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特許7534570焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/00 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
C23C22/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024068546
(22)【出願日】2024-04-19
【審査請求日】2024-04-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】竹林 和世
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-056781(JP,A)
【文献】国際公開第2022/262144(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-22/86
C21D 8/12
C21D 9/46
C01F 5/00-5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムであって、
前記酸化マグネシウムは、
表面に複数の窪みを有する網状粒子と、
板状粒子と、
を含み、
前記板状粒子の数と前記網状粒子の数の比率は、1:99~20:80である、
焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。
【請求項2】
前記網状粒子は、
前記網状粒子の粒子径は、0.05~5μmであり、
前記複数の窪みの各々の大きさは、0.005~0.2μmである、
請求項1に記載の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。
【請求項3】
前記板状粒子の粒子径は、0.05~5μmである、
請求項1に記載の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。
【請求項4】
前記酸化マグネシウムは、銅を含み、
前記銅の含有量は、3~200ppmである、
請求項1に記載の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。
【請求項5】
前記酸化マグネシウムの粒度分布において、
D10は、0.65~1.7μmであり、
D50が、1.5~3.6μmであり、
D90は、2.0~14μmであり、
体積平均径は、1.55~6.4μmである、
請求項1に記載の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。
【請求項6】
前記酸化マグネシウムは、前記板状粒子及び前記網状粒子よりも大きい塊状粒子を更に含む、
請求項1に記載の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。
【請求項7】
水を溶媒として、前記酸化マグネシウムを5~30質量%含むスラリーを形成したとき、
5℃における前記スラリーの粘度は、2.2~5.2mPa・sである、
請求項1に記載の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム。
【請求項8】
方向性電磁鋼板の製造方法であって、
請求項1に記載の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを含むスラリーを、脱炭焼鈍された鋼板に塗布する塗布工程と、
前記スラリーを塗布された前記鋼板を焼鈍する高温焼鈍工程と、
を備える、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼スラグ又は溶鋼に、熱間圧延工程、予備焼鈍工程、冷間圧延工程、脱炭焼鈍工程、及び高温焼鈍工程を施して方向性電磁鋼板を製造する方法が知られている。高温焼鈍工程に際しては、脱炭焼鈍された鋼板の表面に、酸化グネシウムを主成分とする焼鈍分離剤が塗布される。それにより、鋼板の表面にはフォルステライト被膜が形成される。フォルステライト被膜の被膜特性は、鋼板の磁気特性に影響する。そのため、フォルステライト被膜の被膜特性の改善が行われている。例えば、特許文献1には、方向性珪素鋼板の最終高温焼鈍工程でフォルステライト被膜の形成に供するマグネシア系の焼鈍分離剤が開示されている。その焼鈍分離剤は、主としてマグネシアより構成されている。そのマグネシアは、水酸化マグネシウムにCu又はCu化合物を、焼成後のMgOに対して金属元素換算で、0.1~10重量%の範囲内で配合し、その混合物を焼成して得られる。特許文献1によれば、焼鈍分離剤にCuを導入することにより、フォルステライト被膜の被膜特性、すなわち外観の均一性、密着性及び占積率が向上する、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-56781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、焼鈍分離剤に銅(Cu)を0.1~10重量%の範囲内で含有させると、フォルステライト被膜の被膜特性が向上する、とされている。しかし、その焼鈍分離剤は、銅を多く含有するため、高温焼鈍工程時に、多くの銅が鋼板へ拡散してしまう可能性がある。その場合、鋼板中の銅含有量が多くなり過ぎてしまい、鋼板の磁気特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
銅の量に影響されずに良好な被膜特性を有するフォルステライト被膜を得るためには、焼鈍分離剤のスラリーを鋼板上に均一に塗布することが重要である。
【0006】
本発明は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムのスラリーを鋼板上に均一に塗布することが可能な焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の各開示を含むものである。
【0008】
(第1の開示)
第1の開示は、酸化マグネシウムを主成分とする焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムである。上記焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムは、表面に複数の窪みを有する網状粒子と、板状粒子と、を含んでいる。上記板状粒子の数と上記網状粒子の数の比率は、1:99~20:80である。
【0009】
(第2の開示)
第2の開示では、第1の開示において、上記網状粒子は、上記網状粒子の粒子径は、0.05~5μmである。上記網状粒子は、上記複数の窪みの各々の大きさは、0.005~0.2μmである。
【0010】
(第3の開示)
第3の開示では、第1の開示又は第2の開示において、上記板状粒子の粒子径は、0.05~5μmである。
【0011】
(第4の開示)
第4の開示では、第1の開示から第3の開示のいずれかにおいて、上記酸化マグネシウムは、銅を含んでいる。上記銅の含有量は、3~200ppmである。
【0012】
(第5の開示)
上記第5の開示では、第1の開示から第4の開示のいずれかにおいて、上記酸化マグネシウムの粒度分布において、D10は、0.65~1.7μmである。上記粒度分布において、D50は、1.5~3.6μmである。上記粒度分布において、D90は、2.0~14μmである。上記粒度分布において、体積平均径は、1.55~6.4μmである。
【0013】
(第6の開示)
第6の開示では、第1の開示から第5の開示のいずれかにおいて、上記酸化マグネシウムは、上記板状粒子及び上記網状粒子よりも大きい塊状粒子を更に含んでいる。
【0014】
(第7の開示)
第7の開示では、第1の開示から第6の開示のいずれかにおいて、水を溶媒として、上記焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを5~30質量%含むスラリーを形成したとき、5℃における上記スラリーの粘度は、2.2~5.2mPa・sである。
【0015】
(第8の開示)
