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特許7534808光ランタイム測定時の拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータを生成する装置及び方法
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  • 特許-光ランタイム測定時の拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータを生成する装置及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】光ランタイム測定時の拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータを生成する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/10 20200101AFI20240807BHJP
【FI】
G01S17/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022547810
(86)(22)【出願日】2021-02-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 EP2021052286
(87)【国際公開番号】W WO2021160455
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】102020201636.4
(32)【優先日】2020-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】505472816
【氏名又は名称】マイクロビジョン,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ボイシェル
(72)【発明者】
【氏名】ファルコ ディーベル
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0361098(US,A1)
【文献】特開2019-144184(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102751(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - 7/51
17/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ランタイム測定時の拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)を生成する装置(1)であって、
複数の光検出受信要素を含む受信マトリクス(2)を備えており、
光ランタイム測定は、光パルスが周期的に送信されてから前記光検出受信要素によって受信されるまでの測定時間を測定する時間相関単一光子計数測定原理に基づいて測定が行われており、前記測定時間は複数の時間間隔に分割されており、
それぞれの前記光検出受信要素は、検出した光に応答して電気信号を生成するように配置されており、前記電気信号が時間-デジタルコンバータによって時間間隔の1つに割り当てられており、
時間相関ヒストグラムデータが、前記時間間隔に割り当てられた前記電気信号を計数することによって生成されており、
前記時間相関ヒストグラムデータには拡散後方散乱からの信号寄与が含まれ、
前記時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)を受信するために複数の信号入力部を有する少なくとも1つのヒストグラム累積部(HA0~HAX)を備えており、
前記ヒストグラム累積部(HA0~HAX)は、受信した前記時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)に基づいて、後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)を生成するように設定されており、
前記ヒストグラム累積部(HA0~HAX)は、前記受信した時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)を相互に加算することによって前記後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)を生成しており、
前記ヒストグラム累積部(HA0~HAX)が、前記後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)を生成するための特定の時間閾値を超える時間間隔の、受信した時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)を考慮しないように設定されていることを特徴とする装置(1)。
【請求項2】
