(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】エラスターゼ阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/49 20060101AFI20240807BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240807BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20240807BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240807BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240807BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240807BHJP
C12N 9/66 20060101ALI20240807BHJP
C12N 9/99 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
A61K8/49
A61Q19/08
A61K31/353
A61P17/00
A61P43/00 111
A23L33/105
C12N9/66 ZNA
C12N9/99
(21)【出願番号】P 2019190616
(22)【出願日】2019-10-17
【審査請求日】2022-10-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】398050261
【氏名又は名称】株式会社坂本バイオ
(72)【発明者】
【氏名】後藤 考宏
(72)【発明者】
【氏名】向山 俊之
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-173424(JP,A)
【文献】特開2003-002820(JP,A)
【文献】特開2014-097952(JP,A)
【文献】特開2016-003229(JP,A)
【文献】特開2004-359589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 31/33-33/44
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/00-43/00
A23L 5/40- 5/49
A23L 31/00-33/29
C12N 9/00- 9/99
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヒドロケルセチンを有効成分として含有する好中球エラスターゼ阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物ジヒドロケルセチンを有効成分として含有するエラスターゼ阻害剤に関する。該化合物はエラスターゼ阻害作用を持ち、エラスターゼ阻害剤は、皮膚化粧料などに用いることにより、皮膚のエラスチンの分解を防ぎ、弾力性やハリ感を保つ作用を該皮膚化粧料等に付与し得る。
【背景技術】
【0002】
皮膚において、加齢、光(紫外線他)、乾燥、酸化等の諸要因により、張りや弾力性が低下し、シワやたるみが発生する等の様々な皮膚症状が生じることはよく知られている。これらの皮膚症状は皮膚の老化現象とされている。このような皮膚老化現象は、真皮中の細胞外マトリックスの主要構成成分であるエラスチンやコラーゲンの減少が大きな原因の1つと考えられている。例えば、加齢により皮膚細胞の生理機能が低下し、エラスチンやコラーゲンの減少やそれによる細胞外マトリックスの機能低下が生じることで、皮膚の老化が引き起こされる。一方、慢性の紫外線傷害である光老化は、肌が紫外線に暴露されることで皮膚内に生じた活性酸素によってマトリックスメタロプロテアーゼの活性が亢進し、皮膚に存在するエラスチン、コラーゲン等を変性させ、皮膚のたるみ、しわなどを生じるものとされている。このため、皮膚老化を含む皮膚の変調の予防や改善のために、皮膚のエラスチンやコラーゲンの減少に対する対策が重要な課題となっている。
【0003】
エラスターゼ阻害活性はコラゲナーゼ阻害活性、抗酸化活性等と同様、皮膚老化防止、或いは皮膚の良好な状態の保持に特に関連が深い因子とされている。エラスターゼやコラゲナーゼは細胞外マトリックスを破壊する酵素群(マトリックスメタロプロテアーゼ)に含まれる。
【0004】
エラスターゼ阻害活性を有する物質としては、例えば生薬ではセイヨウトニコの抽出物(特許文献1参照)、ホホバ葉抽出物(特許文献2参照)などが報告されている。しかし、これらの生薬の抗皮膚老化効果は十分なものではない。そこで、ヒトの肌に対する安全性の面から、天然物由来であり、かつ低濃度で利用可能であるような、エラスターゼ阻害活性により皮膚のシワやたるみ防止効果を強く有するさらなる物質が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-147832号公報
【文献】特開2003-48812号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Chunhui Ma et al., Ultrasound-Assisted Extraction of Arabinogalactan and Dihydroquercetin Simultaneously from Larix gmelinii as a Pretreatment for Pulping and Papermaking, PLoS One. 2014; 9(12): e114105
【文献】Ying Wang et al., Enzymatic water extraction of taxifolin from wood sawdust of Larix gmelini (Rupr.) Rupr. and evaluation of its antioxidant activity, Food Chemistry, Volume 126, Issue 3, 1 June 2011, Pages 1178-1185
【文献】Pietarinen SP et al., Aspen Knots, a Rich Source of Flavonoids, Journal of Wood Chemistry and Technology, Volume 26, 2006 - Issue 3 Pages 245-258
【文献】Slimestad et al., 2007 Onions: a source of unique dietary flavonoids. J. Agric.Food Chem. 55, 10067-10080.