第8の開示は、方向性電磁鋼板の製造方法である。上記方向性電磁鋼板の製造方法は、塗布工程と、高温焼鈍工程と、を備えている。上記塗布工程は、上記第1の開示から第7の開示のいずれかに記載の上記焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを含むスラリーを、脱炭焼鈍された鋼板に塗布する工程である。上記高温焼鈍工程は、上記スラリーを塗布された上記鋼板を焼鈍する工程である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムのスラリーを鋼板上に均一に塗布することが可能な焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムにおける網状粒子及び板状粒子の一例を示す模式図である。
図2図2は、実施例1の酸化マグネシウムにおける網状粒子及び板状粒子の例を示すSEM写真である。
図3図3は、塊状粒子を追加した実施例1の酸化マグネシウムにおける塊状粒子の例を示すSEM写真である。
図4図4は、比較例1の酸化マグネシウムにおける粒子の例を示すSEM写真である。
図5図5は、実施例1の酸化マグネシウムにおける細孔分布の一例を示すグラフである。
図6図6は、実施例2の酸化マグネシウムにおける細孔分布の一例を示すグラフである。
図7図7は、実施例3の酸化マグネシウムにおける細孔分布の一例を示すグラフである。
図8図8は、比較例1の酸化マグネシウムにおける細孔分布の一例を示すグラフである。
図9図9は、比較例3の酸化マグネシウムにおける細孔分布の一例を示すグラフである。
図10図10は、比較例4の酸化マグネシウムにおける細孔分布の一例を示すグラフである。
図11図11は、実施例1の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す光学観察画像である。
図12図12は、実施例1の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す3D観察画像である。
図13図13は、実施例2の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す3D観察画像である。
図14図14は、実施例3の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す3D観察画像である。
図15図15は、比較例1の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す光学観察画像である。
図16図16は、比較例1の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す3D観察画像である。
図17図17は、比較例3の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す3D観察画像である。
図18図18は、比較例4の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す3D観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法における好適な実施形態について説明する。
【0019】
[焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム]
本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムは、酸化マグネシウムを主成分とする粉体である。以下、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを、単に、酸化マグネシウムとも記す。酸化マグネシウムは、網状粒子と板状粒子とを含む。網状粒子とは、酸化マグネシウムを構成する酸化マグネシウム粒子の表面に複数の窪みを有する粒子をいう。網状粒子は、言い換えると、網の部分を形成している骨格部分と、網目の部分を形成している窪み部分と、を備える網状の粒子である。ただし、骨格部分は、平坦な板状であってもよい。骨格部分の一部または全部が、任意の方向に曲がったり、歪んだりした形状であってもよい。網状粒子の窪みの一部又は全部は、酸化マグネシウム粒子(骨格部分)を貫通する貫通孔を含んでもよい。
【0020】
図1は、実施形態に係る酸化マグネシウムにおける網状粒子及び板状粒子の一例を示す模式図である。図1(a)は網状粒子1を示す。図1(b)は板状粒子2を示す。
【0021】
図1(a)に示すように、網状粒子1は、板状の粒子の表面11に、複数の窪み12を有する粒子である。網状粒子1の平面形状は特に限定されるものではない。網状粒子1の平面形状としては、例えば、薄板状の、多角形、矩形、多角形状、楕円形、円形、不定形、それらの組み合わせが挙げられる。窪み12の平面形状は特に限定されるものではない。窪み12の平面形状としては例えば、多角形、矩形、多角形状、楕円形、円形、不定形、それらの組み合わせが挙げられる。網状粒子1の表面11における窪み12の配置は特に限定されるものではない。窪み12の配置としては、例えば、千鳥状、行列状、ランダム状、それらの組み合わせが挙げられる。なお、網状粒子は、骨格部分が、図1(a)のような平坦な板状の場合の他、図示されないが、任意の方向に曲がったり、歪んだりした形状であってもよい。
【0022】
図1(b)に示すように、板状粒子2は、板状の粒子の表面21に、目立った窪みを有さない粒子である。言い換えると、板状粒子2は、表面21が平坦な粒子である。ただし、上記の網状粒子1に見られる窪み12程ではないが、少量の浅い窪みを有していてもよい。板状粒子2の平面形状は特に限定されるものではない。板状粒子2の平面形状としては、例えば、薄板状の、多角形、矩形、多角形状、楕円形、円形、不定形、それらの組み合わせが挙げられる。
【0023】
酸化マグネシウムでは、主成分である酸化マグネシウムの粒子が網状粒子及び板状粒子を含んでいる。そのため、酸化マグネシウムを水のような液体に混合した場合、酸化マグネシウムは、主に網状粒子の存在により、水に馴染んで液体中で凝集し難くなる。更に、酸化マグネシウムは、主に板状粒子の存在により、互いに離間して溶液中に分散し易くなる。それらにより、酸化マグネシウムが液体中に概ね均一に分散したスラリーを得ることができる。そして、そのスラリーを鋼板に塗布することで、酸化マグネシウムが概ね均一に分散した塗布膜を鋼板上に形成することができる。すなわち、本実施形態の酸化マグネシウムにより、酸化マグネシウムを液体の中で十分に分散し易くでき、酸化マグネシウムを鋼板上にできるだけ均一に塗布することが可能となる。
【0024】
網状粒子の粒子径は、窪みを形成可能な大きさであれば、特に限定されるものではない。網状粒子の粒子径としては、例えば、0.05~5μmが挙げられる。網状粒子の粒子径の下限は、粒子をスラリー中で凝集し難くする観点から、0.1μmが好ましい。網状粒子の粒子径の上限は、粒子をスラリー中で均一に分散させる観点から、4μmが好ましい。網状粒子の粒子径は、後述されるように、20000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真で測定できる。
【0025】
網状粒子の窪みの孔径は、窪みの形状を有していれば、特に限定されるものではない。窪みの孔径としては、例えば、0.005~0.2μmが挙げられる。窪みの孔径の下限は、粒子がスラリー中で水分を保持し易くする観点から、0.01μmが好ましい。窪みの孔径の上限は、粒子内に複数の窪みを形成し得る大きさの観点から、0.15μmが好ましい。窪みの孔径は、後述されるように、20000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真で測定できる。
【0026】
板状粒子の粒子径は、網状粒子と同じ程度の大きさであれば、特に限定されるものではない。板状粒子の粒子径としては、例えば、0.05~5μmが挙げられる。板状粒子の粒子径の下限は、粒子をスラリー中で安定的に分散させる観点から、0.1μmが好ましい。板状粒子の粒子径の上限は、粒子をスラリー中で均一に分散させる観点から、4μmが好ましい。板状粒子の粒子径は、後述されるように、20000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真で測定できる。
【0027】
ただし、酸化マグネシウムのすべてが網状粒子及び板状粒子で構成されている必要はない。酸化マグネシウム全体に対する網状粒子及び板状粒子の合計の割合は、70重量%以上が好ましい。酸化マグネシウムが網状粒子と板状粒子とを有することで奏する効果の観点からである。その割合は、90重量%以上がより好ましい。その割合は、95重量%以上が更により好ましい。その割合は、後述されるように、例えば20000倍以上の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真にて判別できる。
