(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】放電制御回路
(51)【国際特許分類】
H03K 5/04 20060101AFI20240807BHJP
G05F 1/10 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
H03K5/04
G05F1/10 D
(21)【出願番号】P 2020052901
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕一
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-049730(JP,A)
【文献】特開昭61-117915(JP,A)
【文献】特開2009-049611(JP,A)
【文献】特開2011-150675(JP,A)
【文献】特開2011-120058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K 5/00-5/26
G05F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の放電素子と、外部から入力される制御信号によって前記複数の放電素子のオン、オフをそれぞれ制御する複数の論理回路と、を備え、前記複数の放電素子がオン状態にされることに応じて、対応する端子から電荷を引き抜くように構成された放電制御回路であって、
前記複数の論理回路のいずれかの論理回路の出力信号を遅延する1または2以上の遅延回路を備え、
前記遅延回路で遅延された信号が他の論理回路に入力され、1つの制御信号によって前記複数の放電素子が所定の順序で制御されるように構成されており、
前記複数の論理回路のうち前記遅延回路で遅延された信号が入力される論理回路の初段には、エンハンスメント型PチャネルMOSトランジスタと、ゲート端子とソース端子が共通接続されたデプレッション型NチャネルMOSトランジスタと、エンハンスメント型NチャネルMOSトランジスタとが直列に接続された論理しきい値が周囲温度および電源電圧の影響を受けない回路が設けられ、前記エンハンスメント型PチャネルMOSトランジスタと前記エンハンスメント型NチャネルMOSトランジスタのゲート端子に前記遅延回路で遅延された信号が入力されており、
前記遅延回路は、デプレッション型MOSトランジスタを備え
当該遅延回路に
おいて使用される定電流を流す電流源回路
を有し、
前記デプレッション型MOSトランジスタのソース端子と電源電圧端子または接地端子との間に正の温度特性を有する抵抗素子が接続され、
前記デプレッション型MOSトランジスタのゲート端子は前記電源電圧端子または接地端子に接続されている
ことを特徴とする
放電制御回路。
【請求項2】
複数の放電素子と、外部から入力される制御信号によって前記複数の放電素子のオン、オフをそれぞれ制御する複数の論理回路と、を備え、前記複数の放電素子がオン状態にされることに応じて、対応する端子から電流を引き抜くように構成された放電制御回路において、
前記制御信号を遅延する1または2以上の遅延回路を備え、前記複数の論理回路には、前記制御信号または前記遅延回路で遅延された信号が入力され、1つの制御信号によって前記複数の放電素子が所定の順序で制御されるように構成されており、
前記複数の論理回路のうち前記遅延回路で遅延された信号が入力される論理回路の初段には、エンハンスメント型PチャネルMOSトランジスタと、ゲート端子とソース端子が共通接続されたデプレッション型NチャネルMOSトランジスタと、エンハンスメント型NチャネルMOSトランジスタとが直列に接続された論理しきい値が周囲温度および電源電圧の影響を受けない回路が設けられ、前記エンハンスメント型PチャネルMOSトランジスタと前記エンハンスメント型NチャネルMOSトランジスタのゲート端子に前記遅延回路で遅延された信号が入力されており、
前記遅延回路は、デプレッション型MOSトランジスタを備え
当該遅延回路に
おいて使用される定電流を流す電流源回路
を有し、
前記デプレッション型MOSトランジスタのソース端子と電源電圧端子または接地端子との間に正の温度特性を有する抵抗素子が接続され、
前記デプレッション型MOSトランジスタのゲート端子は前記電源電圧端子または接地端子に接続されている
ことを特徴とする
放電制御回路。
【請求項3】
前記デプレッション型MOSトランジスタは半導体チップ上に形成された素子であり、前記抵抗素子は前記トランジスタの基体を構成するウェル領域と同時に形成されるウェル領域により構成されていることを特徴とする請求項
1または2に記載の
放電制御回路。
【請求項4】
前記デプレッション型MOSトランジスタは半導体チップ上に形成された素子であり、前記抵抗素子はトランジスタのソース領域およびドレイン領域を構成する活性領域と同時に形成される活性領域により構成されていることを特徴とする請求項
1または2に記載の
放電制御回路。
【請求項5】
前記抵抗素子は、ゲート端子に所定の電圧が印加されたエンハンスメント型MOSトランジスタにより構成されていることを特徴とする請求項
1または2に記載の
放電制御回路。
【請求項6】
前記デプレッション型MOSトランジスタは、Nチャネル形であり、ゲート端子が接地端子に接続されており、前記抵抗素子は前記デプレッション型MOSトランジスタのソース端子と接地端子との間に接続されていることを特徴とする請求項
1~5のいずれかに記載の
放電制御回路。
【請求項7】
前記デプレッション型MOSトランジスタは、Pチャネル形であり、ゲート端子が電源電圧端子に接続されており、前記抵抗素子は前記デプレッション型MOSトランジスタのソース端子と電源電圧端子との間に接続されていることを特徴とする請求項
1~5のいずれかに記載の
放電制御回路。
【請求項8】
前記デプレッション型MOSトランジスタと並列または直列に、デプレッション型MOSトランジスタ、および、ヒューズ素子またはスイッチ素子を含む調整用回路が接続されていることを特徴とする請求項
1~7のいずれかに記載の
放電制御回路。
【請求項9】
