(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】免疫抑制性材料およびこれに関連する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/69 20170101AFI20240807BHJP
A61K 47/58 20170101ALI20240807BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240807BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240807BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240807BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20240807BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240807BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240807BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240807BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20240807BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240807BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20240807BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20240807BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240807BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240807BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240807BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20240807BHJP
A61L 27/04 20060101ALI20240807BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20240807BHJP
A61L 27/02 20060101ALI20240807BHJP
A61L 27/08 20060101ALI20240807BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240807BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20240807BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240807BHJP
C07F 9/09 20060101ALI20240807BHJP
C08F 292/00 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
A61K47/69
A61K47/58
A61K47/02
A61K47/04
A61K9/14
A61K9/127
A61K45/00
A61K35/12
A61K35/76
A61K35/74 A
A61L27/16
A61L27/14
A61L27/40
A61L27/22
A61L27/20
A61L27/54
A61L27/52
A61L27/04
A61L27/10
A61L27/02
A61L27/08
A61L27/38
A61L27/50
A61P37/06
C07F9/09 V
C08F292/00
(21)【出願番号】P 2020551378
(86)(22)【出願日】2019-03-25
(86)【国際出願番号】 US2019023921
(87)【国際公開番号】W WO2019183637
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-24
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514104933
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジアン,シャオイ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ボーウェン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイン,プリイェシュ
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-096567(JP,A)
【文献】特開平11-193247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-47/69
9/00-9/72
A61L 15/00-33/18
A61P 1/00-43/00
C07F 9/09
C08F 292/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロスケールまたはナノスケールの大きさを有する粒子であって、前記粒子に結合した1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーを含み、
前記1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーは、下記式:
【化1】
式中、
*は、この繰り返し単位と前記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーもしくはコポリマーの末端基を示し;
Bは、ポリマー骨格であり;
L
2は、式中のxがそれぞれ1~20から独立して選択される整数である、-(CH
2)
x-、-C(=O)NH(CH
2)
x-、-C(=O)O(CH
2)
x-、-C(=O)OC(=O)O(CH
2)
x-、-(CH
2)
x-O-(CH
2)
x-、および-(CH
2)
x-S-S-(CH
2)
x-から選択されるリンカー基であり;
R
2およびR
3は、水素、C
1-C
20アルキル、およびC
6-C
12アリールからなる群より独立して選択され;
mは1~20の整数であり;
pは1~20の整数であり;かつ
nは約10~約500の整数である
の繰り返し単位を有する、粒子。
【請求項2】
前記粒子は、マイクロスケールの大きさを有する、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記粒子は、ナノスケールの大きさを有する、請求項1に記載の粒子。
【請求項4】
前記粒子は生体分子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項5】
前記生体分子は、タンパク質、核酸、糖タンパク質、脂質、またはプロテオグリカンである、請求項4に記載の粒子。
【請求項6】
前記生体分子は、酵素、シグナル伝達タンパク質、止血もしくは血栓症タンパク質、ワクチン、補体系タンパク質、または、抗体またはその機能的断片もしくは特性部分から選択されるタンパク質である、請求項4に記載の粒子。
【請求項7】
前記生体分子は小分子治療剤である、請求項4に記載の粒子。
【請求項8】
前記粒子は薬物送達ビヒクルである、請求項1~3のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項9】
前記薬物送達ビヒクルは、ミセル、リポソーム、またはポリマーソームである、請求項8に記載の粒子。
【請求項10】
前記粒子は、細胞、ウイルス、または細菌である、請求項1~3のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項11】
前記粒子はハイドロゲルである、請求項1~3のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項12】
前記ハイドロゲルは、ミクロゲルまたはナノゲルである、請求項11に記載の粒子。
【請求項13】
前記粒子は、金属、金属酸化物、セラミック、合成ポリマー、天然ポリマー、結晶、半導体材料、グラフェン、酸化グラフェン、酸化鉄、またはシリカ、または量子ドットである、請求項1~3のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項14】
前記1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーは、前記粒子からグラフトしている、請求項1~13のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項15】
前記1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーは、前記粒子にグラフトしている、請求項1~13のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項16】
前記1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーは、下記式:
【化2】
式中、
*は、この繰り返し単位と前記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーもしくはコポリマーの末端基を示し;
R
1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C
1-C
20アルキル、およびC
6-C
12アリールからなる群より選択され、
R
2およびR
3は、水素、C
1-C
20アルキル、およびC
6-C
12アリールからなる群より独立して選択され;
R
4およびR
5は、重合性官能基の重合残基であり;
Lは、CまたはSiであり;
L
2は、式中のxがそれぞれ1~20から独立して選択される整数である、-(CH
2)
x-、-C(=O)NH(CH
2)
x-、-C(=O)O(CH
2)
x-、-C(=O)OC(=O)O(CH
2)
x-、-(CH
2)
x-O-(CH
2)
x-、および-(CH
2)
x-S-S-(CH
2)
x-から選択されるリンカー基であり;
L
3およびL
4は、式中のxがそれぞれ0~20から独立して選択される整数である、-(CH
2)
x-、-C(=O)NH(CH
2)
x-、-C(=O)O(CH
2)
x-、-C(=O)OC(=O)O(CH
2)
x-、-(CH
2)
x-O-(CH
2)
x-、および-(CH
2)
x-S-S-(CH
2)
x-から独立して選択され;
mは1~20の整数であり;
pは1~20の整数であり;かつ
nは約10~約500の整数である
の繰り返し単位を有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項17】
前記1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーは、下記式:
【化3】
式中、
*は、この繰り返し単位と前記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーもしくはコポリマーの末端基を示し;
R
1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C
1-C
20アルキル、およびC
6-C
12アリールからなる群より選択され;
R
2およびR
3は、水素およびC
1-C
6アルキルから独立して選択され;
XはOまたはNHであり、
nは1~20の整数であり;
mは1~20の整数であり;
pは1~20の整数であり;かつ
aは約10~約500の整数である
の繰り返し単位を有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項18】
粒子に免疫抑制性を付与するための方法であって、1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーを前記粒子に共有結合させることを含み、
前記1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーは、下記式:
【化4】
式中、
*は、この繰り返し単位と前記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーもしくはコポリマーの末端基を示し;
Bは、ポリマー骨格であり;
L
2は、式中のxがそれぞれ1~20から独立して選択される整数である、-(CH
2)
x-、-C(=O)NH(CH
2)
x-、-C(=O)O(CH
2)
x-、-C(=O)OC(=O)O(CH
2)
x-、-(CH
2)
x-O-(CH
2)
x-、および-(CH
2)
x-S-S-(CH
2)
x-から選択されるリンカー基であり;
R
2およびR
3は、水素、C
1-C
20アルキル、およびC
6-C
12アリールからなる群より独立して選択され;
mは1~20の整数であり;
pは1~20の整数であり;かつ
nは約10~約500の整数である
の繰り返し単位を有する、方法。
【請求項19】
下記式を有するZPSモノマー:
【化5】
式中、
R
1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C
1-C
20アルキル、およびC
6-C
12アリールからなる群より選択され;
R
2およびR
3は、水素、C
1-C
20アルキル、およびC
6-C
12アリールからなる群より独立して選択され;
R
4およびR
5は、付加、縮合、またはフリーラジカル重合による重合にとって好適な官能基から独立して選択され;
Lは、CまたはSiであり;
L
2は、式中のxが1~20の整数である、-(CH
2)
x-、-C(=O)NH(CH
2)
x-、-C(=O)O(CH
2)
x-から独立して選択され;
L
3およびL
4は、式中のxがそれぞれ0~20から独立して選択される整数である、-(CH
2)
x-、-C(=O)NH(CH
2)
x-、-C(=O)O(CH
2)
x-、-C(=O)OC(=O)O(CH
2)
x-、-(CH
2)
x-O-(CH
2)
x-、および-(CH
2)
x-S-S-(CH
2)
x-から独立して選択され;
mは1~20の整数であり;かつ
pは1~20の整数である。
【請求項20】
下記式を有するZPSモノマー:
【化6】
式中、
R
1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C
1-C
20アルキル、およびC
6-C
12アリールからなる群より選択され、
R
2およびR
3は、水素およびC
1-C
6アルキルから独立して選択され、
XはOまたはNHであり、
nは1~20の整数であり、
mは1~20の整数であり、かつ
pは1~20の整数である。
【請求項21】
下記式の繰り返し単位を有するZPSポリマーまたはコポリマー:
【化7】
式中、
*は、この繰り返し単位と前記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーもしくはコポリマーの末端基を示し;
R
1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C
1-C
20アルキル、およびC
6-C
12アリールからなる群より選択され;
R
2およびR
3は、水素、C
1-C
20アルキル、およびC
6-C
12アリールからなる群より独立して選択され;
R
4およびR
5は、付加、縮合、またはフリーラジカル重合による重合にとって好適な官能基の重合残基から独立して選択され;
Lは、CまたはSiであり;
L
2は、式中のxが1~20の整数である、-(CH
2)
x-、-C(=O)NH(CH
2)
x-、-C(=O)O(CH
2)
x-から独立して選択され;
L
3およびL
4は、式中のxがそれぞれ0~20から独立して選択される整数である、-(CH
2)
x-、-C(=O)NH(CH
2)
x-、-C(=O)O(CH
2)
x-、-C(=O)OC(=O)O(CH
2)
x-、-(CH
2)
x-O-(CH
2)
x-、および-(CH
2)
x-S-S-(CH
2)
x-から独立して選択され;
mは1~20の整数であり;
pは1~20の整数であり;かつ
nは約10~約500の整数である。
【請求項22】
下記式の繰り返し単位を有するZPSポリマーまたはコポリマー:
【化8】
式中、
*は、この繰り返し単位と前記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーもしくはコポリマーの末端基を示し;
R
1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C
1-C
20アルキル、およびC
6-C
12アリールからなる群より選択され;
R
