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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】歯科用ドリルの表面処理
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20240807BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021552914
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2020056059
(87)【国際公開番号】W WO2020182673
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】19161532.7
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506415207
【氏名又は名称】ストラウマン ホールディング アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】ジーモン ツォリンガー
(72)【発明者】
【氏名】スベン シュナイダー
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1064595(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第2018-0107422(KR,A)
【文献】特開昭63-089210(JP,A)
【文献】特開平02-224909(JP,A)
【文献】特表2008-531095(JP,A)
【文献】特表平08-509799(JP,A)
【文献】特開平06-304185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
A61B 17/16
C23F 1/02
C23C 22/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリル(10、10'、100、100')を表面処理する方法であって、
前記ドリルは、
近位端(12、12'、112、112')から遠位端(13、13'、113、113')まで中心長手方向軸(L)に沿って延在するシャフト(11、11'、111、111')を備え、
該シャフトの近位端は、
回転ドライバに接続するように構成されたシャンク(14、14'、114、114')であって、該シャンクの遠位に、フルート部分の長手方向に沿って延在する少なくとも1つのフルート(19、19'、119、119')を含むフルート部分(18、18'、118、118')を有するシャンク、を有し、
前記方法は、以下の工程、すなわち、
視認可能な艶消し効果をもたらすために前記シャフトの前記フルート部分の少なくとも一部分(25、25'、125、125')を酸エッチングする工程と、
その後、前記艶消し効果を視認可能に低減するために前記シャフトの前記フルート部分の少なくとも前記一部分を電解研磨する工程と、
その後、前記シャフトの前記フルート部分の前記一部分内に1つ以上の又は複数の視認マーキング(20、20'、120、120')を作成する工程と、
を備える方法。
【請求項2】
前記酸エッチングする工程は微視的な凸部分及び凹部分を有する粗面を提供し、前記電解研磨する工程は、前記酸エッチングによって作成される微視的な粗さを平滑にするが、前記粗さが完全に除去される程度まで平滑にしない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電解研磨する工程後において、酸エッチングされ、電解研磨された前記ドリル(10、10'、100、100')の一部分(25、25'、125、125')の表面の算術平均高さSaは0.1~0.2μmであり、酸エッチングされ、電解研磨された前記ドリルの一部分の表面の最大高さSzは1.0~2.5μmである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸エッチングする工程後で、前記電解研磨する工程前において、酸エッチングされた前記ドリル(10、10'、100、100')の前記一部分(25、25'、125、125')の表面の算術平均高さSaは0.2~0.3μmであり、酸エッチングされた前記ドリルの前記一部分の表面の最大高さSz2.5~4.0μmである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上の視認マーキング(20、20'、120、120')は、レーザーマーキングによって作成される、請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の視認マーキング(20、20'、120、120')は、前記シャフト(11、11'、111、111')の外面をレーザーマーキングすることによって作成される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ以上の視認マーキング(20、20'、120、120')は、前記シャフト(11、11'、111、111')の周りに円周方向に延在する、請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記1つ以上の視認マーキング(20、20'、120、120')は、前記シャフト(11、11'、111、111')の全周にわたって連続的に延在する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ以上の視認マーキング(20、20'、120、120')は、前記シャフト(11、11'、111、111')の中心長手方向軸(L)に垂直な平面内で前記シャフト(11、11'、111、111')の周りに円周方向に延在する、請求項1~8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
複数の視認マーキング(20、20'、120、120')は、酸エッチングされ、その後、電解研磨された前記フルート部分(18、18'、118、118')の1つ以上の一部分(25、25'、125、125')内に、互いに不連続な軸方向距離で形成される、請求項1~9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
