(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】搬送システム及び搬送システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 25/064 20160101AFI20240807BHJP
H02K 41/035 20060101ALI20240807BHJP
B65G 54/02 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
H02P25/064
H02K41/035
B65G54/02
(21)【出願番号】P 2020182799
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】木村 竜司
(72)【発明者】
【氏名】新海 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 武
(72)【発明者】
【氏名】江澤 光晴
(72)【発明者】
【氏名】下村 嘉士
(72)【発明者】
【氏名】水野 友裕
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-165993(JP,A)
【文献】特開昭61-177103(JP,A)
【文献】米国特許第04727813(US,A)
【文献】特許第2936359(JP,B2)
【文献】特開2020-096514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/064
H02K 41/035
B65G 54/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1磁力部を有する固定子と、
第2磁力部を有する可動子と、
制御部と、を有し、
前記制御部は、前記第1磁力部と前記第2磁力部との間に働く磁力を制御して前記可動子を第1方向に搬送し、
前記固定子は、前記第1方向と交差する第2方向において前記可動子を挟んで配置された複数の第1規制部材を含む第1規制部材列及び複数の第2規制部材を含む第2規制部材列を有し、
前記制御部は、前記可動子が前記第1規制部材列に接した際に、前記第1規制部材列のうちの1つの第1規制部材を支点とした回転力を前記可動子に与える第1処理を行う
ことを特徴とする搬送システム。
【請求項2】
前記第1処理の後において、前記可動子は、前記第2規制部材列のうちの少なくとも1つの第2規制部材と当接する
ことを特徴とする請求項1に記載の搬送システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1処理を行う前に前記第1方向における前記可動子の位置が前記第1処理を行い得る位置であるか否かを判定し、前記第1処理を行い得ない位置であると判定した場合に前記可動子を前記第1方向に移動させる第2処理を
行う
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の搬送システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1処理の後において、前記可動子の位置が前記第2方向への前記可動子の移動を行い得る位置であるか否かを判定し、前記第2方向への前記可動子の移動を行い得ない位置であると判定した場合に前記可動子の位置を調整する第3処理を
行う
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1処理の後において、前記第1処理の際とは逆方向の回転力を前記可動子に与える第4処理を
行う
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項6】
前記複数の第1規制部材と前記複数の第2規制部材は、前記
第1方向に対して非
線対称に配されている
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項7】
第1磁力部を有する固定子と、
第2磁力部を有する可動子と、
制御部と、を有し、
前記制御部は、前記第1磁力部と前記第2磁力部との間に働く磁力を制御して前記可動子を第1方向に搬送し、
前記可動子は、前記第1方向と交差する第2方向において2つの側面を有し、一方の側面に配された複数の第1規制部材を含む第1規制部材列と、前記可動子の他方の側面に配された複数の第2規制部材を含む第2規制部材列を有し、
前記制御部は、前記可動子の前記第1規制部材列が前記固定子に接した際に、前記第1規制部材列のうちの1つの第1規制部材を支点とした回転力を前記可動子に与える第1処理を行う
ことを特徴とする搬送システム。
【請求項8】
前記第1規制部材列は、大きさが互いに異なる第1規制部材を含む
ことを特徴とする請求項7に記載の搬送システム。
【請求項9】
前記第1磁力部は、コイルを含み、
前記第2磁力部は、永久磁石を含む
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項10】
前記複数の第1規制部材と前記複数の第2規制部材の各々は、ローラである
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項11】
互いに異なる向きに磁力を生じる複数組の前記第1磁力部及び前記第2磁力部を有する
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の搬送システムと、
前記可動子により搬送されるワークに対して加工を施す加工装置と、
を有することを特徴とする加工システム。
【請求項13】
請求項12に記載の加工システムを用いて物品を製造する製造方法であって、
前記可動子により前記ワークを搬送する工程と、
前記可動子により搬送された前記ワークに対して前記加工装置により前記加工を施す工程と、
を有することを特徴とする製造方法。
【請求項14】
第1磁力部を有する固定子と、
第2磁力部を有する可動子と、
制御部と、を有し、
前記制御部は、前記第1磁力部と前記第2磁力部との間に働く磁力を制御して前記可動子を第1方向に搬送し、
前記固定子は、前記第1方向と交差する第2方向において前記可動子を挟んで配置された複数の第1規制部材を含む第1規制部材列及び複数の第2規制部材を含む第2規制部材列を有する
搬送システムの制御方法であって、
前記可動子が前記第1規制部材列に接した際に、前記第1規制部材列のうちの1つの第1規制部材を支点とした回転力を前記可動子に与える第1処理を行う
ことを特徴とする搬送システムの制御方法。
【請求項15】
第1方向に延在する搬送路と、第1磁力部と、を有する固定子と、
前記搬送路に配され、前記第1磁力部と対向可能な位置に配された第2磁力部を有し、前記第1磁力部と前記第2磁力部との間に働く磁力によって前記第1方向に搬送される可動子と、
を有し、
前記可動子は、前記可動子の一方の側面に配された複数の第1規制部材を含む第1規制部材列と、前記可動子の他方の側面に配された複数の第2規制部材を含む第2規制部材列と、を更に有する
搬送システムの制御方法であって、
前記可動子の前記第1規制部材列が前記搬送路の側壁に接した際に、前記第1規制部材列及び前記第2規制部材列と接しない位置に前記可動子を移動させる復帰ステップを含み、
