(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】コーティング剤およびその使用、ならびに該使用のための物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 191/06 20060101AFI20240806BHJP
C09J 123/00 20060101ALI20240806BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240806BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20240806BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240806BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C09J191/06
C09J123/00
B05D7/00 B
B05D7/00 K
B05D3/02 A
B05D3/00 D
B05D3/00 E
B05D3/12 C
(21)【出願番号】P 2023521611
(86)(22)【出願日】2021-10-05
(86)【国際出願番号】 EP2021025382
(87)【国際公開番号】W WO2022073637
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】102020006176.1
(32)【優先日】2020-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】523462907
【氏名又は名称】ステッドラー ソシエタス ヨーロピア
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ユーディト シュヴェマー
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ベルツナー
(72)【発明者】
【氏名】アーサー プライアー
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-163474(JP,A)
【文献】特表2016-524002(JP,A)
【文献】特開2003-119444(JP,A)
【文献】特開昭48-066638(JP,A)
【文献】特開2001-164217(JP,A)
【文献】特表2002-508793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 191/06
C09J 123/00
B05D 7/00
B05D 3/02
B05D 3/00
B05D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのワックスと、任意に他の添加剤とからなる結合剤であって、前記少なくとも1つのワックスが、ベースワックス部分および合成ワックス部分から構成されており、前記合成ワックス部分の融点が
80℃を上回り、前記ベースワックス部分の融点
が60℃~80℃であることを特徴とする、
多孔質基体-インダストリアルクレイ間結合剤。
【請求項2】
前記ベースワックス部分が20重量%~70重量%であり、前記合成ワックス部分が30重量%~80重量%である、請求項1記載の結合剤。
【請求項3】
前記ベースワックス部分が、マイクロワックスおよび/またはパラフィンワックスより形成されて
いる、請求項1または2記載の結合剤。
【請求項4】
前記合成ワックス部分が、エチレンプロピレンポリマー、ポリエチレンワックスおよび/またはポリ-α-オレフィン
である、請求項1または2記載の結合剤。
【請求項5】
前記ベースワックス部分が、マイクロワックスおよび/またはパラフィンワックスより形成されており、前記合成ワックス部分が、エチレンプロピレンポリマー、ポリエチレンワックスおよび/またはポリ-α-オレフィンである、請求項1または2記載の結合剤。
【請求項6】
自動車開発における設計模型を製造するための、請求項1記載の
結合剤の使用であって、前記
結合剤が、多孔質基体とインダストリアルクレイとの間の中間層として形成されている、使用。
【請求項7】
請求項
6記載の自動車開発における設計模型の製造方法であって、前記方法が、以下のフローステップ:
ステップ1:多孔質構造を有する基体を提供する、
ステップ2:前記基体に手動または機械による施与方法によってコーティングを施与し、その際、コーティング剤は、請求項1
記載の結合剤であり、前記コーティング剤は、前記施与の時点で60℃~120
℃の温度を有する、
ステップ3:室温での受動的冷却および/または冷却システムによる能動的冷却により、前記基体上の前記コーティングを固化させる、
ステップ4:1つ以上のインダストリアルクレイ層を施与し、その際、クレイは、前記施与の時点
で60℃~80℃の温度を有し、前記クレイの前記施与を、手動、半自動および/または全自動で実施する
に分けられることを特徴とする、方法。
【請求項8】
ステップ5において、設計を完成させかつ/または調整するために、表面の微調整/仕上げを行う、請求項
7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤およびその使用、ならびに該使用のための物品の製造方法に関する。
【0002】
ベース層/基材とその上の被覆層との密着性を改善するための薬剤/プライマーは、原理的に知られている。
【0003】
また、自動車の設計プロセスにおいて、特に基体に施与されたモデリングクレイから、現実的で縮尺に忠実な模型が製作されることも公知であるとみなされている。この点で、形成されるクレイ模型の重量を減少させるためには、モデリングクレイと基体との組み合わせが必要である。基体とモデリングクレイとの十分な密着性/接着性を得るために、第1の作業ステップでは、模型製作者は通常、大きな力を用いてまずモデリングクレイの薄い層を施与する。さらなる作業ステップ、すなわち造形プロセスまたは設計プロセスの段階で、必要となる厚さ約5cmの層の施与を開始することができる。