2およびR
3は、水素およびC
1-C
6アルキルから独立して選択され;
XはOまたはNHであり;
nは1~20の整数であり;
mは1~20の整数であり;
pは1~20の整数であり;かつ
aは約10~約500の整数である。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願との相互参照
本願は、2018年3月23日提出の米国出願6第62/647,534号の利益を主張し、この出願の全体を引用により本明細書に明白に援用する。
【0002】
政府のライセンス権に関して
本発明は、政府の資金援助を受けて実施された(助成金第HDTRA1-13-1-0044号(アメリカ国防脅威削減局)および助成金第DMR-1708436号(アメリカ国立科学財団))。政府は、本発明について一定の権利を有する。
【0003】
発明の背景
in vivo用途を目的とした生体材料を考えるとき、まず最も重要な要件は人体との生体適合性である。不活性な生体材料だけでなく、免疫応答を活発に制御および調節できる機能性生体材料も、ひとつのアプローチである。アポトーシス細胞は、その表面にホスファチジルセリン(PS)を露出させることによって、マクロファージおよび樹状細胞などの免疫細胞を免疫抑制性の表現型へと指向させ、その結果、炎症活性化領域においてさえ免疫寛容を誘発できることが見いだされている。
【0004】
有利な非ファウリング特性を有する改善された非ファウリング性ポリマー、ならびにこうしたポリマーを含む組成物および材料の開発が求められている。本発明は、このニーズを満たすことを目的とし、関連するさらなる利点を提供する。
【0005】
発明の概要
本発明は、双性イオン性ホスファチジルセリン(ZPS)モノマー、ZPSポリマー、ならびにZPSコポリマー、このようなZPSモノマー、ZPSポリマー、およびZPSコポリマーの作製方法、ZPSポリマーおよびZPSコポリマーを含む組成物および材料、ならびにZPSモノマー、ZPSポリマー、およびZPSコポリマーの使用方法を提供する。
【0006】
本発明はまた、非双性イオン性(中性)ホスファチジルセリン(NZPS)モノマー、ポリマー、コポリマー、これらを含む組成物および材料、ならびにこれらの作製および使用方法をも提供する。
【0007】
一態様において、本発明は、1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーを含む粒子であって、当該ポリマーが当該粒子に結合している粒子を提供する。一実施形態において、粒子は、マイクロスケールまたはナノスケールの大きさを有し、当該粒子に結合した1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーを含む。特定の実施形態において、ポリマーは、粒子に共有結合している。他の実施形態において、ポリマーは、粒子に物理的に吸着している。本明細書中において使用される場合、用語「マイクロスケールの大きさ」は、直径約1μm以上の粒子を指す。本明細書中において使用される場合、用語「ナノスケールの大きさ」は、直径1μm未満の粒子を指す。
【0008】
特定の実施形態において、粒子は生体分子であり、上記ポリマーを含むように修飾された生体分子はバイオコンジュゲートである。本発明において有用である代表的な生体分子は、タンパク質、核酸、糖タンパク質、脂質、およびプロテオグリカンを含む。代表的なタンパク質は、酵素、シグナル伝達タンパク質(たとえば、ホルモン、サイトカイン、調節性タンパク質、インスリン、PD-1/PD-L1/2阻害剤)、止血もしくは血栓症タンパク質、ワクチン、補体系タンパク質、および抗体またはその機能的断片もしくは特性部分を含む。特定の実施形態において、生体分子は、PEG化された生体分子(たとえば、1つ以上のポリ(エチレングリコール)を含むように修飾されたタンパク質)などの、予め修飾された生体分子である。
【0009】
他の実施形態において、生体分子は、小分子治療剤(分子量が約1000g/モル未満、好ましくは約800g/モル未満である炭素系治療剤)である。
【0010】
さらなる実施形態において、粒子は、薬物送達ビヒクルである。代表的な薬物送達ビヒクルは、ミセル、リポソーム、およびポリマーソーム(たとえば、1つ以上の治療剤および/または診断剤を含有)を含む。
【0011】
特定の実施形態において、粒子は、細胞、ウイルス、または細菌である。
【0012】
他の実施形態において、粒子は、ミクロゲルまたはナノゲルなどのハイドロゲルである。
【0013】
さらなる実施形態において、粒子は、金属、金属酸化物、セラミック、合成ポリマー、天然ポリマー、結晶、半導体材料、グラフェン、酸化グラフェン、酸化鉄、またはシリカ、または量子ドットである。
【0014】
特定の実施形態において、粒子は、当該粒子からグラフトした1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーを有する。他の実施形態において、粒子は、当該粒子にグラフトした1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーを有する。
【0015】
特定の実施形態において、粒子は、下記式:
【0016】
【0017】
式中、
*は、この繰り返し単位と上記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーもしくはコポリマーの末端基を示し;
Bは、ポリマー骨格であり;
L2は、式中のxがそれぞれ1~20から独立して選択される整数である、-(CH2)x-、-C(=O)NH(CH2)x-、-C(=O)O(CH2)x-、-C(=O)OC(=O)O(CH2)x-、-(CH2)x-O-(CH2)x-、および-(CH2)x-S-S-(CH2)x-から選択されるリンカー基であり;
R2およびR3は、水素、C1-C20アルキル、およびC6-C12アリールからなる群より独立して選択され;
mは1~20の整数であり;
pは1~20の整数であり;かつ
nは約10~約500の整数である
の繰り返し単位を有する1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーを含む。
【0018】
他の実施形態において、粒子は、下記式:
【0019】
【0020】
式中、
*は、この繰り返し単位と上記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーもしくはコポリマーの末端基を示し;
R1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C1-C20アルキル、およびC6-C12アリールからなる群より選択され、
R2およびR3は、水素、C1-C20アルキル、およびC6-C12アリールからなる群より独立して選択される、または、R2およびR3は窒素と一緒に環を形成し;
R4およびR5は、重合性官能基の重合残基であり;
Lは、CまたはSiであり;
L2は、式中のxがそれぞれ1~20から独立して選択される整数である、-(CH2)x-、-C(=O)NH(CH2)x-、-C(=O)O(CH2)x-、-C(=O)OC(=O)O(CH2)x-、-(CH2)x-O-(CH2)x-、および-(CH2)x-S-S-(CH2)x-から選択されるリンカー基であり;
L3およびL4は、式中のxがそれぞれ0~20から独立して選択される整数である、-(CH2)x-、-C(=O)NH(CH2)x-、-C(=O)O(CH2)x-、-C(=O)OC(=O)O(CH2)x-、-(CH2)x-O-(CH2)x-、および-(CH2)x-S-S-(CH2)x-から独立して選択され;
mは1~20の整数であり;
pは1~20の整数であり;かつ
nは約10~約500の整数である
の繰り返し単位を有する1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーを含む。
【0021】
さらなる実施形態において、粒子は、下記式:
【0022】
【0023】
式中、
*は、この繰り返し単位と上記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーもしくはコポリマーの末端基を示し;
R1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C1-C20アルキル、およびC6-C12アリールからなる群より選択され;
R2およびR3は、水素およびC1-C6アルキルから独立して選択される、または、R2およびR3は窒素と一緒に環を形成し;
XはOまたはNHであり、
nは1~20の整数であり;
mは1~20の整数であり;
pは1~20の整数であり;かつ
aは約10~約500の整数である
の繰り返し単位を有する1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーを含む。
【0024】
別の一態様において、本発明は、粒子に免疫抑制性を付与するための方法を提供する。一実施形態において、当該方法は、1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーを粒子に共有結合させることを含む。
【0025】
別の一態様において、本発明は、1つ以上の双性イオン性ホスファチジルセリンポリマーが共有結合した基体表面を提供する。
【0026】
他の態様において、本発明はまた、マイクロスケールまたはナノスケールの大きさを有する粒子であって、当該粒子に共有結合した1つ以上の中性(非双性イオン性)ホスファチジルセリンポリマーを含む粒子と、粒子に免疫抑制性を付与するための方法であって、1つ以上の中性(非双性イオン性)ホスファチジルセリンポリマーを粒子に共有結合させることを含む方法と、1つ以上の中性(非双性イオン性)ホスファチジルセリンポリマーが共有結合した基体表面と、をも提供する。
【0027】
さらなる一態様において、本発明は、ZPSモノマーを提供する。こうした実施形態において、当該モノマーは、双性イオン性ホスファチジルセリン部位に共有結合した重合性部位を含む。
【0028】
一実施形態において、ZPSモノマーは、下記式を有する。
【0029】
【0030】
式中、
R1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C1-C20アルキル、およびC6-C12アリールからなる群より選択され;
R2およびR3は、水素、C1-C20アルキル、およびC6-C12アリールからなる群より独立して選択される、または、R2およびR3は窒素と一緒に環を形成し;
R4およびR5は、付加、縮合、またはフリーラジカル重合による重合にとって好適な官能基から独立して選択され;
Lは、CまたはSiであり;
L2は、式中のxが1~20の整数である、-(CH2)x-、-C(=O)NH(CH2)x-、-C(=O)O(CH2)x-から独立して選択され;
L3およびL4は、式中のxがそれぞれ0~20から独立して選択される整数である、-(CH2)x-、-C(=O)NH(CH2)x-、-C(=O)O(CH2)x-、-C(=O)OC(=O)O(CH2)x-、-(CH2)x-O-(CH2)x-、および-(CH2)x-S-S-(CH2)x-から独立して選択され;
mは1~20の整数であり;かつ
pは1~20の整数である。
【0031】
別の一実施形態において、ZPSモノマーは、下記式を有する。
【0032】
【0033】
式中、
R1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C1-C20アルキル、およびC6-C12アリールからなる群より選択され、
R2およびR3は、水素およびC1-C6アルキルから独立して選択される、または、R2およびR3は窒素と一緒に環を形成し、
XはOまたはNHであり、
nは1~20の整数であり、
mは1~20の整数であり、かつ
pは1~20の整数である。
【0034】
別の一態様において、本発明は、ZPSポリマーおよびコポリマーを提供する。こうした実施形態において、ZPSポリマーまたはコポリマーは繰り返し単位を有し、1つ以上の繰り返し単位は、双性イオン性ホスファチジルセリン部位を含む。特定の実施形態において、双性イオン性ホスファチジルセリン部位は、ポリマー骨格からペンダント状に伸びている。他の実施形態において、双性イオン性ホスファチジルセリン部位は、ポリマー骨格の構成要素である(たとえば、双性イオン性ホスファチジルセリン部位の一部がポリマー骨格中にある)。
【0035】
特定の実施形態において、ZPSポリマーまたはコポリマーは、下記式:
【0036】
【0037】
式中、
*は、この繰り返し単位と上記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーもしくはコポリマーの末端基を示し;
Bは、ポリマー骨格であり;
L2は、ZPS部位を上記骨格に繋ぐリンカー基であり、代表的な基は、式中のxがそれぞれ1~20から独立して選択される整数である、-(CH2)x-、-C(=O)NH(CH2)x-、-C(=O)O(CH2)x-、-C(=O)OC(=O)O(CH2)x-、-(CH2)x-O-(CH2)x-、および-(CH2)x-S-S-(CH2)x-を含み;
R2およびR3は、水素、C1-C20アルキル、およびC6-C12アリールからなる群より独立して選択される、または、R2およびR3は窒素と一緒に環を形成し;
mは1~20の整数であり;
pは1~20の整数であり;かつ
nは約10~約500の整数である
の繰り返し単位を含む。
【0038】
他の実施形態において、ZPSポリマーまたはコポリマーは、下記式:
【0039】
【0040】
式中、
*は、この繰り返し単位と上記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーもしくはコポリマーの末端基を示し;
R1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C1-C20アルキル、およびC6-C12アリールからなる群より選択され;
R2およびR3は、水素、C1-C20アルキル、およびC6-C12アリールからなる群より独立して選択される、または、R2およびR3は窒素と一緒に環を形成し;
R4およびR5は、付加、縮合、またはフリーラジカル重合による重合にとって好適な官能基の重合残基から独立して選択され;
Lは、CまたはSiであり;
L2は、式中のxが1~20の整数である、-(CH2)x-、-C(=O)NH(CH2)x-、-C(=O)O(CH2)x-から独立して選択され;
L3およびL4は、式中のxがそれぞれ0~20から独立して選択される整数である、-(CH2)x-、-C(=O)NH(CH2)x-、-C(=O)O(CH2)x-、-C(=O)OC(=O)O(CH2)x-、-(CH2)x-O-(CH2)x-、および-(CH2)x-S-S-(CH2)x-から独立して選択され;
mは1~20の整数であり;
pは1~20の整数であり;かつ
nは約10~約500の整数である
の繰り返し単位を含む。
【0041】
さらなる実施形態において、ZPSポリマーまたはコポリマーは、下記式:
【0042】
【0043】
式中、
*は、この繰り返し単位と上記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーもしくはコポリマーの末端基を示し;
R1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C1-C20アルキル、およびC6-C12アリールからなる群より選択され;
R2およびR3は、水素およびC1-C6アルキルから独立して選択される、または、R2およびR3は窒素と一緒に環を形成し;
XはOまたはNHであり;
nは1~20の整数であり;
mは1~20の整数であり;
pは1~20の整数であり;かつ
aは約10~約500の整数である
の繰り返し単位を含む。
図面の説明
上述される本発明の態様、および本発明の付随的な利点の多くは、下記の詳細な説明と添付の図面とを参照することによって理解が深まるにつれて、より容易に認識される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】MPC、NZPS、およびZPSハイドロゲル表面と、コントロールであるTCPSとについての、ELSIAにより測定した相対的なフィブリノゲン吸着(%)の比較である。
【
図2A】多様な濃度(10、25、50、100、200、1000μg/ml)のMPC、NZPS、またはZPSナノゲル溶液で18時間処置し、続いてLPS(100ng/mL)による刺激を48時間行なったRAW264.7マクロファージ(10
5個/ウェル)からの、上清中へのTNF-α分泌のレベルを、ELISAにより測定したものの比較である。
【
図2B】多様な濃度(0、10、25、50、100、200μg/ml)のアネキシンV溶液と共に6時間プレインキュベートしておいたMPC、NZPS、またはZPSナノゲル溶液(100μg/ml)で18時間処置し、続いてLPS(100ng/mL)による刺激を48時間行なったRAW264.7マクロファージ(10
5個/ウェル)からの、上清中へのTNF-α分泌のレベルを、ELISAにより測定したものの比較である。
【
図2C】FITC-BSAを封入しているMPC、NZPS、およびZPSナノゲルと共にRAW264.7マクロファージ(10
