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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】インジェクタ制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/20 20060101AFI20240807BHJP
   F02M 51/00 20060101ALI20240807BHJP
   F02M 51/06 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
F02D41/20
F02M51/00 A
F02M51/06 U
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021041498
(22)【出願日】2021-03-15
(65)【公開番号】P2022141273
(43)【公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 和孝
(72)【発明者】
【氏名】川那部 元博
(72)【発明者】
【氏名】藤井 保生
(72)【発明者】
【氏名】中北 幸司
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-270594(JP,A)
【文献】特開2019-143520(JP,A)
【文献】特開2010-037986(JP,A)
【文献】特開2007-309100(JP,A)
【文献】特表2002-502479(JP,A)
【文献】特開2008-075516(JP,A)
【文献】特開2011-052631(JP,A)
【文献】特開2016-008516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/20
F02M 51/00
F02M 51/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を噴射するインジェクタの駆動を制御するインジェクタ制御装置であって、
コンデンサのチャージ電圧がチャージ開始閾値以下になるとバッテリから供給される電圧に基づいて前記コンデンサに電気エネルギーを蓄積し、前記チャージ電圧がチャージ完了閾値に到達すると前記電気エネルギーの蓄積を停止するチャージ電圧制御回路と、
前記チャージ電圧を検出するチャージ電圧検出部と、
前記インジェクタの非通電時における前記チャージ電圧を前記チャージ電圧検出部から取得し、前記チャージ電圧が前記チャージ完了閾値に到達してから前記コンデンサの自然放電により前記チャージ開始閾値以下になるまでに前記チャージ電圧検出部から取得した前記チャージ電圧をロギングし、前記ロギング結果に基づいて前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値のばらつきを把握し、前記ばらつきに応じて前記インジェクタの通電時間を補正する通電時間補正部と、
前記チャージ電圧制御回路から供給される前記チャージ電圧と前記通電時間補正部により補正された前記通電時間とに基づいて、前記インジェクタの駆動を制御するインジェクタ制御回路と、
を備え
前記通電時間補正部は、前記ロギングの前記結果として前記チャージ電圧検出部から取得した前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値が、前記チャージ電圧制御回路の個体差により存在する前記ばらつきの範囲内の値として予め設定された第1基準値よりも高い場合に前記通電時間を前記通電時間の値として予め設定された第2基準値よりも短くする補正を実行し、前記第1基準値よりも低い場合に前記通電時間を前記第2基準値よりも長くする補正を実行することを特徴とするインジェクタ制御装置。
【請求項2】
前記通電時間補正部は、前記ロギング前記結果に基づいて前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値の前記ばらつきを把握するとき、複数の前記ロギングの前記結果として前記チャージ電圧検出部から取得した複数の前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値の平均値を算出することを特徴とする請求項に記載のインジェクタ制御装置。
【請求項3】
前記通電時間補正部は、前記ロギング前記結果に基づいて前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値の前記ばらつきを把握するとき、複数の前記ロギングの前記結果として前記チャージ電圧検出部から取得した複数の前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値のうち最大値および最小値を除いた残りの複数の前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値の平均値を算出することを特徴とする請求項に記載のインジェクタ制御装置。
【請求項4】
前記通電時間補正部により補正された前記通電時間を記憶する記憶部をさらに備え、
前記インジェクタ制御回路は、前記通電時間補正部により補正され前記記憶部に記憶された前記通電時間に基づいて前記インジェクタの駆動を制御することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のインジェクタ制御装置。
【請求項5】
前記通電時間補正部は、生産工程において前記通電時間を補正し、
前記記憶部は、前記生産工程において前記通電時間補正部により補正された前記通電時間を記憶することを特徴とする請求項に記載のインジェクタ制御装置。
【請求項6】
前記通電時間補正部は、工場から出荷された後の市場において前記通電時間を補正し、
前記記憶部は、前記市場において前記通電時間補正部により補正された前記通電時間を記憶することを特徴とする請求項に記載のインジェクタ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を噴射するインジェクタの駆動を制御するインジェクタ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インジェクタ制御装置は、燃料噴射の初期において、バッテリから供給される電圧を昇圧した昇圧電圧、すなわちコンデンサのチャージ電圧をインジェクタのソレノイドコイルに供給してインジェクタの弁を開く。続いて、インジェクタ制御装置は、燃料噴射の初期に供給したチャージ電圧よりも低い電圧、すなわちバッテリから供給される電圧をソレノイドコイルに供給し、インジェクタの弁が開いた状態を保持する。続いて、インジェクタの通電を開始した時点から予め設定されたインジェクタの通電時間が経過すると、インジェクタ制御装置は、ソレノイドコイルに対する電圧の供給を停止し、インジェクタの弁を閉じて燃料噴射を停止する。
【0003】
