IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ファナック株式会社の特許一覧

特許7534526数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体
<>
  • 特許-数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 図1
  • 特許-数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 図2
  • 特許-数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 図3
  • 特許-数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 図4A
  • 特許-数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 図4B
  • 特許-数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 図5
  • 特許-数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 図6
  • 特許-数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 図7
  • 特許-数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 図8
  • 特許-数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 図9
  • 特許-数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 図10
  • 特許-数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20240806BHJP
   G05B 19/4155 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G05B19/18 W
G05B19/4155 V
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023503827
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2022008301
(87)【国際公開番号】W WO2022186140
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】P 2021032850
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宇野 宏祐
【審査官】松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-117458(JP,A)
【文献】特開2015-184687(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0046238(US,A1)
【文献】特開2018-120357(JP,A)
【文献】特開2019-209419(JP,A)
【文献】特開2004-284002(JP,A)
【文献】特開2021-077266(JP,A)
【文献】国際公開第2021/193496(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 - 19/416
G05B 19/42 - 19/46
B23Q 15/00 - 15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの加工が行われたときの主軸に掛かる負荷の時系列データを検出する主軸負荷検出部と、
前記ワークを加工する際の加工時間を設定する加工時間設定部と、
前記加工時間設定部によって設定された前記加工時間で前記ワークの加工が行われ、かつ、前記主軸に掛かる負荷が一定の負荷となるように前記主軸の送り速度が制御される場合における前記主軸に掛かる負荷を、前記時系列データに基づいて計算する主軸負荷計算部と、
前記主軸負荷計算部によって計算された前記主軸に掛かる負荷を示すデータを出力する主軸負荷出力部と、
を備える数値制御装置。
【請求項2】
前記加工時間設定部によって設定される前記加工時間を示す値の入力を受け付ける加工時間受付部をさらに備える請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記主軸負荷計算部は、前記主軸に掛かる負荷と前記送り速度とが比例するものとして前記主軸に掛かる負荷を計算する請求項1または2に記載の数値制御装置。
