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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】プロテーゼライナ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/78 20060101AFI20240807BHJP
【FI】
A61F2/78
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021529323
(86)(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2019082241
(87)【国際公開番号】W WO2020109166
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】102018129737.8
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】502220838
【氏名又は名称】オットーボック・エスイー・ウント・コンパニー・カーゲーアーアー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ガルス、ベルナルト
(72)【発明者】
【氏名】ヒルマン、マルティン
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0036151(US,A1)
【文献】特表2003-526447(JP,A)
【文献】特表2005-520626(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0149202(US,A1)
【文献】欧州特許第02538892(EP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0143519(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0216058(US,A1)
【文献】実公昭35-024325(JP,Y1)
【文献】実開昭57-147206(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2005/0240283(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開近位端、
前記近位端の反対側の閉遠位端、及び
前記近位端から前記遠位端へ延在する長手方向延在を有する
弾性ライナ材料からなる基体(4)と、
前記ライナ材料に配置された双方向弾性繊維層と、
プロテーゼソケットと接続されるように配置及び設定されている接続領域(18)と、
を備えるプロテーゼライナ(2)であって、
前記繊維層は、前記接続領域(18)から近位側へ延在する部分に少なくとも1つの引張要素(8)が導入され、前記引張要素によって前記繊維層の弾性が前記基体(4)の長手方向に低減され、
前記引張要素(8)は、非弾性材料からなる繊維及び/又は糸を有することを特徴とする、プロテーゼライナ(2)。
【請求項2】
前記部分は、前記遠位端から延在し、前記接続領域(18)は、前記プロテーゼライナ(2)をプロテーゼソケットに取り付けるための少なくとも1つの取付け要素を有する遠位キャップ(6)によって形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のプロテーゼライナ(2)。
【請求項3】
前記接続領域(18)は、近位で少なくとも1つのシールリップ(16)によって画定されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のプロテーゼライナ(2)。
【請求項4】
前記少なくとも1つの引張要素(8)は前記接続領域(18)内へ延在し、及び/又は前記繊維層は、付加的に前記接続領域(18)にも少なくとも1つの引張要素(8)を有し、前記引張要素によって前記繊維層の弾性が前記基体(4)の長手方向に低減されることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)。
【請求項5】
前記繊維層は、前記繊維層の周囲にわたって等間隔に配分して配置されている複数の引張要素(8)を有することを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)。