少なくともフルート部分(18、18'、118、118')の全体は、酸エッチングされ、その後電解研磨される、請求項1~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記酸エッチングする工程は、前記ドリル(10、10')の遠位端(13、13')から前記フルート部分(18、18')の近位であるが前記シャンク(14、14')の遠位の点まで実施され、その後の前記電解研磨する工程は前記ドリルの全長にわたって実施される、請求項1~11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記フルート部分(18、18')は、前記ドリル(10、10')の遠位端(13、13')から前記シャンク(14、14')に向かって延在する、請求項1~12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記フルート部分(18、18'、118、118')は、複数のフルート(19、19'、119、119')、好ましくは2~4個のフルートを備え、螺旋状に前記フルート部分に沿って延びる、請求項1~13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ドリルは歯科インプラント手術に使用するための金属ドリルである、請求項1~14の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の顎骨に穴を開けるための歯科手術用ドリルの表面処理方法及びその結果得られる表面に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用インプラントは、個々の歯を置換するために、又はより複雑な構造を固定するために使用され、一般に、歯のいくつか又はすべてを置換する。インプラントは、顎骨に挿入され、そこで、インプラントは、義歯のためのしっかりしたアンカーを提供するために、骨と一体化する。
【0003】
歯科用インプラントの配置中に、ドリルを使用して患者の顎骨に穿孔する。周囲の骨組織への損傷を回避するために、ドリルが骨組織を過熱しないようにすることが非常に重要である。この理由のために、使用中にドリルと骨との間に生じる摩擦を最小限に抑え、ドリル部位から離れる良好な骨片輸送を確実にすることが望ましい。
【0004】
歯科用ドリルの別の重要な要件は、外科医が特定の深さまでドリル孔を正確に穿孔することをドリルが可能にすることである。これは、骨内でインプラントを正しく座らせるためにも、また顎内の神経や他の構造物の損傷を防ぐためにも重要である。したがって、多くの歯科用ドリルはドリル孔の穿孔中に外科医を補助するために、ドリルシャフト上に1つ以上の深さマーキングを有する。ほとんどのドリルは、反射率の高いステンレススチールなどの金属で作られている。明るい光の下で生じる外科手術の間、ドリル表面からの反射は、深さマーキングの外科医の視認性を低下させ、正しい深さに到達したときを決定することをより困難にする。深さマーキングの視認性を改善するために、ドリル表面はしばしば、光の反射を減少させる方法、例えば酸エッチングで処理される。酸エッチングはドリルの表面粗さを増加させ、したがって光の散乱を増加させ、これはぎらぎらする輝きを減少させ、1つ又は複数の深さマーキングの視認性を増加させる。しかしながら、このような粗面化はドリルによって発生する熱に、摩擦の増加により負の効果を及ぼす。
【0005】
特許文献1は、硬質炭素被膜を有するドリルを設け、深さマーキングを提供するためにこの被膜をレーザエッチングする方法を開示している。このような被膜は、ドリルの摩擦及び腐食を低減すると言われている。この被膜は色が濃いため、ドリルの光反射率も低下する。しかしながら、この被膜の適用は、製造プロセスのコスト及び複雑さを増大させる。さらに、使用中の被膜の層間剥離の危険性があり、その結果、被膜の粒子が口内に残留し、関連する生体適合性の危険性が生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】欧州特許第1284677(B1)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の少なくとも好ましい実施形態の目的は簡単で費用効果の高い製造手順を維持しながら、最適化された光反射及び摩擦特性を有する歯科用ドリルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様によれば、本発明はドリルを表面処理する方法を提供し、ドリルは中心長手方向軸に沿って近位端から遠位端まで延在するシャフトを含み、シャフトの近位端は回転ドライバに接続するように適合されたシャンクを含み、シャフトはシャンクの遠位に、フルート(flute:縦溝)部分の長手方向長さに沿って延在する少なくとも1つのフルートを有するフルート部分をさらに含み、この方法は、視認可能な艶消し効果をもたらすためにシャフトのフルート部分の少なくとも一部分を酸エッチングする工程と、続いて、艶消し効果を視認可能に低減するためにシャフトのフルート部分の少なくとも一部分を電解研磨する工程と、続いて、シャフトのフルート部分の一部分内に1つ又は複数の視認マーキングを作成する工程と、を含む。
【0009】
従来技術の方法から知られているように、酸エッチング手順は、これらのマーキングの近傍におけるドリルの反射率を減少させることによって、後に追加される視認マーキングの視認性を増加させる。酸エッチング処理はドリル表面から材料を不均一に除去し、一連の微視的な凸部分及び凹部分を生じる。この粗面は、粗面が光散乱効果を増大させるにつれて、ドリルの鈍い領域又は暗い領域として肉眼で見ることができる。しかしながら、ドリルの光散乱を改善するとともに、粗面化された酸エッチング表面も、使用中のドリルによって生じる摩擦を増加させる。しかしながら、本発明の方法に従って製造されたドリルは、単に酸エッチングされたドリルに比べて熱発生の減少を示す。これは、後の電解研磨工程によって生じるドリルの表面粗さの減少によってもたらされる。
【0010】
