(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20240807BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240807BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240807BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20240807BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240807BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/052
H01M50/414
H01M4/134
(21)【出願番号】P 2022205104
(22)【出願日】2022-12-22
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】515090628
【氏名又は名称】株式会社スリーダムアライアンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】津田 遼平
(72)【発明者】
【氏名】村井 淳一
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-335406(JP,A)
【文献】国際公開第2014/103281(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/013739(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 50/40-50/497
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解質と、セパレータとを少なくとも含むリチウム二次電池であって、
該電解質は、リチウム塩と、融点が60℃以下の溶融塩である有機塩と、下記式(3)で表される化合物Aと、
からなり、
該化合物Aの混合比が、該リチウム塩と該有機塩と該化合物Aの全重量に対して、0.6-27重量%であり、
該セパレータは、ポリイミド樹脂を含む多孔質基材で形成されたもの
である、前記リチウム二次電池。
【化1】
(式(3)中、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12は、同一または異なって、水素原子、フッ素原子、炭素数1~4のアルキル基および炭素数1~4のフッ素化アルキル基からなる群より選択される。)
【請求項2】
該リチウム塩は、下記式(1)で表されるアニオンを含むリチウム塩であり、
該有機塩は、下記式(1)で表されるアニオンと、下記式(2)で表されるイミダゾリウムカチオンを含む有機塩である、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【化2】
(式(1)中、R
1およびR
2は、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。)
【化3】
(式(2)中、R
3およびR
4は、同一または異なって、炭素数1~8のアルキル基から選択され、R
5、R
6およびR
7は、同一または異なって、水素原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群より選択され、但しR
5、R
6およびR
7の少なくとも1つは水素原子である。)
【請求項3】
該化合物Aが、フルオロベンゼン、1,2―ジフルオロベンゼン、1,4―ジフルオロベンゼンからなる群から選択される化合物のうち、いずれか一種類以上である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
該リチウム塩と該有機塩の総重量のうち該リチウム塩の割合が18~
44重量%である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
該セパレータは、該ポリイミド樹脂からなる多孔質基材の表面に、カルボニル基を含む、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
該負極が、負極集電体と金属リチウム層とから構成されるか、または、負極集電体のみから構成される、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のリチウム二次電池に関する。より詳細には、本発明は、特定のアニオンとリチウムカチオンとのリチウム塩と、特定のアニオンと特定のカチオンとの有機塩と、フルオロベンゼン環骨格を有する特定の化合物とを含む電解質を使用したリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ等の携帯型コードレス製品は益々小型化、ポータブル化が進んでいる。また、大気汚染や二酸化炭素の増加等の環境問題の観点から、ハイブリッド自動車、電気自動車の開発がすすめられ、実用化の段階となっている。これら電子機器や電気自動車などには、高効率、高出力、高エネルギー密度、軽量等の特徴を有する優れた二次電池が求められている。このような特性を有する二次電池の開発、研究が盛んに行われ、リチウム電池やリチウムイオン電池等の二次電池が種々実用化されている。
【0003】
