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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】金属系粉体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20240807BHJP
   C01B 6/02 20060101ALI20240807BHJP
   C22C 16/00 20060101ALI20240807BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20240807BHJP
   B22F 3/16 20060101ALN20240807BHJP
   B22F 3/105 20060101ALN20240807BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALN20240807BHJP
【FI】
B22F1/00 R
C01B6/02
C22C16/00
C22C14/00 Z
B22F3/16
B22F3/105
B33Y70/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020180223
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071326
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴村 達也
(72)【発明者】
【氏名】薬研地 祐也
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0015550(US,A1)
【文献】米国特許第03943210(US,A)
【文献】特開2019-023353(JP,A)
【文献】国際公開第2013/151106(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 9/00
C01B 6/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiHx(0≦x≦2)及びZrHy(0≦y≦2)からなる群から選択される少なくとも1種の金属又は水素化金属からなる金属系粉体であって、
前記金属系粉体は丸みを帯びた粒子で構成されてなり、前記丸みを帯びた粒子の円摩度が平均で0.3以上であり、前記金属系粉体の平均粒子径(D50)が5~120μmであり、比表面積が1m/g以上であることを特徴とする金属系粉体。
【請求項2】
前記丸みを帯びた粒子の換算粒子直径が10~1500nmである請求項1に記載の金属系粉体。
【請求項3】
前記丸みを帯びた粒子が三次元的に連結してなる請求項1又は2に記載の金属系粉体。
【請求項4】
前記TiHx(0≦x≦2)からなる金属系粉体において、ニオブ元素とチタニウム元素のモル比(Nb/Ti)が0.00005~0.012となる量のニオブ元素を更に含有する請求項1~のいずれかに記載の金属系粉体。
【請求項5】
前記ZrHy(0≦y≦2)からなる金属系粉体において、ハフニウム元素とジルコニウム元素のモル比(Hf/Zr)が0.005~0.05となる量のハフニウム元素を更に含有する請求項1~のいずれかに記載の金属系粉体。
【請求項6】
酸化チタン及び酸化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を出発原料とし、前記金属酸化物に対して複合塩と第2族元素からなる還元剤とを混合し、無酸素雰囲気中、480~840℃で焼成し、pHが1以上6以下の酸性水溶液に浸漬させる請求項1~のいずれかに記載の金属系粉体の製造方法。
【請求項7】
前記複合塩が、Ca含有塩と、Li、Na、K及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素(Me)含有塩とからなり、Ca/Me(モル比)が1/9~9/1である請求項に記載の金属系粉体の製造方法。
【請求項8】
前記金属酸化物の比表面積が5~300m/gである請求項又はに記載の金属系粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、丸みを帯びた粒子で構成され、かつ比表面積が大きい金属系粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属チタニウム等の金属系粉体の工業的な製造方法として、四塩化チタンをMgにより還元するクロール法によって得られた金属Ti(スポンジTi)を粉砕等で処理する方法が知られているが、当該方法について様々な検討が行われている。例えば、金属チタニウムの水素化による脆性を利用して、原料である金属チタニウムを水素ガス雰囲気下で水素化し、得られた水素化チタンをボールミル等で粉砕した後に、脱水素処理する方法が知られている。これによれば、微粒子の金属チタニウムを工業的に得ることができるとされている。しかしながら、粉砕する工程を行うため、金属チタニウムの表面が角張った粒子となり、電極材料等に使用した場合に電荷の集中が生じるおそれがあった。また、金属Tiを融解させた後、噴霧法や回転電極法を用いて丸みを帯びた粒子を作製する方法も提案されているが、高比表面積を有する微粒子金属Tiを得るに至っていない。