前記遅延回路は、当該電流源回路により流される電流により充電もしくは放電されるコンデンサと、該コンデンサの充電電圧を検知する電圧比較回路とを含むことを特徴とする請求項
1~8のいずれかに記載の
放電制御回路。
【請求項10】
前記遅延回路は、
当該電流源回路により流される電流により充電もしくは放電されるコンデンサおよび該コンデンサの充電電圧を検知する電圧比較回路またはインバータを含む発振回路と、
前記発振回路により生成される所定周波数の信号を計数するカウンタ回路と、
を備えることを特徴とする請求項
1~8のいずれかに記載の
放電制御回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電用の素子を備えた放電制御回路および電流源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電源を必要とするCPU(マイクロプロセッサ)やSoC(システムオンチップ)、システムLSI等のデバイスでは、オン/オフのシーケンス(順序)が規定されている場合がある。例えば、I/O用とコア用の2つ電源(レギュレータ)を使用しているCPUの場合、2つの電源の電位は、一般的には、I/O用電源>コア用電源の関係にされる。このようなデバイスやシステムにおいては、I/O用電源とコア用電源の電位関係が逆転したとすると、コアとなるCPU内部の寄生素子がオンして破壊に至ることがある。そのため、複数の電源を使用するデバイスでは、オン/オフ時のシーケンスに制約を付与する必要がある。ここで、オン時の立ち上り時間は電源ICの能力で決まるためシーケンスを制御することが容易であるが、オフ時のシーケンスは電源ICの負荷容量と負荷抵抗で放電時間が決定されるため制御が難しい。
【0003】
従来、上記のようなデバイスやシステムにおいて、オフ時のシーケンスを制御する場合、ディスクリート部品(インバータやFET、抵抗等)によって、放電回路(ディスチャージ回路)を構成して、電源の供給停止(レギュレータのオフ)に際しては、2つの制御信号によって先ずコア用電源を放電させ、その後にI/O用電源を放電させるようにしていた。
一方、1つの制御信号によって複数の電源もしくは供給電圧のオフシーケンスを制御することができるとともに、放電時間を容易に変更することができるディスチャージ用半導体集積回路に関する発明として、例えば特許文献1に記載されているものが提案されている。
【0004】
また、オン/オフ時のシーケンス制御においては、遅延時間を規定する遅延回路が必要とされるが、そのような遅延回路は、定電流源とコンデンサとスイッチ素子を組み合わせた回路や、オシレータ(クロック生成回路)とカウンタ回路を組み合わせた回路で構成することができる。オン/オフ時のシーケンス制御における遅延時間を規定する遅延回路を設けた電源制御用半導体集積回路に関する発明として、例えば特許文献2に記載されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-3913号公報
【文献】特開2003-51740号公報
【文献】特開平05-235661号公報
【文献】特開2011-150675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示されている電源制御用半導体集積回路においては、遅延回路を構成する容量が回路に内蔵されており、半導体製造時点で遅延時間が決定されている。また、遅延回路を構成する電流源の電流比も半導体製造時点で決定されており、固定である。そのため、制御入力の変化から一方の出力信号の変化までの遅延時間と、他方の出力信号の変化までの遅延時間の比は固定であるので、自由にオン/オフの制御シーケンスを設定することができないという課題がある。また、特許文献2に開示されている回路で使用されている電流源回路は、電源電圧が変動すると電流値が変化するため、遅延時間が電源電圧依存性を持つという課題がある。
【0007】
なお、定電流源を半導体集積回路に内蔵させる場合、周囲温度によって電流が変化しないように、温度補償された回路であることが望まれる。温度補償された電流源回路に関する発明として、例えば特許文献3や4に開示されているものがある。
この発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、負荷に供給される複数の電源電圧の電位関係が逆転しないようにすることができる放電制御回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、
複数の放電素子と、外部から入力される制御信号によって前記複数の放電素子のオン、オフをそれぞれ制御する複数の論理回路と、を備え、前記複数の放電素子がオン状態にされることに応じて、対応する端子から電荷を引き抜くように構成された放電制御回路であって、
前記複数の論理回路のいずれかの論理回路の出力信号を遅延する1または2以上の遅延回路を備え、
前記遅延回路で遅延された信号が他の論理回路に入力され、1つの制御信号によって前記複数の放電素子が所定の順序で制御されるように構成されており、
前記複数の論理回路のうち前記遅延回路で遅延された信号が入力される論理回路の初段には、エンハンスメント型PチャネルMOSトランジスタと、ゲート端子とソース端子が共通接続されたデプレッション型NチャネルMOSトランジスタと、エンハンスメント型NチャネルMOSトランジスタとが直列に接続された論理しきい値が周囲温度および電源電圧の影響を受けない回路が設けられ、前記エンハンスメント型PチャネルMOSトランジスタと前記エンハンスメント型NチャネルMOSトランジスタのゲート端子に前記遅延回路で遅延された信号が入力されており、
前記遅延回路は、デプレッション型MOSトランジスタを備え当該遅延回路において使用される定電流を流す電流源回路を有し、
前記デプレッション型MOSトランジスタのソース端子と電源電圧端子または接地端子との間に正の温度特性を有する抵抗素子が接続され、
前記デプレッション型MOSトランジスタのゲート端子は前記電源電圧端子または接地端子に接続されているように構成したものである。
あるいは、複数の放電素子と、外部から入力される制御信号によって前記複数の放電素子のオン、オフをそれぞれ制御する複数の論理回路と、を備え、前記複数の放電素子がオン状態にされることに応じて、対応する端子から電流を引き抜くように構成された放電制御回路において、
