(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240807BHJP
B23C 3/00 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
G02B5/30
B23C3/00
(21)【出願番号】P 2020571054
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2020000976
(87)【国際公開番号】W WO2020162116
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019021518
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100186185
【氏名又は名称】高階 勝也
(72)【発明者】
【氏名】中市 誠
(72)【発明者】
【氏名】樋口 直孝
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕加
(72)【発明者】
【氏名】島ノ江 文人
(72)【発明者】
【氏名】岩本 正樹
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-136746(JP,A)
【文献】国際公開第2017/213009(WO,A1)
【文献】特開2019-020648(JP,A)
【文献】特開2018-159911(JP,A)
【文献】特開2018-167393(JP,A)
【文献】特開2016-182658(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047510(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/163408(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B23C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子を含む光学フィルムを複数枚重ねて
略矩形状のワークを形成すること、および
該ワークをエンドミルで切削する切削工程を含み、
該ワークが、複数の該光学フィルムが有する偏光子の吸収軸方向をそれぞれ同じ方向とするように構成され、
エンドミルによる切削開始点を含むワークの辺
Aと、該偏光子の吸収軸とのなす角が、0°~30°または150°~180°であ
り、
該辺Aとは異なる辺上に凹部が設けられるか、または、該辺Aとは異なる辺の近傍に穴部が設けられている、
切削加工された光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記切削工程において、前記ワークの外周面を前記エンドミルで切削することを含む、請求項1に記載の切削加工された光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ワークが、長辺と短辺とから構成される略矩形状であり、前記偏光子の吸収軸と該長辺とが平行であり、該長辺上に前記切削開始点が設定される、請求項2に記載の切削加工された光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ワークが、長辺と短辺とから構成される略矩形状であり、前記偏光子の吸収軸と該短辺とが平行であり、該短辺上に前記切削開始点が設定される、請求項2に記載の切削加工された光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記短辺の一方の側に凹部または穴部が設けられており、他方の短辺上に前記切削開始点が設定される、請求項4に記載の切削加工された光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の切削加工された光学フィルムの製造方法により、切削加工された第1の光学フィルムおよび第2の光学フィルムを製造することを含み、
該第1の光学フィルムと該第2の光学フィルムとを同一形状とし、該第1の光学フィルムおよび該第2の光学フィルムにより、該第1の光学フィルムおよび該第2の光学フィルムと平面視同一形状の積層体を形成した際に、
該第1の光学フィルムを構成する偏光子の吸収軸と、該第2の光学フィルムを構成する偏光子の吸収軸とが直交するように配置することが可能なように、第1の光学フィルムおよび第2の光学フィルムを形成する、
切削加工された光学フィルムセットの製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載の切削加工された光学フィルムの製造方法により、切削加工された第1の光学フィルムを製造すること、および、
