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  • 特許-無鉛圧電磁器組成物、および圧電素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】無鉛圧電磁器組成物、および圧電素子
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/495 20060101AFI20240806BHJP
   C01G 33/00 20060101ALI20240806BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20240806BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20240806BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20240806BHJP
   H10N 30/06 20230101ALI20240806BHJP
【FI】
C04B35/495
C01G33/00 A
C01G45/00
H10N30/853
H10N30/87
H10N30/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023543695
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2022021187
(87)【国際公開番号】W WO2023026614
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2021138559
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 吉進
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】笠島 崇
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正人
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-033254(JP,A)
【文献】特開2014-111529(JP,A)
【文献】特開2019-048749(JP,A)
【文献】特開2018-088524(JP,A)
【文献】国際公開第2015/155933(WO,A1)
【文献】Phase transition, dielectric and piezoelectric properties of K0.5Na0.5NbO3-CaTi0.9Zr0.1O3 lead-free ceramics,Journal of Materials Science,vol. 47, No.1,2011年07月29日,p. 397-402
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/42-35/447
C04B 35/46-35/515
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(A1M1(Nbd1,Mnd2,M2d3)O3+e(但し、元素A1としてNa、Kを含む又は元素A1としてNa、K、Liの3つを含み、元素M1はBa、Ca、Srのうち少なくとも1種であり、元素M2はTi、Zrのうち少なくとも1種であり、0<a<1、0<b<1、a+b=1であり、cは0.80<c<1.10を満たし、0<d1<1、0<d2<1、0<d3<1、d1+d2+d3=1であり、eは酸素の欠損あるいは過剰を示す値)で表されるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物からなる主相を含み、
b/(d2+d3)>1.0
を満たす、無鉛圧電磁器組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の無鉛圧電磁器組成物からなる圧電体と、前記圧電体に接する電極と、を備える圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、無鉛圧電磁器組成物、および圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電性を示すセラミックスとして、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が広く利用されてきた。しかし、PZTは成分に鉛を含むために、環境負荷が問題視されており、近年、無鉛圧電セラミック素材の開発が進められている。無鉛圧電セラミック素材の有力候補の1つとして、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物を主相とする無鉛圧電磁器組成物がある。
