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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】異物除去鉗子
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/30 20060101AFI20240807BHJP
【FI】
A61B17/30
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020086307
(22)【出願日】2020-05-15
(65)【公開番号】P2021178152
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】505123620
【氏名又は名称】戸塚 伸吉
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 伸吉
【審査官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第2538309(CN,Y)
【文献】米国特許出願公開第2013/0245421(US,A1)
【文献】中国実用新案第207024104(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端側が接合している一対の柄部と、各前記柄部の先端に具備する収納部と、を備え、
各前記収納部は、半球面形状でありその開口面が他方の前記収納部の前記開口面に対向し、且つ前記柄部の前記先端の幅方向の両側から延出し
前記収納部の先端側に、前記開口面側に溝を有し且つ先端側が尖った尖頭部が更に具備していることを特徴とする異物除去鉗子。
【請求項2】
前記柄部の先端側である柄先部は、前記柄部の他の部位に対して屈曲している請求項1に記載の異物除去鉗子。
【請求項3】
前記開口面は、前記柄部の軸方向を長軸とする楕円形状である請求項1又は2に記載の異物除去鉗子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患部に付着する異物を除去するための異物除去鉗子に関する。更に詳しくは、角膜等の患部に付着する小さな異物を挟んだり、すくい取ったりすることが容易であり、且つ把持中に容易に異物が脱離することがない形状を備える異物除去鉗子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より角膜等の患部に付着する小さな異物を除去するために鉗子が使用されることがある(例えば、特許文献1、2を参照。)。鉗子による異物の除去は、鉗子の先端で異物を挟んで引き抜いたり、そぎ取ったりすることによって行われる。また、互いに嵌合する溝を設けたり(特許文献1を参照。)、先端を鋭利にしたり(特許文献2を参照。)することで、小さな異物を把持しやすくすることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-143558公報
【文献】特開2015-037502公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、異物が鉗子の先端に対して小さい場合には、把持中に把持方向に外の力が加わって異物がずれ、把持している途中であっても脱落することがある。また、大きな異物であっても、形状が歪であるため挟み込んでも確実に挟持できないことがあり、途中で異物の位置がずれて脱落することがある。更に、異物の脱落によって、患部に異物が再付着することがある。
【0005】
また、除去中に異物の一部が破損して小片が生じ、患部に残存する場合がある。特に角膜に付着した鉄片からなる異物は、角膜に埋没しているだけでなく、時間の経過とともに錆びて、表層の角膜上皮から実質内(ボーマン膜~角膜実質)に浸潤する。そして、単に異物を把持して取り除いても、除去中に割れた異物の一部や、脱落した錆が実質内に残ることがある。このため、異物を実質内から掘り起こしてすくい取る、えぐり取る、削り取る等を行う必要がある。更に、実質内に残った錆を針のように鋭利なものを用いて掘り起こして除去することが必要である。
このため、より小さな異物が把持しやすく、把持しているときに容易に脱落することがなく、且つ小片をすくい取りやすい鉗子が望まれている。