【0028】
酸化マグネシウムに含まれる網状粒子の数と板状粒子の数との関係として、網状粒子の数の方が、板状粒子の数よりも多いことが好ましい。網状粒子の数の方が多いことで、スラリー中での網状粒子が適度な水分を保持し易くなること、及び、板状粒子が粒子の分散性に寄与し易くなること、の相乗効果により、均一性がより高く、ダマがより少ない塗布膜を得ることができる。粒子数の比較は、後述されるように、例えば20000倍以上の倍率で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真にて判別できる。
【0029】
酸化マグネシウムに含まれる網状粒子の数と板状粒子の数との関係として、(板状粒子の数):(網状粒子の数)は、例えば、1:99~20:80が挙げられる(ただし、比の合計を100とする)。(板状粒子の数):(網状粒子の数)は、5:95~15:85が好ましい。酸化マグネシウム中の網状粒子の数と板状粒子の数との比率を上記範囲にすることで、酸化マグネシウムを水のような液体に懸濁した際に、塗布に好適なスラリー粘度をより容易に得ることができる。更に、酸化マグネシウムにおいて、網状粒子が適度な水分を保持することと、板状粒子が粒子の分散性に寄与することによって、均一性がより高く、ダマがより少ないというような塗布性が担保できる。
【0030】
あるいは、酸化マグネシウムに含まれる網状粒子と板状粒子との関係として、(板状粒子の重量):(網状粒子の重量)は、例えば、1:99~20:80が挙げられる(ただし、比の合計を100とする)。(板状粒子の重量):(網状粒子の重量)は、5:95~15:85が好ましい。酸化マグネシウム中の網状粒子の数と板状粒子の数との比率を上記範囲にすることで、酸化マグネシウムを水のような液体に懸濁した際に、塗布に好適なスラリー粘度をより容易に得ることができる。更に、酸化マグネシウムにおいて、網状粒子が適度な水分を保持することと、板状粒子が粒子の分散性に寄与することによって、均一性がより高く、ダマがより少ないというような塗布性が担保できる。
【0031】
酸化マグネシウムは網状粒子及び板状粒子に加えて、板状粒子及び網状粒子よりも大きい塊状粒子を更に含み得る。塊状粒子の形状は、板状のような二次元的な形状ではなく、三次元的な塊状であり、粒子の最も長い径(寸法)が最も短い径(寸法)の4倍以内である形状である。そのような塊状粒子は、脱炭焼鈍された鋼板をロール状にして高温焼鈍するときに、焼き付き防止用のスペーサとして機能し得る。塊状粒子は、複数の面を有する。複数の面の各々は、平面でもよいし、凸若しくは凹に歪んだ面でもよい。塊状粒子の複数の面の各々は、互いに同じ形状でもよいし、その一部又は全部が互いに異なる形状でもよい。塊状粒子は、互いに形状が異なるいくつかの塊状粒子が互いに結合して形成されていてもよい。塊状粒子の平面形状としては、特に限定されるものではない。塊状粒子の平面形状としては、例えば、多角形、矩形、多角形状、楕円形、円形、不定形、それらの組み合わせが挙げられる。
【0032】
塊状粒子の粒子径は、板状粒子及び網状粒子の粒子径より大きければ、特に限定されるものではない。塊状粒子の粒子径としては、例えば、5μmより大きく、100μm以下が挙げられる。塊状粒子の粒子径の下限は、高温焼鈍するときに焼き付き防止用のスペーサとして機能し得る観点から、10μmが好ましい。塊状粒子の粒子径の上限は、粒子をスラリー中で均一に分散させる観点から、50μmが好ましい。塊状粒子の粒子径は、後述されるように、例えば500倍以上の倍率で撮影したSEM写真にて測定できる。酸化マグネシウム全体に対する塊状粒子の割合は、例えば、1~10重量%が挙げ有られる。スペーサとして機能し得る観点からである。
【0033】
酸化マグネシウムの粒度分布は、酸化マグネシウムが網状粒子及び板状粒子、好ましくは更に塊状粒子を有していれば、特に限定されるものではない。D10は、好ましくは、0.65~1.7μmである。D50は、好ましくは、1.5~3.6μmである。D90は、好ましくは、2.0~14μmである。体積平均径MVは、例えば、1.55~6.4μmが挙げられる。酸化マグネシウムの粒度分布では、比較的小さいが小さ過ぎない範囲に粒子径に分布しているため、スラリー中の粒子の凝集を抑えつつ、分散性を高められる。
【0034】
なお、酸化マグネシウムを主成分とする、とは、焼鈍分離剤における酸化マグネシウムの含有量が50質量%以上であることをいう。焼鈍分離剤として良好に機能させる観点から、酸化マグネシウムの含有量は、90質量%以上が好ましい。酸化マグネシウムの含有量は、95質量%以上がより好ましい。本実施形態では、焼鈍分離剤における酸化マグネシウムの含有量は98質量%以上である。
【0035】
酸化マグネシウムは、酸化マグネシウム以外の他の物質を含んでもよい。そのような他の物質としては、例えば、銅(Cu)が挙げられる。銅を含むことで、フォルステライト被膜の被膜特性と鋼板の磁気特性を向上させることができる。酸化マグネシウムに対する銅の含有量は、下限としては、特性向上の観点から、例えば、3ppmが挙げられ、好ましくは30ppmが挙げられ、より好ましくは50ppmである。酸化マグネシウムに対する銅の含有量は、上限としては、鋼板への銅の過剰な拡散を抑える観点から、例えば、200ppmが挙げられる。
【0036】
酸化マグネシウムは、方向性電磁鋼板の被膜形成の促進、被膜特性の改善及び/又は磁気特性の改善に資することが知られている種々の微量元素を含んでもよい。そのような微量元素としては、例えば、塩素(Cl)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、リン(P)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)及びこれらの化合物が挙げられる。例えば、塩素は、フォルステライト被膜の形成を促進する元素である。ホウ素は、フォルステライト被膜の形成を促進する元素である。ナトリウムは、フォルステライト被膜の形成速度を調整する元素である。リンは、フォルステライト被膜の形成を促進する元素である。アルミニウムは、フォルステライト被膜の形成を促進する元素である。
【0037】
水を溶媒として、酸化マグネシウムを5~30質量%含むスラリーを形成したとき、5℃におけるスラリーの粘度は、2.2~5.2mPa・sであることが好ましい。さらに好ましい下限は3.5mPa・sである。粘度が低過ぎないことで、酸化マグネシウムを含むスラリーを鋼板に塗布したとき、塗布膜を安定的に維持するできる。一方、粘度が高過ぎないことで、鋼板の全面に容易にスラリーを塗布することができる。ここで、スラリーの粘度を5℃で規定するのは以下の理由による。酸化マグネシウムを水に分散してスラリーを形成するとき、室温でスラリーを形成すると、酸化マグネシウムが水和してしまう。そのような酸化マグネシウムの水和物を含むスラリーを鋼板の表面に塗布すると、鋼板の特性に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、酸化マグネシウムの水和を抑制するために、5℃のような低温でスラリーを形成し、鋼板の表面に塗布することが好ましい。それゆえ、塗布し易いスラリーの粘度を5℃で規定している。
【0038】
[焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの製造方法]
酸化マグネシウムの製造方法としては、上記構成を有する酸化マグネシウムを製造可能であれば特に制限はない。その製造方法としては、例えば、マグネシウム原料とアルカリ原料とを反応させて水酸化マグネシウムを合成し、その水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを得る製造方法が挙げられる。マグネシウム原料としては、例えば、水溶性マグネシウム塩又はその水和物が挙げられる。マグネシウム原料としては、塩化マグネシウム六水和物、塩化マグネシウム二水和物、塩化マグネシウム無水和物が好適である。その他、マグネシウム原料として、海水、潅水、苦汁を用いてもよい。なお、水酸化マグネシウムを焼成するとき、その焼成雰囲気としては、例えば、空気、窒素が挙げられる。アルカリ原料としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムが挙げられる。
【0039】
別の製造方法の例としては、例えば、鉱物マグネサイトを焼成して得られた酸化マグネシウムを用いる方法が挙げられる。その製造方法は、鉱物マグネサイトから得られた酸化マグネシウムを水和させ、水酸化マグネシウムを得て、その水酸化マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを得る製造方法である。
