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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】歩行能力改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20240807BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20240807BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240807BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240807BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240807BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240807BHJP
   A61K 9/48 20060101ALN20240807BHJP
   A61K 47/36 20060101ALN20240807BHJP
【FI】
A61K35/747
A61K35/74 A
A61P21/00
A61P25/00
A61P43/00
A23L33/135
A61K9/48
A61K47/36
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021524835
(86)(22)【出願日】2020-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2020021637
(87)【国際公開番号】W WO2020246430
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019103777
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02033
(73)【特許権者】
【識別番号】000000055
【氏名又は名称】アサヒグループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】坂田 慎治
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-155790(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132982(WO,A1)
【文献】特開2013-047192(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133533(WO,A1)
【文献】特開2016-216408(JP,A)
【文献】YAMAMURA, S., et al.,Eur. J. Clin. Nutr.,2009年,vol.63, issue 1,p.100-105
【文献】日本内科学会雑誌,vol.107, no.9,2018年,p.1697-1701
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/747
A61P 21/00
A61P 25/00
A61P 43/00
A23L 33/135
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・カルバタス CP2998株(受託番号:NITE P-02033)である乳酸菌に由来する成分を含み、50代以降のヒト成人を対象者とする歩行能力の改善剤であり、
前記乳酸菌に由来する成分は、乳酸菌の菌体および乳酸菌株の処理物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、歩行能力の改善剤。
【請求項2】
歩行速度を改善する請求項1に記載の改善剤。
【請求項3】
筋活動量を改善する請求項1または請求項2に記載の改善剤。
【請求項4】
ラクトバチルス・カルバタス CP2998株(受託番号:NITE P-02033)である乳酸菌に由来する成分を含み、50代以降のヒト成人を対象者として精神的健康度を改善する健康関連QOLの改善剤であり、
前記乳酸菌に由来する成分は、乳酸菌の菌体および乳酸菌株の処理物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、健康関連QOLの改善剤。
【請求項5】
活力を改善する請求項4に記載の改善剤。
【請求項6】
心の健康を改善する請求項4または請求項5に記載の改善剤。
【請求項7】
ラクトバチルス・カルバタス CP2998株(受託番号:NITE P-02033)である乳酸菌に由来する成分を含み、50代以降のヒト成人を対象者とする歩行能力改善用の飲食品であり、
前記乳酸菌に由来する成分は、乳酸菌の菌体および乳酸菌株の処理物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、歩行能力改善用の飲食品。