【請求項4】
前記主軸に掛かる負荷と前記送り速度との関係を学習する学習部をさらに備え、
前記主軸負荷計算部は、前記学習部によって学習された前記関係に基づいて、前記主軸に掛かる負荷を計算する請求項1または2に記載の数値制御装置。
【請求項5】
前記主軸負荷出力部は、さらに、前記加工時間設定部によって設定された前記加工時間と前記主軸に掛かる負荷との関係を示すデータを出力する請求項1~4のいずれか1項に記載の数値制御装置。
【請求項6】
前記主軸負荷計算部は、さらに、前記加工時間設定部によって設定された前記加工時間で前記ワークの加工が行われ、かつ、前記主軸に掛かる負荷が一定の負荷となるように前記主軸の送り速度が制御される場合における前記送り速度を計算する請求項1~5のいずれか1項に記載の数値制御装置。
【請求項7】
前記主軸負荷検出部によって検出された前記時系列データを記憶する主軸負荷記憶部をさらに備える請求項1~6のいずれか1項に記載の数値制御装置。
【請求項8】
前記主軸負荷検出部によって検出された前記時系列データに基づいて生成された度数分布のデータを記憶する度数分布記憶部をさらに備える請求項1~6のいずれか1項に記載の数値制御装置。
【請求項9】
ワークの加工が行われたときの主軸に掛かる負荷の時系列データを検出することと、
前記ワークを加工する際の加工時間を設定することと、
設定された前記加工時間で前記ワークの加工が行われ、かつ、前記主軸に掛かる負荷が一定の負荷となるように前記主軸の送り速度が制御される場合における前記主軸に掛かる負荷を、前記時系列データに基づいて計算することと、
計算された前記主軸に掛かる負荷を示すデータを出力することと、
をコンピュータに実行させる命令を記憶するコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械を制御する数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械において、主軸に掛かる負荷が一定になるように主軸の送り速度を制御する技術が知られている(例えば、特許文献1)。この制御によって、工具の寿命を延ばすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-117458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、主軸に掛かる負荷が一定になるように主軸の送り速度を制御する場合、負荷に合わせて送り速度が変化するため、加工時間を事前に予測することが困難である。したがって、ワークの加工を所望の加工時間で完了させようとすると、主軸に掛かる負荷を調整して何度もテスト加工を行うことが必要になる。
【0005】
本開示は、主軸に掛かる負荷が一定となるように主軸の送り速度が制御される場合において、ワークの加工時間を所望の時間に設定することが可能な数値制御装置、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
数値制御装置が、ワークの加工が行われたときの主軸に掛かる負荷の時系列データを検出する主軸負荷検出部と、ワークを加工する際の加工時間を設定する加工時間設定部と、加工時間設定部によって設定された加工時間でワークの加工が行われ、かつ、主軸に掛かる負荷が一定の負荷となるように主軸の送り速度が制御される場合における主軸に掛かる負荷を、時系列データに基づいて計算する主軸負荷計算部と、主軸負荷計算部によって計算された主軸に掛かる負荷を示すデータを出力する主軸負荷出力部と、を備える。
【0007】
コンピュータ読み取り可能な記憶媒体が、ワークの加工が行われたときの主軸に掛かる負荷の時系列データを検出することと、ワークを加工する際の加工時間を設定することと、設定された加工時間でワークの加工が行われ、かつ、主軸に掛かる負荷が一定の負荷となるように主軸の送り速度が制御される場合における主軸に掛かる負荷を、時系列データに基づいて計算することと、計算された主軸に掛かる負荷を示すデータを出力することと、をコンピュータに実行させる命令を記憶する。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、主軸に掛かる負荷が一定となるように主軸の送り速度が制御される場合において、ワークの加工時間を所望の時間に設定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】工作機械のハードウェア構成の一例を示す図である。
図2】数値制御装置の機能の一例を示すブロック図である。
図3】主軸負荷記憶部に記憶される時系列データの一例を説明する図である。