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、角膜等の患部に付着する小さな異物を挟んだり、すくい取ったりすることが容易であり、且つ把持中に容易に異物が脱離することがない形状を備える異物除去鉗子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.末端側が接合している一対の柄部と、各前記柄部の先端に具備する収納部と、を備え、各前記収納部は、半球面形状でありその開口面が他方の前記収納部の前記開口面に対向し、且つ前記柄部の前記先端の幅方向の両側から延出していることを特徴とする異物除去鉗子。
2.前記柄部の先端側である柄先部は、前記柄部の他の部位に対して屈曲している前記1.に記載の異物除去鉗子。
3.前記開口面は、前記柄部の軸方向を長軸とする楕円形状である前記1.又は2.に記載の異物除去鉗子。
4.前記収納部の先端側に、前記開口面側に溝を有し且つ先端側が尖った尖頭部を更に具備する前記1.乃至3のいずれか記載の異物除去鉗子。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、末端側が接合している一対の柄部と、各前記柄部の先端に具備する収納部と、を備え、各前記収納部は、半球面形状でありその開口面が他方の前記収納部の前記開口面に対向し、且つ前記柄部の前記先端の幅方向の両側から延出しているため、収納部に異物を収めた状態で把持することができるため、収納した異物が収納部から容易に脱落することがない。また、収納部の開口縁部によって、異物を挟んだり、すくい取ったり、そぎ取ったりすることができ、摘出、研磨及び掻爬等の施術を行うことができる。特に開口縁部は半球面の端部でありスプーンのようにすくい取りやすい形状であるため、異物を挟むときに患部と隙間なく密着することができ、異物が患部に埋没していても異物と患部との間に差し込んで、異物の根元側を確実に把持したり、すくい取ったり、そぎ取ったりすることができ、異物の取り残しをなくすことができる。
また、収納部を柄部先端の幅方向の両側ともはみ出すように延出しているため、柄部との間に隙間Bを設けることができ、収納部の柄部の軸に対して直交する位置の端部(図5に例示する収納部3の上下縁部32)を異物と患部との間に差し込んで異物を把持等するときに、柄部が患部に接触して施術の支障が生じないようにすることができる。
【0008】
前記柄部の先端側である柄先部は、前記柄部の他の部位に対して屈曲している場合は、施術する際に横側から患部に鉗子を向けるときに、収納部を患部に向けやすく、腕を無理な姿勢にする必要が無く、施術を容易に行うことができる。
前記開口面は、前記柄部の軸方向を長軸とする楕円形状である場合は、患部に接する開口縁部の長さを長くすることで、開口縁部により小さな異物を挟んだり、すくい取ったりすることがより容易となる。
前記収納部の先端側に、前記開口面側に溝を有し且つ先端側が尖った尖頭部を更に具備する場合は、異物を尖頭部によって掘り起こしてすくい取ったり、えぐり取ったりすることができ、異物除去の作業がより容易となる。特に、実質内に残った錆のような異物を掘り起こして除去することが可能であり、異物としての鉄片の除去と、該鉄片により生じた錆の除去とを、器具を持ち替えることなく続けて作業をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
図1】本発明の異物除去鉗子の外観を説明するための斜視図である。
図2】本発明の異物除去鉗子の外観を説明するための正面図である。
図3図1における収納部の外観を説明するための部分拡大斜視図である。
図4図1における収納部の外観を説明するための部分拡大側面図である。
図5図1における収納部の外観を説明するための部分拡大正面図である。
図6】異物除去鉗子による施術を行うときの目に対する位置を説明するための、模式斜視図である。
図7】角膜上の異物を把持している状態を説明するための模式図である。
図8】患部に埋没する異物の例を説明するための模式図である。
図9】異物を把持している状態を説明するための模式図である。
図10】異物から異物を除去した状態を説明するための模式図である。
図11】尖頭部を有する異物を異物除去鉗子の外観を説明するための部分拡大図である。
