(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】屈曲樹脂管の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/26 20060101AFI20240807BHJP
B29C 45/33 20060101ALI20240807BHJP
B29C 45/80 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
B29C45/26
B29C45/33
B29C45/80
(21)【出願番号】P 2023565928
(86)(22)【出願日】2023-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2023038063
【審査請求日】2023-11-01
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】侯 剛
(72)【発明者】
【氏名】栗林 延全
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-103007(JP,A)
【文献】特開2022-101221(JP,A)
【文献】特開2021-109413(JP,A)
【文献】特表2018-519192(JP,A)
【文献】国際公開第2013/015232(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/26
B29C 45/33
B29C 45/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールドに屈曲して
1本の線状に延在
する非環状のキャビティの
長手方向一端部から
長手方向他端部に向かって溶融樹脂を射出機により射出した後、前記キャビティにアシスト材を注入して前記キャビティから余分な前記溶融樹脂を排出させることにより前記キャビティに残存させた筒状の前記溶融樹脂を硬化させて
、車両に搭載されるエアコンディショナーの配管として使用される
内径が4mm以上16mm以下であり、管全長に渡って実質的に一定値に設定されている非環状の屈曲樹脂管を製造する屈曲樹脂管の製造方法において、
前記屈曲樹脂管の管長が350mm以上2500mm以下であり、前記アシスト材としてガスを使用して、前記キャビティを前記溶融樹脂により満たした状態で前記ガスを前記キャビティの
長手方向他端部から
長手方向一端部に向かって注入し
て、前記キャビティの長手方向一端部に連接されていて前記溶融樹脂の射出路とは別の排出路に余分な前記溶融樹脂を排出させ、予め設定されている前記屈曲樹脂管の内径と、前記キャビティでの前記溶融樹脂の粘度とに基づいて、前記ガスの前記キャビティへの注入圧力を設定して、前記屈曲樹脂管の管壁の平均肉厚を1.5mm以上1.75mm以下、かつ、前記管壁の肉厚の管全長に渡るばらつきを0.25mm以内にする屈曲樹脂管の製造方法。
【請求項2】
さらに前記管長に基づいて、前記注入圧力を設定する請求項1に記載の屈曲樹脂管の製造方法。
【請求項3】
前記溶融樹脂の温度を調整することにより、前記粘度を所望範囲に制御する請求項1または2に記載の屈曲樹脂管の製造方法。
【請求項4】
前記屈曲樹脂管
の管長が750mm以上であり、その長手方向中途の位置に付属機器を接続するための接続基部を有し、前記接続基部が管外表面に突出していて、かつ、管路に連通する連通穴を有している仕様であり、前記キャビティに前記接続基部を成形する成形部を連接しておき、前記溶融樹脂を前記成形部に充填して硬化させることにより、前記接続基部を前記屈曲樹脂管と一体化させて製造する請求項1または2に記載の屈曲樹脂管の製造方法。
【請求項5】
