(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20240807BHJP
H04B 17/318 20150101ALI20240807BHJP
H04B 17/391 20150101ALI20240807BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20240807BHJP
H04W 16/22 20090101ALI20240807BHJP
【FI】
H04B7/06 950
H04B17/318
H04B17/391
H04W16/28
H04W16/22
(21)【出願番号】P 2020049539
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2023-02-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和1年度、総務省、令和1年度における異システム間の周波数共用技術の高度化に関する研究開発の委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志水 紀之
(72)【発明者】
【氏名】金本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】守内 祐三
(72)【発明者】
【氏名】安永 毅
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 嶺
【審査官】鉢呂 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-140585(JP,A)
【文献】特開2015-053584(JP,A)
【文献】特開2018-148297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/06
H04B 17/318
H04B 17/391
H04W 16/28
H04W 16/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局の送信アンテナによって形成可能な複数の方向へのビームの少なくとも一部の方向のビームに関する送信指向性情報を含む基地局情報と、前記基地局を設置する空間の電波伝搬に関する周辺情報とを取得する取得部と、
第1の基地局情報及び第1の周辺情報と、前記空間において前記送信アンテナが放射する電波の強度分布との対応関係を表すモデルを用いて、第2の基地局情報及び第2の周辺情報に対応した前記送信アンテナが放射する電波の強度分布を
、前記送信指向性情報が示す送信指向毎に推定する処理部と、
を備えた、情報処理装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記第1の基地局情報及び前記第1の周辺情報と、前記第1の基地局情報及び前記第1の周辺情報とに対応する強度分布とに基づく機械学習の結果から、前記モデルを作成する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記送信指向性情報は、1以上の前記ビームのそれぞれの識別番号を含むセットを示す、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記送信指向性情報は、前記ビームの方向を示す角度である、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記基地局情報は、前記少なくとも一部の方向のビームのそれぞれの送信電力に関する情報を含む、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記周辺情報は、前記空間における電波伝搬の障害物が取り得る2以上の状態に対応する情報から選択される、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記周辺情報は、前記2以上の状態のうち、電波の透過に対応する状態では最小の減衰量が選択され、電波の反射に対応する状態では最大の減衰量が選択される、
請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記周辺情報は、前記空間内を移動する物体の位置、及び/又は、移動範囲に関する情報を含む、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記取得部は、前記空間に存在し得る端末の受信アンテナによって形成可能な複数の方向への受信ビームの少なくとも一部の方向のビームに関する端末情報を取得する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記端末情報は、前記ビームの方向を示す角度である、
