IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 千住金属工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-金属及び電子装置 図1
  • 特許-金属及び電子装置 図2
  • 特許-金属及び電子装置 図3
  • 特許-金属及び電子装置 図4
  • 特許-金属及び電子装置 図5
  • 特許-金属及び電子装置 図6
  • 特許-金属及び電子装置 図7
  • 特許-金属及び電子装置 図8
  • 特許-金属及び電子装置 図9
  • 特許-金属及び電子装置 図10
  • 特許-金属及び電子装置 図11
  • 特許-金属及び電子装置 図12
  • 特許-金属及び電子装置 図13
  • 特許-金属及び電子装置 図14
  • 特許-金属及び電子装置 図15
  • 特許-金属及び電子装置 図16
  • 特許-金属及び電子装置 図17
  • 特許-金属及び電子装置 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】金属及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   C22C 28/00 20060101AFI20240807BHJP
   C22C 30/06 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
C22C28/00 B
C22C30/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023211098
(22)【出願日】2023-12-14
【審査請求日】2023-12-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 咲枝
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 秀太
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103740995(CN,A)
【文献】特許第7417696(JP,B1)
【文献】特開昭59-116357(JP,A)
【文献】特開昭53-046418(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103184381(CN,A)
【文献】特開2006-144112(JP,A)
【文献】特開2012-111823(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113564446(CN,A)
【文献】特開2012-172178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 28/00
C22C 30/00 - 30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2~30質量%のSn、0.01~0.3質量%未満のZn、0.01~30質量%のBi及び残部がGaからなる35℃で液体金属又は液体金属及び固体金属を含む金属。
【請求項2】
1~35質量%のIn、5~20質量%のSn、0.01~0.1質量%未満のZn、0.01~1.5質量%のBi及び残部がGaからなる35℃で液体金属又は液体金属及び固体金属を含む金属。
【請求項3】
Biを1.5質量%以下で含有する、請求項に記載の金属。
【請求項4】
0.51質量%未満のIn、0~6質量%のSn、0.1~3.5質量%のZn、0.1~1.0質量%のBi及び残部がGaからなる35℃で液体金属又は液体金属及び固体金属を含む金属。
【請求項5】
0.5~20質量%のIn、0~5質量%未満のSn、0.1~3.5質量%のZn、0.1~1.0質量%のBi及び残部がGaからなる35℃で液体金属又は液体金属及び固体金属を含む金属。
【請求項6】
0~20質量%のIn0.1~1.0質量%未満のZn、0.1~1.0質量%のBi及び残部がGaからなる35℃で液体金属又は液体金属及び固体金属を含む金属。
【請求項7】
~6質量%のSn、0.1~0.3質量%未満のZn、0.1~1.0質量%のBi及び残部がGaからなる35℃で液体金属又は液体金属及び固体金属を含む金属。
【請求項8】
Snを4.5質量%以下で含有する、請求項4、5及び7のいずれか1項に記載の金属。
【請求項9】
