(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】型内塗装物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 39/44 20060101AFI20240806BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20240806BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20240806BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240806BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20240806BHJP
C09D 153/02 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B29C39/44
C08J7/04 Z CES
B29C39/10
B29C45/14
C09D4/00
C09D153/02
(21)【出願番号】P 2023218342
(22)【出願日】2023-12-25
【審査請求日】2024-07-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 克徳
(72)【発明者】
【氏名】安保 啓司
(72)【発明者】
【氏名】小阪 一輝
(72)【発明者】
【氏名】千田 晃子
(72)【発明者】
【氏名】川合 貴史
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-258080(JP,A)
【文献】特表2018-535290(JP,A)
【文献】特開2001-310345(JP,A)
【文献】国際公開第2010/064330(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 39/44
C08J 7/04
B29C 39/10
B29C 45/14
C09D 4/00
C09D 153/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型および可動金型を備える成型機を用いる型内塗装において、前記固定金型の表面に配置された非極性樹脂を含む基材と前記可動金型との空隙に、塗料組成物を注入することと、
注入された前記塗料組成物を硬化することと、
前記可動金型および前記固定金型を開いて、前記基材および前記塗料組成物の硬化物を備える型内塗装物を取り出すことと、を備え、
前記塗料組成物は、
脂環式骨格、および、1個の反応性二重結合を有する第1化合物(A)と、
前記第1化合物(A)と共重合可能な1個の反応性二重結合を有する第2化合物(B)と、
2個以上6個以下の反応性二重結合を有する第3化合物(C)と、
スチレン由来のスチレンブロック、および、直鎖状または分枝状のオレフィン由来のオレフィンブロックを有するスチレンブロック共重合体(D)と、
1分間における半減期温度が110℃以上155℃以下の重合開始剤(E)と、を含み、
前記塗料組成物の注入が完了してから、前記可動金型および前記固定金型を開き始めるまでの前記可動金型の温度が、80℃以上130℃以下であり、
前記塗料組成物の注入が完了してから、前記可動金型および前記固定金型を開き始めるまでの時間が、30秒以上10分以下である、型内塗装物の製造方法。
【請求項2】
前記塗料組成物の注入が開始されるとき、前記基材の温度が20℃以上120℃以下である、請求項1記載の型内塗装物の製造方法。
【請求項3】
前記塗料組成物は、ブルックフィールド回転粘度計を用いて、温度23℃および回転数6rpmで測定される粘度が150mPa・s以上2000mPa・s以下である、請求項1または2記載の型内塗装物の製造方法。
【請求項4】
前記基材に含まれる非極性樹脂が、ポリプロピレンである、請求項1または2記載の型内塗装物の製造方法。
【請求項5】
前記塗料組成物の注入の前に、予め成型した前記基材を前記固定金型に設置することを備える、請求項1または2記載の型内塗装物の製造方法。
【請求項6】
前記塗料組成物の注入の前に、さらに、前記成型機内で前記非極性樹脂を成型することを備え、
前記非極性樹脂の成型と前記塗料組成物の注入とが連続して行われる、請求項1または2記載の型内塗装物の製造方法。
【請求項7】
前記第1化合物(A)、前記第2化合物(B)、前記第3化合物(C)および前記スチレンブロック共重合体(D)の総固形分100質量部に対して、
前記重合開始剤(E)の固形分含有量が、1質量部以上5質量部以下である、請求項1または2記載の型内塗装物の製造方法。
【請求項8】
前記第1化合物(A)、前記第2化合物(B)、前記第3化合物(C)および前記スチレンブロック共重合体(D)の総固形分100質量部に対して、
前記第1化合物(A)の固形分含有量が、5質量部以上70質量部以下であり、
前記スチレンブロック共重合体(D)の含有量が、1質量部以上30質量部以下である、請求項1または2記載の型内塗装物の製造方法。
【請求項9】
前記第1化合物(A)が有する前記脂環式骨格が、シクロヘキシル基、イソボルニル基、ジシクロペンテニル基およびジシクロペンタニル基よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2記載の型内塗装物の製造方法。
【請求項10】
前記塗料組成物が、さらにオレフィン樹脂(F)を含む、請求項1または2記載の型内塗装物の製造方法。
【請求項11】
前記塗料組成物が、さらに光輝材および着色剤の少なくとも一種(G)を含む、請求項1または2記載の型内塗装物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型内塗装物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部材の材料として、金属に替えて樹脂が提案されている。特許文献1~3は、樹脂基材に適した塗料組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-249680号公報
【文献】特開2009-019073号公報
【文献】特開2022-100236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、低温短時間での硬化性および非極性樹脂基材に対する密着性に優れる型内塗装物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
