(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】リング位置決め治具
(51)【国際特許分類】
F16L 21/08 20060101AFI20240807BHJP
F16L 23/026 20060101ALI20240807BHJP
F16L 23/08 20060101ALI20240807BHJP
B23K 37/053 20060101ALI20240807BHJP
B23K 37/04 20060101ALI20240807BHJP
B23K 9/028 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
F16L21/08 B
F16L23/026
F16L23/08
B23K37/053 E
B23K37/04 Y
B23K9/028 Q
(21)【出願番号】P 2021041177
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166796
【氏名又は名称】岡本 雅至
(72)【発明者】
【氏名】森田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】堤 親平
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-004571(JP,A)
【文献】特開2002-147664(JP,A)
【文献】実開昭55-106592(JP,U)
【文献】米国特許第3673664(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 21/08
F16L 23/026
F16L 23/08
B23K 37/053
B23K 37/04
B23K 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄管(10)の端部外周にリング(11a)を位置決めして固定し、突部(11)を形成するための治具であって、環状体(2)を主体として構成され、
前記環状体(2)は、鉄管(10)の端部の外周に被せられる周環部(3)と、その一端から径方向内側へ迫り出し鉄管(10)の端面に宛がわれる端環部(4)とからなり、
前記周環部(3)の内周にリング(11a)を保持するリング保持溝(5)が形成され、
前記環状体(2)が周方向の締付用切割部(6a)を有し、前記締付用切割部(6a)に臨んでリング(11a)を鉄管(10)に密着させるための締付機構(7)が設けられ、
前記周環部(3)には、外周と内周とに貫通するように、リング(11a)を鉄管(10)に仮付け溶接するための開口部(8)が形成されているリング位置決め治具(1)。
【請求項2】
前記周環部(3)は、外周の段差を介して、前記端環部(4)から離れた一端側の外周が大径部(3a)とされ、前記端環部(4)寄りの他端側が小径部(3b)とされており、
前記開口部(8)が前記周環部(3)の段差を切り欠くように大径部(3a)と小径部(3b)とにわたっていることを特徴とする請求項1に記載のリング位置決め治具(1)。
【請求項3】
前記環状体(2)は、前記締付用切割部(6a)の反対側に開閉用切割部(6b)を有することにより、一対の半環状体(2a)からなるものとされ、
前記半環状体(2a)同士が前記開閉用切割部(6b)を跨ぐヒンジ(9)を介して連結され、リング(11a)の保持又は保持解除時に前記半環状体(2a)が開閉可能とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載のリング位置決め治具(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄管の端部外周の所定位置にリングを嵌めて固定することにより、突部を形成するリング位置決め治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7(7A)に示すように、主に水道管として使用されるダクタイル鋳鉄管の直管である鉄管50は、一端に受口51を、他端に挿し口52を有する継手構造のものが多く、受口51には、内周面にシール材収容溝53とロックリング収容溝54が端面側から順次形成され、挿し口52の外周には突部55が形成されている。突部55には、挿し口52の端面側に受口51への差込時に誘導面となるテーパ面55aが形成されている。
【0003】