【請求項6】
前記引張要素(8)は、前記基体(4)の前記近位端から距離をおいた近位端で、前記引張要素(8)に長手方向に作用する引張力が前記繊維層に伝達されるように前記繊維層に取り付けられていることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)。
【請求項7】
前記引張要素(8)はその近位端で、前記繊維層の少なくとも1つの要素の周りに案内されるループ(12)を形成することを特徴とする、請求項6に記載のプロテーゼライナ(2)。
【請求項8】
前記引張要素(8)は、少なくとも部分的に前記繊維層内に延びることを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)。
【請求項9】
前記プロテーゼライナ(2)は、前記プロテーゼライナ(2)をプロテーゼソケットに取り付けるための少なくとも1つの取付け要素を有する遠位キャップ(6)を有し、前記引張要素(8)の遠位端が前記遠位キャップ(6)と接続されていることを特徴とする、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)。
【請求項10】
前記遠位キャップ(6)は、前記プロテーゼライナ(2)に一体化されていることを特徴とする、請求項9に記載のプロテーゼライナ(2)。
【請求項11】
前記プロテーゼライナ(2)は、装着状態で、断端の関節を取り囲むように形成され、前記部分が前記関節の遠位で終端することを特徴とする、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)とプロテーゼソケットとからなるシステムであって、前記プロテーゼソケットは、前記プロテーゼライナ(2)の接続領域(18)と接続できるように形成されている、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開近位端、近位端の反対側の閉遠位端、及び近位端から遠位端へ延在する長手方向延在を有する弾性ライナ材料からなる基体と、ライナ材料に配置された双方向弾性繊維層と、プロテーゼソケットと接続されるように配置及び設定されている接続領域と、を備えるプロテーゼライナに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のプロテーゼライナは以前より従来技術から知られている。プロテーゼライナはプロテーゼの装着者の断端とも呼ばれる残肢と、本来の人工肢が配置されているプロテーゼソケットとの間の中間層として使用される。特に脚プロテーゼの場合、また腕プロテーゼの場合も、装着快適性と装着者の安定感のために、部品の1つが装着者の皮膚に圧迫箇所、痛む傷、又は擦り傷を生じることなしに、断端及びその上に位置するプロテーゼライナと他のプロテーゼ、すなわち特にプロテーゼソケットとの間に堅固な接続をもたらすことが極めて重要である。
【0003】
プロテーゼライナは、実質的に2つの異なった実施形態で使用される。
【0004】
断端に被せられ、それによりプロテーゼライナが断端とともにプロテーゼソケットに挿入されることによりプロテーゼソケットと断端に被せられたプロテーゼライナとの間の容積が気密に閉鎖されるプロテーゼライナがある。ポンプ又は吐出弁によって、この、殊に密封閉鎖された容積内に負圧を発生させることができ、この負圧によって、ライナに配置された断端にプロテーゼソケットが保持される。その際、受動的な吐出弁が、歩行時にプロテーゼソケットに配置されたプロテーゼによって操作されるように配置及び形成されていることが好ましい。特に、歩行周期の遊脚期には大きい力が生じ、この力は、プロテーゼソケットに対して遠位方向に作用する。この力は、負圧によって比較的規則的にプロテーゼライナ、及びそれに伴いプロテーゼライナ内の断端に伝達される。この場合、プロテーゼライナの接続領域は、負圧が生成される容積を画定する領域である。接続領域は、通常、プロテーゼライナの遠位端から近位へ延在する。プロテーゼライナのいくつかの実施形態では、基体の外面に少なくとも1つの、場合によっては複数のシールリップが配置されている。これらのシールリップによって、負圧が生成される容積、及びそれに伴い接続領域も近位に向かって画定される。
【0005】
