IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社タンガロイの特許一覧

<>
  • 特許-チップ及び切削工具 図1
  • 特許-チップ及び切削工具 図2
  • 特許-チップ及び切削工具 図3
  • 特許-チップ及び切削工具 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】チップ及び切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20240807BHJP
   B23B 51/06 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
B23B51/00 T
B23B51/06 C
B23B51/06 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023223125
(22)【出願日】2023-12-28
【審査請求日】2024-01-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】志鎌 広也
(72)【発明者】
【氏名】亀田 修司
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-032705(JP,U)
【文献】特開2021-164972(JP,A)
【文献】国際公開第2018/155705(WO,A1)
【文献】特開平09-290307(JP,A)
【文献】特開2012-101305(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136694(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第1519558(KR,B1)
【文献】特開2003-094222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
B23B 51/06
B23B 27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴あけ加工に用いられるチップであって、
切れ刃が設けられた先端部、及び、該先端部に対向する後端部、並びに、前記先端部と前記後端部とを接続する第1側面、及び、該第1側面に対向する第2側面を備え、
前記先端部においては、
前記切れ刃は、前記第1側面側に配置される第1切れ刃、及び、前記第2側面側に配置される第2切れ刃を含むステップ状に形成されており、
前記第1切れ刃と前記第2切れ刃との間に位置する段差は、前記第2側面に向かい、
前記切れ刃に関するすくい面において、前記第1切れ刃及び前記第2切れ刃のそれぞれに対応する部位に、チップブレーカが形成されており、
前記第1切れ刃に対応する部位のチップブレーカの最大幅が、前記第2切れ刃に対応する部位のチップブレーカの最大幅よりも大きくされており
前記第2切れ刃に対応する部位のチップブレーカの幅が、前記第1側面側から前記第2側面側に向かって連続的又は断続的に広くなる、
チップ。
【請求項2】
前記先端部においては、前記第2側面と前記第2切れ刃との間に面取部が形成されている、請求項1記載のチップ。
【請求項3】
前記すくい面に、前記先端部に対向する後端部に向かって下降する傾斜面を有し、且つ、切削工具のボディに設けられたクーラント及び切り屑の排出孔に接続する、凹部が形成されている、請求項1記載のチップ。
【請求項4】
ボディと、
前記ボディに取り付けられたチップと、
を備えており、
前記チップは、切れ刃が設けられた先端部、及び、該先端部に対向する後端部、並びに、前記先端部と前記後端部とを接続する第1側面、及び、該第1側面に対向する第2側面を備え、
前記チップの先端部においては、
前記切れ刃が、前記第1側面側に配置される第1切れ刃、及び、前記第2側面側に配置される第2切れ刃を含むステップ状に形成されており、
前記第1切れ刃と前記第2切れ刃との間に位置する段差は、前記第2側面に向かい、
前記切れ刃に関するすくい面において、前記第1切れ刃及び前記第2切れ刃のそれぞれに対応する部位に、チップブレーカが形成されており、