図4A】主軸負荷計算部が主軸に掛かる負荷を計算する方法を説明する図である。
図4B】主軸負荷計算部が主軸に掛かる負荷を計算する方法を説明する図である。
図5】主軸負荷計算部が主軸に掛かる負荷を計算する方法を説明する図である。
図6】数値制御装置が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】主軸負荷計算部の一例を示す図である。
図8】入出力装置に表示される主軸に掛かる負荷の表示例を示す図である。
図9】数値制御装置の機能の一例を示すブロック図である。
図10】主軸に掛かる負荷の時系列データの一例を示す図である。
図11】度数分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態で説明する特徴のすべての組み合わせが課題解決に必ずしも必要であるとは限らない。また、必要以上の詳細な説明を省略する場合がある。また、以下の実施形態の説明、および図面は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるものであり、請求の範囲を限定することを意図していない。
【0011】
図1は、工作機械のハードウェア構成の一例を示す図である。工作機械1は、例えば、旋盤、マシニングセンタ、または複合加工機である。
【0012】
工作機械1は、例えば、数値制御装置2と、入出力装置3と、サーボアンプ4およびサーボモータ5と、スピンドルアンプ6およびスピンドルモータ7と、補助機器8とを備えている。
【0013】
数値制御装置2は、工作機械1全体を制御する装置である。数値制御装置2は、CPU(Central Processing Unit)201と、バス202と、ROM(Read Only Memory)203と、RAM(Random Access Memory)204と、不揮発性メモリ205とを備えている。
【0014】
CPU201は、システムプログラムに従って数値制御装置2全体を制御するプロセッサである。CPU201は、バス202を介してROM203に格納されたシステムプログラムなどを読み出す。また、CPU201は、加工プログラムに従って、サーボモータ5およびスピンドルモータ7を制御する。
【0015】
CPU201は、制御周期ごとに、例えば、加工プログラムの解析、およびサーボモータ5に対する制御指令の出力を行う。
【0016】
バス202は、数値制御装置2内の各ハードウェアを互いに接続する通信路である。数値制御装置2内の各ハードウェアはバス202を介してデータをやり取りする。
【0017】
ROM203は、数値制御装置2全体を制御するためのシステムプログラムなどを記憶する記憶装置である。ROM203は、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体として機能する。
【0018】
RAM204は、各種データを一時的に格納する記憶装置である。RAM204は、CPU201が各種データを処理するための作業領域として機能する。
【0019】
不揮発性メモリ205は、工作機械1の電源が切られ、数値制御装置2に電力が供給されていない状態でもデータを保持する記憶装置である。不揮発性メモリ205は、例えば、加工プログラム、および入出力装置3から入力される各種パラメータを記憶する。不揮発性メモリ205は、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体として機能する。不揮発性メモリ205は、例えば、SSD(Solid State Drive)で構成される。
【0020】
数値制御装置2は、さらに、インタフェース206と、軸制御回路207と、スピンドル制御回路208と、PLC(Programmable Logic Controller)209と、I/Oユニット210とを備えている。
【0021】
インタフェース206は、バス202と入出力装置3とを接続する。インタフェース206は、例えば、CPU201が処理した各種データを入出力装置3に送る。
【0022】
入出力装置3は、インタフェース206を介して各種データを受け、各種データを表示する装置である。また、入出力装置3は、各種データの入力を受け付けてインタフェース206を介して各種データをCPU201に送る。入出力装置3は、LCD(Liquid Crystal Display)などのディスプレイ、キーボード、およびマウスなどを含む。また、入出力装置3は、タッチパネルであってもよい。
【0023】
軸制御回路207は、サーボモータ5を制御する回路である。軸制御回路207は、CPU201からの制御指令を受けてサーボモータ5を駆動させるための指令をサーボアンプ4に出力する。軸制御回路207は、例えば、サーボモータ5のトルクを制御するトルクコマンドをサーボアンプ4に送る。
