(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】パルス波高分析装置及び放射線測定装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/17 20060101AFI20240807BHJP
G01T 1/36 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
G01T1/17 F
G01T1/17 H
G01T1/36 D
(21)【出願番号】P 2021042669
(22)【出願日】2021-03-16
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】710002462
【氏名又は名称】セイコー・イージーアンドジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】曽宮 亮一
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 知之
(72)【発明者】
【氏名】板津 英輔
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-219362(JP,A)
【文献】特開2019-15509(JP,A)
【文献】特開2008-107326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単発パルスの波高を示す波高データを生成するパルス波高分析装置であって、
各々異なる時定数のフィルタリングにより前記単発パルスの波形を整形する複数の波形整形部と、
前記複数の波形整形部の波形整形結果を平均した結果から前記単発パルスの波高を求める波高算出部と、を備え、
前記各々異なる時定数は、各々異なる時定数のフィルタリングの結果の分解能が一定の範囲に収まる時定数である、
パルス波高分析装置。
【請求項2】
前記波高算出部は、波高の算出毎に、前記平均した結果から前記単発パルスの波高を求めるサンプル位置を変える、
請求項1に記載のパルス波高分析装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のパルス波高分析装置と、
放射線を検出し、検出した放射線のエネルギーに応じた波高を有する単発パルスを出力する放射線検出器と、
を備える放射線測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス波高分析装置及び放射線測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルス波高分析技術として例えば特許文献1が知られている。特許文献1に記載されたパルス波高検出装置は、放射線検出器が検出した放射線のエネルギーに応じた単ステップ状パルスの波高を検出するために、単ステップ状パルスを時間幅が異なる2個の台形状パルスに変換し、複数の台形状パルスの中から一つの台形状パルスを選択し、選択した台形状パルスの波高をピークホールドにより検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載されたパルス波高検出装置では、時間幅が異なる2個の台形状パルスの中から一つの台形状パルスを選択して波高を検出するが、検出時の分解能(信号と雑音の比(SN比))を改善することが好ましい。特に放射線の検出時のように単発で検出されたパルス(単発パルス)の波高を検出する時の分解能を改善することが望まれる。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、単発パルスの波高を検出する時の分解能を改善することができるパルス波高分析装置及び放射線測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、単発パルスの波高を示す波高データを生成するパルス波高分析装置であって、各々異なる時定数のフィルタリングにより前記単発パルスの波形を整形する複数の波形整形部と、前記複数の波形整形部の波形整形結果を平均した結果から前記単発パルスの波高を求める波高算出部と、を備え、前記各々異なる時定数は、各々異なる時定数のフィルタリングの結果の分解能が一定の範囲に収まる時定数である、パルス波高分析装置である。
【0007】
本発明の一態様は、上記したパルス波高分析装置において、前記波高算出部は、波高の算出毎に、前記平均した結果から前記単発パルスの波高を求めるサンプル位置を変える、パルス波高分析装置である。
