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特許7534556ダンパ装置、加工工具およびダンパ装置の組立方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ダンパ装置、加工工具およびダンパ装置の組立方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/00 20060101AFI20240806BHJP
   B23C 9/00 20060101ALI20240806BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20240806BHJP
   B23B 29/02 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B23B27/00 C
B23C9/00 Z
B23Q11/00 A
B23B29/02 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023555586
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 EP2021058263
(87)【国際公開番号】W WO2022207076
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519068515
【氏名又は名称】エムエーキュー アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】フー, キリン
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-188982(JP,A)
【文献】国際公開第2020/049167(WO,A1)
【文献】特開2007-290047(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0147698(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00 - 29/34
B23C 9/00
B23Q 11/00
F16F 7/00 - 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工工具(10)用のダンパ装置(12)であって、
- 空洞(40)と中心軸(18)とを有し、第1表面(48)を備える管状部材(20)と、
- 前記空洞(40)内に配置され、前記中心軸(18)に対して、かつ、前記管状部材(20)に対して半径方向に移動可能なダンピングマス(32)と、
- 該ダンピングマス(32)を前記管状部材(20)に対して相対的に支持する少なくとも1つのバネ要素(34,36)であって、前記ダンピングマス(32)および前記少なくとも1つのバネ要素(34,36)が、前記ダンパ装置(12)の運動振動エネルギを減衰させるように配置されている、少なくとも1つのバネ要素(34,36)と、
- 前記空洞(40)の内部に配置される固定内装部(50)、および第2表面(54)を有する少なくとも1つの固定部(26)と、
- 前記第1表面(48)と前記第2表面(54)との間に設けられた振動減衰材(30)であって、前記ダンパ装置(12)の位置振動エネルギを減衰させるように配置された振動減衰材(30)とを備え、
前記第1表面(48)および前記第2表面(54)がテーパ状であり、
前記振動減衰材が、前記第1表面(48)と前記第2表面(54)との間において、実質的に均等に圧縮されているダンパ装置(12)。
【請求項2】
前記第1表面(48)および/または前記第2表面(54)が、前記中心軸(18)に対して少なくとも0.2°の平均傾斜を有する請求項に記載のダンパ装置(12)。
【請求項3】
前記少なくとも1つの固定部(26)は、前記振動減衰材(30)が、前記第1表面(48)と前記第2表面(54)との間において実質的に均等に圧縮されるように、前記中心軸(18)に沿った前記管状部材(20)と前記少なくとも1つの固定部(26)との間の相対移動によって組み立てられる請求項または請求項に記載のダンパ装置(12)。
【請求項4】
前記振動減衰材(30)が粘弾性材料からなる請求項1から請求項のいずれか1項に記載のダンパ装置(12)。
【請求項5】
前記空洞(40)が円柱状の空洞部分(42)を備え、前記ダンピングマス(32)が前記円柱状の空洞部分(42)内に配置され、前記少なくとも1つの固定部(26)の1つ以上の少なくとも一部が前記円柱状の空洞部分(42)内に配置される請求項1から請求項のいずれか1項に記載のダンパ装置(12)。
【請求項6】
前記空洞(40)が、前記第1表面(48)を画定するテーパ状の空洞部分(44)を備える請求項1から請求項のいずれか1項に記載のダンパ装置(12)。
【請求項7】
前記少なくとも1つの固定部(26)が、互いに対して固定された少なくとも2つの固定部(26)を備える請求項1から請求項のいずれか1項に記載のダンパ装置(12)。
【請求項8】
前記固定内装部(50)が、固定円筒部を備える請求項1から請求項のいずれか1項に記載のダンパ装置(12)。
【請求項9】
前記少なくとも1つのバネ要素(34,36)のうちの1つ以上が、前記固定内装部(50)に接続されている請求項1から請求項のいずれか1項に記載のダンパ装置(12)。
【請求項10】
前記第2表面(54)が、前記空洞(40)内に挿入されている請求項1から請求項のいずれか1項に記載のダンパ装置(12)。
【請求項11】
前記振動減衰材(30)が、少なくとも10%の減衰比を有する請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のダンパ装置(12)。
【請求項12】
前記第1表面(48)および前記第2表面(54)が円錐形である請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のダンパ装置(12)。
【請求項13】
前記第1表面(48)と前記第2表面(54)とが平行である請求項1から請求項12のいずれか1項に記載のダンパ装置(12)。
【請求項14】
前記振動減衰材(30)が、1mm未満の厚さを有する請求項1から請求項13のいずれか1項に記載のダンパ装置(12)。
【請求項15】
前記振動減衰材(30)が、少なくとも0.35のポアソン比を有する請求項1から請求項14のいずれか1項に記載のダンパ装置(12)。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれか1項に記載のダンパ装置(12)を備える加工工具(10)。