特許文献1には、このようなインジェクタ制御装置として、高圧インジェクタ制御装置が開示されている。特許文献1に記載された高圧インジェクタ制御装置の噴射時間補正手段は、コンデンサに単位時間当たりに蓄えられるエネルギ量を示す昇圧能力に基づきインジェクタの噴射設定時間を補正する。特許文献1に記載された高圧インジェクタ制御装置によれば、噴射量のばらつきを抑制することができる。
【0004】
しかし、本発明者が得た知見によれば、インジェクタの噴射設定時間が昇圧能力に基づいて補正された場合であっても、燃料噴射量のばらつきを抑制できない場合がある。例えば、騒音低減等を目的として燃料噴射を複数回に分割する多段噴射が実行される場合において、微小燃料噴射が行われるプレ噴射では燃料噴射量のばらつきを抑制できない場合がある。なお、レ噴射の場合だけに限定されずメイン噴射の場合であっても、燃料噴射量のばらつきを抑制できない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-113955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、燃料噴射量のばらつきの補正精度を向上させることができるインジェクタ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、燃料を噴射するインジェクタの駆動を制御するインジェクタ制御装置であって、コンデンサのチャージ電圧がチャージ開始閾値以下になるとバッテリから供給される電圧に基づいて前記コンデンサに電気エネルギーを蓄積し、前記チャージ電圧がチャージ完了閾値に到達すると前記電気エネルギーの蓄積を停止するチャージ電圧制御回路と、前記チャージ電圧を検出するチャージ電圧検出部と、前記チャージ電圧検出部により検出された前記チャージ電圧を取得し、前記チャージ電圧検出部から取得した前記チャージ電圧に基づいて前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値のばらつきを把握し、前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値の前記ばらつきに応じて前記インジェクタの通電時間を補正する通電時間補正部と、前記チャージ電圧制御回路から供給される前記チャージ電圧と前記通電時間補正部により補正された前記通電時間とに基づいて、前記インジェクタの駆動を制御するインジェクタ制御回路と、を備えたことを特徴とする本発明に係るインジェクタ制御装置により解決される。
【0008】
本発明に係るインジェクタ制御装置によれば、通電時間補正部は、チャージ電圧検出部により検出されたチャージ電圧を取得し、チャージ電圧検出部から取得したチャージ電圧に基づいてチャージ開始閾値またはチャージ完了閾値のばらつきを把握する。チャージ開始閾値は、チャージ電圧制御回路がコンデンサにおける電気エネルギーの蓄積を開始するときのコンデンサのチャージ電圧である。チャージ完了閾値は、チャージ電圧制御回路がコンデンサにおける電気エネルギーの蓄積を停止するときのコンデンサのチャージ電圧、すなわちコンデンサの充電が完了するときのコンデンサのチャージ電圧である。また、通電時間補正部は、チャージ開始閾値またはチャージ完了閾値のばらつきに応じてインジェクタの通電時間を補正する。そして、インジェクタ制御回路は、チャージ電圧制御回路から供給されるチャージ電圧と、通電時間補正部により補正されたインジェクタの通電時間と、に基づいて、インジェクタの駆動を制御する。
【0009】
ここで、本発明者が得た知見によれば、インジェクタの通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧の値が、燃料噴射量に影響を与える。また、コンデンサのチャージ電圧の値がインジェクタの非通電時におけるコンデンサの自然放電によりチャージ完了閾値からチャージ開始閾値に低下する時間は、インジェクタの通電時間および燃料噴射同士の時間間隔よりも非常に長い。そのため、チャージ完了閾値のばらつきがインジェクタの通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧の値に大きい影響を与える。また、チャージ完了閾値のばらつきはチャージ開始閾値のばらつきと等しいため、チャージ開始閾値のばらつきもインジェクタの通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧の値に大きい影響を与える。そして、本発明に係るインジェクタ制御装置は、インジェクタの通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧の値に大きい影響を与えるチャージ開始閾値またはチャージ完了閾値のばらつきに応じてインジェクタの通電時間を補正する。これにより、本発明に係るインジェクタ制御装置は、燃料噴射量のばらつきの補正精度を向上させることができる。
【0010】
本発明に係るインジェクタ制御装置において、好ましくは、前記通電時間補正部は、前記インジェクタの非通電時における前記チャージ電圧を前記チャージ電圧検出部から取得し、前記チャージ電圧検出部から取得した前記チャージ電圧の統計処理を実行することにより前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値のばらつきを把握することを特徴とする。
【0011】
本発明に係るインジェクタ制御装置によれば、通電時間補正部は、インジェクタの非通電時においてチャージ電圧検出部から取得したチャージ電圧の統計処理を実行することによりチャージ開始閾値またはチャージ完了閾値のばらつきを把握する。これにより、通電時間補正部は、インジェクタが駆動していない状態において、簡易的な処理により精度よくチャージ開始閾値またはチャージ完了閾値のばらつきを把握することができる。
【0012】
本発明に係るインジェクタ制御装置において、好ましくは、前記通電時間補正部は、前記インジェクタの非通電時に生ずる前記コンデンサの充放電の複数の周期における複数の前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値を前記チャージ電圧検出部から取得し、前記チャージ電圧検出部から取得した複数の前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値の平均値を算出することにより前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値のばらつきを把握することを特徴とする。
【0013】
本発明に係るインジェクタ制御装置によれば、通電時間補正部は、複数のチャージ開始閾値またはチャージ完了閾値の平均値を算出することによりチャージ開始閾値またはチャージ完了閾値のばらつきを把握するため、簡易的な処理により精度よくチャージ開始閾値またはチャージ完了閾値のばらつきを把握することができるとともに、燃料噴射量のばらつきの補正精度をより一層向上させることができる。
【0014】