【請求項8】
歩行速度を改善する請求項7に記載の飲食品。
【請求項9】
筋活動量を改善する請求項7または請求項8に記載の飲食品。
【請求項10】
ラクトバチルス・カルバタス CP2998株(受託番号:NITE P-02033)である乳酸菌に由来する成分を含み、50代以降のヒト成人を対象者として精神的健康度を改善する健康関連QOL改善用の飲食品であり、
前記乳酸菌に由来する成分は、乳酸菌の菌体および乳酸菌株の処理物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、健康関連QOL改善用の飲食品。
【請求項11】
活力を改善する請求項10に記載の飲食品。
【請求項12】
心の健康を改善する請求項10または請求項11に記載の飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行能力改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行能力とは、円滑な歩行運動を実現する能力をいい、高齢者の運動機能および健康関連QOLに関わるとされている。歩行能力は、心臓、肺、筋肉などの運動に関わる機能が総合的に反映される指標である。そのため、加齢等によって衰える歩行能力を維持・向上させることは、高齢者の健康の改善に貢献するものである。また、歩行能力は、移動能力とも言い換えることができ、その低下は、横断歩道が渡りきれない、駅での乗り換えが苦痛になる、旅行などの集団行動について行けなくなる、などの精神的な苦痛の原因となり得る。その結果、歩行能力の低下に伴って外出頻度が低下すると、引きこもりから虚弱を経て、要介護状態に陥ることになりかねない。このようなことから歩行能力の改善は、運動機能および健康関連QOLの改善につながるものである。
【0003】
上記に関連して、例えば、特開2013-47192号公報には、ラクトバチルス・ガセリを有効成分とする身体活動促進剤が記載されている。特開2018-199642号公報には、高温発酵産物由来の複合菌等を含む筋肉改質剤が記載されている。特開2016-216408号公報には、ラクトバチルス・カルバタスあるいはラクトバチルス・アミロボラスである乳酸菌株等を含む筋肉の分解抑制剤が記載されている。また、ヤクルト・バイオサエンス研究財団年報21:114-121(2013)「腸管機能維持とサルコペニア(廃用性筋委縮)予防のメカズム」にはラクトバチルス・カゼイシロタ株が、蛇毒による筋損傷からの回復過程を改善したことが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2013-47192号公報における身体活動促進作用とは、マウスにおける活動量、筋肉量の増加を意味し、歩行能力の改善とは異なる概念である。また、特開2018-199642号公報に記載の筋肉改質作用とは、筋繊維の質的変化を引き起こす作用であり、歩行能力の改善とは異なる作用である。特開2016-216408号公報に記載の筋肉の分解抑制剤は、骨格筋の減少を抑制するものであるが、歩行能力の改善に直接関わるものではない。ヤクルト・バイオサエンス研究財団年報21:114-121(2013)「腸管機能維持とサルコペニア(廃用性筋委縮)予防のメカズム」は、筋合成の促進に関わる文献であり、歩行能力の改善に直接関わるものではない。本発明の一態様は、歩行能力を改善する歩行能力改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一形態は、ラクトバチルス属である乳酸菌に由来する成分を含む歩行能力の改善剤である。ある一形態において、前記歩行能力の改善剤は歩行速度を改善してもよい。ある一形態において、前記歩行能力の改善剤は筋活動量を改善してもよい。別の一形態は、ラクトバチルス属である乳酸菌に由来する成分を含み、精神的健康度を改善する健康関連QOLの改善剤である。ある一形態において、前記健康関連QOLの改善剤は精神的健康度のうち活力を改善してもよい。ある一形態において、前記健康関連QOLの改善剤は精神的健康度のうち心の健康を改善してもよい。ある一形態において、前記乳酸菌はラクトバチルス・カルバタスであってよい。
【0006】
本発明の一形態は、ラクトバチルス属である乳酸菌に由来する成分を含む歩行能力改善用の飲食品である。ある一形態において、前記飲食品は歩行速度を改善してもよい。ある一形態において、飲食品は筋活動量を改善してもよい。別の一形態は、ラクトバチルス属である乳酸菌に由来する成分を含み、精神的健康度を改善する健康関連QOL改善用の飲食品である。ある一形態において、前記健康関連QOL改善用の飲食品は精神的健康度のうち活力を改善してもよい。ある一形態において、前記健康関連QOL改善用の飲食品は精神的健康度のうち心の健康を改善してもよい。ある一形態において、前記乳酸菌はラクトバチルス・カルバタスであってよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、歩行能力を改善する歩行能力改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】歩行速度の推移を示すグラフである。