残部が一部のGaに代えて、0.005~0.10質量%のAg、Sb、Cu、Fe、Al、As、Ni、Au、Ti、Cr、La、Mg、Mn、Co、GeCd、Pb、P、S及びSiのいずれか1つ以上をさらに含有する、請求項1乃至のいずれか1項に記載の金属。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の金属が放熱材料として用いられた電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属及び当該金属を用いた電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から液体金属の提供が試みられており、例えば特許文献1では、共晶ガリウム合金と、ガリウム合金内にマイクロ構造として分布する酸化ガリウムシートとを備え、共晶ガリウム合金と酸化ガリウムとの混合物は、重量パーセント(wt%)で約59.9%から約99.9%の共晶ガリウム合金と、wt%で約0.1%から約2.0%の酸化ガリウムとを有する、導電性ずり減粘ゲル組成の提供が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2019-516208号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体金属は放熱効果が高いことから、特にはんだや導電性接着剤では昨今注目を集めている。他方、特許文献1で開示されているようなGaを含有する液体金属を含む金属では、Gaが酸化しやすいという性質のもと、水素を発生しながら酸化物が成長する事により、形状変化や放熱性が低下するという問題がある。特に高温高湿下では、Gaが選択的に酸化する傾向が強くなる。
【0005】
本発明では、Gaを含有し、液体金属を含有しつつも、酸化しにくい金属や当該金属を用いた電子装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[概念1]
本発明による金属は、
2~30質量%のSn、0.01~2質量%のZn、0.01~30質量%のBi及び残部がGaからなる35℃で液体金属又は液体金属及び固体金属を含んでもよい。
【0007】
[概念2]
本発明による金属は、
1~35質量%のIn、5~20質量%のSn、0.01~2質量%のZn、0.01~30質量%のBi及び残部がGaからなる35℃で液体金属又は液体金属及び固体金属を含んでもよい。
【0008】
[概念3]
概念1による金属において、
Znを0.5質量%未満で含有してもよい。
【0009】
[概念4]
概念2による金属において、
Znを1質量%未満で含有してもよい。
【0010】
[概念5]
概念1乃至4のいずれか1つによる金属において、
Biを1.5質量%以下で含有してもよい。
【0011】
[概念6]
本発明による金属は、
0~20質量%のIn、0~6質量%のSn、0.1~3.5質量%のZn、0.1~1.0質量%のBi及び残部がGaからなる35℃で液体金属又は液体金属及び固体金属を含んでもよい。
【0012】
[概念7]
概念6による金属において、
Snを4.5質量%以下で含有してもよい。
【0013】
[概念8]
概念1乃至7のいずれか1つによる金属において、
残部が一部のGaに代えて、Ag、Sb、Cu、Fe、Al、As、Ni、Au、Ti、Cr、La、Mg、Mn、Co、Ge、Ga、Cd、Pb、P、S及びSiのいずれか1つ以上をさらに含有してもよい。
【0014】
[概念9]
概念1乃至8のいずれか1つによる金属は、放熱材料として用いられてもよい。
【0015】
[概念10]
本発明による電子装置には、
概念1乃至8のいずれか1つによる金属が、放熱材料として用いられてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によればGaを含有し、液体金属を含有しつつも、酸化しにくい金属等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】試験方法Aについて説明するための概略図。
図2】試験方法Aにおいて、85℃85%RH環境下に置く前(initial)の態様を示した写真。
図3】試験方法Aにおいて、Ga-14Sn-3Inに関して、150時間後の態様を示した写真。
図4】試験方法Aにおいて、Ga-14Sn-3In-0.8Bi-0.025Znに関して、150時間後の態様を示した写真。
図5】試験方法Aにおいて、Ga-14Sn-3In-0.8Bi-1.0Znに関して、150時間後の態様を示した写真。
図6】試験方法Aにおいて、Ga-14Sn-3In-0.8Bi-0.1Znに関して、150時間後の態様を示した写真。
