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7534745発作予測プログラム、記憶媒体、発作予測装置および発作予測方法
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  • -発作予測プログラム、記憶媒体、発作予測装置および発作予測方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】発作予測プログラム、記憶媒体、発作予測装置および発作予測方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/00 20180101AFI20240807BHJP
【FI】
G16H50/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2024081762
(22)【出願日】2024-05-20
【審査請求日】2024-06-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520449091
【氏名又は名称】株式会社eMind
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デービット・エー.・リーブレック
(72)【発明者】
【氏名】古村 智
(72)【発明者】
【氏名】中里 信和
(72)【発明者】
【氏名】神 一敬
(72)【発明者】
【氏名】浮城 一司
(72)【発明者】
【氏名】小川 舞美
(72)【発明者】
【氏名】藤川 真由
【審査官】鹿谷 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-098175(JP,A)
【文献】国際公開第2019/221252(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0299377(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、取得部と、予測部と、として機能させる発作予測プログラムであって、
前記取得部は、対象者の行動及びその時期を示す行動情報と、前記対象者の主観に基づき入力される前記対象者が感じた感情及びその時期を示す感情情報と、前記対象者において発生した発作及びその時期を示す発作情報と、のうち少なくとも何れかを含むログ情報を取得し、
前記予測部は、機械学習により生成された学習済みモデルに前記ログ情報を入力し、前記ログ情報の示す時期よりも後の指定時間又は指定期間内に前記対象者に発作が起きるか否かの推定結果を前記学習済みモデルの出力として取得することで、前記対象者の脳活動又は精神活動に伴う発作を予測し、
前記学習済みモデルは、被験者の前記ログ情報と、前記ログ情報の示す時期よりも後の指定時間又は指定期間内に当該被験者に発作が起きたか否かを示す情報と、を含む学習データにより生成される、発作予測プログラム。
【請求項2】
前記取得部は、前記行動情報と、前記感情情報と、前記発作情報と、のうち少なくとも2つを前記ログ情報として取得し、
前記予測部は、前記取得部により取得された複数種類のログ情報を前記学習済みモデルに入力し前記学習済みモデルの出力に基づいて前記対象者の前記発作を予測する、請求項1に記載の発作予測プログラム。
【請求項3】
前記予測部は、前記ログ情報の示す時期よりも後の、指定時間又は指定期間内に発作が起きない旨の推定を行う、請求項1に記載の発作予測プログラム。
【請求項4】
前記予測部は、指定日の前日の前記行動情報又は感情情報を前記学習済みモデルに入力し、前記学習済みモデルの出力に基づいて、前記指定日に発作が起きない旨の推定を行う、請求項3に記載の発作予測プログラム。
【請求項5】
前記予測部は、指定日の直近の過去に記録された前記発作情報の時期に基づき、前回の発作からの経過期間を示す発作間隔を前記学習済みモデルに入力し、前記学習済みモデルの出力を用いて、前記指定日に発作が起きるか否かを推定することで前記予測を行う、請求項1に記載の発作予測プログラム。
【請求項6】
前記学習済みモデルは、前記対象者と同じ発作分類の複数の被験者に関する前記学習データと、前記対象者に関する前記学習データと、を含むデータセットを用いた機械学習により生成される、請求項に記載の発作予測プログラム。
【請求項7】
前記予測部は、前記ログ情報に加え、更に前記対象者の発作分類に基づいて、前記対象者の発作を予測する、請求項1に記載の発作予測プログラム。
【請求項8】
前記学習済みモデルは、前記ログ情報及び前記発作が起きたか否かを示す情報に加え、更に前記対象者を取り巻く環境に関する環境情報を含む学習データにより生成され、
前記予測部は、前記ログ情報に加え、更に前記環境情報を前記学習済みモデルに入力し、前記学習済みモデルの出力として前記推定結果を取得することで、前記対象者の発作を予測する、請求項1に記載の発作予測プログラム。
【請求項9】
前記学習済みモデルは、前記ログ情報及び前記発作が起きたか否かを示す情報に加え、更に前記対象者の生体情報を含む学習データにより生成され、
前記予測部は、前記ログ情報に加え、更に前記生体情報を前記学習済みモデルに入力し、前記学習済みモデルの出力として前記推定結果を取得することで、前記対象者の発作を予測する、請求項1に記載の発作予測プログラム。
【請求項10】
前記取得部は、前記ログ情報として前記行動情報を取得し、
前記行動情報は、前記対象者の睡眠に関する睡眠情報を含む、請求項1に記載の発作予測プログラム。
【請求項11】
前記取得部は、前記ログ情報として前記行動情報を取得し、
前記行動情報は、前記対象者が使用する端末におけるバックグラウンドデータから取得される使用情報を含む、請求項1に記載の発作予測プログラム。
【請求項12】
前記取得部は、前記ログ情報として前記行動情報を取得し、
前記行動情報は、前記対象者の移動速度に関する移動情報を含む、請求項1に記載の発作予測プログラム。
【請求項13】
前記取得部は、前記対象者の検査又は能力試験の結果に基づく評価情報を更に取得し、
前記予測部は、前記ログ情報に加え、更に前記評価情報を前記学習済みモデルに入力し、前記学習済みモデルの出力に基づいて、前記対象者の発作を予測する、請求項1に記載の発作予測プログラム。
【請求項14】
請求項1から請求項13の何れかに記載の発作予測プログラムを記憶した記憶媒体。
【請求項15】
取得部と、予測部と、を備え、