請求項4または5のいずれかに記載の切削加工された光学フィルムの製造方法により、切削加工された第2の光学フィルムを製造することを含む、
請求項
6に記載の切削加工された光学フィルムセットの製造方法。
【請求項8】
前記エンドミルの外径が、10mm以下である、請求項1から
5のいずれかに記載の切削加工された光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記エンドミルの外径が、10mm以下である、請求項
6または7に記載の切削加工された光学フィルムセットの製造方法。
【請求項10】
前記エンドミルのねじれ角が、0°である、請求項1から
5のいずれかに記載の切削加工された光学フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記エンドミルのねじれ角が、0°である、請求項
6または7に記載の切削加工された光学フィルムセットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノート型パーソナルコンピューター等の画像表示装置には、画像表示を実現し、および/または当該画像表示の性能を高めるために、種々の光学フィルム(例えば、偏光板)が使用されている。近年、自動車のインストゥルメントパネルやスマートウォッチなどにも光学積層体の使用が望まれており、光学積層体の形状を所望の形状に加工することが望まれている。このような加工の際、エンドミルにより、端面を切削する場合がある。エンドミルによる切削加工においては、高精度な切削が可能である一方、切削時に光学フィルムにクラックが生じる傾向がある。特に、エンドミルを被加工面に当接した際のクラック発生、および偏光子等の所定の方向にさけやすいフィルムを含む光学フィルムを切削する際のクラック発生は、エンドミルによる切削加工の代表的な問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-187781号公報
【文献】特開2018-022140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、エンドミルを用いつつも、偏光子を含む光学フィルムのクラック発生を抑制し得る、光学フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の切削加工された光学フィルムの製造方法は、偏光子を含む光学フィルムを複数枚重ねてワークを形成すること、および該ワークをエンドミルで切削する切削工程を含み、該ワークが、複数の該光学フィルムが有する偏光子の吸収軸方向をそれぞれ同じ方向とするように構成され、エンドミルによる切削開始点を含むワークの辺A、または該切削開始点におけるワークの接線Bと、該偏光子の吸収軸とのなす角が、0°~30°または150°~180°である。
1つの実施形態においては、上記製造方法は、上記切削工程において、上記ワークの外周面を上記エンドミルで切削することを含む。
1つの実施形態においては、上記ワークが、長辺と短辺とから構成される略矩形状であり、上記偏光子の吸収軸と該長辺とが平行であり、該長辺上に前記切削開始点が設定される。
1つの実施形態においては、上記ワークが、長辺と短辺とから構成される略矩形状であり、上記偏光子の吸収軸と該短辺とが平行であり、該短辺上に上記切削開始点が設定される。
1つの実施形態においては、上記短辺の一方の側に凹部または穴部が設けられており、他方の短辺上に上記切削開始点が設定される。
1つの実施形態においては、上記ワークが穴部を有し、上記切削工程において、該穴部の内周面を前記エンドミルで切削することを含み、エンドミルによる切削開始点における該ワークの接線B’と、該偏光子の吸収軸とのなす角が、0°~30°または150°~180°である。
1つの実施形態においては、上記ワークが、長辺と短辺とから構成される略矩形状であり、上記偏光子の吸収軸と該長辺とが平行である。
1つの実施形態においては、上記ワークが、長辺と短辺とから構成される略矩形状であり、上記偏光子の吸収軸と該短辺とが平行である。
本発明の別の局面によれば、切削加工された光学フィルムセットの製造方法が提供される。この製造方法は、上記切削加工された光学フィルムの製造方法により、切削加工された第1の光学フィルムおよび第2の光学フィルムを製造することを含み、該第1の光学フィルムを構成する偏光子の吸収軸と、該第2の光学フィルムを構成する偏光子の吸収軸とが直交するように配置することが可能なように、第1の光学フィルムおよび第2の光学フィルムを形成する。
1つの実施形態においては、上記エンドミルの外径が、10mm以下である。