図7】試験方法Aにおいて、Ga-14Sn-3In-0.8Biに関して、150時間後の態様を示した写真。
図8】試験方法Aにおいて、Ga-14Sn-3In-0.8Bi-0.5Znに関して、150時間後の態様を示した写真。
図9】試験方法Aにおいて、Ga-14Sn-3In-0.8Bi-1.5Znに関して、150時間後の態様を示した写真。
図10】試験方法Bで用いた試験基板であるスルーホール基板。
図11】試験方法Bにおいて、金属を充填した後の試験基板をおもて面から見た写真。
図12】試験方法Bにおいて、金属を充填した後の試験基板をおもて面から見た拡大写真。
図13】試験方法Bにおいて、金属を充填した後の試験基板を裏面からから見た写真。
図14】試験方法Bで得られた画像の一例。
図15】試験方法Cにおいて、Ga-3.5Sn-5.5In-0.25Bi-1.0Znに関して、各時間での変化態様を示した写真。
図16】試験方法Cにおいて、Ga-7.5Sn-3.0In-0.5Bi-1.0Znに関して、各時間での変化態様を示した写真。
図17】試験方法Cにおいて、Ga-13Sn-3.0In-0.6Bi-0.5Znに関して、各時間での変化態様を示した写真。
図18】試験方法Cにおいて、Ga-13Sn-3.0Inに関して、各時間での変化態様を示した写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施の形態の第1の態様として、金属は、2~30質量%のSn、0.01~2質量%のZn、0.01~30質量%のBi及び残部がGaからなり、35℃において液体金属であってもよいし、35℃において液体金属及び固体金属を含有する態様であってもよい。
【0019】
また第2の態様として、本実施の形態の金属は、1~35質量%のIn、5~20質量%のSn、0.01~2質量%のZn、0.01~30質量%のBi及び残部がGaからなり、35℃において液体金属であってもよいし、35℃において液体金属及び固体金属を含有する態様であってもよい。
【0020】
第1及び第2の態様において、金属は、その全体(液体金属からなる場合には当該液体金属の全体であり、液体金属と固体金属の混合物である場合には当該混合物の全体)に対して、Biの下限値は好ましくは0.03質量%であり、より好ましくは0.06質量%であり、さらに好ましくは0.1質量%である。なお、Biの含有量が多すぎると放熱性が悪化することから、上限値を25質量%とすることが好ましく、20質量%とすることがより好ましく、15質量%とすることがさらに好ましく、10質量%とすることがさらに好ましい。第1及び第2の態様を採用することで、140~150時間といった長時間、高温多湿の環境下においても、酸化物の成長をより効果的に抑制できる。
【0021】
なお、発明者らが確認したところ、液体金属に含有されるBiの量は限られている。このため、上記2つの態様の各々において、液体としてBiが含有され、放熱効果として優れているという観点からはBiの含有量の上限は1.5質量%であることが好ましく、1.0質量%であることがより好ましく、0.8質量%であることがさらに好ましい。また、より確実にBiが液体として存在することだけを重視するのであれば、上限値が0.4質量%である態様を採用することもできる。
【0022】
さらに第3の態様として、本実施の形態の金属は、0~20質量%のIn、0~6質量%のSn、0.1~3.5質量%のZn、0.1~1.0質量%のBi及び残部がGaからなり、35℃において液体金属であってもよいし、35℃において液体金属及び固体金属を含有する態様であってもよい。この態様を採用した場合には、400~700時間といったかなりの長時間、高温多湿の環境下においても、酸化物の成長をより効果的に抑制できる。
【0023】
第3の態様においても、液体としてBiが含有され、放熱効果として優れているという観点からはBiの含有量の上限は0.8質量%であることが好ましい。また、より確実にBiが液体として存在することだけを重視するのであれば、上限値が0.4質量%である態様を採用することもできる。
【0024】
液体金属及び固体金属の各々又はその一方は合金であってもよい。液体金属における合金の組成と固体金属における合金の組成とは異なってもよい。但し、このような態様に限られることはなく、液体金属における合金の組成と固体金属における合金の組成とは同じ組成であってもよい。本実施の形態の金属はGa系金属であってもよい。本実施の形態の金属は30℃において液体金属又は液体金属及び固体金属を含有することが好ましい。なお、Gaの融点が約30℃であることから、Gaを母体とすることで、液体金属又は液体金属と固体金属との混合物を含有する金属を提供できる。Gaは25質量%以上100質量%未満で含有されてもよい。Gaは放熱効果の高い金属であり、またGaを含有させることで液体の状態とすることができることから、その下限値は30質量%であることが好ましく、40質量%であることがより好ましく、50質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
