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特許7534789血圧推定システム、血圧推定方法、学習装置、学習方法及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】血圧推定システム、血圧推定方法、学習装置、学習方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/021 20060101AFI20240807BHJP
   A61B 5/022 20060101ALI20240807BHJP
   A61B 5/01 20060101ALI20240807BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20240807BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240807BHJP
   G06N 3/08 20230101ALI20240807BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240807BHJP
【FI】
A61B5/021
A61B5/022 400F
A61B5/022 400Z
A61B5/01 350
A61B5/00 G
G06N20/00
G06N3/08
G06T7/00 350B
G06T7/00 660A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021162566
(22)【出願日】2021-10-01
(62)【分割の表示】P 2020129600の分割
【原出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022008806
(43)【公開日】2022-01-14
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2019160646
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月7日 北海道大学工学部において開催された平成30年 電気学会 電子・情報・システム部門大会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月5日 一般社団法人電気学会 平成30年電子・情報・システム部門大会講演論文集 GS9-6、GS9-7、TC15-4で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月5日 http://id.nii.ac.jp/1031/00112150/, http://id.nii.ac.jp/1031/00112151/, http://id.nii.ac.jp/1031/00111952/ で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年1月24日 別府国際コンベンションセンターにおいて開催された第24会「人工生命とロボットに関する国際シンポジウム」(AROB 24st 2019)で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年1月24日 Proceedings of 24th International Symposium on Artificial Life and Robotics OS14-5で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年1月24日 https://isarob.org/symposium/isarob_files/proceedings/AROB24/Proceedings.zip で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月13日 北海道科学大学において開催された平成31年 電気学会全国大会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月13日 一般社団法人電気学会 平成31年電気学会全国大会講演論文集 3-013で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月1日 http://id.nii.ac.jp/1031/00121532/ で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年7月1日 一般社団法人電気学会 電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌)139巻 7号 759頁-765頁で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年7月1日 https://doi.org/10.1541/ieejeiss.139.759 で公開
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519449574
【氏名又は名称】野澤 昭雄
(74)【代理人】
【識別番号】100089026
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高明
(72)【発明者】
【氏名】野澤 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】大岩 孝輔
(72)【発明者】
【氏名】中野 研一
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-077890(JP,A)
【文献】特開2017-074217(JP,A)
【文献】特開2016-190022(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0199870(US,A1)
【文献】国際公開第2018/088358(WO,A1)
【文献】特開2004-054960(JP,A)
【文献】特開2015-062585(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104720778(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0256117(US,A1)
【文献】特開2018-102731(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0251493(US,A1)
【文献】特表2018-502677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00- 5/01
A61B 5/02- 5/03
A61B 5/06- 5/22
G06T 7/00- 7/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の顔面熱画像を非接触状態で取得する顔面画像取得部と、
前記顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて前記被検者の血圧を推定する血圧推定部とを有し、
前記血圧推定部は、
前記顔面画像取得部により取得した前記顔面熱画像を独立成分分析することにより得られた独立成分を前記空間的特徴量として抽出する空間的特徴量抽出部と、前記顔面熱画像の前記独立成分と血圧との関係を示す相関データを記憶した相関データ記憶部と、
前記空間的特徴量抽出部により抽出された前記独立成分に対応する血圧の値を前記相関データから判定する血圧判定部と、
前記血圧判定部が判定した値を、前記被検者の前記血圧の推定値として出力する推定血圧値出力部と、を有し、
前記独立成分は、前記被検者の顔面全体及び顔面の様々な部位であり、
前記空間的特徴量を対比して血圧との関連性を分析することにより被検者の血圧を推定するように構成され、
前記顔面熱画像の前記空間的特徴量として、独立成分数を所定の数に定めた場合における顔面皮膚温の特徴量の行列の各成分に対応した混合行列の成分を抽出し、当該混合行列の成分と血圧との関係を示す相関データを用いて血圧を推定することを特徴とする、血圧推定システム。
【請求項2】
被検者の顔面熱画像を非接触状態で取得する顔面画像取得部と、
前記顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて前記被検者の血圧を推定する血圧推定部とを有し、
前記血圧推定部は、
前記顔面画像取得部により取得した前記顔面熱画像の前記空間的特徴量としての顔面皮膚温度分布を抽出する空間的特徴量抽出部と、
2段階の平均血圧値又は3段階の平均血圧値からなる血圧段階に対応する判定用の前記空間的特徴量としての顔面皮膚温度分布を記憶している判定用特徴量記憶部と、
前記空間的特徴量抽出部により抽出された前記空間的特徴量と前記判定用の空間的特徴量とに基づいて、前記被検者の血圧段階を判定する血圧段階判定部と、
前記血圧段階判定部による判定結果を、前記被検者の血圧段階の推定結果として出力する推定血圧段階出力部と、を有し、
前記判定用特徴量記憶部に記憶されている前記判定用の空間的特徴量は、機械学習部により抽出された空間的特徴量であり、
記血圧段階及び、前記血圧段階に対応する学習用顔面画像の前記顔面皮膚温度分布を前記機械学習部に予め入力して、前記血圧段階及び前記顔面皮膚温度分布との対応関係を前記機械学習部に学習させておき、
前記血圧段階判定部は、前記顔面画像取得部により取得された顔面皮膚温度分布を、前記判定用特徴量記憶部により前記機械学習部から抽出された前記顔面皮膚温度分布に対比させて前記被検者の血圧段階を判定することを特徴とする血圧推定システム。
【請求項3】
請求項2に記載の血圧推定システムにおいて、
前記判定用特徴量記憶部に記憶されている前記判定用の空間的特徴量は、機械学習部により抽出された空間的特徴量であり、
前記機械学習部は、
学習用顔面画像の空間的特徴量を学習済モデルを用いて抽出する空間的特徴量抽出部と、
2段階の平均血圧値又は3段階の平均血圧値からなる血圧段階のそれぞれに対応してラベル付けされた複数の学習用顔面画像を記憶している学習用データ記憶部と、
前記空間的特徴量抽出部による抽出結果と、前記空間的特徴量抽出部により抽出対象とされた前記学習用顔面画像に付されているラベルとの関係に基づいて、前記空間的特徴量抽出部による前記空間的特徴量の抽出精度が高くなるように前記学習済モデルのネットワークパラメータを変更する特徴量学習部と、を有することを特徴とする、血圧推定システム。
【請求項4】
被検者の顔面熱画像を非接触状態で取得する顔面画像取得部と、
前記顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて前記被検者の血圧を推定する血圧推定部とを有し、
前記血圧推定部は、
前記顔面画像取得部により取得した前記顔面熱画像の前記空間的特徴量としての顔面皮膚温度分布を抽出する空間的特徴量抽出部と、
2段階の平均血圧値又は3段階の平均血圧値からなる血圧段階に対応する判定用の空間的特徴量を記憶している判定用特徴量記憶部と、
前記空間的特徴量抽出部により抽出された前記空間的特徴量と前記判定用の空間的特徴量とに基づいて、前記被検者の血圧段階を判定する血圧段階判定部と、