前記取得部は、対象者の行動及びその時期を示す行動情報と、前記対象者の主観に基づき入力される前記対象者が感じた感情及びその時期を示す感情情報と、前記対象者において発生した発作及びその時期を示す発作情報と、のうち少なくとも何れかを含むログ情報を取得し、
前記予測部は、機械学習により生成された学習済みモデルに前記ログ情報を入力し、前記ログ情報の示す時期よりも後の指定時間又は指定期間内に前記対象者に発作が起きるか否かの推定結果を前記学習済みモデルの出力として取得することで、前記対象者の脳活動又は精神活動に伴う発作を予測し、
前記学習済みモデルは、被験者の前記ログ情報と、前記ログ情報の示す時期よりも後の指定時間又は指定期間内に当該被験者に発作が起きたか否かを示す情報と、を含む学習データにより生成される、発作予測装置。
【請求項16】
取得部と、予測部と、を備えるコンピュータが、
前記取得部により、対象者の行動及びその時期を示す行動情報と、前記対象者の主観に基づき入力される前記対象者が感じた感情及びその時期を示す感情情報と、前記対象者において発生した発作及びその時期を示す発作情報と、のうち少なくとも何れかを含むログ情報を取得し、
前記予測部により、機械学習により生成された学習済みモデルに前記ログ情報を入力し、前記ログ情報の示す時期よりも後の指定時間又は指定期間内に前記対象者に発作が起きるか否かの推定結果を前記学習済みモデルの出力として取得することで、前記対象者の脳活動又は精神活動に伴う発作を予測し、
前記学習済みモデルは、被験者の前記ログ情報と、前記ログ情報の示す時期よりも後の指定時間又は指定期間内に当該被験者に発作が起きたか否かを示す情報と、を含む学習データにより生成される、発作予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発作予測プログラム、記憶媒体、発作予測装置および発作予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
てんかんによる発作は誘因なく起こることがほとんどであり、検知や予測が難しいため、患者の生活の質(QOL:Quality of Life)を著しく低下させる要因となっていた。このような問題に関し、従来からてんかん発作やこれに類する、脳活動又は精神活動に伴う発作(以下、本明細書において単に「発作」と呼ぶ)に関する研究が行われてきた。
【0003】
例えば特許文献1には、心電信号から生成されるデータから、てんかん発作の兆候を検出するてんかん発作予測技術が記載されている。特許文献1に記載の技術では、心拍に基づく情報が発作間欠期である場合に収まるべき管理限界を超えたか否かによって、てんかん発作の兆候を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/066430号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術のように、心拍等の生体情報に基づいててんかん発作の検出や発作の予兆の検知を行う技術は知られているが、このような技術では生体情報を取得する必要があった。そのため、生体情報を計測するための高価な装置の利用や、対象者の身体への電極の設置等が必要であった。また生体情報にてんかん発作の予兆が現れるのは発作の直前であり、予兆を検出しても取り得る対策が限られるという問題点があった。
【0006】
上記の点を踏まえ、本発明は、有用性が高い発作の予測を行う新規な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、コンピュータを、取得部と、予測部と、として機能させる発作予測プログラムであって、前記取得部は、対象者の行動を示す行動情報と、前記対象者の主観に基づき入力される感情情報と、前記対象者において発生した発作の記録に関する発作情報と、のうち少なくとも何れかを含むログ情報を取得し、前記予測部は、前記ログ情報に基づいて、前記対象者の脳活動又は精神活動に伴う発作を予測する。
【0008】
このような構成とすることで、生体情報を用いなくとも、ログ情報により発作を予測することができる。これにより、対象者にデバイスを常に装着する負荷をかけることや対象者の身体への干渉を伴うことなく取得可能な情報に基づいて、発作の予測を行うことができる。
【0009】
本発明の好ましい形態では、前記取得部は、前記行動情報と、前記感情情報と、前記発作情報と、のうち少なくとも2つを前記ログ情報として取得し、前記予測部は、前記取得部により取得された複数種類のログ情報に基づいて、前記対象者の前記発作を予測する。
【0010】
このような構成とすることで、対象者の行動、感情、発作の記録のうち複数の組み合わせを考慮して、より適切に発作を予測することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記行動情報は、前記行動及びその時期を示す情報を含み、前記感情情報は、前記対象者が感じた感情及びその時期を示す情報を含み、前記発作情報は、前記対象者において発生した発作の時期を示す情報を含み、前記予測部は、前記ログ情報の示す時期に基づいて発作を予測する。
【0012】
このような構成とすることで、過去の対象者の行動、感情又は発作の記録から、未来の発作の予測を行うことができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記予測部は、前記ログ情報の示す時期よりも後の、指定時間又は指定期間内に発作が起きない旨の推定を行う。
【0014】
このような構成とすることで、指定の時期に発作が起きないという推定結果を示すことができる。これにより、てんかん患者等の生活の質を大きく向上できる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記予測部は、指定日の前日の前記行動情報又は感情情報に基づいて、前記指定日に発作が起きない旨の推定を行う。
【0016】
このような構成とすることで、対象者は、指定日において発作が起きにくいということを知ることができる。指定期間として特に指定日の予測を行うことにより、対象者が行動の予定を立てやすくなる効果が期待される。具体的には、発作が起きる可能性が低い日には、安心して外出等の行動をとることが可能となり、大幅なストレス軽減効果が期待される。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記予測部は、指定日の直近の過去に記録された前記発作情報の時期に基づき、前回の発作からの経過期間を示す発作間隔を用いて、前記指定日に発作が起きるか否かを推定することで前記予測を行う。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記予測部は、前記ログ情報の示す時期よりも後の、指定時間又は指定期間内に発作が起きるか否かを推定することで前記予測を行う。