本実施の形態の金属は典型的には放熱グリス等の放熱材料として用いられる。本実施の形態では、このような金属を用いた電子装置も提供される。一例として、本実施の形態の電子装置では、液体金属又は液体金属及び固体金属からなる放熱グリスを介して電子部品が回路基板に載置される。本実施の形態の金属は、スキージを用いてプリント配線板のような回路基板に印刷されてもよいし、インクジェット印刷機を用いて印刷されるようにしてもよいし、ディスペンス装置を用いて塗布されるようにしてもよい。
【0026】
本実施の形態の金属は、Zn、Bi、Ga及び不可避不純物、In、Zn、Bi、Ga及び不可避不純物、Sn、Zn、Bi、Ga及び不可避不純物、又はIn、Sn、Zn、Bi、Ga及び不可避不純物からなってもよい。本願における不可避不純物は、意図的に加えられていない不純物を意味している。本実施の形態の金属は共晶金属合金であってもよいが、共晶金属合金でなくてもよい。
【0027】
また、上記態様において、一部のGaに代えて、Ag、Sb、Cu、Fe、Al、As、Ni、Au、Ti、Cr、La、Mg、Mn、Co、Ge、Ga、Cd、Pb、P、S及びSiのいずれか1つ以上を含んでもよい。なお、本願においてクローズドクレームで記載されている態様であっても、不可避不純物は含むものである。不可避不純物とは、意図的には含有されていない不純物を意味している。
【0028】
本件出願人は特願2022-182319号を出願しており、当該出願の明細書で述べているとおり、本願の発明者らが液体金属を含有する金属におけるGaの酸化物の問題について鋭意研究を行ったところ、Biを含有させることで、Gaの酸化を抑えることができることを見出した。あくまでも推測ではあるが、Biを用いることでGaの酸化を抑えることができるメカニズムは以下のとおりだと考えられる。
Biは酸性酸化物に分類される元素であり、水と反応して酸を生じる性質がある。このため、Biを含有させることで酸が生成され、生成された酸がGaと反応し、合金の表面に水酸化物を生成することになる。このような水酸化物が合金の表面に生成されることで、Gaと水との反応を抑制することができ、Biの酸化物の生成が抑えられると考えられる。
【0029】
本願の発明者らがさらに研究を進めたところ、Biの他にZnを含有させることで(第1又は第2の態様を採用することで)、長時間、高温多湿の状況においても、酸化物の生成が抑えられることを確認できた。また、Znの含有量がかなり少量でも、酸化物の生成が抑えられる効果があることを確認できた。さらにSn、Zn、Bi及びInの含有量を一定の範囲とすることで(第3の態様を採用することで)、かなりの長時間にわたり高温多湿の環境下においても、酸化物の成長をより効果的に抑制できることも確認できた。
【0030】
高温多湿の状況において酸化物の生成が抑えられるという傾向は、
(1)2~30質量%のSn、0.01~2質量%のZn、0.01~30質量%のBi及び残部がGaからなる金属、
(2)1~35質量%のIn、5~20質量%のSn、0.01~2質量%のZn、0.01~30質量%のBi及び残部がGaからなる金属、及び
(3)0~6質量%のSn、0.1~3.5質量%のZn、0.1~1.0質量%のBi、0~20質量%のIn及び残部がGaからなる金属
で確認できている。ここで(1)が前述した第1の態様に対応し、(2)が前述した第2の態様に対応し、(3)が前述した第3の態様に対応している。
また、上記(1)~(3)の態様において、一部のGaに代えて、Ag、Sb、Cu、Fe、Al、As、Ni、Au、Ti、Cr、La、Mg、Mn、Co、Ge、Ga、Cd、Pb、P、S及びSiのいずれか1つ以上を含んでいる金属でも、酸化物の生成が抑えられる傾向を確認できている。Ag、Sb、Cu、Fe、Al、As、Ni、Au、Ti、Cr、La、Mg、Mn、Co、Ge、Ga、Cd、Pb、P、S及びSiのいずれか1つ以上の元素は、各々、0.005~0.10質量%の範囲で含有されてもよい。Ag、Sb、Cu、Fe、Al、As、Ni、Au、Ti、Cr、La、Mg、Mn、Co、Ge、Ga、Cd、Pb、P、S及びSiのいずれか1つ以上の元素の含有量の下限値は0.01質量%であってもよく、上限値は0.05質量%であってもよい。
