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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】位置制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 3/12 20060101AFI20240807BHJP
【FI】
G05D3/12 305Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021115806
(22)【出願日】2021-07-13
(65)【公開番号】P2023012272
(43)【公開日】2023-01-25
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 幸治
【審査官】田中 成彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-118620(JP,A)
【文献】特開2012-198785(JP,A)
【文献】特開2012-168926(JP,A)
【文献】特開2012-143100(JP,A)
【文献】特開2011-204010(JP,A)
【文献】特開2006-159696(JP,A)
【文献】特開2004-288012(JP,A)
【文献】特開2004-040839(JP,A)
【文献】特表2003-504750(JP,A)
【文献】特開2003-284370(JP,A)
【文献】特開2002-052485(JP,A)
【文献】特開平06-319284(JP,A)
【文献】特開平05-227937(JP,A)
【文献】特開平02-228701(JP,A)
【文献】米国特許第5119005(US,A)
【文献】韓国登録特許第10-0805242(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 3/00 - 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータによって駆動される送り軸の位置を制御する位置制御装置であって、
前記サーボモータの回転位置を検出する第1位置検出器と、
前記送り軸の位置を検出する第2位置検出器と、
前記第1位置検出器からの第1検出位置と、前記第2位置検出器からの第2検出位置とを合成して合成検出位置を出力する位置合成部と、
前記送り軸の指令位置と前記位置合成部からの前記合成検出位置との偏差から指令速度を演算して出力する位置制御部と、
前記位置制御部からの前記指令速度と前記第1位置検出器からの第1検出位置を微分して得られる検出速度との偏差から指令トルクを出力する速度制御部と、
前記指令トルクに基づいて前記サーボモータへの電流を制御する電流制御部と、を備え、
前記速度制御部が出力する前記指令トルクは、前記指令速度と前記検出速度との偏差に比例定数を掛けて算出される比例ゲイン項と、前記指令速度と前記検出速度との偏差を積分した積分値に積分定数を掛けて算出される積分ゲイン項とを含み、
前記速度制御部は、前記送り軸の最終目標位置の駆動方向の両側に前記積分ゲイン項を減少させる積分ゲイン項減少範囲を設定し、前記送り軸の前記合成検出位置が前記積分ゲイン項減少範囲に入ったら前記積分ゲイン項を減少させる積分ゲイン減少部を含み、
前記積分ゲイン減少部は、前記積分ゲイン項減少範囲の外側に予め設定された速度チェック位置における前記送り軸の前記検出速度が低くなるにつれて前記積分ゲイン項を減少させる割合を小さくすること、
を特徴とする位置制御装置。
【請求項2】
サーボモータによって駆動される送り軸の位置を制御する位置制御装置であって、
前記サーボモータの回転位置を検出する第1位置検出器と、
前記送り軸の位置を検出する第2位置検出器と、
前記第1位置検出器からの第1検出位置と、前記第2位置検出器からの第2検出位置とを合成して合成検出位置を出力する位置合成部と、
前記送り軸の指令位置と前記位置合成部からの前記合成検出位置との偏差から指令速度を演算して出力する位置制御部と、
前記位置制御部からの前記指令速度と前記第1位置検出器からの第1検出位置を微分して得られる検出速度との偏差から指令トルクを出力する速度制御部と、
前記指令トルクに基づいて前記サーボモータへの電流を制御する電流制御部と、を備え、
