IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイ‐コンポロジー株式会社の特許一覧 ▶ 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターの特許一覧

<>
  • 特許-海洋生分解性樹脂組成物 図1
  • 特許-海洋生分解性樹脂組成物 図2
  • 特許-海洋生分解性樹脂組成物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】海洋生分解性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20240807BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20240807BHJP
   C08L 97/02 20060101ALI20240807BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240807BHJP
【FI】
C08L67/04 ZBP
C08L67/02
C08L97/02
C08L101/16
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021101998
(22)【出願日】2021-06-18
(62)【分割の表示】P 2020065547の分割
【原出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021161435
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】516181516
【氏名又は名称】アイ‐コンポロジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】三宅 仁
(72)【発明者】
【氏名】小出 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 森
(72)【発明者】
【氏名】安田 健
(72)【発明者】
【氏名】許 ▲深▼
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189367(WO,A1)
【文献】特開2018-165345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L67
C08L97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)樹脂成分100質量部に対し、(B)植物由来フィラー20質量部以上200質量部以下を含有し、
前記(A)樹脂成分は、(A1)ポリヒドロキシアルカノエートと、(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂とを質量比で95:5~30:70の割合で含有し、
前記(A1)ポリヒドロキシアルカノエートは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、及びポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)からなる群より選択される1種以上を含み、
前記(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂は、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、及びポリブチレンサクシネートカーボネートからなる群より選択される1種以上を含み、
前記(B)植物由来フィラーは、木粉、竹粉、藁粉、葦粉、セルロース粉、紙粉、でん粉、穀物粉、食物繊維、及び天然繊維からなる群より選択される1種以上を含み、
前記(B)植物由来フィラーの平均粒子径が500μm以下であり、
無機フィラーを含有しない、海洋生分解性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋生分解性樹脂組成物に関する。より詳しくは、本発明は、海洋生分解性を有する樹脂の成形体によって構成される食品用器具・容器包装、及び海洋資材を提供可能な樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護及び循環型社会形成の観点から、木材や草類等の有機性資源(バイオマス材料)を再利用することが世界的に提唱されている。バイオマス材料を活用することによって、化石燃料の多用がもたらす環境問題を克服しつつ、新たな産業振興と経済成長を実現し得る。これを「バイオエコノミー」、「サーキュラーエコノミー」等と呼び、世界各国が振興策を打ち出している。また、環境改善を基本に置いた持続可能な開発目標として、2015年に国連で採択された「SDGs」が社会的テーマとなっている。
【0003】
例えば、ストロー、飲食品包装容器、食器、袋といった比較的大きな難分解性プラスチックごみが海洋に流れ込むと、波や日光で少しずつ粉砕され、いずれ難分解性のマイクロプラスチックとなる。難分解性プラスチックごみは、世界では推計年間数百万トン、日本だけでも推計年間2万トン~6万トン出されていると言われ、メディアでも度々取り上げられ、広く認知されてきている。
