(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】窒化物半導体ナノ粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/06 20060101AFI20240807BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240807BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240807BHJP
C09K 11/62 20060101ALN20240807BHJP
【FI】
C01B21/06 Z
B82Y30/00
B82Y40/00
C09K11/62
(21)【出願番号】P 2020165613
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風間 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田村 渉
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康之
(72)【発明者】
【氏名】大森 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】村松 淳司
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 澄志
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-151832(JP,A)
【文献】特開2007-070207(JP,A)
【文献】特表2012-515802(JP,A)
【文献】特表2012-515803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/06
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C09K 11/62
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属及び窒素を含む原料である窒素原料、ハロゲン化金属並びに溶媒を含む溶液を
温度範囲が140℃~160℃である第1の温度において
一定時間維持し、前記溶液を反応させて固体の前駆体を形成する第1の工程と、
前記溶液を前記第1の温度より高い第2の温度で反応させる第2の工程と、
を有することを特徴とする窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程の前記前駆体の形成時の昇温速度は、5℃/min以下であることを特徴とする請求項
1に記載の窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程における前記前駆体の形成は、前記溶液を撹拌しつつ行うことを特徴とする請求項1
または2に記載の窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記固体の前駆体は黒色であることを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1つに記載の窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記窒化物半導体ナノ粒子は、III-V族半導体であることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1つに記載の窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記ハロゲン化金属は、塩化物、臭化物またはヨウ化物を含むIII族元素のハロゲン化物であり、
前記窒素原料は、窒素とアルカリ金属の化合物であり、
前記溶媒は、ジフェニルエーテル、トリオクチルフォスフィンまたはベンゼンであることを特徴とする請求項
5に記載の窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記ハロゲン化金属は、ハロゲン化インジウムであることを特徴とする請求項
6に記載の窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記窒素原料は、ナトリウムアミドであり、前記ハロゲン化金属は、ヨウ化インジウムであることを特徴とする請求項