固定金型および可動金型を備える成型機を用いる型内塗装において、前記固定金型の表面に配置された非極性樹脂を含む基材と前記可動金型との空隙に、塗料組成物を注入することと、
注入された前記塗料組成物を硬化することと、
前記可動金型および前記固定金型を開いて、前記基材および前記塗料組成物の硬化物を備える型内塗装物を取り出すことと、を備え、
前記塗料組成物は、
脂環式骨格、および、1個の反応性二重結合を有する第1化合物(A)と、
前記第1化合物(A)と共重合可能な1個の反応性二重結合を有する第2化合物(B)と、
2個以上6個以下の反応性二重結合を有する第3化合物(C)と、
スチレン由来のスチレンブロック、および、直鎖状または分枝状のオレフィン由来のオレフィンブロックを有するスチレンブロック共重合体(D)と、
1分間における半減期温度が110℃以上155℃以下の重合開始剤(E)と、を含み、
前記塗料組成物の注入が完了してから、前記可動金型および前記固定金型を開き始めるまでの前記可動金型の温度が、80℃以上130℃以下であり、
前記塗料組成物の注入が完了してから、前記可動金型および前記固定金型を開き始めるまでの時間が、30秒以上10分以下である、型内塗装物の製造方法。
[2]
前記塗料組成物の注入が開始されるとき、前記基材の温度が20℃以上120℃以下である、上記[1]に記載の型内塗装物の製造方法。
[3]
前記塗料組成物は、ブルックフィールド回転粘度計を用いて、温度23℃および回転数6rpmで測定される粘度が150mPa・s以上2000mPa・s以下である、上記[1]または[2]に記載の型内塗装物の製造方法。
[4]
前記基材に含まれる非極性樹脂が、ポリプロピレンである、上記[1]または[2]に記載の型内塗装物の製造方法。
[5]
前記塗料組成物の注入の前に、予め成型した前記基材を前記固定金型に設置することを備える、上記[1]または[2]に記載の型内塗装物の製造方法。
[6]
前記塗料組成物の注入の前に、さらに、前記成型機内で前記非極性樹脂を成型することを備え、
前記非極性樹脂の成型と前記塗料組成物の注入とが連続して行われる、上記[1]または[2]に記載の型内塗装物の製造方法。
[7]
前記第1化合物(A)、前記第2化合物(B)、前記第3化合物(C)および前記スチレンブロック共重合体(D)の総固形分100質量部に対して、
前記重合開始剤(E)の固形分含有量が、1質量部以上5質量部以下である、上記[1]または[2]に記載の型内塗装物の製造方法。
[8]
前記第1化合物(A)、前記第2化合物(B)、前記第3化合物(C)および前記スチレンブロック共重合体(D)の総固形分100質量部に対して、
前記第1化合物(A)の固形分含有量が、5質量部以上70質量部以下であり、
前記スチレンブロック共重合体(D)の含有量が、1質量部以上30質量部以下である、上記[1]または[2]に記載の型内塗装物の製造方法。
[9]
前記第1化合物(A)が有する前記脂環式骨格が、シクロヘキシル基、イソボルニル基、ジシクロペンテニル基およびジシクロペンタニル基よりなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]または[2]に記載の型内塗装物の製造方法。
[10]
前記塗料組成物が、さらにオレフィン樹脂(F)を含む、上記[1]または[2]に記載の型内塗装物の製造方法。
[11]
前記塗料組成物が、さらに光輝材および着色剤の少なくとも一種(G)を含む、上記[1]または[2]に記載の型内塗装物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、低温短時間での硬化性および非極性樹脂基材に対する密着性に優れる型内塗装物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示に係る型内塗装物の製造方法は、固定金型および可動金型を備える成型機を用いる型内塗装において、固定金型の表面に配置された非極性樹脂を含む基材と可動金型との空隙に、塗料組成物を注入することと、注入された塗料組成物を硬化することと、可動金型および固定金型を開いて、基材および塗料組成物の硬化物を備える型内塗装物を取り出すことと、を備える。
【0008】
本開示に係る型内塗装物の製造方法は、いわゆる型内塗装法である。型内塗装とは、2つの金型(典型的には、コアおよびキャビティ)の間の隙間に塗料組成物を注入して、大気(特に酸素)に触れない状態で当該塗料組成物を硬化させる方法である。型内塗装法の具体例としては、射出成形法、射出圧縮成形法、射出プレス成形法、圧縮成形法、反応射出成形法、RTM成形法が挙げられる。型内塗装によれば、スプレー塗装と比べて有機溶剤および二酸化炭素の排出量が低減する。型内塗装は、環境負荷が小さい点で、近年注目されている。型内塗装は、樹脂基材に塗装する方法として適している。
【0009】
ポリプロピレンは非常に軽く加工性が高いことから、自動車部材の材料に適している。一方で、ポリプロピレンは難密着性であるといわれ、ポリプロピレン基材に塗膜を密着させるのは困難である。そのため、ポリプロピレンに代表される非極性樹脂を含む基材(以下、非極性基材と称する場合がある。)への密着性を高めるために、塗料組成物には、従来、構造が類似する非極性樹脂(例えば、オレフィン樹脂)が配合される。しかしながら、非極性樹脂は、極性の違い等の理由から、塗料組成物の他の成分(例えば、原料モノマー)との相溶性が低い。そのため、塗料組成物の安定性が低下したり、粘度が増大したりする。また、得られる塗膜に濁りが生じ得る。
【0010】
本開示では、非極性基材に型内塗装するために、第1化合物(A)およびスチレンブロック共重合体(D)を含む塗料組成物を用いる。第1化合物(A)は、脂環式骨格および1個の反応性二重結合を有する。第1化合物(A)によって非極性基材との密着性が向上する。その理由は、特定の理論に拘束されるものではないが、以下のように考えられる。第1化合物(A)の反応性二重結合が他の重合性化合物(例えば、第2化合物(B)および第3化合物(C))と反応して、塗膜を形成する一方で、脂環式骨格は非極性基材に浸透することができる。脂環式骨格は嵩高いため、一旦非極性基材に浸透すると抜けにくくなる。これにより、形成される塗膜と非極性基材とが、第1化合物(A)を介して密着することができる。
【0011】
第1化合物(A)はまた、第3化合物(C)とスチレンブロック共重合体(D)との相溶性を向上させる。第3化合物(C)とスチレンブロック共重合体(D)とは、その構造の違いから相溶し難いが、第1化合物(A)によって、両者の相溶性が向上する。
