(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】電着塗装設備における通電条件データ取得方法、電着塗装設備
(51)【国際特許分類】
C25D 13/22 20060101AFI20240807BHJP
C25D 13/00 20060101ALI20240807BHJP
B62D 65/00 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
C25D13/22 304B
C25D13/00 D
C25D13/22 304A
B62D65/00 Q
(21)【出願番号】P 2020213104
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000110343
【氏名又は名称】トリニティ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】金子 悠児
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-371596(JP,A)
【文献】特開2006-097119(JP,A)
【文献】特開2020-132903(JP,A)
【文献】特開2010-059527(JP,A)
【文献】特開平6-272087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D13/00-13/24
B62D65/00-65/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送手段により連続的に搬送される電着槽内の複数の車体に対し、前記電着槽内に配置された複数の電極から電流を印加したときの測定結果に基づいて、通電条件に関するデータを取得する方法であって、
前記複数の電極から特定の電極を選択する電極選択ステップと、
前記車体を搬送方向に沿って搬送した場合に前記特定の電極から前記車体に電流が印加されると予想される位置的範囲である電流印加範囲を、前記車体の形状情報と設備の設計情報とに基づいて定義する電流印加範囲定義ステップと、
前記車体を搬送しながら、前記車体の移動位置に応じて前記特定の電極から前記車体に印加される電流を実際に測定する電流測定ステップと、
前記電流印加範囲の中心位置と測定された前記電流のピーク位置とを比較し、前記ピーク位置の前記中心位置からのずれ量を算出する比較算出ステップと、
前記ずれ量に基づいて前記中心位置を前記ピーク位置と一致するようにオフセットし、前記電流印加範囲を再定義する電流印加範囲再定義ステップと、
再定義した前記電流印加範囲を、前記複数の電極のうち前記特定の電極を除く残りの電極にも適用する電流印加範囲適用ステップと
を行うことを特徴とする、電着塗装設備における通電条件データ取得方法。
【請求項2】
前記搬送手段は、レールと、前記レールに設けられ前記車体を懸架して搬送する複数のハンガーレールとを備え、
個々の前記ハンガーレールに、周期的にパルス信号を発信するパルス発信機が設けられ、
前記パルス発信機から発信された前記パルス信号の数に基づいて、前記ハンガーレールに懸架された前記車体の基準位置からの移動距離を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の電着塗装設備における通電条件データ取得方法。
【請求項3】
再定義した前記電流印加範囲にて前記電流の測定を行うことにより、単位時間当りの電流印加量である積算電流値を算出する積算電流値算出ステップをさらに行うことを特徴とする請求項1または2に記載の電着塗装設備における通電条件データ取得方法。
【請求項4】
電着塗料を貯留するとともに前記電着塗料に車体が浸された状態で搬送される電着槽と、
前記電着槽内に配置され、かつ前記車体の搬送方向に沿って間隔を空けて配置された複数の電極と、
前記搬送方向に沿って前記車体を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段により連続的に搬送される前記電着槽内の複数の前記車体に対し、前記複数の電極から電流を印加したときの測定結果に基づいて、通電条件に関するデータを取得する通電条件データ取得手段と
を備えた電着塗装設備であって、
前記通電条件データ取得手段は、
前記複数の電極から特定の電極を選択する電極選択手段と、
前記車体を搬送方向に沿って搬送した場合に前記特定の電極から前記車体に電流が印加されると予想される位置的範囲である電流印加範囲を、前記車体の形状情報と設備の設計情報とに基づいて定義する電流印加範囲定義手段と、
前記車体を搬送しながら、前記車体の移動位置に応じて前記特定の電極から前記車体に印加される電流を実際に測定する電流測定手段と、