前記血圧段階判定部による判定結果を、前記被検者の血圧段階の推定結果として出力する推定血圧段階出力部と、を有する請求項2記載の血圧推定システムに使用され、
学習用顔面画像の空間的特徴量を学習済モデルを用いて抽出する空間的特徴量抽出部と、
2段階の平均血圧値又は3段階の平均血圧値からなる血圧段階のそれぞれに対応してラベル付けされた複数の前記学習用顔面画像を記憶している学習用データ記憶部と、
前記空間的特徴量抽出部による抽出結果と、前記空間的特徴量抽出部により抽出対象とされた前記学習用顔面画像に付されているラベルとの関係に基づいて、前記空間的特徴量抽出部による前記空間的特徴量の抽出精度が高くなるように前記学習済モデルのネットワークパラメータを変更する特徴量学習部とを有することを特徴とする学習装置。
【請求項5】
被検者の顔面熱画像を取得する顔面画像取得ステップと、
前記顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて前記被検者の血圧を推定する血圧推定ステップとを有し、
前記血圧推定ステップは、前記顔面画像取得ステップにより取得した前記顔面熱画像を独立成分分析することにより得られた独立成分を前記空間的特徴量として抽出する空間的特徴量抽出ステップと、
前記顔面熱画像の前記独立成分と血圧との関係を示す相関データを記憶する相関データ記憶ステップと、
前記空間的特徴量抽出ステップにより抽出された前記独立成分に対応する血圧の値を前記相関データから判定する血圧判定ステップと、
前記血圧判定ステップによる判定結果を、前記被検者の前記血圧の推定値として出力する推定血圧値出力ステップとを有し、
前記独立成分は、前記被検者の顔面全体及び顔面の様々な部位であり、
前記顔面熱画像の前記空間的特徴量として、独立成分数を所定の数に定めた場合における顔面皮膚温の特徴量の行列の各成分に対応した混合行列の成分を抽出し、当該混合行列の成分と血圧との関係を示す相関データを用いて血圧を推定することを特徴とする、血圧推定方法。
【請求項6】
コンピュータを被検者の血圧を推定する手段として機能させるためのプログラムであって、
被検者の顔面熱画像を取得する顔面画像取得ステップと、
前記顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて前記被検者の血圧を推定する血圧推定ステップとを有し、
前記血圧推定ステップは、
前記顔面画像取得ステップにおいて取得された前記顔面熱画像を独立成分分析することにより得られた独立成分を前記空間的特徴量として抽出する空間的特徴量抽出ステップと、
前記顔面熱画像の前記独立成分と血圧との関係を示す相関データを記憶する相関データ記憶ステップと、
前記空間的特徴量抽出ステップにより抽出された前記独立成分に対応する血圧の値を前記相関データから判定する血圧判定ステップと、
前記空間的特徴量抽出ステップにより抽出した独立成分に対応する血圧の値を前記相関データから求め、その値を、前記被検者の血圧の推定値として出力する推定血圧値出力ステップと、を有し、
前記独立成分は、前記被検者の顔面全体及び顔面の様々な部位であり、
前記空間的特徴量を対比して血圧との関連性を分析することにより被検者の血圧を推定するように構成され、
前記顔面熱画像の前記空間的特徴量として、独立成分数を所定の数に定めた場合における顔面皮膚温の特徴量の行列の各成分に対応した混合行列の成分を抽出し、当該混合行列の成分と血圧との関係を示す相関データを用いて血圧を推定することを特徴とする、プログラム。
【請求項7】
コンピュータを被検者の血圧を推定する手段として機能させるためのプログラムであって、
前記被検者の顔面熱画像を取得する顔面画像取得ステップと、
前記顔面熱画像の空間的特徴量としての顔面皮膚温度分布に基づいて前記被検者の血圧を推定する血圧推定ステップとを有し、
前記血圧推定ステップは、
2段階の平均血圧値又は3段階の平均血圧値からなる血圧段階に対応する判定用の空間的特徴量としての顔面皮膚温度分布を記憶する判定用特徴量記憶ステップと、
前記顔面画像取得ステップにより取得した被検者の顔面熱画像の前記空間的特徴量と前記判定用の空間的特徴量とに基づいて前記被検者の血圧段階を判定する血圧段階判定ステップと、
前記血圧段階判定ステップによる判定結果を、前記被検者の血圧段階の推定結果として出力する推定血圧段階出力ステップと、を有し、
判定用特徴量記憶部に記憶されている前記判定用の空間的特徴量は、機械学習部により抽出された空間的特徴量であり、
前記血圧段階及び、前記血圧段階に対応する学習用顔面画像の前記顔面皮膚温度分布を前記機械学習部に予め入力して、前記血圧段階及び前記顔面皮膚温度分布との対応関係を前記機械学習部に学習させておき、
血圧段階判定部は、顔面画像取得部により取得された顔面皮膚温度分布を、前記判定用特徴量記憶部により前記機械学習部から抽出された前記顔面皮膚温度分布に対比させて前記被検者の血圧段階を判定する血圧推定システムに使用されることを特徴とする、プログラム。
【請求項8】
2段階の平均血圧値又は3段階の平均血圧値からなる血圧段階のそれぞれに対応してラベル付けされた複数の学習用顔面画像を記憶する学習用データ記憶ステップと、
前記学習用顔面画像から前記学習用顔面画像の空間的特徴量を学習済モデルを用いて抽出する特徴量抽出ステップと、
前記特徴量抽出ステップによる抽出結果と、前記特徴量抽出ステップにより抽出対象とされた前記学習用顔面画像に付されているラベルとの関係に基づいて、前記特徴量抽出ステップによる前記空間的特徴量の抽出精度が高くなるように前記学習済モデルのネットワークパラメータを変更する学習ステップ と、を有し、
前記判定用特徴量記憶ステップは、前記特徴量抽出ステップにより抽出した前記空間的特徴量を記憶するステップである、請求項7に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の血圧を非接触で推定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被検者の血圧を非接触で推定する技術は公知である。特許文献1には、被検者の肌画像の輝度の時間変化から脈波タイミングを算出するとともに、被検者と受信アンテナとの距離の時間変化から心拍タイミングを算出し、脈波タイミングと心拍タイミングとの時間差に基づいて、被検者の血圧を推定するシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-77890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、被検者の肌画像を取得するための撮像手段に加えて、脈波タイミングを算出するための算出手段、被検者の肌との距離を測定するための受信アンテナを含む測距手段および心拍タイミングを算出するための算出手段を必要とするためシステム構成の規模が大きいものになる。
【0005】
また、特許文献1の技術では、被検者の肌画像の輝度の時間変化の情報すなわち、肌画像の時間的特徴量と、被検者と受信アンテナとの距離の時間変化の情報すなわち、肌の位置の時間的特徴量とに基づいて血圧推定を行うため、一回の血圧推定ごとに、肌画像の時間的特徴量および肌の位置の時間的特徴量を抽出するための所要時間を必要とする。このため、被検者の血圧を瞬時に推定するということはできない。
【0006】
本発明は、被検者の血圧を非接触で瞬時に推定することができる血圧推定システム、血圧推定方法、学習装置、学習方法およびそれらをコンピュータを用いて実現するためのプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明にあっては、被検者の顔面熱画像を非接触状態で取得する顔面画像取得部と、前記顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて前記被検者の血圧を推定する血圧推定部とを有し、前記血圧推定部は、前記顔面画像取得部により取得した前記顔面熱画像を独立成分分析することにより得られた独立成分を前記空間的特徴量として抽出する空間的特徴量抽出部と、前記顔面熱画像の前記独立成分と血圧との関係を示す相関データを記憶した相関データ記憶部と、前記空間的特徴量抽出部により抽出された前記独立成分に対応する血圧の値を前記相関データから判定する血圧判定部と、前記血圧判定部が判定した値を、前記被検者の前記血圧の推定値として出力する推定血圧値出力部と、を有し、前記独立成分は、前記被検者の顔面全体及び顔面の様々な部位であり、前記空間的特徴量を対比して血圧との関連性を分析することにより被検者の血圧を推定するように構成され、前記顔面熱画像の前記空間的特徴量として、独立成分数を所定の数に定めた場合における顔面皮膚温の特徴量の行列の各成分に対応した混合行列の成分を抽出し、当該混合行列の成分と血圧との関係を示す相関データを用いて血圧を推定することを特徴とする血圧推定システムである。
【0008】
請求項2記載の発明にあっては、被検者の顔面熱画像を非接触状態で取得する顔面画像取得部と、前記顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて前記被検者の血圧を推定する血圧推定部とを有し、前記血圧推定部は、前記顔面画像取得部により取得した前記顔面熱画像の前記空間的特徴量としての顔面皮膚温度分布を抽出する空間的特徴量抽出部と、2段階の平均血圧値又は3段階の平均血圧値からなる血圧段階に対応する判定用の前記空間的特徴量としての顔面皮膚温度分布を記憶している判定用特徴量記憶部と、前記空間的特徴量抽出部により抽出された前記空間的特徴量と前記判定用の空間的特徴量とに基づいて、前記被検者の血圧段階を判定する血圧段階判定部と、前記血圧段階判定部による判定結果を、前記被検者の血圧段階の推定結果として出力する推定血圧段階出力部と、を有し、前記判定用特徴量記憶部に記憶されている前記判定用の空間的特徴量は、機械学習部により抽出された空間的特徴量であり、前記血圧段階及び、前記血圧段階に対応する学習用顔面画像の前記顔面皮膚温度分布を前記機械学習部に予め入力して、前記血圧段階及び前記顔面皮膚温度分布との対応関係を前記機械学習部に学習させておき、前記血圧段階判定部は、前記顔面画像取得部により取得された顔面皮膚温度分布を、前記判定用特徴量記憶部により前記機械学習部から抽出された前記顔面皮膚温度分布に対比させて前記被検者の血圧段階を判定することを特徴とする血圧推定システムである。
【0009】
請求項3記載の発明にあっては、請求項2に記載の血圧推定システムにおいて、前記判定用特徴量記憶部に記憶されている前記判定用の空間的特徴量は、機械学習部により抽出された空間的特徴量であり、前記機械学習部は、学習用顔面画像の空間的特徴量を学習済モデルを用いて抽出する空間的特徴量抽出部と、2段階の平均血圧値又は3段階の平均血圧値からなる血圧段階のそれぞれに対応してラベル付けされた複数の学習用顔面画像を記憶している学習用データ記憶部と、前記空間的特徴量抽出部による抽出結果と、前記空間的特徴量抽出部により抽出対象とされた前記学習用顔面画像に付されているラベルとの関係に基づいて、前記空間的特徴量抽出部による前記空間的特徴量の抽出精度が高くなるように前記学習済モデルのネットワークパラメータを変更する特徴量学習部とを有することを特徴とする血圧推定システムである。
【0010】