前記速度制御部が出力する前記指令トルクは、前記指令速度と前記検出速度との偏差に比例定数を掛けて算出される比例ゲイン項と、前記指令速度と前記検出速度との偏差を積分した積分値に積分定数を掛けて算出される積分ゲイン項とを含み、
前記速度制御部は、前記送り軸の最終目標位置の駆動方向の両側に前記積分ゲイン項を減少させる積分ゲイン項減少範囲を設定し、前記送り軸の前記合成検出位置が前記積分ゲイン項減少範囲に入ったら前記積分ゲイン項を減少させる積分ゲイン減少部を含み、
前記積分ゲイン減少部は、前記積分ゲイン項減少範囲の外側に予め設定された速度チェック位置における前記送り軸の前記検出速度が低くなるにつれて前記積分ゲイン項減少範囲を狭くすること、
を特徴とする位置制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の位置制御装置であって、
前記積分ゲイン減少部は、前記速度チェック位置における前記送り軸の前記検出速度が低くなるにつれて前記積分ゲイン項減少範囲を狭くしていくこと、
を特徴とする位置制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の位置制御装置において、
前記積分ゲイン減少部は、前記積分ゲイン項を減少させる割合を、最終目標位置の近傍で前記送り軸を駆動する力が前記送り軸のガイドの動摩擦力と釣り合うような割合に設定すること、
を特徴とする位置制御装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の位置制御装置において、
前記積分ゲイン減少部は、前記積分ゲイン項を減少させる割合を、最終目標位置の近傍で前記送り軸を駆動する力が前記送り軸のガイドの動摩擦力よりも僅かに大きくなるような割合に設定し、前記送り軸の前記合成検出位置が最終目標位置に到達した際に前記積分ゲイン項がゼロとなるように設定すること、
を特徴とする位置制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボモータを可変制御し、工作機械やロボット等に用いられる位置制御装置に関するものであり、特に軸を停止させる際の位置決め精度を向上させる制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NC工作機械などの送り軸を位置制御する際、サーボモータに内蔵するロータリーエンコーダの検出位置によるセミクローズドループ制御以外に、テーブルやサドルなどに取付けたインダクトシンやリニアエンコーダ、別置のロータリーエンコーダなどの位置検出器の検出位置と、サーボモータに内蔵するロータリーエンコーダの検出位置とを組み合わせたフルクローズドループ制御が広く行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これは、テーブルやサドルなどを動作させて最終目標位置に位置決めさせる際、ボールネジやカップリングなどで発生する捩れ現象やギヤのバックラッシュ、及び摺動面の摩擦力等により、テーブルやサドルなどの実際の位置と、サーボモータに内蔵するロータリーエンコーダの検出位置との間に違いが発生するためであり、インダクトシンやリニアエンコーダ、別置のロータリーエンコーダなどの位置検出器の検出位置を使用することで、テーブルやサドルなどの位置を正確に検出して位置決め制御することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭60-191314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、テーブルやサドルなどの送り軸の摺動面がリニアガイドや静圧ガイドの場合、ガイドの動摩擦力は小さく、静摩擦力との差も小さい。このため、送り軸が最終目標位置に近づくにつれて速度が低くなっても、送り軸を駆動する力がガイドの動摩擦力を上回っている間は送り軸を制御することが可能であり、送り軸を最終目標位置、又は最終目標位置近くに位置決めさせることが可能である。
【0006】
しかし、送り軸の摺動面が滑りガイドの場合、ガイドの動摩擦力は大きく、静摩擦力との差も大きい。このため、送り軸が最終目標位置に近づくにつれて速度が低くなり、送り軸を駆動する力よりもガイドの動摩擦力の方が上回ると、送り軸は最終目標位置に位置決めする前に停止してしまう。
