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特許7534563アルミニウム合金材の製造方法及びクラッド材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】アルミニウム合金材の製造方法及びクラッド材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/02 20060101AFI20240806BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20240806BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20240806BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20240806BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C22C1/02 503J
C22C21/00 J
C22C21/00 E
C22C21/00 D
B22D11/00 E
B23K35/22 310E
B23K35/28 310B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024018610
(22)【出願日】2024-02-09
【審査請求日】2024-02-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 樹
(72)【発明者】
【氏名】鶴野 招弘
(72)【発明者】
【氏名】松門 克浩
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-116058(JP,A)
【文献】国際公開第2023/171576(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103122428(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102392202(CN,A)
【文献】特開2002-066786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
C22C 1/02
C22F 1/04
B22D 11/00
B23K 35/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造原料Aと鋳造原料Bとを用いて、アルミニウム合金材を製造するアルミニウム合金材の製造方法であって、
クラッド材が用いられている自動車用熱交換器のスクラップ、及び自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップの少なくとも一方から、Mg含有量が0.05質量%以下であるアルミニウム合金スクラップ材のみを選択して前記鋳造原料Aとする選択工程と、
前記鋳造原料Aと、添加用の前記鋳造原料Bと、を用いて鋳塊を鋳造する鋳造工程と、
前記鋳塊を成形して、固相線温度が600℃以上であるアルミニウム合金材を成型する成型工程と、を有し、
前記鋳塊の全質量に対する前記鋳造原料Aの質量割合を表すリサイクル率をR(%)、前記鋳造原料A中のSi含有量を質量%で[Si]、と表す場合に、
前記選択工程と、前記鋳造工程との間に、
式(1):[Si]×R/100
により算出される値が0.50以上1.10以下、
となるように、リサイクル率Rを決定するリサイクル率決定工程を有し、
前記鋳造工程は、前記鋳塊の全質量に対してR(%)の前記鋳造原料Aと、前記鋳塊の全質量に対して(100-R)(%)の前記鋳造原料Bと、を用いて前記鋳塊を鋳造する工程であり、
前記鋳造原料Aは、前記鋳造原料Aの全質量に対して、
Si:0.50質量%以上、及び、
Zn:0.10質量%以上、を含有するとともに、
Fe:0.10質量%以上、Cu:0.08質量%以上、及びMn:0.50質量%以上、から選択される少なくとも1種の元素を含有し、
前記アルミニウム合金材は、
Si:0.50質量%以上1.10質量%以下、
Fe:0.10質量%以上1.00質量%以下、
Cu:0.08質量%以上0.80質量%以下、
Mn:0.90質量%以上1.80質量%以下、及び
Zn:0.10質量%以上1.00質量%以下、を含有し、
Mg:0.05質量%以下、
Ti:0.30質量%以下、
Cr:0.30質量%以下、
Zr:0.30質量%以下、
V:0.30質量%以下、であり、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とする、アルミニウム合金材の製造方法。
【請求項2】
前記リサイクル率Rは、20%以上50%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項3】
前記鋳造原料Bは、Siを含まないことを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項4】
前記鋳造原料Bは、Znを含まないことを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項5】
前記鋳造原料Aは、Zn:1.00質量%以下、を含有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたアルミニウム合金材を含むクラッド材の製造方法であって、
前記アルミニウム合金材を心材用アルミニウム合金材として使用し、
前記心材用アルミニウム合金材と、少なくとも1種以上の機能性アルミニウム合金材とを積層して、クラッド材を製造することを特徴とする、クラッド材の製造方法。
【請求項7】
前記機能性アルミニウム合金材は、ろう材用アルミニウム合金材及び犠牲陽極材用アルミニウム合金材の少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項6に記載のクラッド材の製造方法。
【請求項8】
前記ろう材用アルミニウム合金材は、
Si:2.50質量%以上13.00質量%以下、及び
Fe:0.05質量%以上1.00質量%以下、を含有し、
Zn:5.50質量%以下、
Mn:1.00質量%以下、
Cu:1.00質量%以下、
Cr:0.30質量%以下、
Ti:0.30質量%以下、
Zr:0.30質量%以下、
V:0.30質量%以下、
Sr:0.10質量%以下、
Na:0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とする、請求項7に記載のクラッド材の製造方法。
【請求項9】
前記犠牲陽極材用アルミニウム合金材は、
Zn:0.50質量%以上6.00質量%以下、
Si:0.05質量%以上1.50質量%以下、及び
Fe:0.05質量%以上2.00質量%以下、を含有し、
Mg:3.00質量%以下、
Mn:1.80質量%以下、
Cu:0.50質量%以下、
Cr:0.30質量%以下、
Ti:0.30質量%以下、
Zr:0.30質量%以下、
V:0.30質量%以下であり、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とする、請求項7に記載のクラッド材の製造方法。
【請求項10】
前記クラッド材は、前記ろう材用アルミニウム合金材/前記心材用アルミニウム合金材/前記ろう材用アルミニウム合金材又は前記犠牲陽極材用アルミニウム合金材の順に積層された構造を有することを特徴とする、請求項7に記載のクラッド材の製造方法。
【請求項11】
前記クラッド材は、前記心材用アルミニウム合金材と前記機能性アルミニウム合金材との間に、中間層を含み、
前記中間層は、
Si:0.05質量%以上1.50質量%以下、及び
Fe:0.05質量%以上2.00質量%以下、を含有し、
Zn:6.00質量%以下、
Mn:1.80質量%以下、
Cu:1.00質量%以下、
Cr:0.30質量%以下、
Ti:0.30質量%以下、
Zr:0.30質量%以下、
V:0.30質量%以下であり、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とする、請求項6に記載のクラッド材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金材の製造方法、及び該アルミニウム合金材を用いたクラッド材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、社会全体として、カーボンニュートラルの達成が課題になっており、上記課題を解決するための種々の方法が検討されている。例えば、資源枯渇の観点から、様々なもののリサイクルが進み、多量に消費されている金属のリサイクルが以前から行われている。そして、自動車用の熱交換器に使用されるアルミニウム合金材の分野においても、資源の再活用が要求されている。特に、アルミニウムは、新地金製造時に多量の電力を消費し、COを排出する。したがって、リサイクルにより新地金使用量を削減することで、アルミニウム合金材の製造時のCO排出量を大幅に削減することができる。
【0003】
しかし、自動車用熱交換器は、アルミニウム合金からなる心材の表面に耐食性を付与する犠牲陽極材や、ろう付性を付与するろう材が積層されたクラッド材からなるため、クラッド材をリサイクルして心材を製造すると、心材の特性が低下することがある。このため、熱交換器に使用されるクラッド材を再活用することは、単層のアルミニウム合金材のリサイクルと比較して困難となる。
【0004】