請求項4記載の発明にあっては、被検者の顔面熱画像を非接触状態で取得する顔面画像取得部と、前記顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて前記被検者の血圧を推定する血圧推定部とを有し、前記血圧推定部は、前記顔面画像取得部により取得した前記顔面熱画像の前記空間的特徴量としての顔面皮膚温度分布を抽出する空間的特徴量抽出部と、2段階の平均血圧値又は3段階の平均血圧値からなる血圧段階に対応する判定用の空間的特徴量を記憶している判定用特徴量記憶部と、前記空間的特徴量抽出部により抽出された前記空間的特徴量と前記判定用の空間的特徴量とに基づいて、前記被検者の血圧段階を判定する血圧段階判定部と、前記血圧段階判定部による判定結果を、前記被検者の血圧段階の推定結果として出力する推定血圧段階出力部と、を有する請求項2記載の血圧推定システムに使用され、学習用顔面画像の空間的特徴量を学習済モデルを用いて抽出する空間的特徴量抽出部と、2段階の平均血圧値又は3段階の平均血圧値からなる血圧段階のそれぞれに対応してラベル付けされた複数の前記学習用顔面画像を記憶している学習用データ記憶部と、前記空間的特徴量抽出部による抽出結果と、前記空間的特徴量抽出部により抽出対象とされた前記学習用顔面画像に付されているラベルとの関係に基づいて、前記空間的特徴量抽出部による前記空間的特徴量の抽出精度が高くなるように前記学習済モデルのネットワークパラメータを変更する特徴量学習部とを有することを特徴とする学習装置である。
【0011】
請求項5記載の発明にあっては、被検者の顔面熱画像を取得する顔面画像取得ステップと、前記顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて前記被検者の血圧を推定する血圧推定ステップとを有し、前記血圧推定ステップは、前記顔面画像取得ステップにより取得した前記顔面熱画像を独立成分分析することにより得られた独立成分を前記空間的特徴量として抽出する空間的特徴量抽出ステップと、前記顔面熱画像の前記独立成分と血圧との関係を示す相関データを記憶する相関データ記憶ステップと、前記空間的特徴量抽出ステップにより抽出された前記独立成分に対応する血圧の値を前記相関データから判定する血圧判定ステップと、前記血圧判定ステップによる判定結果を、前記被検者の前記血圧の推定値として出力する推定血圧値出力ステップとを有し、前記独立成分は、前記被検者の顔面全体及び顔面の様々な部位であり、前記顔面熱画像の前記空間的特徴量として、独立成分数を所定の数に定めた場合における顔面皮膚温の特徴量の行列の各成分に対応した混合行列の成分を抽出し、当該混合行列の成分と血圧との関係を示す相関データを用いて血圧を推定することを特徴とする、血圧推定方法である。
【0012】
請求項6記載の発明にあっては、コンピュータを被検者の血圧を推定する手段として機能させるためのプログラムであって、被検者の顔面熱画像を取得する顔面画像取得ステップと、前記顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて前記被検者の血圧を推定する血圧推定ステップとを有し、前記血圧推定ステップは、前記顔面画像取得ステップにおいて取得された前記顔面熱画像を独立成分分析することにより得られた独立成分を前記空間的特徴量として抽出する空間的特徴量抽出ステップと、前記顔面熱画像の前記独立成分と血圧との関係を示す相関データを記憶する相関データ記憶ステップと、前記空間的特徴量抽出ステップにより抽出した独立成分に対応する血圧の値を前記相関データから求め、その値を、前記被検者の血圧の推定値として出力する推定血圧値出力ステップと、を有し、前記独立成分は、前記被検者の顔面全体及び顔面の様々な部位であり、前記空間的特徴量を対比して血圧との関連性を分析することにより被検者の血圧を推定するように構成され、前記顔面熱画像の前記空間的特徴量として、独立成分数を所定の数に定めた場合における顔面皮膚温度の特徴量の行列の各成分に対応した混合行列の成分を抽出し、当該混合行列の成分と血圧との関係を示す相関データを用いて血圧を推定することを特徴とするプログラムである。
【0013】
請求項7記載の発明にあっては、コンピュータを被検者の血圧を推定する手段として機能させるためのプログラムであって、前記被検者の顔面熱画像を取得する顔面画像取得ステップと、前記顔面熱画像の空間的特徴量としての顔面皮膚温度分布に基づいて前記被検者の血圧を推定する血圧推定ステップとを有し、前記血圧推定ステップは、2段階の平均血圧値又は3段階の平均血圧値からなる血圧段階に対応する判定用の空間的特徴量としての顔面皮膚温度分布を記憶する判定用特徴量記憶ステップと、前記顔面画像取得ステップにより取得した被検者の顔面熱画像の前記空間的特徴量と前記判定用の空間的特徴量とに基づいて前記被検者の血圧段階を判定する血圧段階判定ステップと、前記血圧段階判定ステップによる判定結果を、前記被検者の血圧段階の推定結果として出力する推定血圧段階出力ステップと、を有し、前記血圧段階及び、前記血圧段階に対応する学習用顔面画像の前記顔面皮膚温度分布を前記機械学習部に予め入力して、前記血圧段階及び前記顔面皮膚温度分布との対応関係を前記機械学習部に学習させておき、血圧段階判定部は、顔面画像取得部により取得された顔面皮膚温度分布を、前記判定用特徴量記憶部により前記機械学習部から抽出された前記顔面皮膚温度分布に対比させて前記被検者の血圧段階を判定する血圧推定システムに使用されることを特徴とするプログラムである。
【0014】
請求項8記載の発明にあっては、2段階の平均血圧値又は3段階の平均血圧値からなる血圧段階のそれぞれに対応してラベル付けされた複数の学習用顔面画像を記憶する学習用データ記憶ステップと、前記学習用顔面画像から前記学習用顔面画像の空間的特徴量を学習済モデルを用いて抽出する特徴量抽出ステップと、前記特徴量抽出ステップによる抽出結果と、前記特徴量抽出ステップにより抽出対象とされた前記学習用顔面画像に付されているラベルとの関係に基づいて、前記特徴量抽出ステップによる前記空間的特徴量の抽出精度が高くなるように前記学習済モデルのネットワークパラメータを変更する学習ステップとを有し、前記判定用特徴量記憶ステップは、前記特徴量抽出ステップにより抽出した前記空間的特徴量を記憶するステップである、請求項7に記載のプログラムである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の血圧推定システムによれば、非接触状態で取得した被検者の顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて当該被検者の血圧を推定することにより、被検者の血圧を非接触で瞬時に推定することができる。
【0016】
即ち、顔面画像取得部により非接触状態で取得した顔面熱画像を独立成分分析することにより、空間的特徴量として当該顔面熱画像の独立成分を抽出し、抽出された独立成分に対応する血圧の値を前記相関データから判定し、判定した値を、前記被検者の血圧の推定値として出力するように構成されていることから、例えば特許文献1に記載の従来技術では、被検者の肌画像の輝度の時間変化の情報すなわち、肌画像の時間的特徴量と、被検者と受信アンテナとの距離の時間変化の情報すなわち、肌の位置の時間的特徴量とに基づいて血圧推定を行うため、一回の血圧推定ごとに、肌画像の時間的特徴量および肌の位置の時間的特徴量を抽出するための所要時間を必要とし、被検者の血圧を瞬時に推定するということはできない。
【0017】
しかしながら、請求項1記載の発明にあっては、非接触状態で取得した被検者の顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて当該被検者の血圧を推定するように構成されていることから、顔面熱画像の空間的特徴量の情報処理のみで被検者の血圧推定を行うことができるため、従来技術のように一回の血圧推定ごとに、肌画像の時間的特徴量および肌の位置の時間的特徴量を抽出するための所要時間を要することなく、被検者の顔面熱画像を取得した後、瞬時にかつ正確に血圧推定を行うことができる。
【0018】
また、例えば特許文献1に記載の従来技術にあっては、被検者の肌画像を取得するための撮像手段に加えて、脈波タイミングを算出するための算出手段、被検者の肌との距離を測定するための受信アンテナを含む測距手段および心拍タイミングを算出するための算出手段を必要とするためシステム構成の規模が大きいものになっていたが、請求項1記載の発明にあっては、被検者の顔面熱画像を非接触状態で取得する顔面画像取得部と、前記顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて前記被検者の血圧を推定する血圧推定部とにより血圧推定システムを構成するものであることからシステム構成を簡易にすることができ、システム構成に要するコストを低減することもできる。
【0019】
請求項2の血圧推定システムによれば、被検者の顔面熱画像の空間的特徴量としての顔面皮膚温度分布に基づいて、当該被検者の血圧段階を非接触で瞬時かつ正確に推定することができる。
【0020】
請求項3の血圧推定システムによれば、被検者の顔面熱画像の空間的特徴量の抽出精度が高くなるように学習済モデルのネットワークパラメータを変更することができるので、被検者の顔面画像の空間的特徴量に基づいて、被検者の血圧段階を非接触で瞬時かつより高精度に推定することができる。
【0021】
請求項4の学習装置によれば、被検者の顔面熱画像の空間的特徴量の抽出精度が高くなるように学習済モデルのネットワークパラメータを変更することができる。その結果、被検者の血圧段階を非接触で瞬時かつ、さらに高精度に推定することができる。
【0022】
請求項5の血圧推定方法によれば、被検者の顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて当該被検者の血圧を推定することにより、被検者の血圧を非接触で瞬時にかつ正確に推定することができる。
【0023】
即ち、顔面画像取得部により非接触状態で取得した顔面熱画像を独立成分分析することにより、空間的特徴量として、当該顔面熱画像の独立成分を抽出し、抽出された独立成分に対応する血圧の値を前記相関データから判定し、判定した値を、前記被検者の血圧の推定値として出力するように構成されていることから、例えば特許文献1に記載の従来技術では、被検者の肌画像の輝度の時間変化の情報すなわち、肌画像の時間的特徴量と、被検者と受信アンテナとの距離の時間変化の情報すなわち、肌の位置の時間的特徴量とに基づいて血圧推定を行うため、一回の血圧推定ごとに、肌画像の時間的特徴量および肌の位置の時間的特徴量を抽出するための所要時間を必要とし、被検者の血圧を瞬時に推定するということはできない。
【0024】
しかしながら、請求項5記載の発明にあっては、非接触状態で取得した被検者の顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて当該被検者の血圧を推定するように構成されていることから、顔面熱画像の空間的特徴量の情報処理のみで被検者の血圧推定を行うことができるため、従来技術のように一回の血圧推定ごとに、肌画像の時間的特徴量および肌の位置の時間的特徴量を抽出するための所要時間を要することなく、被検者の顔面熱画像を取得した後、瞬時にかつ正確に血圧推定を行うことができる。
【0025】
請求項6のプログラムによれば、被検者の顔面熱画像を独立成分分析することにより、空間的特徴量としての顔面熱画像の独立成分を抽出し、その抽出された独立成分に対応する血圧の値を相関データから判定し、その値を、被検者の血圧の推定値として出力する機能を有する血圧推定システムを、一又は互いに連携して働く複数のコンピュータを用いて実現することができる。
