(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/511 20060101AFI20240807BHJP
A61F 13/15 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
A61F13/511 300
A61F13/15 142
(21)【出願番号】P 2019177452
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-06-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】小山 英俊
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-104846(JP,A)
【文献】特開2008-142464(JP,A)
【文献】特許第6506484(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌当接面を形成する透液性の表面シートを備え、前記表面シートを構成する繊維中に抗菌剤が練り込まれるとともに、前記繊維の表面が繊維処理剤によって覆われており、
前記表面シートは、肌側に配置された肌側シートと非肌側に配置された非肌側シートとから構成され、
前記肌側シートが該肌側シートを構成する繊維中に抗菌剤が練り込まれるとともに、この繊維の表面が
繊維処理剤によって覆われ、前記繊維処理剤には排尿前に抗菌剤の抗菌効果が機能しないよう抗菌剤は配合されておらず、
前記非肌側シートが該非肌側シートを構成する繊維中に抗菌剤が練り込まれるとともに、この繊維の表面が抗菌剤を含有した繊維処理剤によって覆われ、
前記非肌側シートの繊維の表面を覆う繊維処理剤に含有された抗菌剤として、体液に対する溶解性の高い有機系の抗菌剤が用いられ、前記非肌側シートの繊維に練り込まれた抗菌剤として、無機系の抗菌剤が用いられ、
体液との接触によって、
前記肌側シートでは、前記繊維処理剤が前記繊維の表面から脱落し、前記繊維に練り込まれた前記抗菌剤が繊維表面に露出
し、前記非肌側シートでは、前記非肌側シートの繊維の表面を覆う繊維処理剤に含有された
前記有機系の抗菌剤が、繊維処理剤とともに繊維から脱離して体液に混合されて流れ落ちるようになっていることを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
前記繊維処理剤が親水化剤である請求項1記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主には尿とりパッド、失禁パッド、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、おりものシート等の吸収性物品に係り、特に体液排出前はプロバイオティクスによる皮膚バリア機能を向上し、体液排出後に初めて抗菌剤による抗菌効果が発現されるようにした吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、尿や経血等の体液の排出によって皮脂膜が除去され皮膚表面のpHがアルカリ化する結果、悪玉菌である黄色ブドウ球菌が繁殖し、善玉菌である表皮ブドウ球菌が相対的に減少することにより、肌トラブルを引き起こしたり悪臭を発生させたりすることが知られている。
【0003】
皮膚表面のpHがアルカリ化するのを防止する技術としては、下記特許文献1に、天然油脂由来のオレイン酸と、天然油脂のポリオキシアルキレン付加物と、その脂肪酸エステルとを含有する弱酸性を示す繊維処理剤が付着した繊維を吸収性物品の表面材として用いることにより、表面材のpHを弱酸性化することが開示されている。
【0004】
しかしながら、下記特許文献1では、繊維に抗菌加工がなされていないため、細菌の増殖を抑制することができず、排尿に含まれる細菌の尿素分解によってアンモニアの発生が続くので、pHが上がり続け、皮膚表面を弱酸性に維持できない。その結果、皮膚表面が悪玉菌である黄色ブドウ球菌や病原菌が繁殖しやすい環境に陥り、善玉菌である皮膚常在菌の活性を失い、肌トラブルなどを引き起こすおそれがあった。
【0005】
