(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】延伸フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 55/08 20060101AFI20240807BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240807BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240807BHJP
B29K 69/00 20060101ALN20240807BHJP
B29K 29/00 20060101ALN20240807BHJP
B29K 1/00 20060101ALN20240807BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20240807BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20240807BHJP
【FI】
B29C55/08
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
G02B5/30
B29K69:00
B29K29:00
B29K1:00
B29K67:00
B29L7:00
(21)【出願番号】P 2020161767
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150212
【氏名又は名称】上野山 温子
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 寛教
(72)【発明者】
【氏名】石井 孝証
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広太
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2000/026705(WO,A1)
【文献】特開2010-000773(JP,A)
【文献】特開2009-262528(JP,A)
【文献】特開平06-044553(JP,A)
【文献】特開平07-178808(JP,A)
【文献】特開平10-138333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)および(B)を満たす延伸フィルムの製造方法であって、
0.8<R(450)/R(550)<1 (A)
1<R(650)/R(550)<1.2 (B)
(式(A)および(B)中、R(450)、R(550)およびR(650)はそれぞれ、23℃における波長450nm、550nmおよび650nmの光で測定したフィルムの正面位相差である。)
長尺状の熱可塑性樹脂フィルムを長手方向に走行させながら、予熱すること、幅方向に延伸すること、幅方向に収縮すること、および、ロール状に巻き取ること、をこの順に含む、第1工程と、
ロール状の該熱可塑性樹脂フィルムを繰り出して長手方向に走行させながら、予熱すること、幅方向に延伸すること、および、幅方向に収縮すること、をこの順に含む、第2工程と、を含み、
該第1工程における幅方向への延伸倍率をE1とし、幅方向への総延伸倍率をEとしたとき、下記式(1)を満た
し、
E×0.55<E1<E×0.75 (1)
該第1工程における幅方向への延伸倍率が、1.4倍~2.2倍である、延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記幅方向への総延伸倍率が、2.4倍~3.2倍である、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂フィルムが、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロースエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリエステルカーボネート系樹脂から選択される少なくとも1種を含む、請求項1
または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス表示装置(OLED)等の画像表示装置において、表示特性の向上や反射防止を目的としてλ/4板等の位相差フィルムが用いられている。位相差フィルムは、一般的に、樹脂フィルムを延伸して面内の位相差を制御することによって作製されている(例えば、特許文献1および2)。
【0003】
上記位相差フィルムは、フィルムの構成材料によって、異なる波長分散特性(具体的には、位相差値が測定光の波長の増大に応じて大きくなる逆波長分散特性、位相差値が測定光の波長の増大に応じて小さくなる正の波長分散特性、または、位相差値が測定光の波長によってもほとんど変化しないフラットな波長分散特性)を示し得る。これらの中で、逆波長分散特性を示す位相差フィルムは、一般に、構成材料の樹脂が脆い。そのため、その製造においては、所望の位相差を付与する観点から延伸前に十分な予熱が必要であり、また、加熱信頼性を確保する観点から延伸後には収縮による残留応力の緩和が行われる。しかしながら、このような製造方法によれば、配向角度にムラが生じやすく、また、得られる位相差フィルムは配向性に関してさらなる向上の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5975776号