前記第1切れ刃に対応する部位のチップブレーカの最大幅が、前記第2切れ刃に対応する部位のチップブレーカの最大幅よりも大きくされており
前記第2切れ刃に対応する部位のチップブレーカの幅が、前記第1側面側から前記第2側面側に向かって連続的又は断続的に広くなる、
切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、チップ、及び当該チップを備えた切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
被削材に深穴を形成するための加工方法の一つとして、「BTA」(Boring and Trepanning Association)と称される加工方法が挙げられる。一般に、BTA加工においては、切削で生じた切り屑を、切削工具の内部に形成された排出孔を通して外部へと排出させる。このため、例えば、チップの切れ刃に段差を設けてステップ形状にすることにより、切れ刃の中心刃側と外周刃側で切り屑を分断して細分化する機構を有する切削工具が知られている。その際、中心刃側の切り屑は比較的分厚くなる一方、外周刃側の切り屑は比較的薄く延び易くなる傾向にある。よって、このような傾向に応じて切り屑の形状をより好適に調整するための対策が求められている。かかる要求に応える方策の候補として、切れ刃に設ける段差を略V字形状をなす切欠きで形成したチップが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実願昭57-88267号(実開昭58-191913号)のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のチップでは、切り屑が延びる方向(伸展方向)を制御することにより、外周刃側の切り屑における過度の伸展を抑制することが意図されている。しかし、BTA加工における被削材の切れ味や切り屑の排出性を向上させる観点から望まれる切り屑の形状制御としては、未だ十分な解決には至っていない。特に、外周刃側の比較的薄くて延びやすい切り屑の形状を良好に制御することが切望されている。
【0005】
そこで、本開示は、BTA加工で生じ得る比較的薄く延び易い切り屑における過度の延びを抑制することができ、これにより、BTA加工における切れ味の向上や切り屑の排出性の改善にとって有利な刃先設計及び切り屑処理を実現することができるチップ、及び当該チップを備えた切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は、以下の構成を採用する。
【0007】
〔1〕本開示によるチップの一例は、例えば、被削材の穴あけ加工に用いられ、切削工具のボディに取り付けられるチップである。具体的には、当該チップは、切れ刃が設けられた先端部、及び、該先端部に対向する後端部、並びに、前記先端部と前記後端部とを接続する第1側面、及び、該第1側面に対向する第2側面を備える。また、その先端部においては、切れ刃が、第1側面側に配置される第1切れ刃、及び、第2側面側に配置される第2切れ刃を含むステップ状に形成されている。さらに、切れ刃に関するすくい面において、第1切れ刃及び第2切れ刃のそれぞれに対応する部位に、チップブレーカが形成されている。そして、第1切れ刃に対応する部位のチップブレーカの最大幅が、第2切れ刃に対応する部位のチップブレーカの最大幅よりも大きくされている。
【0008】
ここで、本開示における「チップブレーカの幅」とは、チップの平面視において、各切れ刃の延在方向と交差する方向(例えば直交する方向であるが、これに限定されない)に沿う幅を示し、或いは、切れ刃とその切れ刃に向くチップブレーカ(壁)の上面との境界部の幅を示す。
【0009】
かかる構成では、切れ刃がステップ(階段)状に形成されて、第1切れ刃と第2切れ刃との間に段差が画成されるので、切り屑が分断されて小片化される。また、第1切れ刃及び第2切れ刃のそれぞれに対応する部位のチップブレーカの最大幅の上記関係により、第1切れ刃に関して、チップブレーカにおける「壁」までの距離が遠くなるので、切り屑を強制的にカールさせる作用が弱くなり、これにより、切り屑が厚くても曲げ易くなる。一方、第2切れ刃に関しては、チップブレーカにおける「壁」までの距離が近くなるので、切り屑を強制的にカールさせる作用が強くなり、これにより、切り屑が薄くても適度に丸め易く或いは小さく折断し易くなる。すなわち、本開示によれば、第2切れ刃に対応する部位のチップブレーカの幅が、第1切れ刃に対応する部位のチップブレーカの幅に対して相対的に狭くされるので、薄く延び易い切り屑のカール径をより小さくすることできる。その結果、BTA加工における切れ味の向上や切り屑の排出性の改善にとって有利な刃先設計及び切り屑処理を実現及び提供することができる。