一方で、吸収性物品の表面材に抗菌剤を備えることによって、尿や経血等の体液中に含まれる細菌の繁殖を抑制して、肌トラブルの低減や悪臭を抑制する技術も知られている。例えば、下記特許文献2では、抗菌性組成物と、前記抗菌性組成物が付着したシート状基材とを含む抗菌性シートであって、前記抗菌性組成物が、常温において固体であり体液に溶解する熱可塑性水溶性ポリマーと、抗菌剤とを含むものである抗菌性シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-35458号公報
【文献】特開2008-142464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2では、抗菌性組成物付着面を吸収性物品の表面材に使用した場合、表面材の繊維表面に付着した抗菌剤が常に肌面に接触しているため、皮膚表面に生育している善玉菌である表皮ブドウ球菌などの皮膚常在菌も死滅してしまい、皮膚バリア機能が低下するおそれがあった。
【0008】
このように、体液排出前は、抗菌剤が肌に接触すると、善玉菌である皮膚常在菌が減り、プロバイオティクス(人体に良い影響を与える微生物)による皮膚バリア機能の改善が図れず、皮膚トラブルのリスクが増加するため、抗菌剤の抗菌効果が機能しない方が良い一方で、体液排出後は、皮膚に対して悪影響を及ぼす悪玉菌である黄色ブドウ球菌が繁殖しやすい環境になるため、この悪玉菌を死滅させる抗菌剤の抗菌効果が発揮できるようにすることが必要である。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、体液排出前は善玉菌である皮膚常在菌の活性を極力失うことなく、体液排出後に悪玉菌が増加する環境になったときに初めて抗菌剤の抗菌効果が発揮できるようにした吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために第1の態様として、肌当接面を形成する透液性の表面シートを備え、前記表面シートを構成する繊維中に抗菌剤が練り込まれるとともに、前記繊維の表面が繊維処理剤によって覆われており、
前記表面シートは、肌側に配置された肌側シートと非肌側に配置された非肌側シートとから構成され、
前記肌側シートが該肌側シートを構成する繊維中に抗菌剤が練り込まれるとともに、この繊維の表面が繊維処理剤によって覆われ、前記繊維処理剤には排尿前に抗菌剤の抗菌効果が機能しないよう抗菌剤は配合されておらず、
前記非肌側シートが該非肌側シートを構成する繊維中に抗菌剤が練り込まれるとともに、この繊維の表面が抗菌剤を含有した繊維処理剤によって覆われ、
前記非肌側シートの繊維の表面を覆う繊維処理剤に含有された抗菌剤として、体液に対する溶解性の高い有機系の抗菌剤が用いられ、前記非肌側シートの繊維に練り込まれた抗菌剤として、無機系の抗菌剤が用いられ、
体液との接触によって、前記肌側シートでは、前記繊維処理剤が前記繊維の表面から脱落し、前記繊維に練り込まれた前記抗菌剤が繊維表面に露出し、前記非肌側シートでは、前記非肌側シートの繊維の表面を覆う繊維処理剤に含有された前記有機系の抗菌剤が、繊維処理剤とともに繊維から脱離して体液に混合されて流れ落ちるようになっていることを特徴とする吸収性物品が提供される。
【0011】
上記第1の態様では、前記表面シートを構成する肌側シートでは、繊維中に抗菌剤が練り込まれるとともに、この繊維の表面が繊維処理剤によって覆われているため、体液排出前は、繊維の表面を覆う繊維処理剤によって繊維中に練り込まれた抗菌剤が直接肌に触れないようになっている一方で、体液排出後においては、体液との接触により繊維処理剤が繊維表面から溶出して脱落し、繊維中に練り込まれた抗菌剤が繊維の表面に露出するため、前記抗菌剤の抗菌効果が発揮できるようになっている。このように、本吸収性物品では、体液排出後に悪玉菌が増加する環境になったときに初めて、繊維中に練り込まれた抗菌剤が露出してその抗菌効果が発揮できるようになる一方で、体液排出前においては、抗菌剤が練り込まれた繊維の表面が繊維処理剤によって覆われているため、抗菌剤によって皮膚表面における善玉菌である皮膚常在菌の活性が失われるのが極力抑えられ、プロバイオティクスによる皮膚バリア機能の改善を図ることができ、皮膚トラブルのリスクが低減できるようになる。
【0012】
第2の態様として、前記繊維処理剤が親水化剤である吸収性物品が提供される。
【0013】
