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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】導電性接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 183/04 20060101AFI20240807BHJP
   C09J 9/02 20060101ALI20240807BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20240807BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20240807BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240807BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20240807BHJP
   B22F 9/24 20060101ALN20240807BHJP
【FI】
C09J183/04
C09J9/02
C09J11/04
H01B1/22 D
B22F1/00 K
B22F9/00 B
B22F9/24 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020162423
(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公開番号】P2022055056
(43)【公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】相澤 豪
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-110759(JP,A)
【文献】特開2004-124160(JP,A)
【文献】特開平11-195326(JP,A)
【文献】特開2008-133527(JP,A)
【文献】特開平03-170581(JP,A)
【文献】特開2014-040536(JP,A)
【文献】特開2004-137404(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0158232(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 183/04
C09J 9/02
C09J 11/04
H01B 1/22
B22F 1/00
B22F 9/00
B22F 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粉と、硬化性シリコーン樹脂と、を含む導電性接着剤であって、
前記銀粉は、珊瑚状の銀粒子を含み、
前記珊瑚状の銀粒子は、平均粒子径が10.0μm以上15.0μm以下で、軸部と20本以下の枝部とからなり、
前記軸部は、前記珊瑚状の銀粒子における端点間の距離が最も長くなる二点の端点を結ぶ道筋をたどる棒状の部分であり、
前記枝部は、前記軸部から分岐している前記軸部より短い棒状部分であり、
前記枝部の先端は分岐せず略球状であり、
前記銀粉に含まれる前記珊瑚状の銀粒子以外の銀粒子の割合は、75質量%以下である、導電性接着剤。
【請求項2】
前記銀粉は、嵩密度が1.0g/cm以上1.4g/cm以下であり、タップ密度が1.0g/cm以上1.7g/cm以下である、請求項1に記載の導電性接着剤。
【請求項3】
水晶振動子用である、請求項1又は2に記載の導電性接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子制御装置やコンピュータなどの電子部品には、通常、水晶振動子が使用されている。水晶振動子は、金や銀などの電極で水晶片を挟持し、信号電流を流して振動を取り出すものである。水晶振動子の製造において、水晶片を保持するために導電性接着剤が用いられることが多い。
【0003】
銀を含む導電性接着剤は、電子部品などの電極や回路の形成するために用いられる。さらに精密機器の製造において、材質が異なる部品同士の接着にも用いられる。
【0004】
