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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】延伸装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/16 20060101AFI20240807BHJP
   B29C 55/20 20060101ALI20240807BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20240807BHJP
【FI】
B29C55/16
B29C55/20
B29L7:00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020175739
(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公開番号】P2022067176
(43)【公開日】2022-05-06
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 柾紀
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-155138(JP,A)
【文献】特開2015-206994(JP,A)
【文献】特開昭58-153617(JP,A)
【文献】特表2017-507806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、膜の延伸装置:
複数のリンクが無端チェーンを構成するように連結され、前記膜を搬送し、かつ、延伸させることが可能な、一対のリンク装置;
前記膜の入口側に配置された、前記複数のリンクを駆動するための第1のリンク駆動機構;
前記膜の出口側に配置された、前記複数のリンクを駆動するための第2のリンク駆動機構
前記一対のリンク装置の中央部を覆う、前記膜に熱処理を行うための熱処理部;および
前記膜の進行方向である第1方向において、前記第1のリンク駆動機構および前記第2のリンク駆動機構の間に配置され、前記一対のリンク装置のそれぞれの進行速度を調整することが可能なリンク速度調整機構
ここで、
前記熱処理部は、
前記膜を、前記第1方向、および前記第1方向に交差する第2方向に延伸させる延伸部と、
前記延伸部よりも前記膜の入口側に配置された、予熱部と、
を有し、
前記リンク速度調整機構は、前記予熱部に配置され、かつ、前記第1のリンク駆動機構よりも前記予熱部と前記延伸部との境界に近い位置に配置され、
前記一対のリンク装置は、第1リンク装置および第2リンク装置とから成り、
前記第1リンク装置および前記第2リンク装置のそれぞれは、前記第1のリンク駆動機構、前記第2のリンク駆動機構、および前記リンク速度調整機構を有し、
前記リンク速度調整機構は、
前記複数のリンクに係合されるスプロケットと、
前記スプロケットを駆動するモータと、
前記第1リンク装置におけるリンクの進行速度を計測する光学センサである第1センサと、
前記第2リンク装置におけるリンクの進行速度を計測する光学センサである第2センサと、
を有し、
前記モータは、前記第1リンク装置における前記複数のリンクの進行速度、および前記第2リンク装置における前記複数のリンクの進行速度が揃うように、前記スプロケットを回転させることが可能であり、
前記モータは、前記第1リンク装置が有する第1モータ、および前記第2リンク装置が有する第2モータを含み、
前記第1モータおよび前記第2モータのそれぞれは、互いに独立して回転数を設定することが可能であり、
前記第1センサおよび前記第2センサのそれぞれは、前記第1モータおよび前記第2モータのそれぞれの回転速度を制御する制御回路に接続され、
前記第1モータおよび前記第2モータのそれぞれは、前記第1センサの計測データと前記第2センサの計測データとの差に基づいて、前記差を小さくするように制御され、
前記一対のリンク装置のそれぞれは、前記複数のリンクの移動方向をガイドする第1レール、および第2レールを有し、
前記複数のリンクのそれぞれは、
前記第1レールを挟むように配置された第1レールホルダと、
前記第2レールを挟むように配置された第2レールホルダと、
前記第1レールホルダおよび前記第2レールホルダに連結されたリンクプレートと、
を含み、
前記第1センサおよび前記第2センサのそれぞれは、
前記リンク速度調整機構よりも前記膜の入口側に配置され、
前記第1レールホルダまたは前記第2レールホルダの上部に配置され、
かつ、前記第1レールホルダまたは前記第2レールホルダの速度を計測する
