(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】道路摩擦量を決定する装置および方法
(51)【国際特許分類】
B60T 8/172 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
B60T8/172 B
(21)【出願番号】P 2023504290
(86)(22)【出願日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2021068325
(87)【国際公開番号】W WO2022017762
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-03-20
(32)【優先日】2020-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】597007363
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア ヌッツファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Nutzfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80, D-80809 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】コーネル シュトラウプ
(72)【発明者】
【氏名】フーバ ネーメト
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/076435(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0054905(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/172
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用車両(10)の道路摩擦量を決定する装置(100)であって、
前記商用車両(10)は、第1のアクスル(11)および第2のアクスル(12)と、前記第2のアクスル(12)にかかる荷重(Fn)または前記第1のアクスル(11)にかかる荷重(Fn)を変更する荷重分配機構(14)と、前記第1のアクスル(11)上の少なくとも1つの車輪(17)についての
スリップ率または前記第2のアクスル(12)上の少なくとも1つの車輪(18)についての
スリップ率を決定するスリップセンサ(16)と
を備える、装置(100)において、
前記第2のアクスル(12)にかかる荷重(Fn)または前記第1のアクスル(11)にかかる荷重(Fn)を変更するように前記荷重分配機構(14)を制御し、
前記荷重(Fn)の変更に応答した
スリップ率の変化量を決定し、
前記
スリップ率の変化量に基づいて道路摩擦量を評価する、
ように構成された評価ユニット(110)が設けられている、
ことを特徴とする装置(100)。
【請求項2】
前記評価ユニット(110)はさらに、
前記第2のアクスル(12)での制動作動を検出しまたは発生させ、
前記制動動作中に前記荷重分配機構(14)を制御して前記第2のアクスル(12)をリフトさせ、
前記制動作動に応答した
スリップ率の変化量を決定する、
ように構成されている、請求項1記載の装置(100)。
【請求項3】
前記スリップセンサ(16)が、前記第1のアクスル(11)上の少なくとも1つの車輪(17)についての第1の
スリップ率を決定するように構成されており、
前記評価ユニット(110)はさらに、
前記第1のアクスル(11)に印加される駆動トルクを検出しまたは発生させ、
加速中に前記荷重分配機構(14)を制御して前記第2のアクスル(12)または前記第1のアクスル(11)をリフトさせ、
前記駆動トルクの印加に応答した
スリップ率の変化量を決定する、
ように構成されている、請求項1または2記載の装置(100)。
【請求項4】
前記スリップセンサ(16)が、前記第2のアクスル(12)上の少なくとも1つの車輪(18)についての第2の
スリップ率を決定するように構成されており、
前記評価ユニット(110)はさらに、
前記第1のアクスル(11)に前記駆動トルクが印加されるのと同時に前記第2のアクスル(12)での制動作動を検出しまたは発生させ、