1つの実施形態においては、上記エンドミルのねじれ角が、0°である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、偏光子を含む光学フィルムの当該偏光子の吸収軸方向を基準として、切削開始点を特定の位置とすることにより、エンドミルを用いつつも、偏光子を含む光学フィルムのクラック発生を抑制し得る、切削加工された光学フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の光学フィルムの切削加工の一例を説明するための概略斜視図である。
【
図2】本発明の光学フィルムの製造方法における切削加工に用いられるエンドミルの一例を説明するための概略斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、本発明の光学フィルムの製造方法における切削加工に用いられる切削手段の別の例を説明するための軸方向から見た概略断面図であり;
図3(b)は、
図3(a)の切削手段の概略斜視図である。
【
図4】本発明の1つの実施形態による切削加工を説明する概略平面図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、本発明の1つの実施形態による切削加工を説明する概略平面図である。
【
図6】
図6(a)~
図6(d)は、本発明の1つの実施形態による切削加工を説明する概略平面図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、本発明の1つの実施形態による切削加工を説明する概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。なお、見やすくするために図面は模式的に表されており、さらに、図面における長さ、幅、厚み等の比率、ならびに角度等は、実際とは異なっている。
【0009】
A.光学フィルムの製造方法
本発明の切削加工された光学フィルムの製造方法は、偏光子を含む光学フィルムを複数枚重ねてワークを形成すること、および該ワークの外周面をエンドミルで切削することを含む。ワークは、複数の光学フィルムが有する偏光子の吸収軸方向をそれぞれ同じ方向とするように構成される。本明細書において、「同じ方向」とは、実質的に同じ方向である場合を包含し、具体的には、各方向のなす角が0°~5°である場合を包含する。
【0010】
A-1.ワークの形成
偏光子を含む光学フィルムは、偏光子単体であってもよく、偏光子とその他の層とを含むフィルムであってもよい。その他の層としては、偏光子を保護する保護層、任意の適切な光学機能層から構成される層等が挙げられる。1つの実施形態においては、偏光子を含む光学フィルムとして偏光板が用いられる。偏光板は、偏光子と該偏光子の少なくとも片側に配置された保護層とを備え得る。また、偏光子を含むフィルムとして、偏光板と、表面保護フィルムおよび/またはセパレーターとの積層体を用いてもよい。表面保護フィルムまたはセパレーターは、任意の適切な粘着剤を介して偏光板に剥離可能に積層される。本明細書において「表面保護フィルム」とは偏光板を一時的に保護するフィルムであり、偏光板が備える保護層(偏光子を保護する層)とは異なるものである。
【0011】
偏光子は、代表的には、樹脂フィルム(例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム)に膨潤処理、延伸処理、二色性物質(例えば、ヨウ素、有機染料等)による染色処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等の各種処理を施すことにより得られる。一般に、延伸処理を経て得られた偏光子はクラックが生じやすいという特性を有するが、本発明によれば、クラックを防止しつつ、偏光子を含む光学フィルムを切削することができる。
【0012】
偏光子を含む光学フィルムの厚みは、特に制限されず、目的に応じて適切な厚みが採用され得、例えば、20μm~200μmである。偏光子の厚みもまた特に制限されず、目的に応じて適切な厚みが採用され得る。偏光子の厚みは、代表的には、1μm~80μm程度であり、好ましくは3μm~40μmである。
【0013】
偏光子を含む光学フィルムのサイズは、特に制限されず、目的に応じて適切なサイズとされ得る。1つの実施形態においては、偏光子を含む光学フィルムは、偏光子の吸収軸と平行である辺を含む矩形状であり、偏光子の吸収軸と平行である辺の長さが10mm~400mmであり、その他の辺の長さが10mm~500mmである。本明細書において、「平行である」とは、実質的に平行である場合を包含し、具体的には、2方向のなす角が0°~5°である場合を包含する。