【0012】
スチレンブロック共重合体(D)は、直鎖状または分枝状のオレフィン(すなわち、脂環式でないオレフィン)由来のオレフィンブロックを有する。オレフィンブロックは、非極性基材に浸透し易い。この浸透は低温下(例えば、80℃以上120℃以下)であっても生じ得る。ただし、上記の通り、オレフィン由来のオレフィンブロックは、塗料組成物の他の成分(特に、第1化合物(A))との相溶性が低い。本開示では、塗料組成物の他の成分との相溶性に優れるスチレンを、オレフィンとのブロック共重合体として塗料組成物に配合する。スチレン由来のスチレンブロックにより、非極性部分(オレフィン由来のオレフィンブロック)を塗料組成物に配合することができる。
【0013】
加えて、1分間における半減期温度が110℃以上155℃以下の重合開始剤(E)を使用する。これにより、保管中(典型的には、室温25℃程度での静置)の塗料組成物の硬化反応を抑制しながら、加熱温度が80℃以上130℃以下の低温であっても、硬化反応が速やかに進行する。
【0014】
つまり、第1化合物(A)とスチレンブロック共重合体(D)とを併用することにより、塗料組成物の安定性が維持され、かつ粘度の増大が抑制され、加えて非極性基材への密着性が向上する。さらに、重合開始剤(E)により、低温短時間での硬化反応が可能である。これにより、非極性基材の変形を抑制される。
【0015】
密着性は、初期密着性および浸漬試験後の密着性(耐水密着性)の両方を指す。本開示で得られる型内塗装物は、低温短時間での硬化条件であっても、初期密着性および耐水密着性のいずれにも優れる。
【0016】
低温とは、塗料組成物の注入が完了してから可動金型および固定金型を開き始めるまでの可動金型の温度が、80℃以上130℃以下であることを言う。短時間とは、塗料組成物の注入が完了してから可動金型および固定金型を開き始めるまでの時間が、30秒以上10分以下であることを言う。
【0017】
[塗料組成物]
まず、塗料組成物について説明する。
塗料組成物は、脂環式骨格および1個の反応性二重結合を有する第1化合物(A)と、第1化合物(A)と共重合可能な1個の反応性二重結合を有する第2化合物(B)と、2個以上6個以下の反応性二重結合を有する第3化合物(C)と、スチレン由来のスチレンブロック、および、直鎖状または分枝状のオレフィン由来のオレフィンブロックを有するスチレンブロック共重合体(D)と、1分間における半減期温度が110℃以上155℃以下の重合開始剤(E)と、を含む。
【0018】
塗料組成物は、ブルックフィールド(Brookfield)回転粘度計を用いて、温度23℃および回転数6rpmで測定される粘度が150mPa・s以上2000mPa・s以下であってよい。これにより、所定の空隙への均一な注入が容易となるとともに、塗料組成物が成型機から漏れることが抑制され易くなる。上記粘度は、200mPa・s以上であってよく、250mPa・s以上であってよい。上記粘度は、2000mPa・s以下であってよく、1500mPa・s以下であってよく、1000mPa・s以下であってよく、700mPa・s以下であってよい。
【0019】
・第1化合物(A)
第1化合物(A)は、脂環式骨格および1個の反応性二重結合を有する。脂環式骨格は極性が小さいため、第1化合物(A)によって、塗膜と非極性基材との密着性が向上する。第1化合物(A)は反応性二重結合を1つだけ有しているため、非極性基材に浸透し易く、塗膜と非極性基材との密着性の向上に寄与することができる。第1化合物(A)はまた、第3化合物(C)とスチレンブロック共重合体(D)との相溶性を向上させる。
【0020】
脂環式骨格としては、例えば、シクロヘキシル基、イソボルニル基、ジシクロペンテニル基およびジシクロペンタニル基よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。なかでも、密着性の観点から、脂環式骨格はジシクロペンタニル基が好ましい。
【0021】
第1化合物(A)は、脂環式(メタ)アクリレートであってよい。(メタ)アクリレートは、アクリレートおよびメタアクリレートを表わす。脂環式(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0022】
第1化合物(A)の含有量は、第1化合物(A)、第2化合物(B)、第3化合物(C)およびスチレンブロック共重合体(D)の総固形分100質量部に対して、5質量部以上70質量部以下が好ましい。第1化合物(A)の上記含有量は、密着性の観点から、10質量部以上であってよく、20質量部以上であってよく、30質量部以上であってよい。第1化合物(A)の上記含有量は、塗膜の柔軟性の観点から、60質量部以下であってよく、55質量部以下であってよく、50質量部以下であってよい。
【0023】
・第2化合物(B)
第2化合物(B)は、第1化合物(A)と共重合可能な1個の反応性二重結合を有する。第2化合物(B)によって、塗料組成物あるいは塗膜に種々の性能が付与される。第2化合物(B)を配合することにより、第3化合物(C)の相対的な含有量が多くなり過ぎることが防止されるため、塗膜の柔軟性が損なわれ難い。第2化合物(B)は、第1化合物(A)とは異なり、脂環式骨格を有さない。
【0024】
第2化合物(B)としては、例えば、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ-ト、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ-ト、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と炭素数2~18の2価アルコールとのモノエステル化物;アリルアルコール;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド等の重合性アミド化合物;重合性芳香族化合物、重合性ニトリル、重合性アルキレンオキシド化合物、重合性アミン化合物、α-オレフィン、ジエン、重合性カルボニル化合物、重合性アルコキシシリル化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。これらは、例えば、ウレタン変性、アミン変性、カプロラクトン変性、アルキル変性、シリコーン変性、またはポリオキシアルキレン変性されていてよい。(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタアクリル酸を表わす。
【0025】