このような鉄管50同士を接合するには、
図7(7B)に示すように、一方の鉄管50のシール材収容溝53にシール材56を収容するとともに、ロックリング収容溝54にロックリング57とその外周に嵌める芯出しゴム58とを収容した状態で、他方の鉄管50の挿し口52を一方の鉄管50の受口51に差し込み、突部55とロックリング57との係合により、受口51から挿し口52が抜け止めされるようにする。
【0004】
また、下記特許文献1には、
図7に示すような型式の鉄管50の挿し口52の外周にリング59を嵌めて突部55を形成するための治具として、
図8に示すような有底の円筒状体である治具40が記載されている。
【0005】
この治具40の使用に際しては、
図8(8A)に示すように、突部55となるリング59の外周に、溶接用溝59aを形成するとともに、テーパ面55aの反対側の端部に径方向外側へ向けて突起59bを形成しておく。
【0006】
そして、鉄管50に嵌めたリング59の外周に治具40を被せ、治具40の開口部の周囲の端面でリング59の突起59bを押し、鉄管50の外周に沿ってリング59をスライドさせ、
図8(8B)に示すように、鉄管50の端面が治具40の底壁に当接すると、リング59が鉄管50に対し所定の位置に位置決めされる。
【0007】
その後、治具40を鉄管50及びリング59から外し、溶接用溝59aの底部と突起59bとをサンダーで削り取り、溶接用溝59aの底部において鉄管50の外周面を露出させ、露出した鉄管50の外周面にリング59を溶接して固定する。
【0008】
一方、近年設置されるトンネル内消火配管などでは、
図9に示すように、ダクタイル鋳鉄管の直管である鉄管10同士を、接合及び解体の作業性改善のため、短い円筒状のハウジング20を使用して接合するハウジング継手が採用される事例もある。
【0009】
ハウジング継手で用いられる鉄管10は、
図10に示すように、両端部の外周に突部11を有するものとされ、鉄管10同士の継手部では、
図11及び
図12に示すように、接合する鉄管10の端部外周に跨るようにゴムリング21を嵌め、その外側にハウジング20を二分割した半割カップリング20aを被せ、半割カップリング20a同士をボルト・ナットを用いた締結機構22により締結する。
【0010】
突部11の形成に際しては、鉄管10の鋳造時に全面加工する方法のほか、鉄管10とは別に帯鉄や鋼製管等の加工によりリング11aを製作し、このリング11aを鉄管10の端面から所定の位置に溶接して固定する方法が用いられている。
【0011】
鉄管10の端部外周の所定位置にリング11aを嵌めて固定する方法としては、
図13及び
図14に示すように、鉄管10の端部外周に端面からの距離を計測して嵌込溝12を形成し、周方向の一箇所に差入用切割部11a
sを有するリング11aを弾性変形させつつ嵌込溝12に嵌め込み、リング11aを浮いてしまわないように万力30で押さえ付けた状態で仮止め溶接し、万力30の除去後に全周にわたって溶接する方法がある。
【0012】
また、嵌込溝12を形成することなく、差入用切割部11a
sのないリング11aを、
図15に示すように、鉄管10の端面からの距離を計測して所定位置まで圧入装置により嵌め入れ、
図16に示すように、万力30で押さえ付けた状態で仮止め溶接し、万力30の除去後に全周にわたって溶接する方法が採用されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、
図13乃至
図16に示すような方法では、リング11aの位置決め時における鉄管10の端面からの距離の計測や、仮止め溶接時における万力30でのリング11aの押さえ付けに多くの工数が掛かるという問題がある。また、
図15及び
図16に示す圧入装置を使用する方法では、圧入装置の設置に多大な設備投資が必要となる。
【0015】
その対策として、
図8に示すような治具40を、リング11aの位置決め及び固定に使用することも考えられるが、リング11aは、管軸方向の寸法が短いことから、リング11aに溶接用溝59aと突起59bに相当する部分を形成することは困難である。
【0016】
また、仮に溶接用溝59aと突起59bを形成して治具40を適用しても、次工程での溶接用溝59aの底部と突起59bの削り取りに非常に手間が掛かるほか、治具40を被せたまま仮止め溶接することができず、さらに、リング11aは厚いため、溶接用溝59aが深くなり、溶接用溝59aの底部中央付近の溶接が難しく、溶接後に溶接用溝59aを埋める処理も必要となり、工数が増えて生産性が低くなるという問題もある。