【0026】
その結果、例えば特許文献1に記載の従来技術では、被検者の肌画像の輝度の時間変化の情報すなわち、肌画像の時間的特徴量と、被検者と受信アンテナとの距離の時間変化の情報すなわち、肌の位置の時間的特徴量とに基づいて血圧推定を行うため、一回の血圧推定ごとに、肌画像の時間的特徴量および肌の位置の時間的特徴量を抽出するための所要時間を必要とし、被検者の血圧を瞬時に推定するということはできない。
【0027】
しかしながら、請求項6記載の発明にあっては、非接触状態で取得した被検者の顔面熱画像の空間的特徴量に基づいて当該被検者の血圧を推定するように構成されていることから、顔面熱画像の空間的特徴量の情報処理のみで被検者の血圧推定を行うことができるため、従来技術のように一回の血圧推定ごとに、肌画像の時間的特徴量および肌の位置の時間的特徴量を抽出するための所要時間を要することなく、被検者の顔面熱画像を取得した後、瞬時にかつ正確に血圧推定を行うことができる。
【0028】
請求項7のプログラムによれば、被検者の顔面熱画像の空間的特徴量を抽出し、その抽出した空間的特徴量と判定用の空間的特徴量とに基づいて、被検者の血圧段階を判定し、その判定結果を、被検者の血圧段階の推定結果として出力する機能を有する血圧推定システムを、一又は互いに連携して働く複数のコンピュータを用いて実現することができる。
【0029】
請求項8のプログラムによれば、2段階の平均血圧値又は3段階の平均血圧値からなる血圧段階のそれぞれに対応してラベル付けされた複数の学習用顔面画像を記憶し、学習用顔面画像の空間的特徴量を学習済モデルを用いて抽出し、その抽出結果とその抽出対象とされた学習用顔面画像に付されているラベルとの関係に基づいて、空間的特徴量の抽出精度が高くなるように学習済モデルのネットワークパラメータを変更するともに、抽出した空間的特徴量を記憶する機能を有する血圧推定システムを、一又は互いに連携して働く複数のコンピュータを用いて実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係る第1実施形態の血圧推定システムのブロック図である。
図2図1の血圧推定システムの処理内容を示すフローチャートである。
図3図2中の血圧推定処理のフローチャートである。
図4】本発明に係る第2実施形態の血圧推定システムのブロック図である。
図5図4の血圧推定システムの処理内容を示すフローチャートである。
図6図4中の血圧推定処理のフローチャートである。
図7】本発明に係る第3実施形態の血圧推定システムのブロック図である。
図8図7の血圧推定システムの処理内容を示すフローチャートである。
図9図7中の血圧推定処理のフローチャートである。
図10】第3実施形態の血圧推定システムにおける学習処理のフローチャートである。
図11】実験プロトコルを示す図である。
図12】抽出した顔面熱画像(FTI)を例示する図である。
図13】平均血圧(MBP)、心拍出量(CO)、全末梢血管抵抗(TPR)及び心拍数(HR)の時系列変動を例示する図である。
図14】観測信号から抽出された独立成分と重み時系列とを例示する図である。
図15】平均血圧の推定値及び測定結果を例示する図である。
図16】抽出した独立成分画像及び対応した重み時系列を例示する図である。
図17】個人モデルの導出結果を例示する図である。
図18】一般モデルの導出結果を例示する図である。
図19】血圧変動実験における平均血圧の時系列と血圧段階を例示する図である(被検者G)。
図20】血圧変動実験における平均血圧変位を例示する図である。
図21】血圧段階推定における混同行列の代表例(被検者A)を示す図である。(a)は2段階推定の混同行列、(b)は3段階推定の混同行列である。
図22】血圧段階推定における混同行列の代表例(被検者G)を示す図である。(a)は2段階推定の混同行列、(b)は3段階推定の混同行列である。
図23】血圧変動実験における平均血圧の最高値と最低値との差と、血圧段階推定の正答率との関係を例示する図である。(a)は2段階推定の場合、(b)は3段階推定の場合である。
図24】畳み込み層1層目における特徴マップ(被検者A)を示す図である。(a)はHigh Levelの場合、(b)はMiddle Levelの場合、(c)はMiddle Levelの場合である。
図25】畳み込み層2層目における特徴マップ(被検者A)を示す図である。(a)はHigh Levelの場合、(b)はMiddle Levelの場合、(c)はMiddle Levelの場合である。
図26】畳み込み層3層目における特徴マップ(被検者A)を示す図である。(a)はHigh Levelの場合、(b)はMiddle Levelの場合、(c)はMiddle Levelの場合である。
図27】畳み込み層1層目における特徴マップ(被検者G)を示す図である。(a)はHigh Levelの場合、(b)はMiddle Levelの場合、(c)はMiddle Levelの場合である。
図28】畳み込み層2層目における特徴マップ(被検者G)を示す図である。(a)はHigh Levelの場合、(b)はMiddle Levelの場合、(c)はMiddle Levelの場合である。
図29】畳み込み層3層目における特徴マップ(被検者G)を示す図である。(a)はHigh Levelの場合、(b)はMiddle Levelの場合、(c)はMiddle Levelの場合である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0032】
[第1実施形態]
【0033】
[構成]
図1に示す第1実施形態の血圧推定システム100は、顔面画像取得装置(顔面画像取得部)110と、血圧推定装置(血圧推定部)120と、を有する。
【0034】
顔面画像取得装置110は、被検者Pの顔面画像FIを撮像するための装置である。顔面画像FIは、顔面熱画像FTIであっても顔面可視画像FVIであってもよい。
【0035】
顔面画像FIが顔面熱画像FTIである場合には、顔面画像取得装置110として、赤外線サーモグラフィが用いられる。顔面画像FIが顔面可視画像FVIである場合には、顔面画像取得装置110として、可視画像撮像装置が用いられる。
【0036】
血圧推定装置120は、本発明に係るプログラムを汎用のコンピュータにインストールし実行することにより実現される。
【0037】
血圧推定装置120は、顔面画像FIの空間的特徴量として、顔面画像FIの独立成分を用い、顔面画像取得装置110により取得した顔面画像FIと、顔面画像FIの独立成分と血圧との関係を示す相関データCDとに基づいて、被検者Pの血圧を推定する装置である。
【0038】
血圧推定装置120は、相関データ記憶部121と、空間的特徴量抽出部122と、血圧判定部123と、推定血圧値出力部124と、を有する。
【0039】
相関データ記憶部121は、相関データCDを記憶している機能ブロックである。
【0040】
空間的特徴量抽出部122は、顔面画像取得装置110により取得した顔面画像FIを独立成分分析することにより、空間的特徴量として、当該顔面画像FIの独立成分を抽出する機能ブロックである。
【0041】
血圧判定部123は、空間的特徴量抽出部122により抽出された独立成分に対応する血圧の値を相関データCDから判定する機能ブロックである。
【0042】
推定血圧値出力部124は、血圧判定部123が判定した値を、被検者Pの血圧の推定値EVとして出力する機能ブロックである。
【0043】
[動作]
つぎに、上記のように構成された血圧推定システム100における処理の流れを、図2及び図3のフローチャートに従って説明する。
【0044】
図2に示すように、血圧推定システム100は、顔面画像取得処理S1と血圧推定処理S2とを実行する。
【0045】
顔面画像取得処理S1は、被検者Pの顔面画像FIを取得する処理である。
【0046】
血圧推定処理S2は、顔面画像取得処理S1により取得した被検者Pの顔面画像FIの空間的特徴量に基づいて当該被検者Pの血圧を推定する処理である。
【0047】
図3に示すように、血圧推定処理S2には、相関データ記憶処理S21と、空間的特徴量抽出処理S22と、血圧判定処理S23と、推定血圧値出力処理S24と、が含まれる。
【0048】
相関データ記憶処理S21は、相関データCDを記憶する処理である。
【0049】
空間的特徴量抽出処理S22は、顔面画像取得処理S1により取得した被検者Pの顔面画像FIを独立成分分析することにより、顔面画像FIの空間的特徴量として、当該顔面画像FIの独立成分を抽出する処理である。
【0050】
血圧判定処理S23は、空間的特徴量抽出処理S22により抽出された独立成分に対応する血圧の値を相関データCDから判定する処理である。
【0051】
推定血圧値出力処理S24は、血圧判定処理S23による判定結果を、被検者Pの血圧の推定値EVとして出力する処理である。
【0052】
[作用・効果]
【0053】
上記のように構成された血圧推定システム100においては、被検者Pの顔面画像FIが顔面画像取得装置110により撮像される。撮像された顔面画像FIは、血圧推定装置120に入力される。血圧推定装置120は、被検者Pの顔面画像FIを独立成分分析することにより、当該顔面画像FIの独立成分を抽出し、その抽出された独立成分に対応する血圧の値を相関データCDから判定し、その値を、被検者Pの血圧の推定値EVとして出力する。
【0054】
この血圧推定システム100によれば、被検者Pの顔面画像FIの独立成分に基づいて、被検者Pの血圧を非接触で瞬時にかつ正確に推定することができる。
【0055】
具体的には、被検者Pの顔面画像FIを一枚撮像するのみで、当該被検者Pの血圧を瞬時にかつ正確に推定することが可能となる。
【0056】
[第2実施形態]
[構成]
図4に示す第2実施形態の血圧推定システム150は、顔面画像取得装置(顔面画像取得部)160と、血圧推定装置(血圧推定部)170と、を有する。
【0057】
顔面画像取得装置160は、被検者Pの顔面画像FIを撮像するための装置である。顔面画像FIは、顔面熱画像FTIであっても顔面可視画像FVIであってもよい。
【0058】
顔面画像FIが顔面熱画像FTIである場合には、顔面画像取得装置160として、赤外線サーモグラフィが用いられる。顔面画像FIが顔面可視画像FVIである場合には、顔面画像取得装置160として、可視画像撮像装置が用いられる。
【0059】
顔面画像取得装置160は、ワンショットで3枚の顔面画像FIを撮像する。ワンショットの時間は、例えば2秒間である。
【0060】
以下、1枚目の画像を「第1画像FI1」、2枚目の画像を第2画像FI2」、2枚目の画像を「第3画像FI3」と称す。
【0061】
血圧推定装置170は、本発明に係るプログラムを汎用のコンピュータにインストールし実行することにより実現される。
【0062】
血圧推定装置170は、顔面画像FIの空間的特徴量として、顔面画像FIの独立成分の重み時系列A、重み時系列Aの1階微分A´及び重み時系列Aの2階微分A´´を用い、これらの値A、A´、A´´と血圧との関係を示す相関データCDとに基づいて、被検者Pの血圧を推定する装置である。
【0063】
血圧推定装置170は、相関データ記憶部171と、空間的特徴量抽出部172と、血圧判定部173と、推定血圧値出力部174と、を有する。