5個/ウェル)を30、60、120、および180分間インキュベートし、続いて、当該細胞を洗浄および溶解して、回収した蛍光を検出した際の、回収された蛍光を比較したものである。
【
図3A】天然ウリカーゼ、MPC-ウリカーゼ、NZPS-ウリカーゼ、およびZPS-ウリカーゼコンジュゲートと共に72時間インキュベートしたDC2.4樹状細胞と、ブランクコントロールとを、フローサイトメトリーのために染色したものについての、CD40/CD80の比較である。 (B)未成熟(CD40- CD80-)である樹状細胞の割合の概要。(C)上清中へのTGF-ベータの分泌をELISAキットで検出した。
【
図3B】
図3A中に記載される樹状細胞について、未成熟(CD40- CD80-)である樹状細胞の割合の比較である。
【
図3C】
図3A中に記載される樹状細胞について、ELISAにより測定したTGF-ベータ分泌の比較である。
【
図4A】マウスへの1回目(4A)および3回目(4B)の注射後の天然ウリカーゼ、ZPS-ウリカーゼ、NZPS-ウリカーゼ、MPC-ウリカーゼコンジュゲートの循環時間の比較である。
【
図4B】マウスへの1回目(4A)および3回目(4B)の注射後の天然ウリカーゼ、ZPS-ウリカーゼ、NZPS-ウリカーゼ、MPC-ウリカーゼコンジュゲートの循環時間の比較である。
【
図4C】ウリカーゼまたはウリカーゼコンジュゲートに特異的なIgM(4C)およびIgG(4D)の検出を比較している。21日目にマウスを犠牲死させ、血清を採取して、ウリカーゼまたはウリカーゼコンジュゲートに特異的なIgMおよびIgGをELISA試験によって検出した。
【
図4D】ウリカーゼまたはウリカーゼコンジュゲートに特異的なIgM(4C)およびIgG(4D)の検出を比較している。21日目にマウスを犠牲死させ、血清を採取して、ウリカーゼまたはウリカーゼコンジュゲートに特異的なIgMおよびIgGをELISA試験によって検出した。
【
図4E】天然ウリカーゼ、ZPS-ウリカーゼ、NZPS-ウリカーゼ、およびMPC-ウリカーゼコンジュゲートでの72時間の処置後に染色してフローサイトメトリーに供したマウスCD4+ CD25+脾細胞に含まれるTreg表現型(Foxp3+)細胞を、ブランクコントロールの場合と比較したものである。CD4+ CD25+脾細胞に含まれるTreg表現型(Foxp3+)細胞の割合の概要。
【
図4F】
図4E中に記載されるとおりに処置したマウスのCD4+ CD25+細胞に含まれるTregの割合(%)を比較したものである。
【0045】
発明の詳細な説明
一態様において、本発明は、双性イオン性ホスファチジルセリン(ZPS)モノマー、ZPSポリマー、ならびにZPSコポリマー、このようなZPSモノマー、ZPSポリマー、およびZPSコポリマーの作製方法、ZPSポリマーおよびZPSコポリマーを含む組成物および材料、ならびにZPSモノマー、ZPSポリマー、およびZPSコポリマーの使用方法を提供する。
【0046】
本明細書中において使用される場合、用語「双性イオン性ホスファチジルセリンモノマー」または「ZPSモノマー」は、ホスファチジルセリン部位(NH2-CH(-CH2O-P(=O)(O-))-CO2Hおよびそのイオン型)とさらにカチオン中心(たとえば-N+(Ra)(Rb)-、式中、RaおよびRbは独立してHまたはC1-C3アルキルである)とを含むホモポリマーまたはコポリマーの重合性モノマーまたはペンダント基を指す。ホモポリマーまたはコポリマーのモノマーまたはペンダント基は、カチオン中心であるNとアニオン中心であるリン酸とを有しているために、双性イオン性である。
【0047】
代表的なZPSモノマーは、式(I)を有する。
【0048】
【0049】
式中、特定の実施形態において、R1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C1-C20アルキル(好ましくはC1-C6アルキル)、およびC6-C12アリールからなる群より選択され、R2およびR3は、水素およびC1-C6アルキルから独立して選択される、または、R2およびR3は窒素と一緒に環を形成し、XはOまたはNHであり、nは1~20の整数(たとえば、1、2、3、4、5、または6)であり、mは1~20の整数(たとえば、1、2、3、4、5、または6)であり、pは1~20の整数(たとえば、1、2、3、4、5、または6)である。
【0050】
用語「双性イオン性ホスファチジルセリンポリマー」または「ZPSポリマー」は、上述されるようにホスファチジルセリン部位とさらにカチオン中心とを含む1つ以上のペンダント基を有するポリマー(すなわち、ホモポリマーまたはコポリマー)を指す。このポリマーは、繰り返し単位ペンダント基においてカチオン中心であるNとアニオン中心であるリン酸とを有しているために、双性イオン性である。
【0051】
ZPSホモポリマーポリマーは式(I)のモノマーの重合によって調製され、ZPSコポリマーは、式(I)のモノマーとコモノマーとの共重合によって調製される。こうしたZPSポリマー(ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー)は、以下に示されるようなペンダント型の双性イオン性ホスファチジルセリン(ZPS)部位を有する繰り返し単位を含む。
【0052】
【0053】
式中、特定の実施形態において、R1、R2、R3、X、n、m、およびpは、式(I)のモノマーについて上述される通りであり、aは約10~約500の整数であり、*は、この繰り返し単位と上記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーもしくはコポリマーの末端基を示す。
【0054】
本明細書中に記載されるように、ZPSモノマーは、標準的な重合条件下において容易に重合させて、ZPSポリマーを提供することができる。
【0055】
ZPSモノマー、ZPSポリマー、およびZPSコポリマー
特定の態様において、本発明は、ZPSモノマー、ならびにZPSモノマーから調製されるZPSポリマーおよびZPSコポリマーを提供する。
【0056】
本発明に係るモノマーは、(a)シリコーン、フッ素化、ペプチド、ウレタン、ウレア、イミド、カーボネート、無水物、ホスファゼン、エポキシ、スルホン、およびスルフィド骨格、ならびにメタクリレートおよびアクリレート骨格以外の分解性骨格から選択される骨格を有するZPSモノマー、または(b)直鎖状のZPS架橋剤(crosslinkers)、分解性および非分解性のZPS系架橋剤、または(c)ポリマー骨格中にZPS基を与えるもしくはポリマー側鎖中にZPS基を与える直鎖状のZPS系モノマーを含む。
【0057】
本発明に係るポリマーおよびコポリマーは、ZPS基を含有する繰り返し単位を含むホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、マルチブロックコポリマー、および分枝状またはスターポリマーなどのポリマーおよびコポリマーを含み、これらには、本発明に係る1つ以上のモノマー(たとえば、ZPSモノマー)の重合(または共重合)から調製されるポリマーが含まれる。
【0058】
ZPSモノマー。一態様において、本発明は、ZPSモノマーを提供する。ZPSモノマーは、ZPSを含有する繰り返し単位を含むZPSポリマーおよびZPSコポリマーを提供する。当該繰り返し単位およびポリマーのZPS基は、ペンダント型のZPS基(すなわち、ポリマー側鎖)であってもよい。
【0059】
特定の実施形態において、ZPSモノマーは、双性イオン性ホスファチジルセリン部位に共有結合した重合性部位を含む。
【0060】
特定の実施形態において、ZPSモノマーは、ペンダント型のZPS基(ポリマー側鎖)を有するポリマーまたはコポリマーを提供するモノマーを含む。代表的なZPSモノマーは、上述される式(I)を有する。他の代表的なZPSモノマーは、式(III)を有する。
【0061】
【0062】
式中、
R1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C1-C20アルキル、およびC6-C12アリールからなる群より選択され;
R2およびR3は、水素、C1-C20アルキル(たとえば、C1-C3アルキル)、およびC6-C12アリールからなる群より独立して選択される、または、R2およびR3は窒素と一緒に環を形成し;
R4およびR5は、付加、縮合、またはフリーラジカル重合による重合にとって好適な官能基から独立して選択され;
Lは、CまたはSiであり;
L2は、式中のxが1~20の整数(たとえば、1、2、3、4、5、または6)である、-(CH2)x-、-C(=O)NH(CH2)x-、-C(=O)O(CH2)x-から独立して選択され;
L3およびL4は、式中のxがそれぞれ、0~20から、好ましくは1~20から独立して選択される整数である(特定の実施形態において、L3および/またはL4は存在しない)、-(CH2)x-、-C(=O)NH(CH2)x-、-C(=O)O(CH2)x-、-C(=O)OC(=O)O(CH2)x-、-(CH2)x-O-(CH2)x-、および-(CH2)x-S-S-(CH2)x-から独立して選択され;
mは1~20の整数(たとえば、1、2、3、4、5、または6)であり;かつ
pは1~20の整数(たとえば、1、2、3、4、5、または6)である。
【0063】
本発明に係るポリマーおよびコポリマーの作製に有用な代表的なZPSモノマーの調製が、実施例1中に記載される。
【0064】
本発明に係る表面コーティング、バルク材料、単体材料、ハイドロゲル、およびコンジュゲートの作製に使用される本発明に係るZPSポリマーおよびコポリマーは、式(I)のメタクリレート/メタアクリルアミドZPSモノマーおよび式(III)のZPSモノマーを含む本明細書中に記載されるモノマーから調製できることが理解される。
【0065】
ZPSポリマーおよびコポリマー。他の態様において、本発明は、本明細書中に記載されるようにZPSモノマーから調製されかつZPS繰り返し単位を含むZPSポリマーを提供する。
【0066】
特定の実施形態において、ZPSポリマーまたはコポリマーは繰り返し単位を有し、1つ以上の繰り返し単位は双性イオン性ホスファチジルセリン部位を含む。これらの実施形態のうち特定のものにおいて、双性イオン性ホスファチジルセリン部位は、ポリマー骨格からペンダント状に伸びている。これらの実施形態のうちの他のものにおいて、双性イオン性ホスファチジルセリン部位は、ポリマー骨格の構成要素である(たとえば、双性イオン性ホスファチジルセリン部位の一部がポリマー骨格中にある)。
【0067】
こうしたポリマーおよびコポリマーについての特定の実施形態において、ポリマーおよびコポリマーの骨格は、ポリエステル、ポリペプチド、ポリイミド、ポリホスファゼン、ポリシロキサン、ポリエポキシ、ビニルポリマー、フェノール系ポリマー、ポリウレタン、ポリウレア、ポリカーボネート、ポリスルホン、またはポリスルフィドのうちの任意の1つであってよい。
【0068】
本発明に係るZPSポリマーおよびコポリマーは、式(I)および(III)のモノマーから調製されるポリマーおよびコポリマーを含む。ポリマーは、(a)式(I)のモノマー、(b)式(III)のモノマー、または(c)式(I)および(III)のコモノマーの重合によって形成できる。コポリマーは、(a)式(I)のモノマーと、式(I)のモノマーとの共重合にとって好適な第2のコモノマーとの共重合、(b)式(III)のモノマーと、式(II)のモノマーとの共重合にとって好適な第2のコモノマーとの共重合、および(c)式(I)のモノマーと、式(I)のモノマーとの共重合にとって好適な式(III)のモノマーとの共重合によって調製できる。
【0069】
特定の実施形態において、ZPSモノマーは、ポリマー骨格からペンダント状に伸びている(すなわち、ポリマー側鎖の一部を形成している)ZPS部位を含むポリマー繰り返し単位を提供する。ポリマー骨格からペンダント状に伸びたZPS部位を有する代表的なポリマーは、上述される式(II)を有する。他の代表的なZPSポリマーは、式(IV)を有する。
【0070】
【0071】
式中、
*は、この繰り返し単位と上記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーもしくはコポリマーの末端基を示し;
Bは、上述されるポリマー骨格であり;
L2は、ZPS部位を上記骨格に繋ぐリンカー基であり、代表的な基は、式中のxがそれぞれ1~20から独立して選択される整数である、-(CH2)x-、-C(=O)NH(CH2)x-、-C(=O)O(CH2)x-、-C(=O)OC(=O)O(CH2)x-、-(CH2)x-O-(CH2)x-、および-(CH2)x-S-S-(CH2)x-を含み;
R2およびR3は、水素、C1-C20アルキル(たとえば、C1-C3アルキル;C3-C7シクロアルキルなどの環状アルキルを含む)、およびC6-C12アリールからなる群より独立して選択される、または、R2およびR3は窒素と一緒に環を形成し;
mは1~20の整数(たとえば、1、2、3、4、5、または6)であり;
pは1~20の整数(たとえば、1、2、3、4、5、または6)であり;かつ
nは約10~約500の整数である。
【0072】
他の実施形態において、ポリマー骨格からペンダント状に伸びたZPS部位を有する代表的なポリマーは、式(V)を有する。
【0073】
【0074】
式中、R1、R2、R3、R4、R5、L、L2、L3、L4、m、p、および*は、式(III)のモノマーについて上述される通りであり、式(V)中のR4およびR5は式(III)中の官能基R4およびR5のそれぞれの重合残基であることが理解され;かつ、nは約10~約500の整数である。
【0075】
特定の実施形態において、ZPSポリマーの双性イオン性ホスファチジルセリン部位は、少なくとも一部が、ポリマー骨格中に含まれる。
【0076】
これらの実施形態のうち特定のものにおいて、ZPSポリマーは、下記式を含む繰り返し単位を有する。
【0077】
【0078】
式中、L2、p、および*は、式(IV)のポリマーについて上述される通りであり、L2がBに結合している箇所はN+(R1)の窒素(すなわち、L2が共有結合しているB中の原子)であることが理解され;かつ、nは約10~約500の整数である。
【0079】
これらの実施形態のうちの他のものにおいて、ZPSポリマーは、下記式を含む繰り返し単位を有する。
【0080】
【0081】
式中、R1、R4、R5、L2、L3、L4、p、および*は、式(III)のモノマーについて上述される通りであり、式(VA)中のR4およびR5は式(III)中の官能基R4およびR5のそれぞれの重合残基であることが理解され;かつ、nは約10~約500の整数である。
【0082】
特定の実施形態において、本発明は、式(II)、(IV)、(IVA)、(V)、または(VA)のポリマーを含む修飾された表面を提供する。当該修飾された表面は、人工神経系、ニューロン再生プラットフォーム、ニューラルセンサ、細胞培養プラットフォーム;非ファウリング性半導体、電池、有機太陽電池、バイオ燃料電池、プリント電子回路、有機発光ダイオード、アクチュエータ、エレクトロクロミズムデバイス、スーパーキャパシタ、化学センサ、フレキシブル透過型ディスプレイ、電磁シールド、帯電防止コーティング、マイクロ波吸収デバイス、またはレーダー吸収デバイスの表面であってよい。
【0083】
特定の実施形態において、本発明は、式(II)、(IV)、(IVA)、(V)、または(VA)のポリマーを含むバルク構築物を提供する。代表的な構築物は、医療用、電子、または船舶用デバイスであってよい。これらの実施形態のうち特定のものにおいて、バルク構築物は、人工神経系、ニューロン再生プラットフォーム、ニューラルセンサ、細胞培養プラットフォーム;非ファウリング性半導体、電池、有機太陽電池、バイオ燃料電池、プリント電子回路、有機発光ダイオード、アクチュエータ、エレクトロクロミズムデバイス、スーパーキャパシタ、化学センサ、フレキシブル透過型ディスプレイ、電磁シールド、帯電防止コーティング、マイクロ波吸収デバイス、またはレーダー吸収デバイスである。
【0084】
ZPSスターポリマーおよびコポリマー。他の態様において、本発明は、ZPS繰り返し単位を含むZPSスターポリマーおよびZPSコポリマーを提供する。
【0085】
こうしたポリマーは、コアと、コアに共有結合した複数のZPS分枝部とを含む。こうしたポリマーのコアは、星形の小分子、オリゴマー、またはポリマーであってよい。特定の実施形態において、こうしたポリマーは、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上のZPS分枝部を含んでよい。これらの実施形態のうち特定のものにおいて、ZPS分枝部のうち1つ以上は、それ自体がさらに分枝していてもよい。特定の実施形態において、こうしたポリマーは、複数のZPS分枝部の末端に結合した末端官能基をさらに含んでもよい。代表的な末端官能基は、OH、NH、NH2、SH、N3、CH=CH2、C≡CH、COOH、CHO、イミドエステル、ハロアセチル、ヒドラジド、アルコキシアミン、アリールアジド、ジアジリン、マレイミド、カルボジイミド、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、チアゾリジン-2-チオン、ピリジルジスルフィド、ジフルオロシクロオクチン(difluorinatedcyclooctyne)、シュタウディンガー試薬(2種で1組)、イソシアネート、イソチオシアネート、チオエーテル、スルフヒドリル、ヒドラジン、ヒドロキシメチルホスフィン、スルホ-NHSエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、スルホニルアジド、および5H-ジベンズ[b,f]アゼピン、ならびにこれらの誘導体から選択される。