前記制御信号を遅延する1または2以上の遅延回路を備え、前記複数の論理回路には、前記制御信号または前記遅延回路で遅延された信号が入力され、1つの制御信号によって前記複数の放電素子が所定の順序で制御されるように構成する。
上記構成の放電制御回路によれば、負荷に供給される複数の電源電圧の電位関係が逆転しないようにすることができ、それによって負荷が半導体集積回路である場合に、電位関係が逆転で内部の寄生素子がオンして破壊に至るのを防止することができる。
【0015】
ここで、前記デプレッション型MOSトランジスタは半導体チップ上に形成された素子であり、前記抵抗素子は前記トランジスタの基体を構成するウェル領域と同時に形成されるウェル領域により構成する。
さらに、前記デプレッション型MOSトランジスタは半導体チップ上に形成された素子であり、前記抵抗素子はトランジスタのソース領域およびドレイン領域を構成する活性領域と同時に形成される活性領域により構成する。
【0016】
また、前記抵抗素子は、ゲート端子に所定の電圧が印加されたエンハンスメント型MOSトランジスタにより構成する。
さらに、前記デプレッション型MOSトランジスタは、Nチャネル形であり、ゲート端子が接地端子に接続されており、前記抵抗素子は前記デプレッション型MOSトランジスタのソース端子と接地端子との間に接続されているようにする。
あるいは、前記デプレッション型MOSトランジスタは、Pチャネル形であり、ゲート端子が電源電圧端子に接続されており、前記抵抗素子は前記デプレッション型MOSトランジスタのソース端子と電源電圧端子との間に接続されているようにする。
【0017】
さらに、前記デプレッション型MOSトランジスタと並列または直列に、デプレッション型MOSトランジスタ、および、ヒューズ素子またはスイッチ素子を含む調整用回路が接続されているようにする。
また、前記遅延回路は、当該電流源回路により流される電流により充電もしくは放電されるコンデンサと、該コンデンサの充電電圧を検知する電圧比較回路とを含むようにする。
【0018】
あるいは、前記遅延回路は、
当該電流源回路により流される電流により充電もしくは放電されるコンデンサおよび該コンデンサの充電電圧を検知する電圧比較回路またはインバータを含む発振回路と、
前記発振回路により生成される所定周波数の信号を計数するカウンタ回路と、
を備えるようにする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、負荷に供給される複数の電源電圧の電位関係が逆転しないようにすることができる放電制御回路を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(A)、(B)は本発明に係る放電制御回路の実施例を示す回路構成図である。
【
図2】
図1の実施例の放電制御回路を用いたシステムの構成例を示す回路構成図である。
【
図3】実施例の放電制御回路を構成する遅延回路の具体例を示す回路図である。
【
図4】
図3の遅延回路の動作タイミングを示すタイミングチャートである。
【
図5】実施例の放電制御回路を構成する遅延回路の他の具体例を示す回路図である。
【
図6】
図5の遅延回路の動作タイミングを示すタイミングチャートである。
【
図7】実施例の放電制御回路を構成する遅延回路の他の具体例を示す回路図である。
【
図8】
図7の遅延回路の動作タイミングを示すタイミングチャートである。
【
図9】実施例の放電制御回路を構成する後段の論理回路の実現の仕方を示す回路図である。
【
図10】デプレッション型MOSトランジスタを使用した従来の定電流源回路の構成例を示す回路図である。
【
図11】デプレッション型MOSトランジスタを使用した本発明の定電流源回路の具体例を示す回路図である。
【
図12】本発明の定電流源回路の変形例を示す回路図である。
【
図13】(A)、(B)は本発明に係る定電流源回路の温度特性を示すグラフである。
【
図14】電流調整機能を有する定電流源回路の実施例を示す回路図である。
【
図15】電流調整機能を有する定電流源回路の他の実施例を示す回路図である。
【
図16】(A)、(B)は実施例の放電制御回路を構成する遅延回路の変形例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1(A)は、本発明に係る放電制御回路の第1の実施形態を示す。
この実施形態の放電制御回路10は、外部から入力される制御信号CEを受ける第1の論理回路11Aおよび該論理回路11Aの出力信号によってオンオフ制御される第1のディスチャージ回路12Aと、第1の論理回路11Aの出力信号を遅延する遅延回路13と、遅延回路13の出力信号が入力される第2の論理回路11Bおよび該論理回路11Bの出力信号によってオンオフ制御される第2のディスチャージ回路12Bとを備えて構成されている。これらの回路は、1個の半導体チップ上に半導体集積回路(IC)として構成されても良いし、ディスチャージ回路12Aと12Bとそれ以外の回路がそれぞれ別個の半導体集積回路(IC)として構成されても良い。
【0022】
図1(B)は、本発明に係る放電制御回路の第2の実施形態を示す。
この実施形態の放電制御回路は、外部から入力される制御信号CEを受ける第1の論理回路11Aおよび該論理回路11Aの出力信号によってオンオフ制御される第1のディスチャージ回路12Aと、制御信号CEを遅延する遅延回路13と、遅延回路13の出力信号が入力される第2の論理回路11Bおよび該論理回路11Bの出力信号によってオンオフ制御される第2のディスチャージ回路12Bとを備えて構成されている。
【0023】
図1(A)および(B)の実施例においては、第1のディスチャージ回路12Aと第2のディスチャージ回路12Bは、それぞれ対応する論理回路11Aまたは11Bの出力信号がゲート端子に印加された複数の放電素子としてのディスチャージ用NチャネルMOSトランジスタM11,M12……M1nとM21,M22……M2nを有しているが、それぞれ少なくとも1つのディスチャージ用MOSトランジスタを有していれば良い。各MOSトランジスタM11,M12……M1nとM21,M22……M2nのソース端子は、それぞれ接地電位が印加されるグランド端子GNDに接続され、ドレイン端子は外部端子Vo11,Vo12,……Vo1nとVo21,Vo22,……Vo2nに接続される。