特許文献1には、クラッド材が用いられている自動車用熱交換器のスクラップ及び/又は自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップを所定の含有量で含有する鋳造原料を用いたアルミニウム合金材の製造方法が開示されている。上記特許文献1に記載の製造方法は、上記鋳造原料を用いて、所定の組成を有するアルミニウム合金鋳塊Aを鋳造する鋳造工程を有し、得られるアルミニウム合金部Aの自然電極電位が規定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第7275336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載のアルミニウム合金材の製造方法を使用した場合であっても、ろう付性が十分に優れているとはいえない。また、上記特許文献1には、Si、Fe、Cu、Mn、Mg及びZnからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を所定量で含むアルミニウム合金からなるスクラップを含有する鋳造原料を用いることが記載されている。しかし、上記特許文献1においては、スクラップ中の必須元素が規定されていないとともに、実施例において、鋳造原料の組成が記載されていないため、効果を十分に確認することができない。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、クラッド材の製造工程中に生じた屑や廃棄されたアルミニウム製熱交換器を、新たな熱交換器用材料の原料として使用して、優れたろう付性を有するクラッド材用のアルミニウム合金材を容易に製造することができるとともに、優れたろう付性を有するクラッド材を容易に製造することができ、これにより、新地金使用量を削減して、CO排出量を大幅に削減することができる、アルミニウム合金材の製造方法及びクラッド材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、本発明に係る下記(1)のアルミニウム合金材の製造方法により達成される。
【0009】
(1) 鋳造原料Aと鋳造原料Bとを用いて、アルミニウム合金材を製造するアルミニウム合金材の製造方法であって、
クラッド材が用いられている自動車用熱交換器のスクラップ、及び自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップの少なくとも一方から、Mg含有量が0.05質量%以下であるアルミニウム合金スクラップ材のみを選択して前記鋳造原料Aとする選択工程と、
前記鋳造原料Aと、添加用の前記鋳造原料Bと、を用いて鋳塊を鋳造する鋳造工程と、
前記鋳塊を成形して、固相線温度が600℃以上であるアルミニウム合金材を成型する成型工程と、を有し、
前記鋳塊の全質量に対する前記鋳造原料Aの質量割合を表すリサイクル率をR(%)、前記鋳造原料A中のSi含有量を質量%で[Si]、と表す場合に、
前記選択工程と、前記鋳造工程との間に、
式(1):[Si]×R/100
により算出される値が0.50以上1.10以下、
となるように、リサイクル率Rを決定するリサイクル率決定工程を有し、
前記鋳造工程は、前記鋳塊の全質量に対してR(%)の前記鋳造原料Aと、前記鋳塊の全質量に対して(100-R)(%)の前記鋳造原料Bと、を用いて前記鋳塊を鋳造する工程であり、
前記鋳造原料Aは、前記鋳造原料Aの全質量に対して、
Si:0.50質量%以上、及び、
Zn:0.10質量%以上、を含有するとともに、
Fe:0.10質量%以上、Cu:0.08質量%以上、及びMn:0.50質量%以上、から選択される少なくとも1種の元素を含有し、
前記アルミニウム合金材は、
Si:0.50質量%以上1.10質量%以下、
Fe:0.10質量%以上1.00質量%以下、
Cu:0.08質量%以上0.80質量%以下、
Mn:0.90質量%以上1.80質量%以下、及び
Zn:0.10質量%以上1.00質量%以下、を含有し、
Mg:0.05質量%以下、
Ti:0.30質量%以下、
Cr:0.30質量%以下、
Zr:0.30質量%以下、
V:0.30質量%以下、であり、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とする、アルミニウム合金材の製造方法。
【0010】
また、本発明のアルミニウム合金材の製造方法は、下記(2)~(5)であることが好ましい。
【0011】
(2) 前記リサイクル率Rは、20%以上50%以下であることを特徴とする、(1)に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【0012】
(3) 前記鋳造原料Bは、Siを含まないことを特徴とする、(1)又は(2)に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【0013】
(4) 前記鋳造原料Bは、Znを含まないことを特徴とする、(1)~(3)のいずれか1つに記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【0014】
(5) 前記鋳造原料Aは、Zn:1.00質量%以下、を含有することを特徴とする、(1)~(4)のいずれか1つに記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【0015】
また、上記の目的は、本発明に係る下記(6)のクラッド材の製造方法により達成される。
【0016】
(6) (1)~(5)のいずれか1つに記載の製造方法により製造されたアルミニウム合金材を含むクラッド材の製造方法であって、
前記アルミニウム合金材を心材用アルミニウム合金材として使用し、
前記心材用アルミニウム合金材と、少なくとも1種以上の機能性アルミニウム合金材とを積層して、クラッド材を製造することを特徴とする、クラッド材の製造方法。
【0017】
また、本発明のクラッド材の製造方法は、下記(7)~(11)であることが好ましい。
【0018】
(7) 前記機能性アルミニウム合金材は、ろう材用アルミニウム合金材及び犠牲陽極材用アルミニウム合金材の少なくとも1種を含むことを特徴とする、(6)に記載のクラッド材の製造方法。
【0019】
(8) 前記ろう材用アルミニウム合金材は、
Si:2.50質量%以上13.00質量%以下、及び
Fe:0.05質量%以上1.00質量%以下、を含有し、
Zn:5.50質量%以下、
Mn:1.00質量%以下、
Cu:1.00質量%以下、
Cr:0.30質量%以下、
Ti:0.30質量%以下、
Zr:0.30質量%以下、
V:0.30質量%以下、
Sr:0.10質量%以下、
Na:0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とする、(7)に記載のクラッド材の製造方法。
【0020】
(9) 前記犠牲陽極材用アルミニウム合金材は、
Zn:0.50質量%以上6.00質量%以下、
Si:0.05質量%以上1.50質量%以下、及び
Fe:0.05質量%以上2.00質量%以下、を含有し、
Mg:3.00質量%以下、
Mn:1.80質量%以下、
Cu:0.50質量%以下、
Cr:0.30質量%以下、
Ti:0.30質量%以下、
Zr:0.30質量%以下、
V:0.30質量%以下であり、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とする、(7)又は(8)に記載のクラッド材の製造方法。
【0021】
(10) 前記クラッド材は、前記ろう材用アルミニウム合金材/前記心材用アルミニウム合金材/前記ろう材用アルミニウム合金材又は前記犠牲陽極材用アルミニウム合金材の順に積層された構造を有することを特徴とする、(7)~(9)のいずれか1つに記載のクラッド材の製造方法。
【0022】
(11) 前記クラッド材は、前記心材用アルミニウム合金材と前記機能性アルミニウム合金材との間に、中間層を含み、
前記中間層は、
Si:0.05質量%以上1.50質量%以下、及び
Fe:0.05質量%以上2.00質量%以下、を含有し、
Zn:6.00質量%以下、
Mn:1.80質量%以下、
Cu:1.00質量%以下、
Cr:0.30質量%以下、
Ti:0.30質量%以下、
Zr:0.30質量%以下、
V:0.30質量%以下であり、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とする、(6)~(10)のいずれか1つに記載のクラッド材の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るアルミニウム合金材の製造方法によれば、自動車用熱交換器のスクラップや、自動車用熱交換器用アルミニウム合金クラッド材のスクラップを再活用して、優れたろう付性を有するクラッド材用のアルミニウム合金材を製造することができ、これにより、新地金使用量を削減して、CO排出量を大幅に削減することができる。
【0024】
また、本発明に係るクラッド材の製造方法によれば、上記優れた特性を有するアルミニウム合金材を心材用アルミニウム合金材として使用するため、ろう付性が優れたクラッド材を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願発明者らが鋭意検討を行った結果、スクラップを用いて製造されるアルミニウム合金材の固相線温度を制御することが、優れたろう付性を得るために重要であることを見出した。そして、ろう付中のフラックスの活性度の低下によるろう付性の低下を避けるために、Mg含有量が0.1質量%以下であるスクラップ材のみを選択して鋳造原料Aとしたうえで、鋳造原料A中のSi含有量に基づきリサイクル率を決定し、所望の組成のアルミニウム合金材を製造することが効果的であることを見出した。
以下、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金材の製造方法について、詳細に説明する。
【0026】
[アルミニウム合金材の製造方法]
本実施形態に係るアルミニウム合金材の製造方法は、鋳造原料Aと鋳造原料Bとを用いて、アルミニウム合金材を製造する方法である。
【0027】
<選択工程>
クラッド材が用いられている自動車用熱交換器のスクラップ、及び自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップの少なくとも一方から、Mg含有量が0.1質量%以下であるアルミニウム合金スクラップ材を選択して、鋳造原料Aとする。Mgは、ろう付中にフラックスと反応することで、フラックスの活性度を低下させる元素であるため、Mg含有量が0.1質量%以下であるアルミニウム合金スクラップ材のみを選択して鋳造原料Aとすることにより、スクラップ材を再活用した場合であっても、ろう付性に優れるアルミニウム合金材を容易に製造することができる。
【0028】
なお、本明細書において、「クラッド材が用いられている自動車用熱交換器のスクラップ」とは、クラッド材が用いられている自動車用熱交換器そのものを廃棄する際に生まれるスクラップを表す。また、「自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップ」とは、アルミニウム合金クラッド材を製造する際に生まれるスクラップおよび自動車用熱交換器を製造する際に生まれるクラッド材のスクラップの両方を表す。本明細書では、これらを単に「スクラップ」ということがある。
【0029】