従来、リチウム二次電池用非水電解質は、リチウム塩を溶解した極性非プロトン性有機溶媒が使用されていた。特に、充放電中に還元分解されて負極の表面上にSEI(Solid Electrolyte Interface)を形成するエチレンカーボネート(「EC」と称する。)は、リチウム二次電池用非水電解質の主溶媒として広く用いられている。ECは融点が高いという特徴を有するため、これを補うために、低沸点かつ低粘度の鎖状カーボネートを混合して非水電解質溶媒として用いることが一般的である。このような非水電解質を用いたリチウム二次電池の使用環境として保証されているのは、だいたい45℃が上限である。高温下にさらされる装置内や、高温地域で使用されることが想定される車両内で、リチウム二次電池が使用される場合は、冷却機構の併設が必要となり、これによるコストの上昇やエネルギー密度の低下が課題となっていた。そこで、ECに混合する鎖状カーボネートの代替として、難揮発性溶媒が検討されている。難揮発性溶媒として、常温溶融塩(イオン液体)を使用する試みが続けられており、常温溶融塩を含む電解質が数多く提案されている。
【0004】
特許文献1には、常温溶融塩と、該溶融塩よりも粘度の低いフッ素系溶媒と、を含む蓄電素子用電解質が開示されている。また特許文献2には、オニウムカチオンと非アルミナート系アニオンからなる常温溶融塩と、フッ素化化合物とを含む電気化学素子用非水電解液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-362872号公報
【文献】特開2005-229103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、イオン液体を含む電解質を用いたリチウム二次電池のセパレータとしてポリイミド樹脂製の膜を用いると、比較的サイクル寿命が長くなることがわかっている。ところが、この電池の充放電を繰り返すうちに充電容量が大きくなり、充放電効率が徐々に低下してくる問題があることが判明した。
【0007】
そこで本発明者らは、イオン液体(本明細書では、イオン性液体または常温溶融塩とも呼称することがある。)を利用した二次電池において、充電時の電気量ロスを防ぎ、充放電効率の低下を最小限にすることを目的に、電解質を検討した。本発明は、充電容量の低下が抑制された、サイクル特性に優れたリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、正極と、負極と、電解質と、セパレータとを少なくとも含むリチウム二次電池である。ここで該電解質は、リチウム塩と、融点が60℃以下の溶融塩である有機塩と、下記式(3)で表される化合物Aと、を含み、
該化合物Aの混合比が、該リチウム塩と該有機塩と該化合物Aの全重量に対して、0.6-27重量%であり、該セパレータは、ポリイミド樹脂を含む多孔質基材で形成されたものあることを特徴とする。
【化1】
(式(3)中、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12は、同一または異なって、水素原子、フッ素原子、炭素数1~4のアルキル基および炭素数1~4のフッ素化アルキル基からなる群より選択される。)
【0009】
ここで、該リチウム塩が、下記式(1)で表されるアニオンを含むリチウム塩であり、
該有機塩が、下記式(1)で表されるアニオンと、下記式(2)で表されるイミダゾリウムカチオンを含む有機塩であることが好ましい。
【化2】
(式(1)中、R
1およびR
2は、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。)
【化3】
(式(2)中、R
3およびR
4は、同一または異なって、炭素数1~8のアルキル基から選択され、R
5、R
6およびR
7は、同一または異なって、水素原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群より選択され、但しR
5、R
6およびR
7の少なくとも1つは水素原子である。)
【0010】
ここで、該化合物Aが、フルオロベンゼン、1,2―ジフルオロベンゼン、1,4―ジフルオロベンゼンからなる群から選択される化合物のうち、いずれか一種類以上であることが好ましい。
【0011】
また、該リチウム塩と該有機塩の総重量のうち該リチウム塩の割合が28~44重量%であることが好ましい。
【0012】
該セパレータは、該ポリイミド樹脂からなる多孔質基材の表面に、カルボニル基を含むことが好ましい。
【0013】
該負極が、負極集電体と金属リチウム層とから構成されるか、または、負極集電体のみから構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかるリチウム二次電池は、優れたサイクル特性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一の実施形態は、正極と、負極と、電解質と、セパレータとを少なくとも含むリチウム二次電池である。ここで電解質は、リチウム塩と、融点が60℃以下の溶融塩である有機塩と、下記式(3)で表される化合物Aと、を含み、
該化合物Aの混合比が、該リチウム塩と該有機塩と該化合物Aの全重量に対して、0.6-27重量%であり、該セパレータは、ポリイミド樹脂を含む多孔質基材で形成されたものある、ことを特徴とする。
【化4】
(式(3)中、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12は、同一または異なって、水素原子、フッ素原子、炭素数1~4のアルキル基および炭素数1~4のフッ素化アルキル基からなる群より選択される。)
【0016】
