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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】農薬用固着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/24 20060101AFI20240807BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20240807BHJP
   A01P 3/00 20060101ALN20240807BHJP
【FI】
A01N25/24
A01N37/36
A01P3/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020097107
(22)【出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2021187806
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】亀井 昌敏
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-163604(JP,A)
【文献】特公昭49-034815(JP,B1)
【文献】特開2012-036169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)炭素数8以上20以下の脂肪酸から選ばれる1種以上の化合物(以下、成分Aという)並びに(B)ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の化合物(以下、成分Bという)を含有する、農薬用固着剤組成物であって、成分Bを、成分A100質量部に対して、4質量部以上75質量部以下含有し、農薬原体由来の波長で定量した各吸光度の平均値を用いて下記式(1)により算出した固着率が50%以上である、農薬用固着剤組成物。
固着率(%)=(r-p)/(q-p)×100 (1)
式中、
p:農薬を葉に処理しない無処理系(葉のみで抽出)の吸光度
q:農薬のみを葉に処理し水による流亡処理を行わない系の吸光度
r:農薬と固着剤を葉に処理し水による流亡処理を行った系の吸光度
【請求項2】
成分Bが、炭素数8以上20以下の脂肪酸とソルビタンとのエステル及び炭素数8以上20以下の脂肪酸とソルビタンのアルキレンオキシド付加物とのエステルから選ばれる1種以上の化合物である、請求項1に記載の農薬用固着剤組成物。
【請求項3】
成分Bを、成分A100質量部に対して、4質量部以上50質量部以下含有する、請求項1又は2に記載の農薬用固着剤組成物。
【請求項4】
更に、(C)SP値が8以上20以下の化合物(成分A及び成分Bを除く)を含有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の農薬用固着剤組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の農薬用固着剤組成物及び農薬原体を含有する、農薬組成物。
【請求項6】
農薬原体と、請求項1から4のいずれか1項に記載の農薬用固着剤組成物と、水とを含有する農薬散布液を用いる、農薬散布方法。
【請求項7】
前記農薬散布液は、農薬原体100質量部に対して、前記農薬用固着剤組成物を10質量部以上1000質量部以下含有する、請求項6に記載の農薬散布方法。
【請求項8】
前記農薬散布液を、10aあたり0.5L以上5000L以下散布する、請求項6又は7に記載の農薬散布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬用固着剤組成物、農薬組成物及び農薬散布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物体上に存在する有害生物、例えば植物病原菌や植物害虫による病害を予防または駆除する目的で、生産者は農園芸用殺菌剤や殺虫剤などの農薬製剤を水で希釈し、植物へ散布する防除方法が行われる。しかし、散布により植物表面に付着した農薬は、その活性成分が降雨や灌水により簡単に流亡し、また、風により剥離、脱落するなど、農薬の防除効果の持続性が損なわれる。その結果、農業生産性が低下し、農薬散布の頻度が増加することで、労力の増加と生産コストの増加を招く。更に農薬の過剰散布などによる環境安全性が悪化するなどの課題があった。
【0003】
これらの課題を克服するため、農薬の降雨等による流亡、剥離、脱落を防止することを目的に、農薬成分を植物表面上に固着させる固着剤が、従来より開発されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には特定の脂肪酸トリグリセリド、特定の脂肪酸、ポリオキシアルキレンソルビトール脂肪酸エステル、及び水を含有する農薬用固着剤組成物が開示されている。
【0005】