【請求項17】
加工工具(10)用のダンパ装置(12)の組立方法であって、
- 空洞(40)および中心軸(18)を有し、第1表面(48)を有する管状部材(20)を提供することと、
- 前記空洞(40)内に配置され、前記中心軸(18)に対して、かつ、前記管状部材(20)に対して半径方向に移動可能なダンピングマス(32)を提供することと、
- 該ダンピングマス(32)を前記管状部材(20)に対して相対的に支持する少なくとも1つのバネ要素(34,36)であって、前記ダンピングマス(32)および前記少なくとも1つのバネ要素(34,36)が、前記ダンパ装置(12)の運動振動エネルギを減衰させるように配置された少なくとも1つのバネ要素(34,36)を提供することと、
- 前記空洞(40)の内部に配置される固定内装部(50)と、第2表面(54)とを有する少なくとも1つの固定部(26)を提供することと、
- 前記第1表面(48)と前記第2表面(54)との間に、前記ダンパ装置(12)の位置振動エネルギを減衰させるように配置される振動減衰材を提供することと、
- 該振動減衰材(30)が前記第1表面(48)と前記第2表面(54)との間において実質的に均等に圧縮されるように、前記第1表面(48)と前記第2表面(54)とを互いに対して位置決めすることとを含み、
前記第1表面(48)および前記第2表面(54)がテーパ状であり、前記振動減衰材(30)が前記第1表面(48)と前記第2表面(54)との間において実質的に均等に圧縮されるように、前記管状部材(20)および前記少なくとも1つの固定部(26)を前記中心軸(18)に沿って互いに相対的に移動させることをさらに含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、機械加工用のダンパ装置に関する。特に、加工工具用のダンパ装置、そのようなダンパ装置を備える加工工具、加工工具用のダンパ装置の組立方法、その方法に従って組み立てられたダンパ装置、およびそのようなダンパ装置を備える加工工具が提供される。
【背景技術】
【0002】
加工工具は、フライス加工、旋削加工、中ぐり加工、研削加工、穴あけ加工などの様々な機械加工工程において使用される。加工工具は、1つ以上の切刃と、切刃を保持する工具ホルダとを備える。びびりとも呼ばれる加工振動は、機械加工中に自然に発生するもので、ワークと加工工具との間の相対移動に対応する。加工工具は多くの場合、材料除去率を重要な性能指標として使用する。高い材料除去率には、高速、高切り込み、高送りが必要である。この3つのパラメータはすべて、加工工程中に加工工具の振動を増加させる傾向がある。しかし、加工工具の振動は、加工されたワークの表面品質を悪化させ、生産性を制限し、生産コストを増加させる。
【0003】
加工工具の振動を減衰させるために、加工工具は、ダンピングマスを備える同調マスダンパ装置を備えることができる。加工工具の振動周波数に合わせてマスダンパ装置の固有振動周波数を調整することにより、運動振動エネルギがダンピングマスに伝達され、加工工具の動きが安定する。2つの周波数の一致は、通常、ダンピングマスの支持剛性を手動で微調整することによるマスダンパ装置の固有周波数の調製によって得られる。マスダンパ装置の手動調整工程は複雑であり、構造振動解析の知識が必要である。このため、内部に粘性流体を有する調整済みのマスダンパが一般的に使用されている。調整済みのマスダンパを有する加工工具は、通常、直径、張り出し量、工具クランプの剛性によって決定される目標周波数範囲において良好に機能する。
【0004】
国際公開第2018044216号および国際公開第2019168448号はそれぞれ、バネ要素およびダンピングマスを有するマスダンパ装置を備える加工工具を開示している。バネ要素は、周波数依存弾性率を有する材料からなり、自己調整効果を提供する。この自己調整効果により、マスダンパ装置の動作周波数範囲が実質的に拡大する。
【発明の概要】
【0005】
本開示の1つの目的は、加工工具用のダンパ装置を提供することであり、このダンパ装置は改善された性能を有する。
【0006】
本開示の他の目的は、加工工具用のダンパ装置を提供することであり、このダンパ装置は、加工工具の表面仕上げ能力を向上させる。
【0007】
本開示のさらに別の目的は、加工工具用のダンパ装置を提供することであり、このダンパ装置は、改善された振動減衰性能を有する。
【0008】
本開示のさらに別の目的は、加工工具用のダンパ装置を提供することであり、このダンパ装置は、より広い振動周波数範囲にわたって改善された振動減衰性能を有する。
【0009】
本開示のさらに別の目的は、加工工具用のダンパ装置を提供することであり、このダンパ装置は、費用効率が高く、信頼性が高くかつ/または複雑でない設計を有する。
【0010】
本開示のさらに別の目的は、加工工具用のダンパ装置を提供することであり、このダンパ装置は、費用効率が高く、信頼性が高くかつ/または複雑でない組立を可能にする。
【0011】
本開示のさらに別の目的は、加工工具用のダンパ装置を提供することであり、このダンパ装置は高い剛性を有する。
【0012】
本開示のさらに別の目的は、加工工具用のダンパ装置を提供することであり、このダンパ装置は長寿命である。
【0013】
本開示のさらに別の目的は、加工工具用のダンパ装置を提供することであり、このダンパ装置は、前述の目的のいくつかまたは全てを組み合わせて解決する。
【0014】
本開示のさらに別の目的は、ダンパ装置を含む加工工具を提供することであり、この加工工具は、前述の目的の1つ、いくつか、または全てを解決する。
【0015】
本開示のさらに別の目的は、加工工具用のダンパ装置の組立方法を提供することであり、この方法は、前述の目的の1つ、いくつか、または全てを解決する。
【0016】
本開示のさらに別の目的は、加工工具用のダンパ装置の組立方法を提供することであり、この方法は、費用効率が高く、信頼性が高くかつ/または複雑ではない。
【0017】
本開示のさらに別の目的は、加工工具用のダンパ装置の組立方法を提供することであり、この方法は素早く実施することができる。
【0018】
第1の態様によれば、加工工具用のダンパ装置が提供され、このダンパ装置は、空洞および中心軸を有し、第1表面を備える管状部材と、空洞内に配置され、中心軸に対して、かつ管状部材に対して半径方向に移動可能なダンピングマスと、ダンピングマスを管状部材に対して相対的に支持する少なくとも1つのバネ要素であって、ダンピングマスおよび少なくとも1つのバネ要素が、ダンパ装置の運動振動エネルギを減衰させるように配置されたバネ要素と、空洞の内部に配置される固定内装部、および第2表面を有する少なくとも1つの固定部と、第1表面と第2表面との間に設けられた振動減衰材であって、ダンパ装置の位置振動エネルギを減衰させるように配置された振動減衰材とを備え、第1表面および第2表面がテーパ状であり、振動減衰材が、第1表面と第2表面との間で実質的に均等に圧縮され、または均等に圧縮される。