【0004】
公知の先行技術により模型を製造する場合、基体を例えばシェラックのようなバリア層で前処理して、基体の表面のダストを結合させる。なぜならば、ダストは、一方ではモデリングクレイの汚染を助長し、他方ではクレイと基体との接着力を低下させるためである。
【0005】
この問題は、基体にクレイを手動で施与する場合にも、基体の表面にクレイを半自動および/または全自動で施与する場合にも発生する。
【0006】
例示的に、独国実用新案第29720892号明細書および独国特許出願公開第102016109816号明細書に詳細に記載されているような、クレイの半自動的な施与が挙げられる。示された機械でモデリングクレイを加熱および搬送して、最終的に搬送チューブで施与ノズルへと搬送する。模型製作者にとって、このようなシステムによってインダストリアルクレイの実際の施与は非常に容易になるが、それと同時に、モデリングクレイと基体の表面との接着性の著しい減少が記録されていることが不利であることが判明している。半自動的な施与システムを用いた場合には、クレイの最初の薄い層を施与するのに必要な圧力をかけることができない。この直接的な結果として、クレイは基体の表面に単に堆積されるだけであり、したがって、必要な接着性が形成されていないか、あるいは形成されない。さらに、従来慣用されている薬剤/プライマーでは、良好な密着性を生じさせるための不足分の力を補うことができないことが判明している。
【0007】
したがって、本発明の課題は、上述の欠点を有しておらず、特に、多孔質基体とインダストリアルクレイとの接触面/界面での十分な接着性を保証するコーティング剤を提供することである。さらに、本発明の課題は、該コーティング剤を自動車開発における設計プロセスで使用することである。さらに、本発明の課題は、自動車開発において設計模型を製造することができる方法を提供することである。
【0008】
この課題は、請求項1、6および7に記載の特徴によって解決される。本発明による解決策の有利な実施形態および発展形態は、さらなる請求項に記載されている。
【0009】
本発明によるコーティング剤は、少なくとも1つのワックス/ワックス部分と、任意に他の添加剤とからなる。少なくとも1つのワックス部分は、ベースワックス部分および合成ワックス部分として存在する。コーティング剤は、プライマーとも表現することができる。ベースワックス部分は、ワックスおよび/またはワックスブレンドとして存在し、その溶融範囲は60℃~80℃である。したがって、ベースワックス部分の融点は、インダストリアルクレイの施与温度/加工温度である最高で約80℃の温度よりやや低い。ワックスおよび/またはワックスブレンドは、マイクロワックスおよび/またはパラフィンワックスとして存在することが有利であることが判明した。ベースワックス部分は、コーティング剤の20重量%~70重量%、好ましくは25重量%~65重量%である。
【0010】
さらに、驚くべきことに、いわゆるベースワックス部分である上述のワックスおよび/またはワックスブレンドと、合成ワックスまたは合成ワックスブレンドとの組み合わせにより、特別な効果が得られることが判明した。この点で、合成ワックス部分は、ベースワックス部分の融点を上回る/より高い融点を有する。例示的に、合成ワックスとして、エチレンプロピレンポリマー、ポリエチレンワックス(酸化ポリエチレン)および/またはポリ-α-オレフィンが挙げられる。合成ワックス部分は、コーティング剤の30重量%~80重量%、好ましくは35重量%~65重量%である。
【0011】
ベースワックス部分と合成ワックス部分との組み合わせによって得られる利点は、多孔質ベース基体にコーティング剤を施与した後、その後の施与において加工温度にあるインダストリアルクレイにより導入された熱によって、コーティング剤中のベースワックス部分が部分的にしか溶融しないということである。これにより、どの時点においても、溶融し始めていないあるいは溶融していない合成ワックスによってインダストリアルクレイと基体との十分な結合が生じており、したがって、溶融したベースワックス部分によって、潤滑膜が生じないかあるいは弱い作用を示す潤滑膜しか生じない。コーティング剤中のベースワックス部分が溶融し始めることにより、インダストリアルクレイとの直接的な結合が生じ、このことが、冷却後に基体とインダストリアルクレイとの接着性の向上に反映される。
【0012】
インダストリアルクレイを実際に基体に施与する前に、コーティング剤を加熱および溶融させ、これを手動で刷毛および/もしくはシリコン製押さえローラーにより、または機械的に高温ワックススプレーガンにより、基体の広範囲または全体に施与する。コーティング剤を手動および/または機械で施与することによって、接着性向上の効果を達成することができる。しかし、驚くべきことに、例えば高温ワックスガンによる吹付けで施与した場合には、コーティング剤のワックス部分が既に吹付け工程中に固化するため、「蜘蛛の巣状の」フィラメントおよび/またはフィラメント構造が生じることが判明した。形成されるフィラメント構造の利点は、周囲空気中に不要なエアロゾルが形成されず、使用者が呼吸保護用マスクを着用する必要がないことである。
【0013】
設計模型を製作する際に上述のプロセスステップに関して重要なことは、インダストリアルクレイを実際に施与する前にコーティング剤を冷却し、コーティング剤を基体上で固化した状態とすることで、基体へのインダストリアルクレイの良好な接着性を確実なものとすることである。接着性の大幅な向上は、高温で施与されるインダストリアルクレイの入熱により、ワックスおよび/またはワックス部分、特にベースワックス部分の一部が溶融するかあるいは少なくとも溶融し始め、これによりインダストリアルクレイの成分と基体との接着性が直接的に向上することに起因していると言える。