本発明に係るインジェクタ制御装置において、好ましくは、前記通電時間補正部は、前記インジェクタの非通電時に生ずる前記コンデンサの充放電の複数の周期における複数の前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値を前記チャージ電圧検出部から取得し、前記チャージ電圧検出部から取得した複数の前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値のうち最大値および最小値を除いた残りの複数の前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値の平均値を算出することにより前記チャージ開始閾値または前記チャージ完了閾値のばらつきを把握することを特徴とする。
【0015】
本発明に係るインジェクタ制御装置によれば、通電時間補正部は、複数のチャージ開始閾値またはチャージ完了閾値のうち最大値および最小値を除いた残りの複数のチャージ開始閾値またはチャージ完了閾値の平均値を算出することによりチャージ開始閾値またはチャージ完了閾値のばらつきを把握するため、簡易的な処理により精度よくチャージ開始閾値またはチャージ完了閾値のばらつきを把握することができるとともに、燃料噴射量のばらつきの補正精度をより一層向上させることができる。
【0016】
本発明に係るインジェクタ制御装置は、好ましくは、前記通電時間補正部により補正された前記通電時間を記憶する記憶部をさらに備え、前記インジェクタ制御回路は、前記通電時間補正部により補正され前記記憶部に記憶された前記通電時間に基づいて前記インジェクタの駆動を制御することを特徴とする。
【0017】
本発明に係るインジェクタ制御装置によれば、インジェクタ制御回路は、通電時間補正部により補正されたインジェクタの通電時間であって、記憶部に予め記憶されたインジェクタの通電時間に基づいてインジェクタの駆動を制御する。そのため、インジェクタ制御回路は、より正確なインジェクタの通電時間に基づいて、より速い処理速度でインジェクタの駆動を制御することができる。
【0018】
本発明に係るインジェクタ制御装置において、好ましくは、前記通電時間補正部は、生産工程において前記通電時間を補正し、前記記憶部は、前記生産工程において前記通電時間補正部により補正された前記通電時間を記憶することを特徴とする。
【0019】
本発明に係るインジェクタ制御装置によれば、通電時間補正部は、生産工程においてインジェクタの通電時間を補正する。また、記憶部は、生産工程において通電時間補正部により補正されたインジェクタの通電時間を記憶する。これにより、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)の交換が行われる場合であっても、交換後の電子制御装置の一部として機能するインジェクタ制御装置は、燃料噴射量のばらつきの補正精度を向上させることができる。そのため、インジェクタ制御装置が工場から出荷された後の市場において、電子制御装置の交換を容易に行うことができる。
【0020】
本発明に係るインジェクタ制御装置において、好ましくは、前記通電時間補正部は、工場から出荷された後の市場において前記通電時間を補正し、前記記憶部は、前記市場において前記通電時間補正部により補正された前記通電時間を記憶することを特徴とする。
【0021】
本発明に係るインジェクタ制御装置によれば、通電時間補正部は、工場から出荷された後の市場においてインジェクタの通電時間を補正する。記憶部は、市場において通電時間補正部により補正されたインジェクタの通電時間を記憶する。これにより、チャージ開始閾値またはチャージ完了閾値が例えばコンデンサの経時劣化などにより市場において変化した場合であっても、本発明に係るインジェクタ制御装置は、燃料噴射量のばらつきの補正精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、燃料噴射量のばらつきの補正精度を向上させることができるインジェクタ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係るインジェクタ制御装置の要部構成を表すブロック図である。
図2】本実施形態のインジェクタの非通電時におけるチャージ電圧の一例を例示するグラフである。
図3】チャージ開始閾値およびチャージ完了閾値のばらつきを説明するグラフである。
図4】本実施形態に係るインジェクタ制御装置の動作の一例を例示するタイミングチャートである。
図5】本実施形態の通電時間補正部が実行する処理の具体例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係るインジェクタ制御装置の要部構成を表すブロック図である。
本実施形態に係るインジェクタ制御装置2は、例えば副室式内燃機関に搭載され、燃料を噴射するインジェクタ4の駆動を制御する。図1に表したように、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2は、マイクロコンピュータ(以下、説明の便宜上、「マイコン」と称する。)21と、チャージ電圧制御回路22と、チャージ電圧検出部23と、インジェクタ制御回路24と、記憶部25と、を備え、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)の一部として機能する。以下の説明では、説明の便宜上、マイクロコンピュータを「マイコン」と称する。
【0026】
インジェクタ制御装置2には、種々のセンサにより検出されるエンジン運転情報3が入力される。図1に表したように、エンジン運転情報3としては、例えばエンジン回転数に関する回転信号や、アクセル開度等のドライバ要求に関する信号が挙げられる。
【0027】
前述したように、インジェクタ制御装置2は、インジェクタ4の駆動を制御する。インジェクタ4は、常閉(すなわちノーマリークローズ)式の電磁弁の構造を有する。例えば、インジェクタ4は、ソレノイドコイルと、プランジャと、リターンスプリングと、ニードル弁と、を有する。インジェクタ制御装置2から送信された制御信号に基づいて、電圧がソレノイドコイルに供給されると、ソレノイドコイルが電磁石となって、リターンスプリングの付勢力に対抗しつつプランジャを引き寄せる。そして、ニードル弁が開く。これにより、燃料が、インジェクタ4の先端に設けられたノズル孔から噴射される。一方で、インジェクタ制御装置2から送信された制御信号に基づいて、ソレノイドコイルに対する電圧の供給が停止すると、ソレノイドコイルの磁力が失われる。そして、プランジャおよびノードル弁が、リターンスプリングの付勢力を受けて元の位置に戻り、ノズル孔を閉じる。これにより、燃料噴射が停止する。
【0028】
マイコン21は、CPU(Central Processing Unit)としての機能を有し、記憶部25に記憶されたプログラムを読み出して種々の演算や処理を実行する。また、マイコン21は、インジェクタ4の通電時間を補正する通電時間補正部211を有する。通電時間補正部211の詳細については、後述する。
【0029】
チャージ電圧制御回路22は、いわゆる昇圧回路としての機能を有し、コイルと、コンデンサと、トランジスタなどのスイッチング素子と、ダイオードなどの整流素子と、を有する。チャージ電圧制御回路22は、スイッチング素子のオン/オフを切り替えてバッテリから供給される電圧を昇圧し、コンデンサに電気エネルギーを蓄積する。つまり、チャージ電圧制御回路22は、バッテリから供給される電圧に基づいてコンデンサに電気エネルギーを蓄積する。