【0024】
また、
図1(A)および(B)の実施例においては、2つの論理回路11A,11Bと2つのディスチャージ回路12A,12Bを備えたものを示したが、3つ以上の論理回路と3つ以上のディスチャージ回路を備えるように構成しても良い。その場合、
図1(A)の実施例では、各論理回路間にそれぞれ遅延回路を設けられ、
図1(B)の実施例では、制御信号CEの入力端子と複数の論理回路のうち論理回路11Aを除く論理回路と入力端子との間にそれぞれ遅延回路を設けられる。
【0025】
図2(A)と(B)には、
図1(A)と(B)の実施例の放電制御回路を使用したシステムの構成例が示されている。
図2(A),(B)において、破線で囲まれた部分が放電制御回路10であり、例えば1つのシリコン半導体基板上に半導体集積回路として構成される。ただし、ディスクリートの部品を使用して構成しても良い。
図2(A)と(B)に示すシステムは、それぞれ異なる電位(例えば3.3Vと1.5V)の電源電圧Vreg1,Vreg2を生成するとレギュレータやDC/DCコンバータのような電源回路21A,21Bと、これらの電源回路21A,21Bから電流の供給を受ける例えばCPU(マイクロプロセッサ)やSoC(システムオンチップ)、システムLSI等のデバイスからなる負荷回路22と、
図1(A)または(B)の実施例の放電制御回路10とを備えている。
【0026】
図2(A)では制御信号CEをインバータで反転した信号が遅延回路13に入力されているとともに論理回路11Bが2個のインバータで構成されているのに対し、
図2(B)では制御信号CEが直接遅延回路13に入力されるとともに論理回路11Bが1個のインバータで構成されている。
なお、放電制御回路10を構成する遅延回路13は、後述のように遅延時間を設定するための外付けのコンデンサCを備えており、
図2においては、このコンデンサCが図示されている。また、放電制御回路10を構成する論理回路11Aにおけるインバータ(論理ゲート)の数は、図示されているような数に限定されず、適用する回路に応じて適切な数が設定される。
【0027】
図2(A)と(B)のシステムにおいては、制御信号CEがハイレベルからロウレベルに変化されると、電源回路21A,21Bの動作が停止するとともに、放電素子としてのMOSトランジスタM11がオンされて、電源回路21Aから負荷回路22へ電源電圧Vreg1を供給する電源ラインL1の電荷が引き抜かれて先ず電源電圧Vreg1が立ち下がる。そして、遅延回路13による遅延時間後にMOSトランジスタM21がオンされて、電源回路21Bから負荷回路22へ電源電圧Vreg2を供給する電源ラインL2の電荷が引き抜かれて電源電圧Vreg2が立ち下がることとなる。
【0028】
上記実施例の放電制御回路10によれば、上述したような動作により、負荷回路22がオフシーケンス(電源オフの順序)に制約のあるデバイスである場合に、電源電圧Vreg1をVreg2よりも先に立ち下げることができ、それにより内部素子が破壊される現象が発生するのを防止することができる。また、外付けのコンデンサCの容量値を変えることで遅延時間を変更することができるため、負荷容量の大きさ等に応じて容易に最適な遅延時間を設定することができるという利点も有する。
【0029】
[遅延回路の具体例]
次に、上記放電制御回路10を構成する遅延回路13の具体的な回路の例について説明する。
図3には、遅延回路13の第1の実施例が示されている。
図3に示すように、第1実施例の遅延回路13は、入力信号(論理回路11Aの出力信号D_INまたは制御信号CE)がゲート端子に印加されるMOSトランジスタM31と、該トランジスタM31のソース端子と接地点GNDとの間に接続された定電流源CC0と、トランジスタM31のドレイン端子側に設けられたMOSトランジスタM32,M33からなるカレントミラー回路32と、MOSトランジスタM33と直列に接続されたMOSトランジスタM34と、トランジスタM33とM34との接続ノードN1と接地点GNDとの間に接続された外付けのコンデンサCと、入力信号を反転してMOSトランジスタM34のゲート端子へ供給するインバータINV1とから構成されている。符号CDはコンデンサCが接続される外部端子、符号11Bは次段の論理回路である。
【0030】
図4には、
図3に示す遅延回路13の入力信号D_INと出力信号D_OUTと論理回路11Bの出力信号OUTの変化の様子が示されている。
図4から分かるように、本実施例の遅延回路13は、タイミングt1で入力信号D_INが立ち上がると、MOSトランジスタM34がオフされかつM31がオンされて、定電流源CC0で決まる所定の電流I1がMOSトランジスタM32に流される。これにより、カレントミラー比で決まる電流I2がMOSトランジスタM33に流されてコンデンサCが充電され、出力信号D_OUTの電位が次第に上昇する。そして、出力信号D_OUTの電位が後段の論理回路11Bの論理しきい値電圧VLに達したタイミングt2で、論理回路11Bの出力信号OUTがロウレベルからハイレベルに変化することとなる。つまり、タイミングt1からt2までの時間が、当該遅延回路13の遅延時間Tdである。
【0031】
図3に示す遅延回路13においては、遅延時間Tdは、次式
Td=VL×C/I2 ……(1)
で与えられる。従って、外付けのコンデンサCの容量値で遅延時間Tdを任意に設定することができる。また、式(1)より、論理回路11Bの論理しきい値電圧VLとコンデンサCを充電する電流I2の電源電圧依存性および温度依存性を低減することで、一定の安定した遅延時間Tdを得ることができることが分かる。そこで、本実施形態においては、後述のように、論理回路11Bの論理しきい値電圧VLと定電流源CC0の電流I2の電源電圧依存性および温度依存性を低減、つまり電源電圧や周囲温度が変動しても論理しきい値電圧VLと電流I2が一定となるように工夫を行なっている。
なお、