前記ヒストグラム累積部(HA0~HAX)は、前記後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)を生成するために、前記受信された時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)から算術平均を計算する、請求項に記載の装置(1)。
【請求項3】
前記ヒストグラム累積部(HA0~HAX)は、前記後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)を生成するために、複数の時間間隔の前記受信された時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)を1つの時間間隔内で累積する、請求項1または2に記載の装置(1)。
【請求項4】
前記ヒストグラム累積部(HA0~HAX)が、前記後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)を生成するために前記受信された時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)を重み付けするようにさらに設定された、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項5】
前記ヒストグラム累積部(HA0~HAX)が、前記拡散後方散乱を特定するための前記後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)を出力するようにさらに設定された、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項6】
前記光検出受信要素各々が、活性化及び非活性化可能である、請求項に記載の装置(1)。
【請求項7】
前記受信マトリクス(2)における前記光検出受信要素、列(S0~S255)及び行(Z0~Z127)で格子グリッド状に配列され、同数の光検出受信要素が各行(Z0~Z127)に設けられた、請求項6に記載の装置(1)。
【請求項8】
複数の評価部(A0~A127)をさらに備え、それぞれの評価部(A0~A127)がそれぞれの列(S0~S255)に対応して前記光検出受信要素に接続されるか、またはそれぞれの評価部(A0~A127)がそれぞれの行(Z0~Z127)に対応して前記光検出受信要素に接続され、
各信号入力部が前記評価部(A0~A127)の1つに接続されることにより、前記時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)が前記評価部(A0~A127)から対応する前記ヒストグラム累積部(HA0~HAX)に送信される、請求項に記載の装置(1)。
【請求項9】
前記評価部(A0~A127)の各々が、前記光検出受信要の前記電気信号に基づいて前記時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)を生成するように設定された、請求項に記載の装置(1)。
【請求項10】
活性化された前記光検出受信要素のみが、前記時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)を生成するために考慮される、請求項に記載の装置(1)。
【請求項11】
光ランタイム測定時の拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータを生成する方法(20)であって、
複数の光検出受信要素を含む受信マトリクス(2)によって光ランタイム測定を行うステップであって、光ランタイム測定は、光パルスが周期的に送信されてから光検出受信要素によって受信されるまでの測定時間を測定する時間相関単一光子計数測定原理に基づいて測定が行われており、前記測定時間は複数の時間間隔に分割されている、光ランタイム測定を行うステップと、
それぞれの前記光検出受信要素が、検出した光に応答して電気信号を生成すし、生成された前記電気信号が時間-デジタルコンバータによって時間間隔の1つに割り当てられるステップと、
時間相関ヒストグラムデータが、前記時間間隔に割り当てられた前記電気信号を計数することによって生成されるステップと、
少なくとも1つのヒストグラム累積部(HA0~HAX)によって、複数の時間相関ヒストグラムデータを受信するステップ(21)と、
受信された前記時間相関ヒストグラムデータに基づいて後方散乱ヒストグラムデータを生成するステップ(22)と、
を備え、
前記ヒストグラム累積部(HA0~HAX)は、受信した前記時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)に基づいて、後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)を生成するように設定されており、
前記ヒストグラム累積部(HA0~HAX)は、前記受信した時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)を相互に加算することによって前記後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)を生成しており、