【0030】
チャージ電圧検出部23は、コンデンサの電圧すなわちチャージ電圧を検出する。そして、チャージ電圧検出部23は、検出したコンデンサのチャージ電圧に関する信号をマイコン21に送信する。
通電時間補正部211は、チャージ電圧検出部23により検出されたコンデンサのチャージ電圧を取得し、チャージ電圧検出部23から取得したコンデンサのチャージ電圧に基づいてインジェクタ4の通電時間を設定する。
【0031】
インジェクタ制御回路24は、チャージ電圧制御回路22から供給されるチャージ電圧と、通電時間補正部211により設定された通電時間と、に基づいて、インジェクタ4の駆動を制御する。例えば、インジェクタ制御回路24は、燃料噴射の初期において、バッテリから供給される電圧を昇圧した昇圧電圧、すなわちコンデンサのチャージ電圧をインジェクタ4のソレノイドコイルに供給してインジェクタ4のニードル弁を開く。つまり、チャージ電圧制御回路22により生成された昇圧電圧すなわちチャージ電圧は、インジェクタ制御回路24を介してインジェクタ4に供給される。また、インジェクタ4の通電を開始した時点(すなわちインジェクタ4に対する電圧の供給を開始した時点)から通電時間補正部211により設定された通電時間が経過すると、インジェクタ制御回路24は、インジェクタ4のソレノイドコイルに対する電圧の供給を停止する。
【0032】
記憶部25は、マイコン21によって実行されるプログラムを格納(記憶)する。記憶部25としては、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などが挙げられる。なお、記憶部25は、インジェクタ制御装置2に接続された外部の記憶装置であってもよい。
【0033】
本実施形態に係るインジェクタ制御装置2において、チャージ電圧制御回路22と、チャージ電圧検出部23と、インジェクタ制御回路24と、通電時間補正部211と、は、記憶部25に格納されているプログラムをマイコン21が実行することにより実現されてもよく、ハードウェアによって実現されてもよく、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現されてもよい。
【0034】
次に、本実施形態のチャージ電圧制御回路22を、図面を参照してさらに説明する。
図2は、本実施形態のインジェクタの非通電時におけるチャージ電圧の一例を例示するグラフである。
図3は、チャージ開始閾値およびチャージ完了閾値のばらつきを説明するグラフである。
【0035】
図2に表したように、コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ開始閾値VL以下になると(タイミングt11)、チャージ電圧制御回路22は、バッテリから供給される電圧に基づいてコンデンサに電気エネルギーを蓄積する。つまり、本実施形態のチャージ開始閾値VLは、チャージ電圧制御回路22がコンデンサにおける電気エネルギーの蓄積を開始するときのコンデンサのチャージ電圧VCHGである。これにより、コンデンサのチャージ電圧VCHGが上昇する(タイミングt11~タイミングt12)。続いて、コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ完了閾値VHに到達すると(タイミングt12)、チャージ電圧制御回路22は、コンデンサにおける電気エネルギーの蓄積を停止する。つまり、本実施形態のチャージ完了閾値VHは、チャージ電圧制御回路22がコンデンサにおける電気エネルギーの蓄積を停止するときのコンデンサのチャージ電圧VCHG、すなわちコンデンサの充電が完了するときのコンデンサのチャージ電圧VCHGである。
【0036】
続いて、インジェクタの非通電時には、コンデンサの自然放電が生ずる(タイミングt12~タイミングt13)。つまり、コンデンサのチャージ電圧VCHGがインジェクタ制御回路24を介してインジェクタ4に供給されていなくとも、コンデンサのチャージ電圧VCHGは、時間経過とともに自然に低下する(タイミングt12~タイミングt13)。
【0037】
そして、コンデンサのチャージ電圧VCHGが再びチャージ開始閾値VL以下になると(タイミングt13)、チャージ電圧制御回路22は、バッテリから供給される電圧に基づいてコンデンサに電気エネルギーを蓄積する。これにより、コンデンサのチャージ電圧VCHGが再び上昇する(タイミングt13~タイミングt14)。続いて、コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ完了閾値VHに再び到達すると(タイミングt14)、チャージ電圧制御回路22は、コンデンサにおける電気エネルギーの蓄積を再び停止する。
【0038】
このように、インジェクタの非通電時には、コンデンサの自然放電が繰り返し生ずるとともに、コンデンサにおける電気エネルギーの蓄積が繰り返し実行される。コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ完了閾値VHからチャージ開始閾値VL以下に低下するまでの時間は、例えば約2秒以上、4秒以下程度である。
【0039】
ここで、インジェクタ制御装置2では、チャージ電圧制御回路22の個体差が存在する。チャージ電圧制御回路22の個体差は、チャージ電圧制御回路22が有するコンデンサのキャパシタ成分や抵抗成分のばらつき、およびチャージ電圧制御回路22が有するコイルのインダクタンス成分や抵抗成分のばらつきなどにより生ずる。あるいは、チャージ電圧制御回路22の個体差は、チャージ電圧制御回路22が有するコンデンサおよびコイルなどの各素子の製造公差、温度公差および耐久公差などにより生ずる。なお、チャージ電圧制御回路22の個体差が生ずる要因は、これらだけに限定されるわけではない。
【0040】
そして、チャージ電圧制御回路22の個体差により、チャージ開始閾値VLおよびチャージ完了閾値VHのばらつきが存在する。図3に表したように、チャージ電圧制御回路22Aにおいて、チャージ開始閾値VLは66.0Vであり、チャージ完了閾値VHは67.5Vである。また、チャージ電圧制御回路22Bにおいて、チャージ開始閾値VLは64.0Vであり、チャージ完了閾値VHは66.0Vである。また、チャージ電圧制御回路22Cにおいて、チャージ開始閾値VLは62.0Vであり、チャージ完了閾値VHは64.5Vである。このように、チャージ電圧制御回路22の個体差により、チャージ開始閾値VLには、約62.0V以上、66.0V以下程度のばらつきが生ずる。また、チャージ電圧制御回路22の個体差により、チャージ完了閾値VHには、約64.5V以上、67.5V以下程度のばらつきが生ずる。
【0041】
図3に表したように、チャージ電圧制御回路22では、チャージ開始閾値VLおよびチャージ完了閾値VHを一組とするばらつきが存在する。すなわち、チャージ開始閾値VLが相対的に高くなると、チャージ完了閾値VHも相対的に高くなるようなばらつきが生ずる。一方で、チャージ開始閾値VLが相対的に低くなると、チャージ完了閾値VHも相対的に低くなるようなばらつきが生ずる。
【0042】