【0064】
相関データ記憶部171は、相間データCDを記憶している機能ブロックである。
【0065】
空間的特徴量抽出部172は、重み時系列算出部172Aと重み時系列微分算出部172Bとを有する。
【0066】
重み時系列算出部172Aは、顔面画像取得装置160により取得したワンショットの3枚の顔面画像FIすなわち、第1画像FI1、第2画像FI2及び第3画像FI3をそれぞれ独立成分分析することにより、空間的特徴量として、第1画像FI1、第2画像FI2及び第3画像FI3のそれぞれの独立成分の重み時系列Aを算出する機能ブロックである。
【0067】
以下、第1画像FI1の重み時系列を「第1重み時系列A1」、第2画像FI2の重み時系列を「第2重み時系列A2」、第3画像FI3の重み時系列を「第3重み時系列A3」と称す。
【0068】
重み時系列微分算出部172Bは、重み時系列算出部172Aにより算出された第1重み時系列A1、第2重み時系列A2及び第3重み時系列A3から、重み時系列Aの1階微分A´及び2階微分A´´を算出する機能ブロックである。
【0069】
この例では、重み時系列微分算出部172Bは、第1重み時系列A1と第2重み時系列A2との差分を計算することにより、第1重み時系列1階微分A1´を求め、第2重み時系列A2と第3重み時系列A3との差分を計算することにより、第2重み時系列1階微分A2´を求める。
【0070】
そして、重み時系列微分算出部172Bは、第1重み時系列1階微分A1´と第2重み時系列1階微分A2´との差分を計算することにより、重み時系列2階微分A´´を求める。
【0071】
血圧判定部173は、重み時系列算出部172Aにより算出された重み時系列A、重み時系列微分算出部172Bにより算出された第1重み時系列1階微分A1´、第2重み時系列1階微分A2´及び重み時系列2階微分A´´に対応する血圧の値を相間データCDに基づいて判定する機能ブロックである。この例では、血圧判定部173は、第1重み時系列1階微分A1´と第2重み時系列1階微分A2´との平均値を重み時系列1階微分A´とし、重み時系列A、重み時系列1階微分A´及び重み時系列2階微分A´´に対応する血圧の値を相間データCDから判定する。
【0072】
推定血圧値出力部174は、血圧判定部173が判定した値を、被検者Pの血圧の推定値EVとして出力する機能ブロックである。
【0073】
[動作]
つぎに、上記のように構成された血圧推定システム150における処理の流れを、図5及び図6のフローチャートに従って説明する。
【0074】
図5に示すように、血圧推定システム150は、顔面画像取得処理S1と血圧推定処理S2とを実行する。
【0075】
顔面画像取得処理S1は、被検者Pの顔面画像FIを取得する処理である。
【0076】
血圧推定処理S2は、顔面画像取得処理S1により取得した被検者Pの顔面画像FIの空間的特徴量に基づいて当該被検者Pの血圧を推定する処理である。
【0077】
図6に示すように、血圧推定処理S2には、相関データ記憶処理S21と、重み時系列算出処理S22Aと、重み時系列微分算出処理S22Bと、血圧判定処理S23と、推定血圧値出力処理S24と、が含まれる。
【0078】
相関データ記憶処理S21は、相間データCDを記憶する処理である。
【0079】
重み時系列算出処理22Aは、顔面画像取得処理S1により取得した被検者Pの顔面画像FIを独立成分分析することにより、顔面画像FIの空間的特徴量として、当該顔面画像FIの独立成分の重み時系列Aを算出する処理である。
【0080】
重み時系列微分算出処理22Bは、重み時系列算出処理22Aにより算出された重み時系列Aの微分値すなわち、第1重み時系列1階微分A1´、第2重み時系列1階微分A2´及び重み時系列2階微分A´´を算出する処理である。
【0081】
血圧判定処理S23は、重み時系列A、重み時系列1階微分A´及び重み時系列2階微分A´´に対応する血圧の値を相間データCDに基づいて判定する処理である。
【0082】
推定血圧値出力処理S24は、血圧判定処理S23による判定結果を、被検者Pの血圧の推定値EVとして出力する処理である。
【0083】
[作用・効果]
上記のように構成された血圧推定システム150においては、被検者Pの顔面画像FIが顔面画像取得装置160により撮像される。撮像された顔面画像FIは、血圧推定装置170に入力される。
【0084】
血圧推定装置170は、被検者Pの顔面画像FIを独立成分分析することにより、当該顔面画像FIの独立成分の重み時系列Aを抽出し、さらにその1階微分A´及び2階微分A´´を求め、それらの値A、A´、A´´に対応する血圧の値を相間データCDに基づいて判定し、その値を被検者Pの血圧の推定値EVとして出力する。
【0085】
この血圧推定システム150によれば、被検者Pの顔面画像FIの独立成分の重み時系列A及びその微分値A´、A´´に基づいて、被検者Pの血圧を非接触で瞬時にかつ正確に推定することができる。
【0086】
具体的には、被検者Pの顔面画像FIをワンショットで3枚撮像するのみで、当該被検者Pの血圧を瞬時にかつ正確に推定することが可能となる。
【0087】
さらに、この血圧推定システム150によれば、被検者Pの顔面画像FIの独立成分の重み時系列Aの微分値A´、A´´に基づいて、空間的特徴量のその後の変化率を推定することが可能となるので、被検者Pのその後の血圧変化の予測推定が可能となる。
【0088】
即ち、血圧の変化率を精密に分析することができるため、当該測定時以降の血圧の変化を正確に予測することが可能となる。
【0089】
なお、上記の例では、第1重み時系列1階微分A1´と第2重み時系列1階微分A2´との平均値を重み時系列1階微分A´としたが、第1重み時系列1階微分A1´と第2重み時系列1階微分A2´のいずれか一つを重み時系列1階微分A´としてもよい。
【0090】
[第3実施形態]
図7に示す第3実施形態の血圧推定システム200は、顔面画像取得装置(顔面画像取得部)210と、血圧推定装置(血圧推定部)220と、学習装置(機械学習部)230と、を有する。
【0091】
顔面画像取得装置210は、被検者Pの顔面画像FIを撮像するための装置である。顔面画像FIは、顔面熱画像FTIであっても顔面可視画像FVIであってもよい。
【0092】
顔面画像FIが顔面熱画像FTIである場合には、顔面画像取得装置210として、赤外線サーモグラフィが用いられる。顔面画像FIが顔面可視画像FVIである場合には、顔面画像取得装置210として、可視画像撮像装置が用いられる。
【0093】
血圧推定装置220は、本発明に係るプログラムを汎用のコンピュータにインストールし実行することにより実現される。
【0094】
血圧推定装置220は、顔面画像取得装置210により取得した顔面画像FIの空間的特徴量に基づいて、被検者Pの血圧を推定する装置である。
【0095】
血圧推定装置220は、判定用特徴量記憶部221と、空間的特徴量抽出部222と、血圧段階判定部223と、推定血圧段階出力部224と、を有する。
【0096】
判定用特徴量記憶部221は、2段階又は3段階からなる血圧段階に対応する判定用の空間的特徴量を記憶している機能ブロックである。判定用の空間的特徴量は、学習装置230により抽出された空間的特徴量である。
【0097】
空間的特徴量抽出部222は、顔面画像取得装置210により取得した顔面画像FIの空間的特徴量を抽出する機能ブロックである。
【0098】
血圧段階判定部223は、空間的特徴量抽出部222により抽出された空間的特徴量と判定用の空間的特徴量とに基づいて、被検者Pの血圧段階を判定する機能ブロックである。
【0099】
推定血圧段階出力部224は、血圧段階判定部223による判定結果を、被検者Pの血圧段階の推定結果ESとして出力する機能ブロックである。
【0100】
学習装置230は、学習用データ記憶部231と、特徴量抽出部232と、特徴量学習部233と、を有する。
【0101】
学習用データ記憶部231は、2段階又は3段階からなる血圧段階のそれぞれに対応してラベル付けされた複数の学習用顔面画像を記憶している機能ブロックである。
【0102】
特徴量抽出部232は、学習用顔面画像の空間的特徴量を学習済モデルTMを用いて抽出する機能ブロックである。
【0103】
特徴量学習部233は、特徴量抽出部232による抽出結果とその抽出対象とされた学習用顔面画像に付されているラベルとの関係に基づいて、特徴量抽出部232による空間的特徴量の抽出精度が高くなるように学習済モデルTMのネットワークパラメータを変更する機能ブロックである。
【0104】
学習済モデルTMは、2段階又は3段階からなる血圧段階のそれぞれに対応してラベル付けされた複数の学習用顔面画像を教師データに用いて、学習用顔面画像に含まれる被検者Pの顔面画像の空間的特徴量を機械学習することにより生成される。
【0105】
[動作]
つぎに、上記のように構成された血圧推定システム200における処理の流れを、図8図10のフローチャートに従って説明する。
【0106】
血圧推定システム200は、図8および図9に示す顔面画像取得処理S3及び血圧推定処理S4と、図10に示す学習処理S5と、を実行する。
【0107】
顔面画像取得処理S3は、被検者Pの顔熱画像FIを取得する処理である。
【0108】
血圧推定処理S4は、顔面画像取得処理S3により取得した顔面画像FIの空間的特徴量に基づいて、被検者Pの血圧を推定する処理である。
【0109】
図9に示すように、血圧推定処理S4には、判定用特徴量記憶処理S41と、空間的特徴量抽出処理S42と、血圧段階判定処理S43と、推定血圧段階出力処理S44と、が含まれる。
【0110】
判定用特徴量記憶処理S41は、2段階又は3段階からなる血圧段階に対応する判定用の空間的特徴量を記憶する処理である。
【0111】
空間的特徴量抽出処理S42は、顔面画像取得処理S3により取得した顔面画像FIの空間的特徴量を抽出する処理である。
【0112】
血圧段階判定処理S43は、空間的特徴量抽出処理S42により抽出された空間的特徴量と判定用の空間的特徴量とに基づいて、被検者Pの血圧段階を判定する処理である。
【0113】
推定血圧段階出力処理S44は、血圧段階判定処理S43による判定結果を、被検者Pの血圧段階の推定結果ESとして出力する機能ブロックである。
【0114】
図10に示すように、学習処理S5には、学習用データ記憶処理S51と、特徴量抽出処理S52と、特徴量学習処理S53と、が含まれる。
【0115】
学習用データ記憶処理S51は、2段階又は3段階からなる血圧段階のそれぞれに対応してラベル付けされた複数の学習用顔面画像を記憶する処理である。
【0116】
特徴量抽出処理S52は、学習用顔面画像の空間的特徴量を学習済モデルTMを用いて抽出する処理である。
【0117】
特徴量学習処理S53は、特徴量抽出処理S52による抽出結果とその抽出対象とされた学習用顔面画像に付されているラベルとの関係に基づいて、特徴量抽出処理S52による空間的特徴量の抽出精度が高くなるように学習済モデルTMのネットワークパラメータを変更する処理である。
【0118】
[作用・効果]
上記のように構成された第3実施形態の血圧推定システム200においては、被検者Pの顔面画像FIが顔面画像取得装置210により撮像される。
【0119】
撮像された顔面画像FIは、血圧推定装置220に入力される。血圧推定装置220は、入力された顔面画像FIの空間的特徴量を抽出し、その抽出した空間的特徴量と判定用の空間的特徴量とに基づいて、被検者Pの血圧段階を判定し、その判定結果を、被検者Pの血圧段階の推定結果ESとして出力する。