【0019】
このような構成とすることで、対象者は、予測結果に応じて対策を取ることが容易になる。具体的には、発作が起きやすい時期には例えば薬の使用や危険な物又は行動を回避すること等、対象者が多様な対策を取りやすくなる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記予測部は、前記予測のために、機械学習により生成された学習済みモデルに前記ログ情報を入力し、前記ログ情報の示す時期よりも後の指定時間又は指定期間内に前記対象者に発作が起きるか否かの推定結果を前記学習済みモデルの出力として取得し、前記学習済みモデルは、被験者の前記ログ情報と、前記ログ情報の示す時期よりも後の指定時間又は指定期間内に当該被験者に発作が起きたか否かを示す情報と、を含む学習データにより生成される。
【0021】
このような構成とすることで、過去の実績に基づいて学習を行った学習済みモデルにより、指定の時間又は期間内における発作の有無を予測することができる。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記学習済みモデルは、前記対象者と同じ発作分類の複数の被験者に関する前記学習データと、前記対象者に関する前記学習データと、を含むデータセットを用いた機械学習により生成される。
【0023】
このような構成とすることで、対象者の傾向を反映した、より適切な予測を実現することができる。また、対象者のデータのみを対象とすると、学習データが少なくなりがちであるが、複数の被験者のデータ及び対象者のデータを組み合わせることにより、学習データ量の確保と対象者の特性の反映を両立することができる。
【0024】
本発明の好ましい形態では、前記予測部は、前記ログ情報に加え、更に前記対象者の発作分類に基づいて、前記対象者の発作を予測する。
【0025】
このような構成とすることで、より高精度な予測を実現する効果が期待される。
【0026】
本発明の好ましい形態では、前記取得部は、前記ログ情報として前記行動情報を取得し、前記行動情報は、前記対象者の睡眠に関する睡眠情報を含む。
【0027】
睡眠は、発作との関係があることが知られている。このような構成とすることで、より高精度な予測を実現する効果が期待される。
【0028】
本発明の好ましい形態では、前記取得部は、前記ログ情報として前記行動情報を取得し、前記行動情報は、前記対象者が使用する端末におけるバックグラウンドデータから取得される使用情報を含む。
【0029】
このような構成とすることで、対象者が自ら入力を行わずとも行動情報を取得することができ、対象者の負担がより軽減される。
【0030】
本発明の好ましい形態では、前記取得部は、前記ログ情報として前記行動情報を取得し、前記行動情報は、前記対象者の移動速度に関する移動情報を含む。
【0031】
本発明の好ましい形態では、前記取得部は、前記対象者の検査又は能力試験の結果に基づく評価情報を更に取得し、前記予測部は、前記ログ情報に加え、更に前記評価情報に基づいて、前記対象者の発作を予測する。
【0032】
このような構成とすることで、より高精度な予測を実現する効果が期待される。
【0033】
上記課題を解決するために、本発明は、取得部と、予測部と、を備え、前記取得部は、対象者の行動を示す行動情報と、前記対象者の主観に基づき入力される感情情報と、前記対象者において発生した発作の記録に関する発作情報と、のうち少なくとも何れかを含むログ情報を取得し、前記予測部は、前記ログ情報に基づいて、前記対象者の脳活動又は精神活動に伴う発作を予測する、発作予測装置である。
【0034】
上記課題を解決するために、本発明は、取得部と、予測部と、を備えるコンピュータが、前記取得部により、対象者の行動を示す行動情報と、前記対象者の主観に基づき入力される感情情報と、前記対象者において発生した発作の記録に関する発作情報と、のうち少なくとも何れかを含むログ情報を取得し、前記予測部により、前記ログ情報に基づいて、前記対象者の脳活動又は精神活動に伴う発作を予測する、発作予測方法である。
【0035】
上記課題を解決するために、本発明は、対象者の行動及びその時期を示す行動情報と、前記対象者が主観的に感じた感情及びその時期を示す感情情報と、前記対象者において発生した発作の記録に関する発作情報と、のうち少なくとも何れかを含むログ情報を取得し、指定日の前日の前記ログ情報に基づいて、前記指定日に脳活動又は精神活動に伴う発作が起きるか否かを推定する、発作予測方法である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、容易に発作の予測を行う新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本実施形態のシステムの構成を示すブロック図。
図2】本実施形態の情報処理装置及び端末装置のハードウェア構成図。
図3】本実施形態の発作予測手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、対象者の脳活動又は精神活動に伴う発作を予測するための技術に関する。特に本発明における発作とは、同一の患者において脳活動又は精神活動に伴い繰り返し発生する、突発的な症状を指す。本実施形態では、意識状態や運動状態に症状が表れる、てんかん発作やこれに類する(似た症状を呈する)発作を予測する。このような発作には、例えば焦点発作、全般発作、及び心因性非てんかん発作(PNES:Psychogenic Non-epileptic Seizures)等の発作分類が存在する。以下本明細書において、このような脳活動又は精神活動に伴う発作を単に「発作」と呼ぶ。
【0039】
本発明において「対象者」とは、発作の予測を行う対象を指す。本発明の対象者は特に、発作を起こす可能性がある者である。具体的には、以下において対象者とは、発作の予測対象であるてんかん患者又は心因性非てんかん発作の患者である。なお本発明は、発作の予測結果を提示することを目的としており、治療行為又は診断行為を目的としない。
【0040】
以下、添付図面を参照して、さらに詳細に説明する。図面には好ましい実施形態が示されているが、多くの異なる形態で実施されることが可能であり、本明細書に記載される実施形態に限定されない。
【0041】