【0019】
ダンパ装置によって支持された切刃に切削力が加えられると、ダンパ装置に振動が励起される。振動波によって運ばれた振動エネルギは、加工工具内部において運動振動エネルギと位置振動エネルギとの間で伝達される。運動振動エネルギと位置振動エネルギとの和は(減衰していなければ)実質的に一定であるため、運動振動エネルギが最も大きいときには、位置振動エネルギは最も小さくなり、その逆も同様である。振動波が振動減衰材に到達すると、振動波は振動減衰材によって減衰され、振動減衰材によって反射され、かつ/または振動減衰材を透過する。振動波がダンピングマスに到達すると、振動波はダンピングマスによって減衰され、反射される。この工程は、振動波が完全に減衰するまで継続する。
【0020】
少なくとも1つのバネ要素によって支持されたダンピングマスは運動振動エネルギを減衰させ、振動減衰材は位置振動エネルギを減衰させる。これにより、ダンパ装置は振動エネルギを順次減衰させる。振動減衰材は、剪断され、さらに圧縮されて、位置振動エネルギを減衰させることができる。
【0021】
さらに、ダンパ装置は加工中に複数の周波数で振動する。ダンパ装置の更なる利点は、振動減衰材がマスダンパ装置の公称範囲外の周波数でも振動を減衰させることである。
【0022】
振動減衰材により、ダンパ装置の振動減衰能力は実質的に改善される。その結果、ダンパ装置の加工性能も実質的に改善される。
【0023】
ダンパ装置は、マスダンパ装置と構造ダンパ装置とを備える。マスダンパ装置は、ダンピングマスと少なくとも1つのバネ要素とを備える。構造ダンパ装置は、振動減衰材を備える。構造ダンパ装置は、第1表面と第2表面とをさらに含んでいてもよい。したがって、構造ダンパ装置は、マスダンパ装置に加えて、追加の振動減衰源を構成する。マスダンパ装置および構造ダンパ装置の各々は、少なくとも1つの固定部の1つ以上に組み付けられてもよい。
【0024】
ダンパ装置の使用前の振動減衰材の圧縮は、振動減衰材の形状を固定する。振動減衰材は第1表面と第2表面との間で圧縮されるので、損傷をもたらす振動減衰材のねじれを回避することができる。振動減衰材は、組立時に、非圧縮状態から中心軸に対して半径方向に少なくとも3%、例えば少なくとも5%、例えば少なくとも10%圧縮されてもよい。
【0025】
振動減衰材は、中心軸に対して対称に分配されていてもよい。例えば、振動減衰材は、第1表面または第2表面のいずれかを取り囲んでいてもよい。振動減衰材の圧縮は、少なくとも1つの固定部が中心軸に対して中央に位置するように補助する。
【0026】
振動減衰材は中心軸に沿って延びていてもよい。例えば、中心軸に沿った振動減衰材の長さは、中心軸に沿ったダンピングマスの長さの少なくとも半分、例えば、中心軸に沿ったダンピングマスの長さよりも大きくてもよい。
【0027】
第1表面および第2表面は、実質的に対応する形状、または対応する形状を有していてもよい。振動減衰材は、第1表面と第2表面との間に層として設けられてもよい。第1表面は、第2表面と接触してもよいし、接触しなくてもよい。
【0028】
固定内装部は、中間嵌めまたは締まり嵌めによって空洞に嵌め込まれてもよい。このようにすると、構造ダンパ装置を導入しても、固定内装部を空洞に挿入したときのモーメントの曲げ面積を維持することができる。これにより、構造ダンパ装置の導入は、ダンパ装置が工具固定具にクランプされたときに、ダンパ装置の静的剛性に最小限の影響を与える。
【0029】
本開示を通じて、ダンパ装置は、工具ホルダまたは工具であってもよい。工具は、工具が1つまたは複数の切刃を備えているのに対し、工具ホルダは備えていないという点で、工具ホルダとは異なっていてもよい。
【0030】
ダンパ装置は、フライス加工、旋削加工、中ぐり加工、研削加工、穴あけ加工などの様々な機械加工に使用することができる。ダンパ装置は、ワークを加工するための1つ以上の切刃を保持または支持するように構成されていてもよい。この場合には、切刃は、ダンパ装置に着脱可能に接続されるか、またはダンパ装置と一体的に形成されてもよい。ダンパ装置は、例えば、切刃を保持する他の工具ホルダを支持する工具ホルダであってもよい。
【0031】
ダンパ装置は、エンドエフェクタを備えていてもよい。マスダンパ装置は、エンドエフェクタと構造ダンパ装置との間に配置されてもよい。エンドエフェクタは、ダンパ装置の前端に設けられる。したがって、ダンパ装置は、前端とは反対側の後端も備える。
【0032】
管状部材および少なくとも1つの固定部は、同じ材料で作られてもよい。適切な材料の例としては、鋼、タングステン合金、炭化タングステンが挙げられる。管状部材は、円筒状の外面および/または円筒状の内面を備えていてもよい。
【0033】
ダンパ装置は、後端部をさらに備えていてもよい。この場合には、少なくとも1つの固定部の各々が、後端部に直接的または間接的に固定される。
本開示を通じて、固定部は、代替的にロック部と呼ばれることがある。
【0034】
ダンピングマスは、1つ以上のバネ要素によって片側または両側において支持されてもよい。ダンピングマスは、例えば、片側において1つのバネ要素のみによって支持され、反対側において1つのバネ要素のみによって支持されてもよい。あるいは、ダンピングマスは、片側において複数のバネ要素によって支持され、反対側において複数のバネ要素によって支持されてもよい。あるいは、ダンピングマスは、片側において1つのバネ要素のみによって、または複数のバネ要素によって支持され、反対側では支持されていなくてもよい。
【0035】
各バネ要素は、振動エネルギを熱に変換するように構成されていてもよい。各バネ要素は弾性要素であってもよい。各バネ要素は、周波数に依存する弾性率を有していてもよい。このようにして、自己調整効果を得ることができる。例えば、バネ要素は、ダンピングマスの共振周波数が、100Hzから1000Hzまでの振動周波数範囲、20Hzから3000Hzまでの振動周波数範囲にわたって、ダンパ装置の振動周波数と実質的に一致する、または一致するような、周波数依存性の弾性率を有していてもよい。このような周波数依存の剛性を有する材料は、少なくとも1つの寸法において100nm以下の構造上の大きさを有していてもよい。
【0036】
このような周波数依存の弾性率を有する材料の代替として、少なくとも1つのバネ要素はゴムまたはエラストマによって作られてもよい。ゴムおよびエラストマは一般的に10%以下の減衰比を有する。