前記復帰ステップは、前記第1規制部材列のうちの1つの第1規制部材を支点とした回転力を前記可動子に与える第1ステップを含む
ことを特徴とする搬送システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送システム及び搬送システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触方式の搬送システムは、浮上状態を保ちつつ可動子の位置及び姿勢を制御して、可動子を搬送方向に駆動することにより搬送を行う。可動子の位置を検出するセンサの異常等の原因により可動子の制御状態に異常が発生した場合には、可動子を搬送路に接触させて停止させることがある。異常の要因を取り除いた後に搬送を再開する際には、接触状態から浮上状態に移行させる処理が行われる。接触状態から浮上状態への移行の際には、搬送状態とは異なる方法により可動子を浮上させる制御が行われる。
【0003】
特許文献1には、吸引式磁気浮上車両が開示されている。特許文献1においては、複数の台車が同時に浮上又は同時に着地しないように浮上開始又は着地の時刻をずらすことにより、浮上開始時又は着地時の瞬時電力が低減されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、複数の台車を制御する搬送システム全体の瞬時電力を低減することを開示している。しかしながら、特許文献1においては、着地状態から浮上状態への復帰に関して個別の台車に着目した検討はなされていない。
【0006】
本発明は、可動子が固定子に接触している状態から可動子が固定子に接触していない状態への移行を好適に実現し得る搬送システム及び搬送システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、第1磁力部を有する固定子と、第2磁力部を有する可動子と、制御部と、を有し、前記制御部は、前記第1磁力部と前記第2磁力部との間に働く磁力を制御して前記可動子を第1方向に搬送し、前記固定子は、前記第1方向と交差する第2方向において前記可動子を挟んで配置された複数の第1規制部材を含む第1規制部材列及び複数の第2規制部材を含む第2規制部材列を有し、前記制御部は、前記可動子が前記第1規制部材列に接した際に、前記第1規制部材列のうちの1つの第1規制部材を支点とした回転力を前記可動子に与える第1処理を行うことを特徴とする搬送システムが提供される。
【0008】
本発明の他の一観点によれば、第1磁力部を有する固定子と、第2磁力部を有する可動子と、制御部と、を有し、前記制御部は、前記第1磁力部と前記第2磁力部との間に働く磁力を制御して前記可動子を第1方向に搬送し、前記可動子は、前記第1方向と交差する第2方向において2つの側面を有し、一方の側面に配された複数の第1規制部材を含む第1規制部材列と、前記可動子の他方の側面に配された複数の第2規制部材を含む第2規制部材列を有し、前記制御部は、前記可動子の前記第1規制部材列が前記固定子に接した際に、前記第1規制部材列のうちの1つの第1規制部材を支点とした回転力を前記可動子に与える第1処理を行うことを特徴とする搬送システムが提供される。
【0009】
本発明の他の観点によれば、第1磁力部を有する固定子と、第2磁力部を有する可動子と、制御部と、を有し、前記制御部は、前記第1磁力部と前記第2磁力部との間に働く磁力を制御して前記可動子を第1方向に搬送し、前記固定子は、前記第1方向と交差する第2方向において前記可動子を挟んで配置された複数の第1規制部材を含む第1規制部材列及び複数の第2規制部材を含む第2規制部材列を有する搬送システムの制御方法であって、前記可動子が前記第1規制部材列に接した際に、前記第1規制部材列のうちの1つの第1規制部材を支点とした回転力を前記可動子に与える第1処理を行うことを特徴とする搬送システムの制御方法が提供される。
【0010】
本発明の他の観点によれば、第1方向に延在する搬送路と、第1磁力部と、を有する固定子と、前記搬送路に配され、前記第1磁力部と対向可能な位置に配された第2磁力部を有し、前記第1磁力部と前記第2磁力部との間に働く磁力によって前記第1方向に搬送される可動子と、を有し、前記可動子は、前記可動子の一方の側面に配された複数の第1規制部材を含む第1規制部材列と、前記可動子の他方の側面に配された複数の第2規制部材を含む第2規制部材列と、を更に有する搬送システムの制御方法であって、前記可動子の前記第1規制部材列が前記搬送路の側壁に接した際に、前記第1規制部材列及び前記第2規制部材列と接しない位置に前記可動子を移動させる復帰ステップを含み、前記復帰ステップは、前記第1規制部材列のうちの1つの第1規制部材を支点とした回転力を前記可動子に与える第1ステップを含むことを特徴とする搬送システムの制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可動子が固定子に接触している状態から可動子が固定子に接触していない状態への移行を好適に実現し得る搬送システム及び搬送システムの制御方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る搬送システムの全体構成を示す概略断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る搬送システムの全体構成を示す概略上面図である。
【
図3】第1実施形態に係る可動子の磁石配列を示す概略上面図である。
【
図4】第1実施形態に係る可動子と固定子とが非接触である状態を示す概略上面図である。
【
図5】第1実施形態に係る可動子と固定子とが接触している状態を示す概略上面図である。
【
図6】第1実施形態に係る可動子と固定子とが接触している状態から接触していない状態に移行させるための動作シーケンスを示すフローチャートである。
【
図7】第1実施形態に係る可動子と固定子とが接触している状態から接触していない状態に移行させる際の動作を示す概略上面図である。
【
図8】第1実施形態に係る可動子のX方向制御を示す概略上面図である。
【
図9】第1実施形態に係るWz回転センタリング時において永久磁石が受ける推力の方向を示す概略上面図である。
【
図10】第1実施形態に係る可動子と固定子とが接触している状態から接触していない状態に移行可能か否かの第1判定条件を説明するための概略上面図である。
【
図11】第1実施形態に係る可動子と固定子とが接触している状態から接触していない状態に移行可能か否かの第2判定条件を説明するための概略上面図である。
【
図12】第2実施形態に係る可動子の寸法及び固定子の配置を定義するための概略上面図である。
【
図13】第2実施形態に係る可動子と固定子の位置関係と動きを説明するための概略上面図である。
【
図14】第2実施形態に係る可動子と固定子の位置関係を説明するための概略上面図である。
【
図15】第2実施形態に係る固定子同士の位置関係を説明するための概略上面図である。
【
図16】第2実施形態に係る可動子と固定子の位置関係とトルクの関係を説明するための概略上面図である。
【
図17】第3実施形態に係る搬送システムの全体構成を示す概略断面図である。
【
図18】第3実施形態に係る搬送システムの全体構成を示す概略上面図である。
【
図19】第3実施形態に係るWz回転センタリング時の状態を説明するための概略上面図である。
【
図20】第3実施形態の変形例に係る搬送システムの全体構成を示す概略上面図である。