ライナの代替的実施形態は、特にライナの遠位端にキャップ又はカップを具備し、このキャップ又はカップに取付け要素が配置され、この取付け要素は、例えば遠位に突出するピンの形式で形成され得る。この取付け要素は、対応するように形成された取付け要素とプロテーゼソケットの内部で協働するために、及びこのようにしてプロテーゼライナとプロテーゼソケットとの間に可能な限り確実な接続を作成するために使用される。プロテーゼライナとプロテーゼソケットとをこのように接続した場合、プロテーゼソケットからプロテーゼライナに伝達されなければならない生じる引張力が取付け要素によって略完全に伝達される。したがって生じる引張力は、ライナの略遠位領域にだけ作用し、それによってこの領域には強度に機械的負荷がかかる一方で、特にこの領域で負荷が大きく変動することにもとづいて、装着者にとって不快な搾乳効果(Melkeffekt)が断端に生ぜしめられる。この場合、接続領域は遠位カップ又はキャップに限定される。
【0006】
この効果は、プロテーゼライナの基体が製造されるライナ材料が弾性であるため強化される。これは例えば、基体の長手方向延在と基体の周方向とに弾性的に形成されるシリコーン、熱可塑性エラストマ(TPE)、又はポリウレタンである。この弾性は、断端の異なった大きさ及び形状に適合する標準ライナを製造できるようにするために必要である。これに加えて、断端に着用又は装着する際に、必要な保持力を保証できるようにするためにライナを広げる必要がある。
【0007】
欧州特許第2538892号明細書から、繊維層が2つの異なった繊維素材から構成されるプロテーゼライナが知られている。装着状態で、プロテーゼライナによって覆われて包囲される関節、例えば膝の領域に双方向弾性材料(bielastisch)からなる第1繊維素材が配置される。その場合、双方向弾性とは、材料が基体の長手方向延在と周方向とに弾性に形成されていることを意味する。他のすべての領域において、繊維層は一方向弾性(monoelastisch)に形成された別の繊維素材から作製されている。基体の長手方向延在における弾性は大きく制限されているが、周方向には弾性が存在する。
【0008】
このようなプロテーゼライナの製造は、繊維要素を基体と接続する前に互いに縫い合わせられなければならない、使用される繊維要素の数が多いため手間がかかり、そのためコストがかかるという点で不利である。これに加えて、個々の繊維要素を互いに接続する縫い目が必然的に存在することにより、圧迫箇所又は装着快適性の低下が生じ得る。
【0009】
米国特許出願公開第2005/0149202号明細書から、織物からなる靴下状の基体を有するライナが知られている。遠位キャップの領域において、この基体の外面に織物より小さい弾性を有するコーティングが設けられている。示される別の実施形態では、コーティングの代わりに、基体の織物より小さい弾性を有する織物又は繊維素材からなる複数のストリップが設けられる。この場合も、互いに接続されなければならない繊維要素の数が多いことから上記の欠点を有する縫い目が生じる。
【0010】
米国特許第6,231,617号明細書は、例えばウレタン又はシリコーンなどの弾性プラスチックからなるライナを記載する。この材料には、長手方向に非弾性の材料からなる複数のアームが埋設され、複数のアームは、例えば金属、プラスチック、綿、又は炭素繊維から製造され得る。類似の原理を米国特許第4,923,474号明細書から読み取ることができる。この場合も、ライナの弾性を長手方向に低減する非弾性要素が弾性材料、例えばゴム材料からなる基体に埋設される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】欧州特許第2538892号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/0149202号明細書
【文献】米国特許第6,231,617号明細書
【文献】米国特許第4,923,474号明細書
【発明の概要】
【0012】
したがって、本発明は、上記の欠点が回避、又は少なくとも低減され、かつライナが簡単かつ安価に製造可能であるように、請求項1の前提部に記載のプロテーゼライナを改良するという課題にもとづいている。
【0013】
本発明は、繊維層が接続領域から近位へ延在する区分に少なくとも1つの引張要素を有し、引張要素によって繊維層の弾性が基体の繊維素材方向に低減されていることを特徴とする請求項1の前提部に記載のプロテーゼライナによって上記課題を解決する。
【0014】