【0037】
第1表面および第2表面は、テーパ形状であ。第1表面と第2表面のテーパ設計により、ダンパ装置は、振動減衰材が圧縮されたときにセルフロック効果を提供する。セルフロック効果とは、振動減衰材が圧縮されることによって第1表面および第2表面に及ぼされる力が、第1表面と第2表面との間の分離を引き起こさないことを意味する。
【0038】
また、第1表面および第2表面のテーパ設計は、振動減衰材の高度な予備圧縮を可能にする。このようにして、振動減衰材の表面積の少なくとも95%、例えば表面積のほぼ100%を、第1表面および第2表面に接触させることができる。これにより、振動減衰材を介して振動波を伝達し、位置振動エネルギを効率的に減衰させるダンパ装置の高い能力を可能にする。さらに、振動減衰材の圧縮と組み合わせたテーパ設計は、振動減衰材と第1表面および/または第2表面との間の隙間を回避し、摩擦抵抗によって振動減衰材がしみ出すことを回避することを可能にする。
【0039】
第1表面および第2表面は、中心軸に対して回転対称であってもよい。例えば、第1表面および第2表面のそれぞれは円錐形であってもよい。可能な代替案として、テーパ形状は、第1表面および第2表面の凸形状または凹形状を含み得る。
【0040】
第1表面が第2表面の外側に設けられる場合には、テーパの前端はテーパの後端よりも小さくてもよい。すなわち、第1表面および第2表面のそれぞれの前端が、第1表面および第2表面のそれぞれの後端よりも小さい面積に及ぶように、テーパ形状が構成されてもよい。逆に、第1表面が第2表面の内側に設けられる場合には、テーパの前端がテーパの後端よりも大きくなるようにしてもよい。第1表面および第2表面のテーパ形状は、ダンパ装置の組み立てを非常に容易にする。
【0041】
第1表面および/または第2表面は、中心軸に対して少なくとも0.2°、例えば少なくとも0.5°、例えば少なくとも1°、あるいは例えば1.5°の平均傾斜を有してもよい。これに代えて、またはこれに加えて、第1表面および第2表面は、中心軸に対して30°未満、例えば10°未満、あるいは例えば5°未満の平均傾斜を有してもよい。
【0042】
少なくとも1つの固定部は、振動減衰材が第1表面と第2表面との間で実質的に均等に圧縮され、または均等に圧縮されるように、管状部材と中心軸に沿った少なくとも1つの固定部との間の相対移動によって組み立てられてもよい。
【0043】
1つ以上の固定部のうちの少なくとも1つは、ダンパ装置を組み立てる際に空洞内に挿入されてもよい。この少なくとも1つの固定部は、管状部材の後端から空洞内に挿入することができる。これに代えて、またはこれに加えて、マスダンパ装置を管状部材の後端から空洞に挿入してもよい。少なくとも1つの固定部およびマスダンパ装置の管状部材への挿入は、管状部材によって保持される切刃の幾何学的精度に実質的に影響しない。少なくとも1つの固定部を空洞内にスライドさせることにより、振動減衰材を歪ませたり、汚したり、損傷させたりすることなく、振動減衰材に均等な予備圧縮が加えられる。ダンパ装置の設計により、振動減衰材の1つまたは複数の表面領域全体に同時にかつ均等に予備圧縮を発生させることができる。
【0044】
管状部材は、振動減衰材を第1表面と第2表面との間で圧縮する前に、単一片として形成されてもよい。これにより、管状部材の剛性が高くなる。その結果、ダンパ装置の幾何学的精度が高くなる。
【0045】
可能な代替案として、管状部材は、2つのハーフに形成されてもよい(例えば、中心軸を含む平面において分離されている。)。この場合には、マスダンパ装置、振動減衰材、および少なくとも1つの固定部の1つ以上は、第1ハーフに半径方向に挿入することができる。その後、管状部材を閉じ、それによって振動減衰材を均等に圧縮するために、第2ハーフを第1ハーフに接続してもよい。この変形例においては、第1表面および第2表面はテーパ形状である必要はない。
【0046】
振動減衰材は、粘弾性材料によって構成されていてもよい。このような粘弾性材料は固相であるが、摩擦や粘着によって容易に変形したり歪んだりする。粘弾性材料は高分子材料であってもよい。これに代えて、あるいはこれに加えて、粘弾性材料は感圧接着材であってもよい。振動減衰材の一例はアクリル樹脂ポリマである。
【0047】
空洞は、円柱状の空洞部分を備えていてもよい。この場合には、ダンピングマスは、円柱状の空洞部分内に配置されてもよい。
さらに、少なくとも1つの固定部の少なくとも一部が、円柱状の空洞部分内に配置されてもよい。
【0048】
空洞は、第1表面を画定するテーパ状の空洞部分を備えていてもよい。あるいは、第1表面は、管状部材のテーパ状の外面であってもよい。
【0049】
少なくとも1つの固定部は、互いに対して固定された少なくとも2つの固定部を備えていてもよい。少なくとも2つの固定部の各々は、ダンパ装置または加工工具の後端に固定されてもよい。
【0050】
固定内装部は、固定円筒部分を備えていてもよい。この場合には、固定円筒部分は、中間嵌めまたは締まり嵌めによって円柱状の空洞部分に嵌め込まれてもよい。しかしながら、固定円筒部分および円柱状の空洞部分は、その間の嵌合を改善するため、かつ/または少なくとも1つの固定部と管状部材との間の整列を改善するために、凹凸を備えていてもよい。例えば、固定円筒部分および円柱状の空洞部分は、凹部および対応する溝を備えていてもよい。これに代えて、またはこれに加えて、固定円筒部分および円柱状の空洞部分は、対応する僅かに楕円形の横断面形状を有していてもよい。
【0051】
少なくとも1つのバネ要素の1つ以上が、固定内装部に接続されていてもよい。したがって、ダンパ装置は、ダンピングマスと固定内装部との間に少なくとも1つのバネ要素を備えていてもよい。
【0052】
第2表面は空洞内に挿入されてもよい。これに代えて、第2表面は、管状部材を取り囲んでもよい。
【0053】
少なくとも1つの固定部は、マンドレルを備えていてもよい。この場合には、マスダンパ装置および構造ダンパ装置の各々は、マンドレル上に組み立てられてもよい。
【0054】
振動減衰材は、少なくとも10%、例えば少なくとも20%あるいは例えば少なくとも30%の減衰比を有していてもよい。ほとんどの金属は、0%から0.1%の減衰比を有する。ゴムは5%から7.5%の減衰比を有する。損失係数は減衰比の2倍と定義することができる。したがって、振動減衰材は、少なくとも20%、例えば少なくとも40%あるいは例えば少なくとも60%の対応する比率を有していてもよい。振動減衰材は、少なくとも1つのバネ要素について説明したような周波数依存の弾性率を有する必要はない。
【0055】
第1表面および第2表面は円錐形であってもよい。これに代えて、またはこれに加えて、第1表面および第2表面は平行であってもよい。