特許文献2には多糖類、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、並びにポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル及びシリコーン系界面活性剤から選ばれる1種以上のノニオン界面活性剤を含有する農薬用展着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-163604号公報
【文献】特開2012-72116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
農薬用の固着剤は、植物等への農薬の固着性に加えて、低温安定性、特に凍結した後に室温程度に昇温した際に、液状に回復すること(以下、低温復帰性ともいう)が望まれる。低温復帰性が十分でないと、使用時に加熱等の行為により再度溶解させる必要があり、作業性が低下する。
【0008】
本発明は、農薬の固着性と低温復帰性に優れた農薬用固着剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(A)炭素数8以上20以下の脂肪酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物(以下、成分Aという)並びに(B)ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の化合物(以下、成分Bという)を含有する、農薬用固着剤組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、前記本発明の農薬用固着剤組成物及び農薬原体を含有する、農薬組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、農薬原体と、前記本発明の農薬用固着剤組成物と、水とを含有する農薬散布液を用いる、農薬散布方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、農薬の固着性と低温復帰性に優れた農薬用固着剤組成物が提供される。
農薬の固着性とは、殺菌剤、殺虫剤、除草剤等の農薬を対象物に固定させる性質であり、本発明の農薬用固着剤組成物は、このような農薬の固着性を向上させるものである。農薬の固着性が向上することで、農薬の降雨等による流亡、剥離、脱落が防止され、植物等の対象物上で長期に農薬の効力を持続させ、耐雨性などを向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の農薬用固着剤組成物は、炭素数8以上20以下の脂肪酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物(成分A)と、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の化合物(成分B)とを含む。
本発明の農薬用固着剤組成物は、優れた農薬の固着性を発揮し、且つ低温保管時における優れた低温復帰性を発揮することができる。
本発明の農薬用固着剤組成物の作用メカニズムの詳細は定かではないが、以下のように考えられる。
成分Aは植物表面に対する農薬の付着性能を向上させつつ、耐水性を向上させ、固着性能を著しく向上させることができると推定される。成分Bは水を媒体とする散布時に農薬及び成分Aを安定に乳化させ、固着性能及び低温復帰性を顕著に向上させると推定される。
以下、本発明の農薬用固着剤組成物、農薬組成物及び農薬組成物の散布方法について詳細に説明する。
【0014】
[農薬用固着剤組成物]
<成分A>
成分Aは、炭素数8以上20以下の脂肪酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である。成分Aの脂肪酸の炭素数は、固着性向上及び低温復帰性向上の観点から、8以上であって、好ましくは10以上、より好ましくは12以上であり、そして、同様の観点から、20以下であって、好ましくは18以下である。
【0015】
成分Aの前記脂肪酸は飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸いずれでもよく、低温復帰性向上の観点から、不飽和脂肪酸が好ましい。また、成分Aの前記脂肪酸は直鎖脂肪酸及び分岐鎖脂肪酸いずれでもよく、固着性向上の観点から、直鎖脂肪酸が好ましい。
【0016】
成分Aの前記脂肪酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカノールアミン塩などが挙げられる。
【0017】
成分Aの融点は、固着性向上及び低温復帰性向上の観点から、好ましくは35℃以下、より好ましくは25℃以下、更に好ましくは20℃以下、より更に好ましくは15℃以下である。ここで、成分Aの融点は、JIS K 0064記載の方法で測定されたものである。成分Aは、25℃で液体であることが好ましい。
【0018】