【0031】
[(1)の態様]
Sn、Zn、Bi、Ga及び不可避不純物からなる金属、又は一部のGaに代えて、Ag、Sb、Cu、Fe、Al、As、Ni、Au、Ti、Cr、La、Mg、Mn、Co、Ge、Ga、Cd、Pb、P、S及びSiのいずれか1つ以上を含んでいる金属における、各元素のさらに好ましい上限値及び下限値について説明する。
【0032】
この態様では、Snの下限値は5質量%であることが好ましく、10質量%であることがより好ましい。Snの上限値は25質量%であることが好ましく、20質量%であることがより好ましい。
【0033】
Znの下限値は0.03質量%であることが好ましく、0.05質量%であることがより好ましい。酸化物の成長を抑制するという観点からは、Znの上限値は1.0質量%であることが好ましく、0.8質量%であることがより好ましい。(1)の態様では、Znの上限値を0.3未満としてもよい。
【0034】
前述したとおり、Biの下限値は0.03質量%であることが好ましく、0.06質量%であることがより好ましく、0.1質量%であることがさらに好ましい。Biの上限値は、25質量%とすることが好ましく、20質量%とすることがより好ましく、15質量%とすることがさらに好ましく、10質量%とすることがさらにより好ましい。Biが液体として存在する観点からすると、Biの上限値は、1.5質量%であることが好ましく、1.0質量%であることがより好ましく、0.8質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
[(2)の態様]
In、Sn、Zn、Bi、Ga及び不可避不純物からなる金属、又は一部のGaに代えて、Ag、Sb、Cu、Fe、Al、As、Ni、Au、Ti、Cr、La、Mg、Mn、Co、Ge、Ga、Cd、Pb、P、S及びSiのいずれか1つ以上を含んでいる金属における、各元素のさらに好ましい上限値及び下限値について説明する。
【0036】
この態様では、Inの下限値は2質量%であることが好ましく、3質量%であることがより好ましい。Inの上限値は25質量%であることが好ましく、20質量%であることがより好ましい。
【0037】
Snの下限値は5質量%であることが好ましく、10質量%であることがより好ましい。
【0038】
Znの下限値は0.03質量%であることが好ましく、0.05質量%であることがより好ましい。酸化物の成長を抑制するという観点からは、Znの上限値は1.0質量%であることが好ましく、0.8質量%であることがより好ましい。(2)の態様では、Znの上限値を0.1未満としてもよい。
【0039】
前述したとおり、Biの下限値は0.03質量%であることが好ましく、0.06質量%であることがより好ましく、0.1質量%であることがさらに好ましい。Biの上限値は、25質量%とすることが好ましく、20質量%とすることがより好ましく、15質量%とすることがさらに好ましく、10質量%とすることがさらにより好ましい。Biが液体として存在する観点からすると、Biの上限値は、1.5質量%であることが好ましく、1.0質量%であることがより好ましく、0.8質量%であることがさらに好ましい。
【0040】
[(3)の態様]
Zn、Bi、Ga及び不可避不純物、Sn、Zn、Bi、Ga及び不可避不純物、In、Zn、Bi、Ga及び不可避不純物、又はIn、Sn、Zn、Bi、Ga及び不可避不純物からなる金属、又は一部のGaに代えて、Ag、Sb、Cu、Fe、Al、As、Ni、Au、Ti、Cr、La、Mg、Mn、Co、Ge、Ga、Cd、Pb、P、S及びSiのいずれか1つ以上を含んでいる金属における、各元素のさらに好ましい上限値及び下限値について説明する。
【0041】
Zn、Bi、Ga及び不可避不純物、並びにSn、Zn、Bi、Ga及び不可避不純物を挙げているように、この態様では、Inは含有されていなくてもよく、0質量%であってもよい。Inの下限値は3質量%であることが好ましく、5質量%であることがより好ましい。
【0042】
Zn、Bi、Ga及び不可避不純物、並びにIn、Zn、Bi、Ga及び不可避不純物を挙げているように、この態様では、Snは含有されていなくてもよく、0質量%であってもよい。Snの上限値は5.0質量%未満となってもよく、4.5質量%であることが好ましく、4.0質量%であることがより好ましい。
【0043】
Znの下限値は0.6質量%であることが好ましく、0.8質量%であることがより好ましい。酸化物の成長を抑制するという観点からは、Znの上限値は3.0質量%であることが好ましく、2.5質量%であることがより好ましい。
【0044】