【0120】
この血圧推定システム200によれば、被検者Pの顔面画像FIの空間的特徴量に基づいて、当該被検者Pの血圧段階を非接触で瞬時に推定することができる。具体的には、被検者Pの顔面画像FIを一枚撮像するのみで、当該被検者Pの血圧を瞬時かつ正確に推定することが可能となる。
【0121】
また、第3実施形態の血圧推定システム200は、学習装置230により抽出された空間的特徴量を、判定用の空間的特徴量として用いる。
【0122】
学習装置230は、2段階又は3段階からなる血圧段階のそれぞれに対応してラベル付けされた複数の学習用顔面画像を記憶し、学習用顔面画像から被検者の顔面画像FIの空間的特徴量を学習済モデルTMを用いて抽出し、その抽出結果と抽出対象とされた学習用顔面画像に付されているラベルとの関係に基づいて、被検者Pの顔面画像FIの空間的特徴量の抽出精度が高くなるように学習済モデルTMのネットワークパラメータを変更する。
【0123】
学習済モデルTMの学習が進むにつれて、顔面画像FIの空間的特徴量の抽出精度が向上し、判定用特徴量記憶部121に記憶される空間的特徴量の精度も向上する。
【0124】
したがって、この血圧推定システム200によれば、学習装置230における学習済モデルTMの学習が進むにつれて、血圧段階の推定精度を向上させることができる。
【0125】
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。たとえば、上記第2実施形態では、血圧推定システム200が学習装置230を備えているが、学習装置230は省略可能である。
【0126】
学習装置230を省略した場合、学習装置230以外の手段により抽出或いは生成した空間的特徴量が血圧推定装置220の判定用特徴量記憶部221に記憶される。
【実施例
【0127】
[第1実施形態の実施例]
【0128】
1.実験の趣旨
我が国では、生活習慣病患者の増加が社会問題となっている。生活習慣病は、不規則な食生活や食べ過ぎ、運動不足などの生活習慣が原因で起こる病気であり、日常的に自らの健康状態を把握することが必要である。
【0129】
その対策として血圧などのバイタルサインを日常的に監視する方策がある。バイタルサインとは、「生きている証」を意味し、主に血圧、心拍数、呼吸、体温の4つの指標を示す。
【0130】
バイタルサインは健康状態の指標として多用されており、バイタルサインの日常的監視は生活習慣病などの病気の早期的発見につながることが期待される。日常的なバイタルサイン監視の実現に向けては、無拘束・無意識・非接触での計測が必要不可欠であり、多くの研究が行われている。非接触血圧計測の先行研究では、赤外線サーモグラフィカメラにて取得した鼻部皮膚温度と血圧間で回帰分析し血圧推定モデルの構築が行われてきた。
【0131】
しかし鼻部皮膚温度などの局所的部位のみならず、広範囲の顔面部位に心理生理状態に関連することが分かっている。一方顔面熱画像(facial thermal image:以下FTIと略記)に独立成分分析(independent componentimage:以下、ICAと略記)を適用し特徴量を抽出することで、独立成分と各生理心理指標の因果関係を明らかにする手法が提案されている。そこで本研究は、顔面熱画像の独立成分に基づく血圧推定技術の開発を目的とし、FTIにICAを適用し抽出した独立成分と平均血圧(Mean blood pressure:以下MBPと略記)との重回帰分析を行い、血圧と関連がある特徴量の抽出、血圧推定を試みた。
【0132】
2.実験方法
【0133】
〈2・1〉実験環境
被検者は健常成人男性1人(22歳)、計測は24.5℃の対流のないシールドルームで行った。被検者には予め実験内容・目的・調査対象を口頭及び書面にて十分説明し、署名により実験協力に対する同意を確認し、計測の15分前にはシールドルームに入室させ室温に馴化させた。
【0134】
計測項目はFTI連続血圧計によりMBP、心拍出量(Cardiac output:CO)、全末梢血管抵抗(Total peripheral vascular resistance:PR)、心拍数(Heart rate:HR)の計測を行った。FTIは、赤外線サーモグラフィ装置(TVS 200EX;AVIONICS社製を被検者の前方1.2mの位置に配置して計測を行った。熱画像サイズは320×240pixel、温度分解能は0.1℃である。
【0135】
顔面皮膚放射率はε=0.98とし、熱画像は1Hzのサンプリング周波数で記録した。連続血圧計は、被検者の左手中指第二関節に連続血圧・血行力学動態測定器(Finometermodel2、Finapress MedICAl Systems B.V社製の指用カフを装着し測定を行い、サンプリング周波数1HzでPCに記録した。
【0136】
〈2・2〉計測方法
実験プロトコルを図11に示す。実験は60s間の安静(Rest)及び30s間のヴァルサルバ試験(Valsalva maneuve:以下Valsalvaと略記)から構成される。Valsalva(Task)を3回行い、その前後にRestを設けた。実験時間は330s間である。なお、実験は常時閉眼状態で行った。またFTI、連続血圧計は実験の開始から終了で測定を行った。
【0137】
3.解析方法
〈3・1〉ICA記録した熱画像から図12のように毛髪及び背景が映らないよう、FTI領域をa×bピクセルで抽出した。そして1回の実験で抽出した330s分のFTIをx(t)=[x1、xz、…、xk](t=1、2、…、330)(k=1、2、…、a×b)
一次元FTIベクトルに展開し、同様に330s分のFTIベクトルを、下記行列(1)に格納する。
【0138】
【数1】
【0139】
そしてそれを観測信号xとしICAを適用した。ICAは、
【0140】
【数2】
【0141】
という関係式(2)において、観測信号xから独立成分行列Sを推定する混合行列Aを求める。観測信号xにICAを適用すると、独立成分行列Sと混合行列Aはそれぞれ、
【0142】
【数3】
【数4】
【0143】
として推定される。またnは独立成分数とした。以上より、独立成分行列Sは、顔面皮膚温の特徴量は、顔面皮膚温の特徴量(a×b)×nの行列、混合行列Aは各独立成分snの観測信号xへの寄与n×tの行列として推定される。以降では、各成分に対応した混合行列の成分an(t)を重み時系列と呼ぶことにする。
【0144】
ICAでは観測成分数と独立成分数が等しいと仮定する。実際独立成分数は通常未知の場合が多く、明確な独立成分数は存在しない場合が多い。ここでは、独立成分数は14とした。
【0145】
<3・2> 重回帰分析
【0146】
ICAによって得られた重み時系列を説明変数、MBPを目的変数とし独立成分との因果関係を明らかにした。重回帰分析の変数選択は、ステップワイズ法によりモデルを最適化した後、説明変数のP値が0.05以下になるまでモデルの最適化を行った。多重共線性の有無を確認するため、分散拡大係数(VIF)が5.0以上の成分がある場合は除去した。またその成分を除去した後再び説明変数の最適化を行った。
【0147】
4.実験結果及び考察
図13にMBP、CO、TPR、HRの実験開始から終了までの時系列変化を示す。また網掛け部分は、Valsalva試験中の区間を示す。その結果Valsalva試験開始直後は、HRが減少し同様に心臓から拍出される血液の量も減少するためCO減少、MBPの変動及び交感神経系活動亢進に伴うTPRの増大が認められた。Valsalva試験終了後は、CO、TPRが試験前の状態に戻り、MBPが増加した。この結果よりValsalva試験中とValsalva終了後の血圧変動の機序は異なることが示された。
【0148】
図14に実験開始から終了までのFTIの観測信号にICAを適用して得られた独立成分と、それに対応した重み時系列とを示す。
【0149】
この結果、第8成分は両頬、第10成分は唇のように顔面の様々な部位に特徴量が表れた。一方、第7成分は、鼻孔に特徴量が表れており、その成分の重み時系列はRest区間になると急激な変動を繰り返している。この結果から、第7成分はValsalva試験によって生じた呼吸成分であることが考えられ、重回帰分析の説明変数から除去した。そこでICAによって抽出された平均血圧と重み時系列を用いて、重回帰分析を行った。
【0150】
表1にMBPと重み時系列の重回帰分析によって得られた偏回帰係数を示す。この結果、MBPと重み時系列とでは相関関係(R2=0.58)が認められた。そこで目的変数MBPに対して寄与率の高い独立成分を確認するため標準偏回帰係数を算出した。その結果を表2に示す。これより第13成分、第14成分の標準偏回帰係数が高くなった。この結果、顔全体や右目右眉付近に現現れた特徴量が血圧と関連があることが示唆された。
【0151】
【表1】
【表2】
【0152】
図15に重回帰分析によって得られたMBP推定値と測定値の結果を示す。推定値と測定値の平均2乗誤差を算出した結果54.99mmHgとなった。Valsalva試験開始直後及び終了直後のMBPの急激な変動時において推定値と測定値に大きな誤差がみられた。MBPの急激な変動と関連がある特徴量を抽出することで、血圧推定の精度が向上することが考えられる。
【0153】
5.まとめ
本実験では、顔面熱画像の独立成分に基づく血圧推定技術の開発を目的とし、FTIにICAを適用し抽出した独立成分とMBPとの重回帰分析を行い、血圧と関連がある特徴量の抽出、血圧推定を試みた。その結果、ICAによって抽出された独立成分とMBPは相関関係(R2=0.58)が認められ、顔全体、右目右眉付近に現れた特徴量が血圧と関連があることが示唆された。
【0154】
[第2実施形態の実施例]
1.実験の趣旨
第1実施形態と同趣旨である。
【0155】
2.実験方法
実験は、異なる血圧変動機序を促す寒冷昇圧試験(cold pressor test:以下CPTと略記)及びValsalvaを実施した。被検者は、CPTは健常成人7人(男性:4人、女性:3人、21.4±0.5歳)、Valsalvaは健常成人7人(男性:4人、女性:3人、1.6±0.5歳)とした。計測指標は赤外線サーモグラフィカメラ(TVS-200EX;AVIONICS社製)によりFTI、連続血圧計(Finometer mode12、Finapress Medical SystemsB.V社製)によりMBPの計測を行った。なお実験は、椅子に着座し常時閉眼状態で実施し、CPTでは被検者の右手を12℃の水に入れ、Valsalvaでは被検者に息を止めてもらった。実験は、安静閉眼60s及び血圧変動試験30sで構成され、3回繰り返し実施した。
【0156】
また、導出した一般モデルの性能評価を行うため性能評価実験を行った。被検者は、ValsalvaとCPTの実験に参加してない健常成人5人(男性:4人、女性:1人、23.0±3.5歳)、実験室で行った。実験は、30sの安静閉眼のみから構成され、FTI及びMBPの測定を行った。
【0157】
3.解析方法
<3・1>個人モデル導出
計測した熱画像から毛髪及び背景が映らないよう、FTI領域をa×bピクセルで抽出した。抽出した各FTIは、2×2ピクセルでモザイク処理を行った後、体動成分を除去するため0.1Hzのローパスフィルターを適用した。そしてFTIを一次元ベクトルに展開し、実験時間t秒のFTIベクトルを前述の式(1)に示す行列Xに格納した。
【0158】