【0007】
その後、送り軸が停止した位置と最終目標位置との偏差から、送り軸の速度制御部においては、積分ゲイン項の働きによりサーボモータに与える指令トルクが積算され、この指令トルクによる送り軸を駆動する力が、ガイドの静摩擦力を上回った時点で送り軸は再び動き出す。しかし、静摩擦力よりも動摩擦力の方が小さいため、送り軸を駆動する力が動摩擦力を上回っている間は、送り軸はそのまま動き続け、この結果、送り軸は最終目標位置を飛び越して停止する場合がある。
【0008】
送り軸が最終目標位置を飛び越して停止した場合、サーボモータにはこれまでとは逆の指令トルクが与えられ、送り軸は逆方向に動き出すが、同じ原理で送り軸が再び最終目標位置を飛び越して停止すると、サーボモータには再び逆の指令トルクが与えられ、送り軸は前回とは逆方向に動き出す。この現象の繰り返しにより、送り軸が最終目標位置になかなか位置決めできない場合がある。
【0009】
本発明は、位置制御装置において送り軸を最終目標位置近くに位置決めすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の位置制御装置は、サーボモータによって駆動される送り軸の位置を制御する位置制御装置であって、前記サーボモータの回転位置を検出する第1位置検出器と、前記送り軸の位置を検出する第2位置検出器と、前記第1位置検出器からの第1検出位置と、前記第2位置検出器からの第2検出位置とを合成して合成検出位置を出力する位置合成部と、前記送り軸の指令位置と前記位置合成部からの前記合成検出位置との偏差から指令速度を演算して出力する位置制御部と、前記位置制御部からの前記指令速度と前記第1位置検出器からの第1検出位置を微分して得られる検出速度との偏差から指令トルクを出力する速度制御部と、前記指令トルクに基づいて前記サーボモータへの電流を制御する電流制御部と、を備え、前記速度制御部が出力する前記指令トルクは、前記指令速度と前記検出速度との偏差に比例定数を掛けて算出される比例ゲイン項と、前記指令速度と前記検出速度との偏差を積分した積分値に積分定数を掛けて算出される積分ゲイン項とを含み、前記速度制御部は、前記送り軸の最終目標位置の駆動方向の両側に前記積分ゲイン項を減少させる積分ゲイン項減少範囲を設定し、前記送り軸の前記合成検出位置が前記積分ゲイン項減少範囲に入ったら前記積分ゲイン項を減少させる積分ゲイン減少部を含み、前記積分ゲイン減少部は、前記積分ゲイン項減少範囲の外側に予め設定された速度チェック位置における前記送り軸の前記検出速度が低くなるにつれて前記積分ゲイン項を減少させる割合を小さくすること、を特徴とする。
【0011】
本発明の位置制御装置は、サーボモータによって駆動される送り軸の位置を制御する位置制御装置であって、前記サーボモータの回転位置を検出する第1位置検出器と、前記送り軸の位置を検出する第2位置検出器と、前記第1位置検出器からの第1検出位置と、前記第2位置検出器からの第2検出位置とを合成して合成検出位置を出力する位置合成部と、前記送り軸の指令位置と前記位置合成部からの前記合成検出位置との偏差から指令速度を演算して出力する位置制御部と、前記位置制御部からの前記指令速度と前記第1位置検出器からの第1検出位置を微分して得られる検出速度との偏差から指令トルクを出力する速度制御部と、前記指令トルクに基づいて前記サーボモータへの電流を制御する電流制御部と、を備え、前記速度制御部が出力する前記指令トルクは、前記指令速度と前記検出速度との偏差に比例定数を掛けて算出される比例ゲイン項と、前記指令速度と前記検出速度との偏差を積分した積分値に積分定数を掛けて算出される積分ゲイン項とを含み、前記速度制御部は、前記送り軸の最終目標位置の駆動方向の両側に前記積分ゲイン項を減少させる積分ゲイン項減少範囲を設定し、前記送り軸の前記合成検出位置が前記積分ゲイン項減少範囲に入ったら前記積分ゲイン項を減少させる積分ゲイン減少部を含み、前記積分ゲイン減少部は、前記積分ゲイン項減少範囲の外側に予め設定された速度チェック位置における前記送り軸の前記検出速度が低くなるにつれて前記積分ゲイン項減少範囲を狭くすること、を特徴とする。
【0012】
本発明の位置制御装置において、前記積分ゲイン減少部は、前記速度チェック位置における前記送り軸の前記検出速度が低くなるにつれて前記積分ゲイン項減少範囲を狭くしてもよい。
