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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】横置き型ロータリ圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/356 20060101AFI20240807BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20240807BHJP
   F04C 23/00 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
F04C18/356 H
F04C29/00 C
F04C23/00 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020056545
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021156203
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】角田 和久
(72)【発明者】
【氏名】戸部 隆久
(72)【発明者】
【氏名】小和田 芳夫
(72)【発明者】
【氏名】竹本 将司
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-162991(JP,A)
【文献】特開平07-035076(JP,A)
【文献】特開2005-127306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/356
F04C 29/00
F04C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受部によって回転自在に支持された水平方向に延びる回転軸と、前記回転軸によって駆動されるロータリ式の圧縮機構部と、をハウジングの内部に有し、前記圧縮機構部が仕切部材を挟んでその両側に配置された第1圧縮機構部及び第2圧縮機構部とを含むとともに、前記ハウジングの内底部に潤滑油を貯留する潤滑油貯留部が設けられた横置き型ロータリ圧縮機であって、
前記第1圧縮機構部及び前記第2圧縮機構部のそれぞれは、シリンダ室と、前記回転軸
の回転に伴って前記シリンダ室内を偏心回転するピストン部材と、先端部が前記ピストン部材に接触して前記シリンダ室内を吸入室と圧縮室とに区画するベーンと、前記ベーンを前記ピストン部材に向かって付勢する付勢部材と、潤滑油を導入して前記ベーンの背面に圧力を作用させる背圧室と、を有し、
前記第1圧縮機構部のピストン部材と前記第2圧縮機構部のピストン部材とは180°の位相差を有して偏心回転し、
前記第1圧縮機構部の背圧室と前記第2圧縮機構部の背圧室とは、前記仕切部材に形成された連通孔を介して連通しており、
前記潤滑油貯留部は、潤滑油の大部分を貯留する主貯留部と、前記圧縮機構部の外周部と前記ハウジングの内周部との間に形成されて前記第1圧縮機構部の背圧室及び前記第2圧縮機構部の背圧室に導入される潤滑油を貯留する副貯留部と、前記主貯留部と前記副貯留部とを連通する潤滑油流路と、を有し、
前記潤滑油流路は、前記副貯留部の流路断面積よりも小さい流路断面積を有する狭隘部を含む、
横置き型ロータリ圧縮機。
【請求項2】
前記副貯留部は、前記第1圧縮機構部の外周部と前記ハウジングの内周部との間に形成されて前記連通孔の流路断面積よりも小さい流路断面積を有する第1隙間部と、前記第2圧縮機構部の外周部と前記ハウジングの内周部との間に形成されて前記連通孔の流路断面積よりも小さい流路断面積を有する第2隙間部と、を含み、
前記第1圧縮機構部の背圧室は、第1潤滑油導入孔を介して前記副貯留部の前記第1隙間部に連通し、前記第2圧縮機構部の背圧室は、第2潤滑油導入孔を介して前記副貯留部の前記第2隙間部に連通している、
請求項1に記載の横置き型ロータリ圧縮機。
【請求項3】
前記潤滑油貯留部の潤滑油を吸い上げて前記軸受部及び前記圧縮機構部の各摺動部の少なくとも一方に供給する油供給通路を有し、
前記油供給通路は、前記潤滑油貯留部における前記狭隘部よりも前記主貯留部側の潤滑油を吸い上げるように構成されている、
請求項1又は2に記載の横置き型ロータリ圧縮機。
【請求項4】
前記回転軸を回転させる電動機部を前記ハウジングの内部にさらに有し、
前記ハウジングの内部が隔壁部によって前記電動機部を収容する第1収容室と前記圧縮機構部を収容し且つ前記第1収容室よりも高圧の第2収容室とに区画されており、
前記潤滑油貯留部は、前記第2収容室に設けられている、
請求項1~3のいずれか一つに記載の横置き型ロータリ圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横置き型ロータリ圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
横置き型ロータリ圧縮機の一例として特許文献1に記載された圧縮機(横形ロータリ圧縮機)が知られている。特許文献1に記載された圧縮機において、密閉容器(ハウジング)内は仕切り部材によってロータリ式の圧縮機構部が位置する油貯留部空間と電動機部が位置する電動機側空間とに仕切られている。前記圧縮機構部は、中間仕切り板の左右両側に設けられた第1の圧縮機構部と第2の圧縮機構部とで構成されている。前記第1の圧縮機構部及び前記第2の圧縮機構部のそれぞれは、シリンダ室と、シリンダ室内を偏心回転する偏心ローラ(ピストン部材)と、偏心ローラに接触してシリンダ室内を高圧側と低圧側とに仕切るブレード(ベーン)と、を有している。
【0003】
特許文献1に記載された圧縮機において、前記第1の圧縮機構部及び前記第2の圧縮機構部で圧縮された冷媒(高圧冷媒)は、前記電動機側空間に放出されて前記電動機側空間に充満するとともに前記油貯留部空間に導かれて前記油貯留部空間に充満し、前記油貯留部空間に充満した高圧冷媒が吐出冷媒管から外部に吐出される。また、特許文献1に記載された圧縮機は、前記油貯留部空間の下部に貯留された潤滑油を吸い上げて前記第1の圧縮機構部及び前記第2の圧縮機構部の各摺動部へ供給する給油路を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-60533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された圧縮機において、前記第1の圧縮機構部のブレード及び前記第2の圧縮機構部のブレードは、単に弾性的に押圧された状態で対応する偏心ローラに接触している。このため、圧縮機の運転状態などによっては、前記第1の圧縮機構部のブレード及び前記第2の圧縮機構部のブレードの対応する偏心ローラへの押圧力が不足し、前記第1の圧縮機構部のブレード及び前記第2の圧縮機構部のブレードが対応する偏心ローラから離隔してしまうおそれがある。