請求項9に記載の情報処理装置。
【請求項11】
情報処理装置が、
基地局の送信アンテナによって形成可能な複数の方向へのビームの少なくとも一部の方向のビームに関する送信指向性情報を含む基地局情報と、前記基地局を設置する空間の電波伝搬に関する周辺情報とを取得し、
第1の基地局情報及び第1の周辺情報と、前記空間において前記送信アンテナが放射する電波の強度分布との対応関係を表すモデルを用いて、第2の基地局情報及び第2の周辺情報に対応した前記送信アンテナが放射する電波の強度分布を
、前記送信指向性情報が示す送信指向毎に推定する、
情報処理方法。
【請求項12】
情報処理装置に、
基地局の送信アンテナによって形成可能な複数の方向へのビームの少なくとも一部の方向のビームに関する送信指向性情報を含む基地局情報と、前記基地局を設置する空間の電波伝搬に関する周辺情報とを取得し、
第1の基地局情報及び第1の周辺情報と、前記空間において前記送信アンテナが放射する電波の強度分布との対応関係を表すモデルを用いて、第2の基地局情報及び第2の周辺情報に対応した前記送信アンテナが放射する電波の強度分布を
、前記送信指向性情報が示す送信指向毎に推定する、
処理を実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理装置、情報処理方法、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
或る特定のエリアに基地局を配置することによって、当該エリアに無線システムを構築する場合、その特定のエリアにおける通信品質が所望の品質を満たすように基地局の配置が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、ミリ波帯などの指向性制御を行う無線通信において、指向性を考慮した無線通信システムの構築には、検討の余地がある。
【0005】
本開示の非限定的な実施例は、指向性制御を行う無線通信において、指向性を考慮した適切な無線通信システムを構築できる、情報処理装置、情報処理方法、及び、プログラムの提供に資する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施例に係る情報処理装置は、基地局の送信アンテナによって形成可能な複数の方向へのビームの少なくとも一部の方向のビームに関する送信指向性情報を含む基地局情報と、前記基地局を設置する空間の電波伝搬に関する周辺情報とを取得する取得部と、第1の基地局情報及び第1の周辺情報と、前記空間において前記送信アンテナが放射する電波の強度分布との対応関係を表すモデルを用いて、第2の基地局情報及び第2の周辺情報に対応した前記送信アンテナが放射する電波の強度分布を推定する処理部と、を備える。
【0007】
本開示の一実施例に係る情報処理方法は、情報処理装置が、基地局の送信アンテナによって形成可能な複数の方向へのビームの少なくとも一部の方向のビームに関する送信指向性情報を含む基地局情報と、前記基地局を設置する空間の電波伝搬に関する周辺情報とを取得し、第1の基地局情報及び第1の周辺情報と、前記空間において前記送信アンテナが放射する電波の強度分布との対応関係を表すモデルを用いて、第2の基地局情報及び第2の周辺情報に対応した前記送信アンテナが放射する電波の強度分布を推定する。
【0008】
本開示の一実施例に係るプログラムは、情報処理装置に、基地局の送信アンテナによって形成可能な複数の方向へのビームの少なくとも一部の方向のビームに関する送信指向性情報を含む基地局情報と、前記基地局を設置する空間の電波伝搬に関する周辺情報とを取得し、第1の基地局情報及び第1の周辺情報と、前記空間において前記送信アンテナが放射する電波の強度分布との対応関係を表すモデルを用いて、第2の基地局情報及び第2の周辺情報に対応した前記送信アンテナが放射する電波の強度分布を推定する、処理を実行させる。
【0009】
なお、これらの包括的又は具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、又は、記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施例によれば、指向性を考慮した適切な無線通信システムを構築できる。
【0011】
本開示の一実施例における更なる利点及び効果は、明細書及び図面から明らかにされる。かかる利点及び/又は効果は、いくつかの実施形態並びに明細書及び図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つ又はそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施の形態に係る情報処理装置の一例を示す図
