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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】ガス発生器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/264 20060101AFI20240807BHJP
【FI】
B60R21/264
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020096206
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021187363
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪妻 利広
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-059484(JP,A)
【文献】特開2013-226889(JP,A)
【文献】特開2016-034768(JP,A)
【文献】特開2002-090097(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0254454(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/264
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板部を有する下側容器及び天板部を有する上側容器を含み、ガス発生剤が収容された燃焼室を内部に有する外殻容器と、
点火薬が収容された点火部を有し、樹脂製の保持部を介して前記底板部に組付けられた点火器と、
を備え、
前記保持部は、前記点火器を前記底板部に固定するベース部と、前記ベース部から前記天板部に向かって延設されると共に内側に伝火薬を収容する伝火室が前記点火部に面するように形成された筒状の内筒壁部と、を有し、
前記保持部に装着されるカップ状カバー体であって、前記内筒壁部の上端に形成された上端開口を覆う頂壁部と、前記頂壁部から前記底板部に向かって延設されると共に前記内筒壁部に沿って配置された筒状の側壁部を含み、前記頂壁部及び前記側壁部の何れもこれらを板厚方向に貫通する開口を有しないカップ状カバー体を、更に備え、
前記点火薬の着火に伴う前記伝火薬の燃焼により、前記カップ状カバー体及び前記内筒壁部が溶融又は破裂することによって前記伝火室と前記燃焼室が連通する、
ガス発生器。
【請求項2】
前記カップ状カバー体は、前記側壁部が前記内筒壁部に外挿されている、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記カップ状カバー体は、前記側壁部の下端部が前記ベース部に圧入されている、請求項2に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記内筒壁部及び前記側壁部は円筒形状を有し、前記側壁部の下端部が拡径している、請求項2又は3に記載のガス発生器。
【請求項5】
前記頂壁部は、当該頂壁部が前記側壁部と接続される周縁部と、前記周縁部から前記天板部に向かって突設されると共に撓み変形によって当該周縁部からの突出度合いが変更可能な突出部と、を含む、請求項1から4の何れか一項に記載のガス発生器。
【請求項6】
前記ベース部と前記内筒壁部とが一体に形成されている、請求項1から5の何れか一項
に記載のガス発生器。
【請求項7】
底板部を有する下側容器及び天板部を有する上側容器を含む外殻容器にガス発生剤が収容されるガス発生器の製造方法であって、
点火薬が収容された点火部を有する点火器を前記底板部に固定するベース部と、前記点火部を囲むように前記ベース部から前記底板部の反対側に向かって延設される筒状の内筒壁部と、を含む樹脂製の保持部を介して前記点火器が前記底板部に組付けられた下側容器を用意する準備工程と、
前記内筒壁部の上端に形成された上端開口を上向き姿勢とした状態で、前記内筒壁部の内側に形成された伝火室に伝火薬を前記上端開口から充填する伝火薬充填工程と、
頂壁部と、当該頂壁部から延設される筒状の側壁部と、を含み、前記頂壁部及び前記側壁部の何れもこれらを板厚方向に貫通する開口を有しないカップ状カバー体を用意し、前記頂壁部が前記上端開口を覆うと共に前記側壁部が前記内筒壁部に沿って配置されるように前記カップ状カバー体を前記保持部に装着するカバー装着工程と、
前記カップ状カバー体の外側に形成される燃焼室にガス発生剤を充填するガス発生剤充填工程と、
前記下側容器及び前記上側容器を一体に接合することで前記燃焼室を封止する封止工程と、
を有し、
前記準備工程においては、前記点火薬の着火に伴う前記伝火薬の燃焼により前記内筒壁部が溶融又は破裂可能に形成された前記保持部を介して前記点火器を前記底板部に組付け、
前記カバー装着工程においては、前記点火薬の着火に伴う前記伝火薬の燃焼により溶融又は破裂可能に形成された前記カップ状カバー体を用意する、
ガス発生器の製造方法。
【請求項8】
前記カバー装着工程において、前記側壁部を前記内筒壁部に外挿する、請求項7に記載のガス発生器の製造方法。
【請求項9】
前記カバー装着工程において、前記側壁部の下端部を前記ベース部に圧入する、請求項8に記載のガス発生器の製造方法。
【請求項10】
前記点火器は、樹脂成形によって前記底板部と一体に組付けられる、請求項7から9の何れか一項に記載のガス発生器の製造方法。
【請求項11】
前記ベース部と前記内筒壁部とを樹脂成形によって一体に形成する、請求項7から10の何れか一項に記載のガス発生器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の乗員を保護する乗員保護装置としてエアバッグ装置が知られている。エアバッグ装置は、車両衝突時に瞬時にエアバッグを膨張、展開させることにより、車両衝突時に生じる衝撃から乗員を保護するための装置である。
【0003】