例えば、本実施形態では、発作予測装置の構成、動作等について説明するが、同様の機能を有するシステム、方法、装置が実行する方法、方法をコンピュータ装置に実行させるコンピュータプログラム等によっても、同様の作用効果を奏することができる。プログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一過性の記録媒体として提供されてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよい。
【0042】
<1.システム構成>
図1は、本実施形態の発作予測装置を含む発作予測システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態の発作予測システム0は、発作予測装置1と、ユーザ端末2と、を備える。発作予測装置1及びユーザ端末2は、ネットワークNWを介して通信可能に構成される。ネットワークNWは、本実施形態では、IP(Internet Protocol)ネットワークであるが、通信プロトコルの種類、ネットワークの種類等にも制限はない。
【0043】
発作予測装置1としては、汎用のサーバやパーソナルコンピュータ等の情報処理装置10(コンピュータ装置)を1又は複数利用することができる。またユーザ端末2として、パーソナルコンピュータやスマートフォン、タブレット端末等の端末装置9(コンピュータ装置)を利用することができる。発作予測装置1は、本実施形態では、発作予測方法を実行するコンピュータプログラム(発作予測プログラム)をインストールした情報処理装置10である。
【0044】
図2(a)は、情報処理装置10のハードウェア構成図である。図2に示すように、情報処理装置10は、制御部101、記憶部102、及び通信部103を有し、各部及び各工程の作用発揮に用いられる。
【0045】
制御部101は、命令セットを実行可能なCPUなどのプロセッサを有し、OSやプログラムを実行する。
記憶部102は、命令セットを記憶可能なRAMなどの揮発性メモリ、OS、発作予測プログラムやDBMS(データベースサーバ)等を記録可能な、HDDやSSDなどの不揮発性の記録媒体を有する。
通信部103は、ネットワークに物理的に接続するためのインタフェースを有し、ネットワークNWとの通信制御を実行して、情報の入出力を行う。
【0046】
図2(b)は、端末装置9のハードウェア構成図である。図2に示すように、端末装置9は、制御部901、記憶部902、通信部903、入力部904及び出力部905を有し、各部及び各工程の作用発揮に用いられる。
【0047】
制御部901は、命令セットを実行可能なCPUなどのプロセッサを有し、OSやプログラム等を実行する。
記憶部902は、命令セットを記憶可能なRAMなどの揮発性メモリ、OS、プログラム等を記録可能な、HDDやSSDなどの不揮発性の記録媒体を有する。
通信部903は、ネットワークに物理的に接続するためのインタフェースを有し、ネットワークNWとの通信制御を実行して、情報の入出力を行う。
入力部904は、タッチパネルやキーボードなどの入力処理が可能な操作入力デバイス、マイクなどの音声入力が可能な音声入力デバイス等を有する。
出力部905は、ディスプレイなどの表示処理が可能な表示デバイス、スピーカなどの音声出力デバイスを有する。
【0048】
<2.機能構成>
発作予測装置1は、機能構成として、取得部11と、予測部12と、記憶部13と、を有する。これは、ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェアによって具体的に実現されたものである。
またユーザ端末2は、ユーザが情報の入力を行うための入力手段や、ユーザに対する出力やネットワークNWへの接続手段を含む出力手段を有する。ユーザ端末2は、対象者又は対象者の観察が可能な他者により使用される。本実施形態では、主に対象者個人が所有・携帯するスマートフォン等の装置をユーザ端末2として想定する。
【0049】
取得部11は、対象者の行動を示す行動情報と、対象者の主観に基づき入力される感情情報と、対象者において発生した発作の記録に関する発作情報と、のうち少なくとも何れかを、ユーザ端末2を介して取得する。本実施形態の取得部11は、行動情報、感情情報及び発作情報を、ユーザ端末2を介して取得する。具体的には、例えば対象者がユーザ端末2を介して選択や自由入力によってこれらの情報を入力し、ユーザ端末2がネットワークNWを介して対象者IDとともに発作予測装置1に情報を送信することが想定される。以下において、発作情報、行動情報及び感情情報を含む、発作の予測に利用可能な対象者に関する記録を総括してログ情報と呼ぶ。
【0050】
ログ情報は、対象者を識別する対象者IDにより各対象者の情報に紐づけられ、いずれも各種の記録に対応する時期を示す時期情報を含む。各種の記録に対応する時期とは、例えば、各記録の示す行動、感情、発作等の日時を示す日時情報である。取得部11は、予測を行おうとする時期から見て所定時間前の特定の時期範囲内の、ログ情報を取得し、後述の予測部12に受け渡す。
【0051】
なお時期情報は、時刻を含まずその属する日を特定する情報であってもよい。ここで本実施形態における「日」は「被験者(対象者)」の起床時を起点とし、ここでの一日とは、被験者が起床してから翌日起床するまでの間を指す。
【0052】
ここで本発明において「行動」とは、対象者が示す観察可能な動作や反応のことを指す。したがって、心拍、脳波、呼吸等の、計測機器を用いなければ観測することのできない生体情報は、本発明の行動情報には含まれない。
ログ情報のうち行動情報は、例えば、対象者の睡眠に関する睡眠情報、対象者の移動に関する移動情報、対象者によって使用されるユーザ端末2の使用履歴に関する使用情報、対象者が行った運動に関する運動情報、対象者が行った食事に関する食事情報、対象者の服薬履歴に関する服薬情報、自由時間及び労働時間又はその割合、等を含む。この他、任意の行動を示す情報が、本発明における行動情報に含まれてよい。
【0053】
本実施形態における行動情報の例について、より具体的に説明する。
各種の行動情報は、行動情報ごとに一意の行動ログIDと、行動の日時を示す時期情報と、その行動情報がどのような行動を示すものであるのかを表す行動内容と、を含む。また対象者IDにより、当該行動を行った対象者の情報と紐づけられる。
【0054】
行動情報のうち睡眠情報は、上記の時期情報として、就寝時刻(日時)及び起床時刻(日時)を含む。就寝時刻及び起床時刻により、睡眠時間を計算可能であるが、別途睡眠時間を入力させてもよい。また睡眠は、主に夜間の「本睡眠」及び昼寝等の「仮眠」等に種別を分けてそれぞれ入力させてもよい。ここで就寝時刻及び起床時刻は、実際の睡眠開始時刻及び睡眠終了時刻であるが、この他に、睡眠の予定開始時刻(就寝予定時刻)及び予定終了時刻(起床予定時刻)を更に取得してもよい。また、睡眠の予定開始時刻及び実際の睡眠開始時刻の差と、睡眠の予定終了時刻及び実際の睡眠終了時刻の差と、を更に睡眠情報として用いてもよい。