【0006】
特許文献1に記載された圧縮機において、前記第1の圧縮機構部のブレード及び前記第2の圧縮機構部のブレードは、前記油貯留部空間の下部に貯留された潤滑油に浸漬した状態にある。前記第1の圧縮機構部のブレード及び前記第2の圧縮機構部のブレードは、対応する偏心ローラの偏心回転に伴って往復動するため、前記油貯留部空間の下部に貯留された潤滑油が攪拌される。貯留された潤滑油が攪拌されると、前記高圧冷媒とともに前記吐出冷媒管から吐出される潤滑油が増加したり、前記給油路による潤滑油の吸い上げ、ひいては、前記第1の圧縮機構部及び前記第2の圧縮機構部の各摺動部への潤滑油の供給が不安定になったりするおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、ベーンのピストン部材から離隔を抑制すること及びベーンの往復動による潤滑油の攪拌を抑制することのできる横置き型ロータリ圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によると、横置き型ロータリ圧縮機が提供される。前記横置き型ロータリ圧縮機は、軸受部によって回転自在に支持された水平方向に延びる回転軸と、前記回転軸によって駆動されるロータリ式の圧縮機構部と、をハウジングの内部に有している。前記圧縮機構部は、仕切部材を挟んでその両側に配置された第1圧縮機構部及び第2圧縮機構部を含み、前記ハウジングの内底部には、潤滑油を貯留する潤滑油貯留部が設けられている。前記第1圧縮機構部及び前記第2圧縮機構部のそれぞれは、シリンダ室と、前記回転軸の回転に伴って前記シリンダ室内を偏心回転するピストン部材と、先端部が前記ピストン部材に接触して前記シリンダ室内を吸入室と圧縮室とに区画するベーンと、前記ベーンを前記ピストン部材に向かって付勢する付勢部材と、潤滑油を導入して前記ベーンの背面に圧力を作用させる背圧室と、を有する。前記第1圧縮機構部のピストン部材と前記第2圧縮機構部のピストン部材とは180°の位相差を有して偏心回転し、前記第1圧縮機構部の背圧室と前記第2圧縮機構部の背圧室とは、前記仕切部材に形成された連通孔を介して連通している。また、前記潤滑油貯留部は、潤滑油の大部分を貯留する主貯留部と、前記圧縮機構部の外周部と前記ハウジングの内周部との間に形成されて前記第1圧縮機構部の背圧室及び前記第2圧縮機構部の背圧室に導入される潤滑油を貯留する副貯留部と、前記主貯留部と前記副貯留部とを連通する潤滑油流路と、を有し、前記潤滑油流路は、前記副貯留部の流路断面積よりも小さい流路断面積を有する狭隘部を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、ベーンのピストン部材から離隔を抑制すること及びベーンの往復動による潤滑油の攪拌を抑制することができる横置き型ロータリ圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る横置き型ロータリ圧縮機の概略構成を示す断面図である。
図2】前記横置き型ロータリ圧縮機における圧縮機構部30及びその周辺を示す図であり、(a)は図1の要部拡大図、(b)は(a)のX部拡大図、(c)は(a)のY部拡大図である。
図3図1のA-A断面図である。
図4図1のB-B断面図である。
図5図1のC-C断面図である。
図6図3のD-D断面図である。
図7図1のE-E断面図である。
図8図1のF-F断面図である。
図9】前記横置き型電動圧縮機における冷媒(ガス)の流れを示す図である。
図10】前記横置き型電動圧縮機における潤滑油の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る横置き型ロータリ圧縮機の概略構成を示す断面図である。実施形態に係る横置き型ロータリ圧縮機(以下単に「圧縮機」という)100は、ハウジング110を有している。ハウジング110は、円筒状のセンターハウジング111と、開口端側がセンターハウジング111の前端(図1における左端)に接合された有底円筒状のフロントハウジング112と、開口端側がセンターハウジング111の後端(図1における右端)に接合された有底円筒状のリアハウジング113と、を含む。
【0013】
センターハウジング111の周壁、フロントハウジング112の周壁及びリアハウジング113の周壁によって横長円筒形のハウジング胴部110aが形成され、フロントハウジング112の底壁によってハウジング胴部110aの一方(前側)の開口端を閉塞する第1ハウジング端壁部110bが形成され、リアハウジング113の底壁によってハウジング胴部110aの他方(後側)の開口端を閉塞する第2ハウジング端壁部110cが形成されている。
【0014】
ハウジング110の内部は、センターハウジング111に設けられた隔壁部114によって第1ハウジング端壁部110b側(前側)の第1収容室115と第2ハウジング端壁部110c側(後側)の第2収容室116とに区画されている。
【0015】
また、ハウジング110の内底部には、潤滑油Oが貯留される潤滑油貯留部150が設けられている。より具体的には、本実施形態において、潤滑油貯留部150は、第2収容室116の下部に設けられている。潤滑油貯留部150については後述する。
【0016】
隔壁部114の径方向中央部には、第1収容室115側に突出するボス部114aが形成されている。また、隔壁部114には、ボス部114aの先端面から第2収容室116側の面まで貫通する第1軸孔114bが形成されている。
【0017】
圧縮機100は、回転軸200をハウジング110の内部に有している。ハウジング110内において、回転軸200は、水平方向(前後方向)に延びており、軸線方向の中間部が第1軸孔114bに挿通されて回転自在に支持されている。すなわち、回転軸200は隔壁部114を貫通して延びており、回転軸200の一端(前端)側は第1収容室115内に位置し、回転軸200の他端(後端)側は第2収容室116内に位置している。また、第1軸孔114bの内周面と回転軸200の外周面との間には第1微小隙間(クリアランス)が形成されている。この第1微小隙間は、潤滑油Oによって密封(シール)され得るように設定されている。