7に記載の窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体はアミド系の錯体を含むことを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1つに記載の窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子、特に、窒化物半導体ナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光体、自発光素材、太陽電池等の用途への利用に関してナノ粒子が注目されるようになっている。従来から、ナノ粒子は、ソルボサーマル(solvothermal)法、ホットインジェクション法または液相合成法等の化学合成法で生成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、液相合成法によって金属窒化物ナノ粒子を生成する方法が開示されている。しかし、このような従来の化学合成法で金属窒化物ナノ粒子を生成する場合、副生成物として金属不純物が大量に生成されてしまい、金属窒化物ナノ粒子がほとんど得られないことが問題の1つとしてあげられる。
【0005】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、金属副生成物の発生が抑制され、高い収率で得られる高品質な窒化物半導体ナノ粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の窒化物半導体ナノ粒子の製造方法は、アルカリ金属及び窒素を含む原料である窒素原料、ハロゲン化金属並びに溶媒を含む溶液を第1の温度において反応させて固体の前駆体を形成する第1の工程と、前記溶液を前記第1の温度より高い第2の温度で反応させる第2の工程と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施例1である窒化物半導体ナノ粒子の製造方法の工程を示すフロー図である。
【
図2】本発明の実施例1である窒化物半導体ナノ粒子の製造方法に用いられる製造装置の一例を示す断面図である。
【
図3】前駆体が形成されるまでの溶液の変化を表す図である。
【
図4】溶液中のインジウム濃度を示すグラフである。
【
図5】実施例1の方法で生成された窒化物半導体ナノ粒子に対するインジウム金属の比率と比較例の方法で生成された窒化物ナノ粒子に対するインジウム金属の比率を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施例1である窒化物半導体ナノ粒子の製造方法によって製造された窒化物ナノ粒子のTEM画像である。
【
図7】実施例2の方法で生成された窒化物半導体ナノ粒子に対するインジウム金属の比率と比較例の方法で生成された窒化物ナノ粒子に対するインジウム金属の比率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明においては、インジウム(In)を含むハロゲン化金属の原料(以下、インジウム原料とも称する)、窒素(N)を含む原料(以下、窒素原料とも称する)及び溶媒からなる合成溶液を加熱して反応させ、III-V族半導体のナノ粒子、具体的には、窒化インジウム(InN)の窒化物半導体ナノ粒子を得る場合について説明する。
【0009】
図1は、本発明の窒化物半導体ナノ粒子の製造方法の工程を示すフロー図である。
【0010】
まず、最初に、窒化物半導体ナノ粒子の原料となるIII族材料すなわちインジウム原料及びV族原料すなわち窒素原料を溶媒と混合し、溶液を生成する(工程S1)。
【0011】
III族材料すなわちインジウム原料としては、ヨウ化インジウム、塩化インジウム、臭化インジウム等、ハロゲン化金属を用いることができる。V族材料、すなわち窒素原料としては、ナトリウムアミド、セシウムアミド、リチウムアミド等のアルカリ金属系材料を用いることができる。また、溶媒としては、トリオクチルホスフィン、ジフェニルエーテル、ジエチルエーテル、ベンゼンを用いることができる。
【0012】
次に、工程S1で得た溶液を撹拌しつつ、ヒータを用いてインジウム原料の分解温度以下の所定の温度まで加熱し、最終生成物である窒化インジウムのナノ粒子の前駆体を形成する(工程S2)。工程S2において、溶液を140℃~160℃の温度で所定時間、例えば5分程度反応させ、固体の前駆体を析出させる。この工程においては、溶液を、最終生成物である窒化物半導体ナノ粒子である窒化インジウムのナノ粒子を成長させる温度よりも低い所定の温度範囲に一定時間維持する。この固体の前駆体は、後述の事情から、その構造や組成については調べることができず、詳細は不明である。恐らくは、前駆体形成温度より低い温度で溶解したIII族材料がV族材料と共に固体の前駆体を形成したものであり、III族元素、ハロゲン、アルカリ金属を含むアミド系錯体と考えられる。なお、この固体の前駆体は溶媒に対する溶解度が低いために析出してしまうので、撹拌などの操作によって合成溶液中の前駆体の分布を均一にすることが好ましい。