【0003】
このような無鉛圧電磁器組成物を圧電フィルタ、圧電振動子、圧電トランス、圧電超音波モータ、圧電ジャイロセンサ、ノックセンサ等に応用するためには、機械的品質係数Qmが高いことが求められる。ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物にマンガン(Mn)を添加することで、機械的品質係数Qmの高い無鉛圧電磁器組成物が得られることが分かってきている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4929522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の無鉛圧電磁器組成物を、例えばボルト締めランジュバン型超音波振動子のような、高い機械的品質係数Qmが求められる圧電素子に応用したいという要望があり、無鉛圧電磁器組成物の特性をさらに改善することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によって開示される無鉛圧電磁器組成物は、組成式(A1M1(Nbd1,Mnd2,M2d3)O3+e(但し、元素A1はアルカリ金属のうちの少なくとも1種であり、元素M1はBa、Ca、Srのうち少なくとも1種であり、元素M2はTi、Zrのうち少なくとも1種であり、0<a<1、0<b<1、a+b=1であり、cは0.80<c<1.10を満たし、0<d1<1、0<d2<1、0<d3<1、d1+d2+d3=1であり、eは酸素の欠損あるいは過剰を示す値)で表されるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物からなる主相を含み、b/(d2+d3)>1.0を満たす。
【0007】
また、本明細書によって開示される圧電素子は、上記の無鉛圧電磁器組成物からなる圧電体と、前記圧電体に接する電極と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本明細書によって開示される無鉛圧電磁器組成物、および圧電素子によれば、高い機械的品質係数Qmを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態の圧電素子の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の概要]
(1)本明細書によって開示される無鉛圧電磁器組成物は、組成式(A1M1(Nbd1,Mnd2,M2d3)O3+e(但し、元素A1はアルカリ金属のうちの少なくとも1種であり、元素M1はBa、Ca、Srのうち少なくとも1種であり、元素M2はTi、Zrのうち少なくとも1種であり、0<a<1、0<b<1、a+b=1であり、cは0.80<c<1.10を満たし、0<d1<1、0<d2<1、0<d3<1、d1+d2+d3=1であり、eは酸素の欠損あるいは過剰を示す値)で表されるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物からなる主相を含み、b/(d2+d3)>1.0を満たす。
【0011】
また、本明細書によって開示される圧電素子は、上記の無鉛圧電磁器組成物からなる圧電体と、前記圧電体に接する電極と、を備える。
【0012】
ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物において、MnがNbのサイトにアクセプターとして固溶することで、機械的品質係数Qmが向上すると考えられている。しかし、Mnはニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物に対して固溶しにくく、無鉛圧電磁器組成物中に異相として偏析しやすい。一方、アルカリ金属よりもMnと価数の近い2価の元素であるBa、Ca、Srがアルカリサイトに固溶すると、MnがNbのサイトに固溶することを助けると推測される。MnとBa、Ca、Srとの組成比を、b/(d2+d3)>1.0となるように調整することで、適量のMnがNbのサイトに固溶され、機械的品質係数Qmが向上すると考えられる。
【0013】
(2)上記(1)の無鉛圧電磁器組成物が、組成式A21-xTi1-xNb1+x(但し、元素A2はアルカリ金属のうちの少なくとも1種であり、0≦x≦0 .15を満たす)で表される酸化物、および組成式A3TiNbO(但し、元素A3はアルカリ金属のうちの少なくとも1種である)で表される酸化物のうち一方の酸化物からなる副相を含んでいても構わない。
【0014】
このような構成によれば、無鉛圧電磁器組成物が副相を有しない場合よりも、圧電特性を向上させることができる。