第2化合物(B)の含有量は、第1化合物(A)、第2化合物(B)、第3化合物(C)およびスチレンブロック共重合体(D)の総固形分100質量部に対して、2質量部以上60質量部以下であってよい。第2化合物(B)の上記含有量は、5質量部以上であってよい。第2化合物(B)の上記含有量は、50質量部以下であってよく、40質量部以下であってよく、30質量部以下であってよい。第2化合物(B)の含有量は、第1化合物(A)およびスチレンブロック共重合体(D)による密着性向上効果を妨げず、かつ、塗料組成物あるいは塗膜に所望の性能が付与できる範囲で、適宜設定される。
【0026】
・第3化合物(C)
第3化合物(C)は、2個以上6個以下の反応性二重結合を有する。第3化合物(C)によって、三次元架橋構造が形成されて、塗膜に靭性および適度な硬度が付与される。
【0027】
多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の5官能(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の6官能(メタ)アクリレート、多官能のウレタン(メタ)アクリレート、多官能のエポキシ(メタ)アクリレート、多官能のポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。これらは、例えば、ウレタン変性、アミン変性、カプロラクトン変性、アルキル変性、シリコーン変性、またはポリオキシアルキレン変性されていてよい。
【0028】
第3化合物(C)の含有量は、第1化合物(A)、第2化合物(B)、第3化合物(C)およびスチレンブロック共重合体(D)の総固形分100質量部に対して、10質量部以上40質量部以下が好ましい。第3化合物(C)の上記含有量が10重量部以上であると、良好な耐薬品性および耐候性が得られ易い。第3化合物(C)の上記含有量が40重量部以下であると、密着性がより向上し得る。であってよい。第3化合物(C)の上記含有量は、15重量部以上がさらに好ましい。第3化合物(C)の上記含有量は、30重量部以下がさらに好ましい。
【0029】
・スチレンブロック共重合体(D)
スチレンブロック共重合体(D)は、スチレン由来のスチレンブロック、および、直鎖状または分枝状のオレフィン由来のオレフィンブロックを有する。スチレンブロック共重合体(D)は、低温硬化の場合にも、塗膜と非極性基材との密着性を向上させる。
【0030】
オレフィンブロックの原料であるオレフィンは、直鎖状であってよく、分枝状であってよい。オレフィンブロックの原料であるオレフィンの炭素数は、例えば、2以上5以下である。
【0031】
密着性の観点から、オレフィンブロックに含まれる炭化水素基は飽和していることが好ましい。二重結合に水素原子を付加すること(水添)により、炭化水素基を飽和させることができる。
【0032】
オレフィンブロックに含まれる炭化水素基は、C-C単結合を主鎖として有する。主鎖は、不飽和結合を含んでいてよく、飽和していることが密着性の観点から好ましい。オレフィンブロックに含まれる炭化水素基は、側鎖としても炭化水素基(例えば、炭素数1~3)を有してよい。炭化水素基である側鎖により、密着性はさらに向上し得る。側鎖の炭化水素基もしていることが、密着性の観点から好ましい。
【0033】
スチレンブロック共重合体(D)は、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)およびスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)よりなる群から選択される少なくとも1種の第1スチレンブロック共重合体(D1)を含むことが好ましい。第1スチレンブロック共重合体(D1)に含まれる複数のオレフィンブロックの存在順序は任意である。
【0034】
スチレンブロック共重合体(D)に占める第1スチレンブロック共重合体(D1)の割合は、密着性の観点から、55質量%以上であってよい。第1スチレンブロック共重合体(D1)の上記割合は、60質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0035】
スチレンブロック共重合体(D)の含有量は、第1化合物(A)、第2化合物(B)、第3化合物(C)およびスチレンブロック共重合体(D)の総固形分100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であってよい。スチレンブロック共重合体(D)の上記含有量が1質量部以上であると、密着性はより向上し得る。スチレンブロック共重合体(D)の上記含有量が30質量部以下であると、型内塗装に適した粘度に調整され易い。スチレンブロック共重合体(D)の上記含有量は、2質量部以上が好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。スチレンブロック共重合体(D)の上記含有量は、20質量部以下が好ましく、さらに15質量部以下がさらに好ましい。
【0036】
第1化合物(A)、第2化合物(B)、第3化合物(C)およびスチレンブロック共重合体(D)の総固形分100質量部に対して、第1化合物(A)の固形分含有量が、5質量部以上70質量部以下であり、かつ、スチレンブロック共重合体(D)の含有量が、1質量部以上30質量部以下であってよい。これにより、特に初期密着性が向上し得る。
【0037】
・重合開始剤(E)
重合開始剤(E)は、フリーラジカルを発生し、第1化合物(A)、第2化合物(B)および第3化合物(C)の重合反応を開始する。
【0038】
重合開始剤は、通常、硬化条件(温度および時間)を考慮して選定される。本開示では、1分間における半減期温度が110℃以上155℃以下の重合開始剤(E)を使用する。重合開始剤の1分間における半減期温度が110℃以上であると、保管中(典型的には、室温25℃程度での静置)の塗料組成物の硬化反応が抑制される。上記半減期温度が155℃以下であると、硬化工程中の可動金型の温度が130℃以下であっても、塗料組成物の硬化反応が進行する。上記半減期温度が110℃以上155℃以下であると、硬化工程中の可動金型の温度が80℃以上130℃以下のときに、30秒以上10分以下の時間で硬化反応が完了可能である。
【0039】
1分間における半減期温度は、1分間で重合開始剤の濃度が半分になるときの温度である。重合開始剤の濃度減少は分解反応によって生じるため、上記半減期温度は、ラジカルの発生し易さ、すなわち硬化反応の起こり易さを表わす。
【0040】
重合開始剤(E)の1分間における半減期温度は、取り扱い性の点で、120℃以上であってよく、125℃以上であってよい。上記半減期温度は、硬化性および未反応の重合開始剤を抑制する観点から、140℃以下であってよく、135℃以下であってよい。