前記成形部に金属部材を配置した状態で、前記溶融樹脂を前記成形部に充填して硬化させることにより、前記接続基部の前記連通穴に前記金属部材を内嵌して固定する請求項4に記載の屈曲樹脂管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲樹脂管の製造方法に関し、さらに詳しくは、管長が長くても、管全長に渡る管壁の肉厚のばらつきが抑制された屈曲樹脂管を製造できる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屈曲樹脂管を製造するために、モールドに屈曲して延在するキャビティに溶融樹脂を充填した後、このキャビティにコアを通過させて溶融樹脂からなる中空体を成形して硬化させる方法が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。これら文献で提案されている方法では、金属や樹脂などの固体のコアが使用される。
【0003】
溶融樹脂が充填されているキャビティをコアが通過する過程では、コア(特に金属製のコア)に接触した溶融樹脂の温度が急速に低下し易い。また、樹脂製のコアの場合は、コアの表面に溶融樹脂が密着し易くなる。そのため、管長が長くて屈曲部を有するキャビティに溶融樹脂が充填されている状態でコアを通過させると、コアの入口側に相当する領域と出口側に相当する領域とでは成形された中空体の管壁の肉厚の差異が大きくなり、この差異は管長が大きくなる程増大する。屈曲部の屈曲具合によっても屈曲部での管壁の肉厚の差異が大きくなる。その結果、製造された屈曲樹脂管では、管全長に渡る管壁の肉厚のばらつきが大きくなる。それ故、管長が長い屈曲樹脂管を製造する際に、管壁の肉厚のばらつきを抑制するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2021-49644号公報
【文献】日本国特開2021-88088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、管長が長くても、管全長に渡る管壁の肉厚のばらつきが抑制された屈曲樹脂管を製造できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の屈曲樹脂管の製造方法は、モールドに屈曲して1本の線状に延在する非環状のキャビティの長手方向一端部から長手方向他端部に向かって溶融樹脂を射出機により射出した後、前記キャビティにアシスト材を注入して前記キャビティから余分な前記溶融樹脂を排出させることにより前記キャビティに残存させた筒状の前記溶融樹脂を硬化させて、車両に搭載されるエアコンディショナーの配管として使用される内径が4mm以上16mm以下であり、管全長に渡って実質的に一定値に設定されている非環状の屈曲樹脂管を製造する屈曲樹脂管の製造方法において、前記屈曲樹脂管の管長が350mm以上2500mm以下であり、前記アシスト材としてガスを使用して、前記キャビティを前記溶融樹脂により満たした状態で前記ガスを前記キャビティの長手方向他端部から長手方向一端部に向かって注入して、前記キャビティの長手方向一端部に連接されていて前記溶融樹脂の射出路とは別の排出路に余分な前記溶融樹脂を排出させ、予め設定されている前記屈曲樹脂管の内径と、前記キャビティでの前記溶融樹脂の粘度とに基づいて、前記ガスの前記キャビティへの注入圧力を設定して、前記屈曲樹脂管の管壁の平均肉厚を1.5mm以上1.75mm以下、かつ、前記管壁の肉厚の管全長に渡るばらつきを0.25mm以内にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の屈曲樹脂管の製造方法によれば、管長が350mm以上の屈曲樹脂管を製造する際に、前記アシスト材としてガスを使用する。前記アシスト材としてガスを使用すると、固体のコアを使用する場合に比して、前記溶融樹脂が充填されている前記キャビティを前記アシスト材が通過する過程で、前記アシスト材に接触した前記溶融樹脂の温度低下が抑制され、前記アシスト材に前記溶融樹脂が密着することもない。その結果、管長が350mm以上の屈曲樹脂管であっても、管全長に渡る管壁の肉厚のばらつきを抑制するには有利になる。
【0009】
この屈曲樹脂管の製造方法を用いることで、管長が350mm以上で、長手方向中途の位置に付属機器を接続するための接続基部を有していて、前記接続基部が管外表面に突出していて、かつ、管路に連通する連通穴を有している仕様である屈曲樹脂管を、この屈曲樹脂管と前記接続基部とが同じ樹脂により形成されている一体物として製造することができる。そして、前記屈曲樹脂管の管壁の平均肉厚を1.5mm以上1.75mm以下にして、かつ、前記管壁の肉厚の管全長に渡るばらつきを0.25mm以内にすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は