Mg含有量が0.1質量%を超えるアルミニウム合金スクラップ材を選択してアルミニウム合金材を製造しようとすると、所望のMg含有量を含有するアルミニウム合金材を得るためには、鋳造原料Bの使用量を増加させる必要がある。その結果、新地金使用量の削減を実現することができず、CO排出量が増大する。したがって、選択工程においては、アルミニウム合金スクラップ材(鋳造原料A)の全質量に対するMg含有量が0.1質量%以下であるアルミニウム合金スクラップ材を選択するものとする。また、Mg含有量が0.05質量%以下であるアルミニウム合金スクラップ材を選択することが好ましく、Mgを実質的に含有しないアルミニウム合金スクラップ材を選択することがより好ましい。なお、Mgを実質的に含有しないとは、一般的に自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材の原料の地金に含まれる不可避不純物レベルでMgを含有することを含む。
【0030】
<リサイクル率決定工程>
本実施形態においては、後述する鋳造工程において、リサイクル率に基づき、鋳造原料Aと添加用の鋳造原料Bとを用いて鋳塊を鋳造する。このため、本工程においては、鋳造原料A中のSi含有量に基づき、リサイクル率を決定する。具体的には、鋳造工程により得られる鋳塊の全質量に対する、鋳造原料Aの質量割合を表すリサイクル率をR(%)、鋳造原料A中のSi含有量を質量%で[Si]、と表す場合に、下記式(1)により算出される値が0.50以上1.10以下となるように、リサイクル率Rを決定する。なお、下記式(1)により算出される値は、後の鋳造工程において使用される添加用の鋳造原料BにSiが含有されていない場合の、アルミニウム合金材中のSi含有量である
【0031】
式(1):[Si]×R
【0032】
鋳造原料A中のSi含有量に基づいて、目的とするSi含有量となるようにリサイクル率を決定することにより、鋳造工程において、Siを含まない鋳造原料Bを使用しても、アルミニウム合金材中のSi含有量を所望の範囲に調整することができる。
【0033】
<鋳造工程>
リサイクル率決定工程の後、鋳造原料Aと、添加用の鋳造原料Bと、を用いて鋳塊を鋳造する。具体的には、得られる鋳塊の全質量に対してR(%)の鋳造原料Aと、鋳塊の全質量に対して(100-R)(%)の鋳造原料Bと、を用いて鋳塊を鋳造する。
【0034】
<成型工程>
上記鋳造工程において鋳造された鋳塊を成型して、固相線温度が600℃以上であるアルミニウム合金材を成型する。成型されるアルミニウム合金材の固相線温度が600℃未満であると、最終製品のろう付時にアルミニウム合金材が溶融するため、ろう付性が低下する。したがって、本実施形態においては、得られるアルミニウム合金材の固相線温度が以下の範囲となるように、アルミニウム合金材の組成を制御する。
【0035】
(固相線温度:600℃以上)
上記本実施形態に係る製造方法により製造されるアルミニウム合金材の固相線温度が、600℃未満であると、ろう付時にアルミニウム合金材が溶融し、ろう付性が低下する。また、固相線温度が高いと、炉温を高く設定することができ、ろう材中のSi含有量を低減することができる。したがって、アルミニウム合金材の固相線温度は、600℃以上とし、605℃以上であることが好ましく、610℃以上であることがより好ましい。なお、リサイクル性の観点では、固相線温度の目標値を低く設定すると、各成分の制御が容易になるため好ましい。
【0036】
以下、使用する鋳造原料A及び製造されるアルミニウム合金材の化学成分及びその含有量の限定理由について、詳細に説明する。まず、鋳造原料A中の化学成分について、説明する。
【0037】
<鋳造原料A>
(Si:0.50質量%以上)
Siは、母相に固溶することやMnとともにAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成することによって、アルミニウム合金材の強度を向上させる元素である。上述のとおり、本実施形態においては、スクラップ(鋳造原料A)のSi含有量に基づいて、リサイクル率を決定するが、これは、スクラップ中に、一般的にろう材成分であるSiが多量に含まれるからである。鋳造原料A中のSiの含有量が0.50質量%未満であると、リサイクル率にかかわらずアルミニウム合金材中のSi含有量が減少し、アルミニウム合金材の強度を向上させる効果を十分に得ることができない。したがって、鋳造原料A中のSi含有量は、鋳造原料Aの全質量に対して0.50質量%以上とし、0.60質量%以上とすることが好ましく、0.70質量%以上とすることがより好ましい。
【0038】
(Zn:0.10質量%以上)
スクラップ中には、一般的に犠牲陽極材由来の成分であるZnが含まれ、スクラップ中の平均Zn含有量は0.25~0.80質量%程度である。このため、鋳造原料A中のZn含有量の下限値は、鋳造原料A中に犠牲陽極材の成分として含まれるZnの下限値に基づき、決定する。鋳造原料A中のZn含有量が0.10質量%以上であると、リサイクル率にかかわらず、一般的な自動車用熱交換器用クラッド材を使用することができる。したがって、鋳造原料A中のZn含有量は、鋳造原料Aの全質量に対して0.10質量%以上とし0.12質量%以上とすることが好ましく、0.15質量%以上とすることがより好ましい。
【0039】
一方、鋳造原料A中のZn含有量が多くなりすぎると、アルミニウム合金材中のZn含有量も増加し、リサイクル率によっては、固相線温度に影響を与える。具体的に、鋳造原料A中のZn含有量が1.00質量%以下であると、リサイクル率にかかわらず固相線温度の低下を抑制することができる。したがって、鋳造原料A中のZn含有量は、鋳造原料Aの全質量に対して1.00質量%以下とすることが好ましく、0.70質量%以下とすることがより好ましく、0.50質量%以下とすることがさらに好ましく、0.30質量%以下とすることが特に好ましい。
【0040】
本実施形態において使用される鋳造原料Aは、上記Si及びZnの他に、Fe、Cu及びMnから選択される少なくとも1種の元素を、以下に示す範囲で含有する。
【0041】
(Fe:0.10質量%以上)
Feは、再結晶核となり得るサイズの金属間化合物を形成しやすい元素である。スクラップの使用、不使用にかかわらず、一般的に使用されるアルミニウム合金材にはFeが含まれるため、スクラップ中のFe含有量の下限値は、特に限定するものではない。ただし、鋳造原料A中のFe含有量を0.10質量%以上とすれば、Fe含有量が極めて少ない鋳造原料Bを使用する必要がなく、所望のFe含有量を有するアルミニウム合金材を得ることができる。したがって、Feを含む鋳造原料Aを使用する場合は、鋳造原料Aの全質量に対するFe含有量が、0.10質量%以上であるスクラップ(鋳造原料A)を使用することが好ましい。
【0042】
(Cu:0.08質量%以上)
スクラップには一般的にCuが含まれ、スクラップ中の平均Cu含有量は0.10~0.60質量%程度である。そのため、スクラップ中のCu含有量の下限値は、特に限定するものではないが、Cuを含む鋳造原料Aを使用する場合は、鋳造原料Aの全質量に対するCu含有量が、0.08質量%以上であるスクラップ(鋳造原料A)を使用することが好ましい。また、鋳造原料A中のCu含有量が0.10質量%以上であるスクラップを使用することがより好ましく、0.20質量%以上であるスクラップを使用することがさらに好ましく、0.30質量%以上であるスクラップを使用することが特に好ましい。
【0043】
(Mn:0.50質量%以上)
Mnは、SiとともにAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成することによる分散強化、及びアルミニウム母相中に固溶することによる固溶強化により、アルミニウム合金材の強度を向上させる元素である。本実施形態においては、アルミニウム合金材の強度を向上させることを目的として、鋳造原料B中にMnを含有させてもよい。このため、スクラップ中のMn含有量の下限値は、特に限定するものではないが、Mnを含む鋳造原料Aを使用する場合は、鋳造原料Aの全質量に対するMn含有量が、0.50質量%以上であるスクラップ(鋳造原料A)を使用することが好ましい。また、鋳造原料A中のMn含有量が0.90質量%以上であるスクラップを使用することがより好ましく、1.00質量%以上であるスクラップを使用することがさらに好ましい。
【0044】
次に、本発明の実施形態に係る製造方法により製造されるアルミニウム合金材の化学成分及びその含有量の限定理由、並びに好ましいリサイクル率について説明する。
【0045】
<アルミニウム合金材>
(Si:0.50質量%以上1.10質量%以下)
上述のとおり、Siは、母相に固溶することやMnとともにAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成することによって、アルミニウム合金材の強度を向上させる元素である。本実施形態においては、アルミニウム合金材中のSi含有量が所定の範囲となるように、鋳造原料A中のSi含有量に基づいてリサイクル率を決定している。したがって、鋳造原料BによってSi含有量を調整することなく、所望のSi含有量を有するアルミニウム合金材を得ることができる。
【0046】
アルミニウム合金材中のSi含有量が0.50質量%未満であると、アルミニウム合金材の強度を向上させる効果を十分に得ることができない。したがって、アルミニウム合金材中のSi含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して0.50質量%以上とし、0.60質量%以上とすることが好ましく、0.65質量%以上とすることがより好ましい。一方、アルミニウム合金材中のSi含有量が1.10質量%を超えると、アルミニウム合金材の固相線温度が低下し、ろう付時に溶融が生じる。したがって、アルミニウム合金材中のSi含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して1.10質量%以下とし、1.05質量%以下とすることが好ましく、1.00質量%以下とすることがより好ましい。
【0047】
(Fe:0.10質量%以上1.00質量%以下)