【0010】
〔2〕上記構成では、第2切れ刃に対応する部位のチップブレーカの幅が、第1側面側から第2側面側に向かって連続的又は断続的に広くなるようにしてもよい。かかる構成においては、第2切れ刃ひいては切れ刃による切り屑の形状制御を更に行い易くなる利点がある。より具体的には、穴あけ加工(ドリル加工)の特徴として、切削工具の回転中心では切削速度は略ゼロとなり、外周側ほど切削速度が速くなるため、外周側の切り屑は比較的速く流れ、中心側の切り屑は比較的ゆっくり流れる傾向にある。このとき、切り屑をすくい面側から視認すると、内側に中心を有する扇形にカールするので、切れ刃に対応するチップブレーカの幅が一定(同じ)の場合、切り屑は外周側でしか「壁」としてのチップブレーカに当たらないのに対し、上記構成のように外周側に向かってチップブレーカの幅を広くする(すなわち、チップブレーカも扇形状にする)ことにより、切り屑を「壁」全体に当てることができる。
【0011】
なお、本開示におけるチップの「第1側面」側及び「第2側面」側は、それぞれ、チップが切削工具に取り付けられた際の「工具中心側」及び「工具外周側」に相当する。これより、当該構成は、第1切れ刃に対応する部位のチップブレーカの幅が、工具中心側から工具外周側に向かって連続的又は断続的に増大すると表現することもできる。
【0012】
〔3〕上記構成では、先端部において、第2側面と外周刃との間に面取部が形成されていても好適である。かかる構成によれば、外周刃の外側面側端部への応力集中を緩和し、その部位の破損を防止することができる。
【0013】
〔4〕上記構成では、すくい面に、先端部に対向する後端部に向かって下降する傾斜面を有し、且つ、切削工具のボディに設けられたクーラント及び切り屑の排出孔に接続する、凹部が形成されていても好適である。かかる構成においては、チップが切削工具のボディに取り付けられた際に、凹部がボディの排出孔に接続し、チップ側からクーラント及び切り屑を排出するための経路が画定される。そして、その凹部が傾斜面を有するので、クーラント及び切り屑が流通するときの圧力損失が軽減され、それらの排出性が向上される。これにより、BTA加工中における切り屑の詰まりを防止し易くなる。
【0014】
〔5〕本開示による切削工具の一例は、ボディと、ボディに取り付けられた本開示によるチップを備えて有効に構成することができる。すなわち、そのチップは、切れ刃が設けられた先端部、及び、該先端部に対向する後端部、並びに、先端部と後端部とを接続する第1側面、及び、第1側面に対向する第2側面を備え、当該チップの先端部においては、切れ刃が、第1側面側に配置される第1切れ刃、及び、第2側面側に配置される第2切れ刃を含むステップ状に形成されている。また、切れ刃に関するすくい面において、第1切れ刃及び第2切れ刃のそれぞれに対応する部位に、チップブレーカが形成されており、且つ、第1切れ刃に対応する部位のチップブレーカの最大幅が、第2切れ刃に対応する部位のチップブレーカの最大幅よりも大きくされている。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、BTA加工で生じ得る比較的薄く延び易い切り屑における過度の延びを抑制することができる。その結果、BTA加工における切れ味の向上や切り屑の排出性の改善にとって有利な刃先設計及び切り屑処理を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る切削工具の全体構成の概略を示す斜視図である。
図2】本実施形態に係る切削工具が備えるチップの概略構成を示す斜視図である。
図3】(A)乃至(C)は、ぞれぞれ、本実施形態に係る切削工具が備えるチップを概略的に示す平面図(図1及び図2における上面図)、(A)における左側(先端側)側面図、及び、(A)における下側(外側面側)側面図である。