エアバッグ装置には、作動時にエアバッグを膨張、展開させるためのガスを供給するためのガス発生器が備えられている。この種のガス発生器として、ハウジング内に点火器とガス発生剤とを配置し、点火器を作動させることでガス発生剤を燃焼させ、その燃焼ガスをハウジングに形成されたガス排出孔から外部へ放出するものが広く用いられている。
【0004】
また、ガス発生剤が収容された燃焼室と点火器との間に燃焼促進剤としての伝火薬(エンハンサ)が配置されたガス発生器も知られている。一般に、伝火薬は、エンハンサカップと呼ばれるカップ状部材の内部に設けられた伝火室に収容され、この伝火室が点火器の点火部に面するようにエンハンサカップが燃焼室内に突出した状態で配置される。エンハンサカップには、伝火室と燃焼室とを連通する連通孔が形成されており、点火器の作動前においてはシールテープ等によって連通孔が閉塞されている。一方、点火器が作動すると、伝火薬が燃焼することで生成された燃焼ガスの圧力によってシールテープが開裂し、伝火室と燃焼室が連通する。その結果、エンハンサカップの連通孔から放出される火炎によってガス発生剤をより確実に燃焼させることができる。
【0005】
これに関連して、特許文献1の図8には、ハウジング12の底板に点火器16を一体に固定する樹脂ベース20の一部を天板側に向かって延在させた周壁部60の内側にブースター剤23を収容するブースター室24を形成し、周壁部60の外周側にガス排出開口を有するカップ32が被せられたガス発生器10が開示されている。そして、ガス発生器10の作動時には、周壁部60のうちカップ32のガス排出開口に対応する部分が開裂することでカップ32のガス排出開口がブースター室24とカップ32の外側の燃焼室30を連通した状態となる。その結果、カップ32のガス排出開口から放出されるブースター剤23の燃焼ガスや火炎によって燃焼室30に収容されたガス発生剤に着火することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第7540241号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のガス発生器10においては、作動時にブースター室24のブースター剤23が燃焼することで生成された燃焼ガスがカップ32のガス排出開口を通じて燃焼室30内に供給されるため、燃焼室30内のガス発生剤はカップ32のガス排出開口の近傍から着火されることになる。そのため、燃焼室30全体へのガス発生剤の着火遅れが生じ、ガス発生器の作動時におけるガス出力の遅延が生じてしまうことが懸念される。一方で、ガス発生器を製造する際、ガス発生器に組み込まれる各部品の組み付けを容易にすることは製造効率の向上の観点から好ましい。
【0008】
本開示の技術は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ガス発生剤の着火遅れを抑制し、且つ、従来よりも製造効率が改善されたガス発生器及びその製造方法に関する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の技術は、以下の構成を採用した。即ち、本開示の技術の一態様は、底板部を有する下側容器及び天板部を有する上側容器を含み、ガス発生剤が収容された燃焼室を内部に有する外殻容器と、点火薬が収容された点火部を有し、樹脂製の保持部を介して前記底板部に組付けられた点火器と、を備え、前記保持部は、前記点火器を前記底板部に固定するベース部と、前記ベース部から前記天板部に向かって延設されると共に内側に伝火薬を収容する伝火室が前記点火部に面するように形成された筒状の内筒壁部と、を有し、前記保持部に装着されるカップ状カバー体であって、前記内筒壁部の上端に形成された上端開口を覆う頂壁部と、前記頂壁部から前記底板部に向かって延設されると共に前記内筒壁部に沿って配置された筒状の側壁部を含み、前記頂壁部及び前記側壁部の何れもこれらを板厚方向に貫通する開口を有しないカップ状カバー体を、更に備え、前記点火薬の着火に伴う前記伝火薬の燃焼により、前記カップ状カバー体及び前記内筒壁部が溶融又は破裂することによって前記伝火室と前記燃焼室が連通する、ガス発生器である。
【0010】
ここで、前記カップ状カバー体は、前記側壁部が前記内筒壁部に外挿されていても良い。
【0011】
また、前記カップ状カバー体は、前記側壁部の下端部が前記ベース部に圧入されていても良い。
【0012】
また、前記内筒壁部及び前記側壁部は円筒形状を有し、前記側壁部の下端部が拡径していても良い。
【0013】
また、前記頂壁部は、当該頂壁部が前記側壁部と接続される周縁部と、前記周縁部から前記天板部に向かって突設されると共に撓み変形によって当該周縁部からの突出度合いが変更可能な突出部と、を含んでいても良い。
【0014】
また、前記ベース部と前記内筒壁部とが一体に形成されていても良い。
【0015】
また、本開示の技術の一態様は、底板部を有する下側容器及び天板部を有する上側容器を含む外殻容器にガス発生剤が収容されるガス発生器の製造方法であって、点火薬が収容された点火部を有する点火器を前記底板部に固定するベース部と、前記点火部を囲むように前記ベース部から前記底板部の反対側に向かって延設される筒状の内筒壁部と、を含む樹脂製の保持部を介して前記点火器が前記底板部に組付けられた下側容器を用意する準備工程と、前記内筒壁部の上端に形成された上端開口を上向き姿勢とした状態で、前記内筒壁部の内側に形成された伝火室に伝火薬を前記上端開口から充填する伝火薬充填工程と、頂壁部と、当該頂壁部から延設される筒状の側壁部と、を含み、前記頂壁部及び前記側壁部の何れもこれらを板厚方向に貫通する開口を有しないカップ状カバー体を用意し、前記頂壁部が前記上端開口を覆うと共に前記側壁部が前記内筒壁部に沿って配置されるように前記カップ状カバー体を前記保持部に装着するカバー装着工程と、前記カップ状カバー体の外側に形成される燃焼室にガス発生剤を充填するガス発生剤充填工程と、前記下側容器及び前記上側容器を一体に接合することで前記燃焼室を封止する封止工程と、を有し、前記カップ状カバー体及び前記内筒壁部は、前記点火薬の着火に伴う前記伝火薬の燃焼により溶融又は破裂することによって前記伝火室と前記燃焼室を連通可能に形成されている、ガス発生器の製造方法である。