本発明により製造された屈曲樹脂管を平面視で例示する説明図である。
【
図2】
図2は
図1の屈曲樹脂管を正面視(A矢視)で例示する説明図である。
【
図3】
図3は
図1の屈曲樹脂管を側面視(B矢視)で例示する説明図である。
【
図4】
図4は
図1の屈曲樹脂管を横断面視(C-C断面視)で例示する説明図である。
【
図5】
図5は
図1の屈曲樹脂管を縦断面視で例示する説明図である。
【
図6】
図6は
図1の屈曲樹脂管の製造装置を例示する説明図である。
【
図7】
図7は
図6の一方(下側)のモールドの一部を拡大して平面視で例示する説明図である。
【
図8】
図8は
図7のキャビティに連接された成形部に金属部材を配置した状態を例示する説明図である。
【
図9】
図9は
図8のモールドを型締めした状態を模式的に断面視で例示する説明図である。
【
図10】
図10は
図9のキャビティに溶融樹脂を射出して充填した状態に例示する説明図である。
【
図11】
図11は
図10の溶融樹脂が充填されたキャビティにアシスト材を注入している状態を例示する説明図である。
【
図12】
図12は
図11のキャビティに残存した溶融樹脂が硬化した状態を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の屈曲樹脂管の製造方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1~
図5に例示する屈曲樹脂管1(以下、樹脂管1という)
は、硬化樹脂R2により形成されている管壁2を有する円筒体であり、管路3が長手方向に延在している。樹脂管1は、1カ所または複数カ所に屈曲部4を有するとともに管長が350mm以上である。この実施形態では、樹脂管1は、平面視で屈曲しつつ正面視(側面視)でも屈曲していて三次元的に屈曲した形状になっている。
【0013】
樹脂管1の管長は例えば750mm以上或いは1000mm以上である。樹脂管1の管長の上限は例えば2500mm或いは2000mmである。樹脂管1の内径は例えば4mm以上16mm以下であり、管全長に渡って実質的に一定値に設定されている。図中の一点鎖線CLは、樹脂管1(管路3)の横断面中心を通過する中心線を示している。樹脂管1の管長とは、中心線CLの管路3の長手方向一端から他端までの長さである。
【0014】
この樹脂管1は、例えば自動車などの車両に搭載されるエアコンディショナーの配管として使用される。このような狭いスペースに設置される樹脂管1は、三次元的に複雑に屈曲した形状になる。
【0015】
樹脂管1の長手方向中途の位置にはセンサバルブなどの付属機器を接続するための接続基部5を有していて、接続基部5は樹脂管1の外表面に突出している。樹脂管1は接続基部5を長手方向中途の1カ所に限らず、複数カ所に有することもある。この接続基部5は管路3に連通する連通穴5aを有している。樹脂管1と接続基部5とは同じ樹脂により形成されている一体物である。
【0016】
樹脂管1を形成する樹脂は、射出可能な公知の様々な熱可塑性樹脂の中から、樹脂管1に要求される性能等に応じて適切な種類が選択される。例えば、自動車に搭載されるエアコンディショナー用の樹脂管1を製造する場合には、ポリアミド、ポリプロピレン、ABS樹脂などが使用され、ナイロン樹脂(6ナイロン、66ナイロン、12ナイロン、11ナイロン)、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリオキシメチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリル、ポリエーテルエーテルケト、熱可塑性ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニルが好適である。
【0017】
樹脂管1は熱可塑性樹脂だけで形成することもできるが、補強繊維fとして各種繊維(例えば材質はガラス繊維または炭素繊維など、短繊維でも長繊維でも可)が所定割合(樹脂100質量部に対して例えば30%質量部以上40%質量部以下)で混合されている仕様にすることもできる。補強繊維fが短繊維の場合、そのサイズは例えば外径0.001mm以上1.0mm以下、長さは0.01mm以上10mm以下である。この実施形態では硬化樹脂R2に補強繊維fが混合されている。