【0086】
ZPSコポリマー:疎水性および親水性の構成単位。さらなる態様において、本発明は、ZPS繰り返し単位と疎水性および/または親水性の構成単位とを含むZPSコポリマーを提供する。
【0087】
特定の実施形態において、コポリマーは、ZPS繰り返し単位を含むランダム、ジブロック、または超分枝コポリマー(たとえば、ポリ(ZPS))である。
【0088】
代表的なブロックコポリマーは、少なくとも1つのZPS構成要素ブロック(A)と少なくとも1つの疎水性ブロック(B)とを含む。特定の実施形態において、コポリマーは、親水性ブロック(C)または第2の疎水性ブロック(C)をさらに含む。本発明に係るブロックコポリマーは、ABジブロックコポリマー、ABCトリブロックコポリマー、ABAトリブロックコポリマー、BABトリブロックコポリマー、直鎖状またはスター状のマルチブロック(AB)nコポリマー、ミクトアーム(Miktoarm)ブロックコポリマー(ABnまたはAnB)、およびこれらの混合物を含む。特定の実施形態において、コポリマーは、中性の親水性繰り返し単位(たとえば、エチレンオキシド繰り返し単位などのアルキレンオキシド繰り返し単位)をさらに含む。
【0089】
特定の実施形態において、コポリマーは、ZPSモノマー(たとえば、式(I)または(III)を有する本発明に係るZPSモノマー)に由来する繰り返し単位を含むZPS構成要素と、疎水性モノマーに由来する繰り返し単位を含む疎水性構成要素とを含む。
【0090】
代表的な疎水性繰り返し単位は、アクリル酸およびエステル、アルキルアクリル酸およびエステル、アクリルアミド、アルキルアクリルアミド、ポリシロキサン繰り返し単位、ポリエステル繰り返し単位、ポリウレタン繰り返し単位、ポリスチレン繰り返し単位、ならびにこれらのフッ化誘導体に由来するものであってよい。
【0091】
特定の実施形態において、コポリマーは、ZPSモノマー(たとえば、式(I)または(III)を有する本発明に係るZPSモノマー)に由来する繰り返し単位を含むZPS構成要素と、親水性モノマーに由来する繰り返し単位を含む親水性構成要素と、任意に、親水性モノマーに由来する繰り返し単位を含む疎水性構成要素とを含む。これらの実施形態のうち特定のものにおいて、親水性繰り返し単位はZPS部位を含む。他の実施形態において、親水性繰り返し単位は、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリカルボキシベタイン(PCB)、ポリスルホベタイン(PSB)、ポリホスホベタイン(PPB)、ポリホスホリルコリン(PPC)、ポリアクリルアミド(PAA)、ポリ(2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート)(PDHPM)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリ(2-オキサゾリン)、ポリ(アクリル酸)、ポリメタクリレート(PMA)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、高分子電解質、多糖、ポリアミド、ならびに様々な親水性ポリマー、ペプチド系材料、および2つ以上の親水性モノマーのコポリマーであってよい。
【0092】
ZPSポリマーでの表面コーティング、バルク材料、および単体材料
他の態様において、本発明は、ZPSポリマーでの表面コーティング、ZPSポリマーのバルク材料、およびZPSポリマーの単体材料を提供する。特定の実施形態において、ZPSポリマーでの表面コーティング、バルク材料、および単体材料は、ZPSモノマー、ならびにZPSモノマーから調製されるポリマーおよびコポリマーから調製される。
【0093】
ZPSポリマーは、「グラフト法」(graft-from法またはgraft-to法)によって表面(たとえば、医療用デバイス、センサ、膜、船、および船舶用構造物)に付着させて、当該表面に非ファウリング性を付与することできる。また、ZPSポリマーは、バルク材料(たとえば、シリコーン)と共に、またはその中に混合することもできる。表面コーティングは、平坦なまたはナノ/マイクロ粒子の表面に施すことができる。また、ZPSポリマーは、(i)シリコーン、フッ素化、ウレタン、イミド、アミドなどの固有の骨格、および(ii)複数の水素結合などの強い相互作用、および(iii)相互貫入ネットワークにより、医療および船舶用途のためのスタンドアロン型の低ファウリング性かつ高強度の材料およびデバイスを作製することもできる。
【0094】
ZPSポリマーでの表面コーティング。本発明は、ZPSポリマーでの表面コーティングを提供する。特定の実施形態において、表面コーティングは、本明細書中に記載される本発明に係るZPSポリマー(オリゴマー)またはZPSコポリマー(たとえば、式(II)、(IV)、(IVA)、(V)、または(VA)のポリマー)を含む。
【0095】
ZPSポリマーおよびコポリマーでコーティングした表面は、非ファウリング特性を有する。表面の非ファウリング特性は、フィブリノゲン吸着および細胞接着によって評価できる。特定の実施形態において、本発明に係る表面は、フィブリノゲン吸着が約200ng/cm2未満である。他の実施形態において、本発明に係る表面は、フィブリノゲン吸着が約100ng/cm2未満である。さらなる実施形態において、本発明に係る表面は、フィブリノゲン吸着が約50ng/cm2未満である。他の実施形態において、本発明に係る表面は、フィブリノゲン吸着が約30ng/cm2未満である。さらなる実施形態において、本発明に係る表面は、フィブリノゲン吸着が約20ng/cm2未満である。他の実施形態において、本発明に係る表面は、フィブリノゲン吸着が約10ng/cm2未満である。特定の実施形態において、本発明に係る表面は、フィブリノゲン吸着が約5ng/cm2未満である。
【0096】
特定の実施形態において、表面は、ZPSアクリレート、ZPSアクリルアミド、ZPSメタクリレート、ZPSメタアクリルアミド、ZPSビニル化合物、ZPSエポキシド、およびこれらの混合を含むがこれらに限定されない重合性基から選択される1つ以上のZPSモノマーから調製されるZPSポリマーまたはコポリマーでコーティングされている。代表的なZPSモノマーは、式(I)および(III)のZPSモノマーを含む、本明細書中に記載されるものを含む。
【0097】
特定の実施形態において、ZPSポリマーまたはコポリマーは、ポリ(ZPS)を含むランダム、マルチブロック、または超分枝コポリマーである。他の実施形態において、ZPSポリマーまたはコポリマーは、相互貫入ZPSポリマーネットワークである。
【0098】
特定の実施形態において、ZPSポリマーまたはコポリマーは、表面接着基(たとえば、DOPA、チオール、シラン、クリックケミストリー、疎水性、親水性、および荷電基)を有する。
【0099】
ZPSポリマーおよびコポリマーでコーティングした表面は、共有結合性の相互作用により、または、物理的な疎水性同士の、および荷電同士の、およびハイドロゲル結合の相互作用により、またはこうした化学的および物理的な相互作用の組み合わせにより、ZPSポリマーまたはコポリマーを基体表面に付着させることによって調製できる。
【0100】
ZPSポリマーまたはコポリマーでコーティングした表面は、基体表面からZPSポリマーをグラフトする(「grafted from」)(たとえば、基体の存在下において好適なモノマーを重合させてポリマーまたはコポリマーを形成することでポリマー表面を調製する)ことによって調製できる、または、ZPSポリマーを基体表面にグラフトする(「grafted to」)(たとえば、予め形成したポリマーまたはコポリマーを基体に結合させることでポリマー表面を調製する)ことによって調製できる。
【0101】
特定の実施形態において、ZPSポリマーおよびコポリマーは、原子移動ラジカル重合(ATRP)、可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT)、または光イニファーター(photoinferter)重合などの重合法によって、基体からグラフトする。
【0102】
特定の実施形態において、ZPSポリマーおよびコポリマーは、クリックケミストリー、DOPAコンジュゲーション化学、またはチオールもしくはシランによる自己組織化単分子膜(SAM)などのコンジュゲーション法によって、基体にグラフトする。
【0103】
ZPSポリマーでの表面コーティングは、多様な基体(たとえば、基体表面)に適用され得る。特定の実施形態において、表面は、バイオメディカルデバイスの全体または一部である。代表的なバイオメディカルデバイスは、カテーテル、耳ドレナージ管、栄養管、緑内障ドレナージ管、水頭症(hydrocephalous)シャント、角膜プロステーシス、神経誘導管(nerve guidance tubes)、組織接着剤、X線導管、人工関節(artificial joints)、人工心臓弁、人工血管、ペースメーカー、左室補助デバイス(LVAD)、動脈グラフト、血管グラフト、ステント、血管内ステント、心弁、置換用関節(joint replacements)、血管プロステーシス、皮膚修復デバイス、置換用蝸牛(cochlear replacements)、コンタクトレンズ、人工靱帯および腱、歯科インプラント、ならびに再生組織工学における組織スキャフォールドを含む。特定の実施形態において、デバイスはコンタクトレンズである。
【0104】
特定の実施形態において、表面は、粒子の全体または一部である。代表的な粒子は、金属、金属酸化物、セラミック、合成ポリマー、天然ポリマー、二酸化ケイ素、結晶、および半導体材料の粒子を含む。特定の実施形態において、粒子は、タンパク質(たとえば、酵素)または核酸(たとえば、DNAまたはRNA)などの生体分子である。他の実施形態において、粒子は細胞である。
【0105】
特定の実施形態において、表面は、膜またはバイオ分離膜の全体または一部である。代表的な膜は、タンパク質精製、廃水処理、バイオリアクター、海水淡水化、および水/油精製に使用される膜を含む。
【0106】
特定の実施形態において、表面は、遺伝子送達ビヒクル、RNA送達ビヒクル、またはタンパク質送達ビヒクルなどの薬物送達ビヒクルの全体に接している、またはこれを形成している。
【0107】
特定の実施形態において、表面は、埋め込み型または皮下型センサの全体または一部に接している、またはこれを形成している。
【0108】
特定の実施形態において、表面は、組織スキャフォールドの全体または一部に接している、またはこれを形成している。
【0109】
ZPSポリマーのバルク材料。本発明は、ZPSポリマーのバルク材料を提供する。特定の実施形態において、バルク材料は、本明細書中に記載される本発明に係るZPSポリマー(オリゴマー)またはZPSコポリマー(たとえば、式(II)、(IV)、(IVA)、(V)、または(VA)のポリマー)を含む。特定の実施形態において、材料は、本明細書中に記載される本発明に係るモノマー(たとえば、式(I)または(III)のモノマー)を使用する重合または共重合プロセスによって調製される。
【0110】
特定の実施形態において、バルク材料は、1つ以上のZPSポリマーまたはコポリマーと、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリウレア、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエポキシ、芳香族ポリエステル、セルロース誘導体、フルオロポリマー、ポリアクリル、ポリアミド、ポリ酸無水物、ポリエーテル、ビニルポリマー、フェノール誘導体、エラストマー、および他の付加ポリマーなどの1つ以上の他のポリマーとをブレンドすることによって得られる。
【0111】
他の実施形態において、バルク材料は、相互貫入ZPSポリマーネットワークと、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリウレア、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエポキシ、芳香族ポリエステル、セルロース誘導体、フルオロポリマー、ポリアクリル、ポリアミド、ポリ酸無水物、ポリエーテル、ビニルポリマー、フェノール誘導体、エラストマー、および他の付加ポリマーなどの1つ以上の他のポリマーとを含む。
【0112】
ZPSポリマーの単体材料。本発明は、ZPSポリマーの単体材料を提供する。特定の実施形態において、材料は、本明細書中に記載される本発明に係るZPSポリマー(オリゴマー)またはZPSコポリマー(たとえば、式(II)、(IV)、(IVA)、(V)、または(VA)のポリマー)を含む。特定の実施形態において、材料は、本明細書中に記載される本発明に係るモノマー(たとえば、式(I)または(III)のモノマー)を使用する重合または共重合プロセスによって調製される。
【0113】
特定の実施形態において、ZPSポリマーの単体材料は非ファウリング性材料であり、高い力学的強度を有する。これらの実施形態のうち特定のものにおいて、単体材料は、タンパク質吸着が約30ng/cm2未満、約50ng/cm2未満、または約100ng/cm2未満であり、引張/圧縮強度が約0.2MPaより大きい、約0.5MPaより大きい、または約1.0MPaより大きい非ファウリング性材料である。
【0114】
特定の実施形態において、ZPSポリマーの単体材料は、(a)シアノ基(C≡N)などの双極子-双極子相互作用と、(b)アミド基(-(NH)-(C=O)-)、複数のアミド基((-(NH)-(C=O)-)n(n=1~5))、ウレタン基(-(NH)-(C=O)-O-)、複数のウレタン基((-(NH)-(C=O)-O-)n(n=1~5))、ウレア基(-(NH)-(C=O)-(NH)-)、複数のウレア基((-(NH)-(C=O)-(NH)-)n(n=1~5))、およびこれらの組み合わせなどの水素ドナー/アクセプターとの導入によって強化されたZPSポリマーネットワークである。こうした基は、ZPSモノマーおよびZPS(ランダムまたはブロック)コポリマーに由来するものであってよい。こうした基は、ポリマー骨格またはポリマーペンダント基の中にあってもよい。
【0115】
ZPSポリマーネットワークは、ZPSモノマー、または、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリアミド、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイソブテン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリウレア、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエポキシ、ポリ酸無水物、ポリエーテル、および他の縮合/付加ポリマーなどのZPSポリマー中の骨格で強化されてよい。特定の実施形態において、ZPSポリマーネットワークは、上述されるものの任意の組み合わせによって強化される。
【0116】
特定の実施形態において、ZPSポリマーは、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリウレア、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエポキシ、芳香族ポリエステル、セルロース誘導体、フルオロポリマー、ポリアクリル、ポリアミド、ポリ酸無水物、ポリエーテル、ビニルポリマー、フェノール誘導体、エラストマー、および他の付加ポリマーなどの他のポリマーまたは複合体と共にコポリマーを形成してよい。これらの材料の力学的特性を増大させるために、繊維、クレイ、ナノチューブ、および他の無機物体を添加してよい。
【0117】
本発明に係るZPS単体材料を、射出成形、ブロー成形、押出成形、カレンダー成形、流延、圧縮成形、プレバリケーション(prevarication)成形、および3D印刷などの多様な方法に供することによって、物体を形成してよい。
【0118】
本発明に係るZPS単体材料は、生物医学/生物工学用途、消費者向製品用途、工学/船舶用途、カテーテル、耳ドレナージ管、栄養管、緑内障ドレナージ管、水頭症(hydrocephalous)シャント、角膜プロステーシス、神経誘導管(nerve guidance tubes)、組織接着剤、X線導管、人工関節、人工心臓弁、人工血管、ペースメーカー、左室補助デバイス(LVAD)、動脈グラフト、血管グラフト、ステント、血管内ステント、心弁、置換用関節、血管プロステーシス、皮膚修復デバイス、置換用蝸牛、コンタクトレンズ、人工靱帯および腱、歯科インプラント、ならびに再生組織工学における組織スキャフォールドなどの治療/診断用途、薬物送達、遺伝子送達、RNA送達、タンパク質送達、船舶用および工学用デバイス/物体(たとえば、膜、チューブ、パイプ、容器、またはプレート)において使用できる。