【0040】
ここで、本明細書で用いる、水酸化マグネシウムのサンプルの焼成に関する用語の意味は、以下のとおりである。「昇温時間」とは、サンプルを焼成する際、室温から加熱して目的とする最高温度に達するまでの時間を意味する。「保持温度」とは、サンプルを焼成する際、目的とする最高温度を意味する。焼成温度ともいう。「保持時間」とは、サンプルを焼成する際に、保持温度を維持する時間を意味する。「降温時間」とは、サンプルを焼成する際に、保持時間が経過した後に保持温度から冷却して室温に達するまでの時間を意味する。なお、冷却は、冷却手段を用いた積極的な冷却のほか、放冷のような緩やかな冷却も含む。
【0041】
<焼成条件>
酸化マグネシウムに含まれる粒子、例えば、網状粒子、板状粒子及び塊状粒子の形状は、酸化マグネシウムを得る際の最終的な焼成の条件と、最終的な焼成に供される前駆体中に含まれる微量元素を調製することで制御できる。焼成の条件は、昇温時間、保持温度、保持時間及び降温時間を含む。
【0042】
<板状粒子>
板状粒子を含む酸化マグネシウムを得る条件としては、例えば、昇温時間は、0.5時間~2.5時間が好ましく、1.0時間~2.0時間がより好ましい。保持温度は、400℃~700℃又は1000℃~1300℃が好ましく、450℃~600℃又は1050℃~1200℃がより好ましい。保持温度を400℃~700℃とした場合、水酸化マグネシウムの形状を保ちやすいため、板状粒子を得やすい。一方、保持温度を1000℃~1300℃とした場合、酸化マグネシウムの焼結が適度にすすむため、板状粒子が得やすい。保持時間は、0.1時間~15.0時間が好ましく、0.2時間~13.0時間がより好ましい。降温時間は、0.1時間~6.0時間が好ましく、0.2時間~5.0時間がより好ましい。なお、昇温時間、保持時間及び降温時間については、保持温度の二つの温度域で共通である。
【0043】
保持温度が上記範囲より低いと、水酸化マグネシウムが残存する場合がある。保持温度が上記範囲外、すなわち、700℃~1000℃である場合、網状粒子ができ易くなるため、板状粒子ができ難くなる。保持温度が上記範囲より高いと、焼結が進みすぎて凝集塊ができ易くなるため、板状粒子ができ難くなる。
【0044】
<網状粒子>
網状粒子を含む酸化マグネシウムを得る条件としては、例えば、昇温時間は、0.5時間~2.0時間が好ましく、1.0時間~1.5時間がより好ましい。保持温度は、700℃~1000℃が好ましく、750℃~950℃がより好ましい。保持時間は、0.1時間~24時間が好ましく、0.2時間~1.0時間がより好ましい。降温時間は、0.1時間~1.0時間が好ましく、0.2時間~0.8時間がより好ましい。
【0045】
昇温時間、保持時間及び降温時間が上記範囲より短いと、網状粒子ができ難くなり、焼成のムラが生じ易くなる。保持温度が上記範囲より低いと、網状粒子ができ難くなる。一方、昇温時間、保持時間及び降温時間が上記範囲より長いと、板状粒子ができ易くなるため、網状粒子が得られ難くなる。保持温度が上記範囲より高いと、網状粒子ができ難くなる。更に、生産効率が悪くなる。
【0046】
<塊状粒子>
昇温時間は、0.5時間~2.5時間が好ましく、1.0時間~2.0時間がより好ましい。保持温度は、1100℃~1300℃が好ましく、1200℃~1300℃がより好ましい。保持時間は、0.1時間~15.0時間が好ましく、0.2時間~13.0時間がより好ましい。降温時間は、0.1時間~6.0時間が好ましく、0.2時間~5.0時間がより好ましい。
【0047】
昇温時間、保持時間及び降温時間が上記範囲より短いと、板状粒子ができ易くなり、塊状粒子ができ難くなる。保持温度が上記範囲より低いと、粒子径が十分に大きくならない。一方、昇温時間、保持時間及び降温時間が上記範囲より長いと、粒子径が大きくなりすぎる。保持温度が上記範囲より高いと、粒子径が大きくなりすぎる。
【0048】
<焼成の際の微量元素の影響>
網状粒子及び板状粒子を形成する際、焼成対象の物質に含まれる微量元素によって、その焼成対象の物質の融点が変わってくる。そのため、所望の網状粒子及び/又は板状粒子が形成されたかを走査型電子顕微鏡(SEM)で確認して用いる。
【0049】
例えば、塩素(Cl)の含有量は、焼成の際の保持温度が約700~900℃において、焼成対象の物質の融点を低くする効果があり、主に網状粒子の生成に影響する。焼成後に得られる酸化マグネシウムに含まれるClの含有量は0.001~0.1質量%であることが好ましい。
【0050】
ホウ素(B)の含有量は、焼成の際の保持温度が約1200~1300℃において、焼成対象の物質の融点を低くする効果があり、主に板状粒子及び塊状粒子の生成に影響する。焼成後に得られる酸化マグネシウムに含まれるBの含有量は0.03~0.15質量%であることが好ましい。このような数値範囲のホウ素の含有量を有する酸化マグネシウムを焼鈍分離剤として用いた場合、方向性電磁鋼板の磁気特性と絶縁特性を良好にすることができる。
【0051】
<焼成雰囲気>
焼成の際の雰囲気は窒素でも空気でも良い。焼成対象の物質に熱が均一に当たればよい。焼成中に焼成対象の物質を均一に攪拌しても良い。そのような焼成を行う装置としては、例えば、ロータリーキルンが挙げられる。
【0052】
<板状粒子と網状粒子との比率の制御>
板状粒子と網状粒子との比率の制御は、板状粒子と網状粒子との比率が異なる最終焼成後の酸化マグネシウムを混合して調整することで制御できる。なお、酸化マグネシウムを得る際の最終的な焼成の条件、例えば、昇温時間、保持温度、保持時間及び降温時間の設定や、最終的な焼成に供される前駆体(中間生成物)中に含まれる微量元素の調製により制御してもよい。
【0053】
<板状粒子と網状粒子と塊状粒子との比率の制御>
板状粒子と網状粒子と塊状粒子との比率の制御は、板状粒子と網状粒子と塊状粒子との比率が異なる最終焼成後の酸化マグネシウムを混合して調整することで制御できる。なお、酸化マグネシウムを得る際の最終的な焼成の条件、例えば、昇温時間、保持温度、保持時間及び降温時間の設定や、最終的な焼成に供される前駆体(中間生成物)中に含まれる微量元素の調製により制御してもよい。
【0054】
<酸化マグネシウム中の微量元素の含有量の制御>
酸化マグネシウム中の微量元素の含有量の制御は、以下のようにして行う。まず、酸化マグネシウムの製造用の原料に含まれる微量元素の含有量を測定する。そして、その結果に基づいて、酸化マグネシウムに含まれる微量元素の含有量が所望の含有量になるよう、原料や中間生成物において微量元素を添加し、又は除去する。原料としては、例えば、マグネシウム原料、鉱物マグネサイト、マグネシウム原料に反応させるアルカリが挙げられる。中間生成物としては、例えば、水酸化マグネシウムが挙げられる。
【0055】
微量元素を添加する方法は、特に限定されるものではない。その方法については、例えば、制限される対象となる微量元素を含む化合物を原料や中間生成物に混合する方法が挙げられる。混合の方法は、湿式であっても乾式であっても良い。なお、中間生成物には上述の前駆体を含む。
【0056】
微量元素を除去する方法は、特に限定されるものではない。その方法については、例えば、原料や中間生成物を洗浄する方法が挙げられる。洗浄の具体的な例としては、水洗が挙げられる。
【0057】
異なる組成の中間生成物を混合して微量元素の過不足を調整した後、最終焼成をして、微量元素の含有量が所望の含有量となった酸化マグネシウムを得ることもできる。又は、異なる組成の最終焼成後の酸化マグネシウムを混合し、微量元素の過不足を調整して、微量元素の含有量が所望の含有量となった酸化マグネシウムを得ることもできる。
【0058】
例えば、銅(Cu)を酸化マグネシウムに添加する方法としては、例えば、銅又は銅化合物を中間生成物に混合して、銅の過不足を調整した後、最終焼成をする方法が挙げられる。あるいは、その方法としては、例えば、最終焼成後の複数の酸化マグネシウムを混合して銅の過不足を調整する方法が挙げられる。それにより、銅の含有量が所望の含有量となった酸化マグネシウムを得ることができる。好ましくは、最終焼成前の中間生成物である水酸化マグネシウムのスラリーに所定量の銅又は銅化合物を混合する方法が挙げられる。それにより、得られる酸化マグネシウム中において、銅が均一に分散しやすい。好ましい銅化合物としては、例えば、酸化銅(CuO)が挙げられる。
【0059】
