体等を用いることができる。粘着体の形状の維持の観点から、粘着剤層同士の自着力よりも、粘着剤層と芯材との接着力の方が高いものであることが好ましい。樹脂の例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル;塩化ビニル樹脂;酢酸ビニル樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアミド樹脂;フッ素樹脂等が挙げられる。ゴムの例としては、天然ゴム、ウレタンゴム等の合成ゴム等が挙げられる。発泡体の例としては、発泡ポリウレタン、発泡ポリクロロプレンゴム等が挙げられる。繊維の例としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等があげられる。また、芯材の断面形状は特に限定されないが、通常、粘着性物品の断面形状に応じた断面形状を有する。
【0076】
また、糸状の粘着体に用いられうる糸状の芯材の材質としては、特に限定されず、化
学繊維であっても天然繊維であってもよい。化学繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ、アセテート、プロミックス、ナイロン、アラミド、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリクラール、ポリ乳酸等の各種高分子材料、ガラス、炭素繊維、ポリウレタン等の合成ゴム、金属等が挙げられる。天然繊維としては、例えば、絹、天然ゴム、綿、ウール等が挙げられる。
また、糸状の芯材の形態としては、例えば、モノフィラメントの他、マルチフィラメント、スパンヤーン、捲縮加工や嵩高加工等を施した一般的にテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーンと称される加工糸、あるいはこれらを撚り合わせる等して組み合わせた糸が使用できる。また、断面形状も、円形だけでなく、四角形状や星型等の短形状の糸や楕円形状、中空等でありうる。
【0077】
なお、芯材には、必要に応じて、充填剤(無機充填剤、有機充填剤など)、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、着色剤(顔料、染料など)等の各種添加剤が配合されていてもよい。芯材の表面には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、下塗り剤の塗布等の、公知または慣用の表面処理が施されていてもよい。
【0078】
芯材の断面のサイズは特に限定されず、目的に応じて適宜選択できるが、例えば円形の断面形状である場合、ハンドリング性(切れにくさ)の観点からは、その直径は好ましくは1μm~2000μmであり、より好ましくは10μm~1000μmである。
【0079】
芯材を有する粘着体の場合において、粘着剤層の厚みは特に限定されないが、粘着性の観点からは、例えば1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。また、乾燥性の観点からは、例えば200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。
【0080】
本実施形態の粘着性物品は、粘着体が線状であると、細幅の部材や幅の狭い領域にもはみ出しを抑えながら貼り付け可能であり、また、易解体(リワーク)可能な点において好ましい。例えば、本実施形態の粘着性物品は、電子機器の製造における物品の固定に好適に用いることができ、携帯電話、スマートフォン等の携帯端末の狭額縁の固定にも適用できる。
加えて、本実施形態の粘着性物品は、粘着体が線状であると、狭い隙間に入り込ませることで、隙間の表面に接着したり、隙間を埋めたりすることができる。
【0081】
さらに、本実施形態の粘着性物品は、可曲性を有することが好ましく、糸のように多様な方向、角度に曲げられうる糸状であることが特に好ましい。可曲性を有する粘着性物品、特に糸状である粘着性物品によれば、上記した効果に加えて、曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状にも適用させやすいという利点を有する。