【文献】特許第5594125号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、配向軸精度と一軸性との両方が向上した位相差フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの局面によれば、長尺状の熱可塑性樹脂フィルムを長手方向に走行させながら、予熱すること、幅方向に延伸すること、幅方向に収縮すること、および、ロール状に巻き取ること、をこの順に含む、第1工程と、ロール状の該熱可塑性樹脂フィルムを繰り出して長手方向に走行させながら、予熱すること、幅方向に延伸すること、および、幅方向に収縮すること、をこの順に含む、第2工程と、を含み、該第1工程における幅方向への延伸倍率をE1とし、幅方向への総延伸倍率をEとしたとき、下記式(1)を満たす、延伸フィルムの製造方法が提供される。
E×0.55<E1<E×0.75 (1)
1つの実施形態において、上記製造方法は、下記式(A)および(B)を満たす延伸フィルムの製造方法である。
0.8<R(450)/R(550)<1 (A)
1<R(650)/R(550)<1.2 (B)
(式(A)および(B)中、R(450)、R(550)およびR(650)はそれぞれ、23℃における波長450nm、550nmおよび650nmの光で測定したフィルムの正面位相差である。)
1つの実施形態において、上記幅方向への総延伸倍率が、2.4倍~3.2倍である。
1つの実施形態において、上記第1工程における幅方向への延伸倍率が、1.4倍~2.2倍である。
1つの実施形態において、上記熱可塑性樹脂フィルムが、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロースエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリエステルカーボネート系樹脂から選択される少なくとも1種を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、長尺状の熱可塑性樹脂フィルムを、第1工程と第2工程とにおいてそれぞれ逆方向に走行させながら、幅方向に延伸および収縮させ、さらには、総延伸倍率に対する第1工程における延伸倍率の比率を所定の範囲にすることにより、配向軸精度と一軸性との両方が向上した位相差フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の1つの実施形態における第1工程を説明する概略平面図である。
【
図2】本発明の1つの実施形態における第2工程を説明する概略平面図である。
【
図3】第1工程における延伸倍率と複屈折率との関係を示す図である。
【
図4】第1工程における延伸倍率と配向角ムラとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0010】
A.延伸フィルムの製造方法
本発明の実施形態による延伸フィルムの製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂フィルムを長手方向に走行させながら、予熱すること、幅方向に延伸すること、幅方向に収縮すること、および、ロール状に巻き取ること、をこの順に含む、第1工程と、ロール状の該熱可塑性樹脂フィルムを繰り出して長手方向に走行させながら、予熱すること、幅方向に延伸すること、および、幅方向に収縮すること、をこの順に含む、第2工程と、を含み、該第1工程における幅方向への延伸倍率をE1とし、幅方向への総延伸倍率をEとしたとき、下記式(1)を満たす。
E×0.55<E1<E×0.75 (1)
【0011】
上記延伸フィルムの製造方法によれば、長尺状の熱可塑性樹脂フィルムの第1工程における始端部が第2工程における終端部となり、熱可塑性樹脂フィルムの第1工程における走行方向と第2工程における走行方向が逆方向となる。このように、長尺状の熱可塑性樹脂フィルムを、第1工程と第2工程とにおいてそれぞれ逆方向に走行させながら、幅方向に延伸および収縮させ、かつ、幅方向への総延伸倍率に対する第1工程における延伸倍率の比率を所定の範囲にすることにより、配向軸精度と一軸性との両方が向上した位相差フィルムを得ることができる。このような効果が得られる理由としては、本発明を何ら制限するものではないが、以下のように考えられる。すなわち、延伸および収縮を複数段階に分けるとともに、初回延伸時における延伸倍率を高めに設定にすることにより、樹脂分子鎖の面内配向性を高めることができ、結果として、一軸性が向上すると考えられる。また、各延伸および収縮の際の走行方向を逆方向にすることにより、ボーイング現象等に起因する配向角ムラが相殺されて配向軸精度が向上すると考えられる。
【0012】
上記延伸フィルムの製造方法における幅方向への総延伸倍率Eは、目的に応じて適切に設定され得る。目的とする延伸フィルムが逆波長分散特性を示す位相差フィルムである実施形態において、幅方向への総延伸倍率Eは、例えば2.4倍~3.2倍、好ましくは2.6倍~3.0倍、より好ましくは2.7倍~2.9倍であり得る。なお、総延伸倍率は、延伸フィルムの製造方法において行われる全ての幅方向への延伸における各延伸倍率の積である。よって、例えば、延伸フィルムの製造方法が、幅方向への延伸として、第1工程の延伸と第2工程の延伸のみを含むものである場合、総延伸倍率Eは、第1工程における幅方向への延伸倍率E1と第2工程における幅方向への延伸倍率E2との積として求められる。
【0013】
A-1.熱可塑性樹脂フィルム