ここで、該リチウム塩が、下記式(1)で表されるアニオンを含むリチウム塩であり、
該有機塩が、下記式(1)で表されるアニオンと、下記式(2)で表されるイミダゾリウムカチオンを含む有機塩であることが好ましい。
【化5】
(式(1)中、R
1およびR
2は、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。)
【化6】
(式(2)中、R
3およびR
4は、同一または異なって、炭素数1~8のアルキル基から選択され、R
5、R
6およびR
7は、同一または異なって、水素原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群より選択され、但しR
5、R
6およびR
7の少なくとも1つは水素原子である。)
【0017】
実施形態において、二次電池とは、可逆的に充放電可能な化学電池のことを云う。本明細書では、リチウムイオンの移動により可逆的に充電および放電を行う電池をすべてリチウム二次電池と称する。本明細書において、リチウム二次電池の語は、後述する負極活物質として金属リチウムを用いた、いわゆる金属リチウム二次電池と、負極活物質としてリチウムイオンを吸脱着することが可能な物質を用いた、リチウムイオン二次電池の両方を含むものとする。
【0018】
実施形態における正極ならびに負極を含む電極は、リチウム二次電池の構成要素である。リチウム二次電池の放電の際に、電位の高い方の電極が正極、電位の低い方の電極が負極である。実施形態において、電極は、電極集電体の表面に電極活物質を含む電極合剤層が形成されてなる。ここで電極集電体は、通常、金属板または金属箔から構成され、電極活物質をその表面に保持し、電流を電極活物質に供給する、あるいは電極活物質から電流が供給される役割を果たす。また、電極活物質とは、化学反応を起こしてエネルギーを放出する物質であり、特に二次電池内において電池反応を起こして外部に電気エネルギーを放出することができる物質のことである。電極合剤層は、先述の電極活物質のほか、導電助剤やバインダを必要に応じて含む電極活物質混合物を堆積させた層である。電極合剤層は、電池反応の場を提供する。ここで導電助剤とは、電極合剤層中の電子移動を補助するためのものである。一方、バインダとは、上述の電極活物質、および場合により導電助剤を互いに結着して電極合剤層を構成するためのものである。
【0019】
実施形態において、正極は、正極集電体の表面に正極活物質を含む正極合剤層が形成されたものである。正極集電体は、金属板または金属箔、特にアルミニウム板またはアルミニウム箔から構成され、正極活物質をその表面に保持し、電流を正極活物質に供給する、あるいは正極活物質から電流が供給される役割を果たす。正極集電体の厚さは、好ましくは5μm~20μmである。ここで正極活物質として用いられる材料としては、特に限定されないが、リチウムイオンを充放電時に吸蔵、放出できる金属酸化物や金属硫化物が好ましい。このような金属酸化物や金属硫化物として、バナジウムの酸化物、バナジウムの硫化物、モリブデンの酸化物、モリブデンの硫化物、マンガンの酸化物、クロムの酸化物、チタンの酸化物、チタンの硫化物およびこれらの複合酸化物、複合硫化物等が挙げられる。このような化合物としては、たとえばCr3O8、V2O5、V5O18、VO2、Cr2O5、MnO2、TiO2、MoV2O8、TiS2V2S5MoS2、MoS3VS2、Cr0.25V0.75S2、Cr0.5V0.5S2が挙げられる。また、LiMY2(Mは、Co、Ni等の遷移金属、YはO、S等のカルコゲン元素)、LiM2Y4(MはMn、YはO)、WO3等の酸化物、CuS、Fe0.25V0.75S2、Na0.1CrS2等の硫化物、NiPS8,FePS8等のリン、硫黄化合物等を用いることもできる。また、マンガン酸化物、スピネル構造を有するリチウム・マンガン複合酸化物も好ましいものである。
【0020】
正極活物質として、具体的には、LiCoO2、LiNixCoyMnzO2、LiNixCoyAlzO2、Li6FeO4、LiMn2O4、Li(NixMny)2O4、LiVOPO4、Li2MnO3-LiMO2固溶体等の、リチウムを含む、リチウム複合酸化物を好適に用いることができる。
【0021】
実施形態において、正極合剤層は、先述の正極活物質のほか、導電助剤やバインダを必要に応じて含む正極活物質混合物を堆積させた層である。正極合剤層は、電池反応(正極反応)の場を提供する。ここで導電助剤とは、正極合剤層中の電子移動を補助するためのものである。導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料を用いることができる。一方、バインダとは、上述の正極活物質、場合により導電助剤を互いに結着して正極合剤層を構成するためのものである。バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニ+リン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。その他、正極合剤層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用してもよい。
【0022】
正極は、正極活物質、導電助剤、バインダを含む正極合剤を適切な溶媒に分散させたスラリを、概して平面状の正極集電体の少なくとも1つの表面に塗布し、溶媒を蒸発させて正極合剤層を形成することにより得ることができる。
【0023】