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜を縦方向および横方向に引き延ばす延伸装置に好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
延伸装置においては、縦延伸と横延伸を行うことができ、これらを順番に行うことを逐次二軸延伸法といい、一度に行うことを同時二軸延伸法という。同時二軸延伸法は、逐次延伸法に比べ、スクラッチが発生しにくい、原料の適応範囲が広く、結晶化速度が速くても延伸可能である、物性の縦横均一性が高いなどのメリットがある。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2004-155138号公報)には、折尺状に形成された複数個の等長リンク装置よりシート状物の両側端に配置された無端リンク装置を、シート状物の入口側および出口側のスプロケットにより駆動し、進行方向に末広がり状に配置されたガイドで形成されるガイドローラによって案内し、シート状物を横方向に延伸させるシート状物の延伸機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-155138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数のリンクが無端チェーンを構成するように連結され、膜を搬送し、かつ、延伸させることが可能な、一対のリンク装置を備える延伸装置の場合、一対のリンク装置のそれぞれが駆動する複数のリンクの進行速度の制御が重要である。一方のリンク装置におけるリンクの進行速度と他方のリンク装置におけるリンクの進行速度とが一致しない場合、膜の延伸方向を制御することが困難になる。
【0006】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される膜の延伸装置は、以下を含む:
複数のリンクが無端チェーンを構成するように連結され、前記膜を搬送し、かつ、延伸させることが可能な、一対のリンク装置;
前記膜の入口側に配置された、前記複数のリンクを駆動するための第1のリンク駆動機構;
前記膜の出口側に配置された、前記複数のリンクを駆動するための第2のリンク駆動機構;および
前記膜の進行方向である第1方向において、前記第1のリンク駆動機構および前記第2のリンク駆動機構の間に配置され、前記一対のリンク装置のそれぞれの進行速度を調整することが可能なリンク速度調整機構。
【発明の効果】
【0008】
本願において開示される延伸装置によれば、複数のリンクの進行速度を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施の形態である薄膜の製造システムの構成を示す模式図である。
図2図1に示す延伸装置の構造例を示す平面図である。
図3図2に示す複数のリンクのうちの一つを拡大して示す拡大平面図である。
図4図3に示すリンクのA-A線に沿った断面図である。
図5図3に示すリンクのA-B線に沿った断面図である。
図6図2に示すリンク速度調整機構の断面図である。
図7図2に対する変形例である延伸装置において、リンク速度調整機構の周辺を拡大して示す拡大平面図である。
図8図7に示すセンサ周辺のレイアウトの一例を示す拡大斜視図である。図7に対する検討例を示す側面図である。
図9図7に対する変形例を示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態を実施例や図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
<全体構造>
図1は、本実施の形態の薄膜の製造システムの構成を示す模式図である。図1に示す本実施の形態の薄膜製造システム1は、混練押し出し装置(二軸混練押し出し装置)2、Tダイ3、原反冷却装置4、延伸装置(同時二軸延伸装置)5、引き取り装置6、および巻き取り装置7を有する。図1に示す例では、まず、混練押し出し装置2の原料供給部2Aに樹脂材料(ペレット)および添加剤などを供給する。二軸混練押し出し装置2は、供給された樹脂材料などを、混合しながら輸送(搬送)する。Tダイ3は、二軸混練押し出し装置2により混練された混練物(溶融樹脂)をスリットから押し出す。Tダイ3から押し出された混練物は、原反冷却装置4において冷却され、膜(シート、樹脂膜)8になる。Tダイ3により成形される膜は、延伸装置5に連続的に供給される。延伸装置5にとっては、膜8は延伸に供される原料に相当する。本明細書では、延伸装置5を中心に説明するので、延伸装置5に供されるシート状の材料、および延伸処理が施されている前の膜8のことを原反と呼ぶ場合がある。一方、延伸処理が完了し、延伸装置5から排出された状態の膜8を薄膜と呼ぶ場合がある。
【0012】
