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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】ハイブリッドロケット
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/72 20060101AFI20240807BHJP
   B64G 1/00 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
F02K9/72
B64G1/00 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018129265
(22)【出願日】2018-07-06
(65)【公開番号】P2020007960
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼AJCPP 2018配布資料 AJCPP2018-001、Asian Joint Conference on Propulsion and Power 配布日「平成30年03月14日」 配布場所「City Hotel Xiamen(中国福建省厦門市思明区虎因路16号)」 ▲2▼AJCPP 2018 AJCPP2018-017 Development of GAP-based propellant thrusters for small satellites 開催日「平成30年03月15日」 開催場所「City Hotel Xiamen(中国福建省厦門市思明区虎因路16号)」
(73)【特許権者】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】和田 豊
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宏
(72)【発明者】
【氏名】堀 恵一
【合議体】
【審判長】河端 賢
【審判官】青木 良憲
【審判官】山本 信平
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-288091(JP,A)
【文献】特開平8-93558(JP,A)
【文献】特開2003-89590(JP,A)
【文献】Yutaka Wada et al.,Combustion mechanism of tetra-ol glycidyl azide polymer,Science and tecnology of energetic materials:journal of the Japan Explosives Society,Vol.69, No.5,日本,2008年,p.143-148
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 9/72
B64G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体又は気体の酸化剤を収容するための酸化剤収容室と、
テトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む固体燃料が端面燃焼するように収容され、前記テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解により燃料ガスを発生させ、且つ前記酸化剤と前記燃料ガスを混合し燃焼させるための燃料ガス生成領域兼燃焼領域と、
前記固体燃料の外部に設けられ、前記酸化剤収容室と前記燃料ガス生成領域兼燃焼領域とを接続する酸化剤供給管と、を含む、ハイブリッドロケット。
【請求項2】
さらに前記燃料ガス生成領域兼燃焼領域内を減圧するための圧力調節手段を含む、請求項1に記載のハイブリッドロケット。
【請求項3】
前記圧力調節手段は、前記燃料ガス生成領域兼燃焼領域内への前記酸化剤の供給量を減ずるバルブである、請求項2に記載のハイブリッドロケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッドロケットに関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙輸送機用推力発生源及び人工衛星用スラスタ等の推進装置として、固体ロケット及び液体ロケットが知られている。固体ロケットは、固体燃料及び固体酸化剤を推進剤として使用する。燃料及び酸化剤が同一相であることから燃焼性に優れている。また、ロケットの構成が比較的単純である。一方で、固体ロケットに用いる燃料は所謂火薬であることから、貯蔵及び輸送時における取扱が煩雑である。そのため、固体燃料の貯蔵及び輸送においては十分な管理が必要とされる。
【0003】
液体ロケットは、液体燃料及び液体酸化剤を推進剤として使用する。液体燃料及び液体酸化剤を噴霧状態として混合し、燃焼させることにより推力が得られる。液体ロケットにおける推進剤は、固体ロケット同様、同一相であることから燃焼性に優れている。しかし、燃料及び酸化剤を安定して極低温状態に保つ必要がある。また、燃料と酸化剤が混ざり易いことから、貯蔵及び輸送時における取扱が煩雑である。また、ロケットの構成が固体ロケットと比較して複雑であり、推進剤の燃焼を制御することが難しい。
【0004】
そこで、ハイブリッドロケットが注目されている。ハイブリッドロケットは、一般的に固体の燃料と液体又は気体の酸化剤を推進剤として使用する。燃料と酸化剤の相が異なるため、容易に混合及び燃焼が生じず、固体ロケット及び液体ロケットより推進剤の管理が容易である。中でもポリマーを固体燃料として使用したハイブリッドロケットは、貯蔵及び輸送時の管理が容易である。例えば、特許文献1は、液体酸化剤収容室と、固体燃料燃焼室と、固体燃料より発生する燃料成分過剰ガスと液体酸化剤とを混合して燃焼させる混合燃焼室と、を有するハイブリッドロケットを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-19120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