電解研磨は、ドリル表面に電圧を印加することによりドリル表面から材料を除去する。電圧は、ドリル表面の凸部分上で最も強く感じられ、したがって、これらの領域は最初に溶解され、より滑らかな表面をもたらす。一方、電解研磨手順では、酸エッチングによって生じる粗さが完全に除去される程度の粗さは除去されない。
【0011】
したがって、酸エッチングとそれに続く電解研磨によって、ドリルは、使用中の低発熱だけでなく、視認マーキングの良好な視認性の両方の性質を示すことが可能になる。
【0012】
本発明によれば、ドリルの表面は、最初に酸エッチング工程によって、次に再び電解研磨工程によって、視認可能に変更することができる。最終結果は、酸エッチング及び電解研磨されたドリルの部分が純粋に酸エッチング又は純粋に電解研磨された、又は未処理のままにされた部分とは視認に異なる表面を有することである。電解研磨工程は酸エッチングによって生じる微小粗さを平滑化するが、これが完全に除去される程度ではない。このようにして、表面は未処理の表面よりも良好な光散乱効果を依然としてもたらし、従って、視認マーキングのより良い視認性を提供し、一方、純粋に酸エッチングされた表面よりも滑らかであり、従って、より低い摩擦及び熱発生をもたらす。
【0013】
したがって、本発明の方法に従えば、ドリルの表面は酸エッチング工程後、次いで再び電解研磨工程後に、視認に異なるように見える。視認に異なるとは、ドリル表面の外観の差が通常の白色光条件下で肉眼によって検出され得ることを意味する。
【0014】
好ましくは、電解研磨の工程の後、酸エッチングされ、電解研磨されたドリルの一部分の表面粗さSa(算術平均高さ)は0.1~0.2μmであり、より好ましくは0.13~0.18μmであり、酸エッチングされ電解研磨されたドリルの一部分の表面粗さSz(最大高さ)は1.0~2.5μmであり、より好ましくは1.5~2.3μmである。
【0015】
電解研磨工程は、酸エッチング工程によってもたらされる粗面を部分的に平滑化するので、上記の好ましい実施形態では、酸エッチング後であるが電解研磨前のドリルの表面は上記の値よりも大きい粗さを有することになる。好ましくは酸エッチング工程後、しかし電解研磨工程前に、酸エッチングされたドリルの一部分の表面粗さSa(算術平均高さ)は0.2~0.3μmであり、酸エッチングされたドリルの一部分の表面粗さSz(最大高さ)は2.5~4.0μmである。
【0016】
本発明によれば、ドリルのフルート部分は、フルート部分の全長に延びる少なくとも1つのフルートを含む。好ましくは、フルート部分が複数のそのようなフルート、最も好ましくは2~4のフルートを含む。好ましくは少なくとも1つのフルートがフルート部分に沿って螺旋状に延在し、これは切屑輸送に有益である。しかしながら、他の実施形態では、フルートは真っ直いでもよい。フルート部分は、当技術分野で知られている任意の形状を有することができる。本発明はフルート部分又はドリルの他の部分のいかなる特定の幾何学的形状にも限定されず、その代わりに、ドリルに適用される本明細書に記載される表面処理工程及び結果として生じる表面構造化のみに関係する。
【0017】
本発明によれば、フルート部分の少なくとも一部分は、最初に酸エッチングされ、次に電解研磨される。電解研磨によって引き起こされるフルート表面の平滑化は、純粋に酸のエッチングされたフルートによって達成されるものよりも、ドリル加工中にドリル孔から骨片をよりスムーズに搬送することを可能にする。穿孔部位から離れる骨片の迅速な輸送は、摩擦及び熱の蓄積の防止を補助する。
【0018】
ランドとして知られる、フルートを介して隣接するドリル表面の領域の平滑化は、この場合ドリルとドリル孔の表面との間の摩擦を防止するのにも有益である。使用中、ランドは少なくとも部分的にドリル孔の表面に接触する。この接触はフルート部分に隙間面を含めることにより低減できるが、ドリルを安定させるためには孔壁面と何らかの接触が必要である。酸エッチングによって作成された粗面は、孔内面とランドとの間の摩擦を増加させ、一方、電解研磨工程はこの粗さを減少させ、したがって、摩擦及び発熱を減少させ、同時に、酸エッチングされていない表面と比較して、視認マーキングの視認性の改善を維持する。
【0019】
本発明によれば、1つ以上の視認マーキングは酸エッチング及び電解研磨工程の後に、フルート部分に追加される。これは、マーキングの視認性がこれらの以前の手順によって引き起こされる表面変化によって低下しないようにするためである。酸エッチング及び電解研磨の両方はドリルの外側表面を部分的に除去し、従って、この表面上に作られたいかなる視認マーキングも除去するのであろう。したがって、少なくとも1つの視認マーキングを追加する前に、表面粗化及び平滑化処理を終了することが有利である。
【0020】
1つ又は複数の視認マーキングは通常の作業条件下で、すなわち、白色光で、観察者の腕の長さ内の距離で、人間の目に視認に検出可能な、フルート部分上の任意の跡とすることができる。したがって、このような視認マーキングは通常の作業条件及びドリルの使用中に、歯科医又は外科医によって観察可能である。
【0021】
1つ又は複数の視認マーキングは、例えば、フルート部分に塗装することも、シャフト表面の円周方向の溝によって形成することもできる。このような場合、マーキングは、その周囲からの色又は深さの差のために視認に検出可能である。しかしながら、好ましくは、1つ以上の視認マーキングがレーザーマーキングによって形成される。このプロセスはよく知られており、実行するのが簡単である。ドリル表面のレーザーでマーキングされた領域は周囲のシャフトより色が濃くなっており、これが人間の目に容易に視認に検知できるようになっている。レーザーマーキングはドリルシャフトの外面に、又は外面に形成された円周方向の溝又はくぼみの内部で行うことができる。好ましくは、1つ又は複数の視認マーキングが製造の複雑さを減少させるので、ドリルシャフトの外面にレーザーマーキングを施すことによって形成される。この文脈では、「外側表面」とはドリルの切削機能及び有効性に必要な全てのドリル形状特徴、例えばランド、フルート、クリアランス表面等を含むドリルの外側表面を意味する。言い換えれば、視認マーキングは溝又は窪みなどの追加の表面特徴を追加する必要なしに、この表面上に配置される。
【0022】