【0024】
サーボアンプ4は、軸制御回路207からの指令を受けて、サーボモータ5に電流を供給する。
【0025】
サーボモータ5は、サーボアンプ4から電流の供給を受けて駆動する。サーボモータ5は、例えば、刃物台、主軸頭、テーブルを駆動させるボールねじに連結される。サーボモータ5が駆動することにより、刃物台、主軸頭、テーブルなどの工作機械1の構造物は、例えば、X軸方向、Y軸方向、またはZ軸方向に移動する。なお、サーボモータ5は、各軸の送り速度を検出する速度検出器(不図示)を内蔵していてもよい。
【0026】
スピンドル制御回路208は、スピンドルモータ7を制御するための回路である。スピンドル制御回路208は、CPU201からの制御指令を受けてスピンドルモータ7を駆動させるための指令をスピンドルアンプ6に出力する。スピンドル制御回路208は、例えば、スピンドルモータ7のトルクを制御するトルクコマンドをスピンドルアンプ6に送る。
【0027】
スピンドルアンプ6は、スピンドル制御回路208からの指令を受けて、スピンドルモータ7に電流を供給する。スピンドルアンプ6はスピンドルモータ7に供給される電流の電流値を測定する電流計61を内蔵している。
【0028】
電流計61は、スピンドルモータ7に供給される電流の電流値を検出する。電流計61は、検出した電流値を示すデータをCPU201に送る。
【0029】
スピンドルモータ7は、スピンドルアンプ6から電流の供給を受けて駆動する。スピンドルモータ7は、主軸に連結され、主軸を回転させる。
【0030】
PLC209は、ラダープログラムを実行して補助機器8を制御する装置である。PLC209は、I/Oユニット210を介して補助機器8に対して指令を送る。
【0031】
I/Oユニット210は、PLC209と補助機器8とを接続するインタフェースである。I/Oユニット210は、PLC209から受けた指令を補助機器8に送る。
【0032】
補助機器8は、工作機械1に設置され、工作機械1において補助的な動作を行う。補助機器8は、工作機械1の周辺に設置される装置であってもよい。補助機器8は、I/Oユニット210から受けた指令に基づいて動作する。補助機器8は、例えば、工具交換装置、切削液噴射装置、または開閉ドア駆動装置である。
【0033】
次に、数値制御装置2の機能の一例について説明する。数値制御装置2は、加工プログラムで指令された送り速度でワークの加工が行われたときの主軸に掛かる負荷の時系列データを検出する。さらに、数値制御装置2は、検出された主軸に掛かる負荷の時系列データに基づいて、加工時間が設定された加工時間となるようにワークの加工が行われ、かつ、主軸に掛かる負荷が一定の負荷となるように送り速度が制御される場合における主軸に掛かる負荷を予測する。
【0034】
図2は、数値制御装置2の機能の一例を示すブロック図である。数値制御装置2は、プログラム記憶部211と、制御部212と、主軸負荷検出部213と、主軸負荷記憶部214と、加工時間受付部215と、加工時間設定部216と、主軸負荷計算部217と、主軸負荷出力部218とを備えている。
【0035】
プログラム記憶部211、および主軸負荷記憶部214は、入出力装置3などから入力された加工プログラム、ならびに、電流計61および各種センサから入力されたデータが、RAM204、または不揮発性メモリ205に記憶されることにより実現される。
【0036】
制御部212、主軸負荷検出部213、加工時間受付部215、加工時間設定部216、主軸負荷計算部217、および主軸負荷出力部218は、例えば、CPU201が、ROM203に記憶されているシステムプログラムならびに不揮発性メモリ205に記憶されている加工プログラムおよび各種データを用いて演算処理することにより実現される。
【0037】
プログラム記憶部211は、加工プログラムを記憶する。加工プログラムは、工作機械1の各部を動作させてワークの加工を行うためのプログラムである。加工プログラムでは、工具の移動経路、工具の送り速度、および主軸の回転速度などがGコード、およびMコードなどを用いて指令される。
【0038】
制御部212は、加工プログラムに基づいて工作機械1の各部を制御する。制御部212は、例えば、サーボモータ5、およびスピンドルモータ7を制御する。
【0039】
制御部212は、加工プログラムに基づいて、定速制御を行う。定速制御とは、加工プログラムで指定された送り速度で主軸を移動させる制御である。
【0040】
また、制御部212は、加工プログラムに基づいて、定負荷制御を行う。定負荷制御とは、主軸に掛かる負荷が一定の負荷となるように、加工プログラムで指定された主軸の送り速度を変化させる制御である。定負荷制御では、定速制御よりも主軸に掛かる負荷の変動を抑えることができる。
【0041】