宇宙輸送機用推力発生源又は人工衛星用スラスタとして上記ハイブリッドロケットを利用する場合、宇宙輸送機又は人工衛星としての装置全体の軽量化及びエネルギー損失の改善の観点から、ハイブリッドロケットのさらなる小型化及び軽量化が求められている。
【0007】
特許文献1に開示されるポリマーを固体燃料として用いたハイブリッドロケットは、推進剤の混合が容易に生じないことから管理が容易である一方、固体ロケット及び液体ロケットと比較して、固体燃料の単位質量に対する燃料ガスの発生量が少ない。燃料ガスの発生量を増大するためには、固体燃料の表面積を大きくする必要があり、固体燃料燃焼室の小型化は困難である。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、更なる小型化及び軽量化が達成されたハイブリッドロケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、固体燃料として自己発熱分解性を有するテトラ-オールグリシジルアジドポリマー(tetra-ol Glycidyl Azide Polymer,tetra-ol GAPともいう)を含む燃料を用いることにより、ハイブリッドロケットの小型化を達成できることを見出した。
【0010】
本発明は以下の態様を有する。
[1]液体又は気体の酸化剤を収容するための酸化剤収容室と、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む固体燃料を収容し、前記テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解により燃料ガスを発生させるための燃料ガス生成室と、前記酸化剤と前記燃料ガスを混合し燃焼させるための燃焼室と、を含む、ハイブリッドロケット。
[2]さらに前記燃料ガス生成室内を減圧するための圧力調節手段を含む、[1]に記載のハイブリッドロケット。
[3]前記圧力調節手段は、前記燃焼室内への前記酸化剤の供給量を減ずるバルブである、[2]に記載のハイブリッドロケット。
[4]前記圧力調節手段は、前記酸化剤と前記燃料ガスを前記燃焼室から排出するためのバルブである、[2]に記載のハイブリッドロケット。
[5]さらに、前記酸化剤を加圧して前記燃焼室に供給することにより、前記燃焼室内の圧力を700kPa以上に維持するための加圧装置を含む、請求項[1]~[4]のいずれか1つに記載のハイブリッドロケット。
[6]前記加圧装置が、前記燃料ガスの一部を前記燃料ガス生成室から取り出すための燃料ガス供給管と、前記燃料ガス供給管と接続し、前記燃料ガスにより前記酸化剤収容室を加圧する加圧部とを含む、[5]に記載のハイブリッドロケット。
[7]前記燃料ガス生成室と前記燃焼室とが一体に形成されている、[1]~[3]及び[5]のいずれか1つに記載のハイブリッドロケット。
【発明の効果】
【0011】
本発明のハイブリッドロケットによれば、更なる小型化及び軽量化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一態様におけるハイブリッドロケットの模式図である。
図2】本発明の他の態様におけるハイブリッドロケットの模式図である。
図3】実施例2~5における燃焼器内の圧力と燃焼時間の関係を表すグラフである。
図4】実施例6における燃料ガス生成室兼燃焼室内の圧力と燃焼時間の関係を表すグラフである。
図5】実施例6における燃焼効率と燃料ガス生成室兼燃焼室内の圧力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図を参照しながら、本発明の一態様におけるハイブリッドロケットについて説明する。以下の複数の実施形態では、好ましい例や条件を共有してもよい。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、数、量、位置及び形状等について変更、省略及び置換等してもよい。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてあることがある。
【0014】
本発明の一態様は、液体又は気体の酸化剤を収容するための酸化剤収容室と、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む固体燃料を収容し、前記テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解により燃料ガスを発生させるための燃料ガス生成室と、前記酸化剤と前記燃料ガスを混合し燃焼させるための燃焼室と、を含む、ハイブリッドロケットである。
【0015】
(第1実施形態)
以下に本実施形態のハイブリッドロケットについて図1を参照して説明する。図1は、本実施形態におけるハイブリッドロケットの模式図である。ハイブリッドロケット1は、機体2と、燃料ガス生成室3と、燃料であるテトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む固体燃料4と、液体又は気体の酸化剤6が収容されている酸化剤収容室5と、酸化剤供給管7と、バルブ8と、燃料ガス生成領域兼燃焼領域9と、ノズル10と、点火装置11と、酸化剤収容室加圧装置12とを有する。
【0016】