【0003】
一方、非特許文献1には、溶融CaClに溶解したCaが酸化チタン粉末を還元することにより金属チタニウムを得る方法が記載されている。しかしながら、CaClやCaを溶融・溶解させることのできる高温(900℃以上)で反応させているため、このような高温下では比表面積の小さい金属チタニウムしか得られなかった。
【0004】
比較的低い温度で金属粉末を得る方法として、特許文献1には、金属から酸素を除去する方法であって、金属、カルシウム脱酸素剤、及び塩を含む混合物を形成することと、前記混合物を、前記塩の融点より高く、前記カルシウム脱酸素剤の融点より低い脱酸素温度で、ある時間にわたって制御雰囲気内で加熱して、前記金属の酸素含有量を低減させて、脱酸素された金属を形成することと、前記脱酸素された金属を冷却することとを含む方法が記載されており、具体的に実施例3には、2.5重量%の酸素を有する粒径が25~106μmのTi粉末をCaCl-LiCl共晶塩を用いて、700℃まで加熱し、H雰囲気中で4時間保持し、酸素含有量が0.07重量%まで減少したことが記載されている。しかしながら、出発原料が金属粉末である場合、比表面積が大きい金属粉末を得ることができず、また円摩度が一定以上の丸みを帯びた粒子が得られない場合があった。
【0005】
また、特許文献2には、酸化チタンを含むチタン鉱と還元剤を含む化学ブレンドであって、前記チタン鉱対前記還元剤の比が、0.9~2.4の前記チタン鉱中の酸化チタン成分:前記還元剤中の還元用金属の質量比に相当する前記化学ブレンドを混合する工程;前記化学ブレンドを加熱して抽出反応を開始する工程であって、前記化学ブレンドを、1℃~50℃/分の上昇速度で加熱する工程;前記化学ブレンドを、5分と30分の間の時間、1500~1800℃の反応温度に維持する工程;前記化学ブレンドを、1670℃よりも低い温度に冷却する工程;および、チタン生産物を、残留スラグから分離する工程を含むチタン鉱からのチタン生産物の抽出方法が記載されている。しかしながら、特許文献2のように1500~1800℃の高温下で維持する工程を行うと、円摩度が一定以上の丸みを帯びた粒子が得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2018-502218号公報
【文献】特開2019-23353号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】R.O. Suzuki, Journal of Physics and Chemistry of Solids 66, 2005, p.461-465
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、円摩度が一定以上の丸みを帯びた粒子で構成され、かつ比表面積が大きい金属系粉体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、TiHx(0≦x≦2)及びZrHy(0≦y≦2)からなる群から選択される少なくとも1種の金属又は水素化金属からなる金属系粉体であって、前記金属系粉体は丸みを帯びた粒子で構成されてなり、前記丸みを帯びた粒子の円摩度が平均で0.3以上であり、比表面積が1m/g以上であることを特徴とする金属系粉体を提供することによって解決される。
【0010】
このとき、前記丸みを帯びた粒子の換算粒子直径が10~1500nmであることが好適であり、前記丸みを帯びた粒子が三次元的に連結してなることが好適である。前記金属系粉体の平均粒子径(D50)が5~120μmであることも好適である。前記TiHx(0≦x≦2)からなる金属系粉体において、ニオブ元素とチタニウム元素のモル比(Nb/Ti)が0.00005~0.012となる量のニオブ元素を更に含有することが好適な実施態様であり、前記ZrHy(0≦y≦2)からなる金属系粉体において、ハフニウム元素とジルコニウム元素のモル比(Hf/Zr)が0.005~0.05となる量のハフニウム元素を更に含有することも好適な実施態様である。
【0011】
また、上記課題は、酸化チタン及び酸化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を出発原料とし、前記金属酸化物に対して複合塩と第2族元素からなる還元剤とを混合し、無酸素雰囲気中、480~840℃で焼成し、pHが1以上6以下の酸性水溶液に浸漬させる金属系粉体の製造方法を提供することによっても解決される。