【
図21】第4実施形態に係る加工システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。複数の図面にわたって同一の要素又は対応する要素には共通の符号が付されており、その説明は省略又は簡略化されることがある。また、同一の数字の符号の末尾に小文字のアルファベットを識別子として付記することにより、異なる位置に配された同種の構成要素を区別することもある。また、特に区別して説明する必要がない場合には、識別子を付さず数字のみの符号を用いることもある。
【0014】
[第1実施形態]
まず、本実施形態に係る搬送システムの全体構成について、
図1、
図2及び
図3を相互に参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る搬送システムの全体構成を示す概略断面図である。
図2は、本実施形態に係る搬送システムの全体構成を示す概略上面図である。
図3は、本実施形態に係る可動子の磁石配置を示す概略上面図である。
【0015】
図1及び
図2に示すように、本実施形態による搬送システムは、台車、スライダ又はキャリッジを構成する可動子101と、搬送路を構成する固定子201とを有している。本実施形態による搬送システムは、可動子101に永久磁石が配され、固定子201にコイルが配されている可動磁石型リニアモータ(ムービング永久磁石型リニアモータ、可動界磁型リニアモータ)である。更に、本実施形態による搬送システムは、リニアガイド等の案内装置を有さず、固定子201上において非接触で可動子101を搬送することができる磁気浮上型の搬送システムである。なお、本実施形態の搬送システムは、可動子101にコイルが配され、固定子201に永久磁石が配された可動コイル型リニアモータに変形されてもよい。
【0016】
本実施形態による搬送システムは、可動子101を搬送することにより、可動子101上のワーク102を、ワーク102に対して加工作業を施す工程装置等に搬送するものであり得る。可動子101は、例えば、ワークホルダ等のワーク102を可動子101上に保持する保持機構を有していてもよい。
【0017】
ここで、
図1及び
図2を参照しつつ、以下の説明において用いる座標軸、方向等を定義する。まず、可動子101の搬送方向である水平方向に沿ってX軸をとり、可動子101の搬送方向、すなわち、搬送路が延在する方向をX方向(第1方向)とする。また、X方向と直交する方向である鉛直方向に沿ってZ軸をとり、鉛直方向をZ方向とする。また、X方向及びZ方向に直交する方向に沿ってY軸をとり、X方向及びZ方向に直交する方向をY方向(第2方向)とする。更に、X軸周りの回転をWx、Y軸周りの回転をWy、Z軸周りの回転をWzとする。また、可動子101の中心を中心Oとする。なお、可動子101の搬送方向は必ずしも水平方向である必要はないが、その場合も搬送方向をX方向として同様にX方向に交差するY方向及びZ方向を定めることができる。これ以降、可動子101の中心Oを基準として、X、Y、Zの各方向の平行移動、又はWx、Wy、Wzの又は各軸周りの回転を行う制御のことを、6軸制御と記述する。
【0018】
次に、本実施形態による搬送システムにおける搬送対象である可動子101について
図1及び
図3を用いて説明する。
図1は、本実施形態による搬送システムにおける可動子101及び固定子201を示す概略図である。なお、
図1は、可動子101及び固定子201をX方向から見た図である。
【0019】
図1及び
図3に示すように、可動子101は、複数の磁石からなる磁石群である永久磁石群103(第2磁力部)が可動子101の上面にX方向に沿って、Y方向に間隔を隔てて2列をなすように取り付けられている。永久磁石群103は、複数の永久磁石103a、103b、103c、103d、103e、103fを含む。X方向及びZ方向制御用の複数の永久磁石103a、103bは、磁極の極性が交互になるようにX方向に並んで配置されている。Y方向制御用の複数の永久磁石103c、103d、103e、103fは、磁極の極性が交互になるようにY方向に並んで配置されている。
【0020】
永久磁石群103を構成する各永久磁石は、可動子101の上面に設けられたヨーク107に取り付けられている。ヨーク107は、鉄等の大きな透磁率を有する物質で構成されている。なお、
図3の例では、Y方向制御用の永久磁石103c、103d、103e、103fが、可動子101のY方向の正側及び負側の端に配置されているが、これに限られるものではない。永久磁石の数及び配置は、搬送システムの要求仕様に応じて適宜変更可能である。
【0021】
固定子201上において搬送される可動子101は、リニアスケール104と、Yターゲット105と、複数のZターゲット106とを有している。リニアスケール104、Yターゲット105及びZターゲット106のそれぞれは、例えば、可動子101の底部にX方向に沿って取り付けられている。Zターゲット106は、リニアスケール104及びYターゲット105の両側にそれぞれ取り付けられている。
【0022】
固定子201は、複数のコイル202(第1磁力部)と、複数のリニアエンコーダ203と、複数のYセンサ204と、複数のZセンサ205とを有している。
図2に示すように複数のコイル202は、可動子101が搬送されるX方向に沿って取り付けられている。複数のコイル202は、X方向に所定の間隔で並べられている。また、各コイル202は、その中心軸がY方向を向くように取り付けられている。なお、コイル202は、コア有のコイルでもよいし、コアレス型のコイルでもよい。
【0023】
複数のコイル202は、例えば、3個ずつの単位で電流制御される。コイル202は、通電されることにより、可動子101の永久磁石群103との間で磁力を発生して可動子101に対して力を印加することができる。
【0024】
各コイル202は、2個の永久磁石103cの2個の永久磁石のY方向の中心がコイル202のY方向の中心と合致するように配置されている。永久磁石103d、103e、103fについても同様である。永久磁石103c、103d、103e、103fに対向するコイル202に通電することにより、永久磁石103c、103d、103e、103fはY方向の力を受ける。
【0025】
また、コイル202は、永久磁石103a、103bに対向する。コイル202に通電することで、永久磁石103a、103bはX方向及びZ方向の力を受ける。
【0026】
複数のリニアエンコーダ203は、それぞれ可動子101のリニアスケール104と対向可能なようにX方向に沿って固定子201に取り付けられている。各リニアエンコーダ203は、可動子101に取り付けられたリニアスケール104を読み取ることで、可動子101のリニアエンコーダ203に対する相対的な位置を検出して出力することができる。
【0027】
複数のYセンサ204は、それぞれ可動子101のYターゲット105と対向可能なようにX方向に沿って固定子201に取り付けられている。各Yセンサ204は、可動子101に取り付けられたYターゲット105との間のY方向の相対距離を検出して出力することができる。
【0028】
複数のZセンサ205は、それぞれ可動子101のZターゲット106と対向可能なようにX方向に沿って、2列をなすように固定子201に取り付けられている。各Zセンサ205は、可動子101に取り付けられたZターゲット106との間のZ方向の相対距離を検出して出力することができる。