機体2の内部には、燃料ガス生成室3が形成されている。燃料ガス生成室3は、固体燃料4を収納し、燃料ガス生成領域兼燃焼領域9を有している。固体燃料4の端面と、燃料ガス生成室3の内壁に囲まれた空間が燃料ガス生成領域兼燃焼領域9である。固体燃料4が自己発熱分解することによって固体燃料4の体積が減少し、燃料ガス生成領域兼燃焼領域9の容積は拡大する。さらに本実施形態においては、燃料ガス生成領域兼燃焼領域9内に酸化剤6が供給され、燃料ガスと酸化剤6との混合及び燃焼が生じる。すなわち、燃料ガスが発生する空間と、酸化剤6と燃料ガスを混合し燃焼させる空間が共通している。
【0017】
機体2には、固体燃料4を着火するための点火装置11が備えられている。燃料ガス生成領域兼燃焼領域9は、ノズル10と接続している。燃料ガス生成領域兼燃焼領域9において、燃料ガス及び酸化剤6が混合及び燃焼することにより生じた高温及び高圧のガスをノズル10から噴出することで、ハイブリッドロケットの推力を得ることができる。
【0018】
酸化剤収容室5は、酸化剤供給管7を介して燃料ガス生成領域兼燃焼領域9と接続している。酸化剤供給管7には、酸化剤収容室5からの酸化剤6の供給を制御するためのバルブ8が設けられている。酸化剤収容室5には、酸化剤収容室5内を加圧するための酸化剤収容室加圧装置12を有している。酸化剤収容室加圧装置12により酸化剤収容室5内を加圧することにより、酸化剤6の供給量を調整することができる。
【0019】
図1においては、酸化剤収容室5は、酸化剤収容室5内を加圧するための酸化剤収容室加圧装置12を有しているが、本実施形態はこれに限定されない。酸化剤6として高い蒸気圧を有している液体酸化剤(例えば亜酸化窒素(NO)等)を用いる場合には、酸化剤収容室加圧装置12を設けなくてもよい。
【0020】
次に、各構成について詳細に説明する。
機体2は、少なくとも外壁、中間層及び内壁がこの順に積層されている構成である。機体2の外壁は、機械的強度を保ち、かつ燃料ガス生成領域兼燃焼領域9からの圧力に耐えるため、アルミニウム等の金属により形成される。中間層は、燃焼火炎からの断熱が可能な燃料カートリッジとする目的でガラス繊維強化プラスチック(Glrass Fiber Reinfored Plastics,GFRPともいう)、フェノール樹脂等又はその複合材料等により形成されている。内壁は、耐熱性を有する高分子化合物で形成されており、例えばエチレンプロピレンジエンゴム(Ethylene Propylene Diene Rubber,EPDMゴムともいう)等の高分子材料が挙げられる。内壁の材料としてエチレンプロピレンジエンゴムを用いた場合、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの末端水酸基が、エチレンプロピレンジエンゴム上に塗布されたプライマと結合することにより、固体燃料4と内壁とを十分に接着することができる。プライマとしてはイソシアネート基を有するプライマ等が挙げられる。
【0021】
燃料ガス生成室3は、機体2の内壁により囲まれた空間であり、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む固体燃料4を収容している。固体燃料4は、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーと、硬化剤とを含んでいる。テトラ-オールグリシジルアジドポリマーは、250℃以上、700kPa以上(7気圧以上)の条件下で、自己発熱分解を生じる。
【0022】
テトラ-オールグリシジルアジドポリマーは、化学式(1)により示されるプレポリマーをウレタン重合させることにより得られる。
【0023】
【化1】
【0024】
テトラ-オールグリシジルアジドポリマーは、水酸基を4つ有していることから、ジ-オールグリシジルアジドポリマー及びトリ-オールグリシジルアジドポリマーと比較して、より3次元的にウレタン結合が形成されやすい。そのため、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの合成において、ジ-オールグリシジルアジドポリマー及びトリ-オールグリシジルアジドポリマーの合成時に成形性を向上させるために用いられる架橋剤が不要である。さらに、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの合成時に使用される硬化剤の量は、グリシジルアジドポリマー及びトリ-オールグリシジルアジドポリマーの場合と比較して少なくてよい。つまり、ジ-オールグリシジルアジドポリマー及びトリ-オールグリシジルアジドポリマーを含む固体燃料と比較して、固体燃料4に含まれるテトラ-オールグリシジルアジドポリマーの割合が大きい。具体的には、固体燃料4に含まれるテトラ-オールグリシジルアジドポリマーの割合は、固体燃料4の総質量に対し、85~95質量%である。
【0025】
固体燃料4に含まれる硬化剤としては、ヘキサメチレンジイソシアナート(Hexamethilene Diisocyanate,HMDIともいう)、イソホロンジイソシアネート(Isophorone Diisocyanate,IPDIともいう)等が挙げられる。固体燃料4に含まれる硬化剤の割合は、固体燃料4の総質量に対し、5~15質量%であること好ましく、9~12質量%がより好ましい。
【0026】
固体燃料4は、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの合成時に使用する触媒を含んでいてもよい。触媒としては、ジラウリン酸ジブチルスズ(Dibutyltin Dilaurate,DBTDLともいう)等が挙げられる。固体燃料4に含まれる触媒の割合は、固体燃料4の総質量に対し、ごく微量程度である。
【0027】