主軸負荷検出部213は、加工プログラムに基づいてワークの加工が行われたときの主軸に掛かる負荷の時系列データを検出する。また、主軸負荷検出部213は、主軸の送り速度を示す時系列データを検出する。つまり、主軸負荷検出部213は、加工プログラムに基づいてワークの加工が行われている間、主軸に掛かる負荷と主軸の送り速度とを所定の周期ごとに検出する。
【0042】
主軸負荷検出部213は、例えば、スピンドルアンプ6に内蔵されている電流計61が示す電流値に基づいて、主軸に掛かる負荷を検出する。また、主軸負荷検出部213は、サーボモータ5に内蔵された速度検出器によって検出されたデータに基づいて主軸の送り速度を検出する。なお、主軸に掛かる負荷とは、主軸の回転方向に対して逆向きに掛かる負荷トルクである。
【0043】
主軸負荷記憶部214は、主軸負荷検出部213によって検出された主軸に掛かる負荷の時系列データを記憶する。つまり、主軸負荷記憶部214は、ワークの加工が行われたときの主軸に掛かる負荷を示す時系列データを記憶する。また、主軸負荷記憶部214は、ワークの加工が行われたときの主軸の送り速度を示す時系列データを記憶する。主軸負荷記憶部214が記憶する時系列データは、加工プログラムに基づいて主軸の定速制御が行われたときに検出された時系列データである。
【0044】
図3は、主軸負荷記憶部214に記憶される時系列データの一例を説明する図である。つまり、図3に示す時系列データは、定速制御にて加工が行われたときに検出されたデータである。図3は、主軸負荷記憶部214が、所定の周期Tごとに検出された負荷を示す時系列データL、2L、3L、4L、3L、2L、およびLを順に記憶していることを示している。
【0045】
ここで、図2の説明に戻る。
【0046】
加工時間受付部215は、定負荷制御のもとで加工プログラムが実行されるときに加工にかかる加工時間の入力を受け付ける。加工時間受付部215は、例えば、入出力装置3を利用して作業者が入力する値を受け付ける。作業者は、加工プログラムに基づいてワークの加工が行われるときの所望の加工時間を入力する。
【0047】
加工時間設定部216は、加工時間受付部215が受け付けた加工時間を設定する。つまり、加工時間設定部216は、ワークを加工する際の加工時間を設定する。加工時間設定部216は、例えば、あらかじめ定められたレジスタ(不図示)に加工時間を示すデータを記憶させることによって、加工時間を設定する。
【0048】
主軸負荷計算部217は、加工時間設定部216によって設定された加工時間でワークの加工が行われ、かつ、主軸に掛かる負荷が一定の負荷となるように主軸の送り速度が制御される場合における主軸に掛かる負荷を、主軸負荷記憶部214に記憶された時系列データに基づいて計算する。言い換えれば、主軸負荷計算部217は、加工時間設定部216によって設定された加工時間で加工プログラムが定負荷制御のもとで実行された場合の主軸に掛かる負荷を、定速制御が行われたときに検出された時系列データに基づいて予測する。主軸負荷計算部217は、主軸に掛かる負荷と主軸の送り速度とが比例するものとして主軸に掛かる負荷を計算する。
【0049】
図4A図4Bおよび図5は、主軸負荷計算部217が主軸に掛かる負荷を計算する方法を説明する図である。主軸負荷計算部217は、まず、主軸負荷記憶部214に記憶された主軸に掛かる負荷の時系列データを読み出す。主軸に掛かる負荷を示す時系列データは、所定の周期Tごとに検出されたデータである。
【0050】
次に、主軸負荷計算部217は、所定の周期の長さを示す値Tと主軸に掛かる負荷を示す値を乗算する。例えば、加工プログラムの実行中に図3に示す負荷が検出された場合、最初の周期で検出された負荷はLである。したがって、所定の周期の長さを示す値Tと主軸に掛かる負荷を示す値Lとを乗算した値は、LTとなる(図4A参照)。また、次の周期に検出された主軸に掛かる負荷は2Lである。したがって、所定の周期を示す値Tと主軸に掛かる負荷を示す値2Lとを乗算した値は、2LTとなる(図4B参照)。同様に、3番目の周期以降について算出される値は、それぞれ、3LT、4LT、3LT、2LT、およびLTとなる。
【0051】
次に、主軸負荷計算部217は、所定の周期の長さを示す値Tと主軸に掛かる負荷を示す値とを乗算して算出した各値を合算する。図3に示す例では、合算値は16LTとなる。
【0052】
次に、主軸負荷計算部217は、各値を合算して算出した合算値を加工時間設定部216が設定した加工時間を示す値で除算して主軸に掛かる負荷を計算する。例えば、合算値が16LT、加工時間設定部216が設定した加工時間が10Tである場合、主軸に掛かる負荷は、1.6Lとなる(図5参照)。これにより、主軸負荷計算部217は、主軸に掛かる負荷と主軸の送り速度とが比例するものとして計算した場合における主軸に掛かる負荷1.6Lを算出することができる。なお、主軸負荷計算部217は、さらに、加工時間設定部216によって設定された加工時間でワークの加工が行われ、かつ、主軸に掛かる負荷が一定の負荷となるように主軸の送り制御される場合における主軸の送り速度を計算してもよい。