【0015】
(3)上記(1)の無鉛圧電磁器組成物において、前記主相に含まれる前記ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の結晶粒子の平均粒子径が0.3μm以上3.5μm以下であっても構わない。
【0016】
あるいは、上記(1)の無鉛圧電磁器組成物において、前記主相に含まれる前記ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の結晶粒子の平均粒子径が0.3μm以上1.1μm以下であっても構わない。
【0017】
このような構成によれば、機械的品質係数Qmがさらに向上する。
【0018】
[実施形態の詳細]
本明細書によって開示される技術の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0019】
<実施形態>
[無鉛圧電磁器組成物の構成]
本実施形態の無鉛圧電磁器組成物は、圧電特性を有するニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物からなる主相を含む。本実施形態のニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物は、以下の組成式(1)で表される。
【0020】
(A1M1(Nbd1,Mnd2,M2d3)O3+e …(1)
【0021】
元素A1はアルカリ金属のうち少なくとも1種である。元素M1はアルカリ土類金属であるCa(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)のうち少なくとも1種である。元素M2はTi(チタン)、Zr(ジルコニウム)のうち少なくとも1種である。
【0022】
上記組成式(1)において、元素A1と元素M1とは、ペロブスカイト構造のAサイト(アルカリサイト)に配置され、Nb(ニオブ)、Mn(マンガン)と元素M2とはBサイトに配置される。
【0023】
上記組成式(1)における係数a~eの値としては、ペロブスカイト構造が成立する値の組み合わせのうちで、無鉛圧電磁器組成物の電気的特性又は圧電特性(特に圧電定数d33)の観点で好ましい値が選択される。
【0024】
具体的には、係数a、bは、0<a<1、0<b<1、a+b=1を満たし、a=0(すなわち、アルカリ金属をいずれも含まない組成物)、b=0(すなわち、Ca、Sr、Baをいずれも含まない組成物)は除外される。
【0025】
Aサイト全体に対する係数cは、0.80<c<1.10を満たし、0.84≦c≦1.08が好ましく、0.88≦c≦1.07がさらに好ましい。
【0026】
係数d1、d2、d3は、0<d1<1、0<d2<1、0<d3<1、d1+d2+d3=1を満たす。d1=0(Nbを含まない組成物)、d2=0(Mnを含まない組成物)、d3=0(Ti、Zrをいずれも含まない組成物)は除外される。
【0027】
酸素の係数3+eのうち、係数eは、通常3である酸素の係数に対し、酸素の欠損あるいは過剰を示す正または負の値である。酸素の係数(3+e)は、主相がペロブスカイト酸化物を構成する値を取り得る。係数eの典型的な値は、e=0であり、0≦e≦0.1が好ましい。なお、係数eの値は、主相の組成の電気的な中性条件から算出することができる。但し、主相の組成としては、電気的な中性条件からやや外れた組成も許容できる。
【0028】
係数b、d2、d3は、b/(d2+d3)>1.0を満たす。係数b、d2、d3がこの範囲の値を取れば、機械的品質係数Qmの高い無鉛圧電磁器組成物が得られる。その理由は、以下のようであると推測される。
【0029】
MnがNbのサイトにアクセプターとして固溶することで、機械的品質係数Qmが向上すると考えられている。しかし、Mnはニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物に対して固溶しにくく、無鉛圧電磁器組成物中に異相として偏析しやすい。固溶のしやすさは、固溶する金属原子のイオン半径や価数に依存すると考えられており、主として5価のNbが配されているBサイトには、3価のMnは固溶しにくいと考えられる。一方、2価の元素であるBa、Ca、Srは、1価のアルカリ金属が配されているAサイトに固溶しやすい。そして、Mnと価数の近いBa、Ca、SrがAサイトに適量固溶していることが、MnがBサイトに固溶することを助けると推測される。MnとBa、Ca、Srとの組成比を、b/(d2+d3)>1.0となるように調整することで、適量のMnがBサイトに固溶され、機械的品質係数Qmが向上すると考えられる。
【0030】
b/(d2+d3)の上限値については 特に限定されるものではないが 、b/(d2+d3)≦2.0であることが 好ましい。
【0031】