【0013】
本発明の位置制御装置において、前記積分ゲイン減少部は、前記積分ゲイン項を減少させる割合を、最終目標位置の近傍で前記送り軸を駆動する力が前記送り軸のガイドの動摩擦力と釣り合うような割合に設定してもよい。
【0014】
本発明の位置制御装置において、前記積分ゲイン減少部は、前記積分ゲイン項を減少させる割合を、最終目標位置の近傍で前記送り軸を駆動する力が前記送り軸のガイドの動摩擦力よりも僅かに大きくなるような割合に設定し、前記送り軸の合成検出位置が最終目標位置に到達した際に前記積分ゲイン項がゼロとなるように設定してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、位置制御装置において送り軸を最終目標位置近くに位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態の速度制御装置の制御ブロック図である。
図2図1に示す速度制御装置の積分ゲイン項減少範囲(a)と、積分ゲイン項の大きさの変化(b)との例を示す図である。
図3図1に示す速度制御装置の積分ゲイン項減少範囲(a)、(b)と、積分ゲイン項の大きさの変化(c)との他の例を示す図である。
図4図1に示す速度制御装置の積分ゲイン項減少範囲(a)、(b)と、積分ゲイン項の大きさの変化(c)との他の例を示す図である。
図5】対比例の位置制御装置の制御ブロック図である。
図6】対比例の速度制御装置の最終目標位置に対する許容範囲(a)と、積分ゲイン項の大きさの変化(b)とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら実施形態の位置制御装置100について説明する。図1は、サーボモータ17に内蔵するロータリーエンコーダ18と、テーブル19に取り付けた位置検出器20によってテーブル19の位置制御を行う位置制御装置100の制御ブロック図である。
【0018】
図1において、11はNC装置、12は位置制御部、13は速度制御部、14は速度制御部13内の比例制御部、15は速度制御部13内の積分制御部、16は電流制御部、17はサーボモータ、18はサーボモータ17に内蔵するロータリーエンコーダ、19はテーブル、20はテーブル19に取り付けた位置検出器、21はサーボモータ17に接続されてテーブル19を直線駆動するボールネジ、22は微分器、24は、ロータリーエンコーダ18の第1検出位置と位置検出器20の第2検出位置とを合成して合成検出位置を出力する位置合成部である。また、25は、速度制御部13内の積分ゲイン減少部である。ここで、テーブル19は、位置制御装置100の制御対象である送り軸であり、ロータリーエンコーダ―18は、サーボモータ17の回転位置を検出する第1位置検出器であり、位置検出器20は、送り軸であるテーブル19の位置を検出する第2位置検出器である。
【0019】
NC装置11では、加工プログラムから送り軸であるテーブル19の指令位置を演算して位置制御部12に転送する。位置制御部12では、該指令位置と位置合成部24で演算されるテーブル19の合成検出位置との偏差から指令速度を演算する。速度制御部13では、指令速度とサーボモータ17に内蔵するロータリーエンコーダ18の第1検出位置を微分器22で微分して演算される検出速度との偏差から指令トルクを演算する。電流制御部16では、該指令トルクを指令電流に変換すると共に、該指令電流とサーボモータ17の図示しない検出電流との偏差から、図示しないインバータに入力する指令電流を演算し、サーボモータ17を駆動する。サーボモータ17は、ボールネジ21を回転させて図1中の両矢印で示す駆動方向にテーブル19を直線移動させる。
【0020】
ここで、速度制御部13は、比例制御部14と積分制御部15と積分ゲイン減少部25とから構成されている。比例制御部14は、指令に対する応答性を高めるために、指令速度と検出速度との偏差に比例定数Kpを掛けて指令トルクの比例ゲイン項を出力する。
【0021】
積分制御部15は、該定常偏差を無くすために、指令速度と検出速度との偏差を積分して得られる指令トルクの積分値に積分定数Kiを掛けて積分ゲインを出力する。
【0022】