【0018】
第1収容室115には、回転軸200を回転させる電動機部10が収容されている。すなわち、ハウジング110内において、電動機部10は、回転軸200の一端(前端)側に設けられている。また、第1収容室115は、フロントハウジング112に形成された冷媒入口孔117を介して図示省略の外部冷媒回路(の低圧側)に連通している。冷媒入口孔117は、回転軸200の軸線方向においては電動機部10を挟んで隔壁部114とは反対側の位置に、高さ(上下)方向においては回転軸200に対応する位置(回転軸200とほぼ同じ高さの位置)に設けられている。
【0019】
電動機部10は、ステータ11とロータ12とを含む。
【0020】
ステータ11は、ハウジング110の内周面に固定されている。具体的には、ステータ11は、センターハウジング111の隔壁部114よりもフロントハウジング112側の部位の内周面に固定されている。ステータ11は、磁性体で円筒状に形成されたステータコア11aと、ステータコア11a(のティース部)に例えば集中巻きで巻回されたステータコイル11bと、を有している。
【0021】
ロータ12は、ステータ11の径方向内側にステータ11との間に所定の隙間を有した状態で配置されている。ロータ12には永久磁石が組み込まれている。ロータ12は、円筒状に形成されており、ロータ12の中空部に回転軸200の一端(前端)側が挿通された状態で回転軸200に固定されている。
【0022】
電動機部10は、フロントハウジング112に設けられた気密端子部20を介してステータ11(ステータコイル11b)に電力が供給されてロータ12が回転することによって回転軸200を回転させるように構成されている。
【0023】
第2収容室116には、回転軸200によって駆動されるロータリ式の圧縮機構部30が収容されている。すなわち、ハウジング110内において、圧縮機構部30は、回転軸200の他端(後端)側に設けられている。また、第2収容室116は、リアハウジング113に形成された冷媒出口孔118を介して前記外部冷媒回路(の高圧側)に連通している。冷媒出口孔118は、回転軸200の軸線方向においては後述する吐出孔52aよりも隔壁部114側の位置に、高さ方向においては冷媒入口孔117と同様に回転軸200に対応する位置に設けられている。
【0024】
本実施形態において、圧縮機構部30は、いわゆる「ツインロータリ圧縮機構」として構成されている。圧縮機構部30は、水平方向に配置された第1圧縮機構部30A及び第2圧縮機構部30Bを含み、第1圧縮機構部30Aと第2圧縮機構部30Bとの間には中間仕切板(仕切部材)50が設けられている。換言すれば、第1圧縮機構部30A及び第2圧縮機構部30Bは、中間仕切板50を挟んでその両側に配置されている。第1圧縮機構部30Aは、中間仕切板50の隔壁部114側(すなわち、前側)に配置され、第2圧縮機構部30Bは、中間仕切板50の隔壁部114側とは反対側(すなわち、後側)に配置されている。中間仕切板50の径方向中央部には、回転軸200が挿通される挿通孔が形成されている。
【0025】
図2は、圧縮機構部30及びその周辺を示している。図2(a)は、図1の要部拡大図であり、図2(b)は、図2(a)のX部拡大図であり、図2(c)は、図2(a)のY部拡大図である。図3は、図1のA-A断面図(一部省略)であり、主に第1圧縮機構部30Aの構成を示している。図4は、図1のB-B断面図(一部省略)であり、主に第2圧縮機構部30Bの構成を示している。
【0026】
図2及び図3に示されるように、第1圧縮機構部30Aは、第1シリンダ31Aと、第1ピストン部材34Aと、第1ベーン35Aと、を含む。
【0027】
第1シリンダ31Aは、ハウジング110の内径よりも小さい外径を有する。第1シリンダ31Aの外周部とハウジング110の内周部との間には第1環状空間が形成されている。ここで、図3に示されるように、第1シリンダ31Aは、部分的に拡径された第1拡径部32Aを下部側に有しており、第1拡径部32Aの外周部は、ハウジング110の内周部に近接している。このため、第1拡径部32Aの外周部とハウジング110の内周部との間には前記第1環状空間における他の空間よりも狭い隙間空間が形成されている。なお、以下では、前記第1環状空間のうちの第1拡径部32Aの外周部とハウジング110の内周部との間に形成された空間(隙間空間)を「第1隙間部G1」という。
【0028】
第1シリンダ31Aの一方の面(前側の面)は、隔壁部114の第2収容室116側の面に密着しており、第1シリンダ31Aの他方の面(後側の面)は、中間仕切板50の一方の面(前側の面)に密着している。また、第1シリンダ31Aは、径方向中央部に断面円形の第1シリンダ室33Aを有している。
【0029】
第1ピストン部材34Aは、円環状に形成されて、第1シリンダ31Aの第1シリンダ室33A内に位置する回転軸200の第1偏心部201の外周面に取り付けられている。第1ピストン部材34Aは、回転軸200の回転に伴って第1シリンダ室33A内を偏心回転する。
【0030】
第1ベーン35Aは、第1シリンダ31Aに形成された第1ベーン溝36Aに収容されている。第1ベーン溝36Aは、第1シリンダ室33Aの内周面の下部に開口するとともに下方に所定の深さを有する溝として形成されている。第1ベーン35Aは、第1シリンダ室33A内に進出する方向及び第1シリンダ室33Aから退出する方向に移動可能に第1ベーン溝36Aに収容されている。
【0031】
第1ベーン35Aは、第1ベーン溝36Aに収容された第1付勢部材37Aによって第1シリンダ室33A内に進出する方向に、換言すれば、第1ピストン部材34Aに向かって弾性的に付勢されている。本実施形態において、第1付勢部材37Aは、圧縮コイルバネであり、第1ベーン35Aと第1ベーン溝36Aの底部との間に配置されている。具体的には、第1付勢部材37Aとしての圧縮コイルバネの一端(下端)は、第1ベーン溝36Aの底部に形成された第1取付穴38Aに嵌合され、第1付勢部材37Aとしての圧縮コイルバネの他端(上端)は、第1ベーン35Aの背面に押し当てられている。
【0032】
第1ベーン35Aは、先端部が第1ピストン部材34Aの外周面に接触して第1シリンダ室33A内を第1吸入ポート42Aが開口する吸入室(低圧室)と第1吐出ポート43Aが開口する圧縮室(高圧室)とに区画する(図3参照)。本実施形態において、第1吸入ポート42A及び第1吐出ポート43Aは回転軸200よりも下方に設けられている。
【0033】