【0008】
本発明の一態様は、上記したパルス波高分析装置と、放射線を検出し、検出した放射線のエネルギーに応じた波高を有する単発パルスを出力する放射線検出器と、を備える放射線測定装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、単発パルスの波高を検出する時の分解能を改善することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るパルス波高分析装置及び放射線測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態に係るパルス波高分析方法の説明図である。
【
図3】一実施形態に係るパルス波高分析装置及び放射線測定装置の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は、一実施形態に係るパルス波高分析装置20、及びパルス波高分析装置20を備える放射線測定装置10の構成を示すブロック図である。
放射線測定装置10は、放射線検出器11と、プリアンプ12と、微分回路13と、高速ADC14と、パルス波高分析装置20とを備える。
【0012】
放射線検出器11は、例えばゲルマニウム等の半導体検出器である。放射線検出器11は、試料等から放出される放射線(例えば、γ線、X線及びβ線等)を検出する。放射線検出器11は、検出する放射線のエネルギーに応じた波高値を有するパルスを出力する。放射線検出器11から出力されるパルスは単発パルスの一例である。以下、放射線検出器11から出力されるパルスを単発パルスと称する。
【0013】
プリアンプ12は、放射線検出器11から出力されるアナログの単発パルスを増幅する。微分回路13は、プリアンプ12で増幅された単発パルスからDC成分を除去する。高速ADC(Analog to Digital Converter)14は、微分回路13から出力されるアナログの単発パルスを所定のサンプリング周波数でデジタルの単発パルスに変換する。高速ADC14から出力されたデジタルの単発パルスは、パルス波高分析装置20へ入力される。
なお、プリアンプ12からの出力信号がステップパルスである場合、微分回路13を設けずに、後段の波形整形部21がデジタル信号処理によりDC成分を除去しても良い。
【0014】
パルス波高分析装置20は、単発パルスの波高を示す波高データを生成する。パルス波高分析装置20は、複数(n個)の波形整形部21(21-1,21-2,・・・,21-n、nは2以上の整数)と、波高算出部22と、波高データメモリー23と、出力部24とを備える。
【0015】
波形整形部21(21-1,21-2,・・・,21-n)は、高速ADC14から出力されたデジタルの単発パルスに対して波形整形を行う。例えば、単発パルスの波形を三角形状又は台形状に整形する。複数(n個)の波形整形部21(21-1,21-2,・・・,21-n)は、各々異なる時定数ST(ST1,ST2,・・・,STn)のフィルタリングにより単発パルスの波形を整形する。例えば、第1波形整形部21-1は時定数ST1のフィルタリングにより単発パルスの波形を整形し、第2波形整形部21-2は時定数ST1とは異なる時定数ST2のフィルタリングにより単発パルスの波形を整形する。時定数STは、整形時定数やシェーピングタイムと呼称される。
【0016】
波形整形部21(21-1,21-2,・・・,21-n)が時定数ST(ST1,ST2,・・・,STn)のフィルタリングにより単発パルスの波形を整形すると、単発パルスに付随するノイズ信号も当該時定数ST(ST1,ST2,・・・,STn)のフィルタリングの影響を受ける。したがって、単発パルスに付随する同一のノイズ信号が、n個の異なる時定数ST(ST1,ST2,・・・,STn)のフィルタリングによって、n個の異なるノイズ信号に変換される。
【0017】
複数(n個)の波形整形部21(21-1,21-2,・・・,21-n)の波形整形結果は、波高算出部22へ入力される。この波形整形結果は、単発パルスが波形整形された結果(例えば三角形状パルス)と、単発パルスに付随するノイズ信号が変換された結果とを含む信号である。
【0018】
波高算出部22は、複数(n個)の波形整形部21(21-1,21-2,・・・,21-n)の波形整形結果を平均した結果から単発パルスの波高を求める。
【0019】
例えば、単発パルスが三角形状パルスに波形整形される場合、波高算出部22は、各波形整形部21(21-1,21-2,・・・,21-n)から出力された合計n個の波形整形結果を加算平均し、当該加算平均の結果におけるピーク値を取得し、取得したピーク値を単発パルスの波高として求める。