原反冷却装置4で冷却されて形成された膜8は、延伸装置5によりMD方向およびTD方向に延伸され、薄膜になる。延伸された膜8は、引き取り装置6を介して巻き取り装置7に巻き取られる。
【0013】
図1に一例として示す薄膜製造システム1の場合、上記のように、薄膜を製造する。なお、図1に示す薄膜製造システム1は、形成する薄膜の特性に応じて、種々の変形が可能である。例えば、図1に示す構成に加え、図1に示す引き取り装置6の近傍に図示しない抽出槽が設けられ、膜8中の可塑剤(例えば、パラフィンなど)が抽出槽で除去される場合がある。
【0014】
本実施の形態の延伸装置5は、膜8をMD方向に搬送しながら、薄膜をMD方向およびTD方向に引き延ばす。MD(Machine Direction)方向は、薄膜の搬送方向に沿った方向であり、縦方向とも言う。また、TD(Transverse Direction)方向は、上記薄膜の搬送方向と交差する方向(図1に示す例では直交する方向)であり、横方向とも言う。互いに交差する二方向に同時に延伸させることが可能な延伸装置5は、同時二軸延伸装置と呼ばれる。
【0015】
以下、延伸装置5の構造、および延伸装置5が、MD方向およびTD方向に膜8を引き延ばす原理について説明する。図2は、図1に示す延伸装置の構造例を示す平面図である。図2に示すオーブン内には、レール13A、13B上に配置された複数のリンク20が配置されるが、図2では、レール13Aおよび13B、膜8、およびスプロケット34の輪郭のみを、点線で示している。なお、図2に示す延伸装置5は一例であり、種々の変形例がある。例えば、図2に示す予熱部11Bおよび延伸部11Bの長さは、入り口部14および出口部15の長さに対して図2に示す以上に長い場合がある。図3は、図2に示す複数のリンクのうちの一つを拡大して示す拡大平面図である。図4は、図3に示すリンクのA-A線に沿った断面図である。図5は、図3に示すリンクのA-B線に沿った断面図である。図4および図5では、クリップ21の支持構造を見やすくするため、図3に示すA-A線およびA-B線に沿った断面とは異なる位置にある部材を、白抜きで示している。
【0016】
図2に示すように、延伸装置5は、平面視において、互いに離間して配置される一対のリンク装置10Aおよび10Bを有する。膜8は、リンク装置10Aとリンク装置10Bとの間に配置され、MD方向に搬送される。言い換えれば、一対のリンク装置10Aおよび10Bは、膜8の両隣に配置される。リンク装置10Aとリンク装置10Bとの間の部分は、膜8を搬送するための搬送部として機能する。延伸装置5は、膜8をMD方向、およびMD方向に交差するTD方向に延伸させる延伸部11Aと、延伸部11Aよりも膜8の入口側に配置された、予熱部11Bと、を含む。予熱部11Bでは、膜8の両端を把持した状態で、膜8の搬送方向(MD方向)に膜8を搬送する。延伸部11Aでは、膜8の両端を把持した状態で、膜8の搬送方向に沿ったMD方向、およびMD方向と交差するTD方向に、膜8を同時に延伸させることができる。なお、予熱部11Bでは、膜8は、延伸されない。また、延伸装置5は、延伸部11Aおよび予熱部11Bを覆い、膜8に熱処理を行うための熱処理部12を有する。図2に示す例では、熱処理の方法として、オーブンを用いた熱処理の例を示している。リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれの一部分(予熱部11Bおよび延伸部11A)は、熱処理部12の庫内に配置される。以下、本明細書では、熱処理部12であるオーブンを貫通するように配置されるリンク装置10Aおよび10Bのそれぞれのうち、熱処理部12内に配置された部分を延伸部11Aおよび予熱部11Bとして説明する。膜8は、リンク装置10Aおよび10Bに保持された状態で、熱処理部12を通過する。
【0017】
リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれは、無端チェーンを構成するように連結された複数のリンク20を有する。複数のリンク20のそれぞれには、膜8を把持する治具であるクリップ21(図3参照)が取り付けられている。膜8は、クリップ21を介して複数のリンク20に把持される。
【0018】
互いに連結された複数のリンク20は、レール13Aおよび13Bに沿って走行可能な状態で、レール13Aおよび13B上に載せられる。リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれは、一対のレール13Aおよび13Bを有する。一対のレール13Aおよび13Bのうち、レール13Aは内周側に、レール13Bは外周側に、それぞれ配置される。なお、レール13Aを内側レールと呼び、レール13Bを外側レールと呼ぶ場合がある。
【0019】