前記制動作動中かつ前記駆動トルクの印加中に前記荷重分配機構(14)を制御して前記第2のアクスル(12)をリフトさせ、
前記制動作動および前記駆動トルクの印加に応答した前記第1の
スリップ率の変化量および前記第2の
スリップ率の変化量に基づいて道路摩擦量を評価する、
ように構成されている、請求項3記載の装置(100)。
【請求項5】
前記評価ユニット(110)はさらに、前記第2のアクスル(12)上の少なくとも1つの車輪(18)での付着摩擦と摺動摩擦との間の移行によって特徴付けられる臨界状態まで、前記第2のアクスル(12)にかかる荷重(Fn)を変更するように構成されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の装置(100)。
【請求項6】
前記スリップセンサ(16)は、前記第1のアクスル(11)上の少なくとも1つの車輪(17)についての第1の
スリップ率と前記第2のアクスル(12)上の少なくとも1つの車輪(18)についての第2の
スリップ率とを決定するように構成されており、
前記評価ユニット(110)はさらに、
前記荷重(Fn)の変更に応答した前記第1の
スリップ率の第1の変化量および前記第2の
スリップ率の第2の変化量を決定し、
前記第1の変化量および前記第2の変化量に基づいて道路摩擦量を評価する、
ように構成されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の装置(100)。
【請求項7】
前記商用車両(10)は、前記第1のアクスル(11)上の車輪用の第1のスリップセンサと前記第2のアクスル(12)上の車輪用の第2のスリップセンサとを備え、
前記評価ユニット(110)はさらに、
前記第1のアクスル(11)上の車輪についての
スリップ率の変化量と前記第2のアクスル(12)上の車輪についての
スリップ率の変化量とを決定し、
前記第1のアクスル(11)上の車輪と前記第2のアクスル(12)上の車輪とについて決定された
スリップ率の少なくとも1つの差に基づいて道路摩擦量を評価する、
ように構成されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の装置(100)。
【請求項8】
前記商用車両(10)はさらに、道路摩擦量の決定を開始する作動手段を備え、
前記評価ユニット(110)はさらに、前記作動手段から、道路摩擦量を決定するための信号を受信し、該信号に基づいて道路摩擦量を決定するように構成されている、
請求項1から7までのいずれか1項記載の装置(100)。
【請求項9】
前記評価ユニット(110)はさらに、臨界状況における道路摩擦量の評価を阻止するように構成されており、前記臨界状況は、
所定の閾値を上回る制動イベント、
カーブに沿った運転、
前記商用車両の近傍での車両もしくは人の存在、
町村部を通る運転、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1から8までのいずれか1項記載の装置(100)。
【請求項10】
前記商用車両(10)が、環境条件、特に気温、雨量、雪量、風量を決定する環境センサを備え、
前記評価ユニット(110)はさらに、
決定された環境条件が臨界状況を示した場合にまたは所定の時間間隔の後に道路摩擦量を自動的に評価し、
道路摩擦量の自動評価に関する警告信号を発出する、
ように構成されている、請求項1から9までのいずれか1項記載の装置(100)。
【請求項11】
第1のアクスル(11)および第2のアクスル(12)と、前記第2のアクスル(12)にかかる荷重(Fn)を変更する荷重分配機構(14)と、前記第1のアクスル(11)上の少なくとも1つの車輪(17)についての
スリップ率または前記第2のアクスル(12)上の少なくとも1つの車輪(18)についての
スリップ率を決定するスリップセンサ(16)とを備えた、商用車両(10)において、
請求項1から10までのいずれか1項記載の道路摩擦量を決定する装置(100)が設けられている
ことを特徴とする商用車両(10)。
【請求項12】
商用車両(10)の道路摩擦量を決定する方法であって、
前記商用車両(10)が、第1のアクスル(11)および第2のアクスル(12)と、前記第1のアクスル(11)にかかる荷重(Fn)または前記第2のアクスル(12)にかかる荷重(Fn)を変更する荷重分配機構(14)と、前記第1のアクスル(11)上の少なくとも1つの車輪(17)についての