熱可塑性樹脂フィルムの形成材料としては、目的に応じて任意の適切な熱可塑性樹脂が用いられ得る。例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、シクロオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、セルロースエステル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。好ましくは、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロースエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂である。これらの樹脂であれば、いわゆる逆分散の波長依存性を示す位相差フィルムが得られ得るからである。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、所望の特性に応じて組み合わせて用いてもよい。
【0014】
上記ポリカーボネート系樹脂としては、任意の適切なポリカーボネート系樹脂が用いられる。例えば、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート系樹脂が好ましい。ジヒドロキシ化合物の具体例としては、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-n-プロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-n-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-sec-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等が挙げられる。ポリカーボネート系樹脂は、上記ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の他に、イソソルビド、イソマンニド、イソイデット、スピログリコール、ジオキサングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール(TEG)、ポリエチレングリコール(PEG)、ビスフェノール類などのジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0015】
上記のようなポリカーボネート系樹脂の詳細は、例えば特開2012-67300号公報および特許第3325560号に記載されている。当該特許文献の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0016】
ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度は、110℃以上250℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以上230℃以下である。ガラス転移温度が過度に低いと耐熱性が悪くなる傾向にあり、フィルム成形後に寸法変化を起こす可能性がある。ガラス転移温度が過度に高いと、フィルム成形時の成形安定性が悪くなる場合があり、また、フィルムの透明性を損なう場合がある。なお、ガラス転移温度は、JIS K 7121(1987)に準じて求められる。
【0017】
上記ポリビニルアセタール樹脂としては、任意の適切なポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。代表的には、ポリビニルアセタール樹脂は、少なくとも2種類のアルデヒド化合物及び/又はケトン化合物と、ポリビニルアルコール系樹脂とを縮合反応させて得ることができる。ポリビニルアセタール樹脂の具体例および詳細な製造方法は、例えば、特開2007-161994号公報に記載されている。当該記載は、本明細書に参考として援用される。
【0018】
上記熱可塑性樹脂フィルムの厚み(延伸前の厚み)は、例えば10μm~300μm、好ましくは20μm~200μm、より好ましくは30μm~150μmである。
【0019】
A-2.第1工程
第1工程は、長尺状の熱可塑性樹脂フィルム(以下、単に「樹脂フィルム」と称する場合がある)を長手方向に走行させながら、予熱すること、幅方向に延伸すること、幅方向に収縮すること、および、ロール状に巻き取ること、をこの順に含む。必要に応じて、第1工程は、幅方向への収縮後に樹脂フィルムを安定化することをさらに含んでもよい。また、巻き取る前に端部をスリットしてフィルム幅を所望の値に調整してもよい。
【0020】
1つの実施形態においては、熱可塑性樹脂フィルムを長手方向に走行させながら、テンター式延伸装置を用いて、幅方向に延伸し、次いで、幅方向に収縮する。
図1は、当該実施形態における第1工程を説明する概略平面図である。熱可塑性樹脂フィルム1は、所定の速度で長手方向に搬送されながら、延伸装置100aの入口で幅方向の端部を左右のクリップ20L、20Rで把持され、予熱ゾーンA1、延伸ゾーンB1、収縮ゾーンC1および安定化ゾーンD1をこの順に走行する。その後、熱可塑性樹脂フィルム1は、左右のクリップ20L、20Rによる把持から開放され、巻取り装置200によってロール状に巻取られる。
【0021】
A-2-1.延伸装置
図1に示す延伸装置100aは、一対の左右のレール10L、10Rと、該左右のレール10L、10Rに沿って走行し、樹脂フィルム1の幅方向の端部を把持する複数対の左右のクリップ20L、20Rとを備える。また、図示しないが、延伸装置100aは、代表的には、後述する各ゾーンにおいて樹脂フィルムを所定の温度に調整可能な加熱手段(オーブン等)をさらに備える。なお、本明細書においては、フィルムの入口側から見て左側のレールを左レール10L、右側のレールを右レール10Rと称する。延伸装置100aにおいては、フィルムの入口側から出口側へ向けて、予熱ゾーンA1、延伸ゾーンB1、収縮ゾーンC1および安定化ゾーンD1がこの順に設けられている。なお、これらのゾーンはそれぞれ、延伸対象となる樹脂フィルムが実質的に予熱、延伸、収縮および安定化されるゾーンを意味し、必ずしも機械的、構造的に独立した区画を意味するものではない。また、