図2に示すようにリンク装置10Aおよび10Bのそれぞれが備える一対のレール13Aおよび13Bは、延伸処理前の膜8を供給する入口側に配置される入口部(入口側)14、熱処理部12、および出口部(出口側)15に亘って環状に形成される。
【0020】
複数のリンク20により構成される無端チェーンは、熱処理部12の外側に配置されるリンク駆動機構により駆動される。図2に示す例では、延伸装置5は、膜8の入口部14および出口部15のそれぞれにリンク駆動機構を有する。膜8の入口部14には、リンク駆動機構であるスプロケット31および33が配置される。膜8の出口部15には、リンク駆動機構であるスプロケット32が配置される。スプロケット31、32、および33のそれぞれは、複数のリンク20に係合され、複数のリンク20をMD方向に送り出すように回転する。複数のリンク20のそれぞれは、スプロケット31および32の回転動作の駆動力により、レール13Aおよびレール13B上を移動する。
【0021】
複数のリンク20のうち、互いに隣り合うリンク20間のピッチ(リンクピッチと呼ぶ場合もある)は、レール13Aとレール13Bとの離間距離に応じて変更可能である。言い換えれば、レール13Aとレール13Bとの離間距離を調整することにより、互いに隣り合うリンク20のピッチを調整することができる。詳しくは、レール13Aと13Bとの離間距離が大きい領域では、レール13Aと13Bとの離間距離が小さい領域と比較して、隣り合うリンク20のピッチが小さい。
【0022】
複数のリンク20は、隣り合うリンク20のピッチが変更可能な状態でレール上に配置される。また、クリップ21(図3参照)は、隣り合うクリップ21のピッチ(中心間距離)が変更可能な状態で複数のリンクのそれぞれの一方の端部に取り付けられる。
【0023】
延伸装置5は、熱処理部12において、リンク装置10Aが備える複数のリンク20のリンクピッチ、およびリンク装置10Bが備える複数のリンク20のリンクピッチが徐々に大きくなる領域(延伸部11A)を備える。膜8は、このリンクピッチが大きくなる延伸部11Aにおいて、MD方向に延伸される。リンクピッチが大きくなる延伸部11Aでは、リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれにおいて、レール13Aとレール13Bとの離間距離が小さくなる。この延伸部11Aでは、膜8は、TD方向およびMD方向に同時に延伸される。
【0024】
膜8の延伸方向において延伸部11Aの直前に配置される予熱部11Bでは、リンク装置10Aのレール13Bとリンク装置10Bのレール13Bとの離間距離は変化せず、互いに平行に配置されている。このため、予熱部11Bでは膜8は、TD方向に延伸されない。また、予熱部11Bでは、レール13Aおよび13Bの離間距離が最大化するようになっているので、隣り合うリンク20のピッチは、最小値になっている。このため、予熱部11Bでは、膜8はMD方向に延伸されない。
【0025】
また、延伸装置5は、延伸部11Aにおいて、リンクピッチを大きくすることにより膜8を延伸させるので、熱処理部12への入口部14において、リンクピッチを小さくしておく必要がある。このため、延伸装置5は、熱処理部12の外部であって、膜8の入口部14に配置されたスプロケット33を備える。スプロケット33は、スプロケット31の回転速度より遅い回転速度で回転する。スプロケット33は、複数のリンク20に係合する。スプロケット31の回転速度より遅く回転するスプロケット33が膜8の入口部14に配置されることにより、複数のリンク20のリンクピッチは、スプロケット33に係合される領域において小さくなる。スプロケット33は、膜8を搬送するリンク駆動機構としての機能と、複数のリンク20のリンクピッチを小さくするためのリンクピッチ調整機構としての機能とを備える。
【0026】
また、延伸装置5は、膜8の進行方向であるMD方向においてスプロケット31および前スプロケット32の間に配置され、リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれの進行速度を調整することが可能なリンク速度調整機構としてのスプロケット34を有する。スプロケット34の動作については後述する。
【0027】
膜8は、熱処理部12への入口部14において、リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれが備えるリンク20に取り付けられたクリップ21により把持される。クリップ21は、図3~5に記載されるバネ21Aなどの力により把持部21B(図4および5参照)が上下に動作することで、開閉するように構成される。クリップ21は膜8の端部を把持した状態でリンク20と一緒にMD方向に搬送される。膜8は、熱処理部12内で加熱され、かつ、クリップ21の移動に伴ってMD方向およびTD方向に引き伸ばされる。引き伸ばされた後の膜8は、クリップ21に把持された状態で、熱処理部12の出口部15に向かって搬送される。熱処理部12の外部であり、かつ膜8の出口部15において、膜8はクリップ21から外される。膜8の出口側の先には、図1に示す引き取り装置6および巻き取り装置7が配置され、引き伸ばされた膜8は、巻き取り装置7に巻き取られ、回収される。