ホウ素(B)を酸化マグネシウムに添加する方法としては、例えば、ホウ素化合物を中間生成物に混合して、ホウ素の過不足を調整した後、最終焼成をする方法が挙げられる。あるいは、その方法としては、例えば、最終焼成後の複数の酸化マグネシウムを混合してホウ素の過不足を調整する方法が挙げられる。それにより、ホウ素の含有量が所望の含有量となった酸化マグネシウムを得ることができる。ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アンモニウム塩及びメタホウ酸アルカリ金属塩系、二酸化ホウ素が挙げられる。
【0060】
酸化マグネシウムの製造工程において、銅(Cu)の他、被膜特性、磁気特性を改善する働きが知られている種々の添加物を効果的に添加してもよい。その添加物としては、例えば、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、及びそれらの化合物が挙げられる。
【0061】
<酸化マグネシウムの粒度分布(D10、D50、D90、MV)の制御>
酸化マグネシウムの粒度分布は、以下の方法で制御できる。
その一つの方法は、マグネシウム原料とアルカリ原料とを反応させて水酸化マグネシウムを合成するときの、反応温度、反応率、攪拌条件の少なくとも一つを調整する方法である。他の方法は、最終焼成前の前駆体を粉砕する方法である。他の方法は、水酸化マグネシウムの焼成条件を制御する方法である。他の方法は、最終焼成後の酸化マグネシウムを再焼成する又は粉砕する方法である。
【0062】
上記のような条件により、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムが製造される。この酸化マグネシウムは、上記所定の構成を有しているので、その焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを鋼板上に均一に塗布することが可能となる。
【0063】
[焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを用いた方向性電磁鋼板の製造方法]
次に、上述された焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを用いた方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。製造方法は、上記された酸化マグネシウムを含むスラリーを、脱炭焼鈍された鋼板に塗布する塗布工程と、酸化マグネシウムを塗布された鋼板を焼鈍する高温焼鈍工程と、を備えている。
【0064】
<塗布工程>
上記された酸化マグネシウムを液体に均一に分散させ、酸化マグネシウムを含むスラリーを形成する。液体は、例えば、水が挙げられる。このとき、酸化マグネシウムが水和しないように、5℃のような低温でスラリーを形成する。
【0065】
酸化マグネシウムの濃度は、既述のように、例えば、5~30質量%が挙げられる。酸化マグネシウムの濃度の下限は、スラリーを鋼板に斑なく塗布し易くする観点から、好ましは7質量%である。焼鈍分離剤の濃度の上限は、スラリーを塗布し易い粘度にする観点から、好ましくは25質量%である。
【0066】
5℃におけるスラリーの粘度は、既述のように、例えば、2.2~5.2mPa・sが挙げられる。5℃におけるスラリーの粘度の下限は、十分な塗布量を確保する観点から、好ましくは2.6mPa・sである。その下限は、更に好ましくは3.5mPa・sである。5℃におけるスラリーの粘度の上限は、スラリーを塗布し易くする観点から、好ましくは4.6mPa・sである。
【0067】
そのスラリーを、ロールコーティング装置又はスプレー装置を用いて脱炭焼鈍された鋼板に連続的に塗布する。ただし、酸化マグネシウムが水和しないように、5℃のような低温でスラリーを塗布する。このとき、上記の構成を有する酸化マグネシウムを用いているので、その酸化マグネシウムを含むスラリーを鋼板上に均一に塗布することが可能となる。その後、塗布されたスラリーを、例えば、300~500℃程度の温度で乾燥させる。
【0068】
<高温焼鈍工程>
上記されたスラリーが塗布され、したがって、酸化マグネシウムが塗布された鋼板を焼鈍する。焼鈍の条件としては、例えば、1000~1200℃、10~20時間が挙げられる。それにより、鋼板の表面には、フォルステライト被膜が形成され、その後、必要に応じて公知の所定の処理を行うことにより、上述された焼鈍分離剤を用いた方向性電磁鋼板が形成される。
【0069】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法では、上記所定の構成を有し、鋼板上に均一に塗布され得る酸化マグネシウムを用いている。それゆえ、鋼板上に良好な被膜特性を有するフォルステライト被膜を形成できる。それにより、磁気特性が改善された方向性電磁鋼板を得ることができる。
【0070】
なお、本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム、及びそれを用いた方向性電磁鋼板の製造方法は、上述の実施形態や後述する実施例に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更が可能である。
【0071】
<測定方法・試験方法>
各種の測定方法・試験方法については、以下のとおりである。
【0072】
1.網状粒子、板状粒子及び塊状粒子の粒子径、網状粒子の窪みの孔径、並びに、網状粒子及び板状粒子の合計の割合、網状粒子と板状粒子との割合
網状粒子及び板状粒子の粒子径、並びに、網状粒子の窪みの孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率20000倍で写真撮影を行い、得られた画像で確認した。塊状粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率500倍で写真撮影を行い、得られた画像で確認した。ただし、画像で粒子径又は孔径を測定する場合、測定対象の粒子又は窪みについて、粒子又は窪みを囲む最小円の直径を粒子径又は孔径とした。粒子径又は孔径の範囲としては、例えば、任意の10個の粒子又は窪みを選択し、その最小値から最大値の範囲とした。粒子径又は孔径の平均値としては、例えば、任意の10個の粒子又は窪みを選択し、10個の粒子径又は孔径の平均値を最終的な粒子径又は孔径の平均値とした。
【0073】
酸化マグネシウム全重量に対する網状粒子及び板状粒子の合計重量の割合は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率20000倍で写真撮影を行い、得られた画像で確認した。具体的には、画像の面積に対する、画像中の網状粒子及び板状粒子の面積の合計の割合を、酸化マグネシウム全重量に対する網状粒子及び板状粒子の合計重量の割合と近似した。網状粒子と板状粒子の重量の比率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率20000倍で写真撮影を行い、得られた画像で確認した。具体的には、画像中の網状粒子の面積の合計と板状粒子の面積の合計との比率を、網状粒子と板状粒子との重量の比率と近似した。
【0074】
2.粒度分布
粒度分布は、粒度分布測定装置MT3300EXII(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定した。まず、粒度分布測定装置内をイオン交換水で満たし、そのイオン交換水を循環させた。次に、そこへ適量のサンプルを添加し適正範囲に入っていることを確認した後、1分間循環させてから測定した。測定時間は30秒間とした。
【0075】
3.板状粒子の数と網状粒子の数との関係
板状粒子の数と網状粒子の数との関係は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、例えば、倍率20000倍以上で写真撮影を行い、得られた画像を目視で観察した。画像中の任意の粒子を100個選んで、板状粒子の数及び網状粒子の数を数えることにより、板状粒子の数と網状粒子の数との比率を算出した。
【0076】
4。BET比表面積、細孔分布、及び全細孔容積
サンプル約0.5gをセルに量り取り、前処理として真空脱気し、105℃、1時間、加熱した。そして、前処理後のセルについて、細孔分布測定装置BELSORP MAX(マイクロトラック・ベル株式会社製)により、窒素吸着による比表面積、細孔分布、全細孔容積を測定した。比表面積は、BET多点法で解析した。細孔分布は、脱着等温線を利用したBJH法で解析した。全細孔容積は、1点法により全細孔容積を求めた。
【0077】
5.微量元素の含有量