例えば特許文献1には、鱗片状銀粉をシリコーン樹脂に分散した導電性ペーストが記載されている。
また、特許文献2には、非薄片銀粉を含む導電性ペーストであって、毬栗状銀粉又は球状銀粉を含む導電性ペーストが記載されている。
さらに特許文献3には、鱗片状銀被覆銅粉、樹枝状銀被覆銅粉を含む電子部品用導電性接着剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-150837号公報
【文献】特開2016-76444号公報
【文献】特開2016-89038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば金属部品と水晶部品とを接着する水晶振動子の製造においては、熱膨張率が異なる金属部品と水晶部品との温度変動を許容可能な接着層が求められる。
異なる材質の部品同士を接着する場合、導電性接着剤を用いて形成される導電性接着層には、低抵抗であり、接着強度に優れることに加えて低弾性であることが求められる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、低抵抗であり、接着強度に優れ、かつ低弾性である導電性接着層を形成できる導電性接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成を採用した。
[1]銀粉と、硬化性シリコーン樹脂と、を含む導電性接着剤であって、前記銀粉は、珊瑚状の銀粒子を含み、前記珊瑚状の銀粒子は、軸部と、前記軸部よりも短い枝部とからなり、前記軸部は、20本以下の前記枝部を有し、前記枝部の先端は分岐せず略球状である、導電性接着剤。
[2]前記銀粉は、嵩密度が1.0g/cm以上1.4g/cm以下であり、タップ密度が1.0g/cm以上1.7g/cm以下である、[1]に記載の導電性接着剤。
[3]前記銀粉が含む銀粒子は、平均粒子径が10.0μm以上15.0μm以下である、[1]又は[2]に記載の導電性接着剤。
[4]水晶振動子用である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の導電性接着剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低抵抗であり、接着強度に優れ、かつ低弾性である導電性接着層を形成できる導電性接着剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に用いる珊瑚状の銀粒子を説明するための模式図である。
図2】本実施形態に用いる珊瑚状の銀粒子を説明するための模式図である。
図3】本実施形態に用いる珊瑚状の銀粒子を説明するための模式図である。
図4】本実施形態に用いる珊瑚状に該当しない銀粒子を説明するための模式図である。
図5】製造例1で製造した銀粉のSEM画像である。
図6】製造例2で製造した銀粉のSEM画像である。
図7】製造例3で製造した銀粉のSEM画像である。
図8】製造例4で製造した銀粉のSEM画像である。
図9】市販のフレーク状の銀粉のSEM画像である。
図10】製造例1で製造した銀粉のSEM画像である。
図11】製造例1で製造した銀粉のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<定義等>
本実施形態において、導電性接着剤の導電性は下記の方法により評価する。
まず、導電性接着剤を用い、横1cm、縦6cm、厚み20μmの寸法のサンプルを得る。
サンプルの抵抗をデジタルマルチメーターを用いて測定し、下記式により比抵抗値を求める。デジタルマルチメーターとしては、例えばADCMT社製の6581 DIGITAL MULTIMETERが使用できる。
【0012】
比抵抗値=R×(S/I)(Ω・cm)
(上記式において、Rはデジタルマルチメーターにより測定した抵抗値であり、Sはサンプルの断面積であり、Iは電極間距離である。)
比抵抗が2×10-4Ω・cm以下であると、「低抵抗である」と評価する。
【0013】
本実施形態において、導電性接着剤の接着強度は下記の方法により評価する。
まず、導電性接着剤を用い、横1cm、縦6cm、厚み0.05mmの寸法のフィルムを得る。
得られたフィルムを金属メッキチップと積層して積層体を形成する。得られた積層体について、金属メッキチップを引っ張り、剥がれた時点での強度を求める。5個の積層体について同様に強度を求め、5個の平均値を接着強度とする。