【
図2】一実施の形態における学習処理及び/又は推定処理において用いられる情報の一例を示す図
【
図4】推定処理によって得られる情報の一例を示すテーブル
【
図9】基地局の送信ビームと端末の受信ビームとの関係の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<本開示に至った知見>
ローカル5G向けの周波数が開放され、多くの企業及び団体が参入を検討している。各企業又は各団体は、ローカル5G導入に関するガイドラインに従い、導入のための免許申請やエリア設計を行う。
【0015】
ガイドラインでは、ローカル5Gシステムの構築にあたり、周辺の他の免許を有する事業者のローカル5G無線局との間で混信が発生しないよう、カバーエリアを必要最小限の範囲とすることを基本としている。
【0016】
或る事業者のローカル5G無線局が、周辺のローカル5G無線局とカバーエリア及び調整対象区域が重なる場合、エリア調整が行われる。
【0017】
カバーエリアを必要最小限とするようなローカル5Gシステムの構築において、基地局の適切な置局設計が望まれる。置局設計は、電波伝搬シミュレーションの結果に基づいて行う手法が想定される。
【0018】
置局設計の電波伝搬シミュレーションは、アンテナの設置位置、アンテナの高さ、アンテナの向き(例えば、チルト角)、アンテナの送信電力等の、電波伝搬にかかわる基地局情報と基地局周辺の構造物の間取及び材料といった周辺情報を入力することでシミュレートできる。
【0019】
置局設計の電波伝搬シミュレーションでは、多くのパラメータに基づく計算を効率よく実行するために、機械学習を用いる方法が検討されている(例えば、特許文献1)。
【0020】
機械学習を用いることによって、例えば、扉の開閉及び/又は人の出入りなど周辺情報が動的に変化する場合であっても、網羅的なシミュレーションを行うことなく、少ない計算時間で効率よく電波伝搬の状態を推定できる。そのため、周辺の新たな建設物及び/又は屋内のレイアウト変更、一時的な公共工事等、周辺の環境変化などが発生するたびに、周波数共用規定に沿った運用であるかの設計の見直しを行う場合でも、効率よくシミュレーションを行うことができる。
【0021】
一方、オフィス及び工場等に設置するローカル基地局は、公衆網と異なり、カバーエリアを面的に展開しなくてよい。例えば、作業ロボットの導線、工場のライン、会議室、遠隔機器周辺等の、カバーエリア内の或る部分エリアでサービスが可能であればよい場合がある。例えば、このような場合、ローカル基地局は、サービスを提供するエリアを部分エリアに限定することによって、基地局の消費電力を低減することが可能となる。
【0022】
例えば、ミリ波帯を使用して、カバーエリア内の或る部分エリアにサービスを提供するローカル基地局では、指向性を制御することが検討される。ローカル基地局が、例えば、或る1以上の特定の方向へ送信ビームを形成することによって、ローカル基地局は、部分エリアを局所的にカバーできる。
【0023】
しかしながら、例えば、特許文献1に記載の機械学習による電波伝搬の状態の推定では、基地局の指向性制御について配慮されていないため、部分エリアを所望の無線品質でカバーし、消費電力を抑える置局設計の手法とはいえない。
【0024】
そこで、本開示の非限定的な実施例では、指向性制御を行う無線通信において、指向性を考慮した適切な無線通信システムの構築について説明する。
【0025】
(一実施の形態)
図1は、本実施の形態に係る情報処理装置10の一例を示す図である。
図1に示す情報処理装置10は、例えば、記憶部101と、取得部102と、事前処理部103と、学習処理部104と、推定処理部105と、事後処理部106と、を有する。事前処理部103と、学習処理部104と、推定処理部105と、事後処理部106との少なくとも一部は、纏めて、処理部と称されてよい。なお、
図1に示す情報処理装置10では、学習処理と、推定処理との2つの処理が行われる。以下、
図1を用いて、各処理について説明する。
【0026】
<学習処理>
情報処理装置10は、学習処理において、例示的に、教師情報を用いて、機械学習を行うことによって、学習済モデルを作成する。なお、「学習済モデル」は、「学習モデル」と称されてもよい。
【0027】
記憶部101には、電波環境を推定するための情報、電波環境の学習済モデル等が記憶される。また、記憶部101には、取得部102によって取得される情報の少なくとも一部が記憶されてよい。
【0028】