図1の延伸装置におけるそれぞれのゾーンの長さの比率は、実際の長さの比率と異なり得ることに留意されたい。
【0022】
延伸装置100aにおいて、左右のレール10L、10Rは、平面視で左右対称に構成されており、予熱ゾーンAでは、左右のレール10L、10Rは、延伸対象の樹脂フィルム1の初期幅に対応する離間距離で、樹脂フィルム1の長手方向と略平行に延びるように構成されている。延伸ゾーンB1では、予熱ゾーンA1の側から収縮ゾーンC1に向かうに従って左右のレール10L、10Rの離間距離が樹脂フィルム1の延伸後の幅に対応するまで徐々に拡大するように構成されている。収縮ゾーンC1は、延伸ゾーンB1側から安定化ゾーンD1側に向かうに従って左右のレール10L、10Rの離間距離が徐々に縮小するように構成されている。安定化ゾーンD1では、左右のレール10L、10Rは、樹脂フィルム1の収縮後の幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されている。代表的には、一対の左右のクリップ20L、20Rは、当該一対の左右のクリップを結んだ線が樹脂フィルムの走行方向と略直交となるように、互いに略等しい速度で走行する。
【0023】
本発明の実施形態による製造方法に用いられる延伸装置は、上記図示例の延伸装置に限定されない。例えば、延伸装置は、フィルムの入口側から出口側へ向けて、予熱ゾーンA1、延伸ゾーンB1および収縮ゾーンC1がこの順に設けられており、安定化ゾーンD1を有さないものであってもよい。
【0024】
A-2-2.把持
長尺状の樹脂フィルムは、延伸装置のフィルム取り込み口において、左右のクリップによって両端部を把持される。代表的には、樹脂フィルムは、左右のクリップによって、互いに等しい一定のクリップピッチで両端部を把持される。好ましくは、両端部を把持する際の一対の左右のクリップを結んだ線が樹脂フィルムの走行方向と略直交となるように把持される。両端部を左右のクリップで把持された樹脂フィルムは当該クリップの移動によって予熱ゾーンA1に送られる。
【0025】
A-2-3.予熱
予熱ゾーンA1においては、左右のレール10L、10Rは、上記のとおり延伸対象となる樹脂フィルム1の初期幅に対応する離間距離で、互いに略平行となるように(樹脂フィルムの走行方向と略平行な方向に延びるように)構成されているので、基本的には横延伸も縦延伸も行われず、樹脂フィルムが加熱される。ただし、予熱により樹脂フィルムのたわみが起こり、オーブン内のノズルに接触するなどの不具合を回避するために、わずかに左右クリップ間の離間距離を広げてもよい。
【0026】
予熱においては、樹脂フィルムを温度T1(℃)まで加熱する。温度T1は、樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)以上であることが好ましく、より好ましくはTg+2℃以上、さらに好ましくはTg+5℃以上である。一方、加熱温度T1は、好ましくはTg+40℃以下、より好ましくはTg+30℃以下である。用いる樹脂フィルムにより異なるが、温度T1は、例えば70℃~190℃であり、好ましくは80℃~180℃である。
【0027】
上記温度T1までの昇温時間および温度T1での保持時間は、樹脂フィルムの構成材料や製造条件(例えば、樹脂フィルムの搬送速度)に応じて適切に設定され得る。また、樹脂フィルムは段階的に加熱されてもよい。これらの昇温時間および保持時間は、クリップの移動速度、予熱ゾーンの長さ、予熱ゾーンの温度等を調整することにより制御され得る。予熱時間は、例えば8秒~180秒であり得る。
【0028】
A-2-4.延伸
延伸ゾーンB1においては、樹脂フィルムの幅方向への延伸が行われる。具体的には、搬送方向下流に向かって左右のレールの離間距離が徐々に拡大するように構成されている延伸ゾーンB1を走行させることにより、樹脂フィルムを幅方向に延伸する。
【0029】
幅方向への延伸倍率E1(E1=延伸後のフィルム幅(W1)/初期フィルム幅(W0))は、最終延倍率Eに応じて適切に選択され得る。具体的には、幅方向への延伸倍率E1は、下記式(1)を満たすように選択され、好ましくは式(2)、より好ましくは式(3)を満たすように設定される。なお、上記フィルム幅は、左右のクリップで把持された部分までを含むフィルム幅を意味する。
E×0.55<E1<E×0.75 (1)
E×0.6<E1<E×0.7 (2)
E×0.6<E1<E×0.65 (3)
【0030】
1つの実施形態において、幅方向への延伸倍率E1は、例えば1.4倍~2.2倍、好ましくは1.5倍~2.1倍、より好ましくは1.6倍~2.0倍であり得る。
【0031】
延伸速度[(延伸後のフィルム幅(W1)-初期フィルム幅(W0))/延伸工程の所要時間]は、好ましくは30mm/秒以下、より好ましくは10mm/秒~25mm/秒、さらに好ましくは12mm/秒~20mm/秒である。このような延伸速度とすることにより、加熱信頼性と配向軸精度とを好適に両立し得る。
【0032】
上記延伸は、代表的には、温度T2で行われ得る。温度T2は、樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)に対し、Tg-20℃~Tg+30℃であることが好ましく、さらに好ましくはTg-10℃~Tg+20℃、特に好ましくはTg程度である。用いる樹脂フィルムにより異なるが、温度T2は、例えば70℃~180℃であり、好ましくは80℃~170℃である。上記温度T1と温度T2との差(T1-T2)は、好ましくは±2℃以上であり、より好ましくは±5℃以上である。1つの実施形態においては、T1>T2であり、したがって、予熱において温度T1まで加熱された樹脂フィルムは温度T2まで冷却され得る。
【0033】
A-2-5.収縮