【0004】
マイクロプラスチックは、ポリ塩化ビフェニル(PCB)やジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)等の有害物質を吸着する性質がある。動物プランクトンや小魚、貝等の海洋動物が、有害物質を吸着したマイクロプラスチックを捕食すると、食物連鎖の中で有害物質の濃縮が進み、巡り巡ってヒトの食卓に入り込む。
【0005】
加えて、海洋に流れたポリ袋を、亀やクジラ等の海洋動物が誤って捕食してしまい、結果、海洋動物を死に至らしめるという事態も生じている。
【0006】
また、釣りに用いる樹脂製ルアーについても同様であり、自然界に放置された場合、魚が摂餌した場合のいずれにおいても、環境に対して好ましくない影響を与える。
【0007】
2019年6月に大阪で開催されたG20(Group of Twenty)では、海洋プラスチックごみの問題が提起され、大阪ブルー・オーシャン・ビジョンとして、対策に向けた計画策定や、協力の合意が得られている。また、飲食チェーンでのストロー廃止、プラスチックから紙への切り替えの動きもある。
【0008】
しかしながら、プラスチックの全量廃止というのは現実的でなく、プラスチックのリサイクルはもちろんのこと、難分解プラスチックから海洋微生物が分解可能なプラスチックに置き換えることが急務である。
【0009】
ここで、生分解性樹脂組成物として、ポリ-3-ヒドロキシアルカノエート系樹脂と植物由来フィラーとの複合体が提案されている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2000-129143号公報
【文献】特開2006-045366号公報
【文献】特許第5858786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、当該樹脂組成物は、植物由来フィラーの添加量が増すにつれ剛性が向上する代わりに脆くなる。また、植物由来フィラーの添加量が増すにつれ溶融時の流動性が悪くなり、射出成形において薄い成形体や細い成形体を成形するのが困難となり、ショートショット等の成形不良を起こしやすい。特許文献1では、木粉やセルロースパウダーを最大でも10%添加した実施例しかなく、溶融時の流動性については言及されていない。また、特許文献2では結晶化速度の向上を目的として木粉を添加しており、組成物の流動性や強度については言及されていない。また、特許文献3には植物由来フィラーを添加した実施例がない。また、いずれにおいても組成物の海水での生分解性は確認されていない。
【0012】
また、第二の課題は、現在の海洋生分解性樹脂そのものが高価であるため、使いたい用途に手軽に使えないということである。特にポリヒドロキシアルカノエートは微生物が生成するユニークな樹脂であるが、その価格はほかの生分解性樹脂に比較して高価であることが知られる。植物由来フィラーや他の生分解性樹脂との複合化によって、少しでも原料コストを下げて使いやすくし当該資材を製造することにより、将来的な現在のプラスチックごみ問題の解決策につなげられることは容易に想像できる。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、海水での生分解性を有し、成形不良を抑えられる点で安定供給に資する食品用器具・容器包装、及び海洋資材を提供可能な樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、樹脂成形体を構成する樹脂組成物の組成を、ポリヒドロキシアルカノエート及びポリブチレンサクシネート系樹脂を含む樹脂成分と、植物由来フィラーとの組合せにし、これらの質量比を所定の割合にすることで、高いMVR(メルトボリュームフローレート)を有し、しかも海洋生分解性が付与された海洋資材を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0015】
第1の特徴に係る発明は、(A)樹脂成分100質量部に対し、(B)植物由来フィラー20質量部以上200質量部以下を含有し、前記(A)樹脂成分は、(A1)ポリヒドロキシアルカノエートと、(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂とを質量比で95:5~30:70の割合で含有し、前記(A1)ポリヒドロキシアルカノエートは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、及びポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)からなる群より選択される1種以上を含み、前記(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂は、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、及びポリブチレンサクシネートカーボネートからなる群より選択される1種以上を含み、前記(B)植物由来フィラーは、木粉、竹粉、藁粉、葦粉、セルロース粉、紙粉、でん粉、穀物粉、食物繊維、及び天然繊維からなる群より選択される1種以上を含み、前記(B)植物由来フィラーの平均粒子径が500μm以下である、海洋生分解性樹脂組成物である。
