(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】クラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物並びにその組成物の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/424 20060101AFI20240807BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20240807BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240807BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240807BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240807BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20240807BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
A61K31/424
A61K31/19
A61P43/00 121
A61P25/14
A61P25/28
A61P25/08
A61P25/00
(21)【出願番号】P 2020195293
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-09-15
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】520462919
【氏名又は名称】亞瑟瑞智科技管理顧問股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】何應瑞
(72)【発明者】
【氏名】陳建宏
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】β-lactamase inhibitors display anti-seizure properties in an invertebrate assay,Neuroscience,2010年,169,1800-1804
【文献】Effects of amoxicillin/clavulanic acid on the pharmacokinetics of valproic acid,Drug Design, Development and Therapy,2015年,9,4559-4563
【文献】Computational study of the competitive binding of valproic acid glucuronide and carbapenem antibiotics to acylpeptide hydrolase,Drug Metabolism and Pharmacokinetics,2017年,32,201-207
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラブラン酸及びバルプロ酸を含有することを特徴とする、癲癇を治療するのに用いられる組成物。
【請求項2】
クラブラン酸及びバルプロ酸を含有することを特徴とする、癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を治療するのに用いられる組成物。
【請求項3】
クラブラン酸及びバルプロ酸を需要個体に共同投与し、てんかん発作を治療するための薬物を製造するためのクラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物の使用。
【請求項4】
クラブラン酸及びバルプロ酸を需要個体に共同投与し、癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を治療するための薬物を製造するためのクラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物の使用。
【請求項5】
クラブラン酸の投与量は1日当たり0.016~10mg/kg体重であることを特徴とする請求項3又は4に記載のクラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物の使用。
【請求項6】
クラブラン酸の投与量は1日当たり0.016~4.99mg/kg体重であることを特徴とする請求項5に記載のクラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物の使用。
【請求項7】