【0056】
振動減衰材は、1mm未満、例えば0.5mm未満、例えば0.2mm未満、あるいは例えば0.1mmの厚さを有していてもよい。
【0057】
振動減衰材は、少なくとも0.35、例えば少なくとも0.4、あるいは例えば少なくとも0.45のポアソン比を有する。振動減衰材は、そのヤング率の1.1倍から16.7倍、例えば3.3倍の体積弾性率を有していてもよい。これに代えて、またはこれに加えて、振動減衰材は、その剪断弾性率の3倍から49.7倍、例えば9.7倍の体積弾性率を有していてもよい。
【0058】
第2の態様によれば、第1の態様に係るダンパ装置を備える加工工具が提供される。加工工具は、ワークを加工するように構成されていてもよい。加工工具は、例えば、フライス工具、旋削工具、中ぐり工具、研削工具または穴あけ工具であってもよい。
【0059】
第3の態様によれば、加工工具用のダンパ装置の組立方法が提供され、この方法は、空洞および中心軸を有し、第1表面を備える管状部材を提供することと、空洞内に配置され、中心軸に対して、かつ管状部材に対して半径方向に移動可能なダンピングマスを提供することと、管状部材に対してダンピングマスを支持し、ダンピングマスおよび少なくとも1つのバネ要素が、ダンパ装置の運動振動エネルギを減衰させるように配置される少なくとも1つのバネ要素を提供することと、空洞の内部に配置される固定内装部と、第2表面とを有する少なくとも1つの固定部を提供することと、第1表面と第2表面との間に、ダンパ装置の位置振動エネルギを減衰させるように配置される振動減衰材を提供することと、振動減衰材が、第1表面と第2表面との間において実質的に均等に圧縮され、または均等に圧縮されるように、第1表面と第2表面とを相対的に位置決めすることとを含む。
【0060】
第1表面および第2表面は、テーパ形状であ、振動減衰材が第1表面と第2表面との間で実質的に均等に圧縮され、または均等に圧縮されるように、管状部材と少なくとも1つの固定部とを中心軸に沿って互いに相対的に移動させることをさらに
【0061】
第4の態様によれば、第3の態様の方法によって組み立てられたダンパ装置が提供される。第4の態様に係るダンパ装置は、第1の態様に係る任意のタイプのものであってもよい。
【0062】
第5の態様によれば、第4の態様に係るダンパ装置を備える加工工具が提供される。第5の態様に係る加工工具は、第2の態様に係る任意のタイプのものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
本開示のさらなる詳細、利点および態様は、図面と併せて行われる以下の説明から明らかになるであろう。
図1】ダンパ装置を備える加工工具を概略的に示す斜視図である。
図2】ダンパ装置の他の例を概略的に示す側面図である。
図3】未組立状態の図2のダンパ装置を概略的に示す縦断面図である。
図4図2および図3のダンパ装置を組み立てた状態を概略的に示す縦断面図である。
図5】ダンパ装置の他の例を概略的に示す側面図である。
図6】未組立状態の図5のダンパ装置を概略的に示す縦断面図である。
図7図5および図6のダンパ装置を組み立てた状態を概略的に示す縦断面図である。
図8】ダンパ装置の他の例を概略的に示す側面図である。
図9】未組立状態の図8のダンパ装置を概略的に示す縦断面図である。
図10図8および図9のダンパ装置を組み立てた状態を概略的に示す縦断面図である。
図11】ダンパ装置の他の例を備える加工工具の他の例を概略的に示す斜視図である。
図12】未組立状態の図11のダンパ装置を概略的に示す縦断面図である。
図13図11および図12のダンパ装置を組み立てた状態を概略的に示す縦断面図である。
図14】ダンパ装置の他の実施例を概略的に示す斜視図である。
図15】未組立状態の図14のダンパ装置を概略的に示す縦断面図である。
図16図15のダンパ装置を組み立てた状態を概略的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、加工工具用のダンパ装置、そのようなダンパ装置を備える加工工具、加工工具用のダンパ装置の組立方法、その方法に従って組み立てられたダンパ装置、およびそのようなダンパ装置を備える加工工具について説明する。同一または類似の参照符号は、同一または類似の構造的特徴を示すために使用される。
【0065】
図1は、ここではフライス工具として例示される加工工具10aを概略的に示す斜視図である。加工工具10aは、工具ホルダ12と、ワーク(図示せず)を加工するための複数の切刃14とを備える。工具ホルダ12は、本開示に係るダンパ装置の一例である。この例における加工工具10aは、4つの切刃14を備える。
【0066】
工具ホルダ12は、ここではフライスヘッドとして例示されるエンドエフェクタ16を備える。エンドエフェクタ16は、工具ホルダ12の前端に設けられている。切刃14は、エンドエフェクタ16に接続されている。図1にはさらに、加工工具10aの中心軸18が示されている。
【0067】
工具ホルダ12は、管状部材20をさらに備える。管状部材20は中心軸18と同心である。この例では、エンドエフェクタ16が管状部材20に接続されている。
【0068】
工具ホルダ12は、後端部22をさらに備える。加工工具10aの操作において、後端部22は、工作機械の回転可能なスピンドル(図示せず)などの工具固定具に固定的にクランプされる。ワークの加工中において、加工工具10aとワークとの間には、中心軸18回りの相対回転などの相対移動がある。したがって、加工工具10aが移動してワークが静止している場合もあれば、その逆の場合もある。
【0069】
図2は、工具ホルダ12aの他の例を概略的に示す側面図である。工具ホルダ12aは、本開示に係るダンパ装置の一例である。工具ホルダ12aは、図1の工具ホルダ12を置き換えることができる。工具ホルダ12aは、管状部材20aを備える。工具ホルダ12aは、エンドエフェクタ16が管状部材20aと一体的に形成されている点において、工具ホルダ12と異なる。図2はさらに、切刃14が接続可能な複数の座24のうちの1つを示している。
【0070】
図3は、未組立状態の図2の工具ホルダ12aを概略的に示す縦断面図である。工具ホルダ12aは、管状部材20aに加えて、固定部26a、マスダンパ装置28および振動減衰材30をさらに備える。管状部材20aおよび固定部26aは、鋼、タングステン合金または炭化タングステンなどの同じ材料で作られていてもよい。
【0071】