【0016】
第1の特徴に係る発明によると、樹脂成形体を構成する(A)樹脂成分は、(A1)ポリヒドロキシアルカノエートと、(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂との所定質量比での組合せであるため、海洋微生物が分解可能である。また、(B)植物由来フィラーもまた海洋微生物が分解可能であることから、海洋汚染の課題を解決してバイオエコノミーやSDGsに資することが可能である。
【0017】
また、(A)樹脂成分と(B)植物由来フィラーとを特定の材料、割合にしている。中でも、(A1)ポリヒドロキシアルカノエートとして列挙された樹脂群は、海洋生分解性を有するとともに固くて弾性率が大きい。また、(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂として列挙された樹脂群は、(A1)よりは劣るものの海洋生分解性を有するとともに弾性率が小さく柔軟で伸びが大きい。そのため、(A)樹脂成分に(B)植物由来フィラーを分散させたうえで、180℃で1.0cm/10分以上のMVR(メルトボリュームフローレート)を実現する。これにより、射出成形において薄い成形体や細い成形体を成形するのを可能にし、ショートショット等の成形不良を抑えられる。また、樹脂成形体の十分な強度を担保できる。
【0018】
したがって、第1の特徴に係る発明によると、海水での生分解性を有し、成形不良を抑えられる点で安定供給に資する食品用器具・容器包装を提供可能な樹脂組成物を提供できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、海水での生分解性を有し、成形不良を抑えられる点で安定供給に資する食器用器具・容器包装、及び海洋資材を提供可能な樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施例1~4及び比較例1のそれぞれについて、メルトボリュームフローレート(MVR)を測定したときの結果を示す図である。
図2図2は、実施例1及び3と比較例1、2及び8とについて、溶融粘度を比較したときの結果を示す。
図3図3は、実施例1と実施例5とについて、溶融粘度を比較したときの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0022】
本実施形態において、食品用器具・容器包装等は、樹脂成形体によって構成される。そして、樹脂成形体は、海洋生分解性樹脂組成物の成形体である。
【0023】
<海洋生分解性樹脂組成物>
生分解性樹脂組成物は、(A)特定の生分解性樹脂と、(B)特定の植物由来フィラーとを含有する。
【0024】
〔(A)樹脂成分〕
(A)樹脂成分は、(A1)ポリヒドロキシアルカノエートと、(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂とを含有する。
【0025】
[(A1)ポリヒドロキシアルカノエート]
(A1)ポリヒドロキシアルカノエートとは、ヒドロキシアルカノエート(ヒドロキシアルカン酸)を単量体成分として含むポリマーをいう。
【0026】
(A1)ポリヒドロキシアルカノエートの具体例として、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(PHB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)(PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBVH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、及びポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)(PHBB)からなる群より選択される1種以上が挙げられる。
【0027】
中でも、海洋分解性に優れることから、(A1)ポリヒドロキシアルカノエートは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)(PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBVH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0028】
[(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂]
(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂
(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂とは、ポリブチレンサクシネート樹脂それ自体、あるいは、ポリブチレンサクシネートを主成分とし、ポリブチレンサクシネートの他に必要に応じて単量体成分としてアジピン酸、ポリエチレングリコール等を共重合させた樹脂をいう。