【0014】
図1は、切削加工を説明するための概略斜視図であり、本図にワーク1が示されている。
図1に示すように、光学フィルムを複数枚重ねたワーク1が形成される。光学フィルムは、ワーク形成に際し、代表的には任意の適切な形状に切断されている。具体的には、光学フィルムは矩形状に切断されていてもよく、矩形状に類似する形状に切断されていてもよく、目的に応じた適切な形状(例えば、円形)に切断されていてもよい。図示例では、光学フィルムは矩形状に切断されており、ワーク1は、互いに対向する外周面(切削面)1a、1bおよびそれらと直交する外周面(切削面)1c、1dを有している。ワーク1は、好ましくは、クランプ手段(図示せず)により上下からクランプされている。ワークの総厚みは、例えば、8mm~100mmであり、好ましくは8mm~50mmであり、より好ましくは8mm~20mmであり、さらに好ましくは9mm~15mmであり、さらに好ましくは約10mmである。このような厚みであれば、クランプ手段による押圧または切削加工時の衝撃による損傷を防止し得る。光学フィルムは、ワークがこのような総厚みとなるように重ねられる。ワークを構成する光学フィルムの枚数は、例えば10枚~500枚(1つの実施形態においては、10枚~300枚;別の実施形態においては、10枚~50枚)であり得る。クランプ手段(例えば、治具)は、軟質材料で構成されてもよく硬質材料で構成されてもよい。軟質材料で構成される場合、その硬度(JIS A)は、好ましくは20°~80°であり、より好ましくは60°~80°であり、その厚みは例えば0.3mm~5mmである。硬度が高すぎると、クランプ手段による押し跡が残る場合がある。硬度が低すぎるまたは厚すぎるとと、治具の変形により位置ずれが生じ、切削精度が不十分となる場合がある。
【0015】
A-2.切削工程
次に、ワーク1を、エンドミル20により切削する。切削は、エンドミルの切削刃をワーク1の外周面に当接させることにより行われ得る。切削は、ワークの外周面の全周にわたって行ってもよく、所定の位置のみに行ってもよい。また、穴部を有するワークについて、該穴部の内周面にエンドミルの切削刃を当接させて、該内周面を切削してもよい。エンドミル20としては、代表的にはストレートエンドミルが用いられ得る。切削加工においては、エンドミルのみを移動させてもよく、ワークのみを移動させてもよく、エンドミルおよびワークの両方を移動させてもよい。
【0016】
エンドミル20は、
図2および
図3に示すように、ワーク1の積層方向(鉛直方向)に延びる回転軸21と、回転軸21を中心として回転する本体の最外径として構成される切削刃22と、を有する。切削刃22は、
図2に示すように回転軸21に沿ってねじれた最外径として構成されてもよく(所定のねじれ角を有していてもよく)、
図3に示すように回転軸21に実質的に平行な方向に延びるよう構成されていてもよい(ねじれ角が0°であってもよい)。なお、「0°」は実質的に0°であるという意味であり、加工誤差等によりわずかな角度ねじれている場合も包含する。切削刃が所定のねじれ角を有する場合、ねじれ角は好ましくは70°以下であり、より好ましくは65°以下であり、さらに好ましくは45°以下である。切削刃22は、刃先22aと、すくい面22bと、逃がし面22cと、を含む。切削刃22の刃数は、後述の所望の接触回数が得られる限りにおいて適切に設定され得る。
図2における刃数は3枚であり
図3における刃数は2枚であるが、刃数は1枚であってもよく、4枚であってもよく、5枚以上であってもよい。好ましくは、刃数は2枚である。このような構成であれば、刃の剛性が確保され、かつ、ポケットが確保されて削りカスを良好に排出することができる。
【0017】
1つの実施形態においては、エンドミルの外径は10mm以下であり、好ましくは3mm~9mmであり、より好ましくは4mm~7mmである。なお、本明細書において「エンドミルの外径」とは、回転軸から1つの刃先までの距離を2倍したものをいう。
【0018】
切削加工の条件は、所望の形状に応じて適切に設定され得る。例えば、エンドミル回転数は、好ましくは1000rpm~60000rpmであり、より好ましくは10000rpm~40000rpmである。エンドミルの送り速度(ワークに対する相対速度)は、好ましくは500mm/分~10000mm/分であり、より好ましくは500mm/分~2500mm/分である。
【0019】
本発明においては、エンドミルによる切削開始点を含むワークの辺A、または切削開始点におけるワークの接線Bと、上記偏光子の吸収軸とのなす角が、0°~30°または150°~180°であるように、切削加工が行われる。なお、本明細書において、辺Aまたは接線Bと偏光子の吸収軸とのなす角とは、平面視における角度(水平角度)を意味する。また、本明細書において角度に言及するときは、特に明記しない限り、当該角度は時計回りおよび反時計回りの両方の方向の角度を包含する。