繊維層が少なくとも1つの引張要素を具備する区分が、殊に遠位端から延在することが好ましい。その際、接続領域は、殊にプロテーゼライナをプロテーゼソケットに取り付けるための少なくとも1つの取付け要素を有する遠位キャップによって形成される。
【0015】
これに代えて、又はこれに加えて、プロテーゼライナは、接続領域を近位に向かって画定する少なくとも1つのシールリップを具備する。プロテーゼライナが被せられた断端がプロテーゼソケット内に挿入される場合に、シールリップは、殊にライナが装着された状態で、プロテーゼソケットの内壁と接触するように配置及び形成されている。その場合、プロテーゼソケットの内壁とシールリップとの接触は、好ましくはシールリップの遠位に延在する容積が気密に閉鎖され、それにより必要とされる負圧がその中に生成され得ることをもたらす。
【0016】
本発明の好ましい一実施形態では、少なくとも1つの引張要素が接続領域内に延在する。その場合、同じ引張要素が接続領域内に、及び接続領域から近位へ延在する。これに代えて、又はこれに加えて、繊維層が付加的に接続領域にも少なくとも1つの引張要素を有し、この引張要素により基体の長手方向に繊維層の弾性が低減される。
【0017】
殊に、繊維層は、特に好ましくは繊維層の周囲にわたって等間隔に配分して配置されている複数の引張要素を具備する。代替的実施形態では、引張要素は、プロテーゼライナの中立繊維(neutrale Faser)にのみ配置されている。プロテーゼライナは、従来、プロテーゼライナの装着者の関節、例えば膝関節を包囲するように形成されている。関節が曲げられると、包囲するプロテーゼライナの一部が伸展され、他の部分が圧縮される。膝関節では、関節が曲げられると(屈曲)、プロテーゼライナの前部分(前面)が伸ばされ、後部分(背面)が圧縮される。進展も圧縮もされない領域もある。この例では、これらの領域が関節の内側と外側にあり、「中立繊維」と呼ばれる。
【0018】
この実施形態は、特に、しかし限定することなく、遠位領域に取付け要素又はそれ以外の接続装置を有するプロテーゼライナにとって、プロテーゼライナをこの領域においてプロテーゼソケット又は他のプロテーゼ要素と接続するために有利である。例えば歩行周期の遊脚期において生じ得る生じる引張力を、接続要素及び取付け要素によってプロテーゼライナ及び繊維層の遠位領域に導入することができる。この引張力は、プロテーゼライナの長手延在方向に作用する。その際、ライナ材料の弾性は、繊維層の遠位端から延在する区分において、少なくとも1つの引張要素の使用によって大きく制限されるか、又は完全に解消される。例えば歩行の遊脚期においてプロテーゼライナに、したがって繊維層に引張力が導入される領域において、引張力がこの方向に非弾性であり、それにより引張力が少なくとも1つの引張要素を介して転送され、比較的大きい領域において、すなわち特に少なくとも1つの引張要素が位置する区分の一部に分布する。それによって生じる力が均等に分布することとなり、それに伴い断端に作用する圧力が低減される。これに加えて、圧力も比較的均等に分配され、それによって装着快適性が高められる。
【0019】
引張要素が非弾性材料からなる繊維及び/又は糸を具備することが有利である。それにより、例えば繊維素材に埋設され、かつすでに繊維素材の製造時に組み込まれる非弾性ヤーン(Garn)を使用することができる。糸は、有利には長手方向延在に対して平行に延在し、すなわち繊維層の遠位端で始まり、かつ基体の近位端の方向に延在する。殊に、繊維層は基体の外面に配置されている。繊維層は、有利には基体の外面全体を覆い、それにより基体の開近位端も繊維層の開近位端によって取り囲まれる。繊維層の遠位端で始まる引張要素がこの近位端の方向に延在することが有利である。引張要素として非弾性材料を使用することによって、繊維層の弾性をこの方向に略完全に、又はそれどころか完全に除去することができる。その場合、繊維層は長手方向延在の方向に非弾性である。繊維層が弾性のライナ材料からなる基体と可能な限り全面で接続されるので、基体もこの領域においてその長手方向延在の方向に伸展し得ず、それにより遠位端から延在するこの区分における長手方向延在に沿って基体の弾性が強度に低減されるか、又はそれどころか完全に除去された。
【0020】