【0029】
(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂の具体例として、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、及びポリブチレンサクシネートカーボネートからなる群より選択される1種以上が挙げられる。
【0030】
中でも、海洋分解性に優れることから、(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂は、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)であることが好ましい。なお、PBSAの海洋生分解性については、産業技術総合研究所の中山氏によって確認されている(文献:中山敦好ら「プラスチックス」11.1-5(2018)、他)。
【0031】
[(A1)と(A2)との質量比]
(A1)ポリヒドロキシアルカノエートと(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂との質量比は、95:5~30:70である。安定して連続的にペレット化できることから、当該質量比は、95:5~30:70であることが好ましい。加えて、食品用器具・容器包装や海洋資材等の樹脂製品として供給するに際し、製品として利用できるだけの衝撃耐性に優れることから、当該質量比は、95:5~30:70であることが好ましい。また、メルトボリュームフローレート(MVR)に優れ、成形する際の作業性に優れることから、当該質量比は、93:7~40:60であることがさらに好ましい。
【0032】
(A1)ポリヒドロキシアルカノエートが多すぎると、また、(B)植物由来フィラーを配合して樹脂組成物から樹脂成形体に成形する際、樹脂成形体がもろく、樹脂成形体の使用時に裂けたり、割れたりする可能性がある。
【0033】
(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂が多すぎると、柔軟性が大きくなり過ぎる場合や海洋生分解性が劣ってくる可能性があり、好ましくない。
【0034】
その他、海洋微生物が分解可能な樹脂として、PCL:ポリカプロラクトン、PLGA:ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)等も知られている。(A)樹脂成分は、複数樹脂の混合物であってもよく、上記で示した割合を充足していれば、(A)樹脂成分がPCL、PLGA等を含んでいてもよい。
【0035】
〔(B)植物由来フィラー〕
【0036】
(B)植物由来フィラーは、充填剤の役割を有する。樹脂成形体に海洋生分解性を付与するため、(B)植物由来フィラーは、木粉、竹粉、藁粉、葦粉、セルロース粉、紙粉、でん粉、穀物粉、及び食物繊維、及び天然繊維からなる群より選択される。
【0037】
天然繊維としては、例えば、ケナフ繊維、アバカ繊維、竹繊維、ジュート繊維、麻繊維、リネン繊維、ヘネケン(サイザル麻)、ラミー繊維、ヘンプ、綿、バナナ繊維、ココナッツ繊維、ヤシ、パーム、コウゾ、ミツマタ、バガス等が挙げられ、また、植物繊維から加工されたパルプやセルロース繊維、レーヨン等の再生繊維も挙げられる。
【0038】
また、(B)植物由来フィラーの平均粒子径が500μm以下である、平均粒子径が500μmを超えると、(A)樹脂成分に(B)植物由来フィラーを分散させているにも関わらず、十分なフィラー分散効果を得ることができず、強度や耐衝撃性が低下する可能性があるため、好ましくない。
【0039】
(B)植物由来フィラーの含有量の上限は、食品用器具・容器包装や海洋資材等の樹脂製品として供給するに際し、製品として利用できるだけの十分な強度が得られることと、コストダウンとを両立できる範囲であれば、特に限定されない。(B)植物由来フィラーの含有量の上限は、(A)樹脂成分100質量部に対して200質量部以下であることが好ましい。そして、安定製造性を考慮すると、(B)植物由来フィラーの含有量の上限は、(A)樹脂成分100質量部に対して150質量部以下であることがより好ましく、120質量部以下であることがさらに好ましく、100質量部以下であることが特に好ましい。
【0040】
(B)植物由来フィラーの含有量の下限もまた、樹脂成形体としての強度の確保とコストダウンとを両立できる範囲であれば、特に限定されない。(B)植物由来フィラーの含有量の下限は、(A)樹脂成分100質量部に対して5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましい。
【0041】
〔(C)滑剤〕
また、必須ではないが、海洋生分解性樹脂組成物は、(C)滑剤として水添植物油脂を含有することが好ましい。海洋生分解性樹脂組成物が(C)滑剤として水添植物油脂を含有することで、成形する際の粘度を抑えることができ、成形する際の作業性が著しく向上する。
【0042】
水添植物油脂とは、植物油脂(「植物油脂B」とも称される。)を水添したものをいう。
【0043】