第1ベーン溝36Aにおける第1ベーン35Aの背面と第1ベーン溝36Aの底部との間の空間は、第1背圧室39Aを構成している。第1背圧室39Aは、第1取付穴38Aの底部を貫通する第1潤滑油導入孔40Aを介して第1隙間部G1に連通している。第1背圧室39Aは、第1潤滑油導入孔40Aを介して潤滑油を導入し、第1ベーン35Aの背面に圧力を作用させるように、すなわち、第1ベーン35Aに背圧をかけるように構成されている。
【0034】
また、図2に示されるように、本実施形態において、隔壁部114の第1収容室115側の面には、ボス部114aを囲繞するように第1凹部114cが形成されている。第1凹部114cの開口は、隔壁部114の第1収容室115側の面に密着する第1閉塞板121によって閉塞されており、これによって、第1収容室115から区画された第1吐出消音室41Aが形成されている。つまり、本実施形態においては、隔壁部114に第1吐出消音室41Aが設けられている。第1閉塞板121は、ハウジング110の内径とほぼ等しい外径を有し、第1閉塞板121の中央部には、ボス部114aが挿通される挿通孔が形成されている。また、第1吐出消音室41Aは、隔壁部114に形成された第1連通孔114dを介して第1シリンダ室33A内の前記圧縮室に開口する第1吐出ポート43A(図3参照)に連通している。
【0035】
第2圧縮機構部30Bは、第1圧縮機構部30Aと同様の構成を有する。すなわち、図2及び図4に示されるように、第2圧縮機構部30Bは、第2シリンダ31Bと、第2ピストン部材34Bと、第2ベーン35Bと、を含む。
【0036】
第2シリンダ31Bは、第1シリンダ31Aと同様、ハウジング110の内径よりも小さい外径を有し、第2シリンダ31Bの外周部とハウジング110の内周部との間には第2環状空間が形成されている。また、図4に示されるように、第2シリンダ31Bは、部分的に拡径された第2拡径部32Bを下部側に有している。第2拡径部32Bの外周部はハウジング110の内周部に近接しており、第2拡径部32Bの外周部とハウジング110の内周部との間には、前記第2環状空間における他の空間よりも狭い隙間空間が形成されている。なお、第1圧縮機構部30Aの場合と同様、以下では、前記第2環状空間のうちの第2拡径部32Bの外周部とハウジング110の内周部との間に形成された空間(隙間空間)を「第2隙間部G2」という。
【0037】
第2シリンダ31Bの一方の面(前側の面)は、中間仕切板50の他方の面(後側の面)に密着しており、第2シリンダ31Bの他方の側面(後側の面)は、吐出消音室形成部材51の一方の面(前側の面)に密着している。また、第2シリンダ31Bは、径方向中央部に断面円形の第2シリンダ室33Bを有している。
【0038】
第2ピストン部材34Bは、円環状に形成され、第2シリンダ31Bの第2シリンダ室33B内に位置する回転軸200の第2偏心部202の外周面に取り付けられている。第2ピストン部材34Bは、回転軸200の回転に伴って第2シリンダ室33B内を偏心回転する。ここで、第2偏心部202は、第1偏心部201に対して回転軸200の軸線まわりに180°ずらして(180°の位相差を有して)設けられており、第1ピストン部材34Aと第2ピストン部材34Bとは180°の位相差を有して偏心回転する。
【0039】
第2ベーン35Bは、第2シリンダ31Bに形成された第2ベーン溝36Bに収容されている。第2ベーン溝36Bは、第2シリンダ室33Bの内周面の下部に開口するとともに下方に所定の深さを有する溝として形成されている。第2ベーン35Bは、第2シリンダ室33B内に進出する方向及び第2シリンダ室33Bから退出する方向に移動可能に第2ベーン溝36Bに収容されている。
【0040】
第2ベーン35Bは、第2ベーン溝36Bに収容された第2付勢部材37Bによって第2シリンダ室33B内に進出する方向に、すなわち、第2ピストン部材34Bに向かって弾性的に付勢されている。第2付勢部材37Bは、第1付勢部材37Aと同様、圧縮コイルバネであり、第2ベーン35Bと第2ベーン溝36Bの底部との間に配置されている。具体的には、第2付勢部材37Bとしての前記圧縮コイルバネの一端(下端)は、第2ベーン溝36Bの底部に形成された第2取付穴38Bに嵌合され、第2付勢部材37Bとしての前記圧縮コイルバネの他端(上端)は、第2ベーン35Bの背面に押し当てられている。
【0041】
第2ベーン35Bは、先端部が第2ピストン部材34Bの外周面に当接して第2シリンダ室33B内を第2吸入ポート42Bが開口する吸入室(低圧室)と第2吐出ポート43Bが開口する圧縮室(高圧室)とに区画する(図4参照)。本実施形態において、第2吸入ポート42B及び第2吐出ポート43Bは、第1吸入ポート42A及び第1吐出ポート43Aと同様、回転軸200よりも下方に設けられている。
【0042】
第2ベーン溝36Bにおける第2ベーン35Bの背面と第2ベーン溝36Bの底部との間の空間は、第2背圧室39Bを構成している。第2背圧室39Bは、第2取付穴38Bの底部を貫通する第2潤滑油導入孔40Bを介して第2隙間部G2に連通している。第2背圧室39Bは、第2潤滑油導入孔40Bを介して潤滑油Oを導入し、第2ベーン35Bの背面に圧力を作用させるように、すなわち、第2ベーン35Bに背圧をかけるように構成されている。
【0043】
第2背圧室39Bは、中間仕切板50に形成された連通孔50aを介して第1背圧室39Aに連通している。すなわち、本実施形態において、第1圧縮機構部30Aの第1背圧室39Aと第2圧縮機構部30Bの第2背圧室39Bとは、中間仕切板50に形成された連通孔50aを介して互いに連通している。ここで、連通孔50aの開口面積(流路断面積)は、第1隙間部G1の流路断面積及び第2隙間部G2の流路断面積よりも大きく設定されている。
【0044】
また、図2に示されるように、吐出消音室形成部材51の径方向中央部には、第2軸孔51aが形成されている。第2軸孔51aには、回転軸200の後端部及びその近傍が回転自在に挿通されている。つまり、回転軸200は、隔壁部114に形成された第1軸孔114bと吐出消音室形成部材51に形成された第2軸孔51aとによって回転自在に支持されており、これら第1軸孔114b及び第2軸孔51aがそれぞれ回転軸200の軸受部を構成している。なお、第1軸孔114bの場合と同様、第2軸孔51aの内周面と回転軸200の外周面との間には第2微小隙間(クリアランス)が形成されている。
【0045】