上記第2の態様では、前記繊維処理剤として親水化剤を用いることによって、前記繊維処理剤が体液との接触によって、体液に速やかに溶解して、繊維表面から脱落しやすくなり、体液排出後に繊維中に練り込まれた抗菌剤が露出しやすくなる。
【発明の効果】
【0014】
以上詳説のとおり本発明によれば、体液排出前は善玉菌である皮膚常在菌の活性を極力失うことなく、体液排出後に悪玉菌が増加する環境になったときに初めて抗菌剤の抗菌効果が発揮できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る尿とりパッド1の一部破断展開図である。
【
図4】(A)は体液排出前、(B)は体液排出後の繊維10の断面図である。
【
図5】肌側シート3Aと非肌側シート3Bの構成を示す断面図である。
【
図6】従来の形態を示す、(A)は体液排出前、(B)は体液排出後の繊維の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0017】
〔尿とりパッドの基本構造の一例〕
本発明に係る尿とりパッド1は、
図1~
図3に示されるように、ポリエチレンシートなどからなる防漏シート2と、着用者の肌との当接面をなし、尿などを速やかに透過させる表面シート3と、これら両シート2、3間に介装された吸収体4と、尿とりパッド1の最外面(非肌当接面)を覆う外装シート5と、前記吸収体4の略側縁部を起立基端とし、かつ少なくとも着用者の排尿口部を含む前後方向の所定の区間内において肌側に突出する左右一対の立体ギャザーBS、BSを形成するサイド不織布6、6とから主に構成され、かつ吸収体4の周囲においては、その上下端縁部では防漏シート2、表面シート3及び外装シート5の外縁部がホットメルトなどの接着剤やヒートシール、超音波シール等の接合手段によって接合され、またその両側縁部では吸収体4よりも側方に延出している防漏シート2、表面シート3、外装シート5及びサイド不織布6がホットメルトなどの接着剤やヒートシール、超音波シール等の接合手段によって接合されている。
【0018】
以下、さらに前記尿とりパッド1の構造について詳述すると、
前記防漏シート2は、ポリエチレン等の少なくとも遮水性を有するシート材が用いられるが、近年ではムレ防止の観点から透湿性を有するものが用いられる傾向にある。この遮水・透湿性シート材としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂中に無機充填剤を溶融混練してシートを成形した後、一軸または二軸方向に延伸することにより得られる微多孔性シートが好適に用いられる。前記防漏シート2としては、プラスチックフィルムと不織布とを積層させたポリラミ不織布を用いてもよい。
【0019】
前記防漏シート2と表面シート3との間に介在される吸収体4は、たとえば綿状パルプと高吸水性ポリマーとにより構成されている。前記高吸水性ポリマーは吸収体4を構成するパルプ中に、例えば粒状粉として混入されている。前記パルプとしては、木材から得られる化学パルプ、溶解パルプ等のセルロース繊維や、レーヨン、アセテート等の人工セルロース繊維からなるものが挙げられ、広葉樹パルプよりは繊維長の長い針葉樹パルプの方が機能および価格の面で好適に使用される。
【0020】
また、前記吸収体4には合成繊維を混合しても良い。前記合成繊維は、例えばポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系、ナイロンなどのポリアミド系、及びこれらの共重合体などを使用することができるし、これら2種を混合したものであってもよい。また、融点の高い繊維を芯とし融点の低い繊維を鞘とした芯鞘型繊維やサイド-バイ-サイド型繊維、分割型繊維などの複合繊維も用いることができる。前記合成繊維は、体液に対する親和性を有するように、疎水性繊維の場合には親水化剤によって表面処理したものを用いるのが望ましい。
【0021】