【0016】
また、前記カバー装着工程において、前記側壁部を前記内筒壁部に外挿しても良い。
【0017】
また、前記カバー装着工程において、前記側壁部の下端部を前記ベース部に圧入しても良い。
【発明の効果】
【0018】
本開示の技術によれば、ガス発生剤の着火遅れを抑制し、且つ、従来よりも製造効率が改善されたガス発生器及びその製造方法に関する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施形態1に係るガス発生器の中心軸に沿った内部構造を概略的に示す軸方向断面図である。
図2図2は、実施形態1におけるガス発生器の製造手順を説明する図である。
図3図3は、準備工程に対応する状況を説明する図である。
図4図4は、伝火薬充填工程に対応する状況を説明する図である。
図5図5は、カバー装着工程に対応する状況を説明する図である。
図6図6は、カバー装着工程に対応する状況を説明する図である。
図7図7は、フィルタ載置工程に対応する状況を説明する図である。
図8図8は、フィルタ載置工程に対応する状況を説明する図である。
図9図9は、ガス発生剤充填工程に対応する状況を説明する図である。
図10図10は、封止工程に対応する状況を説明する図である。
図11図11は、従来におけるガス発生器の組み付け手順を説明する図である。
図12図12は、従来におけるガス発生器の組み付け手順を説明する図である。
図13図13は、実施形態1の変形例1に係るガス発生器の内部構造を示す図である。
図14図14は、実施形態1の変形例1に係るカップ状カバー体の上面図である。
図15図15は、実施形態1の変形例2に係るガス発生器の内部構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態に係るガス発生器及びその製造方法について説明する。なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0021】
<実施形態1>
[全体構成]
図1は、実施形態1に係るガス発生器100の中心軸Xに沿った内部構造を概略的に示す軸方向断面図である。以下、図1に示すように、ガス発生器100を中心軸Xに沿って切断した断面をガス発生器100の「縦断面」という場合がある。また、ガス発生器100の中心軸Xに沿った方向をガス発生器100の「上下方向」という場合がある。図1では、ガス発生器100の作動前の状態が示されている。ガス発生器100は、例えばエアバッグを膨張、展開させるためのガスをエアバッグに供給するためのエアバッグ用ガス発生器である。
【0022】
図1に示すように、ガス発生器100は、ハウジング1、点火器4、樹脂製保持部5、フィルタ6、カップ状カバー体7、伝火薬110、ガス発生剤120等を備えている。ガ
ス発生器100は、点火器4を作動させることでガス発生剤120を燃焼させ、その燃焼生成物である燃焼ガスをハウジング1に形成されたガス排出孔11から放出するように構成されている。以下、ガス発生器100の各構成について説明する。
【0023】
[ハウジング]
ハウジング1はガス発生器100を構成する各部品を収容する金属製の外殻容器であり、上側容器2及び下側容器3を含んで構成されている。上側容器2及び下側容器3は、それぞれ有底略円筒状に形成されており、これらが互いの開口端同士を向き合わせた状態で接合されることで、中心軸X方向の両端が閉塞した短尺円筒状の外殻容器としてハウジング1が形成されている。上側容器2及び下側容器3は、例えばステンレス鋼板をプレス加工することで成形することができる。
【0024】
ハウジング1の内部には、点火器4、フィルタ6、カップ状カバー体7、伝火薬110、及びガス発生剤120等が配置されている。また、ハウジング1の内部には、燃焼室10が形成されており、燃焼室10にガス発生剤120が収容されている。ここで、ハウジング1の中心軸X方向に沿った方向において、上側容器2側(即ち、図1における上側)をガス発生器100の上側とし、下側容器3側(即ち、図1における下側)をガス発生器100の下側とする。
【0025】
上側容器2は、筒状の上側周壁部21と該上側周壁部21の上端を閉塞する天板部22とを有している。上側容器2は、天板部22が平面視において概ね円形状を有しており、上側周壁部21の下端部が開放端として形成されている。また、上側容器2における上側周壁部21の下端部には、径方向外方に向かって鍔状に延在する接合部23が設けられている。また、下側容器3は、筒状の下側周壁部31と該下側周壁部31の下端を閉塞する底板部32とを有している。下側容器3は、底板部32が平面視において概ね円形状を有しており、下側周壁部31の上端部が開放端として形成されている。また、下側周壁部31の上端部には、径方向外方に向かって鍔状に延在する接合部33が連設されている。また、下側容器3における底板部32の中央には、点火器4を底板部32に取り付けるための取付孔320が形成されている。
【0026】
上側容器2の接合部23と下側容器3の接合部33は、互いに重ね合わされてレーザ溶接等によって接合されることでハウジング1が形成されている。また、上側容器2の上側周壁部21には、ハウジング1の内部空間と外部空間とを連通するガス排出孔11が、周方向に沿って複数並んで形成されている。ガス排出孔11は、点火器4が作動する前の状態では、封止テープ11Aによって内側から閉塞されている。封止テープ11Aとしては、例えば片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔等を利用することができる。
【0027】
ここで、下側容器3における底板部32は、下側周壁部31の下端に接続される環状の外周底壁部321と、外周底壁部321の径方向内周側から上方に向かって(すなわち、ハウジング1の内側に向かって)隆起する隆起底壁部322を含んでいる。隆起底壁部322は、外周底壁部321の径方向内周側から略垂直に立設する円筒状の円筒壁部322Aと、円筒壁部322Aの上端側がハウジング1の中心側に向かって折り曲げられることで形成された環状の鍔部322Bを含んでいる。点火器4を底板部32に取り付けるための取付孔320は、隆起底壁部322における鍔部322Bの内周縁に沿って形成されている。なお、図1に示す符号32Aは、下側容器3における底板部32(具体的には外周底壁部321)の外面である。