【0020】
例えば、単発パルスが台形状パルスに波形整形される場合、波高算出部22は、各波形整形部21(21-1,21-2,・・・,21-n)から出力された合計n個の波形整形結果を加算平均し、当該加算平均の結果における台形状パルスの上底のサンプル位置の値(サンプル値)を取得し、取得したサンプル値を単発パルスの波高として求める。また、各波形整形結果の台形状パルスの上低のサンプル位置の値(サンプル値)を平均した結果(平均値)を単発パルスの波高として求めてもよい。
【0021】
台形状パルスの上底のサンプル位置は、固定されてもよく、又は動的に変化させてもよい。例えば、台形状パルスの上底のサンプル位置は、上底の長さの一定の割合の位置(例えば、2/3の位置)である。
【0022】
また、台形状パルスの上底のサンプル位置は、波高の算出毎に変えてもよい。例えば、波高の算出毎に、無作為に、サンプル位置を定める「上底の長さの割合」を決める。
【0023】
波高算出部22は、求めた単発パルスの波高を示す波高データを波高データメモリー23へ書き込む。
【0024】
波高データメモリー23は、波高データを記憶するメモリーである。
【0025】
出力部24は、波高データメモリー23から波高データを読み出して出力する。出力部24は、例えば、波高データをホストコンピューターへ送信する。
【0026】
パルス波高分析装置20は、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)等により実現される。また、パルス波高分析装置20は、例えばリアルタイムのデジタル信号処理を行なうデジタルMCA(Multi Channel Analyzer:マルチチャネルアナライザ)等により実現されてもよい。
【0027】
(パルス波高分析方法)
図2は、本実施形態に係るパルス波高分析方法の説明図である。ここでは、2個の波形整形部21(21-1,21-2)を用いて単発パルスの波高を求める場合を例に挙げる。また、単発パルスの波形を台形状に整形する場合を例に挙げる。
【0028】
図2(a)には、パルス波高分析装置20に入力される単発パルスWが示される。
図2(b)には、第1波形整形部21-1が時定数ST1のフィルタリングにより単発パルスWの波形を台形状に整形した波形整形結果の台形状パルスW1が示される。
図2(c)には、第2波形整形部21-2が時定数ST2のフィルタリングにより単発パルスWの波形を台形状に整形した波形整形結果の台形状パルスW2が示される。時定数ST1,ST2の関係は「ST1=(ST2)×2」である。また、台形状パルスW1の波高H1と台形状パルスW2の波高H2とがほぼ等しくなるようにゲイン調整されている(H1≒H2)。
【0029】
図2(b)に示されるように、台形状パルスW1と共にノイズ信号WN1が存在する。このノイズ信号WN1は、単発パルスWに付随するノイズ信号が第1波形整形部21-1による時定数ST1のフィルタリングを受けた結果である。また
図2(c)に示されるように、台形状パルスW2と共にノイズ信号WN2が存在する。このノイズ信号WN2は、単発パルスWに付随するノイズ信号が第2波形整形部21-2による時定数ST2のフィルタリングを受けた結果である。つまり、単発パルスWに付随する同一のノイズ信号が2個の異なる時定数ST1,ST2のフィルタリングによって2個の異なる(同期していない)ノイズ信号WN1,WN2に変換される。
【0030】
図2の例では、台形状パルスW1の上底のサンプル位置の値(サンプル値)が、波高H1として得られる。また台形状パルスW2の上底のサンプル位置の値(サンプル値)が、波高H2として得られる。波高H1と波高H2の平均値H3は「(H1+H2)÷2)≒H1≒H2」となる。この平均値H3が単発パルスWの波高として求められる。
なお、台形状パルスW1及び台形状パルスW2の上底やフラットトップをさらに平均化したり、またはサンプル位置を移動させたりすることによって、分解能の向上を図ることができる。
また、波高H1と波高H2の加算タイミングを合わせるために、単発パルスWを時定数ST1やST2より早い時定数で微分した波形や、単発パルスWをさらに早い時定数で微分した波形を短い時定数で波形整形した波形を用い、これに閾値「Fast Discriminator」を設定して台形状パルスW2の発生タイミングを検出してもよい。この発生タイミング後の最初のパルスピークを検出してそれぞれに波高H1、H2としてもよい。
【0031】