【0014】
例示的に、塗工機によるインダストリアルクレイの半自動的な施与方法が挙げられ、この方法では、加熱されたインダストリアルクレイが、貯蔵容器から、加熱されたチューブシステムを通じて基体上の施与部位に搬送される。コーティング剤を施与工程中に少なくとも部分的に再び溶融させるには、溶融範囲がインダストリアルクレイの施与温度範囲内にあるベースワックスおよび/またはベースワックスブレンドを使用する必要がある。インダストリアルクレイの施与温度あるいは加工温度は、60℃~80℃である。例えばマイクロワックスおよび/またはパラフィンワックスは、この要件を満たしており、使用することができる。
【0015】
合成ワックス部分の融点がインダストリアルクレイの加工温度を上回っているため、合成ワックスと組み合わせることにより、コーティング剤が部分的にのみ溶融する。このため、コーティング剤の施与および/または設計模型の製造方法のいずれの時点においても、溶融したベースワックスおよび/またはベースワックス部分によって非常に弱い作用を示す潤滑膜しか生じないため、下地あるいは基体の表面との十分な結合が形成されるという効果が生じる。
【0016】
さらに、高温ワックスガンを用いて施与した場合、合成ワックス部分によって蜘蛛の巣状の構造が生じる。コーティング剤としてパラフィンおよび/またはマイクロワックスのみを使用した場合には、結果的に密着作用が低下し、さらに吹付け時に空気中にエアロゾルが形成され、これにより追加の保護措置を講じる必要性が生じる。
【0017】
コーティング剤に含まれる他の添加剤としては、例示的に、レオロジー添加剤、粘着付与剤および/または着色剤が挙げられる。レオロジー添加剤により、特に昇温時の流動挙動を狙いどおりに変化させることができる。これは、基体の垂直部分にとって特に重要である。着色剤は、染料として存在することも顔料として存在することもできる。着色剤を使用した場合の利点の1つとして、例示的に、基体へのコーティング剤の施与後に、基体の表面に既にコーティング剤が存在しているか否か、またそれがどの位置に存在しているかを容易に確認できることが挙げられる。粘着付与剤を使用することにより、加熱状態でのコーティング剤の粘着性が向上する。また、いわゆる粘着付与剤を使用すると、コーティング剤がより迅速に固化する。
【0018】
2つの一般的実施例およびいくつかの処方例により、本発明についてより詳細に説明する。
【0019】
一般的実施例1
20重量%~70重量% ベースワックスおよび/またはベースワックス部分(BW)
30重量%~80重量% 合成ワックス(SW)
0重量%~20重量% 他の添加剤
【0020】
一般的実施例2
35重量%~65重量% ベースワックス部分(BW)
65重量%~35重量% 合成ワックス(SW)
0重量%~10重量% 他の添加剤
【0021】
処方例1 - コーティング剤
40重量% パラフィンワックス(BW)
60重量% 合成ワックス(SW)
【0022】
処方例2 - コーティング剤
28重量% パラフィンワックス
30重量% マイクロワックス
42重量% 合成ワックス
【0023】
処方例3 - コーティング剤
58重量% マイクロワックス
37重量% 合成ワックス
5重量% 着色剤、レオロジー添加剤および粘着付与剤
【0024】
処方例 - 軽量インダストリアルクレイ(先行技術)
33重量% パラフィンワックス+マイクロワックス
5重量% ホワイトオイル
45重量% ステアリン酸カルシウム(フィラー)
16重量% 軽量フィラー
2重量% 着色料としての酸化鉄
【0025】
接着性の向上を確認および評価できるようにするために、Zwick万能試験機で引張試験を行った。この場合、試験片を両端でクランプ留めする。サンプルをクランプ留めした後、クランプシステムを所定の速度で広げ、試験片の破断時点で必要とされる最大力Fmaxを測定する。本願の主題の場合、試験片は、基体と、コーティング剤と、インダストリアルクレイとからなる層状模型からなり、クランプ留めの点を形成するのは、一方では基体であり、他方ではインダストリアルクレイである。引張試験を、室温で実施した。Fmaxを求め、ここで、Fmaxの増加は、接着力の増加と相関関係にある。試験における多孔質基体は、多孔質発泡体として存在していた。試験片の寸法:長さ55mm、幅10mm、高さ120mm。
【0026】
以下の表を用いて、クレイと基体との接着力の増加を伴う本発明について、より詳細に説明する。
【0027】
【0028】
以下に、本発明による、自動車開発における模型または設計模型の製造方法について、より詳細に説明する。本方法は、以下のフローステップに分けられる。
【0029】
ステップ1:基体であって、有利には多孔質の構造を有するものを提供する。
【0030】
ステップ2:基体に、手動または機械による施与方法によって、溶融したコーティング剤を施与し、その際、前述のコーティング剤は、施与の時点で、ベースワックス部分および合成ワックス部分が溶融状態で存在する温度を有する。
【0031】
ステップ3:室温での受動的冷却および/または例えばファンなどの冷却システムによる能動的冷却により、基体の表面上のコーティング剤を固化させる。
【0032】
ステップ4:少なくとも1つのインダストリアルクレイ層を施与し、その際、クレイは、施与の時点で約60℃~120℃、好ましくは70℃~100℃の温度を有し、クレイの施与を、手動、半自動および/または全自動で実施する。
【0033】
任意ステップ5:設計を完成させかつ/または調整するために、表面の微調整/仕上げを行う。
【0034】
本発明によるコーティング剤は、自動車開発における設計模型の製造時に使用され、コーティング剤は、多孔質基体とインダストリアルクレイとの間の中間層として形成されている。