好ましくは、1つ又は複数の視認マーキングがシャフトの周囲に円周方向に延在する。これにより、ドリルの回転中のマーキングの視認性が向上する。視認マーキングはシャフトの周りに部分的にのみ延びることができ、例えばランド上にのみ延びることができ、又は視認マーキングが破線を形成するように、シャフトの周りに不連続であることができる。しかしながら、好ましくは、1つ以上の視認マーキングがシャフトの全周の周りに連続的に延在する。これにより、製造が簡単になり、マーキングの視認性が増大する。好ましくは、1つ又は複数の視認マーキングがシャフトの中心長手方向軸に垂直な平面内でシャフトを中心に円周方向に延在する。これは、マーキングが深さインジケータマーキングとして役立つように意図されている場合に特に有益である。
【0023】
本発明によれば、この方法は、酸エッチングされた後に電解研磨されたフルート部分の一部分内に1つ以上の視認マーキングを形成することを含む。これは、本発明の表面処理方法によって視認マーキングの視認性が向上することを保証するために必要である。「内部」とは視認マーキングが酸エッチングされ、電解研磨されたフルート部分の部分よりも短い軸方向長さを有することを意味し、その結果、この部分は視認マーキングの少なくとも遠位又は近位に延在する。好ましくは最適な視認性を提供するために、この部分は視認マーキングの遠位及び近位の両方に延在する。
【0024】
好ましくは、複数の視覚マーキングが酸エッチングされ、続いて電解研磨されたフルート部の1つ又は複数の部分内で、互いに不連続な軸方向距離で形成される。このようにして、視認マーキングを使用して、ドリルの異なる深さを示すことができる。視認マーキングが距離インジケータとしての使用を意図する場合、上述のように、各視認マーキングは、シャフトの中心長手方向軸に垂直な平面内でシャフトを中心に円周方向に延在することが好ましい。好ましくは本方法が少なくとも4つの視認マーキング、より好ましくは4~10の視認マーキングを作成する工程を含み、マーキングは酸エッチングされ、続いて電解研磨されたフルート部分の1つ以上の部分内に位置する。これらのマーキングは、すべて同じ軸方向長さを有することができる。しかしながら、好ましい実施形態では、少なくとも1つのマーキングが視認マーキングのうちの別のものよりも大きい軸方向長さを有する。マーキングの長さのこの差は、各マーキングが示す長さを外科医が迅速に区別することをより容易にする。特に好ましい実施形態ではこの方法が互いに軸方向に間隔を置いて配置された複数の視認マーキングを作成する工程を含み、前記視認マーキングのうちの1つを除く全ては等しい軸方向長さを有し、前記視認マーキングのうちの他方は他の視認マーキングよりも大きい軸方向長さを有し、前記複数の視認マーキングは酸エッチングされ、続いて電解研磨されたフルート部分の1つ又は複数の部分内に作成される。
【0025】
代替の特に好ましい実施形態ではこの方法が互いに軸方向に間隔を置いて配置された複数の視認マーキングを作成する工程を含み、視認マーキングのうちの2つを除く全てが等しい軸方向長さを有し、視認マーキングのうちの他の2つは他の視認マーキングよりも大きい異なる軸方向長さを有し、複数の視認マーキングは酸エッチングされ、続いて電解研磨されたフルート部分の1つ又は複数の部分内に作成される。
【0026】
ドリルは、フルート部分以外のドリルの領域に追加の視認マーキングを含むことができることに留意されたい。例えば、ドリルはフルート部分の近位に、ドリルの直径、長さ、又は製品番号を示すマーキングを含むことができる。これらのマーキングは、フルート部分内の1つ又は複数の視認マーキングと同じ又は代替の方法によって形成することができる。しかしながら、これらの追加のマーキングがドリル孔に接触しないドリルの領域に配置されるか、又は骨片の輸送を補助する場合、これらの領域におけるドリルの表面粗さは、あまり問題にならない。さらに、ドリルの動作中にこれらの追加のマーキングを参照する必要がない場合があり、その結果、そのようなマーキングの領域における表面反射率もあまり問題にならない。したがって、これらの追加のマーキングは、酸エッチング及び/又は電解研磨されていないドリルの部分に配置することができる。したがって、本発明の方法は、ドリルのフルート部分内に形成された視認マーキングのみに関する。
【0027】
本発明によれば、少なくとも1つ以上の視認マーキングを含むフルート部分の一部分は、酸エッチングされ、電解研磨される。フルート部分の他の部分の反射率は問題ではないので、視認マーキングを含むフルート部分の一部分のみが、特許請求の範囲に記載された表面処理を受けなければならない。したがって、いくつかの実施形態ではフルート部分の一部分、例えば、最遠位端は酸エッチングを受けず、したがって、ドリルのこれらの一部分を可能な限り滑らかにすることができる。一実施形態では、複数の視認マーキングが存在する場合に、1つ又は複数のマーキングが洗浄された一部分の個別の酸エッチング及び電解研磨された一部分内に位置するように、洗浄された一部分の個別部分を酸エッチングし、続いて電解研磨することができる。しかしながら、好ましい実施形態では、少なくともフルート部分全体が酸エッチングされ、続いて電解研磨される。これにより、製造工程が容易になり、コストが低減される。
【0028】
ドリルの他の部分は、酸エッチング及び/又は電解研磨を受けてもよい。一実施形態によれば、酸エッチング工程は、平坦化された一部分のみにわたって実施され、ドリルの全長にわたって電解研磨が実施される。他の好ましい実施形態では酸エッチング工程がドリルの遠位先端からフルート部分の近位であるがシャンクの遠位の点まで実行され、一方、後続の電解研磨工程はドリルの全長にわたって実行される。他の実施形態では、酸エッチング工程が例えば、フルート部分の近位のドリルシャフトの部分にわたって、電解研磨よりも長いドリルの長さにわたって実施されてもよい。
【0029】
酸エッチング工程は、任意の公知のプロセスに従って実施することができる。使用される酸は、硫酸、塩酸、フッ化水素酸、硝酸などのうちの1つである。好ましくは、酸エッチングが室温又はその近傍、例えば22~27℃で行われる。好ましくは、ドリルは酸中に少なくとも3分間浸漬される。酸エッチングの間、上述したように、ドリルの一部分のみを選択的に酸エッチングするために、ドリルの1つ以上の部分をマスクすることができる。
【0030】