成分Aの脂肪酸は、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、2-プロピルヘプタン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸等が挙げられ、固着性向上及び低温復帰性向上の観点から、好ましくはカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸であり、より好ましくはカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸であり、更に好ましくはカプリン酸、オレイン酸であり、より更に好ましくはオレイン酸である。成分Aは、2種以上を含有していてもよい。
【0019】
<成分B>
成分Bは、ソルビタン脂肪酸エステル(以下、成分B)及びポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル(以下、成分B)から選ばれる1種以上の化合物である。
【0020】
成分Bの融点は、固着性向上及び低温復帰性向上の観点から、25℃以下であることが好ましく、より好ましくは20℃以下であり、更に好ましくは15℃以下である。ここで、成分Bの融点は、JIS K 0064記載の方法で測定されたものである。この方法で明確な融点を示さない場合、成分Bは、25℃で液体であることが好ましい。
【0021】
成分Bのエステルは、モノエステル、ジエステル、トリエステルが挙げられ、モノエステル、トリエステルが好ましい。
【0022】
成分Bを構成する脂肪酸の炭素数は、固着性向上及び低温復帰性向上の観点から、好ましくは8以上、より好ましくは12以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。成分Bを構成する脂肪酸は、直鎖及び分岐いずれでもよく、固着性向上の観点から、好ましくは直鎖である。また、成分Bを構成する脂肪酸は、固着性向上及び低温復帰性向上の観点から、好ましくはカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、及びアラキドン酸から選ばれる脂肪酸であり、より好ましくはラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸から選ばれる脂肪酸であり、更に好ましくはラウリン酸、オレイン酸、及びリノール酸から選ばれる脂肪酸であり、より更に好ましくはラウリン酸、及びオレイン酸から選ばれる脂肪酸である。成分Bは、2種以上を含有していてもよい。
【0023】
成分Bのうち、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル(成分B)としてはポリオキシアルキレン基として、ポリオキシエチレン基を含むものが好ましい。ポリオキシアルキレン基の平均付加モル数は、好ましくは1以上、より好ましくは6以上、そして、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下である。ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル(成分B)としては、ポリオキシエチレン(エチレンオキシ基の平均付加モル数6以上30以下)ソルビタン脂肪酸(炭素数8以上20以下)エステルが挙げられ、具体的には、ポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンパルミチン酸エステルが挙げられる。
【0024】
成分Bとしては、炭素数8以上20以下の脂肪酸とソルビタン又はソルビタンのアルキレンオキシド付加物とのエステルが挙げられる。
【0025】
成分Bは、固着性向上の観点から、ソルビタン脂肪酸エステル(成分B)が好ましく、炭素数8以上20以下の脂肪酸とソルビタンとのエステルがより好ましい。
【0026】
<組成、任意成分等>
本発明の農薬用固着剤組成物は、成分Aを、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下含有する。なお、本発明では、質量%や質量比などに関与する成分Aの量は、酸型の化合物に基づいて算出されたものである。
【0027】
本発明の農薬用固着剤組成物は、成分Bを、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下含有する。
【0028】
本発明の農薬用固着剤組成物は、固着性向上の観点から、成分Bを、成分A100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは4質量部以上、そして、好ましくは1500質量部以下、より好ましくは300質量部以下、より更に好ましくは75質量部以下、より更に好ましくは50質量部以下、より更に好ましくは20質量部以下含有する。
【0029】
本発明の農薬用固着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で成分A、成分B以外の成分を含有することができる。