前記高吸水性ポリマーは、「粒子」以外に「粉体」も含む。高吸水性ポリマーは、この種の吸収性物品に使用される粒径のものをそのまま使用でき、平均粒径が1000μm以下、好ましくは未吸水時の粒径が106μm以上のものが全体の99重量%以上、特に150~850μmのものが全体の99重量%以上であるのが望ましい。未吸水時の平均粒径は250~500μm程度であるのが好ましい。また、高吸水性ポリマーは吸水後の平均粒径が未吸水時の平均粒径の3倍以上、具体的には500μm以上であることが望ましい。なお、未吸水時の高吸水性ポリマーの平均粒径は、重量基準粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。この場合における重量基準粒度分布は、JISZ8815-1994に準拠して測定される。すなわち、内径150mm、深さ45mmの710μm、500μm、300μm、150μm及び106μmの目開きのふるいを、目開きの狭いふるいを下にして重ね、一番上の最も目開きの広い710μmのふるいの上に、測定試料50gを入れ、ふるい振動機にて10分間ふるい、各ふるいの上に残った測定試料の重量を測定し、最初の測定試料の重量に基づく各ふるいの上に残った測定試料の重量%を求めることによって測定される。
高吸水性ポリマーの目付け量は、当該吸収体4の用途で要求される吸収量に応じて適宜定めることができる。したがって一概にはいえないが、50~350g/m2とすることができる。ポリマーの目付け量が50g/m2未満では、吸収量を確保し難くなる。350g/m2を超えると、効果が飽和するばかりでなく、高吸水性ポリマーの過剰によりジャリジャリした違和感を与えるようになる。
【0022】
前記吸収体4は、パルプおよび高吸水性ポリマーの合計重量に対する高吸水性ポリマーの比率が5~90重量%、特に30~70重量%であるのが好ましい。高吸水性ポリマーの比率が5重量%より小さいと、吸水能力が不足するおそれがある。一方、90重量%より大きいと、高吸水性ポリマーのジャリ感(粒子感)が強く感じられ、使用感が低下する。
【0023】
前記吸収体4は、形状保持および拡散性向上のために、前記吸収体4の少なくとも肌側面及び非肌側面を、クレープ紙又は不織布などからなる被包シート9で覆うのが好ましい。吸収体4を覆う被包シート9を設ける場合には、結果的に表面シート3と吸収体4との間に被包シート9が介在することになり、前記被包シート9がクレープ紙からなる場合には、吸収性に優れる前記被包シート9によって体液を速やかに拡散させるとともに、吸収体4に吸収した体液の逆戻りを防止するようになる。前記被包シート9によって吸収体4を被包するには、
図2及び
図3に示されるように、1枚の被包シート9によって吸収体4の両側縁を巻き込むようにして折り返すようにしてもよいし、吸収体4の肌側面と非肌側面とをそれぞれ別体のシートで覆うようにしてもよい。
【0024】
前記吸収体4の両側部には幅方向内側に膨出する曲線形状からなる脚周りカットライン4a、4aを形成するのが好ましい。前記脚周りカットライン4a、4aを設けることにより、装着時における脚周りへのフィット性が良好となり、体液の漏れが防止できるとともに、ゴワ付き感が軽減して装着感が向上する。前記脚周りカットライン4a、4aの長手方向の位置は任意であるが、
図1に示されるように、長手方向の中央部に設けるのが好ましい。また、曲線の形状も任意であり、図示例では、円弧形状に形成されている。
【0025】
前記外装シート5は、防漏シート2の外面(非肌当接面)を覆って尿とりパッド1の外面を布のような外観、肌触りとするものである。外装シート5としては、不織布で形成するのが好ましい。素材繊維は、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維を用いることができ、加工法は、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、エアスルー法、ニードルパンチ法等を用いて製作することができる。但し、肌触り及び強度を両立できる点でスパンボンド不織布やSMS不織布、SMMS不織布等の長繊維不織布が好ましい。
【0026】
前記外装シート5を形成する不織布は一枚で使用する他、複数枚を重ねて使用することもでき、複数枚を重ねて使用する場合は、不織布相互をホットメルト等の接着剤を介して固定するのが好ましい。また、不織布を用いる場合は、その繊維目付けは10~50g/m2、特に15~30g/m2が好ましい。
【0027】
前記外装シート5の非使用面側(外面)に、1または複数条の仮止め層(図示せず)を形成することにより、身体への装着時に尿とりパッド1を下着や紙おむつ等に固定するようにしてもよい。前記仮止め層としては、機械接合式のフック材を用いてもよいし、粘着剤を用いてもよい。前記仮止め層は必要に応じて設けられ、特段設けなくてもよい。
【0028】