【0028】
[点火器]
点火器4は、下側容器3の底板部32(隆起底壁部322)に形成された取付孔320に樹脂製保持部5を介して固定されている。点火器4は、金属製のカップ体の内部に点火
薬が収容された点火部41と一対の導電ピン42,42等を有する電気式の点火器である。一対の導電ピン42,42には、カップ体に収容された点火薬を着火するための着火電流が供給されるようになっている。一対の導電ピン42,42の基端側は、樹脂製保持部5によって電気的絶縁状態に保持されてカップ体の内部に挿入されている。また、一対の導電ピン42,42の基端同士を連結するように、カップ体の内部に設けられたブリッジワイヤ(抵抗体)が連架されている。ブリッジワイヤは、例えばニクロム線等であってもよい。また、点火薬としては、ZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコ
ニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、THPP(水素化チタン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等を採用してもよい。なお、点火薬は、ブリッジワイヤに接触した状態でカップ体の内部に収容されている。
【0029】
点火器4を作動させる際、一対の導電ピン42,42に供給される着火電流によってブリッジワイヤが発熱する。その結果、点火器4のカップ体の内部に収容された点火薬が着火、燃焼し、燃焼生成物(例えば、火炎)が生成される。そして、点火薬の燃焼に伴ってカップ体の内部圧力が上昇し、カップ体が開裂することで、カップ体の開裂箇所から燃焼生成物が放出される。また、点火器4における一対の導電ピン42,42の一部は、取付孔320を通じてハウジング1の外側に形成されたコネクタ挿入空間S1に露出するように配置されている。コネクタ挿入空間S1は外部コネクタを挿入するための空間であり、樹脂製保持部5の一部によって形成されている。
【0030】
[樹脂製保持部]
樹脂製保持部5は、点火器4を下側容器3の底板部32(隆起底壁部322)に固定する円柱状のベース部51、ベース部51から天板部22に向かって上方に延設される円筒状の内筒壁部52等を含んで構成されている。樹脂製保持部5は、例えば樹脂材料を下側容器3の隆起底壁部322及び点火器4間に射出成形することによって形成されている。例えば、射出成形金型内にそれぞれ配置した下側容器3の隆起底壁部322及び点火器4の周りに、加熱溶融させた樹脂材料を射出注入して、点火器4及び隆起底壁部322と樹脂材料を一体化することで、下側容器3の隆起底壁部322に点火器4を固定することができる。樹脂製保持部5は、点火器4における点火部41をハウジング1の収容空間側に配置すると共に、一対の導電ピン42,42をハウジング1の外側に露出させた状態でハウジング1の収容空間を封止するように、下側容器3の隆起底壁部322と点火器4を一体に接合している。
【0031】
樹脂製保持部5のベース部51は、樹脂材料が密実に充填されることで円柱状に形成されている。ベース部51は、例えばハウジング1の中心軸Xと同軸に配置されている。ベース部51の外周面51Aには、カップ状カバー体7の下端側が圧入されており、これによってカップ状カバー体7を保持するように構成されている。なお、本実施形態における樹脂製保持部5のベース部51及び内筒壁部52が一体に形成されているが、これには限定されない。
【0032】
樹脂製保持部5の内筒壁部52は、円筒形状を有する。内筒壁部52は、ベース部51の上面51Bから上方に向けて立設しており、その内側に伝火薬110を収容する伝火室8が形成されている。内筒壁部52の上端は開放端となっており、当該開放端に上端開口52Aが形成されている。また、内筒壁部52は、点火器4における点火部41の周囲を囲むように配置されている。そのため、内筒壁部52の内側に形成される伝火室8は、点火器4における点火部41に面するように形成されている。ガス発生器100の製造時においては、内筒壁部52の上端開口52Aから伝火室8に伝火薬110を充填することができる。
【0033】
伝火室8に収容される伝火薬110は特に限定されないが、着火性に優れ、ガス発生剤
120よりも燃焼温度の高いガス発生剤を使用することが好ましい。伝火薬110としては、例えばニトログアニジン(34重量%)、硝酸ストロンチウム(56重量%)からなる公知のものを用いることができる。あるいは、伝火薬110としては公知の黒色火薬(ボロン硝石)等を使用してもよい。また、伝火薬110の形態は特に限定されず、粉状であってもよいし、バインダー等によって例えば顆粒状、ペレット状、円柱状、ディスク状等、種々の形状に成形されていてもよい。
【0034】
伝火薬110は、点火器4の作動時に点火部41のカップ体から放出される点火薬の燃焼生成物によって着火し、燃焼ガスを発生させる。また、ハウジング1の内部において、樹脂製保持部5における内筒壁部52の外側にガス発生剤120を収容する燃焼室10が形成されている。つまり、樹脂製保持部5における内筒壁部52は、燃焼室10と伝火室8とをハウジング1内の収容空間を平面方向に区画している。なお、符号52Bは、内筒
壁部52の外周面である。また、図1に示す符号52Cは、内筒壁部52の内周面である。なお、樹脂製保持部5におけるベース部51及び内筒壁部52は何れも樹脂製である。また、樹脂製保持部5を構成する樹脂材料としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が例示される。
【0035】
[カップ状カバー体]