前記ヒストグラム累積部(HA0~HAX)が、前記後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)を生成するための特定の時間閾値を超える時間間隔の、受信した時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)を考慮しないように設定されていることを特徴とする方法(20)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略として、光ランタイム測定時の拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータを生成する装置及び光ランタイム測定時の拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータを生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ランタイムに基づいて物体までの距離を特定するために、物体に反射された送信光信号のランタイムが測定される、いわゆる飛行時間原理に基づき得る様々な方法が、光ランタイム測定について知られている。
【0003】
自動車環境において、その環境を走査するようにパルスが周期的に送信されて反射パルスが検出される、いわゆるLIDAR(光検出及び測距)原理に基づくセンサを用いることが知られている。例えば、対応する方法及びデバイスが、特許文献1により公知となっている。
【0004】
LIDARアプリケーションでは、検出光信号のタイプは、例えば、送信光信号が固体物体上で反射されたのか(物体後方散乱)又は空気中、例えば霧又は排気ガス中に存在する粒子によって反射されたのか(拡散後方散乱)に応じて一般に異なり得る。環境条件についての結論は、記録された後方散乱データから引き出され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/081294号
【発明の概要】
【0006】
光ランタイム測定時に後方散乱データを記録する手段は従来技術から公知であるが、本発明の課題は、光ランタイム測定時の後方散乱を特定する装置及び方法を提供することである。
【0007】
この課題は、請求項1に記載の装置及び請求項15に記載の方法によって達成される。
【0008】
第1の態様において、本発明は、光ランタイム測定時の拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータを生成する装置を提供し、装置は、
時間相関ヒストグラムデータを受信するために複数の信号入力部を有する少なくとも1つのヒストグラム累積部を備え、ヒストグラム累積部は、信号入力部において受信された時間相関ヒストグラムデータに基づいて後方散乱ヒストグラムデータを生成するように設定される。
【0009】
第2の態様において、本発明は、光ランタイム測定時の拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータを生成する方法を提供し、方法は、
複数の時間相関ヒストグラムデータを受信するステップと、受信された時間相関ヒストグラムデータに基づいて後方散乱ヒストグラムデータを生成するステップと、を備える。
【0010】
本発明の更なる有利な効果が、従属請求項、図面及び本発明の好適な例示的実施形態の以下の説明から収集され得る。
【0011】
上述したように、複数の例示的実施形態が、光ランタイム測定時の拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータを生成する装置に関し、装置は、
時間相関ヒストグラムデータを受信するために複数の信号入力部を有する少なくとも1つのヒストグラム累積部を備え、ヒストグラム累積部は、信号入力部において受信された時間相関ヒストグラムデータに基づいて後方散乱ヒストグラムデータを生成するように設定される。
【0012】
冒頭で述べたように、環境条件に関する結論は、LIDAR測定時に後方散乱データから引き出され得る。例えば、自動車を自律運転させる場合には、環境条件の(例えば、霧などの)より正確な知識によって、それに従って運転モードを環境条件に調整することができ、それにより安全性が増す。さらに、LIDAR測定時の拡散後方散乱の正確な知識によっても、複数の例示的実施形態において静止物体の(より正確な)検出が可能となる。例えば、これにより、交通状況をより正確に特定することが可能となり、同様に安全性及び自律車両の安全性及び信頼性が増す。
【0013】
この目的のため、一部の例示的実施形態における装置は、本発明をこれらの場合に限定することなく、LIDARシステムなどに、及び例えば自動車環境に用いられる。
【0014】
一部の例示的実施形態では、LIDARデータは通常、後方散乱、物体上での光反射、周囲光、その環境における他の光源からのスタージョン(sturgeon)信号などからの信号寄与を含む。これらのデータは、基本的には公知のヒストグラムにおいて表現され得る。
【0015】