【0029】
Yローラ206は、可動子101のY方向のストロークを規制するための規制部材であり、固定子201上に配置されている。Yローラ206は、搬送方向であるX方向に沿って、複数配置されてYローラ群をなしている。Yローラ群は、Y方向における正側のストロークと負側のストロークを規制するために、Y方向の正側と負側に2列のYローラ群206p、206q(第1規制部材列、第2規制部材列)をなして配置されている。同様に、Z方向の正側のストロークと負側のストロークを規制するために、不図示のZローラ群が2列配置されていてもよい。前述の各ローラは、Y方向及びZ方向のストロークを制限する役割を有するとともに、可動子101がこれらのローラに接触した場合に、接触状態で搬送可能とする役割を有する。なお、Yローラ206の代わりに回転機構を有しないストッパー等の規制部材を用いてもよい。
【0030】
搬送システムは、不図示の統合コントローラを有する。統合コントローラは、搬送システムの制御部である。統合コントローラは、固定子201と可動子101の位置関係を検出し、コイル202と永久磁石群103の位置関係を把握し、コイル202に適切な電流を流すことで、中心Oにおける6軸制御を実現する。
【0031】
次に、本実施形態における可動子101が固定子201に非接触に搬送可能な状態と、可動子101が固定子201に接触して停止した状態との2つの状態について、
図4、
図5を用いて説明する。
図4は、可動子101と固定子201とが非接触である状態を示す概略上面図である。複数のYローラ206により構成される2列のローラ群は、Y方向制御用の永久磁石103c~103f及びコイル202によりY方向に可動子101を移動させる制御が可能な範囲よりもY方向のストロークが広くなるような位置に配されている。以下、2列のYローラ群206p、206qの間隔及び可動子101のY方向の幅によって決まる中心Oが移動可能な範囲をYストロークと呼ぶ。また、Y方向における可動子101の制御可能範囲をY制御範囲と呼ぶ。Y制御範囲内に可動子101の中心Oがある場合に可動子101がY方向に制御可能であるものとする。
【0032】
Y制御範囲は広いほど好適に可動子101を制御することができる。しかしながら、以下の理由により、Y制御範囲の広さには設計上の限界がある。Y制御範囲を広くするためには、Y方向に発生できる推力を大きくするため、コイル202のサイズを大きくする必要がある。これは、装置の大型化及びコストの増大の要因となる。また、通常のワーク搬送時に必要なY方向の推力は、可動子101がYローラに接触した状態から可動子101の搬送を非接触に行うことが可能な状態に移行するために必要な推力と比較すると小さい。そのため、装置の大型化及びコストの増大を伴ってコイル202のサイズを大きくしたとしても、搬送システムの通常の搬送時の搬送性能向上に寄与しない。このような設計上の観点を考慮すると、Y制御範囲を十分に広くするような設計ができないことがある。
【0033】
一方、Yストロークは、以下の観点からある程度大きく設計される。可動子101の寸法誤差又は可動子101の搬送精度が、Yストロークに比して大きい場合には、搬送中にYローラ206と可動子101とが接触する場合がある。この場合、非接触搬送が実現できなくなり、搬送精度の更なる低下を招くこともある。このような接触の可能性を低減するため、Yストロークは、ある程度広く設計される。
【0034】
以上の理由により、本実施形態による搬送システムにおいてはYストロークをY制御範囲に対して十分に大きく確保する構成が採用されている。そのため、可動子101が搬送路の中心からある程度離れると、可動子101の中心OがY制御範囲から外れることがある。本実施形態の搬送システムは、可動子101の中心OがY制御範囲から外れた状態でYローラ群に接して停止した場合の復帰処理の機能を有している。以下、この復帰処理について説明する。
【0035】
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)は、可動子101と固定子201とが接触している状態を示す概略上面図である。
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)には、停止した状態における可動子101とYローラ206の位置関係が示されている。
【0036】
上述のように、通常の搬送時には、可動子101を固定子201に対して非接触にするとともに、中心OがY制御範囲内にあるように、可動子101の位置が制御されている。しかしながら、可動子101の搬送を停止させるように制御する状況、又は、制御系の異常等により6軸制御が停止する状況においては、
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)のいずれかの態様で、可動子101がYローラ群に対して接触した状態となる。なお、
図5(a)においては、可動子101はY方向の負側に配置されたYローラ206に接触しているが、Y方向の正側に配置されたYローラ206に接触して停止することもあり得る。
【0037】
可動子101は、停止直前に可動子101に作用していた力の方向等に応じて、
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)のいずれかの態様で停止する。
図5(a)は、可動子101が、片側1列のYローラ群に接触した状態で停止した場合における、可動子101とYローラ206との位置関係を示す図である。
図5(b)は、可動子101が、2列のYローラ群に挟まった状態で停止し、中心OがY制御範囲内にある場合の可動子101とYローラ206の位置関係を示す図である。
図5(c)は
図5(b)と同様に2列のYローラ群に挟まった状態で停止し、中心OがY制御範囲外にある場合の可動子101とYローラ206の位置関係を示す図である。
図5(b)及び
図5(c)において、可動子101は、負側の列のYローラ206aと正側の列のYローラ206bに接触しているものとする。以下、
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)の態様で可動子101が停止した状態を、それぞれ接触パターン(a)、接触パターン(b)及び接触パターン(c)と呼ぶことがある。
【0038】
これらの停止状態が生じる理由は、本実施形態による搬送システムにおいては、複数のコイル202と永久磁石群103の間の磁力により、停止している可動子101がY方向の磁気吸引力を受けるためである。
図5(a)における矢印は、可動子101が受けるY方向の磁気吸引力を模式的に示している。上述のように、本実施形態の搬送システムにおいては、YストロークがY制御範囲に対して十分に大きい。そのため、接触パターン(a)の状態では、中心OはY制御範囲外にある。可動子101がYローラ206に接触して停止した状態から非接触に可動子101の搬送が可能な状態に移行するためには、磁気吸引力よりも大きな力を可動子101に加えることにより、Yローラ206から可動子101を離れさせる必要がある。
【0039】
そこで、
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)の状態から可動子101を非接触に搬送可能な状態に移行するまでの動作シーケンスの一例を主に
図6を参照して説明する。