バルプロ酸の投与量は1日当たり0.8~30mg/kg体重であることを特徴とする請求項3又は4に記載のクラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物の使用。
【請求項8】
バルプロ酸の投与量は1日当たり0.8~19.9mg/kg体重であることを特徴とする請求項7に記載のクラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物の使用。
【請求項9】
クラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物を連続的に前記需要個体に投与することを特徴とする請求項3又は4に記載のクラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物の使用。
【請求項10】
クラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物を断続的に前記需要個体に投与することを特徴とする請求項3又は4に記載のクラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物、特に癲癇、並びに/或いは癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を治療するのに用いられる組成物並びにその組成物の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癲癇(epilepsy)はてんかん発作(seizure、又はepileptic seizureと称する)を特徴とする神経性の病状(neurological medical condition)であり、多くの誘因があるが、癲癇患者の脳における異常放電(abnormal electrical activity)により、てんかん発作の症状(symptom)を齎すことが多い。
【0003】
バルプロ酸(valproic acid,化学構造は
図1に示す)は従来の抗てんかん薬(anticonvulsant)の中の第一選択治療薬(first-line treatment)であり、てんかん発作の症状を予防するのに用いられる。しかしながら、約30%の癲癇患者がバルプロ酸による治療を受けてもてんかん発作の症状を有効的に抑えることができず、さらに、バルプロ酸は吐き気(nausea)、嘔吐(vomiting)、眠気(sleepiness)、口内乾燥(dry mouth)などの副作用(side effect)が生じやすい問題を有することに加え、肝機能(liver function)に影響し、腎尿細管の損傷が発生する可能性もあった。よって、バルプロ酸を使用する患者は定期に肝機能及び腎機能の検査を受けなければならず、生活上の不便さを齎すことがあった。
【0004】
癲癇はてんかん発作の症状が生じることに加え、脳神経損傷(neuron lesion)又は神経細胞の死亡(neuronal cell death)に至ることもあり、運動障害及び認識機能障害などの症状を齎すことがあった。例えば、患者の運動協調性及びバランス能力に影響し、そして、患者の認識機能及び記憶能力にも影響することで、患者の生活の質(quality of life、略称QoL)が下がる問題があった。又、バルプロ酸などの従来の抗てんかん薬は癲癇による神経損傷を改善することができず、さらに、脳及び脊髄におけるγ―アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid、略称GABA)を増やしてしまう。γ―アミノ酪酸は抑制的神経伝達物質(inhibitory neurotransmitter)であるため、神経、行為及び認識機能を抑制し、よって、バルプロ酸などの従来の抗てんかん薬は癲癇患者の運動障害及び認識機能障害を改善することができず、かえって運動障害及び認識機能障害などの症状を悪化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】Umka Welbat et al., Nutrients. 2016 May 18;8(5) 303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
又、バルプロ酸などの従来の抗癲癇薬は連続的に薬物投与を行わなければならず、患者が服薬アドヒアランス(medication adherence)を維持することができず、医者の指示に従わない場合、てんかん発作やてんかん重積(status epilepticus)などのリスクを高める可能性があった。これに鑑みて、従来の抗癲癇薬を改善する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため、てんかん発作、並びに癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を治療するのに用いられる組成物を提供する。