本実施形態において金属リチウム二次電池を作製する場合、正極活物質は、LiaNixM1-xO2(0<a<1.2、0.33<x<0.95、Mは、Mn、Co、Fe、Zr、Alから選択される少なくとも1種以上の元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物(NCM、NMC等と称される。)を含むことが好ましい。より具体的には、LiNixCoyMn1-x-yO2(0.33<x<0.95、0.01≦y<0.33)で表されるリチウムニッケル複合酸化物が好ましい。
【0024】
正極活物質の含有量は、正極合剤層の全体を100重量部としたとき、85重量部以上99.4重量部以下であることが好ましい。これによりリチウムの十分な吸蔵および放出が期待できる。
【0025】
バインダの含有量は、正極合剤層の全体を100重量部としたとき、0.1重量部以上5.0重量部以下が好ましい。バインダの含有量が上記範囲内であると、電極スラリの塗工性、バインダの結着性および電池特性のバランスがより一層優れる。また、バインダの含有量が上記上限値以下であると、電極活物質の割合が大きくなり、電極質量当たりの容量が大きくなるため好ましい。バインダの含有量が上記下限値以上であると、電極剥離が抑制されるため好ましい。
【0026】
導電助剤の含有量は、正極合剤層の全体を100重量部としたとき、0.1重量部以上3.0重量部以下であることが好ましい。導電助剤の含有量が上記上限値以下であると、電極活物質の割合が大きくなり、電極質量当たりの容量が大きくなるため好ましい。導電助剤の含有量が上記下限値以上であると、電極の導電性がより良好になるため好ましい。
【0027】
正極合剤層の密度は特に限定されないが、たとえば、2.0~3.6g/cm3とすることが好ましい。この数値範囲内とすると、高放電レートでの使用時における放電容量が向上するため好ましい。
【0028】
一方、実施形態において、負極は、負極集電体の表面に負極活物質を含む負極合剤層が形成されたものである。負極集電体は、好ましくは金属板または金属箔、特に銅板または銅箔から構成され、負極活物質をその表面に保持し、電流を負極活物質に供給する、あるいは負極活物質から電流が供給される役割を果たす。負極集電体として銅または銅合金にリチウムを点在させたものや、銅または銅合金に他の金属種(たとえば、スズ、インジウム)をめっきや蒸着により成膜したものを用いることもできる。負極集電体の厚さは、好ましくは5μm~20μmである。ここで負極活物質として用いられる材料としては、正極から移動するリチウムイオンを吸脱着することが可能な物質であれば特に限定されないが、炭素材料、特に黒鉛を挙げることができる。実施形態において、黒鉛、非晶質炭素化合物およびこれらの混合物からなる群より選択される炭素系活物質を負極活物質として含む負極合剤層が負極集電体上に形成されたものであることが非常に好ましい。
【0029】
黒鉛は、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。黒鉛は粒子の形態であることが好ましい。黒鉛には、天然黒鉛と人造黒鉛がある。天然黒鉛は安価に大量に入手することができ、構造が安定し耐久性に優れている。人造黒鉛とは人工的に生産された黒鉛のことであり、純度が高い(同素体等の不純物がほとんど含まれていない)ため電気抵抗が小さい。実施形態における負極活物質として、天然黒鉛、人造黒鉛とも好適に用いることができる。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛、あるいは非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を用いることもできる。非晶質炭素とは、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムにネットワークした構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことである。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボン繊維、ハードカーボン、ソフトカーボン、メゾポーラスカーボン等が挙げられる。これらの負極活物質は場合により混合して用いてもよい。また、非晶質炭素で被覆された黒鉛を用いることもできる。
なお、実施形態の負極における負極活物質として、金属リチウムを用いることもできる。すなわち、負極を、負極集電体と金属リチウム層とで構成することもできる。
【0030】
実施形態において、負極合剤層は、先述の負極活物質のほか、導電助剤やバインダを必要に応じて含む負極活物質混合物を堆積させた層である。負極合剤層は、電池反応(負極反応)の場を提供する。ここで導電助剤とは、負極合剤層中の電子移動を補助するためのものである。導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料を用いることができる。一方、バインダとは、上述の負極活物質、場合により導電助剤を互いに結着して負極合剤層を構成するためのものである。バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。その他、負極合剤層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤物を適宜使用してもよい。
【0031】
負極は、負極活物質、導電助剤、バインダを含む負極合剤を適切な溶媒に分散させたスラリを、概して平面状の負極集電体の少なくとも1つの表面に塗布し、溶媒を蒸発させて負極合剤層を形成することにより得ることができる。負極活物質として金属リチウムを用いる場合は、スパッタリング、メッキ、蒸着、箔の貼合等の従来から既知の方法により負極集電体の表面に金属リチウムの層を設けることができる。また負極活物質として、黒鉛等の炭素材料を用いることもできる。