【0028】
次に、リンク20の構造について説明する。図3に示すように、リンク20は、上段側リンクプレート22と、下段側リンクプレート23と、レールホルダ24および25と、を備える。上段側リンクプレート22および下段側リンクプレート23のそれぞれは、平面視において直線的に延びる板状の部材である。上段側リンクプレート22の一方の端部には、シャフト26が挿入される。図4および図5に示すように、シャフト26は、下段側リンクプレート23にも挿入され、上段側リンクプレート22と、下段側リンクプレート23とは、シャフト26の中心を回転軸として、回転自在な状態でシャフト26を介して連結される。下段側リンクプレート23の一方の端部には、クリップ21が取り付けられる。図4に示すように、下段側リンクプレート23において、シャフト26は、クリップ21が取り付けられる一方の端部と他方の端部との間に挿入される。図3では、シャフト26を中心に上段側リンクプレート22と下段側リンクプレート23とが回転する状態を、二点鎖線を用いて模式的に示している。シャフト26を回転軸として上段側リンクプレート22と下段側リンクプレート23とが回転すると、上段側リンクプレート22と下段側リンクプレート23との成す角θ1の角度が変化する。
【0029】
なお、本明細書では、図3に示す各θ1の角度が大きくなることを「リンクが開く」、角θ1の角度が小さくなることを「リンクが閉じる」と呼ぶ場合がある。また、角θ1の角度が大きくなったり小さくなったりする動作を、「リンクの開閉動作」と呼ぶ場合がある。
【0030】
また、図4および図5に二点鎖線で示すように、上段側リンクプレート22には、シャフト27が挿入される。シャフト27は、互いに隣り合うリンク20を連結する連結部材である。シャフト27は、互いに隣り合うリンク20のうち、一方のリンク20の上段側リンクプレート22と、他方のリンク20の下段側リンクプレート23とに挿入される。一方のリンク20の上段側リンクプレート22および他方のリンク20の下段側リンクプレート23のそれぞれは、シャフト27の中心を回転軸として回転自在な状態で、シャフト27を介して連結される。図5に示すように、上段側リンクプレート22の他方の端部には、図2に示すスプロケット31、32、33、および34に係合される係合部29が取り付けられる。上段側リンクプレート22において、シャフト27は、係合部29とシャフト26との間に挿入される。シャフト27を回転軸として上段側リンクプレート22と下段側リンクプレート23とが回転すると、一方のリンク20の上段側リンクプレート22と他方のリンク20の下段側リンクプレート23との成す角(図示は省略)の角度が変化する。
【0031】
図4および図5に示すように、シャフト26の下端には、レールホルダ25が取り付けられる。レールホルダ25は、シャフト26の中心を回転軸として、回転可能な状態で取り付けられる。図4に示すように、シャフト27の下端には、レールホルダ24が取り付けられる。レールホルダ24は、シャフト27の中心を回転軸として、回転可能な状態で取り付けられる。レールホルダ24はレール13Aを覆うように配置され、レールホルダ25はレール13Bを覆うように配置される。なお、レールホルダ24および25のそれぞれは、レール13Aまたは13Bを挟むように配置されるつば付きローラと、つば付きローラを保持するホルダと、を備える部材である。
【0032】
リンク20は、上記の構造を備えるので、レール13Aとレール13Bとの離間距離が変化すると、その変化に追従して上段側リンクプレート22および下段側リンクプレート23が回転する。この結果、隣り合うリンク20のピッチは、レール13Aとレール13Bとの離間距離に対応して変化する。なお、隣り合うリンク20のピッチは、回転可能に構成された部分の頂点、言い換えれば、シャフト26の中心を基準として規定することができる。
【0033】
<リンク速度調整機構>