接着強度が1.0kgf以上であると「接着強度が高い」と評価する。
【0014】
本実施形態において、導電性接着剤の弾性率は下記の方法により評価する。
導電性接着剤を用い、横1cm、縦6cm、厚み0.05mmの短冊状の試験片を作成する。
その後、弾性率測定装置を使用して試験片の弾性率を引張試験により測定する。弾性率測定装置としては、例えばTA Instruments製、RSA-G2が使用できる。
弾性率が300MPa以下であると、「低弾性」と評価する。
【0015】
以下、好適な実施の形態に基づき、本発明を説明する。
【0016】
<導電性接着剤>
本実施形態の導電性接着剤は、銀粉と、硬化性シリコーン樹脂と、を含む。
【0017】
≪銀粉≫
本実施形態に用いる銀粉は、珊瑚状の銀粒子を含む。
珊瑚状の銀粒子は、軸部と、軸部よりも短い枝部とからなり、軸部は、20本以下の枝部を有し、枝部の先端は分岐せず略球状である。
【0018】
図1~3に、本実施形態に用いる銀粉が含有する珊瑚状の銀粒子の模式図を示す。
【0019】
図1に示す珊瑚状の銀粒子は、軸部Aと、軸部Aより短い2つの枝部Bを有する。
【0020】
図2に示す珊瑚状の銀粒子は、軸部Aと、軸部Aより短い3つの枝部Bを有する。
【0021】
図3に示す珊瑚状の銀粒子は、軸部Aと、軸部Aより短い2つの枝部Bを有する。珊瑚状の銀粒子の最も長い軸状部分を軸部Aとする。
【0022】
図4に示す珊瑚状の銀粒子は、軸部Aと、軸部Aより短い3つの枝部Bを有するものの、枝部Bが分岐Cを有するため、本実施形態に用いる珊瑚状の銀粒子には該当しない。
【0023】
本実施形態において銀粒子が珊瑚状であるか否かは、以下の方法により確認する。
まず、銀粉を走査型電子顕微鏡により観察する。このときの倍率は、10,000倍とする。走査型電子顕微鏡としては、例えば日本電子株式会社製のJSM-6360LVが使用できる。以下において、走査型電子顕微鏡をSEMと記載する場合がある。
【0024】
SEM観察により得られた倍率10,000倍のSEM画像内にある銀粒子の一つについて、端点間の距離が最も長くなる二点の端点を取る。その二点を結ぶ道筋をたどる棒状の部分を主軸とする。主軸から分岐している、主軸より短い棒状部分を枝部とする。
SEM画像の観察箇所を変えて10枚撮影し、すべてにおいて上記の判断ができた場合には、銀粒子が珊瑚状であると判断する。
【0025】
上記の構造の珊瑚状の銀粒子を含有する本実施形態の導電性接着剤を用いて形成した導電性接着層は、銀粒子同士の間に空間が形成されやすい。形成された空間が応力を吸収し、低弾性の導電性接着層を形成することができる。
【0026】
本実施形態に用いる銀粉は、嵩密度が1.0g/cm以上1.4g/cm以下であり、タップ密度が1.0g/cm以上1.7g/cm以下であることが好ましい。
嵩密度は1.1g/cm以上1.2g/cm以下であることがより好ましく、タップ密度は1.4g/cm以上1.7g/cm以下であることがより好ましい。
【0027】
嵩密度及びタップ密度が上記の範囲である銀粉を含有する本実施形態の導電性接着剤を用いて形成した導電性接着層は、銀粒子同士の間に空間が形成されやすい。形成された空間が応力を吸収し、低弾性の導電性接着層を形成することができる。
【0028】
銀粉の嵩密度(単位:g/cm)は、以下の方法により測定できる。
まず、50gの銀粉をロートで100mlのメスシリンダーに静かに落とす。このときの銀粉の容積を測定する。容積(cm)の値で、銀粉の質量(g)の値を除することにより、かさ密度(g/cm)を算出する。
【0029】
銀粉のタップ密度は、下記の方法により測定できる。
まず、銀粉100gをロートで100mlのメスシリンダーに静かに落とす。
次に、メスシリンダーをタップ密度測定器に載せて、落差距離20mm、60回/分の速さで600回落下させ、銀粉を圧縮し、圧縮後の銀粉の容積を測定する。
圧縮後の容積(cm)で、銀粉の質量(g)を除することにより、タップ密度(g/cm)を算出する。
【0030】
本実施形態に用いる銀粉が含む銀粒子は、平均粒子径が10.0μm以上15.0μm以下であることが好ましい。平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えば島津製作所社製、レーザー回折式粒度分布測定装置が使用できる。