【0030】
本発明の農薬用固着剤組成物は、低温復帰性向上の観点から、更に必要に応じ(C)SP値が8以上20以下の化合物(成分A及び成分Bを除く)(以下、成分Cという)を含有することができる。(C)成分としては、SP値が8以上20以下の有機溶媒が挙げられる。
成分CのSP値は、低温復帰性向上の観点から、8以上、好ましくは8.5以上、より好ましくは8.7以上、そして、20以下、好ましくは18以下、より好ましくは17以下である。SP値は、溶解度パラメーターであって、Hoyの方法によって求めた値(単位:(cal/cm1/2)である。
【0031】
成分Cは、固着性向上及び低温復帰性向上の観点から、好ましくはプロピレングリコール、1-プロパノール、酢酸エチル、グリセリン、ブタノール、イソブタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、及びエチル乳酸から選ばれる1種以上の化合物、より好ましくはプロピレングリコール、1-プロパノール、及び酢酸エチルから選ばれる1種以上の化合物である。成分Cは、2種以上を含有していてもよい。
【0032】
本発明の農薬用固着剤組成物が、成分Cを含有する場合、該組成物は成分Cを好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下含有する。
【0033】
本発明の農薬用固着剤組成物が成分Cを含有する場合、成分Aの含有量と成分Bの含有量の和に対する成分Cの含有量の質量比であるC/(A+B)は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、そして、好ましくは10以下、より好ましくは2.5以下含有する。
【0034】
本発明の農薬用固着剤組成物は、成分A、成分B、成分Cの他に、例えば、油剤や界面活性剤として使用される化合物を含有することができる。
【0035】
本発明の農薬用固着剤組成物は、成分A、及び成分Bからなるものであってよい。また、本発明の農薬用固着剤組成物は、成分A、成分B、及び成分Cからなるものであってよい。いずれの場合も、これらの成分以外の成分を少量含んでいてもよい。また、本発明の農薬用固着剤組成物は、水を含有することもできるが、水の含有量は、例えば、組成物中、50質量%以下、更に20質量%以下、更に5質量%以下、更に1質量%以下であってよい。また、本発明の農薬用固着剤組成物は、水の含有量が、0質量%以上、更に0.001質量%以上、更に0.01質量%以上であってよい。また、本発明の農薬用固着剤組成物は、水の含有量が、実質的に0質量%、更に0質量%であってよい。水の含有量が実質的に0質量%とは、例えば、製造原料などから不可避的に混入するごく微量の水は含んでいてもよいことを意味する。
【0036】
[農薬組成物]
本発明の農薬組成物は、本発明の農薬用固着剤組成物及び農薬原体を含有する農薬組成物である。本発明の農薬組成物は、成分A、成分B、及び農薬原体を含有するものであってよい。
また、本発明の農薬組成物は、本発明の農薬用固着剤組成物と農薬原体とを配合してなるものであってよい。本発明の農薬組成物は、成分A、成分B、及び農薬原体を配合してなるものであってよい。
更に、本発明の農薬組成物は、成分Cを含有することができる。また、本発明の農薬組成物は、更に、成分Cを配合してなるものであってよい。
本発明の農薬組成物は、水を含有することが好ましい。
本発明の農薬用固着剤組成物で述べた事項は、本発明の農薬組成物にも適宜適用できる。例えば、本発明の農薬組成物における成分Aの含有量に対する成分Bの含有量の割合や質量比C/(A+B)の好ましい範囲も本発明の農薬用固着剤組成物と同じである。
【0037】
本発明の農薬組成物に用いられる農薬原体としては、殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、除草剤、及び植物成長調節剤から選ばれる少なくとも1種の農薬原体が挙げられる。ここで、農薬原体とは農薬の有効成分である化合物をいう。
【0038】
本発明の農薬組成物に用いられる農薬原体としては、例えば、農薬ハンドブック2011年度版(社団法人日本植物防疫協会、平成23年2月25日発行)に記載のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、本発明の農薬用固着剤組成物やこれを配合してなる農薬組成物は、種々の作物に対して薬害はなく安全に使用できるものである。
【0039】
殺菌剤としては、例えば、国際公開第2012/029893号の段落0043に記載のもの等が挙げられる。殺虫剤としては、例えば、国際公開第2012/029893号段落の0044から0045に記載のもの等が挙げられる。殺ダニ剤としては、例えば、国際公開第2012/029893号の段落0046に記載のもの等が挙げられる。除草剤としては、例えば、国際公開第2012/029893号の段落0047に記載のもの等が挙げられる。
【0040】