吐出消音室形成部材51の他方の面、すなわち、第2シリンダ31B側とは反対側の面(後側の面)には、第2軸孔51aを囲繞するように第2凹部51bが形成されている。第2凹部51bの開口は、吐出消音室形成部材51の前記他方の面に密着する第2閉塞板52によって閉塞されており、これによって、第2吐出消音室41Bが形成されている。第2吐出消音室41Bは、吐出消音室形成部材51に形成された第2連通孔51cを介して第2シリンダ室33B内の前記圧縮室に開口する第2吐出ポート43B(図4参照)に連通している。
【0046】
図5は、図1のC-C断面図である。図5に示されるように、吐出消音室形成部材51は、ハウジング110の内径よりも小さい外径を有し、吐出消音室形成部材51の外周部とハウジング110の内周部との間には第3環状空間が形成されている。また、吐出消音室形成部材51は、第1シリンダ31A及び第2シリンダ31Bと同様、部分的に拡径された第3拡径部51dを下部側に有している。第3拡径部51dの外周部は、ハウジング110の内周部に近接しており、第3拡径部51dの外周部とハウジング110の内周部との間には、前記第3環状空間における他の空間よりも狭い隙間空間が形成されている。但し、第3拡径部51dの周方向の長さは、第1シリンダ31Aの第1拡径部32Aの周方向の長さ及び第2シリンダ31Bの第2拡径部32Bの周方向の長さよりも大きい。好ましくは、第3拡径部51dは、上端部がハウジング110の内底部(第2収容室116の下部)に貯留される潤滑油Oの液面の上方に位置するように設定される。なお、第3拡径部51dは、スペーサ部材等を吐出消音室形成部材51に取り付けることによって形成されてもよい。
【0047】
ここで、本実施形態において、第1閉塞板121、第1シリンダ31A、中間仕切板50、第2シリンダ31B、吐出消音室形成部材51及び第2閉塞板52は、複数の締結部材(例えば通しボルト)60によって締結され且つ隔壁部114に固定されている。つまり、本実施形態において、圧縮機構部30(第1圧縮機構部30A、第2圧縮機構部30B)は、隔壁部114に取り付け固定されている。
【0048】
図6は、図3のD-D断面図であり、図7は、図1のE-E断面図である。
【0049】
図6に示されるように、第1吐出消音室41Aと第2吐出消音室41Bとは、吐出連通路61を介して連通している。本実施形態において、吐出連通路61は、回転軸200の上方に設けられており、第1吐出消音室41Aを形成する第1凹部114cの底部、第1シリンダ31A、中間仕切板50、第2シリンダ31B、及び、第2吐出消音室41Bを形成する第2凹部51bの底部を貫通する通路として形成されている。また、第2吐出消音室41Bは、第2閉塞板52に形成された吐出孔52aを介して第2収容室116に連通している。
【0050】
また、図6に示されるように、第1シリンダ31Aの第1シリンダ室33A内の前記吸入室に開口する第1吸入ポート42Aは、第1吸入通路62を介して第1収容室115に連通している。本実施形態において、第1吸入通路62は、回転軸200の下方に設けられている。第1吸入通路62は、図2図3図6及び図7に示されるように、第1シリンダ31Aの第1吸入ポート42Aに隣接する部位、隔壁部114及び第1閉塞板121を貫通する通路として形成されている。ここで、図7に示されるように、第1吸入通路62は、第1閉塞板121の内部で屈曲しており、第1閉塞板121の隔壁部114側の面とは反対側の面に開口する開口端62a、すなわち、第1収容室115に開口する第1吸入通路62の入口側開口端62aは、第1収容室115の下部であって且つ第1軸孔114bの鉛直下方に位置している。
【0051】
さらに、図3及び図6に示されるように、第2シリンダ31Bの第2シリンダ室33B内の前記吸入室に開口する第2吸入ポート42Bは、中間仕切板50を貫通して第1吸入ポート42Aと第2吸入ポート42Bとを連通する第2吸入通路63と、第1吸入通路62と、を介して第1収容室115に連通している。
【0052】
ここで、潤滑油貯留部150について説明する。上述のように、本実施形態において、潤滑油貯留部150は、ハウジング110の内底部、より具体的には、第2収容室116の下部に設けられている。また、潤滑油貯留部150は、図1図2に示されるように、主貯留部151と、副貯留部152と、主貯留部151と副貯留部152とを連通する潤滑油流路153と、を含む。
【0053】
主貯留部151は、潤滑油Oの大部分を貯留する。換言すれば、主貯留部151は、潤滑油Oが一次的に貯留される一次貯留部である。主貯留部151の大きさや位置などは特に制限されないが、本実施形態において、主貯留部151は、第2ハウジング端壁部110cとこれに最も近い位置にある圧縮機構部30の構成要素(ここでは第2閉塞板52)との間に設けられ、主貯留部151の上方には空間部が形成されている。換言すれば、主貯留部151は、ハウジング110内の比較的大きな空間部の下方に位置している。
【0054】
副貯留部152は、第1圧縮機構部30Aの第1背圧室39A及び第2圧縮機構部30Bの第2背圧室39Bに導入される潤滑油Oを貯留する。副貯留部152は、主に主貯留部151から潤滑油流路153を介して移動してきた潤滑油Oを貯留する。換言すれば、副貯留部152は、潤滑油Oを二次的に貯留する二次貯留部である。図1図4に示されるように、副貯留部152は、圧縮機構部30の下部側の外周部とハウジング110の下部側の内周部との間に形成されており、第1シリンダ31Aの第1拡径部32Aの外周部とハウジング110の内周部との間に形成された第1隙間部G1と、第2シリンダ31Bの第2拡径部32Bの外周部とハウジング110の内周面との間に形成された第2隙間部G2と、を含む。
【0055】
潤滑油流路153は、主貯留部151と副貯留部152との間に設けられている。図8は、図1のF-F断面図である。図1図2図5及び図8に示されるように、本実施形態において、潤滑油流路153は、第2閉塞板52の下部側の外周部とハウジング110の内周部とによって形成された第1流路部153aと、吐出消音室形成部材51の第3拡径部51dの外周部とハウジング110の下部側の内周部とによって形成された第2流路部153bと、で構成されている。
【0056】
本実施形態において、潤滑油流路153の第2流路部153bの流路断面積(図5参照)は、副貯留部152の流路断面積(図3及び図4参照)及び潤滑油流路153の第1流路部153aの流路断面積(図8参照)に比べてかなり小さく(狭く)設定されている。
【0057】
図1に戻り、圧縮機100は、回転軸200の軸受部(第1軸孔114b、第2軸孔51a)及び圧縮機構部30(第1圧縮機構部30A、第2圧縮機構部30B)の各摺動部に潤滑油Oを供給するための油供給通路70を有している。図2に示されるように、油供給通路70は、第2閉塞板52の内部に形成された第1油通路71と、回転軸200の内部を回転軸200の軸線方向に延びる第2油通路72と、回転軸200の内部を径方向に延びる第1~第4油案内孔73~76と、を含む。