Biの下限値は0.2質量%であることが好ましい。Biが液体として存在する観点からすると、Biの上限値は、0.8質量%であることが好ましい。
【0045】
本実施の形態の金属を含有する放熱材料は、アミン、樹脂、溶剤等をさらに含んでもよい。この場合には、10~90質量%の本実施の形態による金属(液体金属又は液体金属と固体金属の混合物)、10~90質量%のアミン、10~90質量%の樹脂及び10~90質量%の溶剤が含まれ、全体で100質量%となるようにしてもよい。また、10~90質量%の金属に対して、残部が活性剤、又は活性剤及び溶剤からなる態様となってもよい。
【0046】
アミンとしては、例えば、直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状で飽和又は不飽和の脂肪族アミン、芳香族アミン、及びイミダゾール類が挙げられる。その脂肪族アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、1-アミノプロパン、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、n-エチルメチルアミン、アリルアミン、n-ブチルアミン、ジエチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、N,N-ジメチルエチルアミン、イソブチルアミン、ピロリジン、3-ピロリン、n-ペンチルアミン、ジメチルアミノプロパン、1-アミノヘキサン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ヘキサメチレンイミン、1-メチルピペリジン、2-メチルピペリジン、4-メチルピペリジン、シクロヘキシルアミン、ジアリルアミン、n-オクチルアミン、アミノメチル、シクロヘキサン、2-エチルヘキシルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、1,1,3,3-テトラメチルブチルアミン、1-シクロヘキシルエチルアミンおよびN,N-ジメチルシクロヘキシルアミンが例示される。芳香族アミンとしては、アニリン、ジエチルアニリン、ピリジン、ジフェニルグアニジンおよびジトリルグアニジンが例示される。イミダゾール類としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、及び1-ベンジル-2-フェニルイミダゾールが例示される。
【0047】
樹脂としては、例えば、例えば、エポキシ樹脂、ロジン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノキシ樹脂、ビニルエーテル系樹脂、テルペン樹脂、変性テルペン樹脂(例えば、芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、水添芳香族変性テルペン樹脂等)、テルペンフェノール樹脂、変性テルペンフェノール樹脂(例えば、水添テルペンフェノール樹脂等)、スチレン樹脂、変性スチレン樹脂(例えば、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン樹脂等)、キシレン樹脂、変性キシレン樹脂(例えば、フェノール変性キシレン樹脂、アルキルフェノール変性キシレン樹脂、フェノール変性レゾール型キシレン樹脂、ポリオール変性キシレン樹脂、ポリオキシエチレン付加キシレン樹脂等)等が挙げられる。
【0048】
溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、テルピネオール類、炭化水素類、エステル類、水等などが挙げられる。
【実施例
【0049】
以下、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態を詳述する。なお、本実施の形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
[試験方法A]
1.試験用金属作製方法
ビーカーに、あらかじめ40℃に加温して液状としたGaに対して、添加元素(各表で示されている元素であって、Bi以外の元素)を所定量計量し投入し(投入量は後述する各表で示されている量となる。)、250℃ホットプレート上で1時間加熱して母合金を作製した。
ビーカーに母合金を計量し、所定量のBiを入れ(投入量は後述する各表で示されている量となる。)、250℃ホットプレート上で1時間加熱し、室温まで冷却して、試験用サンプルとした。
【0051】
2.判定方法
・ 内径 4mmのガラス管に液体金属をいれ、実体顕微鏡にて初期の充填面積を測定した(図1及び図2参照)。