したがって、後方散乱ヒストグラムデータの生成は、生成された後方散乱ヒストグラムデータは少なくとも拡散後方散乱の信号寄与を含み、又はそれらが基本的に拡散後方散乱の信号寄与を含み得るように構成され、結果として基本的に光学距離測定時の拡散後方散乱を特定するのに適することを意味し得る。
【0016】
一部の例示的実施形態では、光ランタイム測定は、特にLIDARに基づく例示的実施形態では、いわゆるTCSPC(時間相関単一光子計数)測定原理に基づく。ここでは通常、光パルスが送信され、それは通常は数ナノ秒継続して測定の開始時間を記録する。次の光パルス(測定時間)までの時間中に、物体に反射された光又は後方散乱光が、光検出受信要素(例えば、単一光子アバランシェダイオード(SPAD))によって検出される。ここで、測定時間は、複数の短い時間間隔(例えば、500ps)に分割される。そして、各時間間隔は、開始時間に対して時間間隔に対応する時間を割り当てられ得る(例えば、500psの時間間隔において、250psの時間は第1の時間間隔に割り当てられ、750psの時間は第2の時間間隔に割り当てられ得る、など)。
【0017】
物体まで又は後方散乱の地点までの距離に応じて、光は、異なる時間で光検出受信要素に到達する。
【0018】
それは、ここでは光検出受信要素において電気信号を生成する。そして、基本的には公知の時間-デジタルコンバータ(「TDC」時間-デジタルコンバータともいう)が、電気信号を時間間隔の1つに割り当てるのに使用され得る。時間間隔に割り当てられた電気信号(「イベント」)を計数することで、いわゆるヒストグラム又は時間相関ヒストグラム(TCSPCヒストグラムともいう)が生じ、これらのヒストグラムはまた、例えば、純データとしてのみ存在し得るものであり、時間間隔及び付随する入力数(単数又は複数のイベント)からなる値のペアとして記憶される。各時間間隔(「ビン」)に割り当てられたイベント数とともに、時間間隔は、対応してヒストグラムデータを構成し、それは基本的にはデジタル信号によって(又はアナログ信号によっても)表現され得る。したがって、これらは通常、拡散後方散乱、物体上での光反射、周囲光、その環境における他の光源からのスタージョン信号などからの信号寄与を含む。
【0019】
装置は、複数の信号入力部を有する少なくとも1つのヒストグラム累積部を含む。一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部の最大数は、光ランタイム測定のためのシステム(例えば、LIDARシステム)における光検出受信要素の数によって規定される。ヒストグラム累積部は、ここでは基本的に、デジタル信号又はデータ、例えば、時間相関ヒストグラムデータを信号入力部を介して受信してそこに記載される後方散乱ヒストグラムデータの生成を実行する電子回路であり又はそれを有する。電子回路は、ここに記載する機能を実行するための電子部品、デジタル記憶要素などを含み得る。電子回路は、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)、DSP(デジタル信号プロセッサ)などによって実現可能である。他の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部は、メモリ及びマイクロプロセッサによって実現される。他の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部はソフトウェアによって実現され、信号入力部はそのような例示的実施形態ではソフトウェア機能/方法のパラメータ/属性に対応する。そして、後方散乱ヒストグラムデータの生成はコンピュータ上での特定の数学的演算を行うための一連のコマンドの実行に対応するので、後方散乱ヒストグラムデータは、全てのコマンドが処理された後に存在することになる。一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部はまた、ここに記載する機能が対応して分散されるハードウェア及びソフトウェアに基づくコンポーネントの混合によって実現さる。
【0020】
ヒストグラム累積部は、時間相関ヒストグラムデータを当該又は各信号入力部において受信する。ヒストグラムデータは、ここでは必ずしも各信号入力部において受信される必要はなく、一部の例示的実施形態は、例えば、ヒストグラムデータが受信されず、又は対応する構成のみに基づいてさらに多くの信号入力部を設ける。
【0021】
時間相関ヒストグラムデータは、(付随する)測定時間内で光検出受信要素の電気信号に基づいて生成されるデータである。それゆえ、上述したように、これらは通常は、拡散後方散乱、物体での光反射、周囲光、その環境における他の光源からのスタージョン信号などからの信号寄与を含む。
【0022】
一部の例示的実施形態では、各信号入力部における受信時間相関ヒストグラムデータは、光検出受信要素からの時間相関ヒストグラムデータによって規定される。他の例示的実施形態では、各信号入力部における受信時間相関ヒストグラムデータは、複数の光検出受信要素からの時間相関ヒストグラムデータの合計によって規定される。更なる例示的実施形態では、各信号入力部における受信時間相関ヒストグラムデータは、複数の光検出受信要素からの複数の時間相関ヒストグラムデータによって規定される。