酸エッチング処理の結果として、酸エッチングが生じた領域におけるドリルの表面は粗くなり、したがって、予め酸エッチングされた表面と比較して艶消しの外観を呈する。酸エッチングプロセスの後、ドリルを目視検査して、表面が所望の艶消し効果を得たかどうかを確認することができる。上述のように、特定の実施形態では酸エッチング工程後の表面の所望の表面粗さSaが0.2~0.3μmであり、所望のSz値は2.5~4μmである。当業者であれば、所望の艶消し外観及び/又は表面粗さ測定値を知っていれば、所望の結果を達成するために、それに応じて酸エッチング工程のパラメータを選択することができるのであろう。
【0031】
酸エッチング工程の後、ドリルは好ましくは酸を除去するためにすすがれ、このすすぎは好ましくは複数の段階、例えば、2~5段階の間で行われ、これらの段階の少なくとも1つは例えば、手動及び/又は超音波によるドリルのアジテーションを含む。
【0032】
次の工程では、本発明によれば、酸エッチングされたフルート部分の少なくとも一部分が電解研磨される。
【0033】
電解研磨は、物体が電解質浴中に浸漬され、DC電源に接続されて、物体がアノードを形成するプロセスを指す。陰極も浴中に置き、陽極から陰極に電流を流す。これは、物体の表面上の金属の酸化及び溶解をもたらす。角及びエッジでの電流密度の増加により、金属は物体の突出部分でより速く溶解され、したがって、これは平滑化される。電解研磨のこの特定の態様は、アノードレベリングとして知られている。
【0034】
本明細書に記載の歯科用ドリルに適用することができる多数の市販の電解研磨方法が知られている。電解研磨工程のパラメータは前の酸エッチング工程によって引き起こされる艶消し効果が視認可能に低減されるが、除去されないように選択される。このようにして、つや消し表面の改善された光散乱品質は部分的に保持されると同時に、表面粗さを減少させることによって使用中に生じる摩擦を減少させる。上述のように、酸エッチングされ、電解研磨された領域におけるドリルの表面粗さSaは好ましくは0.1~0.2μmであり、Sz値は、好ましくは1~2.5μmである。これは、摩擦及び貧弱な切り屑片輸送による温度上昇を制限するのに十分に滑らかな表面を作成すると同時に、深さマーキングの視認性を増大させる光散乱効果を提供する。
【0035】
電解研磨工程に続いて、少なくとも1つの視認マーキングが、酸エッチング及び電解研磨を受けた平坦部の部分内に形成される。上述のように、少なくとも1つの視認マーキングの作成は、好ましくはレーザーマーキングによって達成される。
【0036】
少なくとも1つの視認マーキングを作成する工程の後、本方法は、不働態化などのさらなる任意の工程を含むことができる。
【0037】
本発明によれば、酸エッチング、電解研磨、及び少なくとも1つの視認マーキングの作成の工程が、この順序で実行される。酸エッチングは電解研磨工程の前に発生しなければならず、その結果、電解研磨工程は酸エッチングによって引き起こされる粗面を部分的に平滑化する効果を有する。同様に、上述のように、これらの工程のいずれかがマーキングを除去又は部分的に除去することを回避するために、視認マーキングは、酸エッチング及び電解研磨工程の両方の後に作成されなければならない。工程は特許請求された順序で実行されなければならないが、これらの工程が連続して実行されることは必須ではない。他の製造又は表面処理工程、例えば、上述のすすぎ工程、又は研削は、特許請求の範囲に記載された方法の工程の間に実施することができる。
【0038】
本発明によれば、ドリルは、回転ドライバに接続するように適合されたシャンクを備える。シャンクは、ドリルを駆動ツール、例えば歯科用ハンドピース、ラチェット等に回転及び軸方向に固定することを可能にする任意の公知の形状とすることができる。例えば、シャンクは、長手方向に延在する1つ又は複数の傾斜面と、シャンクの円周の周りに少なくとも部分的に延在する溝とを備えることができる。あるいは、シャンクが多角形の断面を有し、中心長手方向軸に垂直な平面内にある断面を含んでもよい。
【0039】
本発明によれば、フルート部分はシャンクの遠位に位置する。多くの実施形態では、フルート部分が好ましくはドリルの遠位端からシャンクに向かって延びる。
【0040】
好ましくは、フルート部分が少なくとも1つの切れ刃をさらに備える。少なくとも1つの切れ刃は、好ましくは少なくとも1つのフルートの前縁に配置され、フルートの長さに沿って完全に又は部分的に延びることができる。
【0041】
フルート部分が複数のフルートを含む実施形態ではフルート部分が好ましくは等しい数の切れ刃を含み、各切れ刃はフルートに関連付けられる。
【0042】
フルート部分がドリルの遠位端から延びるとき、少なくとも1つの切れ刃は、好ましくはドリルの遠位端に位置する。このような実施形態では、フルート部分がその遠位端に、少なくとも1つの切れ刃を備えるドリル先端を備える。好ましくはドリル先端部が遠位方向に半径方向内側にテーパをつける少なくとも1つのドリル側面(逃げ面)を備え、少なくとも1つの切れ刃はドリル逃げ面上に位置する。しかしながら、他の実施形態では、ドリル先端部がドリルの中心長手方向軸に対して垂直であってもよいし、半径にわたって湾曲していてもよい。ドリル先端に少なくとも1つの切れ刃を設けることは、ドリル孔に長さ又は幅を加えるためにドリルが使用されるときに必要である。加えて、少なくとも1つの切れ刃は、ドリル先端の近位のフルート部分に沿って長手方向に延びることができる。しかしながら、少なくとも1つの切れ刃がフルート部分の全長に沿って延在する必要はない。その代わりに、ドリルの使用中に発生する摩擦を低減するために、切れ刃がフルート部分の近位長さに沿って鈍くされることがしばしば好ましい。
【0043】
いくつかの実施形態では、フルート部分が例えばドリルがいわゆるプロファイルドリルである場合に、ドリルの遠位端から離れて配置されてもよい。このようなドリルはインプラントの形状により良く適合するように、ドリル孔の冠状開口部を成形するために使用される。これらのドリルはこの冠状領域において骨に切り込むためにのみ必要とされるので、それらはしばしば、フルート部分の遠位に非切削ガイド部分を備え、これはドリル孔内でのドリルの正確な配向を補助する。
【0044】