【0058】
第1油通路71は、一端(下端)が第2閉塞板52の底部に開口するとともに上方に延びた後に回転軸200の後端面に向かって屈曲し、他端(上端)が第2軸孔51a内に開口する通路として形成されている。具体的には、第1油通路71は、第2閉塞板52の底部から回転軸200に相当する位置まで垂直に延びる垂直穴と、第2閉塞板52の吐出消音室形成部材51側の面の第2軸孔51aに対応する部位から水平に延びて前記垂直穴に接続する水平穴と、で構成されている。なお、第1油通路71の前記一端(下端)、すなわち、前記垂直穴の開口部は、潤滑油貯留部150から潤滑油Oを吸い上げる、油供給通路70の吸い上げ口として機能する。
【0059】
第2油通路72は、一端(後端)が回転軸200の前記後端面に開口するとともに回転軸200内を回転軸200の軸線に沿って第1シリンダ31Aを超えた位置(第1軸孔114b内)まで延びる通路として形成されている。第2油通路72の他端(前端)は閉塞されている。第2油通路72の前記一端(後端)は第1油通路71の前記他端(上端)に接続しており、第1油通路71と第2油通路72とで一つの通路を構成している。
【0060】
第1油案内孔73は、一端が第2油通路72に開口するとともに回転軸200内を径方向に延びて他端が第2軸孔51a内に位置する回転軸200の外周面に開口している。より具体的には、第1油案内孔73の前記他端は、第2軸孔51a内における第2シリンダ31Bに隣接する部位に位置する回転軸200の外周面に開口している。すなわち、第1油案内孔73は、第2油通路72と、回転軸200の外周面と第2軸孔51aの内周面との間に形成される前記第2微小隙間と、を連通している。ここで、第2軸孔51a内に位置する回転軸200の外周面のうち第1油案内孔73の前記他端が開口する部位は、他の部位に比べて僅かに縮径されており、潤滑油溜まり部として機能する。
【0061】
第2油案内孔74は、一端が第2油通路72に開口するとともに回転軸200内を径方向に延びて他端が回転軸200の第2偏心部202の外周面に開口している(図2図4参照)。ここで、第2偏心部202の外周面のうち第2油案内孔74の前記他端が開口する部位は平坦面になっており、第2偏心部202の外周面と第2ピストン部材34Bの内周面との間には第3微小隙間が形成されている。すなわち、第2油案内孔74は、第2油通路72と、第2偏心部202の外周面と第2ピストン部材34Bの内周面との間に形成される前記第3微小隙間と、を連通している。
【0062】
第3油案内孔75は、一端が第2油通路72に開口するとともに回転軸200内を径方向に延びて他端が回転軸200の第1偏心部201の外周面に開口している。ここで、第2偏心部202と同様、第1偏心部201の外周面のうち第3油案内孔75の前記他端が開口する部位は平坦面になっており、第1偏心部201の外周面と第1ピストン部材34Aの内周面との間には第4微小隙間が形成されている。すなわち、第3油案内孔75は、第2油通路72と、第1偏心部201の外周面と第1ピストン部材34Aの内周面との間に形成される前記第4微小隙間と、を連通している。
【0063】
第4油案内孔76は、一端が第2油通路72に開口するとともに回転軸200内を径方向に延びて他端が第1軸孔114b内に位置する回転軸200の外周面に開口している。より具体的には、第4油案内孔76の前記他端は、第1軸孔114b内における第1シリンダ31Aに隣接する部位に位置する回転軸200の外周面に開口している。すなわち、第4油案内孔76は、第2油通路72と、回転軸200の外周面と第1軸孔114bの内周面との間に形成される前記第1微小隙間と、を連通している。ここで、第1軸孔114b内に位置する回転軸200の外周面のうち第4油案内孔76の前記他端が開口する部位は、他の部位に比べて僅かに縮径されており、潤滑油溜まり部として機能する。
【0064】
次に、図9及び図10を参照して圧縮機100の動作を説明する。図9は、図6に相当する図であり、圧縮機100における冷媒(ガス)の流れが矢印で示されている。図10は、図1に相当する図であり、圧縮機100における潤滑油Oの流れが矢印で示されている。
【0065】
図9に示されるように、まず、本実施形態に係る圧縮機100の圧縮対象である前記外部冷媒回路の低圧側の冷媒(低圧冷媒)が冷媒入口孔117から第1収容室115に流入する。したがって、第1収容室115の圧力は、低圧冷媒の圧力(前記外部冷媒回路の低圧側の圧力)とほぼ同等である。
【0066】
第1収容室115に流入した低圧冷媒は、電動機部10(ステータ11とロータ12との隙間)を通過し、その後、第1吸入通路62及び第1吸入ポート42Aを通過して第1圧縮機構部30Aの第1シリンダ室33Aに吸入され、第1吸入通路62、第2吸入通路63及び第2吸入ポート42Bを通過して第2圧縮機構部30Bの第2シリンダ室33Bに吸入される。低圧冷媒が電動機部10を通過することによって電動機部10が冷却される。また、上述のように、第1吸入通路62の入口側開口端62aは、第1収容室115の下部に位置しており、第1収容室115に下部に潤滑油Oが貯留されている場合、貯留されている潤滑油Oの一部が低圧冷媒とともに第1シリンダ室33A及び第2シリンダ室33Bに吸入され得る。
【0067】
第1シリンダ室33Aに吸入された低圧冷媒は、第1ピストン部材34Aの偏心回転によって第1シリンダ室33A内で圧縮されて高圧冷媒となる。高圧冷媒は、第1シリンダ室33Aから第1吐出ポート43A(図3参照)及び第1連通孔114d(図2参照)を介して第1吐出消音室41Aに吐出され、その後、吐出連通路61を通過して第2吐出消音室41Bに流入する。
【0068】
第2シリンダ室33Bに吸入された低圧冷媒は、第2ピストン部材34Bの偏心回転によって第2シリンダ室33B内で圧縮されて高圧冷媒となる。高圧冷媒は、第2シリンダ室33Bから第2吐出ポート43B(図4参照)及び第2連通孔51c(図2参照)を介して第2吐出消音室41Bに吐出される。
【0069】
第1シリンダ室33Aから吐出された高圧冷媒及び第2シリンダ室33Bから吐出された高圧冷媒は第2吐出消音室41Bで合流し、合流した高圧冷媒が吐出孔52aを介して第2収容室116に吐出される。つまり、第2収容室116は、圧縮機構部30で圧縮された高圧冷媒が吐出される「吐出室」を構成している。したがって、第2収容室116の圧力は、高圧冷媒の圧力(前記外部冷媒回路の高圧側の圧力)とほぼ同等である。