例えば、曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状の部分を有する被着体に粘着テープを貼り付けようとすると、かかる部分において粘着テープにしわや重なりが生じてしまい、はみ出しを抑えて綺麗に貼り付けることは困難であり、また、しわや重なりの生じた部分は粘着力が低下する要因ともなるおそれがある。また、しわや重なりを生じないようにしながら粘着テープを貼り付けるには、粘着テープを細かく切断しながら貼り付けることも考えられるが、作業性が大幅に悪化することとなる。一方、可曲性を有する粘着性物品、特に糸状である粘着性物品であれば、曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状の部分に貼り付ける際にも、しわや重なりを生じることなく強固に貼り付けることができる。さらに、かかる粘着性物品は、貼り付けたい部分に、一度に、すなわち一工程で貼り付け可能であることから、作業性にも優れ、自動化ラインにも適用可能である。
【0082】
具体的には、糸状の粘着性物品は、例えば、電線や光ファイバー等のケーブル、LEDファイバーライト、FBG(Fiber Bragg Gratings、ファイバブラッググレーティング)等の光ファイバセンサ、糸、紐、ワイヤ等の各種線材(線状部材)や、細幅の部材を、所望の形態で固定する用途が挙げられる。たとえば、線材や細幅の部材を複雑な形状で他の部材に固定するような場合においても、糸状の粘着性物品であれば、線材や細幅の部材の有すべき複雑な形状にあわせて、はみ出しやしわ、重なりを抑えながら、優れた作業性で強固に固定することができる。なお、線材や細幅の部材を他の部材に固定する場合においては、他の部材の表面における線材や細幅の部材が固定されるべき形態にあわせて糸状の粘着性物品を予め貼り付けた後に、他の部材表面に貼付された粘着性物品にあわせて線材や細幅の部材を貼り合わせて固定することができる。あるいは、糸状の粘着性物品を線材や細幅の部材に貼り付けた後に、線材や細幅の部材を所望の形態で他の部材に固定してもよい。
【0083】
また、糸状の粘着性物品は、一の物品を他の物品の表面に仮固定(仮止め)するための、物品の仮固定(仮止め)用途にも好適に用いることができる。より具体的には、糸状の粘着性物品は、例えば、衣服、靴、鞄、帽子等の繊維製品や皮革製品等を製造する際の仮固定(仮止め)用途に、特に好適に用いられる。ただし、その用途はこれに限定されるものではなく、仮固定(仮止め)が所望される各種用途に好適に用いられる。
例えば、一の物品を他の物品の表面に固定する際に、該一の物品を該他の物品の表面に糸状の粘着性物品を用いて予め仮固定させて位置決めした後に、両物品を熱圧着や縫製等の固定方法により固定(本固定)する。この場合において、糸状の粘着性物品であれば、両物品間に設けられる固定部を避けて仮固定することが容易である。例えば、繊維製品や皮革製品を縫製する場合において、糸状の粘着性物品により仮固定を行えば、縫製部分を避けて仮固定することが容易であり、粘着剤の針への付着を容易に防止できる。
また、糸状の粘着性物品であれば、上述したように、両物品の形状が曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状であっても、はみ出しやしわ、重なりを抑えながら良好に貼り付けでき、しかも一工程で貼り付け可能であり、作業性が良好である。
また、例えば、繊維製品ないし皮革製品を構成する生地、布、皮革等といった変形しやすい部材であっても、糸状の粘着性物品による仮固定を行うことにより、引張による部材の変形が抑制ないし防止でき、固定(本固定)後の意匠性が良好となる。
さらには、糸状の粘着性物品であれば、両物品の固定(本固定)後に、必要に応じて固定(本固定)された両物品間から糸状の粘着性物品を抜き取り除去することも容易である。このようにすれば、粘着剤のはみ出しが防止でき、残存する粘着剤の経時的な変色に由来する意匠性の劣化を良好に防止できる。
【0084】
また、糸状の粘着性物品であれば、粘着体を他の材質からなる糸と撚り合わせて組み合わせた糸としたり、他の材質からなる糸や布(不織布、シートを含む)と編み込んだりすることで、機能の複合化を図ることもできる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。
【0086】
(実施例1)
(粘着剤層形成用の水分散型アクリル系粘着剤組成物Aの調製)