【0008】
また、本発明は、てんかん発作、並びに癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を治療するのに用いられるクラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物の使用を提供する。
【0009】
本発明の癲癇を治療するのに用いられる組成物は、クラブラン酸及びバルプロ酸を含有する。また、本発明の癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を治療するのに用いられる組成物は、クラブラン酸及びバルプロ酸を含有する。
【0010】
よって、本発明の癲癇を治療するのに用いられる組成物、並びに癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を治療するのに用いられる組成物では、クラブラン酸とバルプロ酸との協同作用により、てんかん発作を予防し、てんかん発作の程度を減弱し、及び歯状回の神経細胞を新生させることができるため、癲癇、並びに癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を治療することができる効果を達成する(例えば、癲癇個体の運動協調性、及びバランス能力の損傷、物体認識能力の損傷、及び記憶能力の損傷を改善することができる)。
【0011】
本発明のクラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物の使用は、抗癲癇薬の製造に用いられ、クラブラン酸及びバルプロ酸を需要個体に共同投与することにより、需要個体のてんかん発作を治療する。または、本発明のクラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物の使用は、癲癇に関する運動障害及び認識機能障害の治療薬の製造に用いられ、クラブラン酸及びバルプロ酸を需要個体に共同投与することにより、需要個体の脳神経細胞を新生させ、需要個体の癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を治療する。
【0012】
よって、クラブラン酸と共同投与することで、バルプロ酸の投与量を減らすことができるため、肝臓や腎臓などの代謝機能を有する器官に早く且つ効率的にバルプロ酸を代謝して分解させると共に、バルプロ酸が生物の体内に過度に溜まることを避け、バルプロ酸による神経、精神上及び行為上に対する影響を減少させ、且つ、過度のバルプロ酸の投与量によって肝臓や腎臓などの代謝機能を有する器官にかかる負担を軽減することができ、副作用が生じる可能性を低減させる効果を有する。
【0013】
本発明のクラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物の使用は、クラブラン酸の投与量は1日当たり0.016~10mg/kg体重であり、好ましくは、1日当たり0.016~4.99mg/kg体重で需要個体に投与され、且つバルプロ酸の投与量は1日当たり0.8~30mg/kg体重であり、好ましくは、1日当たり0.8~19.9mg/kg体重で需要個体に投与される。よって、需要個体のてんかん発作、並びに癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を治療する効果を達成することができる。
【0014】
本発明のクラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物の使用は、クラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物を連続的に或いは断続的に前記需要個体に投与することができる。よって、需要個体のてんかん発作、並びに癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を治療する効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】試験(B)のA0~A5組のラットのてんかん発作(seizure)の程度を表す図である。
【
図4a】試験(C)のローラーを表す図(一)である。
【
図4b】試験(C)のローラーを表す図(二)である。
【
図5】試験(C)のA0~A5組のラットの運動継続時間(riding time)を表す図である。
【
図6a】試験(D)の開放空間のケージを表す図(一)である。
【
図6b】試験(D)の開放空間のケージを表す図(二)である。
【
図7】試験(D)のA0~A5組のラットの探索行動時間の百分比を表す図である。
【