サンプル0.5gを30%HNO溶液5mlに溶解後、超純水で100mlに定容し、試験液として、発光分光分析装置SPS3520-DD(株式会社 日立ハイテクサイエンス製)を用いて検量線法で測定した。
【0078】
6.スラリー粘度
イオン交換水30mlをスターラーの入ったビーカーに入れ、5℃に温調した。以降すべての手順は、5℃の温調下で実施した。試料3.5gを電子上皿天秤で量り、ビーカーに投入した。投入後、30秒間静置し、その後2分間スターラー撹拌混合し、試験液とした。試験液7mlを温調した粘度計LVDV2T(ブルックフィールド社製)のチャンバー内に入れて測定した。その際、スピンドルはSC4-18(18)、回転数は200rpmとした。
【0079】
7.スラリー塗布試験
酸化マグネシウム3.5gを30ml、5℃の水に懸濁しスラリーを得た。得られたスラリーを縦150mm、横80mm、厚み0.5mmの鋼板に塗布し、ゴムロールを通して均一化したのち500℃で20秒焼成して、MgOを焼き付けた。得られた鋼板をワンショット3D形状測定機VR-6000(キーエンス社製)にて光学観察画像と3D観察画像を撮影した。
【実施例
【0080】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0081】
(1)試料について
[実施例1]
1.7mol/Lの塩化マグネシウム水溶液と2.2mol/Lの水酸化カルシウム水溶液とを混合し、130℃で4時間反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。得られたスラリーに、最終的に得られる酸化マグネシウム中の銅(Cu)が0.012質量%となるように酸化銅(CuO)を添加した。更に、得られたスラリーに、最終的に得られる酸化マグネシウム中のホウ素(B)が0.09質量%となるように、純水で0.3×10mol・m-3に調整したホウ酸水溶液を添加した。これらの添加後、スラリーを濾過し、固形分の20倍質量の純水で洗浄し、水酸化マグネシウムのケーキを得た。得られたケーキを180℃で40分間乾燥し、水酸化マグネシウムを得た。
【0082】
得られた水酸化マグネシウムを、昇温時間1.25時間、保持温度900℃、保持時間0.25時間及び降温時間0.25時間の条件でロータリーキルンを用いて空気雰囲気で焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物をジェットミルにより粉砕し、酸化マグネシウムAを得た。得られた酸化マグネシウムAを20000倍のSEM写真で任意の100粒子を観察した結果、網状粒子は確認されたが、板状粒子が確認されなかった。
【0083】
別途用意されたD50が3.1μmの酸化マグネシウムを90℃で4時間再水和し、脱水、乾燥させて水酸化マグネシウムの粉体を得た。得られた水酸化マグネシウムの粉体を昇温時間2時間、保持温度1100℃、保持時間12時間及び降温時間4時間の条件でトンネルキルンを用いて空気雰囲気で焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物をジェットミルにより粉砕し、酸化マグネシウムBを得た。得られた酸化マグネシウムBを20000倍のSEM写真で任意の100粒子を観察した結果、網状粒子は確認されなかったが、板状粒子が確認された。また、得られた酸化マグネシウムBを500倍のSEM写真で観察した結果、塊状粒子が確認された。
【0084】
酸化マグネシウムBと酸化マグネシウムAとを10:90の重量比で混合し、実施例1の酸化マグネシウムとした。実施例1の酸化マグネシウムでは、板状粒子の数:網状粒子の数=10:90であった。したがって、板状粒子の数:網状粒子の数は、1:99~20:80の範囲内であった。
【0085】
図2は、実施例1の酸化マグネシウムにおける網状粒子及び板状粒子の例を示すSEM写真である。倍率は20000倍である。図2(a)は、典型的な網状粒子1の一例を示す。図2(b)は、典型的な板状粒子2の一例を示す。図2(a)に示すように、網状粒子1は、板状の粒子の表面に、複数の窪みを有していた。その平面形状は概ね六角形であった。その周辺にもいくつかの網状粒子を看取できた。一方、図2(b)に示すように、板状粒子2は、板状の粒子の表面に、多少の凹凸は見受けられるが、目立った窪みを有していなかった。その平面形状は変形した六角形であった。その周辺にも網状粒子が少し看取できた。
【0086】
図3は、塊状粒子を追加した実施例1の酸化マグネシウムにおける塊状粒子の例を示すSEM写真である。倍率は500倍である。図示されるように、塊状粒子3は、複数の面を有していた。塊状粒子3の表面には、網状粒子及び板状粒子の小さな粒子が付着していた。
【0087】
[実施例2]
1.6mol/Lの苦汁と12mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液とを混合し、130℃で2時間反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。得られたスラリーを濾過し、固形分の20倍質量の軟水で洗浄し、水酸化マグネシウムのケーキを得た。得られたケーキを180℃で40分間乾燥し、水酸化マグネシウムを得た。
【0088】
得られた水酸化マグネシウムを、昇温時間0.5時間、保持温度550℃、保持時間1.0時間及び降温時間0.1時間の条件でロータリーキルンを用いて空気雰囲気で焼成し焼成物を得た。得られた焼成物を衝撃式粉砕機により粉砕し、酸化マグネシウムCを得た。得られた酸化マグネシウムCを20000倍のSEM写真で任意の100粒子を観察した結果、網状粒子は確認されなかったが、板状粒子が確認された。また、得られた酸化マグネシウムCを500倍のSEM写真で観察した結果、塊状粒子は確認されなかった。
【0089】
1.6mol/Lの苦汁と12mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液とを混合し、130℃で2時間反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。得られたスラリーを濾過し、固形分の20倍質量の軟水で洗浄し、水酸化マグネシウムのケーキを得た。得られたケーキを150℃で40分間乾燥し、得られた乾燥物を衝撃式粉砕機により粉砕し、水酸化マグネシウムを得た。
【0090】
得られた水酸化マグネシウムを、昇温時間0.5時間、保持温度850℃、保持時間24時間及び降温時間0.1時間の条件でトンネルキルンを用いて空気雰囲気で焼成し、酸化マグネシウムDを得た。得られた酸化マグネシウムDを20000倍のSEM写真で任意の100粒子を観察した結果、網状粒子は確認されたが、板状粒子が確認されなかった。
【0091】
酸化マグネシウムCと酸化マグネシウムDとを5:95の重量比で混合し、実施例2の酸化マグネシウムとした。実施例2の酸化マグネシウムでは、板状粒子の数:網状粒子の数=5:95であった。したがって、板状粒子の数:網状粒子の数は、1:99~20:80の範囲内であった。
【0092】
[実施例3]
酸化マグネシウムCと酸化マグネシウムDとを15:85の重量比で混合し、実施例3の酸化マグネシウムとした。実施例3の酸化マグネシウムでは、板状粒子の数:網状粒子の数=15:85であった。したがって、板状粒子の数:網状粒子の数は、1:99~20:80の範囲内であった。
【0093】
[比較例1]
まず、酸化物換算で、MgO含有量が92.9wt%であり、SiO含有量が2.39wt%であり、CaO含有量が2.36wt%であり、Al含有量が0.19wt%であり、Fe含有量が0.55wt%である酸化マグネシウムを用意した。この酸化マグネシウムを、撹拌器、冷却器、温度計及びガス吸引口が設けられた反応器において、100℃の加熱下で、NHNO/MgO=2のモル比で硝酸アンモニウムの水溶液に投入する。そして、その水溶液を撹拌して、酸化マグネシウムを溶解、反応させて硝酸マグネシウム溶液を生成しかつアンモニアガスを放出した。生成したアンモニアガスを水に入れて水で回収して10.0mol/Lに濃縮してアルカリ源とした。生成された硝酸マグネシウム溶液を濾過し回収しかつそれを3.5mol/Lに調整し、マグネシウム源とした。
【0094】
上記精製された硝酸マグネシウム溶液、アンモニア水及び水を、25℃で、1.46molのMg(NO(417.14ml):2.92molのNH・HO(292.0ml):16.14molのHO(290.86ml)の割合で混合した。それにより、硝酸マグネシウムとアンモニアとを反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。