【0053】
主軸負荷出力部218は、主軸負荷計算部217によって計算された主軸に掛かる負荷を示すデータを出力する。主軸負荷出力部218は、計算された主軸に掛かる負荷を示すデータ、および加工時間設定部216で設定された加工時間を示すデータを、例えば、入出力装置3に出力し、入出力装置3に主軸に掛かる負荷および加工時間を表示させる。主軸負荷出力部218は、主軸負荷計算部217が主軸に掛かる負荷を計算する過程で算出する主軸の送り速度を出力してもよい。この場合、主軸負荷出力部218は、各周期の主軸の送り速度がグラフで表示されるように主軸の送り速度を示すデータを出力してもよい。
【0054】
次に、数値制御装置2が実行する処理の流れについて説明する。
【0055】
図6は、数値制御装置2が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、主軸負荷検出部213は、加工プログラムに基づいて定速制御にてワークの加工が行われたときの主軸に掛かる負荷を示す時系列データを検出する(ステップS1)。
【0056】
次に、主軸負荷記憶部214は、主軸負荷検出部213によって検出された主軸に掛かる負荷を示す時系列データを記憶する(ステップS2)。
【0057】
次に、加工時間受付部215は、加工プログラムに基づいて定負荷制御にてワークの加工を行う場合の加工時間を示す値の入力を受け付ける(ステップS3)。
【0058】
次に、加工時間設定部216は、加工時間受付部215が受け付けた値を加工時間として設定する(ステップS4)。
次に、主軸負荷計算部217は、加工時間設定部216が設定した加工時間で加工プログラムが実行される場合において主軸に掛かる負荷を計算する(ステップS5)。
【0059】
最後に、主軸負荷出力部218は、主軸負荷計算部217によって計算された主軸に掛かる負荷を示すデータを出力し(ステップS6)、処理を終了する。
【0060】
数値制御装置2がこのような処理を行うことより、加工時間設定部216によって設定された加工時間でワークが加工されるように定負荷制御に基づいて加工プログラムが実行された場合に主軸に掛かる負荷を、例えば、入出力装置3に表示させることができる。また、制御部212は、加工時間設定部216が設定した加工時間でワークの加工を行うことができる。
【0061】
以上説明したように、数値制御装置2は、ワークの加工が行われたときの主軸に掛かる負荷の時系列データを検出する主軸負荷検出部213と、ワークを加工する際の加工時間を設定する加工時間設定部216と、加工時間設定部216によって設定された加工時間でワークの加工が行われ、かつ、主軸に掛かる負荷が一定の負荷となるように主軸の送り速度が制御される場合における主軸に掛かる負荷を、時系列データに基づいて計算する主軸負荷計算部217と、主軸負荷計算部217によって計算された主軸に掛かる負荷を示すデータを出力する主軸負荷出力部218と、を備える。これにより、数値制御装置2は、主軸に掛かる負荷が一定となるように主軸の送り速度が制御される場合において、ワークの加工時間を所望の時間に設定することが可能になる。
【0062】
また、数値制御装置2は、加工時間設定部216によって設定される加工時間を示す値の入力を受け付ける加工時間受付部215をさらに備える。そのため、数値制御装置2は、入力される目標負荷に応じて加工時間を予測することができる。また、数値制御装置2は、主軸に掛かる負荷を示す値を出力するため、作業者は、主軸に掛かる負荷と加工時間とのバランスを考慮して加工時間を設定することができる。
【0063】
また、主軸負荷計算部217は、主軸に掛かる負荷と送り速度とが比例するものとして主軸に掛かる負荷を計算する。そのため、主軸負荷計算部217は、複雑な計算を行わずに主軸に掛かる負荷を計算することができる
【0064】
また、主軸負荷計算部217は、さらに、加工時間設定部216によって設定された加工時間でワークの加工が行われ、かつ、主軸に掛かる負荷が一定の負荷となるように主軸の送り速度が制御される場合における主軸の送り速度を計算する。これにより、作業者は、主軸の送り速度がワークの加工に適切な速度であるか否かを判断し、加工時間を設定することができる。
【0065】
また、数値制御装置2は、主軸負荷検出部213によって検出された時系列データを記憶する主軸負荷記憶部214をさらに備える。これにより、主軸負荷計算部217は、主軸負荷記憶部214に記憶された時系列データに基づいて、様々な加工時間に対する主軸に掛かる負荷を計算することができる。