【0041】
重合開始剤(E)の固形分含有量は、第1化合物(A)、第2化合物(B)、第3化合物(C)およびスチレンブロック共重合体(D)の総固形分100質量部に対して、1質量部以上5質量部以下が好ましい。重合開始剤(E)の上記含有量は、密着性の観点から、1.5質量部以上が好ましく、2質量部以上がさらに好ましい。重合開始剤(E)の上記含有量は、未反応の重合開始剤(E)による影響を低減する観点から、4質量部以下が好ましく、3質量部以下がさらに好ましい。
【0042】
重合開始剤(E)としては、例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類;1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレートなどのパーオキシケタール類;クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類;1,3-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド類;デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類;ビス(t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシカーボネート類;t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサンなどのパーオキシエステル類などの有機過酸化物;2,2´-アゾビスイソブチロニトリル、1,1-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、アゾクメン2,2’-アゾビスメチルバレロニトリル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)などのアゾ化合物が挙げられる。
【0043】
・オレフィン樹脂(F)
塗料組成物は、オレフィン樹脂(F)を含み得る。オレフィン樹脂は極性が小さいかあるいは非極性であるため、非極性基材との親和性が高い。そのため、塗料組成物と非極性基材との密着性がさらに向上することが期待できる。さらに、スチレンブロック共重合体(D)が、オレフィン樹脂(F)の相溶化剤として機能し得る。よって、スチレンブロック共重合体(D)の存在下でオレフィン樹脂(F)を塗料組成物に配合する場合、塗料組成物の安定性低下および粘度増大は抑制され得る。
【0044】
オレフィン樹脂(F)としては、例えば、オレフィンモノマー(例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、3-メチル-1-ブテンおよび3-メチル-1-ヘプテンよりなる群から選択された少なくとも1つ)の重合体が挙げられる。オレフィン樹脂(F)は、オレフィンモノマーと、酢酸ビニル、ブタジエン、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル等との共重合体であってよい。
【0045】
オレフィン樹脂(F)の固形分含有量は、第1化合物(A)、第2化合物(B)、第3化合物(C)およびスチレンブロック共重合体(D)の総固形分100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下が好ましい。オレフィン樹脂(F)の上記含有量は、密着性の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。オレフィン樹脂(F)の上記含有量は、相溶性の観点から、10質量部以下が好ましく、7質量部以下がさらに好ましい。
【0046】
・光輝材/着色剤(G)
塗料組成物は、光輝材および着色剤の少なくとも一種(以下、光輝材/着色剤と称する場合がある。)(G)を含み得る。これにより、意匠性が向上する。
【0047】
着色剤は、着色顔料であってよく、染料であってよい。着色顔料は、無機顔料であってよく、有機顔料であってよい。着色顔料は、有彩色であってよく、無彩色であってよい。有機着色顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料が挙げられる。無機着色顔料としては、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0048】
染料としては、例えば、アゾ系染料、トリフェニルメタン系染料、クロム錯体、コバルト錯体が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0049】
光輝材としては、例えば、干渉マイカ、ホワイトマイカおよび着色マイカ等のマイカ顔料;グラファイト顔料;ガラスフレーク顔料;アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウム、酸化クロム、これらを含む合金等の金属顔料が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。光輝材は、着色されていてもよい。
【0050】
光輝材/着色剤(G)の含有量は、第1化合物(A)、第2化合物(B)、第3化合物(C)およびスチレンブロック共重合体(D)の総固形分100質量部に対して、0.5質量部以上60質量部以下であってよい。
【0051】
・その他
塗料組成物は、その他の成分、例えば、他の顔料(例えば、体質顔料)、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、重合禁止剤、表面調整剤、造膜助剤、防錆剤、離型剤を含み得る。
【0052】
塗料組成物は、上記の成分を混合することにより得られる。混合は、例えば、ディスパー(攪拌機)により実施される。ディスパーとしては、例えば、プロペラミキサー、パドルミキサー、アンカーミキサー等の低速撹拌機;ホモミキサー、ディスパーミキサー、ウルトラミキサー等の高速撹拌機が挙げられる。
【0053】
[型内塗装物]
型内塗装物は、非極性基材と、非極性基材上に配置された上記の塗料組成物の硬化物と、を備える。硬化物の厚さは、例えば、20μm以上1mm以下である。
【0054】
・非極性基材
非極性基材は、非極性樹脂を含む。非極性樹脂は、少なくとも基材の表面に配置されていればよい。非極性基材全体が、非極性樹脂により形成されていてもよい。
【0055】
非極性樹脂は、表面張力が32dyne/cm以下である。このような樹脂は、極性がないか、あるいはごく小さな極性を有している。