上記組成式(1)で表されるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物は、元素A1としてK(カリウム)、Na(ナトリウム)、Li(リチウム)のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。上記酸化物が、元素A1としてK、Na、Liのうち少なくとも1種を含み、元素M1としてCa、Sr、Baのうち少なくとも1種を含み、元素M2としてTi、Zrのうち少なくとも1種を含むとき、組成式(1)は、下記組成式(1a)のように書き換えることができる。
【0032】
(Ka1Naa2Lia3Cab1、Srb2、Bab3(Nbd1,Mnd2,Tid31、Zrd32)O3+e …(1a)
【0033】
上記組成式(1)と(1a)とは等価であり、a1+a2+a3=aであり、b1+b2+b3=bであり、d31+d32=dである。KとNaとの係数a1,a2は、典型的には0<a1≦0.6,0<a2≦0.6である。Liの係数a3は、ゼロでも良いが、0<c≦0.2が好ましく、0<c≦0.1が更に好ましい。
【0034】
上記組成式(1a)で表されるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物のうち、K、Na、およびNbを主な金属成分とする酸化物は、「KNN」または「KNN材」と称される。この酸化物を用いることにより、圧電特性と、電気特性と、絶縁性と、高温耐久性とに優れ、また、-50℃~+150℃の間において急激な特性の変動がない無鉛圧電磁器組成物を得ることができる。主相の典型的な組成は、(K,Na,Li,Ca,Ba)(Nb,Mn,Ti,Zr)O3+eである。
【0035】
本実施形態の無鉛圧電磁器組成物は、以下の組成式(2)で表される酸化物、または以下の組成式(3)で表される酸化物のうち一方の酸化物からなる副相を含んでもよい。
【0036】
A21-xTi1-xNb1+x …(2)
【0037】
A3TiNbO…(3)
【0038】
組成式(2)において、元素A2はアルカリ金属のうちの少なくとも1種であり、K、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)のうちの少なくとも1種であることが好ましい。係数xは、0≦x≦0 .15を満たす。係数xがこの範囲の値を取れば、副相の構造が安定し、均一な結晶相を得ることができる。副相の構造的な安定性の観点から、係数xは、元素A2がKまたはRbの場合には0≦x≦0.15を満たすことが好ましく、元素A2がCsの場合には0≦x≦0.10を満たすことが好ましい。
【0039】
組成式(3)において、元素A3はアルカリ金属のうちの少なくとも1種であり、K、Rb、Csのうちの少なくとも1種であることが好ましい。
【0040】
副相は圧電特性を有していないが、主相と混在することによって焼結性を向上せしめ、加えて絶縁性も向上させる。また、-50℃ から+150℃ の間に相転移点を生じさせないようにする働きにも寄与していると思われる。副相は層状構造化合物(又は層状化合物)であり、層状構造化合物である点が、圧電磁器組成物の絶縁性の向上および相転移点を生じさせないようにする働きに寄与しているものと推定される。
【0041】
副相の含有割合は、0モル%を超え20モル%未満でも良いが、2モル%以上15モル%以下であることが好ましく、2モル%以上10モル%以下であることが更に好ましい。
【0042】
組成式(2)または(3)で表される酸化物のうち、Nb、TiおよびKを主な金属成分する酸化物は、「NTN材」と称される。この酸化物を用いることにより、安価で圧電特性に優れた無鉛圧電磁器組成物を得ることができる。
【0043】
[圧電素子10]
本実施形態の圧電素子10は、圧電体11と、圧電体11に接する電極12、13と、を備える。圧電体11は、上記の無鉛圧電磁器組成物により構成され、円板状をなしている。電極12、13のうち一方は圧電体11の一面に配され、他方は圧電体11の他面に配され、電極12、13の間に圧電体11が挟まれた状態となっている。
【0044】
上記の圧電素子10の製造方法の一例を、以下に示す。
【0045】
まず、主相の原料粉末のうちから必要なものを選択し、目的とする組成となるように秤量する。原料粉末は、主相に含まれる各元素の酸化物、炭酸塩、水酸化物であってもよい。これらの原料粉末にエタノールを加え、ボールミルにて好ましくは15時間以上湿式混合してスラリーを得る。得られたスラリーを乾燥して得られた混合粉末を、例えば大気雰囲気下600~1000℃で1~10時間仮焼して主相仮焼物を得る。
【0046】