Feは、再結晶核となり得るサイズの金属間化合物を形成しやすい元素である。鋳造原料A中には、一般的にFeが含まれているため、アルミニウム合金材中のFe含有量を0.10質量%未満とするためには、高純度のアルミニウム地金(鋳造原料B)を使用する必要があり、製造コストが高くなる。したがって、アルミニウム合金材中のFe含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して0.10質量%以上とし、0.12質量%以上とすることが好ましく、0.15質量%以上とすることがより好ましい。一方、アルミニウム合金材中のFe含有量が1.00質量%を超えると、ろう付後の結晶粒径が微細となり、ろう材拡散が生じることにより、耐エロージョン性が低下する。したがって、アルミニウム合金材中のFe含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して1.00質量%以下とし、0.80質量%以下とすることが好ましく、0.60質量%以下とすることがより好ましい。
【0048】
(Cu:0.08質量%以上0.80質量%以下)
スクラップ中には、一般的にCuが含まれる。そのため、アルミニウム合金材中のCu含有量を0.08質量%未満とするためには、高純度のアルミニウム地金(鋳造原料B)を使用する必要があり、製造コストが高くなる。また、アルミニウム合金材中のCu含有量が0.08質量%未満であると、アルミニウム合金材の耐食性が低下する。したがって、アルミニウム合金材中のCu含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して0.08質量%以上とし、0.10質量%以上とすることが好ましく、0.20質量%以上とすることがより好ましく、0.30質量%以上とすることがさらに好ましい。一方、アルミニウム合金材中のCu含有量が0.80質量%を超えると、固相線温度が低下し、ろう付時に溶融が生じる。したがって、アルミニウム合金材中のCu含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して0.80質量%以下とし、0.70質量%以下とすることが好ましく、0.65質量%以下とすることがより好ましい。
【0049】
(Mn:0.90質量%以上1.80質量%以下)
Mnは、アルミニウム合金材の強度を向上させる効果を有する元素である。アルミニウム合金材中のMn含有量が0.90質量%未満であると、強度を向上させる効果を十分に得ることができない。また、アルミニウム合金材中のMn含有量が0.90質量%未満であると、固相線温度も上昇し、ろう付性が悪くなる。したがって、アルミニウム合金材中のMn含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して0.90質量%以上とし、1.00質量%以上とすることが好ましく、1.05質量%以上とすることがより好ましい。一方、アルミニウム合金材中のMn含有量が1.80質量%を超えると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。したがって、アルミニウム合金材中のMn含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して1.80質量%以下とし、1.70質量%以下とすることが好ましく、1.65質量%以下とすることがより好ましい。
【0050】
(Zn:0.10質量%以上1.00質量%以下)
スクラップ中には、一般的に、犠牲陽極材由来の成分であるZnが含まれる。このため、アルミニウム合金材中のZn含有量を0.10質量%未満とするためには、高純度のアルミニウム地金(鋳造原料B)を使用する必要があり、製造コストが高くなる。したがって、アルミニウム合金材中のZn含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して0.10質量%以上とし、0.12質量%以上とすることが好ましく、0.15質量%以上とすることがより好ましい。一方、アルミニウム合金材中のZn含有量が1.00質量%を超えると、固相線温度が低下する。したがって、アルミニウム合金材中のZn含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して1.00質量%以下とし、0.50質量%以下とすることが好ましく、0.30質量%以下とすることがより好ましい。
【0051】
(Mg:0.10質量%以下)
Mgは、ろう付時にフラックスと反応し、ろう付性を低下させる元素であるため、アルミニウム合金材中のMg含有量は少ない方が好ましい。本実施形態においては、上述のとおり、Mg含有量が0.1質量%以下であるアルミニウム合金スクラップ材を選択して鋳造原料Aとしているため、鋳造原料B中にもMgを含まないことが好ましい。アルミニウム合金材中のMg含有量が0.10質量%を超えると、ろう付性が低下する。したがって、アルミニウム合金材中のMg含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して0.10質量%以下とし、0.05質量%以下とすることが好ましく、0質量%とすることがより好ましい。
【0052】
(Cr:0.30質量%以下)
Crは、固溶強化によりアルミニウム合金材の強度を向上させ、また、Al-Cr系の金属間化合物を析出させて、ろう付後の結晶粒粗大化に作用する元素である。そのため、アルミニウム合金材は、必要に応じてCrを含有していてもよいが、0質量%であってもよい。本実施形態において、アルミニウム合金材中のCr含有量の下限は特に限定しないが、アルミニウム合金材中のCr含有量が0.05質量%以上であると、アルミニウム合金材の強度を向上させる効果を得ることができる。したがって、アルミニウム合金材中のCr含有量は、アルミニウム合金材全質量に対して0.05質量%以上とすることが好ましく、0.10質量%以上とすることがより好ましい。一方、アルミニウム合金材中のCr含有量が0.30質量%を超えると、巨大金属間化合物が形成されやすくなり、塑性加工性が低下することがある。したがって、アルミニウム合金材中のCr含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して0.30質量%以下とし、0.25質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましい。
【0053】
(Ti:0.30質量%以下)
Tiは、固溶強化によりアルミニウム合金材の強度を向上させる効果を有する元素である。そのため、アルミニウム合金材は、必要に応じてTiを含有していてもよいが、0質量%であってもよい。本実施形態において、アルミニウム合金材中のTi含有量の下限は特に限定しないが、アルミニウム合金材中のTi含有量が0.05質量%以上であると、アルミニウム合金材の強度を向上させる効果を得ることができる。したがって、アルミニウム合金材中のTi含有量は、アルミニウム合金材全質量に対して0.05質量%以上とすることが好ましく、0.10質量%以上とすることがより好ましい。一方、アルミニウム合金材中のTi含有量が0.30質量%を超えると、巨大金属間化合物が形成されやすくなり、塑性加工性が低下することがある。したがって、アルミニウム合金材中のTi含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して0.30質量%以下とし、0.25質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましい。
【0054】
(Zr:0.30質量%以下)
Zrは、固溶強化によりアルミニウム合金材の強度を向上させ、また、Al-Zr系の金属間化合物を析出させて、ろう付後の結晶粒粗大化に作用する元素である。そのため、アルミニウム合金材は、必要に応じてZrを含有していてもよいが、0質量%であってもよい。本実施形態において、アルミニウム合金材中のZr含有量の下限は特に限定しないが、アルミニウム合金材中のZr含有量が0.05質量%以上であると、アルミニウム合金材の強度を向上させる効果を得ることができる。したがって、アルミニウム合金材中のZr含有量は、アルミニウム合金材全質量に対して0.05質量%以上とすることが好ましく、0.10質量%以上とすることがより好ましい。一方、アルミニウム合金材中のZr含有量が0.30質量%を超えると、巨大金属間化合物が形成されやすくなり、塑性加工性が低下することがある。したがって、アルミニウム合金材中のZr含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して0.30質量%以下とし、0.25質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましい。
【0055】
(V:0.30質量%以下)
Vは、固溶強化によりアルミニウム合金材の強度を向上させる効果を有する元素である。そのため、アルミニウム合金材は、必要に応じてVを含有していてもよいが、0質量%であってもよい。本実施形態において、アルミニウム合金材中のV含有量の下限は特に限定しないが、アルミニウム合金材中のV含有量が0.05質量%以上であると、アルミニウム合金材の強度を向上させる効果を得ることができる。したがって、アルミニウム合金材中のV含有量は、アルミニウム合金材全質量に対して0.05質量%以上とすることが好ましく、0.10質量%以上とすることがより好ましい。一方、アルミニウム合金材中のV含有量が0.30質量%を超えると、巨大金属間化合物が形成されやすくなり、塑性加工性が低下することがある。したがって、アルミニウム合金材中のV含有量は、アルミニウム合金材の全質量に対して0.30質量%以下とし、0.25質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましい。
【0056】
(残部:Al及び不可避的不純物)
本実施形態において製造されるアルミニウム合金材の残部は、Al及び不可避的不純物である。不可避的不純物としては、例えば、Na、Sr、Ca等が挙げられる。なお、アルミニウム合金材の不可避的不純物の合計量は、アルミニウム合金材全質量に対して、0.05質量%以下とすることが好ましい。
【0057】
(リサイクル率R:20%以上50%以下)
上述のとおり、本実施形態においては、鋳造原料A中のSi含有量に基づいて、目的とするSi含有量となるようにリサイクル率を決定する。リサイクル率Rは、製造されるアルミニウム合金材の全質量に対する鋳造原料Aの質量を百分率で表した値である。リサイクル率Rを20%以上とすることにより、新地金の使用に由来するCO排出量を削減する効果を十分に得ることができる。したがって、リサイクル率Rは、20%以上とすることが好ましく、25%以上とすることがより好ましく、30%以上とすることがさらに好ましい。また、リサイクル率Rを50%以下とすることにより、アルミニウム合金材中のSi含有量を適切な範囲に制御することができる。したがって、リサイクル率Rは、50%以下とすることが好ましく、45%以下とすることがより好ましく、40%以下とすることがさらに好ましい。