そして、図3に表したように、チャージ電圧制御回路22A、22B、22Cのそれぞれにおいて、インジェクタの非通電時には、コンデンサの自然放電が繰り返し生ずるとともに(タイミングt22~タイミングt23)、コンデンサにおける電気エネルギーの蓄積が繰り返し実行される(タイミングt21~タイミングt22およびタイミングt23~タイミングt24)。
【0043】
ここで、チャージ開始閾値VLおよびチャージ完了閾値VHのばらつきが存在すると、燃料噴射量のばらつきが生ずる。例えば、騒音低減等を目的として燃料噴射を複数回に分割する多段噴射が実行される場合において、微小燃料噴射が行われるプレ噴射では燃料噴射量のばらつきを抑制できない場合がある。なお、レ噴射の場合だけに限定されずメイン噴射の場合であっても、燃料噴射量のばらつきを抑制できない場合がある。
【0044】
これに対して、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2の通電時間補正部211は、チャージ電圧検出部23により検出されたコンデンサのチャージ電圧VCHGを取得し、チャージ電圧検出部23から取得したコンデンサのチャージ電圧VCHGに基づいてチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握する。また、通電時間補正部211は、チャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきに応じてインジェクタ4の通電時間を補正する。そして、インジェクタ制御回路24は、チャージ電圧制御回路から供給されるコンデンサのチャージ電圧VCHGと、通電時間補正部211により補正されたインジェクタ4の通電時間と、に基づいて、インジェクタ4の駆動を制御する。
【0045】
なお、通電時間補正部211は、チャージ電圧検出部23から取得したコンデンサのチャージ電圧VCHGに基づいてチャージ開始閾値VLおよびチャージ完了閾値VHの少なくともいずれかのばらつきを把握してもよい。つまり、通電時間補正部211は、チャージ電圧検出部23から取得したコンデンサのチャージ電圧VCHGに基づいて、チャージ開始閾値VLのみのばらつきを把握してもよいし、チャージ完了閾値VHのみのばらつきを把握してもよいし、チャージ開始閾値VLおよびチャージ完了閾値VHの両方のばらつきを把握してもよい。これは、本実施形態の以下の説明においても同様である。
【0046】
また、通電時間補正部211は、チャージ開始閾値VLおよびチャージ完了閾値VHの少なくともいずれかのばらつきに応じてインジェクタ4の通電時間を補正してもよい。つまり、通電時間補正部211は、チャージ開始閾値VLのみのばらつきに応じてインジェクタ4の通電時間を補正してもよいし、チャージ完了閾値VHのみのばらつきに応じてインジェクタ4の通電時間を補正してもよいし、チャージ開始閾値VLおよびチャージ完了閾値VHの両方のばらつきに応じてインジェクタ4の通電時間を補正してもよい。これは、本実施形態の以下の説明においても同様である。
【0047】
以下、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2の動作を、図面を参照して詳しく説明する。
図4は、本実施形態に係るインジェクタ制御装置の動作の一例を例示するタイミングチャートである。
【0048】
まず、燃料噴射の開始において、インジェクタ制御回路24は、チャージ電圧制御回路22により生成された昇圧電圧すなわちコンデンサのチャージ電圧VCHGをインジェクタ4のソレノイドコイルに供給する(タイミングt31)。図4に表したタイミングt31において、コンデンサのチャージ電圧VCHGは、コンデンサの自然放電によりチャージ完了閾値VHから僅かに低下している。続いて、インジェクタ4のソレノイドコイルを流れる電流がピークに到達する(タイミングt32)。このように、燃料噴射の初期においては、ピーク電流がインジェクタ4のソレノイドコイルを流れる(タイミングt32)。
【0049】
燃料噴射の初期において、インジェクタ4のソレノイドコイルに供給されるチャージ電圧は、例えば約65±3V程度である。また、インジェクタ4のソレノイドコイルを流れるピーク電流は、例えば約14.0±0.35A程度である。
【0050】
図4に表したように、燃料噴射の初期においては、コンデンサのチャージ電圧VCHGがインジェクタ4のソレノイドコイルに供給されてチャージ開始閾値VL以下になるため、インジェクタ4のソレノイドコイルを流れる電流がピークに到達すると、チャージ電圧制御回路22は、バッテリから供給される電圧に基づいてコンデンサにおける電気エネルギーの蓄積を開始する(タイミングt32)。そして、コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ完了閾値VHに到達すると、チャージ電圧制御回路22は、コンデンサにおける電気エネルギーの蓄積を停止する(タイミングt33)。
【0051】
また、インジェクタ4のソレノイドコイルを流れる電流がピークに到達すると、インジェクタ制御回路24は、燃料噴射の初期に供給したチャージ電圧VCHGよりも低い電圧、すなわちバッテリから供給される電圧をインジェクタ4のソレノイドコイルに供給し、インジェクタ4のニードル弁が開いた状態を保持する(タイミングt32~タイミングt34)。インジェクタ4のニードル弁が開いた状態を保持するためにインジェクタ4のソレノイドコイルを流れる電流(ホールド電流)の平均値は、例えば約3.4A程度である。
【0052】
続いて、インジェクタ4の通電を開始した時点(すなわちインジェクタ4のソレノイドコイルに対する電圧の供給を開始した時点:タイミングt31)から通電時間補正部211により設定された通電時間が経過すると、インジェクタ制御回路24は、インジェクタ4のソレノイドコイルに対する電圧の供給を停止する(タイミングt34)。インジェクタ制御回路24がインジェクタ4の通電を開始してからインジェクタ4の通電を停止するまでの時間(タイミングt31~タイミングt34)は、約0.2ミリ秒以上、1.5ミリ秒以下程度である。
【0053】
続いて、インジェクタ制御回路24がインジェクタ4の通電を停止してから数百マイクロ秒あるいは数ミリ秒程度の時間が経過すると、インジェクタ制御回路24は、チャージ電圧制御回路22により生成された昇圧電圧すなわちコンデンサのチャージ電圧VCHGをインジェクタ4のソレノイドコイルに再び供給する(タイミングt35)。タイミングt35~タイミングt38におけるインジェクタ制御装置2の動作は、タイミングt31~タイミングt34に関して前述したインジェクタ制御装置2の動作と同様である。インジェクタ制御回路24がインジェクタ4の通電を開始してからインジェクタ4の通電を停止するまでの時間(タイミングt35~タイミングt38)は、数ミリ秒程度である。
【0054】
例えば、図4に表したタイミングt31~タイミングt34における燃料噴射は、多段噴射のプレ噴射の一例である。例えば、図4に表したタイミングt35~タイミングt38における燃料噴射は、多段噴射のメイン噴射の一例である。但し、図4に表したタイミングt31~タイミングt34における燃料噴射は、多段噴射のプレ噴射に限定されるわけではない。また、図4に表したタイミングt35~タイミングt38における燃料噴射は、多段噴射のメイン噴射に限定されるわけではない。