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水40重量部を入れ、窒素ガスを導入しながら60℃で1時間以上攪拌して窒素置換を行った。この反応容器に、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物(重合開始剤)0.1重量部を加えた。系を60℃に保ちつつ、ここにモノマーエマルションAを4時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。モノマーエマルションAとしては、アクリル酸2-エチルへキシル98重量部、アクリル酸1.25重量部、メタクリル酸0.75重量部、ラウリルメルカプタン(連鎖移動剤)0.05重量部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名「KBM-503」)0.02重量部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2重量部を、イオン交換水30重量部に加えて乳化したものを使用した。モノマーエマルションAの滴下終了後、さらに3時間60℃に保持し、系を室温まで冷却した後、10重量%アンモニア水の添加によりpHを7に調整して、アクリル系重合体エマルション(水分散型アクリル系重合体)Aを得た。
【0087】
上記水分散型アクリル系重合体Aに含まれるアクリル系重合体100重量部当たり、固形分基準で20重量部の粘着付与樹脂エマルション(軟化点160℃の重合ロジンエステルの水性エマルション、荒川化学工業株式会社製、商品名「E-865NT」)を加えた。さらに、pH調整剤としての10重量%アンモニア水および増粘剤としてのポリアクリル酸(東亞合成株式会社製、商品名「アロンB-500」)を用いて、pHを7.2、粘度を10Pa・sに調整した。このようにして、粘着剤用の水分散型アクリル系粘着剤組成物Aを得た。
【0088】
(シート状の粘着性物品の作製)
70cm×25cm、厚み25μmのPET基材(東レ株式会社製 商品名「ルミラーS10」)上に水分散型アクリル系粘着剤組成物Aをアプリケーターで塗工した後、100℃で2分間乾燥して粘着剤層を形成させた。形成された粘着剤層の厚みは25μmであった。このようにして、実施例1に係るシート状の粘着性物品(粘着シート)を作製した。
【0089】
(線状の粘着性物品の作製)
直径300μmのモノフィラメントポリエステル糸(株式会社ユニプラス製)を芯材とした。水分散型アクリル系粘着剤組成物Aを、得られる粘着性物品における粘着剤の付着量が40mg/mとなるように、芯材にディッピングで塗工した後、95℃で2分間乾燥して粘着剤層を形成させ、実施例1に係る線状の粘着性物品を得た。
【0090】
(実施例2)
実施例1で得た水分散型アクリル系重合体Aに含まれるアクリル系重合体100重量部当たり、固形分基準で30重量部の粘着付与樹脂エマルション(軟化点160℃の重合ロジンエステルの水性エマルション、荒川化学工業株式会社製、商品名「E-865NT」)を加えた。さらに、pH調整剤としての10重量%アンモニア水および増粘剤としてのポリアクリル酸(東亞合成株式会社製、商品名「アロンB-500」)を用いて、pHを7.2、粘度を10Pa・sに調整した。このようにして、粘着剤用の水分散型アクリル系粘着剤組成物Bを得た。
水分散型アクリル系粘着剤組成物Aに代えて粘着剤層形成用の水分散型アクリル系粘着剤組成物Bを用いた以外は実施例1と同様にしてシート状の粘着性物品及び線状の粘着性物品を作製し、評価を行った。
【0091】
(実施例3)
実施例1で得た水分散型アクリル系重合体Aに含まれるアクリル系重合体100重量部当たり、固形分基準で70重量部の粘着付与樹脂エマルション(軟化点160℃の重合ロジンエステルの水性エマルション、荒川化学工業株式会社製、商品名「E-865NT」)を加えた。さらに、pH調整剤としての10重量%アンモニア水および増粘剤としてのポリアクリル酸(東亞合成株式会社製、商品名「アロンB-500」)を用いて、pHを7.2、粘度を10Pa・sに調整した。このようにして、粘着剤用の水分散型アクリル系粘着剤組成物Cを得た。
水分散型アクリル系粘着剤組成物Aに代えて粘着剤層形成用の水分散型アクリル系粘着剤組成物Cを用いた以外は実施例1と同様にしてシート状の粘着性物品及び線状の粘着性物品を作製し、評価を行った。
【0092】
(実施例4)
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水40重量部を入れ、窒素ガスを導入しながら60℃にて1時間攪拌した。この反応容器に、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド(重合開始剤)0.1重量部を投入し、系を60℃に保ちつつ、ここにモノマーエマルションBを4時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。