スリップ率または前記第2のアクスル(12)上の少なくとも1つの車輪(18)についての
スリップ率を決定するスリップセンサ(16)とを備えている、
方法において、該方法が、
前記第2のアクスル(12)の荷重(Fn)を変更するように前記荷重分配機構(14)を制御すること(S110)と、
前記荷重(Fn)の変更に応答した
スリップ率の変化量を決定すること(S120)と、
前記
スリップ率の変化量に基づいて道路摩擦量を評価すること(S130)と
を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
コンピュータ上またはプロセッサ上で実行される際に、請求項12記載の方法を実行するためのプログラムコードを記憶したコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商用車両の道路摩擦量を決定する装置および方法に関し、特に、アクスル荷重を変更することにより道路摩擦量を推定する方法に関する。
【0002】
安全上の理由から、様々な運転状況における道路摩擦量の推定が必要とされている。特に、自律運転車両は、例えば道路摩擦量に基づいて制動作動および/または操舵作動を自動的に制御するために、道路摩擦量を高い信頼性で決定する必要がある。同様に、車両シャシ制御システムも、正しい道路摩擦量に依拠しないかぎり正しい動作を行えない。車両への付加的なセンサの設置は必要としないが既存の利用可能なセンサデバイスに依拠して道路摩擦量を決定するシステムを設けることが特に求められている。
【0003】
しかし、加速および/または制動が限界に近づいていない通常運転状況中に道路摩擦量を決定することは困難である。典型的には、車輪と道路との間の付着力が失われようとしている臨界状況においてのみ、道路摩擦量を高い信頼性で決定することができる。なお、通常運転状況では、摩擦利用量は、車両を安全に運転するために利用可能な摩擦量の一部であるに過ぎない。
【0004】
従来の道路摩擦量を決定する方法は米国特許第6508102号明細書に開示されており、ここでは、道路摩擦量の推定は、車両内の従来のセンサを基礎としている。別の従来の方法は米国特許第6418369号明細書に記載されており、ここでは、道路摩擦量は、駆動力と対応する制動力とが同時に印加される車両の定常状態において推定されている。しかし、この方法には多くのリスクがある。例えば、リアアクスルが駆動されている間にフロントアクスルが制動されると、車両が故障するリスクが存在する。
【0005】
したがって、車両を危険な状況に陥らせることなく特に通常運転状況中に道路摩擦量を決定できるよう改善することが依然として求められている。
【0006】
上述した従来のシステムの問題の少なくとも幾つかは、請求項1記載の装置と請求項12記載の方法とによって克服される。各従属請求項は各独立請求項の主題のさらなる有利な実現に関する。
【0007】
本発明は、商用車両の道路摩擦量を決定する装置に関する。商用車両は、第1のアクスルおよび第2のアクスルと、第1のアクスルにかかる荷重および/または第2のアクスルにかかる荷重を変更する荷重分配機構と、第1のアクスル上の少なくとも1つの車輪についてのスリップ値および/または第2のアクスル上の少なくとも1つの車輪についてのスリップ値を決定するスリップセンサとを備える。装置は、
-第1のアクスルにかかる荷重および/または第2のアクスルにかかる荷重を変更するように荷重分配機構を制御し、
-荷重の変更に応答したスリップ値の変化量を決定し、
-スリップ値の変化量に基づいて道路摩擦量を評価する、
ように構成された評価ユニットを備える。
【0008】
荷重分配機構は、付加的なリフト用エアベローズを利用したリフト機構を含むかまたはこのリフト機構の形式で実現されていてよい。ただし、これは(例えば車両で使用されるエアサスペンションシステムでは)通常のエアベローズ内の圧力の変化に基づく荷重除去または荷重分配によって実現されることもあり、リフトのために、すなわち対応する車輪を地面から引き離すために、付加的なエアベローズを設ける必要はない。このようなシステムは、トラクタおよび/またはトレーラユニットにおいて使用することができる。
【0009】