【0020】
A-2-1.外周面の切削
図4は、本発明の1つの実施形態による切削加工を説明する概略平面図である。
図4に示す実施形態においては、ワーク1の外周面がエンドミルで切削される。
図4においては、ワーク1が略矩形状であり、切削開始点aが、ワーク1の辺Aに含まれている。切削開始点aとは、エンドミルをワーク1に最初に当接させる箇所であり、その後、エンドミルは、ワーク1の被切削面(
図4においては、外周面)に沿うようにして、ワーク1に対して相対的に移動する。切削が、ワークの外周面の全周にわたる場合、切削開始点aと切削終了点は同じ位置であり得る。上記のとおり、辺Aと上記偏光子の吸収軸Xとのなす角は、0°~30°または150°~180°である。本発明においては、上記偏光子の吸収軸Xとのなす角が0°~30°または150°~180°となる辺Aに切削開始点aを設定すること、すなわち、吸収軸Xと平行である辺あるいは平行に近い辺に切削開始点aを設定することにより、切削加工時における偏光子のクラックを防止することができる。辺Aと上記偏光子の吸収軸Xとのなす角は、好ましくは0°~20°または160°~180°であり、より好ましくは0°~10°または170°~180°であり、さらに好ましくは0°~5°または175°~180°である。
【0021】
ワーク(すなわち、光学フィルム)の形状は、任意の適切な形状とすることができる。ワークの形状としては、例えば、
図4に示すような略矩形状の他、略多角形状、略円形状、略楕円形状等が挙げられる。また、ワークの形状は、直線と曲線とを適宜組み合わせた形状、曲率の異なる複数の曲線から構成された形状であってもよい。なお、上記ワークは、純粋な矩形状、多角形状、円形状、楕円形状等でなくてもよく、これらの形状に異形部分が加えられた形状であってもよい。本明細書においては、例えば、異形部分が加えられた矩形状は、「略矩形状」に含まれる。異形部分としては、例えば、
図4に示すような凹部の他、凸部、穴等が挙げられる。また、上記ワークは、矩形の角部を曲線化したような形状であってもよい。
【0022】
図5に示すように、上記ワークが、曲線を有する形状である場合、切削開始点は、当該切削開始点aにおけるワーク1の接線Bと、上記偏光子の吸収軸とのなす角が、0°~30°または150°~180°となる箇所に設定され得る。このように切削開始点を設定することにより、切削加工時における偏光子のクラックを防止することができる。接線Bと上記偏光子の吸収軸Xとのなす角は、好ましくは0°~20°または160°~180°であり、より好ましくは0°~10°または170°~180°であり、さらに好ましくは0°~5°または175°~180°である。なお、本明細書において、「ワークの接線」とは、ワークの平面視外郭における接線を意味する。
【0023】
ワークの外郭が頂点および/または直線と曲線の連結点を有する場合、該頂点および該連結点を、切削開始点としないことが好ましく、該頂点および該連結点から2mm以上離れた箇所を切削開始点とすることがより好ましく、5mm以上離れた箇所を切削開始点とすることがさらに好ましい。1つの実施形態においては、該頂点および該連結点から20mm以上離れた箇所が切削開始点とされる。別の実施形態においては、40mm以上離れた箇所が切削開始点とされる。該頂点および該連結点を切削開始点とすると、ケバが発生するおそれがある。
【0024】
上記ワークが、異形部分を有する場合、切削開始点は異形部分から2mm以上離れた箇所とすることが好ましく、4mm以上離れた箇所とすることがより好ましい。1つの実施形態においては、該異形部分から20mm以上離れた箇所が切削開始点とされる。別の実施形態においては、40mm以上離れた箇所が切削開始点とされる。また、ワークの形状が略矩形状である場合、異形部分が設けられた辺とは異なる辺に切削開始点を設定することが好ましい。異形部分、および異形部分近傍を切削開始点としないことにより、切削加工時における偏光子のクラックを防止することができる。
【0025】
1つの実施形態においては、
図6(a)に示すようにワーク1Aが長辺と短辺とから構成される略矩形状であり、上記偏光子の吸収軸Xと当該長辺とが平行であり、当該長辺上に切削開始点aが設定される。ワーク1Aにおいては、
図6(a)に示すように一方の短辺の一部に凹部が設けられていてもよく、
図6(b)に示すように一方の短辺の近傍に穴部11が設けられていてもよい。
【0026】
別の実施形態においては、