積分ゲイン減少部25は、図1に示す様に、サーボモータ17に内蔵するロータリーエンコーダ18の第1検出位置を微分器22で微分した値が送り軸であるテーブル19の検出速度として入力される。また、位置合成部24が出力した合成検出位置が入力される。そして、積分ゲイン減少部25は、入力された検出速度と、合成検出位置に基づいて積分制御部15が出力した積分ゲインを減少させて積分ゲイン項として出力する。
【0023】
図2(a)、図2(b)に示すように、積分ゲイン減少部25は、最終目標位置2の駆動方向のプラス側とマイナス側の両側に積分ゲイン項を減少させる積分ゲイン項減少範囲W1を設定する。尚、図2(a)、図2(b)では送り軸であるテーブル19がプラス方向から積分ゲイン項減少範囲W1に入り、最終目標位置2に向かって減速停止する例を示す。
【0024】
図2(a)において、3は積分ゲイン項減少範囲W1の境界であり積分ゲイン項の減少を開始する減少開始位置である。4は送り軸であるテーブル19の速度をチェックするために積分ゲイン項減少範囲W1の外側に予め設定された速度チェック位置である。速度チェック位置4は、積分ゲイン項の減少開始位置3よりも最終目標位置2からの距離が遠い位置となるように、最終目標位置2からの距離がW1よりも長いL1の位置に設定する。
【0025】
そして、積分ゲイン減少部25は、送り軸であるテーブル19の検出位置が積分ゲイン項減少範囲W1の境界である減少開始位置3よりも最終目標位置2に近づいて、積分ゲイン項減少範囲W1の内側に入ったら、移動するに従って速度制御部13の積分制御部15の出力した積分ゲインを減少させて比例ゲイン項に加算される積分ゲイン項として出力する。
【0026】
この際、積分ゲイン減少部25は、図2(b)に示す様に、送り軸であるテーブル19の速度チェック位置4での送り軸の検出速度が高い場合は、積分ゲイン項を減少させる割合を大きくして、最終目標位置2の近傍で積分ゲイン項がゼロとなるようにする。
【0027】
これにより、送り軸であるテーブル19の検出速度が高く、テーブル19を停止させるために大きな減速度、或いはマイナスの加速度が必要となる場合に、積分ゲイン項を減少させる割合を大きくし、テーブル19の減速度を大きくしてテーブル19の速度を速やかに低下させ、最終目標位置2近くに位置決めさせることができる。
【0028】
一方、送り軸であるテーブル19の検出速度が低い場合は、減速度は小さくてもよい。逆に減速度を大きくしすぎると、送り軸が最終目標位置2に到達する前に送り軸であるテーブル19を駆動する力がガイドの動摩擦力を下回り、最終目標位置2の手前で停止状態となってしまう。このため、送り軸であるテーブル19の検出速度が低い場合は、積分ゲイン項を減少させる割合を送り軸であるテーブル19の検出速度が高い場合よりも小さくし、送り軸であるテーブル19の速度を緩やかに低減する。
【0029】
この際、積分ゲイン項の減少割合は、最終目標位置2の近傍でテーブル19を駆動する力が送り軸であるテーブル19のガイドの動摩擦力と釣り合うような割合とし、最終目標位置2を超えてもゼロにならないように設定する。これにより、最終目標位置2の近傍に到達する前に送り軸であるテーブル19を駆動する力がテーブル19のガイドの動摩擦力を下回ることがなく、テーブル19は最終目標位置2の近傍まで移動してくる。そして、最終目標位置2の近傍、或いは最終目標位置2を少し超えた位置でテーブル19を駆動する力が送り軸であるテーブル19のガイドの動摩擦力よりも小さくなる位置で停止する。
【0030】
尚、積分ゲイン項の減少割合は、最終目標位置2付近で送り軸であるテーブル19の駆動力とガイドの動摩擦力が釣り合うように予め調整しておく。調整は、例えば、速度制御部13の比例ゲイン項や積分ゲイン項を工作機械の状態に合わせてチューニングする際に積分ゲイン項を減らす割合を設定してもよい。また、オンラインでテーブル19の動摩擦力を計測し、最終目標位置2の近傍でテーブル19の駆動力と動摩擦力がほぼ同じくらいになるように積分ゲイン項を減らす割合を自動で調整してもよい。
【0031】
以上説明した位置制御装置100においては、積分ゲイン項減少範囲W1の幅は、送り軸であるテーブル19のガイドや工作機械の仕様によって自由に設定することができる。
【0032】