【0012】
このとき、前記複合塩が、Ca含有塩と、Li、Na、K及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素(Me)含有塩とからなり、Ca/Me(モル比)が1/9~9/1であることが好適な実施態様であり、前記金属酸化物の比表面積が5~300m/gであることも好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、円摩度が一定以上の丸みを帯びた粒子で構成され、かつ比表面積が大きい金属系粉体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1、12、14、比較例2及び4で得られた金属系粉体のSEM像を示した図である。
図2】実施例1と12について、X線回折測定で得られたチャートを示した図である。
図3】Krumbeinの円摩度図表を示した図である。
図4】実施例1で得られた金属系粉体のSEM像において、30個程度の粒子をサンプリングし、円摩度の算出結果を示した図である。
図5】比較例4で得られた金属系粉体のSEM像において、30個程度の粒子をサンプリングし、円摩度の算出結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の金属系粉体は、TiHx(0≦x≦2)及びZrHy(0≦y≦2)からなる群から選択される少なくとも1種の金属又は水素化金属からなる金属系粉体であって、前記金属系粉体は丸みを帯びた粒子で構成されてなり、前記丸みを帯びた粒子の円摩度が平均で0.3以上であり、比表面積が1m/g以上であることを特徴とする。
【0016】
本発明の金属系粉体は、TiHx(0≦x≦2)及びZrHy(0≦y≦2)からなる群から選択される少なくとも1種の金属又は水素化金属からなるものである。TiHx及びZrHyにおいて、x及びyは0以上2以下の任意の値である。x及びyが0の場合、本発明の金属系粉体は、Ti金属及びZr金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属からなるものとなる。x及びyが0を超えて2以下の場合、本発明の金属系粉体は、TiHx(0<x≦2)及びZrHy(0<y≦2)からなる群から選択される少なくとも1種の水素化金属からなるものとなる。
【0017】
本発明者らの検討により、出発原料を金属酸化物とし、前記金属酸化物に対して複合塩と第2族元素からなる還元剤とを混合して、無酸素雰囲気中で480~840℃で焼成することにより、丸みを帯びた粒子の円摩度が平均で0.3以上であり、かつ比表面積が1m/g以上である、TiHx(0≦x≦2)及びZrHy(0≦y≦2)からなる群から選択される少なくとも1種の金属又は水素化金属からなる金属系粉体が得られることが明らかとなった。後述する実施例と比較例との対比から分かるように、焼成温度が900℃と高い場合、比表面積が大きい金属系粉体が得られないことを確認している。本発明者らは、焼成温度が高い場合、還元反応と同時に粒子同士のシンタリングが進行するため、その結果、比表面積が大きくならないと推察している。また、出発原料が酸化チタンではなく金属チタンの場合、比表面積が大きい金属系粉体が得られず、円摩度が0.3以上の丸みを帯びた粒子とはならないことを確認している。本発明者らは、出発原料が金属チタンの場合、当該金属チタンに含まれ得る酸素は最大でも5%であるため、焼成した際に酸素が抜けることによる体積変化がほとんど生じず、その結果、比表面積が大きくならないと推察している。これに対し、出発原料が金属酸化物の場合、当該金属酸化物に含まれ得る酸素は20~40%となるため、焼成した際に酸素が抜けることによる体積変化が生じ、その結果、比表面積が大きい金属系粉体が得られることになると推察している。このことは本発明者らの検討により明らかになったことである。
【0018】
本発明の金属系粉体は、丸みを帯びた粒子で構成されてなり、前記丸みを帯びた粒子の円摩度が平均で0.3以上である。本発明において丸みを帯びた粒子とは、当該粒子の表面が角張った形状ではなく、丸みを帯びた形状であって、円摩度が平均で0.3以上のものを表すものである。後述する実施例で説明されているように、電子顕微鏡で得られたSEM像から30個程度の粒子をサンプリングし、Krumbeinの円摩度図表(沢田敏男他,粒状物の形状特性の表現方法について,農業土木学会論文集第38号,1971年,p.73,Fig.2参照)で各粒子を一つずつ分類分けすることにより円摩度の平均値が算出される。円摩度が0.3未満の場合、丸みを帯びた粒子とはならず、電極材料等に使用した場合に電荷の集中が生じるおそれがある。円摩度は0.4以上であることが好ましく、0.55以上であることがより好ましく、0.6以上であることがさらに好ましい。なお、円摩度が1の場合は真球であり、本発明において円摩度は1以下である。