ドリルは、当技術分野で知られている任意の形状を有することができる。例えば、シャフトは円筒状であってもよく、又は基端方向に半径方向内側又は外側にテーパ状であってもよい。フルート部分は、直径の段階的変化を含んでもよい。ドリルは、連続的に又は互いに間隔を置いて続く複数のフルート部分を備えることができる。ドリルが複数のフルート部分を含む場合、本発明の方法は、これらのフルート部分のうちの1つ以上に適用され得る。最良の結果を達成するために、本発明の方法は、視認マーキングを含むフルート部分の全ての領域に適用されるべきである。
【0045】
本発明の方法は、好ましくはパイロットドリル、ツイストドリル、プロファイルドリル、タップ等のような、歯科用インプラント手術に使用するための歯科用ドリルに適用される。
【0046】
本発明の方法は金属ドリル、最も好ましくはステンレス鋼ドリルに適用されることが好ましく、それはこの金属が酸エッチング及び電解研磨の両方に特に良好に効果を示すからである。特に好ましいステンレス鋼は、1.4108 Cronidurのような硬化ステンレス鋼である。
【0047】
別の態様から見ると、本発明は、上述の方法に従って製造された歯科用ドリルを提供する。本発明の表面処理方法に供されたドリルは例えば以下の図5Cに見られるように、顕微鏡、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)下で「平滑化された凸部分」の特徴的な表面パターンを示す。
【0048】
本発明の方法によって作成された平滑化凸部分を観察するための好ましい方法は、10,000倍以上、最も好ましくは10,000倍と20,000倍との間の倍率でSEMのSED(二次電子検出器)を使用することである。任意の市販のSEM、例えばZeiss Supra(登録商標)55又はPhenom XL Desktopを使用することができる。
【0049】
上述した本発明の概念はドリルのいかなる特定の形状又は機能にも限定されず、上述したように、視認マーキングが設けられるフルート部分の領域の表面処理のみに限定される。
【0050】
ここで、本発明の好ましい実施形態を、単なる例として説明する:
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は本発明の方法が適用された歯科用ドリルを示す。
図2図2は本発明の方法が適用された第2の歯科用ドリルを示す。
図3図3は本発明の方法が適用された第3の歯科用ドリルを示す。
図4図4は本発明の方法が適用された第4の歯科用ドリルを示す。
図5A図5Aはドリル表面の走査電子顕微鏡像を示す。
図5B図5Bは酸エッチングされたドリル表面の走査型電子顕微鏡画像を示す。
図5C図5Cは、本発明に従って酸エッチングされ、続いて電解研磨されたドリル表面の走査型電子顕微鏡画像を示す。
図6A図6Aは、本発明に従って処理されたドリルと比較して、酸エッチングされたドリルのSa値を比較するグラフを示す。
図6B図6Bは、本発明に従って処理されたドリルと比較して、酸エッチングされたドリルのSz値を比較するグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
図1は、人間の顎骨に穿孔するのに適したドリル10を示す。ドリルは、中心長手方向軸Lに沿って近位端12から遠位端13まで延びるシャフト11を備える。シャンク14は、シャフト11の位端12に位置している。シャンク14は、ドリル10を回転駆動ツール、例えば歯科用ハンドピースに接続できるように形作られている。本実施形態において、シャンク14は、中心長手方向軸Lに平行な平面内に延びる傾斜面15と、シャフト11の周囲に延びる溝16とを備える。傾斜面15はトルクをドリル10に伝達することを可能にし、したがって、ドリルの回転を駆動し、一方、溝16は、シャンク14を回転駆動ツールに軸方向に固定することを可能にする。
【0053】
シャンク14の遠位において、ドリル10はフルート部分18を含む。本実施形態では、フルート部分18がドリル10の遠位端13からシャンク14に向かって延びている。フルート部分は、フルート部分18の全長に沿って螺旋状に延びる2つのフルート19を備える。フルート部分18は、複数の軸方向に不連続な視認マーキング20を更に備える。各視認マーキング20はシャフト11の外面に位置し、フルート19の表面上に延び、フルート19の間のランド22の表面上に延びるように、シャフト11の全周の周りに連続的に延びている。各視認マーキング20は、ドリル10の中心長手方向軸Lに垂直な平面内にある。これらの視認マーキング20は、ドリル10の使用中に外科医に対する深さインジケータとして作用する。
【0054】
図2は、人間の顎骨に穿孔するのに適したドリル10'を示す。ドリル10'は図1のドリルと非常に類似しており、同様の特徴は同様の参照番号で示され、これらの以前の参照番号に関する説明は図2に等しく適用することができ、ドリル10'は近位端12'から遠位端13'まで中心長手方向軸Lに沿って延在するシャフト11'を備える。シャンク14'は、シャフト11'の近位端12'に位置する。
【0055】
シャンク14'の遠位においてドリル10'はフルート部分18'を含む。
【0056】
ドリル10とは対照的に、ドリル10'はより大きな直径を有し、従って、フルート部分18'は、ランド22'を介する2つのフルート19'とは対照的に、3つを含む。加えて、フルート部分18'は、直径21'の段階的変化を含む。
【0057】
視認マーキング20、20'は、フルート部分18、18'の外面にレーザーマーキングを施すことによって作成される。使用中にドリル10、10'によって発生される熱を許容できないレベルまで増大させることなく、これらのマーキング20、20'の視認性を増大させるために、ドリルは、本発明に従って表面処理される。
【0058】
ドリル10、10'は最初に、酸浴中に室温で長期間、例えば5分間浸漬することによって酸エッチングされる。本実施形態では、ドリル全長にわたって酸エッチングを防止するために、シャフト11、11'の近位部分を覆うために保護スリーブが使用される。ドリルの露出部分25、25'は酸によって腐食され、元の表面と比較して艶消し外観を有する粗面を形成する。この艶消しされた外観は肉眼で見ることができ、したがって、熟練した実施者は所望の効果を達成するために、酸エッチング工程のパラメータを適宜設定し、調整することができる。
【0059】