収縮ゾーンC1においては、樹脂フィルムの幅方向への収縮が行われる。具体的には、搬送方向下流に向かって左右のレールの離間距離が徐々に縮小するように構成されている収縮ゾーンC1を走行させることにより、樹脂フィルムを幅方向に収縮する。このような収縮処理によって、樹脂フィルム中の残留応力が緩和される結果、加熱信頼性を高めることができる。
【0034】
幅方向への収縮率[収縮後のフィルム幅(W2)/延伸後のフィルム幅(W1)]は、好ましくは0.92~1.0、より好ましくは0.95~1.0、さらに好ましくは0.98~1.0である。このような収縮率であれば、高い加熱信頼性が得られ得る。
【0035】
上記収縮は、代表的には、温度T3で行われ得る。温度T3は、代表的には樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)以下であり、好ましくはTg-20℃~Tg℃であり、より好ましくはTg-15℃~Tg℃であり、さらに好ましくはTg-10℃~Tg℃である。
【0036】
A-2-6.安定化
安定化ゾーンD1においては、代表的には、樹脂フィルムは、延伸も収縮されることなく、温度T4で維持される。これにより、樹脂フィルムの配向状態が安定化される。温度T4は、代表的には樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)℃以下であり、好ましくはTg-1℃以下であり、より好ましくは室温~Tg-3℃である。1つの実施形態において、温度T4は温度T3℃に等しい。また、安定化処理時間は、樹脂フィルムの構成材料や製造条件(例えば、樹脂フィルムの搬送速度)に応じて適切に設定され得る。安定化時間は、例えば5秒~60秒であり得る。
【0037】
A-2-7.開放
上記収縮、さらには任意に安定化を経た樹脂フィルムは、延伸装置の出口付近で左右のクリップから開放される。クリップからの開放は、例えば、室温(25℃前後)環境下で行われ得る。
【0038】
A-2-8.巻取り
上記クリップから解放された樹脂フィルムは、常法に従って巻取り装置によってロール状に巻取られる。
【0039】
A-3.第2工程
第2工程は、第1工程で巻き取ったロール状の熱可塑性樹脂フィルムを繰り出して長手方向に走行させながら、予熱すること、幅方向に延伸すること、および、幅方向に収縮すること、をこの順に含む。必要に応じて、第2工程は、幅方向への収縮後に樹脂フィルムを安定化することをさらに含んでもよい。
【0040】
1つの実施形態においては、第1工程で巻き取ったロール状の熱可塑性樹脂フィルムを繰り出して長手方向に走行させながら、テンター式延伸装置を用いて、幅方向に延伸し、次いで、幅方向に収縮する。
図2は、当該実施形態における第2工程を説明する概略平面図である。第1工程でロール状に巻取られた熱可塑性樹脂フィルム1は、繰り出し装置300から繰り出され、所定の速度で長手方向に搬送されながら、延伸装置100bの入口で幅方向の端部を左右のクリップ20L、20Rで把持され、予熱ゾーンA2、延伸ゾーンB2、収縮ゾーンC2および安定化ゾーンD2をこの順に走行する。その後、熱可塑性樹脂フィルム1は、左右のクリップ20L、20Rによる把持から開放される。
【0041】
A-3-1.延伸装置
図2に示す延伸装置100bは、
図1に示す延伸装置100aと基本的に同様の構成を有する。具体的には、延伸装置100bは、一対の左右のレール10L、10Rと、該左右のレール10L、10Rに沿って走行し、樹脂フィルム1の幅方向の端部を把持する複数対の左右のクリップ20L、20Rとを備え、代表的には、後述する各ゾーンにおいて樹脂フィルムを所定の温度に調整可能な加熱手段(オーブン等)をさらに備える(図示せず)。延伸装置100bにおいては、フィルムの入口側から出口側へ向けて、予熱ゾーンA2、延伸ゾーンB2、収縮ゾーンC2および安定化ゾーンD2がこの順に設けられている。なお、これらのゾーンはそれぞれ、延伸対象となる樹脂フィルムが実質的に予熱、延伸、収縮および安定化されるゾーンを意味し、必ずしも機械的、構造的に独立した区画を意味するものではない。また、
図2の延伸装置におけるそれぞれのゾーンの長さの比率は、実際の長さの比率と異なり得ることに留意されたい。
【0042】
延伸装置100bにおいて、左右のレール10L、10Rは、平面視で左右対称に構成されており、予熱ゾーンA2では、左右のレール10L、10Rは、延伸対象の樹脂フィルム1の初期幅(工程2で繰り出された樹脂フィルムの幅)に対応する離間距離で、樹脂フィルム1の長手方向と略平行に延びるように構成されている。延伸ゾーンB2では、予熱ゾーンA2の側から収縮ゾーンC2に向かうに従って左右のレール10L、10Rの離間距離が樹脂フィルム1の延伸後の幅に対応するまで徐々に拡大するように構成されている。収縮ゾーンC2は、延伸ゾーンB2側から安定化ゾーンD2側に向かうに従って左右のレール10L、10Rの離間距離が徐々に縮小するように構成されている。安定化ゾーンD2では、左右のレール10L、10Rは、樹脂フィルム1の収縮後の幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されている。代表的には、一対の左右のクリップ20L、20Rは、当該一対の左右のクリップを結んだ線が樹脂フィルムの走行方向と略直交となるように、互いに略等しい速度で走行する。
【0043】
本発明の実施形態による製造方法に用いられる延伸装置は、上記図示例の延伸装置に限定されない。例えば、延伸装置は、フィルムの入口側から出口側へ向けて、予熱ゾーンA2、延伸ゾーンB2および収縮ゾーンC2がこの順に設けられており、安定化ゾーンD2を有さないものであってもよい。
【0044】
A-3-2.把持