図8a】試験(E)のシャトル箱を表す図(一)である。
【
図8b】試験(E)のシャトル箱を表す図(二)である。
【
図8c】試験(E)のシャトル箱を表す図(三)である。
【
図8d】試験(E)のシャトル箱を表す図(四)である。
【
図9】試験(E)のA0~A5組のラットが暗室への移動時間である反応潜時を表す図である。
【
図10】試験(F))のA0~A5組のラットの歯状回におけるBrdU陽性細胞の数を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、以下、図面を参照して説明する。本発明において「クラブラン酸(clavulanic acid)」とは
図2に示すような化学構造を有し、β-ラクラム系(β-lactam molecular)に属する。クラブラン酸は抗生物質として抗菌力が弱いが、ペニシリン系抗生物質(penicillin-group antibiotics)との合剤として使用する場合、ペニシリン不活性化をさせないように、β-ラクタマーゼ(β-lactamase)を分泌する菌の抗微生物薬耐性(antibiotic resistance)を克服することができる。
【0017】
本発明において、クラブラン酸を需要個体に投与することで、需要個体のてんかん発作(seizure)、並びに癲癇に関する運動障害(motor symptom)及び認識機能障害(cognitive impairment)を治療することができるため、抗てんかん薬の製造、又は癲癇に関する運動障害及び認識機能障害の治療薬に用いられることができる。クラブラン酸は医薬的に許容可能なキャリアとさらに組み合わせて、医薬組成物として形成されることができ、よって、クラブラン酸は例えば錠剤、カプセル剤、粉薬、粒剤または液剤など、いかなる投与に便利な形式として製造されることができる。
【0018】
本発明において、クラブラン酸は様々な適当の投与経路により前記需要個体に投与されることができ、例を挙げると、クラブラン酸は経口(orally)又は非経口(parenterally)により前記需要個体に投与されることができ、例えば、静脈内注射(intravenous injection、略称IV injection)、筋肉内注射(intramuscular injection、略称IM injection)、腹腔内注射(intraperitoneal injection、略称IP injection)、経皮投与、舌下投与又は吸入性投与により前記需要個体に投与されることができる。
【0019】
また、本発明において、クラブラン酸を1日当たり0.016~10mg/kg体重の投与量で前記需要個体に投与し、好ましくは、臨床上の投与量より低く、1日当たり0.016~4.99mg/kg体重の投与量で前記需要個体に投与する。クラブラン酸は連続的に(continuously)又は断続的に(intermittently)前記需要個体に投与することができる。詳しく述べると、クラブラン酸を24時間以下の所定時間(predetermined time period)の間隔で前記需要個体に投与すると、クラブラン酸を連続的に前記需要個体に投与することになる。又、クラブラン酸を24時間を超過する所定時間(predetermined time period)の間隔で前記需要個体に投与すると、クラブラン酸を断続的に前記需要個体に投与することになる。但し、前記の投与量及び投与頻度は前記需要個体及び投与経路に応じて異なる場合があるので、ここでは限定されない。
【0020】
さらに、本発明のクラブラン酸と従来の抗癲癇薬(即ち、バルプロ酸)とは、それらの薬理効果(pharmacological effect)が現れる期間を重ねるように前記需要個体に共同に投与されることができ、これにより、前記需要個体のてんかん発作、並びに癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を相乗的に(synergistically)治療する。詳しく述べると、クラブラン酸及びバルプロ酸を並行して(concurrently)前記需要個体に投与し(即ち、クラブラン酸及びバルプロ酸を同時に前記需要個体に投与する)、或いは、順番に(sequentially)クラブラン酸とバルプロ酸とを前記需要個体に投与し(即ち、クラブラン酸を優先して前記需要個体に投与して、クラブラン酸の薬物血中濃度(plasma drug concentration)が有効治療濃度(therapeutic drug concentration)を維持している状態のまま、バルプロ酸を前記需要個体に投与する。例えば、クラブラン酸を前記需要個体に投与した後に10分から8時間までの間に、バルプロ酸を前記需要個体に投与する)、又は、順番にバルプロ酸とクラブラン酸とを前記需要個体に投与し(バルプロ酸を優先して前記需要個体に投与して、バルプロ酸の薬物血中濃度が有効治療濃度を維持している状態のまま、クラブラン酸を前記需要個体に投与する。