固体燃料4に含まれるテトラ-オールグリシジルアジドポリマーの割合が85~95質量%であるため、固体燃料4の単位質量あたりの、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーを自己発熱分解させることにより生じる燃料ガスの発生量が増大する。つまり燃料ガス生成室3及び固体燃料4の小型化が可能である。また、固体燃料4の燃焼後に発生する残渣量が少ない。
【0028】
テトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む固体燃料4は、固体燃料4の燃焼時に生じ得る燃料ガス生成室3の膨張に追従できる程度の機械的物性を有することが好ましい。
【0029】
機械的物性を表す一つの指標として、硬度が挙げられる。固体燃料4は、その大きさが直径60mm、長さ10mm以上80mm以下である場合、タイプAデュロメータ硬さ計(TECLOCK社製、GS-706N Type A)を用い、JIS K 6253-3に準じて測定される値が30~40の範囲であることが好ましい。固体燃料4が直径60mm、長さ10~80mmである場合の硬度が30~40であると、固体燃料としての形状を保持しつつ、燃料ガス生成室3の膨張に追従することができる。
【0030】
特にハイブリッドロケット1の大型化を図る場合、ハイブリッドロケット全体としての軽量化が要求されるため、機体2の壁厚を薄くする必要がある。機体2の壁厚が薄いと、固体燃料4の燃焼時に燃料ガス生成室3が膨張しやすくなる。固体燃料4が適切な機械的物性と優れた接着性を有すると、燃料ガス生成室3の膨張に固体燃料4が追従することができ、燃料ガス生成室3と固体燃料4との密着を維持することができるため好ましい。
【0031】
さらに、固体燃料4には保管時の重力による変形や、ハイブリッドロケット飛翔時の加速度による変形も起こり得ることなどから、固体燃料4の大きさに応じた機械的物性が求められる。本実施形態のテトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む固体燃料4は、上述のように架橋剤を含むことなく適度な硬度を有する。そのため、硬化剤の量をわずかに調整することで、固体燃料としての性能を落とすことなく、固体燃料の機械的物性を固体燃料の充填される装置の大きさに適した値に調節することが可能である。また本実施形態のテトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む固体燃料4は水酸基を有するため、ウレタン結合を用いて、燃料ガス生成室3の内壁との強力な接着を実現することができる。
【0032】
なお、固体燃料の硬度は、以下の方法で測定することができる。固体燃料の測定サンプルのサイズを縦2cm、横10cm、厚さ1cmとし、タイプAデュロメータ硬さ計を用いて測定を行う。まず、タイプAデュロメータ硬さ計の圧子を、衝撃を伴うことなくできるだけ速やかに固体燃料表面に押し付け、加圧基準面と測定サンプル表面をよく密着させる。3秒以内に指示装置の指針の最大指示値を読み取り、測定サンプルの硬度値とする。測定は測定サンプルの任意の5箇所について行い、その平均値を固体燃料の硬度とする。
【0033】
固体燃料4を燃料ガス生成室3に充填する方法としては、例えば、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーのプレポリマーを50~60℃で加熱しながら脱泡し、硬化剤を添加することにより混合する。その後、触媒を滴下し更に50~60℃で混合し、硬化する前に燃料ガス生成室3に充填し、燃料ガス生成室3内で硬化させる。このように固体燃料を燃料ガス生成室3に充填することで、燃料ガス生成室3の内壁の材料としてエチレンプロピレンジエンゴムを用いた場合、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの末端水酸基がエチレンプロピレンジエンゴム上に塗布されたプライマと結合することにより、固体燃料4と内壁とを十分に接着することができる。
【0034】
酸化剤収容室5は、耐腐食性を有する材料により形成されており、例えばアルミニウムやステンレス等が挙げられる。
【0035】
酸化剤収容室加圧装置12は、バルブ8の開栓後、酸化剤収容室5内を加圧することにより、酸化剤6を酸化剤供給管7を介して燃料ガス生成領域兼燃焼領域9に供給し、燃料ガス生成領域兼燃焼領域9内を加圧する。酸化剤収容室加圧装置12は、例えば可動式の隔壁を有するピストン、アキュムレータ等が挙げられる。
【0036】
酸化剤収容室5に収容される酸化剤6は、液体酸化剤でも気体酸化剤でもよいが、収容体積が小さいことから液体酸化剤であることが好ましい。液体酸化剤としては、亜酸化窒素、液体酸素、過酸化水素、硝酸ヒドロキシルアミン水溶液等が挙げられる。気体酸化剤としては、酸素等が挙げられる。
【0037】
酸化剤供給管7は、酸化剤収容室5と燃料ガス生成領域兼燃焼領域9とを接続している。酸化剤供給管7は酸化剤収容室5の材料として列挙されている耐腐食性を有する材料により形成されている。バルブ8は、燃料ガス生成室3の圧力調節手段であり、酸化剤供給管7を開閉し、酸化剤6の供給を制御する。
【0038】
燃料ガス生成領域兼燃焼領域9は、上述のように燃料を収容する燃料ガス生成室3と一体に形成されている。燃料ガス生成領域兼燃焼領域9は、小径の孔20を通じてノズル10と接続している。
【0039】
ノズル10は、ラバール・ノズル等が挙げられるが、それ以外の形状であってもよい。ノズル10は、燃料ガスと酸化剤6との燃焼により生じたガスが排出されるため、2000℃以上となる。そのため、ノズル10は、グラファイト、カーボン複合材等の耐熱材料により構成される。
【0040】