長尺状の樹脂フィルムは、延伸装置のフィルム取り込み口において、左右のクリップによって両端部を把持される。左右のクリップによる長尺状の樹脂フィルムの把持は、第1工程と同様に行われ得る。
【0045】
A-3-3.予熱
予熱ゾーンA2においては、樹脂フィルムの予熱が行われる。当該樹脂フィルムの予熱に関しては、第1工程における予熱と同様の説明が適用できる。
【0046】
A-3-4.延伸
延伸ゾーンB2においては、樹脂フィルムの幅方向への延伸が行われる。具体的には、搬送方向下流に向かって左右のレールの離間距離が徐々に拡大するように構成されている延伸ゾーンB2を走行させることにより、樹脂フィルムを幅方向に延伸する。
【0047】
幅方向への延伸倍率E2(E1=延伸後のフィルム幅(W4)/初期フィルム幅(W3))は、最終延倍率Eに応じて適切に設定され得る。1つの実施形態において、幅方向への延伸倍率E2は、例えば1.3倍~1.9倍、好ましくは1.4倍~1.8倍、より好ましくは1.5倍~1.7倍であり得る。なお、初期フィルム幅(W3)は、第1工程の収縮後のフィルム幅(W2)に相当し得るが、安定化の際またはその後に若干の収縮が生じる場合や、端部をスリットする場合があることから、W3≦W2の関係であり得る。
【0048】
延伸速度および延伸温度に関しては、第1工程における延伸と同様の説明が適用できる。
【0049】
A-3-5.収縮
収縮ゾーンC2においては、樹脂フィルムの幅方向への収縮が行われる。具体的には、搬送方向下流に向かって左右のレールの離間距離が徐々に縮小するように構成されている収縮ゾーンC2を走行させることにより、樹脂フィルムを幅方向に収縮する。このような収縮処理によって、樹脂フィルム中の残留応力が緩和される結果、加熱信頼性を高めることができる。
【0050】
幅方向への収縮率[収縮後のフィルム幅(W5)/延伸後のフィルム幅(W4)]は、好ましくは0.92~1.0、より好ましくは0.95~1.0、さらに好ましくは0.98~1.0である。このような収縮率であれば、高い加熱信頼性が得られ得る。
【0051】
収縮温度に関しては、第1工程における収縮と同様の説明が適用できる。
【0052】
A-3-6.安定化
安定化ゾーンD2においては、代表的には、樹脂フィルムは、延伸も収縮されることなく、所定の安定化温度で維持される。安定化温度および安定化時間に関しては、第1工程における安定化と同様の説明が適用できる。。
【0053】
A-3-7.開放
上記収縮、さらには任意に安定化を経た樹脂フィルムは、延伸装置の出口付近で左右のクリップから開放される。クリップからの開放は、例えば、室温(25℃前後)環境下で行われ得る。
【0054】
クリップから解放された樹脂フィルム(延伸フィルム)は、巻取り装置によってロール状に巻取られ得る。あるいは、巻き取られることなく、次工程(例えば、所定のサイズへの打ち抜き、他の長尺状光学フィルムとの貼り合わせ等)に供され得る。
【0055】
B.延伸フィルム
A項に記載の製造方法で得られる延伸フィルムは、代表的には、光学的異方性を有する位相差フィルムである。延伸フィルムの厚みは、好ましくは30μm~70μm、より好ましくは35μm~55μm、さらに好ましくは35μm~45μmであり得る。
【0056】
位相差フィルムは、好ましくは屈折率特性がnx>nyの関係を示す。また、位相差フィルムは面内配向性が高いことが好ましく、例えばその波長550nmで測定した場合の複屈折率Δn(Δn=nx-ny)は、好ましくは0.0020~0.0050、より好ましくは0.0025~0.0050、さらに好ましくは0.0030~0.0045、さらにより好ましくは0.0035~0.0045である。
【0057】
位相差フィルムは、好ましくはλ/4板として機能し得る。位相差フィルムの正面位相差Re(550)は、好ましくは100nm~160nm、より好ましくは135nm~155nmである。なお、本明細書において、nxは面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、nyは面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、nzは厚み方向の屈折率である。また、Re(λ)は、23℃における波長λnmの光で測定したフィルムの正面位相差である。したがって、Re(550)は、23℃における波長550nmの光で測定したフィルムの正面位相差である。Re(λ)は、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
【0058】
位相差フィルムは、nx>nyの関係を有する限り、任意の適切な屈折率楕円体を示す。好ましくは、位相差フィルムの屈折率楕円体は、nx>ny≧nzの関係を示す。位相差フィルムのNz係数は、好ましくは1~1.20であり、より好ましくは1~1.19であり、さらに好ましくは1~1.18、さらにより好ましくは1~1.17である。Nz係数は、Nz=Rth(λ)/Re(λ)によって求められる。ここで、Rth(λ)は、23℃における波長λnmの光で測定したフィルムの厚み方向の位相差であり、式:Rth(λ)=(nx-nz)×dによって求められる。
【0059】
位相差フィルムは、代表的には、いわゆる逆分散の波長依存性を示す。具体的には、その正面位相差は、Re(450)<Re(550)<Re(650)の関係を満たす。好ましくは、位相差フィルムは、下記式(A)および(B)を満たし、より好ましくは(C)をさらに満たす。
0.8<R(450)/R(550)<1 (A)
1<R(650)/R(550)<1.2 (B)
0.8<R(450)/R(550)≦0.95 (C)
【0060】
位相差フィルムは、その光弾性係数の絶対値が、好ましくは2×10-12(m2/N)~100×10-12(m2/N)であり、より好ましくは2×10-12(m2/N)~50×10-12(m2/N)である。