本発明の農薬組成物は、農薬原体100質量部に対する、本発明の農薬用固着剤組成物の割合が、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、そして、好ましくは5000質量部以下、より好ましくは1000質量部以下、更に好ましくは500質量部以下である。この割合となるように各成分を含有ないし配合する。
本発明の農薬組成物は、農薬原体100質量部に対する、成分Aと成分Bの合計又は成分Aと成分Bと成分Cの合計の割合が、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、そして、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、更に好ましくは200質量部以下である。この割合となるように各成分を含有ないし配合する。
【0041】
[農薬散布方法]
本発明の農薬散布方法は、農薬原体と、本発明の農薬用固着剤組成物と、水とを含有する農薬散布液(以下、本発明の農薬散布液ともいう)を用いる、農薬散布方法である。本発明の農薬散布液は、農薬原体と、成分Aと、成分Bと、水とを含有するものであってよい。
本発明の農薬用固着剤組成物及び農薬組成物で述べた事項は、本発明の農薬散布方法にも適宜適用できる。
【0042】
本発明の農薬散布液は、農薬原体100質量部に対する、本発明の農薬用固着剤組成物の割合が、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは50質量部以上、そして、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、更に好ましくは300質量部以下である。
例えば、本発明では、農薬原体100質量部に対して、本発明の農薬用固着剤組成物を、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは50質量部以上、そして、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、更に好ましくは300質量部以下で配合し、散布する。
【0043】
本発明の農薬散布液は、農薬の固着性の観点から、成分Aを、好ましくは10ppm以上、より好ましくは30ppm以上、更に好ましくは50ppm以上、より更に好ましくは100ppm以上、そして、好ましくは10000ppm以下、より好ましくは5000ppm以下、更に好ましくは3000ppm以下、より更に好ましくは1500ppm以下含有する。
【0044】
本発明の農薬散布液は、農薬の固着性の観点から、成分Bを、好ましくは5ppm以上、より好ましくは10ppm以上、更に好ましくは15ppm以上、より更に好ましくは20ppm以上、そして、好ましくは5000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは800ppm以下含有する。
【0045】
本発明の農薬散布液が成分Cを含有する場合、農薬の固着性の観点から、成分Cを、好ましくは10ppm以上、より好ましくは100ppm以上、更に好ましくは200ppm以上、そして、好ましくは10000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは500ppm以下含有する。
【0046】
本発明の農薬散布液は、残部の水を含有する。
【0047】
本発明の農薬散布液は、20℃のpHが、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、そして、好ましくは11以下、より好ましくは10以下であってよい。
【0048】
本発明では、農薬の性能発現の観点から、本発明の農薬散布液を、10aあたり、好ましくは0.5L以上、より好ましくは1L以上、更に好ましくは5L以上、そして、好ましくは5000L以下、より好ましくは1000L以下、更に好ましくは500L以下、より更に好ましくは500L以下散布する。具体的には、本発明の農薬散布液を、10aあたり、好ましくは0.5L以上5000L以下、より好ましくは1L以上1000L以下、更に好ましくは5L以上500L以下散布する。なお、この10aは、例えば、本発明の農薬散布液を散布する場所の面積に基づくものである。
【実施例
【0049】
<成分A>
A-1:ミリスチン酸2質量%、パルミチン酸5質量%、ステアリン酸2質量%、C14~C18不飽和脂肪酸91質量%(主成分:オレイン酸)(花王株式会社製、「ルナック O-V」)、融点20℃
A-2:オレイン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)、融点16℃
A-3:カプリン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)、融点31℃
A-4:カプリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)、融点17℃