図1B】ケイデンスの推移を示すグラフである。
図1C】ストライドの推移を示すグラフである。
図2】筋電位の推移を示すグラフである。
図3A】SF-36の精神的健康度の評価結果を示すグラフである。
図3B】SF-36の精神的健康度のうち、活力と心の健康の評価結果を示すグラフである。
図4】筋肉量の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、歩行能力改善剤等を例示するものであって、本発明は、以下に示す歩行能力改善剤等に限定されない。なお、本明細書において「改善」とは、指標となる測定値が数量的に向上すること、および質的に向上することの少なくとも一方を意味する。
【0010】
歩行能力改善剤は、ラクトバチルス属である乳酸菌に由来する成分を含む。ラクトバチルス属である乳酸菌に由来する成分を摂取することで、例えば、筋活動量の向上、歩行速度の向上等により、歩行能力が改善され、結果として健康関連QOLの維持・改善が達成できる。したがって、歩行能力改善剤は、歩行速度の改善剤、筋活動量の改善剤、および健康関連QOLの改善剤からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0011】
歩行能力には、速度、持久力、安定性、効率などの要素が関わっているとされ、例えば快適歩行速度により評価することができる。したがって、歩行能力の改善とは、例えば、歩行速度の改善を意味する。歩行速度の改善には、ケイデンス(歩数)の改善およびストライド(歩幅)の改善のうち少なくとも一方が含まれる。歩行速度の改善は、例えば、シート式足圧接地足跡計測装置により、下肢荷重を計測し、歩行時における時間・距離因子分析を行って、ケイデンスおよびストライドを計測することで評価することができる。また、ケイデンスおよびストライドの少なくとも一方の改善は、例えば、神経応答を介した筋活動量の改善に由来してよい。筋活動量は、例えば、筋電位計により、等尺性膝伸展運動時における大腿部の筋電位を測定することで評価することができる。
【0012】
生活の質(Quality Of Life:QOL)については、厚労省の定める健康日本21(例えば、厚生労働白書(18)204-218参照)において国民健康の維持向上を目的に、健康寿命の延伸およびQOLの向上が示されている。そのなかで、QOLの1つとして、こころの健康が要素として示されている。ここでいうこころの健康とは、生きがいをもつ、意欲的に生活する、活動的であるなどである。身体機能だけでなく、こころの健康の向上がQOLの向上に関わるため、これらを総称して健康関連QOLとして定義される。すなわち、健康関連QOLとは、QOLのうちで人の健康に直接影響する部分のQOLであり、身体的状態、心理的状態、社会的状態、霊的状態、役割機能、全体的well-beingなどが含まれる。健康関連QOLについては、例えば、体育学研究、51:103-115(2006)等を参照することができる。
【0013】
健康関連QOLは包括的尺度(アンケート)として評価される。医学的な包括的尺度としてMedical Outcome Study Short Form 36(SF-36)が利用されている。SF-36は世界でも最も使用されている健康尺度で、自己報告式の健康状態調査票である。1980年代にアメリカで開発された評価方法で、1992年に日本語版が作成され、ガイドラインが設定されている。SF-36は36項目の下位概念、8項目の中位概念、2項目の上位概念で構成され、36項目の質問をスコア化して健康状態を評価する。なお、SF-36v2は、SF-36を改良したものである。
【0014】
健康関連QOLにおける2項目の上位概念とは、「身体的健康度」と「精神的健康度」である。「身体的健康度」は、「身体機能」、「日常役割機能(身体)」、「体の痛み」、および「全体的健康感」、「活力」の5つの中位概念から構成される。また「精神的健康度」は、「全体的健康感」、「活力」、「社会的機能」、「日常役割機能(精神)」、および「心の健康」の5つの中位概念から構成される。SF-36v2は年齢、性別、健康状態などを反映することができる。一般的に、加齢、疾病等によりSF-36v2のスコアは低下する。SF-36v2の詳細については、例えば、SF-36v2日本語版マニュアル(2015年1月版)を参照することができる。
【0015】
ここで健康関連QOLにおける「活力」とは、例えば、活力にあふれていること、疲れにくくなること、元気いっぱいになることを意味する。また、「心の健康」とは、例えば、憂鬱な気持ちではなくなること、落ち着いて楽しく穏やかなこと、落ち込まないことを意味する。
【0016】