【0023】
後方散乱ヒストグラムデータは、信号入力部おいて受信された時間相関ヒストグラムデータに基づいて生成される。
【0024】
周囲光、例えば、太陽光及び物体での反射光の量と比較すると、拡散後方散乱に基づいて検出された光量は通常は低いため、拡散後方散乱の特定は、特に時間相関ヒストグラムデータではいずれも困難かつ不正確となり得る。したがって、一部の例示的実施形態では、装置は、光ランタイム測定時の拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータを生成するのに用いられる。
【0025】
一部の例示的実施形態では、後方散乱ヒストグラムデータは、ここでは複数の光検出受信要素からの時間相関ヒストグラムデータの累積に対応する。拡散後方散乱寄与の信号対ノイズ比(「SNR」信号対ノイズ比ともいう)は他の信号寄与と比較すると増加するので、時間相関ヒストグラムデータの累積は拡散後方散乱を特定するのに有利となり得る。一部の例示的実施形態では、これにより、拡散後方散乱をより良好に特定することができる。
【0026】
これは基本的には、光ランタイム測定時の拡散後方散乱は通常は長距離(例えば、200m)におけるよりも短距離(例えば、5m)における方が高く、連続して低下し得るためである。したがって、拡散後方散乱を特定するために、(例えば20mの距離閾値に対応する)特定の閾値を超える時間間隔は、後方散乱ヒストグラムデータを生成するための一部の例示的実施形態では考慮されなくてもよい。
【0027】
これに対して、通常、周囲光は測定時間中に一定であるので、通常は全ての時間間隔において一定の寄与をもたらす。同様に、物体での反射の信号寄与は鋭いピークであることが多く、反射光は1個又は数個の時間間隔でしか検出されないことを意味する。これは、光パルスは、弱められた振幅であるがほぼ同一のパルス幅で受信され得るためである。例えば10nsの通常のパルス幅において、例えば250psの時間分解能が、正確な位置決定に必要となり得る。
【0028】
例えば空気中の霧又は粒子での拡散後方散乱時に、光は低輝度で伝搬するため、連続的な後方散乱が生じ得る。光パルスは、ここで、時間において大きく拡幅又は不鮮明化され得る。例えば、1.5mの幾何学的拡がりのある10nsの光パルスを検討すると、1.5mの深さ範囲にわたる拡散後方散乱が常に生成され得る。この理由のため、一部の例示的実施形態では、明らかに低減した時間分解能で充分となる。
【0029】
したがって、一部の例示的実施形態では、より低い時間分解能(距離分解能、例えば、物体検出のための4cmとの比較において、後方散乱を特定するための16cm)が、拡散後方散乱を特定するために選択され得る。このような例示的実施形態では、これは、複数の時間間隔の時間相関ヒストグラムデータを1つの時間間隔内で累積することによって考慮され得る。
【0030】
さらに、例えば、霧は空間的に鋭く区切られないため、通常、拡散後方散乱の寄与はLIDARシステムの視野全体にわたって同様である。一方、物体は視野の狭い範囲にのみ存在することが多く、視野は検出されている空間領域を表す。したがって、一部の例示的実施形態では、より低い空間分解能が、拡散後方散乱を特定するために選択され得る。このような例示的実施形態では、これは、複数の光検出受信要素の時間相関ヒストグラムデータを累積することによって考慮され得る。
【0031】
それによって後方散乱の特定のためのデータ量が減少し、必要となる計算及び記憶容量がそれにより減少するので、これは有利である。これは、より低い電力消費を促進することにもなる。
【0032】
したがって、一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部は、受信された時間相関ヒストグラムデータを相互に加算することによって後方散乱ヒストグラムデータを生成する。
【0033】
時間間隔内に検出されたイベントの数は、ここでは、全ての受信された時間相関ヒストグラムデータから加算されてもよく、それにより、各時間間隔において全てのイベントの合計をこの時間間隔に正確に含める後方散乱ヒストグラムデータを生成する。時間相関ヒストグラムデータは、好ましくは整数として累積又は加算されるので、一部の例示的実施形態では、弱い拡散後方散乱が測定可能となる。上述したように拡散後方散乱寄与のSNRが他の寄与と比較して増加し得るので、これは有利である。
【0034】
一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部は、後方散乱ヒストグラムデータを生成するために、受信された時間相関ヒストグラムデータから算術平均を計算する。
【0035】
上述したように、受信された時間相関ヒストグラムデータは、ここでは信号入力部数によって加算又は除算される。これは(整数を累積する例示的実施形態とは逆に)固定小数点数又は浮動小数点数の実現を有する一部の例示的実施形態では有利となり得る。
【0036】