さらに、第1のアクスルおよび第2のアクスルはアクスル群の一部であってよく、(車両が3つ以上のアクスルを有するかぎり)フロントアクスルまたはリアアクスルであってよい。車両はトラクタまたはトレーラまたはこれらの組み合わせであってよく、複数のアクスルがドローバトレーラのフロントアクスル群に存在してもよいことを強調しておく。
【0010】
道路摩擦量は、相互に比例する摩擦係数または摩擦力でありうる。対応する車輪での質量荷重が既知である場合、双方の量が物理的に等しい。道路摩擦量は、摩擦係数に依存して任意に導出された量であってもよい。これらの量は、最良の場合でも、付着摩擦量の限界(最大値)が決定されないと決定できない。したがって、任意選択手段として、評価ユニットはさらに、第2のアクスル上の少なくとも1つの車輪での付着摩擦と摺動摩擦との間の移行によって特徴付けられる臨界状態が発生するまで、第1のアクスルにかかる荷重および/または第2のアクスルにかかる荷重を変更するように構成されている。
【0011】
スリップは、制動および/または加速によって生じうるものであり、つまり、対応するアクスル上の1つもしくは複数の車輪に作用する正のトルク(例えば駆動トルク)または負のトルク(例えば制動トルク)によって生じうるものである。スリップまたはその変化量は、車輪の回転速度(またはその変化量)を検出し、これを車両速度と比較することによって決定可能である。さらに、スリップは道路摩擦量に依存しており、したがって、検出されたスリップ値から道路摩擦量を決定することができる。対応する依存関係を評価ユニット内または車両内の他の場所に記憶しておくことができ、較正プロセスまたはシミュレーションまたは他の何らかの方法によって取得することができる。
【0012】
任意選択手段として、評価ユニットはさらに、第2のアクスルでの制動作動を検出するまたは発生させること、制動作動中に荷重分配機構を制御して第2のアクスルをリフトさせること、制動作動に応答したスリップ値の変化量を決定すること、のうちの1つもしくは複数を実行するように構成される。制動を検出することは、それぞれの制動信号を受信することを含んでいてよく、制動を発生させることは、制動作動をトリガするそれぞれの制動信号を発出することを含んでいてよい。
【0013】
スリップセンサは、第1のアクスル上の少なくとも1つの車輪についての第1のスリップ値を決定するように構成可能である。この場合、任意選択手段として、評価ユニットはさらに、第1のアクスルに印加される駆動トルクを検出するまたは発生させること、加速中に荷重分配機構を制御して第2のアクスルをリフトさせること、駆動トルクの印加に応答したスリップ値の変化量を決定すること、のうちの1つもしくは複数を実行するように構成される。
【0014】
スリップセンサは、第2のアクスル上の少なくとも1つの車輪についての第2のスリップ値を決定するように構成可能である。この場合、任意選択手段として、評価ユニットはさらに、駆動トルクが第1のアクスルに印加されるのと同時に第2のアクスルでの制動作動を検出するまたは発生させること、制動作動中かつ駆動トルクの印加中に荷重分配機構を制御して第2のアクスルをリフトさせること、制動作動および駆動トルクの印加に応答した第1のスリップ値の変化量および第2のスリップ値の変化量に基づいて道路摩擦量を評価すること、のうちの1つもしくは複数を実行するように構成される。この実施形態では、車両速度を変更することができない。車両は、定常状態に留まることができる。
【0015】
スリップセンサは、第1のアクスル上の少なくとも1つの車輪についての第1のスリップ値および第2のアクスル上の少なくとも1つの車輪についての第2のスリップ値を決定するように構成可能である。この場合、任意選択手段として、評価ユニットはさらに、荷重の変更に応答した第1のスリップ値の第1の変化量および第2のスリップ値の第2の変化量を決定すること、第1の変化量および第2の変化量に基づいて道路摩擦量を評価すること、のうちの1つもしくは複数を実行するように構成される。
【0016】
商用車両はさらに、道路摩擦量の決定を開始する作動手段を含みうる。この場合、任意選択手段として、評価ユニットはさらに、作動手段から、道路摩擦量を決定するための信号を受信し、この信号に基づいて道路摩擦量を決定するように構成される。作動手段は、運転者によって手動で作動可能であるか、または(例えば自律運転動作を制御する)車両の制御ユニットによってトリガ可能である。