モノマーエマルションBとしては、アクリル酸2-エチルへキシル30重量部、アクリル酸ブチル70重量部、アクリル酸3.0重量部、n-ラウリルメルカプタン(連鎖移動剤)0.05重量部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社の商品名「KBM-503」)0.03重量部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2重量部を、イオン交換水30重量部に添加して乳化したものを使用した。
モノマーエマルションBの滴下終了後、さらに3時間60℃に保持し、次いで35%過酸化水素水0.2重量部およびアスコルビン酸0.6重量部を添加した。系を常温まで冷却した後、10%アンモニウム水および増粘剤としてのポリアクリル酸(東亞合成株式会社製、商品名「アロンB-500」)を用いて、pHを7.2、粘度を10Pa・sに調整して、粘着剤層形成用のアクリル系重合体エマルション(水分散型アクリル系重合体)Bを得た。
【0093】
水分散型アクリル系粘着剤組成物Aに代えて水分散型アクリル系重合体Bを用いた以外は実施例1と同様にしてシート状の粘着性物品及び線状の粘着性物品を作製し、評価を行った。
【0094】
(実施例5)
アクリル酸3重量部、酢酸ビニル4重量部、アクリル酸ブチル93重量部、及び重合溶媒としてトルエン200重量部を三つ口フラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら、2時間攪拌した後AIBN(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)0.15重量部を加え、70℃に昇温して6時間重合反応を行い、アクリル系重合体A溶液を得た。このポリマー溶液に、その固形分100重量部に対して30重量部の重合ロジン(ペンセルD125,荒川化学工業株式会社製)2.5重量部のイソシアネート系架橋剤(コロネートL、日本ポリウレタン工業株式会社製)を配合して、粘着剤層形成用のアクリル系粘着剤組成物Eを調製した。
【0095】
(シート状の粘着性物品の作製)
70cm×25cm、厚み25μmのPET基材(東レ株式会社製 商品名「ルミラーS10」)上にアクリル系粘着剤組成物Eをアプリケーターで塗工した後、100℃で2分間乾燥した後、室温(20℃)で24時間静置し、粘着剤層を形成させた。形成された粘着剤層の厚みは25μmであった。このようにして、実施例5に係るシート状の粘着性物品(粘着シート)を作製した。
【0096】
(線状の粘着性物品の作製)
直径300μmのモノフィラメントポリエステル糸(株式会社ユニプラス製)を芯材とした。アクリル系粘着剤組成物Eを、得られる粘着性物品における粘着剤の付着量が40mg/mとなるように、芯材にディッピングで塗工した後、95℃で2分間乾燥した後、室温(20℃)で24時間静置し、粘着剤層を形成させ、実施例5に係る線状の粘着性物品を得た。
【0097】
(実施例6)
水分散型アクリル系重合体Bに代えて実施例1で得た水分散型アクリル系重合体Aを用いた以外は実施例4と同様にしてシート状の粘着性物品及び線状の粘着性物品を作製し、評価を行った。
【0098】
(比較例1)
実施例1の水分散型アクリル系粘着剤組成物Aをアクリル系粘着剤組成物Eに変更した以外は実施例1と同様にして、シート状の粘着性物品及び線状の粘着性物品を作製し、評価を行った。
【0099】
(比較例2)
実施例5におけるイソシアネート系架橋剤の配合量を5重量部に変更した以外は比較例1と同様にして、アクリル系粘着剤組成物Fを調整し、比較例2のシート状の粘着性物品(粘着シート)及び線状の粘着性物品を作製し、評価を行った。
【0100】
(比較例3)
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水40重量部を入れ、窒素ガスを導入しながら60℃で1時間以上攪拌して窒素置換を行った。この反応容器に、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物(重合開始剤)0.1重量部を加えた。系を60℃に保ちつつ、ここにモノマーエマルションCを4時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。
モノマーエマルションCとしては、アクリル酸2-エチルへキシル98重量部、アクリル酸1.25重量部、メタクリル酸0.75重量部、ラウリルメルカプタン(連鎖移動剤)0.05重量部、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2重量部を、イオン交換水30重量部に加えて乳化したものを使用した。
モノマーエマルションCの滴下終了後、さらに3時間60℃に保持し、系を室温まで冷却した後、10質量%アンモニア水の添加によりpHを7に調整して、粘着剤層形成用のアクリル系重合体エマルション(水分散型アクリル系重合体)Cを得た。