取得部102は、例えば、情報処理装置10に情報(データ)を入力するインターフェイスである。取得部102は、例えば、基地局情報及び周辺情報と、基地局情報及び周辺情報に対応する電波環境マップの情報とを取得する。なお、電波環境マップの情報は、例えば、或る空間において伝搬する電波の強度分布を表す。電波の強度分布は、例えば、受信レベル(または、無線品質)の分布であってもよい。電波環境マップの情報は、例えば、外部のシミュレータによって生成されてよいし、情報処理装置10の内部でシミュレートされることによって得られてよい。取得部102は、取得した情報を事前処理部103へ出力する。
【0029】
事前処理部103は、学習処理部104の処理の前処理を行う。例えば、事前処理部103は、取得部102から取得した情報及び/又は記憶部101に記憶された情報を、学習処理部104において用いる情報に変換する。
【0030】
例示的には、事前処理部103は、周辺情報が示す空間の間取りの数値化を行う。例えば、事前処理部103は、空間の間取りをメッシュ状に区切り、各メッシュの位置と当該メッシュを構成する材質の電波伝搬に関する値(例えば、反射率、透過率及び減衰量など)を決定する。また、事前処理部103は、取得部102が取得した基地局の位置に基づいて、周辺情報の座標変換を行う。例えば、事前処理部103は、周辺情報の座標を、絶対座標から、基地局の位置を基準にした相対座標に変換する。
【0031】
学習処理部104は、事前処理部103によって処理が施された情報に基づいて、電波伝搬特性の機械学習を行い、機械学習の結果から学習済モデルを作成する。学習処理部104における機械学習の方法は限定されないが、例えば、ニューラルネットワーク等を用いた方法が適用されてよい。なお、ここでの学習処理では、取得部102から取得された、基地局情報及び周辺情報と、基地局情報及び周辺情報に対応する電波環境マップの情報との対応関係が学習され、対応関係をモデル化した学習済モデルを作成する。学習処理部104は、学習処理によって得られた学習済モデルを記憶部101に記憶させる。なお、学習処理部104によって扱われる、基地局情報及び周辺情報に対応する電波環境マップの情報は、学習処理における教師データ(教師情報)に相当してよい。
【0032】
なお、学習処理では、基地局情報及び周辺情報と、基地局情報及び周辺情報に対応する電波環境マップの情報とのセットが、複数セット分、学習されてよい。また、学習処理は、情報処理装置10のユーザ等によって、繰り返し実行されてよい。
【0033】
<推定処理>
情報処理装置10は、推定処理において、例示的に、学習済モデルを用いて、電波環境マップの推定結果を決定する。
【0034】
記憶部101には、電波環境を推定するための情報、上述した学習処理によって得られた電波環境マップの学習済モデル、等が記憶される。
【0035】
取得部102は、例えば、基地局情報及び周辺情報を取得する。取得部102は、取得した情報を事前処理部103へ出力する。なお、ここで、取得部102が取得する基地局情報及び周辺情報は、上述した学習処理において取得した情報であってもよいし、学習処理において取得していない情報であってもよい。
【0036】
事前処理部103は、推定処理部105の処理の前処理を行う。例えば、事前処理部103は、取得部102から取得した情報及び/又は記憶部101に記憶された情報を推定処理部105において用いる情報に変換する。なお、事前処理部103における情報の変換については、学習処理と同様であるので、説明を省略する。
【0037】
推定処理部105は、記憶部101に記憶された学習済モデルと事前処理部103によって処理が施された情報とに基づいて、電波伝搬特性の推定を行い、推定結果を出力する。出力される推定結果は、例えば、電波環境マップの推定値である。
【0038】
事後処理部106は、推定結果に対する事後処理を行う。例えば、事後処理部106は、推定処理部105の出力である電波環境マップの推定値を用いて、推定値を評価する。事後処理部106は、サービスエリアの周波数利用効率及び/又は隣り合う他周波数共用事業者の電波環境マップと、推定値とを用いて、電波干渉マップを生成し、調整が必要なエリア情報(位置情報)、基地局消費電力を出力してよい。あるいは、事後処理部106は、電波環境マップ推定値から算出される置局設計指標を出力する。
【0039】
なお、上述では、情報処理装置10が学習処理と推定処理とを行う例を示したが、学習処理を行う情報処理装置と、推定処理を行う情報処理装置とが、別の装置であってもよい。この場合、学習処理を行う情報処理装置は、学習処理によって得られたモデルに関する情報を、推定処理を行う情報処理装置に出力してもよい。
【0040】
<学習処理及び推定処理における情報の例>
次に、上述した学習処理及び推定処理において用いられる情報の例を説明する。
【0041】
図2は、本実施の形態における学習処理及び/又は推定処理において用いられる情報の一例を示す図である。
【0042】