また、以上の説明では、送り軸であるテーブル19の検出速度は、サーボモータ17に内蔵するロータリーエンコーダ18の第1検出位置を微分器22で微分した値としているがこれに限らない。例えば、サーボモータ17に内蔵するロータリーエンコーダ18の第1検出位置とテーブル19などに取付けたインダクトシンやリニアエンコーダ、別置のロータリーエンコーダなどの位置検出器20の第2検出位置とを組み合わせた合成検出位置から演算される値、又はNC装置11が出力する指令位置から演算される値を用いてもよい。
【0033】
次に図3(a)~図3(c)を参照しながら積分ゲイン減少部25の他の実施例について説明する。先に図2を参照して説明した実施例と異なるのは、図3(a)、図3(b)に示す様に、速度制御部13の積分ゲイン減少部25か積分ゲイン項減少範囲W2の幅を送り軸であるテーブル19の検出速度に応じて可変して、積分ゲイン項の減少開始位置3を送り軸であるテーブル19の検出速度に応じて可変している点である。
【0034】
積分ゲイン減少部25は、図3(a)、図3(b)に示すように、最終目標位置2の駆動方向のプラス側とマイナス側の両側に積分ゲイン項を減少させる積分ゲイン項減少範囲W2を設定する。
【0035】
図3(b)に示す様に、本実施例では、送り軸であるテーブル19の速度チェック位置4での送り軸の検出速度が速度閾値V2以上の場合は、積分ゲイン項減少範囲W2の幅をW2Hに設定し、積分ゲイン項の減少開始位置3を最終目標位置2からW2Hの距離としている。そして、送り軸であるテーブル19の検出速度が低くなるにしたがって、積分ゲイン項減少範囲W2の幅を狭く設定し、積分ゲイン項の減少開始位置3が最終目標位置2に近くなるように設定している。
【0036】
例えば、図3(c)に示す様に、送り軸の検出速度が速度閾値V2よりも高いV2Hの場合、積分ゲイン減少部25は、積分ゲイン項減少範囲W2の幅をW2Hに設定する。一方、送り軸の検出速度が速度閾値V2よりも低いV2Lの場合、積分ゲイン減少部25は、積分ゲイン項減少範囲W2の幅をW2Hよりも狭いW2Lに設定する。
【0037】
このように、送り軸であるテーブル19の検出速度が高い場合は、停止まで減速するのに必要な距離が長くなるので、積分ゲイン項減少範囲W2の幅をW2Hの様に広くに設定し、積分ゲイン項の減少開始位置3を最終目標位置2から遠い位置にして、送り軸であるテーブル19が積分ゲイン項の減少開始位置3と最終目標位置2との間で十分に減速できるようにする。これにより、送り軸であるテーブル19を最終目標位置2の近傍に速やかに減速停止させる。
【0038】
一方、送り軸であるテーブル19の検出速度が低い場合は、停止まで減速するのに必要な距離が短いので、積分ゲイン項減少範囲W2の幅をW2Lの様に狭く設定し、積分ゲイン項の減少開始位置3を最終目標位置2に近い位置にする。
【0039】
先に図2を参照して説明したと同様、テーブル19の検出速度が低い場合、積分ゲイン項に減少割合は、最終目標位置2の近傍でテーブル19を駆動する力が送り軸であるテーブル19のガイドの動摩擦力と釣り合うような割合で、最終目標位置2を超えてもゼロにならないように設定されている。このため、最終目標位置2の近傍に到達する前に送り軸であるテーブル19を駆動する力がテーブル19のガイドの動摩擦力を下回ることがなくテーブル19は最終目標位置2の近傍まで移動し、最終目標位置2の近傍、或いは最終目標位置2を少し超えた位置でテーブル19を駆動する力が送り軸であるテーブル19のガイドの動摩擦力よりも小さくなる位置に停止する。
【0040】
次に図4(a)~図4(c)を参照しながら積分ゲイン減少部25の他の実施例について説明する。先に図2、3を参照して説明した実施例と異なるのは、図4(a)、図4(b)に示す様に、速度制御部13の積分ゲイン減少部25が積分ゲイン項減少範囲W3の幅と、積分ゲイン項減少範囲W3での積分ゲイン項の減少割合とを可変にしている点である。
【0041】
積分ゲイン減少部25は、図4(a)、図4(b)に示すように、最終目標位置2の駆動方向のプラス側とマイナス側の両側に積分ゲイン項を減少させる積分ゲイン項減少範囲W3を設定する。
【0042】
図4(b)に示す様に、本実施例では、送り軸であるテーブル19の速度チェック位置4での送り軸の検出速度が速度閾値V3以上の場合は、積分ゲイン項減少範囲W3の幅をW3Hに設定し、積分ゲイン項の減少開始位置3を最終目標位置2からW3Hの距離としている。そして、送り軸であるテーブル19の検出速度が低くなるにしたがって、積分ゲイン項減少範囲W3の幅を狭く設定し、積分ゲイン項の減少開始位置3が最終目標位置2に近くなるように設定している。