【0013】
前駆体が形成された後、最終生成物である窒化インジウムナノ粒子を成長させる温度、例えば200℃以上まで溶液を加熱し所定時間、例えば1時間程度反応させる(工程S3)。
【0014】
上記窒化インジウムナノ粒子の成長工程の後、溶液を冷却して遠心分離し、窒化インジウムナノ粒子を回収する(工程S4)。すなわち、本発明の窒化物半導体ナノ粒子の製造方法は、窒素原料、ハロゲン化金属及び溶媒を含む溶液を固体の前駆体が析出するように所定の第1の温度(前駆体形成温度)で所定の時間だけ反応させる第1の工程と、溶液を前駆体形成温度より高い第2の温度で反応させる第2の工程と、を有する。
【0015】
本発明の発明者達は、このように、III-V族の窒化物半導体ナノ粒子の製造において、最終生成物である窒化物半導体ナノ粒子である窒化インジウムのナノ粒子を成長させる温度よりも低い温度にて固体の前駆体を析出させる工程を経て、最終生成物である窒化物半導体ナノ粒子を成長させることで、高品質な窒化物ナノ粒子を単相で合成できることを見出した。
【0016】
これは、最終的な窒化物半導体ナノ粒子を形成する前に窒素を取り込んだ安定な前駆体を形成することで、溶液において窒素が溶液から気化することを抑制できることが一因であると考えられる。逆に、V族材料を固体の前駆体にしないままナノ粒子生成温度まで溶液を加熱した場合、窒素原料が分解し、アンモニアガスとして溶液から放出されてしまい、III族金属を十分に窒化させることができないと考えられる。すなわち、最終的な窒化物半導体ナノ粒子を生成する200℃以上の高温の条件下において、従来の手法よりも溶液中に窒素が残留していることによって、溶液中において多くのインジウムが窒素と反応し、インジウムが残留せず、高品質な窒化物ナノ粒子を収率良く得ることができると考えられる。
【実施例1】
【0017】
以下に、本発明の実施例1である窒化物半導体ナノ粒子の製造方法について図面を参照しつつ説明する。
【0018】
[製造装置]
図2は、実施例1の製造方法において用いる合成装置10の断面図である。溶液容器11は、円筒状の容器部11A及び円板状の蓋部11Bからなる円筒状の容器である。溶液容器11は、プラチナまたはイリジウム等の白金族元素材料からなる円筒状の容器である。実施例1においては、溶液容器11に、ナノ粒子の原料を含む溶液LQを入れてこれを反応させることでナノ粒子を製造する。
【0019】
また、実施例1においては、溶液LQを撹拌するための撹拌子SBが、溶液容器11内に投入されている。撹拌子SBは、棒状の磁石をガラス、テフロン(登録商標)等で封止して形成されている。従って、撹拌子SBは、溶液容器11の外からの磁力の作用によって、例えば回転等の動作が可能である。なお、本実施例においては、撹拌子SBとしてアイシス社製のCM1219を用いた。
【0020】
圧力容器13は、円筒状の容器部13A及び当該容器部13Aとともに、溶液容器11を収納可能な密閉空間SSを形成可能な密閉蓋部13Bを含んでいる。本実施例では圧力容器として、Parr社製の4740番を用いた。圧力容器13は、容器内部の高温または高圧に耐えられる容器であればよい。本実施例においては、圧力容器13は、例えば、500℃程度の容器内部温度または1MPa程度の容器内部圧力に耐えられればよい。
【0021】
ヒータ15は、圧力容器13を収納可能な円筒状の容器形状を有している。ヒータ15は、内部に収納された圧力容器13を加熱可能な加熱装置であり、例えば、マントルヒータである。本実施例では、ヒータ15として、アズワン製のMS-ESBを用いた。
【0022】
実施例1においては、ヒータ15には、底部に撹拌子STを回転させるための磁力を発生させるスターラーSTが内蔵されている。すなわち、スターラーSTが磁力を発生することで、撹拌子SBが回転し、溶液LQが撹拌されることとなる。なお、スターラーSTは、ヒータ15と別体であってもよい。例えば、マントルヒータ等のヒータと別体のスターラー上にヒータを配置するような構成であってもよい。
【0023】
[製造手順]
以下、実施例1の製造方法の工程について、上記説明した
図1を再度参照しつつ説明する。まず、最初に、III族材料であるインジウム原料及びV族材料である窒素原料と溶媒とを混合し、溶液LQとして溶液容器11に充填した(工程S1)。この際、溶液LQを撹拌するための撹拌子SBも溶液容器11に投入した。溶液LQを溶液容器11に充填した後、溶液容器11を圧力容器内に収納した。
【0024】