この例のマスダンパ装置28は、ダンピングマス32と、ダンピングマス32の両側に設けられたバネ要素34,36とを備える。工具ホルダ12aは、さらに、振動減衰材30を備える構造ダンパ装置38を備える。マスダンパ装置28は、ここでは、エンドエフェクタ16と構造ダンパ装置38との間に設けられている。マスダンパ装置28および振動減衰材30は、ここでは、それぞれ固定部26aに配置されている。
【0072】
管状部材20aは空洞40aを備える。空洞40aは、後端が開口しており、前端がエンドエフェクタ16によって閉じられている。この例の空洞40aは、円柱状の空洞部分42aと、ここでは円錐形状の空洞部分として例示されるテーパ状の空洞部分44aとを備える。円柱状の空洞部分42aとテーパ状の空洞部分44aとは縁部46aにおいて合流している。円柱状の空洞部分42aは、テーパ状の空洞部分44aよりも中心軸18に沿って長い距離、ここでは約20%長く延びている。テーパ状の空洞部分44aの内面は、本開示による第1表面48aの一例を形成する。第1表面48aの直径は、縁部46aの方が後端よりも小さい。
【0073】
この例の管状部材20aは、一定の外径を有する。さらに、管状部材20aは一体に形成されている。一体に形成された管状部材20aを有する工具ホルダ12aは、工具ホルダ12aのクランプ領域、例えば、工具ホルダ12aの後端部22に対して10μm未満の切刃14の振れを可能にする。
【0074】
固定部26aは、ここではマンドレルとして例示されている。固定部26aは、固定内装部50aと、固定テーパ部52aとを備える。この例では、固定内装部50aは円柱状であり、固定テーパ部52aは円錐状である。固定テーパ部52aの外面は、本開示による第2表面54aの一例を形成する。第1表面48aおよび第2表面54aは、対応する円錐形状を有する。この例では、第1表面48aおよび第2表面54aの各々は、中心軸18に対して1.5°傾斜している。固定部26aは、中心軸18に沿ってそれを貫通して延びる中心孔56をさらに備える。
【0075】
図3に示すように、振動減衰材30は、第2表面54a上に薄い均等な厚さの層として設けられている。振動減衰材30は、実質的に第2表面54aの全体、例えばその少なくとも95%、例えば少なくとも99%を覆っている。この具体例では、中心軸18に沿う振動減衰材30の長さは、中心軸18に沿うダンピングマス32の長さよりも長く、ここでは約2倍の長さである。
【0076】
この例の工具ホルダ12aは、フロントロック58をさらに備える。ダンピングマス32は、フロントロック58と固定内装部50aとの間に配置されている。
【0077】
この例の工具ホルダ12aは、前部断熱要素60と後部断熱要素62とをさらに備える。前部断熱要素60および後部断熱要素62は、例えば、ドライ加工のための熱保護を提供する。前部断熱要素60は、フロントロック58と前部バネ要素34との間に配置されている。前部断熱要素60は、フロントロック58の凹部に受容されている。
【0078】
後部断熱要素62は、後部バネ要素36と固定内装部50aとの間に配置されている。後部断熱要素62は、固定内装部50aの凹部に受容されている。このようにして、ダンピングマス32は、後部バネ要素36および後部断熱要素62を介して固定内装部50aに連結されている。前部断熱要素60および後部断熱要素62がそれぞれの凹部に設けられることにより、中心軸18との位置合わせが改善される。
【0079】
前部バネ要素34は、前部断熱要素60およびダンピングマス32のそれぞれに固着されていてもよい。後部バネ要素36は、ダンピングマス32および後部断熱要素62のそれぞれに固着されていてもよい。
【0080】
この例の工具ホルダ12aは、3つのOリング64,66,68をさらに備える。第1Oリング64は、フロントロック58の半径方向外側の溝に受容されている。第2Oリング66は、固定内装部50aの後部領域における半径方向外側の溝に受容されている。第3Oリング68は、固定テーパ部52aの後部領域における半径方向外側の溝に受容されている。
【0081】
この例の工具ホルダ12aは、流体パイプ70をさらに備える。流体パイプ70は、中心孔56と流体的に連通している。流体パイプ70は固定部26aに接続されている。この具体例では、流体パイプ70は、固定内装部50aの前面開口にねじ込まれている。
【0082】
振動減衰材30は、10%以上、例えば30%以上の減衰比を有する。振動減衰材30は、固相のアクリル樹脂からなる。このようなアクリル樹脂は、圧縮荷重を受けると弾性固体として挙動し、せん断荷重や引張荷重を受けると高粘性流体として挙動する。室温(20℃)において、アクリル樹脂は、0.15MPaから60MPaのヤング率E、0.05MPaから20MPaのせん断弾性率G、2.5MPaから1000MPaの体積弾性率K、および/または約0.49のポアソン比νを有していてもよい。
【0083】
体積弾性率Kは、以下のように定義することができる:
【数1】
または
【数2】
【0084】
この例においては、バネ要素34,36もアクリル樹脂製である。したがって、振動減衰材30とバネ要素34,36は同じ材料で作ることができる。
【0085】
図3に示すように、この例の工具ホルダ12aは、当初、第1ユニット72aおよび第2ユニット74aとして提供される。第1ユニット72aは、管状部材20aとエンドエフェクタ16とを備える。第2ユニット74aは、固定部26a、マスダンパ装置28および振動減衰材30を備える。第2ユニット74aはさらに、フロントロック58、Oリング64,66,68、前部断熱要素60、後部断熱要素62、および流体パイプ70を備える。
【0086】
図4は、図2および図3の工具ホルダ12aの組み立てられた状態を概略的に示す縦断面図である。この例の工具ホルダ12aは、マスダンパ装置28および振動減衰材30を備えた固定部26aを空洞40aに挿入することによって組み立てられる。対応するテーパ状の第1表面48aおよび第2表面54aによって、かつ振動減衰材30の圧縮性によって、第1表面48aおよび第2表面54aは、固定部26aが空洞40aに入ると、振動減衰材30がその間に均等に圧縮されるように、互いに対して位置決めされるようになる。振動減衰材30は、例えば、その元の(図3における)厚さから10%圧縮されてもよい。振動減衰材30の圧縮は、固定部26aが中心軸18に対して、例えば、0.01mmの精度で中心合わせされるのを補助する。
【0087】
このように固定部26aを中心軸18に沿って空洞40a内にスライドさせることにより、振動減衰材30を歪ませたり、汚したり、損傷させたりすることなく、振動減衰材30に均等な予備圧縮が加えられる。この具体例では、振動減衰材30は、第1表面48aが第2表面54aと接触しないように、第1表面48aと第2表面54aとの間に設けられている。
【0088】