【0017】
任意選択手段として、評価ユニットはさらに、臨界状況(例えば危機的な運転状況)における道路摩擦量の評価を阻止するように構成される。臨界状況には、所定の閾値を上回る制動イベント、カーブに沿った運転、近傍の車両または人の存在、町村部に位置していること、などのうちの少なくとも1つが含まれうる。
【0018】
商用車両は、環境条件、特に気温、雨量、雪量、風量などを決定する1つまたは複数の環境センサを含むことができる。この場合、任意選択手段として、評価ユニットはさらに、決定された環境条件が臨界状況(例えば凍結した道路および/または湿った道路)を示した場合にかつ/または所定の時間間隔の後に、道路摩擦量(のみ)を自動的に評価するように、かつ/または道路摩擦量の自動評価に関する警告信号を発出するように構成される。道路摩擦量の自動評価を運転者が防止できるよう、警告信号を前もって発出させることもできる。
【0019】
商用車両は、第1のアクスル上の車輪用の第1のスリップセンサと第2のアクスル上の車輪用の第2のスリップセンサとを含むことができる。この場合、任意選択手段として、評価ユニットはさらに、(荷重がそれぞれ異なりうる)第1のアクスル上の車輪についてのスリップ値の変化量および第2のアクスル上の車輪についてのスリップ値の変化量を決定すること、第1のアクスル上の車輪および第2のアクスル上の車輪について決定されたスリップ値(またはその変化量)の少なくとも1つの差に基づいて道路摩擦量を評価すること、のうちの1つもしくは複数を実行するように構成される。
【0020】
実施形態はまた、第1のアクスルおよび第2のアクスルと、第2のアクスルにかかる荷重を変更する荷重分配機構と、第1のアクスル上の少なくとも1つの車輪についてのスリップ値または第2のアクスル上の少なくとも1つの車輪についてのスリップ値を決定するスリップセンサと、上述した手法で道路摩擦量を決定する装置とを備えた車両、特に商用車両に関する。
【0021】
実施形態はまた、商用車両の道路摩擦量を決定する方法にも関する。商用車両は、ここでも、第1のアクスルおよび第2のアクスルと、第2のアクスルにかかる荷重を変更する荷重分配機構と、第1のアクスル上の少なくとも1つの車輪についてのスリップ値または第2のアクスル上の少なくとも1つの車輪についてのスリップ値を決定するスリップセンサとを備える。方法は、
-第1のアクスルの荷重および/または第2のアクスルの荷重を変更するように荷重分配機構を制御することと、
-荷重の変更に応答したスリップ値の変化量を決定することと、
-スリップ値の変化量に基づいて道路摩擦量を評価することと
を含む。
【0022】
当該方法はまた、ソフトウェアまたはコンピュータプログラム製品として実現可能であり、ステップ順序は所望の効果を達成することにとってさほど重要とならない。本発明の実施形態は、特に、電子制御ユニット内のソフトウェアまたはソフトウェアモジュールによって実現可能である。したがって、実施形態は、プロセッサ上で実行される際に方法を実行するためのプログラムコードを含むコンピュータプログラムにも関する。
【0023】
システムおよび/または方法の幾つかの実施例を、単なる例としてではあるが、添付の図に則して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態による装置を備えた車両を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態による読み出し摩擦量(read friction)を決定する方法を示す概略的なフローチャートである。
【0025】
図1には、実施形態による装置100を備えた例示的な商用車両10が示されている。車両10は、第1のアクスル11および第2のアクスル12と、第2のアクスル12にかかる荷重Fnを変更する荷重分配機構14と、第1のアクスル11上の少なくとも1つの車輪17についてのスリップ値および/または第2のアクスル12上の少なくとも1つの車輪18についてのスリップ値を決定するように構成されたスリップセンサ16とを備える。荷重Fnは地面に作用して摩擦力を決定する力にほかならない。道路が重力に対して垂直であるとき、荷重Fnによって生じる力は、道路摩擦力に入力される法線力Ff=μ
*Fnであり、ここで、μは決定すべき摩擦係数であり、スリップに相関する。摩擦量は、車両固有、例えばタイヤ固有のパラメータ、または道路固有、例えば道路材料または湿度、氷などに固有のパラメータである多くのパラメータに依存している。