図示例では、外装シート5は吸収体4の幅よりも若干幅が広い程度とされ、両側部が防漏シート2及び表面シート3の側縁を巻き込むようにして表面シート3の肌側にまで延在され、表面シート3の幅方向外側は、この肌側に延在する外装シート5の外面側に表面シート3の両側部表面から延在するサイド不織布6、具体的には尿等が浸透するのを防止する、あるいは肌触り感を高めるなどの目的に応じて、適宜の撥水処理または親水処理が施された不織布素材を用いて構成されたサイド不織布6が配設されている。かかるサイド不織布6としては、天然繊維、合成繊維または再生繊維などを素材として、適宜の加工法によって形成されたものを使用することができるが、好ましくはゴワ付き感を無くすとともに、ムレを防止するために、坪量を抑えて通気性を持たせた不織布を用いるのがよい。具体的には、坪量を8~23g/m2として作製された不織布を用いるのが望ましく、かつ体液の透過を確実に防止するためにシリコン系、パラフィン系、アルキルクロミッククロリド系撥水剤などをコーティングした撥水処理不織布が好適に使用される。
【0029】
前記サイド不織布6の内方側部分はほぼ二重に折り返されるとともに、この二重シート内部に、その高さ方向中間部に1又は複数本の、図示例では3本の糸状弾性伸縮部材7、7…が両端または長手方向の適宜の位置が固定された状態で配設されている。この二重シート部分は前後端部では
図3に示されるように、外側に1回折り返して積層された状態で吸収体4側に接着されることによって、少なくとも着用者の排尿口部を含む前後方向の所定の区間内において
図2に示されるように、肌側に起立する立体ギャザーBS、BSが左右対で形成されている。
【0030】
〔表面シート〕
前記表面シート3は、有孔または無孔の不織布が好適に用いられる。不織布を構成する素材繊維としては、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアクリル酸系等の合成繊維が好ましく、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法等の適宜の加工法によって得られた不織布を用いることができる。これらの加工法の内、スパンレース法は柔軟性、ドレープ性に富む点で優れ、サーマルボンド法は嵩高で圧縮復元性が高い点で優れている。前記表面シート3に多数の透孔を形成した場合には、体液が速やかに吸収されるようになり、ドライタッチ性に優れたものとなる。不織布の繊維は、長繊維または短繊維のいずれでもよいが、好ましくはタオル地の風合いを出すため短繊維を使用するのがよい。また、エンボス処理を容易とするために、比較的低融点のポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系繊維のものを用いるのがよい。また、融点の高い繊維を芯とし融点の低い繊維を鞘とした芯鞘型繊維やサイド-バイ-サイド型繊維、分割型繊維の複合繊維を好適に用いることもできる。
【0031】
本発明に係る尿とりパッド1では、
図4(A)に示されるように、前記表面シート3を構成する繊維10中に抗菌剤11が練り込まれるとともに、前記繊維10の表面が繊維処理剤12によって覆われており、
図4(B)に示されるように、体液との接触によって、前記繊維処理剤12が前記繊維10の表面から脱落し、前記抗菌剤11が繊維10の表面に露出するようになっている。
【0032】
具体的には、体液排出前は、
図4(A)に示されるように、前記抗菌剤11が練り込まれた繊維10の表面が繊維処理剤12によって覆われているため、前記繊維処理剤12によって繊維10中に練り込まれた抗菌剤11が直接肌に触れないようになっている。これに対して、体液排出後は、表面シート3を体液が通過する際、体液との接触によって、表面シート3を構成する繊維10の表面に付着した繊維処理剤12が繊維10の表面から脱落して抗菌剤11が繊維10の表面に露出するようになっている。前記抗菌剤11は、繊維10の内部に練り込まれることにより担持されているため、繊維10中に担持されたまま残留し、着用者の肌に接触して抗菌効果を発揮する。このように、本尿とりパッド1では、抗菌剤11が練り込まれた繊維10の表面を覆う繊維処理剤12が体液との接触によって繊維10の表面から脱落するため、体液排出後に悪玉菌が増加する環境になったときに初めて、繊維10中に練り込まれた抗菌剤11が露出してその抗菌効果が発揮できるようになる一方で、体液排出前においては、抗菌剤11が練り込まれた繊維10の表面が繊維処理剤12によって覆われているため、抗菌剤11によって皮膚表面における善玉菌である皮膚常在菌の活性が失われるのが極力抑えられ、プロバイオティクスによる皮膚バリア機能の改善を図ることができ、皮膚トラブルのリスクが低減できるようになる。