【0031】
銀粒子の平均粒子径が上記の範囲であると、高い導電性と低弾性とを両立することができる。
一般的に、平均粒子径が大きいほど導電性が悪化しやすいが低弾性になりやすい。また、平均粒子径が小さいほど導電性が良好となりやすいが高弾性になりやすい。
銀粒子の平均粒子径が上記の範囲であると、粒子径が比較的大きいため低弾性となりやすく、かつ特異的な形状を有することで銀同士の接点が増加するため、高い導電性を発揮しやすくなる。
【0032】
本実施形態に用いる銀粉は、焼成減量率が0.3%以下であることが好ましい。銀粉の焼成減少率は下記の方法により測定できる。
銀粉100gを538℃で30分間焼成する。焼成前後で銀粉100gの質量を測定し、下記の式により焼成減少率(%)を求める。
焼成減少率(%)=(焼成前の質量-焼成後の質量)/焼成前の質量 ×100
【0033】
銀粉の焼成減少率により、銀粉に含まれる表面処理剤の量を定量することができる。表面処理剤は、銀粒子同士の凝集を防ぐために用いられる材料である。表面処理剤の添加量が過剰であると、弾性率が高くなりやすい。焼成減量率が0.3%以下である銀粉は、低弾性となりやすい。
【0034】
本実施形態に用いる銀粉は、上述した珊瑚状の銀粉以外の銀粒子を含有していてもよい。珊瑚状の銀粉以外の銀粒子としては、粒状の銀粒子、毬栗状の銀粒子、樹枝状の銀粒子、フレーク状の銀粒子が挙げられる。
【0035】
珊瑚状の銀粒子以外の銀粒子を用いる場合、銀粉に含まれる珊瑚状の銀粒子以外の銀粒子の割合は、80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、40%以下がさらに好ましい。
【0036】
銀粉の含有量は、導電性接着剤の全量に対し、65質量%以上95質量%以下が好ましく、70質量%以上90質量%以下がより好ましい。
【0037】
≪硬化性シリコーン樹脂≫
本実施形態に用いる硬化性シリコーン樹脂としては、硬化タイプのシリコーン樹脂であれば特に限定されず、例えば付加反応硬化型、縮合反応硬化型などのシリコーン樹脂が使用可能である。
【0038】
付加反応硬化型シリコーン樹脂の例としては、例えば、信越化学工業(株)製の商品名KE-1820、KE-1823、東芝シリコーン(株)製の商品名TSE-3221、TSE-3250、TSE-3251、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製の商品名SE-1750、SE-4450などが挙げられる。
【0039】
縮合反硬化応型シリコーン樹脂の例としては、例えば、信越化学工業(株)製の商品名KE-441、KE-471、KE-47、東芝シリコーン(株)製の商品名TSE-387、TSE-397、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製の商品名SE-917G、SE-9186、SE-9184などが挙げられる。
【0040】
また、硬化性シリコーン樹脂と銀粉の質量比は、硬化性シリコーン樹脂:銀粉=5:95~30:70が好ましく、10:90~20:80が好ましい。
銀粉の割合が上記範囲の下限値以上であると、銀粉同士の接続が良好となり、十分な導電性が得られる。また、銀粉の割合が上記範囲の上限値以下であると、十分な接着強度を確保できる。
【0041】
≪反応触媒≫
本実施形態の導電性接着剤は、反応触媒を含むことが好ましい。
本発明に用いられる反応触媒としては、付加反応に用いられる触媒が使用できるが、例えば、白金や白金化合物を用いることが好ましい。白金化合物としては、例えば、塩化白金酸、アルミナ、シリカ、カーボンブラックなどの担体に固体の白金を担持させたもの、白金-ビニルシロキサン錯体、白金-ホスフィン錯体、白金-ホスファイト錯体、白金アルコラート触媒などが挙げられる。中でも、塩化白金酸、白金-ビニルシロキサン錯体が好ましい。
これらの反応触媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
反応触媒は、硬化性シリコーン樹脂と銀粉の合計100質量部に対して1×10-2~1×10-7質量部配合されるのが好ましい。