点火装置11は、燃料ガス生成領域兼燃焼領域9内の圧力及び温度を制御することにより、固体燃料4を着火する。本実施形態における固体燃料4に含まれるテトラ-オールグリシジルアジドポリマーは、250℃以上、圧力を700kPa以上とすることにより着火する。よって、点火装置11は、燃料ガス生成領域兼燃焼領域9内を250℃以上、圧力を700kPa以上とする機構を有する。点火装置の構成については、特に限定されず、例えばアルミレスの固体推進薬を利用した点火装置等を使用することができる。
【0041】
点火装置11は、燃焼停止した固体燃料4を再着火できる機構を有する。具体的には、一度目の燃焼時には点火機構は作動せず、燃料ガス生成領域兼燃焼領域9内を、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの着火条件である250℃以上、700kPa以上に加圧及び昇温する構成により、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーを着火する。燃焼停止した固体燃料4を再着火する場合には、点火機構を用いて点火する。なお、加圧及び昇温する構成は特に限定されないが、例えばガストーチ等を使用することができる。
【0042】
次に、本実施形態におけるハイブリッドロケット1の推進システムについて説明する。ハイブリッドロケット1は、まず点火装置11により燃料ガス生成領域兼燃焼領域9内の温度を250℃以上、圧力を700kPa以上にすることにより、固体燃料4に点火する。着火した固体燃料4が燃焼し、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解により燃料ガスが燃料ガス生成領域兼燃焼領域9内に発生する。
【0043】
その後、酸化剤収容室加圧装置12により酸化剤収容室5内が加圧され、酸化剤収容室5から酸化剤供給管7を経て酸化剤6が燃料ガス生成領域兼燃焼領域9に供給される。酸化剤収容室5から酸化剤6が供給され続けることにより、燃料ガス生成領域兼燃焼領域9内の圧力は700kPa以上に維持されるため、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解が継続する。燃料ガス生成領域兼燃焼領域9において燃料ガスと酸化剤6との混合及び燃焼が起こり、生じた高温及び高圧のガスをノズル10から噴出することにより、ハイブリッドロケット1の推進力を得ることができる。
【0044】
ハイブリッドロケット1の推進力を停止するには、酸化剤収容室加圧装置12の動作を停止させ、バルブ8を閉じることにより、酸化剤6の燃料ガス生成領域兼燃焼領域9への供給を減ずる又は停止することで行うことができる。その結果、燃料ガス生成領域兼燃焼領域9内の圧力は700kPa以下まで減圧され、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解が停止し、燃料ガスと酸化剤6との混合及び燃焼が停止する。
【0045】
なお、酸化剤6として高い蒸気圧を有している液体酸化剤を用いる場合には、バルブ8を閉じることにより、酸化剤6の燃料ガス生成領域兼燃焼領域9への供給を減ずる又は停止することができる。
【0046】
ハイブリッドロケット1の推進力を再度得る場合には、以下の操作を行う。まず、点火装置11により、再度燃料ガス生成領域兼燃焼領域9内の温度を250℃以上、圧力を700kPa以上とし、固体燃料4に再着火する。以降の工程は上述のハイブリッドロケット1の推進力を得るための操作と同じである。
【0047】
本実施形態におけるハイブリッドロケット1は、固体燃料4の単位時間あたりの燃料ガスの発生量が多いため、固体燃料4の表面積、言い換えれば固体燃料4の燃焼表面積を増大させることなく、十分な量の燃料ガスを発生させることができる。つまり、燃料充填率を向上させることができる。これにより、従来のポリマーを用いた固体燃料と比較して、固体燃料4の体積を小さくすることが可能である。
【0048】
固体燃料4の単位質量あたりの燃料ガスの発生量が多いため、本実施形態のように燃料ガス生成領域と燃焼領域とを一体に形成することができる。つまり、燃料ガス生成室3の固体燃料4に含まれるテトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解により燃料ガスが生じる空間と、酸化剤6と燃料ガスとが混合し燃焼する空間とが共通している。そのため、ハイブリッドロケット1の更なる小型化が可能である。
【0049】
固体燃料4の単位質量あたりの燃料ガスの発生量が多いため、固体燃料4を端面燃焼させることにより、十分な量の燃料ガスを発生させることが可能である。端面燃焼とは、固体燃料4における燃料ガス生成領域兼燃焼領域9に曝された面のみを燃焼させることをいう。固体燃料4を端面燃焼させることにより、燃料ガスの経時的発生量を概略一定に保つことができる。すなわち、燃料ガスと酸化剤6との混合及び燃焼により生じる高温及び高圧のガスの出力が安定するため、ハイブリッドロケット1の推進力を一定に維持することができる。
【0050】
固体燃料4は、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む固体燃料4であることにより、架橋剤を含んでいなくても十分な硬度、すなわち構造的強度を有している。さらに、燃料ガス生成室3の内壁と固体燃料4との接着力が高い。これにより、固体燃料4を燃焼させている間及びハイブリッドロケット1がその推進力を受けている間に、固体燃料4が燃料ガス生成室3から分離せず、固体燃料4における燃料ガスが発生する表面積を一定に保つことができる。これにより、推力を一定に保つことができる。燃料ガス生成室の内壁と固体燃料4との接着力が弱いと、固体燃料を燃焼させている間及びハイブリッドロケットがその推進力を受けている間に、燃料収容部の内壁と固体燃料の界面に隙間が生じ、燃焼面積が増大することにより燃料ガス発生量が一気に増加することがある。