【0056】
非極性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、α-オレフィンとエチレンとを共重合した直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、アイソタクチックポリプロピレン(iPP)、シンジオタクチックポリプロピレン(sPP)、アタクチックポリプロピレン(aPP)、ポリプロピレン共重合体、ポリプロピレンブロック共重合体等の脂肪族ポリオレフィン樹脂;環状オレフィンコポリマー;ポリスチレン;フッ素化樹脂:シリコーン樹脂:エポキシシリコーン樹脂:シリコーンエラストマーが挙げられる。なかでも、各種のポリプロピレンであってよい。本開示で用いられる塗料組成物は、特にポリプロピレンを含む基材と高い密着性を示す。
【0057】
型内塗装物の硬化物上には、さらに他の塗膜(例えば、クリヤー塗膜)が形成され得る。他の塗膜は、例えばスプレー塗装により形成される。
【0058】
[型内塗装物の製造方法]
本開示に係る型内塗装物の製造方法は、固定金型および可動金型を備える成型機を用いる型内塗装において、固定金型の表面に配置された非極性基材と可動金型との空隙に、上記の塗料組成物を注入することと、注入された塗料組成物を硬化することと、可動金型および固定金型を開いて、非極性基材および塗料組成物の硬化物を備える型内塗装物を取り出すことと、を備える。硬化は、大気を遮断した状態で行われる。
【0059】
塗料組成物の注入が開始されるときの可動金型の温度は80℃以上130℃以下である。塗料組成物の注入が完了してから、可動金型および固定金型を開き始めるまでの時間は30秒以上10分以下である。本開示では、低温短時間での硬化反応が可能となる。
【0060】
(1)非極性基材の準備
非極性基材を準備する。
非極性基材は、所定の形状に予め成型されていてよい。すなわち、本開示に係る型内塗装物の製造方法は、塗料組成物を注入する前に、予め成型されている非極性基材を固定金型の表面に設置することを備えてよい。
【0061】
非極性基材は、上記成型機内で成型されてよい。すなわち、本開示に係る型内塗装物の製造方法は、塗料組成物を注入する前に、成型機内で非極性樹脂から基材を成型することを備えてよい。例えば、加熱により溶融した非極性樹脂を固定金型と可動金型との空隙に射出して、冷却する。これにより、所定の形状に成型された非極性基材が得られる。
【0062】
非極性樹脂の成型は、後述する塗料組成物の注入と連続して行われてよい。これにより、生産性が高まる。「非極性樹脂の成型と塗料組成物の注入とが連続して行われる」とは、例えば、成型された非極性基材を金型から取り出すことなく、固定金型の表面に配置された非極性基材と可動金型との空隙に、塗料組成物の注入が行われることをいう。連続加工において、可動金型は、非極性基材の成型に使用されるものと、塗料組成物の注入の際に使用されるものとで、同じであってよく、異なっていてよい。
【0063】
(2)塗料組成物の注入
成型された非極性基材を固定金型の表面に設置する。次いで、固定金型および可動金型を開いて両者を所定の位置に配置し、非極性基材と可動金型との空隙に、塗料組成物を注入する。
【0064】
塗料組成物の注入が開始されるとき、可動金型の温度は80℃以上130℃以下であってよい。可動金型の上記温度が80℃以上であると、塗料組成物の硬化が速やかに開始されて、生産性が向上する。加えて、硬化反応が適切に進行するため、密着性も向上する。可動金型の上記温度が130℃以下であると、非極性基材の変形が抑制される。可動金型の上記温度は、100℃以上であってよく、110℃以上であってよい。可動金型の上記温度は、120℃以下であってよい。
【0065】
可動金型の温度は、接触あるいは非接触の温度計により測定される、可動金型表面の温度の実測値であってよい。表面温度は、可動金型の任意の場所(例えば、端部あるいは中央部)で測定される。可動金型の任意の1カ所における表面温度が、80℃以上130℃以下であればよく、その他の箇所の表面温度が当該範囲外であってもよい。可動金型の温度はまた、成型機に設定された加熱温度であってよい。
【0066】
塗料組成物の注入が開始されるとき、非極性基材の温度は、20℃以上120℃以下であってよい。すなわち、塗料組成物の注入が開始されるとき、非極性基材は、加熱されてなくてよく、加熱されていてよい。非極性基材は、固定金型を加熱することにより、加熱することができる。
【0067】
非極性基材の上記温度が20℃以上であると、硬化反応がより進行し易くなって、密着性がより向上し得る。非極性基材の上記温度が120℃以下であると、非極性基材の変形が抑制され易い。非極性基材の上記温度は、60℃以上であってよく、100℃以上であってよい。非極性基材の上記温度は、110℃以下であってよい。
【0068】
非極性基材の温度は、接触あるいは非接触の温度計により測定される、非極性基材表面の温度の実測値であってよい。表面温度は、非極性基材の任意の場所(例えば、端部あるいは中央部)で測定される。非極性基材の任意の1カ所における表面温度が、20℃以上120℃以下であればよく、その他の箇所の表面温度が当該範囲外であってもよい。非極性基材の温度はまた、加熱温度および加熱時間から予測される予測値であってよい。
【0069】
(3)塗料組成物の硬化
塗料組成物の注入の終了後、必要に応じて可動金型を移動させて金型を閉じる。金型の内部を真空ポンプ等で脱気してもよい。金型の内部に加圧してもよい。
【0070】
以下、塗料組成物の注入が完了してから、可動金型および固定金型を開き始めるまでの時間を、硬化時間と称する。塗料組成物の注入が完了してから、可動金型および固定金型を開き始めるまでの工程を、硬化工程と称する。
【0071】
硬化工程における可動金型の温度は、80℃以上130℃以下である。可動金型の上記温度が80℃以上であると、優れた密着性が得られる。可動金型の上記温度が130℃以下であると、非極性基材の変形が抑制される。可動金型の上記温度は、100℃以上であってよく、110℃以上であってよい。可動金型の上記温度は、120℃以下であってよい。本開示で用いられる塗料組成物の硬化反応は、このような低温下において進行する。
【0072】
硬化工程において、可動金型の温度が変動することは許容される。硬化工程における可動金型の平均温度(以下、硬化温度とも言う。)が、80℃以上130℃以下であればよい。
【0073】
硬化時間は、30秒以上10分以下である。本開示で用いられる塗料組成物の硬化反応は、このような短時間で完了する。