図6は、可動子101と固定子201とが接触している状態から接触していない状態に移行させるための復帰処理の動作シーケンスを示すフローチャートである。
【0040】
また、以下の
図6の説明において、
図7(a)、
図7(b)、
図7(c)、
図7(d)、
図8(a)、
図8(b)、
図9、
図10(a)、
図10(b)、
図11(a)及び
図11(b)を適宜参照することがある。
図7(a)から
図7(d)は、可動子101と固定子201とが接触している状態から接触していない状態に移行させる際の動作を示す概略上面図である。
図8(a)及び
図8(b)は、可動子101のX方向制御を示す概略上面図である。
図9は、回転センタリング時において永久磁石が受ける推力の方向を示す概略上面図である。
図10(a)、
図10(b)、
図11(a)及び
図11(b)は、可動子101と固定子201とが接触している状態から接触していない状態に移行可能な条件を説明するための概略上面図である。
【0041】
ステップS1において、搬送システムの統合コントローラは、6軸のうちのZ、Wy、Wx、Xの4軸についての位置制御を有効化する(ONにする)。ステップS2において、統合コントローラは、接触パターンを判定する。可動子101の状態が接触パターン(a)である場合(ステップS2におけるYes)には、処理はステップS3aに移行する。可動子101の状態が接触パターン(b)又は接触パターン(c)である場合(ステップS2におけるNo)には、処理はステップS6aに移行する。
【0042】
ステップS3aにおいて、統合コントローラは、リニアエンコーダ203を制御して可動子101のX方向の位置(X座標)を取得し、可動子101が非接触状態に移行可能なX方向の位置にあるか否かを判定する。非接触状態に移行可能か否かの判定方法の具体例については後述する。
【0043】
ステップS3aにおいて、可動子101が非接触状態に移行可能なX方向の位置にあると判定された場合(ステップS3aにおけるYes)には、処理はステップS4に移行する。可動子101が非接触状態に移行可能ではないX方向の位置にあると判定された場合(ステップS3aにおけるNo)には、処理はステップS3bに移行する。
【0044】
ステップS3bにおいて、統合コントローラは、可動子101をYローラ群に接した状態に維持したまま、非接触状態に移行することが可能なX方向の位置まで可動子101を移動させるように制御する。
図7(a)は、ステップS3bにおいて、非接触状態に移行可能なX座標まで可動子101を移動させる動作を模式的に示す上面模式図である。
図7(a)において、破線はX方向移動前の可動子101を示しており、実線はX方向移動後の可動子101を示している。X方向移動の終了後、処理はステップS4に移行する。上述のステップS3a、S3bの処理(第2処理)を行うことにより、可動子101を後述のステップS5の処理(Wz回転センタリング)に適した位置に移動させることができる。
【0045】
ステップS4において、統合コントローラは、X方向の位置制御の基準を、可動子101の中心Oから、可動子101に接しているYローラのうちの最もX方向の正側にあるYローラ206aと可動子101との接触点に切り替える。これにより、統合コントローラは、Yローラ206aと可動子101との接触点を支点として可動子101を回転させる制御を行うことができる。この制御の切り替えについて、
図8(a)及び
図8(b)を参照しつつ説明する。
【0046】
図8(a)は、6軸制御の状態におけるX方向の位置制御について説明するための図である。リニアスケール104及びリニアエンコーダ203は、中心Oからオフセットした位置に配されている。統合コントローラは、リニアエンコーダ203のカウント値Xscaleと、Yセンサ204で検出される距離y1、y2から算出される可動子101の角度Wzとに基づいて中心Oの位置を算出し、フィードバック制御をする。このフィードバック制御には以下の式(1)が用いられ得る。
【数1】
ここで、XfbはX方向制御のフィードバック値、すなわち中心Oの位置であり、r1はリニアエンコーダ203から中心Oまでの距離である。
【0047】
図8(b)は、Yローラ206aと可動子101との接触点を基準とするX方向の位置制御について説明するための図である。X方向の位置制御の基準をYローラ206aと可動子101との接触点に切り変えた場合のフィードバック制御には以下の式(2)が用いられ得る。式(2)では、式(1)におけるr1が、リニアエンコーダ203から接触点までの距離に相当するr2に置き換えられている。
【数2】
【0048】
ステップS5において、統合コントローラは、Wz軸の正方向に可動子101を回転させ、Y方向に対向するYローラ群のうちの1つのYローラ206bに当接させる処理(第1処理)を行う。以下、この動作をWz回転センタリングと呼ぶことがある。
図7(b)は、ステップS5において、Wz回転センタリングの動作を模式的に示す上面模式図である。
図7(b)において、破線はWz回転センタリングの直前における可動子101の位置を示しており、実線はWz回転センタリングの直後における可動子101がYローラ206bに当接した状態を示している。
【0049】
ここで、ステップS5のWz回転センタリングの際に永久磁石群103に生じる推力の方向について、
図9を参照して説明する。
図9は、Wz回転センタリング時において永久磁石が受ける推力の方向を示す概略上面図である。統合コントローラは、コイル202に適切な電流を流すことにより、X方向制御用の永久磁石103aにX軸負方向の推力を発生させ、X方向制御用の永久磁石103bにX軸正方向の推力を発生させる。また、統合コントローラは、コイル202に適切な電流を流すことにより、Y方向制御用の永久磁石103c、103d、103e、103fにY軸正方向の推力を発生させる。このように、統合コントローラは、複数組の永久磁石とコイルの間に互いに異なる向きの推力を生じさせることにより、Wz回転センタリングを行うためのトルクを発生させる。各永久磁石に発生させるべき推力の方向は、支点となるYローラ206aと可動子101の接触点の位置に依存する。したがって、統合コントローラは、X方向の可動子101の停止位置に応じてコイル202に流す電流を適宜設定する。
【0050】
なお、
図9には、Wz回転センタリングに必要なトルクを得るための推力のみを図示しているが、実際には前述の式(2)で示したX方向制御に必要な推力が加算されるような制御が行われ得る。ただし、Wz回転センタリングにおいて、可動子101とYローラ206aの接触点の位置関係が大きく変化しない場合は、上述の式(1)から式(2)へのX方向の位置制御の切り替えを行わなくてもよい。
【0051】
なお、
図5に示されているように、可動子101の状態が接触パターン(b)又は接触パターン(c)である場合には、ステップS3a、S3b、S4、S5の処理は省略される。接触パターン(b)及び接触パターン(c)においては、可動子101がステップS5のWz回転センタリング動作の完了時に近い状態で停止しているためである。
【0052】
ステップS6aにおいて、統合コントローラは、可動子101の中心OがY制御範囲内にあるか否かを判定する。可動子101の中心OがY制御範囲内にあると判定された場合(ステップS6aにおけるYes)には、処理はステップS7に移行する。可動子101の中心OがY制御範囲外にあると判定された場合(ステップS6aにおけるNo)には、処理はステップS6bに移行する。