【0018】
樹脂管1の管壁2の平均肉厚Taは1.5mm以上1.75mm以下である。また、管壁2の肉厚tの管全長に渡るばらつきVは0.25mm以内である。
【0019】
管壁2の平均肉厚Taは次のとおり定義される。
図5に例示するように樹脂管1を長手方向に5等分して、等分された5つの領域P1、P2、P3、P4、P5のそれぞれにおいて、長手方向の中心位置の横断面での管壁2の肉厚tを測定する。領域P1~P5で肉厚tを測定するのは、それぞれが同じ内径に設定されている位置であり、接続基部5に該当する部分は除外する。その領域の長手方向の中心位置に接続基部5が存在している場合は、その接続基部5に該当する部分を除いてその領域の長手方向の中心位置に最も近い位置の横断面で肉厚tを測定する。そして、その横断面での肉厚tの最大値t
maxと最小値t
minを把握する。それぞれの領域Pで把握した最大値t
maxと最小値t
minとの単純平均値を算出し、この単純平均値をその領域Pでの管壁2の肉厚T(T=(t
max+t
min)/2)とする。例えば、領域P1の長手方向の中心位置の横断面で把握した肉厚tの最大値t
maxと最小値t
minとの単純平均値が、領域P1での肉厚T1となる。同様にしてそれぞれの領域P2、P3、P4、P5での肉厚T2、T3、T4、T5を算出する。次いで、領域P1~P5の肉厚T1~T5の単純平均値を算出し、この単純平均値を樹脂管1の平均肉厚Ta(Ta=(T1+T2+T3+T4+T5)/5)とする。
【0020】
管壁2の肉厚tの管全長に渡るばらつきVは次のとおり定義される。それぞれの領域P1~P5の最大値tmaxのうちの最大値Tmaxを選択するとともに、それぞれの領域P1~P5の最小値tminのうちの最小値Tminを選択する。そして、最大値Tmaxと最小値Tminとの差異の大きさをばらつきV(V=Tmax-Tmin)とする。
【0021】
以下、本発明の屈曲樹脂管の製造方法により、樹脂管1を製造する手順の一例を説明する。
【0022】
図6~
図9に例示する製造装置6を用いて樹脂管1は製造される。この製造装置6は、射出機7と、アシスト材注入機10と、モールド12とを備えている。この実施形態では、上下一対のモールド12が使用されている。
【0023】
射出機7は、シリンダ8と、シリンダ8に内設されたスクリュー9とを有している。射出機7としては、図に示したタイプに限定されず、プリプラ式などの公知の種々の樹脂射出成形機を用いることができる。シリンダ8の先端の射出口8aには射出路14aが接続されている。射出路14aはモールド12に接続されている。使用される樹脂はシリンダ8の内部で加熱されて溶融樹脂R1になり、回転するスクリュー9によって射出口8aから溶融樹脂R1がモールド12の内部に向かって射出される。
【0024】
アシスト材注入機10は、アシスト材Asとして使用されるガスが収容されている収容部11を有している。アシスト材注入機10としては、公知の種々の注入機を用いることができる。アシスト材Asとしては、窒素ガス、空気などのガス(気体)が使用される。
【0025】
収容部11の先端の注入口11aには注入路14bが接続されている。注入路14bはモールド12に接続されている。注入口11aからガスAsがモールド12の内部に向かって所定圧力で注入される。一般的には常温(20℃±15℃)のガスAsが注入される。
【0026】
モールド12は、組み付けられる一方のモールド12Aと他方のモール12Bとで構成されている。互いのモールド12A、12BはパーティングラインPLを境界にして当接および分離する。2つ割りタイプのモールド12に限定されず、その他の公知の種々のタイプのモールド12を用いることができる。
【0027】
モールド12の内部には、空洞であるキャビティ13が形成されている。キャビティ13は一端部13aから他端部13bに延在していて中途に屈曲部13cを有している。このキャビティ13の外形は、製造される樹脂管1と同様の外形である。キャビティ13の一端部13a、他端部13b、屈曲部13cはそれぞれ、樹脂管1の一端部1a、他端部1b、屈曲部4に相当する。