【0032】
また、実施形態で用いる負極は、負極集電体のみから構成されていてもよい。負極集電体のみから構成されるとは、負極合剤層等が設けられていない負極集電体をそのまま用いるという意味である。すなわち、実施形態のリチウム二次電池の初期状態において、集電体が露出した状態の負極であることを意味する。
【0033】
負極集電体からなる負極を用いた本実施形態のリチウム二次電池は、使用に先立ち電圧を印加することで、上述の正極に由来するリチウムが負極集電体上に析出して負極合剤層を形成する。実施形態のリチウム二次電池を、初回充電電圧4.0V以上で充電すると、負極上に適切な量の負極活物質であるリチウムが析出する。このように、負極集電体からなる負極を用いることで、リチウム二次電池の製造過程において高い反応性を有する金属リチウムを直接使用する必要がなくなるので、電池の製造時や製造後の発火リスクを軽減することができる。
【0034】
実施形態のリチウム二次電池は、電解質を含む。実施形態において電解質は、リチウム塩と、有機塩と、下記式(3):
【化7】
(式(3)中、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12は、同一または異なって、水素原子、フッ素原子、炭素数1~4のアルキル基および炭素数1~4のフッ素化アルキル基からなる群より選択される。)で表される化合物Aと、を含む。
【0035】
ここでリチウム塩は、下記式(1):
【化8】
(式(1)中、R
1およびR
2は、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。)で表されるアニオンを含むリチウム塩である。
一方、有機塩は、下記式(1):
【化9】
(式(1)中、R
1およびR
2は、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。)で表されるアニオンと、下記式(2):
【化10】
(式(2)中、R
3およびR
4は、同一または異なって、炭素数1~8のアルキル基から選択され、R
5、R
6およびR
7は、同一または異なって、水素原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群より選択され、但しR
5、R
6およびR
7の少なくとも1つは水素原子である。)で表されるイミダゾリウムカチオンと、を含む。
【0036】
ここで、実施形態のリチウム塩および有機塩の両方に含まれている式(1)中、R1およびR2は、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。式(1)で表されるアニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)アニオン、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンおよびビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)アニオンからなる群より選択される1つ以上であることが好ましい。実施形態において、式(1)で表されるアニオンと、リチウムカチオンとのリチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドからなる群より選択される1つ以上であることが好ましい。また、式(1)で表されるアニオンと、以下に説明するカチオンと、が、実施形態で用いられる有機塩を形成する。
【0037】
実施形態で用いられる有機塩に含まれていてもよい式(2)で表されるカチオンは、一般にイミダゾリウムカチオンと呼ばれるカチオンである。式(2)で表されるカチオンのR3およびR4は、同一または異なって、炭素数1~8のアルキル基から選択され、R5、R6およびR7は、同一または異なって、水素原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群より選択される。ここでR5、R6およびR7の少なくとも1つは水素原子である。R5、R6およびR7の少なくとも1つは水素原子であることの技術的な意義は、後述する。なお、式(2)で表されるカチオンは、R5、R6およびR7が水素原子であるアルキルイミダゾリムカチオンであることが非常に好ましい。式(2)で表されるカチオンとして、たとえば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-n-オクチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-(2-ヒドロキシエチル)-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオンが挙げられる。
【0038】