【文献】Wallace et al., 2005, Batch solvent extraction of flavono-lignans from milk thistle (Silybum marianum L. Gaertner). Phytochoem. Anal. 16, 7-16
【文献】Maroziene A et al., Inhibition of phthalocyanine-sensitized photohemolysis of human erythrocytes by polyphenolic antioxidants: description of quantitative structure-activity relationships, Cancer Lett. 2000 Aug 31; 157(1):39-44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、エラスターゼ阻害剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ジヒドロケルセチンが皮膚のシワやたるみの防止又は改善、或いは老化防止に寄与する優れたエラスターゼ阻害作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
よって、本発明は、ジヒドロケルセチンからなる、エラスターゼ阻害剤を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るエラスターゼ阻害剤は、そのエラスターゼ阻害作用により皮膚の老化の防止改善、及びシワやたるみ発生の防止、改善に寄与する優れた効果をもたらすことができる。
本発明に係るジヒドロケルセチンは、ロシアを中心とした地域で食品等として古くから広く用いられるカラマツの抽出物に於いて主要な構成成分の一つであり、人体に適用する素材として安全性に関する問題が少ないと考えられる。本発明は即ち、ジヒドロケルセチンを利用するものであり、食品として、また皮膚外用剤として人体に安全に適用し得るという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ジヒドロケルセチンによる好中球エラスターゼの活性阻害作用
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明に於いて用いられるジヒドロケルセチンは、例えば、メタノールやエタノール等の極性溶媒を用いてカラマツ等の木材から得られる。工業的により効率の高い方法が種々、検討されており、例えば、カラマツ(Larix gmelinii)から、超音波処理を併用した抽出精製法が非特許文献1に開示されている。またおなじくカラマツ(Larix gmelini)を材料として用い、酵素処理を併用する方法が非特許文献2に開示されている。
【0014】
ジヒドロケルセチンは別の樹木、例えばポプラからも得ることができる(非特許文献3)。
【0015】
ジヒドロケルセチンはまた、例えばタマネギ(非特許文献4)、マリアアザミ(非特許文献5)からも溶媒抽出、各種クロマトグラフィー等の常法を組み合わせて得られる。
【0016】
本発明で用いられるジヒドロケルセチンは上記カラマツ等植物から精製して得たものを用いてもよい。またジヒドロケルセチンを必要十分な濃度で含む限り、上記植物等の抽出物を用いてもよい。例えばダフリカカラマツ、グイマツ、シベリアカラマツ等のカラマツの木部抽出物を適宜用いることもできる。
【0017】
なおジヒドロケルセチンは健康に資する種々の効果、例えば抗酸化効果(非特許文献6)などが知られている。また、上述の通りジヒドロケルセチンを多く含むカラマツ抽出物はロシア等にて長い食経験があり、近年からはこれを配合した健康維持増進用の食品等が広く利用されている。
【0018】
本発明のエラスターゼ阻害剤は、経口用(内用)又は非経口用(外用)の両形態をとることができる。経口用の場合は、本発明のエラスターゼ阻害剤を、例えば医薬品または食品などの形態に調製する。また、非経口用の場合には、化粧料、医薬部外品、医薬、皮膚外用剤等の形態に調製することができる。経口、非経口の用途に依らず、本発明の化合物は、精製された化合物あるいは該化合物を含有する植物等の抽出物等として適宜配合し、エラスターゼ阻害剤として用いることができる。
【0019】
以下、本発明の具体的な形態を用途別にさらに詳述する。化粧料等の用途に於いては、例えば、軟膏剤、溶液、クリーム、乳液、化粧水、ローション、ジェル、エッセンス(美容液)、ファンデーション、パック・マスク、口紅、スティック、入浴剤等の皮膚外用剤等として、医薬品、医薬部外品を含む広い範囲に適用可能である。
【0020】
また、化粧料の剤型も、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油2層系、水-油-粉末3層系等、幅広い剤型を採り得る。
【0021】
本発明の化粧料への該化合物の配合割合は、該化合物の期待される効果が得られるのであれば特に制限されないが、化粧料全量中0.0001~0.1重量%が好ましく、より好ましくは0.001~0.1重量%程度である。本発明の化粧料は、本明細書に開示されたエラスターゼ阻害作用に加え、既知の抗酸化作用をも併せ持つため、エラスターゼ阻害用化粧料、皮膚を保護し、皮膚を健やかに保つ用途の化粧料及び老化抑制用化粧料として使用される。また、本発明の化粧料は、特に皮膚外用剤としての用途に好ましく応用できるので、エラスターゼ阻害用皮膚外用剤、皮膚を保護し、皮膚を健やかに保つ用途の皮膚外用剤及びシワ、たるみ防止改善用、或いは老化抑制用皮膚外用剤として使用される。