【0026】
装置100は、車両10の道路摩擦量Ffを決定するように構成されており、評価ユニット110を含み、荷重分配機構14を制御して第2のアクスル12の荷重Fnを変更することができる。その後、評価ユニット110は、荷重Fnの変更に応答したスリップ値の変化量を決定することができる。最後に、評価ユニット110は、スリップ値の変化量に基づいて道路摩擦量Ffを評価することができる。
【0027】
車両10は3つ以上のアクスル11,12を有することができ、ここで、これらのアクスル11,12のうち少なくとも1つが、制御された方式で荷重Fnを変更するためにリフト可能とされうることを理解されたい。同様に、リフト可能なアクスルをトレーラに属するものとし、このトレーラに対するトラクタには属さないものとすることもできる。これらのアクスルもまた、道路摩擦量を決定するために実施形態において使用可能である。したがって、実施形態は、特定のアクスルまたは特定の車両に限定されるべきではなく、トラクタ、トレーラ、単独車両、コンビネーション車両などのいずれであるかにかかわらず、あらゆる車両に適用することができる。
【0028】
したがって、実施形態は、3つ以上のアクスルを備えた任意の車両またはコンビネーション車両に適用可能であり、ここで、少なくとも1つのアクスルをリフトさせることができ、これにより、当該アクスル12においてだけでなく、リフトされたアクスル12にかかる解放荷重を吸収しなければならない他のアクスル11においても、動的に調整可能な荷重Fnが生じる。換言すれば、実施形態は、特に、幾つかの車輪17,18にかかる荷重Fnが個別に制御可能であって、これによりアクスル(またはそれぞれのアクスル上の車輪)のいずれかにかかる荷重Fnを増大または低減することのできる車両10に適用可能である。こうした荷重の増減は、運転中(定常状態)、または制動前もしくは加速前、もしくは制動中もしくは加速中に行われうる。
【0029】
特定のアクスル11,12にかかる荷重Fnが変更されると、所与の車輪17,18が同じかまたはより少ない制動トルクもしくは駆動トルクを使用した異なる付着性利用率を有することになるので、道路摩擦量Ffを決定することができる。これにより、測定可能なスリップの変動が生じ、実施形態によれば、測定されたスリップの変化量を使用して道路摩擦量Ffが決定される。
【0030】
実施形態によれば、評価ユニット110は、荷重が変更されたアクスル12上の対応する車輪18が付着摩擦からの移行および摺動摩擦の開始を示唆する臨界状態に入るよう、荷重分配機構14による荷重の変更を制御するように構成されている。当該臨界状態は、摩擦量の推定の精度を著しく改善することができる。他のアクスル11上の車輪17は、道路摩擦量の限界に近づきさえしないので、車両動作はなおも安全である。実施形態による道路摩擦量の決定によって危険な運転状況は生じない。
【0031】
さらなる実施形態によれば、評価ユニット110は、車両10の定常状態中にタイヤ17,18を励起するのと同時に、制動トルクと駆動トルクとを組み合わせて印加するように構成されている。例えば、第1のアクスル11は、駆動トルクを印加することのできる駆動アクスルとすることができ、これに対して、第2のアクスル12上の車輪18は制動される(当該アクスル12がある程度までリフトされうる)。制動トルクおよび駆動トルクは、当該動作中に車両10の速度が変化しないように調整可能である。特に、荷重Fnが非駆動の第2のアクスル12において低減される場合、同等の作用につきより低い励起トルク(制動および/または駆動)を適用することができる。このことには、当該動作に使用されるエネルギ量が低減されるという利点も存在する。
【0032】
実施形態は、特にいわゆる6×2トラックに適用可能であり、ここで、3つのアクスルのうちの1つのみ(第1のアクスル11)が駆動され、他の1つのアクスル(第2のアクスル12)は