実施形態において、電解質は式(3)で表される化合物Aを含む。化合物Aは、フルオロベンゼン骨格を有する化合物である。式(3)で表される化合物Aは、後述するポリイミド樹脂からなるセパレータと相互作用して、セパレータ表面上に化合物Aを主成分とする絶縁性の液層を形成すると考えられる。化合物Aを主成分とする液層は、電解質からポリイミド樹脂へのリチウムイオンの移動を阻害して、セパレータ上へのリチウム金属の析出を防ぐ役割を果たす。このメカニズムについて詳細は不明であるが、後述するポリイミドに含まれるカルボニル基と、化合物Aのベンゼン環構造とが分子間相互作用を形成することで、充電された負極中のリチウムがリチウムイオンとして上記のカルボニル基に配位することを抑制しているものと考えられる。また、後述する通り、上記セパレータの基材を構成するポリイミドには芳香族環を含むことが好ましいが、一方でこれらポリイミドに含まれる芳香族環部分には負極のリチウムがリチウムイオンとして配位(挿入)されることも考えられる。ここで、化合物Aのように、それ自体はリチウム塩をほとんど溶解することはない一方、その化学構造にベンゼン環を含む化合物をあらかじめ電解質に混合しておくと、化合物中のベンゼン環とポリイミドに含まれる芳香族環とが分子間相互作用し、充電された負極中のリチウムがポリイミドに含まれる芳香族環へリチウムイオンとして配位してしまうことを抑制できると考えられる。このため、電解質への化合物Aの添加により、電池の充放電効率を高めることができると考えられる。化合物Aは、フルオロベンゼン、1,2―ジフルオロベンゼン、1,4―ジフルオロベンゼンからなる群から選択される化合物から、一種類以上を選択することが好ましい。このように化合物Aとしてベンゼン環にフッ素基が結合すると、酸化雰囲気にある電極活物質界面においてもベンゼン環の酸化安定性が改善される。化合物Aは、リチウム塩と有機塩と化合物Aの全重量を基準として0.6-27%含まれていることが好ましく、10-25%含まれていることがさらに好ましい。用いる化合物Aの種類にもよるが、化合物Aの含有量が少なすぎるとサイクル特性の向上の効果が望めず、化合物Aの含有量が多すぎると電解質の相溶性が悪化する。
【0039】
実施形態において、上記のリチウム塩は、リチウム塩と該有機塩の総重量のうち18~44重量%含まれていることが好ましく、24~39重量%含まれていることがさらに好ましい。リチウム塩の含有量が少なすぎると電極における副反応が生じやすくなり、多すぎるとリチウム塩の均一な反応が進まない場合がある。
【0040】
実施形態において、電解質は、上記のリチウム塩および有機塩の溶剤であるハイドロフルオロエーテル類(たとえば1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル)、カーボネート類、エーテル類、エステル類、スルホン類、ニトリル類、リン化合物、ホウ素化合物、フッ素化芳香族化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を含んでいても良い。
【0041】
上記のとおり、実施形態で用いる電解質は、イオン(アニオンとカチオン)のみから構成される有機塩を一成分として含むものである。実施形態の電解質に含有されている有機塩は、一般にイオン液体、イオン性液体または常温溶融塩と呼称される液体の塩であることが好ましい。本明細書では、このような液体の塩を主にイオン液体と称するものとする。本実施形態においては、電解質は、リチウム塩と有機塩(イオン液体)との2種の塩を主成分として含み、さらに上記の化合物Aを含むことが好ましい。ここで、2種の塩、すなわち、式(1)で表されるアニオンと、リチウムカチオンとのリチウム塩と、式(1)で表されるアニオンと、式(2)で表されるカチオンとの有機塩とに共通の構成要素である式(1)で表されるアニオンは、同一のものであっても異なるものであっても良い。リチウム塩と有機塩とに共通の構成要素である式(1)で表されるアニオンが同一のアニオンであることが非常に好ましい。
【0042】
実施形態のリチウム二次電池には、セパレータを含む。セパレータは、正極と負極との間に積層され、正極と負極を分離して短絡を防止することや、電池反応に必要な電解質を保持して高いイオン伝導性を確保すること、電池反応阻害物質の通過防止、安全性確保のための電流遮断特性を有することを目的として使用される部材である。セパレータは、基材としてポリイミド樹脂を含む多孔質膜構造を形成している。なお、セパレータの片面または両面に耐熱性微粒子層を有していてもよい。耐熱性の無機微粒子として、シリカ、アルミナ(α-アルミナ、β-アルミナ、θ-アルミナ)、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウム等の無機酸化物;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、スピネル、マイカ、ムライト等の鉱物を挙げることができる。
【0043】
さらにセパレータとして、三次元的に空孔が連通孔により互いに連通された多孔質樹脂膜(本明細書では、このような構造を「3DOM構造」と称するものとする。)を用いることも好ましい。このような「3DOM構造」のセパレータを用いることにより、二次電池(特にリチウム二次電池、またはリチウムイオン二次電池)中のリチウムイオンの電流分布を均一化し、リチウムデンドライトを生成することなく安全に二次電池の充放電を行うことが可能となる。リチウムイオンの拡散が均一化され、これにより拡散律速反応の場合においても、イオン電流密度が均一化されるため、リチウムの電析反応が均一に制御される。また、3DOM構造がイオン電流密度を均一化する効果によって、電流密度の高い充放電条件においても、リチウムの電析反応が均一に制御され、リチウム金属負極を用いた二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0044】