図3の遅延回路13は、入力信号D_INが立ち下がると、MOSトランジスタM31がオフされかつM34がオンされるため、コンデンサCの電荷が即座に放電され、出力信号D_OUTの電位が速やかに立ち下がる。
【0032】
図5には、遅延回路13の第2の実施例が示されている。第1実施例の遅延回路では遅延時間経過後も定電流I1及びカレントミラー回路32で転写された電流I2が定常的に流れてしまうため、第2実施例の遅延回路13では、一定時間経過後にMOSトランジスタM31をオフさせて消費電流を低減する機能を持たせるようにしたものである。
図5に示すように、第2実施例の遅延回路13は、
図3に示す第1実施例の遅延回路において、MOSトランジスタM31の前段に、D_INを一方の入力信号とし出力信号D_OUTをインバータINV2で反転した信号を他方の入力信号とするANDゲートG1を設けている。これとともに、遅延回路13の出力ノードN1と電源電圧端子VDDとの間にプルアップ用のMOSトランジスタM35を設け、M35のゲート端子に上記インバータINV2で反転した信号を印加した構成としている。そして、インバータINV2は、その入力が電源に近い電位(例えばVDDからPMOSトランジスタのしきい値電圧Vth分降下した電位)の論理しきい値を有するように設計される。
【0033】
図6には、
図5に示す遅延回路13の各部の電圧の変化が示されている。
図6において、「電流I2」は
図5の遅延回路13のカレントミラー回路32を構成するトランジスタM33の電流で、この電流I2の電流値がIdelayであり、タイミングt1でトランジスタM31がオンされるとM32に定電流源CC0の電流I1が流れ、カレントミラー回路32で折り返されて、M33の電流I2がIdelayまで増加し、最終的にはタイミングt3でトランジスタM31がオフされることでI2も0になる。
図6に示されているように、
図5の遅延回路13は、タイミングt1で入力信号D_INがハイレベルに変化すると、この時点では出力ノードN1の電位がロウレベルでインバータINV2の出力がハイレベルであるため、ANDゲートG1の出力がハイレベルとなってMOSトランジスタM31がオンされる。すると、カレントミラー回路(M32,M33)に電流が流れ、コンデンサCが充電されてノードN1の電位D_OUTが徐々に上昇し、後段の論理回路11Bの論理しきい値電圧VLに達したタイミングt2で論理回路11Bの出力信号OUTがロウレベルからハイレベルに変化する。
【0034】
そして、出力信号OUTがハイレベルに変化した後もノードN1の電位D_OUTがさらに上昇を続け、インバータINV2の論理しきい値(VDD-Vth)に達すると、タイミングt3でインバータINV2の出力が反転してMOSトランジスタM31がオフされて、カレントミラー回路(M32,M33)の電流が遮断され、コンデンサCの充電が停止される。一方、M31のオフと同時にプルアップ用のMOSトランジスタM35がオンされて、ノードN1の電位D_OUTを電源電圧VDDへ吊り上げる。これにより、インバータINV2が反転を繰り返してチャタリングを起こすのを回避することができる。MOSトランジスタM35はMOSトランジスタM34よりも駆動能力が低くなるように設計され、入力信号D_INがロウレベルに変化した場合、MOSトランジスタM34がオンする事によりノードN1の電位はロウレベルとなる。
【0035】
なお、上記第1実施例および第2実施例においては、上記の例では入力信号D_INがロウレベルからハイレベルに遷移した場合に、定電流でコンデンサCをチャージして遅延時間を作る方法を図示したが、同様にしてMOSトランジスタM34と直列に定電流源等を接続することで、コンデンサCから電荷をディスチャージする電流を制御して、入力信号D_INがハイレベルからロウレベルに遷移した場合に遅延時間を作ることが可能である。また、入力信号D_INのロウレベルからハイレベルへの変化時とハイレベルからロウレベルへの変化時の双方に遅延時間を持たせることも可能である。
さらに、上記実施例ではコンデンサCを充電する電流源としてカレントミラー回路を使用したものを説明したが、遅延時間に高い精度が必要でない場合には、カレントミラー回路を抵抗素子に置き替えたようなRC遅延回路を使用しても良い。また、より高精度な遅延時間が要求される場合や、より遅延時間を長くしたい場合などにおいては、以下に説明するようなタイマー回路を遅延回路として使用することも可能である。
【0036】
図7には、遅延回路13の第3の実施例が示されている。この実施例はタイマー回路を遅延回路として使用したものである。
図7に示すように、第3実施例の遅延回路13は、発振回路33と、複数個(図では2個)のインバータが直列に接続されてなる波形整形回路34と、複数個のフリップフロップが直列に接続されてなるカウンタ回路35とから構成されている。
発振回路33は、三角波形成回路33Aとリングオシレータを組み合わせた形式の回路であり、三角波形成回路33Aは、電源電圧端子VDDと接地点との間に直列に接続された定電流源CC1およびMOSトランジスタM36,M37と、M36,M37の接続ノードN2と接地点との間に接続されたコンデンサCとから構成されている。
【0037】
そして、上記接続ノードN2に奇数個(図では3個)のインバータからなるインバータ列33Bが接続され、このインバータ列33Bの出力信号が上記三角波形成回路33Aを構成するMOSトランジスタM36,M37のゲート端子に帰還されることでリングオシレータが構成されている。また、帰還経路の途中に例えばNORゲートG2が設けられ、一方の端子にインバータ列33Bの出力信号が入力され、他方の入力端子に遅延したい信号D_INが入力されている。そして、発振回路33の出力が波形整形回路34によって波形整形されてパルス信号となり、カウンタ回路35に入力されることでパルス数が計数され、カウンタ回路35がパルス信号を所定数だけ計数すると出力がハイレベルに変化することで入力信号D_INを遅延した信号D_OUTを出力する遅延回路として動作する。なお、インバータ列33Bのインバータの数を偶数個とし、G2としてORゲートを使用するようにしても良い。
【0038】
図8には、
図7に示す遅延回路13の各部の電圧の変化が示されている。
図8に示されているように、