図1に示されているようにリフト可能である。荷重分配はエアベローズを利用して行うことができる。エアベローズが使用される場合、第2のアクスル12をリフトさせるための制動を行う前に、エアベローズ内の圧力を低減することができる。当該圧力は、被駆動アクスル11が最大許容荷重Fnに達するまでは最大であってよい。実施形態によれば、制動中、リフトされたアクスル12のタイヤは、(所定の閾値を上回る)大きな車輪スリップの出現を示唆する付着限界に近づく。実施形態によれば、評価ユニット110は、大きな荷重またはフル荷重を有する被駆動アクスル11と小さな荷重を有するリフトアクスル12との間の荷重Fnの差およびスリップ値の差から、高精度で路面の付着性を推定するように構成されている。
【0033】
さらに別の実施形態では、同じ6×2トラックにつき、荷重分配機構14が(第2のアクスル12に代えて、または同時にではないが双方のアクスル11,12をリフトさせることができる場合の)被駆動アクスル11をリフトさせるように構成可能である。荷重分配機構14は、被駆動アクスル11(または複数の被駆動アクスルのうちの1つ)をリフトさせるように構成可能である。当該リフトは、通常運転動作中、最大値が達成されて第2のアクスル12が最大許容荷重に達するまで行われうる。これは、エアベローズ圧力を低減することにより達成可能である。被駆動アクスル11上のタイヤ17は、(付着摩擦と摺動摩擦との間の移行が生じる)付着限界に近づき、これにより再び大きなスリップ量が生じる。上述したように、大きな荷重またはフル荷重を有する第2のアクスル12と小さな荷重を有する被駆動アクスル11(ここではリフトアクスル)との間の荷重Fnの差およびスリップの差から、表面の付着性を高精度で推定することができる。
【0034】
被駆動アクスルをリフト可能とすることは一般的でないが、特別な車両(例えば全輪駆動車両)では被駆動アクスルもリフト可能でありうる。この場合、通常、リフトされた被駆動アクスルは、ドライブトレインから分離可能であるか、または車輪速度差が生じえない他のアクスルにロック可能であるかのいずれかである。なお、複数の被駆動アクスル間での荷重分配を変更するために、通常のエアベローズを使用することができる。したがって、被駆動アクスルにかかる圧力は他のアクスルにおいて低減可能かつ/または増大可能であり、これにより、実施形態による測定の目的で被駆動アクスルの荷重除去が行われる。
【0035】
図2には、商用車両10の道路摩擦量Ffを決定する方法のフローチャートが示されている。方法は、
-第1のアクスル11にかかる荷重Fnおよび/または第2のアクスル12にかかる荷重Fnが変更されるように荷重分配機構14を制御するステップS110と、
-荷重Fnの変更に応答したスリップ値の変化量を決定するステップS120と、
-スリップ値の変化量に基づいて道路摩擦量Ffを評価するステップS130と
を含む。
【0036】
さらなる実施形態によれば、装置に関して上述した任意の機能を任意のさらなる方法ステップとして実現できることを理解されたい。さらに、所望の結果が達成可能であるかぎり、各方法ステップの順序は任意であってよい。
【0037】
さらに、当該方法は、コンピュータ実装方法であってもよい。当業者であれば、プログラミングされたコンピュータによって上述した様々な方法のステップを実行できることを容易に理解するであろう。実施形態はまた、機械可読もしくはコンピュータ可読であって機械実行可能な命令またはコンピュータ実行可能な命令のプログラムを符号化したプログラムストレージデバイス、例えばデジタルデータ記憶媒体をカバーすることも意図しており、ここで、命令は、コンピュータ上またはプロセッサ上で実行される際に上述した方法の動作の一部または全部を実行するためのものである。
【0038】
説明および図面は単に開示の基本方式を例示したものに過ぎない。よって、当業者であれば、本明細書に明示的に記載または図示されていなくても、本開示の基本方式を具現化しかつ本発明の範囲に含まれる様々な構成を想到することができるであろう。
【0039】
さらに、各実施形態は別個の実施例としてそれ自体で独立しうるが、規定した各特徴は他の実施形態において異なる形式で組み合わせることが可能であり、すなわち、1つの実施形態において説明した特定の特徴を他の実施形態においても実現できることに留意されたい。このような組み合わせは、特定の組み合わせを意図しないことが言明されていないかぎり、本明細書の開示によってカバーされる。
【符号の説明】
【0040】
10 商用車両
11,12 アクスルまたはアクスル群(少なくとも2つ)
14 荷重分配機構
16 スリップセンサ
17,18 車輪
100 道路摩擦量を決定する装置
110 評価ユニット
Ff 道路摩擦量
Fn 荷重