【0058】
さらに、鋳造原料Bについて簡単に説明する。鋳造原料Bは、製造されるアルミニウム合金材の各元素を目的とする含有量に近づけるために添加する原料であるため、鋳造原料Bに含まれる元素及びその含有量については、特に限定するものではない。ただし、本実施形態においては、アルミニウム合金材中のSi含有量が所定の範囲となるように、鋳造原料A中のSi含有量に基づいてリサイクル率を決定している。したがって、鋳造原料Bは、Siを含まないことが好ましい。また、Znは、本発明の課題である固相線温度を低下させる元素である。このため、Znについても、鋳造原料Aのみを供給源とすることが好ましく、すなわち、鋳造原料Bは、Znを含まないことが好ましい。
【0059】
次に、本発明の実施形態に係るクラッド材の製造方法について、詳細に説明する。
【0060】
[クラッド材の製造方法]
本実施形態に係るクラッド材の製造方法は、上記本実施形態に係るアルミニウム合金材の製造方法により製造されたアルミニウム合金材を含むクラッド材を製造する方法である。具体的には、上記アルミニウム合金材を心材用アルミニウム合金材として使用し、上記心材用アルミニウム合金材と、少なくとも1種以上の機能性アルミニウム合金材とを積層することにより、クラッド材を製造することができる。
【0061】
上記機能性アルミニウム合金材は、ろう材用アルミニウム合金材及び犠牲陽極材用アルミニウム合金材の少なくとも1種を含むものである。また、クラッド材は、ろう材用アルミニウム合金材/心材用アルミニウム合金材/ろう材用アルミニウム合金材又は犠牲陽極材用アルミニウム合金材の順に積層された構造を有することが好ましい。さらに、クラッド材は、心材用アルミニウム合金材と機能性アルミニウム合金材との間に、中間層を含んでいてもよい。
【0062】
ろう材用アルミニウム合金材、犠牲陽極材用アルミニウム合金材及び中間層中の化学成分の含有量、並びにその数値限定理由について、以下に説明する。
【0063】
<ろう材用アルミニウム合金材>
(Si:2.50質量%以上13.00質量%以下)
ろう材用アルミニウム合金材中のSiは、ろう付加熱温度での液相率を向上させて、溶融ろうの量を確保する効果を発揮する。ろう材用アルミニウム合金材中のSi含有量が2.50質量%以上であれば、溶融ろうの量を十分に確保でき、溶融ろうの流動性を適正に保つことができるため、優れたろう付性を得ることができる。したがって、ろう材用アルミニウム合金材中のSi含有量は、ろう材用アルミニウム合金材全質量に対して2.50質量%以上とすることが好ましく、3.00質量%以上とすることがより好ましく、3.50質量%以上とすることがさらに好ましい。また、ろう材用アルミニウム合金材中のSi含有量が13.00質量%以下であると、溶融ろうの流動性が高くなり過ぎることが防止でき、溶融ろうによるエロージョンの発生を抑制することができる。したがって、ろう材用アルミニウム合金材中のSi含有量は、ろう材用アルミニウム合金材全質量に対して13.00質量%以下とすることが好ましく、12.50質量%以下とすることがより好ましく、12.00質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0064】
(Fe:0.05質量%以上1.00質量%以下)
ろう材用アルミニウム合金材中のFeは、Al-Fe系やAl-Fe-Si系の化合物を形成しやすく、Al-Fe-Si系化合物の形成によりろう材の有効Si量を低下させる。また、Al-Fe系やAl-Fe-Si系の化合物の形成により、ろう付時におけるろうの流動性を低下させ、ろう付性を阻害するおそれがある。一般的に使用されるアルミニウム合金材には、Feが含まれているため、ろう材用アルミニウム合金材中のFe含有量を0.05質量%以上とすれば、ろう材用アルミニウム合金材を製造するための原料として、高純度の地金を使用する必要がない。したがって、ろう材用アルミニウム合金材中のFe含有量は、ろう材用アルミニウム合金材全質量に対して0.05質量%以上とすることが好ましく、0.10質量%以上とすることがより好ましく、0.12質量%以上とすることがさらに好ましい。一方、ろう材用アルミニウム合金材中のFe含有量が1.00質量%以下であると、良好なろう付性を得ることができる。したがって、ろう材用アルミニウム合金材中のFe含有量は、ろう材用アルミニウム合金材全質量に対して1.00質量%以下とすることが好ましく、0.80質量%以下とすることがより好ましく、0.60質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0065】
(Zn:5.50質量%以下)
Znは、アルミニウム合金の電位を卑化させる合金元素である。このため、ろう材用アルミニウム合金材がZnを含有することにより、犠牲陽極材として作用して犠牲防食の効果を得ることができるが、本実施形態においては、ろう材用アルミニウム合金材中のZn含有量は0質量%であってもよい。また、ろう材用アルミニウム合金材中のZn含有量が5.50質量%以下であると、加工性の低下を防止し、冷間圧延で割れが発生することを抑制することができる。したがって、ろう材用アルミニウム合金材中のZn含有量は、ろう材用アルミニウム合金材全質量に対して5.50質量%以下とすることが好ましく、5.00質量%以下とすることがより好ましく、4.50質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0066】
(Mn:1.00質量%以下)
ろう材用アルミニウム合金材中のMnは、溶融ろうの粘性を向上させ、溶融ろうの流動を抑制する効果を有するが、本実施形態においては、ろう材用アルミニウム合金材中のMn含有量は0質量%であってもよい。また、ろう材用アルミニウム合金材中のMn含有量が1.00質量%以下であると、溶融ろう中に比重の大きいAl-Mn(-Fe-Si)系化合物が生成することを抑制でき、溶融ろうの量を適正に保つことができる。したがって、ろう材用アルミニウム合金材中のMn含有量は、ろう材用アルミニウム合金材全質量に対して1.00質量%以下とすることが好ましく、0.95質量%以下とすることがより好ましく、0.90質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0067】
(Cu:1.00質量%以下)
ろう材用アルミニウム合金材中のCuは、ろう付加熱を施した場合に形成される領域の耐食性を向上させる効果を有するが、本実施形態においては、ろう材用アルミニウム合金材中のCu含有量は0質量%であってもよい。また、ろう材用アルミニウム合金材中のCu含有量が1.00質量%以下であると、ろう付加熱時に中間材に拡散することが抑制され、ろう付加熱を施した場合の耐食性の低下を防止することができる。したがって、ろう材用アルミニウム合金材中のCu含有量は、ろう材用アルミニウム合金材全質量に対して1.00質量%以下とすることが好ましく、0.95質量%以下とすることがより好ましく、0.90質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0068】
(Cr:0.30質量%以下)
ろう材用アルミニウム合金材中のCrは、固溶強化により強度を向上させ、また、Al-Cr系の金属間化合物を析出させてろう付後の結晶粒粗大化に作用するが、本実施形態においては、ろう材用アルミニウム合金材中のCr含有量は0質量%であってもよい。また、ろう材用アルミニウム合金材中のCr含有量が0.30質量%以下であると、巨大金属間化合物の形成を抑制することができ、良好な塑性加工性を得ることができる。したがって、ろう材用アルミニウム合金材中のCr含有量は、ろう材用アルミニウム合金材全質量に対して0.30質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましく、0.10質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0069】
(Ti:0.30質量%以下)
ろう材用アルミニウム合金材中のTiは、溶融ろうの粘性を向上させ、溶融ろうの流動を抑制する効果を有するが、本実施形態においては、ろう材用アルミニウム合金材中のTi含有量は0質量%であってもよい。また、ろう材用アルミニウム合金材中のTi含有量が0.30質量%以下であると、溶融ろう中に比重の大きいAl-Ti系化合物が生成することを抑制でき、鉛直方向下側に流れる溶融ろうが過多になることを防止することができる。したがって、ろう材用アルミニウム合金材中のTi含有量は、ろう材用アルミニウム合金材全質量に対して0.30質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましく、0.10質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0070】
(Zr:0.30質量%以下)
ろう材用アルミニウム合金材中のZrは、固溶強化により強度を向上させ、また、Al-Zr系の金属間化合物を析出させて、ろう付後の結晶粒粗大化に作用するが、本実施形態においては、ろう材用アルミニウム合金材中のZr含有量は0質量%であってもよい。また、ろう材用アルミニウム合金材中のZr含有量が0.30質量%以下であると、巨大金属間化合物の形成を抑制することができ、塑性加工性の低下を防止することができる。したがって、ろう材用アルミニウム合金材中のZr含有量は、ろう材用アルミニウム合金材全質量に対して0.30質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましく、0.10質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0071】
(V:0.30質量%以下)
ろう材用アルミニウム合金材中のVは、固溶強化により強度を向上させる効果を有する元素であるが、本実施形態においては、ろう材用アルミニウム合金材中のV含有量は0質量%であってもよい。また、ろう材用アルミニウム合金材中のV含有量が0.30質量%以下であると、巨大金属間化合物の形成を抑制することができ、塑性加工性の低下を防止することができる。したがって、ろう材用アルミニウム合金材中のV含有量は、ろう材用アルミニウム合金材全質量に対して0.30質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましく、0.10質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0072】