【0119】
特定の実施形態において、単体材料は、船舶体(marine vessel hulls)、船舶用構造物、橋、プロペラ、熱交換器、潜望鏡、センサ、漁網、ケーブル、チューブ/パイプ、容器、膜、および石油ブームなどの船舶用製品において使用できる。
【0120】
特定の実施形態において、単体材料は、生体材料にコンジュゲートさせてよい。代表的な生体材料は、核酸(たとえば、遺伝子、DNA、RNA)、タンパク質(たとえば、酵素、抗体またはその機能的断片)、ペプチド、脂質、細胞もしくは微生物、固体ナノ粒子(酸化鉄、シリカ、量子ドット、または金ナノ粒子)を含む、または、皮膚を界面活性剤による脱水から保護するために使用される。
【0121】
ZPSポリマーのハイドロゲル
本発明は、ZPSポリマーのハイドロゲルを提供する。特定の実施形態において、ハイドロゲルは、本明細書中に記載される本発明に係る架橋ZPSポリマー(オリゴマー)またはZPSコポリマー(たとえば、式(II)、(IV)、(IVA)、(V)、または(VA)のポリマー)を含む。特定の実施形態において、ハイドロゲルは、本明細書中に記載される本発明に係るモノマー(たとえば、式(I)または(III)のモノマー)を使用する重合または共重合プロセスによって調製される。
【0122】
ZPSポリマーのハイドロゲルは、ZPSモノマーと、分解性または非分解性のZPS架橋剤を含む多様な架橋剤とから作製できる。ZPSスターポリマーは、(たとえば、クリックケミストリーにより)ハイドロゲルを形成することによって調製できる。こうしたハイドロゲルは、バルクハイドロゲルまたはペレットハイドロゲルの形態であってよい。こうしたハイドロゲルは、埋め込み型材料およびデバイスとして使用することによってカプセル形成の低減が可能であり、培地として使用することによって、制御された様式での多様な細胞(たとえば、幹細胞、免疫細胞、膵島細胞(islets)、血小板、および心筋細胞)の保護、増殖、保存、および分化が可能である。ペレットおよびスターハイドロゲルは、生物製剤(たとえば、多様な細胞、および腫瘍ワクチンのための腫瘍)と共に注射してもよい。
【0123】
特定の実施形態において、ZPSハイドロゲルは、1つ以上の架橋剤を使用して1つ以上のZPSモノマー(たとえば、式(I)または(II)のモノマー)から調製される架橋ハイドロゲルである。
【0124】
これらの実施形態のうちの他のものにおいて、架橋剤は、カルボキシベタイン、スルホベタイン、またはホスホベタイン部位を含む多官能双性イオン性架橋剤である。
【0125】
これらの実施形態のうちさらなるものにおいて、架橋剤は、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)、ポリエチレングリコール(PEG)ジアクリレートもしくはジアクリルアミド、またはPEGジメタクリレートもしくはジメタアクリルアミドなどの多官能架橋剤である。
【0126】
特定の実施形態において、ハイドロゲルは、二官能性のZPS架橋剤を使用して調製される。他の実施形態において、ハイドロゲルは、分解性または非分解性の架橋剤を使用して調製される。さらなる実施形態において、ハイドロゲルは、分解性の双性イオン性ジスルフィド架橋剤を使用して調製される。他の実施形態において、ハイドロゲルは、酵素または好適な剤によって分解され得るペプチド系架橋剤を使用して調製される。
【0127】
本発明に係るZPSハイドロゲルは、熱重合、光重合、またはレドックス重合などのフリーラジカルが介在する重合技術によって調製できる。
【0128】
本発明に係る代表的なZPSハイドロゲルの調製が、実施例4中に記載される。代表的なZPSハイドロゲルへのタンパク質吸着および細胞接着が、実施例4中に記載される。
【0129】
本発明に係るZPSハイドロゲルは、バイオセンサおよびバイオメディカルデバイス、血管グラフト、血管内ステント、心弁、置換用関節、細胞保存/増殖/分化、薬物送達プラットフォーム、船体(ship hulls)、船舶用構造物/機器、ならびに、生理的環境と接触する他の材料およびデバイスに使用できる。
【0130】
特定の実施形態において、ZPSハイドロゲルはスターハイドロゲルである。スターハイドロゲルは、コアと、コアに共有結合した複数のZPS系または双性イオン性分枝部とを有するポリマーから調製できる。代表的なコアは、分枝部を3つ、4つ、5つ、またはそれ以上有するスター型の小分子、オリゴマー、またはポリマーのうちの1つを含む。
【0131】
特定の実施形態において、ハイドロゲルは、選択的に(すなわち、特定条件下において)分解され得る分解性の架橋剤によって架橋されている。分解性の架橋剤は、ペプチド架橋剤、多糖架橋剤、無水物架橋剤、ジスルフィド架橋剤、およびポリエステル架橋剤から選択されてよい。これらの実施形態のうち特定のものについて、ハイドロゲルは、酵素によって加水分解または消化され得る。
【0132】
特定の実施形態において、スターハイドロゲル分枝ポリマーは、その末端官能基が分枝部の末端(たとえば、複数のZPSまたは双性イオン性分枝部の末端)に結合している。代表的な末端官能基は、OH、NH、NH2、SH、N3、CH=CH2、C≡CH、COOH、CHO、イミドエステル、ハロアセチル、ヒドラジド、アルコキシアミン、アリールアジド、ジアジリン、マレイミド、カルボジイミド、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、チアゾリジン-2-チオン、ピリジルジスルフィド、ジフルオロシクロオクチン、シュタウディンガー試薬(2種で1組)、イソシアネート、イソチオシアネート、チオエーテル、スルフヒドリル、ヒドラジン、ヒドロキシメチルホスフィン、スルホ-NHSエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、スルホニルアジド、および5H-ジベンズ[b,f]アゼピンを含む。
【0133】
特定の実施形態において、ハイドロゲルは、第1のポリマー/コポリマー(第1のスターハイドロゲル)に1つ以上の第2のポリマー/コポリマー(第2のスターハイドロゲル)が結合したものを含む。ハイドロゲルは、注射用のハイドロゲルとして使用できる。これらの実施形態のうち特定のものにおいて、第1のポリマーは、末端官能基によって1つ以上の第2のポリマーに結合している。
【0134】
スターハイドロゲルは、双性イオン性ハイドロゲルと組み合わされ、特定の鋳型中にてまたは機械的な低減(たとえば、ブレンダー)によって、多様なサイズのペレットに形成され得る。こうしたペレットハイドロゲルは、生物学的な内容物を入れてまたは入れずに、注射用のハイドロゲルとして使用できる。
【0135】
本発明に係るZPSスターハイドロゲルは、(a)ATRP、RAFT、ROP、縮合、マイケル付加、分枝部発生/伸長反応によりZPSまたは双性イオン性分枝部を合成し、(b)このZPSまたは双性イオン性分枝部をコアと反応させてスターポリマーを得ることによって作製され得る。特定の実施形態において、当該方法は、「クリック」反応、チオール交換反応、または還元反応によってZPSまたは双性イオン性分枝部の末端を官能化することをさらに含む。
【0136】
特定の実施形態において、ZPSハイドロゲルはミクロゲルである。本発明に係るミクロゲルは、ミクロンサイズで大きさが約1ミクロン(10-6m)~1mm(10-2m)であり、ZPS系モノマーから構成されていて、任意の架橋化学によって支持されている、架橋ハイドロゲルである。
【0137】
本発明に係るミクロゲルは、官能化されたZPSモノマー、オリゴマー、またはポリマーを使用する多様な方法であって、
(a)アジドとアルキン、アジドとアルケン、チオールとマレイミド、チオールとアルケン、チオールとジスルフィド、または任意の他の「クリック」型の対、生体直交型の対、または他の反応対(reactive pair)から選択される反応対の1つが、
(b)ポリマー構造の末端に、または骨格に沿って位置しており、
(c)外科用途、治療用途、創傷治癒用途、薬物送達調製物、細胞の保管および保存、または再生医療の目的で、ペプチド、核酸、タンパク質、抗体、ナノ粒子、マイクロ粒子、ミセル、リポソーム、ポリマーソーム、薬物、薬物前駆体、または他の治療種もしくは薬物送達様式を組み込むことを含む、方法によって調製できる。
【0138】
特定の実施形態において、ミクロゲルは、ZPSモノマーもしくはポリマーと他の種類のイオン性もしくは非イオン性の非ファウリング性モノマーもしくはポリマーとの混合物、またはZPS系ポリマーと他の種類のイオン性もしくは非イオン性のモノマーとのコポリマーを含む。
【0139】
当該ミクロゲルについて、架橋は、物理的および/または化学的な機構の任意の組み合わせを用いてなされ、これには、特定の実施形態において、以下が含まれる:
(a)ポリエチレングリコール(PEG)、オリゴエチレングリコール(OEG)、もしくは他の構造もしくは基に基づいていて、かつ末端に2つ以上のアクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、マレイミド、もしくは類似する反応性基を有する市販の架橋剤、または、任意の機能性、反応性、もしくは分解性の基が組み込まれたオーダーメイド合成の架橋剤(分解性の基は、任意に、ジスルフィド結合、エステル、無水物、酵素切断可能なペプチド(GPQGIWCGモチーフなど)、または外部刺激応答性の化学種から選択され得る)を含む、任意の構造を有しラジカル介在性反応によりモノマーと共重合する化学的架橋剤、
(b)アジド/アルキン(SPAACを含む)およびチオール-エン化学種などの、生体直交型の架橋性の化学種および「クリック」化学種(ポリマー主鎖もしくは構造中に官能基として含まれているか、または、別個の架橋性分子として存在する)、
(c)イオン性相互作用、水素結合、疎水性相互作用、生体分子とのまたは天然もしくは合成由来のナノ粒子との相互作用、または任意の他の可逆性もしくは非可逆性の物理的相互作用を含む、任意の型の物理的相互作用、および
(d)上述される架橋機構の任意の組み合わせ。
【0140】
特定の実施形態において、ミクロゲルは、1つ以上のZPS部位が組み込まれた二官能性のZPSの架橋性の分子、オリゴマー、もしくはポリマー、またはこうした分子の混合物を使用して調製される。
【0141】
特定の実施形態において、ミクロゲルは、1つ以上の双性イオン性部位が組み込まれた双性イオン性の(カルボキシベタイン、スルホベタイン、またはホスホベタイン)架橋性の分子、オリゴマー、もしくはポリマー、またはこうした分子の混合物を使用して調製される。こうした架橋剤には、ジスルフィド結合、エステル、または刺激応答性の基、または分解性のペプチドなどの分解性の基が組み込まれていてもよい。
【0142】
特定の実施形態において、本発明は、上述されるような2つ以上のミクロゲルの集合から形成される材料であって、個々のミクロゲル間における相互作用に起因して固有の特性が付与されたバルク材料を提供する。こうした材料は、小分子薬物、ペプチド、生体分子、ナノ粒子、細胞、または組織などの他の成分を含んでよい。
【0143】
特定の実施形態において、上述されるミクロゲルおよび集合体は、重合方法(たとえば、マイクロエマルション重合)に起因して大きさが限定されたミクロゲルから作製される。
【0144】
他の実施形態において、ミクロゲルは、上述される(バルク)ハイドロゲルまたは上述されるスターハイドロゲルを、重合後にさらなるサイジングを施して大きさを限定したもの、すなわち、任意の処理工程によりハイドロゲルを粉砕、押出、細断、切断、またはペレット化して個々の単位のサイズを限定したものである。
【0145】
上述されるミクロゲルおよび集合体は、保管、運搬、使用、または滅菌の目的で、乾燥または凍結乾燥(フリーズドライ)によって脱水粉末としてもよい。ミクロゲル粉末に、水、生理食塩水、またはイオン性溶液、細胞を含有するもしくは含有しない細胞成長用もしくは保存用の培地、または、治療用薬物、治療用タンパク質、治療用核酸、細胞、ナノ粒子、もしくはマイクロ粒子を含有してよい任意の他の生理学的に妥当な溶液を含む任意の水性流体を用いて、再度含水させてもよい。
【0146】
ZPSスターハイドロゲルおよびミクロゲル、ならびにその集合体、ならびに/またはこれらを部分的もしくは完全に乾燥もしくは再度含水させた組成物は、以下の用途を有する:
(a)非ニュートン挙動を有する(たとえば、粘弾性、レオペクシー性、チキソトロピー性、剪断増粘性(ダイラタンシー)、剪断減粘性(擬塑性)、および/またはビンガム塑性特性を呈する)材料、
(b)自己治癒材料および/または形状記憶材料、または、類似する種類の、損傷や外部刺激後に損傷修復もしくは特性回復が可能な「スマート」材料、ならびに
(c)たとえば、船舶用途、薬物送達プラットフォーム、バイオセンサおよび他の医療用デバイス、血管グラフト、血管内ステント、心弁、置換用関節、ならびに、生理的環境と接触する他の材料およびデバイスのための、タンパク質または他の生体分子の非特異的吸着の防止を目的とした、抗ファウリング材料または表面コーティング。
【0147】
ZPSスターハイドロゲルおよびミクロゲル、ならびにその集合体は、生物医学用途、特に非ニュートン流体特性と高い生体適合性とが要求される用途において、注射用または塗布用材料として使用できる:
(a)美容整形または再建手術、血管プロステーシス、皮膚修復デバイス、置換用蝸牛、注射用ガラス質物質、人工軟骨、人工脂肪、コラーゲン模倣物、および他の軟部組織模倣物もしくは補助物において使用されるものなどの、力学的な補助を提供できる注射用または塗布用材料、
(b)特に、非特異的な相互作用が回避されるべき場合、または、非特異的な相互作用と特異的な相互作用との間で望ましいバランスを達成しなくてはならない場合に、表面または組織と所望のまたは特異的な生物学的相互作用をする、注射用または塗布用材料、ならびに
(c)外科用途、治療用途、創傷治癒、および薬物送達調製物において、薬物、生体分子(たとえば、核酸、ペプチド、タンパク質、多糖)、細胞(たとえば、膵島、心血管細胞、幹細胞、T細胞、血液細胞)、ナノ粒子またはマイクロ粒子(たとえば、PLGA/薬物調製物)、ミセル、リポソーム、ポリマーソーム、または他の治療種もしくは薬物送達様式を送達および/または保護または遮蔽するための、注射用または塗布用キャリア。
【0148】
ZPSスターハイドロゲルおよびミクロゲル、ならびにその集合体は、細胞および組織の成長、維持、または増殖のためのスキャフォールド、マトリックス、または基体として使用でき、ここで、当該細胞およびミクロゲル構築物は、任意の型のバイオリアクターを含む任意の培養方法または装置の使用により成長でき、かつ、以下を含む系譜に由来し得る:
(a)多能性および多分化能幹および始原細胞であって、以下を含むもの:
(i)臍帯血もしくは骨髄に由来もしくはこれらから精製された、胚性幹細胞(ESC)、組織由来幹細胞(たとえば、皮膚、血液、または眼に由来)、造血性幹および始原細胞(HSPC)、間葉系幹細胞、または人工多能性幹細胞(iPSC)、
(ii)遺伝子改変またはトランスフェクションされた幹および始原細胞、ならびに
(iii)がん幹細胞(CSC);
(b)赤色血液細胞(赤血球)、白色血液細胞(白血球)、および血小板(platelets、thrombocytes)を含む、典型的にはヒト血液中を循環している造血細胞;
(c)免疫細胞および始原細胞、またはこれらから分化した系譜であって、以下を含むもの:
(i)特にナイーブ型細胞傷害Tリンパ球(CTL)およびこれから分化または活性化された系譜(セントラルメモリーT細胞を含む)を含む、CD8表面糖タンパク質発現T細胞、
(ii)特にナイーブ型ヘルパーTリンパ球およびこれから分化または活性化された系譜(TH1、TH2、TH9、TH17、TFH、Treg、およびセントラルメモリー(TCM)T細胞を含む)を含む、CD4表面糖タンパク質発現T細胞、
(iii)任意の供給源に由来する制御性T細胞(TREG)(天然Tregでも誘導Tregでもよい)、
(iv)ナチュラルキラーT細胞(NKT)細胞、
(v)キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)、
(vi)遺伝子改変T細胞;
(d)上に具体的に列記されていない、B細胞、樹状細胞、および他の抗原提示細胞(APC)または免疫細胞;
(e)糖尿病の処置および管理に有用な、膵島細胞または他のインスリン産生細胞およびβ細胞;
(f)神経系細胞および始原細胞;
(g)心血管系細胞および始原細胞;ならびに
(h)免疫療法、再生医療、血液疾患または悪性腫瘍、またはがんのワクチンもしくは処置の分野において有用な細胞。
【0149】
ZPSスターハイドロゲルおよびミクロゲル、ならびにその集合体は、臨床または軍事目的で、細胞もしくは組織(特に、従来の方法での保存が困難な血液細胞(たとえば、血小板および赤色血液細胞)などの細胞型)を、長期にわたり、室温または低温で、全血中または保存溶液中にて、DMSO、グリセリン、グリシンベタイン、または他のオスモライトもしくは凍結保護物質の存在下または非存在下で、保存するための、またはその生物学的機能を保持するための任意の方法において、生体適合性材料、スキャフォールド、調製物構成要素、または接触材料として使用できる。
【0150】