【0055】
ここで本実施形態においては、睡眠における一日の境目は午前5時とする。具体的には、前日午前5時から当日の午前4時59分59秒までの間に開始された睡眠は、「前日」の睡眠として扱う。
なお中途覚醒があった場合にはその前後で睡眠情報を分けることなく、本人が起床したと感じた時点までの睡眠をひとつの睡眠情報とする。ただし中途覚醒についてもその時刻を睡眠情報として記録し、中途覚醒が起こっていた時間を睡眠時間から除外してもよい。
【0056】
また睡眠情報は、更に睡眠の質に関する情報を含む。具体的には、睡眠の質に関する情報として、起床時の気持ちを示す情報を用いることができる。ここで起床時の気持ちとは、対象者が主観的に感じる、睡眠に関する気持ちである。例えば、よく休めた、まあまあ休めた、普通、あまり休めなかった、休めなかった、等の複数の選択肢から対象者が選択する形式で、対象者によって起床時の気持ちが入力されることが想定される。
【0057】
なお睡眠の質に関する情報としては、例えば睡眠中の脳波(例えば睡眠中にアルファ波、ベータ波、シータ波、デルタ波のそれぞれが検出された時間又は割合)や中途覚醒、睡眠中の体動等、他の指標を表す情報を用いてもよい。ただし、本実施形態における睡眠の質に関する情報は、脳波や体動等の計測を伴わずに取得可能な情報が好ましい。
【0058】
行動情報のうち移動情報は、移動速度を含む。例えば、ユーザ端末2の備えるGPS(Global Positioning System)受信機やセンサにより、ユーザ端末2の移動速度を特定し、これを移動情報として用いることができる。移動情報としては、例えば、所定期間、例えば一日(起床してから就寝するまでの間)の平均移動速度や最高移動速度、最低移動速度等を用いることができる。
【0059】
行動情報のうち、対象者によって使用されるユーザ端末2の使用履歴に関する使用情報としては、ユーザ端末2において取得されるバックグラウンドデータを用いることができる。例えば、アプリごと(又はアプリの分類ごと)の使用時刻及び使用時間(所定期間における合計使用時間)、メッセージアプリにおけるメッセージの送信履歴や返信の回数等を、使用情報として用いることができる。ここでアプリの分類とは、例えば、ツール、SNS、ゲーム、音楽等、各アプリをその機能や目的に応じて分けたものである。
【0060】
この他、使用情報の例としては例えば、スクリーンオフ時間、スクリーンオン時間、写真保存回数、動画保存回数、カレンダーの予定登録件数、等の情報が挙げられる。
【0061】
また行動情報のうち運動情報は、対象者が行った運動の種類、強度、時間等の情報を含む。具体的には例えば、所定期間における運動の回数や合計時間、歩数、歩行及びランニングそれぞれの距離、歩幅、上った階数、両足支持時間、安定性、速度、アクティヴエネルギー(運動時消費エネルギー)、安静時消費エネルギー、転倒回数、等の情報を運動情報として用いることができる。この他、ユーザが自身で入力可能な情報や、ウェアラブルデバイスにより取得可能な任意の情報を用いてよい。
【0062】
また行動情報のうち食事情報は、対象者が行った食事の内容及び量等の情報を含む。これらのうち、例えば食事の回数や摂取カロリー等についても、運動情報又は食事情報として用いることができる。また例えば、朝食、昼食、間食、夕食、夜食のそれぞれについて、有無(食事をしたか否か)を受け付けてもよい。
【0063】
行動情報のうち服薬情報は、対象者が服薬を行ったタイミング(時刻や朝・昼・夜の別又は食前食後の別等)、薬の種類及び量、等の情報を含む。また、例えば1日に服薬した回数を服薬情報として用いてもよい。服薬情報は、対象者又はその観測者が、ユーザ端末2を介して入力することで、取得部11により取得される。
【0064】
なお以上に述べた行動情報の内容は一例であり、各種の行動情報は、上記の他にも任意の情報を含んでいてよい。また、本実施形態では上記の全てを発作の予測に用いるが、予測には一部のみが用いられてもよい。
【0065】
また本発明において「感情」とは、対象者が主観的に感じる気持ちのことを指す。したがって、脳活動の情報や心拍等の生体情報から推測されるものは、本発明の「感情」には含まれない。
【0066】
ログ情報のうち感情情報は、喜怒哀楽の4種や、喜び、期待、怒り、嫌悪、悲しみ、驚き、恐れ、信頼の8種の基本感情(プルチックの感情の輪)、快不快及び覚醒度合の指標(ラッセルの感情円環モデル)等、任意の方法で表される、感情の種類や強度を示す情報である。例えば、事前に設定した複数の選択肢の中から、感情の種類及び強度がそれぞれ選択されたものを感情情報として用いてもよい。また強度は用いずに、感情の種類のみを感情情報として用いてもよい。
【0067】
感情情報は、一日に一回のみ入力を受け付けてもよいし、対象者が感情を感じた時に随時(複数回)受け付けてもよい。本実施形態では、一日に一回、その日の総合的な感情について、「幸せ」、「楽しい」、「穏やか」、「平静」、「退屈」、「不安」、「疲れた」、「怒り」、「悲しい」の9種から、ユーザの主観によって選択された感情情報を取得部11が取得する。
【0068】
また発作情報は、本発明におけるログ情報のうちの一つであり、対象者において発生した過去の発作に関する情報である。発作情報は、発作が発生した日付、発作開始時刻及び発作終了時刻、発作の種類等を含む。例えば、意識の有無及び/又はけいれんの有無等を発作の種類とすることができる。発作情報は、対象者又はその観測者が、ユーザ端末2を介して入力することで、取得部11により取得される。
【0069】
本実施形態の取得部11は、上記のログ情報に加え、更に対象者を取り巻く環境に関する環境情報及び、ユーザ端末2と通信可能に接続されたウェアラブルデバイスにより取得される対象者の生体情報を取得する。環境情報及び生体情報も、ログ情報と同様に、対象者を識別する対象者IDにより各対象者の対象者情報に紐づけられ、いずれも各種の記録に対応する時期を示す情報を含む。
【0070】
環境情報としては、照度、気温、気圧、天気、湿度等の情報が想定される。環境情報は、ユーザ端末2の備えるセンサによって取得されてもよいし、GPS等によって得られるユーザ端末2の位置情報に基づいて、気象データを提供する外部のデータベースから取得されてもよい。
【0071】