【0051】
本実施形態のハイブリッドロケット1を宇宙探査機の推進装置や人工衛星用スラスタとして用いる利点は、以下のように説明することができる。例えば小型の人工衛星の場合、現状では主衛星である大型の衛星を打ち上げるロケットと共に打ち上げられることが多い。そのため、主衛星と同じ軌道を旋回することになるが、目的とする他の軌道に移るためにはスラスタとなるロケットを設ける必要がある。限られた空間にロケットを配するためには、ロケットは小型であることが求められる。固体ロケットを用いる場合、燃料が火薬であるため燃料の安定性が低く、その取扱いが煩雑であることから、主となる衛星に影響を及ぼす可能性があり、共に打ち上げられることが避けられる場合がある。液体ロケットを用いる場合、燃料及び酸化剤の漏洩が生じる場合があること、及び燃焼機構が複雑であることから小型化が困難である。
【0052】
一方で、本実施形態のハイブリッドロケットは、固体燃料としてテトラ-オールグリシジルアジドポリマーを用いていることから取扱い易く、燃料充填密度が高いことから小型である。そのため、大型の衛星と共に打ち上げられる場合においても、小型の人工衛星にスラスタとして本実施形態のハイブリッドロケットを用いることが可能である。
【0053】
また、宇宙輸送機や人工衛星の軌道を変更する等の目的で、ロケットの推進力を一旦停止させ、再度燃料及び酸化剤を燃焼させることにより推進力を得ることが求められている。
【0054】
一般的な固体燃料を用いたロケットでは、一度着火した固体燃料は焼尽するまでその燃焼を停止することができない。ロケットの推進力を一旦停止させるためには独立した複数の固体燃料収容室を設ける必要がある。一方で、上述のようにロケットには小型化及び軽量化が求められており、複数の固体燃料収容室を設けることは望ましくない。
【0055】
本実施形態のハイブリッドロケット1は、酸化剤収容室加圧装置12の停止及びバルブ8の制御のみという比較的単純な構成により固体燃料4の燃焼停止が可能である。さらに、酸化剤6として高い蒸気圧を有している液体酸化剤を用いる場合には、バルブ8の制御のみという比較的単純な構成により固体燃料4の燃焼停止が可能である。燃焼停止及び再燃焼が可能であることにより、宇宙輸送機や人工衛星の軌道の変更を制御することができる。
【0056】
さらに、本実施形態のハイブリッドロケットは、燃焼停止及び再燃焼が繰返し可能であることから、1つの燃料及び1つの燃料ガス生成室から燃料ガスを発生させ、酸化剤と燃料ガスとを燃焼させることにより、同程度の推力を同じ場所から繰返し噴出することができる。そのため、複数の場所に複数の燃料及び燃料ガス生成室を設ける場合と比較して、目的の軌道に到達するための進路制御が容易となる。
【0057】
(第2実施形態)
以下に本実施形態のハイブリッドロケットについて図2を参照して説明する。なお、本実施形態において第1実施形態と共通の構成については、その説明を省略する。
【0058】
図2は、第2の実施形態のハイブリッドロケットの模式図である。本実施形態のハイブリッドロケット1’は、機体2と、燃料ガス生成室3と、燃料であるテトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む固体燃料4、酸化剤供給管7と、ノズル10と、点火装置11と、燃料ガス生成領域13と、燃焼室14と、第1燃料ガス供給管15と、第2燃料ガス供給管16と、液体又は気体の酸化剤6が収容されている酸化剤収容室17と、加圧部18と、燃焼停止用バルブ19とを有する。
【0059】
機体2の内部には、燃料ガス生成室3及び燃焼室14が形成されている。燃料ガス生成室3は、固体燃料4を収納し、燃料ガス生成領域13を有している。固体燃料4の端面と、燃料ガス生成室3の内壁に囲まれた空間が燃料ガス生成領域13である。固体燃料4が自己発熱分解することによって固体燃料4の体積が減少し、燃料ガス生成領域13の容積は拡大する。燃料ガス生成室3は、燃料ガス生成室3内を減圧させるための圧力調節手段である燃焼停止用バルブ19を有する。燃焼室14は、第1燃料ガス供給管15を介して燃料ガス生成領域13と接続されている。燃焼室14に燃料ガス及び酸化剤6が供給され、燃料ガスと酸化剤6との混合及び燃焼が生じる。
【0060】
機体2には、固体燃料4を着火するための点火装置11が備えられている。燃焼室14は、ノズル10と接続している。燃焼室14において燃料ガス及び酸化剤6が混合及び燃焼することにより生じた高温及び高圧のガスをノズル10から噴出することで、ハイブリッドロケット1’の推力を得ることができる。
【0061】
酸化剤収容室17は、酸化剤供給管7を介して燃焼室14と接続している。酸化剤収容室17は、酸化剤収容室17内を加圧するための酸化剤収容室加圧装置が備えられている。酸化剤収容室加圧装置は、燃料ガス生成室3、第2燃料ガス供給管16及び加圧部18から構成されている。
【0062】
次に、各構成について詳細に説明する。
機体2の構成は、第1実施形態に記載の機体と同じである。
燃料ガス生成室3は、燃料ガス生成領域13と一体に形成されている点以外においては、第1実施形態に記載の燃料ガス生成室3と同じである。
固体燃料4は、第1実施形態に記載の固体燃料と同一である。
【0063】
酸化剤収容室17は、酸化剤収容室加圧装置が備えられている点以外においては、第1実施形態に記載の酸化剤収容室5と同一である。
【0064】