図1に示すように、カップ状カバー体7は樹脂製保持部5に装着された部材であり、有底円筒形状を有している。より詳しくは、カップ状カバー体7は、平面視が円形状の頂壁部71と、当該頂壁部71から底板部32に向かって下方に延設される円筒状の側壁部72が一体的に構成されている。カップ状カバー体7の頂壁部71は、樹脂製保持部5における内筒壁部52の上端開口52Aを覆うように配置されている。また、カップ状カバー体7における円筒状の側壁部72は、内筒壁部52に沿って配置されている。
【0036】
本実施形態においては、カップ状カバー体7における側壁部72の内径が、樹脂製保持部5における内筒壁部52の外径よりも若干大きい寸法に設定されており、側壁部72が内筒壁部52に外挿されている。内筒壁部52の仕様は、カップ状カバー体7を外挿する際に干渉しない程度でよい。更に、本実施形態においては、カップ状カバー体7における側壁部72の内径は、ベース部51の直径と等しいか、ベース部51の直径よりも若干小さな寸法に設定されており、側壁部72の下端部721がベース部51に圧入されることで固定されている。あるいはベース部51の周囲に円周方向に複数の突起を形成しておき、その突起の各々に対して側壁部72の下端部721を圧入してもよい。但し、カップ状カバー体7における側壁部72の内径が内筒壁部52の外径と等しくても良い。また、カップ状カバー体7における側壁部72の下端部721が樹脂製保持部5におけるベース部51に圧入されていなくても良い。
【0037】
ここで、本実施形態におけるカップ状カバー体7は、頂壁部71及び側壁部72の何れもこれらを板厚方向に貫通する開口を有していない中実である。また、本実施形態におけるガス発生器100は、作動時に点火薬の着火に伴う伝火薬100の燃焼によりカップ状カバー体7及び内筒壁部52が溶融又は破裂することによって伝火室8と燃焼室10が連通するように構成されている。例えば、カップ状カバー体7は薄いアルミニウム製のカップ体であっても良い。但し、カップ状カバー体7の材料は特に限定されず、種々の材料を使用することができる。また、内筒壁部52は樹脂製であり、伝火室8における伝火薬100が燃焼した際に容易に溶融又は破裂が可能である。そのため内筒壁部52には板厚方向に貫通する開口を有さない中実であってもよい。
【0038】
[フィルタ]
フィルタ6は、例えば円筒形状を有し、ハウジング1と同心円状に配置されている。フィルタ6は、例えば、ステンレス鋼製平編の金網を半径方向に重ね、半径方向及び軸方向に圧縮することで形成することができる。フィルタ6の内側には間隔をおいて内筒壁部52に装着されたカップ状カバー体7が配置されており、フィルタ6の内周面61とカップ状カバー体7との間に形成された環状空間によってガス発生剤120を収容する燃焼室10が形成されている。燃焼室10に充填されるガス発生剤120としては、比較的燃焼温度の低いガス発生剤を使用できる。ガス発生剤120の燃焼温度は、例えば1000~1700℃の範囲に設定することができる。このようなガス発生剤120としては、例えば、硝酸グアニジン(41重量%)、塩基性硝酸銅(49重量%)及びバインダーや添加物を含む、公知のものを用いることができる。また、ガス発生剤120には、例えば顆粒状、ペレット状、円柱状、ディスク状等、種々の形状を採用できる。
【0039】
図1に示すように、フィルタ6は、上端面及び下端面がそれぞれ上側容器2における天板部22及び下側容器3における底板部32の各内壁面に当接し、軸方向に圧縮された状態でハウジング1の内部に組み付けられている。また、図1に示す例では、フィルタ6の外周面62とハウジング1の上側周壁部21および下側周壁部31とは離間しており、フィルタ6の外周面62と上側周壁部21との間に環状の隙間9が形成されている。フィルタ6は、燃焼室10に充填されたガス発生剤120が燃焼することで生成された燃焼ガスが通過する際に、燃焼ガスの熱を奪い取ることで当該燃焼ガスを冷却する。また、フィルタ6は、燃焼ガスの冷却機能に加え、燃焼ガスに含まれる燃焼残渣を捕集することで、当該燃焼ガスを濾過する機能を有する。
【0040】
[製造方法]
次に、ガス発生器100の製造方法(組み付け方法)について説明する。但し、本実施形態におけるガス発生器100の製造方法(組み付け方法)は、以下の方法に限定されるものではない。図2は、実施形態1におけるガス発生器100の製造手順(組み付け手順)を説明する図である。
【0041】
まず、ステップS01では、樹脂製保持部5を介して点火器4が底板部32に組付けられた下側容器3を用意する(準備工程)。図3は、準備工程に対応する状況を説明する図である。図3に示すように、ガス発生器100を製造する過程で各部品が下側容器3に組み付けらえたガス発生器の半組立品を符号1000で示す。樹脂製保持部5は、図3に示すように、点火薬がカップ体に収容された点火部41を有する点火器4を底板部32に固定するベース部51と、点火部41を囲むようにベース部51から底板部32の反対側に向かって延設される円筒状の内筒壁部52を有している。なお、準備工程において用意されるガス発生器の半組立品1000(樹脂製保持部5を介して点火器4が組み付けられた状態の下側容器3)は、その前工程において点火器4が樹脂成形によって下側容器3の底板部32と一体に組付けられている。また、樹脂製保持部5のベース部51と内筒壁部52は樹脂成形によって一体に形成されている。
【0042】
次に、ステップS02では、樹脂製保持部5における内筒壁部52の上端に形成された上端開口52Aを上向き姿勢(重力方向上向き姿勢)とした状態で、内筒壁部52の内側に形成された伝火室8に伝火薬110を上端開口52Aから充填する(伝火薬充填工程)。図4は、伝火薬充填工程に対応する状況を説明する図である。図4に示すように、樹脂製保持部5における内筒壁部52の上端開口52Aを上向き姿勢とした状態で内筒壁部52の内側に形成された凹空間(伝火室8)に所定量の伝火薬110が充填される。半組立品1000の姿勢を基準として言及すると、下側容器3の外面32Aを重力方向下向きに維持した状態で伝火薬充填工程が行われる。
【0043】
次に、ステップS03では、頂壁部71と、当該頂壁部71から延設される円筒状の側