【0019】
本発明の金属系粉体は、比表面積が1m/g以上である。比表面積が1m/g以上であることにより、例えば燃料電池など電極触媒の担体として用いる場合、比表面積が高いことで触媒粒子をより多く担持することができる等の利点を有する。比表面積は1.2m/g以上であることが好ましく、2m/g以上であることがより好ましく、2.6m/g以上であることがさらに好ましい。本発明の金属系粉体の比表面積は、通常、80m/g以下である。本発明において比表面積S(m/g)は、圧力pにおいてN分子が固体表面に吸着するときのガス吸着量vと、p/p(相対圧p:飽和水蒸気圧)との関係(吸着等温線)に対し、BET理論を適用することにより算出される。
【0020】
本発明の金属系粉体において、前記丸みを帯びた粒子の換算粒子直径が10~1500nmであることが好適な実施態様である。換算粒子直径が10nm未満の場合、超微粒子であるため反応性が非常に高くなり、粉じん爆発を引き起こすおそれがある。換算粒子直径は、30nm以上であることがより好ましく、80nm以上であることがさらに好ましく、100nm以上であることが特に好ましい。一方、換算粒子直径は、1400nm以下であることがより好ましく、1300nm以下であることがさらに好ましく、1000nm以下であることが特に好ましく、800nm以下であることが最も好ましい。本発明において換算粒子直径R(nm)は、粒子を球体と仮定し、上記比表面積S(m/g)から以下の式により求められる。
【0021】
【数1】
ここで、ρは密度であり、Tiの場合は4.506g/mL、Zrの場合は6.52g/mL、TiHの場合は3.91g/mLである。
【0022】
本発明の金属系粉体において、前記丸みを帯びた粒子が三次元的に連結してなることが好適な実施態様である。このように、前記丸みを帯びた粒子が三次元的に連結してなることにより、接触抵抗が低減できる利点を有する。本発明において前記丸みを帯びた粒子が三次元的に連結してなるとは、前記丸みを帯びた粒子が少なくとも3個以上三次元的に連結した形状を有することを表すものである。前記丸みを帯びた粒子が少なくとも5個以上三次元的に連結した形状を有することがより好適な実施態様である。
【0023】
本発明の金属系粉体は、平均粒子径(D50)が5~120μmであることが好ましい。平均粒子径(D50)は、8μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、35μm以上であることが特に好ましい。一方、平均粒子径(D50)が120μmを超える場合、電極材料等に使用した場合に電極表面の凹凸が顕著となるおそれがある。平均粒子径(D50)は、115μm以下であることがより好ましく、112μm以下であることがさらに好ましい。本発明において平均粒子径(D50)は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックMT-3000)を用いて粒度分布を測定して得られるメディアン径を意味する。
【0024】
本発明の金属系粉体は、様々な結晶構造を取り得る。すなわち、TiHxにおいてx=0及びZrHyにおいてy=0の場合には結晶構造が六方晶となり、TiHxにおいて0<x≦1.5及びZrHyにおいて0<y≦1.5の場合には結晶構造が正方晶となり、TiHxにおいて1.5<x≦2及びZrHyにおいて1.5<y≦2の場合には結晶構造が立方晶となる。
【0025】
本発明の金属系粉体には、チタニウム元素とジルコニウム元素以外の他の金属元素が含有されていても構わない。他の金属元素は、チタニウム元素又はジルコニウム元素1モルに対して、通常、0.1モル以下である。比表面積が大きい金属系粉体が得られる観点から、TiHx(0≦x≦2)からなる金属系粉体において、ニオブ元素とチタニウム元素のモル比(Nb/Ti)が0.00005~0.012となる量のニオブ元素を更に含有することが好適な実施態様であり、ZrHy(0≦y≦2)からなる金属系粉体において、ハフニウム元素とジルコニウム元素のモル比(Hf/Zr)が0.005~0.05となる量のハフニウム元素を更に含有することが好適な実施態様である。ニオブ元素とチタニウム元素のモル比(Nb/Ti)としては、0.0001~0.012であることがより好ましく、0.001~0.0115であることがさらに好ましい。また、ハフニウム元素とジルコニウム元素のモル比(Hf/Zr)としては、0.006~0.03であることがより好ましい。
【0026】