【0066】
上述した実施形態では、主軸負荷計算部217は、主軸に掛かる負荷と主軸の送り速度とが比例するものとして主軸に掛かる負荷を計算する。しかし、主軸負荷計算部217は、主軸に掛かる負荷と主軸の送り速度との関係を示す相関モデルに基づいて主軸に掛かる負荷を予測してもよい。
【0067】
図7は、相関モデルに基づいて主軸に掛かる負荷を計算する主軸負荷計算部217の一例を示す図である。主軸負荷計算部217は、学習部221と、相関モデル記憶部222と、予測部223とを備える。なお、主軸負荷計算部217以外の構成は、上述した実施形態の構成と同じである。
【0068】
学習部221は、主軸負荷記憶部214に記憶された主軸に掛かる負荷を示す時系列データと主軸の送り速度を示す時系列データとに基づいて、主軸に掛かる負荷と主軸の送り速度との関係を示す相関モデルを生成する。学習部221は、例えば、回帰式、SVM(Support Vector Machine)、ニューラルネットワークを用いて相関モデルを生成する。
【0069】
相関モデル記憶部222は、学習部221によって生成された相関モデルを記憶する。
【0070】
予測部223は、加工プログラムに基づいて行われる加工が加工時間設定部216によって設定された加工時間で完了するように加工が行われたときの主軸に掛かる負荷を、相関モデル記憶部222に記憶された相関モデルを用いて計算する。また、加工プログラムに基づいて行われる加工が加工時間設定部216によって設定された加工時間で完了するように加工が行われたときの主軸の送り速度を計算してもよい。
【0071】
予測部223によって予測された主軸に掛かる負荷を示すデータは、主軸負荷出力部218によって出力される。
【0072】
上述した実施形態では、数値制御装置2が主軸に掛かる負荷と送り速度との関係を学習する学習部221をさらに備え、主軸負荷計算部217は、学習部221によって学習された関係に基づいて、主軸に掛かる負荷を計算する。したがって、主軸負荷計算部217は、高精度に主軸に掛かる負荷を予測することができる。
【0073】
また、上述した実施形態の数値制御装置2は加工時間受付部215を備えているが、数値制御装置2は、必ずしも、加工時間受付部215を備えていなくてもよい。この場合、数値制御装置2は、あらかじめ複数の加工時間を示す値を記憶し、各々の加工時間で加工プログラムの実行が完了するように主軸の送り速度が制御された場合における主軸に掛かる負荷を予測する。
【0074】
図8は、数値制御装置2が複数の加工時間を示す値を記憶している場合に入出力装置3に表示される主軸に掛かる負荷の表示例を示す図である。数値制御装置2には、例えば、あらかじめ設定される加工時間が記憶される。図8に示す例では、11:00、10:30、10:00、9:30、9:00、8:00、7:00、および6:00が加工時間として記憶される。
【0075】
主軸負荷計算部217は、これらの加工時間でワークの加工が完了するように定負荷制御が行なわれた場合における主軸に掛かる負荷を計算する。主軸負荷計算部217によって計算された負荷を示すデータは主軸負荷出力部218によって出力され、入出力装置3の表示画面に表示される。
【0076】
表示画面には、例えば、左右に延びる目盛り付きの直線が表示される。直線の下側には、設定された加工時間が表示される。直線の上側には、計算された主軸に掛かる負荷として、定格トルクに対する目標トルクの割合を示す値が表示される。
【0077】
図8に示す例では、設定された加工時間11:00に対応付けて負荷50%が表示されている。また、設定された加工時間10:30に対応付けて負荷53%が表示されている。また、設定された加工時間10:00に対応付けて負荷56%が表示されている。また、設定された加工時間9:30に対応付けて負荷59%が表示されている。また、設定された加工時間9:00に対応付けて負荷62%が表示されている。また、設定された加工時間8:00に対応付けて負荷65%が表示されている。また、設定された加工時間7:00に対応付けて負荷68%が表示されている。また、設定された加工時間6:00に対応付けて負荷71%が表示されている。
【0078】
このような態様で加工時間と主軸に掛かる負荷が表示されることにより、作業者は、各加工時間でワークの加工が行われるように定負荷制御される場合における主軸に掛かる負荷を容易に把握することができる。
【0079】
なお、各加工時間が表示される領域の下側には、設定された加工時間が、定速制御でワークの加工が行われたときの加工時間に対する割合で表示されてもよい。例えば、図8に示す例では、定速制御が行われたときの加工時間は10:00であり、設定されたそれぞれの加工時間が10:00に対する割合で括弧内に表示されている。
【0080】