【0050】
<成分B>
B-1:ソルビタンモノラウレート(花王株式会社製、「レオドール SP-L10」)、融点13℃
B-2:ソルビタンモノオレエート(花王株式会社製、「レオドール SP-O10V」)、融点-10℃
B-3:ソルビタントリオレエート(花王株式会社製、「レオドール SP-O30V」)、融点-23℃
B-4:ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(花王株式会社製、「レオドール TW-O120V」)(括弧内の数字はエチレンオキシドの平均付加モル数である)、融点-24℃
【0051】
<成分C>
C-1:プロピレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
C-2:1-プロパノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
C-3:酢酸エチル(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0052】
<成分D(農薬)>
D-1:テトラクロロイソフタロニトリル40%製剤(住友化学株式会社製、「ダコニール1000」)
【0053】
[試験1:農薬固着性試験]
予め、10葉期のキャベツ苗(品種:初秋、タキイ種苗株式会社製)を準備し、5葉~8葉程度の健全な完全展開葉を試験に供した。
【0054】
成分A、成分B、成分C、成分D、及び水を表1の濃度(有効分換算の濃度)になるように混合して農薬散布液を作製した。水は、農薬散布液の残部の量で用いた。
【0055】
キャベツ葉を葉柄部より切り取り、1枚の葉に上記農薬散布液100μLを任意の4か所に滴下し、温度25℃、湿度60%条件において1日間保存し、キャベツ葉上の農薬散布液の液滴を自然乾燥した。
【0056】
200mLバイアル瓶(株式会社マルエム製、メディアバイアル)に100mLの蒸留水を添加し、農薬散布液の液滴を乾燥させたキャベツ葉を入れ、ロータリーシェイカー(MIX ROTOR VMR-5R、アズワン株式会社製)を使用して、回転速度100rpmで3時間回転し、葉上の農薬成分が水の攪拌により流亡することを想定した処理を行った。
【0057】
その後、室温にて葉を乾燥後、可視的に白く残存する農薬が付着している葉の部分をカッターにより切除し(4切片)、15mLの遠沈管容器(Centrifuge Tube,AGCテクノグラス株式会社製)に5mLのエタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)と切除した葉の1切片を入れ、30秒間緩やかに手で攪拌しながら農薬成分を抽出した後、すぐに葉を取り出した。ここで、農薬を葉に処理しない無処理系(葉のみで抽出)と、農薬のみを葉に処理し水による流亡処理を行わない系と、農薬のみまたは農薬と固着剤を処理し、水による流亡処理を行った系の3つについて同じ大きさの葉の切片を用意して抽出操作を行った。
【0058】
エタノールに溶解した農薬原体を、分光光度計(株式会社日立製作所製 U-2910)を用いて、農薬原体に由来する325nmの吸光度で定量した。各吸光度の平均値を用いて固着率を下記式(1)により算出した。結果を表1に示す。なお、式中のp、q、rは、それぞれ下記の処理を施したものの吸光度である。
固着率(%)=(r-p)/(q-p)×100 (1)
p:農薬を葉に処理しない無処理系(葉のみで抽出)の吸光度
q:農薬のみを葉に処理し水による流亡処理を行わない系の吸光度
r:農薬のみ、または農薬と固着剤を処理し、水による流亡処理を行った系の吸光度
【0059】
[試験2] 農薬用固着剤組成物の低温復帰性試験
成分A、成分B、成分Cを表2に示す濃度で混合して農薬用固着剤組成物を調製した。
また、表1の農薬散布液から農薬と水を除いた組成の農薬用固着剤組成物(成分A、B、Cの比率は表1のppmに対応し、合計が100質量%となるもの)を調製した。
農薬用固着剤組成物25gを、50mLガラスバイアル(株式会社マルエム製、スクリュー管No.7)に入れ、-17℃で2日間保管し固化させた。その後25℃で1時間保管し、組成物の回復状態を目視にて観察し、以下の基準で低温復帰性を評価した。結果を表1、2に示す。
A:透明液体に復帰した
AB:白濁液体に復帰した
B:固体状態のまま復帰しなかった
【0060】
【表1】
【0061】
表1の結果から明らかなように、本発明の成分Aと成分Bとを含む実施例の農薬用固着剤組成物は固着率が向上した。
また、表1の結果から明らかなように、本発明の成分Aと成分Bとを含む実施例の農薬用固着剤組成物は、低温復帰性に優れ、成分Cを更に含むと低温復帰性はより良好となる。
【0062】
【表2】
【0063】
表2の結果から明らかなように、本発明の成分Aと成分Bとを含む実施例の農薬用固着剤組成物は、低温復帰性に優れる。
実施例2-1~2-8の農薬用固着剤組成物は、農薬原体D-1と共に用いることで、実施例1と同様の農薬散布液を調製できる。