ZPSスターハイドロゲルおよびミクロゲル、ならびにその集合体は、埋め込み型バイオセンサなどの物体、デバイス、および部品;創傷ケア用のデバイス、接着剤、およびシーラント(selants)、コンタクトレンズ;歯科インプラント;人工関節、人工骨、人工靱帯、および人工腱などの整形外科用デバイス;カテーテル、人工弁、人工血管、人工ステント、LVAD、もしくはリズム管理デバイスなどの心血管用デバイス;栄養管、消化管クリップ、胃腸管スリーブ、もしくは胃バルーンなどの胃腸科用デバイス;埋め込み型受胎調節デバイスもしくは膣スリングなどのOB/Gynデバイス;吻合部コネクタもしくは真皮下ポートなどの腎臓科用デバイス;神経誘導管(nerve guidance tubes)、脳脊髄液ドレーンもしくはシャントなどの神経系外科手術用デバイス、皮膚修復デバイスなどの皮膚科用デバイス、シャントなどの眼科用デバイス、ステント、蝸牛インプラント、チューブ、シャント、もしくは開大器などの耳鼻咽喉科用デバイス、眼内レンズ;乳房インプラント、鼻インプラント、および頬インプラントなどの審美インプラント;神経刺激デバイス、蝸牛インプラント、および神経導管(nerve conduit)などの神経インプラント;血糖センサおよびインスリンポンプなどのホルモン制御インプラント;埋め込んだバイオセンサ;アクセスポートデバイス;および組織スキャフォールド、COPD管理のための弁もしくは人工肺などの肺動脈弁デバイス;放射線不透過もしくは超音波不透過マーカーなどの放射線科用デバイス;または、カテーテルもしくは人工尿道などの泌尿器科用デバイスに使用できる。
【0151】
他の態様において、本発明は、ZPSスターハイドロゲルまたはミクロゲルまたはミクロゲル集合体でコーティングした基体を提供する。代表的な基体は、埋め込み型バイオセンサなどの物体、デバイス、および部品;創傷ケア用のデバイス、接着剤、およびシーラント(selants)、コンタクトレンズ;歯科インプラント;人工関節、人工骨、人工靱帯、および人工腱などの整形外科用デバイス;カテーテル、人工弁、人工血管、人工ステント、LVAD、もしくは/およびリズム管理デバイスなどの心血管用デバイス;栄養管、消化管クリップ、胃腸管スリーブ、もしくは胃バルーンなどの胃腸科用デバイス;埋め込み型受胎調節デバイスもしくは膣スリングなどのOB/Gynデバイス;吻合部コネクタもしくは真皮下ポートなどの腎臓科用デバイス;神経誘導管(nerve guidance tubes)、脳脊髄液ドレーンもしくはシャントなどの神経系外科手術用デバイス、皮膚修復デバイスなどの皮膚科用デバイス、シャントなどの眼科用デバイス、ステント、蝸牛インプラント、チューブ、シャント、もしくは開大器などの耳鼻咽喉科用デバイス、眼内レンズ;乳房インプラント、鼻インプラント、および頬インプラントなどの審美インプラント;神経刺激デバイス、蝸牛インプラント、および神経導管(nerve conduit)などの神経インプラント;血糖センサおよびインスリンポンプなどのホルモン制御インプラント;埋め込みまれたバイオセンサ;アクセスポートデバイス;および組織スキャフォールド、COPD管理のための弁もしくは人工肺などの肺動脈弁デバイス;放射線不透過もしくは超音波不透過マーカーなどの放射線科用デバイス;または、カテーテルもしくは人工尿道などの泌尿器科用デバイスを含む。
【0152】
ZPSポリマーのナノ粒子およびマイクロ粒子
別の一態様において、本発明は、本発明に係るZPSポリマーおよびコポリマーを含むナノおよびマイクロ粒子を提供する。本発明に係るZPSポリマーおよびコポリマーは、ナノおよびマイクロ粒子を、ナノおよびミクロゲル、ミセル、リポソーム、およびポリマーソームの形態にて形成するために使用できる。また、治療または診断目的で量子ドット、酸化鉄、シリカ、および金などの固体粒子をコーティングするためにも使用できる。本発明に係るZPSポリマーおよびコポリマーは、共有結合および非共有結合によって、ナノおよびマイクロ粒子と結合させることができる。
【0153】
特定の実施形態において、ナノスケールの大きさを有する粒子が提供される。粒子はコアを有し、当該コアの表面に、または当該コアの表面から、複数のZPSポリマーまたはコポリマーがグラフトしている。代表的な粒子コアは、金属、金属酸化物、セラミック、合成ポリマー、天然ポリマー、結晶、半導体材料、グラフェン、酸化グラフェン、酸化鉄、シリカ、量子ドット、ハイドロゲル、リポソーム、ミセル、炭素系材料、または生体分子を含む。
【0154】
ZPSポリマーおよびコポリマーコンジュゲート
さらなる一態様において、本発明は、ZPSポリマーおよびコポリマーコンジュゲートを提供する。ZPSポリマーは、グラフト法(graft-to法またはgraft-from法)によって生体分子(たとえば、タンパク質/ペプチド、核酸、および糖)、他の巨大分子、および細胞に付着させて、多様なコンジュゲートを提供することができる。
【0155】
特定の実施形態において、ZPSポリマーコンジュゲートまたはコポリマーコンジュゲートは、生体分子に結合した1つ以上のZPSポリマーを含むZPSポリマーバイオコンジュゲートである。好適な生体分子は、タンパク質、核酸、糖タンパク質、プロテオグリカン、および脂質を含む。好適な生体分子は、小分子治療剤(すなわち、分子量約1000g/モル未満の、好ましくは約800g/モル未満の炭素系治療剤)を含む。
【0156】
代表的なタンパク質は、酵素、シグナル伝達タンパク質、止血および血栓症タンパク質、ワクチン、補体系タンパク質、ならびに抗体、その機能的断片または特性部分を含む。代表的なシグナル伝達タンパク質は、ホルモン、サイトカイン、調節性タンパク質、インスリン、およびPD-1/PD-L1/2阻害剤を含む。
【0157】
これらの実施形態のうち特定のものにおいて、ZPSポリマーコンジュゲートまたはコポリマーコンジュゲートは、修飾された生体分子(たとえば、ポリマー修飾生体分子)に結合した1つ以上のZPSポリマーまたはコポリマーを含むZPSポリマーまたはコポリマーバイオコンジュゲートである。ポリマー修飾生体分子の例は、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマーで修飾された生体分子を含む(たとえば、こうしたPEG修飾生体分子のPEG部位は、ポリマー骨格中にあってよい、またはポリマー骨格からペンダント状に伸びていてもよい)。ポリマー修飾生体分子に1つ以上のZPSポリマーまたはコポリマーを結合することによってさらに修飾したものの代表例が、実施例5中に記載される。
【0158】
他の実施形態において、ZPSポリマーコンジュゲートまたはコポリマーコンジュゲートは、細胞、ウイルス、または細菌に結合した1つ以上のZPSポリマーを含むZPSポリマーまたはコポリマーバイオコンジュゲートである。
【0159】
ZPSポリマーコンジュゲートまたはコポリマーコンジュゲートは、送達ビヒクルであってよい。代表的な送達ビヒクルは、治療または診断用途のためのミセル、リポソーム、またはポリマーソームを含む。
【0160】
特定の実施形態において、本発明は、1つ以上のZPSポリマーまたはコポリマーを含む本発明に係るコポリマーまたはコンジュゲート脂質が自己集合して形成されたミセル、リポソーム、ポリマーソーム、または粒子を提供する。
【0161】
さらなる一実施形態において、本発明は、ZPSポリマーまたはコポリマーコンジュゲートと、製薬学的に許容されるキャリアまたは希釈剤と、を含む組成物を提供する。特定の実施形態において、本発明に係るZPSポリマーおよびコポリマーは、組成物のためのキャリアまたは希釈剤として使用できる。
【0162】
代表的なZPSポリマータンパク質コンジュゲートの調製および免疫原性が、実施例7中に記載される。
【0163】
ZPSポリマーナノゲルおよびナノケージ
別の一態様において、本発明は、ZPSポリマーナノゲルおよびナノケージを提供する。ZPSポリマーは、1つ以上の他の種を化学的に捕捉するナノゲルおよび1つ以上の他の種を物理的に捕捉するナノケージを提供するために使用できる。
【0164】
特定の実施形態において、本発明は、1つ以上のZPSポリマーまたは1つ以上のZPSコポリマーを含む、内容物を化学的に封入するためのナノゲルを提供する。
【0165】
他の実施形態において、本発明は、1つ以上のZPSポリマーまたは1つ以上のZPSコポリマーを含む、内容物を物理的に封入するためのナノケージを提供する。
【0166】
ナノゲルにより化学的に捕捉されるまたはナノケージにより物理的に捕捉される好適な内容物(たとえば、種)は、タンパク質、脂質、糖タンパク質、細胞、ウイルス、細菌、および小分子(たとえば、分子量約1000g/モル未満、好ましくは800g/モルの治療剤)、または本明細書中に記載される他の生体分子などの生体分子を含む。
【0167】
特定の実施形態において、ナノゲルまたはナノケージは、ZPSポリマーまたはコポリマーと、1つ以上の治療剤とを含む。
【0168】
他の実施形態において、ナノゲルまたはナノケージは、ZPSポリマーまたはコポリマーと、1つ以上の診断剤とを含む。
【0169】
さらなる実施形態において、ナノゲルまたはナノケージは、ZPSポリマーまたはコポリマーと、1つ以上の治療剤と、1つ以上の診断剤とを含む。
【0170】
非双性イオン性ホスファチジルセリンモノマー、ポリマー、コポリマー、組成物、表面、ならびにこれらの調製および使用方法
中性のホスファチジルセリン(NPS)モノマー、ポリマー、およびコポリマー(本明細書中において非双性イオン性ホスファチジルセリン(NZPS)モノマー、ポリマー、およびコポリマーとも称される)も本発明の範囲内であることが理解される。よって、さらなる態様において、本発明は、非双性イオン性ホスファチジルセリン(NZPS)モノマー、NZPSポリマー、およびNZPSコポリマー、NZPSモノマー、NZPSポリマー、およびNZPSコポリマーの作製方法、NZPSポリマーおよびNZPSコポリマーを含む組成物および材料、ならびにNZPSモノマー、NZPSポリマー、およびNZPSコポリマーの使用方法を提供する。
【0171】
本明細書中において使用される場合、用語「非双性イオン性ホスファチジルセリンモノマー」または「NZPSモノマー」は、ホスファチジルセリン部位(NH2-CH(-CH2O-P(=O)(O-))-CO2Hおよびそのイオン型)を含むホモポリマーまたはコポリマーの重合性モノマーまたはペンダント基を指す。
【0172】
代表的なNZPSモノマーは、式(VI)を有する。
【0173】
【0174】
式中、特定の実施形態において、R1は、水素、フッ素、トリフルオロメチル、シアノ、C1-C20アルキル(好ましくはC1-C6アルキル)、およびC6-C12アリールからなる群より選択され、XはOまたはNHであり、nは1~20の整数(たとえば、1、2、3、4、5、または6)であり、pは1~20の整数(たとえば、1、2、3、4、5、または6)である。
【0175】
用語「非双性イオン性ホスファチジルセリンポリマー」または「NZPSポリマー」は、上述されるようにホスファチジルセリン部位を含む1つ以上のペンダント基を有するポリマー(すなわち、ホモポリマーまたはコポリマー)を指す。
【0176】
NZPSポリマーは式(VI)のモノマーの重合によって調製され、NZPSコポリマーは式(VI)のモノマーとコモノマーとの共重合によって調製される。こうしたNZPSポリマー(ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー)は、以下に示されるようなペンダント型のホスファチジルセリン(PS)部位を有する繰り返し単位を含む。
【0177】
【0178】
式中、特定の実施形態において、R1、X、n、およびpは、式(VI)のモノマーについて上述される通りであり、aは約10~約500の整数であり、*は、この繰り返し単位と上記ポリマーもしくはコポリマーにおける他の繰り返し単位との付着箇所、またはポリマーの末端基を示す。
【0179】
NZPSモノマーは、標準的な重合条件下において容易に重合させて、NZPSポリマーを提供することができる。
【0180】
したがって、ZPSモノマー、ZPSポリマー、ZPSコポリマー、ZPSポリマーを含む組成物、ZPSポリマーを含む表面、ならびにZPSモノマー、ポリマー、および組成物の使用方法について本明細書中において提供される説明のすべてが、NZPSモノマー、ポリマー、組成物、表面、および方法にも等しくあてはまることが理解される。
【0181】
実施例2は、本発明に係る代表的なNZPSの調製および特徴づけについて記載する。
【0182】
代表的なNZPSポリマータンパク質コンジュゲートの調製および免疫原性が、実施例7中に記載される。
【0183】
ここに記載されるのは、PS模倣重合性(NZPS)モノマー、当該モノマーに由来するポリマー、ならびに、生体分子、巨大分子、小分子、粒子、インプラント、デバイス、表面、コーティング、およびハイドロゲルに付着したポリマーである。生体適合性の免疫抑制性の生体材料は、ペプチド、タンパク質、脂質、糖タンパク質、巨大生体分子(たとえば、細胞、ウイルス、細菌など)、ナノ粒子、マイクロ粒子、小分子薬物(これらはいずれも、医療用デバイス、プロステーシス、埋め込んだ材料(歯科用を含む)、臓器移植片との併用を含め、人体への投与に使用できる)と共に使用するための、NZPSポリマー、ならびにその誘導体および前駆体を含む。
【0184】
一態様において、重合性NZPSモノマーおよび誘導体または前駆体は、下記式(VIII)を有する。
【0185】
【0186】
式中、
A、G、およびIは、特定の実施形態においてモノマーに重合性を付与する官能基であり、H、F、Cl、Br、I、SH、保護されたチオール、NH2、-NH-(第2級アミン)、N=C=O、保護されたNCO、N=C=S、COOH、活性型エステル、アルデヒド、COSH、C(=S)SH、OCOOH、OCOSH、OC(=S)OH、SC(=O)SH、SC(=S)SH、N(C=O)NH2、N(C=NH)NH2、N(C=S)NH2、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、CH2=CH-C(=O)-O-、CH2=CH-C(=O)-NH-、CH2=CH-C(=O)-S-、CN、CH2=C(CH3)-C(=O)-O-、CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-、OH、アジド、アルキン、C6-C10アリール基、環状基(イソボルニル、シクロヘキシル、シクロペンチル)、フルオロ(パーフルオロブチル、パーフルオロエチル)誘導体、または無し(存在しない)から独立して選択され;
B、F、およびHは、式中のxが0~20の整数である-(CH2)x-から独立して選択され;
Ccisは、C、N、Si、または無し(存在しない)から選択され;かつ
Dは、式中のxが1~20の整数である、C(=O)(CH2)x、-(CH2)x-から選択される。
【0187】
また、こうしたモノマーの調製方法、こうしたモノマーから調製されるポリマー、ならびに、こうしたポリマーを使用してナノ粒子、表面、コーティング、およびハイドロゲルに又はこれらから付着させる方法、ならびに、こうしたナノ粒子、表面、コーティング、およびハイドロゲルに免疫抑制効果を付与するためのその使用も提供される。
【0188】
別の一態様において、NZPSポリマーおよびコポリマーが提供される。こうしたポリマーおよびコポリマーは、繰り返し単位を含む。特定の実施形態において、こうしたポリマーおよびコポリマーの繰り返し単位は、下記式(IX)を有する(R2およびR3は含まない)(繰り返し単位はR2およびR3を含まないと考えられるが、しかしながら、マクロモノマーはこれを含み得、恐らくはポリマーおよびコポリマーもこれを含み得る)。
【0189】
【0190】
上記式はn個の繰り返し単位-M1-(K1-Z-K2)j-M2-M1-(K3-X-K4)j-M2-を有し、これは、j個の繰り返し単位-K1-Z-K2-とj個の繰り返し単位-K3-X-K4-とを含む。
【0191】
上記式中、
K1、K2、K3、およびK4は、式中のxがそれぞれ、0~20から独立して選択される整数、これらの組み合わせ、または無し(置換基が存在しない場合)である、-(CH2)x-、-(CH(CN))x-、-C(=O)NH(CH2)x-、-C(=O)O(CH2)x-、-C(=O)OC(=O)O(CH2)x-、-(CH2)x-O-(CH2)x-、および-(CH2)x-S-S-(CH2)x-から独立して選択され;
R2およびR3は、H、F、Cl、Br、I、OH、SH、保護されたチオール、NH2、-NH-(第2級アミン)、N=C=O、N=C=S、COOH、COSH、C(=S)SH、OCOOH、OCOSH、OC(=S)OH、SC(=O)SH、SC(=S)SH、N(C=O)NH2、N(C=NH)NH2、N(C=S)NH2、δ-バレロラクトン部位、ε-カプロラクトン部位、CH2=CH-C(=O)-O-、CH2=CH-C(=O)-NH-、CH2=CH-C(=O)-S-、CN、CH2=C(CH3)-C(=O)-O-、CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-、または無し(置換基が存在しない場合)から独立して選択され;
nは、5~約10,000の整数である。
【0192】
jはそれぞれ、1~約1000の整数である。
【0193】