【0043】
例えば、図4(c)に示す様に、送り軸の検出速度が速度閾値V3よりも大きいV3Hの場合、積分ゲイン減少部25は、積分ゲイン項減少範囲W3の幅をW3Hに設定する。一方、送り軸の検出速度が速度閾値V3よりも小さいV3Lの場合、積分ゲイン減少部25は、積分ゲイン項減少範囲W3の幅をW3Hよりも狭いW3Lに設定する。
【0044】
また、図4(c)に示す様に、送り軸であるテーブル19の速度チェック位置4での送り軸であるテーブル19の検出速度が高い場合は、積分ゲイン項を減少させる割合を大きくし、送り軸であるテーブル19の検出速度が低い場合は、積分ゲイン項を減少させる割合を小さくしている。
【0045】
このように、送り軸であるテーブル19の検出速度が速度閾値V3よりも高いV3Hの場合、積分ゲイン減少部25は、積分ゲイン項減少範囲W3の幅を広いW3Hに設定し、最終目標位置2からの距離がW3Hの位置から積分ゲインの減少を開始するとともに、積分ゲイン項の減少割合を大きく設定する。また、送り軸であるテーブル19の検出速度が速度閾値V3よりも低いV3Lの場合、積分ゲイン減少部25は、積分ゲイン項減少範囲W3の幅を狭いW3Lに設定し、最終目標位置2からの距離がW3Lの位置から積分ゲインの減少を開始するとともに、積分ゲインの減少割合を送り軸であるテーブル19の検出速度がV3Hの場合よりも小さくする。
【0046】
このように、速度チェック位置4における送り軸であるテーブル19の検出速度が速度閾値V3よりも高い場合は、積分ゲイン項の減少開始位置3を最終目標位置2から遠い位置となるように設定し、テーブル19の合成検出位置が積分ゲイン項減少範囲W3の範囲内に入った際の積分ゲイン項を減少させる割合を大きくすることにより、送り軸であるテーブル19が積分ゲイン項の減少開始位置3と最終目標位置2との間で十分に減速でき、送り軸であるテーブル19を最終目標位置2の近くに位置決めできる。
【0047】
一方、速度チェック位置4における送り軸であるテーブル19の検出速度が速度閾値V3よりも低い場合は、積分ゲイン項の減少開始位置3を最終目標位置2に近い位置に設定すると共に、積分ゲイン項減少範囲W3の範囲内での積分ゲイン項を減少させる割合を少なくする。この場合、積分ゲイン項に減少割合は、最終目標位置2の近傍でテーブル19を駆動する力が送り軸であるテーブル19のガイドの動摩擦力と釣り合うような割合に調整されている。このため、最終目標位置2の近傍に到達する前に送り軸であるテーブル19を駆動する力がテーブル19のガイドの動摩擦力を下回ることがなくテーブル19は最終目標位置2の近傍まで移動し、最終目標位置2の近傍でテーブル19を駆動する力が送り軸であるテーブル19のガイドの動摩擦力よりも小さくなる位置に停止する。
【0048】
次に図5図6を参照しながら対比例の位置制御装置200について説明する。先に図1図4を参照して説明した実施形態の位置制御装置100と同一の部位には同一の符号を付して説明は省略する。図5に示す様に、対比例の位置制御装置200は、積分ゲイン減少部225に送り軸であるテーブル19の検出速度が入力されず、図6に示す様に、速度制御部13の積分ゲイン減少部225での積分ゲイン項を減少させる割合や最終目標位置2に対する許容範囲W0は、送り軸の検出速度によらず一定である。
【0049】
図5に示す対比例の位置制御装置200は、最終目標位置2に対して許容範囲W0を設け、送り軸が許容範囲W0の中に入ったら、速度制御部13の積分ゲイン減少部225で積分ゲイン項の割合を減少させることで、サーボモータに与える指令トルクを減少させて送り軸を許容範囲の中で速やかに減速停止させ、最終目標位置2の近くに位置決めさせる。
【0050】
しかし、対比例の位置制御装置200では、送り軸であるテーブル19の検出速度が低く、許容範囲W0の幅が大きい場合、積分ゲイン項を減少させる割合が大きいと、送り軸であるテーブル19が最終目標位置2に到達する前に停止してしまい、最終目標位置2の近くに位置決めできない場合がある。
【0051】
また、対比例の位置制御装置200では、送り軸の検出速度が高く、許容範囲W0の幅が小さい場合、積分ゲイン項を減少させる割合が小さいと、送り軸が許容範囲W0の中で減速停止する前に許容範囲W0の中から飛び出してしまい、最終目標位置2の近くに位置決めできない場合がある。