好ましい一実施形態では、引張要素はそのそれぞれの近位端で繊維層に取り付けられている。このようにすることで、引張要素に作用する引張力を繊維層に転送及び伝達することができる。引張要素の近位端は、基体の近位端から距離をおいていることが好ましい。これは、引張要素が繊維層の長手方向延在全部にわたって、及びそれに伴い基体の長手方向延在全部にわたっては延在しないことを意味する。したがって、プロテーゼライナは、プロテーゼライナの弾性が長手方向延在の方向に沿って強度に低減されるか、又はそれどころか完全に除去された、遠位端から延在する上記の区分と、双方向弾性の繊維層及び弾性ライナ材料のもとの弾性が引き続き与えられていることにより引張要素が延在しない残りの部分とを具備する。特に、プロテーゼライナのこの残りの部分において、弾性も長手方向延在に沿って存在する。
【0021】
殊に、引張要素は、その近位端において、繊維層の少なくとも1つの要素の周りに案内されるループを具備する。繊維素材が、例えば織物である場合、ループは、殊に少なくとも1つの緯糸及び/又は少なくとも1つの経糸の周りに案内される。
【0022】
好ましい引張要素は、殊に非弾性である糸又はヤーンから形成される。この糸は2つの端を具備し、引張要素を形成するために有利には2重に設けられ、それによりその2つの端が引張要素の一端を形成し、反対側の端がループを形成する。ループによって形成された端は引張要素の近位端をなし、有利には繊維層の一部の周りに案内され、それにより引張要素に作用する引張力はループによって繊維層に伝達される。引張要素の遠位端を形成する糸の2つの端は、有利にはプロテーゼライナの遠位端で繊維層から引き出される。プロテーゼライナを断端の個々の状態に適合させるべき場合、例えば引張要素の遠位端に引張力を加えることによって張力、及びそれに伴い変形を繊維層に、及びそれに伴い繊維層に取り付けられた、又は繊維層を取り囲んで取り付けられた基体に加えることができる。このようにすることで、プロテーゼライナを個別に設定することが少なくとも限られた範囲で可能である。
【0023】
殊に、引張要素は、少なくとも部分的に繊維層内に案内される。このようにすることで、引張要素がその遠位端と近位端との間で繊維層の外面にのみ、及びそれに伴い場合によってはプロテーゼライナの外面にのみ位置することが阻止される。外面にのみ位置する場合、例えばプロテーゼライナの使用者がライナを装着する場合にそのように形成されたループにひっかかり、その場合に作用する力にもとづいて損傷を引き起こす恐れがあり得る。引張要素を少なくとも部分的に繊維層内に案内することによって、それぞれの引張要素と繊維層との間にさらなる接続も生ぜしめることができ、それにより引張要素に作用する引張力をその近位端だけでなく、場合によっては引張要素の近位端と遠位端との間にある中間点でも繊維層に伝達することができる。
【0024】
プロテーゼライナがプロテーゼライナをプロテーゼソケットに取り付けるための少なくとも1つの取付け要素を有する遠位キャップを具備することが特に好ましく、引張要素の遠位端は遠位キャップと接続され、好ましくは接着又は射出成形により取り付けられる。引張要素の遠位端が遠位キャップと接続される前に、有利には、すでに記載したように、プロテーゼライナの使用者の個々の状態にプロテーゼライナの区分の形を合わせる(Anformung)及び適合させるために、引張要素の遠位端に引く力(Zug)が加えられる。これらの調整が行われた後に、引張要素の遠位端を遠位キャップと接続、例えば接着又は流し込み成形(eingiessen)することができ、それによりこれらが解離不能に接続され、後からの、特に誤った、又は間違った変更が不可能であり続ける。これに加えて、このようにすることで、例えば歩行の遊脚期において引張力が作用する遠位キャップと引張要素との間の特に良好な力の伝達が保証される。
【0025】
キャップがプロテーゼライナに一体化され、殊に弾性ライナ材料に流し込み成形又は射出成形されることが好ましい。
【0026】
殊に、プロテーゼライナは、装着状態で、断端の関節、特に膝又は肘を取り囲むように形成され、この区分が関節の遠位で終端する。したがって引張要素が位置する繊維層の区分は、好ましくは、それぞれの関節の完全に遠位に配置されている。それによって、それぞれの関節、特に膝の領域においてライナの長手方向延在に沿って弾性が存在することが保証され、それによりそれぞれの関節を曲げた場合に必然的に生じる必要な伸展を調達することができる。
【0027】