図7の遅延回路13は、入力信号D_INがハイレベルに変化したタイミングt1で発振回路33が動作を開始して、カウンタ回路35が所定数(図では4個)だけパルス信号を計数するとカウンタ出力すなわちD_OUTがハイレベルに変化する(タイミングt2)。カウンタ回路35が計数するパルスの数は、直列に接続されるフリップフロップの段数nによって決定され、nの2乗だけカウントすることとなる。従って、発振回路33の発振周波数と必要な遅延時間に応じてフリップフロップの段数を設定すればよい。
【0039】
なお、
図7の実施例の遅延回路においても、コンデンサCを外付素子として接続するように構成することによって、任意の遅延時間を設定できるようにしても良い。
以上説明したように、上記実施例によれば、外付けのコンデンサCの容量値を変えることによって、遅延時間を調整(変更)することが可能な遅延回路を得ることができる。コンデンサCの容量値を変える代わりに、電流源回路の電流値を変えることによって、遅延時間を調整(変更)することができる遅延回路とすることも可能である。
【0040】
[論理回路の具体例]
次に、
図9を用いて、電源電圧や周囲温度が変動しても論理しきい値電圧VLが一定となる論理回路11Bを実現する方法について説明する。
従来、基準電圧回路として、
図9(A)に示すように、デプレッション型NチャネルMOSトランジスタM3とエンハンスメント型NチャネルMOSトランジスタM2を直列に接続し、チャネル長の比を適切に設定した回路を用いて電源電圧依存性および温度依存性のない基準電圧を発生する技術が知られている。この技術を応用して、
図9(B)のように、CMOSインバータのP-MOS(M1)とN-MOS(M2)との間に、ゲートとソースが結合されたデプレッション型NチャネルMOSトランジスタM3を設けた回路とすることで、基準電圧に近い電圧を論理しきい値とする論理回路を実現することができる。
【0041】
また、
図9(B)の回路においては、M1はPチャネルMOSトランジスタであり、入力Vinが電源電圧VDD付近になった場合、ノンアクティブ(オフ)状態になり貫通電流を遮断する機能を有する。ただし、
図9(B)の回路では、構造上出力電圧VoutとしてVDDを得ることができないので、
図9(C)に示すように、後段に例えば2個のCMOSインバータINV3,INV4を直列に接続したものを、
図1の放電制御回路10を構成する論理回路11Bとして使用することで、精度の高いタイミングで動作して放電素子をオンさせることができる論理回路を実現することができる。
【0042】
[定電流源回路の具体例]
次に、
図10、
図11及び
図12を用いて、周囲温度が変動しても一定の電流を流すことができる、温度補償された定電流源回路について説明する。
従来、温度補償された定電流源回路としては、例えば特許文献3に記載されている発明のように、基準電圧源の基準電圧が入力端子に印加された差動増幅器と、該差動増幅器の出力電圧がベース端子に印加されたトランジスタと、該トランジスタと直列に接続されたエミッタ抵抗とからなり、エミッタ抵抗の温度特性により定電流出力が温度特性を持つのを補償するため、基準電圧源にダイオードもしくはダイオード接続されたトランジスタの温度特性を利用して補償電圧特性を持たせるようにしたものがある。
【0043】
しかしながら、上記特許文献3に記載されている定電流源回路は、差動増幅器やダイオードなどを有するため素子数が多いので回路の専有面積が大きいとともに、出力電流の精度を上げるためには基準電圧源、ダイオード、抵抗、それぞれの精度を上げる必要があり、回路設計が難しいという課題がある。そこで、本発明者らは、デプレッション型MOSトランジスタを使用することで、少ない素子数で温度補償された定電流を出力することができる定電流源回路として、以下に説明するような回路を開発した。
【0044】
従来、デプレッション型MOSトランジスタを電流源回路として用いる技術が提案されている。
図10にそのような電流源回路の例が示されている。このうち、(A)はデプレッション型NチャネルMOSトランジスタMn0を使用した例、(B)はデプレッション型PチャネルMOSトランジスタMp0を使用した例であり、それぞれゲート端子がソース端子に共通接続されている。
図10の回路は、ゲート・ソース間電圧Vgsが0Vであるため、ドレイン・ソース間電流Idsは、次式
Ids={(μeff×Cox×W)/(2×L)}×(Vgs-Vth)
2
={(μeff×Cox×W)/(2×L)}×(-Vth)
2 ……(2)
で表わされる。μeffはキャリア移動度、Coxはゲート絶縁膜の単位面積当たりの容量値、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、VthはMOSトランジスタのしきい値電圧である。
【0045】
上式(2)において、Idsの温度特性に影響を与えるのは、主にμeffとVthである。μeffは負の温度係数を持ち、ドレイン・ソース間電流の温度依存性に負の影響を与える。一方、Vthは負の温度係数を持ち、デプレッション型MOSトランジスタのドレイン・ソース間電流の温度依存性に正の影響を与える。上記二つの温度係数による影響に関しては、μeffによる負の影響よりも、Vthによる正の影響が打ち勝つため、ドレイン・ソース間電流Idsは、高温になる程増加するという正の温度依存性を持つこととなる。
ドレイン・ソース間電流Idsが持つ上記正の温度依存性を補償するため、デプレッション型MOSトランジスタが一次側に接続されたエンハンスメント型MOSトランジスタからなるカレントミラー回路内に負の温度特性を有する抵抗を設けるようにした発明がある(特許文献4)。しかし、特許文献4の電流源回路は、カレントミラー回路を有するため素子数が多く回路の専有面積が大きくなるという課題がある。
【0046】
図11に、本発明者らが開発した定電流源回路の具体例が示されている。
このうち、(A)はデプレッション型NチャネルMOSトランジスタMn0を使用した例、(B)はデプレッション型PチャネルMOSトランジスタMp0を使用した例であり、それぞれソース端子と接地点または電源電圧端子との間に温度補償用の抵抗Rcが接続され、ゲート端子とソース端子が共通接続されている。また、Mn0とMp0のゲート端子には、接地電位GND(0V)または電源電圧VDDが印加されている。抵抗Rcには、正の温度特性を有する素子を使用する。