次に、図2に示すリンク速度調整機構としてのスプロケット34の詳細について説明する。図6は、図2に示すリンク速度調整機構の断面図である。まず、図2を用いて膜8を搬送する駆動力の影響について説明する。リンク20に把持された状態の膜8を搬送するリンク駆動機構として、入口部14に設けられたスプロケット31および33と、出口部15に設けられたスプロケット32と、を有する。入口部14の周辺では、膜8を搬送する駆動力として、スプロケット31および33の駆動力(押し出し進行)が支配的である。一方、出口部15の周辺では、膜8を搬送する駆動力として、スプロケット32の駆動力(引っ張り進行)が支配的である。また、入口部14と出口部15との間には、膜8を搬送する駆動力として、スプロケット31および33の駆動力の影響と、スプロケット32の駆動力の影響とが同程度になる中立点が存在する。中立点は、予熱部11Bと延伸部11Aとの境界近傍に位置する場合が多い。
【0034】
延伸装置5は、膜8をMD方向およびTD方向に引っ張ることにより膜8を延伸する。したがって、MD方向の張力、およびTD方向の張力以外の無秩序な張力が膜8に印加されることを回避する必要がある。リンク装置10Aにおける複数のリンク20の進行速度と、リンク装置10Bにおける複数のリンク20の進行速度とが全く同じであれば、MD方向の張力、およびTD方向の張力以外の無秩序な張力は生じない。ただし、リンク装置10Aにおける複数のリンク20の進行速度と、リンク装置10Bにおける複数のリンク20の進行速度との間にずれが生じた場合、そのずれた箇所において、リンク20に把持された膜8はMD方向およびTD方向のそれぞれに対して傾斜する斜め方向に延伸される(以下、この現象を斜め延伸と記載する)。斜め延伸が発生すると、薄膜8の品質低下の原因になる。
【0035】
予熱部11Bと延伸部11Aとの境界近傍では、スプロケット31および33の駆動力の影響が徐々に小さくなり、スプロケット32の駆動力の影響が大きくなる。延伸部11Aにおいて、膜8をMD方向およびTD方向に延伸させる張力が印可されると、予熱部11Bと延伸部11Aとの境界近傍では、膜8の延伸反力によって膜8を保持するリンク20が予熱部11B側から延伸部11A側に引っ張られ、リンク20が加速される。リンク装置10A側においてリンク20が引っ張られる力と、リンク装置10B側においてリンク20が引っ張られる力との間に差が生じた場合、リンク装置10Aにおける複数のリンク20の進行速度と、リンク装置10Bにおける複数のリンク20の進行速度との間にずれが生じ、斜め延伸が発生する原因となる。
【0036】
例えば、図4に示すレール13Aおよび13Bと、レールホルダ24および25との間には隙間が存在するので、多少のガタつきがある。レールホルダ24および25がレール13Aおよび13Bに沿って移動する際に、上記隙間に起因した走行抵抗が生じるが、リンク装置10Aおよび10Bの間で、上記したガタつきの程度を全く同じにすることは困難なので、走行抵抗の程度には差が生じる。このため、仮に、膜8の延伸反力の影響がリンク装置10Aおよび10Bに全く同じように及んだとしても、走行抵抗の違いに起因してリンク装置10A側においてリンク20が引っ張られる力と、リンク装置10B側においてリンク20が引っ張られる力との間に差が生じる。この結果、予熱部11Bと延伸部11Aとの境界周辺において、リンク装置10Aが備えるリンク20の進行速度と、リンク装置10Bが備える複数のリンク20の進行速度との間に、ずれが生じやすい。また、リンク装置10Aおよび10Bのうち、いずれか一方のリンク20が他方のリンク20よりも先に延伸部11Aに侵入すると、斜め延伸の程度が増幅され易い。
【0037】
本実施の形態の延伸装置5は、膜8の進行方向であるMD方向においてスプロケット31およびスプロケット32の間に配置され、リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれの進行速度を調整することが可能なリンク速度調整機構を有する。図6に示すように、リンク速度調整機構は、複数のリンク20に係合されるスプロケット34と、スプロケット34を駆動するモータ41と、を有する。リンク装置10Aおよびリンク装置10Bのそれぞれが有するモータ41は、リンク装置10Aにおける複数のリンク20の進行速度、およびリンク装置10Bにおける複数のリンク20の進行速度が揃うように、互いに独立してスプロケット34を回転させる。
【0038】
詳しくは、モータ41は、減速機42を介してスプロケット34に接続される。モータ41および減速機42は、熱処理部12であるオーブン(加熱室)の外部に配置され、シャフト43を介して熱処理部12の内部に配置されたスプロケット34に駆動力を伝達する。リンク装置10Aは、モータ41A、減速機42A、シャフト43A、およびスプロケット34Aを有する。リンク装置10Bはモータ41B、減速機42B、シャフト43B、およびスプロケット34Bを有する。以下の説明において、図6に示すスプロケット34Aおよび34B、あるいはモータ41Aおよび41Bに共通する事項について説明する場合には、単にスプロケット34やモータ41と記載する。一方、スプロケット34A、スプロケット34B、モータ41A、あるいはモータ41B等、リンク装置10Aおよび10Bのうち、いずれか一方の構成部品の説明をする場合には、構成部品が属するリンク装置10Aおよび10Bの種別を特定できるように記載する。