M1およびM2は、式中のnが1~20の整数である、-O-(CH2)n-、-S-(CH2)n-、-C(=O)-(CH2)n-、-C(=S)-(CH2)n-、-C(=NH)-(CH2)n-、および-NH-(CH2)n-;式中のxがそれぞれ、0~20から独立して選択される整数、これらの組み合わせ、または無し(置換基が存在しない場合)である、-(CH2)x-、-(CH(CN))x-、-C(=O)NH(CH2)x-、-C(=O)O(CH2)x-、-C(=O)OC(=O)O(CH2)x-、-(CH2)x-O-(CH2)x-、および-(CH2)x-S-S-(CH2)x-からなる群より独立して選択され;かつ
ZおよびXは、下記式からなる群より独立して選択される。
【0194】
【0195】
式中、Lは、F、Cl、Br、I、SH、保護されたチオール、NH2、-NH-(第2級アミン)、N=C=O、保護されたNCO、N=C=S、COOH、COSH、C(=S)SH、OCOOH、OCOSH、OC(=S)OH、SC(=O)SH、SC(=S)SH、N(C=O)NH2、N(C=NH)NH2、N(C=S)NH2、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、CH2=CH-C(=O)-O-、CH2=CH-C(=O)-NH-、CH2=CH-C(=O)-S-、CN、CH2=C(CH3)-C(=O)-O-、CH2=C(CH3)-C(=O)-NH-、OH、アジド、アルキン、C6-C10アリール基、環状基(イソボルニル、シクロヘキシル、シクロペンチル)、フルオロ(パーフルオロブチル、パーフルオロエチル)誘導体、または無しから独立して選択され;
Kは、式中のxが0~20の整数である-(CH2)x-から独立して選択され;
Jは、式中のxが1~20の整数である、C(=O)(CH2)x、-(CH2)x-から選択され;かつ
*は、中に示されるように、K1、K2、K3、およびK4との付着箇所である。
【0196】
本明細書中において使用される場合、用語「約」は、明示された値の±5パーセントを指す。
【0197】
以下の実施例は、本発明を例証する目的で提供されるものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0198】
実施例
実施例1
代表的なZPSモノマーの調製および特徴づけ
本実施例では、代表的な重合性双性イオン性(ZPS)モノマーの合成および精製が記載される。
【0199】
本発明に係る重合性ZPSモノマーの合成プロセスの図解が、以下に示される。
【0200】
【0201】
3-(tert-ブトキシ)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-オキソプロピル(2-((2-(メタクリロイルオキシ)エチル)ジメチルアンモニオ)エチル)ホスフェート(化合物3)の合成。N-Boc-Ser-OtBu(1.0gm、3.82mmol)を無水ベンゼン30ml中に溶解し、この溶液を0℃に冷却した。次に、トリエチルアミン(0.62mL、4.6mmol)を添加し、続いて、2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン1(0.42mL、4.6mmol)(無水ベンゼン10mL中)を30分かけて滴下し、次いで、当該反応物を室温でさらに3時間撹拌した。反応終了後、ジエチルエーテルを反応混合物中に注ぎ、沈殿したトリメチルアミン塩酸塩をろ過によって除去した。次いで、ろ液を減圧下において濃縮して、化合物2を油として得て、これを、さらなる精製をせずに次の工程で使用した。化合物2を無水アセトニトリル30mL中に再溶解して、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(1.45mL、8.8mmol)を添加した。次いで、反応混合物を55℃において24時間撹拌した。次いで、反応生成物を真空下において濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製して、化合物3を収量42%にて得た。1H NMR(300MHz,CDCl3)δ6.18(s,1H),5.67(s,1H),4.63-4.54(m,2H),4.35-4.14(m,3H),4.10-3.99(m,2H),3.83-3.76(m,2H),3.40-3.27(m,2H),2.82(s,6H),1.97(s,3H),1.46(d,J=11.7Hz,18H)。
【0202】
代表的なZPSモノマー(化合物4)の合成。化合物3(0.84gm、1.6mmol)をジクロロメタン5mL中に溶解して、トリフルオロ酢酸30mLを添加した。当該反応物を5時間撹拌した。反応終了後、反応混合物を真空下において濃縮して、粘稠かつ粘性の液体を得た。次いで、この粗生成物をMeOH:ジエチルエーテル(1:15)を用いて結晶化して、所望の化合物4を白色粉末として得た。1H NMR(300MHz、D2O)δ6.08(s,1H),5.69(s,1H),4.47-4.41(m,2H),4.26-4.23(m,2H),4.05-4.00(m,1H),3.87-3.84(m,2H),3.69-3.67(m,2H),3.50-3.45(m,2H),2.88(s,6H),1.84(s,3H)。
【0203】
実施例2
代表的な中性PSモノマーの調製および特徴づけ
本実施例では、代表的な重合性中性PS(NZPS)モノマーの合成および精製が記載される。このNZPSモノマーの合成プロセスの図解が以下に示される。
【0204】
【0205】
化合物5の合成。N-Boc-Ser-OtBu(1.0gm、3.82mmol)を、無水ベンゼン30ml中に溶解し、この溶液を0℃に冷却した。次に、トリエチルアミン(0.62mL、4.6mmol)を添加し、続いて、2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン1(0.42mL、4.6mmol)(無水ベンゼン10mL中)を30分かけて滴下し、次いで、当該反応物を室温でさらに3時間撹拌した。反応終了後、ジエチルエーテルを反応混合物中に注ぎ、沈殿したトリメチルアミン塩酸塩をろ過によって除去した。次いで、ろ液を減圧下において濃縮して、化合物2を油として得て、これを、さらなる精製をせずに次の工程で使用した。化合物2を無水アセトニトリル30mL中に再溶解し、ここに、メタクリル酸ナトリウム(0.62gm、5.7mmol)と18-クラウン-6エーテル(0.14gm、0.53mmol)とを添加した。次いで、反応混合物を55℃において72時間撹拌した。反応後、反応生成物をろ過し、真空下において濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製して、化合物5を収量71%にて得た。1H NMR(300MHz,CDCl3)δ6.15(s,1H),5.57(s,1H),4.41-4.27(m,2H),4.24-4.04(m,4H),3.86-3.78(m,1H),1.95(s,3H),1.46(d,J=5.4Hz,18H)。
【0206】
代表的な中性PSモノマー(化合物6)の合成。化合物5(1.2gm、2.65mmol)をジクロロメタン5mL中に溶解して、ここにトリフルオロ酢酸30mLを添加した。当該反応物を5時間撹拌した。反応終了後、反応混合物を真空下において濃縮して、粘稠かつ粘性の液体を得た。次いで、この粗生成物をMeOH:ジエチルエーテル(1:20)を用いて結晶化して、所望の化合物6を白色粉末として得た。1H NMR(300MHz、D2O)δ6.11(s,1H),5.66(s,1H),4.34-4.15(m,5H),4.10-3.97(m,2H),1.85(s,3H)。
【0207】
実施例3
代表的なNZPSおよびZPSハイドロゲルの非ファウリング特性
本実施例では、代表的なNZPSおよびZPSハイドロゲルの非ファウリング特性が記載される。
【0208】
ZPSハイドロゲルの調製
ZPSモノマーを含有するハイドロゲル水溶液(0.67g Milli-Q水、330mg)、架橋剤N,N’メチレンビス(アクリルアミド)(1重量%、3.3mg)、および光重合開始剤2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(0.33mg)を用いてバルク光重合を行なうことによって、ZPSハイドロゲルを作製した。厚さ0.5mmのポリテトラフルオロエチレンスペーサを挟んで配置した2枚のスライドガラスの間に、このハイドロゲル水溶液を置き、次いで、室温で30分間、光重合させた。重合後、ハイドロゲルを型から取り出して、PBS中に3日間浸漬することにより、未反応の化学物質を除去して、十分に含水したハイドロゲルネットワークを得た。12時間毎にリン酸緩衝生理食塩水を交換した。同じプロトコールに従って、同じ架橋密度を有するMPCおよびNZPSハイドロゲルを調製した。
【0209】
フィブリノゲン吸着試験
生検パンチを使用して、含水したMPC、NZPS、およびZPSハイドロゲルを直径5mmのディスク状にパンチした。ハイドロゲルディスクを24ウェルプレート中に入れ、1mg/mLフィブリノゲン(PBSバッファー中)1mLと共に1時間インキュベートし、続いて純粋なPBSバッファーで5回洗浄した。次いで、ハイドロゲルディスクを新しいウェルに移して、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗フィブリノゲン(1μg/mL)(PBSバッファー中)1mLと共に1時間インキュベートした。次いで、純粋なPBSバッファーで5回洗浄した後、すべてのハイドロゲルディスクを新しいウェルに移した。次に、1mg/mL o-フェニレンジアミン(OPD)(0.1Mクエン酸リン酸溶液(pH5.0)中、過酸化水素0.03%含有)1mLを添加した。15分間インキュベートした後、同体積の1M HClを添加することによって酵素反応を停止させた。同じ手順を、コントロールである、同じ表面積を有する組織培養ポリスチレン(TCPS)ディスクについても行なった。492nmにおける吸光度の値をプレートリーダーを用いて記録し、TCPS試料の値に対して標準化した。3つの検体から得たデータを平均した。
【0210】
高濃縮フィブリノゲン溶液(10mg/mL)中で1時間インキュベートした後のZPSハイドロゲルディスクは、TCPSディスクの場合よりも吸着フィブリノゲンが84.4%低く、非常に優れた非ファウリング特性を呈した。一方、NZPSハイドロゲルディスクは、TCPSディスクの場合と比較した吸着フィブリノゲンの低下分が41%と小さかった(
図1)。
【0211】
実施例4
代表的なNZPSおよびZPSナノゲルの免疫抑制効果
本実施例では、代表的なNZPSおよびZPSナノゲルの免疫抑制効果が記載される。
【0212】
MPC、NZPS、およびZPSナノゲルの調製
AOT(ビス(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、237mg)およびBrij30(ポリ(エチレングリコール)ドデシルエーテル、459mg)を20mLのガラスバイアルに添加し、この中に撹拌子を入れた。テフロン(登録商標)で裏打ちしたセプタム付きのキャップでバイアルを密閉し、乾燥窒素を10分間パージした。次いで、激しく撹拌しながら、バイアル中に、窒素で脱酸素化したヘキサン(10mL)を添加した。水相として、モノマー(MPC、NZPS、ZPS)および架橋剤(MBA)を、PBSバッファー(pH7.4、250μL)中に、モル比95%:5%にて溶解した。このモノマー溶液に乾燥窒素を2分間通気し、その後、水相を有機連続相にゆっくりと滴下した。バイアルを超音波にかけて、安定なナノエマルションを形成した。次いで、20%(w/v)過硫酸アンモニウム溶液(脱イオン水中)(10μL)をエマルションに添加した。5分後、テトラメチルエチレンジアミン(TEMED、6μL)を添加することによって重合を開始させ、高速磁気撹拌下において4℃で維持した。2時間反応させた後、ロータリーエバポレータによって有機溶媒を除去し、ナノゲルを沈殿させて、THFで3回洗浄した。ナノゲルをPBSバッファー中に再懸濁し、分画分子量100KDaの遠心式フィルターで精製することによって、未反応のモノマーと架橋剤とを除去した。
【0213】
FITC-BSAを封入しているMPC、NZPS、およびZPSナノゲルの調製
AOT(ビス(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、237mg)およびBrij30(ポリ(エチレングリコール)ドデシルエーテル、459mg)を20mLのガラスバイアルに添加し、この中に撹拌子を入れた。テフロン(登録商標)で裏打ちしたセプタム付きのキャップでバイアルを密閉し、乾燥窒素を10分間パージした。次いで、激しく撹拌しながら、バイアル中に、窒素で脱酸素化したヘキサン(10mL)を添加した。水相として、FITC-BSA、モノマー(MPC、NZPS、ZPS)、および架橋剤(MBA)を、PBSバッファー(pH7.4、250μL)中に、モル比95%:5%にて溶解した。このモノマー溶液に乾燥窒素を2分間通気し、その後、水相を有機連続相にゆっくりと滴下した。バイアルを超音波にかけて、安定なナノエマルションを形成した。次いで、20%(w/v)過硫酸アンモニウム溶液(脱イオン水中)(10μL)をエマルションに添加した。5分後、テトラメチルエチレンジアミン(TEMED、6μL)を添加することによって重合を開始させ、高速磁気撹拌下において4℃で維持した。2時間反応させた後、ロータリーエバポレータによって有機溶媒を除去し、ナノゲルを沈殿させて、THFで3回洗浄した。ナノゲルをPBSバッファー中に再懸濁し、分画分子量100KDaの遠心式フィルターで精製することによって、遊離FITC-BSA、未反応のモノマー、および架橋剤を除去した。
【0214】
免疫抑制効果
RAW264.7細胞(10
5個/ウェル)を、多様な濃度(10、25、50、100、200、1000μg/ml)のMPC、NZPS、またはZPSナノゲル溶液に18時間曝露した。次いで、当該細胞をLPS溶液(100ng/mL)でさらに48時間刺激した後、細胞を300gで10分間遠心し、上清の培地を採取して、ELISAによるサイトカイン(TNF-α)分析に供した。
図2A中に示すように、NZPSおよびZPSがTNF-αレベルに及ぼす影響はいずれも用量依存的で、NZPSのTNF-αに対する阻害は比較的低濃度で始まっており、このことから、ZPSよりも免疫抑制効果が強いことが示唆される。
【0215】
アネキシンVによる遮断
NZPSおよびZPSの免疫抑制効果がこれらのPS頭部に介在されるeat-meシグナルに由来するものであることを確認するために、MPC、NZPS、またはZPSナノゲル溶液(100μg/ml)を、多様な濃度(0、10、25、50、100、200μg/ml)のアネキシンV(当該PS基に対する親和性が高くeat-meシグナルを阻害できるタンパク質)と共に、6時間プレインキュベートした。次いで、これらのナノゲル溶液(100μg/ml)でRAW264.7マクロファージ(10
5個/ウェル)を18時間処理し、続いてLPS(100ng/mL)による刺激を48時間行なった。上清中へのTNF-α分泌のレベルを、ELISAキットで測定した。
図2B中に示すように、アネキシンVの濃度が増加するにつれて、NZPSおよびZPSナノゲルのTNF-α分泌低減効果が低下し、免疫抑制効果が有効に遮断されていることが分かった。注目されることに、ZPSナノゲルはアネキシンVの遮断効果に対する感度が比較的低いが、これは恐らく、ZPSの非ファウリング特性によって、ZPS中のPS官能基とその受容体との親和性がある程度低くなっているためではないかと考えられる。また、これにより、ZPSの免疫抑制効果がNZPSの場合よりも弱いことの説明がつく。
【0216】
細胞取り込み
RAW264.7マクロファージ(10
5個/ウェル)を、FITC-BSAを封入しているMPC、NZPS、およびZPSナノゲルと共に、30、60、120、および180分間インキュベートし、その後、細胞を洗浄して溶解し、回収された蛍光を検出した。
図2C中に示すように、MPCは優れた非ファウリング特性を有しているために細胞取り込みが最も少なく、一方、NZPSナノゲルはeat-meシグナルが介在するために速やかにマクロファージに取り込まれた。NZPSと比較して、ZPSは、非ファウリング特性を有しかつ受容体に対する親和性が低いために、取り込まれるのが遅い。こうした結果から、ZPSは、固有の双性イオン性構造を有するために、有効な免疫抑制と良好な非ファウリング性能とを同時に達成できているのではないかということが示唆される。
【0217】
実施例5
代表的なポリ(ZPS)含有およびポリ(NZPS)含有バイオコンジュゲート
本実施例では、本発明に係る代表的なバイオコンジュゲートが記載される。特定の実施形態において、代表的なバイオコンジュゲートは、ZPSポリマー構成要素を含む。他の実施形態において、代表的なバイオコンジュゲートは、NZPSポリマー構成要素を含む。
【0218】
本実施例において、バイオコンジュゲートは酵素コンジュゲートである。代表的な酵素はウリカーゼである。ポリマーはこの酵素に、直接、または当該ポリマーと酵素とを繋ぐのに好適なリンカーを介して、共有結合している。
【0219】