図6(c)に示すようにワーク1Bが長辺と短辺とから構成される略矩形状であり、上記偏光子の吸収軸Xと当該短辺とが平行であり、当該短辺上に切削開始点aが設定される。ワーク1Bにおいては、一方の短辺の一部に凹部が設けられていてもよい。一方の短辺の一部に凹部が設けられている場合、切削開始点aは、他方の短辺に設定することが好ましい。また、
図6(d)に示すようにワーク1Bは、一方の短辺の近傍に穴部11が設けられていてもよい。この場合においても、切削開始点aは、他方の短辺に設定することが好ましい。
【0027】
A-2-2.内周面の切削
図7は、本発明の1つの実施形態による切削加工を説明する概略平面図である。
図7に示す実施形態においては、ワーク1A’(1B’)が穴部11’を有し、該穴部11’の内周面がエンドミルにより切削される。本実施形態においては、切削開始点aにおけるワーク(実質的には穴部の外郭)の接線B’と、偏光子の吸収軸Xとのなす角が、0°~30°または150°~180°(好ましくは0°~20°または160°~180°であり、より好ましくは0°~10°または170°~180°であり、さらに好ましくは0°~5°または175°~180°)である。1つの実施形態においては、
図7(a)に示すように、ワーク1A’が長辺と短辺とから構成される略矩形状であり、上記偏光子の吸収軸Xと当該長辺とが平行である。別の実施形態においては、
図7(b)に示すように、ワーク1B’が長辺と短辺とから構成される略矩形状であり、上記偏光子の吸収軸Xと当該短辺とが平行である。
【0028】
A-3.切削加工された光学フィルムの用途
本発明の製造方法により得られた切削加工された光学フィルムは、液晶画像表示装置、有機EL画像表示装置等に用いられ得る。また、切削加工された光学フィルムは、上記パーソナルコンピューター(PC)やタブレット端末に代表される矩形の画像表示部、および/または、自動車のインストゥルメントパネルやスマートウォッチに代表される異形の画像表示部に好適に用いられ得る。
【0029】
B.光学フィルムセットの製造方法
1つの実施形態においては、切削加工された光学フィルムセットの製造方法が提供される。この製造方法は、第1のワーク(例えば、上記ワーク1A、ワーク1A’)を形成して切削加工された第1の光学フィルムを製造すること、および、第2のワーク(例えば、上記ワーク1B、ワーク1B’)を形成して切削加工された第2の光学フィルムを製造することを含む。第1の光学フィルムおよび第2の光学フィルムは、上記A項に記載の製造方法により製造され得る。1つの実施形態においては、第1のワーク、第2のワークおよびこれらのワークを構成する光学フィルムは、略同一形状である。
【0030】
1つの実施形態においては、切削加工された光学フィルムセットの製造方法において、上記第1の光学フィルムを構成する偏光子の吸収軸が、上記第2の光学フィルムを構成する偏光子の吸収軸に直交するように配置することが可能なように、第1の光学フィルムおよび第2の光学フィルムを形成する。より具体的には、第1の光学フィルムと第2の光学フィルムとを略同一形状とし、これらのフィルムを平面視同一形状の積層体を形成した際に、第1の光学フィルムの偏光子の吸収軸と、第2の光学フィルムの吸収軸とが直交し得るように、第1の光学フィルムおよび第2の光学フィルムが形成される。このような実施形態においては、第1のワークを切削する際の切削開始点は、第2のワークを切削する際の切削開始点に対応しない位置となる。なお、本明細書において、「直交する」とは、実質的に直交である場合を包含し、具体的には、2方向のなす角が85°~95°である場合を包含する。
【0031】
1つの実施形態においては、切削加工された光学フィルムセットの製造方法においても、上記のとおり、第1のワーク1Aおよび第2のワーク1Bは、長辺と短辺とから構成される略矩形状である。第1のワーク1A、第2のワーク1B、およびこれらのワークを構成する光学フィルムは、略同一形状であることが好ましい。
【0032】
また、
図6(a)、(b)に示すように、第1のワーク1Aにおいては、第1のワーク1Aを構成する光学フィルムが備える偏光子の吸収軸Xと、長辺とが平行である。第1のワーク1Aを切削加工する際には、第1のワーク1Aの長辺上に切削開始点が設定される。1つの実施形態においては、第1のワーク1Aの一方の短辺の一部に凹部が設けられる。また、第1のワーク1Aの一方の短辺の近傍に穴部が設けられていてもよい。
【0033】
また、