【0055】
ここで、本発明者が得た知見によれば、インジェクタ4の通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧VCHGの値、すなわち図4に表したタイミングt31およびタイミングt35におけるコンデンサのチャージ電圧VCHGの値が、燃料噴射量に影響を与える。
【0056】
例えば、インジェクタ4の通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧VCHGの値が相対的に高い場合には、タイミングt31~タイミングt32およびタイミングt35~タイミングt36においてインジェクタ4のソレノイドコイルを流れる電流の立ち上がりが相対的に早い。言い換えれば、インジェクタ4の通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧VCHGの値が相対的に高い場合には、タイミングt31~タイミングt32およびタイミングt35~タイミングt36においてインジェクタ4のソレノイドコイルを流れる電流の傾き(単位時間当たりの電流の変化量すなわち電流の変化率)が相対的に大きい。そのため、インジェクタ4の通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧VCHGの値が相対的に高い場合には、インジェクタ4の一定の通電時間における燃料噴射料は、相対的に多い。
【0057】
一方で、インジェクタ4の通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧VCHGの値が相対的に低い場合には、タイミングt31~タイミングt32およびタイミングt35~タイミングt36においてインジェクタ4のソレノイドコイルを流れる電流の立ち上がりが相対的に遅い。言い換えれば、インジェクタ4の通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧VCHGの値が相対的に低い場合には、タイミングt31~タイミングt32およびタイミングt35~タイミングt36においてインジェクタ4のソレノイドコイルを流れる電流の傾き(単位時間当たりの電流の変化量すなわち電流の変化率)が相対的に小さい。そのため、インジェクタ4の通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧VCHGの値が相対的に低い場合には、インジェクタ4の一定の通電時間における燃料噴射料は、相対的に少ない。
【0058】
また、前述したように、コンデンサのチャージ電圧VCHGの値がインジェクタ4の非通電時におけるコンデンサの自然放電によりチャージ完了閾値VHからチャージ開始閾値VLに低下する時間(図2に表したタイミングt12~タイミングt13および図3に表したタイミングt22~タイミングt23参照)は、インジェクタ4の通電時間(タイミングt31~タイミングt34およびタイミングt35~タイミングt38)および燃料噴射同士の時間間隔(タイミングt34~タイミングt35)よりも非常に長い。そのため、チャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきがインジェクタ4の通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧の値に大きい影響を与える。つまり、図3に関して前述した通り、チャージ電圧制御回路22では、チャージ開始閾値VLおよびチャージ完了閾値VHを一組とするばらつきが存在する。このように、チャージ完了閾値VHのばらつきはチャージ開始閾値VLのばらつきと等しいため、チャージ開始閾値VLのばらつきもインジェクタの通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧の値に大きい影響を与える。
【0059】
これに対して、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2の通電時間補正部211は、チャージ電圧検出部23により検出されたコンデンサのチャージ電圧VCHGを取得し、チャージ電圧検出部23から取得したコンデンサのチャージ電圧VCHGに基づいてチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握する。また、通電時間補正部211は、チャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきに応じてインジェクタ4の通電時間を補正する。
【0060】
具体的には、図3に関して前述したチャージ電圧制御回路22Aのように、チャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHが相対的に高い場合には、通電時間補正部211は、インジェクタ4の通電時間を相対的に短くする補正を実行する。一方で、図3に関して前述したチャージ電圧制御回路22Cのように、チャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHが相対的に低い場合には、通電時間補正部211は、インジェクタ4の通電時間を相対的に長くする補正を実行する。
【0061】
そして、インジェクタ制御回路24は、チャージ電圧制御回路から供給されるコンデンサのチャージ電圧VCHGと、通電時間補正部211により補正されたインジェクタ4の通電時間と、に基づいて、インジェクタ4の駆動を制御する。
【0062】
本実施形態に係るインジェクタ制御装置2によれば、インジェクタ4の通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧VCHGの値に大きい影響を与えるチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきに応じてインジェクタ4の通電時間を補正する。これにより、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2は、燃料噴射量のばらつきの補正精度を向上させることができる。
【0063】
また、本実施形態の記憶部25は、通電時間補正部211により補正されたインジェクタ4の通電時間を記憶する。そして、インジェクタ制御回路24は、通電時間補正部211により補正されたインジェクタ4の通電時間であって、記憶部25に予め記憶されたインジェクタ4の通電時間に基づいてインジェクタ4の駆動を制御する。これにより、インジェクタ制御回路24は、より正確なインジェクタ4の通電時間に基づいて、より速い処理速度でインジェクタ4の駆動を制御することができる。
【0064】
次に、本実施形態の通電時間補正部211がチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握する処理の具体例を、図面を参照して詳しく説明する。
図5は、本実施形態の通電時間補正部が実行する処理の具体例を表すフローチャートである。
【0065】