前記電流印加範囲の中心位置と測定された前記電流のピーク位置とを比較し、前記ピーク位置の前記中心位置からのずれ量を算出する比較算出手段と、
前記ずれ量に基づいて前記中心位置を前記ピーク位置と一致するようにオフセットし、前記電流印加範囲を再定義する電流印加範囲再定義手段と、
再定義した前記電流印加範囲を、前記複数の電極のうち前記特定の電極を除く残りの電極にも適用する電流印加範囲適用手段と
を備えることを特徴とする電着塗装設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着槽内の複数の車体に対し、電着槽内に配置された複数の電極から電流を印加する電着塗装設備における通電条件データ取得方法、電着塗装設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電着槽内の電着塗料に浸された車体に対して、電着槽内に配置された複数の電極から電流を印加することにより、車体に対する電着塗装を行う電着塗装設備が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような電着塗装設備による電着塗装は、防錆性能を付与することを目的として、車体の塗装の下地工程で広く採用されている。しかし、電着塗装では、車体の内板部の膜厚を確保するために過剰な電圧が印加されるため、エネルギーや塗料のロスが発生し、余剰な膜厚が生じてしまう。このため、車体の表面に形成される塗膜を狙った厚さ範囲にする手法が種々考えられている。
【0003】
例えば、
図5に示されるように、まず、製造ライン上で実際に測定するのではなく、設備の設計情報に基づいて(オフラインで)、電着槽101内に配置された電極102から電着槽101内の車体103に印加される電流の電流値を算出する。なお、電流値は、車体103が電極102を通過する時間と電圧値とに基づいて算出される。次に、算出した電流値を、膜厚計(図示略)を用いて測定した膜厚と比較する。その後、比較結果に基づいて、電極102に印加する電圧値を調整すれば、塗膜を狙った厚さ範囲に近付けることができる。なお、一般的に、電圧値が高くなるのに伴って、膜厚は大きくなる傾向にあることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-132903号公報(
図1,
図4等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、設備の設計情報に基づいて車体103に印加される電流の電流値を算出したとしても、実際にどれだけの電流が車体103に印加されるかは正確には分からないという問題がある。仮に、全ての電極102に電流計を接続し、特定の電極102から車体103に印加される電流を実際に(インラインで)測定したとしても、電流が印加されると予想される範囲である電流印加範囲105が、実際の電流の印加範囲106からずれる可能性が高い(
図6参照)。この場合、電流値を正確に測定できないため、電流値と膜厚とを比較した結果に基づいて電圧値を調整したとしても、車体103の表面に形成される塗膜を狙った厚さ範囲にすることができないという問題がある。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、車体に印加される電流を正確に測定することにより、車体の表面に形成される塗膜を狙った厚さ範囲にすることができる、電着塗装設備における通電条件データ取得方法及び電着塗装設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、搬送手段により連続的に搬送される電着槽内の複数の車体に対し、前記電着槽内に配置された複数の電極から電流を印加したときの測定結果に基づいて、通電条件に関するデータを取得する方法であって、前記複数の電極から特定の電極を選択する電極選択ステップと、前記車体を搬送方向に沿って搬送した場合に前記特定の電極から前記車体に電流が印加されると予想される位置的範囲である電流印加範囲を、前記車体の形状情報と設備の設計情報とに基づいて定義する電流印加範囲定義ステップと、前記車体を搬送しながら、前記車体の移動位置に応じて前記特定の電極から前記車体に印加される電流を実際に測定する電流測定ステップと、前記電流印加範囲の中心位置と測定された前記電流のピーク位置とを比較し、前記ピーク位置の前記中心位置からのずれ量を算出する比較算出ステップと、前記ずれ量に基づいて前記中心位置を前記ピーク位置と一致するようにオフセットし、前記電流印加範囲を再定義する電流印加範囲再定義ステップと、再定義した前記電流印加範囲を、前記複数の電極のうち前記特定の電極を除く残りの電極にも適用する電流印加範囲適用ステップとを行うことを特徴とする、電着塗装設備における通電条件データ取得方法をその要旨とする。