【0074】
硬化工程における非極性基材の温度は特に限定されない。硬化工程における非極性基材の温度は、20℃超であり得る。硬化工程における非極性基材の温度は、可動金型の温度と同程度であり得る。硬化工程における非極性基材の温度は、変形抑制の観点から、120℃以下であってよい。
【0075】
硬化時間は、硬化温度によって調整可能である。例えば、以下の通りである。
(態様1)硬化温度が80℃以上100℃以下のとき、硬化時間は5分以上10分以下であってよい。
(態様2)硬化温度が100℃超120℃未満のとき、硬化時間は1分以上5分以下であってよい。
(態様3)硬化温度が120℃以上130℃以下のとき、硬化時間は30秒以上3分以下であってよい。
【0076】
態様1~3において、硬化工程中の非極性基材の温度は特に制限されない。
本開示において、上記の態様1~3のすべてが満足される。
【0077】
(4)型内塗装物の取り出し
可動金型および固定金型を開いて、非極性基材および塗料組成物の硬化物を備える型内塗装物を取り出す。これにより、型内塗装物が得られる。
【実施例】
【0078】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0079】
[実施例1]
(1)塗料組成物の調製
攪拌羽根、温度計、温度制御棒および冷却管を備えた容器に、第1化合物(A-1)(ジシクロペンタニルアクリレート)10重量部、第2化合物(B-2)(t-ブチルメタクリレート)30重量部、第2化合物(B-3)(ラウリルアクリレート)20重量部、スチレンブロック共重合体(D1-1)(商品名「タフテックH1517」、旭化成社製、SEBS)10重量部を仕込み、室温にて12時間放置し、スチレンブロック共重合体(D1-1)を膨潤させた。
【0080】
その後、攪拌しながら90℃まで昇温し、4時間かけてスチレンブロック共重合体(D1-1)を溶解させた。90℃を保ったまま、第3化合物(C-1)(ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート)15重量部、第3化合物(C-3)(商品名「エベクリル8402」、ダイセル・オルネクス社製)15重量部を投入し、均一になるまで攪拌した。室温まで冷却した後、重合開始剤(E)(t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート)2重量部を加えて攪拌し、塗料組成物を得た。
【0081】
(2)型内塗装物の作製
200mm×200mmのポリプロピレン(PP)基材をイソプロピルアルコールで表面脱脂した。続いて、当該PP基材の表面に厚さ200μmのテープを張り付けて、枠を作った。その後、PP基材を300mm×300mm×10mmの金属板(固定金型)に載せて、所定の温度(23℃、50℃または80℃)に設定した乾燥機に設置した。
【0082】
PP基材が所定の温度であることを接触温度計にて確認し、塗料組成物約10gをPP基材の枠内に垂らした。別途、所定の温度(100℃、110℃または120℃)に熱した300mm×300mm×10mmの金属板(可動金型)を被せて空気を遮断して、所定の温度で所定時間(1分、3分または5分)加熱して、型内塗装物を得た。
【0083】
[実施例2~14、比較例1~5]
塗料組成物を調製する成分の種類または量を、表1に記載の通り変更したこと以外は、実施例1と同様の手順により、塗料組成物を調製し、型内塗装物を作製した。
表1に記載された「可動金型の温度」は、塗料組成物の注入が開始されるときから硬化工程が終了するまでの、可動金型中央の表面の実測値の平均温度である。表1に記載された「非極性基材の温度」は、塗料組成物の注入が開始されるときから硬化工程が終了するまでの、非極性基材中央の表面の実測値の平均温度である。
表1の記号を以下に説明する。
【0084】
・第1化合物(A)
A-1:ジシクロペンタニルアクリレート
A-2:シクロヘキシルメタクリレート
A-3:イソボルニルアクリレート
【0085】
・第2化合物(B)
B-1:スチレン
B-2:t-ブチルメタクリレート
B-3:ラウリルアクリレート
B-4:ヒドロキシプロピルメタクリレート
【0086】
・第3化合物(C)
C-1:ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート
C-2:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
C-3:商品名「エベクリル8402」、ダイセル・オルネクス社製、2官能脂肪族ウレタンアクリレート
【0087】
・スチレンブロック共重合体(D)
(第1スチレンブロック共重合体(D1))
D1-1:商品名「タフテックH1517」、旭化成社製、SEBSブロック共重合体、スチレン含有量43質量%
D1-2:商品名「セプトン1020」、クラレ社製、SEPブロック共重合体、スチレン含有量36質量%
【0088】
・重合開始剤(E)
E-1:t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、商品名:ルペロックス26、アルケマ吉富社製、1分間半減期温度:127℃
E-2:t-アミルパーオキシイソノナノエート、商品名:ルペロックス570、アルケマ吉富社製、1分間半減期温度:152℃
E-3:t-アミルパーオキシーオキシピバレート(70%)、商品名:パーブチルPV、日油社製、1分間半減期温度:110℃
【0089】
・重合開始剤
e-1:ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、商品名:パーヘキシルD、日油社製、1分間半減期温度:177℃
【0090】
[評価]
実施例および比較例の型内塗装物に対し、下記評価を行った。
【0091】
(1)初期密着性
カッターを用いて、型内塗装物の塗膜を、1辺2mm、100マスの碁盤目状にクロスカットした。クロスカットされた塗膜にセロハンテープ(登録商標「セロテープ」、ニチバン社製)を、気泡を含まないように貼り付けて圧着した後、素早くセロハンテープを剥がした。セロハンテープとともに剥離された碁盤目の数を数えた。評価C以上で、密着性があると評価できる。
A:剥離なし
B:完全に剥離しなかったものの、碁盤目の一部に欠けがみられた
C:1~5マスが剥離した
D:6マス以上が剥離した
【0092】
(2)耐水密着性
型内塗装物を40℃の温水中に240時間浸漬した後、取り出して、10分間乾燥した。その後、塗膜を上記と同様にクロスカットして、密着性を評価した。評価C以上で、耐水密着性があると評価できる。