一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部は、後方散乱ヒストグラムデータを生成するために、複数の時間間隔の受信された時間相関ヒストグラムデータを1つの時間間隔内で累積する。
【0037】
上述したように、拡散後方散乱の信号寄与は連続的に低下し得るものであり、通常は鋭いピークを有さないため、計算及び記憶容量を節約するために、拡散後方散乱を特定するための距離分解能(時間分解能)が低減され得る。
【0038】
この理由のため、複数の時間間隔のイベント数が、1つの時間間隔内で累積され、好ましくは加算され得る。このような例示的実施形態では、累積時間間隔は好ましくは連続的な時間間隔(時間)であり、累積が行われる時間間隔は好ましくは累積時間間隔の最小時間と最大時間の間にある時間間隔となる。
【0039】
一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部はさらに、後方散乱ヒストグラムデータを生成するための特定の時間閾値を超える時間間隔の受信時間相関ヒストグラムデータを考慮しないように設定される。
【0040】
光ランタイム測定における拡散後方散乱は、通常、長い距離では、光量が過小となるために検出不能となる。この理由のため、特定の時間閾値を超える拡散後方散乱を特定するための時間間隔は、記憶及び計算容量を節約するために無視されてもよい。
【0041】
このような例示的実施形態において、これは、上述したように、受信された時間相関ヒストグラムデータを加算する際に、例えば、時間閾値以下にあるそれらの時間間隔のみを考慮することによって、受信された時間相関ヒストグラムデータから後方散乱ヒストグラムデータを生成する場合に達成され得る。
【0042】
一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部はさらに、後方散乱ヒストグラムデータを生成するために受信時間相関ヒストグラムデータを重み付けするように設定される。
【0043】
例えば、受信された時間相関ヒストグラムデータを重み付けすることは、ここでは1よりも大きい又は小さい係数(例えば、各信号入力部に対して異なる)で個々の時間相関ヒストグラムデータを乗算することを伴い得る。このような例示的実施形態では(重み付けのための本例に本発明を限定することなく)、1より大きい係数で乗算された時間相関ヒストグラムデータは後方散乱ヒストグラムデータを生成するためにより高く重み付けされ、逆に、1未満の係数は後方散乱ヒストグラムデータを生成するためのより低い重み付けをもたらす。
【0044】
例えば、物体又は周囲光によってより大きな寄与が一部の時間相関ヒストグラムデータにおいて存在する結果として、それらの時間相関ヒストグラムデータに基づいて拡散後方散乱を特定することがより困難となる場合に、これは有利となり得る。したがって、そのような時間相関ヒストグラムデータは、1未満の係数で乗算され得る。
【0045】
一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部はさらに、拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータを出力するように設定される。例えば、後方散乱ヒストグラムデータは、その後に後方散乱を特定するためのプロセッサ、FPGAなどに出力され得る。
【0046】
一部の例示的実施形態では、装置は複数の光検出受信要素を有する受信マトリクスを含み、光検出受信要素の各々は、光を検出し、それに応じて電気信号を生成するように設定される。
【0047】
受信マトリクスは基本的には3次元体、特に板状体を含み、複数の光検出受信要素は、基本的には周知であるように1平面において表面上又は表面の部分上に配置される。
【0048】
受信マトリクスは、好ましくは半導体チップ(例えば、ASIC「特定用途向け集積回路」)上に集積されてもよく、半導体チップはSPADなどの複数の光検出受信要素及び複数のTDCを有し得る。他の例示的実施形態では、受信マトリクスは複数の光検出受信要素がその上に実装された印刷回路基板であってもよく、光検出受信要素は、例えば、SPADなどであり得る。光検出受信要素は、基本的には、非常に小さな光量(例えば、単一の光子)を高い時間分解能で検出し、それに応じて電気信号を生成することができる。
【0049】
一部の例示的実施形態では、光検出受信要素の各々が、活性化及び非活性化可能である。例えば、SPADが光検出受信要素として設けられる場合、光検出は、光検出受信要素に印加された電圧の変化によって中断されてしまう。このような例示的実施形態では、光検出受信要素は、入射光への曝露中には電気信号を生成しない。後方散乱を特定するための視野の特定の領域が遮蔽され得るので、これは有利である。
【0050】
一部の例示的実施形態では、受信マトリクスにおける光検出受信要素は(基本的には周知であるように)列及び行に配置され、一般性を限定することなく、一部の例示的実施形態では同数の光検出受信要素が各行に設けられる。
【0051】