図4図3(A)をやや拡大して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る切削工具の全体構成の概略を示す斜視図であり、図2は、本実施形態に係る切削工具が備えるチップの概略構成を示す斜視図である。また、図3(A)乃至(C)は、ぞれぞれ、本実施形態に係る切削工具が備えるチップを概略的に示す平面図(図1及び図2における上面図)、図3(A)における左側(先端側)側面図、及び、図3(A)における下側(外側面側)側面図である。さらに、図4は、図3(A)を再掲したものであり、図3(A)をやや拡大して示す平面図である。
【0019】
<切削工具10の概要>
本実施形態に係る切削工具10は、穴あけ加工に用いられるBTA加工用の切削工具である。図1に示すとおり、切削工具10は、ボディ20と、チップ30と、ガイドパッド40とを備える。これらのうち、まず、ボディ20は、切削工具10の概ね全体を構成する部材であって、例えば鋼によって形成されている。
【0020】
図1に示すとおり、ボディ20の先端部21は、略円筒形状をなし、その側面側の一部が切り欠かれており、その部分に設けられた座210に後述するチップ30が取り付けられる。また、ボディ20の後端部22も、先端部21と同様に略円筒形状をなしており、先端部21と共に一体に形成されている。切削工具10は、この後端部22側で工作機械(不図示)によって適宜把持され、被削材のBTA加工時においては、回転中心軸AXの周りに回転するように駆動される。尚、回転中心軸AXは、略円筒形状をなすボディ20の中心軸と一致している。また、図1及び図2においては、BTA加工時における切削工具10の回転方向Yを丸矢印で示す。
【0021】
また、ボディ20には、排出孔23が形成されている。排出孔23は、ボディ20の外周面に沿って供給されたクーラントを、BTA加工時に発生する切り屑と共に外部へと案内して排出するための連通孔である。この排出孔23は、回転中心軸AXに沿って延在しており、ボディ20の全体を貫くように形成されている。また、排出孔23は、断面が略円形状をなす貫通孔であり、その中心軸は概ね回転中心軸AXと一致している。さらに、後述するチップ30近傍におけるチップ30への接続部分においては、排出孔23の内面は、チップ30側に向かって回転中心軸AXに近づくように傾斜している。
【0022】
チップ30は、内側面350側(工具中心側Rc)から外側面360側(工具外周側Rp)に向かって順に配置される中心刃31(第1切れ刃)、中間刃32、及び外周刃33(第2切れ刃)を含んで構成される切れ刃CEを有する部品である。このチップ30の材質は、特に制限されず、例えばその全体が超硬合金により形成されていると好適である。さらに、チップ30のうち少なくとも切れ刃CEを含む部分は、例えば、サーメット、セラミックス及び立方晶窒化ホウ素を含む焼結体等の硬質材料、これら硬質材料の表面にPVD又はCVDによって形成された被覆層を有するもの、並びに、単結晶ダイヤモンド又はダイヤモンドを含む焼結体等の何れかを含んで形成されてもよい。またさらに、チップ30は、ボディ20の座210に、例えば、ろう接により固定されている。
【0023】
また、例えば複数のガイドパッド40は、BTA加工中において加工穴(切削工具10の回転に伴って被削材に形成される穴)の内面に当接することにより、ボディ20の変形等を抑止するための部材である。これらのガイドパッド40により、加工穴の真直性や真円度を向上させることができる。
【0024】
尚、切削工具10によるBTA加工が行われる際には、流体であるクーラントが、加工穴の内周面とボディ20の外周面との間の隙間を通じて外部から供給される。クーラントは、チップ30の先端付近まで到達した後、BTA加工により生じた切り屑と共に、ボディ20の排出孔23へと流入する。クーラント及び切り屑は、それから排出孔23を後端側に向かって流れた後、切削工具10の外部へと排出される。
【0025】
<チップ30の具体的構成>
チップ30のより具体的な構成について以下に説明する。図2に示すとおり、チップ30は、第1面310(図示下面)と、第2面320(図示上面、すくい面)と、先端部330と、後端部340と、内側面350(図示左面、第1側面)と、外側面360(図示右面、第2側面)とを備える。
【0026】