例えば、バルプロ酸を前記需要個体に投与した後に10分から8時間までの間に、クラブラン酸を前記需要個体に投与する)、或いは、クラブラン酸とバルプロ酸とを別々に(separately)前記需要個体に投与し(即ち、クラブラン酸を前記需要個体に投与して、クラブラン酸の薬物血中濃度が有効治療濃度より低くなった後に、バルプロ酸を前記需要個体に投与する。例えば、クラブラン酸を前記需要個体に投与してから8~12時間後に、バルプロ酸を前記需要個体に投与する)、又は、バルプロ酸とクラブラン酸とを別々に需要個体に投与する(即ち、バルプロ酸を前記需要個体に投与して、バルプロ酸の薬物血中濃度が有効治療濃度より低くなった後に、クラブラン酸を前記需要個体に投与する。例えば、バルプロ酸を前記需要個体に投与してから8~12時間後に、クラブラン酸を需要個体に投与する)。
【0021】
又、前記需要個体のてんかん発作、並びに癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を治療するために、バルプロ酸及び本発明のクラブラン酸を前記需要個体に共同に投与するとき、バルプロ酸は経口又は非経口により前記需要個体に投与されることができ、例えば、バルプロ酸は静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、経皮投与、舌下投与又は吸入性投与により、1日当たり0.8~30mg/kg体重の投与量で前記需要個体に投与されることができ、好ましくは、臨床上の投与量より低く、1日当たり0.8~19.99mg/kg体重の投与量で前記需要個体に投与される。バルプロ酸を連続的に又は断続的に前記需要個体に投与することができる。但し、前記の投与量及び投与頻度は前記需要個体及び投与経路に応じて異なる場合があるので、ここでは限定されない。
【0022】
又、本発明においてクラブラン酸はバルプロ酸と共に組成物として作製されることができ、剤形(dosage form)の調整により、クラブラン酸及びバルプロ酸は並行或いは順番或いは別々に前記需要個体に投与されることができる。例を挙げると、前記組成物は少なくとも一つの医薬的に許容可能なキャリアをさらに含み、これにより、前記需要個体にてクラブラン酸及びバルプロ酸の放出量の調整を行うことができる。例えば、リポソーム(liposome)を用いてクラブラン酸(或いはバルプロ酸)を包むことにより、クラブラン酸(或いはバルプロ酸)を徐放させることで、クラブラン酸及びバルプロ酸が順番或いは別々に投与される目的を達する。
【0023】
本発明のクラブラン酸の投与により、前記需要個体のてんかん発作、並びに癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を効果的に治療できることを、及び本発明のクラブラン酸とバルプロ酸との共同投与による前記需要個体のてんかん発作、並びに癲癇に関する運動障害及び認識機能障害の治療効果が相乗効果(synergistic effect)を有することを証明するため、以下に示す試験を行った。
【0024】
(A)癲癇ラットの誘導及び試験の設計
【0025】
本試験では雄性のWistarラット(8周齢、BioLASCO Taiwan Co.,Ltdより購入)を採用し、飼育環境は室温が21~24℃である飼育室に飼育され(照射時間及び暗黒時間がそれぞれ12時間である)、且つ食物及び水を自由に取れるようにした。
【0026】
試験の始まりの三日前、ロータロッド試験(rotarod test)によりラットの運動機能を測定し、試験の1~13日目に、2日に1回の頻度で(即ち、試験の1、3、5、7、9、11及び13日目に)1回当たり35mg/kg体重の量で腹腔内注射により、ペンチレンテトラゾール(pentylenetetrazol、略称PTZ)をラットに投与し、癲癇ラットを獲得した。試験の21日目に、再び腹腔内注射によりPTZをラットに投与した後、各組の癲癇ラットの癲癇程度を測定した。
【0027】
そして、表1に示すように、試験の7日目から、毎日、腹腔内注射によりクラブラン酸及び/又はバルプロ酸をA2~A5組の癲癇ラットに投与し、7日間(即ち、試験の7~13日目)連続して治療を行った。A0組の正常のラット及びA1の癲癇ラットに生理食塩水を投与した(1日当たり1ml/kg体重、腹腔内注射)。
【0028】
【0029】