本発明の金属系粉体は、酸化チタン及び酸化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を出発原料とし、前記金属酸化物に対して複合塩と第2族元素からなる還元剤とを混合し(以下、「混合工程」と略記することがある)、無酸素雰囲気中、480~840℃で焼成し(以下、「焼成工程」と略記することがある)、pHが1以上6以下の酸性水溶液に浸漬させる(以下、「浸漬工程」と略記することがある)ことにより好適に製造することができる。後述する実施例と比較例との対比から分かるように、出発原料が酸化チタンではなく金属チタンの場合、比表面積が大きい金属系粉体が得られず、円摩度が0.3以上の丸みを帯びた粒子とはならない。また、複合塩ではなく塩化カルシウムのみを使用した場合、焼成温度を900℃にすると比表面積が大きい金属系粉体を得ることができず、焼成温度を550℃にすると焼成後に塩化カルシウムが粒のまま残存し、金属系粉体を得ることができない。これに対し、出発原料を前記金属酸化物とし、前記金属酸化物に対して複合塩と第2族元素からなる還元剤とを混合して、無酸素雰囲気中、480~840℃で焼成することにより、丸みを帯びた粒子の円摩度が一定以上であり、かつ比表面積が大きい金属系粉体を得ることができる。
【0027】
出発原料である前記金属酸化物の比表面積が5~300m/gであることが好適な実施態様である。前記比表面積が5m/g未満の場合、比表面積が大きい金属系粉体が得られないおそれがある。前記比表面積は、8m/g以上であることがより好ましい。特に、前記金属酸化物が酸化チタンである場合の比表面積としては、10m/g以上であることがより好ましく、30m/g以上であることがさらに好ましく、50m/g以上であることが特に好ましい。一方、前記比表面積は280m/g以下であることがより好ましく、220m/g以下であることがさらに好ましく、180m/g以下であることが特に好ましい。特に、前記金属酸化物が酸化ジルコニウムである場合の比表面積としては、150m/g以下であることがより好ましく、120m/g以下であることがさらに好ましい。
【0028】
前記混合工程において、前記金属酸化物に対して複合塩と第2族元素からなる還元剤とを混合する方法としては特に限定されず、任意の順番で混合することができる。
【0029】
本発明で用いられる複合塩としては、Ca含有塩と、Li、Na、K及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素(Me)含有塩とからなることが好適な実施態様である。前記Ca含有塩としては、CaCl、CaBr及びCaIからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられ、CaClがより好適に用いられる。前記金属元素(Me)含有塩としては、LiCl、LiBr、LiI、NaCl、NaBr、NaI、KCl、KBr、KI、MgCl、MgBr及びMgIからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられ、LiCl、NaCl、KCl及びMgClからなる群から選択される少なくとも1種がより好適に用いられる。中でも、CaCl-LiCl、CaCl-NaCl、CaCl-KCl、CaCl-MgCl、CaCl-NaCl-LiClからなる群から選択される少なくとも1種の複合塩が好適に用いられる。前記複合塩の配合量は、前記金属酸化物1質量部に対して5~200質量部であることが好ましく、10~100質量部であることがより好ましい。
【0030】
前記Ca含有塩と前記金属元素(Me)含有塩との配合比であるCa/Me(モル比)としては特に限定されないが、前記Ca/Me(モル比)が1/9~9/1であることが好適な実施態様である。前記Ca/Me(モル比)が1/9未満の場合、還元時に生成するO2-(CaO)が十分に溶融塩に溶解できず、還元できないおそれがある。前記Ca/Me(モル比)は2/8以上であることがより好ましい。一方、前記Ca/Me(モル比)が9/1を超える場合、複合塩が溶融せずに残存し、金属系粉体が得られないおそれがある。前記Ca/Me(モル比)は、8/2以下であることがより好ましく、7/3以下であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明で用いられる第2族元素からなる還元剤としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及びラジウム(Ra)からなる群から選択される少なくとも1種の金属が好適に用いられる。中でも、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)及びストロンチウム(Sr)からなる群から選択される少なくとも1種の金属がより好適に用いられる。前記第2族元素からなる還元剤の配合量は、前記金属酸化物1質量部に対して0.5~20質量部であることが好ましく、1~10質量部であることがより好ましい。