【0033】
これに対して、従来の抗菌剤を備えた吸収性物品では、
図6に示されるように、表面に繊維処理剤が付着した繊維の表面に、前記繊維処理剤に抗菌剤が上塗りされるようにしてコーティングされるため、体液排出前は、抗菌剤が直接肌に接触するため、善玉菌である皮膚常在菌が死滅してしまい、皮膚バリア機能が低下するとともに、体液排出後は、体液によって抗菌剤及び繊維処理剤が流れ落ち、表面シートに抗菌剤が残存せず、表面シートに吸収された体液や着用者の肌面に付着した体液などから悪臭が発生するおそれがあった。
【0034】
また、従来の抗菌剤を備えた吸収性物品では、前述の通り、表面に繊維処理剤が付着した繊維の表面に、前記繊維処理剤に抗菌剤が上塗りされるようにしてコーティングされるため、上塗りされた抗菌剤が繊維処理剤の効果を阻害し、吸収性能を悪化させるおそれがあった。これに対して、本発明に係る尿とりパッド1では、抗菌剤11が繊維10中に練り込まれているため、繊維処理剤12の効果を阻害することがなく、吸収性能が悪化することがない。
【0035】
一般的に、繊維に無機系抗菌剤を練り込み加工すると、繊維表面に抗菌剤が所々に露出するため、前記繊維処理剤12は、繊維10の表面を全て覆っているのがより好ましいが、次の2つの理由から、必ずしも繊維処理剤12が繊維表面の全てを覆っていなくても構わない。
(1)繊維表面に露出している抗菌剤11が繊維処理剤12によって覆われていれば、この繊維処理剤12によって覆われた抗菌剤は肌面と直接接触しないため、抗菌剤の効力を発揮しない。
(2)繊維表面に露出している抗菌剤11の少なくとも一部が繊維処理剤12によって覆われていれば、抗菌剤11が全て露出している場合と比較して、抗菌剤の効力をある程度制限できる。
【0036】
排尿後に露出した抗菌剤11の抗菌効果としては、JIS L 1902(菌液吸収法)に規定される抗菌活性値が2.0以上となるようにするのが望ましい。
【0037】
前記抗菌剤11は、公知の製法に従い、繊維10の紡糸時に練り込み加工することにより、繊維10中に含有されている。具体的には、不織布を製造するための原料樹脂に前記抗菌剤11を予め混練しておき、この原料樹脂を用いて紡糸した後、不織布を製造する。前記繊維10の素材としては、合成繊維、半合成繊維、天然繊維のいずれでもよいが、紡糸時に練り込み加工が可能で、かつ親水性に富んだアセテート繊維やレーヨン繊維が好ましい。前記繊維10に練り込まれている抗菌剤11は、その量が繊維10の重量に対して0.1~20重量%であることが、抗菌耐久性及びコストの点から好ましい。
【0038】
前記抗菌剤11としては、金、銀、銅、白金、鉄、亜鉛などの無機系抗菌剤、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウムなどの有機系抗菌剤などを用いることができるが、有機系抗菌剤と比較して水溶性が低い前記無機系抗菌剤を用いるのが好ましい。水に対して難溶性の無機系抗菌剤を使用することにより、繊維処理剤12が脱落した繊維10から抗菌剤11が体液に溶出せずに確実に繊維10中に残留するようになる。
【0039】
前記繊維処理剤12を繊維10の表面に付着させるには、種々の方法によって製造された不織布の構成繊維の表面に、常法に従いコーティングすることによって行う。コーティングの方法としては、公知の方法が制限なく採用でき、例えば、カーテンスプレー方式、スロットコート方式、スパイラルスプレー方式、ビート方式、グラビアコート方式、ダイコータ方式などが挙げられる。
【0040】
前記繊維処理剤12としては、体液に対する親水性を高める親水化剤や肌との感触性を良好にする柔軟剤など、繊維の性状を改善する目的で使用される公知の処理剤を制限なく用いることができるが、特に本発明に係る尿とりパッド1では、繊維処理剤12が体液に溶解しやすくなるように親水化剤を用いるのが好ましい。
【0041】