本具体例において、通電時間補正部211は、インジェクタ4の非通電時におけるコンデンサのチャージ電圧VCHGをチャージ電圧検出部23から取得し、チャージ電圧検出部23から取得したコンデンサのチャージ電圧VCHGの統計処理を実行することによりチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握する。以下、通電時間補正部211が実行する処理を、図5に表したフローチャートを参照しつつ説明する。
【0066】
まず、ステップS11において、チャージ電圧制御回路22は、バッテリから供給される電圧に基づいてコンデンサに電気エネルギーを蓄積し、コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ完了閾値VHに到達すると、コンデンサにおける電気エネルギーの蓄積を停止する。これにより、初期チャージが完了する。
【0067】
続いて、ステップS12において、チャージ電圧制御回路22は、コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ開始閾値VL以下であるか否かを判断する。コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ開始閾値VL以下ではない場合には(ステップS12:NO)、ステップS12において、チャージ電圧制御回路22は、コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ開始閾値VL以下であるか否かを引き続き判断する。
【0068】
一方で、コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ開始閾値VL以下である場合には(ステップS12:YES)、ステップS13において、チャージ電圧制御回路22は、バッテリから供給される電圧に基づいてコンデンサに電気エネルギーを蓄積する(チャージ開始)。
【0069】
続いて、ステップS14において、チャージ電圧制御回路22は、コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ完了閾値VHに到達したか否かを判断する。コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ完了閾値VHに到達していない場合には、ステップS14において、チャージ電圧制御回路22は、コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ完了閾値VHに到達したか否かを引き続き判断する。
【0070】
一方で、コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ完了閾値VHに到達した場合には、ステップS15において、チャージ電圧制御回路22は、コンデンサにおける電気エネルギーの蓄積を停止する(チャージ停止)。
【0071】
続いて、ステップS16において、通電時間補正部211は、インジェクタ4の非通電時におけるコンデンサのチャージ電圧VCHGをチャージ電圧検出部23から取得し、コンデンサのチャージ電圧VCHGのロギングを開始する。
【0072】
続いて、ステップS17において、チャージ電圧制御回路22は、コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ開始閾値VL以下であるか否かを判断する。ここで、ステップS16において、通電時間補正部211がインジェクタ4の非通電時におけるコンデンサのチャージ電圧VCHGをチャージ電圧検出部23から取得しているため、ステップS17において、チャージ電圧制御回路22は、コンデンサのチャージ電圧VCHGがコンデンサの自然放電によりチャージ開始閾値VL以下になったか否かを判断している。
【0073】
コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ開始閾値VL以下ではない場合には(ステップS17:NO)、ステップS17において、チャージ電圧制御回路22は、コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ開始閾値VL以下であるか否かを引き続き判断する。一方で、コンデンサのチャージ電圧VCHGがチャージ開始閾値VL以下である場合には(ステップS17:YES)、ステップS18において、通電時間補正部211は、コンデンサのチャージ電圧VCHGのロギングを停止する。
【0074】
続いて、ステップS19において、通電時間補正部211は、チャージ電圧検出部23から取得したコンデンサのチャージ電圧VCHGに基づいて、すなわちステップS16~ステップS18において実行したロギングの結果に基づいて、チャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握する。なお、図5に表していないが、ステップS11~ステップS18は、複数回実行されてもよい。このとき、通電時間補正部211は、チャージ電圧検出部23から取得したコンデンサのチャージ電圧VCHGの統計処理を実行することによりチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握する。
【0075】
例えば、通電時間補正部211は、インジェクタ4の非通電時に生ずるコンデンサの充放電の複数の周期における複数のチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHをチャージ電圧検出部23から取得し、チャージ電圧検出部23から取得した複数のチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHの平均値を算出することによりチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握する。例えば、通電時間補正部211は、インジェクタ4の非通電時に生ずるコンデンサの充放電の5周期分における5つのチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHをチャージ電圧検出部23から取得し、5つのチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHの平均値を算出することによりチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握する。
【0076】