また、副相の原料粉末のうちから必要なものを選択し、目的とする組成となるように秤量する。原料粉末は、副相に含まれる各元素の酸化物、炭酸塩、水酸化物であってもよい。そして、これらの原料粉末にエタノールを加えてボールミルにて好ましくは15時間以上湿式混合してスラリーを得る。得られたスラリーを乾燥して得られた混合粉末を、例えば大気雰囲気下600~1000℃で1~10時間仮焼して副相仮焼物を得る。
【0047】
次に、主相仮焼物と副相仮焼物とをそれぞれ秤量し、ボールミルにて、分散剤、バインダ及びエタノールを加えて粉砕・混合してスラリーとする。また、必要に応じて、主相または副相の原料粉末のうち、上記の主相仮焼物及び副相仮焼物を得る工程で選択されなかった原料粉末を秤量してスラリーに添加してもよい。なお、このスラリーを、もう一度仮焼して粉砕、混合しても良い。得られたスラリーを乾燥し、造粒し、例えば圧力20MPaで一軸プレスを行うことにより、所望の形状に成形する。得られた成形体に対し、例えば圧力150MPaでCIP処理(冷間静水圧成形処理)を行う。得られたCIPプレス体を、例えば大気雰囲気下900~1300℃で1~10時間保持して焼成することによって圧電体を得る。この焼成は、酸素雰囲気下で行っても良い。
【0048】
得られた圧電体の表面に、例えばスパッタリング法により電極を形成し、分極処理を行って圧電素子を得る。
【0049】
なお、上述した製造方法は一例であり、圧電素子を製造するための他の種々の工程や処理条件を利用可能である。例えば、主相と副相の仮焼物を予め別個に生成した後に両者の粉末を混合し焼成する代わりに、最終的な無鉛圧電磁器組成物の組成に応じた量比で原料を混合し、焼成してもよい。但し、主相と副相の仮焼物を予め別個に生成した後に混合する方法によれば、主相と副相の組成をより厳密に管理し易いので、無鉛圧電磁器組成物の歩留まりを高めることが可能である。
【0050】
本実施形態の無鉛圧電磁器組成物および圧電素子は、振動検知用途や、圧力検知用途、発振用途、及び、圧電デバイス用途等に広く用いることが可能である。例えば、各種振動を検知するセンサ類(ノックセンサおよび燃焼圧センサ等)、振動子、アクチュエータ、フィルタ等の圧電デバイス、高電圧発生装置、マイクロ電源、各種駆動装置、位置制御装置、振動抑制装置、流体吐出装置(塗料吐出及び燃料吐出等) などに利用することができる。また、本実施形態の無鉛圧電磁器組成物及び圧電素子は、特に、優れた熱耐久性が要求される用途(例えば、ノックセンサおよび燃焼圧センサ等) に好適である。
【0051】
<試験例>
1.試料の作成
(1)第1仮焼工程
CO粉末、NaCO粉末、LiCO粉末、Nb粉末の各々を、下記組成式(4)の係数f、g、hが表1に示す比率となるように秤量した。
【0052】
(KNaLi)NbO …(4)
【0053】
【表1】
【0054】
これらの原料粉末にエタノールを加え、ボールミルにて15時間以上湿式混合してスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥して得られた混合粉末を、大気雰囲気下600-1000℃で1-10時間仮焼して第1仮焼粉を得た。
【0055】
(2)第2仮焼工程
CaCO粉末、SrCO粉末、BaCO粉末、MnO粉末、TiO粉末、ZrO粉末のうちから必要なものを選択し、第1仮焼粉(上記組成式(4)で表される酸化物)に対する各粉末中の金属原子のモル百分率が表2に示す値となるように秤量して、第1仮焼粉に添加した。
【0056】
【表2】
【0057】
これらの原料粉末と第1仮焼粉との混合物にエタノールを加え、ボールミルにて15時間以上湿式混合してスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥して得られた混合粉末を、大気雰囲気下600-1000℃で1-10時間仮焼して第2仮焼粉を得た。
【0058】
(3)成形工程
得られた第2仮焼粉に分散剤、バインダ及びエタノールを加えて粉砕・混合してスラリーとした。得られたスラリーを乾燥し、造粒し、圧力20MPaで一軸プレスを行い、円板状に成形した後、圧力150MPaでCIP処理(冷間静水圧成形処理)を行って成形体を得た。
【0059】
(4)本焼成工程
得られた成形体を、大気雰囲気下1000-1300℃で1-10時間保持して焼成することによって圧電体を得た。この圧電体は、上記組成式(1a)で表されるニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物からなる無鉛圧電磁器組成物により構成される。
【0060】
(5)電極形成工程
得られた圧電体の表裏両面に、スパッタリング法によりAuからなる電極を形成した。電極形成後の圧電体を、50℃のシリコーンオイル中にて、5kv/mmの電解を印加して分極処理を行い、試料No.1-14を得た。
【0061】
2.試験方法