酸化剤収容室加圧装置は、燃料ガス生成室3で発生した燃焼ガスの一部が第2燃料ガス供給管16を通じることで加圧部18を動作させることにより、酸化剤収容室17内を加圧する機構を有する。加圧部18により酸化剤収容室17内を加圧することにより、酸化剤6を酸化剤供給管7を介して燃焼室14に供給し、燃焼室14内を加圧する。加圧部18として、第1実施形態と同様に、例えば可動式の隔壁を有するピストン、アキュムレータ等が挙げられる。
【0065】
本実施形態の酸化剤収容室加圧装置を設けることにより、別途酸化剤収容室加圧手段のための駆動手段を設ける必要がないため、ハイブリッドロケット1’を小型化することができる。
【0066】
酸化剤6は、第1実施形態に記載の酸化剤と同じ物を用いることができる。
酸化剤供給管7は、バルブ8が設けられていない点以外は、第1の実施形態に記載の酸化剤供給管と同じである。
【0067】
燃料ガス生成領域13は、第1燃料ガス供給管15を介して燃焼室14と接続している。燃料ガス生成領域13において、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解により生じた燃料ガスの一部は、第1燃料ガス供給管15を通じて燃焼室14に供給される。これと同時に、燃料ガスの他の一部は、第2燃料ガス供給管16を通じて加圧部18を動作させる。これにより、酸化剤6が燃焼室14に供給される。つまり、燃料ガス生成領域13においてテトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解が生じることをトリガーとして、燃焼室14における燃料ガス及び酸化剤6の混合及び燃焼が開始する。
【0068】
燃料ガス生成室3には、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解を停止させるための燃焼停止用バルブ19が設けられている。燃焼停止用バルブ19は、燃料ガス生成室3の圧力調節手段である。燃焼停止用バルブ19を開放することによって燃料ガス生成室3内の燃料ガスを一気に排出し、燃料ガス生成室3内が減圧され、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解を停止させることができる。
【0069】
燃焼室14は、小径の孔20を通じてノズル10と接続している。ノズル10は、第1実施形態と同じノズルを用いることができる。
点火装置11は、第1実施形態と同じ点火装置を用いることができる。
【0070】
次に、本実施形態におけるハイブリッドロケット1’の推進システムについて説明する。ハイブリッドロケット1’は、まず点火装置11を用いて燃料ガス生成領域13内の温度を250℃以上、圧力を700kPa以上にすることにより、固体燃料4に点火する。着火した固体燃料4が燃焼し、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解により燃料ガスが燃料ガス生成領域13内に発生する。
【0071】
その結果、燃料ガスの一部は、第1燃料ガス供給管15を通じて燃焼室14に供給される。これと同時に、燃料ガスの他の一部は、第2燃料ガス供給管16を通じて加圧部18を動作させる。これにより、酸化剤6が燃焼室14に供給される。つまり、燃料ガス生成領域13においてテトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解が生じることをトリガーとして、燃焼室14における燃料ガス及び酸化剤6の混合及び燃焼が開始する。燃焼室14において燃料ガス及び酸化剤6が混合及び燃焼することにより生じた高温及び高圧のガスをノズル10から噴出することで、ハイブリッドロケット1’の推進力を得ることができる。
【0072】
ハイブリッドロケット1’の推進力を停止するには、燃焼停止用バルブ19を開放し、燃料ガス生成室3内の燃料ガスを一気に排出することにより行うことができる。その結果、燃料ガス生成領域13内の圧力は700kPa以下となり、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解が停止し、燃料ガスの燃焼室14への供給が停止する。これと共に、酸化剤収容室加圧装置の動作も停止するため、酸化剤6の燃焼室14への供給も停止し、燃料ガス及び酸化剤6の混合及び燃焼が停止する。
【0073】
ハイブリッドロケット1’の推進力を再度得る場合には、以下の操作を行う。まず、点火装置11により、再度燃料ガス生成領域兼燃焼領域9内の温度を250℃以上、圧力を700kPa以上とし、固体燃料4に再着火する。以降の工程は上述のハイブリッドロケット1’の推進力を得るための操作と同じである。
【0074】
本実施形態のハイブリッドロケット1’において、テトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む固体燃料を用いることによる効果は、第1の実施形態に記載される効果と同じである。
【0075】
本実施形態におけるハイブリッドロケット1’と、第1実施形態のハイブリッドロケット1との相違点の1つは、酸化剤収容室加圧装置の機構である。酸化剤収容室加圧装置により、燃料ガス生成領域13においてテトラ-オールグリシジルアジドポリマーの自己発熱分解が生じることをトリガーとして、燃焼室14における燃料ガス及び酸化剤6の混合及び燃焼を開始することができる。そのため、別途酸化剤収容室加圧手段の駆動手段を設ける必要がなく、ハイブリッドロケット1’の小型化を実現することができる。
【0076】
本実施形態におけるハイブリッドロケット1’と、第1実施形態のハイブリッドロケット1との他の相違点は、燃料ガス生成室3に設けられている燃焼停止用バルブ19である。燃焼停止用バルブ19の制御のみという比較的単純な構成により固体燃料4の燃焼停止が可能である。燃焼停止及び再燃焼が可能であることにより、宇宙輸送機や人工衛星の軌道の変更を制御することができる。