第1面310は、チップ30がボディ20に取り付けられた状態において、回転方向Yにおける後方側を向く面である。一方、第2面320は、チップ30がボディ20に取り付けられた状態において、回転方向Yにおける前方側を向く面であり、ボディ20の切り欠きに開放されて露呈する部分である。つまり、第2面320は、第1面310に対向する反対側の位置にあり、回転中心軸AXの周りにボディ20が回転するとき、その進行方向側にある面である。また、図2に示すとおり、第2面320は、第1面310に対して平行な部分を有する。
【0027】
先端部330は、第1面310と第2面320との間を繋いでいる部分であって、チップ30がボディ20に取り付けられた状態において、最も先端側Rfとなる部分である。この先端部330において、先端面(逃げ面)と第2面320(すくい面)との交差稜線の一部には、BTA加工用の切れ刃CEが形成されている。
【0028】
また、後端部340も、第1面310と第2面320との間を繋いでいる部分であって、チップ30がボディ20に取り付けられた状態において、最も後端側Rbとなる部分である。尚、後端部340は、回転中心軸AXに沿った方向において、先端部330に対向して反対側に位置する部分であり、第1面310に対して略垂直で且つ略平坦な面とされている。
【0029】
<チップ30の先端部330>
チップ30の先端部330の更に具体的な構成について以下に説明する。先端部330に形成された切れ刃CEに関するすくい面(第2面320)において、中心刃31、中間刃32、及び外周刃33に対応する部位には、それぞれチップブレーカB1,B2,B3が形成されている。また、切れ刃CEにおいては、中心刃31、中間刃32、及び外周刃33が複数段のステップ(階段)状に形成されており、上記稜線のうち、図3(A)や図4に示す平面視において、中心刃31と中間刃32との間の段差C12の部分C12、及び、中間刃32と外周刃33との間の段差C23の部分C23は、切れ刃とはされてない。尚、切れ刃CEは、図3(A)や図4に示す平面視において、鋸歯状に形成されていると表現することもできる。
【0030】
さらに、図3(A)や図4に示す平面視において、中心刃31に対応する部位のチップブレーカB1の最大幅W1max、中間刃32に対応する部位のチップブレーカB2の最大幅W2max、及び外周刃33に対応する部位のチップブレーカB3の最大幅W3maxは、下記式(1)で表される関係を満たしている。
W1max>W2max≧W3max …(1)
【0031】
このとき、チップ30の形状設計においては、切れ刃CEを決定し、その切れ刃CEに対してチップブレーカB1,B2,B3の形状を決定し、両者に基づいて、チップブレーカにおける「壁」位置、及び、各壁を繋ぐ形状を策定する際に、適宜、上記式(1)で表される関係が満たされるように調整することができる。
【0032】
また、本実施形態では、図2図3(A)及び(B)、並びに図4において、中心刃31は同図のとおり、「へ」の字状(「く」の字)に折れ曲がって設けられており、回転中心軸AX付近まで刃として機能する。よって、中心刃31に対応する部位のチップブレーカB1も、同様に「へ」の字状(「く」の字)に折れ曲がっている。一方、同視において、中間刃32に対応する部位のチップブレーカB2、及び、外周刃33に対応する部位のチップブレーカB3は、平面視において、それぞれ略台形状をなす領域とされている。これにより、チップブレーカB2の幅W2及びチップブレーカB3の幅W3は、何れも内側面350側(工具中心側Rc)から外側面360側(工具外周側Rp)に向かって連続的又は断続的に増大するように構成されている。
【0033】
さらに、本実施形態では、図3(A)や図4に示す平面視において、中心刃31に対応する部位のチップブレーカB1と、中間刃32に対応する部位のチップブレーカB2との間の後端部340側に、段差D12が形成されている。これにより、チップブレーカB1,B2間を繋ぐ境界部T12は、両側くびれ状とされている。これに対し、チップブレーカB2,B3間を繋ぐ境界部T23は、片側くびれ状とされている。またさらに、本実施形態では、図3(A)や図4に示す平面視において、工具外周側Rpに露呈する外側面360と外周刃33とを直線的に繋ぐ(連結する)面取部T34が形成されている。
【0034】