【0042】
≪溶剤≫
本実施形態の導電性接着剤は、溶剤を含むことが好ましい。
溶剤としては、硬化性シリコーン樹脂を溶解するものであれば特に制限されず、公知のものを使用してよい。例えば、炭素原子数6~20の脂肪族飽和炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ポリジメチルシロキサン等のシリコーンオイルなどが挙げられる。中でも、n-ドデカンが好ましい。これらの溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
溶剤の含有量は、硬化性シリコーン樹脂と銀粉の合計100質量部に対して1~30質量部が好ましく、5~20質量部がより好ましい。
【0043】
≪反応遅延剤≫
硬化性シリコーン樹脂は、付加反応(硬化反応)することにより、シリコーン硬化物となる。通常、硬化反応は導電性接着剤を熱処理することにより起こるが、室温での硬化反応を抑制し、導電性接着剤の保存安定性をより向上させるために、導電性接着剤には反応遅延剤を配合させてもよい。
【0044】
反応遅延剤としては、付加反応に一般に使用されるものであれば特に制限はなく、具体的には、アセチレン化合物、リン化合物、窒素化合物、イオウ化合物、すず化合物が挙げられる。
【0045】
アセチレン化合物としては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、2-メチル-3-ヘキセン-1-インなどが挙げられる。
【0046】
リン化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンなどが挙げられる。
【0047】
窒素化合物としては、ベンゾトリアゾール、トリフェニルアミンなどが挙げられる。
【0048】
イオウ化合物としては、ジブチルイオウ、チオ酢酸などが挙げられる。
【0049】
すず化合物としては、2-エチルヘキサン酸すず(II)、ジブチルすずジラウレートなどが挙げられる。
【0050】
反応遅延剤の配合量は、硬化性シリコーン樹脂と銀粉の合計100質量部に対して0.05~0.5質量部が好ましい。
【0051】
≪カップリング剤≫
本実施形態の導電性接着剤は、カップリング剤を含むことが好ましい。
カップリング剤としては、付加型シリコーンに一般に使用されるものであれば特に制限はされないが、シランカップリング剤が好適である。具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0052】
これらの中でも、グリシジル基をもつものが好ましい。これらのカップリング剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
カップリング剤の含有量は、硬化性シリコーン樹脂と銀粉の質量の合計100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、0.5質量部以上2質量部以下がより好ましい。
【0054】
≪珊瑚状の銀粒子を含む銀粉の製造方法≫
本実施形態に用いる珊瑚状の銀粒子を含む銀粉は、下記の方法により、製造することができる。
【0055】
まず、L-アスコルビン酸水溶液および硝酸銀水溶液を調整する。
L-アスコルビン酸水溶液は、15質量%以上25質量%以下に調製する。L-アスコルビン酸水溶液の水溶液温度は、例えば5℃以上15℃以下に調整すればよい。
【0056】
硝酸銀水溶液は、10質量%以上20質量%以下に調製する。硝酸銀水溶液の水溶液温度は、例えば45℃以上55℃以下に調整すればよい。
【0057】
次に、L-アスコルビン酸水溶液および硝酸銀水溶液をそれぞれ、フラスコ内で撹拌棒を用いて200rpm以上400rpm以下で、15分間以上45分間以下撹拌する。
【0058】
次に、滴下装置を用いて硝酸銀水溶液をL-アスコルビン酸水溶液に滴下する。
具体的には、硝酸銀水溶液を5mL/分以上30mL/分以下の速度でL-アスコルビン酸水溶液に滴下する。滴下終了後、さらに10分間以上撹拌し、混合液を得る。
【0059】
その後、得られた混合液をろ紙を用いて吸引ろ過する。これにより、ろ物が得られる。