【0008】
請求項1に記載の発明では、電流測定ステップにおいて、特定の電極から車体に印加される電流を実際に測定するため、車体に印加される電流の電流値を正確に知ることができる。しかも、比較算出ステップにおいて、測定された電流のピーク位置の電流印加範囲の中心位置からのずれ量を算出し、電流印加範囲再定義ステップにおいて、中心位置をピーク位置と一致するようにオフセットして電流印加範囲を再定義している。その結果、再定義した電流印加範囲と、実際の電流の印加範囲とのずれが小さくなるため、再定義した電流印加範囲にて電流の測定を行えば、正確な電流値を得ることができる。従って、得られた電流値(測定結果)に基づいて、通電条件に関する正確なデータ、具体的には、電流値と膜厚との関係を示すデータを取得することができる。ゆえに、取得したデータに基づいて車体に印加される電圧値を調整すれば、車体の表面に形成される塗膜を狙った厚さ範囲にすることができるため、車体の塗装品質が向上する。
【0009】
なお、電極は、通常、電着槽内に多数(100本~160本程度)配置される。このため、それぞれの電極に対して電流印加範囲を正確に定義することは、多大な労力がかかるため、現実的ではない。そこで、請求項1では、電流印加範囲適用ステップを行い、再定義した電流印加範囲を、特定の電極を除く残りの電極にも適用している。このようにすれば、電着槽内に多数の電極が配置されていたとしても、全ての電極に対して容易に電流印加範囲を定義することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記搬送手段は、レールと、前記レールに設けられ前記車体を懸架して搬送する複数のハンガーレールとを備え、個々の前記ハンガーレールに、周期的にパルス信号を発信するパルス発信機が設けられ、前記パルス発信機から発信された前記パルス信号の数に基づいて、前記ハンガーレールに懸架された前記車体の基準位置からの移動距離を算出することをその要旨とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によると、パルス発信機から発信されたパルス信号の数に基づいて、車体の基準位置からの移動距離を算出している。このため、算出した移動距離と、基準位置から特定の電極までの距離とが最も近い車体を、特定の電極から電流が印加される車体として選択することができる。また、パルス発信機を用いているため、センサやカメラ等を用いる場合よりも移動距離を容易に算出することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、再定義した前記電流印加範囲にて前記電流の測定を行うことにより、単位時間当りの電流印加量である積算電流値を算出する積算電流値算出ステップをさらに行うことをその要旨とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によると、積算電流値算出ステップにおいて積算電流値、即ち、電気量(クーロン量)を算出している。この場合、積算電流値を用いて膜厚を予測できるため、単に電流値を用いて膜厚を予測する場合よりも、正確に膜厚を調整することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、電着塗料を貯留するとともに前記電着塗料に車体が浸された状態で搬送される電着槽と、前記電着槽内に配置され、かつ前記車体の搬送方向に沿って間隔を空けて配置された複数の電極と、前記搬送方向に沿って前記車体を搬送する搬送手段と、前記搬送手段により連続的に搬送される前記電着槽内の複数の前記車体に対し、前記複数の電極から電流を印加したときの測定結果に基づいて、通電条件に関するデータを取得する通電条件データ取得手段とを備えた電着塗装設備であって、前記通電条件データ取得手段は、前記複数の電極から特定の電極を選択する電極選択手段と、前記車体を搬送方向に沿って搬送した場合に前記特定の電極から前記車体に電流が印加されると予想される位置的範囲である電流印加範囲を、前記車体の形状情報と設備の設計情報とに基づいて定義する電流印加範囲定義手段と、前記車体を搬送しながら、前記車体の移動位置に応じて前記特定の電極から前記車体に印加される電流を実際に測定する電流測定手段と、前記電流印加範囲の中心位置と測定された前記電流のピーク位置とを比較し、前記ピーク位置の前記中心位置からのずれ量を算出する比較算出手段と、前記ずれ量に基づいて前記中心位置を前記ピーク位置と一致するようにオフセットし、前記電流印加範囲を再定義する電流印加範囲再定義手段と、再定義した前記電流印加範囲を、前記複数の電極のうち前記特定の電極を除く残りの電極にも適用する電流印加範囲適用手段とを備えることを特徴とする電着塗装設備をその要旨とする。