得られた試料について、インピーダンスアナライザ(Keysight Technologies社製、E4990A)を用いて測定を行い、室温、1kHzにおける静電容量の値から比誘電率ε33 /εを算出した。また、共振-反共振法により機械的品質係数Qmを求めた。機械的品質係数Qmの値が500以上であるものを良品と判断した。
【0062】
3.結果
各試料について、上記1.(2)で第1仮焼粉に対して添加された原料粉末中のBa原子、Ca原子、Sr原子のモル百分率の合計をPM1、Ti原子、Zr原子のモル百分率の合計をPM2、Mn原子のモル百分率をPMnとし、PM1/(PM2+PMn)の値を求めた。求めた値を、比誘電率ε33 /εおよび機械的品質係数Qmの値と共に表3に示した。
【0063】
【表3】
【0064】
ここで、理論上、原料粉末中のBa原子、Ca原子およびSr原子は、得られたニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物のAサイトに全て入る。また、Mn原子、Ti原子およびZr原子は、得られたニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物のBサイトに全て入る。よって、Ba原子、Ca原子、Sr原子、Mn原子、Ti原子およびZr原子のモル百分率は、上記組成式(1a)中のBa、Ca、Sr、Ti、Zrの係数b1、b2、b3、d2、d31、d32にそれぞれ対応していると考えてよい。そして、Ba原子、Ca原子、Sr原子のモル百分率の合計PM1は、上記組成式(1a)中のBa、Ca、Srの係数b1、b2、b3の合計値(組成式(1)中の係数bの値)に対応していると考えてよく、Ti原子、Zr原子のモル百分率の合計PM2は、上記組成式(1a)中のTi、Zrの係数d31、d32の合計値(組成式(1)中の係数d3の値)に対応していると考えてよい。以上より、モル百分率の関係式PM1/(PM2+PMn)は、組成式(1)中の係数b、d2、およびd3の関係式b/(d2+d3)と等価であると考えてよい。
【0065】
M1/(PM2+PMn)の値(すなわちb/(d2+d3)の値)が1.0以下の試料No.1-3は、機械的品質係数Qmが500未満であった。これに対し、PM1/(PM2+PMn)の値(すなわちb/(d2+d3)の値)が1.0を超える試料No.4-14は、機械的品質係数Qmが500以上であり、圧電特性に優れていた。
【0066】
<結晶粒子の平均粒子径と機械的品質係数Qmとの関係を調べる追加の試験例>
1.試料の作製および試験方法
第1仮焼工程において、各原料粉末を、上記組成式(4)の係数f、g、h、が表4に示す比率となるように秤量し、第2仮焼工程において、第1仮焼粉に添加する原料粉末中の金属原子のモル百分率が表4に示す比率となるように秤量した他は、上記試験例と同様にして試料を作成し、試料Nо.15-22を得た。
【0067】
【表4】
【0068】
得られた試料Nо.15-22、および、上記試験例の試料Nо.1、4について、SEMを用いて10000倍にて撮像した。得られた画像について、画像処理ソフトウェアimageJを用いて画像処理を行い、画像(10μm×10μm)中に含まれる結晶粒子の粒子径の平均値を平均粒子径とした。また、上記試験例と同様の方法で、比誘電率ε33 /εと機械的品質係数Qmとを求めた。機械的品質係数Qmの値が500以上であるものを良品と判断した。
【0069】
2.結果
各試料について、平均粒子径、比誘電率、および機械的品質係数Qmの値を表5に示した。
【0070】
【表5】
【0071】
M1/(PM2+PMn)の値(すなわちb/(d2+d3)の値)が1.0以下の試料No.1、21、22は、機械的品質係数Qmが500を大きく下回った。また、PM1/(PM2+PMn)の値(すなわちb/(d2+d3)の値)が1.0を超えるが、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の結晶粒子の平均粒子径が3.8μmである試料No.20は、機械的品質係数Qmが500を僅かに下回った。これに対し、PM1/(PM2+PMn)の値(すなわちb/(d2+d3)の値)が1.0を超え、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の結晶粒子の平均粒子径が0.3-3.5μmである試料No.4、15-19は、機械的品質係数Qmが500以上であり、圧電特性に優れていた。特に、ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト型酸化物の結晶粒子の平均粒子径が0.3-1.1μmである試料No.15-17は、機械的品質係数Qmが560以上であり、特に圧電特性に優れていた。
【符号の説明】
【0072】
10:圧電素子
11:圧電体
12、13:電極
図1