【0039】
スプロケット34Aは、リンク装置10Aのリンク20に係合し、スプロケット34Bは、リンク装置10Bのリンク20に係合する。この場合、スプロケット34Aの回転速度と、スプロケット34Bの回転速度が同じになるように制御することにより、スプロケット34Aおよび34Bに係合される場所では、リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれにおけるリンク20の進行速度を同じにすることができる。
【0040】
例えば、図6に示す例では、図6に模式的に示すように、モータ41Aおよび41Bのそれぞれは、モータ41Aおよび41Bの回転速度を制御する制御回路50に接続されている。制御回路50により、モータ41Aの回転速度と、モータ41Bの回転速度とを同期させることで、リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれにおけるリンク20の進行速度を強制的に同じにさせることができる。図6に示す例の場合、スプロケット34Aを駆動するモータ41Aおよびスプロケット34Bを駆動するモータ41Bをそれぞれ備えているので、スプロケット34Aおよび34Bを互いに独立して駆動することができる。
【0041】
なお、図示は省略するが、スプロケット34Aおよび34Bを同じ回転速度で回転させる場合、以下の変形例がある。すなわち、モータ41Aおよび41Bのように2台のモータを用いる代わりに、一台のモータ41の駆動力により、スプロケット34Aおよび34Bを一括して駆動することができる。
【0042】
図2に示すように、スプロケット34は、予熱部11Bに配置される。上記したように、斜め延伸は、予熱部11Bと延伸部11Bとの境界近傍において、リンク20が延伸部11A側に引っ張られることにより発生し易い。したがって、スプロケット34が延伸部11A側に配置されているよりも、予熱部11B側に配置されている方が好ましい。また、予熱部11Bと延伸部11Aとの境界近傍におけるリンク装置10Aにおける複数のリンク20の進行速度と、リンク装置10Bにおける複数のリンク20の進行速度との間のずれを低減させる観点からは、スプロケット34は、予熱部11Bと延伸部11Aとの境界の近傍に配置されることが好ましい。すなわち、図2に示すように、スプロケット34は、第1のリンク駆動機構であるスプロケット33よりも予熱部11Bと延伸部11Aとの境界に近い位置に配置されることが好ましい。
【0043】
なお、図示は省略するが、スプロケット34が延伸部11Aに配置されている場合でも、予熱部11Bと延伸部11Aとの境界近傍におけるリンク装置10Aにおける複数のリンク20の進行速度と、リンク装置10Bにおける複数のリンク20の進行速度との間のずれを低減させることは可能である。ただし、この場合、膜8の延伸に与える影響を考慮しつつ、スプロケット34の回転速度を制御する必要があるので、図2に示す例と比較して制御が難しい。言い換えれば、図2に示す例のようにスプロケット34が予熱部11Bに配置される場合、スプロケット34を延伸部11Aに配置される場合と比較して回転速度の制御が容易である。
【0044】
<センサ>
次に、図2に対する変形例として、センサを用いてリンク20の進行速度を計測する実施態様について説明する。図7は、図2に対する変形例である延伸装置において、リンク速度調整機構の周辺を拡大して示す拡大平面図である。図8は、図7に示すセンサ周辺のレイアウトの一例を示す拡大斜視図である。なお、図8は、リンク装置10Aに設けられたセンサ51Aを例示的に示しているが、図7のリンク装置10Bに設けられたセンサ51Bのレイアウトも同様である。図9は、図7に対する変形例を示す拡大平面図である。図7および図9では、見易さのため、延伸部11Aのリンク20の図示を省略している。また、図7および図9では、制御回路50とスプロケット34とが電気的に接続されるように図示しているが、図6に示す例とどうように、スプロケット34は、モータ41の駆動力が伝達されることにより回転する機構になっている。したがって、図7および図9に示す制御回路50に接続されるのは、図7または図9に示すスプロケット34に接続されるモータ41(図6参照)である。
【0045】