前記親水化剤としては、人体への安全性、製造工程での安全性等を考慮して、高級アルコール、高級脂肪酸、アルキルフェノール等のエチレンオキサイドを付加した非イオン系活性剤、アルキルリン酸エステル塩(オクチル、ドデシル系)、アルキル硫酸塩等のアニオン系活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン性界面活性剤を主体としたもの等の単独あるいは混合物等が好ましく用いられ、付与量は、要求される性能によって異なるが、通常は対象シートの乾燥重量に対して0.1~2.0重量%程度、特に0.2~1.0重量%程度とするのが望ましい。
【0042】
また、前記親水化剤は、水との接触で親水化度が低下しやすいように親水化されているもの(レギュラー親水性を有するもの)を用いるのが望ましい。従って、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエーテル-ポリエステルブロック共重合体、ポリエーテル変性シリコーン、エチレンオキサイド付加多価アルコールの脂肪酸エステル等の水と接触しても繊維表面から容易に離脱しない物質を用いるのは好ましくない。前記親水化剤としてレギュラー親水性を有するものを用いることにより、体液との接触で、親水化剤がより繊維から離脱しやすくなるとともに、離脱した後の繊維が疎水性となることで、ウェットバック(逆戻り)しにくくなり、吸収体に吸収された悪玉菌を含む体液が表面に逆戻りするのを防ぐ効果がある。
【0043】
次に、前記表面シート3の変形例について説明する。前記表面シート3としては、
図5に示されるように、肌側に配置された肌側シート3Aと非肌側に配置された非肌側シート3Bとから構成し、前記肌側シート3Aが繊維10中に抗菌剤11が練り込まれるとともに、この繊維10の表面が繊維処理剤12によって覆われ、前記非肌側シート3Bが繊維14中に抗菌剤15が練り込まれるとともに、この繊維14の表面が抗菌剤17を含有した繊維処理剤16によって覆われるように構成してもよい。前記肌側シート3Aの繊維10中に練り込まれた抗菌剤11及び前記非肌側シート3Bの繊維14中に練り込まれた抗菌剤15としては、体液との接触によって流れ落ちにくい前述の無機系の抗菌剤を使用するのが好ましい。
【0044】
なお、前記肌側シート3Aの繊維10の表面を覆う繊維処理剤12は、装着時に直接肌に接触するため、排尿前における抗菌剤の抗菌効果が機能しないようにするため、前記繊維処理剤12には抗菌剤を配合しないのが望ましい。一方、前記非肌側シート3Bの繊維14の表面を覆う繊維処理剤16は、装着時に直接肌に接触しないので、抗菌剤17を含有するのが好ましい。これにより、表面シート3全体として抗菌剤の含有量を増加させることができ、大量の尿が排泄されて悪玉菌が増殖しやすい環境になった場合にも充分対応できるようになる。
【0045】
前記非肌側シート3Bの繊維14の表面を覆う繊維処理剤16に含有する抗菌剤17としては、体液に対する溶解性の高い有機系の抗菌剤を用いるのが望ましい。この繊維処理剤16に含有された抗菌剤17は、体液との接触により、繊維処理剤16とともに繊維14から脱離して体液に混合されて流れ落ちるため、前記抗菌剤17が有機系であれば、体液に溶解しやすく、体液とともに吸収体4内に拡散しやすくなるので、吸収体4に吸収された体液全体に抗菌効果を行き渡らせることができるようになる。一方、非肌側シート3Bの繊維14に練り込まれた抗菌剤15は無機系とすることにより、体液との接触によっても繊維14から溶出しないようにし、表面シート3全体の抗菌効果を低下させないようにすることが好ましい。
【0046】
前記肌側シート3Aと非肌側シート3Bとは、異なる構成の原料を層状にカーディング・融着させた一枚物の不織布として表面シート3を構成してもよいし、それぞれの原料で別々に不織布を作製し、これら不織布を積層して必要に応じて接着させた積層シート材(肌側シート3Aが表面シート3を構成し、非肌側シート3Bが表面シート3の非肌側面に隣接して配置したセカンドシートを構成する2層の積層シート材)としてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…尿とりパッド、2…防漏シート、3…表面シート、4…吸収体、5…外装シート、6…サイド不織布、7…糸状弾性伸縮部材、9…被包シート、10…繊維、11…抗菌剤、12…繊維処理剤、14…繊維、15…抗菌剤、16…繊維処理剤、17…抗菌剤