【0053】
ステップS6bにおいて、統合コントローラは、可動子101の中心OがY制御範囲に入るように、可動子101をX方向に微小量Δxだけ移動させる。上述のように、Wz回転センタリング後において中心OがY制御範囲内に入るようにステップS3a及びステップS3bにおいて可動子101のX方向の位置の制御が行われている。しかしながら、Yローラ206aと可動子101の滑り等の要因によりWz回転センタリング後に中心OがY制御範囲内に入らない場合もある。ステップS6bの処理では、このような場合に可動子101をX方向に移動させることにより、可動子101の中心OがY制御範囲に入るように可動子101の位置を調整することができる。
図7(c)は、ステップS6bにおける、可動子101をX方向に微小量Δxだけ移動させる動作を模式的に示す上面模式図である。
図7(c)において、破線はX方向移動前の可動子101を示しており、実線はX方向移動後の可動子101を示している。X方向移動の終了後、処理はステップS7に移行する。上述のステップS6a、S6bの処理(第3処理)を行うことにより、可動子101の位置をY制御範囲内に移動させるような調整を行うことができる。
【0054】
ステップS7において、統合コントローラは、可動子101の中心Oを回転中心としたX方向、Y方向の制御に切り替える。ステップS8において、統合コントローラは、Wz軸の制御を有効にする。そして、統合コントローラは、中心Oの位置を維持したままで、可動子101をWz軸周りにWz回転センタリングの際とは逆方向の回転力を与えて回転させることにより、可動子101の姿勢を戻す処理(第4処理)を行う。
図7(d)は、ステップS8における、可動子101を回転させる動作を模式的に示す上面模式図である。
図7(d)において、破線は回転前の可動子101を示しており、実線は回転後の可動子101を示している。
【0055】
ステップS9において、統合コントローラは、Y方向の制御を有効にする。そして、可動子101の中心OをY制御範囲の中心軸と合わせるように、可動子101をY方向に微小量Δyだけ移動させる。以上のようにして、
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)のいずれかのように可動子101と固定子201とが接触している状態から接触していない状態に移行させる復帰処理を行うことができる。
【0056】
次に
図6のステップS3aにおいて、可動子101が非接触状態に移行可能なX方向の位置にあるか否かを判定する方法の一例について、
図10(a)、
図10(b)、
図11(a)及び
図11(b)を用いてより具体的に説明する。
図6のステップS4以降の動作により可動子101を非接触状態に移行できるか否かは、以下の2つの判定条件により判定可能である。
【0057】
まず、第1判定条件について、
図10(a)及び
図10(b)を参照して説明する。
図10(a)及び
図10(b)は、可動子101と固定子201とが接触している状態から接触していない状態に移行可能か否かの第1判定条件を説明するための概略上面図である。
図10(a)及び
図10(b)では、可動子101が磁気吸引力によりYローラ群に接触している。
図10(a)は、Wz回転センタリングに必要なWzトルクが大きい場合の可動子101とYローラ206aの位置関係を示している。
図10(b)は、Wz回転センタリングに必要なWzトルクが小さい場合の可動子101とYローラ206aの位置関係を示している。
【0058】
図10(a)及び
図10(b)において、Yローラ206aは、Wz回転センタリング時の支点とするYローラである。
図10(a)及び
図10(b)において、可動子101から伸びている矢印は、可動子101の単位長さあたりに作用するY方向の磁気吸引力である。ここで、支点とするYローラ206aと可動子101との接触点から可動子101のX方向正側の端部までの距離をL1とする。磁気吸引力に抗してWz回転センタリングをさせるために要するWzトルクは、接触点よりX方向負側の矢印の数とX方向正側の矢印の数の差に依存する。すなわち、L1が大きいほど、Wz回転センタリングをさせるために要するトルクが小さい。
【0059】
図10(a)と
図10(b)を比較すると、
図10(a)の状態と比べて
図10(b)の方が、L1が大きいため、磁気吸引力に抗するために必要なWzトルクが小さい。Wz回転センタリングを実現するためには、磁気吸引力よりも大きなWzトルクを要する。そこで、ステップS3aにおいては、判定条件の1つとして、L1が所定の閾値よりも大きいか否かを用いることが好適である。この判定の閾値は、L1の位置に応じて決まる磁気吸引力に抗するために必要なWzトルクと、搬送システムが生成可能なWzトルクとの関係により定めることができる。
【0060】
次に第2判定条件について、
図11(a)及び
図11(b)を参照して説明する。
図11(a)及び
図11(b)は、可動子101と固定子201とが接触している状態から接触していない状態に移行可能か否かの第2判定条件を説明するための概略上面図である。
図11(a)及び
図11(b)は、支点とするYローラ206aと可動子101の接点を中心に可動子101を回転させ、可動子101をYローラ206bに当接させた状態を示している。
図11(a)は、Wz回転センタリングを行った結果、可動子101の中心OがY制御範囲に至らなかった場合の可動子101とYローラ206a、206bの位置関係を示している。
図11(b)は、Wz回転センタリングを行った結果、可動子101の中心OがY制御範囲に到達した場合の可動子101とYローラ206a、206bの位置関係を示している。
【0061】
図11(a)及び
図11(b)において、Wz回転センタリング前の支点とするYローラ206aと可動子101との接触点から可動子101のX方向正側の端部までの距離をL1とする。また、Wz回転センタリング前に可動子101に接しているYローラのうち最もX方向負側にあるYローラと可動子101のX方向負側の端部の距離をL2とする。
図11(a)では、L1とL2の長さに差がある。これに対して、
図11(b)では、L1とL2の長さがほぼ等しい。
【0062】
図11(a)のようなL1とL2の長さに差がある位置関係でWz回転センタリングを行った場合は、可動子101の角付近がYローラ206bに接触し、中心OをY制御範囲内まで近づけられない場合がある。そのため、ステップS3aにおいては、判定条件の1つとして、L1とL2の差が一定の範囲内であることを用いることが好適である。
【0063】
しかしながら、L1とL2の長さに差がある場合であっても、Wz回転センタリング後の中心OとY制御範囲の差が微小である場合には、ステップS6bの処理により中心OをY制御範囲内に到達させることが可能である。したがって、
図6のステップS3aにおける判定基準に含めることが望ましいが、含めなくてもよい。
【0064】
また、
図7(b)等に示されているWz回転センタリングにおける回転方向はWz軸周りの正方向(反時計回り)であるが、負方向(時計回り)であってもよい。
【0065】