得られたろ物に純水(銀理論収量50gに対して純水1.0L以上)を加え、撹拌棒を用いて200rpm以上400rpm以下の回転速度で、10分間以上で撹拌し、銀粉を洗浄する。
【0060】
また、洗浄後のろ液についてpH測定および電気伝導度測定を行い、電気伝導度が3S/m以下、好ましくは1.5S/m以下になるまで洗浄を繰り返す。
【0061】
その後、銀の理論収量に対して0.5質量%以上3.0質量%以下のオレイン酸を秤量し、メタノールと混合することで0.5質量%以上1.5質量%のオレイン酸/メタノール溶液を作製する。
ここに、洗浄工程で得られたろ物を添加し、200rpm以上400rpm以下で10分間以上 撹拌した後、吸引ろ過する。
【0062】
得られたろ物を金属バットに取り出し、ケーキ厚み20mm以下にし、40℃以上60℃以下で12時間以上18時間乾燥させる。
乾燥後、適宜分級し、本実施形態に用いる珊瑚状の銀粒子を含む銀粉が得られる。
【0063】
本発明の導電性接着剤は種々の用途に使用できるが、特に水晶振動子を製造する際に、水晶片を保持する場合に適している。中でも、電極として金電極を用いた水晶振動子を製造する場合に好適に用いることができる。
【0064】
上述した導電性接着剤を用いて製造される水晶振動子は、金電極の電極面積が減少し、雰囲気温度が高くなっても、水晶振動子の周波数の変動を低減できる。
【実施例
【0065】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0066】
<銀粉粒子のSEM観察>
後述する方法により得られた銀粉を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JSM-6360LV)を用いて、倍率10,000倍で観察した。
【0067】
<かさ密度の測定>
まず、後述する方法により得られた銀粉について、下記の方法によりかさ密度(単位:g/cm)を測定した。
後述する方法により得られた50gの銀粉をロートで100mlのメスシリンダーに静かに落とした。このときの銀粉の容積を測定した。容積(cm)で、銀粉の質量(g)を除することにより、かさ密度(g/cm)を算出した。
【0068】
<タップ密度の測定>
まず、後述する方法により得られた銀粉50gをロートで100mlのメスシリンダーに静かに落とした。
次に、メスシリンダーをタップ密度測定器に載せて、落差距離20mm、50回/分の速さで500回落下させ、銀粉を圧縮し、圧縮後の銀粉の容積を測定した。
圧縮後の容積(cm)で、銀粉の質量(g)を除することにより、タップ密度(g/cm)を算出した。
【0069】
<焼成減量率の測定>
後述する方法により得られた銀粉100gを538℃で30分間焼成した。焼成前後で銀粉100gの質量を測定し、下記の式により焼成減少率(%)を求めた。
焼成減少率(%)=(焼成前の質量-焼成後の質量)/焼成前の質量 ×100
【0070】
<平均粒子径の測定>
後述する方法により得られた銀粉100gをレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、レーザー回折式粒度分布測定装置)を用いて測定し、平均粒子径(μm)を測定した。
【0071】
<導電性評価>
後述の方法により製造される導電性接着剤をガラス板に塗布し、150℃の恒温槽の中で30分間保持して、硬化及び乾燥させた。これにより、横1cm、縦6cm、厚み20μmの寸法のサンプルを得た。
サンプルを室温に戻した後、デジタルマルチメーター(ADCMT社製 6581 DIGITAL MULTIMETER)を用いて抵抗を測定し、下記式により比抵抗値を求めた。
比抵抗値=R×(S/I)(Ω・cm)
(上記式において、Rはデジタルマルチメーターにより測定した抵抗値であり、Sはサンプルの断面積であり、Iは電極間距離である。)
〇:2×10-4Ω・cm以下
×:2×10-4Ω・cmを超える
【0072】
<接着強度の評価>
スライドガラスの上に、厚みが約0.05mmのニチバンセロハンテープを約1cmの間隔で平行に2枚貼った。セロハンテープの間に後述する方法により製造される導電性接着剤を塗布し、ガラス棒でしごき塗りし、セロハンテープを剥がした。これにより、横1cm、縦6cm、厚み0.05mmの短冊状の導電性接着フィルムを得た。その後、1分間以内に金メッキチップを導電性フィルムの上に静かに乗せた。その後、200℃の恒温槽の中で60分間保持し、硬化と乾燥を行った。その後、室温に戻して、導電性接着フィルムと金メッキチップが積層された積層体を得た。