引張要素を有する区分が装着者の関節の遠位にあるだけでない場合に特に、しかし限定することなく、少なくとも関節の領域において引張要素が関節の内側及び/外側の領域、特に中立繊維に位置するならば有利である。好ましい実施形態では、引張要素は、関節の遠位、及び場合によっては関節の近位にも、周囲にわたって、及び関節の領域において関節の内側及び/又は外側に等間隔に配置されている。
【0028】
これに加えて、本発明は上記課題を本明細書に記載された実施形態の1つによるプロテーゼライナとプロテーゼソケットとからなるシステムによって解決するものであり、プロテーゼソケットは、プロテーゼライナの接続領域と接続可能であるように形成されている。
【0029】
以下、添付の図を用いて本発明の実施例について詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】プロテーゼライナの実施例の正面図及び側面図である。
図2】プロテーゼライナの実施例の正面図及び側面図である。
図3】プロテーゼライナの実施例の正面図及び側面図である。
図4】この種のライナのために使用される編み物の模式図である。
図5】プロテーゼライナの別の実施例の正面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、基体4を有するプロテーゼライナ2を示し、基体4の遠位領域には明確に示されない繊維層が設けられている。プロテーゼライナ2は連結キャップ6を具備し、連結キャップには、プロテーゼライナ2を図示されないプロテーゼソケットに配置するための取付け要素を配置することができる。
【0032】
ライナ2の基体4に配置されている双方向弾性繊維層には複数の引張要素8が配置され、これらの引張要素は破線で示されている。これは繊維層の繊維素材に刺繍されたフィラー糸(Stehfaeden)である。フィラー糸は、殊に非弾性材料から製造されているか、又は繊維層より小さい弾性を有する材料から製造されている。
【0033】
図2は、遠位領域に再び図示されない繊維層が配置されているプロテーゼライナ2の別の実施形態を示す。図2では、繊維層に図1の刺繍されたフィラー糸の代わりに引張要素8が導入され、引張要素は、熱可塑性コーティング又は溶融糸を有するか、あるいはそれ自体が熱可塑性材料から製造されている。フィラー糸の形式の引張要素8は、繊維層の繊維材料に導入された後、温度を上げることによって引張要素を溶かすことができるか、又は少なくとも繊維層と結合するまで引張要素を軟化させることができる。フィラー糸がまず繊維層に一体化され、繊維層に組み込まれたことから、特に、この結合が繊維層の外側ではなく繊維層内で行われるということに特殊性がある。
【0034】
図3は、図示されない繊維層の繊維素材にフィラー糸の形式の引張要素8が導入されているプロテーゼライナ2の別の実施形態を示す。
【0035】
図4は、編み物における引張要素8の位置付けを模式的に示す。プロテーゼライナ2のライナ材料に配置されている弾性繊維層の一部をなす編み物10が見て取れる。編み物10のループが、第1材料又は材料混合物からなるヤーンから形成されている。編み物10は、両方向に、すなわち図4における上下と、左右の方向とに弾性を具備し、この弾性が編み物を双方向弾性繊維素材にする。フィラー糸の形式の引張要素8は、遠位端から編み物に導入され、偏向ループ(Umlenkschlaufe)12を形成するまで遠位へ延び、それまでの経路と平行に再び遠位の方向に方向転換される。遠位端で2つの端を互いに接続、例えば接着するか、又は遠位連結キャップ6と接続することができる。
【0036】
図5は、プロテーゼライナ2の正面図及び側面図を示し、プロテーゼライナ2の基体4が複数の引張要素8を有するが、これらの引張要素はプロテーゼライナ2の遠位端まで延在しない。図示されるプロテーゼライナ2はシールリップ16を具備し、シールリップは、プロテーゼライナ2が装着された状態においてプロテーゼソケットに挿入される場合に、プロテーゼソケットの内壁と接触する。それによって、シールリップ16の遠位、すなわち示された図示ではシールリップ16の下に、負圧を生成可能な容積が気密に閉鎖され、この負圧によってプロテーゼソケットがプロテーゼライナ2に保持される。シールリップ16の遠位のこの領域に接続領域18が延在する。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載の事項を、付記する。
[1] 開近位端、
前記近位端の反対側の閉遠位端、及び
前記近位端から前記遠位端へ延在する長手方向延在を有する