以上のように、本実施形態においては、固定子201に複数のYローラ206が配されている。搬送システムの統合コントローラは、可動子101が複数のYローラ206に接して停止した際に、可動子101が1つのYローラ206aを支点として回転するように制御する。これにより、磁気吸引力に抗して可動子101の中心OをY制御範囲内に移動させ、非接触状態に移行させることができる。したがって、本実施形態によれば、可動子101が固定子201に接触している状態から可動子101が固定子201に接触していない状態への移行を好適に実現し得る搬送システムが提供される。
【0066】
[第2実施形態]
本実施形態は、第1実施形態の
図6のステップS5におけるWz回転センタリングに必要なトルクを低減し得る可動子101とYローラ206の位置関係の例である。第1実施形態と共通する要素についての説明は、省略又は簡略化することがある。
【0067】
図12は、本実施形態に係る可動子101の寸法及びYローラ206の配置を定義するための概略上面図である。Yローラ206は、X方向に一定の間隔Pで配置されている。可動子101のX方向の長さをLとし、可動子101のY方向の長さをBとする。また、対向する2列のYローラ206同士の間隔をBrとする。
【0068】
図12に示されているように、可動子101は、2つ以上のYローラ206に接触して静止する。このような静止状態が一般的に生じる条件は、複数のYローラ206が可動子101の長さLの半分以下の間隔Pをなして配されていることである。この条件を式で表現したものが以下の式(3)である。
【数3】
【0069】
次に、
図13を参照して、回転の支点とするYローラ206aの位置について説明する。
図13は、可動子101の回転時における、可動子101とYローラ206aの位置関係と動きを説明するための概略上面図である。このときの可動子101の中心Oと、回転の支点とするYローラ206aとの間のX方向の距離を、L5とする。また、Yローラ206aを中心として可動子101が回転したときに、可動子101の中心OがY方向に移動する最大距離をY1とする。このとき、Y1は以下の式(4)で表される。
【数4】
【0070】
一方、可動子101の中心Oが搬送路の中心まで移動するためのY1の条件は、
図12に示すBrとBを用いて以下の式(5)で表される。
【数5】
【0071】
式(4)を式(5)に代入すると以下の式(6)が導かれる。
【数6】
【0072】
式(6)をL5について解くと以下の式(7)が導かれる。
【数7】
【0073】
また、
図13において、Yローラ206aに隣接するYローラをYローラ206cとする。可動子101が回転して可動子101の中心OがY方向にY1だけ移動する際に、Yローラ206cに可動子101が接触しないようにするための条件は、L5とPの合計が、可動子101の長さLの半分以上であることである。このとき、L5が満たす条件は以下の式(8)で表される。
【数8】
【0074】
次に、
図14を参照して、支点となるYローラ206aに対向する位置に配置されているYローラ206bの位置について説明する。
図14は、本実施形態に係る可動子101とYローラ206の位置関係を説明するための概略上面図である。
【0075】
可動子101がYローラ206aとの接触点を支点として、
図14に示される方向に回転したとき、Yローラ206aに対向する位置に配置されている複数のYローラ206のうちの可動子101と当接するYローラをYローラ206bとする。また、このYローラ206bに対してX軸の負方向に隣接するYローラを、Yローラ206dとする。可動子101が回転するときに、可動子101がYローラ206bに当接する前に、Yローラ206dに当接すると、可動子101の回転角度が不十分になり、可動子101の中心OをY制御範囲に十分に近づけることができない場合がある。したがって、Yローラ206dが、可動子101に当接しないように可動子101の両側のYローラ206をX方向にずらした配置とすることが好適である。そのため、本実施形態においては、
図14に示すように、2列のYローラの配置は、搬送路に対して非対称となっている。
【0076】
Yローラ206aとYローラ206bのX方向の距離をL6とすると、Yローラ206dは、Yローラ206aからL6+PだけX軸の負方向に離れた位置にある。また、可動子101の端部は、Yローラ206aからL5+L/2だけX軸の負方向に離れた位置にある。したがって、可動子101が回転するときに、Yローラ206dと当接しないための条件は以下の式(9)で表される。
【数9】
【0077】
次に、
図15を参照して、上述のL6の最適値について説明する。
図15は、本実施形態に係るYローラ206同士の位置関係を説明するための概略上面図である。
図15には、Yローラ206aとYローラ206bが回転後の可動子101の中心Oに対して点対称な位置にある状態が示されている。この状態においては、可動子101の中心Oは、Y方向においてYローラ206aとYローラ206bの中間の位置である。この位置関係であれば、可動子101の回転後において、可動子101の中心OはY制御範囲の中心に到達する。
図15の状態を実現し得るL6の条件は以下の式(10)で表される。
【数10】
【0078】
ただし、L6は式(10)に示されている値に必ずしも完全に一致する必要はなく、可動子101の中心OがY制御範囲内に到達し得るように適宜設定可能である。
【0079】
次に、
図16を参照して、WzトルクとL5の関係について説明する。実施形態に係る可動子101とYローラ206aの位置関係とトルクの関係を説明するための概略上面図である。
【0080】
図16において矢印で示されているように、Yローラ206aからX軸の正方向にL/2-L5の範囲の可動子101に働くY方向の磁気吸引力は、負方向にL/2-L5の範囲の可動子101に働くY方向の磁気吸引力と相殺される。したがって、
図16の斜線のハッチングがなされた範囲の磁気吸引力は、Wz回転センタリング時にWzトルクを発生させない。可動子101に働くY方向の磁気吸引力のうち、Yローラ206aと可動子101の接触点を中心とするWzトルクに寄与する範囲は、
図16において、斜線のハッチングの範囲外、すなわち2×L5と表記された範囲において発生している磁気吸引力のみである。Yローラ206aとの接触点を支点として可動子101を回転させる際には、この2×L5の範囲で発生している磁気吸引力に抗するWzトルクを可動子101に与えることでWz軸の正方向の回転が可能となる。
【0081】
したがって、L5が小さいほど、可動子101を回転させるためのWzトルクを小さくすることができる。このことから、上述の条件式をいずれも満たす範囲内において、L5を最小に設定することにより、可動子101を接触状態から非接触に搬送可能な状態に移行するために必要となるWzトルクを最小限にすることができる。
【0082】
以上のように、本実施形態においては、可動子101が固定子201に接触している状態から可動子101が固定子201に接触していない状態への移行をより好適に実現し得る搬送システムが提供される。なお、本実施形態で述べた条件はいずれも必須のものではない。また、本実施形態で述べた条件のうちの一部を満たすように搬送システムが構成されていてもよい。
【0083】
[第3実施形態]
上述の実施形態では、Yローラ206が固定子201に配されている場合の例を説明しているが、これに限定されるものではなく、Yローラ206は、可動子101に配されていてもよい。本実施形態では、Yローラ206が、可動子101に配されている場合の例を説明する。第1実施形態又は第2実施形態と共通する要素についての説明は、省略又は簡略化することがある。