光検出受信要素を列及び行に配置することは、ここでは基本的に、格子グリッドの配列を意味し、列及び行の間隔は、好ましくは一定である。ここで、一定とは、厳密なものとして解釈されるべきではなく、光検出受信要素の配列における列及び行の間隔の製造関連許容差も含む。列及び行の数は、ここでは基本的に限定されず、例示的実施形態は、通常は、例えば、分解能、処理されるデータ量、精度などについての具体的な要件に応じる。
【0052】
受信マトリクスにおける光検出受信要素を列及び行に配置することは、結果として、より少ないスペースしか要さず、よりコスト効率が高くなるので、有利である。さらに、そのような例示的実施形態では、受信マトリクスの製造は、より安価となる。
【0053】
またさらに、同数の光検出受信要素を1行に配置することは、そのような例示的実施形態では、視野の各領域が同じ空間分解能を有し、より安価に製造可能ともなるので、有利である。
【0054】
一部の例示的実施形態では、装置は複数の評価部を備え、それぞれの評価部は所定列における光検出受信要素に接続され、又はそれぞれの評価部は所定行における光検出受信要素に接続される。
【0055】
評価部は、ここでは、電子回路であればよく又はそれを含み得る。電子回路は、ここに記載する機能を実行するための電子部品、デジタル記憶要素などを含み得る。電子回路はまた、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)、DSP(デジタル信号プロセッサ)などによって実現可能である。
【0056】
評価部は、光検出受信要素の電気信号が評価部に送信されるような態様で光検出受信要素に接続される。一部の例示的実施形態では、評価部は、マルチプレクサを介して光検出受信要素に接続される。評価部は、行若しくは列を全体として読み出すことができ、又は活性化された光検出受信要素のみを読み出すことができる。
【0057】
評価部は、光検出受信要素の電気信号を計時し、所定行又は列の光検出受信要素の各々についての時間相関ヒストグラムデータを生成するために、時間-デジタルコンバータを有していてもよい。他の例示的実施形態では、所定列又は行の時間相関ヒストグラムデータは、評価部に蓄積される。評価部は、その時間相関ヒストグラムデータを出力することができる。
【0058】
一部の例示的実施形態では、この理由のために、評価部の各々は、光検出受信要素の電気信号に基づいて時間相関ヒストグラムデータを生成するように設定される。
【0059】
結果として、一部の例示的実施形態では、活性化された光検出受信要素のみが、時間相関ヒストグラムデータを生成するために考慮される。
【0060】
一部の例示的実施形態では、ヒストグラム累積部の各信号入力部は評価部の1つに対応して接続されるので、時間相関ヒストグラムデータは評価部から対応のヒストグラム累積部に送信される。
【0061】
上記又はここに記載する方法のステップも、光ランタイム測定時に拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータを生成する方法の主題となり得る。
【0062】
一部の例示的実施形態は、光ランタイム測定時の拡散後方散乱を特定するための後方散乱ヒストグラムデータを生成する方法に関し、方法は、
複数の時間相関ヒストグラムデータを受信するステップと、
受信された時間相関ヒストグラムデータに基づいて後方散乱ヒストグラムデータを生成するステップと、
を備える。
【0063】
例えば、方法は、ここに記載される装置によって、又はコンピュータ、プロセッサ、電子回路などによって実行可能である。
【0064】
本発明の例示的実施形態を、添付図面を参照してここに例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1】装置の例示的実施形態の図を示す。
図2】2つのヒストグラムにおける2つの評価部によって受信された時間相関ヒストグラムデータ(左上及び左下)及びヒストグラムにおけるヒストグラム累積部においてそこから生成された後方散乱ヒストグラムデータ(右)を示す。
図3】方法の例示的実施形態のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0066】
図1は、装置1の例示的実施形態の図を示す。
【0067】
装置1は受信マトリクス2を有し、それは、その上に配置された、行(Z0~Z127)及び列(S0~S255)上の複数の光検出受信要素(EN×M、この例示的実施形態ではE0,0~E127,255)を有する。M=256個の光検出受信要素(E0,0~E127,255)が、N=128行(Z0~Z127)の各々に配置される(M=256列(S0~S255)に対応する)。この例示的実施形態では、光検出受信要素(E0,0~E127,255)はSPADである。
【0068】