図7および図8に示す延伸装置5は、図6に示す例と同様に、リンク装置10Aが有するモータ41A(図6参照)、およびリンク装置10Bが有するモータ41B(図6参照)を有する。モータ41Aおよびモータ41Bのそれぞれは、互いに独立して回転数を設定することができる。本変形例の場合、リンク調整機構は、リンク装置10Aにおけるリンク20の進行速度を計測するセンサ51Aと、リンク装置10Bにおけるリンク20の進行速度を計測するセンサ51Bと、を含む。センサ51Aおよびセンサ51Bのそれぞれは、リンク装置10Aのモータ41Aおよびリンク装置10Bのモータ41Bのそれぞれの回転速度を制御する制御回路50に接続される。
【0046】
本変形例の場合、スプロケット34Aおよび34Bの回転速度を同期させて、強制的にリンク20の進行速度を制御する方法の他、以下の方法を適用できる。すなわち、図6に示すモータ41Aおよび41Bを互いに異なる速度で回転させることにより、スプロケット34Aの回転速度とスプロケット34Bの回転速度とが異なる速度になるようにすることができる。モータ41Aおよびモータ41Bのそれぞれは、センサ51Aの計測データとセンサの計測データとの差に基づいて、差を小さくするように制御される。
【0047】
例えば、センサ51Aおよび51Bによる計測の結果、リンク装置10Aにおけるリンク20の進行速度がリンク装置10Bにおけるリンク20の進行速度よりも速かったとする。リンク20の進行速度の差を小さくするためには、スプロケット34Aの回転速度を減速する方法、スプロケット34Bの回転速度を加速する方法、およびスプロケット34Aを減速し、かつ、スプロケット34Bを加速する方法がある。制御回路は、上記した3つの方法のうちの一つを選択し、選択結果に基づいてモータ41Aおよび41Bを駆動する。
【0048】
ここで、スプロケット34と係合する位置におけるリンク20の進行速度の上限および下限が予め設定されていればさらに好ましい。この場合、一方のリンク20の進行速度が上限値より大きければ、他方のリンクの進行速度を減速させるように制御すればよい。反対に、一方のリンク20の進行速度が下限値よりも遅い場合、前記一方のリンク20に進行速度を加速するように制御すればよい。
【0049】
図8に示すセンサ51は、例えば光学センサであって、リンク20の上部(例えばレールホルダ24の上部)に配置される。レールホルダ24(および図4に示すレールホルダ25)は、レール13A(およびレール13B)に沿って動くので、傾斜角度が変化する可能性がある上段側リンクプレート22(図4参照)と比較すると、位置および速度を正確に補足し易い。ただし、計測対象は、レールホルダ24には限定されず、リンク20の構成部品のいずれかを定点観測することができれば、リンク20の進行速度を計測することができる。
【0050】
また、図7および図8に示す例では、センサ51は、スプロケット34よりも上流側(すなわち図8に示す入り口部14側)に配置される。このレイアウトの場合、スプロケット34が、予熱部11Bと延伸部11Aとの境界の直近に配置することが可能である。一方、図9に示す変形例の場合、センサ51は、スプロケット34よりも下流側、すなわち出口部15(図8参照)に配置される。このレイアウトの場合、予熱部11Bと延伸部11Aとの境界の直近での速度を直接的に計測することができる。
【0051】
以上説明したように、図2図9を用いて説明した延伸装置5によれば、予熱部11Bと延伸部11Aとの境界の近傍で、リンク装置10Aにおける複数のリンク20の進行速度と、リンク装置10Bにおける複数のリンク20の進行速度との間にずれが生じにくいので、斜め延伸を抑制することができる。
【0052】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態または実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0053】
1 薄膜製造システム
2 混練押し出し装置(二軸混練押し出し装置)
2A 原料供給部
3 Tダイ
4 原反冷却装置
4A ガイドローラ(ローラ)
5 延伸装置(同時二軸延伸装置)
6 引き取り装置
7 巻き取り装置
8 膜
8b 背面
8f 前面
8F 収縮力
8T 張力
10A,10B リンク装置
11A 延伸部
11B 予熱部
12 熱処理部
13A,13B レール
14 入口部(入口側)
15 出口部(出口側)
20 リンク
21 クリップ
21A バネ
21B 把持部
22 上段側リンクプレート
23 下段側リンクプレート
24,25 レールホルダ
26,27 シャフト
28 ピン
29 係合部
31,32,33,34,34A,34B スプロケット
41,41A,41B モータ
42,42A,42B 減速機
43,43A,43B シャフト
50 制御回路
51,51A,51B センサ
θ1 角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9