【0061】
位相差フィルムは、配向軸精度に優れる。幅方向端部における配向軸(遅相軸)角度と幅方向中央部における配向軸(遅相軸)との差は、例えば±3°以内、好ましくは±2°以内、より好ましくは±1.8°以内であり得る。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例における測定および評価方法は下記のとおりである。
【0063】
(1)配向角(遅相軸の発現方向)
実施例および比較例で得られた位相差フィルムの幅方向中央部および両端部を、一辺が当該フィルムの幅方向と平行となるようにして幅50mm、長さ50mmの正方形状に切り出して試料を作成した。この試料を、ミュラーマトリクス・ポラリメーター(Axometrics社製 製品名「Axoscan」)を用いて測定し、波長550nm、23℃における配向角を測定した。なお、配向角は測定台に試料を平行に置いた状態で測定した。幅方向中央部の配向角と両端部の配向角との差を求め、配向角ムラ(配向角Δ)として評価した。
(2)正面位相差Re、厚み方向位相差Rth、およびΔn
上記(1)と同様にして、Axometrics社製 製品名「Axoscan」を用いて、23℃で測定した。なお、Δnは、波長550nmでの値である。
(3)Nz係数
式:Nz=Rth(550)/Re(550)に基づいて算出した。
(4)厚み
マイクロゲージ式厚み計(ミツトヨ社製)を用いて測定した。
【0064】
[実施例1]
(ポリカーボネート樹脂フィルムの作製)
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した縦型反応器2器からなるバッチ重合装置を用いて重合を行った。9,9-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BHEPF)、イソソルビド(ISB)、ジエチレングリコール(DEG)、ジフェニルカーボネート(DPC)、および酢酸マグネシウム4水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸マグネシウム=0.348/0.490/0.162/1.005/1.00×10-5になるように仕込んだ。反応器内を十分に窒素置換した後(酸素濃度0.0005~0.001vol%)、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPaにした。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。
【0065】
第1反応器に窒素を導入して一旦大気圧まで復圧させた後、第1反応器内のオリゴマー化された反応液を第2反応器に移した。次いで、第2反応器内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力0.2kPaにした。その後、所定の攪拌動力となるまで重合を進行させた。所定動力に到達した時点で反応器に窒素を導入して復圧し、反応液をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレット化を行い、BHEPF/ISB/DEG=34.8/49.0/16.2[mol%]の共重合組成のポリカーボネート樹脂Aを得た。このポリカーボネート樹脂の還元粘度は0.430dL/g、ガラス転移温度は140℃であった。
【0066】
得られたポリカーボネート樹脂を80℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(いすず化工機社製、スクリュー径25mm、シリンダー設定温度:220℃)、Tダイ(幅900mm、設定温度:220℃)、チルロール(設定温度:120~130℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み130μmのポリカーボネート樹脂フィルムを作製した。
【0067】
(位相差フィルムの製造)
上記のようにして得られたポリカーボネート樹脂フィルムを、
図1に示すような延伸装置を用いて第1工程を行い、次いで、
図2に示すような延伸装置を用いて第2工程を行って位相差フィルムを得た。各工程の詳細は、以下のとおりである。
【0068】
(第1工程)
長尺状のポリカーボネート樹脂フィルム(厚み130μm、幅(W0)610mm)を長手方向に1500mm/秒の速度で走行させながら左右端部を左右のクリップで把持した。
【0069】
次いで、予熱ゾーンを走行させながら、フィルム温度を三段階で昇温(144℃、149℃および154℃)し、それぞれの温度で約1.5秒維持することにより、樹脂フィルムを予熱した。
【0070】
次に、左右のクリップの離間距離が拡大する延伸ゾーンを走行させることにより、樹脂フィルムを幅方向に延伸した。延伸温度(フィルム温度)は143℃であり、延伸倍率(W1/W0)は、1.55倍であった。
【0071】
次いで、左右のクリップの離間距離が縮小する収縮ゾーンを走行させることにより、樹脂フィルムを幅方向に収縮した。収縮温度(フィルム温度)は138℃であり、収縮率(W2/W1)は、0.98倍であった。
【0072】
次いで、延伸装置出口(雰囲気温度25℃)において、樹脂フィルムを左右のクリップから開放し、クリップ部を含む両端部を約100mmスリットした後、巻取り装置でロール状に巻取った。
【0073】
(第2工程)
第1工程で得られたロール状のポリカーボネート樹脂フィルム(厚み84μm、幅(W3)767mm)を繰り出して、第1工程における走行方向と逆方向に1500mm/秒の速度で走行させながら左右端部を左右のクリップで把持した。
【0074】