装置1は複数の評価部(A0~A127)をさらに有し、それぞれの評価部(A0~A127)はマルチプレクサ(不図示)によって所定行(Z0~Z127)の光検出受信要素(E0,0~E127,255)に接続される。各行(Z0~Z127)において、2つの光検出受信要素(E0,0及びE0,1~E127,0及びE127,1)のみが、列S0及びS1において任意の所定時刻に活性化される(光検出受信要素(E0,0及びE0,1~E127,0及びE127,1)内で第2の円によって示される)。光が検出されると、活性化された光検出受信要素(E0,0及びE0,1~E127,0及びE127,1)は電気信号を生成し、その電気信号から時間相関ヒストグラムデータが、評価部(A0~A127)の各々において時間-デジタルコンバータ(不図示)の補助によって生成される。この例示的実施形態では、2つの活性化された光検出受信要素(E0,0及びE0,1~E127,0及びE127,1)が、時間相関ヒストグラムデータを生成及び出力するために、評価部(A0~A127)に付加される。他の例示的実施形態では、M=256個の光検出受信要素(E0,0~E127,255)のうちの任意の所望数が、各行、例えば、E0,0~E0,10、E1,0~E1,10、E2,0~E2,10、・・・、E127,0~E127,10において活性化され得る。
【0069】
装置1は、複数のヒストグラム累積部(HA0~HAX)をさらに有する。各ヒストグラム累積部(HA0~HAX)はP=16個の信号入力部(明記せず)を有し、各信号入力部はそれぞれの評価部(A0~A127)に接続される。この例示的実施形態では、結果としてX=N/P=8個のヒストグラム累積部がN=128行(Z0~Z127)において必要となり、したがって、それらがP=16個の評価部(A0~A127)の時間相関ヒストグラムデータを累積する。評価部(A0~A127)によって出力された時間相関ヒストグラムデータはヒストグラム累積部(HA0~HA6X)に送信されることにより、それらが信号入力部で受信される。受信時間相関ヒストグラムデータに基づいて、ヒストグラム累積部(HA0~HAX)は、後方散乱ヒストグラムデータを生成する。この例示的実施形態では、各信号入力部で受信された時間相関ヒストグラムデータは、後方散乱ヒストグラムデータを生成するために相互に加算される。
【0070】
図2は、16個のヒストグラムのうちの2個に対する2つの評価部(A0~A1)によって受信された時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)(左上及び左下)を例示的に示すとともに、そこからヒストグラム累積部(HA0)において生成された後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)(右)をヒストグラムに示す。
【0071】
この例示的実施形態における装置1は、図1の装置1と同様に構成される。
【0072】
図2は、16個の評価部(A0~A15)によって生成される時間相関ヒストグラム(ZHD0~ZHDP)がどのように累積されるのかを示す。
【0073】
横軸は時間軸であり、それは複数の同一の時間間隔(「ビン」)に分割され、イベントは、光が検出された時間(「イベント」)に応じて時間間隔の1つに割り当てられる。時間間隔内に検出されたイベント数は、縦軸のバーの高さによって示される。時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)の各時間間隔におけるイベント数は、後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)を生成するために相互に加算される。
【0074】
第1の評価部(A0)からの時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0)の第5の時間間隔における高いバーは、ここでは、視野の小さな領域にのみ記録される小さな物体に対応する。一方、拡散後方散乱の寄与は、短距離にある物体の前の視野全体に存在するので、2つの例示的時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)にも存在する。16個の時間相関ヒストグラムデータ(ZHD0~ZHDP)を相互に加算することで、物体及び周囲光による寄与と比較して後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)におけるSNRが増加する。これにより、後方散乱ヒストグラムデータ(RHD0)は、光ランタイム測定時の拡散後方散乱を特定するのに、より適したものとなる。
【0075】
図3は、方法20の例示的実施形態についてのフローチャートを示す。
【0076】
複数の時間相関ヒストグラムデータが、ここに記載するように、21において受信される。
【0077】
後方散乱ヒストグラムデータが、ここに記載するように、受信された時間相関ヒストグラムデータに基づいて、22において生成される。
【符号の説明】
【0078】
1 装置
2 受信マトリクス
20 方法
21 複数の時間相関ヒストグラムデータを受信する
22 受信された時間相関ヒストグラムデータに基づいて後方散乱ヒストグラムデータを生成する
A0~A127 評価部
EN×M、E0,0~E127,255 光検出受信要素
HA0~HAX ヒストグラム累積部
RHD0 後方散乱ヒストグラムデータ
S0~S255 列
Z0~Z127 行
ZHD0~ZHDP 時間相関ヒストグラムデータ
図1
図2
図3