酸エッチング後、ドリルは更なる工程で電解研磨される。この実施形態では、ドリル10、10'を電解槽に浸漬し、これをDC電源に取り付けることによって、ドリル表面全体を電解研磨する。ドリル10、10'に電圧を印加すると、ドリル表面から分子が溶解し、酸エッチング工程によって形成された凸部分及び凹部分が部分的に平滑化される。再び、この平滑化効果は、酸エッチングされた露出部分25、25'を有するドリル表面の部分の外観に視認差異を作り出す。電解研磨のパラメータ、例えば、電圧、時間、酸及び温度は艶消しの所望の視認可能な減少を達成するために調節することができ、それによって艶消し効果は減少するが除去されない。
【0060】
これらの表面処理工程が実行されると、酸エッチングされ、電解研磨された露出部分25、25'上に視認マーキング20、20'がレーザーマーキングされる。
【0061】
本発明の方法の工程に続いて、酸エッチングされ、電解研磨されたドリル10、10'の露出部分25、25'は反射によるぎらぎらする輝きを減少させ、マーキング20、20'の視認性を高めるように光を散乱する表面トポグラフィを有し、同時に、純粋に酸エッチングされた表面に比べて粗さを減少させ、従って摩擦及び熱発生を減少させる。
【0062】
図3及び図4は、本発明に従って表面処理することができるさらなるドリルを示す。
【0063】
図3は、プロファイルドリル100を示す。このようなドリルはドリル孔に挿入されるインプラントの形状に適合するように、ドリル孔の冠状先端を広げ、形成するために使用される。プロファイルドリル100は、近位端112から遠位端113まで中心長手方向軸Lに沿って延びるシャフト111を備える。シャフト111の位端112にはシャンク114が配置されている。シャンク114は、図1及び図2のシャンク14、14'と同一の方法でドリル111を回転駆動ツール、例えば歯科用ハンドピースに接続できるように形作られている。同様の特徴は同様の参照番号で示され、これらの以前の参照番号に関連する説明は図3及び4に等しく適用され得る。
【0064】
シャンク114の遠位部、プロファイルドリル100は、フルート部分118を備える。先の実施例とは対照的に、フルート部分118は、シャフト111の遠位端113から延びていない。これは前述したように、プロファイルドリル100はドリル孔の冠状先端を切削するだけでよいからである。フルート部分118は、フルート部分118の全長に沿って真っ直ぐに延びる2つのフルート119を備える。フルート部分118は、視認マーキング120をさらに備える。視認マーキング120はシャフト111上の円周方向溝123内に位置し、シャフト111の円周の周りに不連続に延在する。したがって、この実施形態は、ドリルの外面に設けられていない視認マーキングの一例を提供する。視認マーキング120は、ドリル100の中心長手方向軸Lに垂直な平面内にある。視認マーキング120は、ドリル100の使用中に外科医に対する深さインジケータとして作用する。
【0065】
ドリル100の遠位端113において、フルート部分118の遠位に、第2のフルート部分128が設けられている。この第2のフルート部分128はフルート部分118よりも小さな直径を有するが、第2のフルート部分128の全長に沿って直線的に延びる2つのフルート129も含む。
【0066】
本実施形態では、上述の酸エッチング及び電解研磨表面処理がドリル100の一部分125に適用される。したがって、この実施形態は本発明の表面処理工程がフルート部分118の一部分にのみ適用され、さらに、本発明の表面処理工程が行われない追加のフルート部分128をドリル100上に見つけることができる例を提供する。
【0067】
また、ドリル100は、フルート部分118、128から離れた位置でシャフト111の表面に印刷されたレーザーの視認マーキング126を備える。この場合、これらの視認マーキング126は、ドリルの種類(直径、形状、製品番号)に関する情報を利用者に提供する。これらの視認マーキングは使用中ではなく、ドリルの選択中にのみ参照される必要があるので、表面の輝きはそれほど問題ではなく、したがって、本発明の表面処理工程はこれらのマーキング126を含むドリルの領域上で実行されていない。
【0068】
図4はプロファイルドリル100'のさらなる実施形態を示し、この実施形態では、多くの特徴が図3のプロファイルドリル100のものと類似している。同様の特徴は同様の参照番号で示され、これらの参照番号は図4に関して説明されていない場合、図3からの同等の説明を適用することができる。
【0069】
図3とは対照的に、プロファイルドリル100'は、第2のフルート部分を備えず、代わりに、シャフト111'の遠位端部113'に位置するガイド部分127'を備える。さらに、この場合、本発明の酸エッチング及び電解研磨工程は、ドリル100'のはるかに大きな部分125'に適用されている。本実施形態では、ドリル100'の回転駆動ツールへの接続に対して潜在的な干渉を防止するために、シャンク114'のみが未処理のままである。
【0070】
図1~4は、それぞれ、本発明に従って酸エッチングされ、電解研磨された表面の部分25、25'、125、125'における視認差異を概略的に示す。上述したように、これらの工程はこの部分のドリル表面を粗くし、次いで部分的に平滑化する効果を有する。
【0071】
図5A~Cはドリル表面に対する本発明の方法の効果を詳細に示すSEM画像である。
【0072】
図5Aは、未処理のドリル表面50を示す。この表面は非常に滑らかであり、ドリルのミリングによって生じる加工跡51のみを示す。
【0073】
図5Bは、酸エッチング工程後のドリル表面60を示す。ここでは、多数の凸部分61及び凹部分62を見ることができる。これらの表面特徴は微視的なスケールであり、すなわち、凹部分及び凸部分は主に、1~数マイクロメートルの幅及び高さを有する。
【0074】
図5Cは、その後の電解研磨工程の後のドリル表面70を示す。図5Bとの比較は凸部分61の高さが著しく減少し、丸みを帯びていることを示している。
【0075】
ここでは顕微鏡スケールで示される表面のこれらの差は、表面質感の差として肉眼で検出可能である。したがって、当業者は本発明の艶消し効果の低減を達成するために、酸エッチングされた表面を電解研磨することによって引き起こされる艶消しの変化を検出することができる。
【0076】
さらに、例えば図5Cに見られるタイプの特定の丸められた又は平滑化された凸部分61は、本発明の表面処理方法に一意に関連付けられる。したがって、例えばSEM顕微鏡下でドリルを観察する当業者は、酸エッチングとそれに続く電解研磨との組み合わせによってドリルが表面処理されたかどうかを決定することができる。