【0028】
さらに、キャビティ13の長手方向中途の位置には、成形部15が連接されている。成形部15は、接続基部5の外形を形成するための空洞であり、キャビティ13の一部を構成していて、接続基部5に相当する位置に形成されている。成形部15には、接続基部5に取り付けられる金属部材16が設置される。
図8に例示するように、成形部15と金属部材16との間にはすき間(円筒状のすき間)が形成される。
【0029】
金属部材16は例えば、センサバルブやチャージバルブなどのバルブ類であるが、これに限定されずに樹脂管1(接続基部5)に取り付けられる種々の部品になる。
図7、
図8には上下一対のモールド12のうち、一方(下側)のモールド12Bが記載されているが、他方(上側)のモールド12Aも一方のモールド12Bと同様の形状のキャビティ13、成形部15を有している。
【0030】
キャビティ13の一端部13aには射出路14aを介して射出口8aが接続され、他端部13bには注入路14bを介して注入口11aが接続されている。射出口8aはキャビティ13の一端部13aに間接的または直接的に接続されていればよく、注入口11aはキャビティ13の他端部13bに間接的または直接的に接続されていればよい。
【0031】
樹脂管1を製造する際には、モールド12が開型した状態で、
図8に例示するように成形部15に金属部材16を配置した状態にする。次いで、
図9に例示するようにモールド12A、12Bを互いに組み付けて型閉めする。
【0032】
次いで、
図10に例示するように、型締めしたモールド12のキャビティ13に溶融樹脂R1を射出機7によりに射出する。この実施形態では、補強繊維fが混合された溶融樹脂R1が射出機7から射出される。射出された溶融樹脂R1は、射出口8aから射出路14aを経由してキャビティ13の内部に射出される。
【0033】
詳述すると、キャビティ13の一端部13aから他端部13bに向かって溶融樹脂R1が射出されて、キャビティ13は溶融樹脂R1によって充填された状態になる。成形部15では、成形部15と金属部材16との円筒状のすき間に溶融樹脂R1が充填される。尚、
図10~
図12では、溶融樹脂R1に混合されている補強繊維fの図示が省略されている。
【0034】
次いで、
図11に例示するように、アシスト材(ガス)Asをアシスト材注入機10によりモールド12の内部に注入する。即ち、溶融樹脂R1が充填されているキャビティ13の他端部13bから一端部13aに向かってガスAsが所定圧力で注入される。注入されたガスAsは、キャビティ13の内部をキャビティ13の延在方向に沿って通過する。
【0035】
ガスAsがキャビティ13の内部を通過することで、キャビティ13の一端部13aから余分な溶融樹脂R1が排出され、キャビティ13には溶融樹脂R1が円筒状に残存する。キャビティ13の一端部13aには図示していない排出路が連接されているので、この排出路に余分な溶融樹脂R1が排出される。
図12に例示するように、キャビティ13の内部では残存した溶融樹脂R1が硬化して硬化樹脂R2になることで樹脂管1が成形される。即ち、硬化樹脂2の部分が管壁2になり、空洞の部分が管路3になる。この段階では樹脂管1の両端部には硬化樹脂R2の無駄な部分(樹脂管1を形成しない部分)が延在して一体化している。
【0036】
成形部15では、成形部15と金属部材16のすき間(円筒状のすき間)に充填された溶融樹脂R1が残存して硬化樹脂R2になる。そのため、成形部15では硬化樹脂R2によって円筒状の接続基部5が成形される。その結果、樹脂管1と接続基部15とが同じ硬化樹脂R2により形成された一体物になる。
【0037】
成形部15では、金属部材16が存在している部分は管路3に連通する連通穴5aになる。したがって、この実施形態では、接続基部5の連通穴5aに金属部材16の下端部が内嵌された状態になって接続基部5に金属部材16が固定される。尚、成形部15には、金属部材16に代えて金属部材16と同じ形状の中子を配置して樹脂管1を成形することもできる。この場合は、成形された樹脂管1の接続基部5からこの中子を取り外すと、中子を取り出した部分が連通穴5aになる。そこで、この連通穴5aに金属部材16の下端部を挿入して内嵌することで、接続基部5に金属部材16を後付けで固定する。