(Sr:0.10質量%以下)
ろう材用アルミニウム合金材中のSrは、Si粒子を微細化してろう付性を向上させる効果を有する元素であるが、本実施形態においては、ろう材用アルミニウム合金材中のSr含有量は0質量%であってもよい。また、ろう材用アルミニウム合金材中のSr含有量が0.10質量%以下であると、Srの鋳造中の酸化を防止することができる。したがって、ろう材用アルミニウム合金材中のSr含有量は、ろう材用アルミニウム合金材全質量に対して0.10質量%以下とすることが好ましく、0.05質量%以下とすることがより好ましく、0.02質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0073】
(Na:0.10質量%以下)
ろう材用アルミニウム合金材中のNaは、Si粒子を微細化してろう付性を向上させる効果を有する元素であるが、本実施形態においては、ろう材用アルミニウム合金材中のNa含有量は0質量%であってもよい。また、ろう材用アルミニウム合金材中のNa含有量が0.10質量%以下であると、Naの鋳造中の酸化を防止することができる。したがって、ろう材用アルミニウム合金材中のNa含有量は、ろう材用アルミニウム合金材全質量に対して0.10質量%以下とすることが好ましく、0.05質量%以下とすることがより好ましく、0.02質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0074】
(残部:Al及び不可避的不純物)
クラッド材におけるろう材用アルミニウム合金材の残部は、Al及び不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、Ca、Be、Sb、希土類元素、Li等が挙げられる。詳細には、Ca:0.05質量%以下、Be:0.01質量%以下、その他の元素:0.01質量%未満の範囲で含有されていてもよい。また、ろう材用アルミニウム合金材中の不可避的不純物の合計量は、ろう材用アルミニウム合金材全質量に対して0.05質量%以下であることが好ましい。
【0075】
<犠牲陽極材用アルミニウム合金材>
(Zn:0.50質量%以上6.00質量%以下)
犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のZnは、母材の電位を卑にし、心材用アルミニウム合金材及び中間層に対して犠牲防食効果を高めることで、孔食や隙間腐食を防止する効果を有する元素である。犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のZn含有量が0.50質量%以上であれば、十分な犠牲防食効果を得ることができる。したがって、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のZn含有量は、犠牲陽極材用アルミニウム合金材全質量に対して0.50質量%以上とすることが好ましく、0.60質量%以上とすることがより好ましく、0.70質量%以上とすることがさらに好ましい。また、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のZn含有量が6.00質量%以下であると、犠牲陽極材の自己腐食性が増加し過ぎることを防止することができ、クラッド材の耐食性の低下を抑制できる。したがって、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のZn含有量は、犠牲陽極材用アルミニウム合金材全質量に対して6.00質量%以下とすることが好ましく、5.70質量%以下とすることがより好ましく、5.50質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0076】
(Si:0.05質量%以上1.50質量%以下)
犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のSiは、犠牲陽極材用アルミニウム合金材の強度を向上させる効果を有する元素である。犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のSi含有量が0.05質量%以上であれば、強度を向上させる効果を得ることができる。したがって、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のSi含有量は、犠牲陽極材用アルミニウム合金材全質量に対して0.05質量%以上とすることが好ましく、0.10質量%以上とすることがより好ましく、0.15質量%以上とすることがさらに好ましい。また、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のSi含有量が1.50質量%以下であると、固相線温度の低下を抑制でき、ろう付時における溶融を防止することができる。したがって、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のSi含有量は、犠牲陽極材用アルミニウム合金材全質量に対して1.50質量%以下とすることが好ましく、1.45質量%以下とすることがより好ましく、1.40質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0077】
(Fe:0.05質量%以上2.00質量%以下)を含有し、
犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のFeは、Si、MnとともにAl-Fe-Mn-Si系の化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる効果を有する元素である。犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のFe含有量が0.05質量%以上であれば、強度を向上させる効果を得ることができる。したがって、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のFe含有量は、犠牲陽極材用アルミニウム合金材全質量に対して0.05質量%以上とすることが好ましく、0.10質量%以上とすることがより好ましく、0.12質量%以上とすることがさらに好ましい。また、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のFe含有量が2.00質量%以下であると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成されることを防止することができ、塑性加工性の低下を抑制することができる。したがって、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のFe含有量は、犠牲陽極材用アルミニウム合金材全質量に対して2.00質量%以下とすることが好ましく、1.80質量%以下とすることがより好ましく、1.60質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0078】
(Mg:3.00質量%以下)
犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のMgは、MgSiを析出させることにより、犠牲陽極材用アルミニウム合金材自身の強度を向上させるだけでなく、ろう付加熱することにより心材へMgが拡散して心材の強度も向上させる効果を有する元素である。ただし、本実施形態においては、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のMg含有量は、0質量%であってもよい。また、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のMg含有量が3.00質量%以下であると、熱間クラッド圧延時に容易に圧着させることができる。したがって、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のMg含有量は、犠牲陽極材用アルミニウム合金材全質量に対して3.00質量%以下とすることが好ましく、2.80質量%以下とすることがより好ましく、2.60質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0079】
(Mn:1.80質量%以下)
犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のMnは、母材に固溶することや、SiとともにAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成することによって、ろう付後の強度を向上させる効果を有する元素である。ただし、本実施形態においては、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のMn含有量は、0質量%であってもよい。また、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のMn含有量が1.80質量%以下であると、ろう付時における犠牲陽極材用アルミニウム合金材側の面の溶融ろうの流動性が高まり、ろう付性を向上させることができる。したがって、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のMn含有量は、犠牲陽極材用アルミニウム合金材全質量に対して1.80質量%以下とすることが好ましく、1.60質量%以下とすることがより好ましく、1.40質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0080】
(Cu:0.50質量%以下)
犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のCu含有量が0.50質量%以下であると、犠牲陽極材の孔食電位が貴化することを防止し、犠牲防食の効果を十分に得ることができる。したがって、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のCu含有量は、犠牲陽極材用アルミニウム合金材全質量に対して0.50質量%以下とすることが好ましく、0.40質量%以下とすることがより好ましく、0.30質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0081】
(Cr:0.30質量%以下)
犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のCrは、固溶強化により強度を向上させる効果を有する元素であるが、本実施形態においては、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のCr含有量は、0質量%であってもよい。また、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のCr含有量が0.30質量%以下であると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成されることを防止することができ、塑性加工性の低下を抑制することができる。したがって、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のCr含有量は、犠牲陽極材用アルミニウム合金材全質量に対して0.30質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましく、0.10質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0082】
(Ti:0.30質量%以下)
犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のTiは、固溶強化により強度を向上させる効果を有する元素であるが、本実施形態においては、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のTi含有量は、0質量%であってもよい。また、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のTi含有量が0.30質量%以下であると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成されることを防止することができ、塑性加工性の低下を抑制することができる。したがって、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のTi含有量は、犠牲陽極材用アルミニウム合金材全質量に対して0.30質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましく、0.10質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0083】
(Zr:0.30質量%以下)
犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のZrは、固溶強化により強度を向上させる効果を有する元素であるが、本実施形態においては、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のZr含有量は、0質量%であってもよい。また、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のZr含有量が0.30質量%以下であると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成されることを防止することができ、塑性加工性の低下を抑制することができる。したがって、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のZr含有量は、犠牲陽極材用アルミニウム合金材全質量に対して0.30質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましく、0.10質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0084】
(V:0.30質量%以下)
犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のVは、固溶強化により強度を向上させる効果を有する元素であるが、本実施形態においては、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のV含有量は、0質量%であってもよい。また、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のV含有量が0.30質量%以下であると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成されることを防止することができ、塑性加工性の低下を抑制することができる。したがって、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中のV含有量は、犠牲陽極材用アルミニウム合金材全質量に対して0.30質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましく、0.10質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0085】
(残部:Al及び不可避的不純物)
クラッド材における犠牲陽極材用アルミニウム合金材の残部は、Al及び不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、Ca、Be、Sb、希土類元素、Li等が挙げられる。詳細には、Ca:0.05質量%以下、Be:0.01質量%以下、その他の元素:0.01質量%未満の範囲で含有されていてもよい。また、犠牲陽極材用アルミニウム合金材中の不可避的不純物の合計量は、犠牲陽極材用アルミニウム合金材全質量に対して0.05質量%以下であることが好ましい。
【0086】
<中間層>
(Si:0.05質量%以上1.50質量%以下)
中間層中のSiは、母材に固溶することや、MnとともにAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成することによって、ろう付後の強度を向上させる効果を有する元素である。中間層中のSi含有量が0.05質量%以上であると、強度向上の効果を十分に得ることができる。したがって、中間層中のSi含有量は、中間層全質量に対して0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上とすることがさらに好ましい。また、中間層中のSi含有量が1.50質量%以下であると、固相線温度の低下を抑制することができ、ろう付時における溶融を防止することができる。したがって、中間層中のSi含有量は、中間層全質量に対して1.50質量%以下であることが好ましく、1.40質量%以下であることがより好ましく、1.30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0087】
(Fe:0.05質量%以上2.00質量%以下)、を含有し、
中間層中のFeは、Si、MnとともにAl-Fe-Mn-Si系の化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる効果を有する元素である。中間層中のFe含有量が0.05質量%以上であると、強度向上の効果を十分に得ることができる。したがって、中間層中のFe含有量は、中間層全質量に対して0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましく、0.12質量%以上とすることがさらに好ましい。また、中間層中のFe含有量が2.00質量%以下であると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成されることを防止することができ、塑性加工性の低下を抑制することができる。したがって、中間層中のFe含有量は、中間層全質量に対して2.00質量%以下であることが好ましく、1.80質量%以下であることがより好ましく、1.60質量%以下であることがさらに好ましい。
【0088】
(Zn:6.00質量%以下)
中間層中のZnは、中間層の電位を卑化させて、耐食性を向上させる効果を有する元素であるが、本実施形態においては、中間層中のZn含有量は、0質量%であってもよい。また、中間層中のZn含有量が6.00質量%以下であると、中間層の固相線温度が低下することを抑制でき、ろう付時に中間層が溶融することを防止することができる。したがって、中間層中のZn含有量は、中間層全質量に対して6.00質量%以下であることが好ましく、5.80質量%以下であることがより好ましく、5.60質量%以下であることがさらに好ましい。
【0089】
(Mn:1.80質量%以下)
中間層中のMnは、母材に固溶することや、SiとともにAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成することによって、ろう付後の強度を向上させる効果を有する元素である。ただし、本実施形態においては、中間層中のMn含有量は、0質量%であってもよい。また、中間層中のMn含有量が1.80質量%以下であると、粗大な金属間化合物が析出することを防止でき、圧延性の低下を抑制することができる。したがって、中間層中のMn含有量は、中間層全質量に対して1.80質量%以下であることが好ましく、1.70質量%以下であることがより好ましく、1.60質量%以下であることがさらに好ましい。
【0090】
(Cu:1.00質量%以下)
中間層中のCuは、ろう付後に母材に固溶し、ろう付後の強度を向上させる効果を有する元素である。ただし、本実施形態においては、中間層中のCu含有量は、0質量%であってもよい。また、中間層中のCu含有量が1.00質量%以下であると、固相線温度の低下を抑制し、ろう付時に中間層が溶融することを防止することができる。したがって、中間層中のCu含有量は、中間層全質量に対して1.00質量%以下であることが好ましく、0.90質量%以下であることがより好ましく、0.80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0091】
(Cr:0.30質量%以下)
中間層中のCrは、固溶強化により強度を向上させる効果を有する元素であるが、本実施形態においては、中間層中のCr含有量は、0質量%であってもよい。また、中間層中のCr含有量が0.30質量%以下であると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成されることを防止することができ、塑性加工性の低下を抑制することができる。したがって、中間層中のCr含有量は、中間層全質量に対して0.30質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましく、0.10質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0092】