弾性ライナ材料からなる基体(4)と、
前記ライナ材料に配置された双方向弾性繊維層と、
プロテーゼソケットと接続されるように配置及び設定されている接続領域(18)と、 を備えるプロテーゼライナ(2)であって、
前記繊維層は、前記接続領域(18)から近位へ延在する区分に少なくとも1つの引張要素(8)を有し、前記引張要素によって前記繊維層の弾性が前記基体(4)の長手方向に低減されていることを特徴とする、プロテーゼライナ(2)。
[2] 前記区分は、殊に前記遠位端から延在し、前記接続領域(18)は、殊に前記プロテーゼライナ(2)をプロテーゼソケットに取り付けるための少なくとも1つの取付け要素を有する遠位キャップ(6)によって形成されていることを特徴とする、[1]に記載のプロテーゼライナ(2)。
[3] 前記接続領域(18)は、近位で少なくとも1つのシールリップ(16)によって画定されることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のプロテーゼライナ(2)。
[4] 前記少なくとも1つの引張要素(8)は前記接続領域(18)内へ延在し、及び/又は前記繊維層は、付加的に前記接続領域(18)にも少なくとも1つの引張要素(8)を有し、前記引張要素によって前記繊維層の弾性が前記基体(4)の長手方向に低減されることを特徴とする、[1]から[3]のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)。
[5] 前記繊維層は、殊に前記繊維層の周囲にわたって等間隔に配分して配置されている複数の引張要素(8)を有することを特徴とする、[1]から[4]のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)。
[6] 前記引張要素(8)は、非弾性材料からなる繊維及び/又は糸を有することを特徴とする、[1]から[5]のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)。
[7] 前記引張要素(8)は、好ましくは前記基体(4)の前記近位端から距離をおいた近位端で、前記引張要素(8)に長手方向に作用する引張力が前記繊維層に伝達されるように前記繊維層に取り付けられていることを特徴とする、[1]から[6]のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)。
[8] 前記引張要素(8)はその近位端で、前記繊維層の少なくとも1つの要素の周りに案内されるループ(12)を形成することを特徴とする、[7]に記載のプロテーゼライナ(2)。
[9] 前記引張要素(8)は、少なくとも部分的に前記繊維層内に延びることを特徴とする、[1]から[8]のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)。
[10] 前記プロテーゼライナ(2)は、前記プロテーゼライナ(2)をプロテーゼソケットに取り付けるための少なくとも1つの取付け要素を有する遠位キャップ(6)を有し、前記引張要素(8)の遠位端が前記遠位キャップ(6)と接続され、好ましくは接着され、又は射出成形により取り付けられていることを特徴とする、[1]から[9]のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)。
[11] 前記遠位キャップ(6)は、前記プロテーゼライナ(2)に一体化され、殊に流し込み成形又は射出成形により前記弾性ライナ材料内に作製されていることを特徴とする、[10]に記載のプロテーゼライナ(2)。
[12] 前記プロテーゼライナ(2)は、装着状態で、断端の関節、特に膝又は肘を取り囲むように形成され、前記区分が前記関節の遠位で終端することを特徴とする、[1]から[11]のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)。
[13] [1]から[12]のいずれか1項に記載のプロテーゼライナ(2)とプロテーゼソケットとからなるシステムであって、前記プロテーゼソケットは、前記プロテーゼライナ(2)の接続領域(18)と接続できるように形成されている、システム。
【符号の説明】
【0037】
2 プロテーゼライナ
4 基体
6 連結キャップ
8 引張要素
10 編み物
12 偏向ループ
14 端
16 シールリップ
18 接続領域
図1
図2
図3
図4
図5