【0073】
プッシュプルゲージを使用し、引張試験を行った。具体的には、積層体の金メッキチップに穴部をアイコーエンジニアリング社製のプッシュプルゲージの軸の先端を金メッキチップの端の穴部にセットし、垂直方向に5.0cm/分の速度で金メッキチップが剥がれるまで引っ張り、剥がれた時点での強度を求めた。5個の積層体について同様に強度を求め、5個の平均値を接着強度とした。
○:1.0kgf以上
×:1.0kgf未満
【0074】
<弾性率の測定>
スライドガラス上にテフロン(登録商標)シートを貼った。テフロン(登録商標)シート上に、厚みが約0.05mmのニチバンセロハンテープを約1cmの間隔で平行に2枚貼った。セロハンテープの間に後述する方法により製造される導電性接着剤を塗布し、ガラス棒でしごき塗りし、セロハンテープを剥がした。その後、導電性接着剤の塗膜を200℃の恒温槽の中で60分間保持して、硬化と乾燥を行った。室温に戻した後、塗膜を幅5mm、長さ60mmの短冊状に切り、スライドガラスから剥離して、横1cm、縦6cm、厚み0.05mmの短冊状の試験片を作成した。
その後、TA Instruments製、RSA-G2を使用して試験片の弾性率を引張試験により測定した。
〇:300MPa以下
×:300MPaを超える
【0075】
<製造例1:銀粉の製造>
・L-アスコルビン酸水溶液および硝酸銀水溶液の調整
L-アスコルビン酸320gを純水1280gに溶解し、20質量%の水溶液温度10℃のL-アスコルビン酸水溶液を作製した。
また、硝酸銀120gを純水640gに溶解し、15.8質量%の水溶液温度50℃の硝酸銀水溶液を作製した。各水溶液をフラスコ内で撹拌棒を用いてそれぞれ300rpmで30分間撹拌した。
【0076】
・滴下および滴下後の撹拌
滴下装置を用いて硝酸銀水溶液をL-アスコルビン酸水溶液に21.4mL/分の速度で滴下した。滴下終了後、さらに30分間撹拌し、混合液を得た。
【0077】
・洗浄およびろ過
反応後の混合溶液をろ紙を用いて吸引ろ過した。得られたろ物に純水(銀理論収量50gに対して純水1.0L以上)を加え、撹拌棒で300rpm、15分間撹拌し、銀粉を洗浄した。また、洗浄後のろ液についてpH測定および電気伝導度測定を行い、電気伝導度が3S/m以下になるまで8回洗浄を繰り返した。
【0078】
・分散剤処理
銀の理論収量に対して3質量%のオレイン酸を秤量し、メタノールと混合することで1質量%のオレイン酸/メタノール溶液を作製した。ここに、洗浄工程で得られたろ物を添加し、300rpmで30分間撹拌した後、吸引ろ過した。
【0079】
・乾燥および分級
得られたろ物を金属バットに取り出し、ケーキ厚み20mm以下にし、60℃で14時間乾燥した。乾燥後、200メッシュのふるいにて分級した。これにより、製造例1の銀粉を得た。
【0080】
製造例1の銀粉の倍率10,000倍のSEM写真を図5に示す。その結果、製造例1の銀粉は、軸部と、軸部よりも短い枝部とからなり、軸部は、20本以下の枝部を有し、枝部の先端は分岐せず略球状である珊瑚状の粒子であった。
【0081】
図10に製造例1の銀粉の倍率5,000倍のSEM写真を示す。
図10において、端点間の距離が最も長くなる二点の端点を取った。その二点を結ぶ道筋をたどる棒状の部分を主軸とした。図10において主軸を実線で示す。主軸から分岐している、主軸より短い棒状部分を枝部とする。図10において枝部を破線とする。その結果、製造例1の銀粉は、軸部と、軸部よりも短い枝部とからなり、軸部は、20本以下の枝部を有し、枝部の先端は分岐せず略球状である珊瑚状の粒子であった。
【0082】
図11に製造例1の銀粉の倍率10,000倍のSEM写真を示す。
図11において、端点間の距離が最も長くなる二点の端点を取った。その二点を結ぶ道筋をたどる棒状の部分を主軸とした。図11において主軸を実線で示す。主軸から分岐している、主軸より短い棒状部分を枝部とする。図11において枝部を破線とする。その結果、製造例1の銀粉は、軸部と、軸部よりも短い枝部とからなり、軸部は、20本以下の枝部を有し、枝部の先端は分岐せず略球状である珊瑚状の粒子であった。