セパレータは、ポリイミドの分子内にカルボニル基を含むモノマーを構成単位とするコポリマーである高分子樹脂で形成することが好ましい。さらに、該セパレータは、多塩基酸または多塩基酸無水物とジアミンとの縮合物であるポリイミドで形成することが特に好ましい。セパレータを構成する高分子樹脂基材の重量を100重量部として、99重量部以上がポリイミド樹脂であることが非常に好ましい。ポリイミド樹脂の一つの原料モノマーである多塩基酸として、四塩基酸を用いることが好ましい。四塩基酸とは、1分子で4個の水素イオンを塩基に供与できる酸のことであり、たとえば、テトラカルボン酸類やジフタル酸類を挙げることができる。実施形態で用いるセパレータを形成するポリイミド樹脂の原料として好適に用いられるのは、分子内に芳香族基を有する四塩基酸およびその無水物であり、たとえば、ベンゼン-1,1,4,5-テトラカルボン酸およびその無水物、ジフェニル-3,3’、4,4’テトラカルボン酸およびその無水物、4,4’-オキシジフタル酸およびその無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパンおよびその二無水物、4,4’-ビフタル酸およびその無水物、3、4’-ビフタル酸およびその無水物を挙げることができる。
【0045】
一方、ポリイミド樹脂のもう一つの原料モノマーであるジアミンは、一分子内に2つのアミノ基を有する化合物である。ポリイミド樹脂の原料として用いられるジアミンは、好ましくは分子内に芳香族基を有するジアミンであり、たとえば、1,4-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル、3,4-フェニレンジアミン、4、4’-イソプロピリデンビス-[(4-アミノフェノキシ)ベンゼン]、2,4,6-トリメチル-1,3-フェニレンジアミン、4、4’-メチレンビス(2-クロロアニリン)、o-トルイジン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,6-ジアミノカルバゾール挙げることができる。また、一分子内の2つのアミノ基が脂肪族基または脂環族基を介して結合したジアミン、たとえば、1,4-シクロヘキサン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミンを用いても良い。
【0046】
ここで、ポリイミド樹脂からなる多孔質基材の表面に、カルボニル基を含んでいる。ポリイミド樹脂からなる多孔質基材の表面にカルボニル基が存在するとき、電解質を構成する有機塩(イオン液体)のカチオンに水素原子が含まれるようにすると、上記のカルボニル基と水素原子とが水素結合を形成し、これにより有機塩(イオン液体)中のカチオンが安定化し、それにより、充放電による電解質の分解が抑制され、充放電サイクル寿命が改善される。
【0047】
ポリイミド樹脂3DOM構造セパレータは、たとえば、以下のように形成することができる:単分散のポリスチレンビーズ等を鋳型として用い、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを縮重合させる。得られたポリイミド樹脂膜を加熱してポリスチレンビーズを昇華させると、ポリスチレンビーズが存在していた部分に空隙が生じる。こうして、三次元的な空孔が連通孔により互いに連通された多孔質(3DOM構造を有する)ポリイミド樹脂膜を得ることができる。
このように、実施形態において、セパレータが、ポリイミド樹脂から形成された多孔質基材であることは、非常に好ましい。
この際、セパレータの空孔率は、55-74%であると、高温耐久性の他、機械強度にも優れたセパレータとなり、好ましい。
【0048】
上記の正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、発電素子を形成することができる。正極と負極と、セパレータは、それぞれ1以上積層することができる。正極に正極タブ等、負極に負極タブ等の、電流を取り出すための部材を適宜設け、その他必要な部材を適宜加え、金属製のコインセルやアルミニウムラミネートフィルム等の外装体に封入し、電解質を注入して、実施形態のリチウム二次電池を得ることができる。電池の形状はラミネート型のほか、筒型、角型、コイン型等、従来知られた形状を含むどのような形状であってもよく、特に限定されるものではない。リチウム二次電池が、たとえばコイン型等の電池である場合、通常、セル床板上に負極板を乗せ、その上にセパレータと電解質を乗せ、さらに負極と対向するように正極を乗せ、ガスケット、封口板と共にかしめてリチウム二次電池とされる。また二次電池がたとえばラミネート型の電池である場合、発電素子に正極タブ、負極タブ等の端子を付け、これらを、セパレータを介して積層して発電素子を形成し、これを金属ラミネートフィルムで作製したバッグに挿入し、バッグ内に電解質を注入してラミネートフィルムを封止しリチウム二次電池を得ることができる。実施形態のリチウム二次電池の構造あるいは作製方法がこれらに限定されるものではない。
【0049】
実施形態のリチウム二次電池において、電池を構成する正極、負極、電解質等は、従来の二次電池の正極、負極、電解液の材料として公知あるいは周知のもののいずれを用いてもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
<リチウム二次電池の作製>
正極活物質であるリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(LiNi0.88Co0.08Mn0.04O2、以下NCM)98.96重量%、導電助剤としてカーボンナノチューブ0.44重量%、バインダとしてポリビニリデンフルオライド(PVDF)0.6重量%を混合した正極合剤を厚さ12μmのアルミニウム箔上に目付3.6mg/cm2で積層した正極(サイズ:30×40mm)を用意した。