また環境情報として、滞在エリアを示すロケーション情報や、行動範囲を示す行動範囲情報を用いてもよい。ロケーション情報及び行動範囲情報はいずれも、GPS等によって得られるユーザ端末2の位置情報に基づいて取得することができる。ロケーション情報としては、例えば、繁華街や場末、住宅街等、地域(エリア)ごとに分類を行い、位置情報の示す位置がどの分類の地域に含まれるかという情報が想定される。また行動範囲情報としては、例えば、平日と休日の行動範囲の差等を用いてもよい。
【0072】
生体情報としては、ウェアラブルデバイスの備えるセンサにより取得可能な任意の情報を用いることができる。例えば、心拍、活動量、血圧等の情報が、生体情報の例として挙げられる。なお上述した通り、本発明は主としてログ情報に基づいて発作の予測を行うものであり、生体情報は補助的に使用可能である。
【0073】
また取得部11は、記憶部13に予め格納された、対象者情報についても取得する。対象者情報には、対象者を一意に識別する対象者ID、対象者名、発作分類、属性、対象者に対する診断結果、心理評価結果、等の情報が含まれる。
【0074】
発作分類とは、対象者が呈する発作の分類を示すものである。脳活動又は精神活動に伴う発作には、発作時の脳活動等によって分類が存在する。例えばてんかん発作は、脳において過剰な電気的興奮を生じるが、この興奮の部位や広がり方によって「焦点発作(部分発作とも呼ぶ)」と「全般発作」に分けられる。
【0075】
また脳波にてんかん異常波が見られず正確には「てんかん」の発作ではないが、突発的にてんかん発作に似た精神身体状態を生じる発作を心因性非てんかん発作(PNES:Psychogenic Non-epileptic Seizures)と呼ぶ。本発明の「発作」は心因性非てんかん発作を含み、「心因性非てんかん発作」を発作分類の一つとして扱う。
【0076】
脳活動又は精神活動に伴う発作は、患者によって起きる発作の分類が決まっており、本実施形態では、上述した「焦点発作」、「全般発作」、及び「心因性非てんかん発作」の3つのうち、対象者に起きるものを、当該対象者情報における発作分類として登録する。なお、発作分類については上記の3分類に限定されず、焦点発作や全般発作を更に細分化した分類を用いてもよいし、更に「分類不能」という発作分類を設けてもよい。
【0077】
また属性とは、対象者の属性、例えば、年齢又は年代、性別、家族構成(配偶者の有無又は同居家族等)、職業、勤務年数、週当たりの労働時間、飲酒・喫煙習慣、直近(例えば1ヶ月)の健康状態、介護状態であるか否か、家事や運動の習慣等である。
診断結果とは、対象者に対してつけられた診断名や、病院での検査によって取得された検査データである。
また心理評価結果とは、対象者が受けた問診や心理評価テスト等の結果であり、本発明における評価情報の一例である。例えば、抑うつ症状、QOL、スティグマ等に関する対象者の回答に基づく評価結果や、言語性IQ、記憶力、等に関する対象者の能力試験の結果に基づく能力評価結果が、評価情報に含まれる。
【0078】
予測部12は、取得部11が取得したログ情報に基づいて、対象者の発作を予測する。本実施形態の予測部12は、上述した取得部11が取得した各種の情報を組み合わせて、発作の予測に用いる。用いる情報の組み合わせは任意に決定することができるが、特に、行動情報及び感情情報の組み合わせ、行動情報及び発作情報の組み合わせ、感情情報及び発作情報の組み合わせ等のように、行動情報と、感情情報と、発作情報と、のうち少なくとも2つの組み合わせを発作の予測に用いることが好ましい。
【0079】
また上記の通り、ログ情報、環境情報及び生体情報はその時期を示す情報として、日時を示す日時情報を含んでいる。予測部12は、日時情報に基づいて、所定の時期の発作を予測する。より詳細には、予測部12は、予測に用いる情報(ログ情報)の示す時期よりも後の発作を予測する。
【0080】
具体的には、予測部12は、予測を行おうとする指定時間又は指定期間から見て所定時間前の情報を用いて、予測を行う。例えば、指定期間を特定の一日とし、予測の対象である指定日の前日における対象者の、ログ情報、環境情報及び生体情報を用いて、指定日(指定期間)に当該対象者において発作が発生するか否かを予測することが想定される。
ここで予測に用いる情報の期間及び予測を行おうとする時期の範囲については任意に変更してよい。例えば、指定日の直前1週間の情報を用いて、指定日における発作の有無を予測してもよい。また、ある1週間の情報を用いて、次の1週間における発作の有無を予測してもよい。
【0081】
ここで、発作を繰り返し経験する対象者においては、常に発作の不安を抱えて生活を制限していることも多い。このような背景から、特に「この時期には発作が起こらない」という情報を提供することが、対象者のQOLを向上させる上で重要である。
したがって本実施形態の予測部12は特に、所定の期間、例えば指定日において発作が起きる可能性が低い場合に、「発作が起こらない」(起きにくい)旨の予測結果を出力する。
【0082】
本実施形態では、予測部12は、機械学習技術により教師データを与えて生成された学習済みモデルによって、発作の予測を行う。つまり、予測部12は、取得部11によって取得された情報を学習済みモデルに入力することにより、学習済みモデルの出力として、指定時期における発作の有無の推定結果を受け取り、それに基づいて予測結果を出力する。本実施形態では、記憶部13が学習済みモデルを予め記憶しており、予測部12は記憶部13に記憶された学習済みモデルに、各種の情報を入力して、出力として発作の有無を受け取る。学習済みモデルの生成手順については後述する。
【0083】
記憶部13は、上述した対象者情報、ログ情報、環境情報、生体情報等を記憶する。対象者情報については、ログ情報等の情報を受け付ける前に、対象者ごとに事前登録する。そして記憶部13は、登録された対象者から、対象者IDとともに、ログ情報、環境情報、生体情報等を随時受け付けて、対象者情報に紐づけて格納する。これにより、各種の情報が対象者に紐づけられてその日時とともに登録され、発作の予測に用いることができる。
【0084】
本実施形態では、記憶部13が各種の情報を随時受け付けて登録し、その中から発作の予測に必要な時期の情報を取得部11が取得して予測部12に受け渡す形態を示したが、情報の取得手順については任意に変更可能である。例えば、記憶部13に情報を保管することなく、ユーザ端末2において各種の情報を記憶しておき、予測したい指定時期に応じて必要な情報を、その都度ユーザ端末2が発作予測装置1に送信してもよい。また本実施形態では、記憶部13が後述の学習済みモデルについても記憶する。
【0085】