(Ti:0.30質量%以下)
中間層中のTiは、固溶強化により強度を向上させる効果を有する元素であるが、本実施形態においては、中間層中のTi含有量は、0質量%であってもよい。また、中間層中のTi含有量が0.30質量%以下であると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成されることを防止することができ、塑性加工性の低下を抑制することができる。したがって、中間層中のTi含有量は、中間層全質量に対して0.30質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましく、0.10質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0093】
(Zr:0.30質量%以下)
中間層中のZrは、固溶強化により強度を向上させる効果を有する元素であるが、本実施形態においては、中間層中のZr含有量は、0質量%であってもよい。また、中間層中のZr含有量が0.30質量%以下であると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成されることを防止することができ、塑性加工性の低下を抑制することができる。したがって、中間層中のZr含有量は、中間層全質量に対して0.30質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましく、0.10質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0094】
(V:0.30質量%以下)
中間層中のVは、固溶強化により強度を向上させる効果を有する元素であるが、本実施形態においては、中間層中のV含有量は、0質量%であってもよい。また、中間層中のV含有量が0.30質量%以下であると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成されることを防止することができ、塑性加工性の低下を抑制することができる。したがって、中間層中のV含有量は、中間層全質量に対して0.30質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがより好ましく、0.10質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0095】
(残部:Al及び不可避的不純物)
クラッド材における中間層の残部は、Al及び不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、Ca、Be、Sb、希土類元素、Li等が挙げられる。詳細には、Ca:0.05質量%以下、Be:0.01質量%以下、その他の元素:0.01質量%未満の範囲で含有されていてもよい。また、中間層中の不可避的不純物の合計量は、中間層全質量に対して0.05質量%以下であることが好ましい。
【実施例
【0096】
以下に実施例を挙げて本実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0097】
<アルミニウム合金材の製造>
下記表1に示す種々の化学組成を有するスクラップ(鋳造原料A)と、下記表2に示す種々の化学組成を有する添加用の鋳造原料Bを使用したものと仮定して、種々の化学組成を有するアルミニウム合金材を製造した。アルミニウム合金材の各成分の含有量と、リサイクル率を表3に示す。
【0098】
<クラッド材の作製>
種々の組成を有する鋳塊を鋳造した後、均質化処理を施し、各面を面削し、さらに熱間圧延により所望の板厚として、下記表4に示す組成を有する機能性アルミニウム合金材(ろう材用アルミニウム合金材及び犠牲陽極材用アルミニウム合金材)を作製した。その後、表3に示すアルミニウム合金材の一部を心材として、一方の面のみ、又は一方の面と他方の面との両方に、機能性アルミニウム合金材を積層し、熱間圧延した後、再度加熱、熱間圧延を施した。その後さらに、O及びH24調質の場合は、冷間圧延、最終焼鈍を施して、所定の最終板厚の試験材(No.T1~T5及びT21)を作製した。また、H14調質の場合は、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延を施して、所定の最終板厚の試験材(No.T6~T7、T9)を作製した。H34調質の場合は、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延、安定化処理を施して、所定の最終板厚の試験材(No.T8)を作製した。評価に供したアルミニウム合金材のNo.、クラッド材を作製したものについては、使用した機能性アルミニウム合金材のNo.及びクラッド率、調質の種類、クラッド材の最終板厚を下記表5に示す。
【0099】
なお、表1~表4における各成分の含有量の欄において、「-」とは、その元素が含有されていないか、又は含有量が0.05質量%未満であることを示す。また、表3及び表4に示すアルミニウム合金材、機能性アルミニウム合金材中の各成分の残部は、Al及び不可避的不純物である。
【0100】
<試験材の評価>
(固相線温度の算出)
得られたアルミニウム合金材について、統合型熱力学計算ソフトウェア(Thermo-Calc)によって、固相線温度を計算した。なお、計算上で液相率が1%を超える温度を「アルミニウム合金材の固相線温度」とした。
【0101】
(引張強さの測定)
得られたクラッド材に対して、JIS Z 2241に準拠して引張試験を実施し、引張強さを測定した。
【0102】
(流動係数)
アルミニウム合金材のMg含有量が0.01質量%であった試験材No.T9、及びアルミニウム合金材のMg含有量が0.17質量%であった試験材No.T21について、逆T字型流動性試験により流動係数を算出した。流動性試験は、アルミニウム合金材のろう材面に、アルミニウムろう付用フラックスFL-7(森田化学工業株式会社製)を、5±0.1g/mの塗布量となるように塗布し、逆T字型の形状に組付けた後にろう付することにより実施した。試験におけるろう付条件は、600℃×3分間とした。なお、Mg含有量が流動係数に影響を及ぼすことから、試験材No.T9及びT21以外の試験材については、アルミニウム合金材中にMgが含有されておらず、流動係数は0.57以上であることが想定されるため、流動係数を測定しなかった。測定結果を下記表5に併せて示す。
【0103】
なお、表5におけるクラッド材の欄において、「-」とは、クラッド材を作製していないことを示す。また、測定結果における「-」とは、測定していないことを示す。さらに、表5における評価結果の欄において、固相線温度が600℃以上であるとともに、流動係数が0.40以上であったものを、ろう付性が優れていると判断し、「○」と表記した。いずれか一方が上記基準を満たしていないものを、ろう付性が不良であると判断し、「×」と表記した。上述のとおり、試験材No.T1~T8、T10~T20及びT22~T25は、アルミニウム合金材中のMg含有量が、試験材No.T9よりも少ないため、流動係数は0.57以上であると判断できる。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
上記表1~5に示すように、発明例である試験材No.T1~T20は、Mg含有量が0.10質量%以下であるアルミニウム合金スクラップ材を鋳造原料Aとしたものである。また、鋳造原料A中のSi含有量に基づきリサイクル率を決定して、所定の固相線温度となるようにアルミニウム合金材を製造し、一部についてはクラッド材としたものである。したがって、ろう付性の評価結果が良好となった。このように、本発明に係る製造方法によりアルミニウム合金材を製造すると、クラッド材が用いられている自動車用熱交換器のスクラップや、自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材を再活用できた。また、リサイクル率を20%以上とした場合であっても、優れたろう付性を有するアルミニウム合金材を製造することができるため、新地金使用量を削減することができ、CO排出量を大幅に削減することができた。
【0110】
一方、比較例である試験材No.T21は、Mg含有量が0.10質量%を超える鋳造原料Aを使用し、アルミニウム合金材中のMg含有量が、本発明で規定する上限値を超えた。したがって、ろう付性が不良となった。
試験材No.T22は、アルミニウム合金材中のMn含有量が、本発明で規定する下限値未満であった。したがって、ろう付性が不良となった。
試験材No.T23及びT24は、鋳造原料A中のSi含有量を質量%で[Si]、と表した場合に、式(1):[Si]×R/100により算出される値が1.10を超える値となった。具体的には、[Si]が2.20であり、試験材No.T23及びT24のリサイクル率を、それぞれ55%、54%としたため、式(1)により算出される値が、それぞれ1.20、1.19となった。したがって、アルミニウム合金材中のSi含有量が、本発明で規定する上限値を超えるものとなり、ろう付性が不良となった。
試験No.T25は、アルミニウム合金材中のZn含有量が、本発明で規定する上限値を超えるものとなった。したがって、ろう付性が不良となった。
試験No.T26は、アルミニウム合金材中のCu含有量が、本発明で規定する上限値を超えるものとなった。したがって、ろう付性が不良となった。
【要約】
【課題】優れたろう付性を有するアルミニウム合金材を容易に製造することができるアルミニウム合金材の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金材の製造方法は、Mg含有量が0.10質量%以下であるアルミニウム合金スクラップ材を選択して鋳造原料Aとする選択工程と、鋳造原料Aと、添加用の前記鋳造原料Bと、を用いて鋳塊を鋳造する鋳造工程と、鋳塊を成形して、所定の組成を有し、固相線温度が600℃以上であるアルミニウム合金材を成型する成型工程と、を有する。鋳塊の全質量に対する鋳造原料Aの質量割合を表すリサイクル率をR(%)、鋳造原料A中のSi含有量を質量%で[Si]、と表す場合に、選択工程と鋳造工程との間に、式(1):[Si]×R/100により算出される値が0.50以上1.10以下となるように、リサイクル率Rを決定する。鋳造原料Aは、所定量のSi、Znを含有する。
【選択図】なし