【0032】
前記焼成工程では、無酸素雰囲気中、例えば、不活性ガス雰囲気、水素ガス雰囲気、水素-不活性ガス雰囲気中で焼成することが好ましく、不活性ガスとしてアルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンなどが好適に使用される。水素化金属からなる金属系粉体を得る観点から、前記焼成工程において水素ガス雰囲気、又は水素-不活性ガス雰囲気中で焼成することが好適な実施態様である。水素-不活性ガス雰囲気中で焼成する場合、水素と不活性ガスとの質量比(水素/不活性ガス)は1/9~9/1であることが好ましい。
【0033】
前記焼成工程における焼成温度は480~840℃であることが好ましい。焼成温度が480℃未満の場合、未反応の原料が残存し、金属系粉体が得られないおそれがある。焼成温度は490℃以上であることがより好ましく、500℃以上であることがさらに好ましい。一方、焼成温度が840℃を超える場合、比表面積が大きい金属系粉体が得られないおそれがある。焼成温度は820℃以下であることがより好ましく、810℃以下であることがさらに好ましい。
【0034】
前記焼成工程における焼成時間としては、1~48時間であることが好ましい。焼成時間が1時間未満の場合、未反応の原料が残存し、金属系粉体が得られないおそれがある。焼成時間は2時間以上であることがより好ましく、4時間以上であることがさらに好ましい。一方、焼成時間が48時間を超える場合、生産性が低下するおそれがある。焼成時間は24時間以下であることがより好ましく、18時間以下であることがさらに好ましい。
【0035】
前記焼成工程を行った後、洗浄工程を行うことが好適な実施態様である。洗浄工程により、複合塩や副生成物等を取り除くことが可能となる。洗浄工程としては、水等を用いた公知の方法が採用されるが、40~90℃に加熱した水等を用いて洗浄することも好適な実施態様である。
【0036】
また、前記焼成工程を行った後、pHが1以上6以下の酸性水溶液に浸漬させる浸漬工程を行うことが好適な実施態様である。前記浸漬工程により、複合塩や副生成物等を効率的に取り除くことが可能となる。前記浸漬工程は、上記洗浄工程の後に行うことが好ましく、これにより上記洗浄工程で取り除けなかった複合塩や副生成物等を効率的に取り除くことが可能となる。浸漬工程で用いられるpHが1以上6以下の酸性水溶液としては、酢酸水溶液、塩酸水溶液等が挙げられる。前記酸性水溶液のpHとしては、1.2以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましい。一方、前記酸性水溶液のpHとしては、5.5以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましい。
【0037】
また、本発明で得られた金属系粉体を別途水素化することにより、水素化金属からなる金属系粉体を得ることもできる。別途水素化する方法としては、上記と同様に水素ガス雰囲気、又は水素-不活性ガス雰囲気中で焼成する方法が好適に採用される。水素-不活性ガス雰囲気中で焼成する場合、水素と不活性ガスとの質量比(水素/不活性ガス)は1/9~9/1であることが好ましい。このときの焼成温度としては、300~700℃であることが好ましく、350~650℃であることがより好ましい。また、焼成時間としては、0.5~12時間であることが好ましく、1~8時間であることがより好ましい。
【0038】
上述のようにして得られる本発明の金属系粉体は、円摩度が一定以上の丸みを帯びた粒子で構成され、かつ比表面積が大きいものとなる。金属系粉体の表面が角張った粒子で課題となっている電荷の集中が抑えられるため、電極材料や3Dプリンタ用材料等に好適に用いることができる。特に、燃料電池等に好適に用いることができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0040】
(1)組成分析
SPECTRO社製ICP発光分光分析装置「ARCOS」を用い、試料の組成をICP発光分光分析法により分析し、各元素のモル比(Nb/Ti又はHf/Zr)を算出した。
【0041】
(2)結晶構造
Philips社製XRD装置「X’pert-PRO」を用い、各粉体試料について、CuのKa線でX線回折測定を行い、その試料の結晶構造を同定した。
【0042】
(3)BET比表面積、換算粒子直径の測定
マイクロトラック・ベル株式会社製「BELSORP mini」を用いて測定した。粉末試料の測定前において、試料表面や細孔内に物理吸着している水分などを取り除くため、前処理として真空排気しながら加熱した。真空度は10-2Pa、温度は150℃であった。比表面積(m/g)は、圧力pにおいてN分子が固体表面に吸着するときのガス吸着量vと、p/p(相対圧p:飽和水蒸気圧)との関係(吸着等温線)に対し、BET理論を適用することにより算出した。