図12】尖頭部を有する異物を異物除去鉗子の外観を説明するための部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0011】
本異物除去鉗子1は図1~5に例示するように、末端側21が接合している一対の柄部2と、各柄部2の先端(柄先部23の先端)に具備する収納部3と、を備える。また、図11、12に例示するように収納部3の先端側に、尖頭部4を更に備えていてもよい。
本異物除去鉗子1が把持したりそぎ取ったりする異物7は、短径が0.05mm~2mm(好ましくは0.1mm~1mm)程度の大きさであるがこれに限られず、2mmを越える大きさであってもよい。
本異物除去鉗子1の材質は特に問わず、金属又は合成樹脂製を例示することができる。また、柄部2、収納部3及び尖頭部4は、通常同一材質であって一体に形成されるがこれに限られず、別個に作製したり、別材質としたりしてもよい。
【0012】
一対の柄部2はそれぞれ短冊又は棒状体であって、ピンセットのように各末端側が接合した形状であり、一対の柄部2を掴んだり緩めたりすることで、柄部2の先端側を閉じたり開いたりすることができる。柄部2同士の結合部位は末端であってもよいし、末端から先端側に離れていてもよい。
【0013】
柄部2の先端側である柄先部23は、前記柄部2の末端等の他の部位に対して屈曲することができる。柄先部23の屈曲の角度は、図6に例示するように角膜等の眼の異物除去を行う場合、患部8の斜め横方向に異物除去鉗子1が位置するときに患部8を遮らないように、図2に示すように、角度Aが図2の上下方向に20~34°(好ましくは20~32°、より好ましくは23~27°)とすることができる。
【0014】
収納部3は、異物と接して異物を挟んだり、そぎ取ったりする部位であって、図3~5に示すように、略半球面形状でありその開口面33が他方の収納部3の開口面33に対向する。
また、一対の柄部2を掴んで、柄部2の先端側を閉じたとき、両収納部3の開口縁部36同士が接触して略球形状となることが好ましい。
収納部3の形状は、真球面を2等分にした半球面形状に限られず、真球面の半径未満(例えば半径の4/5)の球面形状の他、長球面及び有底球面等の真球面以外の球面形状が含まれる。この例として、柄部2の柄先部23の軸方向を長軸とする長球面形状を挙げることができる。このとき、開口面33は柄部2の軸方向を長軸とする楕円形状となる。楕円の短軸及び長軸の比率は任意とすることができる。
収納部3の開口面33の大きさは、通常の異物が収まる大きさが好ましく、短径側を0.2mm~2mmを例示することができる。
収納部3は、柄部2(柄先部23)の先端の幅方向の両側から延出するように具備する(図5の幅B、B’を参照。)。収納部3の延出する幅B、B’は、0.1~1.0mmであることが好ましい。図5に例示する収納部3の上下縁部32(柄先部23の軸に直交する方向に位置する開口縁部36)が患部8に接するように異物を把持等するとき、患部8と柄部2との間に幅B、B’分の隙間を生じさせて、柄部2が患部8に接触して施術の支障が生じないようにすることができるためである。収納部3の延出する幅B、B’は、同じ長さであってもよいし、異なる長さであってもよい。
【0015】
収納部3の開口縁部36は、収納部3の開口面33に位置する開口縁部36により異物を挟み込んだり、そぎ取ったりすることができる。開口縁部36は、異物をそぎ取りやすい厚さを備えていることが好ましく、例えば通常の異物の大きさの約半分以下である0.05mm~1.0mm(好ましくは0.05mm~0.5mm)とすることができる。開口縁部36の厚みを異物の半分以下とすることで把持したり、すくい取ったり、そぎ取ったりしたときに、異物を収納部3内に収まる大きさとすることができる。尚、収納部3の底面側の厚みは開口縁部36の厚みより厚くなっていてもかまわない。
【0016】
尖頭部4は、患部内の異物を掘り起こしてすくい取ったり、えぐり取ったりするための部位である。尖頭部4は先端側が尖っており、開口面側に溝を有している形状であれば良く、例えば図11、12に示すように円錐形状の筒の一部を切り取った形状とすることができる。
尖頭部4の末端から先端までの長さFは、任意に選択することができ、通常の異物の大きさの約半分以上、且つ収納部3による把持等の作業時に患部に接触しにくい大きさである0.5~2.5mm(好ましくは1.0~1.5mm)とすることができる。尖頭部4の縁部の厚みは、異物と患部との間に尖頭部4を差し込みやすくするために、開口縁部36の厚みと同じであることが好ましい。