次いで、予熱ゾーンを走行させながら、フィルム温度を三段階で昇温(144℃、149℃および154℃)し、それぞれの温度で約1.5秒維持することにより、樹脂フィルムを予熱した。
【0075】
次に、左右のクリップの離間距離が拡大する延伸ゾーンを走行させることにより、樹脂フィルムを幅方向に延伸した。延伸温度(フィルム温度)は143℃であり、延伸倍率(W4/W3)は、1.81倍であった(総延伸倍率:2.8倍)。
【0076】
次いで、左右のクリップの離間距離が縮小する収縮ゾーンを走行させることにより、樹脂フィルムを幅方向に収縮した。収縮温度(フィルム温度)は138℃であり、収縮率(W5/W4)は、0.98倍であった。
【0077】
次いで、延伸装置出口(雰囲気温度25℃)において、樹脂フィルムを左右のクリップから開放した。
【0078】
以上のようにして位相差フィルム(厚み47μm)を得た。
【0079】
[実施例2]
第1工程における延伸倍率(W1/W0)を、1.75倍にしたこと、および、第2工程における延伸倍率(W4/W3)を、1.6倍にしたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム(厚み47μm)を得た。
【0080】
[実施例3]
第1工程における延伸倍率(W1/W0)を、1.95倍にしたこと、および、第2工程における延伸倍率(W4/W3)を、1.44倍にしたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム(厚み47μm)を得た。
【0081】
[実施例4]
第1工程における延伸倍率(W1/W0)を、2.1倍にしたこと、および、第2工程における延伸倍率(W4/W3)を、1.34倍にしたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム(厚み47μm)を得た。
【0082】
[実施例5]
延伸前フィルムの厚みを110μmにしたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム(厚み40μm)を得た。
【0083】
[実施例6]
延伸前フィルムの厚みを100μmにしたこと以外は実施例2と同様にして位相差フィルム(厚み36μm)を得た。
【0084】
[実施例7]
延伸前フィルムの厚みを105μmにしたこと以外は実施例3と同様にして位相差フィルム(厚み38μm)を得た。
【0085】
[実施例8]
延伸前フィルムの厚みを120μmにしたこと以外は実施例4と同様にして位相差フィルム(厚み42μm)を得た。
【0086】
[比較例1]
第1工程における延伸倍率(W1/W0)を2.8倍したこと、および、第2工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム(厚み47μm)を得た。
【0087】
[比較例2]
第1工程における延伸倍率(W1/W0)を1.4倍にしたこと、および、第2工程における延伸倍率(W4/W3)を、2.0倍にしたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム(厚み47μm)を得た。
【0088】
[比較例3]
第1工程における延伸倍率(W1/W0)を2.45倍にしたこと、および、第2工程における延伸倍率(W4/W3)を1.14倍にしたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム(厚み47μm)を得た。
【0089】
[参考例1]
イソソルバイドポリカーボネート樹脂フィルム(三菱ケミカル社製、製品名「Durabio」、厚み85μm、Tg=124℃)を用いたこと、第1工程における予熱温度を140℃、延伸温度を137℃とし、延伸倍率(W1/W0)を2.8倍したこと、および、第2工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム(厚み30μm)を得た。
【0090】
[参考例2]
環状オレフィン系樹脂フィルム(JSR社製、製品名「Arton」、厚み50μm、Tg=137℃)を用いたこと、第1工程における予熱温度を147℃、延伸温度を142℃とし、延伸倍率(W1/W0)を2.8倍したこと、および、第2工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム(厚み18μm)を得た。
【0091】
上記実施例、比較例および参考例で得られた位相差フィルムを上記(1)~(3)の測定に供した。結果を表1に示す。また、実施例および比較例で得られた位相差フィルムに関して、第1工程における延伸倍率と複屈折率との関係および第1工程における延伸倍率と配向角ムラとの関係をそれぞれ、
図3および
図4に示す。
【0092】
【0093】
<評価>
表1ならびに
図3および
図4に示されるとおり、実施例で得られた位相差フィルムは、比較例で得られた位相差フィルムと比較して、配向軸精度と配向性(面内配向性および一軸性)との両方が優れていることがわかる。また、参考例1および参考例2に示される通り、正の波長分散特性を示す樹脂フィルムおよびフラットな波長分散樹特性を示す樹脂フィルムによれば、延伸および収縮をそれぞれ1回のみ含む製造方法であっても、配向角度ムラが生じ難いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の製造方法により得られる位相差フィルムは、液晶表示装置(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス表示装置(OLED)等の画像表示装置に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0095】
1 熱可塑性樹脂フィルム
10 レール
20 クリップ
100 延伸装置