以下に示される代表的なバイオコンジュゲートにおいて、バイオコンジュゲートはポリ(エチレングリコール)(PEG)部位をさらに含む。特定の実施形態において、こうしたバイオコンジュゲートは、酵素とPSポリマーとの間に介在するリンカー中にPEGを含む。他の実施形態において、こうしたバイオコンジュゲートは、ポリマー骨格(たとえば、PEGMAの重合に由来)からのペンダント基としてPEGを含む。
【0220】
代表的なポリ(ZPS)-ブロック-ポリ(PEGMA)ブロックコポリマーを含有するバイオコンジュゲートの調製および特徴づけ
末端チオール基を有するポリ(ZPS)-ブロック-ポリ(PEGMA)ブロックコポリマーの合成。可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合によって、当該ブロックコポリマーを調製する。概して、ZPSモノマー(6.7g)の重合を、連鎖移動剤(CTA)としての2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸(100mg)の存在下において、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、18mg)によって開始する。12時間反応させた後、重合を停止させ、得られたポリマーであるポリ(ZPS)-CTAを透析によって精製する。次いで、ポリ(ZPS)-CTAを巨大分子CTAとして使用して、PEGMAモノマーの重合を行なう(モル比、CTA/PEGMA=1/50)。過剰量のエーテル中で沈殿させた後、ポリ(ZPS)-ブロック-ポリ(PEGMA)-CTAブロックコポリマーを、透析および凍結乾燥によってさらに精製する。次いで、ヘキシルアミンおよびトリエチルアミンの混合溶液を使用して、このブロックコポリマーのCTA部位をチオール基に変換する。
【0221】
ポリ(ZPS)-ブロック-ポリ(PEGMA)-ウリカーゼコンジュゲートの調製
まず、ウリカーゼのアミン基を、二官能性架橋剤であるBMPS(N-マレイミドプロピル-オキシスクシンイミドエステル)を使用して、マレイミド基に変換する。次いで、活性化ウリカーゼ(10mg)を、末端チオール基を有するポリ(ZPS)-ブロック-ポリ(PEGMA)コポリマー(300mg)(PBS 4ml中)と混合する。ポリ(ZPS)-ブロック-ポリ(PEGMA)-ウリカーゼコンジュゲートを透析ろ過によって精製することによって、過剰なポリマーおよび未反応のウリカーゼを除去する。
【0222】
代表的なポリ(ZPS)およびポリ(PEGMA)ポリマーを含有するバイオコンジュゲートの調製および特徴づけ
末端チオール基を有するポリ(ZPS)の合成。可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合によって、当該ブロックコポリマーを調製する。概して、ZPSモノマー(6.7g)の重合を、CTAとしての2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸(100mg)の存在下において、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、18mg)によって開始する。12時間反応させた後、重合を停止させ、得られたポリマーであるポリ(ZPS)-CTAを透析によって精製する。次いで、ヘキシルアミンおよびトリエチルアミンの混合溶液を使用して、ポリ(ZPS)-CTAのCTA部位をチオール基に変換する。
【0223】
末端チオール基を有するポリ(PEGMA)の合成。PEGMA(5g)の重合を、連鎖移動剤(CTA)としての2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸(100mg)の存在下において、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、18mg)によって開始する。12時間反応させた後、重合を停止させ、得られたポリマーであるポリ(PEGMA)-CTAを透析によって精製する。次いで、ヘキシルアミンおよびトリエチルアミンの混合溶液を使用して、ポリ(PEGMA)-CTAのCTA部位をチオール基に変換する。
【0224】
ポリ(ZPS)およびポリ(PEGMA)を含有するバイオコンジュゲートの調製。
まず、ウリカーゼのアミン基を、二官能性架橋剤であるBMPS(N-マレイミドプロピル-オキシスクシンイミドエステル)を使用して、マレイミド基に変換する。次いで、活性化ウリカーゼ(10mg)を、末端チオール基を有するポリ(ZPS)(100mg)(PBS 4ml中)と混合する。ポリ(ZPS)-ウリカーゼコンジュゲートを透析ろ過によって精製することによって、過剰なポリマーおよび未反応のウリカーゼを除去する。第2のコンジュゲーション工程を、末端チオール基を有するポリ(PEGMA)とポリ(ZPS)-ウリカーゼとを混合することによって行なう。ポリ(ZPS)およびポリ(PEGMA)修飾ウリカーゼを透析ろ過によって精製することによって、過剰なポリマーを除去する。
【0225】
本実施例中に記載される代表的なバイオコンジュゲートは、以下の構造を有する。
【0226】
【0227】
【0228】
【0229】
実施例6
代表的な中性PS-PEGバイオコンジュゲートの免疫原性
本実施例では、代表的な中性PS-PEGバイオコンジュゲートの免疫原性を、代表的なPEG-ウリカーゼと比較する。
【0230】
PEG-ウリカーゼおよびPS模倣ポリマー-PEG-ウリカーゼを、25U/kg体重の用量にて、ラットの尾静脈中に静脈投与する。ウリカーゼ試料の投与を、免疫化間隔を1週間あけて5回繰り返す。第5週目の終わり(35日目)に、すべてのラットを安楽死させる。ラットを犠牲死させ、心臓穿刺により採取した血液を直接ELISA試験に用いる。ELISA試験に際し、抗ウリカーゼ抗体の検出にはコーティングされたウリカーゼを抗原として使用し、抗PEG抗体の検出にはBSA-PEGコンジュゲートが必要である。
【0231】
直接ELISA試験の第1の工程として、コーティングバッファー(0.1M炭酸ナトリウムバッファー、pH10.5)中に溶解して調製した抗原溶液(タンパク質濃度10μg/mL)100μLを使用して、96ウェルプレートの各ウェルをコーティングする。4℃において一晩コーティングした後、PBSバッファー(pH7.4)でプレートを5回洗浄することによって抗原溶液を除去し、次いで、ブロッキングバッファー(0.1Mトリスバッファー中の1%BSA溶液、pH8.0)を満たして室温で1時間インキュベートした後、ブロッキングバッファーを除去する。次いで、PBSバッファーで全ウェルをさらに5回洗浄する。続いて、1%BSAを含有するPBSバッファー中にラット血清を段階希釈したものをプレートに添加して(100μL/ウェル)、37℃において1時間インキュベートし、続いてラット血清を除去し、全ウェルをPBSバッファーで5回洗浄する。次に、二次抗体としてヤギ抗ラットIgMまたはIgG(HRP標識、Bethyl Laboratories)を各ウェルに添加して、37℃においてさらに1時間インキュベートする。続いて、全ウェルをPBSバッファーで5回洗浄し、その後、HRPの基質である3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB;Bethyl Laboratories)を100μL/ウェルにて添加する。プレートを15分間振とうし、停止溶液(0.2M H2SO4)100μLを各ウェルに添加する。450nm(シグナル)および570nm(バックグラウンド)における吸光度を、マイクロプレートリーダーを用いて記録する。ウリカーゼ試料を投与していないラットの血清を、すべてのELISA検出について、ネガティブコントロールとして使用する。
【0232】
ラットの脾臓を採取し、100μmのセルストレーナー(FisherbrandTM)を用いて脾細胞を分離する。各群のラット脾細胞を、抗ラットMHCIIおよびCD86抗体(eBioscience)を用いて染色し、次いでフローサイトメトリーによって分析する。T細胞活性化を試験するにあたり、各群のラット脾細胞を12ウェルプレート(106個/ウェル)中で培養し、PEG-ウリカーゼおよびPS模倣ポリマー-PEG-ウリカーゼ(1mg/ml)のそれぞれを用いて再度刺激する。平行して、各ラットの脾細胞を2つのウェル中で培養する。72時間後、各ウェルから細胞培地を採取し、IL-4 Rat ELISAキット(Life Technologies)を使用してIL-4を定量する。
【0233】
実施例7
代表的なZPS、中性PS、およびPCバイオコンジュゲートの免疫原性
本実施例では、代表的なバイオコンジュゲートの免疫原性が記載される。バイオコンジュゲートはウリカーゼコンジュゲートである。(a)双性イオン性PS(ZPS)ポリマー、(b)中性の非双性イオン性(NZPS)ポリマー、または(c)ホスファチジルコリン(phosphatidaylcholine)(PC)(MPC)ポリマーをウリカーゼ表面に共有結合させることによって、ウリカーゼコンジュゲートを調製した。
【0234】
簡潔には、AOT(120mg)およびBrij30(230mg)を20mLのガラスバイアルに添加し、この中に撹拌子を入れた。テフロン(登録商標)で裏打ちしたセプタム付きのキャップでバイアルを密閉し、乾燥窒素を10分間パージした。次いで、激しく撹拌しながら、バイアル中に、窒素で脱酸素化したヘキサン(5mL)を添加した。水相として、ウリカーゼ(1mg)をHEPESバッファー(pH8.5、125μL)中に溶解し、ここに、ZPSモノマー(50mg)を添加して溶解した。このモノマー/タンパク質溶液に乾燥窒素を2分間通気し、その後、水相を有機連続相にゆっくりと滴下した。バイアルを超音波にかけて、安定なマイクロエマルションを形成した。次いで、20%(w/v)APS溶液(Milli-Q水中)(10μL)をエマルションに添加した。5分後、TEMED(6μL)を添加することによって重合を開始させ、高速磁気撹拌下において4℃で維持した。2時間反応させた後、ロータリーエバポレータによって有機溶媒を除去し、ZPS-ウリカーゼコンジュゲートを沈殿させて、THFで3回洗浄した。ZPS-ウリカーゼコンジュゲートをPBSバッファー中に再懸濁し、高分解能サイズ排除クロマトグラフィー(Sephacryl S-500HR)で精製することによって、遊離のウリカーゼを除去した。最後に、分画分子量100kDaの遠心式フィルターを使用して、コンジュゲートをPBS(pH7.4)で3回洗浄および濃縮した。
【0235】
コンジュゲートの構造が、以下に概略的に示される。
【0236】
【0237】
【0238】
in vitro免疫原性研究に際し、DC2.4樹状細胞(10
5個/ウェル)を、PBS(ブランクコントロール)、天然ウリカーゼ、ZPS-ウリカーゼ、NZPS-ウリカーゼ、MPC-ウリカーゼコンジュゲート(2mU/mL)それぞれと共に、72時間インキュベートした。インキュベーション期間の終わりに、細胞を300gで10分間遠心し、上清の培地を採取して、ELISAによるサイトカイン(TGF-ベータ)分析に供した。細胞を回収し、氷冷滅菌リン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄した。細胞を抗CD40-FITCまたは抗CD80-PEで標識して、フローサイトメトリーを使用して分析した。
図3Aおよび
図3B中に示すように、天然ウリカーゼに曝露した結果、共刺激マーカーCD40およびCD80の発現が増加し(
図3A)、その結果、未成熟の樹状細胞が減少した(
図3B)。一方、MPC-ウリカーゼ、NZPS-ウリカーゼ、およびZPS-ウリカーゼは、樹状細胞活性化を刺激する効果が低減されており、そのなかで、NZPS-ウリカーゼの効果が最も小さく、次にZPS-ウリカーゼの効果が小さかった。典型的な免疫抑制性サイトカインマーカーであるTGF-ベータの測定(
図3C)によって、MPC-ウリカーゼはTGF-ベータのレベルに影響を及ぼさず、NZPS-ウリカーゼおよびZPS-ウリカーゼはいずれも著しいTGF-ベータ分泌上方調節効果を有することが示唆される。
【0239】
in vivo免疫原性研究に際し、ZPS-ウリカーゼ、NZPS-ウリカーゼ、MPC-ウリカーゼコンジュゲートを、25U/kg体重の用量にて、マウスの尾静脈に静脈投与する。ウリカーゼ試料の投与を、投与間隔を1週間あけて3回繰り返す。多様な時点(0、6時間、24時間、48時間、72時間)においてマウスの血液を採取し、AmplexTM尿酸/ウリカーゼキットを用いて酵素活性を測定することによって、血中滞留ウリカーゼ量を推定した。3週間目の終わり(21日目)に、すべてのマウスを安楽死させる。マウスを犠牲死させ、心臓穿刺により採取した血液を直接ELISA試験に用いる。
【0240】
直接ELISA試験の第1の工程として、コーティングバッファー(0.1M炭酸ナトリウムバッファー、pH10.5)中に溶解して調製した抗原溶液(タンパク質濃度10μg/mL)100μLを使用して、96ウェルプレートの各ウェルをコーティングする。4℃において一晩コーティングした後、PBSバッファー(pH7.4)でプレートを5回洗浄することによって抗原溶液を除去し、次いで、ブロッキングバッファー(0.1Mトリスバッファー中の1%BSA溶液、pH8.0)を満たして室温で1時間インキュベートした後、ブロッキングバッファーを除去する。次いで、PBSバッファーで全ウェルをさらに5回洗浄する。続いて、1%BSAを含有するPBSバッファー中にマウス血清を段階希釈したものをプレートに添加して(100μL/ウェル)、37℃において1時間インキュベートし、続いてマウス血清を除去し、全ウェルをPBSバッファーで5回洗浄する。次に、二次抗体としてヤギ抗ラットIgMまたはIgG(HRP標識、Bethyl Laboratories)を各ウェルに添加して、37℃においてさらに1時間インキュベートする。続いて、全ウェルをPBSバッファーで5回洗浄し、その後、HRPの基質である3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB;Bethyl Laboratories)を100μL/ウェルにて添加する。プレートを15分間振とうし、停止溶液(0.2M H2SO4)100μLを各ウェルに添加する。450nm(シグナル)および570nm(バックグラウンド)における吸光度を、マイクロプレートリーダーを用いて記録する。ウリカーゼ試料を投与していないマウスの血清を、すべてのELISA検出について、ネガティブコントロールとして使用する。また、21日目にマウスの脾臓を採取し、100μmセルストレーナー(FisherbrandTM)を用いて脾細胞を分離した。各群のマウス脾細胞を、天然ウリカーゼ、MPC-ウリカーゼ、NZPS-ウリカーゼ、またはZPS-ウリカーゼの存在下において72時間培養し、次いで、フローサイトメトリー分析のために、抗CD4-PE抗体、抗CD25-FITC抗体、および抗Foxp3-Percep抗体を用いて染色した。
【0241】
図4Aおよび
図4Bならびに表1中に示すように、不活性の双性イオン性ポリマーであるMPCとコンジュゲートしたウリカーゼでは、3回の投与後に、血中からの急速なクリアランス(accelerated blood clearance:ABC)が生じている。
【0242】
【0243】
抗ウリカーゼ抗体または抗コンジュゲート抗体での展開(
図4Cおよび
図4D)は、天然ウリカーゼおよびMPC-ウリカーゼコンジュゲートの場合に生じたABC現象を説明できる。一方、双性イオン性PS(ZPS)ポリマーおよび非双性イオン性PS(NZPS)ポリマーはいずれも、免疫原性のタンパク質キャリア(ウリカーゼ)により誘発され得る免疫応答を抑制できる。このような免疫抑制効果のために、抗コンジュゲート抗体がなくなり(
図4Cおよび
図4D)、その結果として、繰り返し投与後のウリカーゼコンジュゲートの循環時間が維持される(表1)。NZPS-ウリカーゼの循環時間は、ZPS-ウリカーゼの循環時間よりも大幅に短く、このことから、NZPSのPS頭部基の「eat-me」シグナルにより急速なクリアランスが生じたことが示され、これは、in vivoにおけるタンパク質の滞留時間を引き延ばすためには好ましくない。一方、ZPS-ウリカーゼの循環時間はMPC-ウリカーゼの循環時間と同等であり、このことから、ZPSは、他の双性イオン性材料と同じようにタンパク質の循環時間を引き延ばし、その上PSの免疫抑制効果を保持できるため、タンパク質の免疫原性を阻害できることが示される。このように、ZPSは長い循環期間と低い免疫原性とを同時に達成できるという固有の特性を有するために、ナノ粒子(たとえば、タンパク質コンジュゲート、リポソーム、ミセル、ならびに、金、量子ドット、シリカ、および酸化鉄のナノ粒子などの固体ナノ粒子)にとって特に好適である。また、マウス脾細胞の特徴づけによって、NZPS-ウリカーゼおよびZPS-ウリカーゼコンジュゲートはT-rege細胞の発現を上方調節し得ることが確認され(
図4Eおよび
図4F)、これにより、これらが望ましくない免疫応答を回避する現象の説明がつく。
【0244】
ここまで、例示的な実施形態を例示および記載したが、これらの実施形態は、本発明の思想および範囲から逸脱することなく様々に変更できるということが理解される。
排他的な特性または権利を主張する本発明の実施形態を以下のように定義する。