本実施例では,混在した信号から独立した信号を抽出する手法として独立成分分析を行った。独立成分分析は、Xを観測信号、Aを独立成分に対する寄与、Sを独立成分とすると前述の式(2)で表すことができる。
【0159】
本実施例では、Xを観測信号としICAに適用した。適用結果の一例を図16に示す、SはFTIの特徴量の行列、Aは各独立成分の観測信号とXへの寄与の行列として推定される。
【0160】
以降では,独立成分Aを重み時系列と呼ぶことにする。次に、MBPとAの時系列データに対して10秒間の移動平均フィルタを適用し平滑化を行った。なお、顔面皮膚温度は皮膚血流の速度と力によって変動する。
【0161】
そこで血流の速度と力を考慮するために、重み時系列1階微分A´及び重み時系列2階微分A´´を算出し、説明変数をMBP目的変数をA、A´及びA´´とし血圧推定個人モデルを導出した。
【0162】
<3・2> 一般モデルの導出
導出された血圧推定個人モデルから、血圧と関連する独立成分を抽出し行列に集約させた。その行列をSBPと定義した。
【0163】
【数5】
【0164】
SBPは、c×dピクセルに画素数を統一した後、各画像毎に最大値1最小値0となるように正規化を行った。次に、集約された行列から、類似した独立成分を除去するために各画像毎に相関分析を適用し、R>0.6の時の画像を除去し、下記式(6)に示す重み時系列Aeを算出した。
【0165】
【数6】
【0166】
重み時系列AeからAe´及びAe´´を算出し、説明変数を全被検者のMBP、目的変数をAe、Ae´及びAe´´として血圧推定モデルを導出し、そのモデルを一般モデルと定義した。なお本研究では,CPT、Valsalva、CPTとValsalvaとの混成(Hybrids)から抽出された血圧と関連する独立成分を集約させ、3種類の一般モデルを構築し比較を行った。
【0167】
4.結果及び考察
図17に、ValsalvaとCPTのFTIから推定した血圧推定個人モデルの導出結果を示す。横軸は各Task、縦軸は平均二乗誤差を示す。図17より、ValsalvaとCPTではほとんど同じ精度で血圧が推定され、本手法により両血圧変動機序のMBPを推定することができることが明らかになった。
【0168】
次に個人モデルで抽出された独立成分を用い、Valsalva、CPT、Hybridsの一般モデルを導出した。その一般モデルに対して、未知データを用い性能評価を行った。その結果を図18に示す。横軸は一般モデルの種類、縦軸は平均誤差、ベースラインは誤差が0であることを示す。
【0169】
図18より、Valsalvaは低く、CPTは高く血圧推定され、Hybridsでは一番高精度で平均誤差1.26mmHg程度で推定された。これらから、二つの血圧変動機序と関連する独立成分を集約させ一般モデルを導出することで血圧を推定することができることが明らかになった。
【0170】
5.まとめ
本実施例では、顔面皮膚温度独立成分による血圧推定を目的とし、FTIにICAを適用し抽出した独立成分を用い血圧推定個人モデルを導出し、個人モデルから抽出された血圧と関連する独立成分を集約させ血圧推定一般モデルを導出した。
【0171】
その結果、本手法を用いることで血圧変動機序に関わらず個人モデルを導出することができ、両血圧変動機序の個人モデルから集約させた独立成分から構築した一般モデルの精度1.26mmHgが最も高かった。これらから、本実施例の手法を用いることで血圧を推定することができることが明らかになった。
【0172】
[第3実施形態の実施例]
1.実験の趣旨
生活習慣病の1つとされる高血圧症は、我が国の三大死因のうち脳血管障害及び心臓血管障害の危険因子である。厚生労働省平成26年患者調査によると、高血圧性循環器疾患の推計患者総数は、平成20年以降増加傾向である。
【0173】
超高齢社会である現代において、高齢者の循環器系疾患の重症化による高齢者の生活機能低下などが問題となっており、高血圧症を含めた生活習慣病の早期発見や重症化予防対策が進められている。
【0174】
日本高血圧学会のガイドラインによると、血圧は測定した収縮期血圧及び拡張期血圧をもとに正常域血圧と高血圧に分類、高血圧はI度高血圧、II度高血圧及びIII度高血圧の3段階に細分類され、以上の血圧段階が高血圧症の診断基準として広く利用されている。
【0175】
さらに、高血圧症の診断基準や重症度の判定には診療室血圧測定が利用されるが、医療機関での一時的な緊張により血圧が上昇する白衣高血圧や、医療機関では正常な血圧値である一方で在宅時では高血圧になる仮面高血圧の存在が問題となっている。
【0176】
高血圧症の早期発見や重症化予防には、在宅時を含めた日常生活においてバイタルサインの連続的モニタリングが必要不可欠である。
【0177】
日常生活におけるバイタルサインの連続的モニタリングの実現には、低侵襲的かつ無意識的にバイタルサインをセンシングする技術が必要である。近年では、スマートフォンのカメラで撮影した指尖容積脈波や顔面可視画像より抽出された脈波成分から被撮影者の心拍数を推定する技術など、低侵襲的なバイタルサインセンシングの技術が確立しつつある。
【0178】
我々は非接触的な血圧センシング技術の確立を目指し、非接触的に計測した鼻部皮膚温度と平均血圧、 顔面可視画像より抽出した鼻部領域の脈波成分の振幅・位相と平均血圧間の相関分析を行った。先行研究では解析対象領域を鼻部に限定していたが、解析対象領域を顔面全体に拡張し、顔面全体より血圧に関連する特徴を抽出することで、血圧推定精度の向上が期待できる。さらに近年では、生体情報に深層学習アルゴリズムを適用する研究も行われており、顔面皮膚温度分布に深層学習アルゴリズムを適用することで眠気段階に関連する特徴抽出及び眠気段階推定モデル構築の試みが行われている。
【0179】
血圧変動時における顔面皮膚温度分布に深層学習アルゴリズムを適用することで、血圧に関連する特徴の抽出、さらには血圧段階の推定ができれば、非接触的な高血圧症の診断及び日常生活におけるバイタルサインの連続的モニタリングの実現に繋がると期待できる。
【0180】
本実施例では、非接触的センシング技術を利用したバイタルサインの連続的モニタリングの実現を目指し、血圧を変動させた状態で計測した顔面皮膚温度分布に深層学習アルゴリズムを適用することで、血圧に関連する特徴を抽出し、その特徴をもとに血圧段階を推定する個人モデルの構築を試みた。
【0181】
2.寒冷負荷試験による血圧変動実験
血圧変動実験として寒冷負荷試験を実施した。寒冷負荷試験中において赤外線サーモグラフィカメラを利用した顔面皮膚温度分布の計測と同時に、連続血圧計を利用した平均血圧の計測を行った。
【0182】
<2・1> 実験条件
被検者は健常成人男性6名及び女性1名(年齢:22.6±2.9歳)とした。実験は室温25±1℃、照度900-1000luxのオフィス照明環境の実験室内にて行った。実験は、概日リズムの影響を考慮して日中に行った。
【0183】
<2・2> 実験環境
実験環境は、被検者が座るための椅子、テーブル、寒冷負荷試験用の恒温水槽(NCB-2510、東京理化器械株式会社)、赤外線サーモグラフィカメラ(TV-200EX、日本アビオニクス株式会社)からなる構成とした。テーブルは被検者の正面に配置し、テーブルの右に恒温水槽を配置した。寒冷負荷試験の対象部位を被検者の右手としたため、恒温水槽は被検者の右手首までが水槽中の水に浸るように配置した。また、テーブルの上に被検者の右手を拭くためのタオルを配置した。赤外線サーモグラフィカメラは、被検者の顔面皮膚温度分布が計測できるように被検者の顔面から70cm離した箇所に配置した。
【0184】
<2・3> 実験方法
被検者の顔面皮膚温度を実験室の室温に馴化させるために、被検者には実験開始15分以上前に実験室に入室させた。実験室に入室後、被検者に対して実験概要の十分な説明を行い、実験参加の同意を得た。実験参加の同意を得た後、連続血圧計(Finometer model2、Finapres MedICAl Systems)の血圧計測用カフを被検者の左手中指の第一関節と第二関節の中間部位に装着した。実験は安静閉眼2分間及び寒冷負荷試験1分間を1セットとし、合計3セット行った後に安静閉眼を1分間行い終了とした。実験中、被検者は座位状態を維持してもらった。寒冷負荷試験では、水温14℃に保持した恒温水槽内の水に被検者の右手の手首が浸るまで入れるように教示した。寒冷負荷試験終了後、テーブルの上のタオルの上に右手を置くように教示した。
【0185】
顔面皮膚温度分布は1fpsで計測した。顔面皮膚温度情報を含有する顔面熱画像のサイズは縦240pixel、横320pixcelとし、皮膚の熱放射率は0.98とした。一方、連続血圧計のサンプリング周波数は1Hzとした。連続血圧計にて計測した平均血圧の時系列データについて、被検者の体動による連続血圧計の計測値の急激な変動の影響を少なくするために、連続血圧計より出力された計測値に20秒ごとの移動平均を適用したデータを平均血圧の解析データとした。
【0186】
3.深層学習による血圧段階推定
本実施例では、血圧変動実験にて計測した顔面皮膚温度分布に畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)を利用した深層学習アルゴリズムを適用することで血圧段階推定のための個人モデルの構築を試みた。CNNはMATLAB2018a(MathWorks社 登録商標)を用いて構築した。
【0187】
<3・1> 血圧段階の定義
ここで、血圧変動の時系列の代表例を図19に示す。ただし、横軸は1回目の安静閉眼開始後の経過時間、縦軸は20秒ごとの移動平均を行った後の平均血圧である。図中のTaskは寒冷負荷試験区間であり、寒冷負荷試験区間の平均血圧は、安静閉眼区間の平均血圧と比較して高いことが明らかとなる。図19に示す被検者Gの平均血圧の最低値は71.3mmHg、最高値は88.4mmHgであった。全被検者の実験における平均血圧の最高・最低値を表3に示す。
【0188】
【表3】
【0189】
本実施例では、実験中の平均血圧値をLow level・High levelに分ける2段階、及びLow level・Middle level・High levelに分ける3段階を血圧段階として定義した。2段階では実験中の平均血圧が、平均血圧の最低値と最高値の中間値よりも低い場合をLow level、高い場合をHigh levelとした。一方3段階では実験中の平均血圧の変動範囲を3等分し、3等分した中で低い範囲をLow level、中程度の範囲をMiddle level、高い範囲をHigh levelとした。
【0190】
<3・2> 深層学習の入力データ作成
血圧変動実験中に計測した顔面皮膚温度分布をCNNの入力データとした。
顔面皮膚温度分布の情報を含有する顔面熱画像より、一定の温度値を閾値とした二値化画像を作成した。その二値化画像より顔面領域を特定した後縦200pixel、横200pixelにトリミングすることで、顔面皮膚温度分布の情報のみを含む画像を作成した。各皮膚温度分布は、同時に計測した平均血圧値をもとに各血圧段階に分類した。各血圧段階における顔面皮膚温度分布を、顔面皮膚温度分布の中央を中心に対し-15~15°でランダムに回転させることでデータ拡張を行い、その後間引きすることで各段階における入力データ数を均等にした。
【0191】