換算粒子直径R(nm)は、粒子を球体と仮定し、以下の式を用いて比表面積S(m/g)から換算した。
【数2】
ここで、ρは密度であり、Tiの場合は4.506g/mL、Zrの場合は6.52g/mL、TiHの場合は3.91g/mLである。
【0043】
(4)形状観察
各粉体試料の形状観察は、日立ハイテクノロジー社製走査型電子顕微鏡「S-4800」を用いて行った。
【0044】
(5)丸みを帯びた粒子の円摩度
日立ハイテクノロジー社製走査型電子顕微鏡「S-4800」を用いて得られたSEM像から、30個程度の粒子をサンプリングし、図3で示されるKrumbeinの円摩度図表(沢田敏男他,粒状物の形状特性の表現方法について,農業土木学会論文集第38号,1971年,p.73,Fig.2参照)で各粒子を一つずつ分類分けすることにより円摩度の平均値を算出する。例えば、図4図5のSEM像に示されるように、白色の線で囲まれた粒子を30個程度サンプリングし、図3で示されるKrumbeinの円摩度図表で各粒子を一つずつ分類分けすることにより円摩度の平均値を算出する。円摩度の平均値は、実施例1では0.54であり、比較例4では0.25であった。円摩度の平均値の評価基準は以下のとおりである。
A:0.6以上
B:0.45以上0.6未満
C:0.3以上0.45未満
D:0.1以上0.3未満
なお、円摩度が1の場合、真球となる。
【0045】
(6)粒度分布測定
平均粒子径(D50)は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックMT-3000)を用いて測定した。このとき、媒体はエタノールである。
【0046】
実施例1
チタン製角形容器(寸法:縦90mm×横90mm×高さ70mm)に、金属酸化物として酸化チタン(テイカ株式会社製、アナターゼ形、比表面積100m/g)を3g、還元剤として金属カルシウム(Sigma-Aldrich社製「カルシウム granular」)を6g、複合塩として塩化カルシウムと塩化リチウムとからなる複合塩(Ca/Li(モル比)=4/6)を100g加えて混合した。前記チタン製角形容器をマッフルケース付電気炉に仕込み、アルゴン雰囲気下(流速1L/min)、昇温速度5℃/minで550℃まで昇温し、そのまま550℃で12時間保持することにより焼成した。冷却後、前記チタン製角形容器から取り出し、70℃のイオン交換水で洗浄した後、60wt%の酢酸水溶液で中和(pH5以下)することにより実施例1の金属チタニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。得られた金属チタニウム粉体のSEM像を図1及び図4に、X線回折測定で得られたチャートを図2に示す。
【0047】
実施例2
実施例1において、金属酸化物として酸化チタン(テイカ株式会社製、非晶質、比表面積274m/g)を3g用いた以外は同様にして、金属チタニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0048】
実施例3
実施例1において、金属酸化物として酸化ジルコニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、比表面積9.9m/g)を3g用いた以外は同様にして、金属ジルコニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0049】
実施例4
実施例1において、焼成温度を650℃に変更した以外は同様にして、金属チタニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0050】
実施例5
実施例1において、複合塩として塩化カルシウムと塩化リチウムとからなる複合塩(Ca/Li(モル比)=7/3)を100g用い、焼成温度を650℃に変更した以外は同様にして、金属チタニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0051】
実施例6
実施例1において、複合塩として塩化カルシウムと塩化ナトリウムとからなる複合塩(Ca/Na(モル比)=5/5)を100g用い、焼成温度を650℃に変更した以外は同様にして、金属チタニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0052】
実施例7
実施例1において、複合塩として塩化カルシウムと塩化ナトリウムとからなる複合塩(Ca/Na(モル比)=3/7)を100g用い、焼成温度を800℃、焼成時間を6時間に変更した以外は同様にして、金属チタニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0053】
実施例8