植物油脂Bとしては、例えば構成脂肪酸中、C18脂肪酸を70~90重量%含有し、植物性油脂B中、トランス脂肪酸含有率3重量%以下のものが好ましく、具体的には、コメ油、コメヌカ油、サフラワー油、トウモロコシ油、大豆油、胡麻油、菜種油、オリーブ油、落花生油等の1種以上が挙げられる。
【0044】
水添植物油脂としては、水添植物油脂中、トランス脂肪酸含有率1重量%以下のものが好ましい。具体的には、水添コメ油、水添コメヌカ油、水添サフラワー油、水添トウモロコシ油、水添大豆油、水添胡麻油、水添菜種油、水添オリーブ油、水添落花生油等の1種以上が挙げられる。
【0045】
(C)水添植物油脂の含有量の上限は、コスト面での支障が生じない限りは、特に限定されない。(C)水添植物油脂の含有量の上限は、(B)植物由来フィラーの含有量100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0046】
(C)水添植物油脂の含有量の下限もまた、成形する際の粘度低減効果が現れる範囲であれば、特に限定されない。(C)水添植物油脂の含有量の下限は、(B)植物由来フィラーの含有量100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましい。
【0047】
〔他の添加剤〕
本実施形態における生分解性樹脂組成物は、本実施形態に記載の効果を阻害しない範囲において、各種添加剤を含有しても良い。添加剤として、例えば、他の滑剤、結晶化核剤、可塑剤、加水分解抑制剤、酸化防止剤、離形剤、紫外線吸収剤、染料、顔料等の着色剤、無機充填剤等を目的に応じて使用できるが、それらの添加剤は、海洋生分解性を有することが好ましい。
【0048】
[他の滑剤]
他の滑剤の種類は、特に限定されない。例えば、ベヘン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド等の脂肪酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等のアルキレン脂肪酸アミド、ポリエチレンワックス、酸化ポリエステルワックス、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノラウレート等のグリセリンモノ脂肪酸エステル、コハク酸飽和脂肪酸モノグリセライド等の有機酸モノグリセライド、ソルビタンベヘネート、ソルビタンステアレート、ソルビタンラウレート等のソルビタン脂肪酸エステル、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンラウレート、テトラグリセリンステアレート、テトラグリセリンラウレート、デカグリセリンステアレート、デカグリセリンラウレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアリルステアレート等の高級アルコール脂肪酸エステルが挙げられる。これらは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0049】
[結晶化核剤]
結晶化核剤の種類は、(A)樹脂成分の結晶化を促進できるものであれば、特に限定されない。例えば、窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、金属リン酸塩等の無機物、エリスリトール、ガラクチトール、マンニトール、アラビトールのような天然物由来の糖アルコール化合物、ペンタエリスリトール、ポリビニルアルコール、キチン、キトサン、ポリエチレンオキシド、脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸エステル、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルセバケートのようなジカルボン酸誘導体、インジゴ、キナクリドン、キナクリドンマゼンタのようなC=OとNH、SおよびOから選ばれる官能基とを分子内に有する環状化合物、ソルビトール、ビスベンジリデンソルビトールやビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトールのようなソルビトール系誘導体、ピリジン、トリアジン、イミダゾールのような窒素含有ヘテロ芳香族核を含む化合物、リン酸エステル化合物、高級脂肪酸のビスアミドおよび高級脂肪酸の金属塩、分岐状ポリ乳酸、低分子量ポリ3-ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。これらは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0050】
[可塑剤]
可塑剤の種類は、特に限定されない。例えば、グリセリン、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエート等の変性グリセリン系化合物、ジエチルヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート等のアジピン酸エステル系化合物、ポリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジカプリレート、ポリエチレングリコールジイソステアレート等のポリエーテルエステル系化合物、ベンジル2(2メトキシエトキシ)エチルアジパート等の安息香酸エステル系化合物、エポキシ化大豆油、エポキシ化脂肪酸2-エチルヘキシル、セバシン酸系モノエステルが挙げられる。これらは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0051】