一方、ノイズ信号WN1,WN2は同期していないので、加算平均によるアベレージングによってノイズ信号が低減される。ノイズ信号WN1,WN2の加算平均値は「(((WN1)2+(WN2)2)1/2)÷2」であって、「WN1≒WN2」であるので、ノイズ信号が「1/√2」に減衰する。このように本実施形態によれば、n個の異なる時定数のフィルタリングにより単発パルスをそれぞれ波形整形した波形整形結果(n個)を加算平均することによって、単発パルスに付随するノイズ信号を「1/√n」に低減することができる。
【0032】
ここで、単発パルスの波高を検出する時の分解能を改善するためには、各々異なる時定数のフィルタリングの結果の分解能が許容可能な範囲に収まることが必要である。このために、本実施形態に係るn個の各々異なる時定数ST(ST1,ST2,・・・,STn)は、n個の各々異なる時定数のフィルタリングの結果の分解能が一定の範囲に収まる時定数である。一般に放射線検出器では、時定数STが異なるフィルターを用いても分解能がほとんど変化しない(一定の範囲に収まる)時定数の領域がある。例えば、ゲルマニウム(Ge)検出器では、時定数STが3マイクロ秒(μs)から20数μsまでの範囲において、フィルタリングの結果の分解能がほとんど変化しない(一定の範囲に収まる)。したがって、本実施形態では、そのような時定数の範囲の中から、n個の各々異なる時定数ST(ST1,ST2,・・・,STn)を、それぞれに、n個の波形整形部21(21-1,21-2,・・・,21-n)に設定する。
【0033】
上述したように本実施形態によれば、n個の異なる時定数のフィルタリングにより単発パルスをそれぞれ波形整形した波形整形結果(n個)を加算平均することによって、単発パルスに付随するノイズ信号を「1/√n」に低減することができることから、単発パルスの波高を検出する時の分解能を改善する効果が得られる。
【0034】
(変形例)
図3は、本実施形態に係るパルス波高分析装置及び放射線測定装置の変形例を示すブロック図である。
図3において
図1の各部に対応する部分には同一の符号を付け、その説明を省略する。
図3に示される放射線測定装置10aは、パルス波高分析装置20aを備える。パルス波高分析装置20aには、微分回路13から出力されるアナログの単発パルスが入力される。
【0035】
パルス波高分析装置20aは、n個の波形整形部21(21-1,21-2,・・・,21-n、nは2以上の整数)と、n個の高速ADC14と、波高算出部22と、波高データメモリー23と、出力部24とを備える。n個の高速ADC14は、n個の波形整形部21(21-1,21-2,・・・,21-n)の各々に対応して設けられる。
【0036】
パルス波高分析装置20aでは、波形整形部21(21-1,21-2,・・・,21-n)は、微分回路13から出力されたアナログの単発パルスに対して波形整形を行うアナログ回路として構成される。
なお、微分回路13の代わりに、すべての波形整形部21に対してそれぞれに微分回路を設けてもよい。これにより、波形整形部21の時定数に各々の微積分回路の時定数を合わせるように同期したノイズ成分を効率良く減少させることができる。
【0037】
n個の高速ADC14は、それぞれ対応するn個の波形整形部21(21-1,21-2,・・・,21-n)から出力されたアナログの波形整形結果を、所定のサンプリング周波数でデジタルの信号(デジタルの波形整形結果)に変換する。n個の高速ADC14から出力されたn個のデジタルの波形整形結果は、波高算出部22へ入力される。この波形整形結果は、単発パルスが波形整形された結果(例えば三角形状パルス)と、単発パルスに付随するノイズ信号が変換された結果とを含む信号である。波高算出部22による波高算出処理は、上述したパルス波高分析装置20と同様である。
なお、高速ADC14として、サンプリング方式ではなく、ピークホールド方式を使用してもよい。
【0038】
なお、上述した実施形態では、放射線の検出に適用したが、時定数STが異なるフィルターを用いても分解能がほとんど変化しない(一定の範囲に収まる)時定数の領域があるエネルギーの検出であればよい。例えば、放射線、光(光子)、音波等の検出に適用可能である。
【0039】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0040】
10,10a…放射線測定装置、11…放射線検出器、12…プリアンプ、13…微分回路、14…高速ADC、20,20a…パルス波高分析装置、21…波形整形部、22…波高算出部、23…波高データメモリー、24…出力部