あるいは、例えば、通電時間補正部211は、インジェクタ4の非通電時に生ずるコンデンサの充放電の複数の周期における複数のチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHをチャージ電圧検出部23から取得し、チャージ電圧検出部23から取得した複数のチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのうち最大値および最小値を除いた残りの複数のチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHの平均値を算出することによりチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握する。例えば、通電時間補正部211は、インジェクタ4の非通電時に生ずるコンデンサの充放電の5周期分における5つのチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHをチャージ電圧検出部23から取得し、5つのチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのうち最大値および最小値を除いた残りの3つのチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHの平均値を算出することによりチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握する。
【0077】
続いて、ステップS19において、通電時間補正部211は、把握したチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきに応じてインジェクタ4の通電時間を補正する。例えば、通電時間補正部211がチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきに応じてインジェクタ4の通電時間を補正する例を以下に説明する。
【0078】
すなわち、インジェクタ4のソレノイドコイルのインダクタンスをLとし、時間(t)においてインジェクタ4のソレノイドコイルを流れる電流をI(t)とすると、式:I(t)=(V/L)×tが成立する。そのため、インジェクタ4の通電時の電流は、電圧に比例する。また、コイルに生ずる自己誘導起電力の式として、式:ΔI/Δt=V/Lが成立する。そのため、通電時間補正部211は、チャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握し、インジェクタ4の通電開始時におけるコンデンサのチャージ電圧VCHGのそれぞれにおいて、インジェクタ4のソレノイドコイルを流れる電流が目標電流(例えばインジェクタ4のニードル弁が開くための電流)に到達するまでの時間(t)を算出することができる。
【0079】
通電時間補正部211は、補正値として、インジェクタ4の通電時間の絶対値を算出してもよい。あるいは、通電時間補正部211は、補正値として、インジェクタ4の通電時間の基準値(typ)に対する比率係数を算出してもよい。そして、通電時間補正部211は、補正値として算出した絶対値あるいは比率係数を記憶部25に保存する。
【0080】
本具体例によれば、通電時間補正部211は、インジェクタ4の非通電時においてチャージ電圧検出部23から取得したコンデンサのチャージ電圧VCHGの統計処理を実行することによりチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握する。これにより、通電時間補正部211は、インジェクタ4が駆動していない状態において、簡易的な処理により精度よくチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握することができる。
【0081】
また、通電時間補正部211は、例えば、複数のチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHの平均値を算出することによりチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握する。この場合には、通電時間補正部211は、簡易的な処理により精度よくチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握することができるとともに、燃料噴射量のばらつきの補正精度をより一層向上させることができる。
【0082】
また、通電時間補正部211は、例えば、チャージ開始閾値VLまたは複数のチャージ完了閾値VHのうち最大値および最小値を除いた残りの複数のチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHの平均値を算出することによりチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握する。この場合には、通電時間補正部211は、簡易的な処理により精度よくチャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHのばらつきを把握することができるとともに、燃料噴射量のばらつきの補正精度をより一層向上させることができる。
【0083】
また、インジェクタ制御回路24は、通電時間補正部211により算出されたインジェクタ4の通電時間の絶対値およびインジェクタ4の通電時間の基準値(typ)に対する比率係数の少なくともいずれかであって、記憶部25に予め記憶された絶対値および比率係数の少なくともいずれかに基づいてインジェクタ4の駆動を制御する。そのため、インジェクタ制御回路24は、より正確なインジェクタ4の通電時間に基づいて、より速い処理速度でインジェクタ4の駆動を制御することができる。
【0084】
通電時間補正部211は、図5に関して説明した具体例の処理をインジェクタ制御装置2の生産工程において実行することができる。すなわち、通電時間補正部211は、生産工程においてインジェクタ4の通電時間を補正することができる。また、記憶部25は、生産工程において通電時間補正部211により補正されたインジェクタ4の通電時間を記憶することができる。これにより、電子制御装置(ECU)の交換が行われる場合であっても、交換後の電子制御装置の一部として機能するインジェクタ制御装置2は、燃料噴射量のばらつきの補正精度を向上させることができる。そのため、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2が工場から出荷された後の市場において、電子制御装置の交換を容易に行うことができる。
【0085】
また、通電時間補正部211は、インジェクタ制御装置2が工場から出荷された後の市場において、図5に関して説明した具体例の処理を実行することができる。すなわち、通電時間補正部211は、工場から出荷された後の市場においてインジェクタ4の通電時間を補正することができる。また、記憶部25は、市場において通電時間補正部211により補正されたインジェクタ4の通電時間を記憶することができる。これにより、チャージ開始閾値VLまたはチャージ完了閾値VHが例えばコンデンサの経時劣化などにより市場において変化した場合であっても、本実施形態に係るインジェクタ制御装置2は、燃料噴射量のばらつきの補正精度を向上させることができる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0087】
2:インジェクタ制御装置、 3:エンジン運転情報、 4:インジェクタ、 21:マイコン、 22、22A、22B、22C:チャージ電圧制御回路、 23:チャージ電圧検出部、 24:インジェクタ制御回路、 25:記憶部、 211:通電時間補正部、 VCHG:チャージ電圧、 VH:チャージ完了閾値、 VL:チャージ開始閾値

図1
図2
図3
図4
図5