又、試験の14日目に、ロータロッド試験によりA0~A5組のラットの運動機能を測定し、試験の15~17日目に、物体認識試験(object recognition test)によりA0~A5組のラットの物体認識能力の損傷を測定し、そして、試験の18~20日目に、受動的回避試験(passive avoidance test)によりA0~A5組のラットの記憶能力の損傷を測定した。そして、試験の22日目に、腹腔内注射により、ブロモデオキシウリジン(5'-bromo-2'-deoxyuridine,BrdU)をA0~A5組のラットに投与して、新生の細胞(proliferating cell)を標定し、試験の23日目に、A0~A5組のラットを犠牲し、歯状回(dentate gyrus)を有する組織切片を選択しBrdU染色を行い、歯状回におけるBrdU陽性細胞の数を算定した。
【0030】
(B)てんかん発作の程度
【0031】
本試験では、試験の1、3、5、7、9、11,13及び21日目に、ラシーンスコア(Racine score)によりA0~A5組のラットのてんかん発作の程度を評価した。てんかん発作の程度について6ランクに分けた。ランク1:口及び顔面の動き(mouth and facial movement)、ランク2:点頭(head nodding)、ランク3:ミオクローヌス発作(myoclonic seizure)、ランク4:前肢クローヌス(forelimb clonus)及び立ち上がり(stand on hindlimb)、ランク5:筋硬直(muscular rigidity)及び痙攣(spasm)、ランク6:死亡。
【0032】
図3に示されるように、A0組の正常のラットはランク0を維持し(
図3の“○“で示す)、A0~A5組のラットはクラブラン酸及び/又はバルプロ酸が投与される前の1、3、5、7日目に、てんかん発作の程度が段々上がり(
図3の“●“で示す)、そして、9、11、13日目に、生理食塩水を投与したA1組の癲癇ラット及び低い投与量のクラブラン酸を投与したA2組の癲癇ラットのてんかん発作の程度がランク3~4を維持し(
図3の“◎“、“▲“で示す)、高い投与量のクラブラン酸を投与したA3組の癲癇ラットのてんかん発作の程度が緩和した(
図3の“▼“で示す)。これにより、高い投与量のクラブラン酸は癲癇ラットのてんかん発作を治療することができることが示された。又、無効投与量のバルプロ酸を投与したA4組の癲癇ラットは、投与量不足のため、効果的にてんかん発作の程度を緩和することができなかった(
図3の“■“で示す)。また、低い投与量のクラブラン酸と無効投与量のバルプロ酸とを共同投与したA5組の癲癇ラットのてんかん発作の程度が顕著に減少され(
図3の“★“で示す)、且つ、その効果が単独で低い投与量のクラブラン酸を投与したA2組、及び単独で無効投与量のバルプロ酸を投与したA4組より明らかに優れ、クラブラン酸とバルプロ酸とを共同に投与することによってさらにてんかん発作の治療に対して相乗効果を有することを示した。
【0033】
また、注意すべき点は、7日に連続して治療を行った後(即ち、試験の7~13日目)、試験の14~20日目に治療を止めても、高い投与量のクラブラン酸が投与されたA3組の癲癇ラット、或いは低い投与量のクラブラン酸と無効投与量のバルプロ酸とが投与されたA5組の癲癇ラットは、それらのてんかん発作の程度(
図3の“▼“、“★“で示す)が依然として生理食塩水を投与したA1組の癲癇ラットのてんかん発作の程度より明らかに低かった(
図3の“◎“で示す)。
【0034】
(C)ロータロッド試験
【0035】
続いてロータロッド試験により、A0~A5組のラットの運動機能を測定した。詳しく言うと、試験の始まりの三日前の訓練期(training session)において、PTZの誘導を行わなかったラット(即ち、正常のラット)を試験ラットRとして、
図4aに示すローラーWの上に走らせた(ローラーの回転速度は0rpmから25rpmに加速し、1回につき6分にして、その間に5分の休憩を挟んで3回の訓練を行った)。
【0036】
試験の14日目に、A0~A5組のラットをそれぞれ試験ラットRとして回転速度が25rpmであるローラーWの上に走らせ、試験ラットRがバランスを崩してローラーから落ちるのが早ければ早いほど(
図4bに示されるように)、試験ラットRの運動協調性(coordination)、及びバランス能力(balance)の損傷が厳しいことを示した。
【0037】
図5に示されるように、A0組の正常のラットに対して生理食塩水が投与された癲癇ラット(A1組)の運動継続時間は明らかにより短く(P<0.01、A0組と比べた)、但し、低い投与量或いは高い投与量のクラブラン酸で癲癇ラットの運動継続時間は顕著に増加した(A2組はA0組と比べて差異がなく、A3組はA1組と比べて、P<0.05)。又、無効投与量のバルプロ酸は癲癇ラットの運動協調性、及びバランス能力の損傷を改善することができないが(A4組はA0組と比べて、P<0.001)、低い投与量のクラブラン酸と無効投与量のバルプロ酸とを共同に投与することによって癲癇ラットの運動協調性、及びバランス能力の損傷を改善することができた(A5組はA0組と比べて差異がない)。
【0038】