・ 85℃85%RH環境下にガラス管を静置し、150時間経過した後、ガラス管を取り出し、実体顕微鏡にて腐食部、液体部の面積を測定した(図3乃至図9参照)。
・ 測定した値から、以下の計算式から体積変化率を算出した。酸化物が生成される場合には、体積変化率が大きくなることから、値が小さい方が酸化物を抑制できる観点からは優れている。
体積変化率(%)=150時間後の液体部の面積/最初の液体部の面積×100
100%以上200%未満:ランク1
200%以上300%未満:ランク2
300%以上:ランク3
【0052】
実施例及び比較例の結果を以下の表で示す。本件明細書では残部を「Bal」として示している。また、各表において、合金が液体金属からなる場合には液体金属全体における質量%を示しており、液体金属と固体金属の混合物からなる場合には当該混合物の全体における質量%を示している。
【0053】
表1はSn、Zn、Bi及びGaを含有する合金についての結果を示している。Biの他に一定量のZnを含有させることで、150時間という長時間、高温多湿の環境下においても、酸化物の成長をより効果的に抑制できた。参考例として示しているのは、特願2022-182319号で実施例となっている態様である。特願2022-182319号で実施例となっている態様と比較しても、実施例の態様では、酸化物の成長をより効果的に抑制できていることを確認できている。
【表1】
【0054】
表2及び表3はIn、Sn、Zn、Bi及びGaを含有する合金についての結果を示している。Biの他に一定量のZn及びInを含有させることで、150時間という長時間、高温多湿の環境下においても、酸化物の成長をより効果的に抑制できた。表2及び表3でも参考例として示しているのは、特願2022-182319号で実施例となっている態様である。特願2022-182319号で実施例となっている態様と比較しても、本願の実施例の態様では、酸化物の成長をより効果的に抑制できていることを確認できている。
また表2で示すように、Inを含有する態様では、表面張力を小さくできることを確認できた。表面張力が小さくなると、表面積を大きくすることができ、放熱効果を高めることができる点で有益である。表面張力において「-」で示している箇所は現時点において測定していないことを示している。なお、Inを含有しない表1で示すような態様では、コストを抑えることができる点で有益なものとなっている。
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
表2で示した表面張力については、25℃の温度で、協和界面科学株式会社製のDMo-501を利用した懸滴法(Pendant Drop Method)を用いて測定した。
【0057】
[試験方法B]
1.試験用金属作製方法
試験方法Aの「試験用金属作製方法」で述べた方法で試験用サンプルを準備した。
【0058】
2.試験片作製方法
図10に示すスルーホール基板に、金属を充填し試験片とした。
スルーホール基板からなる試験基板は以下のとおりのものである。
・ 機材FR4(銅箔、レジスト無)
・ 板厚 0.50mm
・ ホール径 Φ0.525mm
・ ホール数 14×14=196個
・ ホールピッチ 0.90mm
(1)試験基板のスルーホールに試験用サンプルを充填した。
(2)表面及び裏面の余分な金属をIPAで拭き取った。
(3)裏面をカプトンテープで封止し、試験片とした。
(4)作製した試験片を85℃85%RH(相対湿度)環境下で48時間処理し、酸化物の成長状態を測定した。図11及び図12が金属を充填した後の試験基板をおもて面から見た写真であり、図13が金属を充填した後の試験基板を裏面からから見た写真である。
【0059】
3.判定方法
各ホールの基板表面からの酸化物の最大高さを測定した。測定機としては、KEYENCE社製のVK-X1000 レーザー顕微鏡を用いた。
判定基準は以下のとおりである(図14参照)。
酸化物の最大高さ
ランクA 250μm未満
ランクB 250μm以上500μm未満
ランクC 500μm以上750μm未満
ランクD 750μm以上1000μm未満
ランクE 1000μm以上1500μm未満0000
ランクF 1500μm以上1750μm未満
ランクG 2000μm以上
【0060】
実施例及び比較例の結果を以下の表で示す。以下の表で示される実験結果から理解できるように、48時間という試験方法Aと比較すると短い時間にはなるものの、各組成において、酸化物の成長を効果的に抑制できた。またBiの含有量を増加させることで、酸化物の成長を効果的に抑制できた。
【0061】