壁部72と、を含み、頂壁部71及び側壁部72の何れもこれらを板厚方向に貫通する開口を有しないカップ状カバー体7を用意する。そして、半組立品1000における下側容器3の外面32Aを重力方向下向きに維持した状態(つまり、内筒壁部52の上端開口52Aを重力方向上向きに維持した姿勢)で、カップ状カバー体7を樹脂製保持部5に装着する(カバー装着工程)。図5及び図6は、カバー装着工程に対応する状況を説明する図である。図5は、半組立品1000における内筒壁部52に対して、上方からカップ状カバー体7を接近させている状況を示している。図5に示す符号722は、側壁部72の下端部721に形成された下端開口である。図5においては、カップ状カバー体7における下端開口722を内筒壁部52の上端開口52Aと対向させた状態で内筒壁部52にカップ状カバー体7を接近させている。
【0044】
図6は、樹脂製保持部5に対してカップ状カバー体7の装着が完了した状態を示している。図6に示すように、カバー装着工程では、カップ状カバー体7の頂壁部71が内筒壁部52の上端開口52Aを覆うと共に側壁部72が内筒壁部52に沿って配置されるようにカップ状カバー体7を樹脂製保持部5に装着する。また、図6に示すように、カバー装着工程では、カップ状カバー体7の側壁部72を内筒壁部52に外挿する。これにより、カップ状カバー体7の側壁部72が内筒壁部52の外周面52Bに沿って対向するように、カップ状カバー体7が樹脂製保持部5に覆い被さるようにして装着される。
【0045】
上記のように、カップ状カバー体7における側壁部72の内径は樹脂製保持部5におけるベース部51の直径と等しいか、それよりも若干小さな寸法に設定されている。そこで、カバー装着工程では、カップ状カバー体7における側壁部72の下端部721をベース部51に圧入する。以上のようにしてカップ状カバー体7が樹脂製保持部5に装着される結果、内筒壁部52の上端開口52Aがカップ状カバー体7の頂壁部71によって閉塞される。これにより、伝火薬110が充填された伝火室8が封止される。なお、樹脂製保持部5のベース部51は、樹脂材料が密実に詰まった状態で略円柱状に成形されているため、内筒壁部52に比べて肉厚であり、変形しにくい。従って、カバー装着工程において、カップ状カバー体7における側壁部72の下端部721をベース部51に圧入することで、カップ状カバー体7がぐらつくことなくベース部51にカップ状カバー体7を保持することができる。
【0046】
次に、ステップS04では、下側容器3の底板部32における内面上の所定位置にフィルタ6を載置する(フィルタ載置工程)。図7及び図8は、フィルタ載置工程に対応する状況を説明する図である。図7は、フィルタ載置工程を行っている途中の状況を示す図である。図8は、フィルタ載置工程が完了した状況を示す図である。図7に示すように、フィルタ載置工程では、半組立品1000における下側容器3の外面32Aを重力方向下向きに維持した状態で、フィルタ6を上方から半組立品1000に接近させる。そして、円筒形状を有するフィルタ6の中空部S1に内筒壁部52及びこれに装着されたカップ状カバー体7を挿通し、フィルタ6の内周面61とカップ状カバー体7との間に燃焼室10が形成されるようにフィルタ6を下側容器3の底板部32上に設置する(図8を参照)。
【0047】
次に、ステップS05では、カップ状カバー体7の外側に形成される燃焼室10、すなわちカップ状カバー体7及びフィルタ6の内周面61との間に形成された環状隙間S1にガス発生剤120を充填する(ガス発生剤充填工程)。図9は、ガス発生剤充填工程に対応する状況を説明する図である。ガス発生剤充填工程では、半組立品1000における下側容器3の外面32Aを重力方向下向きに維持した状態で、上方から燃焼室10へガス発生剤120を充填する。
【0048】
次に、ステップS06では、上側容器2を用意し、下側容器3及び上側容器2を一体に接合することで燃焼室10を封止する(封止工程)。図10は、封止工程に対応する状況
を説明する図である。封止工程では、半組立品1000における下側容器3の外面32Aを重力方向下向きに維持した状態で、上側容器2の接合部23と下側容器3の接合部33が互いに重ね合わさるように上方から上側容器2を下側容器3に被せる。そして、互いに重ね合わされた上側容器2の接合部23と下側容器3の接合部33は、例えばレーザ溶接等といった適宜の接合方法によって接合する。これにより、図1に示したガス発生器100の製造(組立)が完了する。なお、ガス発生器100の製造方法(組立方法)において、カップ状カバー体7及び内筒壁部52は、伝火室8における伝火薬100が燃焼した際に溶融又は破裂が可能な態様でハウジング1内に組み付けられている。言い換えると、ガス発生器100の作動時における伝火薬100の燃焼エネルギーによってカップ状カバー体7及び内筒壁部52が溶融又は破裂することができるように、カップ状カバー体7及び内筒壁部52に使用する材料や部材厚さ等が適切に選択及び設定されている。
【0049】
[動作]
以上のように製造される実施形態1に係るガス発生器100の動作について説明する。例えば、エアバッグ装置におけるセンサ(図示せず)が車両等の衝突に伴う衝撃を感知すると、一対の導電ピン42,42に着火電流が供給され、点火器4が作動する。すると、点火器4における点火部41のカップ体に収容された点火薬が燃焼し、その燃焼生成物である火炎や高温ガス等が生成される。そして、点火薬の燃焼に伴って点火部41の内部圧力が上昇し、カップ体が開裂することで、カップ体の開裂箇所から火炎や高温ガス等が放出される。図1に示すように、点火器4における点火部41は、樹脂製保持部5における内筒壁部52の内側に形成された伝火室8を臨むように配置されているため、点火部41から放出される火炎や高温ガス等によって伝火薬110が着火し、燃焼する。
【0050】