【実施例
【0077】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0078】
(評価方法)
<固体燃料の硬度測定>
固体燃料の硬度は、タイプAデュロメータ硬さ計(TECLOCK社製、GS-706N Type A)を用いてJIS K 6253-3に準じて測定した。固体燃料の測定サンプルのサイズは縦2cm、横10cm、厚さ1cmとした。タイプAデュロメータ硬さ計の圧子を、衝撃を伴うことなくできるだけ速やかに測定サンプル表面に押し付け、加圧基準面と測定サンプル表面をよく密着させた。3秒以内に指示装置の指針の最大指示値を読み取り、測定サンプルの硬度値とした。測定は測定サンプルの任意の5箇所について行い、その平均値を算出し、固体燃料の硬度とした。
【0079】
(実施例1)
<テトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む固体燃料の作製>
テトラ-オールグリシジルアジドポリマーのプレポリマー90質量部を50℃で加熱しながら脱泡し、その後硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアナート9.1質量部と混合した。触媒として微量のジラウリン酸ジブチルスズを滴下し、混合物を硬化させ固体燃料を得た。
【0080】
実施例1の固体燃料の硬度を上述の方法により測定した。固体燃料の測定サンプルの任意の5箇所について測定を行った結果、5箇所の硬度はそれぞれ、38、38、36、38及び37であり、その平均値は37.4であった。
【0081】
以上より、実施例1の固体燃料は、架橋剤を含まずとも十分な硬度を有していた。その結果、固体燃料に占めるテトラ-オールグリシジルアジドポリマーの含有量を90質量%に高めることができることが分かった。
【0082】
(実施例2)
<燃焼器における固体燃料の燃焼実験>
直径60mmの燃焼器内に、実施例1と同じ方法により長さが10mmの固体燃料を作成及び充填した。燃焼器を封止し、アルミレスの固体推進薬を用いた点火装置を用い、点火装置の圧力を約1MPa、理論断熱火炎温度を2000℃に設定して固体燃料を点火し、燃焼器内の燃料ガス生成室において、固体燃料を端面燃焼させた。燃焼時の燃料ガス生成室の設計圧力は、5MPaとした。
【0083】
(実施例3~5)
直径60mmの燃焼器に、固体燃料の長さが30mm、50mm、及び80mmとなるよう充填した以外は、実施例2と同じ操作を行い、それぞれを実施例3~5とした。
燃焼器内の圧力(以下燃焼圧力ともいう)と燃焼時間の関係を表すグラフを図3及び表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
図3に示すように、実施例3~5のいずれにおいても、良好な点火特性と安定した燃焼時圧力曲線が得られた。実施例3~5のいずれにおいても、固体燃料長の伸長に伴う燃焼時間の増加が見られた。また表1に示すように、実施例1~4の平均燃焼圧力Pc, aveは、設計圧力である5MPaを下回った。下記式(1)により得られた燃焼速度の温度係数は、0.05K-1であった。πは、平衡圧における温度係数と定義される。
σ=(1-n)π ・・・(1)
【0086】
(実施例6)
<ハイブリッドロケットの燃焼試験>
図1に示すハイブリッドロケットのうち、ノズルを除去した試験用ハイブリッドロケットを以下の方法により作製した。内径60mm、長さ80mmのステンレス製の機体内に、実施例1と同じ方法により長さが80mmの固体燃料を作製及び充填した。機体内の燃料が充填されている部分を燃料収容部、燃料の端面と収容器内壁に囲まれる空間を燃料ガス生成室兼燃焼室とした。アルミレスの固体推進薬を用いた点火装置を用い、点火装置の圧力を約1MPa、理論断熱火炎温度を2000℃に設定して固体燃料を着火した。固体燃料の自己発熱分解により燃料ガスが発生した後、気体酸素を燃料ガス生成室兼燃焼室に導入することにより、燃料ガス生成室兼燃焼室内の圧力が1MPaとなるよう制御した。
【0087】
固体燃料燃焼時の燃料ガス生成室兼燃焼室内の圧力と燃焼時間の結果を図4に示す。図4中、Pは燃料ガス生成室兼燃焼室内の圧力を、Poxは酸化剤収容室の圧力を示す。図4に示すように良好な着火特性と安定した燃焼時圧力曲線が得られた。図5は、本実施例における燃焼効率Cと燃料ガス生成室兼燃焼室内の圧力との関係を示すグラフである。図5中、○は固体燃料のみでの燃焼効率を示し、●は固体燃料及び気体酸素との混合状態での燃焼効率を示す。
【0088】
燃焼効率Cは、下記式(2)により算出される。
(燃焼効率)=C(実験値)/C(理論値)・・・(2)
【0089】
(理論値)はNASAのCEAプログラム(熱化学平衡計算プログラム)を用いることで得られる。C(実験値)は、下記式(3)により得られる。
(実験値)=A(ノズル断面積)×P(燃焼圧力)/m(ノズルから出ていく単位時間当たりの燃焼ガス質量)・・・(3)
【0090】
式(3)中、Pは、燃焼開始から1秒後~5秒後における燃焼圧力の平均値とする。mは、固体燃料の燃焼前後の質量差を燃焼時間で除算した値と、酸素の単位時間当たりの供給量との和である。
固体燃料及び気体酸素との混合状態での燃焼効率Cは、93%であった。
【符号の説明】
【0091】
1,1’…ハイブリッドロケット、2…機体、3…燃料ガス生成室、4…固体燃料、5,17…酸化剤収容室、6…酸化剤、7…酸化剤供給管、8…バルブ、9…燃料ガス生成領域兼燃焼領域、10…ノズル、11…点火装置、12…酸化剤収容室加圧装置、13…燃料ガス生成領域、14…燃焼室、15…第1燃料ガス供給管、16…第2燃料ガス供給管、18…加圧部、19…燃焼停止用バルブ、20…孔。
図1
図2
図3
図4
図5