【0038】
次いで、モールド12A、12BをパーティングラインPLで分離させてモールド12を開型して、成形された樹脂管1を硬化樹脂R2の無駄な部分ともに取り出す。取り出した樹脂管1から硬化樹脂R2の無駄な部分を切除することで
図1~
図5に例示する樹脂管1が製造される。
【0039】
図10に例示するように、キャビティ13に射出された溶融樹脂R1は、キャビティ13の表面に接触することで温度が低下するので、溶融樹脂R1は基本的にはキャビティ13の表面に近い側から横断面中心に向かって温度低下(粘度の上昇)が進む。そして、キャビティ13に充填されている溶融樹脂R1の粘度が高いと、ガスAsをキャビティ13の他端部13bから一端部13aまで通過させるにはガスAsの注入圧力を高くする必要がある。ただし、ガスAsは溶融樹脂R1の相対的に柔らかい部分(粘度が低い部分)を通過するので、注入圧力が高すぎると、キャビティ13の横断面中心近傍の溶融樹脂R1を局部的に通過することになり、製造された樹脂管1では管壁2の肉厚tが過大になる。そこで、管壁2の肉厚tを管全長に渡って所望範囲にするには、予め設定されている樹脂管1の内径と、キャビティ13での溶融樹脂R1の粘度とに基づいて、ガスAsのキャビティ13への注入圧力を適切に設定する。
【0040】
また、樹脂管1(キャビティ13)の管長が長いと、ガスAsをキャビティ13の他端部13bから一端部13aまで通過させるには注入圧力を高くする必要がある。そこで、樹脂管1の管長に基づいて、ガスAsのキャビティ13への注入圧力を適切に設定する。したがって、予め設定されている樹脂管1の内径および管長を考慮しつつ、キャビティ13での溶融樹脂R1の粘度を所望範囲に制御して、その所定範囲の粘度に適した注入圧力でガスAsをキャビティ13へ注入する。
【0041】
キャビティ13での溶融樹脂R1の粘度を所望範囲に制御するには、溶融樹脂R1の温度を調整する。溶融樹脂R1の温度を調整する方法としては、キャビティ13に射出する溶融樹脂R1の温度とモールド12(キャビティ13)の温度の少なくとも一方を調整するが、より好ましくは、キャビティ13に射出する溶融樹脂R1の温度を調整するとともにモールド12(キャビティ13)の温度を調整する。
【0042】
キャビティ13に射出する溶融樹脂R1の温度は、それぞれの樹脂の溶融温度や焼けの観点から、樹脂の種類に応じてある程度限定される。溶融樹脂R1の射出温度は、一般的には例えば150℃以上350℃以下の範囲で設定される。また、モールド12(キャビティ13)の温度も同様にある程度限定される。モールド12(キャビティ13)の温度は、一般的には例えば30℃以上120℃以下の範囲で設定される。したがって、溶融樹脂R1の射出温度やモールド12(キャビティ13)の温度をこのような範囲内で適宜決定して、キャビティ13での溶融樹脂R1の粘度を所望範囲に制御する。換言すると、キャビティ13での溶融樹脂R1を適切な粘度にするために、キャビティ13に射出する溶融樹脂R1の温度、モールド12(キャビティ13)の温度を所望範囲に制御、設定する。
【0043】
ガスAsの適切な注入圧力は、樹脂管1(キャビティ13)の管長、形状、キャビティ13での溶融樹脂R1の粘度などによって異なるので一律に包括的に設定することはできない。そこで、キャビティ13での溶融樹脂R1の粘度を所望範囲にするために、上述したようにキャビティ13に射出する溶融樹脂R1の温度、モールド12(キャビティ13)の温度を所望範囲に制御、設定する。そして、このように設定した温度条件下で、ガスAsの注入圧力を複数に異ならせた試験成形を行って樹脂管1のサンプルを製造する。それぞれの試験成形によって製造された樹脂管1のサンプルの管壁2の平均肉厚Taおよび管壁2の肉厚tの管全長に渡るばらつきVを把握する。そして、この平均肉厚Taが1.5mm以上1.75mm以下、かつ、ばらつきVが0.25mm以内になる場合に採用した注入圧力を、ガスAsの適切な注入圧力として設定すればよい。そして、樹脂管1の本生産では、溶融樹脂R1の温度(粘度)をその試験成形で設定した条件にするともに、この設定した適切な注入圧力でガスAsをキャビティ13に注入して樹脂管1を製造する。
【0044】