また、図8に示すように、設定された加工時間と主軸に掛かる負荷とが並べて入出力装置3に表示される場合、いずれかの加工時間が表示画面上で選択されるようにしてもよい。この場合、選択された加工時間でワークの加工が行われるように、制御部212は定負荷制御のもとで加工プログラムを実行してもよい。
【0081】
上述した実施形態では、数値制御装置2は主軸負荷記憶部214を備えている。しかし、数値制御装置2は、必ずしも主軸負荷記憶部214を備えていなくてもよい。
【0082】
図9は、数値制御装置2の機能の一例を示すブロック図である。数値制御装置2は、主軸負荷記憶部214に代えて、生成部224と、度数分布記憶部225とを備えている。その他の構成については、図2に示す数値制御装置2の構成と同じである。
【0083】
生成部224は、例えば、CPU201が、ROM203に記憶されているシステムプログラムならびに不揮発性メモリ205に記憶されている加工プログラムおよび各種データを用いて演算処理することにより実現される。度数分布記憶部225は、例えば、CPU201がシステムプログラム、および各種データを用いて演算処理することによって生成されたデータが、RAM204、または不揮発性メモリ205に記憶されることにより実現される。
【0084】
生成部224は、主軸負荷検出部213によって検出された時系列データに基づいて度数分布のデータを生成する。
【0085】
図10は、主軸負荷検出部213によって検出された時系列データを示す図である。つまり、図10に示す時系列データは、定速制御にて加工が行われたときに検出されたデータである。図11は、度数分布の一例を示す図である。生成部224は、主軸負荷検出部213によって検出された主軸に掛かる負荷を複数の階級に振り分けて、各階級の度数をカウントする。生成部224は、例えば、検出された負荷を4つの階級L、2L、3Lおよび4Lのいずれかに振り分ける。生成部224は、主軸負荷検出部213が検出した負荷の値を、例えば、四捨五入することにより、L、2L、3L、および4Lのいずれかの階級に振り分ける。
【0086】
生成部224は、例えば、0.5L以上、1.5L未満の大きさの負荷を階級Lに振り分ける。同様に、1.5L以上、2.5L未満の大きさの負荷を階級2Lに振り分ける。また、2.5L以上、3.5L未満の大きさの負荷を階級3Lに振り分ける。また、3.5L以上、4.5L未満の大きさの負荷を階級4Lに振り分ける。図11が示す例では、階級Lに4個、階級2Lに5個、階級3Lに2個、階級4Lに1個の値が振り分けられている。
【0087】
度数分布記憶部225は、生成部224によって生成された度数分布のデータを記憶する。
【0088】
主軸負荷計算部217は、度数分布記憶部225に記憶された度数分布のデータに基づいて設定された加工時間でワークの加工が行われた場合における主軸に掛かる負荷を計算する。主軸負荷計算部217は、まず、各階級の値と、各階級の度数と、主軸に掛かる負荷が検出される周期を乗算した値(階級の値)×(度数)×(周期)をそれぞれ合算する。例えば、図11に示す例では、L×4×T+2L×5×T+3L×2×T+4L×4×T=24LTが求められる。
【0089】
次に、主軸負荷計算部217は、求めた合算値を加工時間設定部216が設定した加工時間で除算する。例えば、求めた合算値が24LT、加工時間設定部216によって設定された加工時間が10Tである場合、主軸に掛かる負荷は2.4Lであると計算される。
【0090】
上述した実施形態では、数値制御装置2が、主軸負荷検出部213によって検出された時系列データに基づいて生成された度数分布を示すデータを記憶する度数分布記憶部225をさらに備える。したがって、主軸負荷記憶部214が時系列データを記憶する場合よりも記憶するデータ量を少なくすることができる。そのため、メモリに記憶させるデータ量を削減することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 工作機械
2 数値制御装置
201 CPU
202 バス
203 ROM
204 RAM
205 不揮発性メモリ
206 インタフェース
207 軸制御回路
208 スピンドル制御回路
209 PLC
210 I/Oユニット
211 プログラム記憶部
212 制御部
213 主軸負荷検出部
214 主軸負荷記憶部
215 加工時間受付部
216 加工時間設定部
217 主軸負荷計算部
218 主軸負荷出力部
221 学習部
222 相関モデル記憶部
223 予測部
224 生成部
225 度数分布記憶部
3 入出力装置
4 サーボアンプ
5 サーボモータ
6 スピンドルアンプ
61 電流計
7 スピンドルモータ
8 補助機器
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11