インジウム原料としては、ヨウ化インジウム(Aldrich製、純度99.998%)を用いた。窒素原料としては、ナトリウムアミド(Aldrich製、hydrogen-storage grade)を用いた。また、溶媒としては、トリオクチルホスフィン(Aldrich製、純度97%)を用いた。
【0025】
本実施例では、ヨウ化インジウム89.2mg(0.18mmol)、ナトリウムアミド149.5mg(3.84mmol)を、トリオクチルホスフィン6ml(13.44mmol)を混合して、溶液LQを調製した。なお、溶液LQの溶液容器11への充填は、酸素・水分濃度が1ppm以下に管理されたグローブボックス内で行った。
【0026】
次に、圧力容器13をヒータ15内に収容し、溶液LQを撹拌しつつ、ヒータ15を用いて溶液LQを前駆体形成温度まで加熱し、最終生成物である窒化インジウムの窒化物半導体ナノ粒子の前駆体を形成した(工程S2)。本実施例においては、工程S2において、溶液LQを25℃から5℃/minで昇温し、150℃で5分間維持して溶液を反応させた。また、本実施例においては、工程S2における撹拌速度は600rpmとした。
【0027】
図3は、溶液LQを加熱してから前駆体が形成されるまで変化する溶液の様子を写真で示す図である。なお、
図3の各写真は、透明ガラス容器を用いて溶液LQの様子を見えるようにして撮影したものである。
【0028】
図3(a)は、25℃における溶液LQ、
図3(b)は、100℃における溶液LQ、
図3(c)は、120℃における溶液LQの様子を示している。また、
図3(d)は、溶液LQを150℃まで昇温して5分経過した後の様子を示している。
【0029】
図3に示すように、溶液LQの温度が120℃になるまでは、溶液に多少色が付くものの、溶液中に固体が析出する様子はない。しかし、溶液LQを150℃まで昇温して5分経過した後には、溶液LQ内に黒色の析出物が発生している。この黒色の析出物の反応性が高い故に、具体的には、空気中に晒すとすぐに燃焼する性質を有する故に、この黒色の析出物の成分を解析するのは困難である。
【0030】
図4は、工程S2を行いつつ溶液を150℃、165℃、200℃、250℃と昇温した際の各温度において採取されたサンプル溶液内のIn濃度を、蛍光X線測定の測定値に基づいて算出した値を示すグラフである。なお、前駆体の存在が目視で確認できている溶液のサンプルの採取は、前駆体が溶液容器の下部に沈殿するまで待ち、サンプルに前駆体が混じらないように採取した。
【0031】
このグラフからわかるように、溶液温度が150℃を超えると急激にIn濃度が減少し、165℃以上でInが検出できなくなる。このことから、150℃前後の温度において、溶媒に溶け込んでいたヨウ化インジウムが前駆体を形成して固相化していることが予想される。なお、アルカリ金属であるNa、ハロゲンであるヨウ素も同様の傾向を示した。また、この黒い析出物である前駆体は、III族材料及びV族材料を含むアミド系の錯体であると推測される。
【0032】
なお、上記説明において、溶液LQを150℃で維持することで前駆体を形成する場合について説明した。しかし、140~160℃の温度範囲で前駆体が形成されることが、実験により確認されているため、前駆体の形成は、140~160℃の間の温度で一定時間溶液LQを反応させることでも実現可能である。本願において、この温度を前駆体形成温度と呼ぶこととする。
【0033】
また、前駆体を形成する工程S2において、撹拌しながら溶液LQを反応させたが、これは、形成される前駆体の構成組成を均一化させるためである。具体的に説明すると、V族原料のアルカリ金属系材料は、溶媒への溶解度が低く、溶媒中での濃度が不均一になりやすい。溶媒中のアルカリ金属系材料の濃度が不均一になると、形成する前駆体の構成組成が不均一になり、III族金属の窒化にばらつきが生じる。十分に窒化が進んでいない前駆体の生成は、窒化物ナノ粒子以外の副生成物の発生、特にIII族金属の発生の原因となる。
【0034】
また、前駆体の構成物質が不均一であると、窒素原料が未反応のまま残存する場合がある。その場合、粒子合成後の粒子洗浄、加工などのプロセスにおいて、残存した窒素原料が反応し、粒子の酸化や予期せぬ反応による窒化物ナノ粒子の劣化につながる。そのため、前駆体形成過程では、反応溶液の撹桙や反応容器を超音波で振動させるなど反応溶液中で材料を均一化し、十分に窒素を取り込みかつ均質な前駆体を形成することが好ましい。
【0035】
前駆体の生成の後、さらに温度を上昇させ、窒化物半導体ナノ粒子の成長温度において一時間反応させた(工程S3)。本実施例において、成長温度は、200℃、250℃、300℃の3パターンとした。
【0036】