図2の各行は、学習処理部104又は推定処理部105に入力される情報のセットを示す。各行には、情報のセットの識別番号(ID(Identification))が付される。
【0043】
入力される情報には、基地局情報と周辺情報とが含まれる。基地局情報には、アンテナの位置情報と、電力情報(アンテナの送信電力及び利得)、アンテナの向き、送信ビームIDが含まれる。
【0044】
アンテナの位置情報は、例えば、緯度、経度、及び、高度によって表される。高度は、例えば、アンテナを設置する空間の床を基準(すなわち、高度0[m])にしてよい。あるいは、高度は、アンテナを設置する空間が或る建物の或る階層の場合、高度は、当該建物の最下層の床面を基準にしてもよい。あるいは、高度は、標高(又は、海抜)によって表されてよい。
【0045】
周辺情報は、例えば、メッシュ状に区切られた空間の或るメッシュの位置に存在する壁等の障害物に関する情報を表す。例えば、周辺情報は、アンテナの位置からの相対座標を表すX座標、Y座標、Z座標と、その座標に存在する障害物の透過減衰量及び反射減衰量とを含む。なお、
図2の周辺情報におけるX座標、Y座標、Z座標は、例えば、アンテナの位置に対する相対座標であってよい。
【0046】
基地局情報には、送信ビームIDのセット(集合)が含まれる。
図2では、送信アンテナが形成可能な送信ビームが64本であり、64本のビームに、#0~#63の送信ビームIDが付される例が示される。なお、以下では、ID#0に対応する送信ビームは、送信ビーム#0と記載される場合がある。ここで、送信ビームIDのセットは、少なくとも1つの送信ビームIDを含む。送信ビームIDのセットは、送信指向性情報の一例に相当する。
【0047】
例えば、学習処理及び/又は推定処理において用いられる情報に、使用する送信ビームIDのセットが含まれることによって、送信ビームIDのセット毎に学習処理、及び、電波環境マップの推定ができる。これにより、送信ビームの数を抑えつつ、適切な送信ビームを用いて、所望の部分エリアをカバーする置局設計を実現できる。
【0048】
例えば、学習処理において用いられる情報の種類と、推定処理において用いられる情報の種類とは、同一であってもよいし、異なってもよい。例えば、学習処理において、
図2に示す情報のそれぞれが入力される一方で、推定処理では、その一部が省略されてもよい。
【0049】
なお、送信指向性情報は、送信ビームIDのセットとは異なる情報であってもよい。例えば、送信指向性情報は、送信ビームの方向を表す方位角、及び、仰角であってよい。
【0050】
また、基地局情報に含まれる電力情報は、送信指向性情報に応じて設定されてよい。例えば、電力情報は、送信指向性情報が示す少なくとも1つの送信ビームIDのそれぞれについて設定される送信電力であってよい。例えば、送信指向性情報が示す送信ビームIDが#0及び#1の場合、送信電力は、#0及び#1のそれぞれについて設定されてよい。
【0051】
図3A及び
図3Bは、
図2に示した周辺情報#Nを示す図である。
図3A及び
図3Bは、高さ方向を規定するZ軸と高さ方向に垂直なX-Y平面を規定するX軸及びY軸が示される。
図3Aは、Z軸の正方向から見た俯瞰図であり、25m四方のエリアがサービスエリアである。なお、
図2におけるX座標、Y座標、及び、Z座標は、
図3A及び
図3Bに示す3次元空間の座標に対応してよい。
【0052】
例えば、
図3Aに示す周辺情報#Nは、アンテナの位置を基準にした座標(X,Y,Z=(24,24,-10)に位置する。なお、周辺情報#Nは、例えば、壁、扉等の固定された障害物に対応してよい。周辺情報の座標は、相対値であるため、アンテナの位置の変更に応じて、周辺情報#Nの座標が変更されてよい。
【0053】
<推定処理における推定結果の例>
次に、推定処理において出力される推定結果の例を説明する。
【0054】
図4は、推定処理によって得られる情報の一例を示すテーブルである。
図4には、IDと、緯度、経度及び高度と、受信レベル及び無線品質とが、対応付けられる。1つのIDは、例えば、メッシュ状に区切られた空間の1つのメッシュに対応してよい。
図4の1~X(Xは、1以上の整数)のX個のIDは、X個のメッシュに対応してよい。或るIDに対応付けられる緯度、経度及び高度は、対応するメッシュの代表点の座標を表す。また、或るIDに対応付けられる受信レベルおよび無線品質は、例えば、対応するメッシュの代表点における受信レベルおよび無線品質を示す。
【0055】
推定処理においては、取得された基地局情報及び周辺情報を用いて、学習済モデルに基づく電波環境マップの推定を行い、
図4に示すような推定結果が出力される。推定処理では、例えば、
図2に示した、1つの情報のセットのIDに対応する推定結果が出力される。入力される情報のセットに応じた推定結果が出力される。
【0056】
推定結果である電波環境マップについて例示する。