【0017】
そこで、この発明は、少ない工数でリングを鉄管に対して正確に位置決めし、容易に固定できる治具を提供することにより、生産性の向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、この発明に係る治具は、鉄管の端部外周にリングを位置決めして固定し、突部を形成するためのものであって、環状体を主体として構成され、
前記環状体は、鉄管の端部の外周に被せられる周環部と、その一端から径方向内側へ迫り出し鉄管の端面に宛がわれる端環部とからなり、
前記周環部の内周にリングを保持するリング保持溝が形成され、
前記環状体が周方向の締付用切割部を有し、前記締付用切割部に臨んでリングを鉄管に密着させるための締付機構が設けられ、
前記周環部には、外周と内周とに貫通するように、リングを鉄管に仮付け溶接するための開口部が形成されているものとしたのである。
【0019】
また、前記周環部は、外周の段差を介して、前記端環部から離れた一端側の外周が大径部とされ、前記端環部寄りの他端側が小径部とされており、
前記開口部が前記周環部の段差を切り欠くように大径部と小径部とにわたっているものとしたのである。
【0020】
また、前記環状体は、前記締付用切割部の反対側に開閉用切割部を有することにより、一対の半環状体からなるものとされ、
前記半環状体同士が前記開閉用切割部を跨ぐヒンジを介して連結され、リングの保持又は保持解除時に前記半環状体が開閉可能とされているものとしたのである。
【発明の効果】
【0021】
この発明に係るリング位置決め治具を使用すると、環状体のリング保持溝にリングを嵌め入れて保持し、周環部を鉄管の端部外周に被せて端環部を鉄管の端面に宛がうだけで、鉄管に対してリングを位置決めすることができ、締付機構によりリングの浮き上がりを防止した状態で、開口部を介してリングを鉄管に仮止め溶接することができるので、少ない工数でリングを鉄管に対して正確に位置決めし、容易に固定することができる。また、圧入装置の設置のための設備投資も不要であり、加工コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明に係るリング位置決め治具を鉄管の端部に被せた状態を示す斜視図
【
図2】同上の(2A)管軸方向に直交する一部切欠外面図、(2B)環状体を(2A)のX-X断面で表した管軸方向の概略断面図
【
図3】同上の環状体を開いた状態を示す一部切欠外面図
【
図4】同上の環状体への鉄管の挿入過程を示す管軸方向の概略断面図
【
図5】同上の開口部からの仮止め溶接状態を示す部分拡大斜視図
【
図6】同上の仮止め溶接状態を示す管軸方向の部分拡大断面図
【
図7】一般的な継手構造を有するダクタイル鋳鉄管の直管を示す(7A)管軸方向の断面図、(7B)鉄管の接合部を示す管軸方向の部分拡大断面図
【
図8】特許文献1に記載の治具を使用したリングの(8A)位置決め過程を示す管軸方向の断面図、(8B)位置決め状態を示す管軸方向の断面図
【
図9】ハウジング継手を採用したトンネル内の消火配管を示す斜視図
【
図10】ハウジング継手用のダクタイル鋳鉄管の直管を示す管軸方向の外面図
【
図11】同上のハウジング継手部を示す管軸方向の部分拡大断面図
【
図12】同上のハウジング継手部の管軸方向に直交する断面図
【
図13】同上の鉄管の端部にリングを弾性変形させて嵌める工程を示す斜視図
【
図14】同上の万力でリングを押さえ付けた状態を示す管軸方向の部分拡大断面図
【
図15】同上の鉄管の端部にリングを圧入装置で嵌める工程を示す斜視図
【
図16】同上の万力でリングを押さえ付けた状態を示す管軸方向の部分拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0024】
図1及び
図2に示すリング位置決め治具1は、
図10に示すようなハウジング継手で用いられる鉄管10の両端部に、その外周を取り巻く突部11を形成するため、リング11aを位置決めして固定する工程で使用するものである。
【0025】
このリング位置決め治具1は、環状体2を主体として構成され、環状体2は、鉄管10の端部の外周に被せられる周環部3と、その一端から径方向内側へ迫り出し鉄管10の端面に宛がわれる端環部4とからなるものとされている。周環部3の内周には、リング11aを嵌め入れて保持するリング保持溝5が形成されている。