上記工程S3の後、圧力容器13をヒータ15から取り出し、圧力容器13を冷水を用いて冷却することで溶液を冷却した(工程S4)。冷水を用いて冷却したのは、溶液中の反応を速やかに停止させるためである。
【0037】
その後、圧力容器13から溶液容器11を取り出し、溶液容器11内の溶液LQを取り出し、溶液LQを遠心分離した(工程S4)。この遠心分離は、超遠心機によって行った。具体的には、まず、合成液にエタノールを加えて遠心分離を行い、遠心分離後の上澄みを除去した後、再びエタノールを加え遠心分離を行った。その後、さらに遠心分離後の上澄みを除去した後に、再びエタノールを加えて遠心分離を行った。この工程では、各遠心分離について回転数を28000rpmとして30分間分離を行った。その後、ヘキサンを加えさらに遠心分離をした。最後にエタノールを加えて遠心洗浄を行い、窒化インジウムのナノ粒子を回収した。
【0038】
[評価]
上記実施例の製造方法で生成されて回収された窒化物半導体ナノ粒子を、比較例の製造方法で生成されて回収された窒化物半導体ナノ粒子と比較して評価した。比較例の製造方法は、工程S2を行わない点において、上記実施例1の製造方法と異なる。すなわち、比較例の製造方法においては、溶液を一気にナノ粒子の成長温度である200℃、250℃または300℃まで昇温して、窒化物半導体ナノ粒子を生成する。
【0039】
実施例1の製造方法で生成された窒化物半導体ナノ粒子及び比較例の製造方法で生成された窒化物半導体ナノ粒子に含まれるIn金属の比率を、X線回折装置(XRD)の測定結果を用いて算出した。具体的には、XRDの測定結果のピークを精密構造解析、例えばリートベルト解析し、回収物に対するインジウム(In)金属のWt%を算出した。
【0040】
図5は、当該算出されたインジウム(In)金属の含有比率を示すグラフである。横軸に工程S3における成長温度、縦軸にIn金属の比率が取られている。
図5に示されている通り、実施例1の製造方法によって生成された窒化物半導体ナノ粒子のインジウム(In)金属の含有率は、いずれの成長温度においても比較例の製造方法によって生成された窒化物半導体ナノ粒子よりも低く、含有率がほぼ0%であった。
【0041】
上述したように、このインジウム金属含有率の低さは、最終的な窒化物半導体ナノ粒子を形成する前に窒素を取り込んだ安定な前駆体を形成することで、溶液において窒素が溶液から気化することを抑制できることが一因であると考えられる。すなわち、最終的な窒化物半導体ナノ粒子を生成する200℃以上の高温の条件下において、従来の手法よりも溶液中に窒素が残留していることによって、溶液中において多くのインジウムが窒素と反応し、インジウムが残留せず、高品質な窒化物ナノ粒子を収率良く得ることができると考えられる。
【0042】
図6は、実施例1の製造方法で生成された窒化物半導体ナノ粒子のTEM画像(×100000)である。
図6(a)は、成長温度を200℃として生成したもの、
図6(b)は、成長温度を250℃として生成したもの、
図6(c)は、成長温度を300℃として生成したものである。
【0043】
図6から分かるように、成長温度が200℃では粒径が5-7nm、成長温度が250℃では粒径が7-10nm、成長温度が300℃では粒径が7-15nmの大きさの均一な粒子が形成されていた。
【0044】
以上のことより、窒化物半導体ナノ粒子の製造において、V族材料にアルカリ金属系材料を使い、窒化物半導体ナノ粒子の成長温度以下の温度で前駆体を形成することで、窒化物半導体ナノ粒子均一な窒化の促進でき、III族金属の含有量が少なく均一な粒径を有する高品質な窒化物ナノ粒子を高い収量で得られることがわかった。
【0045】
上記実施例1においては、溶媒としてトリオクチルホスフィンを用いた。トリオクチルフホスフィンは、窒化物半導体ナノ粒子の表面修飾剤としての性質も持っている。そのため、実施例1において製造された窒化物半導体ナノ粒子は、その後の工程において、表面修飾を行う工程を省略することが可能である。
【実施例2】
【0046】
以下に、実施例2の製造方法について説明する。実施例2の製造方法は、溶液の調製において、溶媒としてトリオクチルホスフィンではなくジフェニルエーテルを用いる点でのみ実施例1の製造方法とは異なり、他の工程は全く同一である。よって、溶液の調製以外の点については、説明を省略する。
【0047】
実施例2においては、インジウム原料としては、ヨウ化インジウム(Aldrich製、純度99.998%)を用いた。窒素原料としては、ナトリウムアミド(Aldrich製、hydrogen-storage grade)を用いた。また、溶媒としては、ジフェニルエーテル(Aldrich製、純度99.9%)を用いた。
【0048】