【0057】
図5は、電波環境マップの第1の例を示す図である。
図5には、例示的に、或る高度の25m×25mの平面を2.5m×2.5m単位のメッシュに区切り、各メッシュの受信レベルを6つのレベルに分けた場合の平面の電波環境マップが3通り示される。また、
図5には、同じ平面において、カバーしたい部分エリア(カバーエリア)の例が示される。
【0058】
例えば、電波環境マップ#1は、電波環境マップ#2及び電波環境マップ#3と比較して、カバーエリアにおける受信レベルが低い。電波環境マップ#3は、電波環境マップ#2及び電波環境マップ#1と比較してカバーエリアにおける受信レベルが高い。しかしながら、電波環境マップ#3は、電波環境マップ#2及び電波環境マップ#1と比較してカバーエリア外の受信レベルが高く、電力消費が高いことが想定される。
【0059】
例えば、
図5に示す3通りの電波環境マップの中で、電力消費を抑制し、カバーエリアにおいて所定レベル以上の受信レベルが確保できるという条件を満たす電波環境マップは、電波環境マップ#2である。このような決定が、例えば、事後処理部106によって実行されてよい。例えば、事後処理部106は、複数の推定結果の中から、所定の条件を満たす1以上の推定結果を出力する。なお、事後処理部106は、推定結果に対応付けられる入力情報(基地局情報及び周辺情報)を出力してもよい。
【0060】
例えば、入力される情報のセットが100万通り存在した場合、推定結果も100万通り存在する。このような多くの推定結果に対して、事後処理部106では、上述したように、或る条件を満たす推定結果を決定する絞り込みが行われてよい。
【0061】
また、
図2において説明したように、送信電力が、送信指向性情報が示す少なくとも1つの送信ビームIDのそれぞれについて設定される場合、絞り込みの結果に対して、送信電力のチューニングが行われてよい。
【0062】
図6は、電波環境マップの第2の例を示す図である。
図6には、
図5と同様のエリアの区分、受信レベルの区分における電波環境マップが2通り示される。なお、
図6の電波環境マップ#2は、
図5の電波環境マップ#2と同様である。
【0063】
図6の電波環境マップ#2aは、電波環境マップ#2に対応付けられる入力情報(基地局情報及び周辺情報)において、送信電力を送信ビームIDのそれぞれについて設定した場合の一例である。例えば、電波環境マップ#2aは、送信ビームIDの少なくとも一部の送信電力が電波環境マップ#2の送信電力よりも低い値に設定された推定結果である。
【0064】
例えば、カバーエリアにおける無線品質を向上させるよりも、消費電力を抑えることが優先される場合、電波環境マップ#2よりも電波環境マップ#2aの方が、条件により適した結果である、と判断される。
【0065】
例えば、電力情報が、送信指向性情報に示される少なくとも1つの送信ビームIDのそれぞれについて設定される場合、より詳細な電波環境マップの推定が実行でき、置局設計において、より適した出力が得られる。
【0066】
以上説明した本実施の形態では、情報処理装置10の取得部102が、基地局の送信アンテナによって形成可能な複数の方向へのビームの少なくとも一部の方向のビームに関する送信指向性情報を含む基地局情報と、基地局を設置する空間の電波伝搬に関する周辺情報と、を取得する。処理部は、学習処理において取得した基地局情報(例えば、第1の基地局情報)及び周辺情報(例えば、第1の周辺情報)と、空間において送信アンテナが放射する電波の強度分布との対応関係を表す学習済モデルを用いて、推定処理において取得した基地局情報(第2の基地局情報)及び周辺情報(第2の周辺情報)に対応する強度分布を推定する。このように、情報処理装置10は、送信指向性情報を含む情報を用いることによって、指向性制御を行う無線通信において、指向性を考慮した適切な無線通信システムを構築できる。例えば、生成した学習済モデルを用いて推定処理を行い、電波環境マップの推定が実行でき、適切な置局設計を実現できる。
【0067】
なお、周辺情報は、空間内の静止物に関する情報に限定されない。例えば、周辺情報には、空間内の可動部分に関する情報が含まれてよい。ここで、可動部分とは、例えば、扉、窓、換気扇、吸気口、排気口等であってよい。このような可動部分では、可動部分の状態(形状)によって電波伝搬特性に与える影響が異なる。例えば、扉の場合、開扉状態と閉扉状態とで扉の部分における電波の反射、透過等の特性が異なる。
【0068】
例えば、周辺情報では、可動部分が取り得る状態に応じたパラメータが設定されてよい。例えば、可動部分が取り得る状態によって複数の減衰量が存在する場合、隣り合う基地局へ与える干渉の干渉量(与干渉量)が最大となるような最悪ケースを想定し、可動部分の透過減衰量(