【0101】
実施例1の水分散型アクリル系粘着剤組成物Aに代えて水分散型アクリル系重合体Cを用いた以外は実施例1と同様にしてシート状の粘着性物品及び線状の粘着性物品を作製し、評価を行った。
【0102】
(比較例4)
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器を備えた反応容器に、アクリル酸2-エチルへキシル100重量部、アクリル酸ヒドロキシエチル4重量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(キシダ化学製)0.2重量部、および酢酸エチルを仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入して窒素置換した後、フラスコ内の液温を60℃付近に保って10時間重合反応を行い、アクリル系重合体B溶液(固形分50重量%)を調製した。
上記アクリル系重合体B溶液の固形分100重量部に対し、イソシアネート系架橋剤(コロネートHX,日本ポリウレタン工業株式会社製)4重量部、添加剤としてジオクチルスズジラウレート(エンビライザーOL-1,東京ファインケミカル株式会社製)0.015重量部を加えて均一に混合撹拌し、粘着剤層形成用のアクリル系粘着剤組成物Gを調製した。
【0103】
実施例1の水分散型アクリル系粘着剤組成物Aに代えてアクリル系粘着剤組成物Gを用いた以外は実施例1と同様にしてシート状の粘着性物品及び線状の粘着性物品を作製した。
【0104】
得られたシート状の粘着性物品及び線状の粘着性物品を7日間、40℃にて保存した。
保存後のシート状の粘着性物品及び線状の粘着性物品を比較例4に係るシート状の粘着性物品及び線状の粘着性物品とした。
【0105】
〔ゲル分率の測定〕
実施例1~6、比較例1~4の粘着シートから約0.1g(重量W1)の粘着剤を採取し、平均孔径0.2μmの多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜(重量W2)で巾着状に包み、口をタコ糸(重量W3)で縛った。この包みを酢酸エチル50mLに浸し、室温(典型的には23℃)で7日間保持して粘着剤層中のゾル成分のみを上記膜外に溶出させた後、上記包みを取り出して外表面に付着している酢酸エチルを拭き取り、該包みを130℃で1時間乾燥させ、該包みの重量(W4)を測定した。各値を以下の式(1)に代入することにより実施例及び比較例の粘着剤層のゲル分率(初期)(F1)を求めた。
ゲル分率(%)=[(W4-W2-W3)/W1]×100 (1)
上記多孔質PTFE膜としては、日東電工株式会社から入手可能な商品名「ニトフロンNTF1122」(平均孔径0.2μm、気孔率75%、厚さ85μm)を使用した。
なお、粘着剤の採取は粘着シート作製直後に行った。
【0106】
〔ゲル分率の変化量測定〕
実施例1~6、比較例1~4で得られた粘着シートを、作製から7日間、40℃にて保存後に、上記と同様の操作により粘着剤層のゲル分率(40℃×7日後)(F2)を測定した。
ゲル分率(初期)(F1)及びゲル分率(40℃×7日後)(F2)を以下の式(2)に代入することにより実施例1~6、比較例1~4の粘着剤層のゲル分率の変化量(%)を求めた。
ゲル分率の変化量(%)=F2-F1 (2)
【0107】
〔シート状の粘着性物品の自着力測定〕
実施例1~6、比較例1~4で得られた粘着シートから、長さ100mm、幅10mmのシート片を切り出した。シート片の粘着面(粘着剤層)同士を貼り合わせて0.4MPaの条件で圧着し試験片を作製した。作製した試験片について、圧着から20分後に引張試験機(装置名:オートグラフ AG-IS、(株)島津製作所製)を用い、JIS Z0237に準拠して、23℃、50%R.H.の雰囲気下、剥離速度100mm/分、剥離角度180°の条件で、試験片(PETフィルム/粘着剤層/粘着剤層/PETフィルム)の粘着面を引きはがし、180°引き剥がし接着力(N/10mm)(180度ピール接着力)を測定し、自着力(初期)とした。また、粘着面の状態を観察した。
2つの粘着面の界面で粘着剤層が剥離でき、剥離面の荒れが無いものを「界面剥離」とし、2つの粘着剤の界面が不明瞭となり、粘着剤層が破壊されて剥離面に凹凸が生じゆず肌状になったものを「凝集破壊」とした。
同様に実施例1~6、比較例1~4で得られた粘着シートを用いて試験片を作製し、圧着から7日間、40℃にて保存後に、180度ピール接着力を測定し、自着力(40℃×7日後)とした。また、粘着面の状態を観察した。