実施例2においては、ヨウ化インジウム89.2mg(0.18mmol)、ナトリウムアミド149.5mg(3.84mmol)を、ジフェニルエーテル6ml(13.44mmol)を混合して、溶液LQを調製した。なお、溶液LQの溶液容器11への充填は、酸素・水分濃度が1ppm以下に管理されたグローブボックス内で行った。
【0049】
上記実施例2の製造方法で生成された窒化物半導体ナノ粒子を、比較例の製造方法で生成された窒化物半導体ナノ粒子と比較して評価した。比較例の製造方法は、実施例1において上述したのと同様に、工程S2を行わない点において、上記実施例2の製造方法と異なる。すなわち、比較例の製造方法においては、溶液を一気にナノ粒子の成長温度である200℃、250℃または300℃まで昇温して、窒化物半導体ナノ粒子を生成する。
【0050】
実施例2の製造方法で生成された窒化物半導体ナノ粒子及び比較例の製造方法で生成された窒化物半導体ナノ粒子に含まれるインジウム(In)の比率を、X線回折装置(XRD)の測定結果を用いて算出した。具体的には、XRDの測定結果のピークを精密構造解析、例えばリートベルト解析し、回収物に対するインジウム(In)のWt%を算出した。
【0051】
図7は、当該計測されたインジウム(In)含有比率を示すグラフである。横軸に工程S3における成長温度、縦軸にインジウム(In)の比率が取られている。
図7に示されている通り、実施例2の製造方法によって生成された窒化物半導体ナノ粒子のIn含有率は、いずれの成長温度においても比較例の製造方法によって生成された窒化物半導体ナノ粒子よりも低かった。
【0052】
以上のことより、窒化物半導体ナノ粒子の製造において、V族材料にアルカリ金属系材料を使い、窒化物半導体ナノ粒子の成長温度以下の温度で前駆体を形成することで、窒化物半導体ナノ粒子均一な窒化の促進でき、III族金属の含有量が少なく均一な粒径を有する高品質な窒化物ナノ粒子を高い収量で得られることがわかった。
【0053】
上記実施例においては、工程2において、溶液を150℃で5分間反応させることで前駆体を形成するとした。しかし、前駆体の形成時間はこれに限られない。前駆体の形成が終わってから、すなわち前駆体の生成反応が飽和してから、工程S3の窒化物半導体ナノ粒子の成長を行うのが好ましい。よって、140~160℃程度の温度で、前駆体の析出が収束した後に、窒化物半導体ナノ粒子の成長温度まで昇温して、窒化物半導体ナノ粒子を成長させるのが好ましい。
【0054】
上記実施例においては、工程S2において、5℃/分で溶液を昇温するとしたが、昇温速度はこれに限られない。例えば、毎分5℃以下の昇温速度で昇温を行ってもよい。
【0055】
また、上記実施例においては、工程S3における成長温度を変化させることで、異なる粒径の窒化物半導体ナノ粒子を生成した。しかし、成長温度を変えるだけではなく、溶液に添加物を投入して窒化物半導体ナノ粒子の成長を阻害することで、生成される窒化物半導体ナノ粒子の粒径を調製することとしてもよい。
【0056】
また、上記実施例においては、III族材料としてヨウ化物であるヨウ化インジウムを用いたが、ヨウ化物以外に、塩化物または臭化物を含むIII族元素のハロゲン化物も用いることが可能である。すなわち、ヨウ化インジウム以外のハロゲン化インジウムを用いることも可能である。
【0057】
また、上記実施例においては、III族原料としてInを含む材料を用いてInNの窒化物半導体ナノ粒子を製造した。しかし、III族元素としてGaを含むハロゲン化物を材料として用い、上記実施例の工程と同様の工程にて、GaN、AlNや、InGaN、InAlN、AlGaN、AlInGaNなど混晶の窒化物半導体ナノ粒子を製造することも可能である。また、他のIII族元素のハロゲン化物を用いて窒化物半導体ナノ粒子を製造することも可能である。
【0058】
上記実施例においては、溶液LQの撹拌を、撹拌子SBとスターラーSTによって行うこととしたが、圧力容器の外部から撹拌翼を有する軸を差し込んで当該軸及び撹拌翼をモータ等で回転させることで溶液を撹拌することとしてもよい。また、超音波振動装置を用いて溶液LQを振動させることで、溶液LQを撹拌することとしてもよい。
【0059】
また、撹拌子及び撹拌翼の材料としては、ガラス以外にも、石英、テフロン、白金、金、イリジウム、ロジウム、サファイア等、溶液に溶解する等の影響を受けにくい材料であればよい。
【0060】
上述した実施例における種々の数値、寸法、材料等は、例示に過ぎず、用途及び製造される半導体ナノ粒子等に応じて、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 合成装置
11 溶液容器
13 圧力容器
15 ヒータ