【0070】
第2収容室116に吐出された高圧冷媒は、第2ハウジング端壁部110cなどに接触及び/又は衝突し、これによって、高圧冷媒からそこ含まれた潤滑油Oが分離される。潤滑油Oが分離された後の高圧冷媒は、その後、冷媒出口孔118を介して前記外部冷媒回路の高圧側に流出する。一方、高圧冷媒から分離された潤滑油Oは、重力によって下方に移動して潤滑油貯留部150(主に主貯留部151)に貯留される。
【0071】
上述のように、潤滑油貯留部150において、副貯留部152は、潤滑油流路153を介して主貯留部151に連通している。このため、図10に示されるように、主貯留部151に貯留されている潤滑油Oの一部は、潤滑油流路153を介して副貯留部152に移動して副貯留部152に貯留される。
【0072】
副貯留部152に貯留されている潤滑油Oは、第1潤滑油導入孔40Aを介して第1圧縮機構部30Aの第1背圧室39Aに導入され、第2潤滑油導入孔40Bを介して第2圧縮機構部30Bの第2背圧室39Bに導入される。第1背圧室39A内の潤滑油Oは、中間仕切板50に形成された連通孔50aを介して第2背圧室39Bに移動可能であり、第2背圧室39B内の潤滑油Oは、中間仕切板50に形成された連通孔50aを介して第1背圧室39Aに移動可能である。
【0073】
また、上述のように、回転軸200の軸受部及び圧縮機構部30の各摺動部に潤滑油Oを供給するための油供給通路70は、第2閉塞板52の内部に形成された第1油通路71と、回転軸200の内部を回転軸200の軸線方向に延びる第2油通路72と、回転軸200の内部を径方向に延びる第1~第4油案内孔73~76と、を含む。
【0074】
油供給通路70の一端側(第1油通路71の一端(下端))は、第2収容室116内に位置している。また、油供給通路70の他端側(第4油案内孔76)は、第1軸孔114bを介して、より具体的には、回転軸200の外周面と第1軸孔114bの内周面との間に形成される前記第1微小隙間を介して第1収容室115に連通している。そして、第1収容室115の圧力は低圧冷媒の圧力と同等であり、第2収容室116の圧力は高圧冷媒の圧力と同等である。すなわち、第2収容室116の圧力の方が第1収容室115の圧力よりも高い。
【0075】
このため、第2収容室116と第1収容室115との圧力差により、潤滑油貯留部150の潤滑油Oが油供給通路70に吸い上げられる。具体的には、潤滑油貯留部150の潤滑油Oが第1油通路71の前記一端(下端)から第1油通路71に流入して第2油通路72に導かれる。
【0076】
第2油通路72に導かれた潤滑油Oは、第4油案内孔76を介して第1軸孔114bに供給される。また、第2油通路72に導かれた潤滑油Oは、第1油案内孔73を介して第2軸孔51aに供給される。さらに、第2油通路72に導かれた潤滑油Oは、第2油案内孔74を介して第2ピストン部材34Bの内側に導かれ、そこから第2圧縮機構部30Bの各摺動部に供給される。同様に、第2油通路72に導かれた潤滑油Oは、第3油案内孔75を介して第1ピストン部材34Aの内側に導かれ、そこから第1圧縮機構部30Aの各摺動部に供給される。
【0077】
第1軸孔114bに供給された潤滑油Oは、第1軸孔114bの内周面と回転軸200の外周面との間に形成される前記第1微小隙間を通過して第1収容室115に流出する。第1収容室115に流出した潤滑油Oは、その後に落下して第1収容室115の下部に貯留され、あるいは、第1収容室115内の低圧冷媒とともに、第1圧縮機構部30Aの第1シリンダ室33A及び第2圧縮機構部30Bの第2シリンダ室33Bに吸入される。
【0078】
本実施形態に係る圧縮機100によれば次のような効果が得られる。
【0079】
潤滑油貯留部150は、高圧の第2収容室116の下部に設けられている。第1圧縮機構部30Aにおいて、第1背圧室39Aには、第1潤滑油導入孔40Aを介して潤滑油貯留部150の副貯留部152に貯留された高圧の潤滑油Oが導入される。このため、第1ベーン35Aには第1背圧室39Aの圧力(高圧の潤滑油Oの圧力)と第1シリンダ室33Aの圧力との差圧が前記背圧として作用し、第1ベーン35Aは第1ピストン部材34Aに押し付けられる。つまり、第1ベーン35Aは、第1付勢部材37Aによる付勢力と第1背圧室39Aに導入された高圧の潤滑油Oの圧力に基づく押し付け力とによって第1ピストン部材34Aに押し付けられる。同様に、第2圧縮機構部30Bにおいて、第2背圧室39Bには、第2潤滑油導入孔40Bを介して潤滑油貯留部150の副貯留部152に貯留された高圧の潤滑油Oが導入され、第2ベーン35Bは、第2付勢部材37Bによる付勢力と第2背圧室39Bに導入された高圧の潤滑油Oの圧力に基づく押し付け力とによって第2ピストン部材34Bに押し付けられる。
【0080】
したがって、第1ベーン35Aは、十分な押し付け力で第1ピストン部材34Aに押し付けられることになり、第1ベーン35Aの第1ピストン部材34Aからの離隔が抑制される。同様に、第2ベーン35Bは、十分な押し付け力で第2ピストン部材34Bに押し付けられることになり、第2ベーン35Bの第2ピストン部材34Bからの離隔が抑制される。
【0081】
ところで、第1ベーン35Aは、第1ピストン部材34Aの偏心回転に伴って第1ベーン溝36A内を往復動する。すなわち、第1ベーン35Aは、第1付勢部材37Aの付勢力などによって第1シリンダ室33A内に進出すること及び第1ピストン部材34Aに押圧されて第1シリンダ室33Aから退出すること(第1ピストン部材34Aによって押し戻されること)を繰り返す。第1ベーン35Aが往復動すると第1背圧室39Aの容積が変化する。同様に、第2ベーン35Bは、第2ピストン部材34Bの偏心回転に伴って第2ベーン溝36B内を往復動し、第2ベーン35Bの往復動に応じて第2背圧室39Bの容積が変化する。他方、潤滑油Oは比較的粘度が高いため、特に高速回転時に、つまり、第1ベーン35A及び第2ベーン35Bが高速で往復動するときに以下のような現象が発生するおそれがある。
【0082】
第1背圧室39Aの容積が増加したとき、容積増加に見合う量の潤滑油Oが速やかに第1背圧室39Aに導入されず、その結果、第1背圧室39Aの圧力が一時的に低下する。同様に、第2背圧室39Bの容積が増加したとき、容積増加に見合う量の潤滑油Oが速やかに第2背圧室39Bに導入されず、その結果、第2背圧室39Bの圧力が一時的に低下する。前者は第1ベーン35Aの第1ピストン部材34Aからの離隔を招き、後者は第2ベーン35Bの第2ピストン部材34Bからの離隔を招く。このため、これらの現象の発生を抑制することが望まれる。