【0084】
図17は、本実施形態に係る搬送システムの全体構成を示す概略断面図である。
図17に示すように、本実施形態においては、Yローラ206が可動子101のY方向の両側面に配されている。これ以外の構成は
図1と同様であるため説明を省略する。
【0085】
図18は、本実施形態に係る搬送システムの全体構成を示す概略上面図である。可動子101には、Yローラ206e、206f、206g、206hが配されている。可動子101のY方向の負側に位置する一方の面にはYローラ206e、206fが配されており、可動子101のY方向の正側に位置する他方の面にはYローラ206g、206hが配されている。なお、Yローラは、
図18に示すように、可動子101のY方向に対向している2面のそれぞれにおいて、少なくとも2個ずつ配されていればよいが、2個よりも多いYローラが配されていてもよい。
【0086】
固定子201は、可動子101に配されたYローラ206e、206f、206g、206hが可動子101の停止時に接触し得る側壁を有する。
図18に示すように、可動子101がY方向の負側の側壁に接触して停止する際には、可動子101のY方向の負側の面に配置されたYローラ206e、206fが、固定子201に接触する。
図18の状態において、可動子101はYローラ206e、206fを介して固定子201の側壁に接触しているため、可動子101は側壁に沿ってX方向に自由に動くことができる。なお、可動子101がY方向の正側の側壁に接触して停止する際には、可動子101のY方向の正側の面に配置されたYローラ206g、206hが、固定子201に接触する。
【0087】
図19は、本実施形態に係るWz回転センタリング時の状態を説明するための概略上面図である。本実施形態においても、第1実施形態の
図6と同様の処理により、可動子101が固定子201に接触していない状態に移行させることができる。すなわち、本実施形態の構成においても
図19に示すような態様でYローラ206eと固定子201の側壁の接触点を中心とするWz回転センタリングを第1実施形態と同様に行うことができる。
【0088】
可動子101の中心OからYローラ206e、206f、206g、206hまでのX方向の距離をL7とする。第2実施形態において
図16を参照して説明したように、L7が大きいほど、可動子101の回転に必要なWzトルクが大きくなる。したがって、L7は、可動子101の回転に必要なWzトルクが生成可能なWzトルクよりも小さくなるように設定される。
【0089】
しかしながら、本実施形態では、Yローラ206e、206f、206g、206hが可動子101に配されているため、L7は、可動子101のX方向の位置に依存しない。したがって、本実施形態においては、第1実施形態又は第2実施形態で述べたようなX方向の位置に関する制約条件又はX方向の位置を変化させる処理は不要である。すなわち、本実施形態においては、X方向の位置に依存せずに可動子101が固定子201に接触している状態から可動子101が固定子201に接触していない状態への移行の処理を行うことができる。したがって、本実施形態では、第1実施形態及び第2実施形態と比べて制御が簡略化されている。
【0090】
以上のように、本実施形態によれば、可動子101が固定子201に接触している状態から可動子101が固定子201に接触していない状態への移行を好適に実現し得る搬送システムが提供される。
【0091】
図20(a)及び
図20(b)は、第3実施形態の変形例に係る搬送システムの全体構成を示す概略上面図である。
図20(a)及び
図20(b)に示されるように、可動子101には、大きさが互いに異なる複数のYローラ206が配されている。これにより、本変形例では、Wz回転センタリングの処理が
図20(a)に示す第1段階と
図20(b)に示す第2段階とに分けて行われ得る。
図20(a)に示す第1段階と、
図20(b)に示す第2段階とでは、回転中心となるYローラ206が異なっている。このように、第3実施形態においては、
図20(a)及び
図20(b)に示すように、Wz回転センタリングの過程で、支点となるYローラ206が変化してもよい。
【0092】
[第4実施形態]
図21は、本実施形態に係る加工システム1の構成を示すブロック図である。
図21に示す加工システム1は、上述の第1乃至第3実施形態に係る搬送システムを有する装置である。すなわち、本実施形態に係る加工システム1は、上述の第1乃至第3実施形態に係る搬送システムが適用され得る装置の一例である。
【0093】
加工システム1は、第1乃至第3実施形態に係る搬送システム10と、加工装置20とを有している。搬送システム10は、第1乃至第3実施形態で述べた可動子101、固定子201、Yローラ206等を有する搬送装置11と、第1乃至第3実施形態で述べた統合コントローラであるコントローラ12を有している。搬送装置11は、コントローラ12により制御される。
【0094】
加工装置20は、ワークに加工を施すことにより物品を製造する装置である。加工装置20の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、工業製品の組立装置、基板上に薄膜を形成する成膜装置、フォトリソグラフィー用の露光装置等であり得る。搬送システム10は、部品、半製品、半導体基板等のワークを加工装置20に搬送する装置である。ワークは、可動子101により加工装置20内に搬送される。加工装置20はワークに対して加工を施す。
【0095】
一般に、上述のような加工装置20に摺動部を有する案内装置が用いられていると、摺動部から発生する汚染物質が生産性を悪化させる場合がある。この汚染物質の例としては、レール及びベアリングの摩耗片、潤滑油、潤滑油の揮発物等が挙げられる。第1乃至第3実施形態の搬送システム10は、非接触方式によりワークを搬送することにより汚染物質の発生を低減することができる。したがって、本実施形態の加工システム1は、工業製品の組立工程、半導体装置の製造工程等の清浄性が要求される用途においてより有効である。
【0096】
本実施形態によれば、上述の第1乃至第3実施形態に係る搬送システム10が適用された加工システム1が提供される。
【0097】
[その他の実施形態]
なお、上述の実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。例えば、上述の実施形態は、可動子101が固定子201に接触して停止した状態を例に挙げて説明したが、可動子101は完全に停止している必要はなく、可動子101が固定子201に接している状態においても適用可能である。上述の説明におけるハードウェア構成、ソフトウェア構成、処理フロー、寸法、形状等は、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。例えば、いずれかの実施形態の一部の構成を、他の実施形態に追加した実施形態、あるいは他の実施形態の一部の構成と置換した実施形態も本発明を適用し得る実施形態であると理解されるべきである。
【0098】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0099】
101 可動子
103 永久磁石
201 固定子
202 コイル
206 Yローラ