〔海洋生分解性樹脂組成物の製造方法〕
海洋生分解性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、(B)植物由来フィラーの含有量の自由度を高めるため、まずは、(A)樹脂成分に(B)植物由来フィラーを高濃度で分散させたマスターペレットを製造し、その後、マスターペレットに(A)樹脂成分を混合して樹脂ペレットを製造することが好ましい。これは、(B)植物由来フィラーの粉体と(A)樹脂成分ペレットとを直接混合する際の正確性や取扱いを容易にするだけでなく、(B)植物由来フィラーを高濃度に含む組成物が得られるためである。
【0052】
マスターペレットの製造方法は、特許第6108782号に記載の手法を利用できる。
【0053】
<海洋生分解性樹脂成形体>
本実施形態の海洋生分解性樹脂成形体は、上記の海洋生分解性樹脂組成物を成形してなる。
【0054】
成形手法は特に限定されるものでなく、射出成形、付加製造、押出成形、回転成形、発泡成形、カレンダー成形、ブロー成形、熱成形、圧縮、溶融紡糸等、従来公知の成形方法であればよい。中でも、樹脂組成物が薄い成形体や細い成形体の安定製造に優れる特徴を持つことから、樹脂組成物を射出成形用あるいは付加製造用として用いることが好ましい。
【0055】
成形体の用途は、特に限定されるものでなく、例えば、食品用器具・容器包装(ストロー、カトラリー、飲食品包装容器、食器等)、海洋資材(漁具、釣具、養殖用具、浮き、人工藻場構造部材及び建築資材等)のほか、ポリ袋、マイクロビーズ、マイクロファイバー、水切りネット、マネキン、ギブス等が挙げられる。
【0056】
中でも、樹脂組成物が射出成形及び付加製造に適することから、成形体の用途は、食品用器具・容器包装、海洋資材、マネキン及びギブスのいずれかであることが好ましい。
【実施例
【0057】
以下、試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0058】
<混練組成物ペレットの調整>
(A)樹脂成分、(B)植物由来フィラー及び(C)滑剤を、表1に記載の割合にてポリ袋中で混合し、二軸押出試験機((株)東洋精機製作所、ラボプラストミル4C150)で、設定温度170℃、回転数150rpmで押し出し、裁断して混練組成物ペレットを得た。
【0059】
表1において、原料は以下のとおりである。
(A)樹脂成分
(A1)ポリヒドロキシアルカノエート
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)
(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂
ポリブチレンサクシネートアジペート(三菱ケミカル(株)製、BioPBS、FD92PB)
(B)植物由来フィラー
ヒノキ木粉(50メッシュ)に、水30部とポリアルファオレフィン4部と脂肪酸金属塩4部を撹拌混合した後、、ディスクペレッタで造粒した。これを乾燥して植物由来フィラーペレットを得た。
(C)滑剤
水添植物油脂(水素化率が99%以上である水添菜種油脂)
【0060】
<試験サンプルの成形>
混練組成物ペレットを乾燥後に空圧式射出成型機((株)井元製作所、IMC-193C)にて設定温度180℃で矩形試験片(JIS K7139 タイプB)を成形した。
【0061】
<試験方法及び試験結果>
〔曲げ試験〕
実施例1~7及び比較例1~7のそれぞれについて、曲げ試験を行った。曲げ試験は、JIS K7171の条件で実施した。サンプル数は3であった。曲げ弾性率、曲げ強さ、及び曲げ破断ひずみについての結果を表1に示す。
【0062】
〔シャルピー衝撃試験〕
実施例1~5及び比較例1~7のそれぞれについて、シャルピー衝撃試験を行った。シャルピー衝撃強さは、JIS K7111の条件でノッチ付き試験片にて測定した。サンプル数は5であった。結果を表1に示す。
【0063】
〔メルトボリュームフローレート(MVR)〕
実施例1~4及び比較例1のそれぞれについて、メルトボリュームフローレート(MVR)を測定した。MVRは、JIS K7210-1に準拠し、温度180℃、荷重5kgの条件で測定した。結果を図1に示す。
【0064】
〔溶融粘度測定〕
実施例1、3、5及び比較例1、2、8のそれぞれについて、溶融粘度を測定した。溶融粘度は、JIS K7199を参照して測定した。温度は180℃で、ダイはL/D=40、D=1mmを使用した。実施例1及び3と比較例1、2及び8との比較の結果を図2に示す。また、実施例1と実施例5との比較の結果を図3に示す。
【0065】
〔ストランドペレット化の評価〕