【0022】
本発明のエラスターゼ阻害剤(以下、本発明阻害剤)を含有させて食用に供する量の目安は、健康状態、年齢などにより異なるが、例えば、精製化合物として成人1日あたり20~100mg、好ましくは約45~100mgである。健康食品とするときは、精製化合物に換算して健康食品素材の全量に対し、0.01~20重量%、好ましくは、0.1~10重量%の割合になるように添加され得る。但し本発明の食品への該化合物の配合割合は、該化合物の期待される効果が得られるのであれば特に制限されない。本発明の飲食品は、本発明阻害剤を単独か又は食品に一般に使用される原料、例えば糖類、澱粉、脂質などの賦形剤、さらには必要に応じて結合剤、滑沢剤、着色剤、香料などの矯味矯臭剤などを併用することができ、常法により製造される。本発明の飲食品には、例えばキャンディー、ドロップ、錠菓、チューイングガム、カプセル、飲料などの食品が含まれる。
【実施例1】
【0023】
ジヒドロケルセチンによる好中球エラスターゼ活性阻害作用を検証することを目的とした 。
【0024】
好中球エラスターゼとその人工基質であるSuc (OMe)-Ala-Ala-Pro-Val-MCAを反応させ、遊離する7-Amino-4-methylcoumarinの蛍光強度を測定することにより 評価した。反応に被験物質を共存させることにより、好中球エラスターゼ活性阻害作用を評価した 。
【0025】
試薬等の調製
基質溶液:Suc (OMe) -Ala-Ala-Pro-Val-MCAを、DMSOにて10 mmol/Lになるように溶解した。 さらに 0.2 mol/L Tris-HCl 緩衝液 (pH 7.5)にて50 μmol/Lになるように調製した。酵素溶液:ヒト好中球エラスターゼを、0.1%Polyoxyethylene (23) lauryl ether水溶液にて1mg/mLになるように溶解した。さらに0.2 mo/L Tris-HCl 緩衝液 (pH 7.5)にて0.5 μg/mLになるように調製した。被験物質:ジヒドロケルセチン(純度99.3%)を 2.5% エタノール溶液にて1%となるように溶解後、0.2 mol/L Tris-HCl buffer (pH 7.5)にて0.1%に希釈した。 さらにこれを、エタノールを0.25%含有した0.2 mol/L Tris-HCl buffer (pH 7.5) にて2倍の希釈系列で、0.05%、0.025%、0.0125%の被験物質溶液に調製した。
【0026】
試験は好中球エラスターゼ活性 阻害作用を正当に評価できるよう、次の要領で実施した。
1) 被験物質溶液または対照用緩衝液を、 96穴マイクロプレートの各ウェルに50 μLずつ分注 した(n = 4)。
2) 基質溶液を各ウェルに100 μLずつ添加し、混合 した 。
3) 酵素溶液を各ウェルに50 μLずつ分注 した( E )。 Blankには酵素溶液の代わりに 0.2 mol/L Tris-HCl 緩衝液 (pH 7.5) を各ウェルに 50 μLずつ添加 した (B) 。
4) 37℃で10分間反応させた。
5) 反応後、 励起波長360nm/蛍光波長460nmにおける蛍光強度を測定した。
6) 被験物質を添加しない陰性対照の阻害率を0%とみなし、被験物質による好中球エラスターゼ活性阻害率を求めた。
【0027】
次の計算式により、試験試料による好中球エラスターゼ活性阻害率を算出した 。
計算式: 好中球エラスターゼ活性阻害率(%)=(1-(S(E)- S(B))/(N(E)- N(B)))×100
S:被験物質 の蛍光強度
S(E) 酵素溶液を上記規定量添加した場合
S(B) 酵素溶液に代わり、緩衝液を添加した場合
N :陰性対照 の蛍光強度
N(E) 酵素溶液を上記規定量添加した場合
N(B) 酵素溶液に代わり、緩衝液を添加した場合
【0028】
結果
被験物質の好中球エラスターゼ活性阻害率を
図1に示した。好中球エラスターゼ活性阻害率は、添加被験物質濃度0.1%、0.05%、0.025%、0.0125%(終濃度0.025%、0.0125%、0.00625%、0.00313%)に対し、それぞれ39.0%、28.3%、19.5%、12.9%であった。被験物質ジヒドロケルセチンは陰性対照および溶媒対照との比較において、 いずれの濃度においても有意に高い好中球エラスターゼ活性阻害を示した。
【0029】
製品例1 化粧水
以下に示す処方の化粧水を常法により製造することができる。
成分 配合量(重量%)
1,3-ブチレングリコール 7.0
グリセリン 3.5
イソステアリルアルコール 0.1
ヒアルロン酸ナトリウム 0.2
POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 0.5
POE(20)ラウリルエーテル 0.5
エタノール 10.0
ペンチレングリコール 0.2
ジヒドロケルセチン 0.01
防腐剤 適量
酸化防止剤 適量
香料 適量
精製水 残余
【0030】
製品例2 健康食品
以下に示す組成の錠剤様食品を常法により製造することができる。
成分 配合量(1g中)
結晶セルロース 540mg
澱粉 240mg
ビタミンC 100mg
ジヒドロケルセチン 100mg
硬化ナタネ油 20mg