【0095】
得られた水酸化マグネシウムスラリーを130℃で4時間加熱し、水酸化マグネシウムスラリーを得た。得られた水酸化マグネシウムスラリーにホウ酸水溶液を適量添加し、濾過し、固形分の20倍質量の純水で洗浄し、水酸化マグネシウムのケーキを得た。
【0096】
得られたケーキを180℃で40分間乾燥し、水酸化マグネシウムを得た。得られた水酸化マグネシウムを昇温時間1.5時間、保持温度900℃、保持時間0.5時間及び降温時間0.5時間の条件でロータリーキルンを用いて空気雰囲気で焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物をジェットミルにより粉砕し、比較例1の酸化マグネシウムを得た。比較例1の酸化マグネシウムを20000倍のSEM写真で任意の100粒子を観察した結果、板状粒子の数:網状粒子の数=0:100であった。したがって、板状粒子の数:網状粒子の数は、1:99~20:80の範囲外であった。
【0097】
図4は、比較例1の酸化マグネシウムにおける粒子の例を示すSEM写真である。倍率は20000倍である。図示されるように、骨格部分が任意の方向に曲がったり、歪んだりした形状で、図2(a)の場合と比較して相対的に小さな網状粒子(又はその集合体)は存在しているが、板状粒子らしき粒子はほとんど存在しなかった。また、図示していないが、倍率は500倍のSEM写真から、塊状粒子は確認されなかった。
【0098】
[比較例2]
1.7mol/Lの塩化マグネシウム水溶液と12mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液とを混合し、130℃で4時間反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。得られたスラリーを濾過し、固形分の20倍質量の純水で洗浄し、水酸化マグネシウムのケーキを得た。得られたケーキを180℃で40分間乾燥し、水酸化マグネシウムを得た。
【0099】
得られた水酸化マグネシウムを、昇温時間1.5時間、保持温度950℃、保持時間0.5時間及び降温時間0.5時間の条件でロータリーキルンを用いて空気雰囲気で焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物をジェットミルにより粉砕し、比較例2の酸化マグネシウムを得た。得られた比較例2の酸化マグネシウムを20000倍のSEM写真で任意の100粒子を観察した結果、板状粒子の数:網状粒子の数=0:100であった。したがって、板状粒子の数:網状粒子の数は1:99~20:80の範囲外であった。
【0100】
[比較例3]
酸化マグネシウムCのみからなる酸化マグネシウムを比較例3とした。比較例2の酸化マグネシウムでは、板状粒子の数:網状粒子の数=100:0であった。したがって、板状粒子の数:網状粒子の数は、1:99~20:80の範囲外であった。
【0101】
[比較例4]
酸化マグネシウムCと酸化マグネシウムDとを30:70の重量比で混合し、比較例4の酸化マグネシウムとした。比較例4の酸化マグネシウムでは、板状粒子の数:網状粒子の数=30:70であった。したがって、板状粒子の数:網状粒子の数は、1:99~20:80の範囲外であった。
【0102】
(2)評価項目について
実施例1の酸化マグネシウム並びに比較例1及び比較例2の酸化マグネシウムについて、粒子径、窪みの孔径、粒度分布、スラリー粘度、微量元素の含有量、細孔分布、細孔容積、BET比表面積、スラリー塗布試験を評価した。
実施例2、実施例3、比較例3、比較例4について、粒子径、窪みの孔径、粒度分布、微量元素の含有量、細孔分布、細孔容積、BET比表面積、スラリー塗布試験を評価した。
【0103】
(3)評価結果について
(a)粒子径及び窪みの孔径
実施例1、実施例2及び実施例3の酸化マグネシウムにおいて、網状粒子の粒子径は、概ね0.05~5μmの範囲の値であった。実施例1、実施例2及び実施例3の酸化マグネシウムにおいて、網状粒子の窪みの孔径は、概ね0.005~0.2μmの範囲の値であった。実施例1、実施例2及び実施例3の酸化マグネシウムにおいて、板状粒子の粒子径は、概ね0.05~5μmの範囲の値であり、網状粒子と同程度であった。実施例1の酸化マグネシウムにおいて、塊状粒子の粒子径は、概ね5~100μmの範囲の値であった。
【0104】
一方、比較例1及び比較例2の酸化マグネシウムでは、網状粒子は形成されたが板状粒子が形成されなかった。
(b)粒度分布
実施例1の酸化マグネシウムでは、D10=1.24μm、D50=2.55μm、D90=9.97μmであり、体積平均径MVは、4.57μmであった。
実施例2の酸化マグネシウムでは、D10=0.77μm、D50=1.53μm、D90=2.54μmであり、体積平均径MVは、1.62μmであった。
実施例3の酸化マグネシウムでは、D10=0.72μm、D50=1.54μm、D90=2.58μmであり、体積平均径MVは、1.62μmであった。
すなわち、実施例1、実施例2及び実施例3の酸化マグネシウムでは、D10は0.65~1.7μmの範囲内であり、D50は1.5~3.6μmの範囲内であり、D90は2.0~14μmの範囲内であり、MVは1.55~6.4μmの範囲内であった。すなわち、実施例1、実施例2及び実施例3の酸化マグネシウムの粒度分布は比較的小さい粒子径であった。
【0105】
一方、比較例1の酸化マグネシウムでは、D10=1.29μm、D50=6.15μm、D90=40.01μmであり、体積平均径MVは、17.17μmであった。すなわち、比較例1の酸化マグネシウムのD10は0.65~1.7μmの範囲内であったが、D50は1.5~3.6μmの範囲外であり、D90は2.0~14μmの範囲外であり、MVは1.55~6.4μmの範囲外であった。
比較例2の酸化マグネシウムでは、D10=1.02μm、D50=3.86μm、D90=70.52μmであり、体積平均径MVは、25.53μmであった。すなわち、比較例2の酸化マグネシウムのD10は0.65~1.7μmの範囲内であったが、D50は1.5~3.6μmの範囲外であり、D90は2.0~14μmの範囲外であり、MVは1.55~6.4μmの範囲外であった。
比較例3の酸化マグネシウムでは、D10=1.14μm、D50=4.00μm、D90=6.75μmであり、体積平均径MVは、4.12μmであった。すなわち、比較例3の酸化マグネシウムのD10は0.65~1.7μmの範囲内であり、D50は1.5~3.6μmの範囲外であり、D90は2.0~14μmの範囲内であり、MVは1.55~6.4μmの範囲内であった。
すなわち、比較例1、比較例2及び比較例3の酸化マグネシウムの粒度分布は比較的大きい粒子径であった。
比較例4の酸化マグネシウムでは、D10=0.52μm、D50=1.43μm、D90=2.57μmであり、体積平均径MVは、1.50μmであった。すなわち、比較例4の酸化マグネシウムのD10は0.65~1.7μmの範囲外であり、D50は1.5~3.6μmの範囲外であり、D90は2.0~14μmの範囲内であり、MVは1.55~6.4μmの範囲外であった。
すなわち、比較例4の酸化マグネシウムの粒度分布は比較的小さい粒子径であった。
【0106】
(c)スラリー粘度
実施例1の酸化マグネシウムでは、5℃におけるスラリーの粘度が3.69mPa・sであった。したがって、5℃におけるスラリーの粘度が、塗布のし易い2.2~5.2mPa・sの範囲内であった。
【0107】
一方、比較例1及び比較例2の酸化マグネシウムでは、5℃におけるスラリーの粘度がそれぞれ3.39mPa・s及び3.70mPa・sであった。したがって、5℃におけるスラリーの粘度が、塗布のし易い2.2~5.2mPa・sの範囲内であった。
【0108】
(d)微量元素の含有量
実施例1の酸化マグネシウムでは代表的な微量元素としてホウ素(B)が795ppm、アルミニウム(Al)が205ppm、銅(Cu)が109ppm、鉄(Fe)が266ppm、マンガン(Mn)が91ppm、チタン(Ti)が12ppmであった。
【0109】
実施例2の酸化マグネシウムでは代表的な微量元素としてホウ素(B)が236ppm、アルミニウム(Al)が51ppm、銅(Cu)が4ppm、鉄(Fe)が2ppm、マンガン(Mn)が1ppm未満、チタン(Ti)が1ppm未満であった。
実施例3の酸化マグネシウムでは代表的な微量元素としてホウ素(B)が244ppm、アルミニウム(Al)が261ppm、銅(Cu)が4ppm、鉄(Fe)が8ppm、マンガン(Mn)が1ppm未満、チタン(Ti)が1ppm未満であった。