また、振動減衰材30を圧縮するために固定部26aを動かすと、振動減衰材30がわずかにせん断されることがある。しかし、組立時の振動減衰材30の応力は圧縮が主である。
【0089】
第1表面48aおよび第2表面54aのテーパ設計は、組立時に高い圧縮性を提供する。振動減衰材30の圧縮は、第1表面48aと第2表面54aとが互いに離れないようなセルフロック効果を提供する。
【0090】
固定内装部50aは、円柱状の空洞部分42aに中間嵌めで嵌合される。このようにして、構造ダンパ装置38を導入しても、固定内装部50aが空洞40aに挿入されたときのモーメントの曲げ面積を維持することができる。これにより、構造ダンパ装置38の導入は、工具ホルダ12aが工具固定具にクランプされたときに、工具ホルダ12aの静的剛性に最小限の影響を与える。
【0091】
固定部26が空洞40aに挿入されると、固定部26aに連結されたマスダンパ装置28が、固定部26aの前方の円柱状の空洞部分42aに進入する。固定部26aは、工具ホルダ12aの組立前または組立後のいずれかに、後端部22に固定される。
【0092】
図4に示すように、この例の構造ダンパ装置38も、第1表面48aと第2表面54aとを備えている。ダンピングマス32は、円柱状の空洞部分42a内に配置され、中心軸18に対して半径方向に移動可能であり、管状部材20aに対して相対的に移動可能である。バネ要素34,36は、ダンピングマス32を管状部材20aに対して相対的に支持する。Oリング64,66,68は、空洞40aの密封を提供し、機械加工環境における油および埃からマスダンパ装置28および構造ダンパ装置38を保護する。
【0093】
加工工具10aによる加工中、切削力が切刃14に加わり、加工工具10aの全ての構成部品に振動が発生する。エネルギを運ぶ振動波は、工具ホルダ12a内を往復する。振動エネルギは、運動振動エネルギと位置振動エネルギの間を交互に移動する。工具ホルダ12a内の振動による運動振動エネルギは、バネ要素34,36を介してダンピングマス32に伝達され、そこで減衰および反射される。
【0094】
振動減衰材30はバネとして機能する。振動減衰材30は、工具ホルダ12aの振動周波数に関係なく、位置振動エネルギを減衰させる。したがって、振動減衰材30は、マスダンパ装置28の公称範囲外の周波数でも振動を減衰させることができる。振動減衰材30は、このように振動エネルギを吸収するために、剪断および/またはさらに圧縮されてもよい。振動波の一部はまた、振動減衰材30によって反射され、かつ/または振動減衰材30を介して伝達される。工具ホルダ12aの固有周波数に近い周波数を有する振動波は、より大きく反射される。工具ホルダ12aの固有周波数は、その構造、例えば長さと直径の比によって決定される。
【0095】
マスダンパ装置28および構造ダンパ装置38は、加工動作中の振動を減衰させるために、同時にかつ独立して動作する。このように、構造ダンパ装置38とマスダンパ装置28は、加工振動を効率的に減衰させるために協働する。その結果、加工工具10aが提供する表面仕上げが改善され、寿命が延びる。構造ダンパ装置38の導入は、工具ホルダ12aの剛性、切刃14の振れ、および工具ホルダ12aの質量バランスへの影響を最小限に抑える。
【0096】
振動減衰材30が設けられず、代わりに第1表面48aと第2表面54aとの間が締まり嵌めされる場合、管状部材20aと固定部26aとの間の減衰比は非常に低く、例えば1%未満である。しかし、振動減衰材30により、管状部材20aと固定部26aとの間の減衰比を大幅に高くすることができ、例えば10%以上とすることができる。このようにして、振動減衰材30は、位置振動エネルギをより効率的に減衰させることができる。
【0097】
この例では、管状部材20aは25mmの外径を有し、振動減衰材30は0.1mmの厚さを有する。これにより、工具ホルダ12aは、第1表面48aと第2表面54aとの間に締まり嵌めを有する対応する工具ホルダと比較して、0.1%の減少した静的剛性しか有さない。しかしながら、振動減衰材30により、工具ホルダ12aの動的剛性は、そのような対応する工具ホルダと比較して100%増加する。大幅に増大した動的剛性により、工具ホルダ12aは、ダンピングマス32によってより効率的に振動を減衰させることができる。
【0098】
図5は、工具ホルダ12bの他の例を概略的に示す側面図である。工具ホルダ12bは、本開示に係るダンパ装置の他の例である。主に、工具ホルダ12aに関する相違点について説明する。工具ホルダ12bは、管状部材20bを備える。
【0099】
図6は、未組立状態における図5の工具ホルダ12bを概略的に示す縦断面図である。図6に示すように、管状部材20bは管状部材20aと同一である。管状部材20bは、空洞40bと、円柱状の空洞部分42bと、第1表面48bを画定するテーパ状の空洞部分44bと、円柱状の空洞部分42bとテーパ状の空洞部分44bとの間の縁部46bとを備える。
【0100】
固定部26aの代わりに、工具ホルダ12bは、第1固定部26b1と第2固定部26b2とを備える。第1固定部26b1は、第2固定部26b2の前部において第2固定部26b2に接続されている。第1固定部26b1と第2固定部26b2の前部とは、固定内装部50bを形成する。固定内装部50bは、固定内装部50aと同じ大きさおよび機能を有する。
【0101】
第2固定部26b2は、第2表面54bを有する固定テーパ部52bを備える。固定テーパ部52bおよび第2表面54bは、それぞれ、固定テーパ部52aおよび第2表面54aと同じ設計である。
【0102】
図7は、図5および図6の工具ホルダ12bの組み立てられた状態を概略的に示す縦断面図である。図4と同様に、工具ホルダ12bは、第1表面48bと第2表面54bとの間で振動減衰材30を圧縮するために、第2ユニット74bを第1ユニット72bに挿入することによって組み立てられる。
【0103】
図8は、工具ホルダ12cの他の例を概略的に示す側面図である。工具ホルダ12cは、本開示に係るダンパ装置の他の例である。主に、工具ホルダ12aに関する相違点について説明する。工具ホルダ12cは、管状部材20cを備える。
【0104】
図9は、未組立状態の図8の工具ホルダ12cを概略的に示す縦断面図である。管状部材20cは、円柱状の空洞部分42cのみを有する空洞40cからなる。管状部材20cは、その後端にテーパ状の第1表面48cを備える。第1表面48cは、管状部材20cの外面である。第1表面48cは、円錐形であり、その後端部よりもその前端部の方が大きな直径を有する。
【0105】