(D)物体認識試験
【0039】
試験の15~17日目に、物体認識試験によりA0~A5組の物体認識能力の損傷程度を評価した。詳しく言うと、暴露期(exposure session)のとき、試験ラットRを
図6aに示す開放空間のケージ(open box)内に5分間置き、前記開放空間のケージにおいて三つの角にそれぞれ大きさ、色、形及び材質が同様で、且つ特殊な匂いがない物体(object、以下旧物体O1、O2、O3と称する)を設置した。
【0040】
試験の17日目の試験期(test session)に同様に試験ラットRを
図6aに示す開放空間のケージ内に置き、そして、A0~A5組の試験ラットRが旧物体O1に対して探索する時間(T
O1)及び旧物体O1、O2、O3に対して探索する時間の合計(T
O1+O2+O3)をそれぞれ記録し、試験ラットRが旧物体O1に対して探索する時間の百分比((T
O1/T
O1+O2+O3)×100%)を計算した。続いて5分後、前記旧物体O1を前記旧物体O1、O2、O3と異なる大きさ、色、形及び材質を有する新物体O4に置換し(
図6b示すように)、再び試験ラットRを開放空間のケージに置き、A0~A5組の試験ラットRが新物体O4に対して探索する時間(T
O4)及び旧物体O2、O3と新物体O4に対して探索する時間の合計(T
O2+O3+O4)を記録し、測定しようとするラットRが旧物体O4に対して探索する時間の百分比((T
O4/T
O2+O3+O4)×100%)を計算した。
【0041】
図7に示されるように、A0組の正常のラットは新物体O4に対する探索行動の時間の百分比が旧物体O1に対する探索行動の時間の百分比より明らかに高く、正常のラットが環境において新物体O4を認識することができることが示された(P<0.001)。且つ、生理食塩水が投与された癲癇ラット(A1組)の試験結果により、癲癇ラットの認識能力は損傷が生じたため、前記新物体O4を認識することができなかった。又、低い投与量或いは高い投与量のクラブラン酸が投与された癲癇ラットは(A2組、A3組)環境において新物体O4を認識することができ(A2組P<0.001、A3組P<0.005)、無効投与量のバルプロ酸は癲癇ラットの認識能力の損傷を改善することができなかった(A4組)。注意すべき点は、低い投与量のクラブラン酸と無効投与量のバルプロ酸とを共同に投与することによって癲癇ラットの認識能力の損傷を改善することができ(A5組、P=0.008)、且つ、その効果が単独で低い投与量のクラブラン酸を投与したA2組、及び単独で無効投与量のバルプロ酸を投与したA4組より明らかに優れ、クラブラン酸とバルプロ酸とを共同に投与することによってさらに癲癇個体の物体認識能力の損傷の治療に対して相乗効果を有することを示した。
【0042】
(E)受動的回避試験
【0043】
試験の18~20日目に、A0~A5組のラットの記憶能力の損傷程度を評価するために、
図8a~8dに示すシャトル箱(shuttle box)で受動的回避試験を行った。
【0044】
シャトル箱は摺動扉D(guillotine door)を介して明室C1(light chamber)と暗室C2(dark chamber)とを繋げ、まず、探索期(exploration session)に、
図8aに示すように、摺動扉Dを開けて試験ラットRを暗室C2に置き、試験ラットRが明室C1と暗室C2とを自由に探索することができるようにした。
【0045】
学習期(learning session)に、摺動扉Dを閉めて
図8bに示すように、試験ラットRを明室C1に置き、そして、30秒後摺動扉Dを開け、試験ラットRが強い背光性(photophobism)を有するため、
図8cに示すように、すぐに暗室C2へ移動し、その時、
図8dに示すように、すぐに摺動扉Dを閉めて暗室C2に移動した試験ラットRに電気刺激S(foot shock)を与えた。
【0046】
24時間の待つ期間(retention session)を経た後、同様に
図8bに示すように、試験ラットRを明室C1に置き、摺動扉Dを開け、その試験ラットRが暗室C2への移動時間である反応潜時(latency)を記録し、反応潜時が短いほど試験ラットRの記憶能力の損傷が厳しいことを示した。
【0047】
図9に示すように、A0組の正常のラットと比べて、生理食塩水が投与された癲癇ラット(A1組)が明らかに短い反応潜時を有し(A0組と比べて、P<0.01)、低い投与量のクラブラン酸が投与された癲癇ラット(A2組)の反応潜時が短く(A0組と比べて、P<0.05)、無効投与量のバルプロ酸により癲癇ラットの記憶能力の損傷を改善することができないが(A4組はA0組と比べて、P<0.05)、低い投与量のクラブラン酸と無効投与量のバルプロ酸とを共同に投与することによって癲癇ラットの記憶能力の損傷を改善することができ(A5組がA1組と比べて、P<0.001、A5組がA2、A4組と比べて、P<0.01)、クラブラン酸とバルプロ酸とを共同に投与することによってさらに癲癇個体の記憶能力の損傷の治療に対して相乗効果を有することを示した。