【0015】
請求項4に記載の発明では、電流測定手段が、特定の電極から車体に印加される電流を実際に測定するため、車体に印加される電流の電流値を正確に知ることができる。しかも、比較算出手段が、測定された電流のピーク位置の電流印加範囲の中心位置からのずれ量を算出し、電流印加範囲再定義手段が、中心位置をピーク位置と一致するようにオフセットして電流印加範囲を再定義している。その結果、再定義した電流印加範囲と、実際の電流の印加範囲とのずれが小さくなるため、再定義した電流印加範囲にて電流の測定を行えば、正確な電流値を得ることができる。従って、得られた電流値(測定結果)に基づいて、通電条件に関する正確なデータ、具体的には、電流値と膜厚との関係を示すデータを取得することができる。ゆえに、取得したデータに基づいて車体に印加される電圧値を調整すれば、車体の表面に形成される塗膜を狙った厚さ範囲にすることができるため、車体の塗装品質が向上する。
【0016】
さらに、請求項4では、電流印加範囲適用手段が、再定義した電流印加範囲を、特定の電極を除く残りの電極にも適用している。このようにすれば、電着槽内に多数の電極が配置されていたとしても、全ての電極に対して容易に電流印加範囲を定義することができる。なお、電着塗料としては、カチオン電着塗料やアニオン電着塗料が挙げられるが、防錆の観点から言えば、カチオン電着塗料を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上詳述したように、請求項1~4に記載の発明によると、車体に印加される電流を正確に測定することにより、車体の表面に形成される塗膜を狙った厚さ範囲にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態における電着塗装設備を示す概略断面図。
【
図4】(a),(b)は、電流印加範囲の再定義方法を示すグラフ。
【
図5】従来技術における電極の電圧値の調整方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0020】
図1に示されるように、電着塗装設備10は、電着塗料P1を貯留する電着槽11を備えている。電着槽11では、車体W1が電着塗料P1に浸された状態で搬送されるようになっている。電着槽11は、同電着槽11の天井部を構成する槽上部12と、電着槽11の床部を構成する槽底部13と、2つの側壁14とによって構成されている。また、電着槽11には、同電着槽11内に車体W1を搬入するための搬入口15と、電着槽11外に車体W1を搬出するための搬出口16とが開口されている。なお、本実施形態の電着塗料P1は、例えば、陽イオン電解性樹脂をビヒクルの主体として用いた塗料である。
【0021】
また、電着塗装設備10は、搬送方向(
図1では右方向)に車体W1を搬送するコンベア21(搬送手段)を備えている。コンベア21は、車体W1を下降させながら搬入口15を介して電着槽11内に搬入するとともに、車体W1を上昇させながら搬出口16を介して電着槽11外に搬出するようになっている。なお、コンベア21は、搬送方向に延びるレール22と、レール22に設けられ車体W1を懸架して搬送する複数のハンガーレール23とを備えている。さらに、個々のハンガーレール23には、周期的にパルス信号を発信するパルス発信機24が設けられている。
【0022】
図1に示されるように、電着槽11内には複数の電極31が配置されている。各電極31は、電着槽11の側壁14に設置される側部電極32,33と、電着槽11の槽底部13に設置される底部電極34とからなる。側部電極32は、上下方向に延びる帯板状をなしており、車体W1の搬送方向に沿って間隔を空けて配置されている。また、側部電極33及び底部電極34は、搬送方向に延びる帯板状をなしており、搬送方向に沿って間隔を空けて配置されている。そして、各電極31にはケーブル35(
図2参照)が接続されている。そして、各ケーブル35は、電着槽11外に引き出される。
【0023】
次に、電着塗装設備10の電気的構成について説明する。
【0024】
図1に示されるように、電着塗装設備10はパソコン50を備えており、パソコン50は、設備全体を統括的に制御するための制御装置51を備えている。制御装置51は、CPU52、ROM53、RAM54、入出力回路等により構成されている。なお、CPU52は、学習部55としての機能を有している。また、CPU52には、パソコン50のキーボード56、及び、パソコン50のディスプレイ57が電気的に接続されている。さらに、CPU52は、コンベア21及び各パルス発信機24に電気的に接続されており、各種の駆動信号によってそれらを制御する。なお、本実施形態では、制御装置51に各電極31をケーブル35を介して接続することにより、CPU52に各電極31が電気的に接続される。また、CPU52には、各パルス発信機24から出力されたパルス信号が周期的に入力されるようになっている。さらに、ROM53には、各車体W1の電着塗装の作業時間を示す生産タクトタイム情報が予め設定(記憶)されている。