歩行能力改善剤によって改善する健康関連QOLとしては、「身体的健康度」と「精神的健康度」のいずれであってもよく、少なくとも「精神的健康度」を含んでいてよい。歩行能力改善剤によって改善する「精神的健康度」としては、「全体的健康感」、「活力」、「社会的機能」、「日常役割機能(精神)」、および「心の健康」のいずれであってもよく、例えば、「活力」および「心の健康」の少なくとも一方を含んでいてよい。
【0017】
歩行能力改善剤および健康関連QOL改善剤が含む乳酸菌に由来する成分には、乳酸菌の菌体自体(乳酸菌株ともいう)、乳酸菌株の処理物、乳酸菌株の抽出物が含まれる。乳酸菌に由来する成分は、例えば、乳酸菌の細胞壁に含まれる成分であってよい。乳酸菌株としては生菌体、湿潤菌、乾燥菌等が適宜使用可能である。乳酸菌の処理物としては、例えば、乳酸菌、乳酸菌含有物、乳酸菌株を含む発酵乳の濃縮物、ペースト化物、乾燥物、液状物、希釈物、破砕物等が挙げられる。乾燥物は、噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、およびドラム乾燥物からなる群から選ばれる少なくとも1種であってよい。また、乳酸菌株の処理物は、死菌体であってもよい。死菌体は通常、菌体を加熱することにより得ることができる。加熱条件は菌体が死滅する条件であれば特に限定されず、一般的には105℃、30分程度の加熱で十分な結果を得ることができる。加熱処理の方法は特に限定されない。乳酸菌株の処理物を得る方法としては、例えば加熱殺菌処理、放射線殺菌処理、破砕処理等を挙げることができる。乳酸菌株の抽出物は、乳酸菌株、またはその処理物を液媒体で抽出したものであってよい。
【0018】
乳酸菌は、ラクトバチルス属であればよく、例えば、ラクトバチルス・カルバタスであってよく、好ましくは、ラクトバチルス・カルバタス CP2998株である。ラクトバチルス・カルバタス CP2998株は乳酸菌の1種であり、受託番号:NITE P-02033として2015年4月15日に特許微生物寄託センターに寄託され、NITE BP-02033として2019年4月15日にブダペスト条約に基づく国際寄託へ移管請求されている。
【0019】
乳酸菌を培養する培地は、当該乳酸菌が生育し得る培地であれば、特に限定されるものではなく、乳酸菌の培養において一般的に用いられる培地、その改変培地等から適宜選択して用いることができる。また、乳酸菌を培養する培地に含有される炭素源、窒素源等についても、特に限定されない。例えば、炭素源としては、通常の微生物の培養に利用されるグルコース、蔗糖、乳糖、糖蜜等からなる群より選択される少なくとも1種を用いることができる。また、窒素源としては、ペプトン、カゼイン、カゼイン分解物、ホエー、ホエー分解物等からなる群より選択される少なくとも1種を用いることができる。培地には、その他の栄養素の供給源として、コーンスティプリカー(CSL)、酵母エキス、肉エキス、肝臓エキス、トマトジュース等からなる群から選択される少なくとも1種を用いてもよい。さらに、乳酸菌を培養するための培地は、L-システイン等の還元剤等;ビタミン、核酸関連物質、酢酸塩、クエン酸塩、脂肪酸エステル、特に好ましくはツイーン80(Tween80)等の生育促進因子;リン酸塩等の緩衝能を付与し得る化合物等が、適宜添加されてもよい。乳酸菌株の培養に用いることのできる培地として、例えば、MRS培地等の合成培地、野菜、果物等の搾汁等、牛乳、豆乳、還元脱脂粉乳培地等の発酵乳の製造に一般的に用いられる培地等が挙げられる。
【0020】
乳酸菌の培養法は、例えば、静置培養、pHを一定にコントロールした中和培養等で行うことができ、乳酸菌が良好に生育する条件であれば特に培養法に制限はない。例えば乳酸菌株は、乳酸菌培養の常法に従って培養され、得られた培養物から遠心分離等の集菌手段によって得ることができる。
【0021】
歩行能力改善剤の形態については特に限定されず、医薬品、医薬部外品等の形態であってよい。剤形としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、トローチ剤、シロップ剤、液剤等の経口投与用製剤であってよい。これらの製剤は、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、コーティング剤、その他の任意の成分の添加剤を用いて公知の方法に従って製造することができる。
【0022】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、結晶性セルロース、アラビアゴム、デキストラン、デキストリン、プルラン、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、炭酸カルシウム、燐酸水素カルシウム等を挙げることができる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、コロイダルシリカ等を挙げることができる。結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等を挙げることができる。崩壊剤としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール等を挙げることができる。矯味矯臭剤は、例えば、通常使用される甘味料、酸味料、香料等から適宜選択される。