この実施形態のように、アシスト材Asとしてガスを用いて樹脂管1を成形するので、管長が長くても、管全長に渡って管壁2の肉厚tのばらつきを小さくするには、シスト材Asとして固体のコアを用いる場合に比して優れている。即ち、溶融樹脂R1が充填されているキャビティ13をアシスト材Asのガスが通過する過程では、このガスに接触した溶融樹脂R1の温度が固体のアシスト材Asを使用した場合に比して、急速に低下することを回避できる。また、アシスト材Asがガスの場合は、固体の場合のように溶融樹脂R1がアシスト材Asに密着することがない。
【0045】
そのため、管長が長くて屈曲部13cを有するキャビティ13に溶融樹脂R1が充填されている状態でガスAsを通過させても、ガスAsの注入口側(他端部1b側)に相当する領域と出口側(一端部1a側)に相当する領域とで成形された管壁2の肉厚tのばらつきを抑制するには有利になる。この実施形態は、樹脂管1の管長が750mm以上、さらには1000mm以上、或いは、1500mm以上の場合であっても有効であり、屈曲部13cでの管壁2の肉厚tのばらつきを抑制するにも有利になる。その結果、製造された樹脂管1では、上述した管壁2の肉厚tのばらつきVを小さくすることができる。さらには、アシスト材Asとしてガスを用いるので、管長が長くて3次元的に屈曲した形状であっても比較的簡便に樹脂管1を製造することが可能になる。
【実施例】
【0046】
モールドに屈曲して延在するキャビティの一端部から他端部に向かって溶融樹脂を射出機により射出した後、キャビティの他端部から一端部に向かってアシスト材を注入して、三次元的に屈曲した管長1500mm、外径が管全長に渡り7mmの屈曲樹脂管を以下の条件で製造した。
溶融樹脂としては、6ナイロン樹脂100質量部に対してガラス繊維(短繊維)を30質量部混合して使用した。ガラス繊維の外径は0.001mm以上0.05mm以下、長さは0.01mm以上0.1mm以下である。
そして、アシスト材の仕様を表1に示すように5種類(実施例、比較例1~4)に異ならせて樹脂管を製造した。溶融樹脂の射出温度および射出速度、モールド温度は同じにした。アシスト材として実施例では常温の窒素ガス、比較例1~4では6ナイロン樹脂製の球状コアを使用した。比較例1~4では、アシスト材(コア)の外径のみを異ならせ、アシスト材の注入圧力は同じに設定した。また、実施例のアシスト材(窒素ガス)の注入圧力は比較例1~4のアシスト材(コア)の注入圧力と概ね同じであった。実施例、比較例1~4のそれぞれの相違点は、実質的にアシスト材の仕様だけである。製造したそれぞれの樹脂管の管壁の肉厚tを上述した定義どおりに測定して管壁の平均肉厚Taを算出し、管壁の肉厚tの管全長に渡るばらつきVを上述した定義どおりに算出した。その結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
表1の結果から、実施例では管全長に渡って管壁の肉厚のばらつきVを抑制できることが分かる。
【符号の説明】
【0049】
1 屈曲樹脂管
1a 一端部
1b 他端部
2 管壁
3 管路
4 屈曲部
5 接続基部
5a 連通穴
6 屈曲樹脂管の製造装置
7 射出機
8 シリンダ
8a 射出口
9 スクリュー
10 アシスト材注入機
11 収容部
11a 注入口
12(12A、12B) モールド
13 キャビティ
13a 一端部
13b 他端部
13c 屈曲部
14a 射出路
14b 注入路
15 成形部
16 金属部材(中子)
PL パーティングライン
R1 溶融樹脂
R2 硬化樹脂
As アシスト材(ガス)
f 補強繊維
【要約】
管長が長くても、管全長に渡る管壁の肉厚のばらつきを抑制した屈曲樹脂管を製造できる製造方法とその屈曲樹脂管を提供する。 管長が350mm以上の屈曲樹脂管1を製造する際に、モールド12に屈曲部13cを有して延在するキャビティ13の一端部13aから他端部13bに向かって溶融樹脂R1を射出機7により射出した後、キャビティ13の他端部13bから一端部13aに向かってアシスト材Asとしてガスを所定の注入圧力で注入してキャビティ13から余分な溶融樹脂R1を排出させて、キャビティ13に残存させた円筒状の溶融樹脂R1を硬化させた硬化樹脂R2からなる屈曲樹脂管1を製造する。