実施例1~7及び比較例1について、二軸押出機((株)池貝製、PCM30)にてストランドペレット化の作業性を評価した。高速で連続製造可能である場合を「〇」とし、「〇」の場合に比べて製造速度が低下するものの、安定して連続製造できる場合を「△」とし、ストランドが折れてしまい、ペレットの連続製造が難しい場合を「×」とした。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
〔海洋生分解試験〕
海洋生分解試験は、一般社団法人化学物質評価研究機構に委託した。
【0068】
[試験材料及び植種源]
(試験材料)
実施例1を試験材料とした。
【0069】
(植種源)
博多湾の沿岸(福岡県福岡市福浜付近)で採取した海水を採取植種源とした。
【0070】
[生分解試験の実施]
(試験条件)
【0071】
生分解度測定方法:閉鎖呼吸計による酸素消費量の測定
培養温度:30℃、暗所
培養期間:28日間
【0072】
(生分解度の算出)
試験材料及び対照材料の生分解度は以下の式に基づき算出した。
生分解度(%)=(BOD-BOD)/ThOD×100
BOD:試験材料の生物化学的酸素要求量(測定値:mg)
BOD:空試験の平均生物化学的酸素要求量(測定値:mg)
ThOD:試験材料が完全に酸化された場合に必要とされる理論的酸素要求量(計算値:mg)
【0073】
[試験結果]
培養28日後の試験材料(実施例1)は、平均36%、最大43%生分解された。
【0074】
<考察>
〔曲げ弾性率、曲げ強さ、曲げ破断ひずみ〕
実施例1~7については、食品用器具・容器包装や海洋資材等の樹脂製品として供給するに際し、製品として利用できるだけの十分な強度を有することが確認された。それに対し、比較例5~7については強度が十分とはいえないことが確認された。
【0075】
〔シャルピー衝撃強さ〕
実施例については、食品用器具・容器包装や海洋資材等の樹脂製品として十分な衝撃耐性を有することが確認された。中でも、(A1)ポリヒドロキシアルカノエートと、(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂との合計100質量部に対する(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂の割合が30質量部以上であると、より衝撃耐性に優れることが確認された。それに対し、比較例1~5については衝撃耐性が十分とはいえないことが確認された。
【0076】
〔メルトボリュームフローレート(MVR)〕
実施例については、いずれもメルトボリュームフローレート(MVR)に優れ、成形する際の作業性に優れることが確認された。例えば、射出成形において薄い成形体や細い成形体を成形するのを可能にし、ショートショット等の成形不良を抑えられる。中でも、(A1)ポリヒドロキシアルカノエートと、(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂との合計100質量部に対する(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂の割合が30質量部以上であると、MVRにより優れ、40質量部以上60質量部以下であると、MVRに特に優れることが確認された。それに対し、比較例1についてはMVRが不十分であり、成形する際に成形不良が生じ得ることが確認された。
【0077】
〔溶融粘度測定〕
実施例については、成形する際の粘度を抑えることができ、作業性に優れることが確認された。例えば、射出成形において薄い成形体や細い成形体を成形するのを可能にし、ショートショット等の成形不良を抑えられる。中でも、(A1)ポリヒドロキシアルカノエートと、(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂との合計100質量部に対する(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂の割合が高くなるにつれ、射出成形での高速せん断速度領域(概ね1000S-1以上)の溶融粘度が低下するため作業性に優れることが確認された(図2)。また、海洋生分解性樹脂組成物が(C)滑剤として水添植物油脂を含有する場合、せん断速度が大きいほど溶融粘度の明確な低下が見られ作業性が格段に向上することが確認された(図3)。それに対し、比較例1及び8については成形する際の粘度が高く、成形する際に成形不良が生じ得ることが確認された。
【0078】
〔ストランドペレット化の評価〕
実施例1~7について、いずれのサンプルにおいても、安定して連続的にペレット化できることが確認された。中でも、(A1)ポリヒドロキシアルカノエートと、(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂との合計100質量部に対する(A2)ポリブチレンサクシネート系樹脂の割合が20質量部以上であることで、高速で連続的にペレット化できることが確認された。それに対し、比較例1についてはペレット化する際に連続的にストランドが形成できず折れてしまい、ペレットの連続製造が難しいことが確認された。
【0079】
〔海洋生分解試験〕
培養28日後の試験材料(実施例1)は、平均36%、最大43%生分解されたことから十分な海洋生分解を示すことが確認された。

図1
図2
図3