【0093】
(3)耐屈曲性
型内塗装物から、長さ150mm×幅15mmの試験片を切り出した。試験片の長さ方向の中央付近を1秒間かけて90°折り曲げた。下記基準に従って、目視にて折り曲げ部周辺の塗膜の状態を評価した。評価C以上で、耐屈曲性があると評価できる。
A:異常なし
B:わずかにシワあり
C:シワあり
D:ワレあり
【0094】
【0095】
実施例1~14の塗膜は、硬化工程における可動金型の温度(硬化温度)が100℃の場合にも良好な初期密着性および耐水密着性を示した。
【0096】
比較例1の塗料組成物は、1分間における半減期温度が155℃超である。そのため、硬化温度が120℃であっても、各密着性が低かった。これは、120℃下であっても、発生するラジカル量が少なく架橋が不十分であったため、加えて、未反応の化合物および重合開始剤が、塗膜中で可塑剤のように作用したためと考えられる。
【0097】
比較例2の塗料組成物は、スチレンブロック共重合体(D)を含まない。そのため、硬化温度が100℃では初期密着性に劣り、いずれの硬化温度においても耐水密着性が低かった。比較例3の塗料組成物は、第1化合物(A)を含まない。そのため、硬化温度が100℃では初期密着性に劣り、すべての硬化温度において耐水密着性が低かった。加えて、塗料組成物の相溶性も低かった。比較例4の塗料組成物は、第2化合物(B)を含まない。そのため、すべての硬化温度における耐水密着性が低く、耐屈曲性にも劣っていた。比較例5の塗料組成物は、第3化合物(C)を含まない。そのため、得られた塗膜は成膜性能に劣り、各密着性および耐屈曲性を評価することができなかった。
【0098】
本開示は以下の態様を含む。
[1]
固定金型および可動金型を備える成型機を用いる型内塗装において、前記固定金型の表面に配置された非極性樹脂を含む基材と前記可動金型との空隙に、塗料組成物を注入することと、
注入された前記塗料組成物を硬化することと、
前記可動金型および前記固定金型を開いて、前記基材および前記塗料組成物の硬化物を備える型内塗装物を取り出すことと、を備え、
前記塗料組成物は、
脂環式骨格、および、1個の反応性二重結合を有する第1化合物(A)と、
前記第1化合物(A)と共重合可能な1個の反応性二重結合を有する第2化合物(B)と、
2個以上6個以下の反応性二重結合を有する第3化合物(C)と、
スチレン由来のスチレンブロック、および、直鎖状または分枝状のオレフィン由来のオレフィンブロックを有するスチレンブロック共重合体(D)と、
1分間における半減期温度が110℃以上155℃以下の重合開始剤(E)と、を含み、
前記塗料組成物の注入が完了してから、前記可動金型および前記固定金型を開き始めるまでの前記可動金型の温度が、80℃以上130℃以下であり、
前記塗料組成物の注入が完了してから、前記可動金型および前記固定金型を開き始めるまでの時間が、30秒以上10分以下である、型内塗装物の製造方法。
[2]
前記塗料組成物の注入が開始されるとき、前記基材の温度が20℃以上120℃以下である、上記[1]に記載の型内塗装物の製造方法。
[3]
前記塗料組成物は、ブルックフィールド回転粘度計を用いて、温度23℃および回転数6rpmで測定される粘度が150mPa・s以上2000mPa・s以下である、上記[1]または[2]に記載の型内塗装物の製造方法。
[4]
前記基材に含まれる非極性樹脂が、ポリプロピレンである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の型内塗装物の製造方法。
[5]
前記塗料組成物の注入の前に、予め成型した前記基材を前記固定金型に設置することを備える、上記[1]~[4]のいずれかに記載の型内塗装物の製造方法。
[6]
前記塗料組成物の注入の前に、さらに、前記成型機内で前記非極性樹脂を成型することを備え、
前記非極性樹脂の成型と前記塗料組成物の注入とが連続して行われる、上記[1]~[4]のいずれかに記載の型内塗装物の製造方法。
[7]
前記第1化合物(A)、前記第2化合物(B)、前記第3化合物(C)および前記スチレンブロック共重合体(D)の総固形分100質量部に対して、
前記重合開始剤(E)の固形分含有量が、1質量部以上5質量部以下である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の型内塗装物の製造方法。
[8]
前記第1化合物(A)、前記第2化合物(B)、前記第3化合物(C)および前記スチレンブロック共重合体(D)の総固形分100質量部に対して、
前記第1化合物(A)の固形分含有量が、5質量部以上70質量部以下であり、
前記スチレンブロック共重合体(D)の含有量が、1質量部以上30質量部以下である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の型内塗装物の製造方法。
[9]
前記第1化合物(A)が有する前記脂環式骨格が、シクロヘキシル基、イソボルニル基、ジシクロペンテニル基およびジシクロペンタニル基よりなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の型内塗装物の製造方法。
[10]
前記塗料組成物が、さらにオレフィン樹脂(F)を含む、上記[1]~[9]のいずれかに記載の型内塗装物の製造方法。
[11]
前記塗料組成物が、さらに光輝材および着色剤の少なくとも一種(G)を含む、上記[1]~[10]のいずれかに記載の型内塗装物の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の製造方法は、低温短時間での非極性樹脂基材に対する型内塗装物の製造に好適である。
【要約】
【課題】低温短時間での硬化性および非極性樹脂基材に対する密着性に優れる型内塗装物の製造方法を提供する。
【解決手段】固定金型および可動金型を備える成型機を用いる型内塗装において、塗料組成物は、脂環式骨格および1個の反応性二重結合を有する第1化合物(A)と、第1化合物(A)と共重合可能な1個の反応性二重結合を有する第2化合物(B)と、2個以上6個以下の反応性二重結合を有する第3化合物(C)と、スチレン由来のスチレンブロックおよび直鎖状または分枝状のオレフィン由来のオレフィンブロックを有するスチレンブロック共重合体(D)と、1分間における半減期温度が110℃以上155℃以下の重合開始剤(E)と、を含み、塗料組成物の注入が完了してから金型を開き始めるまでの可動金型の温度が80℃以上130℃以下であり、塗料組成物の注入が完了してから前記可動金型および前記固定金型を開き始めるまでの時間が30秒以上10分以下である。
【選択図】なし