樹脂製保持部5における内筒壁部52及びカップ状カバー体7の頂壁部71によって囲まれた伝火室8に収容された伝火薬110が燃焼することで生成された火炎や高温ガスによって伝火室8内の温度及び内圧が急激に上昇し、そのエネルギーによって樹脂製の内筒壁部52及びアルミニウム製の薄肉のカップ状カバー体7が溶融又は破裂することで消尽する。その結果、伝火薬110が燃焼することで生成された燃焼生成物(火炎や高温ガス)が伝火室8から燃焼室10へと放出され、当該燃焼生成物が燃焼室10に収容されているガス発生剤120と接触することでガス発生剤120が着火される。上記のように、ガス発生器100の作動時において、伝火薬110の燃焼エネルギーを利用して伝火室8を取り囲む内筒壁部52及びカップ状カバー体7を溶融又は破裂させることにより、伝火室8の広範囲から全方位的に且つ迅速に伝火薬110が燃焼することで生成された燃焼生成物を燃焼室10に放出することができる。その結果、伝火薬110が燃焼することで生成された燃焼生成物を迅速に燃焼室10へと拡散することができ、ガス発生剤120の着火性を向上させることができる。故に、燃焼室10全体へのガス発生剤120の着火遅れが生じることを抑制することができる。
【0051】
燃焼室10におけるガス発生剤120が燃焼することで生成された高温・高圧の燃焼ガスはフィルタ6を通過する。その際、燃焼ガスの冷却が行われると共に燃焼ガスに含まれる燃焼残渣がフィルタ6で捕集される。フィルタ6を通過する際に冷却及び濾過された燃焼ガスは、フィルタ6の外周面62と上側周壁部21および下側周壁部31との間に形成された隙間9を通り、封止テープ11Aを破ってガス排出孔11からハウジング1の外部へと放出される。このようにしてハウジング1のガス排出孔11から外部に放出された燃焼ガスは、エアバッグ装置におけるエアバッグ(図示せず)に導入され、エアバッグの膨張、展開に利用される。
【0052】
本実施形態におけるガス発生器100によれば、上記のように燃焼室10におけるガス発生剤120の着火性を向上し、ガス発生剤120を迅速に着火させることができるため、ガス発生器100迅速に作動させることができる。このようにガス発生器100の作動
性能の迅速化を実現することで、ガス発生器100の作動時にエアバッグへのガスの供給が遅延することを抑制できる。
【0053】
ここで、図11及び図12は、従来におけるガス発生器の組み付け手順を説明する図である。図11には、有底筒状カップ700の内側に伝火薬110Aを充填した後、点火器4Aが組み付けられている下側容器3Aに有底筒状カップ700を装着する状況を示している。なお、有底筒状カップ700は、伝火薬110Aの燃焼時にその燃焼生成物を外側の燃焼室に排出するための排出孔70を有している。この排出孔70は、例えばシールテープ等によって閉塞されている。従来の組み付け方法においては、有底筒状カップ700に充填した伝火薬110Aが有底筒状カップ700からこぼれないようにするため、下側容器3Aの外面32Bを重力方向上方に向け、点火器4Aを重力方向下方に向けた状態で有底筒状カップ700を下方から下側容器3Aに装着する状況を示している。ここで、従来においては、下側容器3Aに有底筒状カップ700を組み付ける際、有底筒状カップ700に充填された伝火薬110Aと点火器4Aとが互いに押し付けられるため、点火器4Aが破損したり、伝火薬110Aが粉砕することが懸念される。
【0054】
図12には、燃焼室10Aにガス発生剤120Aを充填している状況を示している。すなわち、従来におけるガス発生器の組み付け手順では、図11に示したように伝火薬110Aが充填された有底筒状カップ700を下側容器3Aに装着した後、下側容器3Aの上下をひっくり返す。そして、図12に示すように、下側容器3Aの外面32Bを重力方向下向きに維持した状態で、下側容器3Aにフィルタ6Aを設置した後、フィルタ6Aの内側に形成された燃焼室10Aにガス発生剤120Aを充填する。
【0055】
図11及び図12で説明したように、従来の従来におけるガス発生器の組み付け手順では、ガス発生器を組み付ける過程で、ガス発生器の半組立品の天地(上下)をひっくり返す必要がある。すなわち、ガス発生器の組み付け過程で半組立品の上下をひっくり返す工程が必要となり、ガス発生器を製造する際のタクトタイム、サイクルタイム等が長くなる要因となる。
【0056】
これに対して、本実施形態におけるガス発生器100の製造方法によれば、当該ガス発生器100を組み付ける際に、上述した伝火薬充填工程、カバー装着工程、フィルタ載置工程、ガス発生剤充填工程、封止工程に至るまで、ガス発生器の半組立品1000を組み付け工程の途中で一度も上下をひっくり返すことなく、半組立品1000の上下姿勢を一定に維持した状態で部品の組付けを行うことができる。すなわち、点火器4を組み付け後の下側容器3を準備工程で用意した後、下側容器3の外面32Aを重力方向下向きにした姿勢で、伝火薬充填工程、カバー装着工程、フィルタ載置工程、ガス発生剤充填工程、封止工程を行うことができる。これにより、ガス発生器100を組み付ける際の工数を従来よりも減らし、容易に組み付けることができる。その結果、ガス発生器100を製造する際の製造効率を従来に比べて改善し、タクトタイム、サイクルタイム等を短縮することができる。
【0057】
また、本実施形態におけるガス発生器100の製造方法によれば、上述した伝火薬充填工程において、内筒壁部52の内側に形成された伝火室8に上方から上端開口52Aを通じて伝火薬110を注ぐだけで良いため、伝火室8を臨むようにして配置された点火器4の点火部41が破損したり、伝火薬110が粉砕されることを抑制できる。更に、後続のカバー装着工程においても、カップ状カバー体7を樹脂製保持部5の内筒壁部52に外挿しつつベース部51に圧入して装着すれば良いため、伝火室8に充填された伝火薬110がカップ状カバー体7によって押し付けられることを抑制できる。その結果、伝火室8に充填された伝火薬110が粉砕されたり、それに伴って点火器4の点火部41が破損することを抑制できる。
【0058】
以上より、本実施形態におけるガス発生器100及びその製造方法によれば、ガス発生剤120の着火遅れを抑制し、且つ、従来よりも製造効率を改善することができる。
【0059】