【0077】
純粋に酸エッチングされた表面と酸エッチング及び電解研磨された表面との間の粗さの差は、表面粗さ測定でも見ることができる。図6A及び6Bは、それぞれSa及びSz測定値のグラフを示す。これらの測定は6つのドリルで行われ、これらのドリルの全ては同じ方法を使用して酸エッチングされ、3つは本発明の方法に従ってさらに電解研磨された。図6A及び6Bから分かるように、酸エッチングドリル及び電解研磨ドリルの粗さ値Sa及びSzの両方は、酸エッチングのみを行ったドリルに比べて著しく減少する。
【0078】
上述の実施形態は例示の目的のためだけのものであり、当業者は、特許請求の範囲内にある代替の調整変更が可能であることを理解するのであろう。例えば、ドリルの他の幾何学形状、特にフルート設計を採用することができる。視認マーキングはレーザーマーキング以外の方法、例えば、塗装によって作成することができ、深さインジケータ以外の目的に使用することができる。ドリルの処理された部分の正確な表面トポグラフィ及び表面粗さは、特許請求の範囲内に依然として含まれる一方、変更することも可能である。
[構成1]
ドリル(10、10'、100、100')を表面処理する方法であって、
前記ドリルは、
近位端(12、12'、112、112')から遠位端(13、13'、113、113')まで中心長手方向軸(L)に沿って延在するシャフト(11、11'、111、111')を備え、
該シャフトの近位端は、
回転ドライバに接続するように構成されたシャンク(14、14'、114、114')であって、該シャンクの遠位に、フルート部分の長手方向に沿って延在する少なくとも1つのフルート(19、19'、119、119')を含むフルート部分(18、18'、118、118')を有するシャンク、を有し、
前記方法は、以下の工程、すなわち、
視認可能な艶消し効果をもたらすために前記シャフトの前記フルート部分の少なくとも一部分(25、25'、125、125')を酸エッチングする工程と、
続いて、前記艶消し効果を視認可能に低減するために前記シャフトの前記フルート部分の少なくとも前記一部分を電解研磨する工程と、
続いて、前記シャフトの前記フルート部分の前記一部分内に1つ以上の又は複数の視認マーキング(20、20'、120、120')を作成する工程と、
を備える方法。
[構成2]
前記酸エッチングする工程は微視的な凸部分及び凹部分を有する粗面を提供し、前記電解研磨する工程は、前記酸エッチングによって作成される微視的な粗さを平滑にするが、前記粗さが完全に除去される程度まで平滑にしない、構成1に記載の方法。
[構成3]
前記電解研磨する工程後において、酸エッチングされ、電解研磨された前記ドリル(10、10'、100、100')の一部分(25、25'、125、125')の表面粗さSaは0.1~0.2μmであり、酸エッチングされ、電解研磨された前記ドリルの一部分の表面粗さSzは1.0~2.5μmである、構成1又は2に記載の方法。
[構成4]
前記酸エッチングする工程後で、前記電解研磨する工程前において、酸エッチングされた前記ドリル(10、10'、100、100')の前記一部分(25、25'、125、125')の表面粗さSaは0.2~0.3μmであり、酸エッチングされた前記ドリルの前記一部分の表面粗さSz(最大高さ)は2.5~4.0μmである、構成3に記載の方法。
[構成5]
前記1つ以上の視認マーキング(20、20'、120、120')は、レーザーマーキングによって作成される、構成1~4のうち何れかの構成に記載の方法。
[構成6]
前記1つ以上の視認マーキング(20、20'、120、120')は、前記シャフト(11、11'、111、111')の外面をレーザーマーキングすることによって作成される、構成5に記載の方法。
[構成7]
前記1つ以上の視認マーキング(20、20'、120、120')は、前記シャフト(11、11'、111、111')の周りに円周方向に延在する、構成1~6のうち何れかの構成に記載の方法。
[構成8]
前記1つ以上の視認マーキング(20、20'、120、120')は、前記シャフト(11、11'、111、111')の全周にわたって連続的に延在する、構成7に記載の方法。
[構成9]
前記1つ以上の視認マーキング(20、20'、120、120')は、前記シャフト(11、11'、111、111')の中心長手方向軸(L)に垂直な平面内で前記シャフト(11、11'、111、111')の周りに円周方向に延在する、構成1~8のうち何れかの構成に記載の方法。
[構成10]
複数の視認マーキング(20、20'、120、120')は、酸エッチングされ、続いて電解研磨された前記フルート部分(18、18'、118、118')の1つ以上の一部分(25、25'、125、125')内に、互いに不連続な軸方向距離で形成される、構成1~9のうち何れかの構成に記載の方法。
[構成11]
少なくともフルート部分(18、18'、118、118')の全体は、酸エッチングされ、その後電解研磨される、構成1~10のうち何れかの構成に記載の方法。
[構成12]
前記酸エッチングする工程は、前記ドリル(10、10')の遠位端(13、13')から前記フルート部分(18、18')の近位であるが前記シャンク(14、14')の遠位の点まで実施され、その後の前記電解研磨する工程は前記ドリルの全長にわたって実施される、構成1~11のうち何れかの構成に記載の方法。
[構成13]
前記フルート部分(18、18')は、前記ドリル(10、10')の遠位端(13、13')から前記シャンク(14、14')に向かって延在する、構成1~12のうち何れかの構成に記載の方法。
[構成14]
前記フルート部分(18、18'、118、118')は、複数のフルート(19、19'、119、119')、好ましくは2~4個のフルートを備え、螺旋状に前記フルート部分に沿って延びる、構成1~13のうち何れかの構成に記載の方法。
[構成15]
前記ドリルは歯科インプラント手術に使用するための金属ドリルである、構成1~14のうち何れかの構成に記載の方法。
[構成16]
構成1~15のうち何れかの構成に記載の方法に従って製造された歯科用ドリル(10、10'、100、100')。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B