【0048】
(F)組織病理学の分析
【0049】
試験の22日目に、腹腔内注射により、ブロモデオキシウリジン(5'-bromo-2'-deoxyuridine,BrdU)を使用して新生の細胞を標定し、そして試験の23日目に、A1~A5組の試験ラット犠牲にした後、大脳の冠状切断(coronal section)を行い、歯状回(dentate gyrus)を有する組織切片を選択しBrdU染色を行い、歯状回においてBrdU陽性細胞の数を算定した。その結果を
図10に示す。
【0050】
図10に示すように、A0組の正常のラットと比べて、生理食塩水が投与された癲癇ラット(A1組)のBrdU陽性細胞の数が顕著に下がり(A0組と比べて、P<0.05)、神経細胞の新生機能の損傷を示した。そして、無効投与量のバルプロ酸(A4組)によって神経細胞の新生機能の損傷を改善することができなかった(A0組と比べて、P<0.05)。但し、低い投与量或いは高い投与量のクラブラン酸を投与された癲癇ラットであれ(A2、A3組)、低い投与量のクラブラン酸と無効投与量のバルプロ酸とを共同に投与された癲癇ラットであれ(A5組)、いずれもBrdU陽性細胞の数を正常に回復させることができた(A0組と比べて差異がない)。
【0051】
なお、体表面積(body surface area、略称BSA)の投与量転換(dose translation)の式(Shannon R.S. et al. (2007), FASEB J., 22: 659-661)によってさらに前記の投与量を算出し、クラブラン酸とバルプロ酸とを共同に投与する際に、クラブラン酸の投与量は1日当たり0.016~10mg/kg体重であり、バルプロ酸の投与量は1日当たり0.8~30mg/kg体重であり、好ましくは、クラブラン酸の投与量は臨床上の投与量より低く、1日当たり0.016~4.99mg/kg体重であり、且つバルプロ酸の投与量は臨床上の投与量より低く、1日当たり0.8~19.99mg/kg体重であることが判明する。
【0052】
総合すると、本発明の癲癇を治療するのに用いられる組成物、並びに癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を治療するのに用いられる組成物では、クラブラン酸とバルプロ酸との協同作用により、てんかん発作を予防し、てんかん発作の程度を減弱させ、及び歯状回の神経細胞を新生させることができるため、癲癇、並びに癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を治療することができる効果を達成する(例えば、癲癇個体の運動協調性、及びバランス能力の損傷、物体認識能力の損傷、及び記憶能力の損傷を改善することができる)。
【0053】
さらに、クラブラン酸と共に投与することで、バルプロ酸の投与量を減らすことができるため、肝臓や腎臓などの代謝機能を有する器官に早く且つ効率的にバルプロ酸を代謝して分解させると共に、バルプロ酸が生物の体内に過度に溜まることを避け、バルプロ酸による神経、精神上及び行為上に対する影響を減少させ、且つ、過度のバルプロ酸の投与量によって肝臓や腎臓などの代謝機能を有する器官にかかる負担を軽減することができ、副作用が生じる可能性を低減させる効果を有する。
【0054】
なお、本発明は連続的に薬物投与を行わなければならない従来の抗癲癇薬に対して、単独でクラブラン酸を投与することであれ、或いは、クラブラン酸とバルプロ酸とを共同に投与することであれ、治療が止まっても依然として優れたてんかん発作抑制効果を維持することができると共に、同様に癲癇に関する運動障害及び認識機能障害を改善することができる効果を有する。
【0055】
注意すべき点は、薬物での治療方法の開発に関して、最終的に臨床試験を行い、患者に対して有効性を検証しなければならず、また、患者の安全性及び権益を考慮する上、患者が使用している薬物をすぐに止めさせるわけにはいかないため、臨床試験を行う際に、被験薬と患者が使用している薬物とを併用することになる(即ち、add-on study)が、それに対して、本発明ではクラブラン酸及びバルプロ酸を含有する組成物の使用はその併用の検証結果であり、本発明の効果である。
【0056】
本発明は、その精神及び必須の特徴事項から逸脱することなく他のやり方で実施することができる。従って、本明細書に記載した実施形態は例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0057】
C1 明室
C2 暗室
D 摺動扉
O1、O2、O3 旧物体
O4 新物体
R 試験ラット
S 電気刺激
W ローラー