実施例1において、金属酸化物として酸化ジルコニウム(テイカ株式会社製、比表面積100m/g)を3g、複合塩として塩化カルシウムと塩化ナトリウムとからなる複合塩(Ca/Na(モル比)=3/7)を100g用い、焼成温度を800℃に変更した以外は同様にして、金属ジルコニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0054】
実施例9
実施例1において、複合塩として塩化カルシウムと塩化ナトリウムと塩化リチウムとからなる複合塩(Ca/Na/Li(モル比)=5/2/3)を100g用いた以外は同様にして、金属チタニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0055】
実施例10
実施例1において、金属酸化物として酸化チタン(テイカ株式会社製、アナターゼ形、比表面積216m/g)を3g用いた以外は同様にして、金属チタニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0056】
実施例11
実施例1において、金属酸化物として酸化ジルコニウム(テイカ株式会社製、比表面積42m/g)を3g用いた以外は同様にして、金属ジルコニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0057】
実施例12
実施例5で得られた金属チタニウム粉体を用いて、アルゴン-水素雰囲気下(Ar/H=9/1)で400℃、4時間焼成し、水素化チタン粉体(TiH)を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。得られた水素化チタン粉体のSEM像を図1に、X線回折測定で得られたチャートを図2に示す。
【0058】
実施例13
実施例1において、アルゴン雰囲気下、550℃で焼成する代わりに、アルゴン-水素雰囲気下(Ar/H=9/1)、650℃で焼成した以外は同様にして、水素化チタン粉体(TiH)を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0059】
実施例14
実施例1において、複合塩として塩化カルシウムと塩化ナトリウムと塩化リチウムとからなる複合塩(Ca/Na/Li(モル比)=5/2/3)を100g用い、焼成温度を500℃に変更した以外は同様にして、金属チタニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。得られた金属チタニウム粉体のSEM像を図1に示す。
【0060】
比較例1
実施例1において、複合塩の代わりに塩化カルシウムのみ(Ca/Li(モル比)=10/0)を100g用いた以外は同様の操作を行った。その結果、焼成後に塩化カルシウムが粒のまま残存し、金属チタニウム粉体を得ることができなかった。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0061】
比較例2
実施例1において、複合塩の代わりに塩化カルシウムのみ(Ca/Li(モル比)=10/0)を100g用い、焼成温度を900℃、焼成時間を6時間に変更した以外は同様にして、金属チタニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。得られた金属チタニウム粉体のSEM像を図1に示す。
【0062】
比較例3
実施例1において、金属酸化物として酸化ジルコニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、比表面積9.9m/g)を3g用い、複合塩の代わりに塩化カルシウムのみ(Ca/Li(モル比)=10/0)を100g用い、焼成温度を900℃、焼成時間を6時間に変更した以外は同様にして、金属ジルコニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0063】
比較例4
実施例1において、金属酸化物の代わりに金属チタン(株式会社高純度化学研究所製、比表面積1.3m/g)を用いた以外は同様にして、金属チタニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。得られた金属チタニウム粉体のSEM像を図1及び図4に示す。
【0064】
比較例5
実施例1において、焼成温度を900℃に変更した以外は同様にして、金属チタニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0065】
比較例6
実施例1において、金属酸化物として酸化チタン(テイカ株式会社製、ルチル形、比表面積4.7m/g)を3g用いた以外は同様にして、金属チタニウム粉体を得た。製造条件と評価結果を表1にまとめて示す。
【0066】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5