【0083】
本実施形態においては、第1圧縮機構部30Aの第1背圧室39Aと第2圧縮機構部30Bの第2背圧室39Bとが中間仕切板50に形成された連通孔50aを介して連通している。また、第1ピストン部材34Aと第2ピストン部材34Bとは180°の位相差を有して偏心回転する。このため、第1ベーン35Aが第1ピストン部材34Aによって押し戻されて第1背圧室39Aの容積が減少すると、第1背圧室39A内の高圧の潤滑油Oが連通孔50aを通過して容積が増加した第2背圧室39Bへと移動する。同様に、第2ベーン35Bが第2ピストン部材34Bによって押し戻されて第2背圧室39Bの容積が減少すると、第2背圧室39B内の高圧の潤滑油Oが連通孔50aを通過して容積が増加した第1背圧室39Aへと移動する。つまり、第1背圧室39Aと第2背圧室39Bとの間で高圧の潤滑油Oの授受が直接的に行われる。
【0084】
したがって、容積が増加した第1背圧室39Aへの潤滑油Oの導入及び容積が増加した第2背圧室39Bへの潤滑油Oの導入が速やかに行われることとなり、上述の現象の発生が抑制される。
【0085】
特に、本実施形態において、第1背圧室39Aは第1潤滑油導入孔40Aを介して副貯留部152の第1隙間部G1に連通しており、第2背圧室39Bは第2潤滑油導入孔40Bを介して副貯留部152の第2隙間部G2に連通している。そして、第1隙間部G1の流路断面積及び第2隙間部G2の流路断面積は、連通孔50aの開口面積(流路断面積)よりも小さい。このため、容積が減少した第1背圧室39Aから副貯留部152への潤滑油Oの流出及び容積が減少した第2背圧室39Bから副貯留部152への潤滑油Oの流出が抑制される。
【0086】
したがって、第1背圧室39Aと第2背圧室39Bとの間における高圧の潤滑油Oの授受が効率的に行われ、上述の現象の発生が効果的に抑制される。
【0087】
また、第1背圧室39Aに導入された潤滑油Oは、第1ベーン35Aと第1ベーン溝36Aとの間のシールなどにも使用され、第2背圧室39Bに導入された潤滑油Oは、第2ベーン35Bと第2ベーン溝36Bとの間のシールなどにも使用される。このため、高速回転時には低速回転時に比べて多くの潤滑油Oが第1背圧室39A及び第2背圧室39Bに導入される必要がある。
【0088】
本実施形態において、潤滑油Oの大部分を貯留する主貯留部151と第1圧縮機構部30Aの第1背圧室39A及び第2圧縮機構部30Bの第2背圧室39Bに導入される潤滑油Oを貯留する副貯留部152とを連通する潤滑油流路153は、副貯留部152の流路断面積よりも小さい流路断面積を有する第2流路部153bを有している。このため、第2流路部153bが潤滑油流路153における「絞り」として機能し、副貯留部152からの潤滑油Oの流出が抑制される。
【0089】
したがって、例えば高速回転時に圧縮機100が傾斜等した場合であっても副貯留部152の潤滑油Oが不足すること、さらに言えば、第1背圧室39A及び第2背圧室39Bに導入される潤滑油Oが不足することが抑制される。なお、本実施形態においては、第2流路部153bが本発明の「狭隘部」に相当する。
【0090】
また、潤滑油流路153が副貯留部152の流路断面積よりも流路断面積が小さい第2流路部153b(すなわち、狭隘部)を有することにより、主貯留部151の潤滑油Oは第1ベーン35Aの往復動及び第2ベーン35Bの往復動の影響をほとんど受けない。すなわち、主貯留部151の潤滑油Oは、第1ベーン35Aの往復動及び第2ベーン35Bの往復動によってはほとんど攪拌されない。したがって、高圧冷媒とともに冷媒出口孔118から流出する潤滑油Oが低減される。
【0091】
さらに、本実施形態において、潤滑油貯留部150から潤滑油Oを吸い上げる吸い上げ口として機能する第1油通路の前記一端(下端)は、第2閉塞板52の底部に開口している。つまり、油供給通路70は、潤滑油貯留部150における第2流路部153bよりも主貯留部151側の潤滑油O、すなわち、第1ベーン35Aの往復動及び第2ベーン35Bの往復動の影響をほとんど受けない(ほとんど攪拌されない)潤滑油Oを吸い上げている。したがって、油供給通路70による潤滑油Oの吸い上げ、ひいては、回転軸200の軸受部及び圧縮機構部30の各摺動部への潤滑油Oの供給が安定して行われる。
【0092】
なお、上述の実施形態において、圧縮機100は、回転軸200と、回転軸200を回転させる電動機部10と、回転軸200によって駆動される圧縮機構部30と、をハウジング110の内部に有している。しかし、これに限られるものではない。例えば、圧縮機100は、電動機部10をハウジング110の内部に有さずに、ハウジング110の外部にある駆動源によって回転軸200が回転させられるように構成されてもよい。圧縮機100がこのように構成されると、回転軸200の一部がハウジング110の外部に突出する場合があるが、この場合も「圧縮機が回転軸をハウジングの内部に有する」ことに含まれる。
【0093】
以上、本発明の実施形態及びその変形例について説明したが、本発明は、上述の実施形態及び変形例に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらなる変形及び変更が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0094】
10…電動機部、11…ステータ、12…ロータ、30…圧縮機構部、30A…第1圧縮機構部、30B…第2圧縮機構部、31A…第1シリンダ、31B…第2シリンダ、33A…第1シリンダ室、33B…第2シリンダ室、34A…第1ピストン部材、34B…第2ピストン部材、35A…第1ベーン、35B…第2ベーン、37A…第1付勢部材、37B…第2付勢部材、39A…第1背圧室、39B…第2背圧室、40A…第1潤滑油導入孔、40B…第2潤滑油導入孔、50…中間仕切板(仕切部材)、50a…連通孔、51…吐出消音室形成部材、51a…第2軸孔(軸受部)、70…油供給通路、100…横置き型ロータリ圧縮機、114…隔壁部、114b…第1軸孔(軸受部)、115…第1収容室、116…第2収容室、150…潤滑油貯留部、151…主貯留部、152…副貯留部、153…潤滑油流路、153a…第1流路部、153b…第2流路部(狭隘部)、200…回転軸、G1…第1隙間部、G2…第2隙間部、O…潤滑油
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