【0108】
〔シート状の粘着性物品の粘着力の測定〕
実施例1~6、比較例1~4で得られた粘着シートの粘着剤層をセパレータで保護し、7日間、40℃にて保存後に、長さ100mm、幅20mmのシート片を切り出し、試験片を作製した。
試験片の粘着面(粘着剤層)を2kgローラー一往復の条件でSUS304BAに圧着した。圧着から20分後に引張試験機(装置名:オートグラフ AG-IS、(株)島津製作所製)を用い、JIS Z0237に準拠して、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で、試験片を引きはがし、粘着力(N/20mm)を測定した。
【0109】
〔線状の粘着性物品の自着力測定〕
実施例1~6、比較例1~4で得られた粘着性物品から長さ100mmの線状粘着性物品を2本切り出し、それらの粘着剤層同士を重ね合わせた。その後、重ね合わせられた線状粘着性物品をセパレータで保護し、2kgローラー1往復の条件で圧着して試験片とした。作製した試験片について、圧着から20分後に引張試験機(装置名:オートグラフ AG-IS、(株)島津製作所製)を用い、23℃、50%R.H.の雰囲気下、剥離速度100mm/分、剥離角度180°の条件で、試験片の両端を引っ張ることで粘着剤層同士を引きはがした。重なり合った試験片を引き剥がす際の抵抗力(N)を測定し自着力(初期)とした。
同様に実施例1~6、比較例1~4で得られた粘着性物品を用いて試験片を作製し、圧着から7日間、40℃にて保存後に、自着力(初期)と同様に重なり合った試験片を引き剥がす際の抵抗力(N)を測定し、自着力(40℃×7日後)とした。
【0110】
また、実施例1~6、比較例1~4で得られた線状の粘着性物品の初期と40℃×7日後の自着力測定後の粘着面の状態を観察した。2つの粘着面の界面で粘着剤層が剥離できたものを「界面剥離」とし、粘着剤層同士の自着力が強く芯材から粘着剤が剥がれ、芯材が露出したものを「芯材の露出」とした。
【0111】
〔線状の粘着性物品の粘着力の測定〕
実施例1~6、比較例1~4で得られた線状の粘着性物品から長さ150mmを切り出し、試験片を作製した。試験片の粘着面(粘着剤層)を2kgローラー一往復の条件でSUS304BAに圧着した。圧着から20分後に引張試験機(装置名:オートグラフ AG-IS、(株)島津製作所製)を用い、JIS Z0237に準拠して、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で、試験片を引きはがし、粘着力(N/本)(初期)を測定した。
同様に、実施例1~6、比較例1~4で得られた線状の粘着性物品の粘着面(粘着剤層)をセパレータで保護し、7日間、40℃にて保存後に試験片を作製し、粘着力(40℃×7日後)を測定した。
【0112】
表1に、各サンプルについての、ゲル分率、ゲル分率の変化量、自着力、粘着面の状態、及び粘着力の測定結果を示す。
【0113】
【0114】
実施例1~6の粘着性物品は、サンプル作製直後(初期)においても高いゲル分率を示し、初期と圧着から7日間、40℃にて保存後とではゲル分率の変化量が比較例1及び比較例2に比べて少ない。これにより実施例1~6の粘着剤層に含有される樹脂の状態に変化が少ないことがわかる。
実施例1~6、比較例1~3のシート状の粘着性物品は、いずれも被着体に対して十分な粘着力を示した。比較例4のシート状の粘着性物品は十分な粘着力が得られなかった。また、比較例1及び3のシート状の粘着性物品は、接触した2つの粘着剤層の界面が不明瞭となり、剥離の際に粘着剤層が破壊されて剥離面に凹凸が生じゆず肌状になった。比較例2の粘着性物品は、初期は接触した粘着剤層同士の界面で粘着剤層が剥離でき剥離面の荒れが無かった。しかし、圧着から7日間、40℃にて保存後は、接触した2つの粘着剤層の界面が不明瞭となり、剥離の際に粘着剤層が破壊されて剥離面に凹凸が生じゆず肌状になった。一方、実施例1~6のシート状の粘着性物品は、圧着から7日間、40℃にて保存後であっても初期と同様に、2つの粘着面の界面で粘着剤層が剥離できた。また、剥離面の荒れが無く、互いに接触した粘着剤層が界面で剥離可能であることが示された。
実施例1~6の線状の粘着性物品は、圧着から7日間、40℃にて保存後であっても初期と同様に、2つの粘着面の界面で粘着剤層が剥離できた。一方、比較例1~3の線状の粘着性物品は、剥離の際に接触した2つの粘着剤層の界面からの剥離が起こらず、粘着剤層と芯材の界面での剥離が起こり、芯材が露出した。
【符号の説明】
【0115】
100、200、300 粘着性物品
2、3、4 粘着体
13 粘着剤層
14 芯材
20 基材