なお上記に示した構成は一例であり、例えば各装置の備える手段の一部又が他の装置に配置され、複数の装置が協働することにより、各種の機能が実現されてもよい。また発作予測装置1及びユーザ端末2の機能が1つの装置に備えられ、ログ情報等の各種情報の入力受付及び発作の予測が単一の装置において行われてもよい。
【0086】
<3.学習処理>
次に、対象者情報(特に属性、診断結果及び心理評価結果)、ログ情報、環境情報及び生体情報等を入力として、発作が起こるか否かについての推定結果を出力する学習済みモデルの生成について説明する。
【0087】
本実施形態では、発作分類ごとに異なるモデルについて機械学習を行い、発作分類ごとに学習済みモデルを生成する。
即ち発作予測装置1は、焦点発作に係る学習データのみを学習した学習済みモデルと、全般発作に係る学習データのみを学習した学習済みモデルと、心因性非てんかん発作に係る学習データのみを学習した学習済みモデルと、をそれぞれ生成して、記憶部13に格納する。
【0088】
なおモデルの種類については、公知の分類モデルを任意に利用することができる。例えば、ロジスティック回帰(logistic regression)、k近傍法(KNN:k-nearest neighbor)、決定木(decision tree)、サポートベクターマシン(SVM:support vector machine)、人工ニューラルネットワーク(ANN:artificial Neural Network)等のモデルが利用可能である。なおこれらのモデルはいずれも分類問題において広く利用されており、当業者であればその仕組みを理解できるため、説明は省略する。
【0089】
本実施形態では、発作が起きるか否かの予測結果を出力する予測モデルにより、発作の予測を行う。具体的には、本実施形態の予測モデルは、対象者情報に加え、予測を行おうとする指定期間(又は指定時間)から所定時間前の一定範囲におけるログ情報、環境情報及び生体情報を説明変数として、指定期間内に発作が発生するか否かを推定し、結果を出力する。そして予測部12が、その推定結果を受け取り、それに基づいて予測結果を出力する。
【0090】
学習処理においては、モデルの入力(説明変数)として用いる情報と、出力の教師データとなる発作情報と、の組を学習データとして取得する。なお機械学習の手法は広く利用されており、当業者であれば学習手順を理解できるため、詳細な説明は省略する。
【0091】
本実施形態では、対象者情報と、所定期間における発作情報に基づき決定される発作間隔と、指定日の前日の、行動情報、感情情報、環境情報及び生体情報と、を説明変数として、指定日の発作の有無の予測結果を出力するモデルを生成する。したがって学習データとしては、被験者情報(特に属性、診断結果及び心理評価結果)と、特定の被験者におけるある一日の発作情報と、その直近の所定期間における発作情報(又は前回の発作からの経過期間)と、その前日の行動情報及び感情情報と、環境情報及び生体情報と、の組を取得する。ここで本実施形態における「日」は上述の通り、「被験者(対象者)」の起床時を起点とし、ここでの一日とは、被験者が起床してから翌日起床するまでの間を指す。
【0092】
ここで学習データについては、複数の異なる被験者のデータが用いられる。一人の対象者のみを被験者として各対象者専用の学習済みモデルを生成してもよいが、本実施形態においては、学習データ量の確保の観点から、同一の発作分類が付与された複数の被験者についての被験者情報、ログ情報、環境情報及び生体情報と、発作情報と、の組を学習することとした。
【0093】
なお発作の発生の傾向には個人差があることも知られており、上記の手順で生成された学習済みモデルを、対象者ごとに調整してもよい。例えば、上記の学習データに加え、対象者を被験者とした学習データも含むデータセットにより機械学習を行うことで、学習済みモデルを生成してもよい。また例えば、対象者が発作を起こしやすい時間帯によって、当該時間帯のデータを優先的に学習させることで学習済みモデルを生成してもよい。
【0094】
また、まず対象者以外の複数の被験者に関する学習データにより学習済みモデルを生成した後、更に対象者を被験者とした学習データを追加学習させることにより、対象者に合わせた調整を行ってもよい。
【0095】
対象者に関する学習データについては、指定日より前の一定以上の期間にわたる対象者の発作情報、行動情報及び/又は感情情報を説明変数とし、指定日の発作の有無を目的変数とすることが想定される。なお説明変数としては、上述した通り、発作情報、行動情報又は感情情報だけでなく、発作情報と、行動情報と、感情情報と、環境情報と、生体情報と、対象者情報と、の全てを任意に組み合わせて用いることができる。
【0096】
ここで説明変数として用いる情報の時期としては、対象者の発作の傾向を反映するために、一定以上の期間とすることが好ましい。特に、複数の被験者を対象とした前述の学習の際に用いた情報(発作情報、行動情報又は感情情報)の期間よりも長い期間を、対象者に合わせた調整のために用いる情報(発作情報、行動情報又は感情情報)の対象とすることが好ましい。
【0097】
より具体的には、例えば、複数の被験者を対象とした前述の学習においては、前日の情報を説明変数とし、指定日の発作の有無を目的変数とする学習を行う一方、対象者に合わせた調整においては、指定日前1か月の情報を説明変数とし、指定日の発作の有無を目的変数として追加の学習を行うことが考えられる。また、対象者に合わせた調整においては、特に期間を限定せず、利用可能な過去のデータ全てを用いてもよい。このようにすることで、対象者の発作について十分な情報を学習させることができ、より対象者の発作の傾向を反映した高精度な予測が可能となる。
【0098】
<4.予測処理>
次に、予測部12による発作の予測処理について図3を参照して説明する。本実施形態では、上述した方法で、焦点発作、全般発作、及び心因性非てんかん発作の3種の発作分類にそれぞれ対応し、更に各対象者に併せて調整を行った学習済みモデルを用いて、発作の予測が行われる。なお発作情報、行動情報又は感情情報と、発作の有無と、の相関関係に基づく任意の方法で予測を行うことが可能であり、予測の方法はこれに限られない。
【0099】
図3は、予測部12による発作の予測に係る処理手順を示すフローチャートである。まずステップS1において、発作の予測に用いる情報を取得部11が取得する。取得する情報の内容は、学習済みモデルの生成に用いた種類の情報と同種の、対象者情報、対象者におけるログ情報、環境情報及び生体情報である。ログ情報、環境情報及び生体情報の時期についても、学習済みモデルの生成において説明変数とした範囲において取得すればよい。
【0100】