【0047】
なお、シリコン半導体デバイスにおいて、温度依存性が正となる抵抗にはウェル抵抗や拡散抵抗等があり、現行のシリコン半導体の製造プロセスにより半導体チップ上において容易に形成することが可能である。具体的には、ウェル抵抗は、MOSトランジスタのソース領域およびドレイン領域が形成されるウェル領域と同時に形成される領域を利用して、また拡散抵抗はソース領域やドレイン領域を構成する拡散層と同時に形成される活性領域(拡散層)を利用して構成することができる。
【0048】
図11の定電流源回路においては、抵抗Rcに電流が流れることでRc×Idsの電位降下を生じ、ドレイン・ソース間電流Idsは、次式
Ids={(μeff×Cox×W)/(2×L)}×(Vgs-Vth)
2
={(μeff×Cox×W)/(2×L)}×(-Rc×Ids-Vth)
2 ……(3)
で表わされるようになる。
デプレッション型MOSトランジスタは、しきい値電圧Vthが負であるため、抵抗Rcを設けたことで、Rc×Ids分だけゲート・ソース間電圧Vgsを小さくし、ドレイン・ソース間電流Idsを低減することができる。
【0049】
また、温度特性が正である抵抗を用いることで、Rc×Idsの項の温度依存性を低温では小さく、高温では大きく設定することができ、それによってドレイン・ソース間電流Idsの低減量も低温では小さく、高温では大きくなるため、Rc×Idsの項はドレイン・ソース間電流Idsの温度依存性に負の影響を与える。
また、抵抗Rcの値を調整して、Rc×Ids項の影響度合いを調整することが可能であり、移動度μeffによる負の温度依存性と相殺させることで、温度特性が良好となり周囲温度の変動にかかわらず一定の電流を出力することができる。
【0050】
図13(A)に、
図11に示す実施例の定電流源回路において抵抗Rcの値を5kΩ、10kΩ、20kΩのように変えて、補正量を大小変化させた場合における出力電流Io(ドレイン・ソース間電流Ids)の温度特性が、また
図13(B)に、実施例の定電流源回路において補正量を大小変化させた場合におけるVgs-Vthで表わされるオーバードライブ電圧ΔVの温度特性が示されている。なお、
図13(A), (B)には、
図10に示す従来の定電流源回路の出力電流Ioとオーバードライブ電圧ΔVの温度特性も、「補正無し」の場合の例としてそれぞれ示されている。
図13(A)より、温度補償用の抵抗Rcが無い場合つまり従来の定電流源回路では、ドレイン・ソース間電流は-50℃において4.3μA、150℃において5.1μAという大きな値を取るのに対し、10kΩの抵抗Rcで適正に補正を行った場合には、太線で示すような特性となり、150℃において3.7μa、最大でも約50℃で3.9μAとなり、温度依存性が小さくなっていることが分かる。
【0051】
また、
図13(A)より、抵抗Rcの値が5kΩでは補正量が不足しており、ドレイン・ソース間電流は-50℃より150℃の値の方が大きくなることが分かる。
一方、
図13(B)は、補正量を大きくすることでオーバードライブ電圧ΔVが減少することを示しており、抵抗Rcの値を大きくするほど減少幅が大きくなることが分かる。また、正の温度特性を持つ抵抗を用いることで、低温での減少幅より、高温での減少幅を大きくできることが分かる。
ところで、前述の式(3)より、ドレイン・ソース間電流Idsはデプレッション型MOSトランジスタや抵抗Rcのバラツキに影響を受けることが分かる。このバラツキは半導体の製造プロセスにより生じるものであり、定電流源回路に要求される精度に合致しない場合、電流調整手段を講じる必要がある。そこで、以下に、前記遅延回路13に使用されている定電流源回路に電流調整機能を持たせるようにした回路の具体例を説明する。
【0052】
[電流調整手段を有する定電流源回路]
図14には、電流調整手段を有する定電流源回路の第1の具体例が示されている。
図14に示す定電流源回は、デプレッション型MOSトランジスタMn0と並列に、複数組のデプレッション型MOSトランジスタMn1~MnmとヒューズF11~F1mからなる電流調整手段を設けるとともに、Mn0と直列に、複数組の補償用抵抗Rc1~RcmとヒューズF21~F2mとからなる温度補償量調整手段を接続したものである。
Mn0と並列に設けられた複数のヒューズF11~F1mのうち幾つかを切断して開放状態にすることで、出力電流Ioを減らすことができる。また、電流の減少により、前記式(2)のRc×Ids項による影響も変わるので、抵抗Rcと直列に接続したヒューズF21~F2mのうち幾つかを切断して開放状態にすることで抵抗値を増加させ、フラットな温度特性を有する電流Ioを生成して出力する定電流源回路を得ることができる。
【0053】
図15には、電流調整手段を有する定電流源回路の第2の具体例が示されている。
図15に示す定電流源回は、デプレッション型MOSトランジスタMn0と直列に、複数組のデプレッション型MOSトランジスタMn1~MnmとヒューズF11~F1mからなる電流調整手段を設けるとともに、抵抗Rcと並列に、複数組の補償用抵抗Rc1~RcmとヒューズF21~F2mとからなる温度補償量調整手段を接続したものである。
Mn0と直列に設けられた複数のヒューズF11~F1mのうち幾つかを切断して開放状態にすることで、出力電流Ioを減らすことができる。また、電流の減少により、前記式(2)のRc×Ids項による影響も変わるので、抵抗Rcと並列に接続したヒューズF21~F2mのうち幾つかを切断して開放状態にすることで抵抗値を増加させ、フラットな温度特性を有する電流Ioを生成して出力する定電流源回路を得ることができる。
【0054】
なお、上記ヒューズF11~F1mおよびF21~F2mは、ポリシリコン層あるいはポリシリコン膜と金属膜からなるポリメタル層などにより構成することができ、レーザ照射による切断処理や電流を流して発生した熱で切断する処理を適用することができる。
また、
図14および