また、本実施形態においては、第2面320のうち後端部340側の部分に、第1面310側に向かって後退する(先端部330に対向する後端部340に向かって下降する)傾斜面321を有する凹部E321が形成されている。その凹部E321は、後端部340側で、ボディ20に設けられたクーラント及び切り屑の排出孔23に、段差を有することなく滑らかに接続されている。さらに、凹部E321の両側には、傾斜面321と同方向に傾斜する傾斜面322が設けられている。
【0035】
以上のように構成されたチップ30、及び、それが取り付けられた切削工具10によれば、切れ刃CEがステップ(階段)状に形成されて、中心刃31、中間刃32、及び外周刃33の隣接する刃間の境界部T12,T23に段差C12,C23が画成される。よって、切削工具10によるBTA加工で発生する切り屑が、それらの段差C12,C23の部位において分断されて小片化される。このとき、複数の段差C12,C23が画成されているので、段差が単一の場合に比して、切り屑をより細かく分断することができる。
【0036】
また、中心刃31に対応する部位のチップブレーカB1の最大幅W1maxが、中間刃32及び外周刃33のそれぞれに対応する部位のチップブレーカB2,B3の最大幅W2max,W3maxよりも大きくされている(先述の式(1)参照)。これにより、中心刃31に関して、チップブレーカB1における「壁」までの距離が遠くなるので、切り屑を強制的にカールさせる作用が弱められ、その結果、切り屑が厚くても曲げ易くなる。一方、中間刃32及び外周刃33に関しては、チップブレーカB2,B3における「壁」までの距離が、中心刃31に対応するチップブレーカB1の場合よりも近くなるので、切り屑を強制的にカールさせる作用が強くなる。その結果、切り屑が薄くても適度に丸め易くなり、或いは、小さく折断し易くなる。以上より、BTA加工における切れ味の向上や切り屑の排出性の改善にとって有利な刃先設計及び効果的な切り屑処理を実現及び提供することができる。
【0037】
さらに、中間刃32及び外周刃33に対応する部位のチップブレーカB2,B3の幅W2,W3が、内側面350側(工具中心側Rc)から外側面360側(工具外周側Rp)に向かって連続的又は断続的に広くなるように構成されている。一般に、BTA加工において、切り屑を第2面320(すくい面)側から視認すると、内側に中心を有する扇形にカールするので、切れ刃CEに対応するチップブレーカB1,B2,B3の幅が一定(同じ)の場合、切り屑は外周側でしか「壁」としてのチップブレーカに当たらない。これに対し、本実施形態の構成のように外側面360側(工具外周側Rp)に向かってチップブレーカB2,B3の幅W2,W3を徐々に広くする(すなわち、チップブレーカも扇形状にする)ことで、切り屑を「壁」全体に当てることができる。その結果、中間刃32及び外周刃33ひいては切れ刃CEによる切り屑の形状制御が更に行い易くなる。
【0038】
またさらに、先端部330において、外側面360と外周刃33との間を例えば直線的に繋ぐ(連結する)面取部T34が設けられているので、外周刃33の外側面360の側端部への応力集中が有効に緩和される。これにより、その部位の破損を防止することができる。
【0039】
さらにまた、一般に、BTA加工に用いられる切削工具においては、本実施形態に係る切削工具10と同様に、切り屑を確実に排出するために、排出孔23の入口をチップ30の切れ刃CEに極力近づけるように設けられることが多い。このため、排出孔23の入口がチップ30によって狭められることとなり、切り屑を含むクーラントが、排出孔23に流入し難くなる。その際、場合によっては、排出孔23の入口において切り屑が詰まってしまう可能性がある。これに対し、本実施形態によれば、チップ30の第2面320に凹部E321が設けられているので、排出孔23に向かってクーラントが流入する排出経路が広く確保される。これにより、排出孔23の入口がチップ30の一部により狭められることがないので、クーラント及び切り屑が流通するときの圧力損失が軽減され、BTA加工中における切り屑の詰まりを防止し易くなる。