一方、厚さ10μmの銅箔と、厚さ20μmの圧延リチウムとを貼り合わせて積層した負極(サイズ:32×42mm)を用意した。
セパレータは、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸無水物(PMDA)と4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とを縮重合させて得たポリイミド樹脂から形成された3DOM構造を有する高分子樹脂基材膜(全体の厚さ20μm、サイズ:35×45mm)を用いた。
電解質の材料として、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニルイミド)(EMIFSI)(有機塩)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)(リチウム塩)、および化合物Aに相当する化合物としてフルオロベンゼン(FB)、オルト-ジフルオロベンゼン(o-dFB)およびパラ-ジフルオロベンゼン(p-dFB)を用意した。これらの材料の配合を適宜変えて混合し、電解質を作製した。各電解質については後記する。
【0052】
負極材料として使用するリチウム箔、銅箔および正極材料として使用するアルミニウム箔は適切な市販品を入手することができる。また正極活物質として使用するNCMは、たとえば北京当升材料科技股彬有限公司、ユミコア社等による市販品を、バインダとして使用するPVDFおよびスチレンブタジエンゴムは、それぞれたとえばクレハ株式会社、ソルベイ社、アルケマ社や、日本ゼオン株式会社、JSR株式会社等による市販品を、増粘剤として使用するカルボキシメチルセルロースは、たとえば日本製紙株式会社等による市販品を、導電助剤として使用するカーボンナノチューブは、たとえばNano C社等による市販品を、電解質として使用するEMIFSIは、たとえばキシダ化学株式会社、東京化成工業株式会社等による市販品を、同じくLiFSIは、たとえば日本触媒株式会社、キシダ化学株式会社、東京化成工業株式会社等による市販品を、それぞれ入手することができる。
【0053】
上記の正極(サイズ:30×40mm)と、セパレータ(サイズ:35×45mm)と、負極(サイズ:32×42mm)とを重ね合わせ、発電素子を作製し、これに正極タブと負極タブを設けた。正極の空孔体積とセパレータの空孔体積(各々の単位:ミリリットル)の合計の2倍の体積の上記電解質と共に、タブを設けた電池素子をアルミニウムラミネートフィルム(厚さ:110μm)の外装体内に組み込み、外装体の周囲を封止して、セル容量40mAhのラミネート型のセル(二次電池)を得た。
【0054】
[電解質]
[実施例1]
リチウム塩として、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、有機塩として1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(EMIFSI)とを、LiFSIとEMIFSIの総重量のうち、LiFSIの割合が34重量%となるように配合したものに、さらに化合物A(フルオロベンゼン)を全電解質重量基準で配合量:0.6%となるように配合した電解質を用意した。
【0055】
[実施例2~6、および比較例1]
化合物A(フルオロベンゼン)の配合量をそれぞれ全電解質重量基準で1%(実施例2)、3%(実施例3)、7%(実施例4)、16%(実施例5)、27%(実施例6)とすること以外は実施例1と同様にして電解質を用意した。また、実施例1と同様にLiFSIとEMIFSIの混合物を準備し、化合物Aを配合しない電解質を比較例1として用意した。
【0056】
[実施例7および8]
それぞれ、化合物Aとしてオルト-ジフルオロベンゼンを全電解質重量基準で配合量18%(実施例7)、パラ-ジフルオロベンゼンを全電解質重量基準で配合量18%(実施例8)、となるように配合する以外は、は実施例1と同様にして電解質を用意した。
【0057】
[比較例2]
実施例1と同様にLiFSIとEMIFSIの混合物を準備し、化合物Aとして、フルオロベンゼンを全電解質重量基準で配合量41%となる電解質を用意しようと試みたが、電解質が相溶せず、ラミネート型セルを作製することができなかった。
【0058】
[リチウム二次電池の評価]
[総充電容量に対する不可逆容量の割合の測定]
上記のように作製したラミネート型セルを、内部の温度が25℃になるように制御した恒温槽内にて0.2C相当の電流値で終止電圧4.3Vまで定電流で充電したのち、さらに前記電圧を維持しつつ充電電流を漸次減少させながら0.02C相当の電流値以下になるまで定電圧充電を方式で充電した。その後、0.2Cに相当する電流値で2.8Vまで定電流放電を行った。この充放電を1サイクルとして、合計70サイクルの充放電を行った。70サイクル充放電の充電容量の総和(総充電容量)と、放電容量の総和(総放電容量)とをそれぞれ求め、総充電容量と総放電容量の差を総充電容量で除して、総充電容量に対する不可逆容量の割合を算出した。
比較例1にて算出された、総充電容量に対する不可逆容量の割合の値を基準として、各実施例・比較例にて不可逆容量がどの程度削減されたかを百万分率で求めた。結果を表1に示す。
【0059】
【0060】
表1中の略語は、以下の通りの意味である:
FB:フルオロベンゼン
o-dFB:オルト-ジフルオロベンゼン
p-dFB:パラ-ジフルオロベンゼン
【0061】
本発明の電解質を用いたリチウム二次電池は、不可逆容量が生じにくく、電池のサイクル寿命が長い。