本実施形態では、対象者ごとのログ情報、環境情報及び生体情報を随時ユーザ端末2が送信し、記憶部13に格納している。取得部11は、予測対象となる期間に応じて、必要な時期の情報を記憶部13から取得する。本実施形態では、前述の対象者に合わせた調整に用いた期間と同一の期間における、ログ情報、環境情報及び生体情報と、対象者情報と、を取得部11が取得する。ただし、ログ情報、環境情報及び生体情報の取得期間について制限はなく、対象者に合わせたモデルの調整に用いた期間よりも、取得期間の方が短くてもよい。なお対象者ごとの調整を行わない場合には、例えば前日の情報を用いて指定日の発作の有無を推定するため、指定日の前日に属するログ情報、環境情報及び生体情報と、対象者情報と、を取得部11が取得する。
【0101】
次にステップS2では、予測部12が、ステップS1で取得された情報を取得部11から受け取って、学習済みモデルに入力する。ここで、上述の通り学習済みモデルは対象者ごとに生成され、記憶部13に格納されている。したがって予測部12はステップS2において、対象者IDを参照し、対応する学習済みモデルに、対象者情報(特に属性、診断結果及び心理評価結果)、ログ情報、環境情報及び生体情報を入力する。なお対象者ごとの調整を行わない場合には、対象者の対象者情報における発作分類を参照し、当該発作分類に対応した学習済みモデルに、対象者情報(特に属性、診断結果及び心理評価結果)、ログ情報、環境情報及び生体情報を入力する。
【0102】
そしてステップS3において、予測部12が学習済みモデルの出力として、指定日に対象者に発作が発生する確率及び発生しない確率を受け取る。予測部12は、より確率が高い方を予測結果として出力する。ユーザ端末2は予測部12による出力を受け取って、その結果を対象者に対して、画面への表示や音声等により出力する。出力の形式は任意に決定してよいが、例えば、発作が発生するとの予測結果の場合には「晴れ」の記号、発作が発生しないとの予測結果の場合には「雨」の記号等、ユーザ端末2が予測結果を記号で表示してもよい。
【0103】
以上のように、本実施形態に係る発作予測装置によれば、行動情報又は感情情報という、容易に入手可能な情報に基づいて、発作の予測をおこなうことができる。なお、本発明に係る発作予測方法は、上述の手順をコンピュータに実行させる方法、又は、任意の主体が上述の手順を実行する方法である。ここで、本発明に係る発作予測方法は、あくまでも発作の予測により対象者に行動の参考となる情報提供を行うことを目的としており、診断や治療を目的としたものではない。
【0104】
さらに、生体情報に基づいて発作やその兆候を検出する従来の技術と異なり、本実施形態に係る発作予測装置は、発作の直前ではなく、例えば当日中等の範囲で発作の有無を予測することができる。以下、本発明の発作予測装置、発作予測プログラム及び発作予測方法を用いて、実際に発作の予測を行った実施例について説明する。
【実施例
【0105】
(1)学習済みモデルの生成
まず、複数の被験者のログ情報、環境情報及び生体情報を用いて、<3.学習処理>において示した方法で発作分類ごとに学習済みモデルを生成した。被験者は、18歳以上のてんかん患者とし、てんかんの診断及び治療方針決定に入院精査が必要な患者12名を対象とした。データの収集期間は667日とし、そのうち82日で脳活動又は精神活動に伴う発作が観測された。
【0106】
説明変数としては、睡眠時間、起床時刻、一日の平均移動速度及び最高移動速度等の行動情報と、被験者によって随時入力される感情情報と、前回の発作の日時を示す直近の発作情報と、腕時計型のウェアラブル端末によって測定された生体情報と、対象者の属性を示す属性情報と、を含む、368項目を用いた。なお直近の発作情報に代えて又は加えて、前回の発作からの経過期間を用いてもよい。説明変数の具体例は、上述の実施形態で示した通りである。ここで、本実施例においては、発作分類ごとに学習を行って学習済みモデルを生成し、各対象者に合わせた調整は行っていない。
【0107】
分析アルゴリズムには、ライト・ジービーエム(LightGBM:Light Gradient Boosting Machine)を用いた。LightGBMは、目的変数に応じて説明変数を分類する、教師あり学習における手法のひとつである。(参考URL:https://lightgbm.readthedocs.io/en/latest/Python-Intro.html)
【0108】
(2)予測結果
上記の手順で作成したモデルを用いて、テストデータにより発作の予測を行った。予測結果から、正解率、適合率、再現率、特異度、F値をそれぞれ算出すると、正解率87.22%、適合率54.09%、再現率78.57%、特異度88.51%、F値62.74%であった。
【0109】
これらの結果から、全体として高精度に、指定日における発作の有無を推測可能であることが示された。
【0110】
(3)学習結果の評価
SHAP(SHapley Additive exPlanations)の手法を用いて、各説明変数の寄与度について評価を行った。SHAPは、学習済みモデル及び説明変数を用いて、SHAP値という推定結果への説明変数の寄与度を示す値を算出する。(参考URL:https://shap.readthedocs.io/en/latest/)
【0111】
本実施例に係る学習済みモデルについてSHAP値の計算を行ったところ、次のような説明変数が推定において重視されていた。
・発作間隔(前回の発作からの経過期間)
・属性情報
・睡眠情報
・移動情報
・心理評価結果
・感情情報
【0112】
以上の結果から、睡眠情報や移動情報等の行動情報や感情情報、発作情報に基づいて、発作の有無に関する予測が可能であることが示唆された。
【符号の説明】
【0113】
0 :発作予測システム
1 :発作予測装置
2 :ユーザ端末
11 :取得部
12 :予測部
13 :記憶部
10 :情報処理装置
101 :制御部
102 :記憶部
103 :通信部
9 :端末装置
901 :制御部
902 :記憶部
903 :通信部
904 :入力部
905 :出力部
【要約】
【課題】
有用性が高い発作の予測を行う新規な技術を提供すること。
【解決手段】
コンピュータを、取得部と、予測部と、として機能させるプログラムであって、前記取得部は、対象者の行動を示す行動情報と、前記対象者の主観に基づき入力される感情情報と、前記対象者において発生した発作の記録に関する発作情報と、のうち少なくとも何れかを含むログ情報を取得し、前記予測部は、前記ログ情報に基づいて、前記対象者の脳活動又は精神活動に伴う発作を予測する。
【選択図】図1
図1
図2
図3