【0025】
次に、電着塗装設備10による電着塗装方法を説明する。
【0026】
まず、CPU52は、コンベア21に駆動信号を出力し、搬入口15を介して電着槽11内に車体W1(ハンガーレール23)を連続的に搬入させるとともに、搬出口16を介して電着槽11外に車体W1を連続的に搬出させる。そして、電着槽11内に搬入された車体W1が電着塗料P1に浸されると、電着槽11内に配置された各電極31から車体W1に電流が印加され、車体W1に対する電着塗装が行われる。その結果、車体W1の表面に塗膜が形成される。
【0027】
なお、塗膜の厚さが狙った範囲内にあれば、特に調整作業を行うことなく、電着塗装を継続する。しかし、塗膜の厚さが変動して狙った範囲からずれてくると、CPU52は、コンベア21により連続的に搬送される電着槽11内の複数の車体W1に対し、各電極31から電流を印加したときの測定結果に基づいて、通電条件に関するデータを取得する。即ち、CPU52は、『通電条件データ取得手段』としての機能を有している。
【0028】
具体的に言うと、まず、CPU52は、電極選択ステップを行い、複数の電極31の中から特定の電極31(側部電極32)を任意に選択する。即ち、CPU52は、『電極選択手段』としての機能を有している。続く電流印加範囲定義ステップにおいて、CPU52は、電流印加範囲61(
図3参照)を、ROM53に予め記憶されている車体W1の形状情報と電着塗装設備10の設計情報とに基づいて定義する。即ち、CPU52は、『電流印加範囲定義手段』としての機能を有している。なお、電流印加範囲61とは、車体W1を搬送方向に沿って搬送した場合に、特定の側部電極32から車体W1に電流が印加されると予想される位置的範囲である。具体的に言うと、まず、CPU52は、電着槽11の搬入口15付近にある基準位置S1(
図1,
図3参照)から特定の側部電極32までの距離を設備の設計情報に基づいて算出し、その算出した距離を電極距離情報としてRAM54に記憶(設定)する。また、CPU52は、特定の側部電極32を除く残りの側部電極32においても、基準位置S1からの距離を設備の設計情報に基づいてそれぞれ算出し、それらの算出した距離を電極距離情報としてRAM54に記憶(設定)する。
【0029】
次に、
図3に示されるように、CPU52は、特定の側部電極32の搬送方向における長さL1(幅)を設備の設計情報に基づいて算出し、その算出した長さL1をRAM54に記憶(設定)する。さらに、CPU52は、車体W1の全長をL2としたときに、基準位置S1から車体W1の後端までの長さ分を後方側範囲として設定する。また、CPU52は、基準位置S1から車体W1の前端までの長さ分を前方側範囲として設定する。そして、CPU52は、設定した後方側範囲を、特定の側部電極32の上流側端S2を起点とする上流側電流印加範囲として反映させるとともに、設定した前方側範囲を、上流側端S2を起点とする下流側電流印加範囲として反映させる。その結果、上流側電流印加範囲と下流側電流印加範囲との合計の範囲が、電流印加範囲61と定義される。
【0030】
続く電流測定ステップにおいて、CPU52は、車体W1を搬送しながら、車体W1の移動位置に応じて特定の側部電極32から車体W1に印加される電流を実際に(インラインで)測定する(
図2参照)。即ち、CPU52は、『電流測定手段』としての機能を有している。具体的に言うと、まず、CPU52は、電着塗料P1に浸されている複数(ここでは6つ)の車体W1の中から1つの車体W1を選択する。詳述すると、CPU52は、車体W1(ハンガーレール23)が基準位置S1から現在位置に移動するまでの間に、対応するパルス発信機24から出力されたパルス信号の数(パルス数)をカウントする。なお、パルス数のカウントは、電着塗料P1に浸されている全ての車体W1において行われる。そして、CPU52は、カウントしたパルス数に基づいて、基準位置S1からの各車体W1の移動距離、即ち、各車体W1の現在位置をそれぞれ算出する。また、CPU52は、各車体W1の現在位置に基づいて、電着槽11内での各車体W1の滞留時間(電着塗料P1に浸されている時間)をそれぞれ算出する。
【0031】