図6(c)、(d)に示すように、第2のワーク1Bにおいては、第2のワーク1Bを構成する光学フィルムが備える偏光子の吸収軸Xと、短辺とが平行である。第2のワーク1Bを切削加工する際には、第2のワーク1Bの短辺上に切削開始点が設定される。1つの実施形態においては、第2のワーク1Bにおいては、一方の短辺の一部に凹部が設けられる。一方の短辺の一部に凹部が設けられている場合、切削開始点は、他方の短辺に設定することが好ましい。また、第2のワーク1Bには、一方の短辺の近傍に穴部が設けられていてもよい。この場合においても、切削開始点は、他方の短辺に設定することが好ましい。
【0034】
上記第1のワークは、穴部を有する第1のワーク1A’であり、第1の光学フィルムは、穴部の内周面が切削された光学フィルムであってもよい。また、上記第2のワークは穴部を有する第2のワーク1B’であり、第2の光学フィルムは、穴部の内周面が切削された光学フィルムであってもよい。第1のワーク1A’、第2のワーク1B’、およびこれらのワークを構成する光学フィルムは、略同一形状であることが好ましい。また、各ワークに形成された穴部は、略同一形状であり、かつ、それぞれワーク内で同じ位置(対応した位置)に形成されていることが好ましい。1つの実施形態においては、
図7(a)に示すように、ワーク1A’が長辺と短辺とから構成される略矩形状であり、上記偏光子の吸収軸Xと当該長辺とが平行である。別の実施形態においては、
図7(b)に示すように、ワーク1B’が長辺と短辺とから構成される略矩形状であり、上記偏光子の吸収軸Xと当該短辺とが平行である。
【0035】
上記第1のワークおよび第2のワークは、略矩形状の他、略多角形状、略円形状、略楕円形状等が挙げられる。また、ワークの形状は、直線と曲線とを適宜組み合わせた形状、曲率の異なる複数の曲線から構成された形状であってもよい。例えば、
図5(a)に示す形状の第1のワークと、
図5(b)に示す形状の第2のワークとから、切削加工された光学フィルムセットが製造され得る。第1のワークおよび第2のワークが、これらの形状である場合においても、第1のワーク、第2のワーク、およびこれらのワークを構成する光学フィルムは、略同一形状であることが好ましい。
【0036】
本発明の切削加工された光学フィルムセットの製造方法によれば、偏光子の吸収軸を互いに直交させて、対向配置させ得る2種の光学フィルムを製造することができる。第1の光学フィルムと第2の光学フィルムとは、例えば、液晶表示装置に用いられ得、当該液晶表示装置が備える液晶セルの一方の面に第1の光学フィルムを配置し、他方の面に第2の光学フィルムを配置するようにして用いられ得る。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。
【0038】
[実施例1]
常法により、視認側から順に表面保護フィルム(48μm)/ハードコート層(5μm)/シクロオレフィン系保護フィルム(47μm)/偏光子(5μm)/シクロオレフィン系保護フィルム(24μm)/粘着剤層(20μm)/セパレーターの構成を有する光学フィルム(偏光板)を作製した。粘着剤層は、特開2016-190996号公報の[0121]および[0124]に準じて作製した。得られた光学フィルムを
図4に類似した形状(概略サイズ140mm程度×65mm程度で)に打ち抜いた。各光学フィルムの偏光子の吸収軸方向が光学フィルムの長辺と平行になるようにして、打ち抜いた光学フィルムを複数枚重ねてワーク(総厚み約10mm)とした。得られたワークをクランプ(治具)で挟んだ状態で、光学フィルムの長辺に切削開始点を設定して、エンドミル加工により周縁部を切削した。エンドミルの刃数は2枚、ねじれ角は0°であった。また、エンドミルの送り速度(直線部を切削する際の送り速度)は1000mm/分であり、回転数は25000rpmであった。
上記切削時、光学フィルムにクラックは生じなかった。
【0039】
[実施例2]
各光学フィルムの偏光子の吸収軸方向が光学フィルムの短辺と平行になるようにして、打ち抜いた光学フィルムを複数枚重ねてワーク(総厚み約10mm)とし、光学フィルムの短辺に切削開始点を設定したこと以外は、実施例1と同様にして切削加工を行った。
上記切削時、光学フィルムにクラックは生じなかった。
【0040】
[比較例1]
光学フィルムの短辺に切削開始点を設定したこと以外は、実施例1と同様にして、光学フィルムを切削した。この場合、切削開始時、エンドミルがワークの外周面に当接した時点で光学フィルムにクラックが生じた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の切削加工された光学フィルムは、パーソナルコンピューター(PC)やタブレット端末に代表される矩形の画像表示部、および/または、自動車のインストゥルメントパネルやスマートウォッチに代表される異形の画像表示部に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0042】
1 ワーク
20 エンドミル