【0052】
これに対して、実施形態の位置制御装置100は、速度制御部13における積分ゲイン減少部25において、最終目標位置2の駆動方向の両側に積分ゲイン項を減少させる積分ゲイン項減少範囲W1を設定し、送り軸の合成検出位置が積分ゲイン項減少範囲W1に入ったら、送り軸の検出速度が低くなるにつれて積分ゲイン項を減少させる割合を小さくしている。これにより、送り軸であるテーブル19の検出速度が低い場合に、最終目標位置2の近傍に到達する前に送り軸であるテーブル19を駆動する力がテーブル19のガイドの動摩擦力を下回ることがなく、送り軸であるテーブル19を最終目標位置2の近傍まで到達させた後にテーブル19を最終目標位置2の近くに停止させることができる。このため、対比例の位置制御装置200よりも送り軸であるテーブル19を最終目標位置2の近くに位置決めすることができる。
【0053】
また、実施形態の位置制御装置100では、速度制御部13における積分ゲイン減少部25において、送り軸であるテーブル19の検出速度が高い場合は、最終目標位置2の駆動方向の両側に設定する積分ゲイン項減少範囲W2の幅をW2Hの様に広くし、送り軸であるテーブル19の検出速度が低い場合は、積分ゲイン項減少範囲W2の幅をW2Lの様に狭くする。
【0054】
これにより、送り軸であるテーブル19の検出速度が高い場合は、積分ゲイン項の減少開始位置3を最終目標位置2から遠い位置にして、送り軸が積分ゲイン項の減少開始位置3と最終目標位置2との間で十分に減速できるようにして、送り軸を最終目標位置2の近傍で速やかに減速停止させることができる。また、送り軸であるテーブル19の検出速度が低い場合は、積分ゲイン項減少範囲W2の幅をW2Lの様に狭く設定し、積分ゲイン項の減少開始位置3を最終目標位置2に近い位置にして、送り軸であるテーブル19が最終目標位置2の近傍で速やかに減速停止させることができる。このため、対比例の位置制御装置200よりも送り軸であるテーブル19を最終目標位置2の近くに位置決めすることができる。
【0055】
更に、実施形態の位置制御装置100では、積分ゲイン項減少範囲W3の幅と、積分ゲイン項減少範囲W3での積分ゲイン項の減少割合とを共に可変にしているので、対比例の位置制御装置200よりも送り軸であるテーブル19を最終目標位置2の近くに位置決めすることができる。
【0056】
以上説明した実施形態の位置制御装置100では、積分ゲイン減少部25は、サーボモータ17に内蔵するロータリーエンコーダ18の第1検出位置を微分器22で微分した値が送り軸であるテーブル19の検出速度として入力されることとして説明したがこれに限らない。例えば、外部から送り軸の検出速度を入力せず、内部に微分器を備え、入力された合成検出位置を微分して送り軸の検出速度として用いるように構成してもよい。
【0057】
また、以上の説明では、送り軸であるテーブル19の検出速度が低い場合は、積分ゲイン項の減少割合は、最終目標位置2の近傍でテーブル19を駆動する力が送り軸であるテーブル19のガイドの動摩擦力と釣り合うような割合とし、最終目標位置2を超えてもゼロにならないようにすることと説明したがこれに限らない。例えば、積分ゲイン項の減少割合を最終目標位置2の近傍でテーブル19を駆動する力が送り軸であるテーブル19のガイドの動摩擦力よりも少し大きくなるような割合とし、最終目標位置2を越えたら積分ゲイン項をゼロとするようにしてもよい。これにより、送り軸であるテーブル19を最終目標位置2の近くに停止させることができる。
【0058】
以上の説明では、位置制御装置100は、直線移動するテーブル19の位置を制御することとして説明したが、これに限らない。送り軸は、直線移動するものに限らず、回転移動するものについても同様である。
【符号の説明】
【0059】
2 最終目標位置、3 減少開始位置、4 速度チェック位置、11 NC装置、12 位置制御部、13 速度制御部、14 比例制御部、15 積分制御部、16 電流制御部、17 サーボモータ、18 ロータリーエンコーダ、19 テーブル、20 位置検出器、21 ボールネジ、22 微分器、24 位置合成部、25、225 積分ゲイン減少部、100、200 位置制御装置、W1、W2、W3 積分ゲイン項減少範囲。
図1
図2
図3
図4
図5
図6