<3・3>CNN構成とハイパーパラメータの最適深層学習において、CNNの層数やフィルタサイズなどのハイパーパラメータが推定精度に大きく影響することが考えられるが、最適なハイパーパラメータの選択及び調整は困難である。近年、Grid search法やRandomized search法など、ハイパーパラメータを自動的に調整する手法が利用されている。ここでは、ベイズ最適化によりハイパーパラメータの最適化を行った。
【0192】
CNNは入力層、畳み込み層、正規化層、プーリング層、全結合層及び出力層からなる構成とした。各畳み込み層のフィルタサイズを3、ストライドを1、パディングサイズを1と設定し、n層目における畳み込み層のフィルタ枚数を32×2n1枚とした。一方、各プーリング層のサイズを2、ストライドを2とし、プーリング手法は最大値プーリングとした。各畳み込み層及びプーリング層の間でバッチ正規化を行った後に正規化線形関数を適用した。全結合層の素子数は各血圧段階に対応して2及び3とし、活性化関数はソフトマックス関数とした。
【0193】
ベイズ最適化は、各被検者の個人モデルとなるCNNにそれぞれ適用した。ベイズ最適化にて最適化するハイパーパラメータは畳み込み層数、初期学習率、モーメンタム及びL2正規化強度とした。ハイパーパラメータの探索範囲は、畳み込み層数は3~15、初期学習率は0.0001~0.05、モーメンタムは0.8~0.95、L2正規化強度は10-10~0.01とした。
【0194】
ベイズ最適化において、各被検者の顔面皮膚温度分布を入力データとし、全入力データの80%を訓練データ、残りの20%をテストデータとした。上記の入力データを、それぞれのハイパーパラメータでのCNNに学習し、出力となる分類誤差をベイズ最適化の目的関数とした。目的関数を最小化することで、最適なハイパーパラメータを決定した。ベイズ最適化の結果、各被検者の最適なCNNの構成は同一となった(表4参照)。
【0195】
【表4】
【0196】
表4において、Convは畳み込み層、BatchNormはバッチ正規化層、MaxPoolingは最大化プーリング層、FCは全結合層、ReLUは正規化線形関数、Softmaxはソフトマックス関数である。また、全結合層のサイズは2段階では2、3段階では3である。さらに、各被検者の最適なハイパーパラメータを表5および表6に示す。ハイパーパラメータは被検者ごとに異なる値を示した。
【0197】
【表5】
【表6】
【0198】
<3・4> 顔面皮膚温度分布の深層学習
各被検者の顔面皮膚温度分布を入力データとし、ベイズ最適化にて最適化されたCNNを適用することで血圧段階推定の個人モデルを構築した。
CNNの学習則は誤差逆伝播法とした。訓練データ入力時の出力と血圧段階である目的変数の誤差が20%となった時点で学習終了とした。学習を行う際に、全入力データの80%を訓練データ、残りの20%をテストデータとし、5回交差検証を行った。1回の交差検証においてそれぞれ10回精度検証を行い、各交差検証で得られた正答率を平均することで最終的な正答率を取得した。
【0199】
4.結果及び考察
<4・1> 血圧変動実験による平均血圧の変動
血圧変動実験における平均血圧変位を図20に示す。横軸は実験における安静閉眼(R)及び寒冷負荷試験(T)区間を示し、縦軸は1回目の安静閉眼(R1)区間をベースラインとしたときの平均血圧変位を示す。また、図20中のプロットは被検者の平均値、エラーバーは標準偏差を示す。さらに、Wilcoxon符号順位検定の結果、すべての寒冷負荷試験(T1、T2、T3)区間及び4回目の安静閉眼(R4)区間における平均血圧変位がベースラインと比べ有意に上昇していることが明らかとなった(*:p<0.05)。先行研究の結果より、寒冷負荷試験において全末梢血管抵抗値が上昇することが示されており、寒冷負荷試験における平均血圧の上昇は全末梢血管抵抗の上昇に起因すると考えられる。
【0200】
<4・2> 血圧段階推定の正答率
2段階及び3段階での血圧段階推定における混同行列の代表例を図21図22に示す。混同行列の縦は実際の段階、横は推定された段階である。図21では、2段階推定で最も正答率が高かった被検者Aの混同行列を、図22では、2段階推定で最も正答率が低かった被検者Gの混同行列を示す。被検者Aにおける2段階推定では、高い水準で推定できる結果が示された一方で、3段階推定では、特にMiddle levelとLow level間での分類が困難である結果が示された。一方、被検者Gにおける2段階推定では、High levelの時の皮膚温度分布をLow levelと推定したサンプルが多く、3段階推定では、特にLow levelの時の皮膚温度分布をHigh levelと推定したサンプルが多い結果となった。全被検者の血圧段階推定の正答率を表7に示す。全被検者の正答率について、2段階推定では80%以上の正答率である一方で、3段階推定では65~85%程度の正答率となり、2段階推定と比較して正答率が低くなった。
【0201】
【表7】
【0202】
ここで、血圧変動実験における平均血圧の最高・最低値の差と血圧段階推定の正答率の散布図と回帰直線を図23に示す。横軸は平均血圧の最高・最低値の差、縦軸は血圧段階推定の正答率である。また、図中の直線は線形回帰直線、R2は回帰係数を示す。2段階推定及び3段階推定の結果においてともに、平均血圧の最高・最低値の差が小さいと血圧段階推定の正答率が低下する傾向が認められ、特に、平均血圧の最高・最低値の差と3段階推定の正答率との間で中程度の相関が認められた。2段階推定及び3段階推定で最も正答率が低かった被検者Gは、平均血圧の最高・最低値の差は17.1mmHgと全被検者の中で最低値であった。血圧段階定義時に、平均血圧の最高・最低値の差を2等分あるいは3等分するために、平均血圧の最高・最低値の差が小さいほど各段階間の血圧値の差も小さくなる。血圧変動が小さいほど顔面皮膚温度分布変動も小さくなるために、平均血圧の最高・最低値の差が最低値であった被検者Gの血圧段階推定の正答率が低くなったと考えられる。
【0203】
<4・3> CNN内の特徴マップ解析
本実施例では、CNNの畳み込み層のフィルタにおける特徴マップを解析することで、顔面上における血圧に関連する特徴を抽出し、各血圧段階の特徴マップの比較を行った。ここでは、2段階推定で最も正答率が高かった被検者Aと、2段階推定で最も正答率が低かった被検者Gの特徴マップを掲載する。各血圧段階での顔面皮膚温度分布の入力に対する、被検者Aの畳み込み層1層目の特徴マップを図24に、畳み込み層2層目の特徴マップを図25に、畳み込み層3層目の特徴マップを図26に示す。また、各血圧段階での顔面皮膚温度分布の入力に対する、被検者Gの畳み込み層1層目の特徴マップを図27に、畳み込み層2層目の特徴マップを図28に、畳み込み層3層目の特徴マップを図29に示す。ただし、図24から図29は各畳み込み層のフィルタにおける特徴マップの中で活性化が最大であった特徴マップを示し、特徴マップのカラーバーの最大値は同層の全特徴マップの活性化の最大値、カラーバーの最小値は同層の全特徴マップの活性化の最小値を示す。
【0204】
被検者Aは血圧段階がMiddle levelの時には、両目、鼻背、鼻翼、唇上部の周囲付近にて活性化が認められた(図26(b)参照)。一方で、血圧段階がLow levelの時には、左目、鼻翼、唇上部の周囲付近にて活性化が認められた(図26(c)参照)。血圧段階がHigh levelの時には、Middle level及びLow level時に強く活性化された箇所では強い活性化は認められなかった。
【0205】
被検者Gは全ての血圧段階において眉、目、鼻翼にて活性化が認められた(図29参照)。血圧段階がHigh level及びMiddle levelの時には、眉、目、鼻翼に加えて唇にも活性化が認められ、さらに血圧段階がMiddle levelの時には右頬にも活性化が認められた(図29(a)、(b)参照)。
【0206】
各血圧段階での顔面皮膚温度分布の入力に対する、全被検者の畳み込み層3層目の特徴マップで活性化が認められた顔面部位を表8に示す。各被検者内において、血圧段階に応じて顔面上に表出する特徴部位が変化することが示された。さらに、被検者間で顔面上に表出する特徴部位が異なることが示された。被検者間で顔面上に表出する特徴部位が異なる要因として、顔面の形状や顔面内の血管構造が異なることが考えられる。深層学習では、血圧段階に応じて表出部位が異なる特徴を捉えることで血圧段階推定を実現することが示唆された。さらに、被検者間で顔面上に表出する特徴部位が異なることから、血圧段階推定モデル構築には個人性を考慮する必要性も示唆された。
【0207】
【表8】
【0208】
皮膚温度は、前毛細血管括約筋の収縮を支配する交感神経系活動により変動する皮膚血流量に依存するが、前毛細血管括約筋の弛緩には収縮に比べ時間を要するためにヒステリシス特性が存在する。皮膚温度はヒステリシス特性により血圧変動に比べ、皮膚温度が変動するタイミングが遅れる可能性があることが考えられる。より高精度な血圧センシングの実現には、血圧変動と皮膚温度変動間の時間差を考慮する必要があると考えられる。一方、脈波情報は血圧変動時に瞬時に変動するために、脈波伝播時間などが血圧の指標として使用されている。近年では、顔面可視画像より非接触的に顔面脈波成分を取得する研究も進められている。皮膚温度分布と顔面脈波成分の併用、すなわち温度情報と脈波情報を併用することでも、より高精度な非接触的血圧センシングの実現に繋がると考えられる。
【0209】
5.まとめ
本実験では、非接触的センシング技術を利用したバイタルサインの連続的モニタリングの実現を目指し血圧を変動させた状態で計測した顔面皮膚温度分布に深層学習アルゴリズムを適用することで血圧に関連する特徴を抽出し、その特徴をもとに血圧段階を推定する個人モデルの構築を試みた。その結果、2段階推定では80%以上、3段階推定では65~85%程度の正答率となった。さらに、各被検者内において、血圧段階に応じて顔面上に表出する特徴部位が変化すること、被検者間で顔面上に表出する特徴部位が異なることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0210】
本発明の血圧推定システムは、被検者の血圧を非接触で瞬時に推定することができるので、被検者の日常生活における血圧を推定するための手段、自動車を運転中のドライバの血圧を推定するための手段、等、幅広い技術分野における利用可能性がある。
【符号の説明】
【0211】
100 血圧推定システム
110 顔面画像取得装置(顔面画像取得部)
120 血圧推定装置(血圧推定部)
121 相関データ記憶部
122 空間的特徴量抽出部
123 血圧判定部
124 推定血圧値出力部
150 血圧推定システム
160 顔面画像取得装置(顔面画像取得部)
170 血圧推定装置(血圧推定部)
171 相関データ記憶部
172 空間的特徴量抽出部
172A 重み時系列算出部
172B 重み時系列微分算出部
173 血圧判定部
174 推定血圧値出力部
200 血圧推定システム
210 顔面画像取得装置(顔面画像取得部)
220 血圧推定装置(血圧推定部)
221 判定用特徴量記憶部
222 空間的特徴量抽出部
223 血圧段階判定部
224 推定血圧段階出力部
230 学習装置(機械学習部)
231 学習用データ記憶部
232 特徴量抽出部
233 特徴量学習部
CD 相関データ
EV 推定値
ES 推定結果
FI 顔面画像
FTI 顔面熱画像
FVI 顔面可視画像
P 被検者
TM 学習済モデル
図1
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