表4はSn、Zn、Bi及びGaを含有する合金についての結果を示している。Sn、Bi及びZnを含有させることで酸化物の成長を効果的に抑制できることを確認できた。
【表4】
【0062】
表5はIn、Sn、Zn、Bi及びGaを含有する合金についての結果を示している。Sn、Bi、In及びZnを含有させることで酸化物の成長を効果的に抑制できることを確認できた。
【表5】
【0063】
[試験方法C]
1.試験用金属作製方法
試験方法Aの「試験用金属作製方法」で述べた方法で試験用サンプルを準備した。
【0064】
2.判定方法
・ 内径 4mmのガラス管に液体金属をいれ、実体顕微鏡にて初期の充填面積を測定した(図15参照)。
・ 85℃85%RH環境下にガラス管を静置し、400時間経過した後、ガラス管を取り出し、実体顕微鏡にて腐食部、液体部の面積を測定した(図15参照)。
・ 測定した値から、以下の計算式から体積変化率を算出した。酸化物が生成される場合には、体積変化率が大きくなることから、値が小さい方が酸化物を抑制できる観点からは優れている。
体積変化率(%)=400時間後の液体部の面積/最初の液体部の面積×100
100%以上200%未満:ランク1
200%以上300%未満:ランク2
300%以上:ランク3
【0065】
試験方法Cは体積変化率に際して「150時間」を「400時間」としたこと以外は試験方法Aと同様にして行った。
【0066】
表6及び表7は少なくともZn、Bi及びGaを含有する合金についての結果を示している。Gaを母体としつつ、0~20質量%のIn、0~6質量%のSn、0.1~3.5質量%のZn及び0.1~1.0質量%のBiという含有量にすることで、400時間というかなりの長時間、高温多湿の環境下においても、酸化物の成長をより効果的に抑制できた。
【表6】
【0067】
【表7】
【0068】
図15はGa-3.5Sn-5.5In-0.25Bi-1.0Znに関して、各時間での変化態様を示した写真であり、図16は試験方法Cにおいて、Ga-7.5Sn-3.0In-0.5Bi-1.0Znに関して、各時間での変化態様を示した写真であり、図17は試験方法Cにおいて、Ga-13Sn-3.0In-0.6Bi-0.5Znに関して、各時間での変化態様を示した写真であり、図18は試験方法Cにおいて、Ga-13Sn-3.0Inに関して、各時間での変化態様を示した写真である。
【0069】
図16で試験結果を示す7.5質量%のSn、3.0質量%のIn、0.5質量%のBi、1.0質量%のZn及び残部がGaからなる金属と、図17で試験結果を示す13質量%のSn、3.0質量%のIn、0.6質量%のBi、0.5質量%のZn及び残部がGaからなる金属は第2の態様の実施例にあたり、140時間という長時間においては、高温多湿の環境下においても、酸化物の成長をより効果的に抑制できている。しかし、400時間というかなりの長時間を見た場合には、高温多湿の環境下において、酸化物が成長してしまうことを確認できた。このことからして、第3の態様によれば、400時間というかなりの長時間を見た場合においても、酸化物の成長をより効果的に抑制できることを確認できた。なお、図18で試験結果を示す13質量%のSn、3.0質量%のIn及び残部がGaからなる金属は、比較例になるが、140時間、高温多湿の環境下におくと、酸化物が成長してしまうことを確認でき、図16及び図17で試験結果を示す第2の態様でも140時間という長時間において、酸化物の成長をより効果的に抑制できることを確認できた。
【0070】
上述した実施の形態の記載、実施例の記載及び図面の開示は、特許請求の範囲に記載された発明を説明するための一例に過ぎず、上述した実施の形態の記載又は図面の開示によって特許請求の範囲に記載された発明が限定されることはない。
【要約】
【課題】Gaを含有し、液体金属を含有しつつも、酸化しにくい金属等を提供する。
【解決手段】本発明のある態様による金属は、2~30質量%のSn、0.01~2質量%のZn、0.01~30質量%のBi及び残部がGaからなる35℃で液体金属又は液体金属及び固体金属を含む。本発明の別の態様による金属は、1~35質量%のIn、5~20質量%のSn、0.01~2質量%のZn、0.01~30質量%のBi及び残部がGaからなる35℃で液体金属又は液体金属及び固体金属を含む。本発明のさらに別の態様による金属は、0~20質量%のIn、0~6質量%のSn、0.1~3.5質量%のZn、0.1~1.0質量%のBi及び残部がGaからなる35℃で液体金属又は液体金属及び固体金属を含む。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18