【0083】
<製造例2:銀粉の製造>
硝酸銀水溶液の濃度を37.5質量%とし、硝酸銀水溶液の温度を30℃とし、L-アスコルビン酸溶液の温度を30℃に変更した以外は実施例1と同様の方法により、銀粉を製造した。
【0084】
製造例2の銀粉のSEM写真を図6に示す。図6に示す通り、製造例2の銀粉は、粒状であった。
【0085】
<製造例3:銀粉の製造>
硝酸銀水溶液の濃度を20.0質量%とし、L-アスコルビン酸溶液の濃度を30.0質量%とし、硝酸銀水溶液の温度を30℃とし、L-アスコルビン酸溶液の温度を30℃に変更した以外は実施例1と同様の方法により、銀粉を製造した。
【0086】
製造例3の銀粉のSEM写真を図7に示す。図7に示す通り、製造例3の銀粉は、毬栗状であった。
【0087】
<製造例4:銀粉の製造>
硝酸銀水溶液の濃度を25.0質量%とし、L-アスコルビン酸溶液の濃度を35.2質量%とし、硝酸銀水溶液の温度を10℃とし、L-アスコルビン酸溶液の温度を50℃に変更した以外は実施例1と同様の方法により、銀粉を製造した。
【0088】
製造例4の銀粉のSEM写真を図8に示す。図8に示す通り、製造例4の銀粉は、樹枝状であった。
【0089】
製造例1~4の銀粉について、粒子の形状、かさ密度、タップ密度、焼成減少率及び平均粒子径を表1に記載する。
【0090】
【表1】
【0091】
<導電性接着剤の製造>
≪実施例1≫
14.77質量部の硬化性シリコーン樹脂(信越化学工業(株)、KE-1820)、溶剤として6.82質量部のドデカン(富士フィルム和光純薬(株)、ドデカン)、反応触媒として、0.02質量部の白金触媒(Gelest社、SIT7278)、遅延剤として0.08質量部のマレイン酸ジアリル、0.81質量部のシランカップリング剤(信越シリコーン(株)、KBM-1003)、及び製造例1により製造した77.5質量部の銀粉を混合し、実施例1の導電性接着剤を得た。
【0092】
≪比較例1≫
製造例2の銀粉を用いた以外は実施例1と同様の方法により、比較例1の導電性接着剤を得た。
【0093】
≪比較例2≫
製造例3の銀粉を用いた以外は実施例1と同様の方法により、比較例2の導電性接着剤を得た。
【0094】
≪比較例3≫
製造例4の銀粉を用いた以外は実施例1と同様の方法により、比較例3の導電性接着剤を得た。
【0095】
≪比較例4≫
フレーク状の銀粉((株)エイムス・アドバンストマテリアルス、SF-26)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、比較例4の導電性接着剤を得た。図9に、フレーク状の銀粉のSEM写真を示す。
【0096】
実施例1、比較例1~4の導電性接着剤について、上記の方法により測定した比抵抗、接着強度及び弾性率の結果を表2に記載する。
【0097】
【表2】
【0098】
上記結果に示した通り、実施例1の導電性接着剤は、比抵抗が低く、接着強度が高いことに加えて、低弾性であることが確認できた。
【0099】
≪実施例2≫
銀粉として、製造例1の銀粉を58.1質量部、製造例2の銀粉を19.4質量部(製造例1:製造例2=75:25)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、実施例2の導電性接着剤を得た。
【0100】
≪実施例3≫
銀粉として、製造例1の銀粉を38.8質量部、製造例2の銀粉を38.8質量部(製造例1:製造例2=50:50)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、実施例3の導電性接着剤を得た。
【0101】
≪実施例4≫
銀粉として、製造例1の銀粉を19.4質量部、製造例2の銀粉を58.1質量部(製造例1:製造例2=25:75)を用いた以外は実施例1と同様の方法により、実施例4の導電性接着剤を得た。
【0102】
実施例2~4の導電性接着剤について、上記の方法により測定した比抵抗、接着強度及び弾性率の結果を表3に記載する。
【0103】
【表3】
【0104】
上記結果に示した通り、実施例2~4の導電性接着剤は、比抵抗が低く、接着強度が高いことに加えて、低弾性であることが確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11