【0023】
歩行能力改善剤および健康関連QOL改善剤は、通常の食品、健康食品、健康補助食品、機能性表示食品、特定保健用食品等の特別用途食品、栄養機能食品等の飲食品として構成することもできる。すなわち、本実施形態は、歩行能力改善用の飲食品、および健康関連QOL改善用の飲食品を包含する。歩行能力改善用の飲食品は、歩行速度の改善用の飲食品、筋活動量の改善用の飲食品等であってよく、健康関連QOL改善用の飲食品は、「精神的健康度」改善用の飲食品、「活力」改善用の飲食品、「心の健康」改善用の飲食品等であってよい。
【0024】
飲食品は、ラクトバチルス属である乳酸菌に由来する成分を含んで構成されればよく、飲食品の製造工程における原料に添加されて飲食品が構成されてよい。飲食品の具体例としては、例えば、栄養補助食品(サプリメント)、清涼飲料、果汁飲料、牛乳、加工乳、乳飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ等の乳製品、マヨネーズ等の卵加工品、ゼリー、キャンディ、グミ、ガム、ビスケット、クラッカー、バターケーキ等の菓子類、パン類等を挙げることができる。また、ラクトバチルス属である乳酸菌に由来する成分は、家畜用飼料に配合されてもよく、飼料の製造工程における原料に添加されて飼料が構成されてもよい。
【0025】
飲食品の製造に際しては、その他の食品素材、すなわち各種の糖質、乳化剤、増粘剤、甘味料、酸味料、香料、アミノ酸、果汁等を適宜添加することができる。具体的には、蔗糖、異性化糖、グルコース、フラクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース等の糖類;ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール類;アスパルテーム、ステビア、アセスルファムカリウム、スクラロース等の高甘味度甘味料;蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;カラギーナン、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、ローカストビーンガム等の増粘(安定)剤;クエン酸、乳酸、リンゴ酸等の酸味料;レモン果汁、オレンジ果汁、ベリー系果汁等の果汁類等から選択される少なくとも1種を適宜添加することができる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE等のビタミン類;カルシウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネラル類等を添加してもよい。
【0026】
歩行能力改善剤、健康関連QOL改善剤、歩行能力改善用飲食品、健康関連QOL改善用飲食品等の一日あたりの摂取量は、例えば、成人の場合、乳酸菌に由来する成分を菌体数として、1×10個以上1×1013個以下、5×10個以上5×1012個以下、または5×1010個以上3×1012個以下で含む量とすることができる。歩行能力改善剤等における乳酸菌に由来する成分の含有割合は特に限定されず、製造の容易性、好ましい一日の摂取量等に合わせて適宜調節すればよい。前記改善剤および飲食品の摂取は、特に限定されないが一般的には経口で摂取される。
【0027】
歩行能力改善剤、健康関連QOL改善剤等の摂取による歩行能力および健康関連QOL少なくとも一方の改善が期待できる摂取期間としては、例えば、1週間以上であり、3週間以上、または6週間以上であってよい。
【0028】
歩行能力改善剤の摂取に伴う歩行能力の改善率としては、未摂取の状態を基準として、例えば、歩行速度の改善率として3%以上、5%以上、または8%以上であってよく、また例えば、50%以下であってよい。また、ケイデンスの改善率として1%以上、3%以上、または4%以上であってよく、また例えば、40%以下であってよい。また、ストライドの改善率として2%以上5、%以上、または7%以上であってよく、また例えば、50%以下であってよい。また大腿四頭筋における筋電位の改善率として10%以上、20%以上、または30%以上であってよく、また例えば、80%以下、60%以下または50%以下であってよい。なお、歩行速度の改善率は、摂取後の平均値と摂取前の平均値の差を摂取前の平均値で除して求められ、その他の改善率についても同様である。
【0029】
本実施形態は、歩行能力改善剤を対象に投与することを含む歩行能力の改善方法、および健康関連QOL改善剤を対象に投与することを含む健康関連QOL改善方法を包含する。歩行能力改善剤、健康関連QOL改善剤等が投与される対象は、例えば、哺乳動物であり、哺乳動物はヒトを含む。また対象は、非ヒト動物であってもよい。歩行能力改善剤、健康関連QOL改善剤等が投与される対象は、男女のヒト成人であってよい。歩行能力改善剤、健康関連QOL改善剤等は、例えば、加齢による歩行速度の低下が始まるとされる50代以降のヒト成人で、効果が特に期待できる。