【0017】
本異物除去鉗子1は、主に眼球等に付着した小さな異物の把持や除去に用いられるがこれに限られず、皮膚に付着した異物の把持・除去に用いてもよいし、外耳道や鼻腔等内の異物の把持・除去に用いてもよい。
【0018】
(1)実施例1
このような異物除去鉗子の実施例を説明する。
第1の実施例の異物除去鉗子1は、金属製であり、図1及び2に示すように末端側21が接合している一対の柄部2と、各柄部2の柄先部23先端に形成されている収納部3と、を備える。柄先部23は図2に示すように、末端側21に対して約26°の角度Aで屈曲している。
収納部3は、楕円をその長軸(約1.2mm)を軸として回転した長球面を約半分に切断した形状であり、図4に示すように、その開口面33が互いに対向する向きに形成されている。
収納部3の開口縁部36の厚みは、約0.3mmであり、小さな異物7を挟んだり、そぎ取ったりすることが容易である。収納部3の上下縁部32と柄部2先端24との軸方向の幅B、B’は約0.2mmである。
【0019】
このような異物除去鉗子1は、患者の頭部側から施術を行う場合、図6に示すように患者に対して斜め横方向となる位置から患部8に向けて使用される。このとき屈曲により柄先部23が術者に対して横方向に向くため、患部8を遮らない。特に、利き手が右利きの術者が、右眼及び左眼の角膜中心に対する13時乃至17時側Dに刺さった異物に対して右手による施術が容易となる。また、角膜中心に対する19時乃至23時側Eに刺さった異物に対しては、右利きの術者が、左手に持ち替えたり、向きを反転した異物除去鉗子1’により施術が容易となる。尚、利き手が左利きの術者であっても角膜中心に対する19時乃至23時側Dに刺さった異物に対して左手とし、角膜中心に対する13時乃至17時側Eに刺さった異物に対して右手とすることで施術が容易となる。
【0020】
異物除去鉗子1は、図7及び図8に示す患部8に埋没している異物7を、図7及び図9に示すように収納部3の開口縁部36を患部8と異物7との間に差し込んですくうように把持し、図10示すように把持した状態で除去することができる。このとき、収納部3の開口縁部36の厚みが異物7の大きさに対して十分に小さいためすくいやすく、異形の異物7であってもがたつきなく把持することができる。また、収納部3は、柄部2の先端24の幅方向の両側から幅B、B’の分だけ延出するように形成されているため、柄部2と患部8表面との間に幅B、B’の分だけ隙間が生じ、開口縁部36を患部8と異物7との間に差し込んでも異物7が柄部2に接触してがたつくことがなく、把持した後にがたついて落下することがない。また、患部8から露出していた異物7を収納部3内に納めることができ、異物7が落下しないようにすることができる。
【0021】
(2)実施例2
実施例2として尖頭部4を有する異物除去鉗子を説明する。
尖頭部4を有する異物除去鉗子は、図11及び12に示すように、開口面33側に溝を有し且つ先端側が尖った円錐面の一部の形状である尖頭部4を備える。尖頭部4の末端から先端までの長さFは約1.2mmである。
このような尖頭部4は、異物7と患部8との間に尖頭部4を差し込んで異物7をすくい取ったり、えぐり取ったりすることができ、異物除去の作業がより容易となる。特に、実質内に残った錆のような異物を掘り起こして除去することが可能であり、異物としての鉄片の除去と、該鉄片により生じた錆の除去とを、器具を持ち替えることなく続けて作業をすることができる。また、尖頭部4の末端から先端までの長さFを約1.2mmとすることで、収納部3の開口縁部36を用いて異物7を把持したり、そいだりしているときに尖頭部4の先端が患部8に接触して、患部8を傷つけることがない。
【0022】
本発明は、上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、主に眼等の患部に付着する異物を除去するために広く利用される。
【符号の説明】
【0024】
1;異物除去鉗子、
2;柄部、21;末端側、23;柄先部、24;先端、
3;収納部、32;上下縁部、33;開口面、36;開口縁部、
4;尖頭部、7;異物、8;患部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12