【0040】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明したが、本開示の理解を容易にするためのものであり、本開示を限定して解釈するためのものではない。つまり、本開示は、これらの具体例に限定されるものではなく、これらの具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備える限り、本開示の範囲に包含される。また、前述した各具体例が備える各要素、配置、材料、条件、形状、寸法サイズ、縮尺等は、特に明示のない限り、例示したものに限定されず、適宜変更することができる。さらに、前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変更することができる。
【0041】
すなわち、例えば、中心刃31及び外周刃33を備えていれば、中間刃32を設けなくてもよい。また、先端部330の形状、並びに、切れ刃CEを構成する中心刃31、中間刃32、及び外周刃33の形状は、それぞれ図示のものと異なっていてももちろん構わない。さらに、上記実施形態では、「チップブレーカの幅」を、チップの平面視において、中心刃31、中間刃32、及び外周刃33の延在方向と直交する方向に沿う幅として図4に示したが、先述のとおり、本開示における「チップブレーカの幅」とは、その延在方向と交差する方向であれば、図示に限定されない。また、例えば、切れ刃CEとそこに向くチップブレーカB1,B2,B3(壁)の上面との境界部の幅を、「チップブレーカの幅」としてもよい。またさらに、上記実施形態では、中心刃31、第1外周刃32、及び第2外周刃33の延在方向が略同じ場合を例示したが、これも図示に限定されない。
【0042】
また、チップブレーカB1,B2,B3としては、「壁」としての機能形状を有していればよく、例えば、溝や島等を有する部位として形成されていてもよい。さらに、チップ30は、ボディ20の座210に螺子により着脱可能に締結固定されてもよく、この場合、チップ30は「切削インサート」として用いられる。またさらに、図4の平面視において、チップブレーカB1,B2を繋ぐ境界部T12の形状は任意に調整することができ、上記実施形態では図示左右辺をそれぞれ段差C12,D12のように曲線且つ両くびれ状としたが、例えば、直線や折れ線としてもよいし、段差D12は設けなくてもよい。同様に、チップブレーカB2,B3を繋ぐ境界部31の形状も任意に調整することができ、上記実施形態では図示左右辺をそれぞれ段差C23のように曲線や段差を設けない直線としたが、例えば、何れも直線としてもよいし、段差D12のような段差を設けて両側くびれ状としてもよい。加えて、図4の平面視において、外側面360と外周刃33とを繋ぐ面取部T34を直線状としたが、外周刃33の外側面360側端部の破損を防止することに資すれば、曲線状でもその他の形状でも構わない。
【符号の説明】
【0043】
10…切削工具、20…ボディ、21…先端部、22…後端部、23…排出孔、30…チップ、31…中心刃(第1切り刃)、32…中間刃、33…外周刃(第2切り刃)、40…ガイドパッド、210…座、310…第1面、320…第2面(すくい面)、321…傾斜面、322…傾斜面、330…先端部、340…後端部、350…内側面(第1側面)、360…外側面(第2側面)、AX…回転中心軸、B1,B2,B3…チップブレーカ、C12,C23…段差、CE…切れ刃、D12…段差、E321…凹部、Rb…後端側、Rc…工具中心側、Rf…先端側、Rp…工具外周側、T12,T23…境界部、T34…面取部、W1,W2,W3…チップブレーカの幅、W1max,W2max,W3max,…チップブレーカの最大幅、Y…回転方向。
【要約】
【課題】BTA加工における切れ味の向上や切り屑の排出性の改善に有利な刃先設計等の実現。
【解決手段】チップ30は、切削工具10のボディに取り付けられ、切れ刃CEが設けられた先端部330、及び、それに対向する後端部340を備える。先端部330においては、切れ刃CEが、内側面350側に配置される中心刃31、及び、外側面360側に配置される外周刃33を含むステップ(階段)状に形成されている。また、切れ刃CEに関するすくい面(第2面320)において、中心刃31及び外周刃33のそれぞれに対応する部位に、チップブレーカB1,B3が形成されている。そして、中心刃31に対応する部位のチップブレーカB1の最大幅W1maxが、外周刃33に対応する部位のチップブレーカB3の最大幅W3maxよりも大きくされている。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4