次に、CPU52は、ROM53に記憶されている複数の電極距離情報のうち、基準位置S1から特定の側部電極32までの距離を示す電極距離情報を選択する。さらに、CPU52は、これから特定の側部電極32を通過する複数の車体W1のうち、算出した車体W1の移動距離が、選択した電極距離情報が示す距離に最も近い距離となる車体W1を選択する。そして、CPU52は、電流計(図示略)に駆動信号を出力し、特定の側部電極32から選択した車体W1に印加される電流の電流値と、電流値のピーク値とを測定する。なお、電流値及びピーク値に関するデータ、及び、車体W1の種類(形状情報)に関するデータは、車体W1ごとにRAM54に記憶される。
【0032】
なお、ハンガーレール23に対する車体W1の取付位置のずれや、ハンガーレール23に取り付けられる車体W1の種類の変更により、電流が印加されると予想される範囲である電流印加範囲61が、実際の電流の印加範囲62からずれる可能性がある。そこで、本実施形態では、電流印加範囲61のずれを補正する処理を行っている。具体的に言うと、CPU52は、比較算出ステップにおいて、電流印加範囲61の中心位置A1と測定された電流のピーク位置A2とを比較し、ピーク位置A2の中心位置A1からのずれ量A3を算出する(
図4(a)参照)。即ち、CPU52は、『比較算出手段』としての機能を有している。なお、ピーク位置A2とは、選択した車体W1に印加される電流の電流値がピーク値となる位置を言う。
【0033】
続く電流印加範囲再定義ステップにおいて、CPU52は、ずれ量A3に基づいて中心位置A1をピーク位置A2と一致するように自動的にオフセットし、電流印加範囲61を再定義する(
図4(b)参照)。即ち、CPU52は、『電流印加範囲再定義手段』としての機能を有している。さらに、CPU52は、電流印加範囲適用ステップを行い、再定義した電流印加範囲61を、各側部電極32のうち特定の側部電極32を除く残りの側部電極32にも適用する。即ち、CPU52は、『電流印加範囲適用手段』としての機能を有している。
【0034】
そして、積算電流値算出ステップにおいて、CPU52は、再定義した電流印加範囲61にて電流の測定を行うことにより、単位時間当りの電流印加量である積算電流値を算出する。なお、電流印加範囲61において横軸と電流値のグラフとに囲まれた領域R1(
図4(b)参照)の面積は、1つの車体W1に対する特定の側部電極32からの電流印加量(積算電流値)を示している。そして、積算電流値は、全ての電極31及び全ての車体W1に対して算出され、製造番号(ID)に紐付けされた状態でRAM54に記憶(格納)される。
【0035】
その後、CPU52は、側部電極32から車体W1に印加される適切な電圧値を判定する。なお、適切な電圧値は、学習部55によって、RAM54に記憶されている過去データ(積算電流値、車体W1の種類、車体W1の各部位の膜厚等のデータ)から推測される。学習部55は、電圧値をどの程度にすれば、膜厚が適切な厚さになるかを学習する。また、本実施形態では、印加される電圧値が推定され、かつ電着塗装が終了した車体W1の複数部位に対して、膜厚計71(
図2参照)によって膜厚が測定される。なお、膜厚計71は、特に限定される訳ではないが、例えば、電磁式膜厚計、過電流式膜厚計、赤外線膜厚計、超音波膜厚計、分光干渉式膜厚計等の中から適宜選択して用いることができる。また、膜厚計71は、ケーブル(図示略)を介してパソコン50に接続されている。このため、測定した膜厚に関するデータ(膜厚測定データ)は、ケーブルを介してパソコン50に送信され、RAM54に記憶される。
【0036】
その結果、学習部55は、「電圧値をどの程度にすれば、塗膜が適切な厚さになるか」についてのデータを新たに得ることができる。そして、学習部55は、得られたデータを学習済データ(過去データ)としてRAM54に記憶する。その後、
図2に示されるように、CPU52は、RAM54に記憶されている学習済データに基づいて電圧値を決定し、決定した電圧値に基づいて、側部電極32から車体W1に電圧を印加させる。また、CPU52は、側部電極32から車体W1に印加される電圧値の調整に加えて、側部電極32の位置等の調整を行う。その結果、車体W1の表面に形成される塗膜が狙った厚さ範囲に調整される。
【0037】
従って、本実施形態によれば以下のような効果を得ることができる。
【0038】
(1)本実施形態では、電流測定ステップにおいて、特定の側部電極32から車体W1に印加される電流を実際に(インラインで)測定するため、車体W1に印加される電流の電流値を正確に知ることができる。しかも、比較算出ステップにおいて、測定された電流のピーク位置A2の電流印加範囲61の中心位置A1からのずれ量A3を算出し(
図4(a)参照)、電流印加範囲再定義ステップにおいて、中心位置A1をピーク位置A2と一致するようにオフセットして電流印加範囲61を再定義している(