図2参照)、及び反射減衰量を最小化し、自由空間伝搬の場合に相当してよい。
【0069】
また、例えば、周辺情報では、可動部分が取り得る状態の中で、電波伝搬特性に与える悪影響がより大きい状態に関する情報が設定されてよい。例えば、可動部分が扉の場合、開扉状態は、閉扉状態よりも扉の外側へ漏れる電波の大きさ(与干渉)が大きい。そのため、可動部分が扉の場合の周辺情報には、開扉状態に関する情報が設定されてよい。
【0070】
また、周辺情報には、空間内を移動する移動物体に関する情報が含まれてよい。例えば、移動物体とは、人、作業ロボット、車両、飛行物体等であってよい。この場合、周辺情報には、移動物体の位置、移動経路及び移動範囲の少なくとも1つに関する情報が含まれてよい。また、この場合の周辺情報には、移動物体の滞在時間が含まれてよい。また、この場合の周辺情報には、移動物体の材質の透過パラメータ(例えば、透過減衰量)及び反射パラメータ(例えば、反射減衰量)が含まれてよい。
【0071】
図7は、移動物体に関する周辺情報の一例を示す図である。
図7には、
図2に示した周辺情報#1と周辺情報#Nに対応する障害物が、移動物体である場合の例が示される。なお、
図7において、
図2と同様の情報については省略される。
【0072】
例えば、
図7に示すように、各移動物体の平均滞在時間が周辺情報に含まれることによって、上述した学習処理及び推定処理において、より適切な処理が実行でき、置局設計において有効な推定が効率よく得ることができる。
【0073】
また、上述した例において、入力情報が、基地局情報と周辺情報とである例を示したが、本開示はこれに限定されない。例えば、入力情報には、空間内に位置する可能性のある受信機(例えば、端末)に関する情報(以下、端末情報)が含まれてよい。
【0074】
例えば、端末情報には、空間内の端末が存在し得る各位置において、端末が有する受信アンテナに関する情報(受信アンテナ情報)が含まれてよい。例えば、受信アンテナ情報には、受信アンテナの設置方向に関する情報及び受信アンテナの指向性に関する情報が含まれてよい。受信アンテナの指向性に関する情報には、例えば、
図2に例示した送信ビームIDのセットと同様に、端末の受信ビームIDが含まれてよい。
【0075】
【0076】
図8には、0°~359°の範囲で受信アンテナの向き(方位角及び仰角)が設定され、受信アンテナがID#0~ID#31の受信ビームを形成する例が示される。
図8に示す例では、同一の受信アンテナの向きに対して、異なる受信ビームIDが対応付けられる。このような受信アンテナ情報によって、上述した学習処理及び推定処理において、より適切な処理が実行でき、置局設計において有効な推定結果を効率よく得ることができる。
【0077】
受信アンテナ情報に基づく処理については限定されない。例えば、受信アンテナ情報に基づいて、送信ビームが選択されてよい。
【0078】
図9は、基地局の送信ビームと端末の受信ビームとの関係の一例を示す図である。
【0079】
図9には、
図3Aに示した例と同様に、空間に設けられる基地局のアンテナと、アンテナが形成する送信ビームと、空間内に位置する端末と、端末が形成する受信ビームとが示される。
図9には、受信ビームの向きが異なる2つのパターンが示される。2つのパターンのそれぞれにおいて、基地局のアンテナは、ID#0に対応する送信ビーム#0と、ID#1に対応する送信ビーム#1とを形成する。別言すると、
図9の2つのパターンは、送信指向性情報が示す送信ビームIDのセットが、#0と#1とを含む例に対応する。
【0080】
図9のパターン1において端末が形成する受信ビーム#aは、送信ビーム#0の方向に向けられる。そのため、パターン1では、送信ビーム#1が省略されてよい、と判定される。
【0081】
一方で、
図9のパターン2において端末が形成する受信ビーム#bは、送信ビーム#1の方向に向けられる。そのため、パターン2では、送信ビーム#1が省略されなくてよい、と判定される。
【0082】
図9に例示したように、端末が形成する受信ビームの方向によって、適した送信ビームの方向が異なる。この場合、端末における受信レベルは、受信ビームの方向と送信ビームの方向とに応じて変化する。
【0083】
上述した学習処理では、端末情報が入力されることによって、受信ビームの方向と送信ビームの方向とに応じて変化する受信レベルが学習されてよい。また、上述した推定処理では、端末情報が入力されることによって、受信ビームの方向と送信ビームの方向とに応じて変化する受信レベルを含む推定結果が出力されてよい。
【0084】
なお、上記の実施の形態において、テーブル形式の情報が例示されたが、本開示はこれに限定されない。情報の形式はテーブル形式と異なる形式であってもよい。
【0085】