【0110】
一方、比較例1の酸化マグネシウムでは代表的な微量元素としてホウ素(B)が852ppm、アルミニウム(Al)が22ppm、銅(Cu)が1ppm、鉄(Fe)が135ppm、マンガン(Mn)が8ppm、チタン(Ti)が2ppmであった。比較例2の酸化マグネシウムでは代表的な微量元素としてホウ素(B)が200ppm、アルミニウム(Al)が1ppm未満、銅(Cu)が2ppm、鉄(Fe)が0ppm、マンガン(Mn)が1ppm未満、チタン(Ti)が1ppm未満であった。
【0111】
比較例3の酸化マグネシウムでは代表的な微量元素としてホウ素(B)が144ppm、アルミニウム(Al)が22ppm、銅(Cu)が4ppm、鉄(Fe)が1ppm未満、マンガン(Mn)が1ppm未満、チタン(Ti)が1ppm未満であった。
比較例4の酸化マグネシウムでは代表的な微量元素としてホウ素(B)が240ppm、アルミニウム(Al)が331ppm、銅(Cu)が4ppm、鉄(Fe)が11ppm、マンガン(Mn)が1ppm未満、チタン(Ti)が1ppm未満であった。
【0112】
上記の(b)~(d)の結果を表1にまとめた。
【表1】
【0113】
(e)細孔分布、細孔容積及びBET比表面積
図5は、実施例1の酸化マグネシウムにおける細孔分布の一例を示すグラフである。縦軸は、微分細孔容積(cm・g-1・nm-1)、横軸は細孔径(nm)である。実施例1の酸化マグネシウムでは、全細孔容積は、0.276cm/gであり、BET比表面積は16.84m/gであった。したがって、全細孔容積及びBET比表面積は相対的に大きかった。また、細孔径2~6nm付近と、細孔径20~70nm付近に、細孔容積のピークが存在した。
【0114】
図6は、実施例2の酸化マグネシウムにおける細孔分布の一例を示すグラフである。縦軸は、微分細孔容積(cm・g-1・nm-1)、横軸は細孔径(nm)である。実施例2の酸化マグネシウムでは、全細孔容積は、0.290cm/gであり、BET比表面積は20.28m/gであった。したがって、全細孔容積及びBET比表面積は相対的に大きかった。また、細孔径2~6nm付近と、細孔径30~70nm付近に、細孔容積のピークが存在した。
【0115】
図7は、実施例3の酸化マグネシウムにおける細孔分布の一例を示すグラフである。縦軸は、微分細孔容積(cm・g-1・nm-1)、横軸は細孔径(nm)である。実施例3の酸化マグネシウムでは、全細孔容積は、0.259cm/gであり、BET比表面積は32.83m/gであった。したがって、全細孔容積及びBET比表面積は相対的に小さかった。また、細孔径3~6nm付近に、細孔容積のピークが存在した。細孔径30~70nm付近に、細孔容積のピークが存在したが小さめであった。
【0116】
図8は、比較例1の酸化マグネシウムにおける細孔分布の一例を示すグラフである。縦軸は、微分細孔容積(cm・g-1・nm-1)、横軸は細孔径(nm)である。比較例1の酸化マグネシウムでは、全細孔容積は、0.201cm/gであり、BET比表面積は15.34m/gであった。したがって、全細孔容積及びBET比表面積は相対的に小さかった。また、細孔径2~6nm付近に、細孔容積のピークが存在した。しかし、細孔径20~70nm付近に細孔容積のピークが存在しなかった。細孔径50~80nm付近に、細孔容積のピークが存在したが小さめであった。
【0117】
図9は、比較例3の酸化マグネシウムにおける細孔分布の一例を示すグラフである。縦軸は、微分細孔容積(cm・g-1・nm-1)、横軸は細孔径(nm)である。比較例3の酸化マグネシウムでは、全細孔容積は、0.281cm/gであり、BET比表面積は121.67m/gであった。したがって、全細孔容積及びBET比表面積は相対的に小さかった。また、細孔径3~6nm付近に、細孔容積のピークが存在した。
【0118】
図10は、比較例4の酸化マグネシウムにおける細孔分布の一例を示すグラフである。縦軸は、微分細孔容積(cm・g-1・nm-1)、横軸は細孔径(nm)である。比較例4の酸化マグネシウムでは、全細孔容積は、0.282cm/gであり、BET比表面積は46.43m/gであった。したがって、全細孔容積及びBET比表面積は相対的に小さかった。また、細孔径3~6nm付近に、細孔容積のピークが存在した。
【0119】
(f)塗布試験に基づく光学観察画像及び3D観察画像
図11は、実施例1の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す光学観察画像である。倍率は40倍である。図12は、実施例1の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す3D観察画像である。倍率は120倍である。図視されるように、実施例1の酸化マグネシウムを含むスラリーで形成された塗布膜には、斑やダマが少ないことが判明した。
【0120】
図13は、実施例2の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す3D観察画像である。倍率は120倍である。図視されるように、実施例2の酸化マグネシウムを含むスラリーで形成された塗布膜には、斑やダマが少ないことが判明した。
【0121】
図14は、実施例3の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す3D観察画像である。倍率は120倍である。図視されるように、実施例3の酸化マグネシウムを含むスラリーで形成された塗布膜には、斑やダマが少ないことが判明した。
【0122】
一方、図15は、比較例1の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す光学観察画像である。倍率は40倍である。図16は、比較例1の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す3D観察画像である。倍率は120倍である。図視されるように、比較例1の酸化マグネシウムを含むスラリーで形成された塗布膜には、斑やダマが多いことが判明した。
【0123】
図17は、比較例3の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す3D観察画像である。倍率は120倍である。図視されるように、比較例3の酸化マグネシウムを含むスラリーで形成された塗布膜には、斑やダマが多いことが判明した。
【0124】
図18は、比較例4の酸化マグネシウムにおける塗布試験結果の一例を示す3D観察画像である。倍率は120倍である。図視されるように、比較例4の酸化マグネシウムを含むスラリーで形成された塗布膜には、斑やダマが多いことが判明した。
【0125】
以上のデータから分かるように、本発明の焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムは、上記所定の構成を有しているので、その焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを鋼板上に均一に塗布することが可能となる。それにより、その焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを用いることで、良好な被膜特性を有するフォルステライト被膜を得ることができる。したがって、その焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを用いて製造された方向性電磁鋼板の磁気特性を改善することができる。
【符号の説明】
【0126】
1 網状粒子
2 板状粒子
3 塊状粒子
11 表面
12 窪み
21 表面
【要約】
【課題】焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムのスラリーを鋼板上に均一に塗布することが可能な焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムを提供する。
【解決手段】焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムは、表面に複数の窪みを有する網状粒子と、板状粒子と、を含む。板状粒子の数と網状粒子の数の比率は、1:99~20:80である。
【選択図】図1
図1
図2
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図10
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図18