図4(b)参照)。その結果、再定義した電流印加範囲61と、実際の電流の印加範囲62とのずれが小さくなるため、再定義した電流印加範囲61にて電流の測定を行えば、正確な電流値を得ることができる。従って、得られた電流値(測定結果)に基づいて、通電条件に関する正確なデータ、具体的には、積算電流値と膜厚との関係を示すデータを取得することができる。ゆえに、取得したデータに基づいて車体W1に印加される電圧値を調整すれば、車体W1の表面に形成される塗膜を狙った厚さ範囲にすることができるため、車体W1の塗装品質が向上する。
【0039】
なお、側部電極32は、通常、電着槽11内に多数(100本~160本程度)配置される。このため、それぞれの側部電極32に対して電流印加範囲61を正確に定義することは、多大な労力がかかるため、現実的ではない。そこで、本実施形態では、電流印加範囲適用ステップを行い、再定義した電流印加範囲61を、特定の側部電極32を除く残りの側部電極32にも適用している。このようにすれば、電着槽11内に多数の側部電極32が配置されていたとしても、全ての側部電極32に対して容易に電流印加範囲61を定義することができる。
【0040】
(2)本実施形態では、電流値のピーク値の検出や、電流値の積算による電気量(クーロン量)の算出等の種々の処理を行うことにより、車体W1ごとに、電流値と膜厚との関係を示すデータを集めることができる。よって、豊富なデータの確保が可能となる。
【0041】
(3)本実施形態では、特定の側部電極32から車体W1に印加される電流を実際に(インラインで)測定している。この場合、CPU52(学習部55)は、測定した電流(積算電流値)に基づいて適切な膜厚を素早く推測できるため、設備の設計情報に基づいて(オフラインで)電流値を算出する従来技術よりも、膜厚を調整するための電圧の調整を素早く行うことができる。
【0042】
(4)本実施形態では、学習部55が得た学習済データに基づいて、側部電極32から車体W1に印加される適切な電圧値が推測されるため、電圧値の調整によって塗膜を容易に狙った厚さ範囲にすることができ、塗装品質が安定する。しかも、学習部55による学習機会を多くすれば、推測される電圧値が最適化されていくため、塗装品質がいっそう安定する。
【0043】
なお、上記実施形態を以下のように変更してもよい。
【0044】
・上記実施形態では、CPU52(学習部55)が、積算電流値と膜厚との関係を示すデータに基づいて、適切な膜厚となる電圧値を推測していた。しかし、学習部55は、電流値(例えばピーク値等)と膜厚との関係を示すデータに基づいて、電圧値を推測してもよい。
【0045】
・上記実施形態では、側部電極32から車体W1に印加される電圧値の調整に加えて、側部電極32の位置等の調整を行うことにより、膜厚を調整していた。しかし、電圧値の調整のみによって、膜厚を調整してもよい。
【0046】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0047】
(1)請求項1乃至3のいずれか1項において、前記電流印加範囲定義ステップでは、基準位置から前記特定の電極までの距離を計測するステップと、前記特定の電極の搬送方向における長さを計測するステップと、前記基準位置から前記車体の後端までの長さ分を後方側範囲として設定するステップと、前記基準位置から前記車体の前端までの長さ分を前方側範囲として設定するステップと、設定した前記後方側範囲を、前記特定の電極の上流側端を起点とする上流側電流印加範囲として反映させるとともに、設定した前記前方側範囲を、前記上流側端を起点とする下流側電流印加範囲として反映させるステップとを行うことにより、前記上流側電流印加範囲と前記下流側電流印加範囲との合計の範囲を、前記電流印加範囲と定義することを特徴とする、電着塗装設備における通電条件データ取得方法。
【0048】
(2)請求項4において、膜厚と電圧値との関係を学習する学習部と、前記学習部が学習した、膜厚と電圧値との関係を示すデータを学習済データとして記憶する記憶手段とを備え、前記通電条件データ取得手段は、前記記憶手段に記憶されている前記学習済データに基づいて、前記特定の電極から前記車体に印加される電圧値を決定することを特徴とする電着塗装設備。
【符号の説明】
【0049】
10…電着塗装設備
11…電着槽
21…搬送手段としてのコンベア
22…レール
23…ハンガーレール
24…パルス発信機
31…電極
52…通電条件データ取得手段、電極選択手段、電流印加範囲定義手段、電流測定手段、比較算出手段、電流印加範囲再定義手段及び電流印加範囲適用手段としてのCPU
61…電流印加範囲
A1…中心位置
A2…ピーク位置
A3…ずれ量
P1…電着塗料
S1…基準位置
W1…車体