【0026】
環状体2は、周方向の締付用切割部6aを有し、締付用切割部6aに臨んでリングを鉄管10に密着させるための締付機構7が設けられている。
【0027】
締付機構7は、締付用切割部6aを挟んで環状体2から径方向外側へ延びる一対の舌片7aと、舌片7aの抜穴に挿通されるボルト7bと、ボルト7bにねじ込まれるナット7cとからなり、ボルト7bの頭部とナット7cとで環状体2を締め付けるものである。
【0028】
周環部3には、外周と内周とに貫通するように、リング11aを鉄管10に仮付け溶接するための開口部8が周方向に複数形成されている。
【0029】
周環部3の外周は段差を有し、この段差を介して端環部4から離れた一端側の外周が大径部3aとされ、端環部4寄りの他端側が小径部3bとされている。開口部8は、周環部3の段差を切り欠くように、大径部3aと小径部3bとにわたっている。
【0030】
また、環状体2は、締付用切割部6aの反対側に開閉用切割部6bを有し、一対の半環状体2aからなるものとされている。半環状体2a同士は、開閉用切割部6bを跨ぐヒンジ9を介して連結され、ヒンジ9の回転軸を中心として、リング11aの保持又は保持解除時に半環状体2aが開閉可能とされている。
【0031】
上記のようなリング位置決め治具1を使用して、鉄管10の両端部の外周に突部11を形成するには、
図3に示すように、環状体2の一対の半環状体2aを、締付機構7による締付前の状態で、ヒンジ9の回転軸を中心とする回動に伴い開いておき、リング11aを周環部3の内側に位置させ、一対の半環状体2aを閉じることにより、リング11aをリング保持溝5に嵌め入れる。
【0032】
リング11aは、鉄管10の外周に締め付けたとき、差入用切割部11asにおいて僅かに隙間があく程度の寸法になるものとしておくとよい。
【0033】
次に、
図4に示すように、鉄管10の端部をリング11aの内周に差し入れて、周環部3が鉄管10の外周に被さるようにし、リング位置決め治具1をさらに進行させて、鉄管10の端面を端環部4に突き当てる。
【0034】
その後、
図1及び
図2に示すように、締付機構7の一対の舌片7aの抜穴にボルト7bを挿通し、ボルト7bにナット7cをねじ込み、ボルト7bの頭部とナット7cとで環状体2を介してリング11aを締め付け、リング11aを鉄管10の外周に密着させる。
【0035】
そして、この状態で、
図5及び
図6に示すように、周環部3の開口部8を介して、リング11aを鉄管10にスポット状の溶接部11bで仮付け溶接する。
【0036】
このように、上記のようなリング位置決め治具1を使用すると、環状体2のリング保持溝5にリング11aを嵌め入れて保持し、周環部3を鉄管10の端部外周に被せて端環部4を鉄管10の端面に宛がうだけで、鉄管10に対してリング11aを正確に位置決めすることができ、締付機構7によりリング11aの浮き上がりを防止した状態で、開口部8を介してリング11aを鉄管10に仮止め溶接することができる。
【0037】
また、このとき、周環部3は、大径部3aよりも小径部3bで開口部8が浅くなっており、鉄管10とリング11aの接触部分が近くに見えるので、仮付け溶接の作業を容易に行うことができる。
【0038】
そして、仮付け溶接が終了すると、締付機構7のボルト7bとナット7cによる環状体2の締め付けを緩めて、鉄管10の端部からリング位置決め治具1を外し、
図10に示すように、鉄管10の全周にわたってリング11aを溶接することにより、鉄管10の両端部外周を取り巻く突部11が形成された状態とする。
【0039】
ところで、上記実施形態では、リング位置決め治具1を、ハウジング継手で用いられる鉄管10の両端部の外周にリング11aを嵌めて突部11を形成する際に使用する場合について例示したが、リング位置決め治具1は、リング保持溝5の形状や寸法を適宜設定することにより、例えば、
図7に示すような継手構造を有する鉄管50の挿し口52の外周にリングを嵌めて突部55を形成する際に使用することもできる。
【符号の説明】
【0040】
1 リング位置決め治具
2 環状体
2a 半環状体
3 周環部
3a 大径部
3b 小径部
4 端環部
5 リング保持溝
6a 締付用切割部
6b 開閉用切割部
7 締付機構
7a 舌片
7b ボルト
7c ナット
8 開口部
9 ヒンジ
10 鉄管
11 突部
11a リング
11as 差入用切割部
11b 溶接部