工具ホルダ12cは、第1固定部26c1と第2固定部26c02とをさらに備える。第1固定部26c1と第2固定部26c2とは、互いに直接連結されていない。しかしながら、第1固定部26c1および第2固定部26c2は、工具ホルダ12cが組み立てられるとき、例えば後端部22への固定によって互いに対して固定される。第2固定部26c2は、第1固定部26c1の後方部分を取り囲んでいる。
【0106】
第1固定部26c1は、全体が円筒状である(第2Oリング66および第3Oリング68用の溝を除く)。第1固定部26c1は、断面円形の固定内装部50cを備える。
【0107】
第2固定部26c2は、概ね円筒状である。第2固定部26c2は、テーパ状の第2表面54cを画定する固定テーパ部52cを備える。第2表面54cは、後端部よりも前端部の内径が大きい。振動減衰材30は、第2表面54cに設けられる。
【0108】
図10は、図8および図9の工具ホルダ12cの組み立てられた状態を概略的に示す縦断面図である。工具ホルダ12cは、第2ユニット74cの第1固定部26c1と第2固定部26c2とを互いに固定し(例えば、後端部22に接続することにより)、第1ユニット72cを中心軸18に沿って後方に移動させて第1固定部26c1と第2固定部26c2との間の空間に入れることにより組み立てることができる。工具ホルダ12a,12bと同様に、中心軸18に沿った第1表面48cと第2表面54cとの間の相対移動は、その間の振動減衰材30の均等な圧縮を引き起こす。しかしながら、工具ホルダ12cでは、第2表面54cが管状部材20cを取り囲む。
【0109】
図11は、工具12dを備える加工工具10bの他の例を概略的に示す斜視図である。工具12dは、本開示に係るダンパ装置の他の例である。この例の工具12dは、管状部材20dと、管状部材20dと一体的に形成されたエンドエフェクタ16とを備える。エンドエフェクタ16は、複数の切刃14、ここでは、6個のヘリカル切刃14を備える。
【0110】
図12は、未組立状態の図11の工具12dを概略的に示す縦断面図である。エンドエフェクタ16を除いて、管状部材20dは管状部材20aと同一である。管状部材20dは、空洞40dと、円柱状の空洞部分42dと、第1表面48dを画定するテーパ状の空洞部分44dと、円柱状の空洞部分42dとテーパ状の空洞部分44dとの間の縁部46dとを備える。
【0111】
工具ホルダ12bと同様に、工具12dは、第1固定部26d1および第2固定部26d2を備える。第1固定部26d1は、第2固定部26d2の前部において第2固定部26d2に連結されている。第1固定部26d1および第2固定部26d2の前部は、固定内装部50dを形成する。固定内装部50dは、固定内装部50bと同じ大きさおよび機能を有する。
【0112】
第2固定部26d2は、第2表面54dを有する固定テーパ部52dを備える。固定テーパ部52dおよび第2表面54dは、それぞれ、固定テーパ部52bおよび第2表面54bと同じ設計である。
【0113】
図13は、図11および図12の工具12dの組み立てられた状態を概略的に示す縦断面図である。図7の工具ホルダ12bと同様に、工具12dは、第2ユニット74dを第1ユニット72dに挿入して、第1表面48dと第2表面54dとの間で振動減衰材30を圧縮することによって組み立てられる。
【0114】
図14は、工具ホルダ12eの他の例を概略的に示す斜視図である。工具ホルダ12eは、本開示に係るダンパ装置の他の例である。この例の工具ホルダ12eは、管状部材20eと、カッタヘッド(図示せず)を取り付けるための取付インタフェース76とを備える。この具体例の取付インタフェース76は、ねじ山を備え、管状部材20eと一体的に形成されている。
【0115】
図15は、未組立状態の図14の工具ホルダ12eを概略的に示す縦断面図である。取付インタフェース76を除いて、管状部材20eは管状部材20aと同一である。管状部材20eは、空洞40eと、円柱状の空洞部分42eと、第1表面48eを画定するテーパ状の空洞部分44eと、円柱状の空洞部分42eとテーパ状の空洞部分44eとの間の縁部46eとを備える。
【0116】
工具ホルダ12bと同様に、工具ホルダ12eは、第1固定部26e1と第2固定部26e2とを備える。第1固定部26e1は、第2固定部26e2の前部において第2固定部26e2に接続されている。第1固定部26e1と第2固定部26e2の前部とは、固定内装部50eを形成している。固定内装部50eは、固定内装部50bと同じ大きさおよび機能を有する。
【0117】
第2固定部26e2は、第2表面54eを有する固定テーパ部52eを備える。固定テーパ部52eおよび第2表面54eは、それぞれ、固定テーパ部52bおよび第2表面54bと同じ設計である。
【0118】
図16は、図15の工具ホルダi2eの組み立てられた状態を概略的に示す縦断面図である。図7と同様に、工具ホルダ12eは、第1表面48eと第2表面54eとの間で振動減衰材30を圧縮するために、第2ユニット74eを第1ユニット72eに挿入することによって組み立てられる。
【0119】
加工工具10a,10bの一方または両方を、参照符号「10」によって代替的に参照することができる。工具ホルダ12,12aから12c,12e、ならびに工具12dのうちの1つ、いくつか、または全てを、参照符号「12」によって代替的に参照することができる。管状部材20aから20eの1つ、いくつか、または全ては、参照符号「20」によって代替的に参照することができる。固定部26aから26eのうちの1つ、いくつか、または全てを、参照符号「26」によって代替的に参照することができる。空洞40aから40eの1つ、いくつか、または全てを、参照符号「40」によって代替的に参照することができる。円柱状の空洞部分42aから42eの1つ、いくつか、または全てを、参照符号「42」によって代替的に参照することができる。テーパ状の空洞部分44a,44b,44d,44eのうちの1つ、いくつか、または全てを、参照符号「44」によって代替的に参照することができる。第1表面48aから48eのうちの1つ、いくつか、または全てを、参照符号「48」によって代替的に参照することができる。固定内装部50aから50eの1つ、いくつか、または全ては、参照符号「50」によって代替的に参照することができる。第2表面54aから54eのうちの1つ、いくつか、または全ては、参照符号「54」によって代替的に参照することができる。
【0120】
本開示は、例示的な実施形態を参照して説明されてきたが、本発明は、上記に説明されたものに限定されないことが理解されるであろう。例えば、部品の寸法は必要に応じて変化し得ることが理解されよう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることが意図される。
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