なお、上記の実施の形態において、「ビーム」は、「セクタ」と読み替えられてよい。例えば、「ビームID」は、「セクタID」と読み替えられてよい。
【0086】
なお、上記各実施の形態における情報処理装置は、プロセッサ、メモリ、ストレージ、通信装置、入力装置、出力装置、バスなどを含むコンピュータ装置として構成されてもよい。
【0087】
なお、上記各実施の形態における「・・・部」という表記は、「・・・回路(circuitry)」、「・・・デバイス」、「・・・ユニット」、又は、「・・・モジュール」といった他の表記に置換されてもよい。
【0088】
また、上記実施の形態における「周波数帯」という表記は、「周波数」、「周波数チャネル」、「帯域」、「バンド」、「キャリア」、「サブキャリア」、又は、「(周波数)リソース」といった他の表記に置換されてもよい。
【0089】
本開示はソフトウェア、ハードウェア、又は、ハードウェアと連携したソフトウェアで実現することが可能である。
【0090】
上記実施の形態の説明に用いた各機能ブロックは、部分的に又は全体的に、集積回路であるLSIとして実現され、上記実施の形態で説明した各プロセスは、部分的に又は全体的に、一つのLSI又はLSIの組み合わせによって制御されてもよい。LSIは個々のチップから構成されてもよいし、機能ブロックの一部又は全てを含むように一つのチップから構成されてもよい。LSIはデータの入力と出力を備えてもよい。LSIは、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0091】
集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路、汎用プロセッサ又は専用プロセッサで実現してもよい。また、LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。本開示は、デジタル処理又はアナログ処理として実現されてもよい。
【0092】
さらには、半導体技術の進歩又は派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。バイオ技術の適用等が可能性としてありえる。
【0093】
本開示は、通信機能を持つあらゆる種類の装置、デバイス、システム(通信装置と総称)において実施可能である。通信装置の、非限定的な例としては、電話機(携帯電話、スマートフォン等)、タブレット、パーソナル・コンピューター(PC)(ラップトップ、デスクトップ、ノートブック等)、カメラ(デジタル・スチル/ビデオ・カメラ等)、デジタル・プレーヤー(デジタル・オーディオ/ビデオ・プレーヤー等)、着用可能なデバイス(ウェアラブル・カメラ、スマートウオッチ、トラッキングデバイス等)、ゲーム・コンソール、デジタル・ブック・リーダー、テレヘルス・テレメディシン(遠隔ヘルスケア・メディシン処方)デバイス、通信機能付きの乗り物又は移動輸送機関(自動車、飛行機、船等)、及び上述の各種装置の組み合わせがあげられる。
【0094】
通信装置は、持ち運び可能又は移動可能なものに限定されず、持ち運びできない又は固定されている、あらゆる種類の装置、デバイス、システム、例えば、スマート・ホーム・デバイス(家電機器、照明機器、スマートメーター又は計測機器、コントロール・パネル等)、自動販売機、その他IoT(Internet of Things)ネットワーク上に存在し得るあらゆる「モノ(Things)」をも含む。
【0095】
通信には、セルラーシステム、無線LANシステム、通信衛星システム等によるデータ通信に加え、これらの組み合わせによるデータ通信も含まれる。
【0096】
また、通信装置には、本開示に記載される通信機能を実行する通信デバイスに接続又は連結される、コントローラやセンサー等のデバイスも含まれる。例えば、通信装置の通信機能を実行する通信デバイスが使用する制御信号やデータ信号を生成するような、コントローラやセンサーが含まれる。
【0097】
また、通信装置には、上記の非限定的な各種装置と通信を行う、あるいはこれら各種装置を制御する、インフラストラクチャ設備、例えば、基地局、アクセスポイント、その他あらゆる装置、デバイス、システムが含まれる。
【0098】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、開示の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0099】
以上、本開示の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本開示は、無線通信システムに好適である。
【符号の説明】
【0101】
10 情報処理装置
101 記憶部
102 取得部
103 事前処理部
104 学習処理部
105 推定処理部
106 事後処理部