【0030】
本実施形態は、歩行能力の改善に用いられる歩行能力改善剤の製造におけるラクトバチルス属である乳酸菌に由来する成分の使用、歩行能力の改善方法におけるラクトバチルス属である乳酸菌に由来する成分の使用、および歩行能力の改善方法に使用されるラクトバチルス属である乳酸菌に由来する成分をも包含する。また、健康関連QOLの改善に用いられる健康関連QOL改善剤の製造におけるラクトバチルス属である乳酸菌に由来する成分の使用、健康関連QOLの改善方法におけるラクトバチルス属である乳酸菌に由来する成分の使用、および健康関連QOLの改善方法に使用されるラクトバチルス属である乳酸菌に由来する成分をも包含する。
【実施例
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(試験例1)高齢者の歩行能力およびSF-36の改善効果
方法:試験剤として、ラクトバチルス・カルバタス CP2998株5×1011個および賦形剤のデキストリンを含むカプセル剤と、ラクトバチルス・カルバタス CP2998株の代わりに同量のセルロースを含むプラセボのカプセル剤とを準備した。ラクトバチルス・カルバタス CP2998株は常法により液体培養し、遠心分離により洗浄、回収したものを殺菌し、凍結乾燥して得た。被験対象は、書面によるインフォームドコンセントに同意した65歳から79歳の健常高齢者をプラセボ群(n=65)、およびCP2998株群(n=65)に振り分けて準備した。CP2998株群にはCP2998株の菌体を含むカプセル剤を、プラセボ群にはプラセボのカプセル剤を、それぞれ1日1回、12週間に渡って摂取させた。0週、6週および12週において、歩行速度、ケイデンスおよびストライドについてウォークway(アニマ株式会社製)にて測定を実施した。また、筋電位測定(大腿部四頭筋)と筋肉量の測定を0週、6週および12週において実施した。さらにSF-36を12週において実施した。筋電位測定は、等尺性膝伸展運動時における大腿部四頭筋に対して筋電図・誘発電位検査装置(日本光電株式会社製MEB-9402MB)を用いて測定した。また、筋肉量は体成分分析装置(株式会社インボディ・ジャパン製インボディ470)を用いて測定した。
【0033】
試験薬の摂取に伴う歩行能力の推移として、歩行速度、ケイデンス、ストライドおよび筋電位の測定結果と、0週を基準としたそれぞれの改善率を表1に示す。また、図1Aから図1Cに、0週を基準とした変化量であるΔ歩行速度、Δケイデンス、およびΔストライドをそれぞれ示す。筋電位の推移として、図2に筋電位の測定結果を、0週を基準とした変化量であるΔ筋電位として示す。併せて表2にそれぞれの変化量を平均値として示す。SF-36の結果を、図3Aおよび図3Bに示し、併せてスコアの数値を表3に示す。図4には、0週、6週および12週における筋肉量の推移を示す。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
図1Aおよび表1に示されるように、歩行速度が6週目と12週目にプラセボ群に比べてCP2998群において有意に改善した。図1Bおよび表1に示されるように、ケイデンスが12週目にプラセボ群に比べてCP2998群において有意に改善した。図1Cおよび表1に示されるように、ストライドが6週目にプラセボ群に比べてCP2998群において有意に改善した。図2および表1に示されるように、筋電位は12週目にプラセボ群に比べてCP2998群において有意に改善した。
【0038】
図3Aに示されるように、プラセボ群に比べてCP2998群において、精神的健康度が有意傾向に改善した。また図3Bに示されるように活力および心の健康が有意に改善した。CP2998株を含むカプセル剤摂取による精神的健康度の改善は、これらの精神の指標の改善を意味するものである。また活力は、例えば、疲れが原因で低下する。したがって、CP2998株を含むカプセル剤を摂取することにより疲れにくくなったこと、活力に満ち溢れたこと等を意味すると考えられる。心の健康は、例えば、落ち込んで憂鬱な気分であるとスコアが低下する。したがって、CP2998株を含むカプセル剤を摂取することにより、落ち込み気味な気分が改善したこと、健やかで穏やかに過ごせたこと等を意味すると考えられる。
【0039】
更に、図4に示されるように、12週目までにおいて、筋肉量に群間差は認められなかった。したがって、歩行能力改善剤は、筋肉量に差異が現れる以前において、歩行能力を改善することが分かる。これは例えば、12週目に筋電位が改善されていることから、神経応答が改善し、筋活動量が改善したことで、歩行速度が向上し、歩行能力が改善したと考えることができる。
【0040】
日本国特許出願2019-103777号(出願日:2019年6月3日)の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4