図15に示す定電流源回路において、ヒューズF11~F1mおよびF21~F2mは、スイッチとして機能する素子であるので、MOSトランジスタあるいはEPROM(不揮発性半導体メモリ)を構成するメモリ素子を使用したスイッチに置き替えることも可能である。
上記第1および第2の具体例の他、
図14に示す電流調整手段および温度補償量調整手段と
図15に示す電流調整手段および温度補償量調整手段とを組み合わせたものを備えた定電流源回路を構成することも可能である。
【0055】
[変形例]
次に、上記実施例の変形例について説明する。
図12に、定電流源回路の変形例が示されている。
図12に示す定電流源回路は、それぞれ
図11に示す定電流源回路を構成する温度補償用の抵抗Rcの代わりに、ゲート端子に定電圧を印加したエンハンスメント型MOSトランジスタMcを接続したものである。
図12(A)の定電流源回路においてMOSトランジスタMcのゲート端子に電源電圧VDDを印加することで、Vds<Vgs-Vthの状態を作り、線形領域で動作させるようにしている。MOSトランジスタの線形領域においてドレイン・ソース間電流Idsは次式
Ids={(μeff×Cox×W)/L}×{(Vgs-Vth)×Vds-Vds
2/2} ……(4)
で表わされる。
【0056】
上式(4)よりドレイン・ソース間電圧Vdsが小さい領域においては、
Rds=Vds/Ids=L/{(μeff×Cox×W)×(Vgs-Vth)} ……(5)
の関係が得られるので、抵抗として動作することが分かる。
また、上記式(5)において、Vgs=VDDであることから、Vgsの値がVthの温度変化に対し非常に大きく、Vgs-Vthの項は温度依存性が非常に小さいのに対してμeffの値は高温になるほど小さくなることから、抵抗Rdsは高温で大きくなり、正の温度依存性を示すこととなる。ただし、式(5)は抵抗RdsがVDDに依存するということを示しているため、VDDが一定の条件で使用されることが望ましい。
図12(B)の定電流源回路においても、上記と同様である。
【0057】
図16(A), (B)には、遅延回路13の変形例が示されている。
このうち、
図16(A)の遅延回路13は、電源電圧端子VDDと接地点との間に、定電流源回路CC1とスイッチMOSトランジスタMsとコンデンサCを直列に接続し、トランジスタMsとコンデンサCとの接続ノードN3の電位を、反転入力端子に参照電圧Vrefが印加された電圧比較回路としてのコンパレータCMPの非反転入力端子に入力させるように構成したものである。また、トランジスタMsのゲート端子に前段の論理回路11Aの出力信号D_INまたは制御信号CEが入力されており、D_INまたはCEがハイレベルに変化するとトランジスタMsがオンされて、コンデンサCが定電流源回路CC1の電流で充電されてノードN3の電位が徐々に高くなり、参照電圧Vrefを越えるとコンパレータCMPの出力が反転することで遅延時間を得るものである。
【0058】
一方、
図16(B)の遅延回路13は、発振回路33を備えた
図7の遅延回路の変形例であり、インバータ列33Bの前段にコンパレータCMPを設けるとともに、コンパレータCMPの反転入力端子に印加される参照電圧が、切替えスイッチSWによってVref1またはVref2(<Vref1)に切り替え可能されている。また、コンデンサCを充電する電流を流す定電流源回路CC1の他に、コンデンサCの電荷を放電する電流を流す定電流源回路CC0が設けられているとともに、定電流源回路CC1,CC0とコンデンサCが接続されているノードN4との間に、スイッチMOSトランジスタMpsとMnsが設けられ、コンパレータCMPの後段のインバータ列33Bの出力の帰還信号によってMps,Mnsがオン、オフ制御されるように構成されている。定電流源回路CC1,CC0とコンデンサCとトランジスタMps,Mnsによって、三角波形成回路33Aが構成される。
【0059】
また、切替えスイッチSWもコンパレータCMPの後段のインバータ列33Bの出力信号によって切替え制御される。これにより、コンデンサCの充電電圧が表われるノードN4の電位は、定電流源回路CC1,CC0の電流とコンデンサCの容量値によって決まる所定の周期を有しVref1をピーク、Vref2をボトムとする三角波状に変化することとなる。そして、インバータ列33Bの出力信号(パルス)がANDゲートG3を介してカウンタ回路35に入力される。
ANDゲートG3に他方の入力端子には、前段の論理回路の出力D_INまたは制御信号CEが入力されており、D_INまたはCEがハイレベルに変化すると、カウンタ回路35が発振回路33から出力されるパルスの計数を開始して、所定数を計数することで所定の遅延時間を経過するとその出力D_OUTがハイレベルに変化する。
【0060】
図16(A), (B)に示す構成を有する遅延回路においては、発振回路の周期の大部分をコンデンサCの充放電時間が占め、充放電時間は定電流源回路の電流値に依存することから、定電流源回路の温度依存性を改善することは、遅延時間の温度依存性を改善することと同じ効果をもたらす。従って、発振回路の定電流源回路として、前述した実施例(
図11)のように温度依存性を改善した定電流源回路を使用するのが望ましく、それにより精度の高い遅延時間が得られる。
なお、
図16(A), (B)に示す遅延回路は、高い精度が不要な場合、定電流源回路CC1,CC0の代わりに抵抗素子を使用した構成も可能である。
【0061】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。
また、前記実施形態では、放電制御用のICとして構成した場合について説明したが、本発明は、レギュレータ制御機能など他の機能を有する電源用IC等の一部として構成する場合にも利用することが可能である。また、前記実施形態で使用されている定電流源回路を備えた発振回路は、遅延回路以外の回路(例えばタイマー回路)やICにも利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
10……放電制御回路、11A,11B……論理回路、12A,12B……放電回路、13……遅延回路、32……カレントミラー回路、33……発振回路、34……波形整形回路、35……カウンタ回路、M11~M1n,M21~M2n……ディスチャージ用MOSトランジスタ(放電素子)