なお、ガス発生器100における樹脂製保持部5の内筒壁部52は、上記の通りカバー装着工程においてカップ状カバー体7の側壁部72が外挿される。そのため、内筒壁部52は、伝火室8に伝火薬110を充填した後、内筒壁部52にカップ状カバー体7を装着するまでの間、伝火薬110を保持できるだけの強度、剛性を少なくとも保有していれば良い。言い換えると、内筒壁部52の内側に形成された伝火室8に伝火薬110を充填した際に、伝火薬110が内筒壁部52を押し広げようとする力によって姿勢が傾いたり、変形したりしない程度の強度、剛性を内筒壁部52が保有していれば良い。そのため内筒壁部52の強度はカップ状カバー体7よりも強度を低くしてもよい。
【0060】
従って、ガス発生器100においては、樹脂製保持部5における内筒壁部52の部材厚さを非常に薄くすることができ、また、部材厚さにばらつきがあってもガス発生器100の出力性能に対し実質的に影響を与えることがなく、許容することができる。ここで、内筒壁部52の部材厚さを薄くするということは、ガス発生器100の作動時に伝火薬110の燃焼エネルギーによって内筒壁部52をより一層速やかに且つ容易に溶融又は破裂させることに寄与する。これにより、ガス発生剤120への着火性を一段と向上させることができる。更に、上記の通り、樹脂製保持部5における内筒壁部52には高い成形精度が要求されないため、ガス発生器100の製造時におけるタクトタイムをより一層短縮することができ、製造効率を向上させることができる。また、本実施形態においては、樹脂製保持部5のベース部51及び内筒壁部52を樹脂材料で一体成形している。このように、点火器4を下側容器3に固定する機能を有するベース部51と、内側に伝火室8を形成すると共に伝火室8に充填された伝火薬110を保持する機能を有する内筒壁部52を一体に成形することで、ガス発生器100の部品数を減らし、ガス発生器100を製造する際の製造効率をより一層向上させることができる。
【0061】
<変形例>
以下、実施形態1の変形例に係るガス発生器について説明する。変形例の説明では、上述したガス発生器100との相違点を中心に説明し、ガス発生器100と共通する構成については同一の符号を付すことにより詳細な説明を割愛する。
【0062】
図13は、実施形態1の変形例1に係るガス発生器100Aの内部構造を示す図である。変形例1においては、カップ状カバー体7Aの形状が図1で説明したカップ状カバー体7と相違している。変形例1においても、樹脂製保持部5における内筒壁部52は円筒形状を有している。また、カップ状カバー体7Aは、平面視が円形状の頂壁部71Aと、当該頂壁部71Aから底板部32に向かって下方に延設される円筒状の側壁部72Aが一体的に構成されている。ここで、図13に示すように、カップ状カバー体7Aの側壁部72Aは、下端部721が拡径している。このようにカップ状カバー体7Aを構成することで、樹脂製保持部5にカップ状カバー体7Aを装着する際に、内筒壁部52に対して側壁部72Aを嵌め込み易い。そのため、ガス発生器100Aの組み付け時における作業容易性を向上させることができる。
【0063】
図14は、変形例1に係るカップ状カバー体7Aの上面図を示している。カップ状カバー体7Aにおける頂壁部71Aは、当該頂壁部71Aが側壁部72Aと接続される周縁部711と、当該周縁部711から天板部22に向かって突設されると共に撓み変形によって当該周縁部711からの突出度合いが変更可能な突出部712と、を含んで構成されている。頂壁部71Aは、例えば周縁部711が平坦面として形成され、突出部712がドーム状に周縁部711から上方に向かって隆起していても良い。図13に示す例では、カ
ップ状カバー体7Aにおける頂壁部71Aの突出部712が上側容器2における天板部22と当接しており、突出部712が撓み変形を伴った状態となっている。すなわち、ガス発生器100Aの組み付け後の状態においては、カップ状カバー体7Aの頂壁部71Aにおける突出部712は、原形時に比べて周縁部711からの突出度合いが小さくなっていても良い。
【0064】
本変形例のように、頂壁部71Aに突出部712を有するカップ状カバー体7Aによれば、カップ状カバー体7A、樹脂製保持部5におけるベース部51或いは内筒壁部52等の寸法公差等を吸収することができる。また、ガス発生器100Aの組み付け後においては、カップ状カバー体7Aの突出部712が撓み変形を伴った状態で上側容器2における天板部22と当接しているため、カップ状カバー体7Aのがたつきを防止し、異音等の発生も好適に抑制できる。勿論、本変形例におけるカップ状カバー体7Aは、頂壁部71A及び側壁部72の何れもこれらを板厚方向に貫通する開口を有しておらず、ガス発生器100Aの作動時に伝火薬110が燃焼する際の熱エネルギーによって溶融又は破裂することで消尽する。
【0065】
図15は、実施形態1の変形例2に係るガス発生器100Bの内部構造を示す図である。変形例2においては、カップ状カバー体7Bは、図1に示すカップ状カバー体7と同様に頂壁部71及び側壁部72を有している。カップ状カバー体7Bは、側壁部72が内筒壁部52に内挿されている点で図1に示すカップ状カバー体7と相違している。図15に示す例では、カップ状カバー体7Bの側壁部72が内筒壁部52の内周面52Cに沿って対向するように、カップ状カバー体7Bが内筒壁部52に装着されている。勿論、本変形例におけるカップ状カバー体7Bは、頂壁部71及び側壁部72の何れもこれらを板厚方向に貫通する開口を有しておらず、ガス発生器100Bの作動時に伝火薬110が燃焼する際の熱エネルギーによって溶融又は破裂することで消尽する。
【0066】
以上、本開示に係るガス発生器及びその製造方法の実施形態及び変形例について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0067】
1・・・ハウジング
2・・・上側容器
3・・・下側容器
4・・・点火器
5・・・樹脂製保持部
6・・・フィルタ
7・・・カップ状カバー
8・・・伝火室
10・・・燃焼室
41・・・点火部
51・・・ベース部
52・・・内筒壁部
71・・・頂壁部
72・・・側壁部
11・・・ガス排出孔
100・・・ガス発生器
110・・・伝火薬
120・・・ガス発生剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15